説明

エンボスローラのメンテナンス方法およびメンテナンス装置

【課題】銅箔圧延加工用エンボスローラの表面に付着した銅を容易かつ確実に取り除くことが可能なエンボスローラのメンテナンス方法およびメンテナンス装置を提供する。
【解決手段】表面に凹凸を有する銅箔圧延加工用エンボスローラのメンテナンス方法であって、エンボスローラを、銅アンモニア錯体を含むpH8〜13の銅エッチング液に浸漬し、エンボスローラの表面に付着した銅を溶解除去する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、銅箔の圧延加工に用いられるエンボスローラのメンテナンス方法およびメンテナンス装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、表面に微細な凹凸を有する銅箔は、半導体や電池など、様々な電子デバイスの部品として広く用いられている。そのような銅箔を作製する方法としては、例えば、めっき法、エッチング法、またはエンボスローラによる圧延加工が挙げられる。これらの中でも、品質およびコストの観点から、エンボスローラによる圧延加工が好適に用いられている。
【0003】
エンボスローラは、レーザ、プラズマ、または電子ビームなどにより、ローラの表面にクレータ状の孔(凹部)を形成することにより得られる。このローラで銅箔を圧延することにより、銅箔をエンボス加工することができる。
【0004】
しかしながら、ローラ使用時にローラ表面の凹部に銅箔の一部が付着すると、次にローラを使用する際に銅箔のエンボス加工の精度が低下する。また、この銅の付着によりローラ表面が磨耗すると、ローラを交換する必要があるため、生産性が大きく低下する。
【0005】
このようなローラ表面の凹部への銅の付着を抑制する方法としては、例えば、特許文献1では、エンボスローラ表面の凹部に異物付着防止用金属を被覆することが提案されている。また、特許文献2では、圧延加工時にエンボスローラの回転速度を制御することが提案されている。
【0006】
特許文献1および2の方法では、銅箔圧延加工時にローラ表面の凹部への銅の付着をある程度は抑制することはできる。しかし、ローラ表面の凹部に一度付着した銅を取り除くことは困難である。
【0007】
エンボスローラ表面に付着した銅を除去する方法としては、エンボスローラを銅エッチング液に浸漬することが考えられる。従来から、銅エッチング液には、塩化第二鉄を含む酸性溶液が広く用いられている。しかしながら、このエッチング液では、銅以外の鉄等の金属も溶解させるため、鉄を主成分とするローラに対して、ローラに付着した銅のみを選択的に除去することは困難である。ローラは、酸性溶液により侵食され、表面の凹凸形状の変化および硬度低下を生じ、加工精度およびローラ寿命が著しく低下する。
【特許文献1】特開平10−166010号公報
【特許文献2】特開2005−000997号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記従来の問題を解決するため、銅箔圧延加工用エンボスローラの表面に影響を及ぼすことなく、ローラ表面に付着した銅を容易かつ確実に取り除くことが可能なエンボスローラのメンテナンス方法およびメンテナンス装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のエンボスローラのメンテナンス方法は、表面に凹凸を有する銅箔圧延加工用エンボスローラのメンテナンス方法であって、
前記エンボスローラを、銅アンモニア錯体を含むpH8〜13の銅エッチング液に浸漬し、前記表面に付着した銅を溶解除去することを特徴とする。
【0010】
前記銅エッチング液を酸素または乾燥空気でバブリングする工程をさらに含むのが好ましい。
前記凹部は幅0.1μm以上であるのが好ましい。
前記エンボスローラは、ハイス鋼、ダイス鋼、および鍛鋼よりなる群から選ばれる少なくとも1種からなるのが好ましい。
【0011】
また、本発明は、銅アンモニア錯体を含むpH8〜13の銅エッチング液が入った容器と、表面に凹凸を有する銅箔圧延加工用エンボスローラの表面の一部を前記銅エッチング液に浸漬させながら前記エンボスローラを回転させる回転手段と、を具備するエンボスローラのメンテナンス装置に関する。
