説明

カウルパネル取付構造

【課題】 衝撃入力時のカウルパネルの変形が容易で、組付作業が迅速に行え、構造も簡素で安価な歩行者保護機能の高いカウルパネル取付構造を提供する。
【解決手段】 フェンダ間に渡設され、バルク1の上部にカウルパネル2が接合されるカウルパネル取付構造において、前記バルク1とカウルパネル2とを上下方向の剪断力により離脱可能な接合部3により接合したことにより、歩行者頭部等からの衝撃を受けたカウルパネル2に剪断力が作用することで、頑強なバルク1からカウルパネル2が容易に離脱して変形して衝撃荷重が緩和・吸収され、歩行者への衝撃値(HIC)が低減されて、歩行者の保護が有効になされる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フェンダ間に渡設され、バルク上部にカウルパネルが接合されるカウルパネル取付構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車等の車両が歩行者と衝突した際には、歩行者保護の観点から、主として歩行者の頭部が打ち付けられる機会が多いフロントフード後端部近傍やカウルパネルを容易に変形させて衝撃を吸収し、歩行者が受ける衝撃を少しでも緩和する構成が採用されている。そのようなカウルパネルの変形ひいてはフロントフードの変形を促進する技術として、下記特許文献1に開示されたワイパピボット部の取付構造が提案された。
【特許文献1】特開2003−312450号公報(図1および図5参照)。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
図6を用いて、前記特許文献1に開示されたワイパピボット部の取付構造について説明する。カウル20の前壁21に前方へ向けて突出する第1のカウルブラケット24を設け、前記カウル20の前方に並設される開きカウル23の前壁31に後方へ向けて突出する第2のカウルブラケット25を設け、両カウルブラケット24、25の先端部41、51を上下に重ね合わせ、ワイパピボット部19を両カウルブラケット24、25の先端部41、51と一体にボルト部材26で締結し、第2のカウルブラケット25の先端部51にボルト部材26を貫通する貫通穴52からカウルブラケット25の先端末に至るスリット27を設けたものである。
【0004】
このような構成により、歩行者との衝突時に、歩行者の頭部等による打付け荷重で、ボルト部材26がスリット27を押し広げて移動し、前記第2のカウルブラケット25の先端部51から離脱し、前記両先端部41、51を分離させ、ワイパピボット部や開きカウルを支持するカウルブラケットに制約されることなく、ワイパピボット部が落ち込み変位し、かつフロントフードの後端部が撓み変形するので、歩行者が受ける衝撃を効果的に吸収・緩和することができることとなった。
【0005】
しかしながら、この従来のワイパピボット部の取付構造にあって、カウル20の前壁21、31間のカウルブラケット24、25が離脱して、カウル20の変形が容易に構成されたとしても、カウル20の下部に配設されたバルクに対して何らの対策が採られていないため、バルクの抵抗に遭ってカウル20の変形が阻害され、充分な衝撃緩和がなされない虞れがあった。その上、カウルブラケット24、25の配設等により、組付作業が面倒で構造も複雑になった。
【0006】
そこで本発明は、このような従来のカウルパネル取付構造における諸課題を解決して、カウルパネルの僅かな構造改変により、衝撃入力時のカウルパネルの変形が容易で、組付作業が迅速に行え、構造も簡素で安価な歩行者保護機能の高いカウルパネル取付構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
このため本発明は、フェンダ間に渡設され、バルク上部にカウルパネルが接合されるカウルパネル取付構造において、前記バルクとカウルパネルとを上下方向の剪断力により離脱可能な接合部により接合したことを特徴とする。また本発明は、前記接合部が、前記バルクとカウルパネルのそれぞれの前面の縦壁間に設置されたことを特徴とする。また本発明は、前記接合部が、前記バルクとカウルパネルのいずれか一方に設置されたクリップ部材と他方に設置された前記クリップ部材を受け入れるクリップボックスとから構成されたことを特徴とする。また本発明は、前記クリップボックスに、上下方向の剪断力による前記クリップ部材の移動時に変形可能な縦溝を形成したことを特徴とするもので、これらを課題解決のための手段とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、フェンダ間に渡設され、バルク上部にカウルパネルが接合されるカウルパネル取付構造において、前記バルクとカウルパネルとを上下方向の剪断力により離脱可能な接合部により接合したことにより、歩行者頭部等からの衝撃を受けたカウルパネルに剪断力が作用することで、頑強なバルクからカウルパネルが容易に離脱して変形して衝撃荷重が緩和・吸収され、歩行者への衝撃値(HIC)が低減されて、歩行者の保護が有効になされる。
【0009】
