説明

オレフィン類重合用遷移金属含有固体触媒およびオレフィン類重合用遷移金属含有固体触媒の性能評価方法

【課題】耐衝撃性ポリオレフィンの製造に適した立体規則性を有するオレフィン重合物を作製し得る新規なオレフィン類重合用遷移金属含有固体触媒を提供する。
【解決手段】(a)マグネシウム化合物と、(b)遷移金属化合物と、(c)酸素原子と化学結合を形成してなる炭素原子を有する電子供与体とを、(d)20℃で液体である不活性有機溶媒の存在下において、前記(c)電子供与体の量が、前記(a)マグネシウム化合物の量に対してモル比で0.001以上0.1以下となるように接触させてなることを特徴とするオレフィン類重合用遷移金属含有固体触媒である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オレフィン類重合用遷移金属含有固体触媒およびオレフィン類重合用遷移金属含有固体触媒の性能評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、マグネシウム、遷移金属および電子供与体を必須成分として含むオレフィン類重合用遷移金属含有固体触媒が数多く提案されている。
【0003】
例えば、塩化マグネシウムやジエトキシマグネシウムなどのマグネシウム化合物を、アルコキシチタン化合物で全て溶解して均一溶液を形成し、その後析出させてなる遷移金属含有固体触媒が提案されている(特許文献1(特開昭62−18405号公報)および特許文献2(特開平3−72503号公報)参照)。
【0004】
しかしながらこれらの遷移金属含有固体触媒は、いずれも、マグネシウム化合物をアルコキシチタンによって溶解し次いで析出させてなるものであり、上記析出工程が煩雑なものであることから、工業的な製造が困難なものである。
また、上記遷移金属含有固体触媒は、調製工程において多量のアルコキシチタン化合物を用いてなるものであるため、析出した固体触媒中にアルコキシチタン化合物が残存し、オレフィン重合して得られる重合物において、その立体規則性等の性能が著しく低下してしまう。このように立体規則性が低い重合物を多く生成すると、立体規則性を有する重合物の製造効率が低下するばかりか、重合物の移送時に配管が閉塞する等のプロセス障害を生じ、安定操業に支障を生じてしまう。
【0005】
ところで、上記固体触媒の重合特性等を評価するためには、得られた触媒を用いて実際にオレフィンモノマーを重合させる必要があることから、上記触媒開発は、試行錯誤的に行われているのが実状である。
このような状況下、触媒の化学的構造、すなわち触媒成分である遷移金属の存在状態を解析し、触媒特性と関連付けることによって、より優れた触媒を設計することが求められるようになっている。
【0006】
例えば、X線回折法(以下、「XRD法」という)、赤外吸収分光法(以下、「IR法」と略称する)、ラマン分光法(以下、「Raman法」と略称する)等を用いた方法が検討されている。
しかしながら、XRD法は、結晶性の高い無機化合物を含む触媒に対しては有効な手法であるが、非晶質系の材料を含む触媒に対しては検出ピークが広幅化するために、解析や定量が非常に困難になってしまう。さらに、IR法とRaman法は分析感度という面では有効であるが、同じようなスペクトルが複数ある場合、それぞれのピークが重なり、解析することが困難になる。
【0007】
例えば、特許文献3(米国特許第4,298,718号明細書)や特許文献4(米国特許第4,495,338号明細書)においては、塩化マグネシウムを担体に用いた触媒において、触媒活性に有効な活性型塩化マグネシウムをXRD法にて分析し、結晶型塩化マグネシウムのピークに比して、活性型塩化マグネシウムはハロピークを出現するとして、そのピークを規定している。しかしながら、現在汎用的に用いられているオレフィン類重合用触媒中の塩化マグネシウムは、ほとんどが非晶質であり、これをXRD法で分析した場合、何れの触媒においても上記特許文献1や特許文献2に記載されているようなハロピークを生じてしまう。
【0008】
このように、オレフィン重合触媒として使用される、マグネシウム、チタンおよび電子供与体を必須成分として含む、オレフィン類重合用遷移金属含有固体触媒は、その構造が十分に解析されておらず、触媒構造と触媒特性との関係が効果的に検討されているとは言い難い状況にあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開昭62−18405号公報
【特許文献2】特開平3−72503号公報
【特許文献3】米国特許第4,298,718号明細書
【特許文献4】米国特許第4,495,338号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
このような状況下、本発明者等は、核磁気共鳴分光法に着目し、先に、核磁気共鳴装置を用いて触媒中のチタン核を高回転数でかつ高強磁場強度下で核磁気共鳴させ、得られた遷移金属同位体ピークの化学シフト値の大小により触媒活性を評価する方法を提案した(第57回高分子年次会)。
【0011】
しかしながら、通常、核磁気共鳴装置を用いてチタン核を測定する場合、チタン核は四極子モーメントを有し(すなわち、核スピン量子数Iが1超であり)、核四極子相互作用を生じて得られる信号が幅広くなってしまうことから、上記方法においては、高回転数でかつ(例えば20テスラ以上の)強磁場条件下で核磁気共鳴させる必要がある。このような強磁場を生じる核磁気共鳴装置は、装置開発や装置の維持に(年間数十億円単位の)膨大な費用を要し、更には装置の設置スペースとして縦横ともに10m以上の床面積を確保する必要があるとともに、漏洩磁場が増大してしまうため、低コストで簡便な評価方法にはなり難い。
【0012】
本発明は、耐衝撃性が求められる用途に適した立体規則性を有するオレフィン重合物を作製し得る新規なオレフィン類重合用遷移金属含有固体触媒を提供することを第1の目的とするものであり、オレフィン類重合用遷移金属含有触媒の触媒性能を、重合体を得ることなく簡便かつ低コストに測定可能な、新規な評価方法を提供することを第2の目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成するために、本発明者等が鋭意検討したところ、(a)マグネシウム化合物と、(b)遷移金属化合物と、(c)酸素原子と化学結合を形成してなる炭素原子を有する電子供与体とを、(d)20℃で液体である不活性有機溶媒の存在下において、前記(c)電子供与体の量が、前記(a)マグネシウム化合物の量に対してモル比で0.001以上0.1以下となるように接触させてなるオレフィン類重合用遷移金属含有固体触媒により、上記第1の目的を達成し得ることを見出した。
また、本発明者等が鋭意検討したところ、(a)マグネシウム化合物と、(b)遷移金属化合物と、(c)酸素原子と化学結合を形成してなる炭素原子を有する電子供与体とを接触させてなるオレフィン類重合用遷移金属含有固体触媒の性能評価方法であって、固体核磁気共鳴装置により、磁場強度7テスラ以上、回転速度6kHz以上の条件下で前記オレフィン類重合用遷移金属含有固体触媒の13C核磁気共鳴スペクトルを得、次いで、テトラメチルシランに由来する信号位置をケミカルシフト0ppmとしたときに、前記酸素原子と化学結合を形成してなる炭素原子の原子核に由来するケミカルシフト値165ppm〜175ppmに現れる信号またはケミカルシフト値60ppm〜80ppmに現れる信号のいずれかの積分強度に対する、ケミカルシフト値90ppm〜100ppmに現れる信号の積分強度の比を得、得られた積分強度の比の大小により触媒性能を評価するオレフィン類重合用遷移金属含有固体触媒の性能評価方法により、上記第2の目的を達成し得ることを見出した。
本発明は、これ等の知見に基づいて完成するに至ったものである。
【0014】
すなわち、本発明は、
(1)(a)マグネシウム化合物と、(b)遷移金属化合物と、(c)酸素原子と化学結合を形成してなる炭素原子を有する電子供与体とを、(d)20℃で液体である不活性有機溶媒の存在下において、
前記(c)電子供与体の量が、前記(a)マグネシウム化合物の量に対してモル比で0.001以上0.1以下となるように接触させてなることを特徴とするオレフィン類重合用遷移金属含有固体触媒、
(2)固体核磁気共鳴装置により、磁場強度7テスラ以上、回転速度6kHz以上の条件下で13C核磁気共鳴スペクトルを得たときに、
テトラメチルシランに由来する信号位置をケミカルシフト0ppmとすると、前記酸素原子と化学結合を形成してなる炭素原子の原子核に由来するケミカルシフト値165ppm〜175ppmに現れる信号またはケミカルシフト値60ppm〜80ppmに現れる信号のいずれかの積分強度に対する、ケミカルシフト値90ppm〜100ppmに現れる信号の積分強度の比が、0.05以上1未満である上記(1)に記載のオレフィン類重合用遷移金属含有固体触媒、
(3)前記(a)マグネシウム化合物が、下記一般式(I)
MgX(OR2−n (I)
(式中Xはハロゲン原子、Rは炭素数1〜8の直鎖状または分岐鎖状のアルキル基、nは0〜2の整数であり、Rが複数存在する場合、各Rは同一であっても異なっていてもよく、またXが複数存在する場合、各Xは同一であっても異なっていてもよい。)
で表されるマグネシウム化合物である上記(1)または(2)に記載のオレフィン類重合用遷移金属含有固体触媒、
(4)前記(b)遷移金属化合物が、下記一般式(II)
TiY(OR4−m (II)
(式中Yはハロゲン原子、Rは炭素数1〜7の直鎖状または分岐鎖状のアルキル基、mは1〜4の整数であり、Rが複数存在する場合、各Rは同一であっても異なっていてもよく、またYが複数存在する場合、各Yは同一であっても異なっていてもよい。)
で表される四価のチタン化合物である上記(1)〜(3)のいずれかに記載のオレフィン類重合用遷移金属含有固体触媒、
(5)前記(c)電子供与体が、下記一般式(III)
−C(=O)OR(III)
(Rは、ヘテロ原子を含んでもよい炭素数1〜10の直鎖状または分岐鎖状炭化水素基)
で表されるカルボニル基または下記一般式(IV)
−C−OR(IV)
(Rは、ヘテロ原子を含んでもよい炭素数1〜10の直鎖状または分岐鎖状炭化水素基)
で表されるエーテル基
から選ばれる一種以上を有する電子供与性化合物である上記(1)〜(4)のいずれかに記載のオレフィン類重合用遷移金属含有固体触媒、
(6)前記(c)電子供与体が、脂肪族カルボン酸エステルまたは芳香族カルボン酸エステルから選ばれる一種以上である上記(5)に記載のオレフィン類重合用遷移金属含有固体触媒、
(7)前記(d)不活性有機溶媒が、直鎖状又は分岐鎖状の脂肪族炭化水素、脂環式炭化水素および芳香族炭化水素から選ばれる一種以上である上記(1)〜(6)に記載のオレフィン類重合用遷移金属含有固体触媒、
(8)(a)マグネシウム化合物と、(b)遷移金属化合物と、(c)酸素原子と化学結合を形成してなる炭素原子を有する電子供与体とを接触させてなるオレフィン類重合用遷移金属含有固体触媒の性能評価方法であって、
固体核磁気共鳴装置により、磁場強度7テスラ以上、回転速度6kHz以上の条件下で前記オレフィン類重合用遷移金属含有固体触媒の13C核磁気共鳴スペクトルを得、
次いで、テトラメチルシランに由来する信号位置をケミカルシフト0ppmとしたときに、前記酸素原子と化学結合を形成してなる炭素原子の原子核に由来するケミカルシフト値165ppm〜175ppmに現れる信号またはケミカルシフト値60ppm〜80ppmに現れる信号のいずれかの積分強度に対する、ケミカルシフト値90ppm〜100ppmに現れる信号の積分強度の比を得、
得られた積分強度の比の大小により触媒性能を評価する
ことを特徴とするオレフィン類重合用遷移金属含有固体触媒の性能評価方法、
を提供するものである。
なお、以下、適宜、(c)酸素原子と化学結合を形成してなる炭素原子を有する電子供与体を「電子供与体」と称し、また、オレフィン類重合用遷移金属含有固体触媒を、「遷移金属含有固体触媒」と称するものとする。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、耐衝撃性が求められる用途に適した立体規則性を有するオレフィン重合物を作製し得る新規なオレフィン類重合用遷移金属含有固体触媒を提供することができる。また、本発明によれば、オレフィン類重合用遷移金属含有触媒の触媒性能を、重合体を得ることなく簡便かつ低コストに測定可能な、新規な評価方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明に係る遷移金属含有固体触媒の13C固体核磁気共鳴スペクトルである。
【図2】比較遷移金属含有固体触媒の13C固体核磁気共鳴スペクトルである。
