説明

オーディオ再生装置、オーディオ再生方法、およびプログラム

【課題】瞬時的な大音量の発生を防止でき、不自然な音として知覚されることを防止できるオーディオ再生装置、オーディオ再生方法、およびプログラムを提供する。
【解決手段】信号レベル増加時に作用するアタックタイムおよび信号レベル減少時に作用するリリースタイムを制御するための時定数を、パワー計算部120で計算されたパワー値と分散計算部130で計算された分散値との差分に応じて決定する時定数決定部140と、入力信号レベルおよび時定数決定部で取得された時定数により上記アタックタイムおよびリリースタイムを制御する制御部150と、制御部で制御されたアタックタイムおよびリリースタイムに応じた音量調整用ゲインを決定するゲイン決定部160と、ゲイン決定部によるゲインに応じて入力オーディオ信号のレベルを調整し、音量を調整する音量調整部180とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、CDプレーヤ、DVDプレーヤ、テレビジョン等におけるオーディオ再生に適用可能なオーディオ再生装置、オーディオ再生方法、およびプログラムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
オーディオの再生音量は、CDプレーヤ、DVDプレーヤ、テレビジョン(TV)等の再生装置、並びに映画や音楽等の再生ソースにより大きく異なる。
【0003】
また、TVなどでは、チャンネル間、番組とコマーシャル(CM)間でも大きく異なり、これらに対して、視聴者は都度、音量調整を手動で行う必要がある。
【0004】
このような問題に対し、一般的なオーディオ再生装置においては、入力信号レベルに応じて、ゲインを計算し、このゲインを用いて信号レベルの音量を調整している。
【0005】
図1は、一般的なオーディオ再生装置の構成例を示す図である。
図2は、オーディオ再生装置の入出力特性の一例を示す図である。
【0006】
図1のオーディオ再生装置10は、レベル検出部11、アタックタイム/リリースタイム制御部12、ゲイン算出部13、および調整部14を有する。
【0007】
アタックタイム/リリースタイム制御部12は、レベル検出部11で検出された入力信号レベルに対する時定数を得る。
ゲイン算出部13は、アタックタイム/リリースタイム制御部12による固定の時定数をもってゲインを算出する。
調整部14は、ゲイン算出部13で算出したゲインを入力信号に乗算して(掛けて)音量を調整する。
【0008】
オーディオ再生装置10は、入力レベルに応じたゲインを算出して、図2の実線Bで示す実出力特性となるよう音量調整を行う。なお、破線Aは、ゲイン1の場合の入出力特性である。
【0009】
なお、アタックタイムとは信号レベル増加時に作用する時間をいい、リリースタイムとは信号レベル減少時に作用する時間をいう。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上述したように、オーディオ再生装置10においては、アタックタイム/リリースタイム制御部12が、入力信号レベルに対して、固定の時定数を得、この固定の時定数もって、ゲイン算出が行われる。
【0011】
ところが、上述したオーディオ再生装置10は、固定の時定数による制御を行っていることから、以下の不利益がある。
【0012】
信号レベル増加時に作用するアタックタイムが長い場合、たとえば番組からコマーシャル(CM)の急激な音量増加時に対し、圧縮動作が間に合わない。このため、瞬時的に大音量が発生してしまい、ユーザーにとって好ましくない。
【0013】
図3(A),(B)は、信号レベル増加時に作用するアタックタイムが長い場合の課題を説明するための図である。
【0014】
この場合、図3(A),(B)に示すように、入力信号レベルの変動に対して、時定数τatt をもって追従する。τattが、長いと一時的に大音量が出力される。
【0015】
また、信号レベル減少時に作用するリリースタイムが長い場合、映画などで激しいシーンから静かなシーンの切り替えなど急激な音量減少時に対し、圧縮動作のリリースが遅れる。このため、小さな音量が段々大きくなる現象が発生してしまい、不自然な音として知覚される。
【0016】
図4(A),(B)は、信号レベル減少時に作用するリリースタイムが長い場合の課題を説明するための図である。
【0017】
この場合、図4(A),(B)に示すように、入力信号レベルの変動に対して、時定数τrel をもって追従する。時定数τrelが長いと段々音量が大きくなる。
【0018】
