オートテンショナ
【課題】 摩擦板の回動を防止する突条に由来するクラックの進展がなく、プーリの揺動減衰効果を安定して維持することのできるオートテンショナを提供する。
【解決手段】 支持部材（ケース）１の支軸部１ａの先端に固定された押え板６と、揺動部材（ブラケット）２の鍔部２ｃとの間に介在配置された摩擦板５によって、揺動部材２の揺動を減衰させるオートテンショナにおいて、摩擦板５の回動防止のために設けられる放射状の突条２ｘを、軸方向から見て楕円状のパターンに形成する。以上の構成により、摩擦板５の一方の端面５ａに微小なクラック等が発生した場合でも、このクラックが摩擦板５の内周縁５ｘあるいは外周縁５ｙまで進展することなく、摩擦板５が分断されることが防止される。
【解決手段】 支持部材（ケース）１の支軸部１ａの先端に固定された押え板６と、揺動部材（ブラケット）２の鍔部２ｃとの間に介在配置された摩擦板５によって、揺動部材２の揺動を減衰させるオートテンショナにおいて、摩擦板５の回動防止のために設けられる放射状の突条２ｘを、軸方向から見て楕円状のパターンに形成する。以上の構成により、摩擦板５の一方の端面５ａに微小なクラック等が発生した場合でも、このクラックが摩擦板５の内周縁５ｘあるいは外周縁５ｙまで進展することなく、摩擦板５が分断されることが防止される。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【０００１】
本発明は、ベルト駆動機構におけるベルトの張力を適度に維持するためのオートテンショナに関する。
【背景技術】
【０００２】
例えば、自動車のエアコンディショナ用コンプレッサやオルタネータ等の補機類に対してエンジンの動力を伝達するベルト伝達機構には、ベルトに作用する張力を適度に保つためにオートテンショナが用いられている。
【０００３】
このオートテンショナには、一般に、エンジンの回転変動によって生じるベルトの張力変化に応じて、テンションプーリの動きを許容しつつ、このテンションプーリの揺動を減衰させるために、摩擦板等による揺動減衰機構（ダンパー機構）が設けられている（例えば、特許文献１等を参照。）。
【０００４】
図３はオートテンショナの構造を示す軸方向断面図であり、図４は、このオートテンショナの右側面図である。
【０００５】
このオートテンショナは、ベルトＢが掛け回されるテンションプーリＰと、このプーリＰを回転自在に支持する揺動アーム部２ａおよび筒状のボス部２ｂとこれらの間に形成された環状の鍔部２ｃを有する揺動部材（ブラケット２）と、このブラケット２を揺動自在に支承する支軸部１ａを有する支持部材（固定ケース１）と、これらケース１の支軸部１ａとブラケット２のボス部２ｂとの間に介在配置されたブッシュ３と、ブラケット２とケース１との間に介装されたねじりコイルばね４等を主要部品として構成されている。なお、ケース１およびブラケット２は、その耐水性や重量等を考慮して、アルミニウム合金などを用いたダイカスト成形により製作されている。
【０００６】
ねじりコイルばね４は、ブラケット２のボス部２ｂとケース１の外筒部１ｂとの間に非接触の状態で配置されているとともに、その両端部が、ばね座となるケース１の後端部１ｃ近傍に設けられた係止穴（図示省略）およびブラケット２の鍔部２ｃ近傍に設けられた係止穴（図示省略）に係止され、ねじり圧縮された状態で収容されている。このねじりコイルばね４は、そのねじり復元力により、揺動アーム部２ａおよびプーリＰを一定方向に付勢している。
【０００７】
ケース１の支軸部１ａの先端には、周方向に凹凸を有する花びら形状の回り止め段部１ｘが形成されており、この回り止め段部１ｘには、中央部に同様の花びら形状の穴（内周縁６ｘ）を有する鋼板製の摩擦板ガイド（押え板６）が嵌め入れられている。この押え板６は、前記支軸部１ａの回り止め段部１ｘに嵌め入れられた後、この回り止め段部１ｘの外周縁近傍をかしめることにより、ケース１に回転不能に固定されている。
【０００８】