前記銅エッチング液を酸素または乾燥空気でバブリングする手段を有するのが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、銅箔圧延加工用エンボスローラの表面に影響を及ぼすことなく、ローラ表面に付着した銅を確実に除去することができる。これにより、加工精度が向上し、銅箔のエンボス加工品の品質が向上する。また、エンボスローラを再利用することができ、ランニングコストを削減し、生産性を高めることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明は、表面に凹凸を有する銅箔圧延加工用エンボスローラのメンテナンス方法に関し、当該エンボスローラを、銅アンモニア錯体を含むpH8〜13のアルカリ性エッチング液に浸漬する点に特徴を有する。これにより、エンボスローラに影響を及ぼすことなく、エンボスローラ表面に付着した銅のみを選択的に溶解除去することができる。上記のように、エンボスローラの表面に付着した銅を確実に除去することができるため、加工精度が向上し、銅箔のエンボス加工品の品質が向上する。また、エンボスローラを再利用することができ、ランニングコストを削減し、生産性を高めることができる。
ここでいう、銅アンモニア錯体とは、[Cu(NH34]2+である。エンボスローラ表面に付着した銅の銅エッチング液による溶解反応は下式(1)で表される。
Cu + [Cu(NH34]2+ → 2[Cu(NH32]+ (1)
【0014】
銅エッチング液は、例えば、Cu(NH342(Xはハロゲン原子)やCu(NH34SO4などの銅アンモニア錯塩、およびNH4X、(NH42SO4などのアンモニウム塩を含有し、銅アンモニア錯塩よりアンモニウム塩のモル数が多いアルカリ性水溶液である。銅エッチング液のpHは、銅エッチング液に対してアンモニア水および上記アンモニウム塩を加えることにより調整することができる。
【0015】
銅エッチング液のpHが8未満であると、鉄を主成分とするエンボスローラは、銅エッチング液により侵食されやすい。銅エッチング液のpHが13を超えると、エンボスローラに付着した銅を確実に除去することが難しい。例えば、25%のアンモニア水160g、塩化アンモニウム40g、および塩化銅(II)二水和物120gに、総量が1リットルになるように水を加えることにより、本発明のエッチング方法に用いられる上記銅エッチング液を調製することができる。
【0016】
銅エッチング液を酸素または乾燥空気にてバブリングするのが好ましい。エッチング(上記式(1)の反応)により生成した[Cu(NH32]+の一部が、空気酸化により再び[Cu(NH34]2+に戻る反応が起こる場合があるが、メンテナンスの際、エッチング液を空気または酸素でバブリングすることにより上記反応が抑制され、銅を効率よく除去できる。
【0017】
エッチング液がローラ表面に残留した状態でローラを大気中に放置すると、残留したエッチング液が乾燥してローラ表面に残留物が付着する。このため、ローラをエッチング処理した後、ローラを水等で洗浄して残留物を除去した後、ローラを加熱または送風により乾燥させるのが好ましい。コストの面から、ローラを水洗・乾燥してローラ表面に残留物を除去することがより好ましい。また、ローラが数μmオーダーの微小な孔を有する場合、孔の内部に残留したエッチング液を除去するために、超音波洗浄するのが好ましい。
【0018】
また、本発明は、上記メンテナンス方法に用いる装置に関する。すなわち、本発明は、銅アンモニア錯体を含むpH8〜13の銅エッチング液が入った容器と、表面に凹凸を有する銅箔圧延加工用エンボスローラの表面の一部を前記銅エッチング液に浸漬させながら前記エンボスローラを回転させる回転手段と、を具備するエンボスローラのメンテナンス装置に関する。
【0019】
エンボスローラを回転させながらエッチングするため、少量のエッチング液でエンボスローラの周面全体を効率よくエッチング処理することができる。これにより、エッチング液の使用量を低減でき、コスト低減できる。
