説明

オイルポンプ

【課題】アウターロータ8の剛性を確保できると共に、オイルポンプの駆動ロスの増大を抑えられる構造を実現する。
【解決手段】アウターロータ8は、外周面8aと複数の内歯の歯底8dとの間に、シール性確保部16と増径部17と段差部8cとを有する。シール性確保部16は、ポンプハウジング9の壁面13a、13bとの間でシール性を確保するために必要な径方向寸法を有する。増径部17は、必要な剛性を確保するためにシール性確保部16の外径側に存在する。段差部8cは、増径部17の軸方向両側面に、壁面13a、13bとの隙間が、シール性確保部16と壁面13a、13bとの隙間よりも大きくなるように、全周に亙って形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば自動変速機などに搭載されるオイルポンプに係り、詳しくはアウターロータの内歯にインナーロータの外歯を噛合させる内接型のオイルポンプに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、乗用車などの車輌に使用されるオイルポンプとして、小型で簡単な構成を有する、例えば、トロコイド型のオイルポンプに代表される、内接型のオイルポンプが広く知られている。
【0003】
上記内接型のオイルポンプは、オイルポンプボディ及びサイドカバーから構成されるポンプハウジング内に、互いに偏心したアウターロータ及びインナーロータを配置し、アウターロータに形成した複数の内歯にインナーロータに形成した複数の外歯を噛合させる。そして、インナーロータを回転駆動し、内歯と外歯との間に形成される空間の容積を変化させることにより、吸入ポートに沿ってオイルを吸入し、吐出ポートに吸入したオイルを吐出する(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
このような内接型のオイルポンプとして、軽量化を図るべく、ポンプハウジングをアルミニウム合金製とし、アウターロータ及びインナーロータを鉄系合金製とした構成が、従来から知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−262963号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、ポンプハウジングをアルミニウム合金製とし、アウターロータ及びインナーロータを鉄系合金製とした場合、アルミニウム合金と鉄系合金とでは線膨張係数が異なるため、アウターロータ及びインナーロータとポンプハウジングとの隙間(クリアランス)が、温度によって変化する。このように隙間が変化することは、ポンプとしての性能が低下してしまうため好ましくない。
【0007】
このため、アウターロータ及びインナーロータをポンプハウジングと同じアルミニウム合金製とすることが考えられるが、アルミニウム合金は鉄系合金と比べて剛性が低いため、これら両ロータを鉄系合金製と同じ大きさでアルミニウム合金製とした場合、特にアウターロータの剛性を十分に確保できない。即ち、アウターロータは、作動時の圧力上昇に伴い大きな力を受けるため、剛性が低いと変形する可能性がある。したがって、このような変形を防止するためには、アウターロータの外径を大きくして剛性を確保する必要がある。
【0008】
上記両ロータはポンプハウジング内に配置されており、これら両ロータの軸方向側面はポンプハウジングの壁面と微小な隙間を介して対向している。この微小な隙間はオイルをシールする役目も有するが、上述のように剛性を確保すべくアウターロータの外径を大きくした場合、アウターロータと壁面との間の微小の隙間の径方向寸法が大きくなる分、この隙間内のオイルの粘性による抵抗が大きくなり、オイルポンプの駆動ロスが増大してしまう。
【0009】
そこで、本発明は、アウターロータの剛性を確保できると共に、オイルポンプの駆動ロスの増大を抑えられる構造を実現すべく発明したものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、複数の外歯(7b)を有するインナーロータ(7)と、該複数の外歯(7b)と噛合する複数の内歯(8b)を有し、該インナーロータ(7)に対し偏心して設けられたアウターロータ(8)と、これら両ロータ(7、8)を収容し、該両ロータ(7、8)の軸方向側面に対向する壁面(13a、13b)を有するポンプハウジング(9)と、を備え、前記インナーロータ(7)を回転駆動して前記内歯(7b)と前記外歯(8b)との間に形成される空間の容積を変化させることにより、オイルの吸入及び吐出を行うオイルポンプにおいて、
