説明

オートクレーブ工法による積層材の製造方法及び積層材

【課題】紙材又は布材と樹脂材を接着剤を用いずに斑なく均一に一体化した3次元形状の製品を簡便に得ることが可能な和紙積層材の製造方法を提供する。
【解決手段】紙又は布で成る第1の被結合材1を成形型3の上に配置すると共に樹脂で成る第2の被結合材2を第1の被結合材1の上に配置する工程と、第1及び第2の被結合材1,2と成形型3とをバギングフィルム4で被覆して気密シールする工程と、第1及び第2の被結合材1,2と成形型3とを封入したバギングフィルム4内を減圧脱気する工程と、バギングフィルム4内に収容した第1及び第2の被結合材1,2をオートクレーブの加工槽6内で加熱すると共に加圧して第1の被結合材1と第2の被結合材2とを結合させる工程とを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、異種材料を接着剤無しに結合する積層材の製造方法に係り、特にオートクレーブ工法を利用した積層材の製造方法及びその方法を利用して製造した積層材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、和紙材に樹脂材を積層して成る和紙積層材は、視覚的,触感的,質感的に和紙の風合いを残しながら樹脂の特性を付与したもので、例えば、破れ難く強靱性を持たせた強化和紙や水をはじく撥水和紙などのような和紙風の複合材として広く普及している。従来の製法によって得られる和紙積層材の構成は、例えば、和紙材の一方の面に接着剤を塗布しその上に樹脂材を積層したものや、和紙材の表裏面に樹脂材を積層してサンドウィッチ構造にしたものや、和紙材の片側の表面にコーティング剤を塗布して表面処理を施したものなどが知られている。これら3つの和紙積層材は、それぞれ異なる製法によって作製される。
【特許文献1】特開2001−62521号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
図4は、和紙材12の一方の面に接着剤13を塗布し、その上に樹脂材14を積層して成る構造の和紙積層材12Aの断面図を示したものである。このような構成の和紙積層材12Aでは、樹脂材14が平板状以外の例えば3次元曲面を有する場合、和紙材12と樹脂材14とを貼り合わせることが困難である。また、樹脂材14が平板状の形状であっても和紙材12と樹脂材14の接合には接着剤13を用いるために、接着剤斑が出来やすく品質の低下を来す畏れがあり、それらの貼り付けには高度な技術が要求される。さらに、和紙材12と樹脂材14の接合には接着剤13を用いるため、接着剤13によって接着可能な樹脂材料以外の素材を選択することが出来ず、接着剤13による接着が可能な樹脂材料を用いる場合には黄変化する畏れがある。
【0004】
図5(A)及び(B)は、それぞれ和紙材15の表裏面に樹脂材16,17を積層してサンドウィッチ構造にする和紙積層材の一製造過程を模式的に示したものである。図5(A)に示す和紙積層材18の製法は、平らな樹脂材16と平らな樹脂材17との間に平らな和紙材15を介在させ、所定の間隔を開けて平行配置した2つの加熱ローラー19,19の間を通過させる。これら2つの加熱ローラー19,19によって、樹脂材16と樹脂材17とを加熱して軟化させると共に和紙材15の厚さ方向に加圧して、樹脂材16と和紙材15と樹脂材17とを一体化して和紙積層材18を構成することができる。
図5(B)に示す和紙積層材18の製法は、平らな樹脂材16と平らな和紙材15と平らな樹脂材17とを順次重ねて、これらを熱プレス機の加熱プレスヘッド20で樹脂材16,17をその厚さ方向に加熱しながら圧縮加圧して、樹脂材16と和紙材15と樹脂材17とを一体化して和紙積層材18を構成する工法である。しかしながら、図5(A)及び(B)に示す加熱、加圧方法では、平らなもの以外の立体的な形状に成形することは出来ないという問題に加えて、成形後の和紙積層材18の表面は、表裏面何れも樹脂であるため、和紙の触感や質感を醸し出すことができない。
【0005】