また、前記接合部が、前記バルクとカウルパネルのそれぞれの前面の縦壁間に設置された場合は、それぞれの前面の縦壁間に形成された接合部が前面に露呈していて接合作業が容易で、接合部での離脱作用も単純かつ容易に行える。さらに、前記接合部が、前記バルクとカウルパネルのいずれか一方に設置されたクリップ部材と他方に設置された前記クリップ部材を受け入れるクリップボックスとから構成された場合は、一方側に設置したクリップボックスに受け入れたクリップをワンタッチにて他方側に挿入するだけで、迅速に接合部が形成される。
【0010】
さらにまた、前記クリップボックスに、上下方向の剪断力による前記クリップ部材の移動時に変形可能な縦溝を形成した場合は、該縦溝の溝幅を選定して、クリップのクリップボックスからの離脱荷重を設定でき、衝撃の緩和・吸収性能を容易にコントロールできる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の実施例を図面に基づいて説明する。図1は本発明のカウルパネル取付構造の第1実施例を示す要部断面図、図2は図1のA部の拡大斜視図、図3は第2実施例を示す要部拡大斜視図、図4は第3実施例を示す要部拡大斜視図、図5は第4実施例を示す要部断面図である。本発明のカウルパネル取付構造の基本的な構成は、図1に示すように、フェンダ間に渡設され、バルク1の上部にカウルパネル2が接合されるカウルパネル取付構造において、前記バルク1とカウルパネル2とを上下方向の剪断力により離脱可能な接合部3により接合したことを特徴とする。
【実施例1】
【0012】
図1に示すように、フロントガラス6の下縁とフロントフード7との間を閉塞して樹脂製等のカウルパネル2が配設されている。該カウルパネル2の下部には比較的剛性の高いバルク1が配設され、カウルパネル2を支持している。バルク1の前部は起立されて前面縦壁1Aが形成され、カウルパネル2の前部は垂下されて前面縦壁2Aが形成される。これら前面縦壁1Aと2Aとの間にバルク1とカウルパネル2との接合部3が構成される。カウルパネル2の上部にはシール部8を介設してフロントフード7の後端部が載置されて閉じられている。符号2’で示したものは、後述するように、フロントフード7に歩行者の頭部等からの衝撃荷重が作用して、バルク1から離脱したカウルパネル2の変形状態を表したものである。
【0013】
カウルパネル2の前部が垂下構成された前面縦壁2Aの下端部には、図1のA部の拡大斜視図である図2(A)に示すように、クリップボックス5が形成される。本実施例では、カウルパネル2の下縁の一部を延設して折り返したカウルパネル2と一体構造に形成されている。前記クリップボックス5の後面5B(車両に対して)には、鍵孔状の縦溝5Cが形成される。該縦溝5Cは、下部のやや大きな径の丸孔部と縦に延びるスリットとから構成される。縦溝5Cにはクリップ部材4が圧入して挿入される。クリップ部材4は、前後一対のフランジ4A、4Bを有しており、これらフランジ4A、4Bおよびこれらの間に形成された係止部4Cが、前記クリップボックス5の後面壁5Bを挟持しつつ縦溝5C(スリット)に予め圧入される。
【0014】
図2(B)に示すように、クリップボックス5の縦溝5Cに圧入・係止されたクリップ4をバルク1の前面縦壁1Aに穿設された係止孔1Bに挿入することで、カウルパネル2がバルク1に接合される。前記係止孔1Bは、好適には、周方向の複数箇所にて切込み部を径方向に形成し、これらの切込み部間を切り起こして抜止めが形成された孔として構成される。
【0015】
かくして接合されたカウルパネル2とバルク1とは、図1に示したように、フロントフード7に歩行者の頭部等からの所定値以上の衝撃荷重が作用することによって、カウルパネル2の前面縦壁2Aとバルク1の前面縦壁1Aとの間に上下方向の剪断力が作用し、バルク1の係止孔1Bに抜け止めされたクリップ部材4がバルク1とともに残り、クリップ部材4における係止部4Cがカウルパネル2のクリップボックス5の縦溝5Cのスリットを押し拡げつつ抜け出す。これによってカウルパネル2は、図1の2’に示すように、容易に下方に変形して衝撃を吸収・緩和することができ、歩行者への衝撃値(HIC)を低減して、被害を最小限に抑制することができる。
【実施例2】
【0016】
図3は本発明のカウルパネル取付構造の第2実施例を示す要部拡大斜視図で、カウルパネル2のクリップボックス側のみを示している。本実施例は、樹脂等から構成されるカウルパネル2と金属等の別素材から構成されるクリップボックス5を、カウルパネル2の成形時にカウルパネル2の折返し部2B内に一体に鋳込んだものである。前記折返し部2Bはカウルパネル2の下縁の全長に形成されるが、カウルパネル2下縁の一部の適宜長さ部分に形成してもよい。クリップボックス5の後面に臨むカウルパネル2の折返し面2Bには切欠き2Cが形成され、クリップボックス5の縦溝5Cを露呈させてクリップ部材4の離脱を円滑にするように構成されている。
【実施例3】
【0017】