前記アウターロータ(8)は、外周面(8a)と前記複数の内歯(8b)の歯底(8d)との間に、前記壁面(13a、13b)との間でシール性を確保するために必要な径方向寸法を有するシール性確保部(16)と、必要な剛性を確保するために該シール性確保部(16)の外径側に存在する増径部(17)と、該増径部(17)の軸方向側面に、前記壁面(13a、13b)との隙間が、前記シール性確保部(16)と該壁面(13a、13b)との隙間よりも大きくなるように、全周に亙って形成された段差部(8c)と、を有する、
ことを特徴とするオイルポンプにある。
【0011】
好ましくは、前記ポンプハウジング(9)は、前記アウターロータ(8)の外周面(8a)と対向する内周面(12)を有し、
前記段差部(8c)は、前記アウターロータ(8)の外周面(8a)まで形成され、該段差部(8c)の軸方向寸法が該段差部(8c)の径方向寸法よりも小さい。
【0012】
好ましくは、前記ポンプハウジング(9)、前記インナーロータ(7)及び前記アウターロータ(8)が、アルミニウム合金製である。
【0013】
好ましくは、入力軸の回転を変速して出力する自動変速機の油圧発生源として用いられる。
【0014】
なお、上記カッコ内の符号は、図面と対照するためのものであるが、これは、発明の理解を用意にするための便宜的なものであり、特許請求の範囲の構成に何等影響を及ぼすものではない。
【発明の効果】
【0015】
請求項1に係る発明によると、アウターロータの剛性を確保するために増径部を設けているため、軽量化のためにアウターロータを剛性の低い材料製としても十分な剛性を確保できる。また、増径部の軸方向側面に段差部を形成しているため、ポンプハウジングの壁面との間の摩擦抵抗を低減でき、増径部の軸方向側面に段差部を形成しない場合と比較して、オイルポンプの駆動ロスを抑えられる。また、シール性確保部と増径部とを有することにより、アウターロータとして必要な剛性と、壁面との間のシール性の確保とを、必要最小限の寸法で実現できる。
【0016】
請求項2に係る本発明によると、段差部の軸方向寸法を小さくしているため、ポンプハウジングの内周面と対向するアウターロータの外周面の軸方向寸法を確保して、アウターロータが傾くことを抑制できる。
【0017】
請求項3に係る本発明によると、ポンプハウジング、インナーロータ及びアウターロータをアルミニウム合金製としているため、オイルポンプの軽量化を図れると共に、これら各部材の加工を容易にでき、しかも、両ロータとハウジングとの隙間が温度によって変化することを抑えられ、温度変化によるオイルポンプの性能の低下を抑制できる。
【0018】
請求項4に係る本発明によると、アウターロータとして必要な剛性の確保とシール性の確保とを、必要最小限の寸法で実現できるため、オイルポンプの小型化と軽量化とを図れ、自動変速機用のオイルポンプとして好ましく使用できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の実施形態に係るオイルポンプを組み込んだ自動変速機の一部を示す要部縦断面図。
【図2】本発明の実施形態に係るオイルポンプの横断面図。
【図3】アウターロータの一部を拡大して示す縦断面図。
【図4】図3の部分拡大図。
【図5】外周面と歯底との間の径方向寸法とアウターロータの変形剛性との関係を示すグラフ。
【図6】サイドクリアランスと粘性摩擦との関係を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の実施形態について、図1ないし図6を用いて説明する。まず、図1により、自動変速機のオイルポンプが組み込まれる部分の概略について説明する。なお、自動変速機は、多段式、無段式の何れであっても良い。自動変速機は、エンジンからの出力がトルクコンバータ1を介して伝達される。オイルポンプ2は、このトルクコンバータ1と自動変速機の変速機構との間に配置され、自動変速機の油圧発生源として用いられる。