【図3】本発明に係る遷移金属含有固体触媒の核磁気共鳴スペクトルから得られる積分強度比に対する、遷移金属含有固体触媒から得られる重合物のキシレン可溶分の値をプロットした図である。
【図4】本発明に係る遷移金属含有固体触媒のケミカルシフト値90〜100ppmに現れる信号に由来する13Cの原子核の緩和時間に対する、遷移金属含有固体触媒から得られる重合物のキシレン可溶分の値をプロットした図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
先ず、本発明の遷移金属含有固体触媒について説明する。
本発明の遷移金属含有固体触媒は、(a)マグネシウム化合物と、(b)遷移金属化合物と、(c)酸素原子と化学結合を形成してなる炭素原子を有する電子供与体とを、(d)20℃で液体である不活性有機溶媒の存在下において、前記(c)電子供与体の量が、前記(a)マグネシウム化合物の量に対してモル比で0.001以上0.1以下となるように接触させてなることを特徴とするものである。
【0018】
本発明の遷移金属含有固体触媒において、(a)マグネシウム化合物としては、例えば、下記一般式(I)
MgX(OR2−n (I)
(式中Xはハロゲン原子、Rは炭素数1〜8の直鎖状または分岐鎖状のアルキル基、nは0〜2の整数であり、Rが複数存在する場合、各Rは同一であっても異なっていてもよく、またXが複数存在する場合、各Xは同一であっても異なっていてもよい。)
で表される固体状のマグネシウム化合物が挙げられる。
【0019】
一般式(I)で表わされるマグネシウム化合物において、ハロゲン原子Xとしては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子が挙げられる。
【0020】
一般式(I)で表わされるマグネシウム化合物において、Rは、炭素数1〜8の直鎖状または分岐状のアルキル基であって、炭素数が1〜6のアルキル基であることが好ましく、炭素数が1〜4のアルキル基であることがより好ましい。
【0021】
一般式(I)で表わされるマグネシウム化合物において、Rの具体例としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、t−ブチル基、n−ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、n−ヘキシル基、イソヘキシル基、2,2−ジメチルヘキシル基等を挙げることができる。
【0022】
一般式(I)で表わされるマグネシウム化合物としては、具体的には、塩化マグネシウム、臭化マグネシウム、沃化マグネシウム、弗化マグネシウム等のハロゲン化マグネシウム、メトキシ塩化マグネシウム、エトキシ塩化マグネシウム、n−プロポキシ塩化マグネシウム、n−ブトキシ塩化マグネシウム等のアルコキシマグネシウムハライド、フェノキシ塩化マグネシウム、メチルフェノキシ塩化マグネシウム等のアリールオキシマグネシウムハライド等が挙げられる。
【0023】
また、一般式(I)で表わされるマグネシウム化合物としては、具体的には、ジメトキシマグネシウム、ジエトキシマグネシウム、ジイソプロポキシマグネシウム、ジイソブトキシマグネシウム、ジ(n−オクトキシ)マグネシウム、ジ(2−エチルヘキソキシ)マグネシウム、メトキシエトキシマグネシウム、エトキシプロポキシマグネシウム、エトキシブトキシマグネシウム等のジアルコキシマグネシウム、ジフェノキシマグネシウム、ジ(メチルフェノキシ)マグネシウム等のジアリールオキシマグネシウム、ラウリン酸マグネシウム、ステアリン酸マグネシウム等のカルボン酸マグネシウム等を挙げることができる。
【0024】
一般式(I)で表わされるマグネシウム化合物のうち、好適な化合物としては、ジメトキシマグネシウム、メトキシクロロマグネシウム、ジエトキシマグネシウム、エトキシクロロマグネシウム、ジプロポキシマグネシウム、プロポキシクロロマグネシウム、ジブトキシマグネシウム、ブトキシクロロマグネシウム、ジフェノキシマグネシウム、フェノキシクロロマグネシウム等が挙げられ、中でも塩化マグネシウム、イソプロポキシ塩化マグネシウム、ブトキシ塩化マグネシウム、エトキシ塩化マグネシウム、ジエトキシマグネシウム、ジイソプロポキシマグネシウム、メトキシエトキシマグネシウム、エトキシプロポキシマグネシウム、ステアリン酸マグネシウムが好ましく、塩化マグネシウム、エトキシ塩化マグネシウム、ジエトキシマグネシウムが特に好ましい。
【0025】
一般式(I)で表わされるマグネシウム化合物において、nは0〜2の整数であり、1〜2の整数であることが好ましい。
一般式(I)で表わされるマグネシウム化合物は単独で用いてもよいし、2種以上併用してもよい。
【0026】
本発明の遷移金属含有固体触媒において、(a)マグネシウム化合物の平均粒径は、レーザー光散乱回折法粒度測定機を用いて測定したときの、平均粒子径D50(体積積算粒度分布における積算粒度で50%の粒径)で1〜200μmが好ましく、5〜150μmがより好ましく、10〜60μmがさらに好ましい。
また、(a)マグネシウム化合物の粒度は、微粉および粗粉が少ない粒度分布の狭いものが望ましく、具体的には、レーザー光散乱回折法粒度測定機を用いて測定したときに、5μm以下の粒子数が全粒子の20%以下であることが好ましく、10%以下であることがより好ましい。
【0027】
本発明の遷移金属含有固体触媒において、(a)マグネシウム化合物のBET比表面積は、5〜100m/gが好ましく、10〜80m/gがより好ましく、20〜50m/gがさらに好ましい。
【0028】
本発明の遷移金属含有固体触媒において、(a)マグネシウム化合物の形状は任意であるが、球状、楕円断面形状あるいは馬鈴薯形状のものを用いることが望ましい。
【0029】
本発明の遷移金属含有固体触媒において、(b)遷移金属化合物を構成する遷移金属としては、第一遷移元素(3d遷移元素)、第二遷移元素(4d遷移元素)、第三遷移元素(4f遷移元素)および第四遷移金属元素の中で、核スピン量子数Iが1/2であるか、または1超である原子核を有するものから選ばれる1種以上を挙げることができる。
具体的には、チタン、ジルコニウム、ハフニウム、鉄、ニッケル、コバルト、マンガン、クロムなどから選ばれる一種以上が挙げられるが、特に好ましくはチタンを挙げることができる。
【0030】
本発明の遷移金属含有固体触媒において、(b)遷移金属化合物としては、例えば、下記一般式(II)
TiY(OR4−m (II)
(式中Yはハロゲン原子、Rは炭素数1〜7の直鎖状または分岐鎖状のアルキル基、mは1〜4の整数であり、Rが複数存在する場合、各Rは同一であっても異なっていてもよく、またYが複数存在する場合、各Yは同一であっても異なっていてもよい。)
で表される四価のチタン化合物を挙げることができる。
【0031】
一般式(II)で表わされるチタン化合物において、ハロゲン原子Xとしては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子が挙げられる。
【0032】
一般式(II)で表わされるチタン化合物において、Rは、炭素数1〜7の直鎖状または分岐状のアルキル基であって、炭素数が1〜5のアルキル基であることが好ましく、炭素数が1〜4のアルキル基であることがより好ましい。
【0033】
一般式(II)で表わされるチタン化合物において、Rの具体例としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、t−ブチル基、n−ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、n−ヘキシル基、イソヘキシル基等を挙げることができる。
【0034】
一般式(II)で表わされるチタン化合物として、具体的には、四塩化チタン、四臭化チタン、四ヨウ化チタン等の四ハロゲン化チタンや、メトキシチタントリクロライド、エトキシチタントリクロライド、プロポキシチタントリクロライド、ブトキシチタントリクロライド、ジメトキシチタンジクロライド、ジエトキシチタンジクロライド、ジプロポキシチタンジクロライド、ジブトキシチタンジクロライド、トリメトキシチタンクロライド、エトキシチタントリクロライド、トリプロポキシチタンクロライド、トリブトキシチタンクロライド等のアルコキシチタンハライド等が挙げられる。
【0035】
一般式(II)で表わされるチタン化合物としては、四ハロゲン化チタンが好ましく、中でも四塩化チタンが特に好ましい。
【0036】
一般式(II)で表わされるチタン化合物において、mは1〜4の整数であり、2〜4であることが好ましい。
【0037】
一般式(II)で表わされるチタン化合物は単独で用いてもよいし、2種以上併用してもよい。
さらに、一般式(II)で表わされるチタン化合物は、炭化水素化合物あるいはハロゲン化炭化水素化合物で希釈されてなるものであってもよい。
【0038】
本発明の遷移金属含有固体触媒において、(c)酸素原子と化学結合を形成してなる炭素原子を有する電子供与体、すなわち、C=O結合およびC−O結合から選ばれる少なくとも一つの結合を形成してなる炭素原子を有する電子供与体としては、例えば、エステル類、ケトン類、アルデヒド類、イソシアネート類、エーテル類、アルコール類、フェノール類、酸ハライド類、Si−O−C結合を含む有機ケイ素化合物等が挙げられる。
【0039】
このような(c)電子供与体としては、下記一般式(III)
−C(=O)OR(III)
(Rは、ヘテロ原子を含んでもよい炭素数1〜10の直鎖状または分岐鎖状炭化水素基)
で表されるカルボニル基または下記一般式(IV)
−C−OR(IV)
(Rは、ヘテロ原子を含んでもよい炭素数1〜10の直鎖状または分岐鎖状炭化水素基)
で表されるエーテル基
から選ばれる一種以上を有するものが挙げられる。
【0040】
一般式(III)で表わされるカルボニル基において、Rは、ヘテロ原子を含んでもよく、ヘテロ原子としては、窒素原子、酸素原子、硫黄原子等を挙げることができる。
また、Rは、炭素数1〜10の直鎖状または分岐鎖状炭化水素基であり、炭素数1〜8の直鎖状または分岐鎖状炭化水素基であることが好ましく、炭素数1〜7の直鎖状または分岐鎖状炭化水素基であることがより好ましい。
【0041】
一般式(IV)で表わされるエーテル基において、Rは、ヘテロ原子を含んでもよく、ヘテロ原子としては、窒素原子、酸素原子、硫黄原子等を挙げることができる。
また、Rは、炭素数1〜10の直鎖状または分岐鎖状炭化水素基であり、炭素数1〜8の直鎖状または分岐鎖状炭化水素基であることが好ましく、炭素数1〜7の直鎖状または分岐鎖状炭化水素基であることがより好ましい。
【0042】
本発明の遷移金属含有固体触媒において、(c)電子供与体として用いられるエステル類としては、例えば、脂肪族カルボン酸エステルや、芳香族カルボン酸エステルから選ばれる一種以上を挙げることができる。
(c)電子供与体として用いられるエステル類として、具体的には、以下に示すモノカルボン酸エステル化合物やジカルボン酸エステル化合物を挙げることができる。
【0043】
モノカルボン酸エステル化合物としては、ギ酸メチル、酢酸エチル、酢酸ビニル、酢酸プロピル、酢酸オクチル、酢酸シクロヘキシル、プロピオン酸エチル、酪酸エチル等の低分子カルボン酸エステルや、
安息香酸メチル、安息香酸エチル、安息香酸プロピル、安息香酸ブチル、安息香酸オクチル、安息香酸シクロヘキシル、安息香酸フェニル、p−メトキシ安息香酸エチル、p−エトキシ安息香酸エチル等の安息香酸エステルや、p−トルイル酸メチル、p−トルイル酸エチル、等のp−トルイル酸エステルや、アニス酸メチル、アニス酸エチル等のアニス酸エステル等を挙げることができる。
【0044】
また、ジカルボン酸エステル化合物としては、ジカルボン酸ジエステル、脂環式ジカルボン酸エステルおよび、芳香族ジカルボン酸エステル等を挙げることができる。
【0045】
ジカルボン酸ジエステルとしては、マレイン酸ジエチル、マレイン酸ジ−n−ブチル等のマレイン酸ジエステルや、コハク酸ジエチル、コハク酸ジ−n−プロピル、コハク酸ジイソプロピル、コハク酸ジイソブチル、コハク酸エチル−n−ブチル等のコハク酸ジエステルや、マロン酸ジメチル、ジメチルマロン酸ジエチル、ジエチルマロン酸ジ−n−ブチル、ジ−n−プロピルマロン酸ジエチル、ジイソプロピルマロン酸ジエチル、ジ−n−ブチルマロン酸ジエチル、ジイソブチルマロン酸ジメチル、ジイソブチルマロン酸ジエチル、ジ−sec−ブチルマロン酸ジエチル、ジイソブチルマロン酸エチルブチル、メチルイソブチルマロン酸ジメチル、メチルネオペンチルマロン酸ジエチル等のマロン酸ジエステルや、グルタル酸ジメチル、グルタル酸ジエチル、グルタル酸ジイソプロピル、グルタル酸ジ−n−ブチル、グルタル酸ジイソブチル等のグルタル酸ジエステルや、アジピン酸ジメチル、アジピン酸ジエチル、アジピン酸ジプロピル、アジピン酸ジブチル、アジピン酸ジオクチル、アジピン酸ジイソデシル等のアジピン酸ジエステル等が挙げられる。