さらに、銅エッチング液を酸素または乾燥空気にてバブリングする手段を有するのが好ましい。簡易な方法により、銅を効率よく除去することができる。
【0020】
本発明のエンボスローラのメンテナンス方法の一実施形態を、図面を参照しながら説明する。図1は、本発明のエンボスローラのメンテナンス方法に用いられる装置の斜視図を示す。
【0021】
メンテナンス装置は、銅エッチング液5の入った容器4および、回転手段としてエンボスローラ1を回転させるための駆動モーターを備えた駆動部2を備える。容器4は、耐アルカリ性の材質(例えば、安価なステンレス鋼)を用いるのが好ましい。さらに、メンテナンス装置は、エンボスローラ1を支えるためのローラ支持台3、および銅エッチング液5中に酸素または乾燥空気を導入して銅エッチング液をバブリングするための管6を備える。管6の端部の一方は、銅エッチング液中に配されている。駆動部2の継手部およびローラ支持台3によりエンボスローラ1は、容器4上でエンボスローラ1の周面の一部が銅エッチング液5中に浸漬されるように支えられる。このとき、エンボスローラ1は、軸方向が銅エッチング液5の液面と略平行になるように配される。
【0022】
エンボスローラ1が銅エッチング液5に浸漬される部分(領域)は、エンボスローラ1の大きさに応じて、駆動部2の継手部およびローラ支持台3の高さを変える、または容器4内の銅エッチング液5の量を変えることにより容易に調整できる。駆動部2は、駆動モーターの出力に応じてエンボスローラの回転数を制御可能な機能を有するのが好ましい。
【0023】
ここで、エンボスローラ1について図2〜5を参照しながら説明する。図2は、エンボスローラの斜視図であり、図3は、図2のX部分の拡大図であり、図4は、エンボスローラを軸方向からみた正面図であり、図5は、図4のY部分の拡大図である。
図2および4に示すように、エンボスローラ1は、中空円筒状の圧延部および中空部内に挿入された軸部からなり、軸部は少なくとも圧延部よりも長い。また圧延部の周面には、図3に示すような凹部(孔)1aが一定の間隔で設けられている。これにより、エンボスローラ1は、図5に示すように、凹部1aと、上面がエンボスローラ周面の最表面である凸部1bとが交互に繰り返し形成された表面を有する。
【0024】
エンボスローラ1の表面の凹部1aの幅寸法は、少なくとも凹部1aの内部に銅エッチング液が十分に拡散することが可能な大きさであることが好ましい。銅エッチング液の主要成分である銅アンモニア錯体の大きさは数nmであるため、エンボスローラ1の表面の凹部1aは幅0.1μm以上であるのが好ましい。一般的に半導体材料や電池材料に用いられる数mm以下の凹凸を有する銅箔を作製する場合、エンボスローラ1の表面の凹部1aの幅は、例えば0.1〜100μmである。また、凹部1aの深さは、例えば0.1〜100μmである。凹部1aの設置間隔(凸部1bの幅)の寸法は少なくとも凹部1aの幅の寸法よりも大きいことが好ましい。
【0025】
エンボスローラ1には、従来から用いられている鉄を主成分とするエンボスローラを用いればよい。エンボスローラ1の材料は、銅エッチング液により侵食されず、銅の圧延加工に適した材料であればよい。エンボスローラ1には、鉄を主成分とする炭素鋼または合金鋼が用いられる。また、例えば、鍛鋼、ハイス鋼、またはダイス鋼のような、適度な硬度および靭性を有する材料を用いるのが好ましい。
【0026】
鉄を主成分とするエンボスローラを用いる場合、本発明のメンテナンス方法は有効である。鉄は、電位‐pH図によれば、pH8〜13程度の水溶液中において表面に酸化膜(不動態層)を形成するため、pH8〜13の水溶液中では鉄の腐食反応はほとんど起こらない。本発明のメンテナンス方法および装置に用いられる銅エッチング液はpH8〜13のアルカリ水溶液であるため、鉄の腐食が抑制される。上記以外に、ローラ表面にpH8〜13で不動態層を形成する材料を溶射してもよい。
エンボスローラには、pH8〜13で腐食し易い金属材料を用いないことが好ましい。pH8〜13で腐食し易い金属材料としては、たとえば、タングステンカーバイドをコバルトで焼結させた超硬質合金が挙げられる。コバルトで焼結させた超硬質合金からなるローラは、銅エッチング液よりコバルトが侵食され、焼結機能を果たさず、硬度が落ち、表面が崩れやすい。
