説明

カチオン硬化性樹脂組成物及びその硬化物

【課題】カチオン硬化性化合物による効果を充分に発現できるとともに、充分な硬化性を発揮し、かつ短時間で硬化でき、生産性や低着色性に優れる硬化物を与えることができるカチオン硬化性樹脂組成物、及び、それを硬化して得られる硬化物を提供する。
【解決手段】カチオン硬化性化合物とカチオン硬化触媒とを含み、カチオン硬化する樹脂組成物であって、該カチオン硬化性樹脂組成物は、該樹脂組成物100質量%に対し、0.03〜2質量%の水分を含むカチオン硬化性樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カチオン硬化性樹脂組成物及びその硬化物に関する。より詳しくは、カチオン硬化性の化合物を含み、熱や光等でカチオン種を発生させるカチオン硬化触媒によるカチオン硬化反応によって硬化し得る樹脂組成物、及び、それを硬化して得られる硬化物に関する。
【背景技術】
【0002】
カチオン硬化性樹脂組成物は、カチオン硬化性の化合物を含み、熱や光等でカチオン種を発生させるカチオン硬化触媒によるカチオン硬化反応によって硬化し得る樹脂組成物であり、例えば、電気・電子部材や光学部材、成型材料等の他、塗料や接着剤の材料等の各種用途への適用が種々検討されている。一般に、硬化反応(重合反応)としては、ビニル基等によるラジカル重合反応がよく知られているが、カチオン硬化は、ラジカル重合に比べ、酸素による硬化阻害が起こらず、硬化時の収縮が小さいという利点がある。一方で、硬化速度が課題とされており、短時間硬化を実現し得る技術が求められていた。
【0003】
そこで、例えば、エポキシ樹脂、カチオン硬化開始剤及び水酸基を有するエポキシ化ポリブタジエンを含むエポキシ樹脂組成物が開示されている(特許文献1、2等参照。)。特許文献1、2には、水酸基を有するエポキシ化ポリブタジエンが水酸基を有し、かつ液状であって分子鎖が動きやすいものであり、カチオン硬化系において連鎖移動効果を有するものであるために、水酸基を有するエポキシ化ポリブタジエンを含むことによって重合速度(硬化速度)が向上すること、及び、水酸基を有するエポキシ化ポリブタジエンは分子量の大きな脂肪族の非グリシジルエーテルのエポキシ樹脂で、エポキシ基の反応性が脂環式エポキシ樹脂と同程度であり、硬化系に取り込まれるため、硬化物の吸湿性や耐熱性の低下を抑制できる旨が記載されている。
【0004】
またエポキシ樹脂と、ヒドロキシ基含有物質と、ヨードニウム塩、可視光増感剤及び電子供与体化合物を含有する光開始剤系とを含む光硬化性付加重合性組成物が開示されている(特許文献3等参照。)。特許文献3には、ヨードニウム塩、可視光増感剤及び電子供与体化合物を含有する光開始剤系を用いると、室温及び標準圧力の条件下で効率的なカチオン重合が可能となるとともに、適切な条件下でカチオン重合と遊離基重合との両方を開始させることができ、また、エポキシ及びヒドロキシ基含有樹脂組成物を硬化させて不粘着性のゲル又は固体を形成するのに要する時間を大幅に削減することができる旨が記載されている。
【0005】
ところで、カチオン重合性化合物の保存安定性を向上させるための技術として、カチオン重合性化合物及びカチオン重合開始剤を含み、かつ他のカチオン性化合物、金属化合物及び強酸性化合物の総含有量が特定されたカチオン重合性組成物において、水を含ませる技術が開示されている(特許文献4参照。)。このカチオン重合性組成物は、主にインクジェットインク用途を意図したものであり、特許文献4には、水の含有量が不足するとカチオン重合性化合物の保存安定性を充分に向上させることができない旨が記載され、実施例では、含水率3.5〜4質量%のカチオン重合性組成物が具体的に記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006−152016号公報(第2、5頁)
【特許文献2】特開2007−31555号公報(第2、7頁)
【特許文献3】特表2001−520759号公報(第2、10〜11頁)
【特許文献4】特開2006−89722号公報(第2、8、13頁)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記のように、カチオン硬化性樹脂組成物に関する技術が種々検討されているが、生産性をより高めるため、更に短時間で充分に硬化できるようにするための工夫の余地があった。また、特許文献1〜3の技術は、硬化速度を向上させるための成分として、硬化物骨格に組み込まれる成分、すなわち特許文献1〜2であれば水酸基を有するエポキシ化ポリブタジエン、特許文献3であればヒドロキシ基含有物質を使用していることから、硬化物においてカチオン硬化性化合物が有する特性が最大限に発揮されない可能性がある。したがって、カチオン硬化性化合物による効果を最大限に発揮しながらも、硬化性高く硬化速度を向上させ、生産性を高めるための工夫の余地があった。また、特許文献4のように水分含有量が3.5〜4質量%であると、光学部材用途等で要求される高透明性を達成できないおそれがあることから、光学部材用途にも更に好適なものとするため、透明性に優れる硬化物を得られるようにするための工夫の余地もあった。
【0008】
ところで、カチオン硬化触媒を用いて硬化物を得る場合、このような硬化物は、従来の酸無水物類やアミン類、フェノール樹脂等の硬化剤を使用した場合に比べると、着色は充分に抑制されてはいるものの、それでもカチオン硬化触媒の使用量によっては、硬化時や後加工時(リフロー工程)、使用時の光照射等によって、カチオン硬化触媒が硬化物の着色の原因となることがある。一方で、カチオン硬化触媒の使用量を低減すると、樹脂組成物が充分に硬化しないおそれがある。したがって、カチオン硬化触媒の使用量を低減しても充分な硬化性を発揮できるようにし、光学材料等の高レベルの透明性が要求される用途に更に好適に適用できるようにするための工夫の余地があった。
【0009】
本発明は、上記現状に鑑みてなされたものであり、カチオン硬化性化合物による効果を充分に発現できるとともに、充分な硬化性を発揮し、かつ短時間で硬化でき、生産性や低着色性に優れる硬化物を与えることができるカチオン硬化性樹脂組成物、及び、それを硬化して得られる硬化物を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者等は、カチオン硬化系での硬化時間を短縮する技術について種々検討したところ、カチオン硬化性化合物及びカチオン硬化触媒を含む混合物に微量の水分を共存させると、カチオン硬化触媒による硬化速度が劇的に高まり、短時間で硬化でき、生産性が顕著に向上されることを見いだした。このようなカチオン硬化性化合物、カチオン硬化触媒及び水分を含む樹脂組成物は、充分な硬化性を有するため、カチオン硬化触媒の使用量を低減しても充分な硬化性を発現でき、透明性や低着色性が要求される用途に特に有用なものとなることを見いだした。また、特定含有量の水分を含む樹脂組成物とすることで、ガラス転移温度(Tg)が高く、かつ透明性に優れた硬化物を得ることができることも見いだし、上記課題をみごとに解決することができることに想到した。そして、このような樹脂組成物が、光学部材、機械部品材料、電気・電子部品材料、自動車部品材料、土木建築材料、成形材料等の他、塗料や接着剤の材料等の各種用途に有用なものであり、特に光学部材用途に特に好適なものであることを見いだし、本発明に到達したものである。
