説明

オーステンパダクタイル鉄を用いる土木機械又は材料処理機械用装置の少なくとも部品を製造する方法

掘削機,トラクター,刈取り機,運搬機,クレーン等の土木機械又は材料処理機械(10)のアーム(12)に直接的又は間接的に取り付けられ,それにより,バケット,グラップル,フォーク,振動圧縮機又は刈取り用ヘッド等のツール(14)を機械のアームに対して結合及び/又は位置決め(傾斜及び/又は回転)できるようにするための装置(22)の少なくとも一部品を製造する方法。この方法は,a)非合金又は合金ダクタイル鉄を含む溶融物を作成するステップと,b)前記溶融物から装置(22)の少なくとも一部品を鋳造するステップと,c)装置の前記少なくとも一部品を冷却するステップと,d)装置の前記少なくとも一部品をオーステナイト化するステップと,(e)装置の前記少なくとも一部品を焼入れするステップと,(f)装置の前記少なくとも一部品をオーステンパするステップと,g)装置の前記少なくとも一部品を冷却するステップとを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,掘削機,トラクター,刈取り機,運搬機(forwarder),クレーン等の土木機械又は材料処理機械の関節アームに直接的又は間接的に取り付けて,バケット,グラップル,フォーク,振動圧縮機又は刈取り用ヘッド等のツールを機械のアームに結合及び/又は位置決め(傾き及び/又は回転)することを可能にする機械操作式又は油圧操作式装置等の装置を製造するための方法に関する。本発明はまた,前記方法を用いて製造された装置,及び,このような装置を備えた機械に関する。
【背景技術】
【0002】
掘削機,トラクター,刈取り機,運搬機又はクレーン等の土木機械又は材料処理機械は,例えば,溝,穴及び基礎の掘削,建物及びその他の構造物の取り壊し,景観整備,建設,採鉱及び河川浚渫,丸太の伐採と運搬,物体の持ち上げと配置等の種々様々な用途で使用される。そのような機械の多用性は,当該機械のツールを素早く交換できる場合及び/又は関節アームに対する傾斜及び/又は回転によって位置決めできる場合にかなり高くなる。これらの機能のうちの1種又は数種を可能にする機械操作式又は油圧操作式装置は,機械の生産性を大幅に向上させる。結合及び/又は位置決め(傾斜及び/又は回転)を行う装置は,様々なツールを具備する機械の使用中に受けるであろう大きな機械応力に耐えることができるよう,強く頑丈かつ耐摩耗性のある材料で製作されなければならない。
【0003】
そのような装置の多くは,機械加工された何枚かの鋼板を溶接し,その後で仕上げ機械加工を行うことにより製造される。溶接応力によって生じるひずみを少なくするため,多くの場合,仕上げ機械加工前に応力除去する熱処理が必要である。更に,使用時にツールの一部又は歯車や軸受等の他の構成要素の一部と接触する装置表面は,耐摩耗性を改善するために局部硬化(local hardening)や局部処理を必要とする場合がある。或いは,接触面のトライボロジー要件の幾つかを,凝着摩耗や焼付きを防ぐために,青銅等のより柔軟で化学的に異なる(すなわち,鋼や鉄と比較して異なる)材料を使用することによって満たすものとする。しかしながら,これには幾つかの欠点がある。すなわち,そのような装置は,最初の慣らし運転後,連続的な塑性変形を起こさずには大きな接触力に耐えることができず,従って定期的に交換されなければならない。また,そのような装置は,鉄系の負荷支持構造に接合するときに問題が生じる。
【0004】
鋼製装置を鋳造によって製造することは,特に装置を複雑な形状にする必要がある場合には,経済的にみて実現可能でない場合が多い。その理由は,鋼が凝固するときの大きな収縮によってできる,内部収縮ボイドのない装置を作製するために大量の押湯(冷却中に凝固する鋳物に追加の溶融物を提供する)が必要となるためである。そのような大量かつ多数の押湯は,装置製造工程のコストと複雑さを高める。鋳鋼製装置の機械的性質を十分高めるため,仕上げ機械加工前に硬化(hardening)とその後の焼戻し(tempering)が必要である。また,最終機械加工前に応力除去のための熱処理が必要な場合もある。更に,ツールと接触する装置表面は,耐摩耗性を改善するために局部硬化を必要とする場合がある。
【0005】
ダクタイル鉄の鋳造品における凝固収縮は鋼の鋳造品における凝固収縮の半分未満であるが,ツールと接触する装置結合面では,ダクタイル鉄は,鋳放し状態では十分な機械的性質を有しないことが多い。
【0006】
発明の概要