また、この押え板６とブラケット２の鍔部２ｃとの間には、クラッチフェーシング材あるいはブレーキライニング材等からなる環状の摩擦板５が介在配置されており、この摩擦板５が、前記ねじりコイルばね４の伸張復元力によって押え板６に対して押し付けられることにより、揺動アーム部２ａの揺動が、これらの間で発生する摺動摩擦抵抗によって減衰されることとなる（ダンピング効果）。
【０００９】
従来、このようなオートテンショナには、ブラケット２の鍔部２ｃの端面２ｄに、先鋭な小突起が形成されており、この小突起が前記摩擦板５に食い込むことによって、当該摩擦板５が鍔部２ｃに回動不能に固定されていた。しかしながら、オートテンショナの揺動部材（ブラケット２）は、ダイカスト成形により製作されるために、前記小突起に対応する成形型の微小孔にアルミニウムが詰まり易く、この小突起を精度よく成形するのが難しいという問題があった。
【００１０】
そこで、本出願人らは、容易にかつ精度よく成形することのできる摩擦板５の回動防止手段として、この小突起に代えて、図５にように、揺動部材鍔部２ｃの端面２ｄに、放射状に延びる突条２ｚを形成したオートテンショナを提案している（特許文献２を参照）。
【００１１】
【特許文献１】特開２００３−２８７０９５号公報
【特許文献２】特開２００４−２７０８２５号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【００１２】
ところで、以上のような揺動部材２の鍔部端面２ｄに突条を設けたオートテンショナにおいては、摩擦板５を揺動部材２に組み付ける際に、この摩擦板５に軸方向の圧力をかけて、前記突条の食い込みを確実にする方法が採られている。
【００１３】
そのため、これらの突条が食い込む位置にあたる摩擦板５の一方の端面５ａに、微小なクラックが発生する場合があり、このクラックが、摩擦板５の振動により、当該摩擦板５の内周縁（５ｘ）あるいは外周縁（５ｙ）と交差する形状に形成された突条に沿って周縁まで進展してしまい、最悪の場合、摩擦板５を分断する恐れがある。
【００１４】
本発明は、このような実情に鑑みてなされたものであり、摩擦板の回動を防止する突条に由来するクラックの進展がなく、プーリの揺動減衰効果を安定して維持することのできるオートテンショナを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【００１５】
前記の目的を達成するために、請求項１に記載の発明は、テンションプーリを回転自在に支持する揺動アーム部および筒状のボス部とこれらの間に形成された環状の鍔部を有する揺動部材と、この揺動部材を揺動自在に支持する支軸部を有する支持部材と、前記揺動部材を一定方向に付勢するねじりコイルばねとを備え、前記支持部材の支軸部には、前記揺動部材のボス部がブッシュを介して嵌め入れられ、このボス部より軸方向に抜け出た前記支軸部の先端には、円板状の押え板が回転不能に固定され、この押え板と前記揺動部材の鍔部との間には、環状の摩擦板が介在配置されているとともに、この摩擦板が当接する前記揺動部材の鍔部の端面に、当該摩擦板が回動するのを防止する突条が形成されてなるオートテンショナにおいて、前記揺動部材の鍔部端面の突条が、軸方向から見て楕円状のパターンに形成されていることを特徴とする。
【００１６】
また、請求項２に記載の発明は、前記揺動部材の鍔部端面の突条が、この揺動部材の揺動中心軸と異なる位置に中心を有する円状のパターンに形成されていることを特徴とするオートテンショナである。
【００１７】
本発明は、揺動部材の鍔部の端面に、摩擦板の回動防止のための突条を有するオートテンショナにおいて、この突条の形状を、摩擦板のクラックがその周縁まで進行し難いパターンに形成することにより、所期の目的を達成しようとするものである。
【００１８】
すなわち、請求項１に記載の発明によれば、前記突条を、軸方向から見て楕円状のパターンに形成することによって、摩擦板の端面に発生したクラックの径方向への進展を抑えつつ、当該摩擦板の回動を防止することができる。
【００１９】
また、請求項２に記載のように、前記突条のパターンを、揺動部材の揺動中心軸と異なる位置に中心を有する円状（いわゆる偏心円）に形成することによっても、請求項１と同様、摩擦板のクラックの径方向への進展を抑えつつ、当該摩擦板の回動を防止することが可能となる。