【0011】
このように本発明では、カチオン硬化性樹脂組成物において微量の水分を含有させることによって、硬化速度を劇的に高めることを可能としているが、これは、下記のカチオン硬化反応(重合反応)のメカニズムにおいて、下記式(1)で示される分解反応が促進されることに起因するものと推測される。なお、下記式は、カチオン硬化性化合物としてエポキシ樹脂を用い、カチオン硬化触媒として芳香族スルホニウム塩を用いた例であるが、他のカチオン硬化性化合物及びカチオン硬化触媒を用いた場合も、ほぼ同様のメカニズムになるものと考えられる。
【0012】
【化1】

【0013】
上記式(1)〜(3)において、R、R’、R’’及びR’’’は、同一又は異なって、有機基を表し、R’ は、カチオン種であり、Xは、アニオン種である。nは、0を超える数である。
上記式(1)で示される分解反応において、生成するカチオン種(上記式中のR’)の安定性を高くすれば、式(1)で示される分解反応の反応速度が高まるものの、その安定性が高過ぎると、続く上記式(2)及び(3)で示されるカチオン重合(硬化)に速やかに移行しないおそれがある。したがって、カチオン種を適度に安定化、すなわちカチオン重合(硬化)を阻害しない程度にカチオン種を安定化することができれば、上記式(1)〜(3)からなる全体の速度、いわゆる樹脂組成物の硬化速度が向上されると考えられる。水分子は、酸素原子に非共有電子対を有するものであるため、カチオン硬化触媒の熱や光励起による分解反応で生成したカチオンを適度に安定化できると推測される。
【0014】
本発明ではまた、微量の水分を含有させることによって、硬化速度の向上と同時に硬化物の着色を抑制し、低着色性(無色性)を向上させることも可能としているが、これは、カチオン硬化触媒の量が少なくても硬化速度を促進できることに起因する、触媒量を減らすことによる硬化物自体の着色、硬化物の耐熱着色が抑制されるという効果に加え、水分を含有することに直接起因する効果である。
【0015】
また一般に、カチオン硬化性化合物とカチオン硬化触媒とを用いる硬化系においては、敢えて水を共存させることは行わない。例えば、樹脂組成物を塗布用途等に好適なものとするため、カチオン硬化性化合物を溶解・分散等させるための媒体として有機溶媒を用いることはあるが、カチオン硬化性化合物は、通常、水不溶性を示すため、このような媒体としても水は不適であると考えられている。また、水分は屈折率が低いため、濁りの原因となったり、また黄変等の原因となったりすること等から、光学部材等の高いレベルの透明性や低着色性が要求される用途では、水分を含有させることは好ましくないと考えられている。特に、金型成形においては、塗布膜に比べ、樹脂組成物中の水分が成形硬化後も残留し易く、また成形硬化工程で水分の気化により生じた気泡が残留し易いため、樹脂組成物への水分の混入は可能な限り抑止するべきというのが、従来の技術常識である。したがって、本発明の樹脂組成物は、カチオン硬化性化合物及びカチオン硬化触媒に水分を共存させるという構成を採用した点において、従来の技術常識からは容易に想到できない特異な発明であるといえる。また、本発明の樹脂組成物は、水分を微量含むものであるが、この水分が硬化速度を促進することに起因してか、意外にも、後述の実施例で示すように水分を含まない組成物と同程度又はそれ以上の硬化性及び光学特性を有する硬化物を与えることができるものである。
【0016】
すなわち本発明は、カチオン硬化性化合物とカチオン硬化触媒とを含み、カチオン硬化する樹脂組成物であって、該カチオン硬化性樹脂組成物は、該樹脂組成物100質量%に対し、0.03〜2質量%の水分を含むカチオン硬化性樹脂組成物である。
本発明はまた、上記カチオン硬化性樹脂組成物を硬化させてなる硬化物でもある。
以下に本発明を詳述する。
【0017】
本発明のカチオン硬化性樹脂組成物(単に「樹脂組成物」とも称す。)は、カチオン硬化性化合物、カチオン硬化触媒及び水分を含有するものであるが、本発明の含有成分(必須成分に限らず、任意成分も含む。)は、各々1種又は2種以上用いることができる。
上記樹脂組成物において、水分の含有量は、該樹脂組成物100質量%に対し、0.03〜2質量%であることが適当である。0.03質量%未満であると、短時間で樹脂組成物を充分に硬化させることができず、生産性が向上しないおそれがあり、また、2質量%を超えると、カチオン硬化性化合物の水との相溶性が良好ではないことに起因して、透明性や低着色性等の特性が充分に発揮できなくなるおそれがある。上記水分含有量として好ましくは、樹脂組成物100質量%に対して0.08質量%以上であり、より好ましくは0.1質量%以上、更に好ましくは0.12質量%以上である。また、1質量%以下が好ましく、より好ましくは1.00質量%未満である。1.00質量%以上では、光学部材、中でも、金型成形による成形硬化する光学部材においては、樹脂組成物に含有される水分が硬化時に気化することによって硬化物内に気泡が発生し透明性がより充分とはならないおそれがある。したがって、上記樹脂組成物を光学部材用途に用いる場合には、硬化速度改良に加え、光学用途に要求される高い透明性を達成するために、水分の含有量を1.00質量%未満とすることが特に好適である。また、光学部材の中でも、レンズにおいては、レンズ内の微量の気泡による光の散乱も課題となり得るため、気泡の生成要因となる樹脂組成物中の水分は1.00質量%未満であることが特に好ましい。更に好ましくは0.8質量%以下、より更に好ましくは0.80質量%未満、特に好ましくは0.7質量%以下、最も好ましくは0.70質量%未満である。
【0018】
上記樹脂組成物において、カチオン硬化性化合物(「カチオン硬化樹脂」とも称す。)は、カチオン硬化反応によって硬化(重合)し得る化合物であればよく、カチオン重合性基を有する化合物であることが好適である。カチオン硬化性化合物を用いることによって、従来の熱硬化性プラスチック材料と同等の作業性を有しながら、無機ガラスに匹敵する耐熱性を示し、成型性や加工性に優れるといった特性を充分に発揮することができる。また、硬化物は離型性(離型強度)に優れたものとなるが、離型剤を併用した場合には、その離型性が相乗的に発揮されることになる。