【0046】
また、脂環式ジカルボン酸エステルとしては、シクロペンタン−1,2−ジカルボン酸ジエチル、シクロペンタン−1,2−ジカルボン酸ジイソブチル、シクロへキサン−1,2−ジカルボン酸ジエチル、シクロへキサン−1,2−ジカルボン酸ジ−n−ブチル、シクロへキサン−1,3−ジカルボン酸ジエチル、シクロヘプタン−1,2−ジカルボン酸ジエチル、シクロヘプタン−1,2−ジカルボン酸ジイソブチル、シクロオクタン−1,2−ジカルボン酸ジエチル、等の飽和脂環式ジカルボン酸ジエステルや、3−シクロペンテン−1,2−ジカルボン酸ジエチル、3−シクロペンテン−1,3−ジカルボン酸ジエチル、4−シクロへキセン−1,2−ジカルボン酸ジエチル、4−シクロへキセン−1,3−ジカルボン酸ジエチル、(1−シクロへキセン−1,2−ジカルボン酸ジ−n−ブチル、1−シクロヘキセン−1,2−ジカルボン酸ジ−n−ヘキシル、1−シクロヘキセン−1,2−ジカルボン酸ジ−n−オクチル、)4−シクロヘプテン−1,2−ジカルボン酸ジエチル、1−シクロヘプテン−1,2−ジカルボン酸ジエチル、4−シクロヘプテン−1,3−ジカルボン酸ジエチル、5−シクロオクテン−1,2−ジカルボン酸ジエチル、1−シクロオクテン−1,2−ジカルボン酸ジエチル等の不飽和脂環式ジカルボン酸エステルや、3−メチルシクロへキサン−1,2−ジカルボン酸ジエチル、4−メチルシクロへキサン−1,3−ジカルボン酸ジエチル、3,4−ジメチルシクロへキサン−1,2−ジカルボン酸ジ−n−プロピル、3,6−ジメチルシクロへキサン−1,2−ジカルボン酸ジエチル、3,6−ジメチルシクロへキサン−1,2−ジカルボン酸ジイソブチル、3,6−ジフェニルシクロへキサン−1,2−ジカルボン酸ジエチル、3−メチル−6−エチルシクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸ジエチル、3−メチル−6−エチルシクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸ジイソブチル、3−メチル−6−n−プロピルシクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸ジエチル、3−メチル−6−n−プロピルシクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸ジイソブチル、3−ヘキシルシクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸ジエチル、3,6−ジヘキシルシクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸ジエチル、3−ヘキシル−6−ペンチルシクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸ジイソブチル、3−メチルシクロペンタン−1,2−ジカルボン酸ジイソブチル、4−メチルシクロペンタン−1,3−ジカルボン酸ジイソブチル、4−メチルシクロペンタン−1,2−ジカルボン酸ジイソブチル、5−メチルシクロペンタン−1,3−ジカルボン酸ジイソブチル、3,4−ジメチルシクロペンタン−1,2−ジカルボン酸ジエチル、3,5−ジメチルシクロペンタン−1,2−ジカルボン酸ジエチル、3−ヘキシルシクロペンタン−1,2−ジカルボン酸ジエチル、3,5−ジシクロヘキシルシクロペンタン−1,2−ジカルボン酸ジエチル、3−ヘキシル−5−ペンチルシクロペンタン−1,2−ジカルボン酸ジイソブチル、3−メチル−5−n−プロピルシクロペンタン−1,2−ジカルボン酸ジエチル、3−メチルシクロヘプタン−1,2−ジカルボン酸ジエチル、4−メチルシクロヘプタン−1,3−ジカルボン酸ジエチル、4−メチルシクロヘプタン−1,2−ジカルボン酸ジエチル、5−メチルシクロヘプタン−1,3−ジカルボン酸ジエチル、3,4−ジメチルシクロヘプタン−1,2−ジカルボン酸ジエチル、3,7−ジメチルシクロヘプタン−1,2−ジカルボン酸ジエチル、3−ヘキシルシクロヘプタン−1,2−ジカルボン酸ジエチル、3,7−ジヘキシルシクロヘプタン−1,2−ジカルボン酸ジエチル、3−ヘキシル−7−ペンチルシクロヘプタン−1,2−ジカルボン酸ジイソブチル、3−メチル−7−n−プロピルシクロヘプタン−1,2−ジカルボン酸ジエチル、3−メチルシクロオクタン−1,2−ジカルボン酸ジエチル、3−メチルシクロデカン−1,2−ジカルボン酸ジエチル、3−ビニルシクロへキサン−1,2−ジカルボン酸ジイソブチル、3,6−ジフェニルシクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸ジイソブチル、3,6−ジシクロヘキシルシクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸ジエチル、ノルボルナン−2,3−ジカルボン酸ジイソブチル、テトラシクロデカン−2,3−ジカルボン酸ジイソブチル、3,6−ジエチルシクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸ジイソブチル、3,6−ジエチルシクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸ジ−n−ヘキシル、3,6−ジエチルシクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸ジ−n−オクチル等のアルキル置換飽和脂環式ジカルボン酸ジエステルや、3−メチル−4−シクロへキセン−1,2−ジカルボン酸ジエチル、4−メチル−4−シクロへキセン−1,3−ジカルボン酸ジブチル、4−メチル−4−シクロへキセン−1,2−ジカルボン酸ジエチル、5−メチル−4−シクロへキセン−1,3−ジカルボン酸ジブチル、3,4−ジメチル−4−シクロへキセン−1,2−ジカルボン酸ジエチル、3,6−ジメチル−4−シクロへキセン−1,2−ジカルボン酸ジエチル、3−ヘキシル−4−シクロへキセン−1,2−ジカルボン酸ジエチル、3,6−ジヘキシル−4−シクロへキセン−1,2−ジカルボン酸ジエチル、3−ヘキシル−6−ペンチル−4−シクロへキセン−1,2−ジカルボン酸ジイソブチル、3−メチル−3−シクロペンテン−1,2−ジカルボン酸ジエチル、4−メチル−3−シクロペンテン−1,3−ジカルボン酸ジエチル、4−メチル−3−シクロペンテン−1,2−ジカルボン酸ジエチル、5−メチル−3−シクロペンテン−1,3−ジカルボン酸ジエチル、3,4−ジメチル−3−シクロペンテン−1,2−ジカルボン酸ジエチル、3,5−ジメチル−3−シクロペンテン−1,2−ジカルボン酸ジエチル、3−ヘキシル−3−シクロペンテン−1,2−ジカルボン酸ジエチル、3,5−ジヘキシル−3−シクロペンテン−1,2−ジカルボン酸ジエチル、3−ヘキシル−5−ペンチル−3−シクロペンテン−1,2−ジカルボン酸ジイソブチル、3−メチル−4−シクロヘプテン−1,2−ジカルボン酸ジエチル、4−メチル−4−シクロヘプテン−1,3−ジカルボン酸ジエチル、4−メチル−4−シクロヘプテン−1,2−ジカルボン酸ジエチル、5−メチル−4−シクロヘプテン−1,3−ジカルボン酸ジエチル等のアルキル置換不飽和脂環式ジカルボン酸ジエステル等が挙げられる。
【0047】
また、芳香族ジカルボン酸エステルとしては、フタル酸ジエステルや、置換フタル酸ジエステル等が挙げられる。
【0048】
本発明の遷移金属含有固体触媒において、(c)電子供与体として用いられるケトン類としては、アセトン、メチルエチルケトン、メチルブチルケトン、アセトフェノン、ベンゾフェノン等を挙げることができる。
【0049】
本発明の遷移金属含有固体触媒において、(c)電子供与体として用いられるアルデヒド類としては、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド、オクチルアルデヒド、ベンズアルデヒド等を挙げることができる。
【0050】
本発明の遷移金属含有固体触媒において、(c)電子供与体として用いられるイソシアネート類としては、イソシアン酸メチル、イソシアン酸エチル等を挙げることができる。
【0051】
本発明の遷移金属含有固体触媒において、(c)電子供与体として用いられるエーテル類としては、メチルエーテル、エチルエーテル、プロピルエーテル、ブチルエーテル、フェニルエーテル、アミルエーテル等のモノエーテル類や、ジフェニルエーテル、9,9−ビス(メトキシメチル)フルオレン、2−イソプロピル−2−イソペンチル−1,3−ジメトキシプロパン、2−イソプロピル−1,3−ジメトキシプロパン、2−s−ブチル−1,3−ジメトキシプロパン、2−クミル−1,3−ジメトキシプロパン、2−イソプロピル−2−イソブチル−1,3−ジメトキシプロパン、2,2−ジシクロヘキシル−1,3−ジメトキシプロパン、2−メチル−2−イソプロピル−1,3−ジメトキシプロパン、2−メチル−2−シクロヘキシル−1,3−ジメトキシプロパン、2−メチル−2−イソブチル−1,3−ジメトキシプロパン、2,2−ジイソブチル−1,3−ジメトキシプロパン、2,2−ジ(シクロヘキシルメチル)−1,3−ジメトキシプロパン、2,2−ジイソブチル−1,3−ジエトキシプロパン、2,2−ジイソブチル−1,3−ジブトキシプロパン、2,2−ジ−s−ブチル−1,3−ジメトキシプロパン、2,2−ジネオペンチル−1,3−ジメトキシプロパン、2−シクロヘキシル−2−シクロヘキシルメチル−1,3−ジメトキシプロパン、2,3−ジシクロヘキシル−1,4−ジエトキシブタン、2,3−ジイソプロピル−1,4−ジエトキシブタン、2,4−ジフェニル−1,5−ジメトキシペンタン、2,5−ジフェニル−1,5−ジメトキシへキサン、2,4−ジイソプロピル−1,5−ジメトキシペンタン、2,4−ジイソブチル−1,5−ジメトキシペンタン、2,4−ジイソアミル−1,5−ジメトキシペンタン、2−メチル−2−メトキシメチル−1,3−ジメトキシプロパン、2−シクロヘキシル−2−エトキシメチル−1,3−ジメトキシプロパン、2−シクロヘキシル−2−メトキシメチル−1,3−ジメトキシプロパン等のジエーテル類を挙げることができる。
【0052】
本発明の遷移金属含有固体触媒において、(c)電子供与体として用いられるアルコール類としては、メタノール、エタノール、n−プロパノール、2−エチルヘキサノール等を挙げることができる。
【0053】
本発明の遷移金属含有固体触媒において、(c)電子供与体として用いられるフェノール類としてはフェノール、クレゾール等のフェノール類を挙げることができる。
【0054】
本発明の遷移金属含有固体触媒において、(c)電子供与体として用いられる酸ハライド類としては、フタル酸ジクロライド、テレフタル酸ジクロライド等を挙げることができる。
【0055】
また、本発明の遷移金属含有固体触媒において、(c)電子供与体として用いられるSi−O−C結合を含む有機ケイ素化合物としては、下記一般式(V)
Si(OR4−q (V)
(式中、Rは炭素数1〜12であるアルキル基、シクロアルキル基、フェニル基、ビニル基、アリル基またはアラルキル基のいずれかであって、Rが複数存在する場合にはそれぞれ同一であっても異なっていてもよく、Rは炭素数1〜4のアルキル基、シクロアルキル基、フェニル基、ビニル基、アリル基またはアラルキル基のいずれかであって、Rが複数存在する場合にはそれぞれ同一であっても異なっていてもよく、qは0〜3の整数である。)で表される化合物を挙げることができる。
【0056】
このような有機ケイ素化合物としては、フェニルトリメトキシシラン等のフェニルアルコキシシランや、t−ブチルメチルジメトキシシラン、t−ブチルエチルジメトキシシラン、ジイソペンチルジメトキシシラン等のアルキルアルコキシシランや、フェニルアルキルアルコキシシラン、ジシクロペンチルジメトキシシラン等のシクロアルキルアルコキシシランや、シクロヘキシルメチルジメトキシシラン等のシクロアルキルアルキルアルコキシシランや、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン等のテトラアルコキシシラン等から選ばれる一種以上が挙げられる。
【0057】
また、有機ケイ素化合物としては、下記一般式(VI)
(RN)SiR4−n (VI)
(式中、RとRは水素原子、炭素数1〜20の直鎖または分岐状アルキル基、ビニル基、アリル基、アラルキル基、炭素数3〜20のシクロアルキル基、アリール基、およびそれらの誘導体であり、RとRは同一でも異なってもよく、RとRが互いに結合して環を形成してもよい。Rは炭素数1〜20の直鎖または分岐状アルキル基、ビニル基、アリル基、アラルキル基、炭素数1〜20の直鎖または分岐状アルコキシ基、ビニルオキシ基、アリロキシ基、炭素数3〜20のシクロアルキル基、アリール基、アリールオキシ基、およびそれらの誘導体を示し、Rが複数ある場合、複数のRは同一でも異なってもよい。nは1から3の整数である。)で表されるアミノシラン化合物等から選ばれる一種以上が挙げられる。