さらに、アタックタイムとリリースタイムに共通して、これらの時定数が短い場合、瞬時的な音量変化に対し、圧縮動作が変動し、不自然な音として知覚されるおそれがある。
【0019】
本発明は、瞬時的な大音量の発生を防止でき、不自然な音として知覚されることを防止できるオーディオ再生装置、オーディオ再生方法、およびプログラムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明の第1の観点のオーディオ再生装置は、入力オーディオ信号のパワーを計算するパワー計算部と、入力オーディオ信号の分散を計算する分散計算部と、信号レベル増加時に作用するアタックタイムおよび信号レベル減少時に作用するリリースタイムを制御するための時定数を、上記パワー計算部で計算されたパワー値と上記分散計算部で計算された分散値との差分に応じて決定する時定数決定部と、入力信号レベルおよび上記時定数決定部で決定された時定数により上記アタックタイムおよびリリースタイムを制御する制御部と、上記制御部で制御されたアタックタイムおよびリリースタイムに応じた音量調整用ゲインを取得するゲイン決定部と、上記ゲイン決定部によるゲインに応じて入力オーディオ信号のレベルを調整し、音量を調整する音量調整部とを有する。
【0021】
好適には、上記時定数決定部は、上記パワー値と分散値との差分が、あらかじめ設定した閾値より小さい場合には時定数を大きくし、当該差分が当該閾値より大きい場合は時定数を小さくする。
【0022】
好適には、上記時定数決定部は、パワーの変化量とあらかじめ設定した閾値の関係をもって時定数を決定する。
【0023】
好適には、上記時定数決定部は、上記パワーの変化量があらかじめ設定した閾値より大きい場合、時定数の取得を停止する。
【0024】
好適には、上記時定数決定部は、所定の区間内に信号の変化点がある場合、上記パワーおよび分散の変化量をもって変化点を検出する。
【0025】
好適には、一区間におけるパワーおよび分散の計算に用いるオーディオ信号のサンプル数が設定され、上記時定数決定部は、所定区間の前後する区間におけるパワーおよび分散の変化量があらかじめ設定した閾値より大きいと判定した場合に、当該所定区間においてオーディオ信号の変化の有無を検出する。
【0026】
好適には、上記時定数決定部は、サンプル区間を徐々に狭めては上記判定処理を繰り返すことにより変化点を絞りこむ。
【0027】
好適には、上記時定数決定部は、入力信号レベルがあらかじめ設定した閾値より大きい場合、上記時定数を出力信号の飽和を防止可能な時定数に設定する。
【0028】
好適には、上記時定数決定部は、入力信号ソースに応じた閾値を適用する。
【0029】
好適には、上記時定数決定部は、入力信号ソースに応じた閾値を適用し、上記ゲイン決定部は、閾値に応じてゲインを決定する機能を有し、入力信号ソースに応じた閾値を適用する。
【0030】
本発明の第2の観点のオーディオ再生方法は、入力オーディオ信号のパワーを計算するパワー計算ステップと、入力オーディオ信号の分散を計算する分散計算ステップと、信号レベル増加時に作用するアタックタイムおよび信号レベル減少時に作用するリリースタイムを制御するための時定数を、上記パワー計算ステップで計算されたパワー値と上記分散計算ステップで計算された分散値との差分に応じて決定する時定数決定ステップと、入力信号レベルおよび上記時定数決定ステップで決定された時定数により上記アタックタイムおよびリリースタイムを制御する制御ステップと、上記制御ステップで制御されたアタックタイムおよびリリースタイムに応じた音量調整用ゲインを決定するゲイン決定ステップと、上記ゲイン決定ステップによるゲインに応じて入力オーディオ信号のレベルを調整し、音量を調整する音量調整ステップとを有する。
【0031】
本発明の第3の観点は、入力オーディオ信号のパワーを計算するパワー計算処理と、入力オーディオ信号の分散を計算する分散計算処理と、信号レベル増加時に作用するアタックタイムおよび信号レベル減少時に作用するリリースタイムを制御するための時定数を、上記パワー計算処理で計算されたパワー値と上記分散計算処理で計算された分散値との差分に応じて決定する時定数決定処理と、入力信号レベルおよび上記時定数決定処理で決定された時定数により上記アタックタイムおよびリリースタイムを制御する制御処理と、上記制御処理で制御されたアタックタイムおよびリリースタイムに応じた音量調整用ゲインを決定するゲイン決定処理と、上記ゲイン決定処理によるゲインに応じて入力オーディオ信号のレベルを調整し、音量を調整する音量調整処理とを有するオーディオ再生処理をコンピュータに実行させるプログラムである。