【0021】
トルクコンバータ1は、エンジンからの出力が駆動伝達される入力軸3と、コンバータハウジング4と、出力軸5とを有する。コンバータハウジング4内には、図示を省略したポンプインペラー、タービンランナー、ステータを配置すると共にオイルを充填している。ポンプインペラーはコンバータハウジング4に固定され、共に回転する。タービンランナーは出力軸5に固定される。ステータはワンウェイクラッチを介して支持され、オイルの流れを制御する。エンジンからの出力により入力軸3と共にコンバータハウジング4及びポンプインペラーが回転すると、この回転がオイルを介してタービンランナーに伝達され、タービンランナーと共に出力軸5が回転する。この出力軸5は変速機構の入力軸に接続される。
【0022】
オイルポンプ2は、ポンプハウジング6と、このポンプハウジング6内に配置されるインナーロータ7と、アウターロータ8とから構成される。ポンプハウジング6は、オイルポンプボディ9とサイドカバー10とから構成される。オイルポンプボディ9は、アウターロータ8の外径側を覆う外径部9aと、両ロータ7、8の軸方向(図1の左右方向)片側面(図1の右側面)に対向する側部9bとから構成され、自動変速機のケースに固定されると共に、コンバータハウジング4と一体に形成されたハブ部4aの周囲に回転自在に配置される。また、サイドカバー10は、両ロータ7、8の軸方向他側面(図1の左側面)に対向配置され、オイルポンプボディ9とボルト11により結合されている。
【0023】
インナーロータ7及びアウターロータ8は、外径部9aの内周面12、側部9bの壁面13a、サイドカバー10の壁面13bにより囲まれた空間(収納部)内に配置される。アウターロータ8の外周面8aは、外径部9aの内周面12と微小な隙間を介して対向する。また、両ロータ7、8の軸方向両側面は、後述する段差部8c、吸入ポート14及び吐出ポート15と対向する部分を除いて、壁面13a、13bにそれぞれ微小な隙間を介して対向する。両ロータ7、8の軸方向側面と壁面13a、13bとの間の微小な隙間は、オイルがアウターロータ8の外径側へ漏れて(流れて)、オイルが還流することを防止するシールとしての役目も有する。また、インナーロータ7は、コンバータハウジング4のハブ部4aに外嵌固定されている。このインナーロータ7の内周面には、径方向内方に突出する突部7aを設け、ハブ部4aに形成した溝4bとキー係合している。したがって、インナーロータ7はハブ部4aと共に回転する。
【0024】
図2に示すように、インナーロータ7の外周面には複数の外歯7bを形成している。また、アウターロータ8の内周面には外歯7bよりも数が多い複数の内歯8bを形成している。そして、複数の外歯7bと複数の内歯8bとを噛合させている。インナーロータ7は、ハブ部4aの回転軸と同心に配置されるが、アウターロータ8は、この回転軸に対して偏心して配置される。したがって、インナーロータ7とアウターロータ8とは互いに偏心して設けられている。この構成により、複数の内歯8bと複数の外歯7bとの間にそれぞれ形成される空間Sの容積は、円周方向によって異なる。また、両ロータ7、8の回転方向に関し、この空間Sの容積が増大する部分に吸入ポート14を連通させ、この容積が減少する部分に吐出ポート15を連通させている。
【0025】
これら吸入ポート14及び吐出ポート15は、それぞれオイルポンプボディ9の壁面13aとサイドカバー10の壁面13bに対向するように形成され、吸入ポート14は、オイルパンとストレーナを介して連通し、吐出ポート15はプライマリーレギュレータバルブなどを介して自動変速機の変速機構などに連通している。
【0026】
このように構成されるオイルポンプ2は、コンバータハウジング4のハブ部4aと共にインナーロータ7が回転すると、複数の外歯7bと複数の内歯8bとの噛合によりアウターロータ8が回転する。そして、回転に伴い、複数の内歯8bと複数の外歯7bとの間に形成される空間Sの容積が変化し、容積が増大する部分で吸入ポート14からオイルを吸い込み、容積が減少する部分で吐出ポート15からオイルを吐き出す。
【0027】