【0058】
有機ケイ素化合物のうち、好適なものとしては、フェニルトリメトキシシラン、t−ブチルトリメトキシシラン、ジイソプロピルジメトキシシラン、ジイソペンチルジメトキシシラン、ビス(2−エチルヘキシル)ジメトキシシラン、t−ブチルメチルジメトキシシラン、t−ブチルエチルジメトキシシラン、ジシクロペンチルジメトキシシラン、ジシクロヘキシルジメトキシシラン、シクロヘキシルシクロペンチルジメトキシシラン、シクロヘキシルメチルジメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラブトキシシラン、ジアリルジメチルシラン、ジアリルジビニルシラン、ジアリルジクロロシラン、ジビニルジメチルシラン、ビス(エチルアミノ)メチルエチルシラン、t−ブチルメチルビス(エチルアミノ)シラン、ビス(エチルアミノ)ジシクロヘキシルシラン、ジシクロペンチルビス(エチルアミノ)シラン、ビス(メチルアミノ)(メチルシクロペンチルアミノ)メチルシラン、ジエチルアミノトリエトキシシラン、ビス(シクロヘキシルアミノ)ジメトキシシラン、ビス(パーヒドロイソキノリノ)ジメトキシシラン、ビス(パーヒドロキノリノ)ジメトキシシラン、エチル(イソキノリノ)ジメトキシシラン等から選ばれる一種以上を挙げることができる。
【0059】
また、有機ケイ素化合物のうち、より好適なものとしては、フェニルトリメトキシシラン、t−ブチルメチルジメトキシシラン、ジイソペンチルジメトキシシラン、シクロヘキシルメチルジメトキシシラン、ジシクロペンチルジメトキシシラン、テトラエトキシシラン、t−ブチルメチルビス(エチルアミノ)シラン、ビス(エチルアミノ)ジシクロヘキシルシラン、ジシクロペンチルビス(エチルアミノ)シラン、ビス(パーヒドロイソキノリノ)ジメトキシシラン等から選ばれる一種以上を挙げることができる。
【0060】
上記(c)電子供与体のうち、安息香酸エチル、p−トルイル酸メチル、p−トルイル酸エチル、p−エトキシ安息香酸エチル、アニス酸エチル等のモノカルボン酸エステル、またはマロン酸ジエステル、マレイン酸ジエステル、コハク酸ジエステル等のジカルボン酸ジエステル化合物、フタル酸ジエステル、置換フタル酸ジエステル等の芳香族ジカルボン酸ジエステル化合物や、Si−O−C結合を含む有機ケイ素化合物等が、好ましく用いられる。
【0061】
フタル酸ジエステルの具体例としては、下記一般式(VII)
(C)(COOR10)(COOR11) (VII)
(式中、RおよびRは炭素数1〜12のアルキル基を示し、R10とR11は同一であっても異なってもよい。)
で表されるものを挙げることができる。
【0062】
一般式(VII)で表わされるフタル酸ジエステルとして、具体的には、フタル酸ジメチル、フタル酸ジエチル、フタル酸ジ−n−プロピル、フタル酸ジ−イソプロピル、フタル酸ジ−n−ブチル、フタル酸ジ−イソブチル、フタル酸エチルメチル、フタル酸メチル(イソプロピル)、フタル酸エチル(n−プロピル)、フタル酸エチル(n−ブチル)、フタル酸エチル(イソブチル)、フタル酸ジ−n−ペンチル、フタル酸ジ−イソペンチル、フタル酸ジ−ネオペンチル、フタル酸ジヘキシル、フタル酸ジ−n−ヘプチル、フタル酸ジ−n−オクチル、フタル酸ビス(2,2−ジメチルへキシル)、フタル酸ビス(2−エチルヘキシル)、フタル酸ジ−n−ノニル、フタル酸ジ−イソデシル、フタル酸ビス(2,2−ジメチルヘプチル)、フタル酸n−ブチル(イソヘキシル)、フタル酸n−ブチル(2−エチルヘキシル)、フタル酸n−ペンチルへキシル、フタル酸n−ペンチル(イソヘキシル)、フタル酸イソペンチル(ヘプチル)、フタル酸n−ペンチル(2−エチルヘキシル)、フタル酸n−ペンチル(イソノニル)、フタル酸イソペンチル(n−デシル)、フタル酸n−ペンチル(ウンデシル)、フタル酸イソペンチル(イソヘキシル)、フタル酸n−ヘキシル(2,2−ジメチルへキシル)、フタル酸n−ヘキシル(2−エチルヘキシル)、フタル酸n−ヘキシル(イソノニル)、フタル酸n−ヘキシル(n−デシル)、フタル酸n−ヘプチル(2−エチルヘキシル)、フタル酸n−ヘプチル(イソノニル)、フタル酸n−ヘプチル(ネオデシル)、フタル酸2−エチルヘキシル(イソノニル)から選ばれる1種以上を挙げることができる。
【0063】
また、置換フタル酸ジエステルの具体例としては、下記一般式(VIII)
12(C4−i)(COOR13)(COOR14) (VIII)
(式中、R12は炭素数1〜8のアルキル基またはハロゲン原子を示し、R13およびR14は炭素数1〜12のアルキル基を示し、R13とR14は同一であっても異なってもよく、iは1または2の整数である。)
で表されるものを挙げることができる。
【0064】
上記一般式(VIII)で表わされる置換フタル酸ジエステルにおいて、Rが炭素数1〜8のアルキル基である場合の具体例としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、t−ブチル基、n−ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、n−ヘキシル基、イソヘキシル基、2,2−ジメチルブチル基、2,2−ジメチルペンチル基、イソオクチル基、2,2−ジメチルへキシル基であり、Rがハロゲン原子である場合の具体例としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子を挙げることができる。
はメチル基、臭素原子または塩素原子であることが好ましく、メチル基または臭素原子であることがより好ましい。
【0065】
また、iは1または2の整数であり、iが2のとき、2つのRは同一であっても異なってもよい。
【0066】
iが1の場合、R12が上記一般式(VIII)で表わされる置換フタル酸ジエステルの3位、4位、5位または6位の位置の水素原子と置換してなるものが好ましく、iが2の場合、Rは4位および5位の位置の水素原子と置換してなるものが好ましい。
【0067】
上記一般式(VIII)で表わされる置換フタル酸ジエステルにおいて、R10およびR11としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、t−ブチル基、n−ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、n−ヘキシル基、イソヘキシル基、2,2−ジメチルブチル基、2,2−ジメチルペンチル基、またはイソオクチル基、2,2−ジメチルへキシル基、n−ノニル基、イソノニル基、n−デシル基、イソデシル基、n−ドデシル基である。この中でもエチル基、n−ブチル基、イソブチル基、t−ブチル基、ネオペンチル基、イソヘキシル基、イソオクチル基が好ましく、エチル基、n−ブチル基、ネオペンチル基が特に好ましい。
【0068】
上記一般式(VIII)で表される置換フタル酸ジエステルとしては、例えば、4−メチルフタル酸ジエチル、4−メチルフタル酸ジ−n−ブチル、4−メチルフタル酸ジイソブチル、4−ブロモフタル酸ジネオペンチル、4−ブロモフタル酸ジエチル、4−ブロモフタル酸ジ−n−ブチル、4−ブロモフタル酸ジイソブチル、4−メチルフタル酸ジネオペンチル、4,5−ジメチルフタル酸ジネオペンチル、4−エチルフタル酸ジネオペンチル、4−メチルフタル酸−t−ブチルネオペンチル、4−エチルフタル酸−t−ブチルネオペンチル、4,5−ジエチルフタル酸ジネオペンチル、4,5−ジメチルフタル酸−t−ブチルネオペンチル、4,5−ジエチルフタル酸−t−ブチルネオペンチル、3−フルオロフタル酸ジネオペンチル、3−クロロフタル酸ジネオペンチル、4−クロロフタル酸ジネオペンチル、4−ブロモフタル酸ジネオペンチルから選ばれる1種以上が挙げられる。
【0069】
上記のエステル類を2種以上組み合わせて用いる場合、使用する各エステルのアルキル基の炭素数をそれぞれ合計したときに、最も大きなアルキル基の炭素数と最も小さなアルキル基の炭素数の差が4以上になるようにエステル類を組み合わせることが望ましい。
【0070】
本発明の遷移金属含有固体触媒において、オレフィン類重合用遷移金属含有触媒は、上述したように、(a)マグネシウム化合物と、(b)遷移金属化合物と、(c)電子供与体とを接触させてなるものであり、上記成分以外に、塩素、ヨウ素などのハロゲン原子、アルミニウム、ケイ素等を含んでもよい。
【0071】
また、本発明の遷移金属含有固体触媒としては、例えば、シリカ、塩化マグネシウム、マグネシウムジアルコキシド等を担体とし、これにジルコニウム、チタンなどの遷移金属と、電子供与体とを担持した固体状のものや、上記担体に、上記遷移金属化合物と電子供与体からなる錯体を担持した固体状のものや、さらにアルミニウム化合物および必要に応じてケイ素化合物等を担持して予備活性化処理した固体状のオレフィン重合触媒や、或いは、これらの固体状の触媒を担体として予備的に少量のオレフィン類を担持した固体状の予備重合触媒を挙げることができる。
経済的かつ簡便に後述する固体核磁気共鳴スペクトルを得る上では、上記予備活性化処理や予備的な重合が行なわれる前の、遷移金属含有固体触媒(固体触媒成分)が好ましい。
【0072】
本発明の遷移金属含有固体触媒は、(d)20℃で液体である不活性有機溶媒の存在下において、上記(c)電子供与体の量を、上記(a)マグネシウム化合物の量に対してモル比で0.001以上0.1以下となるように接触させてなるものである。
【0073】
上記不活性有機溶媒は、20℃で液体であるとともに沸点が50℃〜180℃であるものが好ましい。
【0074】
(d)20℃で液体である不活性有機溶媒または20℃で液体であるとともに沸点が50℃〜180℃である不活性有機溶媒としては、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカン、イソオクタン、シクロペンタン、シクロヘキサン、エチルシクロヘキサンなどの飽和炭化水素化合物、ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼンなどの芳香族炭化水素化合物、塩化メチレン、o−ジクロロベンゼンなどのハロゲン化炭化水素化合物が挙げられる。
これらの中でもヘキサン、ヘプタン、エチルシクロヘキサンなどの飽和炭化水素および、トルエン、キシレン、エチルベンゼンなどの芳香族炭化水素化合物が好適である。これらの化合物は単独で用いることも、2種以上併用することもできる。
【0075】
本発明の遷移金属含有固体触媒において、(d)不活性有機溶媒が、20℃で液体であることにより接触時の取扱が容易となる。
また、(d)不活性有機溶媒が、沸点が50〜180℃であるものであることにより、反応系内の温度を高く維持でき、反応終了後、遷移金属含有固体触媒内部に残留している不純物を、効率よく溶出させ、系外へと容易に除去することができる。
また、本出願書類において、不活性有機溶媒とは、(a)マグネシウム化合物や、(b)遷移金属化合物や、(c)電子供与体等の本発明の遷移金属含有固体触媒の製造原料と反応性を有さない溶媒を意味するものとする。
【0076】
本発明の遷移金属含有固体触媒は、上記(d)20℃で液体である不活性有機溶媒の存在下において、上記(c)電子供与体の量を、上記(a)マグネシウム化合物の量に対してモル比で0.001以上0.1以下となるように接触させてなるものであり、上記(c)電子供与体の量を、上記(a)マグネシウム化合物の量に対してモル比で0.01以上0.1以下となるように接触させてなるものであることが好ましく、0.02以上0.1以下となるように接触させてなるものであることがより好ましい。
【0077】
本発明の遷移金属含有固体触媒は、(a)マグネシウム化合物の量に対する(c)電子供与体の量が0.001以上0.1以下となるように接触させてなるものであることにより、車のバンパーなど、耐衝撃性を要する用途に適した立体規則性を有するオレフィン重合物を容易に製造できる遷移金属含有固体触媒を得ることができる。
【0078】
本発明の遷移金属含有固体触媒を用いて、耐衝撃性を要する用途に適したオレフィン重合物を得ようとする場合、立体規則性の程度を表わす23℃におけるキシレン可溶分が、2〜10重量%である重合物が得られるものが適しており、上記キシレン可溶分が2〜5重量%である重合物が得られるものがより適しており、上記キシレン可溶分が2〜4重量%である重合物得られるものがさらに適している。
【0079】
なお、本出願書類において、キシレン可溶分とは、以下の方法により測定された値を意味する。