【0032】
本発明によれば、パワー計算部で入力オーディオ信号のパワーが計算され、時定数決定部に供給される。これと並行して、分散計算部で入力オーディオ信号の分散が計算されて時定数決定部に供給される。
時定数決定部においては、パワー計算部で計算されたパワー値と分散計算部で計算された分散値との差分に応じて、信号レベル増加時に作用するアタックタイムおよび信号レベル減少時に作用するリリースタイムを制御するための時定数が決定され取得される。
制御部において、入力信号レベルおよび時定数決定部で決定された時定数によりアタックタイムおよびリリースタイムが制御され、ゲイン決定部で制御されたアタックタイムおよびリリースタイムに応じた音量調整用ゲインが取得される。
そして、音量調整部において、ゲイン決定部によるゲインに応じて入力オーディオ信号のレベルを調整し、音量が調整される。
【発明の効果】
【0033】
本発明によれば、瞬時的な大音量の発生を防止でき、不自然な音として知覚されることを防止できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0034】
以下、本発明の実施形態を図面に関連付けて説明する。
【0035】
図5は、本発明の実施形態に係るオーディオ再生装置の構成例を示すブロック図である。
【0036】
本実施形態に係るオーディオ再生装置100は、入力信号のパワーおよび分散を使用することで、入力信号の特徴を把握し、アタックタイム/リリースタイム(時定数)を一意に計算することにより、最適な音量調整を行えるように構成されている。
【0037】
図5のオーディオ再生装置100は、レベル検出部110、パワー計算部120、分散計算部130、アタックタイム/リリースタイム計算部140、アタックタイム/リリースタイム制御部150、ゲイン計算部160、ディレイ部170、および音量調整部180を有する。
なお、アタックタイム/リリースタイム計算部140が時定数決定部として機能し、ゲイン計算部160がゲイン決定部として機能する。
【0038】
レベル検出部110は、入力オーディオ信号のレベルを検出し、その検出結果をアタックタイム/リリースタイム計算部140およびアタックタイム/リリースタイム制御部150に出力する。
【0039】
パワー計算部120は、入力オーディオ信号のパワーを計算し、その計算したパワー値をアタックタイム/リリースタイム計算部140に出力する。
パワー計算部120は、たとえば次式により入力オーディオ信号のパワーPowerを計算する。
【0040】
【数1】

【0041】
ここで、xは入力信号を、Nはサンプル数を示している。
【0042】
分散計算部130は、入力オーディオ信号の分散を計算し、計算した分散値Varをアタックタイム/リリースタイム計算部140に出力する。
分散計算部130は、たとえば次式により入力オーディオ信号の分散値Varを計算する。
【0043】
【数2】

【0044】
アタックタイム/リリースタイム計算部140は、信号レベル増加時に作用するアタックタイムおよび信号レベル減少時に作用するリリースタイムを制御するための時定数τを計算し決定する。
アタックタイム/リリースタイム計算部140は、時定数τを、次式で示すパワー計算部120で計算されたパワー値と分散計算部130で計算された分散値との差分の絶対値Diffpvを求め、この絶対値Diffpvおよび所定の特性に応じて決定する。
【0045】
【数3】

【0046】
図6は、時定数の特性の一例を示す図である。
図6において、横軸がパワー値と分散値との差分の絶対値Diffpvを、縦軸が時定数τをそれぞれ示している。
【0047】
時定数決定部としてのアタックタイム/リリースタイム計算部140は、図6に示すような特性線Aと計算して得られた絶対値Diffpvとの関係から時定数τを決定する。
なお、図6では理解を容易にするために特性線を直線としているが、所望の曲線にする等、種々の態様が可能である。
【0048】
また、本実施形態のアタックタイム/リリースタイム計算部140は、以下の各機能を有する。
【0049】
アタックタイム/リリースタイム計算部140は、パワー値と分散値との差分の絶対値が、あらかじめ設定した閾値より小さい場合には時定数を大きくし、その差分の絶対値が閾値より大きい場合は時定数を小さくする機能を有する。
【0050】
アタックタイム/リリースタイム計算部140は、パワーの変化量とあらかじめ設定した閾値の関係をもって時定数を決定する機能を有する。