本発明の目的は,掘削機,トラクター,刈取り機,運搬機又はクレーン等の土木機械又は材料処理機械の関節アーム又は非関節アームに直接的又は間接的に取り付けられる,ツールの結合及び/又は位置決め(傾斜及び/又は回転)のための装置の少なくとも一部品を製造するための改善された方法を提供し,それにより,土木機械又は材料処理機械における前記装置の部品の,少なくとも一の製造部品を使用することにより,土木機械又は材料処理機械の運転コストを削減することである。装置の少なくとも一部分は,アームの端等の土木機械又は材料処理機械のアームの任意の部分に取り外し可能に取り付けられてもよく,その部分に固定式に取り付けられてもよい。装置はアームの一部を有してもよく,それにより,アームの一部を有する装置が,土木機械又は材料処理機械のアームの別の部分,すなわち残りの部分に取り付けられることに注意されたい。更に,装置は機械操作式装置でもよく,又は油圧操作式装置でもよい。
【0007】
この目的は,機械操作式又は油圧操作式結合及び/又は位置決め(傾斜及び/又は回転)を行うための装置の少なくとも一部品を製造する方法によって達成され,この方法は,請求項1記載のステップ,すなわち,
a)非合金又は合金ダクタイル鉄を含む溶融物を作成するステップと,
b)溶融物から装置の少なくとも一部品を鋳造するステップと,
c)装置の少なくとも一部品を冷却するステップと,
d)装置の少なくとも一部品をオーステナイト化するステップと,
e)装置の少なくとも一部品を焼入れするステップと,
f)装置の少なくとも一部品をオーステンパするステップと,
g)装置の少なくとも一部品を冷却するステップと
を含む。
【0008】
この方法により,オーステンパダクタイル鉄(ADI;austempering ductile iron)を含む装置又は少なくとも一の装置部品が製造される。
【0009】
装置全体を製造する場合,装置は,土木機械又は材料処理機械のアームに取り付けられることができる。装置の一又はそれ以上の部品を製造する場合,装置は,製造された部品を使用し,例えばある部品を装置の一又は複数の別の部品にボルト締めすることによって構成され,次に土木機械又は材料処理機械のアームに取り付けられるものとすることができる。
【0010】
オーステンパダクタイル鉄(ADI)は,「オーステンパ」と呼ばれる熱処理の結果として,従来のダクタイル鉄よりも改善された強度及び延性特性を有する。典型的なオーステンパ熱処理サイクルでは,鋳物は最初に加熱され,次に鋳物が完全にオーステナイト系(austenitic)になり,かつ,マトリクスが炭素で飽和するまでオーステナイト化温度に維持される。鋳物は,完全にオーステナイト化された後,焼入れ中のパーライト(又は固溶強化フェライト(solution strengthen ferrite))の形成を防ぐために十分に高い焼入れ速度で塩浴内で焼入れされる。次に,鋳物は,「オーステンパ」温度と呼ばれる温度で維持される。恒温オーステンパの後,鋳物は,例えば室温まで冷却される。
【0011】
オーステナイト化する間のオーステナイト中への炭素の固溶を促進するには,通常,高炭素(セメンタイトFe3C)領域から低炭素(フェライト)領域への拡散距離を短くするために,ADI生成の前駆体として実質的に完全にパーライトの鋳放し微細構造が使用される。フェライトダクタイル鉄では,炭素が,黒鉛ノジュールから,形成されるオーステナイトマトリクス内に更に数桁多く拡散しなければならず,非常に長いオーステナイト化時間及び/又はより高いオーステナイト化温度が必要になる。
【0012】
ADI鋳物は,従来のダクタイル鉄と比較して,同じ延性レベルで少なくとも2倍の強度を有するか,同じ強度レベルで少なくとも2倍の延性を示す。ADIを鋳造し熱処理するコストは,同じ強度の鋳鋼品の場合よりかなり低い。ADIの優れた機械的性質は,高い炭素含有量により熱力学的に安定化されたオーステナイトのマトリクス中の針状フェライトの極めて細い針のオースフェライト微細構造から生じる。オーステンパダクタイル鉄のケイ素含有量は,普通鋼よりはるかに高いので,セメンタイト(Fe3C)の代わりに黒鉛中の炭素を安定化させ,従って,オーステンパが長すぎない限りカーバイドの析出が防止される。
【0013】
従って,ADIを含む少なくとも一の装置部品は,高い強度,良好な耐疲労性,優れた耐摩耗性,及び優れた衝撃及び破壊靱性を提供し,これは,土木機械又は材料処理機械で用いるには理想的である。その結果,ADIを含む少なくとも一の装置部品は,鋼で作製された装置や装置部品のように頻繁に交換する必要がなく,それにより,ADIからなる少なくとも一の装置部品が使用された土木機械又は材料処理機械の運転コストが削減される。
【0014】
