説明

オキシアルキレン基含有ビニルエステル系樹脂の液性組成物及びその製造方法

【課題】 ハイドロタルサイトを高濃度で配合した場合であってもハイドロタルサイト粒子の凝集を防止し、しかも生産性に優れた、オキシアルキレン基含有ビニルエステル系樹脂の液性組成物の製造方法、並びに当該方法により得られるオキシアルキレン基含有ビニルエステル系樹脂及びハイドロタルサイトを含有している有機溶剤液及び水性液を提供する。
【解決手段】 オキシアルキレン基含有ビニルエステル系樹脂の有機溶剤溶液を、ハイドロタルサイトの存在下でケン化し、さらに必要に応じて、ケン化後に、前記溶液の溶媒を置換する。あるいは、ケン化度が0モル%又はケン化後のオキシアルキレン基含有ビニルエステル系樹脂の有機溶剤溶液に、ハイドロタルサイトを配合した後、前記溶液の溶媒置換する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハイドロタルサイトを含有するオキシアルキレン基含有ビニルエステル系樹脂組成物の有機溶剤溶液又は水性液、及びこれらの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
オキシアルキレン基含有ビニルエステル系樹脂組成物の有機溶剤溶液又は水性液は、インクジェット記録材のインク受容層を形成するための塗工液や、エマルジョンに使用する乳化分散安定剤として利用されている(例えば、特開2005−42008,特開2003−26885、特開平8−59944、特開2000−297107など)。
【0003】
ところで、ビニルエステル系樹脂が有するアセチル基等のエステル基が、加熱により分離してカルボン酸(酢酸)を発生し、これらの樹脂を用いた製品の生産現場における臭いの原因や最終的製品の品質低下をもたらす場合がある。ビニルエステル系樹脂における、このような問題を解決するために、ハイドロタルサイトを配合することがある。
【0004】
しかし、ハイドロタルサイト粒子は層状構造をしていて、粒子同士が凝集しやすいという性質を有しており、たとえ、層間はく離により細分化しても、再び、これらの粒子同士が凝集した状態で樹脂中に存在している場合が多い。
また、ハイドロタルサイトは、水にも、有機溶剤にも溶解しないため、ポリオキシオキシアルキレン基含有ビニルエステル系樹脂組成物の有機溶剤溶液又は水性液に添加混合しても、ハイドロタルサイト粒子同士が凝集してしまうため、溶液中にハイドロタルサイトを均一に分散させることが困難である。高速での攪拌を行なう等により分散性を高めることが考えられるが、再び分離してしまったり、設備の点からもコストアップになる等の理由から、このような方法による配合は行なっていないのが現状である。
【0005】
上記のような事情から、通常、例えば、特開平8−59944に開示のように、ハイドロタルサイトを配合したポリオキシアルキレン基含有ビニルエステル系樹脂組成物の調製にあたっては、樹脂、ハイドロタルサイト、その他の成分を、ロール混練機、押出機等を用いて溶融混合することによって行なわれている。しかし、溶融混合する方法においても、ハイドロタルサイト粒子を分散させる効果が弱いばかりでなく、粒子が凝集しやすくなって、ひどい場合にはハイドロタルサイトが塊になってしまうこともあるため、溶融混合して得られたペレットを有機溶剤又は水に分散させても、樹脂中に、ハイドロタルサイトの凝集粒子状態で分散しているなど、ハイドロタルサイトの配合効果が充分に発揮できるような状態となっていないのが現状である。
【0006】
【特許文献1】特開2005−42008
【特許文献2】特開2003−26885
【特許文献3】特開平8−59944
【特許文献4】特開2000−297107
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、以上のような事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、ハイドロタルサイトの配合効果が充分に発揮できるように、ハイドロタルサイトを高濃度で配合した場合であってもハイドロタルサイト粒子の凝集を防止し、しかも生産性に優れた、オキシアルキレン基含有ビニルエステル系樹脂の液性組成物の製造方法、並びに当該方法により得られるオキシアルキレン基含有ビニルエステル系樹脂及びハイドロタルサイトを含有している有機溶剤液又は水性液を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、重合後、必要に応じてケン化してオキシアルキレン基含有ビニルエステル系樹脂の有機溶剤液を得る過程で、ハイドロタルサイトを配合することで、生産性に優れ、しかもハイドロタルサイト粒子の凝集を防止した状態で分散させたオキシアルキレン基含有ビニルエステル系樹脂の液性組成物を、効率よく生産できることを見出し、本発明を完成した。