アタックタイム/リリースタイム計算部140は、パワーの変化量があらかじめ設定した閾値より大きい場合、時定数の取得を停止する、具体的には時定数を0にする機能を有する。
【0051】
アタックタイム/リリースタイム計算部140は、所定の区間内に信号の変化点がある場合、パワーおよび分散の変化量をもって変化点を検出する機能を有する。
アタックタイム/リリースタイム計算部140は、所定区間の前後する区間におけるパワーおよび分散の変化量があらかじめ設定した閾値より大きいと判定した場合に、所定区間においてオーディオ信号の変化の有無を検出する機能を有する。
アタックタイム/リリースタイム計算部140は、サンプル区間を徐々に狭めては上記判定処理を繰り返すことにより変化点を絞りこむ機能を有する。
【0052】
アタックタイム/リリースタイム計算部140は、入力信号レベルがあらかじめ設定した閾値より大きい場合、時定数τを出力信号の飽和を防止可能な時定数、たとえば0に設定する機能を有する。
【0053】
また、アタックタイム/リリースタイム計算部140は、入力信号ソースISRCに応じた上記各閾値を適用する機能を有する。
【0054】
以上のアタックタイム/リリースタイム計算部140の各種機能については、後で更に詳述する。
【0055】
アタックタイムおよびリリースタイム制御部150は、レベル検出部110で検出された入力信号レベルおよびアタックタイム/リリースタイム計算部140で決定された時定数τに応じてアタックタイムおよびリリースタイムを制御する。
【0056】
ゲイン決定部としてのゲイン計算部160は、アタックタイムおよびリリースタイム制御部150で制御されたアタックタイムおよびリリースタイムに応じた音量調整用ゲインを決定し、音量調整部180に出力する。
ゲイン計算部160は、閾値に応じてゲインを取得する機能を有し、入力信号ソースISRCに応じた閾値を適用する。
【0057】
ディレイ部170は、入力オーディオ信号の音量調整部180に入力タイミングを、ゲイン計算部160からのゲインが音量調整部180に入力されるタイミングに合わせようにオーディオ信号に遅延を与える。
【0058】
音量調整部180は、ゲイン計算部160によるゲインに応じてディレイ部170を介した入力オーディオ信号のレベルを調整し、音量を調整する。
音量調整部180は、オーディオ信号にゲインを乗算する(掛ける)乗算器を含む。
【0059】
次に、上述したアタックタイム/リリースタイム計算部140の各種機能についてさらに詳述する。
【0060】
まず、アタックタイム/リリースタイム計算部140が、パワー値と分散値との差分の絶対値が、あらかじめ設定した閾値より小さい場合には時定数を大きくし、その差分の絶対値が閾値より大きい場合は時定数を小さくする機能について説明する。
【0061】
図7は、図6のa点のようなパワー値と分散値との差分の絶対値が小さい場合の例を示す図である。
【0062】
図7は、カスタネットの音を例にした場合の波形を示している。
図6および図7に示すように、カスタネットでは、パワー値と分散値の差分の絶対値Diffpvが閾値VTH1より小さくなっている。
この場合、アタックタイム/リリースタイム計算部140は、時定数を大きくすることで、曲のアタック感を生かすことができる。
【0063】
図8は、図6のb点のようなパワー値と分散値との差分の絶対値が大きい場合の例を示す図である。
【0064】
図8は、ベースドラム(バスドラム)の音を例にした場合の波形を示している。
図6および図7に示すように、ベースドラムでは、パワー値と分散値の差分の絶対値Diffpvが大きくなっている。
この場合、アタックタイム/リリースタイム計算部140は、時定数を小さくすることで、曲の細かな変化が損なわれないようにする。
【0065】
次に、パワー、分散の変化量に伴う変化点の制御機能等について説明する。
【0066】
基本的に、図3および図4の(A),(B)に例示した現象は、ある一定区間における信号の変化に関するものであり、時定数を小さくすることが望ましく、パワーの変化量をもって、時定数を決定する。
【0067】
例として、パワーの変化量ΔPが閾値Pthより大きい(ΔP > Pth)とき、時定数τが0(τ=0)となるよう動作する。
ここで、ΔP=|P(t-1)-P(t)|で表される。
P(t-1)はt−1時間におけるパワーを示し、P(t)はt時間におけるパワーを示す。
【0068】
より具体的には、アタックタイム/リリースタイム計算部140は、図9(A),(B)に示すように、信号変化点において、例として、ΔP > Pthのとき時定数τを0(τ=0)とする。