ADIはまた,鋼より約10%軽く,現在,同じ強度の鋼より約20%安価である。軽量にされた少なくとも一の装置部品を土木機械又は材料処理機械に用いることにより,少なくとも一の装置部品が取り付けられたアームの操縦性が改善され,持上げ能力が向上し,土木機械又は材料処理機械の燃料消費が減少し,それにより環境適合性が向上し,土木機械又は材料処理機械の運転コストが更に低下する。
【0015】
本発明の一実施形態によれば,この方法は,鋳造工程中,又は,ADI処理前に行われるその後の機械加工中に,装置の少なくとも一部品の少なくとも一表面を形成するステップを含み,それにより,ADIの少なくとも一面の表面材料が,少なくとも一の装置部品の使用時にマルテンサイトに変態し,これにより耐摩耗面が少なくとも一面形成される。そのような面は,連結器の対応部分等のツールの一部分,平歯車,はすば歯車,傘歯車,ウォーム歯車,ラックアンドピニオン等の歯車,滑り軸受,ブッシング,ジャーナル又はスラスト軸受等の軸受,或いは任意の他の構成要素と使用中に接触する装置の任意の部品上に作成することができる。少なくとも一のADI装置部品が使用されており,かつ,少なくとも一面が大きな接触力を受けるとき,少なくとも一の装置部品の少なくとも一面に,ひずみで誘起される相転移が起こる。少なくとも一面におけるオースフェライト中のオーステナイトマトリクスは,硬度がより高く稠密度が低い(less close-packed)マルテンサイトに変態し,その結果,少なくとも一の装置部品のコア内に変化しないまま残っている強靱で延性を有するオースフェライト構造に圧縮面応力がもたらされる。従って,使用中に最も必要とされる装置部品に耐摩耗面が形成され再生成される。オースフェライト構造のこの固有の特性は,一般の加工硬化より有効である。従って,ADI装置又は装置部品が鋳造されオーステンパされた後で装置又は装置部品に耐摩耗面を設ける特別な工程ステップは不要であり,従って,製造時間,複雑さ及びコストが減少する。また,同じ変態は,ショットピーニングやボールバニッシングによる表面の耐疲労性を改善する場合にも有利である。
【0016】
本発明の一実施形態によれば,本発明の方法は,ADIを形成する処理の前のステップc)とステップd)の間(すなわち,装置の少なくとも一部品がまだ鋳放し非合金又は合金ダクタイル鉄を含む間)に装置の少なくとも一部品を機械加工するステップを含む。ADIを機械加工する場合,前述の相転移は,ツール面の前(in front of the tool face)で起こり,材料の機械加工を極めて困難にする。この問題は,オーステナイト化及びオーステンパに先立ち,鋳造されたダクタイル鉄装置又は装置部品を機械加工してADIを形成することによって回避される。或いは又は加えて,例えば何らかの特定の表面処置を必要とするか寸法公差を極めて小さくしなければならない場合,構成要素をオーステンパステップf)の後で機械加工してもよい。
【0017】
本発明の一実施形態によれば,装置は連結器を含むか又は連結器で構成される。本発明の別の実施形態によれば,装置は回転子や傾斜回転子等,前記ツールを回転させ及び/又は傾斜させ及び/又は直線的に(linearly)移動させる手段を備える。
【0018】
本発明の一実施形態によれば,本発明の方法は,装置を単一片として鋳造するステップを含む。
【0019】
本発明の一実施形態によれば,本方法は,ケイ素含有量が3.35重量%〜4.60重量%の非合金又は合金ダクタイル鉄から装置の少なくとも一部品を鋳造するステップを含む。
【0020】
ダクタイル鉄に関する最初の特許(すなわち,1949年に発行された米国特許第2,485,760号)以来ずっと,ケイ素含有量が高いとダクタイル鉄の延性が低下するという共通の誤解がある。しかしながら,このことは,高いケイ素含有量(すなわち,2.7重量%を超えるケイ素含有量)によって固溶強化されたフェライトダクタイル鉄と,より弱い従来のフェライト系材料とを不適切に比較したときしか当てはまらず,フェライト固溶強化ダクタイル鉄は,類似の強度の従来のフェライトパーライト材料と適切に比べると明かに延性が高い。更に,類似の強度(500MPa UTS)のダクタイル鉄を比較したとき,硬さの標準偏差は,通常,従来のフェライトパーライト材料の場合の±24HBW単位(ブリネル硬度値単位)からフェライト固溶強化ダクタイル鉄の場合の±4まで減少し,また機械加工性は,パーライト中のカーバイドの欠如により少なくとも20%改善されることが分かった。
【0021】