すなわち、本発明の遷移金属含有固体触媒を用いて得られるオレフィン4.0gを、200mlのp−キシレンとともに、還流装置と攪拌機を具備した500mlフラスコに装入し、外部温度をキシレンの沸点以上の温度とすることにより、p−キシレンの温度を沸点下(137〜138℃)に維持しつつ、攪拌下に2時間還流させて重合物を完全に溶解させた後、溶液を23℃に冷却して1時間保持し、次いで、不溶解成分と溶解成分とを濾過分別する。上記溶解成分の溶液を一定量採取し、加熱減圧乾燥によりp−キシレンを留去して得られた残留物の重量をオレフィン重合物に対する相対値(重量%)として求め、この値をキシレン可溶分(重量%)とする。
キシレン可溶分が高い程、得られる重合物の立体規則性が低く、キシレン可溶分が低い程、得られる重合物の立体規則性が高いことを示す。
【0080】
本発明の遷移金属含有固体触媒は、公知の方法により製造することができる。
本発明の遷移金属含有固体触媒が、マグネシウム、遷移金属及び電子供与体を含み、アルミニウム化合物やオレフィン類を含まない固体触媒成分である場合、例えば、マグネシウム化合物、チタン化合物および電子供与体を公知の方法で接触させることにより調製することができ、上記接触は、ケイ素、リン、アルミニウム等の他の反応試剤や不活性有機溶媒、界面活性剤の共存下に行ってもよい。
また、本発明の遷移金属含有固体触媒が、マグネシウム、遷移金属及び電子供与体を含むとともに、さらにアルミニウム化合物を含んでなるオレフィン重合触媒である場合、例えば上記マグネシウム化合物、チタン化合物および電子供与体よりなる固体触媒成分を、有機アルミニウム化合物と公知の方法で接触させ、予備活性化することによって調製することができる。
さらに、本発明の遷移金属含有固体触媒が、マグネシウム、遷移金属及び電子供与体を含むとともに、さらに予備的に重合された少量のオレフィン類を含んでなる予備重合触媒である場合、例えば、上記方法で得られたオレフィン重合触媒を、少量のオレフィン類と公知の方法で接触させることにより調製することができる。
【0081】
本発明の遷移金属含有固体触媒を作製する方法として、具体的には、以下の(1)〜(6)の方法を挙げることができる。
なお、以下の方法においては、遷移金属化合物としてチタン化合物を用いることを前提として記載しているが、他の遷移金属化合物についても同様に使用することができる。
【0082】
(1)還元性を有しない固体マグネシウム化合物、電子供与体およびチタン化合物を共粉砕する方法。より詳細には、以下の(1−1)〜(1−3)の方法が挙げられる。
【0083】
(1−1)マグネシウムハロゲン化物と、チタニウムアルコキシド類との共粉砕組成物に、電子供与体を加えて共粉砕した後、得られた固体組成物をチタンハロゲン化物と液相中または気相中で接触させ、次いで不活性有機溶剤で洗浄し、遷移金属含有固体触媒(固体触媒成分)を得る方法。
【0084】
(1−2)ステアリン酸マグネシウム、オレイン酸マグネシウム等の飽和または不飽和脂肪酸マグネシウム化合物と、電子供与体とを、ボールミル等を用いて共粉砕して得られる固体組成物を、チタンハロゲン化物と接触させてチタンを担持させ、不活性有機溶剤で洗浄することにより、遷移金属含有固体触媒(固体触媒成分)を得る方法。
【0085】
(1−3)マグネシウムハロゲン化物に、チタン化合物と電子供与体からなる固体状の錯体を加えて共粉砕した後、得られた固体組成物をチタンハロゲン化物と液相中または気相中で接触させ、次いで不活性有機溶剤で洗浄し、遷移金属含有固体触媒(固体触媒成分)を得る方法。
【0086】
(2)アルコール等の付加物を有するハロゲン化マグネシウム化合物、電子供与体およびチタン化合物を不活性炭化水素溶媒共存下、接触させる方法。より詳細には、以下の(2−1)〜(2−3)の方法が挙げられる。
【0087】
(2−1)塩化マグネシウムをテトラアルコキシチタンに溶解させ、ポリシロキサンを接触させ、固体成分を得た後、該固体成分に四塩化チタンを反応させ、次いでフタル酸ジエステルなどの電子供与体を接触反応させ、再度四塩化チタンを反応させて、遷移金属含有固体触媒(固体触媒成分)を調製する方法。
【0088】
(2−2)無水塩化マグネシウムおよびアルコールを反応させ、均一溶液とした後、この溶液に無水フタル酸を接触させる。次いでこの溶液に、四塩化チタンおよびフタル酸ジエステルなどの電子供与体を接触反応させ固体成分を得、該固体成分にさらに四塩化チタンを接触させ、遷移金属含有固体触媒(固体触媒成分)を調製する方法。
【0089】
(2−3)無水塩化マグネシウムおよびアルコールを反応させ、均一溶液とした後、この溶液をスプレードライまたは貧溶媒を用いた析出により固体成分を得る。次いでこの固体成分に、四塩化チタンおよびフタル酸ジエステルなどの電子供与体を接触反応させ、固体成分を得、該固体成分にさらに四塩化チタンを接触させ、遷移金属含有固体触媒(固体触媒成分)を調製する方法。
【0090】
(3)ジアルコキシマグネシウム等のジアルコキシマグネシウム、電子供与体およびチタン化合物を不活性炭化水素溶媒共存下、接触させる方法。具体的には、以下の(3−1)〜(3−3)の方法が挙げられる。
【0091】
(3−1)ジエトキシマグネシウム等のジアルコキシマグネシウムを芳香族または脂肪族炭化水素あるいはハロゲン化炭化水素溶媒中に懸濁させ、四塩化チタンまたは四塩化ケイ素を接触させ、昇温し、次いで、フタル酸ジエステルなどの電子供与体を接触反応させ固体成分を得る。該固体成分を芳香族または脂肪族炭化水素で洗浄した後、芳香族または脂肪族炭化水素の存在下、再度四塩化チタンを接触させ、遷移金属含有固体触媒(固体触媒成分)を調製する方法。さらに、得られた該固体触媒成分を炭化水素溶媒の存在下または不存在下に、加熱処理して固体触媒成分を得る方法。
【0092】
(3−2)ジエトキシマグネシウム等のジアルコキシマグネシウムおよびフタル酸ジエステルなどの電子供与体をアルキルベンゼン中に懸濁させ、その懸濁液を四塩化チタン中に添加し、反応させ、固体成分を得る。該固体成分をアルキルベンゼンで洗浄した後、アルキルベンゼンの存在下、再度四塩化チタンを接触させ、遷移金属含有固体触媒(固体触媒成分)を調製する方法。
【0093】
(3−3)ジエトキシマグネシウム等のジアルコキシマグネシウム、ケイ素化合物および、必要に応じ塩化カルシウムを共粉砕し、該粉砕固体物を芳香族炭化水素に懸濁させ、四塩化チタンおよび芳香族ジカルボン酸のジエステルなどの電子供与体と接触反応させ、さらに四塩化チタンを接触させることにより遷移金属含有固体触媒(固体触媒成分)を調製する方法。
【0094】
(4)還元性を有するマグネシウム化合物、電子供与体およびチタン化合物を接触させて、固体触媒を析出させる方法。より詳細には、以下の(4−1)の方法が挙げられる。
【0095】
(4−1)ジブチルマグネシウム等の有機マグネシウム化合物と、有機アルミニウム化合物を、炭化水素溶媒の存在下、アルコールと接触させ、均一溶液とする。この溶液にケイ素化合物を接触させ、固体成分を得る。次いで、この固体成分に、芳香族炭化水素溶媒の存在下、四塩化チタンおよびカルボン酸エステルなどの電子供与体を接触反応させ、さらに四塩化チタンを接触させ、遷移金属含有固体触媒(固体触媒成分)を得る方法。
【0096】
(5)上記(1)〜(4)の方法により得られた遷移金属含有固体触媒(固体触媒成分)を、有機アルミニウムおよび、必要に応じて外部電子供与体と接触させ、オレフィン重合用遷移金属含有固体触媒(オレフィン重合触媒)を得る方法。より詳細には、以下の(5−1)〜(5−2)の方法が挙げられる。
【0097】
(5−1)上記マグネシウム化合物、チタン化合物および電子供与体を接触させてなる遷移金属含有固体触媒(固体触媒成分)と、後述する一般式(IX)で表される有機アルミニウム化合物とを、公知の方法で接触させる方法。
(5−2)上記マグネシウム化合物、チタン化合物および電子供与体からなる遷移金属含有固体触媒(固体触媒成分)と、後述する一般式(IX)で表される有機アルミニウム化合物および必要に応じ後述する有機ケイ素化合物などの外部電子供与体とを、公知の方法で接触させる方法。
【0098】
(6)上記(1)〜(4)の方法によって得られた遷移金属含有固体触媒(固体触媒成分)、または上記(5)の方法によって得られたオレフィン重合用遷移金属含有固体触媒(オレフィン重合触媒)を、少量のオレフィンと予備的に接触させ、予備重合触媒を得る方法。より詳細には、以下の(6−1)〜(6−2)の方法が挙げられる。
【0099】
(6−1)(5)の方法により得られたオレフィン重合用遷移金属含有固体触媒(オレフィン重合触媒)に、上記遷移金属含有固体触媒(固体触媒成分)1g当たりの生成重合体量が特定の範囲になるよう、1種あるいは2種以上のオレフィンを予備的に重合させる方法。
【0100】
(6−2)上記(1)〜(4)の方法により得られた遷移金属含有固体触媒(固体触媒成分)を、有機アルミニウムおよび二つ以上の二重結合を有するシラン化合物で表面処理した後、オレフィンモノマーまたはジエン化合物を接触させて予備的な重合を行い、上記触媒の周囲をマクロモノマーによりカプセル化する方法。
【0101】
本発明の遷移金属含有固体触媒は、上記(1)〜(6)のいずれかの方法により作製することができる。後述する固体核磁気共鳴スペクトルを得る上では、(1)〜(4)の方法により作製される固体触媒成分が好適であり、特に(1)の方法により作製される固体触媒成分が、好適である。
【0102】
本発明の遷移金属含有固体触媒は、その存在下にオレフィン類の重合を行なう際、立体規則性の高いオレフィン重合体を得るために、一般式(IX)
15AlQ3−p (IX)
(式中、R15は炭素数1〜4のアルキル基、Qは水素原子あるいはハロゲン原子であって、pは0<p≦3の実数である。)
で表される有機アルミニウム化合物および必要に応じ外部電子供与体の存在下に反応を行うことが好ましい。
【0103】
一般式(IX)で表わされる有機アルミニウム化合物において、R15としては、エチル基、イソブチル基が好ましく、Qとしては、水素原子、塩素原子または臭素原子が好ましく、pは2又は3が好ましく、3が特に好ましい。
【0104】
このような有機アルミニウム化合物としては、トリエチルアルミニウム、ジエチルアルミニウムクロライド、トリイソブチルアルミニウム、ジエチルアルミニウムブロマイド、ジエチルアルミニウムハイドライドから選ばれる一種以上が好ましく、トリエチルアルミニウム、トリイソブチルアルミニウムから選ばれる一種以上がより好ましい。
【0105】
また、重合時に用いる外部電子供与体としては、酸素原子あるいは窒素原子を含有する有機化合物を用いることができ、例えばアルコール類、フェノール類、エーテル類、エステル類、ケトン類、酸ハライド類、アルデヒド類、アミン類、アミド類、ニトリル類、イソシアネート類、Si−O−C結合を含む有機ケイ素化合物、アミノシラン化合物等が挙げられ、特に安息香酸エチル、p−メトキシ安息香酸エチル、p−エトキシ安息香酸エチル、p−トルイル酸メチル、p−トルイル酸エチル、アニス酸メチル、アニス酸エチル等のモノカルボン酸エステル類が好ましく、Si−O−C結合を含む有機ケイ素化合物、アミノシラン化合物も好ましく用いられる。
【0106】
上記有機ケイ素化合物としては、上述した一般式(V)や一般式(VI)で表わされる化合物を挙げることができる。
【0107】
本発明の遷移金属含有固体触媒は、例えば、エチレン、プロピレン、1−ブテン、4−メチル−1−ペンテン等のα−オレフィン等のオレフィン類の重合触媒として好適であり、上記オレフィン類のモノマーの他、ダイマー、トライマー、テトラマー等のオリゴマー等の重合触媒として好適である。この場合、オレフィン類の重合反応は単独重合反応であっても共重合反応であってもよい。
【0108】
本発明の遷移金属含有固体触媒において、マグネシウム、遷移金属および電子供与体の含有量は特に制限されない。
本発明の遷移金属含有固体触媒において、マグネシウムの含有量は10〜70質量%であることが好ましく、10〜50質量%であることがより好ましく、15〜40質量%であることがさらに好ましく、15〜25質量%であることが特に好ましい。また、本発明の遷移金属含有固体触媒において、遷移金属の含有量は、1.0〜8.0質量%であることが好ましく、1.0〜6.0質量%であることがより好ましく、1.0〜4.0質量%であることがさらに好ましい。さらに、本発明の遷移金属含有触媒において、電子供与体の含有量は0.2〜30質量%であることが好ましく、0.5〜25質量%であることがより好ましく、2〜20質量%であることがさらに好ましい。
【0109】
なお、本発明の遷移金属含有固体触媒がハロゲン原子を含む場合、ハロゲン原子の含有量は、20〜85質量%であることが好ましく、30〜85質量%であることがより好ましく、40〜80質量%であることがさらに好ましく、45〜75質量%であることが特に好ましい。
【0110】