【0069】
次に、変化点の検出機能に付いて説明する。
基本的に、図3および図4の(A),(B)に例示した現象は、ある一定区間における信号の変化に関するものであるが、区間内に信号の変化点がある場合、パワー、分散の両方の変化量をもって、変化点を検出する。
【0070】
例として、一区間におけるパワー、分散計算に用いるオーディオ信号のサンプル数をNとして、次の関係が成立し、
【0071】
[数4]
|P(t−1)−P(t)|>α1 かつ |P(t)−P(t+1)|>α2
【0072】
さらに、
【0073】
[数5]
|V(t−1)−V(t)|>β1 かつ |V(t)−V(t+1)|>β2
【0074】
が成立するとき、アタックタイム/リリースタイム計算部140は、区間tにおいてオーディオ信号の変化の有無を検出する。
【0075】
さらに、サンプル数をN/3、N/9のように繰り返し、同様の条件が成立するサンプル点を求め、変化点を検出する。
【0076】
ここで、P(t−1)はt−1時間におけるパワーを示し、P(t)はt時間におけるパワーを示し、P(t+1)はt+1時間におけるパワーを示している。
また、V(t-1)はt−1時間における分散を示し、V(t)はt時間における分散を示し、V(t+1)はt+1時間における分散を示している。
また、α1、α2、β1、β2は閾値をそれぞれ示している。
【0077】
簡単のため、図10(A),(B),(C)に示すような入力信号で考える。
パワー、分散の計算に用いるサンプル数をNとする。
区間tに変化点がある場合、パワーおよび分散に関して、次の関係が成り立つ。
【0078】
[数6]
パワーに関して、
|P(t−1)−P(t)|>α1 かつ |P(t)−P(t+1)|>α2
【0079】
[数7]
分散に関して、
|V(t−1)−V(t)|>β1 かつ |V(t)−V(t+1)|>β2
【0080】
次に、図11に示すように、サンプル数をN/3とし、パワー、分散の計算を行う。
図11に示す区間(t’−1)、t’,(t’+1)に対して、サンプル数Nのときと同様の関係が成り立つ。
以降同様に、サンプル区間をN/9,N/27、・・と繰り返すことにより、変化点を絞り込むことができる。
【0081】
次に、ピーク点の検出機能について説明する。
上述した変化点の制御において適切な時定数を求めている。
本実施形態においては、瞬時的な最大レベル近辺の入力に対して、アタックタイム/リリースタイム計算部140が、レベル検出部110で検出された入力信号レベルを入力し、出力信号の飽和を防止する。
【0082】
例として、信号レベル|X(t)|が閾値Xthより大きい(|X(t)| > Xthのとき、時定数を0とする(τ=0)。
ここで、X(t)は、時刻tにおける入力信号を示している。
【0083】
次に、入力信号ソースに応じた特性制御機能について説明する。
【0084】
本実施形態においては、CD、DVD、TVなどの入力ソース種別の情報ISRCをアタックタイム/リリースタイム計算部140およびゲイン計算部150に供給する。
これにより、入力ソース種別に適切な時定数特性、パワー変化量、分散変化量、およびゲインの閾値を与える。
【0085】
図12は、入力ソース種別に応じた時定数の特性の切り替え例を示す図である。
【0086】
AVアンプなどにおいて、TVとDVDの信号レベルに差がある場合など、入力ソースに応じて、時定数特性をそれぞれ用意する。
たとえば、図12に示すように、入力ソースがTVである場合には特性A−TVを用いる。このとき、アタックタイム/リリースタイム計算部140は閾値としてVTH11を適用する。
また、図12に示すように、入力ソースがDVDである場合には特性A−DVDを用いる。このとき、アタックタイム/リリースタイム計算部140は閾値としてVTH12を適用する。
【0087】
変化点検出に用いる上述した[数4]〜[数7]において、入力ソースに応じて、α、βをそれぞれ用意する。
【0088】
なお、ゲイン計算部160におけるゲイン閾値を、入力ソースに応じて、それぞれ用意してもよい。
【0089】
次に、図5の構成による動作を説明する。
【0090】
パワー計算部120で入力オーディオ信号のパワーが計算され、アタックタイム/リリースタイム計算部140の時定数決定部に供給される。
これと並行して、分散計算部130で入力オーディオ信号の分散が計算されてアタックタイム/リリースタイム計算部140に供給される。
【0091】
時定数決定部としてのアタックタイム/リリースタイム計算部140においては、パワー計算部120で計算されたパワー値と分散計算部130で計算された分散値との差分の絶対値が求められる