【0019】
上記カチオン重合性基としては、例えば、エポキシ基、オキセタン基(オキセタン環)、ジオキソラン基、トリオキサン基、ビニルエーテル基、スチリル基等が挙げられ、このように上記カチオン重合性基が、エポキシ基、オキセタン基、ジオキソラン基、トリオキサン基、ビニルエーテル基及びスチリル基からなる群より選択される少なくとも1種の基である形態は、本発明の好適な形態の1つである。これらカチオン重合性基の硬化特性は、基の種類のみならず、該基が結合した有機骨格にも影響されることになる。
なお、本明細書における「エポキシ基」とは、3員環のエーテルであるオキシラン環を含むものであり、狭義のエポキシ基の他、オキシラン環が炭素に結合している基や、グリシジル基(グリシジルエーテル基及びグリシジルエステル基を含む)のようにエーテル又はエステル結合を含む基、エポキシシクロヘキサン環等を含むものである。
【0020】
上記カチオン重合性基の中でも、エポキシ基及びオキセタン基が好適である。すなわち、上記カチオン硬化性化合物は、エポキシ化合物(「エポキシ基含有化合物」又は「エポキシ樹脂」とも称す。)及び/又はオキセタン化合物(「オキセタン基含有化合物」とも称す。)を含むものであることが好ましい。また、エポキシ化合物としては、芳香族エポキシ化合物、脂肪族エポキシ化合物、脂環式エポキシ化合物、水添エポキシ化合物が好適である。芳香族エポキシ化合物は、脂肪族エポキシ化合物、脂環式エポキシ化合物、水添エポキシ化合物及びオキセタン化合物に比較して、通常は硬化に長時間を要するが、微量の水分を共存させることによって硬化速度を著しく高めることができるため、本発明が特に有効である。また、硬化性に優れる脂肪族エポキシ化合物、脂環式エポキシ化合物、水添エポキシ化合物及びオキセタン化合物では、より一層硬化速度を高めることができ、生産性が更に向上されるため、本発明の作用効果をより顕著に発揮されることになる。このように上記カチオン硬化性化合物が、芳香族エポキシ化合物、脂肪族エポキシ化合物、脂環式エポキシ化合物、水添エポキシ化合物及び/又はオキセタン化合物を含む形態もまた、本発明の好適な形態の1つである。
【0021】
以下では、エポキシ化合物及びオキセタン化合物について、具体的に説明する。
上記エポキシ化合物に関し、芳香族エポキシ化合物とは、分子中に芳香環及びエポキシ基を有する化合物であるが、例えば、ビスフェノール骨格、フルオレン骨格、ビフェニル骨格、ナフタレン環、アントラセン環等の芳香環共役系を有するグリシジル化合物であることが好ましく、その中でも、より高屈折率を実現させるため、ビスフェノール骨格及び/又はフルオレン骨格を有する化合物であることが好適である。より好ましくは、フルオレン骨格を有する化合物であり、これによって、更に著しく屈折率を高めることができる。また、芳香族グリシジルエーテル化合物も好適である。また、芳香族エポキシ化合物の臭素化化合物を用いることによっても、より高屈折率を達成できるため好適であるが、用途に応じて適宜使用することが好ましい。
【0022】
上記芳香族エポキシ化合物としては、例えば、ビスフェノールA型エポキシ化合物、ビスフェノールF型エポキシ化合物、フルオレン系エポキシ化合物、ブロモ置換基を有する芳香族エポキシ化合物等が好適であり、中でも、ビスフェノールA型エポキシ化合物及びフルオレン系エポキシ化合物が好ましい。具体的には、ビスフェノールA型エポキシ化合物(ジャパンエポキシレジン社製、828EL、1003又は1007)、ビスフェノールF型エポキシ化合物、フルオレン系エポキシ化合物(大阪ガスケミカル社製、オンコートEX−1020又はオグソールEG−210)、フルオレン系エポキシ化合物(大阪ガスケミカル社製、オンコートEX−1010又はオグソールPG)等が好ましく用いられる。より好ましくは、ビスフェノールA型エポキシ化合物、フルオレン系エポキシ化合物(大阪ガスケミカル社製、オグソールEG−210)である。
【0023】
上記芳香族エポキシ化合物としてはまた、芳香族グリシジルエーテル化合物が好適であるが、芳香族グリシジルエーテル化合物としては、例えば、エピビスタイプグリシジルエーテル型エポキシ樹脂、高分子量エピビスタイプグリシジルエーテル型エポキシ樹脂、ノボラック・アラルキルタイプグリシジルエーテル型エポキシ樹脂が挙げられる。
上記エピビスタイプグリシジルエーテル型エポキシ樹脂としては、例えば、ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールS、フルオレンビスフェノール等のビスフェノール類とエピハロヒドリンとの縮合反応により得られるものが好適である。
上記高分子量エピビスタイプグリシジルエーテル型エポキシ樹脂としては、例えば、上記エピビスタイプグリシジルエーテル型エポキシ樹脂を上記ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールS、フルオレンビスフェノール等のビスフェノール類と更に付加反応させることにより得られるものが好適である。
【0024】
上記ノボラック・アラルキルタイプグリシジルエーテル型エポキシ樹脂としては、例えば、フェノール、クレゾール、キシレノール、ナフトール、レゾルシン、カテコール、ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールS、フルオレンビスフェノール等のフェノール類とホルムアルデヒド、アセトアルテヒド、プロピオンアルデヒド、ベンズアルデヒド、ヒドロキシベンズアルデヒド、サリチルアルデヒド、ジシクロペンタジエン、テルペン、クマリン、パラキシリレングリコールジメチルエーテル、ジクロロパラキシリレン、ビスヒドロキシメチルビフェニル等を縮合反応させて得られる多価フェノール類を、更にエピハロヒドリンと縮合反応することにより得られるものが好適である。
【0025】
上記芳香族エポキシ化合物としては更に、例えば、テトラメチルビフェノール、テトラメチルビスフェノールF、ハイドロキノン、ナフタレンジオール等とエピハロヒドリンとの縮合反応により得られる芳香族結晶性エポキシ樹脂、及び、更に上記ビスフェノール類やテトラメチルビフェノール、テトラメチルビスフェノールF、ハイドロキノン、ナフタレンジオール等を付加反応させることにより得られる芳香族結晶性エポキシ樹脂の高分子量体;テトラヒドロフタル酸、ヘキサヒドロフタル酸、安息香酸とエピハロヒドリンとの縮合反応により得られるグリシジルエステル型エポキシ樹脂等を用いることもできる。
