説明

オイル塗布装置

【課題】 リング状ワークに確実にオイルを塗布し、余分に付着したオイルを除去し、また、浮遊するオイルやコンベアに付着するオイルを外部に放出させずに回収し、これを無駄にすることなく利用できるようにする。
【解決手段】 無端状のコンベア5に多数の孔を設け、搬路の途中にブース6を設けて、上流側のオイル塗布室6aと下流側のエア吹付け室6bに区画し、オイル塗布室6aにコンベア5を挟んで対向する位置に一対のオイル塗布部材14を配設する。また、エア吹付け室6bに配設されるエア吹付け部材15によって、ワークWの上方からエアを吹付けて余分なオイルを除去する。また、ブース6内で浮遊するオイルを吸引部材16で吸引し、またコンベア6やワークWから滴下するオイルをオイル受部13で受け、回収したオイルを循環させて再使用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば車両エンジンの動力伝達部材であるCVTベルトのようなリング状のワークに防錆オイルを塗布する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えばエンジンの動力を伝達するためのCVTベルトのようなリング状のワークは、比較的大径であるが肉厚が薄いため、例えばコンベアに載置した自然状態では形状が真円にならず変形したものになりやすい。また、重量が軽いのも特徴の一つであり、使用に際して傷や打痕等があるとベルトの破断につながるため、非常に取り扱いが難しいワークの一つである。このため、このようなワークに防錆油(オイル)を塗布する場合、コンベア上に載置してオイル槽に漬ける方式も考えられるが、ワークが軽いため速い速度でコンベアを動かすと油中でワークが浮いてしまい、多数のワークが重なったまま引き上げられて傷などが発生するという問題が生じる。一方、コンベアの速度を遅くするか、ワークが浮遊しないよう固定装置を設けることも考えられるが、この場合は、作業時間が長くかかったり、ワークに傷を与えないための複雑な装置構成が必要となったりして好ましくない。
このため、現状では、最も簡易な方法として、作業者がオイルを満たした容器にワークを漬けて引上げ、エアガンで余分なオイルを除去するような手順を採用している。
【0003】
一方、ワークに対してオイルを塗布し、余分なオイルを回収する装置として、例えば防錆塗布室を搬送コンベアに跨って設け、この防錆塗布室の前後に負圧状態に減圧されるキャビンを設けるとともに、このキャビン内に霧状防錆油の捕集フィンを搬送コンベアに沿って立設するような技術(例えば、特許文献1参照。)も知られている。
【特許文献1】特開平7−171454号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところが、現状の簡易な作業方法のように、作業者がオイルを満たした容器にワークを漬けて引上げ、エアガンで余分なオイルを除去する手順は、ワークが柔軟なため作業しずらく、ワークによってはオイルの除去にムラが生じたり、除去できなかったオイルが落下して床を汚す等の不具合があった。
また、特許文献1のような技術では、噴霧したオイルを外部に出さない工夫はしているものの、ワークに付着したオイルについては何らの対応も図られていないため、ワークに付着した余分のオイルが滴下するような不具合がある。
【0005】
そこで本発明は、常に安定した状態でワークにオイルを塗布し、またワークに余分に付着したオイルを除去して均一な塗布量にするとともに、浮遊するオイルやコンベアに付着するオイルを外部に放出させずに回収し、更に、回収したオイルを無駄にすることなく利用できるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明は、多数の孔を有するコンベアで搬送されるリング状のワークにオイルを塗布する装置において、前記コンベアの搬路途中の上部に周囲側面と上面が包囲されるブースを設け、このブース内を、搬路上流側のオイル塗布室と下流側のエア吹付け室に区画するとともに、該ブースには、ブース内で浮遊するオイルを吸引する吸引部材を設け、また、前記オイル塗布室には、コンベアを挟んで搬送方向に位相をずらした状態で一対のオイル塗布部材を配設し、前記エア吹付け室には、ワークの上方から下方のワークに向けてエアを吹き付けることのできるエア吹付け部材を配設するようにした。
【0007】