【0009】
すなわち、本発明のオキシアルキレン基含有ビニルエステル系樹脂の液性組成物は、オキシアルキレン基含有ビニルエステル系樹脂溶液中に、ハイドロタルサイトが平均粒径500nm以下で分散していることを特徴とする。
【0010】
また、本発明の製造方法は、上記本発明のオキシアルキレン基含有ビニルエステル系樹脂の液性組成物を製造する方法であって、オキシアルキレン基含有ビニルエステル系樹脂の有機溶剤溶液を、ハイドロタルサイトの存在下でケン化し、さらに必要に応じて、ケン化後に、前記溶液の溶媒を置換することによって製造することができる。あるいは、ケン化度が0モル%又はケン化後のオキシアルキレン基含有ビニルエステル系樹脂の有機溶剤溶液に、ハイドロタルサイトを配合した後、前記溶液の溶媒置換を行なうことによって製造することができる。
【0011】
尚、本明細書でいうオキシアルキレン基含有ビニルエステル系樹脂は、ケン化度0モル%から65モル%のオキシアルキレン基含有ビニルエステル系樹脂の総称である。
【発明の効果】
【0012】
本発明の製造方法によれば、重合、必要に応じてケン化することによりオキシアルキレン基含有ビニルエステル系樹脂を製造する過程でハイドロタルサイトを配合し、所望の溶媒に調整した液性組成物を製造しているので、生産効率がよく、しかも一旦固液分離して取り出したオキシアルキレン基含有ビニルエステル樹脂又はその溶液にハイドロタルサイトを配合して液性組成物を製造する方法と比べて、製造される液性組成物におけるハイドロタルサイトの分散性が優れている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明のオキシアルキレン基含有ビニルエステル系樹脂の液性組成物は、オキシアルキレン基含有ビニルエステル系樹脂が溶解した溶液中に、ハイドロタルサイトが平均粒径500nm以下で分散したものである。はじめに、本発明の液性組成物に用いられるオキシアルキレン基含有ビニルエステル系樹脂について説明する。
【0014】
〔オキシアルキレン基含有ビニルエステル系樹脂〕
本発明に用いられるオキシアルキレン基含有ビニルエステル系樹脂とは、下記一般式(1)で示されるオキシアルキレン基を含有するビニルエステル系樹脂で、より具体的には該一般式(1)で示されるオキシアルキレン基を含有する不飽和単量体とビニルエステル系化合物との共重合体又はそのケン化物である。オキシアルキレン基を有する不飽和単量体におけるオキシアルキレンの平均付加モル数は特に限定しないが、通常1〜100(好ましくは3〜50、特に好ましくは5〜20)である。
【0015】
【化1】


(1)式中、R、Rは水素又はアルキル基(特にメチル基又はエチル基)、Rは水素又はアルキル基又はアルキルアミド基、n(オキシアルキレンの付加モル数)は正の整数であり、通常1〜100である。
【0016】
オキシアルキレン基を有する不飽和単量体としては、下記一般式(2)で表される(メタ)アクリル酸エステル型、一般式(3)で示される(メタ)アクリル酸アミド型、一般式(4)で示される(メタ)アリルアルコール型、一般式(5)で示されるビニルエーテル型などが挙げられ、これらのうち、(メタ)アリルアルコール型のものが好適に使用される。
【0017】
【化2】


【化3】


【化4】


【化5】

【0018】
(2)〜(5)式中、Rは水素又はメチル基、R、Rはそれぞれ水素又はアルキル基、Rは水素又はアルキル基又はアルキルアミド基、Rは水素又はアルキル基又は下記一般式(6)で示されるもの、Aはアルキレン基、置換アルキレン基、フェニレン基、置換フェニレン基のいずれか、mは0又は1以上の整数、nは上記(1)式の場合と同様である。
【0019】
【化6】


(6)式中、R、R、Rは上記と同様、nは上記(1)式の場合と同様である。