【0027】
以下、図1のメンテナンス装置を用いたエンボスローラのメンテナンス方法を説明する。エンボスローラ1の軸部の端の一方を、駆動部2の継手部につなぎ、軸部の端の他方をローラ支持台3に載せて、エンボスローラ1を軸方向が水平方向と略平行になるように支える。容器4をエンボスローラ1の下方に配置した後、エンボスローラ1の下部全体(エンボスローラの周面の一部における軸方向に沿って一方の端から他方の端まで延びる部分)が銅エッチング液中に浸漬されるまで、容器4内に銅エッチング液5を注ぐ。
【0028】
そして、管6から乾燥空気をエッチング液5内に導入し、エッチング液5をバブリングする。これにより、エッチングにより生成した[Cu(NH32]+が、空気酸化により再び[Cu(NH34]2+に戻る反応が抑制され、エンボスローラ表面に付着した銅をより効率よく溶解除去することができる。
【0029】
駆動部2の駆動モーターを駆動させてエンボスローラ1を回転させる。このとき、エンボスローラの使用頻度(銅の付着量)に応じて、浸漬時間または銅エッチング液の温度を変えればよい。例えば、駆動部2にて駆動モーターの出力(エンボスローラ1の回転数)を変えることにより、浸漬時間を変えることができる。エンボスローラ1に多量の銅が付着した場合、例えば、エンボスローラ1の回転速度を上げて、乾燥空気の導入量を多くすればよい。エッチング液の使用温度は、例えば25〜50℃である。
本発明のメンテナンス装置では、少量のエッチング液で効率よくエンボスローラをメンテナンスできる。また、銅エッチング液は酸性溶液でないため、ローラのメンテナンス装置に使用可能な金属材料は酸性溶液の場合と比べて限定されず、耐酸性を有する高価な金属を使用せずに済み、安価なメンテナンス装置を提供することができる。
【0030】
本発明のメンテナンス方法は、上記実施形態に限定されない。例えば、回転手段を用いずに、エンボスローラ全体を銅エッチング液の入った容器に十分浸漬させて、エンボスローラ表面に付着した銅を除去してもよい。例えば、pH9の銅エッチング液を使用する場合、浸漬時間は30分程度である。ただし、この場合は、図1の装置を用いる場合よりも多量のエッチング液を必要とする。
【0031】
また、エンボスローラが重さ1t以上の大きいサイズである場合、メンテナンス装置が大型化し、図1のような装置を作製する(継手部および支持台を作製する)ことが困難である。この場合、スプレーなどで霧状の銅エッチング液をエンボスローラの表面に塗布すればよい。
【実施例】
【0032】
以下、本発明の実施例を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されない。
《実施例1》
(1)エンボスローラを用いた銅箔のエンボス加工
以下、エンボス加工の工程を説明する。図6はエンボス加工の工程を示す概略斜視図である。図6に示すように、銅箔7を圧延加工するための一対のエンボスローラ8および9と、銅箔7を一対のエンボスローラ8および9の圧接部10に供給するためのローラ6aと、エンボス加工された銅箔7を巻き取るためのローラ6bとが設けられている。さらに、ローラ6aおよび6b、ならびにエンボスローラ8および9が軸を中心に回転可能なように、ローラ6aおよび6b、ならびにエンボスローラ8および9をそれぞれ軸支する支持手段(図示しない)が設けられている。また、ローラ6aおよび6b、ならびにエンボスローラ8および9を、それぞれ軸を中心に回転させるための駆動手段(図示しない)が設けられている。
【0033】
エンボスローラ8および9には、鍛鋼(炭素鋼)を用いた。エンボスローラ8および9に設けられた複数の微孔(凹部)は、孔径20μm、深さ20μm、および孔の設置間隔40μmとした。凹凸の形態によっては、ローラの凹部に多量の潤滑油を流し込んで、ローラ凹部への銅の付着をある程度抑制することは可能であるが、本実施例で用いられるエンボスローラ8および9のように、表面に複数の微孔を設けることにより凹凸が形成されている場合、上記潤滑油を用いる方法は有効でない。
【0034】