本発明の遷移金属含有固体触媒は、固体核磁気共鳴装置により、磁場強度7テスラ以上、回転速度6kHz以上の条件下で13C核磁気共鳴スペクトルを得たときに、テトラメチルシランに由来する信号位置をケミカルシフト0ppmとすると、前記酸素原子と化学結合を形成してなる炭素原子の原子核に由来するケミカルシフト値165ppm〜175ppmに現れる信号またはケミカルシフト値60ppm〜80ppmに現れる信号のいずれかの積分強度に対する、ケミカルシフト値90ppm〜100ppmに現れる信号の積分強度の比が、0.05以上1未満であるものが好ましい。
【0111】
上記13C核磁気共鳴スペクトルを得る際に使用する核磁気共鳴装置や核磁気共鳴条件の詳細は、後述するとおりである。
また、本発明の遷移金属含有固体触媒においては、上記積分強度の比が0.05〜0.4であるものがより好ましく、0.05〜0.3であるものがさらに好ましい。
【0112】
本発明の遷移金属含有固体触媒において、上記積分強度の比が上記範囲内にあることにより、自動車のバンパーなどの耐衝撃性が求められる用途に適した立体規則性を有するオレフィン類重合物を得ることが可能になる。
【0113】
次に、本発明に係る遷移金属含有固体触媒の性能評価方法について説明する。
本発明に係る遷移金属含有固体触媒の性能評価方法は、(a)マグネシウム化合物と、(b)遷移金属化合物と、(c)酸素原子と化学結合を形成してなる炭素原子を有する電子供与体とを接触させてなるオレフィン類重合用遷移金属含有固体触媒の性能評価方法であって、固体核磁気共鳴装置により、磁場強度7テスラ以上、回転速度6kHz以上の条件下で前記オレフィン類重合用遷移金属含有固体触媒の13C核磁気共鳴スペクトルを得、次いで、テトラメチルシランに由来する信号位置をケミカルシフト0ppmとしたときに、前記酸素原子と化学結合を形成してなる炭素原子の原子核に由来するケミカルシフト値165ppm〜175ppmに現れる信号またはケミカルシフト値60ppm〜80ppmに現れる信号のいずれかの積分強度に対する、ケミカルシフト値90ppm〜100ppmに現れる信号の積分強度の比を得、得られた積分強度の比の大小により触媒性能を評価することを特徴とするものである。
【0114】
本発明に係る評価方法において、評価対象となる遷移金属含有固体触媒は、(a)マグネシウム化合物と、(b)遷移金属化合物と、(c)酸素原子と化学結合を形成してなる炭素原子を有する電子供与体とを接触させてなるものであり、好適には、本発明に係る遷移金属含有固体触媒を挙げることができる。
【0115】
本発明の方法において使用し得る核磁気共鳴装置としては、磁場強度7テスラ以上の条件下で核磁気共鳴分光測定し得るものであれば特に制限されず、固体核磁気共鳴装置として市販されているもの等を挙げることができる。
【0116】
本発明の方法において、触媒試料を充填するNMR試料管は、ガラス製、ジルコニア製、または窒化珪素製のものを好適に用いることができる。
また、NMR試料管は、直径が1.2mm〜6.0mmであることが好ましく、入手や操作の容易性等を考慮すると、直径4.0〜6.0mmであることがより好ましい。
【0117】
本発明の方法において、核磁気共鳴分光測定時に使用するプローブ(NMRプローブ)は、炭素原子核の核磁気共鳴時において、テトラメチルシラン(TMS)に由来する信号位置をケミカルシフト値0ppmとしたときに(テトラメチルシラン(TMS)を基準としたときに)、ケミカルシフト値90ppmから100ppmに現れる信号の積分強度と、電子供与体を構成する酸素原子と化学結合を形成してなる炭素原子の原子核に由来する、ケミカルシフト値165ppm〜175ppmに現れる信号またはケミカルシフト値60ppm〜80ppmに現れる信号の積分強度とを測定できるものであれば、特に制限されない。
【0118】
本発明の方法において、核磁気共鳴分光測定時の記磁場強度は7テスラ以上が好ましく、9テスラ以上がより好ましい。磁場強度を7テスラ以上にすることにより、得られるピークの広幅化を抑制することができる。磁場強度の上限に特に制限はないが、市販の核磁気共鳴装置を用い、経済的かつ簡便に測定するという観点から、磁場強度は17テスラ以下が好ましく、14テスラ以下がより好ましく、11テスラ以下がさらに好ましい。
【0119】
本発明の方法において、核磁場共鳴分光測定時における回転速度(試料回転速度)は、6kHz以上であることが好ましく、10kHz以上であることがより好ましく、15kHz以上であることがさらに好ましい。
汎用されている直径4mmのNMR試料管を用いる場合、回転速度は10KHz以上であることが適当であり、15KHz以上であることがより適当である。
なお、本出願書類において、回転速度とは、触媒試料を充填する試料管(NMR試料管)の回転速度を意味する。
【0120】
上記回転速度を上げることにより、回転速度由来の異方性信号であるスピニングサイドバンド(以下SSBとする)を消去できることから、回転速度はできる限り上げることが望ましい。
【0121】
本発明において、上記NMR試料管は、外部静磁場方向に対して54.7°の軸を中心に回転させつつ核磁気共鳴させることが好ましい。
【0122】
本発明において、核磁気共鳴は、サンプルを高速でスピンさせながらチューニングし、パルス幅、繰り返し時間およびパルスシーケンスなどを確認した後に、実施することが好ましい。
核磁気共鳴方法は、例えば、CPMAS(交差分極マジックアングルスピニング)法、シングルパルス法等があり、炭素原子核の固体核磁気共鳴分光に適用し得るものであれば特に制限されないが、測定感度等を考慮した場合には、CPMAS法が好ましい。
【0123】
本発明の方法においては、13C核磁気共鳴スペクトルにおいて、テトラメチルシランに由来する信号位置をケミカルシフト0ppmとしたときに、電子供与体を構成する酸素原子と化学結合を形成してなる炭素原子の原子核に由来するケミカルシフト値165ppm〜175ppmに現れる信号またはケミカルシフト値60ppm〜80ppmに現れる信号のいずれかの積分強度に対する、ケミカルシフト値90ppm〜100ppmに現れる信号の強度の比を得る。
【0124】
テトラメチルシランは常温で液体の化合物であるため、固体核磁気共鳴分光測定に標準試料としてそのまま使用することは困難であるものの、例えば、常温で固体の化合物であるヘキサメチルベンゼンを外部標準試料として用いることにより、テトラメチルシランに由来する信号位置をケミカルシフト0ppmとする、13C固体核磁気共鳴スペクトルを容易に得ることができる。すなわち、ヘキサメチルベンゼンに由来する信号は、テトラメチルシランに由来する信号検出位置(ケミカルシフト値)を0ppmとした場合、17.4ppmに検出されることから、上記核磁気共鳴スペクトルにおいては、ヘキサメチルベンゼンに由来する信号の検出位置(ケミカルシフト値)を17.4ppmに補正し、それにあわせて他の信号の検出位置から、テトラメチルシランに由来する信号位置を0ppmとする13C固体核磁気共鳴スペクトルを得ることができる。
【0125】
本発明の方法においては、13C固体核磁気共鳴スペクトルのピークのうち、ケミカルシフト値90ppm〜100ppmに現れる信号の積分強度(ピーク面積)と、ケミカルシフト値165ppm〜175ppmに現れる信号の積分強度またはケミカルシフト値60ppm〜80ppmに現れる信号の積分強度とを求め、次いで、「ケミカルシフト値90ppm〜100ppmに現れる信号の積分強度/ケミカルシフト値165ppm〜175ppmに現れる信号の積分強度」または「ケミカルシフト値90ppm〜100ppmに現れる信号の積分強度/ケミカルシフト値60ppm〜80ppmに現れる信号の積分強度」を求める。
積分強度の算出方法は、従来公知の方法を採用することができる。
【0126】
上記各信号のうち、ケミカルシフト値165ppm〜175ppmに現れる信号は電子供与体中のC=O結合を形成してなる炭素原子の原子核に由来するものであり、ケミカルシフト値60ppm〜80ppmに現れる信号は電子供与体中のC−O結合を形成してなる炭素原子の原子核に由来するものである。ケミカルシフト値90ppm〜100ppmに現れる信号は何れの炭素原子の原子核に由来するものであるか不明ではあるが、驚くべきことに、本発明者等の検討によれば、ケミカルシフト値90ppm〜100ppmに現れる信号は、立体規則性の高いオレフィン重合体が得られる遷移金属含有固体触媒に特異的に現れ、さらに上記のとおり信号の積分強度比を得ることにより、実際にオレフィンの重合反応を行うことなく得られる重合体の立体規則性等の触媒性能を評価し得ることが判明した。
【0127】
すなわち、評価対象となる触媒性能が得られる重合体の立体規則性の程度である場合、本発明者等の検討によれば、上記積分強度比が大きくなる程、立体規則性の程度を表すキシレン可溶分が多くなり(立体規則性が低くなり)、上記積分強度比が小さくなる程、キシレン可溶分が少なくなる(立体規則性が高くなる)。このため、評価対象となる遷移金属含有触固体媒と同種の複数の遷移金属含有固体触媒を用いて、予め同一の条件下で測定した積分強度比データを基に検量線等を作成しておくことにより、積分強度比の大小から、重合体を作製することなく、得られる重合体の立体規則性の程度を評価することが可能になる。
なお、評価対象であるオレフィン類重合用遷移金属含有触媒と、検量線作成に用いる複数のオレフィン類重合用遷移金属含有触媒は、同様の製造方法により作製されたものであることが好ましい。また、測定対象となる触媒の電子供与体がカルボン酸エステルである場合、検量線作成用の電子供与体も同種のカルボン酸エステルである必要があるが、そのエステル残基は異なっていてもよい。
【0128】
検量線の作成方法としては、特に制限されず、最小二乗法等の回帰分析方法を挙げることができる。
【0129】
このように、本発明の方法においては、評価対象であるオレフィン類重合用遷移金属含有触媒に含まれる炭素原子の原子核を測定対象とし、固体核磁気共鳴スペクトルに現れる信号の積分強度比の大小を測定することにより、予め作成しておいた検量線をもとに、重合体を作製することなく触媒性能を評価することができる。
【0130】
また、本発明者が検討したところ、
(a)マグネシウム化合物と、(b)遷移金属化合物と、(c)酸素原子と化学結合を形成してなる炭素原子を有する電子供与体とを含んでなるオレフィン類重合用遷移金属含有固体触媒の性能評価方法であって、
固体核磁気共鳴装置により、磁場強度7テスラ以上、回転速度6kHz以上の条件下で前記オレフィン類重合用遷移金属含有固体触媒の13C核磁気共鳴分光測定を行い、
テトラメチルシランに由来する信号位置をケミカルシフト0ppmとしたときに、ケミカルシフト値90ppm〜100ppmに信号を現わす炭素原子の原子核の緩和時間を測定し、
得られる緩和時間の長短により
オレフィン類重合用遷移金属含有固体触媒の性能を評価できることを見出した。
【0131】
13C核磁気共鳴分光測定時に使用する装置や核磁気共鳴条件等は、上述したものと同様である。
【0132】
緩和時間には、縦緩和時間(T1、スピン−格子緩和時間)、回転系の縦緩和時間(T1ρ、回転系のスピン−格子緩和時間)および横緩和時間(T2、スピン−スピン緩和時間)があるが、本発明においては、縦緩和時間、すなわちT1およびT1ρを測定することが好ましい。
縦緩和時間は、測定対象となる炭素原子が励起状態から基底状態(平衡状態)に戻るまでの時間を意味する。
【0133】
本発明の方法において、緩和時間を測定する方法は特に限定されない。
例えば、インバージョンリカバリーの手法を用いてT1を求めるダブルパルス法、クロスポラリゼーションの手法を用いてT1ρを求めるスピンロック法、運動性が低い観測核のT1を求めるトーチャCP法等といった、様々な測定方法を挙げることができ、中でも運動性が低く、緩和時間が長い試料の測定に適していることから、トーチャCP法により測定することが好ましい。
【0134】
なお、これらの手法については、D.A Torchia、Journal of Magnetic Resonance、Vol.30、613頁(1978); W.T.Dixon, J.Shaefer, M.D.Sefcik, E.O.Stejskal, and R.A.Mckey、Journal of Magnetic Resonance、Vol.49、341頁(1982);A.E. Bennett, C.M Rienstra, M. Auger, K.V. Lakshmi, and R.G. Griffin、Journal of Chemical Physics 、Vol.103、6951-6958頁(1995)などに詳しい記載がなされている。
【0135】