【0026】
上記脂肪族エポキシ化合物とは、脂肪族エポキシ基を有する化合物であるが、脂肪族グリシジルエーテル型エポキシ樹脂が好適である。
上記脂肪族グリシジルエーテル型エポキシ樹脂としては、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ポリエチレングリコール(PEG600)、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、テトラプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール(PPG)、グリセロール、ジグリセロール、テトラグリセロール、ポリグリセロール、トリメチロールプロパン及びその多量体、ペンタエリスリトール及びその多量体、グルコース、フルクトース、ラクトース、マルトース等の単/多糖類等とエピハロヒドリンとの縮合反応により得られるもの、プロピレングリコール骨格、アルキレン骨格、オキシアルキレン骨格を有するもの等が好適である。中でも、中心骨格にプロピレングリコール骨格、アルキレン骨格、オキシアルキレン骨格を有する脂肪族グリシジルエーテル型エポキシ樹脂等が好適である。
【0027】
上記脂環式エポキシ化合物とは、脂環式エポキシ基を有する化合物であるが、脂環式エポキシ基としては、例えば、エポキシシクロヘキサン基(エポキシシクロヘキサン骨格)、環状脂肪族炭化水素に直接又は炭化水素を介して付加したエポキシ基(特にオキシラン環)等が挙げられる。中でも、エポキシシクロヘキサン基を有する化合物であることが好適である。また、硬化速度をより高めることができる点で、分子中に脂環式エポキシ基を2個以上有する多官能脂環式エポキシ化合物が好適である。また、分子中に脂環式エポキシ基を1個有し、かつビニル基等の不飽和二重結合基を有する化合物も好ましく用いられる。
【0028】
上記エポキシシクロヘキサン基を有するエポキシ化合物としては、例えば、3,4−エポキシシクロヘキシルメチル−3’,4’−エポキシシクロヘキサンカルボキシレート、イプシロン−カプロラクトン変性3,4−エポキシシクロヘキシルメチル3´,4´−エポキシシクロヘキサンカルボキシレート、ビス−(3,4−エポキシシクロヘキシル)アジペート等が好適である。また、上記エポキシシクロヘキサン基を有するエポキシ化合物以外の脂環式エポキシ化合物としては、例えば、2,2−ビス(ヒドロキシメチル)−1−ブタノールの1,2−エポキシ−4−(2−オキシラニル)シクロヘキサン付加物、トリグリシジルイソシアヌレート等のヘテロ環含有のエポキシ樹脂等の脂環式エポキシド等が挙げられる。
【0029】
上記水添エポキシ化合物としては、飽和脂肪族環状炭化水素骨格に直接的又は間接的に結合したグリシジルエーテル基を有する化合物であることが好ましく、多官能グリシジルエーテル化合物が好適である。このような水添エポキシ化合物は、芳香族エポキシ化合物の完全又は部分水添物であることが好ましく、より好ましくは、芳香族グリシジルエーテル化合物の水添物であり、更に好ましくは、芳香族多官能グリシジルエーテル化合物の水添物である。具体的には、水添ビスフェノールA型エポキシ化合物、水添ビスフェノールS型エポキシ化合物、水添ビスフェノールF型エポキシ化合物等が好ましい。より好ましくは、水添ビスフェノールA型エポキシ化合物、水添ビスフェノールF型エポキシ化合物である。
【0030】
上記エポキシ化合物としてはまた、ヒダントインやシアヌール酸、メラミン、ベンゾグアナミンとエピハロヒドリンとの縮合反応により得られる、室温で固形の3級アミン含有グリシジルエーテル型エポキシ樹脂を用いることもできる。
【0031】
上記オキセタン化合物とは、オキセタン基(オキセタン環)を有する化合物であり、例えば、ETERNACOLL(R)EHO、ETERNACOLL(R)OXBP、ETERNACOLL(R)OXMA、ETERNACOLL(R)HBOX、ETERNACOLL(R)OXIPA(宇部興産社製);OXT−101、OXT−121、OXT−211、OXT−221、OXT−212、OXT−610(東亜合成社製)等が好適である。
【0032】
上記オキセタン化合物は、硬化速度の観点から、脂環式エポキシ化合物及び/又は水添エポキシ化合物と併用することが好ましい。また、高屈折率硬化物(好ましくは高屈折率の光学部材、より好ましくは高屈折率レンズ)を得る際には、オキセタン化合物、脂環式エポキシ化合物及び水添エポキシ化合物からなる群より選択される少なくとも1種と、芳香族エポキシ化合物とを併用する形態;後述する分子内にアリール基又は芳香環を有するオキセタン化合物を用いる形態;分子内にアリール基又は芳香環を有するオキセタン化合物と、芳香族エポキシ化合物とを併用する形態が好適である。
【0033】
上記オキセタン化合物としてはまた、硬化速度を維持しつつ、屈折率向上の観点では、分子内にアリール基又は芳香環を有するオキセタン化合物を用いることが好適である。中でも、より高屈折率の硬化物を得る際には、上述したように、分子内にアリール基又は芳香環を有するオキセタン化合物と芳香族エポキシ化合物とを併用することである。一方、耐光性向上の観点では、アリール基又は芳香環を有しないオキセタン化合物を用いることが好ましい。また一方、硬化物の強度向上の観点から、多官能のオキセタン化合物、すなわち1分子中に2個以上のオキセタン環を有する化合物を用いることが好適である。
【0034】
上記アリール基又は芳香環を有しないオキセタン化合物のうち、単官能のオキセタン化合物としては、例えば、3−メチル−3−ヒドロキシメチルオキセタン、3−エチル−3−ヒドロキシメチルオキセタン、3−エチル−3−(2−エチルヘキシロキシメチル)オキセタン、イソブトキシメチル(3−エチル−3−オキセタニルメチル)エーテル、イソボルニルオキシエチル(3−エチル−3−オキセタニルメチル)エーテル、イソボルニル(3−エチル−3−オキセタニルメチル)エーテル、2−エチルヘキシル(3−エチル−3−オキセタニルメチル)エーテル、エチルジエチレングリコール(3−エチル−3−オキセタニルメチル)エーテル等が好ましい。
【0035】
上記アリール基又は芳香環を有するオキセタン化合物のうち、単官能のオキセタン化合物としては、例えば、3−メチル−3−(フェノキシメチル)オキセタン、3−エチル−3−(フェノキシメチル)オキセタン、ジシクロペンタジエン(3−エチル−3−オキセタニルメチル)エーテル、ジシクロペンテニルオキシエチル(3−エチル−3−オキセタニルメチル)エーテル、ジシクロペンテニル(3−エチル−3−オキセタニルメチル)エーテル等が好ましい。
【0036】