本実施形態の場合、オイルポンプ2を構成するポンプハウジング8、インナーロータ7及びアウターロータ8を、アルミニウム合金製としている。また、アウターロータ8は、鉄系金属により形成する場合と比べて外径を大きくしている。そして、アウターロータ8の外径を大きくした部分の軸方向両側面に段差部8cを形成している。
【0028】
図3に詳示するように、アウターロータ8は、外周面8aと複数の内歯8bの歯底8dとの間に、シール性確保部16と増径部17と段差部8cとを有する。シール性確保部16は、壁面13a、13bとの間でシール性を確保するために必要な径方向寸法α(例えば4.5mm)を有する部分である。即ち、アウターロータ8の軸方向両側面と壁面13a、13bとの間の微小の隙間が所定の長さ以上存在しなければ、この微小の隙間でオイルを十分にシールできない。このため、シール性確保部16は、歯底8dから径方向の所定の長さの範囲で、軸方向両側面を壁面13a、13bにそれぞれ全周に亙って、微小な隙間で近接対向させている。言い換えれば、シール性確保部16の軸方向両側面と壁面13a、13bとを油膜を介して密着させている。
【0029】
また、増径部17は、アウターロータ8をアルミニウム合金製としたことにより、必要な剛性を確保するためにシール性確保部16の外径側に存在する部分である。即ち、アウターロータ8を鉄系金属製とした従来構造の場合、複数の内歯の歯底と外周面との間の径方向寸法をシール性を確保するために必要な寸法αを有するように構成すれば、必要な剛性を確保できたが、アウターロータ8をアルミニウム合金製とした場合、この寸法αを確保しただけの外径とすると、十分な剛性を確保できない。したがって、アウターロータ8の外径をシール性確保部16の外径よりも大きくし、言い換えれば、従来の鉄系金属性の構造の場合よりも外径を大きくし、必要な剛性を確保するようにしている。そして、この径を大きくした部分を増径部17とし、外周面8aと歯底8dとの間の径方向寸法β(例えば6.5mm)をシール性確保部16の径方向寸法αよりも大きくしている。
【0030】
また、段差部8cは、増径部17の軸方向両側面に全周に亙って形成されている。この段差部8cは、壁面13a、13bとの隙間が、シール性確保部16と壁面13a、13bとの隙間よりも大きくなるように、アウターロータ8の軸方向側面を軸方向に凹まさせた部分である。言い換えれば、段差部8cを形成して、増径部17の軸方向寸法をシール性確保部16の軸方向寸法よりも小さくしている。また、段差部8cは、シール性確保部16の外径面からアウターロータ8の外周面8aまで形成されている。したがって、この外周面8aの軸方向寸法もシール性確保部16の軸方向寸法よりも小さい。なお、壁面13a、13bの軸方向の間隔は、シール性確保部16と増径部17とが存在する部分で変化しないようにしている。
【0031】
また、図4に詳示するように、段差部8cの軸方向寸法x(軸方向の凹み量、例えば段差部8c以外で壁面13a、13bとのクリアランスを0.01mmとした場合に、段差部8cと壁面13a、13bとのクリアランスが0.5mm)を、段差部8cの径方向寸法y(径方向の凹み量、例えば段差部8c以外で内周面12とのクリアランスを0.01mmとした場合に、段差部8cと内周面12とのクリアランスが2mm)よりも小さくなるように形成している。例えば、軸方向寸法xを径方向寸法yの1/4以下とすることが好ましい。そして、外周面8aの軸方向寸法が小さくなり過ぎないようにしている。
【0032】
これにより、ポンプハウジング6の内周面12に近接対向するアウターロータ8の外周面8aの軸方向寸法を確保して、アウターロータ8が傾くことを抑制できる。即ち、本実施形態の場合、段差部8cを形成した分、外周面8aの軸方寸法が内周面12の軸方寸法よりも小さい。アウターロータ8は、外周面8aと内周面12とを近接対向させることにより、傾きが生じないようにしているため、この近接対向する部分の軸方向寸法が小さいと傾きが生じる可能性がある。本実施形態の場合、段差部8cの軸方向寸法xを小さくすることにより、外周面8aと内周面12とが近接対向する軸方向寸法を確保してアウターロータ8の傾きが生じないようにしている。
【0033】