銅箔7を以下のようにエンボス加工した。ローラ6aに、銅箔7を捲回し、駆動手段により、銅箔7をエンボスローラ8および9の間の圧接部10に供給して銅箔7を圧延し、エンボス加工された銅箔11を得た。エンボスローラ8および9の回転により、銅箔11を圧接部10からローラ6bへと供給し、ローラ6bで巻き取った。エンボスローラ8および9の周面の移動速度は毎分約3m、圧接部10にかかる圧力は15kN/cmとした。このとき、エンボス加工された銅箔11の長手方向の長さは約500mであった。
【0035】
(2)エンボスローラのメンテナンス
上記の図1と同じメンテナンス装置を用いて、以下の条件で、銅箔のエンボス加工で使用したエンボスローラのメンテナンス(エッチング処理)を実施した。銅エッチング液には、pHが予め9に調整されている市販品(メルテックス(株)製、メルストリップCU−3940)を用いた。銅エッチング液の温度は25℃とした。駆動モーターの回転速度を100rpmとした。バブリングのためにエッチング液に導入するガスを乾燥空気とし、その流量を0.2sccmとした。
上記のエッチング処理後、すぐに、エンボスローラを蒸留水にて超音波洗浄してエッチング液を除去し、さらに、ドライヤーでローラ表面を乾かして、ローラ表面に付着した水分を除去した。
【0036】
レーザ顕微鏡((株)キーエンス製、VK−9510)により、メンテナンス前後のエンボスローラの表面を調べた。図7にメンテナンス前のエンボスローラ表面の顕微鏡写真を示す。図8にメンテナンス後のエンボスローラ表面の顕微鏡写真を示す。
図7に示すように、メンテナンス前では、ローラ表面の凹部に銅が付着していることが確認された。これに対して、図8では、メンテナンス後においてローラ表面から銅が除去されていることが確かめられた。
【0037】
また、以下の方法により、ローラにエッチング処理によるダメージがないことを確認した。本実施例で使用したローラと同じ材質の小片を準備し、これを銅エッチング液に60分間浸漬した。そして、走査型電子顕微鏡(キーエンス社製:VE9800)付属のエネルギー分散型X線分光分析装置により、浸漬前後の小片の表面組成を分析した。
【0038】
図9に、エッチング液に浸漬前後の小片のエネルギー分散型X線分光スペクトルを示す。本発明の実施例に用いたエンボスローラの材質は炭素鋼であり主成分は鉄である。図9のスペクトルから、主成分である鉄のピークはエッチング液の浸漬前後で変化しておらず、ローラ表面についてはエッチング処理による影響がないことが確かめられた。
【0039】
また、エンボスローラの材質を、タングステンカーバイドにコバルトを加えて焼結させた超硬質合金に変えた以外、実施例1と同じエンボスローラを用いた。そして、実施例1と同様の方法により銅箔をエンボス加工した後、実施例1と同様の方法によりエンボスローラのメンテナンスを実施した。そして、上記と同様の方法によりメンテナンス前後のローラ表面の組成分析を行った。
【0040】
図10に、メンテナンス前後の超硬質合金からなるローラ表面のエネルギー分散型分光スペクトルを示す。メンテナンスによりローラ表面から銅が除去されていることが確認された。しかし、メンテナンス後のスペクトルには銅だけでなく、ローラの材質であるコバルトのピークも消失し、ローラ表面のダメージが確認された。
【0041】
《実施例2》
本実施例では、エッチング液の酸素バブリングによる効果を確認した。実施例1と同じエッチング液に1cm角の銅箔を30分間浸漬させた。銅箔の浸漬前後の銅箔の重量変化およびエッチング液のpH変化を測定した。そして、上記浸漬時の状態を、エッチング液を静置した状態で浸漬させた場合(実験例1)、エッチング液を酸素バブリングした場合(実験例2)、またはエッチング液を攪拌した場合(実験例3)に変えた。
【0042】
上記測定結果を表1に示す。なお、表1中の重量減少率は、以下の式により算出した。
重量減少率(%)=(試験前の銅箔重量−試験後の銅箔重量)/試験前の銅箔重量×100
【0043】
【表1】

【0044】