図6は、和紙材21の片側の表面に、コーティング剤22を塗布して表面硬化処理を施して成る和紙積層材23の断面図を示したものである。この和紙積層材23では、和紙材21の片側表面にコーティング剤22がスプレー又は刷毛などで塗布されていることで、和紙材21に耐水性の機能を付加することができるとともに、和紙材21の表面を高硬度化させることができる。この製法によれば、平板状の和紙積層材23以外に3次元形状の和紙積層材を得ることができる。しかしながら、3次元形状の和紙積層材を得ることは可能であるものの、同一形状の複製を作製することは非常に困難である。また、得られる和紙積層材23は、和紙材21自体が強度不足のため、使用部位に制約がある。
【0006】
本発明は、上記問題点に鑑みて創作されたものであり、強靱性や剛性を欠く、成形性を欠く或いは清掃し難いといった紙等の諸々の欠点を、樹脂やコーティング剤の適宜の特性を付与することで補い、紙材又は布材と樹脂材とを接着剤を用いずに、斑なく均一に一体化した3次元形状の製品を簡便に得ることが可能な積層材の製造方法及びその方法によって製造された積層材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明のオートクレーブ工法による積層材の製造方法は、紙材又は布材から成る第1の被結合材を成形型の上に配置すると共に樹脂から成る第2の被結合材を第1の被結合材の上に配置する工程と、第1及び第2の被結合材と成形型とをバギングフィルムで被覆して気密シールする工程と、第1及び第2の被結合材と成形型とを封入したバギングフィルム内を減圧脱気する工程と、バギングフィルム内に収容された第1及び第2の被結合材をオートクレーブの加工槽内で加熱すると共に加圧して第1の被結合材と第2の被結合材とを結合させる工程とを含むことを特徴としている。
本発明のオートクレーブ工法による積層材の製造方法において、好ましくは、第2の被結合材が熱可塑性樹脂を主成分とする板材である。
本発明のオートクレーブ工法による積層材の製造方法において、第1の被結合材と第2の被結合材とが結合した後、コーティング剤を第1の被結合材の表面に塗布することが望ましい。
【0008】
上記目的を達成するために、本発明の積層材は、オートクレーブ工法による積層材の製造方法によって製造された積層材であって、樹脂の一部が紙又は布の内部に進入して紙材又は布材の繊維に絡みついており、第1の被結合材と第2の結合材とが結合していることを特徴としている。上記積層材は、例えば、自動車のルームランプ等のカバー、即ちレンズ上に形成することができる。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、オートクレーブ工法を採用し、被結合材である紙材又は布材と樹脂材を加熱・加圧することによって樹脂材を変形させ、被結合材同士を密着させて一体化させることによって、異種材料であっても簡便に、接着剤を使用せずとも2つの部材同士を良好な見栄えで結合して一体化することができるという効果が得られる。紙材又は布材と樹脂材の一体化に際して、一方が空気の透過性が高い紙材又は布材であるため、これらの被結合材の間にエアが残存してしまうことがなく、美麗な結合物が得られる。また、本発明においては、接着剤を使用していないため、それらを用いた場合に伴う各製品個体それぞれにおいて接着剤斑などの様々に発生する問題が生じることがないので、不良品率を効率よく低下させ、安定した高品質の製品を生産することができる。さらに、本発明によれば、加熱ローラーや熱プレスでは不可能であった3次元形状を複製自在に成型することができる。また、防汚性或いは撥水性などの性質を発現させ得るコーティング剤を用いれば、和紙の積層材に、和紙の風合いや質感を持たせつつ防汚性や撥水性を付与することが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明の好ましい実施の形態を、図面を参照しながら詳細に説明する。
図1は本発明のオートクレーブ工法による積層材10の製造方法を模式的に示す模式図で、図2は本発明のオートクレーブ工法によって製造した積層材10の断面図である。本実施の形態では、紙材、とくに和紙を用いて積層材10を作製する場合を例にとる。
【0011】
本実施態様のオートクレーブ工法による紙積層材10の製造方法は、先ず、第1の被結合材1と第2の被結合材2と成形型3とを適宜の位置に配置する。具体的には、図1に示すように、第1の被結合材1は成形型3の上に配置されており、さらに、第2の被結合材2は第1の被結合材1の上に配置されている。
【0012】