例えば,「オーステンパダクタイル鉄鋳物の標準規格(Standard Specification for Austempered Ductile Iron Castings)」(名称:897M−06。2006年4月3日,米国材料試験協会(ASTM)刊)では(7ページ,表X1.2),ケイ素が黒鉛の形成を促進し,オーステナイト中の炭素の固溶度(solubility)を低下させ,共析温度を高め,ベイナイトカーバイドの形成を抑制するため,ケイ素は,ADI中の最も重要な元素の一つであると述べている。また,ケイ素の含有量が高すぎるとフェライトを安定化させ局所領域内においてオースフェライトを抑制する可能性があると警告している。従って,ケイ素の推奨量は2.50%±0.20%とされている。この規格では熱処理パラメータ(温度,保持時間及び冷却速度)は指定されていないが,科学文献では,オーステンパの影響が強調されており,これに先立って行われるオーステナイト化の段階はあまり注目されていない。Siの含有量が3.35%未満の従来のADIでは,オーステナイト化温度は,通常,900℃を超えることはなく,Siが3.35%〜4.60%の高いケイ素含有量を有するダクタイル鉄をオーステンパするために行われた幾つかの試みでは,オーステナイト化温度は910℃より低かった。
【0022】
ADIに関する科学文献と特許文献の双方で支配的な見解によれば,高いケイ素含有量(2.7重量%超)も高いオーステナイト化温度(すなわち,910℃以上の温度)も有益ではなく,焼入れ性には比較的大量の銅,ニッケル及びモリブデンの添加が必要である。これに対して,高温(すなわち,少なくとも910℃の温度)でオーステナイト化され,また銅,ニッケル又はモリブデンを殆ど又は全く含まない高ケイ素含有量(すなわち,3.35重量%〜4.60重量%)のADIは,従来のADIより優れた幾つかの利点を有することが見出された。すなわち,ADIの熱処理性能と機械的性質の双方が改善される。
【0023】
如何なる理論にも縛られるつもりはないが,ケイ素含有量が異常に高いとダクタイル鉄を鋳造する間の球状化率とノジュール密度(nodule density)が高くなるようである。比較的厚い部品を鋳造するときでも,銅,ニッケル及びモリブデンの高価な金属焼入れ添加物が不要であり,これにより製造コストが減少する。ケイ素含有量が多いとオーステナイト化温度からオーステンパ温度に冷却する間のパーライトの形成が遅れて焼入れ性が改善されるので,通常,焼入れ添加物は不要である。なお,他の状況では,パーライトが形成されると,微細構造の強度が低下する。更に,より厚い鋳物でも,コア内に生成される微細構造は,パーライトではなく固溶強化型フェライトになり,ADIの機械的特性に及ぼす悪影響を減少させる。
【0024】
また,基本組成は,ケイ素によって固溶強化されるフェライト構造のため,極めて良好な機械加工性を示す。従来のパーライト微細構造及びフェライト−パーライト微細構造は,ツールの摩耗を早め,微細構造中において強度と硬度を大幅に変化させ,これにより,機械加工パラメータを最適化し,かつ,幾何公差を小さくするのが極めて困難になる。
【0025】
ケイ素含有量が多くなると,脆いベイナイト(フェライト+セメンタイトFe3C)の形成が更に遅くなるか又は完全に防止され,それにより,オーステンパ中のオースフェライト(高炭素含有量によって熱力学的に安定化されたダクタイルオーステナイトのマトリクス中の針状フェライト)への完全な等温変態が可能になる。オーステンパ後の熱力学的安定化とオーステナイト相の量は,フェライトマトリクスをオーステナイト化する間の適切な時間に炭素が黒鉛ノジュールから拡散するのに必要なオーステナイト化温度が高いほど炭素が高濃度になるので改善される。また,ケイ素含有量が3.35重量%〜4.60重量%のADIは,主にマンガンとモリブデンの偏析の減少,脆いカーバイドの形成の防止,及び延性マトリクスを提供する安定化オーステナイト中の炭素量の増大により,ケイ素含有量が2.4〜2.6重量%の従来のADIに比べ,強度と延性の双方が改善される。
【0026】
本発明の一実施形態によれば,非合金ダクタイル鉄は,以下の組成を有する(重量%)。
・C 3.0〜3.6
・Si 3.35〜4.60
・Mn 最大0.4
・P 最大0.05
・S 最大0.02
・Cu 最大0.1
・Ni 最大0.1
・Mo 最大0.01
・残部 Fe及び不可避的不純物
【0027】
本発明の別の実施形態によれば,合金ダクタイル鉄は,以下の組成を有する(重量%)。
・C 3.0〜3.6
・Si 3.35〜4.60
・Mn 最大0.4
・P 最大0.05
・S 最大0.02
・Cu 最大0.8
・Ni 最大2.0
・Mo 最大0.3
・残部 Fe及び不可避的不純物
【0028】
本発明の一実施形態によれば,本方法は,ダクタイル鉄を少なくとも910℃又は少なくとも930℃の温度でオーステナイト化するステップを含む。
【0029】