本発明者の検討によれば、驚くべきことに、上記ケミカルシフト値90ppm〜100ppmに信号を現わす炭素原子核の緩和時間の長短により、オレフィン類重合用遷移金属含有触媒の触媒性能を評価することができることを見出した。
【0136】
すなわち、評価対象となる触媒性能が、得られる重合体の立体規則性の程度である場合、本発明者等の検討によれば、上記炭素原子核の緩和時間が長い場合には、得られる重合体において、立体規則性の程度を表わすキシレン可溶分が多くなり(立体規則性が低くなり)、緩和時間が短い場合には、キシレン可溶分が少なくなる(立体規則性が高くなる)。このため、評価対象となるオレフィン類重合用遷移金属含有触媒と同種の触媒について、予め同一の条件下で測定した緩和時間データを基に検量線等を作成しておくことにより、緩和時間の長短から、重合体を作製することなく、得られる重合体の立体規則性の程度を評価することが可能になる。
なお、評価対象であるオレフィン類重合用遷移金属含有触媒と、検量線作成に用いる複数のオレフィン類重合用遷移金属含有触媒は、同様の製造方法により作製されたものであることが好ましい。また、測定対象となる触媒の電子供与体がカルボン酸エステルである場合、検量線作成用の電子供与体も同種のカルボン酸エステルである必要があるが、そのエステル残基は異なっていてもよい。
【0137】
検量線の作成方法としては、特に制限されず、最小二乗法等の回帰分析方法を挙げることができる。
【0138】
このように、評価対象であるオレフィン類重合用遷移金属含有触媒に含まれる炭素原子の原子核を測定対象とし、テトラメチルシランに由来する信号位置を0ppmとしたときに、ケミカルシフト値90ppm〜100ppmに信号を現わす炭素原子の原子核の緩和時間を測定することにより、予め作成しておいた検量線をもとに、重合体を作製することなく触媒性能を評価することもできる。
【0139】
なお、本発明者の検討によれば、上記緩和時間が1〜5秒である遷移金属含有固体触媒が、耐衝撃性の求められる用途に適した立体規則性を示すオレフィン重合体を容易に製造可能であることも判明した。
【0140】
本発明の方法によれば、評価対象であるオレフィン類重合用遷移金属含有触媒について、実際に重合体を作製することなく固体触媒の状態のままで触媒性能を評価することができ、また、高額な費用を要する大規模な核磁気共鳴装置を用いなくとも、触媒性能を評価し得るものであるため、オレフィン重合用遷移金属含有触媒の触媒性能を安価かつ簡便に評価することができる。
このため、本発明の方法によれば、オレフィン重合物の製造条件を決定する際、通常は何度も行う必要があるテスト重合の回数を大幅に低減することが可能になる。
【実施例】
【0141】
次に、実施例を挙げて本発明を更に具体的に説明するが、本発明は、以下の実施例により何ら制限されるものではない。
【0142】
(実施例1)遷移金属含有固体触媒(C−1)の調製
攪拌機を具備し、内部を窒素で十分に置換した内容積0.5リットルの三つ口フラスコに、ジエトキシマグネシウム20gと、トルエン140mlとを装入し、次いで電子供与体としてフタル酸ジ−n−ブチルを0.5ml添加した後、さらに四塩化チタン60mlを添加して昇温し、105℃に保温しながら2時間攪拌して反応させ懸濁液を得た。該懸濁液を30分静止後に上澄みを除去し、新たに100℃に保たれたトルエン200mlを添加して攪拌を行い、静止後に上澄みを除去する操作を、合計3回繰り返した。次いで、トルエン80ml、四塩化チタン20mlをフラスコに添加して昇温し、100℃で15分間反応させた後、該懸濁液を30分静止後に上澄みを除去し、この操作を3回繰り返した。その後、遊離のチタン成分がなくなるまでn−ヘプタンで十分に洗浄、乾燥することにより、目的とする遷移金属含有固体触媒(C−1)(電子供与体(モル量)/Mg(モル量)=0.01)を得た。
【0143】
(実施例2〜実施例4)遷移金属含有固体触媒(C−2)〜(C−4)の調製
遷移金属含有固体触媒の調製に用いる電子供与体の量を表1のように変更した以外は、遷移金属含有固体触媒(C−1)の調製方法と同様にして、遷移金属含有固体触媒(C−2)(電子供与体(モル量)/Mg(モル量)=0.04)、遷移金属含有固体触媒(C−3)(電子供与体(モル量)/Mg(モル量)=0.08)、遷移金属含有固体触媒(C−4)(電子供与体(モル量)/Mg(モル量)=0.10)を得た。
【0144】
<オレフィン類の重合および得られた重合物の立体規則性の評価>
(オレフィン類の重合)
上記遷移金属含有固体触媒(C−1)〜(C−4)を用いて、以下のとおりオレフィン類の重合を行った。
十分に窒素置換された内容積2.0リットルの攪拌機付オートクレーブに、n−ヘプタン20ml、トリエチルアルミニウム1.32ミリモル、上記(1)および(2)で調製した遷移金属含有固体触媒をTi含有量として0.00264ミリモル、外部電子供与体としてシクロヘキシルメチルジメトキシシランを0.132ミリモル添加し、液体プロピレン1.4リットル、水素 2.0リットルを装入後に昇温し、70℃で1時間のプロピレンモノマーの重合反応を行い、重合物を得た。得られた重合物中に存在する残留モノマーや有機溶剤などの揮発成分や水分を除去する目的で、内温60℃、圧力5Paの条件下、12時間の減圧乾燥を行い、粉末状のプロピレン重合体を得た。
【0145】
(重合体の立体規則性評価)
得られた各プロピレン重合体の立体規則性を評価するために、以下の方法によりキシレン可溶分(XS)を測定した。
上記各プロピレン重合体4.0gと200mlのp−キシレンとを、還流装置と攪拌機を具備した500mlフラスコに装入し、外部温度をキシレンの沸点以上(約150℃)とすることにより、p−キシレンの温度を沸点下(137〜138℃)に維持しつつ、攪拌下に2時間還流させて重合物を完全に溶解させた後、溶液を23℃に冷却して1時間保持し、次いで、不溶解成分と溶解成分とを濾過分別した。
上記溶解成分の溶液を一定量採取し、加熱減圧乾燥によりp−キシレンを留去し、得られた残留物の重量を重合物(ポリプロピレン)に対する相対値(重量%)で求め、これをキシレン可溶分(重量%)とした。結果を表1に示す。
【0146】
(比較例1〜比較例2)
遷移金属含有固体触媒の調製に用いる電子供与体の量を表1のように変更した以外は、遷移金属含有固体触媒(C−1)の調製方法と同様にして、比較遷移金属含有固体触媒(C−5)(電子供与体(モル量)/Mg(モル量)=0.12)および(C−6)(電子供与体(モル量)/Mg(モル量)=0.20)を得た。
【0147】
<核磁気共鳴スペクトルの測定>
上記遷移金属含有固体触媒(C−1)〜(C−4)および比較遷移金属含有固体触媒(C−5)〜(C−6)を測定試料とし、固体核磁気共鳴装置として9.4テスラの磁場を有する日本電子(JEOL)社製 ECA−400を用い、13Cを測定核種とする核磁気共鳴スペクトルを測定した。
【0148】
(測定条件)
試料管 :直径4mm
プローブ :4mmMASプローブ
MAS回転数:15KHz
測定モード :CPMAS法
外部標準試料:ヘキサメチルベンゼン(メチル基ピーク:17.4ppm)
なお、ヘキサメチルベンゼンに由来する信号は、テトラメチルシランに由来する信号検出位置(ケミカルシフト値)を0ppmとした場合、17.4ppmに検出されることから、上記核磁気共鳴スペクトルにおいては、ヘキサメチルベンゼンに由来する信号検出位置(ケミカルシフト値)を17.4ppmに補正した上で、各信号の検出位置(ケミカルシフト値)を規定した。
【0149】
このようにして得られた遷移金属含有固体触媒(C−1)の13C固体核磁気共鳴スペクトルを図1に示し、比較遷移金属含有固体触媒(C−5)の13C固体核磁気共鳴スペクトルを図2に示す。
【0150】
図1に示すように、遷移金属含有固体触媒(C−1)の13C固体核磁気共鳴スペクトルにおいては、ケミカルシフト値90ppm〜100ppmに信号が検出され、この信号は、遷移金属含有固体触媒(C−2)〜(C−4)においても同様に検出された。
【0151】
これに対して、図2に示すように、比較遷移金属含有固体触媒(C−5)の13C固体核磁気共鳴スペクトルにおいては、ケミカルシフト値90ppm〜100ppmに信号が検出されず、比較遷移金属含有固体触媒(C−6)においても同様に検出されなかった。
【0152】
上記遷移金属含有固体触媒(C−1)〜(C−4)の核磁気共鳴スペクトルにおいて、電子供与体(c)中のC−O結合を形成してなるメチレン炭素原子の原子核に由来するケミカルシフト値60ppm〜80ppmに現れる信号の強度(INT2)に対する、ケミカルシフト値90ppm〜100ppmに現れる信号の強度(INT1)の比(INT1/INT2)を求めた。結果を表1に示す。
【0153】
【表1】

【0154】
このように、実施例1〜実施例4で得られた本発明に係るオレフィン類重合用遷移金属含有固体触媒(C−1)〜(C−4)は、電子供与体の量をマグネシウム化合物の量に対してモル比で0.001以上0.1以下となるように接触させてなるものであり、13C固体核磁気共鳴スペクトルを測定したときに、ケミカルシフト値90ppm〜100ppmに特有の信号が検出され、INT1/INT2で表わされる積分強度比が0.05以上1未満の範囲内にあるものであって、表1の結果から、オレフィン類の重合触媒として使用したときに、実際の重合で得られる重合物中のキシレン可溶分が2.0〜4.1重量%となり、耐衝撃性ポリオレフィンの製造に適した立体規則性を有するポリプロピレンが得られることが分かる。
【0155】
(実施例5〜実施例7)
(1)検量線の作成
表1に示す結果を基に、遷移金属含有固体触媒(C−1)〜(C−4)の核磁気共鳴スペクトルから得られる各積分強度比(INT1/INT2)に対する、遷移金属含有固体触媒(C−1)〜(C−4)から得られる重合物中の各キシレン可溶分(重量%)の値をプロットした図を図3に示す。
【0156】
表1および図3より、重合物中のキシレン可溶分(重量%)は、積分強度比(INT1/INT2)が小さい程少なく、大きい程多くなっていることが分かる。
【0157】
このため、評価対象となるオレフィン類重合用遷移金属含有固体触媒と同種の触媒を用いて予め検量線を作成しておき、測定対象となるオレフィン類重合用遷移金属含有固体触媒の13C固体核磁気共鳴スペクトルを測定して積分強度比(INT1/INT2)を求めることにより、実際にオレフィン類の重合処理を行わなくても得られる重合物の立体規則性の程度を簡便に評価し得ると考えられる。
【0158】
そこで、表1および図3に示す積分強度比Pに対するキシレン可溶分の関係式を最小二乗法により求め、得られた関係式(α)(線形近似の決定係数R値=0.94)を、キシレン可溶分(立体規則性)を評価する検量線とした。
【0159】
関係式(α);
[重合体のキシレン可溶分(重量%)]=
[積分信号強度比P]×8.23 +1.75 (α)
【0160】
(2)評価試料の作製
評価試料として、実施例5においては、遷移金属含有固体触媒の調製に用いる電子供与体の量を表2のように変更した以外は、遷移金属含有固体触媒(C−1)の調製方法と同様にして遷移金属含有固体触媒(C−7)を調製した。また、評価試料として、実施例6においては、(c)電子供与体をフタル酸ジ−n−ブチルからフタル酸ジエチルに変更した以外は遷移金属含有固体触媒(C−1)の調製方法と同様にして遷移金属含有固体触媒(C−8)を調製し、実施例7においては、電子供与体をフタル酸ジ−n−ブチルからフタル酸ジイソブチルに変更した以外は遷移金属含有固体触媒(C−1)の調製方法と同様にして遷移金属含有固体触媒(C−9)を調製した。
【0161】
(3)13C固体核磁気共鳴スペクトルの測定
上記遷移金属含有固体触媒(C−7)〜(C−9)において、上記遷移金属含有固体触媒(C−1)〜(C−4)と同様にして、13Cを測定核種とする核磁気共鳴スペクトルを測定し、得られた核磁気共鳴スペクトルにおいて、(c)電子供与体中のC−O結合を形成してなるメチレン炭素原子の原子核に由来するケミカルシフト値60ppm〜80ppmに現れる信号の強度(INT2)に対する、ケミカルシフト値90ppm〜100ppmに現れる信号の強度(INT1)の比(INT1/INT2)を求め、上記検量線(α)からポリオレフィン作製時におけるキシレン可溶分(重量%)の予測値を求めた。結果を表2に示す。
また、比較のため、上記と同様の条件で実際にポリプロピレンを作製し、キシレン可溶分(重量%)の実測値を求めた。結果を表2に示す。
【0162】
【表2】

【0163】
表2の結果から、遷移金属含有固体触媒(C−7)〜(C−9)においては、13Cを測定核種とする核磁気共鳴スペクトルを測定し、積分信号強度比(INT1/INT2)を求めることにより、検量線として使用した関係式(α)から求められるキシレン可溶分(重量%)が、実測したキシレン可溶分(重量%)と相関していることから、固体核磁気共鳴装置を用いて積分信号強度比を測定することにより、重合体を得ることなく簡便かつ低コストに、オレフィン類重合用遷移金属含有固体触媒のキシレン可溶分を評価できることが分かる。