そして、ワークがコンベアで搬送されてブース内に入ると、一対のオイル塗布部材からワークに向けてオイルを噴霧化して吹き付けることにより、ワークの全面に確実に塗布するようにし、ワークに余分に付着したオイルは、下流のエア吹付け部材から吹出されるエアで除去する。そして、ブース内に浮遊するオイルは、吸引部材で吸引すれば、オイルがブースの外に流出することがない。
この際、一対のオイル塗布部材の位相を搬送方向にずらすことにより、お互いの吹付けに干渉がなくなってリング状のワークの表裏面にムラなく塗布することができ、また、エア吹付け部材によるエアの吹付けによって、ワークに付着する余分なオイルを除去してオイル塗布量を均一化することができる。そして、これらの塗布作業が自動的に行われるため、作業者の負担が軽減される。
【0008】
また、オイル塗布部材のオイル吐出孔を、縦長のオリフィス形状にすることで、コンベア上のワークの上下方向に対してムラなくオイルを塗布することができ、また、エア吹付け部材として、ワークの直径以上の幅でエアを吹付け出来るようにすれば、ワークに付着する余分なオイルを確実に除去できる。
【0009】
また、本発明では、前記コンベアの側面周囲及びその下方に、滴下するオイルをオイル受部で回収することのできるオイル回収室を設け、また、前記ブースの下流に、オイル回収室内で浮遊するオイルを吸引するための吸引室を設けるようにした。
そしてオイル受部では、エア吹付け部材によってワークから除去された余分なオイルや、コンベアから滴下するオイルを回収するようにし、また、このオイル回収室内で浮遊するオイルを吸引室を通して吸引すれば、オイルの外部への漏洩が一層抑制される。
【0010】
そして本発明では、前記吸引部材によって吸引されたブース内のオイルと、前記オイル受部で回収されたオイルと、前記吸引室を介して吸引されたオイル回収室内のオイルを、すべて循環させて再利用するようにした。
このことにより、オイルが無駄に消費されることなく効率的である。
【発明の効果】
【0011】
コンベアで搬送されるリング状のワークに対して、対向位置をずらした一対のオイル塗布部材からオイルを噴霧化して塗布し、その後、エア吹付け部材からエアを吹き付けることで、ワークに確実にオイルを塗布できるとともに、付着するオイル量を均一化することができ、また、吸引部材によって浮遊するオイルを吸引するため、オイルが外部に漏洩せず、環境衛生を損なうことがない。そして、ワークから除去された余分なオイルや、コンベアに付着するオイルを回収し循環させて再利用することで無駄がなくなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明の実施の形態について添付した図面に基づき説明する。
ここで図1は本発明に係るオイル塗布装置の平面図、図2は同正面図、図3は同側面図、図4はオイル塗布部材のオイル吐出孔の説明図、図5はオイル塗布状態の説明図である。
【0013】
本発明に係るオイル塗布装置は、リング状のワークに対し、常に安定した状態でオイルを塗布し、またワークに余分に付着したオイルを除去して均一な塗布量にするとともに、浮遊するオイルやコンベアに付着するオイルを外部に洩らさず回収し、更に、回収したオイルを無駄にすることなく利用できるようにされており、本実施例では、車両エンジンの動力伝達部品であるCVTベルトへの防錆オイルの塗布に適用されている。
【0014】
このオイル塗布装置1は、図1乃至図3に示すように、機柱2上に取付けられる左右一対のコンベアローラ保持フレーム3と、このコンベアローラ保持フレーム3に支持される複数のローラ4、4aによって無端軌道を走行するコンベア5を備えており、このコンベア5の上部側走行路がリング状ワークWを搬送するワーク搬路とされ、下部側走行路がリターン路とされている。また、リターン路の中間のローラ4aは、コンベア5に付着する油を掻き落とす作用も果している。
そして、このコンベア5の上部側走行路の上流側にワークWを載置して、ワークWを下流側に向けて搬送中、コンベア5上でワークWに防錆油を塗布するようにしている。
【0015】
このため、コンベアローラ保持フレーム3の中間上部には、コンベア5の上部側走行路が必要最小限の間隔で確保される状態で、前後面と周囲側面と上面を囲い込むトンネル状のブース6が設けられ、またこのブース6は、内部空間を二つに仕切る仕切り板7によって、搬路上流側のオイル塗布室6aと搬路下流側のエア吹付け室6bに仕切られている。
また、このブース6に隣接する搬路下流側には、ブース6と同じトンネル状の吸引室8が設けられ、後述するように、オイル回収室10内の浮遊オイルを吸引するようにされている。
【0016】