【0020】
(メタ)アクリル酸エステル型不飽和単量体としては、ポリオキシエチレン(メタ)アクリレート、ポリオキシプロピレン(メタ)アクリレート等が挙げられる。(メタ)アクリル酸アミド型不飽和単量体としては、ポリオキシエチレン(メタ)アクリル酸アミド、ポリオキシプロピレン(メタ)アクリル酸アミド、ポリオキシエチレン(1−(メタ)アクリルアミド−1,1−ジメチルプロピル)エステル等が挙げられる。(メタ)アリルアルコール型不飽和単量体としては、ポリオキシエチレン(メタ)アリルエーテル、ポリオキシプロピレン(メタ)アリルエーテル等が挙げられる。ビニルエーテル型不飽和単量体としては、ポリオキシエチレンビニルエーテル、ポリオキシプロピレンビニルエーテル等が挙げられる。
【0021】
上記単量体以外に、ポリオキシエチレンアリルアミン、ポリオキシプロピレンアリルアミン等のポリオキシアルキレンアリルアミン、ポリオキシエチレンビニルアミン、ポリオキシプロピレンビニルアミン等のポリオキシアルキレンビニルアミン等を用いることも可能である。
【0022】
上記のオキシアルキレン基を有する不飽和単量体と共重合されるビニルエステル系化合物としては、ギ酸ビニル、酢酸ビニル、トリフルオロ酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、カプリン酸ビニル、ラウリル酸ビニル、バーサティック酸ビニル、パルミチン酸ビニル、ステアリン酸ビニル等が単独又は併用で用いられるが実用上は酢酸ビニルが好適である。
【0023】
以上のようなオキシアルキレン基を有する不飽和単量体とビニルエステル系化合物の共重合体又はそのケン化物であるオキシアルキレン基含有ビニルエステル系樹脂中のオキシアルキレン基の含有率(変性率)は特に限定しないが、通常1〜10モル%(さらには1.2〜5モル%、特には1.5〜3モル%)とすることが好ましい。含有率が低すぎた場合には水性液としたときの安定性が悪くなる傾向にあり、含有率が高すぎた場合にはオキシアルキレン基含有ビニルエステル系樹脂の重合度を上げることが困難になる傾向にある。
【0024】
平均重合度(JIS K 6726)についても特に限定しないが、通常100〜2000(さらには150〜1200、特には200〜800)が好ましい。平均重合度が低すぎた場合には、ビニルエステル系樹脂としての特性が得られにくく、逆に多すぎた場合には、高濃度のオキシアルキレン基含有ビニルエステル系樹脂を含有する液性組成物を得ようとする場合に粘度が高くなり、ハイドロタルサイトを分散させることが困難になる傾向がある。
【0025】
本発明の液性組成物に用いられるオキシアルキレン基含有ビニルエステル系樹脂は、残存ビニル構造単位の加水分解に要するアルカリ消費量から求められるケン化度が、通常0〜65モル%のものを対象とするが、好ましくは10〜65モル%であり、より好ましくは20〜60モル%である。ケン化度は、目的とする用途によって、適宜選択される。
【0026】
オキシアルキレン基含有ビニルエステル系樹脂は、オキシアルキレン基により、ケン化度の幅広い領域にわたって、油溶性でもあり、親水性も有するという特性を有しているものの、ケン化度が高すぎると、ポリビニルアルコール系樹脂としての性質が強くなり、有機溶剤には溶解しにくくなる傾向がある。
【0027】
〔オキシアルキレン基含有ビニルエステル系樹脂の液性組成物〕
本発明のオキシアルキレン基含有ビニルエステル系樹脂の液性組成物は、以上のようなオキシアルキレン基含有ビニルエステル系樹脂の溶液にハイドロタルサイトが分散したものである。
【0028】
前記オキシアルキレン基含有ビニルエステル系樹脂の溶液の溶媒としては、有機溶剤、水、又は水と有機溶剤の混合液が用いられ、これらのうち、水が好ましく用いられる。
【0029】
上記有機溶剤としては、液性組成物の用途により適宜選択されるが、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール等の炭素数1〜4の低級アルコールやアセトン、メチルエチルケトン等のケトン類等が好ましく用いられる。これらの有機溶剤は、適宜割合で水と混合して、前記樹脂溶液の溶媒として用いることもできる。
【0030】