図4は本発明のカウルパネル取付構造の第3実施例を示す要部拡大斜視図で、カウルパネル2のクリップボックス側のみを示している。本実施例は、樹脂等から構成されるカウルパネル2の下縁に対して、金属等の別素材から構成されるU字形のクリップボックス5を添設したものである。歩行者等の頭部からの衝撃荷重はカウルパネル2の上方から作用して、カウルパネル2を下方へ移動させることから、U字形のクリップボックス5は、その前面壁5Aの固定孔5Dに挿入された適宜のビス等により、カウルパネル2の前面縦壁2Aの背面に強度を要することなく簡単に固定するだけで済む。
【実施例4】
【0018】
図5は本発明のカウルパネル取付構造の第4実施例を示す要部断面図である。本実施例のものは、前述した実施例のものと異なり、クリップボックス5がバルク1側に設置された例である。バルク1の前面縦壁1Aの前面には逆U字形のクリップボックス5が固定され、カウルパネル2の前面縦壁2Aの下縁にはクリップ部材4が固定される。クリップボックス5の前面には下方に向いた前記各実施例のもののような縦溝5Cが形成される。カウルパネル2の前面縦壁2Aのクリップ部材4を、バルク1の前面縦壁1Aにおけるクリップボックス5の縦溝5Cの丸孔に挿入係止することで、前面縦壁2Aと1Aが接合される。
【0019】
かくして接合されたカウルパネル2とバルク1とは、図1に示したように、フロントフード7に歩行者の頭部等からの所定値以上の衝撃荷重が作用することによって、カウルパネル2の前面縦壁2Aとバルク1の前面縦壁1Aとの間に上下方向の剪断力が作用し、カウルパネル2のクリップ部材4がクリップボックス5の縦溝5Cのスリットを押し拡げつつ抜け出す。これによってカウルパネル2は、図1の2’に示すように、容易に下方に変形して衝撃を吸収・緩和することができ、歩行者への衝撃値を低減して、被害を最小限に抑制することができる。
【0020】
以上、本発明の各実施の形態について説明してきたが、本発明の趣旨の範囲内で、バルクおよびカウルパネルの形状、形式およびそれらの配設形態(上下方向の剪断力により離脱可能な接合部があれば、バルクおよびカウルパネル自体のそれぞれの構成は適宜形状が採用され得る)ならびに材質、カウルパネルのシール部を介したフロントフードとの関連構成、カウルパネルのフロントガラスとの関連構成(好適には、カウルパネルの下方への変形は、フロントガラス下縁部近傍を支点としてなされる)、バルクとカウルパネルとの接合部の形状、形式および接合形態(クリップとクリップボックスにおける縦溝との係止が好適であるが、ワンタッチで係止可能で、上下方向の剪断力により離脱するなら、適宜の摩擦係合、破断部材の介設等も採用され得る)、クリップ部材の形状、形式および材質(好適には破断しにくいもの)、クリップボックスの形状(カウルパネルと一体のもの、U字形、L字形等)、形式および材質(樹脂、金属等)、クリップボックスにおける縦溝の形状(鍵孔形状の他、スリット部の溝幅の漸増、漸減等)、形式等については適宜選定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明のカウルパネル取付構造の第1実施例を示す要部断面図である。
【図2】同、図1のA部の拡大斜視図である。
【図3】本発明のカウルパネル取付構造の第2実施例を示す要部拡大斜視図である。
【図4】本発明のカウルパネル取付構造の第3実施例を示す要部拡大斜視図である。
【図5】本発明のカウルパネル取付構造の第4実施例を示す要部拡大断面図である。
【図6】従来のワイパピボット部の取付構造の説明図である。
【符号の説明】
【0022】
1 バルク
1A 前面縦壁
2 カウルパネル
2’ カウルパネル変形後形状
2A 前面縦壁
3 接合部
4 クリップ部材
5 クリップボックス
6 フロントガラス
7 フロントフード
8 シール部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フェンダ間に渡設され、バルク上部にカウルパネルが接合されるカウルパネル取付構造において、前記バルクとカウルパネルとを上下方向の剪断力により離脱可能な接合部により接合したことを特徴とするカウルパネル取付構造。
【請求項2】
前記接合部が、前記バルクとカウルパネルのそれぞれの前面の縦壁間に設置されたことを特徴とする請求項1に記載のカウルパネル取付構造。
【請求項3】
前記接合部が、前記バルクとカウルパネルのいずれか一方に設置されたクリップ部材と他方に設置された前記クリップ部材を受け入れるクリップボックスとから構成されたことを特徴とする請求項1または2に記載のカウルパネル取付構造。
【請求項4】
前記クリップボックスに、上下方向の剪断力による前記クリップ部材の移動時に変形可能な縦溝を形成したことを特徴とする請求項3に記載のカウルパネル取付構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−256349(P2006−256349A)
【公開日】平成18年9月28日(2006.9.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−72330(P2005−72330)
【出願日】平成17年3月15日(2005.3.15)
【出願人】(000005348)富士重工業株式会社 (3,010)
【Fターム(参考)】