本発明の別の実施形態によれば,本方法は,装置の少なくとも一部品をオーステナイト化するために,オーステナイト化温度を,ケイ素含有量に応じて少なくとも30分間の所定時間維持するステップを含む。所定時間は,ケイ素含有量が多いほど長くされる。本発明の一実施形態によれば,オーステナイト化ステップは,炭素の酸化を防ぐために,窒素雰囲気,アルゴン雰囲気,塩浴,又は解離アンモニア雰囲気等の任意の還元雰囲気中で実行される。
【0030】
本発明の別の実施形態によれば,本方法は,ケイ素含有量が3.35重量%〜4.60重量%の非合金又は合金ダクタイル鉄を含む溶融物を作成するステップと,該溶融物から装置の少なくとも一部品を鋳造するステップと,装置の少なくとも一部品を冷却するステップと,装置の少なくとも一部分の少なくとも一部品を少なくとも910℃又は少なくとも930℃の第一の温度で熱処理し,装置の少なくとも一部品をその温度で所定時間維持して装置の少なくとも一部品をオーステナイト化するステップと,少なくとも150℃/分等のパーライトの形成を防ぐのに十分な焼入れ速度で焼入れするステップとを含む。このステップにおいて「所定時間」という表現は,オーステナイト化される装置の少なくとも一部品をオーステナイト化温度まで加熱し,オーステナイトを炭素で飽和させてオースフェライト構造を生成するのに十分な時間を意味するものである。オーステナイト化は,高温塩浴,炉,又は炎や誘導加熱等の局所的方法を用いて達成できる。
【0031】
次に,少なくとも一の装置部品が,パーライトの形成を防ぐのに十分な速度で塩浴内で焼入れされる。次に,少なくとも一の装置部品は,250〜400℃,好ましくは350〜380℃の温度でオーステンパされ,その温度で断面寸法に応じて30分〜2時間等の所定時間維持され,次に室温に冷却される。このステップの「所定時間」という表現は,装置の少なくとも一部品にオースフェライトのマトリクスを作成するのに十分な時間を意味するものである。オーステンパするステップは,塩浴,高温油,又は溶融鉛又はスズを用いて達成されてもよい。装置の少なくとも一部品は,250〜400℃,好ましくは350〜380℃の第2の温度まで加熱され,装置の少なくとも一部品をオーステンパするためにその温度で所定時間維持される。
【0032】
本発明は,また,掘削機,トラクター,刈取り機,運搬機又はクレーン等の土木機械又は材料処理機械の関節アームに直接的又は間接的に取り付け,それにより,バケット,グラップル,フォーク,振動圧縮機,刈取りヘッド等のツールの結合及び/又は位置決め(傾斜及び/又は回転)を可能にする機械操作式又は油圧操作式装置に関する。装置の少なくとも一部品又は装置全体が,先行する請求項のいずれかによる方法を用いて製造される。
【0033】
本発明の一実施形態によれば,装置の少なくとも一部品は,少なくとも900MPa,好ましくは少なくとも1000MPa,及び,最も好ましくは少なくとも1050MPaの最大引張強度(UTS;ultimate tensile strength)を示す。
【0034】
本発明の別の実施形態によれば,装置の少なくとも一部品は,少なくとも600MPa,好ましくは少なくとも650MPa,より好ましくは少なくとも750MPa,及び,最も好ましくは少なくとも850MPaの降伏強度を示す。
【0035】
本発明の更に他の実施形態によれば,装置の少なくとも一部品は,少なくとも9%の破断伸度を示す。
【0036】
本発明の一実施形態によれば,装置は,連結器を備えるか,又は連結器で構成される。
【0037】
本発明は,更に,少なくとも1本のアームと,少なくとも1本のアームに直接的又は間接的に取り付けられた機械操作式又は油圧操作式装置とを有する土木機械又は材料処理機械に関し,それにより,該装置は,バケット,グラップル,フォーク,振動圧縮機又は刈取りヘッド等のツールを機械の少なくとも1本のアームに対して結合及び/又は位置決め(傾斜及び/又は回転)できるように構成され,それにより,土木機械又は材料処理機械は,本発明の実施形態のうちのいずれかによる装置を備える。そのような土木機械又は材料処理機械は,特に,建築,採鉱,資源回収,林業,一般貨物及び材料取扱いに使用されるが,これらに限定されない。
【0038】
以下,本発明を添付図面を参照して,非限定的な例により更に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本発明の一実施形態による土木機械,すなわち掘削機を示す。
【図2】本発明の一実施形態,すなわちツール連結器を有する傾斜回転子からなる装置を備える掘削機の関節アームの端を示す。
【図3】本発明の一実施形態,すなわち,掘削機のアームの端に取り付けるためのツール連結器を有する傾斜回転子からなる装置を示す。
【図4】図3に示した装置の分解図である。