【0164】
(実施例8)遷移金属含有固体触媒(C−10)の調製
攪拌機を具備し、内部を窒素で十分に置換した内容積0.5リットルの三つ口フラスコに、ジエトキシマグネシウム20gと、トルエン140mlとを装入し、次いで電子供与体としてフタル酸ジ−n−ブチルを0.7ml添加した後、さらに四塩化チタン60mlを添加して昇温し、105℃に保温しながら2時間攪拌して反応させ懸濁液を得た。該懸濁液を30分静止後に上澄みを除去し、新たに100℃に保たれたトルエン200mlを添加して攪拌を行い、静止後に上澄みを除去する操作を、合計3回繰り返した。次いで、トルエン80ml、四塩化チタン20mlをフラスコに添加して昇温し、100℃で15分間反応させた後、該懸濁液を30分静止後に上澄みを除去し、この操作を3回繰り返した。その後、遊離のチタン成分がなくなるまでn−ヘプタンで十分に洗浄、乾燥することにより、目的とする遷移金属含有固体触媒(C−10)(電子供与体(モル量)/Mg(モル量)=0.014)を得た。
【0165】
(実施例9〜実施例11)遷移金属含有固体触媒(C−11)〜(C−13)の調製
遷移金属含有固体触媒の調製に用いる電子供与体の種類および使用量を表3のように変更した以外は、遷移金属含有固体触媒(C−10)の調製方法と同様にして、遷移金属含有固体触媒(C−11)(電子供与体(モル量)/Mg(モル量)=0.024)、遷移金属含有固体触媒(C−12)(電子供与体(モル量)/Mg(モル量)=0.050)、遷移金属含有固体触媒(C−13)(電子供与体(モル量)/Mg(モル量)=0.090)を得た。
【0166】
<オレフィン類の重合および得られた重合物の立体規則性の評価>
(オレフィン類の重合)
上記遷移金属含有固体触媒(C−10)〜(C−13)を用いて、以下のとおりオレフィン類の重合を行った。
十分に窒素置換された内容積2.0リットルの攪拌機付オートクレーブに、n−ヘプタン20ml、トリエチルアルミニウム1.32ミリモル、上記遷移金属含有固体触媒をTi含有量として0.00264ミリモル、外部電子供与体としてシクロヘキシルメチルジメトキシシランを0.132ミリモル添加し、液体プロピレン1.4リットル、水素 2.0リットルを装入後に昇温し、70℃で1時間のプロピレンモノマーの重合反応を行い、重合物を得た。得られた重合物中に存在する残留モノマーや有機溶剤などの揮発成分や水分を除去する目的で、内温60℃、圧力5Paの条件下、12時間の減圧乾燥を行い、粉末状のプロピレン重合体を得た。
【0167】
(重合体の立体規則性評価)
得られた各プロピレン重合体の立体規則性を評価するために、以下の方法によりキシレン可溶分(XS)を測定した。
上記各プロピレン重合体4.0gと200mlのp−キシレンとを、還流装置と攪拌機を具備した500mlフラスコに装入し、外部温度をキシレンの沸点以上(約150℃)とすることにより、p−キシレンの温度を沸点下(137〜138℃)に維持しつつ、攪拌下に2時間還流させて重合物を完全に溶解させた後、溶液を23℃に冷却して1時間保持し、次いで、不溶解成分と溶解成分とを濾過分別した。
上記溶解成分の溶液を一定量採取し、加熱減圧乾燥によりp−キシレンを留去し、得られた残留物をキシレン可溶分(XS)とし、その重量を重合物(ポリプロピレン)に対する相対値(重量%)で求めた。結果を表3に示す。
【0168】
(参考実験1)
上記遷移金属含有固体触媒(C−10)〜(C−13)を測定試料とし、固体核磁気共鳴装置として9.4テスラの磁場を有する日本電子(JEOL)社製 ECA−400を用い、13Cを測定核種とする核磁気共鳴スペクトルを測定し、ケミカルシフト値90〜100ppmに現れる信号に由来する13Cの原子核の緩和時間を測定した。結果を表3に示す。
【0169】
(測定条件)
試料管 :直径4mm
プローブ :4mmMASプローブ
MAS回転数:15KHz
測定モード :CPMAS法
外部標準試料:ヘキサメチルベンゼン(メチル基ピーク:17.4ppm)
なお、ヘキサメチルベンゼンに由来する信号は、テトラメチルシランに由来する信号検出位置(ケミカルシフト値)を0ppmとした場合、17.4ppmに検出されることから、上記核磁気共鳴スペクトルにおいては、ヘキサメチルベンゼンに由来する信号検出位置(ケミカルシフト値)を17.4ppmに補正した上で、各信号の検出位置(ケミカルシフト値)を規定した。
【0170】
【表3】

【0171】
(参考実験2)
(1)検量線の作成
表3に示す結果を基に、遷移金属含有固体触媒(C−10)〜(C−13)のケミカルシフト値90〜100ppmに現れる信号に由来する13Cの原子核の緩和時間に対する、遷移金属含有固体触媒(C−10)〜(C−13)から得られる重合物中の各キシレン可溶分(重量%)の値をプロットした図を図4に示す。
表3および図4より、重合物中のキシレン可溶分(重量%)は、緩和時間が短い程少なく、緩和時間が長い程多くなっていることが分かる。
このため、評価対象となるオレフィン類重合用遷移金属含有固体触媒と同種の触媒を用いて予め検量線を作成しておき、測定対象となるオレフィン類重合用遷移金属含有固体触媒のケミカルシフト値90〜100ppmに現れる信号に由来する13Cの原子核の緩和時間(秒)を測定することにより、遷移金属含有固体触媒から得られる重合物中の各キシレン可溶分(重量%)を簡便に評価し得ると考えられる。
そこで、表3および図4に示すケミカルシフト値90〜100ppmに現れる信号に由来する13Cの原子核の緩和時間(秒)に対するキシレン可溶分の関係式を最小二乗法により求め、得られた関係式(β)(線形近似の決定係数R値=0.97)を、キシレン可溶分(立体規則性)を評価する検量線とした。
【0172】
関係式(β);
[重合体のキシレン可溶分(重量%)]=[上記ケミカルシフト値90ppm〜100ppmに現れる信号の緩和時間(秒)]×(0.50)+(1.71) (β)
【0173】
(2)評価試料の作製
固体触媒成分の調製に用いる電子供与体の種類または使用量を表4に示すように変更した以外は、遷移金属含有触媒成分(C−10)の調製方法と同様にして遷移金属含有固体触媒(C−14)〜(C−19)を調製した。
【0174】
(3)13C固体核磁気共鳴スペクトルの測定
上記遷移金属含有固体触媒(C−14)〜(C−19)において、上記遷移金属含有固体触媒(C−10)〜(C−13)と同様にして、13Cを測定核種とする核磁気共鳴スペクトルを測定し、得られた核磁気共鳴スペクトルにおいて、ケミカルシフト値90〜100ppmに現れる信号に由来する13Cの原子核の緩和時間(秒)を求め、上記検量線(β)からポリオレフィン作製時におけるキシレン可溶分(重量%)の予測値を求めた。結果を表4に示す。
また、比較のため、実施例9〜実施例11と同様の条件で実際にポリプロピレンを作製し、キシレン可溶分(重量%)の実測値を求めた。結果を表4に示す。
【0175】
【表4】

【0176】
表4の結果から、遷移金属含有固体触媒(C−14)〜(C−19)においては、13Cを測定核種とする核磁気共鳴スペクトルを測定し、得られた核磁気共鳴スペクトルにおいて、ケミカルシフト値90〜100ppmに現れる信号に由来する13Cの原子核の緩和時間(秒)を求めることにより、検量線として使用した関係式(β)から求められるキシレン可溶分(重量%)が、実測したキシレン可溶分(重量%)と相関していることから、固体核磁気共鳴分光測定を行うことにより、重合体を得ることなく簡便かつ低コストに、オレフィン類重合用遷移金属含有固体触媒により得られる重合体のキシレン可溶分を評価できることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0177】
本発明によれば、立体規則性に優れたオレフィン重合物を作製し得る新規なオレフィン類重合用遷移金属含有固体触媒を提供することができる。また、本発明によれば、オレフィン類重合用遷移金属含有触媒の触媒性能を、重合体を得ることなく簡便かつ低コストに測定可能な、新規な評価方法を提供することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)マグネシウム化合物と、(b)遷移金属化合物と、(c)酸素原子と化学結合を形成してなる炭素原子を有する電子供与体とを、(d)20℃で液体である不活性有機溶媒の存在下において、
前記(c)電子供与体の量が、前記(a)マグネシウム化合物の量に対してモル比で0.001以上0.1以下となるように接触させてなる ことを特徴とするオレフィン類重合用遷移金属含有固体触媒。
【請求項2】
固体核磁気共鳴装置により、磁場強度7テスラ以上、回転速度6kHz以上の条件下で13C核磁気共鳴スペクトルを得たときに、
テトラメチルシランに由来する信号位置をケミカルシフト0ppmとすると、前記酸素原子と化学結合を形成してなる炭素原子の原子核に由来するケミカルシフト値165ppm〜175ppmに現れる信号またはケミカルシフト値60ppm〜80ppmに現れる信号のいずれかの積分強度に対する、ケミカルシフト値90ppm〜100ppmに現れる信号の積分強度の比が、0.05以上1未満である請求項1に記載のオレフィン類重合用遷移金属含有固体触媒。
【請求項3】
前記(a)マグネシウム化合物が、下記一般式(I)
MgX(OR2−n (I)
(式中Xはハロゲン原子、Rは炭素数1〜8の直鎖状または分岐鎖状のアルキル基、nは0〜2の整数であり、Rが複数存在する場合、各Rは同一であっても異なっていてもよく、またXが複数存在する場合、各Xは同一であっても異なっていてもよい。)
で表されるマグネシウム化合物である請求項1または請求項2に記載のオレフィン類重合用遷移金属含有固体触媒。
【請求項4】
前記(b)遷移金属化合物が、下記一般式(II)
TiY(OR4−m (II)
(式中Yはハロゲン原子、Rは炭素数1〜7の直鎖状または分岐鎖状のアルキル基、mは1〜4の整数であり、Rが複数存在する場合、各Rは同一であっても異なっていてもよく、またYが複数存在する場合、各Yは同一であっても異なっていてもよい。)
で表される四価のチタン化合物である請求項1〜請求項3のいずれかに記載のオレフィン類重合用遷移金属含有固体触媒。
【請求項5】
前記(c)電子供与体が、下記一般式(III)
−C(=O)OR(III)
(Rは、ヘテロ原子を含んでもよい炭素数1〜10の直鎖状または分岐鎖状炭化水素基)
で表されるカルボニル基または下記一般式(IV)
−C−OR(IV)
(Rは、ヘテロ原子を含んでもよい炭素数1〜10の直鎖状または分岐鎖状炭化水素基)
で表されるエーテル基から選ばれる一種以上を有する電子供与性化合物である請求項1〜請求項4のいずれかに記載のオレフィン類重合用遷移金属含有固体触媒。
【請求項6】
前記(c)電子供与体が、脂肪族カルボン酸エステルまたは芳香族カルボン酸エステルから選ばれる一種以上である請求項5に記載のオレフィン類重合用遷移金属含有固体触媒。
【請求項7】
前記(d)不活性有機溶媒が、直鎖状又は分岐鎖状の脂肪族炭化水素、脂環式炭化水素および芳香族炭化水素から選ばれる一種以上である請求項1〜請求項6に記載のオレフィン類重合用遷移金属含有固体触媒。
【請求項8】
(a)マグネシウム化合物と、(b)遷移金属化合物と、(c)酸素原子と化学結合を形成してなる炭素原子を有する電子供与体とを接触させてなるオレフィン類重合用遷移金属含有固体触媒の性能評価方法であって、
固体核磁気共鳴装置により、磁場強度7テスラ以上、回転速度6kHz以上の条件下で前記オレフィン類重合用遷移金属含有固体触媒の13C核磁気共鳴スペクトルを得、
次いで、テトラメチルシランに由来する信号位置をケミカルシフト0ppmとしたときに、前記酸素原子と化学結合を形成してなる炭素原子の原子核に由来するケミカルシフト値165ppm〜175ppmに現れる信号またはケミカルシフト値60ppm〜80ppmに現れる信号のいずれかの積分強度に対する、ケミカルシフト値90ppm〜100ppmに現れる信号の積分強度の比を得、
得られた積分強度の比の大小により触媒性能を評価することを特徴とするオレフィン類重合用遷移金属含有固体触媒の性能評価方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2012−46593(P2012−46593A)
【公開日】平成24年3月8日(2012.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−188361(P2010−188361)
【出願日】平成22年8月25日(2010.8.25)
【出願人】(390007227)東邦チタニウム株式会社 (191)
【Fターム(参考)】