コンベア5の下部側走行路の周囲はオイル回収室10として、その周囲側面が側面板11や前後面板12によって囲われるとともに、底面側は、オイル受部13によって囲われている。そして、このオイル回収室10のオイル受部13は、コンベア5から滴下するオイルや、ワークWから除去されて滴下するオイルを受けることができるようにされ、受けたオイルを循環させるため、中央部をテーパ状に低位にし、一番低い位置に排出部13hを設けている。
なお、前記コンベア5には、オイルが流通可能な多数の孔を設け、ワークWから除去したオイルがオイル回収室10のオイル受部13に滴下するようにしている。
【0017】
前記ブース6のオイル塗布室6a内には、コンベア5を挟んで対向する一対のオイル塗布部材14を設けている。そして、このオイル塗布部材14の対向位置は、図5にも示すように、搬送方向に対して位相をずらしており、また、オイル吐出孔14hは、図4に示すように縦長のオリフィス形状として、コンベア5上のワークWの上下方向に対してムラなくオイルを塗布すべく噴出できるようにされている。
【0018】
前記ブース6のエア吹付け室6bには、上方から下方に向けてエアを吹き付けることのできるエア吹付け部材15が配設されている。このエア吹付け部材15は、リング状ワークWの直径以上の幅でエアを吹き付けることができるよう、実施例では複数の扁平な先広がりのノズル部を有するエア吹付け部材15を直列に並べている。
【0019】
また、このブース6の上部には、ブース6内で浮遊するオイルを吸引するための吸引部材16が設けられている。そしてこの吸引部材16には、吸引したオイルを循環させて使用するため循環ホース17(図2)が接続されている。
【0020】
前記吸引室8には、吸引ホース18が接続され、この吸引室8を介してエアを吸引することで、オイル回収室10内に浮遊するオイルを吸引するようにしている。この際、コンベア5には多数の孔が形成されているため、この孔を通してオイル回収室10内のエアを吸引することができる。
【0021】
一方、オイル回収室10の下方には、オイルを循環させるための機構やエアを供給するための機構等が配設されている。
すなわち、載置台20上にはオイルタンク21が載置され、このオイルタンク21からオイル塗布部材14に向けて延出するオイルホース22の途中には、ダイヤフラムポンプ23や定圧ダンパ24やレギュレータ25が配設されている。
【0022】
そして、前記吸引部材16に接続される循環ホース17は、吸引室8の吸引ホース18と合流した後、オイルタンク21に連結され、また、前記オイル回収室10のオイル受部13の排出部13hとオイルタンク21との間には戻しホース26が接続されている。
【0023】
また、エア源30とエア吹付け部材15との間には、エアホース31が接続され、このエアホース31の途中には、エアフィルタ32やレギュレータ33が配設され、また、エアフィルタ32とダイヤフラムポンプ23との間にもエアホース34が分岐接続され、このエアホース34の途中にはレギュレータ35が配設されている。
【0024】
以上のような構成の塗布装置1におけるオイルの塗布方法について説明する。
まず、作業者はコンベア5の上流側にリング状のワークWを載置する。すると、コンベア5の走行に伴ってワークWは下流側に向けて移動し、ブース6内に入る。
【0025】
ブース6上流側のオイル塗布室6aでは、オイル塗布部材14からオイルを噴出することでワークWにオイルを塗布する。この際、図5に示すように、ワークWの先端部が一方側のオイル塗布部材14の前方まで来ると、ワークWの近接側の外面と遠い側の内面にオイルが吹き付けられる(図5(b))。そして、ワークWの先端部が他方側のオイル塗布部材14の前方に差し掛かると、前回とは反対側の外面と内面に向けてオイルが吹付けられる((c)〜(d))。
また、これらオイル塗布部材14のオイル吐出孔はオリフィス形状となり、塗布パターンが上下の扇状に広がっていくため、塗り残しがない。
【0026】
そして、ワークWがオイル塗布部材14の前方を通過すると、外面、内面とも全面に確実にオイルが塗布されることになる。またこの際、対向するオイル塗布部材14の位置が搬送方向にずれているため、吹付けがお互いに干渉することがない。
【0027】
次に、ワークWがエア吹付け室6bに入ると、上方のエア吹付け部材15から下方のワークWに向けてエアが吹出され、ワークWに付着する余分なオイルが除去される。そして、この除去されたオイルは、コンベア5の多数の孔を通して下方に滴下し、オイル受部13によって受けられ、また、ワークWに付着するオイルの付着量は均一なものになる。
また、走行中のコンベア5から滴下するオイルもすべてオイル受部13によって受けられる。