但し、段差部8cと壁面13a、13bとの間で生じるオイルの粘性による抵抗(粘性摩擦)の低減を図るために、この段差部8cの軸方向寸法xを径方向寸法yの1/10以上とする。即ち、アウターロータ8の軸方向両側面と壁面13a、13bとの間にはオイルが存在するため、この間の隙間が小さいとオイルの粘性摩擦により、オイルポンプ2の駆動ロスが生じてしまう。特に、本実施形態の場合には、従来の鉄系金属性の構造よりも外径を大きくしている分、アウターロータ8の軸方向両側面と壁面13a、13bとが対向する面積が大きくなる。したがって、従来構造よりも径を大きくした部分である増径部17に段差部8cを形成し、この段差部8c分、増径部17の軸方向両側面と壁面13a、13bとの間の隙間を大きくし、粘性摩擦の低減を図っている。
【0034】
本実施形態によると、ポンプハウジング6、インナーロータ7及びアウターロータ8をアルミニウム合金製としているため、オイルポンプ2の軽量化を図れると共に、これら各部材の加工を容易にでき、しかも、両ロータ7、8とハウジング6との隙間が温度によって変化することを抑えられ、温度変化によるオイルポンプ2の性能の低下を抑制できる。
【0035】
また、アウターロータ8の剛性を確保するために増径部17を設けているため、軽量化のためにアウターロータ8を剛性のアルミニウム合金製としても十分な剛性を確保できる。なお、増径部17に段差部8cを設ける分、剛性が低下するが、段差部8cは増径部17の軸方向両側面に形成され、また、軸法寸法を小さくしているため、段差部8cが剛性低下に及ぼす影響は小さい。
【0036】
また、増径部17の軸方向側面に段差部8cを形成しているため、ポンプハウジング6の壁面13a、13bとの間の摩擦抵抗を低減でき、増径部17の軸方向側面に段差部8cを形成しない場合と比較して、オイルポンプ2の駆動ロスを抑えられる。即ち、アウターロータ8の剛性を確保するための増径部17の軸方向両側面に段差部8cを形成し、この部分で壁面13a、13bとの隙間を大きくすることによりオイルの粘性摩擦を低減している。このため、剛性を確保するためにアウターロータ8の外径を大きくしたにも拘らず、オイルポンプ2の駆動ロスを抑えられる。
【0037】
また、シール性確保部16と増径部17とを有することにより、アウターロータ8として必要な剛性の確保と、壁面13a、13bとの間のシール性の確保とを、必要最小限の寸法で実現できる。この結果、オイルポンプ2の小型化と軽量化とを図れ、自動変速機用のオイルポンプ2として好ましく使用できる。
【0038】
次に、本発明の効果を確認するために行った検証結果について説明する。まず、アウターロータを鉄系合金製(Fe)とした場合とアルミニウム合金製(Al)とした場合とで、それぞれ変形剛性を比較した。この検証では、アウターロータの外径を変化させて外周面と内歯の歯底との径方向寸法を異ならせた以外は、それぞれの材料で寸法関係を同じとして、それぞれ変形剛性を計算により求めた。また、Alの構造に関しては、外周面と歯底との径方向寸法を変化させた。この結果を図5に示す。
【0039】
図5で、丸印で示すAlのアウターロータの剛性は、外周面と歯底との間の径方向寸法を6.5mmとすれば、菱形の印で示すFeのアウターロータで外周面と歯底との間の径方向寸法を4.5mmとした場合の剛性と同等になることがわかる。この4.5mmは、シール性を確保するために必要な寸法であり、従来の鉄系合金製のアウターロータの寸法である。したがって、Alのアウターロータは、Feのアウターロータよりも外径を2mm大きくすれば、同等の剛性を確保できることが分かった。
【0040】
次に、増径部及び段差部がない従来構造のアウターロータと、増径部を有しこの増径部の軸方向両側面に段差部を形成したアウターロータとで、粘性摩擦を比較した場合について説明する。増径部及び段差部を有する構造に関しては、この段差部の軸方向寸法を変化させた。即ち、菱形の印で示す従来構造のアウターロータは、外周面と歯底との間の径方向寸法が4.5mmとなるような外径とし、かつ、段差部を形成せず、丸印で示す増径部及び段差部を有するアウターロータは、外周面と歯底との間の径方向寸法が6.5mmとなるように、従来構造のアウターロータよりも外径を大きくし、かつ、外径を大きくした部分(増径部)に段差部を形成し、この段差部の軸方向寸法を変化させた。そして、それぞれの場合の粘性摩擦を求めた。この結果を図6に示す。