【図5】本発明の一実施形態による装置を示し,この装置は,ADIから製造されるか又はADIを含むグラップルモジュールを備える。
【図6】本発明の別の実施形態,すなわち,材料処理機械のアームの端に取り付けるための振子制動(揺動減衰)取付け機構(リンク)を有する回転子を備えた装置を示す図である。
【図7】本発明の一実施形態,すなわちアームの最外部分への取付け機構(リンク)と刈取りヘッドへの連結器とを有する回転子からなる装置を有する材料処理機械,すなわち丸太伐採機の関節アームの端を示す図である。
【図8】本発明による方法の一部分である熱処理サイクルを示す。
【0040】
図面は一律の縮尺で描かれておらず,また分かりやすくするために特定の特徴の寸法が誇張されていることに注意されたい。
【0041】
実施形態の詳細な説明
図1は,ツール14(すなわち,あご付きバケット(jawed bucket))が取り付けられた1本の関節アーム12を具備する土木機械10,すなわち,掘削機を示す。掘削機10は,オペレータ用のキャビン16を備える。キャビン16は,キャタピラ20を備えた車台の上の回転台18上に取り付けられる。ツール14の動きは,キャビン16からオペレータによって電子制御される。或いは,掘削機10は,例えば人間にとって危険な環境で使用される場合は遠隔操作されてもよい。そのような掘削機は3〜30トン以上の重量を有するであろう。
【0042】
関節アーム12は,図2に示すようなツール支持端を有する。ツール14は,ツール連結器を有する傾斜回転子からなる装置22を介してアーム12の端に取り付けられる。図2に示す幅広矢印が示すように,装置22は,ツール14が,例えば±40°の角度範囲で傾斜し及び/又は例えば360°回転できるように構成されることができる。これは,障害物の回り,上方又は下方でのツール14の位置決め及びツール14の変位を容易にし,従って掘削機10の柔軟性と精度を改善する。装置22は,油圧シリンダ及びモータによって傾斜及び/又は回転されてもよい。
【0043】
図3及び図4はそれぞれ,装置22の取り付けられた状態と分解図を示す。装置22は,該装置22を掘削機10のアーム12に取り付けるための取付け機構24(図4では,ピン留め式又は連結器を備えたツール支持アーム端のための代替品が示される)と,油圧モータによって駆動されるウォーム歯車を具備し,時計回り方向又は反時計回り方向の無制限回転を提供する回転子体26とを備える。本発明の一実施形態による装置は,回転,傾斜,若しくは直線変位,又はこれらの任意の組み合わせを提供するための任意の手段を備えてもよいことに注意されたい。液圧シリンダ25は,例えば±40°の角度に亘る回転子体26の傾斜をもたらす。装置22はツールが取り付けられる連結器28も備える。本発明の一実施形態によれば,連結器28の構造体は,ADIから単一片として鋳造され,ツール14の結合部分を収容するためのソケットを有する。
【0044】
ADI連結器28の化学組成は,例えば,約3.4〜3.8重量%の炭素,2.3〜2.7重量%のケイ素,0.3〜0.4重量%のマンガン,最大0.015重量%の硫黄,及び最大0.06重量%のリンである。連結器28を鋳造する間に,オーステナイト化温度(austenitization temperature)からオーステンパ温度(austempering temperature)までの冷却速度が遅いことによりコア内に好ましくないパーライトが形成されるのを防ぐために,鋳造物の厚さに応じ,基本組成に,最大0.8重量%の銅,最大2.0重量%のニッケル,及び最大0.3重量%のモリブデン等の合金元素を添加することができる。
【0045】
装置22の使用中にツール14の結合面と接触するソケットの表面29は,加工硬化され耐摩耗性になる。それぞれの固有のケースでの加工条件により,結合及び/又は位置決め用装置の部品の全てではなく,そのうちの幾つかの部品を,ADIから鋳造してもよいことに注意されたい。
【0046】
本発明の幾つかの実施形態では,装置22から位置決め(傾斜及び/又は回転)機能が除外され得る,すなわち,装置22は,掘削機10のアーム12に取り付けるための取付け機構24と,ツール14用の連結器28だけを備え得ることに注意されたい。更に,取付け機構24と連結器28は,一体型ユニットとして一部品で製造されてもよい。
【0047】
図5は,本発明の一実施形態による装置22を示し,それにより該装置は,連結器28を備えた傾斜回転子に加えてツール,すなわち,連結器28(図5ではグラップルモジュールの後ろに隠れている)に取り付けられたグラップルモジュール25も備える。グラップルモジュール25は,ADIから製造されるか又はADIを含み,通常は,連結器28によって保持されたバケットである主ツールを別のグラップルモジュールと交換する必要なく,パイプ,丸太,縁石等の物体を掴んで取り扱うように構成される。