本発明の液性組成物におけるオキシアルキレン基含有ビニルエステル系樹脂分の濃度は、通常、10〜60重量%、好ましくは15〜55重量%、より好ましくは20〜50重量%である。樹脂分の含有率が高すぎると、粘度が高くなって取扱い性が低下する傾向にあり、樹脂分の含有率が低すぎるとオキシアルキレン基含有ビニルエステル系樹脂の液性組成物としての各種用途におけるオキシアルキレン基含有ビニルエステル系樹脂本来の効果が低下する傾向にある。
【0031】
ここで、ハイドロタルサイトとは、化学式MgAl(OH)16CO・4HOで表される天然鉱物の呼称であるが、最近では、上記天然鉱物と基本的に近似な構造を有する下記一般式で表される複水酸化物の総称としても、一般に使用されている。
〔M2+1−x3+(OH)〕(Ax/n・mHO)
式中、M2+は、Mg、Fe、Zn、Ca、Cu、Co等の2価の金属イオンを表し、好ましくはMg、Zn又はCaであり、より好ましくはMgである。また、M3+は、Al、Ce、Fe、Mn、In、Cr等の3価の金属イオンを表し、好ましくはAl、Ceであり、より好ましくはAlである。xは0.2〜0.33の数であり、またmは0より大きい実数で、脱水の程度により変わるが、一般に0〜2の整数である。Aは炭酸イオン(CO2−)、HPO2−、飽和脂肪族モノカルボン酸であり、好ましくは炭酸イオンである。なお、nはAの価数である。
【0032】
特に好ましい組み合わせは、下記一般式であらわされるハイドロタルサイト類である。
Mg1−xAl(OH)(CO)x/2・mH
また、Aが飽和脂肪族モノカルボン酸イオンであるものとしては、特開2006−274385等に開示されたハイドロタルサイト類を挙げることができる。かかるハイドロタルサイト類は、炭酸イオンを内包するハイドロタルサイトを、飽和脂肪族モノカルボン酸塩水溶液中でイオン交換して得られたもので、良好な層間剥離性を有することから、好ましく用いられる。
【0033】
本発明におけるハイドロタルサイトは、上記のようなハイドロタルサイト類である。以上のようなハイドロタルサイト類は、M2+(OH)のM2+の一部がM3+で置換されたことにより生じる正電荷八面体層をホスト層とし、この正電荷を補償するアニオンと層間水からなるゲスト層が、ホスト層と交互に積層した層状構造を有している。
【0034】
本発明に用いられるハイドロタルサイトは、ステアリン酸等の表面処理がされたものであってもよいが、PVA系樹脂等のビニルエステル系樹脂による微分散の点からは、ステアリン酸等の表面処理されていないハイドロタルサイトが好ましく用いられる。
【0035】
液性組成物中、オキシアルキレン基含有ビニルエステル系樹脂100重量部に対して、ハイドロタルサイトは、通常1〜100重量部(より好ましくは3〜60重量部、更に好ましくは5〜40重量部)含有されていることが好ましい。オキシアルキレン基含有ビニルエステル系樹脂に対するハイドロタルサイトの含有量が低すぎる場合、ハイドロタルサイト配合による酢酸臭の発生防止効果が得られにくかったり、マスターバッチとして使用する場合、期待した効果(酢酸等のトラップ)が得られない。また、ハイドロタルサイトの含有量が高すぎると、ハイドロタルサイトの分散が困難になる傾向にある。
【0036】
ハイドロタルサイトは、平均粒径が通常500nm以下(好ましくは500〜10nm、より好ましくは450〜10nm、更に好ましくは400〜10nm、特に好ましくは300〜10nm)の粒子状態で溶液中に分散している。このとき、粒径800nm以上の粒子の割合は30%以下であることが好ましい。ここでいうハイドロタルサイトの平均粒径は、液性組成物(有機溶剤溶液又は水性液)をダイナミック光散乱光度計(DLS)で測定した場合の平均粒径である。
【0037】
本発明の液性組成物には、ハイドロタルサイトの他、必要に応じて、他の添加剤が配合されていてもよい。他の添加剤としては、グリセリン、エチレングリコール、ヘキサンジオール等の脂肪族多価アルコール類、ソルビトール、マンニトール、ペンタエリスリトール等の糖アルコール類等の可塑剤;ステアリン酸アミド、エチレンビスステアリン酸アミド等の飽和脂肪族アミド化合物、オレイン酸アミド等の不飽和脂肪族アミド化合物、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸亜鉛等の脂肪族金属塩、分子量が500〜10000程度の低分子量エチレン、低分子量プロピレン等の低分子量オレフィン等の滑材;酸化防止剤;熱安定剤;光安定剤;紫外線吸収剤;着色剤;帯電防止剤;界面活性剤;防腐剤;抗菌剤;アンチブロッキング剤;スリップ剤;充填剤;およびホウ酸、リン酸等の無機酸などが挙げられ、これらは必要に応じて適宜配合される。また、オキシアルキレン基含有ビニルエステル系樹脂がケン化物の場合、ケン化触媒などが含まれていてもよい。