上記アリール基又は芳香環を有しないオキセタン化合物のうち、多官能のオキセタン化合物としては、例えば、ジ〔1−エチル(3−オキセタニル)〕メチルエーテル、3,7−ビス(3−オキセタニル)−5−オキサ−ノナン、1,2−ビス〔(3−エチル−3−オキセタニルメトキシ)メチル〕エタン、1,3−ビス〔(3−エチル−3−オキセタニルメトキシ)メチル〕プロパン、エチレングリコールビス(3−エチル−3−オキセタニルメチル)エーテル、トリシクロデカンジイルジメチレン(3−エチル−3−オキセタニルメチル)エーテル、トリメチロールプロパントリス(3−エチル−3−オキセタニルメチル)エーテル、1,4−ビス(3−エチル−3−オキセタニルメトキシ)ブタン、1,6−ビス(3−エチル−3−オキセタニルメトキシ)ヘキサン、ペンタエリスリトールトリス(3−エチル−3−オキセタニルメチル)エーテル、ペンタエリスリトールテトラキス(3−エチル−3−オキセタニルメチル)エーテル、ポリエチレングリコールビス(3−エチル−3−オキセタニルメチル)エーテル、ジペンタエリスリトールヘキサキス(3−エチル−3−オキセタニルメチル)エーテル、ジペンタエリスリトールペンタキス(3−エチル−3−オキセタニルメチル)エーテル、ジペンタエリスリトールテトラキス(3−エチル−3−オキセタニルメチル)エーテル等が好ましい。
【0037】
上記アリール基又は芳香環を有するオキセタン化合物のうち、多官能のオキセタン化合物としては、例えば、フェノールノボラックオキセタン、ビフェニル骨格を有するジオキセタン化合物(宇部興産社製、ETERNACOLL(R)OXBP)、フェニル骨格を有するジオキセタン化合物(宇部興産社製、ETERNACOLL(R)OXTP及びOXIPA)、フルオレン骨格を有するジオキセタン化合物等が好ましい。
【0038】
上記カチオン硬化性化合物の中でも、脂環式エポキシ化合物や水添エポキシ化合物が特に好適である。これらは、硬化時にエポキシ化合物自体の着色が起こり難く、光による着色や劣化が発生しにくい、すなわち透明性や低着色性、耐光性にも優れることから、これらを含む樹脂組成物とすれば、着色がなく耐光性により優れる光学部材を高生産性で得ることができる。また、硬化性が高く、硬化速度を高めるという本発明の作用効果をより充分に発揮することが可能となる。このように、上記カチオン硬化性化合物が、脂環式エポキシ化合物及び/又は水添エポキシ化合物を含む形態もまた、本発明の好適な形態の1つである。
【0039】
上記カチオン硬化性化合物が脂環式エポキシ化合物及び/又は水添エポキシ化合物を含む形態において、脂環式エポキシ化合物や水添エポキシ化合物の含有量としては、これらの合計量が、上記カチオン硬化性化合物の総量100質量%に対して50質量%以上であることが好適である。これによって、上述した脂環式エポキシ化合物及び/又は水添エポキシ化合物を用いることによる作用効果をより発揮することが可能になる。このように、上記カチオン硬化性化合物が脂環式エポキシ化合物及び/又は水添エポキシ化合物を含み、該脂環式エポキシ化合物及び水添エポキシ化合物の合計量が、上記カチオン硬化性化合物の総量100質量%に対して50質量%以上である形態もまた、本発明の好適な形態の1つである。より好ましくは60質量%以上、更に好ましくは70質量%以上である。
【0040】
上記カチオン硬化性化合物はまた、1分子内に2個以上のカチオン重合性基を有する化合物、すなわち多官能カチオン硬化性化合物であることが好適である。これにより、硬化性がより高められ、各種特性により優れる硬化物を得ることができる。なお、1分子内に2個以上のカチオン重合性基を有する化合物としては、同一のカチオン重合性基を2個以上有する化合物であってもよいし、異なるカチオン重合性基を2個以上有する化合物であってもよいが、多官能カチオン硬化性化合物としては特に、多官能脂環式エポキシ化合物、多官能水添エポキシ化合物が好ましい。これらを用いることで、更に短時間で硬化物を得ることが可能になる。
【0041】
光学部材に適用する場合の好ましい形態の一つとして、上記カチオン硬化性化合物は更に、アッベ数が45以上である化合物を含むものであることが好ましい。このようなアッベ数が45以上であるカチオン硬化性化合物の含有量は、カチオン硬化性化合物の総使用量100質量%に対し、1質量%以上含まれることが好適である。より好ましくは5質量%以上、更に好ましくは10質量%以上である。特に高アッベ数が要求される光学部材用途においては、アッベ数が45以上であるカチオン硬化性化合物の含有量は、カチオン硬化性化合物の総使用量100質量%に対し、60質量%以上であることが好ましく、より好ましくは70質量%以上である。また、低アッベ数でもよい光学部材用途においては、アッベ数が45以上であるカチオン硬化性化合物の含有量は、カチオン硬化性化合物の総使用量100質量%に対し、1〜70質量%であることが好ましく、より好ましくは10〜60質量%、更に好ましくは20〜50質量%である。
【0042】
上記アッベ数が45以上であるカチオン硬化性化合物としては、エポキシ化合物であることが好適であり、アッベ数が45以上であるエポキシ樹脂の好ましい形態としては、エポキシ化合物の好ましい形態として上述したものが挙げられる。具体的には、脂環式エポキシ化合物、水添エポキシ化合物が好適である。中でも、脂環式エポキシ化合物、水添ビスフェノールA型エポキシ樹脂、水添ビスフェノールS型エポキシ樹脂、水添ビスフェノールF型エポキシ樹脂等が好適であり、特に好ましくは脂環式エポキシ化合物である。脂環式エポキシ化合物を用いることで、アッベ数の向上がより可能となり、光学特性に更に優れたものなるため、種々の用途により好適に用いることができる。
【0043】
また上記アッベ数が45以上であるカチオン硬化性化合物として、エポキシ化合物以外の脂環式化合物を用いることができる。例えば、脂環式変性ネオペンチルグリコール(メタ)アクリレート(日本化薬社製の「R−629」又は「R−644」);テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、モルフォリノエチル(メタ)アクリレート等の構造中に酸素原子及び/又は窒素原子を有する脂環式アクリレート;N−シクロヘキシルマレイミド等の脂環式単官能マレイミド類;N,N´−メチレンビスマレイミド、N,N´−エチレンビスマレイミド、N,N´−トリメチレンビスマレイミド、N,N´−ヘキサメチレンビスマレイミド、N,N´−ドデカメチレンビスマレイミド、1,4−ジマレイミドシクロヘキサン等の脂環式ビスマレイミド等が挙げられる。
【0044】