【0048】
図6は,材料処理機械用装置22の一実施形態を示す。装置22は,油圧ベーンモータによって駆動され,かつ,時計回り方向又は反時計回り方向の無制限の回転を提供する回転子26を,材料処理機械のアームの最外部分12eに取り付けるための振子制動式(揺動減衰式)取付け機構(リンク)24と共に備える。連結器28には,グラップル,バケット,フォーク,刈取り用ヘッド等のツールを取り付けることができる。本発明のどの実施形態による装置も必ずしも土木機械又は材料処理機械のアームの端に取り付けられなくてもよく,アーム上のどこに取り付けられてもよいことに注意されたい。
【0049】
図7は,丸太伐採機用装置22の別の実施形態を示す。装置22は,上側取付け機構(リンク)24と,丸太伐採機のアーム12と刈取り用ヘッド14間の連結器28との間に配置された回転子26を備える。
【0050】
図8は,本発明による方法の一部分である熱処理サイクルを示す。非合金又は合金ダクタイル鉄で作製された装置の少なくとも一部品は,加熱され[ステップdi)],該装置の少なくとも一部品が完全にオーステナイトになりマトリクスが炭素で飽和されるまで800〜1000℃のオーステナイト化温度に維持される[ステップdii)]。装置の少なくとも一部品が完全にオーステナイト化された後,焼入剤中で例えば150℃/分以上の速い焼入れ速度で焼入れされ[ステップe)],250〜400℃のオーステンパ温度に維持される[ステップf)]。等温オーステンパの後で,装置の少なくとも一部品が,室温に冷却される[ステップg)]。次に,このように少なくとも部分的にADIで作製された装置は,土木機械又は材料処理機械に取り付けられる。
【0051】
特許請求の範囲内の本発明の更なる変更は当業者には明らかであろう。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
掘削機,トラクター,刈取り機,運搬機又はクレーン等(10)の土木機械又は材料処理機械のアーム(12)に直接的又は間接的に取り付けるための装置(22)の少なくとも一部品を製造するための方法であって,前記装置(22)は,バケット,グラップル,フォーク,振動圧縮機,刈取りヘッド等のツール(14)を保持するように構成され,
a)非合金又は合金ダクタイル鉄を含む溶融物を作成するステップと,
b)前記溶融物から前記装置(22)の前記少なくとも一部品を鋳造するステップと,
c)前記装置の前記少なくとも一部品を冷却するステップと,
d)前記装置の前記少なくとも一部品をオーステナイト化するステップと,
e)前記装置の前記少なくとも一部品を焼入れするステップと,
f)前記装置の前記少なくとも一部品をオーステンパするステップと,
g)前記装置の前記少なくとも一部品を冷却するステップと
を含むことを特徴とする方法。
【請求項2】
前記装置(22)の前記少なくとも一部品を機械加工するステップを,前記ステップc)と前記ステップd)の間に含むことを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項3】
鋳造工程中,又は,ADI処理前に行われるその後の機械加工中に,前記装置(22)の前記少なくとも一部品の少なくとも一表面(29)を形成するステップを含み,それにより,前記装置(22)の前記少なくとも一部品が使用中に大きな接触力に曝される際に,前記少なくとも一表面(29)の表面材料は,その後,マルテンサイトに変態し,装置部品に耐摩耗面が形成され,その後,再生成されることを特徴とする請求項1又は2記載の方法。
【請求項4】
前記装置(22)は,連結器を備えるか,又は連結器で構成されることを特徴とする請求項1〜3いずれか1項記載の方法。
【請求項5】
前記装置(22)は,回転子(26)又は傾斜回転子等の前記ツール(14)を回転させ及び/又は傾斜させ及び/又は直線的に移動させる手段を備えることを特徴とする請求項1〜4いずれか1項記載の方法。
【請求項6】
前記装置(22)の少なくとも一部品を単一片として鋳造するステップを含むことを特徴とする請求項1〜5いずれか1項記載の方法。
【請求項7】
3.35重量%〜4.60重量%の高ケイ素含有量の非合金又は合金ダクタイル鉄から前記装置(22)の前記少なくとも一部品を鋳造するステップを含むことを特徴とする請求項1〜6いずれか1項記載の方法。
【請求項8】
前記非合金高ケイ素ダクタイル鉄は,以下の組成(重量%):
・C 3.0〜3.6
・Si 3.35〜4.60
・Mn 最大0.4
・P 最大0.05