【００２０】
なお、当然ながら、周方向に三角（おむすび）型や花びら型等のパターンでも、同様の効果を奏するであろうことは容易に想像できる。しかしながら、急なカーブの多い複雑なパターンは、その成型時に、成形型の凹条にアルミニウムが詰まり易く、パターンを精度よく成形するのが難しいという欠点がある。
【００２１】
また、これらの突条は、揺動部材の鍔部端面が摩擦板と接触する領域内に形成することが望ましい（請求項３）。
【００２２】
この構成により、前記突条は摩擦板の内周縁および外周縁と交差せず、クラックがこの摩擦板の周縁へ到達することがない。従って、本発明のオートテンショナは、このクラックに起因する摩擦板の分断を防止することができる。
【発明の効果】
【００２３】
以上のように、本発明のオートテンショナによれば、摩擦板にクラックが生じた場合でも、このクラックの径方向への進展がなく、クラックに起因する不具合が未然に防止されるとともに、前記摩擦板を用いたプーリの揺動減衰効果を安定して維持することが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【００２４】
以下、図面を参照しつつこの発明を実施するための形態について説明する。
図１は、本発明の第１実施形態のオートテンショナにおける揺動部材の端面に形成された突条のパターンを示す図である。なお、このオートテンショナ全体の構成は、従来例である図３と同様である。また、従来例と同様の機能を有する構成部材には、同じ符号を付記して詳細な説明を省略する。
【００２５】
このオートテンショナも、従来例と同様、ベルトＢが掛け回されるテンションプーリＰと、このプーリＰを回転自在に支持する揺動アーム部２ａおよび筒状のボス部２ｂとこれらの間に形成された環状の鍔部２ｃを有する揺動部材（ブラケット２）と、このブラケット２を揺動自在に支承する支軸部１ａを有する支持部材（固定ケース１）と、これらケース１の支軸部１ａとブラケット２のボス部２ｂとの間に介在配置されたブッシュ３と、ブラケット２とケース１との間に介装されたねじりコイルばね４等を主要部品として構成されている。
【００２６】
ケース１の支軸部１ａの先端に形成された回り止め段部１ｘには、中央部に花びら形状の穴（内周縁６ｘ）を有する円板状の鋼板製摩擦板ガイド（押え板６）が嵌め入れられており、この押え板６は、前記回り止め段部１ｘの外周縁近傍をかしめることにより、ケース１に回転不能に固定されている。また、この押え板６とブラケット２の鍔部２ｃとの間には、クラッチフェーシング材あるいはブレーキライニング材等からなる環状の摩擦板５が介在配置されており、この摩擦板５が、前記ねじりコイルばね４の伸張復元力によって押え板６に対して押し付けられることにより、揺動アーム部２ａの揺動が、これらの間で発生する摺動摩擦抵抗によって減衰される。
【００２７】
本実施形態におけるオートテンショナの特徴は、ブラケット２の鍔部２ｃの端面２ｄに摩擦板５の回動防止の目的で設けられた突条２ｘが、軸方向正面から見て楕円状のパターンに形成されている点である。また、この突条２ｘは、摩擦板５と接触する端面２ｄの領域、すなわち図中における摩擦板５の内周縁５ｘより外径側で、かつ、外周縁５ｙより内径側の領域内に形成されている。
【００２８】
以上の構成により、このオートテンショナは、この突条２ｘが接触する摩擦板５の一方の端面５ａに微小なクラック等が発生した場合でも、このクラックが摩擦板５の内周縁５ｘあるいは外周縁５ｙまで進展することなく、摩擦板５が分断される恐れがない。従って、本実施形態におけるオートテンショナは、このクラックに起因する不具合が未然に防止されるとともに、摩擦板５を用いたプーリの揺動減衰効果を安定して維持することができる。
【００２９】
次に、本発明の第２実施形態について説明する。
図２は、本発明の第２実施形態のオートテンショナにおける揺動部材の端面に形成された突条のパターンを示す図である。
【００３０】