上記樹脂組成物において、カチオン硬化触媒としては、熱や光励起等によって、重合を開始させるカチオン種を発生し得る化合物であれば特に限定されないが、熱潜在性カチオン硬化触媒や光潜在性カチオン硬化触媒であることが好適である。熱潜在性カチオン硬化触媒を用いることにより、加熱によりカチオン種を含む化合物が励起されて熱分解反応が起こり、熱硬化が進むこととなる。また、光潜在性カチオン硬化触媒を用いることにより、光によりカチオン種を含む化合物が励起されて光分解反応が起こり、光硬化が進むこととなる。このように上記カチオン硬化触媒は、熱潜在性カチオン硬化触媒及び/又は光潜在性カチオン硬化触媒である形態は、本発明の好適な形態の1つである。中でも、上記樹脂組成物を光学部材用途に使用する場合には、熱潜在性カチオン硬化触媒を少なくとも用いることが特に好適である。
【0045】
上記熱潜在性カチオン硬化触媒は、熱酸発生剤、熱潜在性硬化剤、熱潜在性カチオン発生剤、カチオン重合開始剤とも呼ばれ、樹脂組成物において硬化温度になれば、硬化剤としての実質的な機能を発揮するものである。熱潜在性カチオン硬化触媒は、硬化剤として一般に使用されている酸無水物類、アミン類、フェノール樹脂類等とは異なり、樹脂組成物に含まれていても、樹脂組成物の常温での経時的な粘度上昇やゲル化を引き起こすことなく、また熱潜在性カチオン硬化触媒の作用として、硬化反応を充分に促進して優れた効果を発揮することができ、ハンドリング性に優れた一液性樹脂組成物(一液化材料)を提供することができるものである。
また熱潜在性カチオン硬化触媒を用いることによって、得られる樹脂組成物から得られる硬化物の耐湿性が劇的に改善され、過酷な使用環境においても樹脂組成物が有する優れた光学特性を保持し、種々の用途に好適に用いることができるものとなる。
【0046】
通常、水分が樹脂組成物やその硬化物に含まれると、水分が低屈折率であるために残留すれば硬化物が濁ったり、紫外線等で硬化物を構成する樹脂の劣化をもたらしたり、あるいは硬化時に発泡して透明性や機械的強度が低下するというのが、当業者の技術常識であったが、カチオン硬化触媒を用いて硬化させるカチオン硬化性樹脂組成物においては、
1)所定量の水分を存在させることが、上述した硬化速度の改善のみならず、意外なことに、水分共存による透明性や機械的強度の低下をもたらすことがない。そのために、本来、カチオン硬化性樹脂組成物をカチオン硬化触媒を用いて硬化して得られる硬化物が発揮し得る、優れた耐湿性や耐光性を、如何なく発揮できる。
2)更に、カチオン硬化触媒は、硬化時に硬化物の着色の原因となったり、また、硬化物に残留した触媒残渣が硬化物の2次加工時や使用環境において暴露される光や熱によって2次分解して硬化物の着色を引き起こすという課題もあった。本発明のカチオン硬化性樹脂組成物では、所定量の水分を含有させることにより、カチオン硬化触媒量を低減できるために、上述のような着色の課題も抑制され得る。
したがって、本発明のカチオン硬化性樹脂組成物は、生産性、透明性、無色性、機械的強度が要求されるレンズ等の光学部材に適しており、更に、低価格化と光学品質の向上が要求される、微小光学部材の原料として特に有用となる。なお、微小光学部材としては、例えば、携帯電話用撮像レンズ及びデジタルカメラ用撮像レンズ等のカメラレンズ、光ビーム集光レンズ、光拡散用レンズ及び光ピックアップレンズ等が挙げられ、これらの微小光学部材に、本発明のカチオン硬化性樹脂組成物を好適に適用することができる。
【0047】
上記熱潜在性カチオン硬化触媒としては、例えば、下記一般式(4):
(RZ)+m(AXn)−m (4)
(式中、Zは、S、Se、Te、P、As、Sb、Bi、O、N及びハロゲン元素からなる群より選ばれる少なくとも一つの元素を表す。R、R、R及びRは、同一又は異なって、有機基を表す。a、b、c及びdは、0又は正数であり、a、b、c及びdの合計はZの価数に等しい。カチオン(RZ)+mはオニウム塩を表す。Aは、ハロゲン化物錯体の中心原子である金属元素又は半金属元素(metalloid)を表し、B、P、As、Al、Ca、In、Ti、Zn、Sc、V、Cr、Mn、Coからなる群より選ばれる少なくとも一つである。Xは、ハロゲン元素を表す。mは、ハロゲン化物錯体イオンの正味の電荷である。nは、ハロゲン化物錯体イオン中のハロゲン元素の数である。)で表される化合物が好適である。
【0048】
上記一般式(4)の陰イオン(AXn)−mの具体例としては、テトラフルオロボレート(BF4−)、ヘキサフルオロホスフェート(PF6−)、ヘキサフルオロアンチモネート(SbF6−)、ヘキサフルオロアルセネート(AsF6−)、ヘキサクロロアンチモネート(SbCl6−)等が挙げられる。
更に一般式AXn(OH)で表される陰イオンも用いることができる。また、その他の陰イオンとしては、過塩素酸イオン(ClO)、トリフルオロメチル亜硫酸イオン(CFSO)、フルオロスルホン酸イオン(FSO)、トルエンスルホン酸イオン、トリニトロベンゼンスルホン酸イオン等が挙げられる。
【0049】
上記熱潜在性カチオン硬化触媒の具体的な商品としては、例えば、AMERICUREシリーズ(アメリカン・キャン社製)、ULTRASETシリーズ(アデカ社製)、WPAGシリーズ(和光純薬社製)等のジアゾニウム塩タイプ;UVEシリーズ(ゼネラル・エレクトリック社製)、FCシリーズ(3M社製)、UV9310C(GE東芝シリコーン社製)、Photoinitiator 2074(ローヌプーラン社製)、WPIシリーズ(和光純薬社製)等のヨードニウム塩タイプ;CYRACUREシリーズ(ユニオンカーバイド社製)、UVIシリーズ(ゼネラル・エレクトリック社製)、FCシリーズ(3M社製)、CDシリーズ(サトーマー社製)、オプトマーSPシリーズ・オプトマーCPシリーズ(アデカ社製)、サンエイドSIシリーズ(三新化学工業社製)、CIシリーズ(日本曹達社製)、WPAGシリーズ(和光純薬社製)、CPIシリーズ(サンアプロ社製)等のスルホニウム塩タイプ等が挙げられる。上記の中でも、発明効果が高い点で、スルホニウム塩タイプが好ましい。
【0050】
上記光潜在性カチオン硬化触媒は、光カチオン重合開始剤とも呼ばれ、光照射により、硬化剤としての実質的な機能を発揮するものである。光潜在性カチオン硬化触媒を用いることにより、光によりカチオン種を含む化合物が励起されて光分解反応が起こり、光硬化が進むこととなる。
【0051】