エッチング液を攪拌した場合、エッチング液を静置した場合よりも、エッチング液を酸素バブリングした場合の方が、同じ浸漬時間でより多量の銅を溶解させることができることがわかった。また、pHについても、エッチング液を攪拌した場合、エッチング液を静置した場合よりも、酸素バブリングした場合の方が、浸漬前後において変化が小さく、ネンテナンスに対する銅エッチング液の使用可能な時間が長いことがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明のエンボスローラのメンテナンス方法およびメンテナンス装置は、従来の銅箔エンボス加工、または表面に3次元的な凸部を形成するための圧延加工に用いられるエンボスローラに好適に用いられる。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】本発明のエンボスローラのメンテナンス装置の一実施形態を示す概略斜視図である。
【図2】本発明のメンテナンス方法に用いられるエンボスローラの一例を示す概略斜視図である。
【図3】図2のX部分の拡大図である。
【図4】図2のエンボスローラを軸方向からみた正面図である。
【図5】図2のY部分の拡大図である。
【図6】本発明の実施例1における銅箔のエンボス加工の工程を示す概略斜視図である。
【図7】メンテナンスする前のエンボスローラ表面の顕微鏡写真である。
【図8】本発明の方法によりメンテナンスを実施したエンボスローラ表面の顕微鏡写真である。
【図9】エッチング液浸漬前後における炭素鋼からなるエンボスローラ表面の組成を示すエネルギー分散型X線分光スペクトルを示す図である。
【図10】エッチング液浸漬前後における超硬質合金からなるエンボスローラ表面の組成を示すエネルギー分散型X線分光スペクトルを示す図である。
【符号の説明】
【0047】
1 エンボスローラ
1a 凹部
1b 凸部
2 駆動部
3 ローラ支持台
4 容器
5 エッチング液
5a 管
6a、6b ローラ
7 銅箔
8、9 エンボスローラ
10 圧接部
11 エンボス加工された銅箔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面に凹凸を有する銅箔圧延加工用エンボスローラのメンテナンス方法であって、
前記エンボスローラを、銅アンモニア錯体を含むpH8〜13の銅エッチング液に浸漬し、前記表面に付着した銅を溶解除去することを特徴とするエンボスローラのメンテナンス方法。
【請求項2】
前記銅エッチング液を酸素または乾燥空気でバブリングする工程をさらに含む請求項1記載のエンボスローラのメンテナンス方法。
【請求項3】
前記凹部は幅0.1μm以上である請求項1または2記載のエンボスローラのメンテナンス方法。
【請求項4】
前記エンボスローラは、ハイス鋼、ダイス鋼、および鍛鋼よりなる群から選ばれる少なくとも1種からなる請求項1または2記載のエンボスローラのメンテナンス方法。
【請求項5】
銅アンモニア錯体を含むpH8〜13の銅エッチング液が入った容器と、
表面に凹凸を有する銅箔圧延加工用エンボスローラの表面の一部を前記銅エッチング液に浸漬させながら前記エンボスローラを回転させる回転手段と、
を具備するエンボスローラのメンテナンス装置。
【請求項6】
さらに、前記銅エッチング液を酸素または乾燥空気でバブリングする手段を有する請求項5記載のメンテナンス装置。

【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図9】
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【図10】
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【図1】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−291825(P2009−291825A)
【公開日】平成21年12月17日(2009.12.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−149437(P2008−149437)
【出願日】平成20年6月6日(2008.6.6)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】