本実施形態におけるオートテンショナも、基本的には第１実施形態における例と同様の構成である。このオートテンショナが第１実施形態と異なる部位は、ブラケット２の鍔部２ｃの端面２ｄに設けられた突条２ｙが、ケース支軸部１ａの軸心およびブラケット２の揺動中心である点Ｏと異なる位置Ａに中心を有する円状のパターンに形成されている点である。また、この突条２ｙは、第１実施形態と同様、摩擦板５の内周縁５ｘより外径側で、かつ、外周縁５ｙより内径側の領域内に形成されている。
【００３１】
以上の構成によって、この突条２ｙが接触する摩擦板５の一方の端面５ａに微小なクラック等が発生した場合でも、このクラックが摩擦板５の内周縁５ｘあるいは外周縁５ｙまで進展することなく、摩擦板５が分断される恐れがない。従って、本実施形態におけるオートテンショナも、このクラックに起因する不具合が未然に防止されるとともに、摩擦板５を用いたプーリの揺動減衰効果を安定して維持することが可能になる。
【００３２】
なお、これらの実施形態においては、摩擦板５の回動を防止する突条２ｘ、２ｙの断面形状を略三角状としたが、本発明における突条の断面形状は、特に限定されるものではなく、例えば台形状あるいは四角状としても良い。また、これら突条２ｘ，２ｙを形成する方法についても、特に限定されるものではない。
【００３３】
また、本発明におけるオートテンショナの構成も、これら実施形態での例に限定されるものではなく、揺動部材の鍔部の端面に摩擦板の回動防止用突条を備えるオートテンショナに広く適用することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【００３４】
【図１】本発明の第１実施形態のオートテンショナにおける揺動部材の端面に形成された突条のパターンを示す図である。
【図２】本発明の第２実施形態のオートテンショナにおける揺動部材の端面に形成された突条のパターンを示す図である。
【図３】オートテンショナの構造を示す軸方向断面図である。
【図４】図３のオートテンショナの右側面図である。
【図５】従来のオートテンショナにおける揺動部材の端面に形成された突条のパターンを示す図である。
【符号の説明】
【００３５】
１ ケース（支持部材）
１ａ 支軸部 １ｂ 外筒部 １ｃ 後端部 １ｘ 回り止め段部
２ ブラケット（揺動部材）
２ａ 揺動アーム部 ２ｂ ボス部 ２ｃ 鍔部 ２ｄ （鍔部）端面
２ｘ，２ｙ，２ｚ 突条
３ ブッシュ
４ ねじりコイルばね
５ 摩擦板
５ａ （ブラケット側）端面 ５ｘ 内周縁 ５ｙ 外周縁
６ 押え板（摩擦板ガイド）
６ｘ 内周縁
Ｂ ベルト
Ｐ テンションプーリ
【技術分野】
【０００１】
本発明は、ベルト駆動機構におけるベルトの張力を適度に維持するためのオートテンショナに関する。
【背景技術】
【０００２】
例えば、自動車のエアコンディショナ用コンプレッサやオルタネータ等の補機類に対してエンジンの動力を伝達するベルト伝達機構には、ベルトに作用する張力を適度に保つためにオートテンショナが用いられている。
【０００３】
このオートテンショナには、一般に、エンジンの回転変動によって生じるベルトの張力変化に応じて、テンションプーリの動きを許容しつつ、このテンションプーリの揺動を減衰させるために、摩擦板等による揺動減衰機構（ダンパー機構）が設けられている（例えば、特許文献１等を参照。）。
【０００４】
図３はオートテンショナの構造を示す軸方向断面図であり、図４は、このオートテンショナの右側面図である。
【０００５】
このオートテンショナは、ベルトＢが掛け回されるテンションプーリＰと、このプーリＰを回転自在に支持する揺動アーム部２ａおよび筒状のボス部２ｂとこれらの間に形成された環状の鍔部２ｃを有する揺動部材（ブラケット２）と、このブラケット２を揺動自在に支承する支軸部１ａを有する支持部材（固定ケース１）と、これらケース１の支軸部１ａとブラケット２のボス部２ｂとの間に介在配置されたブッシュ３と、ブラケット２とケース１との間に介装されたねじりコイルばね４等を主要部品として構成されている。なお、ケース１およびブラケット２は、その耐水性や重量等を考慮して、アルミニウム合金などを用いたダイカスト成形により製作されている。
【０００６】