上記光潜在性カチオン硬化触媒としては、例えば、トリフェニルスルホニウムヘキサフルオロアンチモネート、トリフェニルスルホニウムホスフェート、p−(フェニルチオ)フェニルジフェニルスルホニウムヘキサフルオロアンチモネート、p−(フェニルチオ)フェニルジフェニルスルホニウムヘキサフルオロホスフェート、4−クロルフェニルジフェニルスルホニウムヘキサフルオロホスフェート、4−クロルフェニルジフェニルスルホニウムヘキサフルオロアンチモネート、ビス[4−(ジフェニルスルフォニオ)フェニル]スルフィドビスヘキサフルオロフォスフェート、ビス[4−(ジフェニルスルフォニオ)フェニル]スルフィドビスヘキサフルオロアンチモネート、(2,4−シクロペンタジエン−1−イル)[(1−メチルエチル)ベンゼン]−Fe−ヘキサフルオロホスフェート、ジアリルヨードニウムヘキサフルオロアンチモネート等が好適である。
【0052】
上記光潜在性カチオン硬化触媒の具体的な商品としては、例えば、UVI−6950、UVI−6970、UVI−6974、UVI−6990(ユニオンカーバイド社製);アデカオプトマーSP−150、SP−151、SP−170、SP−172(ADEKA社製);Irgacure250(チバ・ジャパン社製);CI−2481、CI−2624、CI−2639、CI−2064(日本曹達社製);CD−1010、CD−1011、CD−1012(サートマー社製);DTS−102、DTS−103、NAT−103、NDS−103、TPS−103、MDS−103、MPI−103、BBI−103(みどり化学社製);PCI−061T、PCl−062T、PCl−020T、PCl−022T(日本化薬社製);CPl−100P、CPT−101A、CPI−200K(サンアプロ社製);サンエイドSI−60L、サンエイドSI−80L、サンエイドSI−100L、サンエイドST−110L、サンエイドSI−145、サンエイドSI−150、サンエイドSI−160、サンエイドSI−180L(三新化学工業社製);WPAGシリーズ(和光純薬社製)等のジアゾニウム塩タイプ、ヨードニウム塩タイプ、スルホニウム塩タイプが好ましい。
【0053】
上記樹脂組成物において、カチオン硬化触媒の含有量としては、溶媒等を含まない有効成分量としての固形分換算量として、カチオン硬化性化合物100重量部に対し、0.01〜10重量部とすることが好適である。0.01重量部未満であると、硬化速度をより充分に高めることができず、短時間で充分に硬化でき、成型可能であるという本発明の作用効果をより充分に発揮できないおそれがある。より好ましくは0.05重量部以上、更に好ましくは0.1重量部以上である。また、10重量部を超える量とすると、硬化時やその成形体の加熱時等に着色するおそれがある。例えば、成型体を得た後にその成形体をリフロー実装する場合には200℃以上の耐熱性が必要であるため、無色・透明性の観点からは、10重量部以下とすることが好適である。より好ましくは5重量部以下、更に好ましくは3重量部以下、特に好ましくは2重量部以下である。
【0054】
上記樹脂組成物としてはまた、可撓性を有する成分(可撓性成分)を含むことが好適であり、これによって、一体感のある樹脂組成物とすることが可能となる。
上記可撓性成分としては、上記カチオン硬化性化合物とは異なる化合物であってもよいし、該カチオン硬化性化合物の少なくとも1種が可撓性成分であってもよい。
【0055】
上記可撓性成分として具体的には、−〔−(CH−O−〕−で表されるオキシアルキレン骨格を有する化合物(nは2以上、mは1以上の整数である。好ましくは、nは2〜12、mは1〜1000の整数であり、より好ましくは、nは3〜6、mは1〜20の整数である。)が好適であり、例えば、(1)オキシブチレン基を含むエポキシ化合物(ジャパンエポキシレジン社製、YL−7217、エポキシ当量437、液状エポキシ化合物(10℃以上))が好適である。また、その他の好適な可撓性成分としては、(2)高分子エポキシ化合物(例えば、水添ビスフェノール(ジャパンエポキシレジン社製、YX−8040、エポキシ当量1000、固形水添エポキシ化合物));(3)脂環式固形エポキシ化合物(ダイセル工業社製 EHPE−3150);(4)脂環式液状エポキシ化合物(ダイセル工業社製、セロキサイド2081);(5)液状ニトリルゴム等の液状ゴム、ポリブタジエン等の高分子ゴム、粒径100nm以下の微粒子ゴム等が好ましい。
【0056】
これらの中でもより好ましくは、末端や側鎖や主鎖骨格等にカチオン硬化性の官能基を含むカチオン硬化性化合物である。
このように上記可撓性成分としては、カチオン硬化性化合物を好適に用いることができるが、該化合物としては、エポキシ基を含む化合物であることが好ましく、より好ましくは、オキシブチレン基(−〔−(CH−O−〕−(mは、同上。))を有する化合物である。
【0057】
上記可撓性成分の含有量としては、上記カチオン硬化性化合物と可撓性成分との合計量100質量%に対し、40質量%以下であることが好適である。より好ましくは30質量%以下、更に好ましくは30質量%以下、特に好ましくは20質量%以下である。また、0.01質量%以上が好ましく、より好ましくは0.1質量%以上、更に好ましくは0.5質量%以上である。
【0058】
上記樹脂組成物としてはまた、離型剤を含むことが好適である。離型剤としては、カチオン硬化触媒による硬化反応を阻害することなく、むしろ促進する基を有する化合物が好ましい。すなわち水分との併用によって、短時間で硬化できるという本発明の効果を更に相乗的に発揮できる化合物が好適である。このような観点から、離型剤として具体的には、アルコール性OH基及び/又はカルボニル基(カルボキシル基及びエステル基を含む)を有する化合物が好ましく、更にカチオン硬化性樹脂組成物への相溶性、離型効果の高い点から、炭素数が8以上の炭化水素基を有するものが好ましい。より好ましくは、炭素数8〜36のアルコール、炭素数8〜36のカルボン酸、炭素数8〜36のカルボン酸エステル及び炭素数8〜36のカルボン酸塩からなる群より選ばれる少なくとも一つの化合物である。このような離型剤を含有することで、短時間で硬化できるという本発明の効果が更に発揮されるとともに、金型を用いて硬化する際に容易に金型を剥がすことができ、硬化物の表面に傷をつけることなく外観を制御し、透明性を発現させることができることから、上記樹脂組成物を、電気・電子部品材料用途や光学部材用途等により有用なものとすることができる。
【0059】
上記化合物の中でもより好ましくは、アルコール、カルボン酸、カルボン酸エステルであり、更に好ましくは、カルボン酸(特に高級脂肪酸)及びカルボン酸エステルである。カルボン酸及びカルボン酸エステルは、カチオン硬化反応を阻害することなく、離型効果を充分に発揮できることから好適である。なお、アミン類は、カチオン硬化反応を阻害する可能性があることから、離型剤として用いない方が好ましい。
上記化合物はまた、直鎖状、分岐状、環状等のいずれの構造であってもよく、分岐しているものが好ましい。