第1の結合材1は、平板状或いは図1に示すように所望の形状の和紙であって、オートクレーブの加工槽6内に配置し得る大きさに形成されている。
第2の結合材2は、樹脂を主成分とする板状の部材であり、好ましくは、熱可塑性樹脂により構成されている。この第2の結合材2は、オートクレーブの加工槽6内において、第1及び第2の被結合材1,2を加熱した際に軟化し、さらに加圧されることで第1の結合材1及び成形型3に密着するように形状を変形することができるものである。
成形型3は、金属製の型であり、基材である第1及び第2の被結合材1,2を載置する面に3次元意匠成形部9が形成されている。この3次元意匠成形部9は、立体的な成形品、即ち3次元意匠面を有する成形品を形成するために、成形品の3次元意匠面に対応した凹凸面として形成されている。この3次元意匠成形部9の上に、第1及び第2の被結合材1,2が配置される。なお、成形型3は、必ずしも金属製である必要はなく、樹脂の軟化温度程度において熱変形が殆ど無い材料からなり、加工性がよく、成形後に被成形物の離型が容易で、オートクレーブの加工槽6内に配置可能な大きさのものであればよい。
【0013】
次に、上記位置関係で配置した第1及び第2の被結合材1,2と成形型3とをバギングフィルム4で被覆し、これら第1及び第2の被結合材1,2と成形型3とをバギングフィルム4を袋状に気密シールして密閉収容する。
【0014】
第1及び第2の被結合材1,2と成形型3とを密閉袋5内に収容して、適宜位置に配置した状態でこの密閉袋5をオートクレーブの加工槽6内に配置する。オートクレーブの加工槽6内に配置した密閉袋5はこの密閉袋5内の気体を脱気し得るように脱気装置(図示せず)に連結しており、この脱気装置によって第1及び第2の被結合材1,2と成形型3とを収容した密閉袋5内を減圧脱気する。
【0015】
そして、真空引きされている密閉袋5内の第1及び第2の被結合材1,2をオートクレーブの加工槽6内において加熱すると共に加圧して第1及び第2の被結合材1,2の接合部同士を密接させ、第1の被結合材1と第2の被結合材2とを結合する。具体的には、加熱による樹脂の軟化変形と、加圧及び真空引きによる樹脂の圧力変形によって、第2の被結合材2を構成する樹脂が、第1の被結合材1を構成する和紙の繊維の隙間に進入して該繊維に絡み付き、第1の被結合材1と第2の被結合材2とが強固に結合する。この際、熱による第2の被結合材2の軟化と、オートクレーブによる圧力と脱気装置による真空引きとにより、第1の被結合材1,2が成形型3の3次元意匠成形部9に押し付けられて形状出しが行われ、同様に、軟化した第2の被結合材2も成形型3の3次元意匠成形部9によって形状出しが行われると共に第1の被結合材1に密着して、第1の被結合材1と第2の被結合材2とが強固に結合する。このようにして、紙積層材10が製造される。
【0016】
以上の説明のように構成されたオートクレーブ工法による紙積層材10の構造は、被結合材である和紙材と樹脂材とが容易に剥がれないように互いに密着している。紙積層材10は、樹脂が真空、加熱・加圧成形を経て成形型3の3次元意匠成形部9に沿って変形することで3次元形状に成形されている。
【0017】
このように、本実施形態に係るオートクレーブ工法による紙積層材10の製造方法によれば、被結合材である和紙材と樹脂材とを加熱・加圧することによって樹脂材を軟化させると共に、成形型3に沿わせて変形させることで、即ち、被結合材同士を密着させて一体化させるようにしたことによって、異種の材料同士であっても接着剤を使用せずに3次元形状の紙積層材10を簡便に成形することができる。特に、オートクレーブ工法を利用することで、加熱による樹脂の軟化変形と、加圧と真空引きとによる樹脂の圧力変形によって、第2の被結合材2を構成する樹脂が、第1の被結合材1を構成する和紙の繊維の隙間に進入して該繊維に絡み付く、即ち、樹脂が繊維の中まで入ることで、接着剤無しに第2の被結合材2を第1の被結合材1に結合させることができる。この場合、オートクレーブ工法によって、圧力が均一に軟化した第2の被結合材2に作用することで、従来、接着剤を使用したような場合の接着剤の斑を発生することなく、成形品を製造することができる。また、和紙と樹脂との一体化に際して、一方が空気の透過性が高い和紙であるため、これらの被結合材の間にエアが残存してしまうことがなく、美麗な結合物が得られる。
【0018】