ねじりコイルばね４は、ブラケット２のボス部２ｂとケース１の外筒部１ｂとの間に非接触の状態で配置されているとともに、その両端部が、ばね座となるケース１の後端部１ｃ近傍に設けられた係止穴（図示省略）およびブラケット２の鍔部２ｃ近傍に設けられた係止穴（図示省略）に係止され、ねじり圧縮された状態で収容されている。このねじりコイルばね４は、そのねじり復元力により、揺動アーム部２ａおよびプーリＰを一定方向に付勢している。
【０００７】
ケース１の支軸部１ａの先端には、周方向に凹凸を有する花びら形状の回り止め段部１ｘが形成されており、この回り止め段部１ｘには、中央部に同様の花びら形状の穴（内周縁６ｘ）を有する鋼板製の摩擦板ガイド（押え板６）が嵌め入れられている。この押え板６は、前記支軸部１ａの回り止め段部１ｘに嵌め入れられた後、この回り止め段部１ｘの外周縁近傍をかしめることにより、ケース１に回転不能に固定されている。
【０００８】
また、この押え板６とブラケット２の鍔部２ｃとの間には、クラッチフェーシング材あるいはブレーキライニング材等からなる環状の摩擦板５が介在配置されており、この摩擦板５が、前記ねじりコイルばね４の伸張復元力によって押え板６に対して押し付けられることにより、揺動アーム部２ａの揺動が、これらの間で発生する摺動摩擦抵抗によって減衰されることとなる（ダンピング効果）。
【０００９】
従来、このようなオートテンショナには、ブラケット２の鍔部２ｃの端面２ｄに、先鋭な小突起が形成されており、この小突起が前記摩擦板５に食い込むことによって、当該摩擦板５が鍔部２ｃに回動不能に固定されていた。しかしながら、オートテンショナの揺動部材（ブラケット２）は、ダイカスト成形により製作されるために、前記小突起に対応する成形型の微小孔にアルミニウムが詰まり易く、この小突起を精度よく成形するのが難しいという問題があった。
【００１０】
そこで、本出願人らは、容易にかつ精度よく成形することのできる摩擦板５の回動防止手段として、この小突起に代えて、図５にように、揺動部材鍔部２ｃの端面２ｄに、放射状に延びる突条２ｚを形成したオートテンショナを提案している（特許文献２を参照）。
【００１１】
【特許文献１】特開２００３−２８７０９５号公報
【特許文献２】特開２００４−２７０８２５号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【００１２】
ところで、以上のような揺動部材２の鍔部端面２ｄに突条を設けたオートテンショナにおいては、摩擦板５を揺動部材２に組み付ける際に、この摩擦板５に軸方向の圧力をかけて、前記突条の食い込みを確実にする方法が採られている。
【００１３】
そのため、これらの突条が食い込む位置にあたる摩擦板５の一方の端面５ａに、微小なクラックが発生する場合があり、このクラックが、摩擦板５の振動により、当該摩擦板５の内周縁（５ｘ）あるいは外周縁（５ｙ）と交差する形状に形成された突条に沿って周縁まで進展してしまい、最悪の場合、摩擦板５を分断する恐れがある。
【００１４】
本発明は、このような実情に鑑みてなされたものであり、摩擦板の回動を防止する突条に由来するクラックの進展がなく、プーリの揺動減衰効果を安定して維持することのできるオートテンショナを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【００１５】
前記の目的を達成するために、請求項１に記載の発明は、テンションプーリを回転自在に支持する揺動アーム部および筒状のボス部とこれらの間に形成された環状の鍔部を有する揺動部材と、この揺動部材を揺動自在に支持する支軸部を有する支持部材と、前記揺動部材を一定方向に付勢するねじりコイルばねとを備え、前記支持部材の支軸部には、前記揺動部材のボス部がブッシュを介して嵌め入れられ、このボス部より軸方向に抜け出た前記支軸部の先端には、円板状の押え板が回転不能に固定され、この押え板と前記揺動部材の鍔部との間には、環状の摩擦板が介在配置されているとともに、この摩擦板が当接する前記揺動部材の鍔部の端面に、当該摩擦板が回動するのを防止する突条が形成されてなるオートテンショナにおいて、前記揺動部材の鍔部端面の突条が、軸方向から見て楕円状のパターンに形成されていることを特徴とする。
【００１６】