・S 最大0.02
・Cu 最大0.1
・Ni 最大0.1
・Mo 最大0.01
・残部 Fe及び不可避的不純物
を有することを特徴とする請求項7記載の方法。
【請求項9】
前記合金ダクタイル鉄は,以下の組成(重量%):
・C 3.0〜3.6
・Si 3.35〜4.60
・Mn 最大0.4
・P 最大0.05
・S 最大0.02
・Cu 最大0.8
・Ni 最大2.0
・Mo 最大0.3
・残部 Fe及び不可避的不純物
を有することを特徴とする請求項7記載の方法。
【請求項10】
前記ダクタイル鉄を少なくとも910℃又は少なくとも930℃の温度でオーステナイト化するステップを含むことを特徴とする請求項8又は9記載の方法。
【請求項11】
前記装置(22)の前記少なくとも一部品をオーステナイト化するため,前記オーステナイト化温度を,少なくとも30分間の所定時間維持するステップを含む請求項10記載の方法。
【請求項12】
・ケイ素含有量が3.35重量%〜4.60重量%の非合金又は合金ダクタイル鉄を含む溶融物を作成するステップと,
・前記溶融物から前記装置(22)の前記少なくとも一部品を鋳造するステップと,
・前記装置(22)の前記少なくとも一部品を冷却するステップと,
・前記装置(22)の前記少なくとも一部分の少なくとも一部品を,少なくとも910℃又は少なくとも930℃の第一の温度で熱処理し,前記装置(22)の前記少なくとも一部品を前記温度で所定時間維持して前記装置(22)の前記少なくとも一部品をオーステナイト化するステップと,
・前記装置(22)の前記少なくとも一部品を,少なくとも150℃/分等のパーライトの形成を防ぐのに十分な焼入れ速度で焼入れするステップと,
・前記装置(22)の前記少なくとも一部品を,250〜400℃,好ましくは350〜380℃の第二の温度に熱処理し,前記装置(22)の前記少なくとも一部品を前記温度で少なくとも30分間の所定時間保持して前記装置(22)の前記少なくとも一部品をオーステンパするステップと
を含む請求項7〜11いずれか1項記載の方法。
【請求項13】
掘削機,トラクター,刈取り機,運搬機又はクレーン等の土木機械又は材料処理機械(10)のアーム(12)に直接的又は間接的に取り付けるための装置(22)であって,それにより,前記装置(22)は,機械のアームに対し,バケット,グラップル,フォーク,振動圧縮機,刈取りヘッド等のツール(14)の結合及び/又は位置決め(傾斜及び/又は回転)を可能にするように構成されており,前記装置(22)の前記少なくとも一部品が1〜12いずれか1項記載の方法を用いて製造されたものである装置(22)。
【請求項14】
前記装置(22)の前記少なくとも一部品が少なくとも900MPa,好ましくは少なくとも1000MPa,及び,最も好ましくは少なくとも1050MPaの最大引張強度(UTS)を示すことを特徴とする請求項13記載の装置(22)。
【請求項15】
前記装置(22)の前記少なくとも一部品は,少なくとも600MPa,好ましくは少なくとも650MPa,より好ましくは少なくとも750MPa,及び,最も好ましくは少なくとも850MPaの降伏強度を示すことを特徴とする請求項13又は14記載の装置(22)。
【請求項16】
前記装置(22)の前記少なくとも一部品は,少なくとも9%の破断伸度を示すことを特徴とする請求項13〜15いずれか1項記載の装置(22)。
【請求項17】
前記装置(22)は,連結器を備えるか,又は連結器で構成されることを特徴とする請求項13〜16いずれか1項記載の装置(22)。
【請求項18】
前記装置(22)は,回転子(26)や傾斜回転子等,前記ツール(14)を回転させ及び/又は傾斜させ及び/又は直線的に移動させる手段を備えることを特徴とする請求項13〜17いずれか1項記載の装置(22)。
【請求項19】
請求項12〜18いずれか1項記載の前記装置(22)を備えることを特徴とする土木機械又は材料処理機械(10)。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公表番号】特表2010−513709(P2010−513709A)
【公表日】平成22年4月30日(2010.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−541266(P2009−541266)
【出願日】平成19年12月17日(2007.12.17)
【国際出願番号】PCT/SE2007/051013
【国際公開番号】WO2008/076067
【国際公開日】平成20年6月26日(2008.6.26)
【出願人】(509168601)インデクスター アクチボラゲット (3)
【Fターム(参考)】