さらに、本実施形態に係るオートクレーブ工法による紙積層材の製造方法において、上記紙積層材10の製造後に、図3に示すように、和紙の表面にコーティング剤11を塗布するのが望ましい。コーティング剤11は、防汚性或いは撥水性などの性質を発現させることのできるものを、用途に応じて適宜選択し得る。成形した紙積層材10にコーティング処理を施す場合には、予め選択したコーティング剤11を、スプレーや刷毛等の従来公知の塗布技術によって、該紙積層材10の所望の箇所、好ましくは和紙表面全体に塗布する。こうして、紙積層材10の表面に、防汚性或いは撥水性などの適宜の性質を付与することが可能である。
【0019】
さらに、紙積層材10の製造後或いは紙積層材10にコーティング処理を施した後において、紙積層材10の外形のトリミングを行なって、成形物の整形を行なってもよい。
【0020】
以上説明したが、本発明はその趣旨を逸脱しない範囲において様々な形態で実施することができる。例えば、上記説明では、第1の被結合材1として和紙を用いる場合を例に挙げたが、これに限定されるものではなく、オートクレーブ工法によって軟化した第2の被結合材2である樹脂が絡みつくように、繊維で構成された他の紙材又は布材であってよいことは明らかである。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明のオートクレーブ工法による積層材の製造方法を模式的に示す側断面図である。
【図2】本発明のオートクレーブ工法によって製造した積層材の断面図である。
【図3】本発明のコーティング処理を施した積層材の断面図である。
【図4】従来の和紙積層材の一製法を模式的に示す模式図である。
【図5】(A)及び(B)は、それぞれ従来の和紙積層材の別の製法を示す模式図である。
【図6】従来の和紙積層材のさらに別の製法を示す模式図である。
【符号の説明】
【0022】
1 第1の被結合材
2 第2の被結合材
3 成形型
4 バギングフィルム
5 密閉袋
6 オートクレーブの加工槽
9 3次元意匠成形部
10 紙積層材
11 コーティング剤

【特許請求の範囲】
【請求項1】
紙材又は布材から成る第1の被結合材を成形型の上に配置すると共に樹脂から成る第2の被結合材を上記第1の被結合材の上に配置する工程と、上記第1及び第2の被結合材と上記成形型とをバギングフィルムで被覆して気密シールする工程と、上記第1及び第2の被結合材と上記成形型とを封入したバギングフィルム内を減圧脱気する工程と、バギングフィルム内に収容された上記第1及び第2の被結合材をオートクレーブの加工槽内で加熱すると共に加圧して上記第1の被結合材と上記第2の被結合材とを結合させる工程とを含むことを特徴とする、オートクレーブ工法による積層材の製造方法。
【請求項2】
前記第2の被結合材が、熱可塑性樹脂を主成分とする板材であることを特徴とする、請求項1に記載のオートクレーブ工法による積層材の製造方法。
【請求項3】
前記第1の被結合材と前記第2の被結合材とが結合した後、コーティング剤を前記第1の被結合材の表面に塗布することを特徴とする、請求項1又は2に記載のオートクレーブ工法による積層材の製造方法。
【請求項4】
前記紙材が和紙であることを特徴とする、請求項1〜3の何れかに記載のオートクレーブ工法による積層材の製造方法。
【請求項5】
請求項1〜4の何れかに記載のオートクレーブ工法による積層材の製造方法によって製造された積層材であって、前記樹脂の一部が前記紙材又は布材の内部に進入して該紙材又は布材の繊維に絡みついており、前記第1の被結合材と前記第2の結合材とが結合していることを特徴とする、オートクレーブ工法による積層材。
【請求項6】
積層材がレンズ上に形成されていることを特徴とする、請求項5に記載のオートクレーブ工法による積層材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−6731(P2008−6731A)
【公開日】平成20年1月17日(2008.1.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−180470(P2006−180470)
【出願日】平成18年6月29日(2006.6.29)
【出願人】(000157083)関東自動車工業株式会社 (1,164)
【Fターム(参考)】