また、請求項２に記載の発明は、前記揺動部材の鍔部端面の突条が、この揺動部材の揺動中心軸と異なる位置に中心を有する円状のパターンに形成されていることを特徴とするオートテンショナである。
【００１７】
本発明は、揺動部材の鍔部の端面に、摩擦板の回動防止のための突条を有するオートテンショナにおいて、この突条の形状を、摩擦板のクラックがその周縁まで進行し難いパターンに形成することにより、所期の目的を達成しようとするものである。
【００１８】
すなわち、請求項１に記載の発明によれば、前記突条を、軸方向から見て楕円状のパターンに形成することによって、摩擦板の端面に発生したクラックの径方向への進展を抑えつつ、当該摩擦板の回動を防止することができる。
【００１９】
また、請求項２に記載のように、前記突条のパターンを、揺動部材の揺動中心軸と異なる位置に中心を有する円状（いわゆる偏心円）に形成することによっても、請求項１と同様、摩擦板のクラックの径方向への進展を抑えつつ、当該摩擦板の回動を防止することが可能となる。
【００２０】
なお、当然ながら、周方向に三角（おむすび）型や花びら型等のパターンでも、同様の効果を奏するであろうことは容易に想像できる。しかしながら、急なカーブの多い複雑なパターンは、その成型時に、成形型の凹条にアルミニウムが詰まり易く、パターンを精度よく成形するのが難しいという欠点がある。
【００２１】
また、これらの突条は、揺動部材の鍔部端面が摩擦板と接触する領域内に形成することが望ましい（請求項３）。
【００２２】
この構成により、前記突条は摩擦板の内周縁および外周縁と交差せず、クラックがこの摩擦板の周縁へ到達することがない。従って、本発明のオートテンショナは、このクラックに起因する摩擦板の分断を防止することができる。
【発明の効果】
【００２３】
以上のように、本発明のオートテンショナによれば、摩擦板にクラックが生じた場合でも、このクラックの径方向への進展がなく、クラックに起因する不具合が未然に防止されるとともに、前記摩擦板を用いたプーリの揺動減衰効果を安定して維持することが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【００２４】
以下、図面を参照しつつこの発明を実施するための形態について説明する。
図１は、本発明の第１実施形態のオートテンショナにおける揺動部材の端面に形成された突条のパターンを示す図である。なお、このオートテンショナ全体の構成は、従来例である図３と同様である。また、従来例と同様の機能を有する構成部材には、同じ符号を付記して詳細な説明を省略する。
【００２５】
このオートテンショナも、従来例と同様、ベルトＢが掛け回されるテンションプーリＰと、このプーリＰを回転自在に支持する揺動アーム部２ａおよび筒状のボス部２ｂとこれらの間に形成された環状の鍔部２ｃを有する揺動部材（ブラケット２）と、このブラケット２を揺動自在に支承する支軸部１ａを有する支持部材（固定ケース１）と、これらケース１の支軸部１ａとブラケット２のボス部２ｂとの間に介在配置されたブッシュ３と、ブラケット２とケース１との間に介装されたねじりコイルばね４等を主要部品として構成されている。
【００２６】
ケース１の支軸部１ａの先端に形成された回り止め段部１ｘには、中央部に花びら形状の穴（内周縁６ｘ）を有する円板状の鋼板製摩擦板ガイド（押え板６）が嵌め入れられており、この押え板６は、前記回り止め段部１ｘの外周縁近傍をかしめることにより、ケース１に回転不能に固定されている。また、この押え板６とブラケット２の鍔部２ｃとの間には、クラッチフェーシング材あるいはブレーキライニング材等からなる環状の摩擦板５が介在配置されており、この摩擦板５が、前記ねじりコイルばね４の伸張復元力によって押え板６に対して押し付けられることにより、揺動アーム部２ａの揺動が、これらの間で発生する摺動摩擦抵抗によって減衰される。
【００２７】
本実施形態におけるオートテンショナの特徴は、ブラケット２の鍔部２ｃの端面２ｄに摩擦板５の回動防止の目的で設けられた突条２ｘが、軸方向正面から見て楕円状のパターンに形成されている点である。また、この突条２ｘは、摩擦板５と接触する端面２ｄの領域、すなわち図中における摩擦板５の内周縁５ｘより外径側で、かつ、外周縁５ｙより内径側の領域内に形成されている。