そして、アタックタイム/リリースタイム計算部140において、信号レベル増加時に作用するアタックタイムおよび信号レベル減少時に作用するリリースタイムを制御するための時定数が決定され取得される。この時定数は、アタックタイム/リリースタイム制御部150に供給される。
【0092】
アタックタイム/リリースタイム制御部150において、レベル検出部110で検出された入力信号レベルおよびアタックタイム/リリースタイム計算部140で決定された時定数によりアタックタイムおよびリリースタイムが制御される。
アタックタイム/リリースタイム制御部150において、ゲイン決定部としてのゲイン計算部160で、制御されたアタックタイムおよびリリースタイムに応じた音量調整用ゲインが取得される。
そして、音量調整部180において、ゲイン計算部160によるゲインに応じて入力オーディオ信号のレベルを調整し、音量が調整される。
【0093】
以上説明した本実施形態によれば、以下の効果を得ることができる。
アタックタイム/リリースタイム(時定数)の計算に、パワーおよび分散値およびこれらの閾値を用いることで、入力信号の特徴を捉えることができる。
その結果、信号レベル増加時に作用するアタックタイムが長い場合、たとえば番組からコマーシャル(CM)急激な音量増加時に対し、圧縮動作が間に合わなくなることを防止できる。このため、瞬時的に大音量が発生することを防止できる。
【0094】
また、信号レベル減少時に作用するリリースタイムが長い場合、映画などで激しいシーンから静かなシーンの切り替えなど急激な音量減少時に対し、圧縮動作のリリースが遅れることを防止できる。
このため、小さな音量が段々大きくなる現象の発生を防止でき、不自然な音が知覚されることを防止することができる。
【0095】
さらに、アタックタイムとリリースタイムの時定数が短い場合に瞬時的な音量変化に対し、圧縮動作が変動していた現象の発生を防止でき、不自然な音として知覚されることを防止することができる。
【0096】
なお、以上詳細に説明した方法は、上記手順に応じたプログラムとして形成し、CPU等のコンピュータで実行するように構成することも可能である。
また、このようなプログラムは、半導体メモリ、磁気ディスク、光ディスク、フロッピー(登録商標)ディスク等の記録媒体、この記録媒体をセットしたコンピュータによりアクセスし上記プログラムを実行するように構成可能である。
【図面の簡単な説明】
【0097】
【図1】一般的なオーディオ再生装置の構成例を示す図である。
【図2】オーディオ再生装置の入出力特性の一例を示す図である。
【図3】信号レベル増加時に作用するアタックタイムが長い場合の課題を説明するための図である。
【図4】信号レベル減少時に作用するリリースタイムが長い場合の課題を説明するための図である。
【図5】本発明の実施形態に係るオーディオ再生装置の構成例を示すブロック図である。
【図6】時定数の特性の一例を示す図である。
【図7】図6のa点のようなパワー値と分散値との差分の絶対値が小さい場合の例を示す図である。
【図8】図6のb点のようなパワー値と分散値との差分の絶対値が大きい場合の例を示す図である。
【図9】信号変化点において、パワーの変化量が閾値より大きい場合に時定数を0にする例を示す図である。
【図10】パワーおよび分散の変化量をもって変化点を検出する機能を説明するための第1図である。
【図11】パワーおよび分散の変化量をもって変化点を検出する機能を説明するための第2図である。
【図12】入力ソース種別に応じた時定数の特性の切り替え例を示す図である。
【符号の説明】
【0098】
100・・・オーディオ再生装置、110・・・レベル検出部、120・・・パワー計算部、130・・・分散計算部、140・・・アタックタイム/リリースタイム計算部、150・・・アタックタイム/リリースタイム制御部、160・・・ゲイン計算部、170・・・ディレイ部、180・・・音量調整部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力オーディオ信号のパワーを計算するパワー計算部と、
入力オーディオ信号の分散を計算する分散計算部と、
信号レベル増加時に作用するアタックタイムおよび信号レベル減少時に作用するリリースタイムを制御するための時定数を、上記パワー計算部で計算されたパワー値と上記分散計算部で計算された分散値との差分に応じて決定する時定数決定部と、
入力信号レベルおよび上記時定数決定部で取得された時定数により上記アタックタイムおよびリリースタイムを制御する制御部と、