【0028】
また、これと同時に、ブース6内のエアは吸引部材16により吸引されていることから、ブース6内で浮遊するオイルは吸引エアによって除去されるとともに、吸引室8に連結する吸引ホース18によってオイル回収室10内で浮遊するオイルも除去される。そしてこれら吸引されたオイルやオイル受部13に滴下したオイルはすべてオイルタンク21内に戻され再使用に供される。
【0029】
以上のような要領により、ワークWの全面に確実にオイルを塗布することができるばかりでなく、余分なオイルが除去され、しかも除去されたオイルやワークに付着しなかったオイルをすべて再使用することができるため効率的である。また、オイルが外部に放出されないため、環境衛生上の問題もない。
【0030】
なお、本発明は以上のような実施形態に限定されるものではない。本発明の特許請求の範囲に記載した事項と実質的に同一の構成を有し、同一の作用効果を奏するものは本発明の技術的範囲に属する。
例えば、リング状のワークWはCVTベルトに限られるものではない。
【産業上の利用可能性】
【0031】
コンベアによって搬送されるリング状のワークにオイルを塗布する際、オイル塗布室でオイルを塗布した後、エア吹付け室で余分なオイルを除去し、塗布に使用されなかったオイルを全て回収して循環させて再利用するため、無駄がなくなり、効率的であるとともに、オイルが外部に放出されず、作業環境を損なわない。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明に係るオイル塗布装置の平面図
【図2】同正面図
【図3】同側面図
【図4】オイル塗布部材のオイル吐出孔の説明図
【図5】オイル塗布状態の説明図
【符号の説明】
【0033】
1…オイル塗布装置、5…コンベア、6…ブース、6a…オイル塗布室、6b…エア吹付け室、8…吸引室、10…オイル回収室、14…オイル塗布部材、15…エア吹付け部材、16…吸引部材、W…ワーク。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多数の孔を有するコンベアで搬送されるリング状のワークにオイルを塗布する装置であって、前記コンベアの搬路途中の上部に周囲側面と上面が包囲されるブースが設けられ、このブース内は、搬路上流側のオイル塗布室と下流側のエア吹付け室に区画されるとともに、該ブースには、ブース内で浮遊するオイルを吸引する吸引部材が設けられ、また、前記オイル塗布室には、コンベアを挟んで搬送方向に位相をずらした状態の一対のオイル塗布部材が配設され、前記エア吹付け室には、ワークの上方から下方のワークに向けてエアを吹き付けることのできるエア吹付け部材が配設されることを特徴とするオイル塗布装置。
【請求項2】
前記オイル塗布部材のオイル吐出孔は、コンベア上のワークの上下方向に対してムラなくオイルを塗布できるよう、縦長のオリフィス形状をなすことを特徴とする請求項1に記載のオイル塗布装置。
【請求項3】
前記エア吹付け部材は、ワークの直径以上の幅でエアを吹付け出来るようにされることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のオイル塗布装置。
【請求項4】
前記コンベアの側面周囲及びその下方には、滴下するオイルをオイル受部で回収することのできるオイル回収室が設けられ、また、前記ブースの下流には、オイル回収室内で浮遊するオイルを吸引するための吸引室が設けられることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載のオイル塗布装置。
【請求項5】
前記吸引部材によって吸引されたブース内のオイルと、前記オイル受部で回収されたオイルと、前記吸引室を介して吸引されたオイル回収室内のオイルは、すべて循環させて再利用するようにされることを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載のオイル塗布装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−281110(P2006−281110A)
【公開日】平成18年10月19日(2006.10.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−105602(P2005−105602)
【出願日】平成17年4月1日(2005.4.1)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】