【００２８】
以上の構成により、このオートテンショナは、この突条２ｘが接触する摩擦板５の一方の端面５ａに微小なクラック等が発生した場合でも、このクラックが摩擦板５の内周縁５ｘあるいは外周縁５ｙまで進展することなく、摩擦板５が分断される恐れがない。従って、本実施形態におけるオートテンショナは、このクラックに起因する不具合が未然に防止されるとともに、摩擦板５を用いたプーリの揺動減衰効果を安定して維持することができる。
【００２９】
次に、本発明の第２実施形態について説明する。
図２は、本発明の第２実施形態のオートテンショナにおける揺動部材の端面に形成された突条のパターンを示す図である。
【００３０】
本実施形態におけるオートテンショナも、基本的には第１実施形態における例と同様の構成である。このオートテンショナが第１実施形態と異なる部位は、ブラケット２の鍔部２ｃの端面２ｄに設けられた突条２ｙが、ケース支軸部１ａの軸心およびブラケット２の揺動中心である点Ｏと異なる位置Ａに中心を有する円状のパターンに形成されている点である。また、この突条２ｙは、第１実施形態と同様、摩擦板５の内周縁５ｘより外径側で、かつ、外周縁５ｙより内径側の領域内に形成されている。
【００３１】
以上の構成によって、この突条２ｙが接触する摩擦板５の一方の端面５ａに微小なクラック等が発生した場合でも、このクラックが摩擦板５の内周縁５ｘあるいは外周縁５ｙまで進展することなく、摩擦板５が分断される恐れがない。従って、本実施形態におけるオートテンショナも、このクラックに起因する不具合が未然に防止されるとともに、摩擦板５を用いたプーリの揺動減衰効果を安定して維持することが可能になる。
【００３２】
なお、これらの実施形態においては、摩擦板５の回動を防止する突条２ｘ、２ｙの断面形状を略三角状としたが、本発明における突条の断面形状は、特に限定されるものではなく、例えば台形状あるいは四角状としても良い。また、これら突条２ｘ，２ｙを形成する方法についても、特に限定されるものではない。
【００３３】
また、本発明におけるオートテンショナの構成も、これら実施形態での例に限定されるものではなく、揺動部材の鍔部の端面に摩擦板の回動防止用突条を備えるオートテンショナに広く適用することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【００３４】
【図１】本発明の第１実施形態のオートテンショナにおける揺動部材の端面に形成された突条のパターンを示す図である。
【図２】本発明の第２実施形態のオートテンショナにおける揺動部材の端面に形成された突条のパターンを示す図である。
【図３】オートテンショナの構造を示す軸方向断面図である。
【図４】図３のオートテンショナの右側面図である。
【図５】従来のオートテンショナにおける揺動部材の端面に形成された突条のパターンを示す図である。
【符号の説明】
【００３５】
１ ケース（支持部材）
１ａ 支軸部 １ｂ 外筒部 １ｃ 後端部 １ｘ 回り止め段部
２ ブラケット（揺動部材）
２ａ 揺動アーム部 ２ｂ ボス部 ２ｃ 鍔部 ２ｄ （鍔部）端面
２ｘ，２ｙ，２ｚ 突条
３ ブッシュ
４ ねじりコイルばね
５ 摩擦板
５ａ （ブラケット側）端面 ５ｘ 内周縁 ５ｙ 外周縁
６ 押え板（摩擦板ガイド）
６ｘ 内周縁
Ｂ ベルト
Ｐ テンションプーリ
【特許請求の範囲】
【請求項１】
テンションプーリを回転自在に支持する揺動アーム部および筒状のボス部とこれらの間に形成された環状の鍔部を有する揺動部材と、この揺動部材を揺動自在に支持する支軸部を有する支持部材と、前記揺動部材を一定方向に付勢するねじりコイルばねとを備え、
前記支持部材の支軸部には、前記揺動部材のボス部がブッシュを介して嵌め入れられ、このボス部より軸方向に抜け出た前記支軸部の先端には、円板状の押え板が回転不能に固定され、この押え板と前記揺動部材の鍔部との間には、環状の摩擦板が介在配置されているとともに、この摩擦板が当接する前記揺動部材の鍔部の端面に、当該摩擦板が回動するのを防止する突条が形成されてなるオートテンショナにおいて、