【0041】
ここで、従来構造のアウターロータの外周面と歯底との間部分と壁面との隙間(サイドクリアランス)は、0.01mmとし、増径部及び段差部を有する構造のアウターロータのシール性確保部と壁面とのサイドクリアランスも0.01mmとし、増径部と壁面とのサイドクリアランスは、段差部の軸方向寸法を変えて変化させた。また、図6に鎖線で示すラインは、従来構造のアウターロータの粘性摩擦によるトルクを基準として、トルクアップが10%となるラインである。図6から明らかなように、増径部の段差部と壁面とのサイドクリアランスが0.2mm以上であれば、トルクアップ10%以下となる粘性摩擦に抑えられることが分かった。段差部と壁面とのサイドクリアランスは、段差部の公差及び外周面の軸方向寸法との関係を考慮して、0.5mmとすることが好ましい。
【0042】
なお、上述の説明では、段差部8cをシール性確保部16の外径面から形成しているが、この段差部8cは増径部17に形成されていれば良く、例えば、増径部17の径方向中間部から外周面12に亙って形成することもできる。また、ポンプハウジング6、インナーロータ7及びアウターロータ8は、アルミニウム合金以外の軽量金属とすることもでき、鉄系合金よりも剛性が低い材料製とした場合に、本発明は有用である。但し、各部材の材料を同じとして温度による各部材の隙間の変化が抑えられるようにする。また、本発明のオイルポンプは、自動変速機だけではなく、各種用途にも適用できる。
【符号の説明】
【0043】
2 オイルポンプ
6 ポンプハウジング
7 インナーロータ
7b 外歯
8 アウターロータ
8a 外周面
8b 内歯
8c 段差部
9 オイルポンプボディ
10 サイドカバー
12 内周面
13a、13b 壁面
14 吸入ポート
15 吐出ポート
16 シール性確保部
17 増径部
α シール性確保部の径方向寸法
β 外周面と歯底との間の径方向寸法
x 段差部の軸方向寸法
y 段差部の径方向寸法

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の外歯を有するインナーロータと、該複数の外歯と噛合する複数の内歯を有し、該インナーロータに対し偏心して設けられたアウターロータと、これら両ロータを収容し、該両ロータの軸方向側面に対向する壁面を有するポンプハウジングと、を備え、前記インナーロータを回転駆動して前記内歯と前記外歯との間に形成される空間の容積を変化させることにより、オイルの吸入及び吐出を行うオイルポンプにおいて、
前記アウターロータは、外周面と前記複数の内歯の歯底との間に、前記壁面との間でシール性を確保するために必要な径方向寸法を有するシール性確保部と、必要な剛性を確保するために該シール性確保部の外径側に存在する増径部と、該増径部の軸方向側面に、前記壁面との隙間が、前記シール性確保部と該壁面との隙間よりも大きくなるように、全周に亙って形成された段差部と、を有する、
ことを特徴とするオイルポンプ。
【請求項2】
前記ポンプハウジングは、前記アウターロータの外周面と対向する内周面を有し、
前記段差部は、前記アウターロータの外周面まで形成され、該段差部の軸方向寸法が該段差部の径方向寸法よりも小さい、
ことを特徴とする請求項1に記載のオイルポンプ。
【請求項3】
前記ポンプハウジング、前記インナーロータ及び前記アウターロータが、アルミニウム合金製である、
ことを特徴とする請求項1又は2に記載のオイルポンプ。
【請求項4】
入力軸の回転を変速して出力する自動変速機の油圧発生源として用いられる、
ことを特徴とする請求項1ないし3のうちの何れか1項に記載のオイルポンプ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−208533(P2011−208533A)
【公開日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−75622(P2010−75622)
【出願日】平成22年3月29日(2010.3.29)
【出願人】(000100768)アイシン・エィ・ダブリュ株式会社 (3,717)
【Fターム(参考)】