【0038】
本発明の液性組成物が有機溶剤溶液の場合、例えば、コーティング剤、接着剤、粘着剤に用いられる。
本発明の液性組成物が水性液の場合、例えば、インクジェット用記録媒体の記録層を形成するための塗工液、コーティング剤、接着剤、粘着剤、エマルジョンに使用する乳化分散安定剤に用いられる。
【0039】
〔オキシアルキレン基含有ビニルエステル系樹脂の液性組成物の製造方法〕
本発明の製造方法は、液性組成物の樹脂分であるオキシアルキレン基含有ビニルエステル系樹脂を生成する過程、すなわちオキシアルキレン基を有する不飽和単量体とビニルエステル系化合物の共重合後、所望によりケン化してケン化物を得るわけであるが、共重合後、共重合体の溶液あるいはケン化物の溶液が得られるまでの間に、ハイドロタルサイト粒子を配合するところに特徴がある。また、共重合時の溶媒が製造しようとする液性組成物の溶媒と異なる場合、溶媒置換を行なう前、具体的には、共重合後に共重合物を固液分離(樹脂溶液の溶媒除去)するまでの間、あるいはケン化を行なう場合には共重合後からケン化物を固液分離(樹脂溶液の溶媒除去)するまでの間にハイドロタルサイトを配合するところに特徴がある。従って、ハイドロタルサイトの配合時期は、得ようとする液性組成物の樹脂分であるオキシアルキレン基含有ビニルエステル系樹脂のケン化度に応じて異なる。以下、ケン化度に応じて説明する。
【0040】
〔ケン化度0モル%のオキシアルキレン基含有ビニルエステル系樹脂の液性組成物の製造方法〕
ケン化度0モル%のオキシアルキレン基含有ビニルエステル系樹脂は、前述のオキシアルキレン基を有する不飽和単量体とビニルエステル系化合物の共重合により得られる。
【0041】
上記の共重合を行うに当たっては、特に制限はなく公知の重合方法が任意に用いられるが、普通メタノール、エタノールあるいはイソプロピルアルコール等の炭素数1〜4の低級アルコールを溶媒とする溶液重合が実施される。好ましくは、製造しようとする液性組成物の溶媒が有機溶剤の場合、組成物で使用する有機溶剤と同種類の有機溶剤を溶媒とする溶液重合が行なわれる。これにより、重合液にハイドロタルサイトを配合することにより、本発明の液性組成物を製造することができ、生産性の点で優れているからである。
【0042】
溶液重合において単量体の仕込み方法としては、まずビニルエステル系化合物の全量と前記のオキシアルキレン基を有する不飽和単量体の一部を仕込み、重合を開始し、残りの不飽和単量体を重合期間中に連続的に又は分割的に添加する方法、前者を一括仕込みする方法等任意の手段を用いて良い。共重合反応は、アゾビスイソブチロニトリル、過酸化アセチル、過酸化ベンゾイル、過酸化ラウロイルなどの公知のラジカル重合触媒や公知の各種低温活性触媒を用いて行われる。又反応温度は通常35℃〜沸点程度の範囲から選択される。
【0043】
ハイドロタルサイトは、重合により得られたオキシアルキレン基含有ビニルエステル系樹脂の有機溶剤溶液に配合される。有機溶剤溶液の濃度調整が必要な場合、濃度調整後、ハイドロタルサイトを配合してもよいし、ハイドロタルサイトの配合後に濃度を調整してもよい。尚、ハイドロタルサイトの添加混合に先立って、未反応モノマーを系外に除去しておくことが好ましい。
【0044】
ハイドロタルサイトは、粒子の平均粒径が400〜600nm程度の粉末を使用する。粉末状態において、粒子が凝集して凝集粒子となったものも含まれるが、凝集粒子を含んだまま用いることができる。ハイドロタルサイトは、ビニルエステル系樹脂溶液に、粉末のまま直接配合してもよいし、予め、ハイドロタルサイトを水や炭素数1〜4のアルコール等に分散させた分散液を調製し、この分散液を配合混合してもよい。
【0045】
ハイドロタルサイトの配合量は、最終的に得ようとする液性組成物の組成、液性組成物に含まれるオキシアルキレン基含有ビニルエステル系樹脂量に応じて決められる。
【0046】