上記制御部で制御されたアタックタイムおよびリリースタイムに応じた音量調整用ゲインを決定するゲイン決定部と、
上記ゲイン決定部によるゲインに応じて入力オーディオ信号のレベルを調整し、音量を調整する音量調整部と
を有するオーディオ再生装置。
【請求項2】
上記時定数決定部は、
上記パワー値と分散値との差分が、あらかじめ設定した閾値より小さい場合には時定数を大きくし、当該差分が当該閾値より大きい場合は時定数を小さくする
請求項1記載のオーディオ再生装置。
【請求項3】
上記時定数決定部は、
パワーの変化量とあらかじめ設定した閾値の関係をもって時定数を決定する
請求項1または2記載のオーディオ再生装置。
【請求項4】
上記時定数決定部は、
上記パワーの変化量があらかじめ設定した閾値より大きい場合、時定数の取得を停止する
請求項3記載のオーディオ再生装置。
【請求項5】
上記時定数決定部は、
所定の区間内に信号の変化点がある場合、上記パワーおよび分散の変化量をもって変化点を検出する
請求項2記載のオーディオ再生装置。
【請求項6】
一区間におけるパワーおよび分散の計算に用いるオーディオ信号のサンプル数が設定され、
上記時定数決定部は、
所定区間の前後する区間におけるパワーおよび分散の変化量があらかじめ設定した閾値より大きいと判定した場合に、当該所定区間においてオーディオ信号の変化の有無を検出する
請求項5記載のオーディオ再生装置。
【請求項7】
上記時定数決定部は、
サンプル区間を徐々に狭めては上記判定処理を繰り返すことにより変化点を絞りこむ
請求項6記載のオーディオ再生装置。
【請求項8】
上記時定数決定部は、
入力信号レベルがあらかじめ設定した閾値より大きい場合、上記時定数を出力信号の飽和を防止可能な時定数に設定する
請求項1から7のいずれか一に記載のオーディオ再生装置。
【請求項9】
上記時定数決定部は、
入力信号ソースに応じた閾値を適用する
請求項2から8のいずれか一に記載のオーディオ再生装置。
【請求項10】
上記時定数決定部は、
入力信号ソースに応じた閾値を適用し、
上記ゲイン決定部は、
閾値に応じてゲインを決定する機能を有し、入力信号ソースに応じた閾値を適用する
請求項2から8のいずれか一に記載のオーディオ再生装置。
【請求項11】
入力オーディオ信号のパワーを計算するパワー計算ステップと、
入力オーディオ信号の分散を計算する分散計算ステップと、
信号レベル増加時に作用するアタックタイムおよび信号レベル減少時に作用するリリースタイムを制御するための時定数を、上記パワー計算ステップで計算されたパワー値と上記分散計算ステップで計算された分散値との差分に応じて決定する時定数決定ステップと、
入力信号レベルおよび上記時定数決定ステップで決定された時定数により上記アタックタイムおよびリリースタイムを制御する制御ステップと、
上記制御ステップで制御されたアタックタイムおよびリリースタイムに応じた音量調整用ゲインを決定するゲイン決定ステップと、
上記ゲイン決定ステップによるゲインに応じて入力オーディオ信号のレベルを調整し、音量を調整する音量調整ステップと
を有するオーディオ再生方法。
【請求項12】
入力オーディオ信号のパワーを計算するパワー計算処理と、
入力オーディオ信号の分散を計算する分散計算処理と、
信号レベル増加時に作用するアタックタイムおよび信号レベル減少時に作用するリリースタイムを制御するための時定数を、上記パワー計算処理で計算されたパワー値と上記分散計算処理で計算された分散値との差分に応じて決定する時定数決定処理と、
入力信号レベルおよび上記時定数決定処理で決定された時定数により上記アタックタイムおよびリリースタイムを制御する制御処理と、
上記制御処理で制御されたアタックタイムおよびリリースタイムに応じた音量調整用ゲインを決定するゲイン決定処理と、
上記ゲイン決定処理によるゲインに応じて入力オーディオ信号のレベルを調整し、音量を調整する音量調整処理と
を有するオーディオ再生処理をコンピュータに実行させるプログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2010−3335(P2010−3335A)
【公開日】平成22年1月7日(2010.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−159472(P2008−159472)
【出願日】平成20年6月18日(2008.6.18)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】