前記揺動部材の鍔部端面の突条が、軸方向から見て楕円状のパターンに形成されていることを特徴とするオートテンショナ。
【請求項２】
テンションプーリを回転自在に支持する揺動アーム部および筒状のボス部とこれらの間に形成された環状の鍔部を有する揺動部材と、この揺動部材を揺動自在に支持する支軸部を有する支持部材と、前記揺動部材を一定方向に付勢するねじりコイルばねとを備え、
前記支持部材の支軸部には、前記揺動部材のボス部がブッシュを介して嵌め入れられ、このボス部より軸方向に抜け出た前記支軸部の先端には、円板状の押え板が回転不能に固定され、この押え板と前記揺動部材の鍔部との間には、環状の摩擦板が介在配置されているとともに、この摩擦板が当接する前記揺動部材の鍔部の端面に、当該摩擦板が回動するのを防止する突条が形成されてなるオートテンショナにおいて、
前記揺動部材の鍔部端面の突条が、この揺動部材の揺動中心軸と異なる位置に中心を有する円状のパターンに形成されていることを特徴とするオートテンショナ。
【請求項３】
前記突条が、前記摩擦板の内周縁および外周縁と交差しないように、この摩擦板と接触する端面領域内に形成されていることを特徴とする請求項１または請求項２に記載のオートテンショナ。
【請求項１】
テンションプーリを回転自在に支持する揺動アーム部および筒状のボス部とこれらの間に形成された環状の鍔部を有する揺動部材と、この揺動部材を揺動自在に支持する支軸部を有する支持部材と、前記揺動部材を一定方向に付勢するねじりコイルばねとを備え、
前記支持部材の支軸部には、前記揺動部材のボス部がブッシュを介して嵌め入れられ、このボス部より軸方向に抜け出た前記支軸部の先端には、円板状の押え板が回転不能に固定され、この押え板と前記揺動部材の鍔部との間には、環状の摩擦板が介在配置されているとともに、この摩擦板が当接する前記揺動部材の鍔部の端面に、当該摩擦板が回動するのを防止する突条が形成されてなるオートテンショナにおいて、
前記揺動部材の鍔部端面の突条が、軸方向から見て楕円状のパターンに形成されていることを特徴とするオートテンショナ。
【請求項２】
テンションプーリを回転自在に支持する揺動アーム部および筒状のボス部とこれらの間に形成された環状の鍔部を有する揺動部材と、この揺動部材を揺動自在に支持する支軸部を有する支持部材と、前記揺動部材を一定方向に付勢するねじりコイルばねとを備え、
前記支持部材の支軸部には、前記揺動部材のボス部がブッシュを介して嵌め入れられ、このボス部より軸方向に抜け出た前記支軸部の先端には、円板状の押え板が回転不能に固定され、この押え板と前記揺動部材の鍔部との間には、環状の摩擦板が介在配置されているとともに、この摩擦板が当接する前記揺動部材の鍔部の端面に、当該摩擦板が回動するのを防止する突条が形成されてなるオートテンショナにおいて、
前記揺動部材の鍔部端面の突条が、この揺動部材の揺動中心軸と異なる位置に中心を有する円状のパターンに形成されていることを特徴とするオートテンショナ。
【請求項３】
前記突条が、前記摩擦板の内周縁および外周縁と交差しないように、この摩擦板と接触する端面領域内に形成されていることを特徴とする請求項１または請求項２に記載のオートテンショナ。
【図１】
【図２】
【図３】
【図４】
【図５】
【図２】
【図３】
【図４】
【図５】
【公開番号】特開２００６−１６２００５（Ｐ２００６−１６２００５Ａ）
【公開日】平成１８年６月２２日（２００６．６．２２）
【国際特許分類】
【出願番号】特願２００４−３５７０３９（Ｐ２００４−３５７０３９）
【出願日】平成１６年１２月９日（２００４．１２．９）
【出願人】（０００００１２４７）株式会社ジェイテクト (7,053)
【Ｆターム（参考）】
【公開日】平成１８年６月２２日（２００６．６．２２）
【国際特許分類】
【出願日】平成１６年１２月９日（２００４．１２．９）
【出願人】（０００００１２４７）株式会社ジェイテクト (7,053)
【Ｆターム（参考）】
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