製品として得たい液性組成物の溶媒が、重合により得られたオキシアルキレン基含有ビニルエステル系樹脂溶液で使用していた溶媒と同じであれば、重合後の溶液にハイドロタルサイトを配合して得られる液性組成物がそのまま製品として、各種用途に供されることができる。一方、製品として得たい液性組成物の溶媒が、重合により得られたオキシアルキレン基含有ビニルエステル系樹脂溶液で使用していた溶媒と異なる場合、所望の溶媒に置換する必要がある。溶媒置換の方法は特に限定しないが、例えば、重合に使用した有機溶剤を除去後、あるいは除去しながら、液性組成物において溶媒となる液体を加えて、オキシアルキレン基含有ビニルエステル系樹脂を溶解する方法などがある。好ましくは、重合に使用した有機溶剤除去後、液性組成物において溶媒となる液体に置換する方法である。
【0047】
以上のような製造方法により得られる液性組成物は、一旦固液分離等によりオキシアルキレン基含有ビニルエステル系樹脂を取り出した後で、所望の溶媒に溶解した溶液にハイドロタルサイトを配合する場合と比べて、ハイドロタルサイトの分散性がよい。従来の方法、すなわち、一旦固液分離等により取り出したオキシアルキレン基含有ビニルエステル系樹脂を所望の溶媒に溶解した溶液にハイドロタルサイトを配合する方法で、ハイドロタルサイトを高濃度に含有する液性組成物、特に水を溶媒とする水性液を製造することは困難であった。これに対して、本発明の製造方法、すなわち重合により得られたオキシアルキレン基含有ビニルエステル系樹脂の有機溶剤溶液にハイドロタルサイトを配合した後、所望の溶媒に置換する方法によれば、ハイドロタルサイトを高濃度に含有する液性組成物、特に水を溶媒とする水性液を、簡便に製造することができる。
【0048】
[オキシアルキレン基含有ビニルエステル系樹脂(ケン化物)組成物の製造方法]
オキシアルキレン基含有ビニルエステル系樹脂は、重合後だけでなく、ケン化後も有機溶剤に溶解できる性質を示す。従って、ハイドロタルサイトは、重合後からケン化終了後までの任意の段階で生成されているオキシアルキレン基含有ビニルエステル系樹脂(ケン化物)の有機溶剤溶液に配合することができる。具体的には、(i)重合後、ハイドロタルサイトを配合し、ハイドロタルサイトの存在下でケン化する、(ii)ケン化反応の途中でハイドロタルサイトを配合する、(iii)ケン化終了後にハイドロタルサイトを配合するといった方法がある。これらのうち、(iii)の方法が好ましく採用される。
【0049】
ケン化反応途中にハイドロタルサイトを配合する場合、一括に配合してもよいし、ケン化反応進行中に連続的に配合してもよいし、ケン化反応の適宜段階に分割して配合してもよい。ケン化後、所望により、ケン化物に含まれるOH基をウレタン化、アセタール化、シアノエチル化、オキシアルキレン化、アセトアセチル化等、公知の後変性処理により変性してもよい。
【0050】
ケン化は、ケン化触媒を添加することにより開始できる。アルカリケン化又は酸ケン化のいずれも採用できるが、アルカリ触媒が好ましく用いられる。ケン化に使用される触媒としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、ナトリウムメチラート、ナトリウムエチラート、カリウムメチラート、リチウムメチラート等のアルカリ金属の水酸化物やアルコラートの如きアルカリ触媒;硫酸、塩酸、硝酸、メタスルフォン酸、ゼオライト、カチオン交換樹脂等の酸触媒が挙げられる。使用する溶媒、ケン化度、樹脂の種類に応じて、適宜選択される。かかるケン化触媒の使用量については、ケン化方法、目標とするケン化度等により適宜選択される。ケン化反応の反応温度は特に限定されないが、通常、10〜60℃であり、より好ましくは20〜50℃である。ケン化度は、得ようとする樹脂組成物のケン化度に応じて決まり、触媒量、ケン化反応時間によりコントロールできる。
【0051】
水を溶媒として、ケン化物を溶解させた水溶液にハイドロタルサイトが分散した液性組成物を製造する場合、ケン化後、樹脂溶液の溶媒を水に置換することが好ましい。ケン化反応を水溶液中で行なうと、多量のケン化触媒が必要となり、また、ハイドロタルサイトも水中では凝集しやすくなるため、予め、ケン化反応及びハイドロタルサイトの添加、分散を、有機溶剤を溶媒とする溶液中で行なっておくことが好ましいからである。有機溶剤を水に置換する方法としては、例えば、有機溶剤を減圧除去した後、水を加えて溶解させる方法が挙げられる。
【0052】
また、有機溶剤を溶媒とするケン化物の液性組成物を製造する場合であっても、重合時に用いた溶媒と製造しようとする液性組成物の溶媒が異なる場合、ハイドロタルサイト配合後に、溶媒を、最終的に製造しようとする液性組成物の溶媒に置換する。
【0053】
以上のように、オキシアルキレン基含有ビニルエステル系樹脂(ケン化物)の製造過程でハイドロタルサイトを配合する本発明の製造方法は、生産性の観点から優れている。また、ハイドロタルサイト存在下でケン化を行なう場合だけでなく、ケン化後にハイドロタルサイトを配合する場合であっても、得られたオキシアルキレン基含有ビニルエステル系樹脂を一旦固液分離した後でハイドロタルサイトを配合して液性組成物を製造する場合と比べて、ハイドロタルサイトの分散性が優れている。すなわち、ハイドロタルサイト粒子同士の凝集を防止でき、平均粒径500nm以下に分散した、オキシアルキレン基含有ビニルエステル系樹脂(ケン化物)の液性組成物が得られる。従って、本発明の製造方法によれば、ハイドロタルサイトの分散性が、製品として得ようとする液性組成物の溶媒の種類に影響されないので、種々の溶媒の液性組成物を製造することが可能となる。
【0054】
尚、ハイドロタルサイト以外の添加剤が配合される場合、その配合時期は特に限定しない。ケン化前であってもよいし、ケン化途中であってもよいし、ケン化後であってもよいし、またハイドロタルサイトの配合前、同時配合、配合後のいずれでもよい。
【実施例】
【0055】
以下、実施例を挙げて本発明を更に具体的に説明するが、本発明はその要旨を越えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。尚。例中、「部」「%」とあるのは、断りのない限り、重量基準を意味する。
【0056】
〔実施例1〕
還流冷却器、滴下漏斗、攪拌機を備えた反応缶に、酢酸ビニル800部、メタノール944部、オキシエチレンの付加モル数が平均15のポリオキシエチレンモノアリルエーテルを139.5部(酢酸ビニルに対して2モル%)、アゾビスイソブチロニトリル0.4モル%(対仕込み酢酸ビニル)を投入し、攪拌しながら、窒素気流下で温度を上昇させて重合を開始した。
重合開始から2時間後、6時間後に、0.05モル%のアゾビスイソブチロニトリルを追加投入し、酢酸ビニルの重合率が98%となった時点で、m−ジニトロベンゼン及び希釈・冷却用メタノールを添加して重合を終了した。続いて、メタノール蒸気を吹き込む方法により未反応の酢酸ビニルモノマーを系外に除去し、さらに濃縮して、オキシエチレン基含有ポリ酢酸ビニルが45%濃度のメタノール溶液を得た。
【0057】
このオキシエチレン基含有ポリ酢酸ビニルのメタノール溶液を、メタノールで希釈して濃度42%に調整し、500部をニーダーに仕込み、水15部を加えて混合後、溶液温度を35℃に保ち、攪拌しながら水酸化ナトリウムの2%メタノール溶液を共重合体中の酢酸ビニル1モルに対して7ミリモルとなる割合でケン化を行なった。2時間後、酢酸により中和を行ない、生成したビニルエステル系樹脂溶液の100部を抜き取り、ビニルエステル系樹脂の分析に供した。
【0058】
残った溶液をニーダーで攪拌しながらハイドロタルサイト(平均粒径500nm)13.7部を添加し、さらに2時間攪拌して、オキシエチレン基含有ビニルエステル系樹脂(ケン化物)組成物のメタノール溶液を得た。メタノールをエバポレータで減圧除去後、樹脂濃度40%になるように水を加え、再溶解させて、水を溶媒とするオキシエチレン基含有ビニルエステル系樹脂(ケン化物)の液性組成物を得た。
得られた液性組成物中には、樹脂分100部に対してハイドロサルタイトは10部含まれていた。また、オキシエチレン基含有ビニルエステル系樹脂(ケン化物)のオキシアルキレン基の含有率は2モル%、ケン化度は45.0モル%、重合度は380であった。
【0059】
上記で得られた液性組成物に更に水を加えて、0.1%ハイドロタルサイトが分散した液性組成物を調製し、ダイナミック光散乱光度計(大塚電子社製のDLS−700)でハイドロタルサイトの粒径を測定したところ、平均粒子径110nmであった。
【0060】
〔比較例1〕
ポリオキシエチレンモノアリルエーテルを加えないで、酢酸ビニル500部、メタノール1175部とした以外は実施例1と同様にして得られたビニルエステル系樹脂のメタノール溶液を得た。溶媒であるメタノールを、エバポレータで減圧除去した後、乾燥、粉砕することにより、ケン化度45モル%、重合度380のビニルエステル系樹脂粉末を得た。得られたビニルエステル系樹脂粉末100部とハイドロタルサイト10部とを、ブラベンダーで120℃で10分間混練し、粉砕してビニルエステル系樹脂組成物の粒子を得た。
この組成物に水を加えても、組成物は溶解せず、水を溶媒とするオキシエチレン基含有ビニルエステル系樹脂(ケン化物)の液性組成物を得ることができなかった。
【0061】
〔比較例2〕
実施例1でハイドロタルサイトを加えないで得られたビニルエステル系樹脂水性液に、ハイドロタルサイトを攪拌しながら添加したが、ハイドロタルサイトは凝集物を作り、均一には分散しなかった。
【0062】
〔比較例3〕
実施例1でハイドロタルサイトを加えないで得られた固体状態のビニルエステル系樹脂100部とハイドロタルサイト10部を、ブラベンダーで120℃で10分間混練し、粉砕してビニルエステル系樹脂組成物の粒子を得た。
得られた樹脂組成物に、更に水を加えて、0.1%ハイドロタルサイトを分散させた液性組成物を調製し、ダイナミック光散乱光度計(大塚電子社製のDLS−700)でハイドロタルサイトの粒径を測定したところ、平均粒径550nmであった。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明のオキシアルキレン基含有ビニルエステル系樹脂の液性組成物は、有機溶剤溶液、水性液であり、塗工液、接着剤、粘着剤、乳化分散安定剤などとして利用することができ、ハイドロタルサイトの配合効果により、カルボン酸臭の発生が抑制されるので、オキシアルキレン基含有ビニルエステル系樹脂脂組成物の利用環境を改善できる。また、本発明の製造方法によれば、分散性の点からコストアップの原因となっていたハイドロタルサイトの配合を高濃度であっても簡便に行なうことができ、高い生産性で、本発明のオキシアルキレン基含有ビニルエステル系樹脂の液性組成物を製造することができる。さらに、液性組成物の溶媒を従来の製造方法よりも広範囲から選択することが可能となる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
オキシアルキレン基含有ビニルエステル系樹脂溶液中に、ハイドロタルサイトが平均粒径500nm以下で分散していることを特徴とするオキシアルキレン基含有ビニルエステル系樹脂の液性組成物。
【請求項2】
前記樹脂溶液の溶質であるオキシアルキレン基含有ビニルエステル系樹脂に含まれるオキシアルキレン基の含有率が1〜10モル%である請求項1に記載の液性組成物。
【請求項3】
前記オキシアルキレン基含有ビニルエステル系樹脂100重量部に対して、前記ハイドロタルサイトを1〜100重量部含有している請求項1又は2に記載の液性組成物。
【請求項4】
前記オキシアルキレン基含有ビニルエステル系樹脂のケン化度が0〜65モル%である請求項1〜3のいずれかに記載の液性組成物。
【請求項5】
前記樹脂溶液の溶媒が水である請求項1〜3のいずれかに記載の液性組成物。
【請求項6】
オキシアルキレン基含有ビニルエステル系樹脂の有機溶剤溶液を、ハイドロタルサイトの存在下でケン化する工程を含むことを特徴とするオキシアルキレン基含有ビニルエステル系樹脂の液性組成物の製造方法。
【請求項7】
ケン化後、前記溶液の溶媒を置換する工程を含む請求項6に記載のオキシアルキレン基含有ビニルエステル系樹脂の液性組成物の製造方法。
【請求項8】
ケン化度が0モル%又はケン化後のオキシアルキレン基含有ビニルエステル系樹脂の有機溶剤溶液にハイドロタルサイトを配合した後、前記溶液の溶媒置換を行なうことを特徴とするオキシアルキレン基含有ビニルエステル系樹脂の液性組成物の製造方法。

【公開番号】特開2008−255342(P2008−255342A)
【公開日】平成20年10月23日(2008.10.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−58847(P2008−58847)
【出願日】平成20年3月8日(2008.3.8)
【出願人】(000004101)日本合成化学工業株式会社 (572)
【Fターム(参考)】