上記化合物の炭素数としては、8〜36の整数であることが好適であるが、これによって、樹脂組成物の透明性や作業性等の機能を損なうことなく優れた剥離性を示す硬化物となる。炭素数としてより好ましくは8〜20であり、更に好ましくは10〜18である。
【0060】
上記炭素数が8〜36のアルコールとは、一価又は多価のアルコールであり、直鎖状のものでも分岐状のものでもよい。具体的には、オクチルアルコール、ノニルアルコール、デシルアルコール、ウンデシルアルコール、ラウリルアルコール、トリデシルアルコール、テトラデシルアルコール、ペンタデシルアルコール、パルミチルアルコール、マーガリルアルコール、ステアリルアルコール、ノナデシルアルコール、エイコシルアルコール、セリルアルコール、ミリシルアルコ−ル、メチルペンチルアルコール、2−エチルブチルアルコール、2−エチルヘキシルアルコール、3.5−ジメチル−1−ヘキサノール、2,2,4−トリメチル−1−ペンタノール、ジペンタエリスリトール、2−フェニルエタノール等が好適である。上記アルコールとしては、脂肪族アルコールが好ましく、中でも、オクチルアルコール(オクタノール)、ラウリルアルコール、2−エチルヘキシルアルコール(2−エチルヘキサノール)、ステアリルアルコールがより好ましい。
【0061】
上記炭素数が8〜36のカルボン酸とは、1価又は多価のカルボン酸であり、2−エチルヘキサン酸、オクタン酸、ノナン酸、デカン酸、ウンデカン酸、ラウリン酸、トリデカン酸、テトラデカン酸、ペンタデカン酸、パルミチン酸、1−ヘプタデカン酸、ステアリン酸、ノナデカン酸、エイコサン酸、1−ヘキサコサン酸、ベヘン酸等が好適である。好ましくは、オクタン酸、ラウリン酸、2−エチルヘキサン酸、ステアリン酸である。
【0062】
上記炭素数が8〜36のカルボン酸エステルとは、(1)上記アルコールと上記カルボン酸とから得られるカルボン酸エステル、(2)メタノール、エタノール、プロパノール、ヘプタノール、ヘキサノール、グリセリン、ベンジルアルコール等の炭素数1〜7のアルコールと上記カルボン酸との組み合わせで得られるカルボン酸エステル、(3)酢酸、プロピオン酸、ヘキサン酸、ブタン酸等の炭素数1〜7のカルボン酸と上記アルコールとの組み合わせで得られるカルボン酸エステル、(4)炭素数1〜7のアルコールと、炭素数1〜7のカルボン酸とから得られるカルボン酸エステルであって、合計炭素数が8〜36となる化合物等が好適である。これらの中でも、(2)及び(3)のカルボン酸エステルが好ましく、ステアリン酸メチルエステル、ステアリン酸エチルエステル、酢酸オクチルエステル等がより好ましい。
【0063】
上記炭素数が8〜36のカルボン酸塩とは、上記カルボン酸と、アミン、Na、K、Mg、Ca、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Snとの組み合わせで得られるカルボン酸塩等が好適である。これらの中でも、ステアリン酸Zn、ステアリン酸Mg、2−エチルヘキサン酸Zn等が好ましい。
【0064】
上述の化合物の中でもより好ましくは、ステアリン酸及びステアリン酸エステル等のステアリン酸系化合物、アルコール系化合物であり、更に好ましくは、ステアリン酸系化合物である。
【0065】
上記離型剤の含有量としては、上記樹脂組成物100質量%に対して、10質量%以下であることが好ましい。10質量%を超えると樹脂組成物が硬化しにくくなる等のおそれがある。より好ましくは、0.01〜5質量%であり、更に好ましくは、0.1〜2質量%である。
【0066】
上記樹脂組成物は、上述した必須成分や好適な含有成分の他に、本発明の作用効果を損なわない限りにおいて、無機微粒子、カチオン硬化触媒以外の硬化触媒・硬化剤、硬化促進剤、反応性希釈剤、不飽和結合を有さない飽和化合物、顔料、染料、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、可塑剤、非反応性化合物、連鎖移動剤、熱重合開始剤、嫌気重合開始剤、重合禁止剤、無機充填剤や有機充填剤、カップリング剤等の密着向上剤、熱安定剤、防菌・防カビ剤、難燃剤、艶消し剤、消泡剤、レベリング剤、湿潤・分散剤、沈降防止剤、増粘剤・タレ防止剤、色分かれ防止剤、乳化剤、スリップ・スリキズ防止剤、皮張り防止剤、乾燥剤、防汚剤、帯電防止剤、導電剤(静電助剤)等を含有してもよい。
【0067】
上記樹脂組成物はまた、粘度が10000Pa・s以下であることが好ましい。これによって、加工特性に優れ、例えば、成型体形成用途(特に金型成型体の形成用途)により優れるものとなる。より好ましくは1000Pa・s以下、更に好ましくは200Pa・s以下である。また、1Pa・s以上であることが好ましく、より好ましくは5Pa・s以上、更に好ましくは10Pa・s以上である。
なお、上記粘度は、25℃において、コーンプレート型回転粘度計を用いて測定することができる。
【0068】
上記樹脂組成物の硬化方法としては、熱硬化や光硬化等の種々の方法を好適に用いることができるが、上述した必須成分に必要に応じてその他の材料を混合して1液組成物とし、硬化物の形状に合わせた金型に該組成物を塗出又は注入して硬化させた後、硬化物を金型から取り出す方法が好適に用いられる。
【0069】
上記硬化方法において、硬化温度及び硬化時間等の硬化条件としては、硬化させる樹脂組成物等に応じて適宜設定すればよいが、上記カチオン硬化触媒として熱潜在性カチオン硬化触媒を用いる場合、これらは一般に、硬化温度でカチオンが発生することになる。硬化温度としては、25〜250℃が好ましく、より好ましくは60〜200℃、更に好ましくは80〜180℃、特に好ましくは100〜180℃、最も好ましくは110〜150℃である。また、生産性を向上させるため、硬化時間は10分以内であることが好ましく、より好ましくは5分以内であり、更に好ましくは3分以内である。
また硬化温度を段階的に変化させてもよい。例えば、樹脂組成物の硬化物を製造するうえでの生産性を向上する目的で、型内に所定の温度・時間で保持した後、型から取り出して空気又は不活性ガス雰囲気内に静置して熱処理することも可能である。この場合の熱処理温度としては、型内保持温度を25℃〜250℃となるように設定することが好ましく、より好ましくは60℃〜200℃、更に好ましくは80〜180℃である。また、保持時間は10秒〜5分であることが好ましく、より好ましくは30秒〜5分である。
【0070】
上記硬化方法で得られる硬化物の強度としては、金型から取り出して形状を保てる程度の強度であればよく、例えば、1kgf/cm以上の力で押し出したときの形状変化の割合が10%以下の圧縮強度であることが好ましい。形状変化の割合としては、好ましくは1%以下であり、より好ましくは0.1%以下であり、更に好ましくは0.01%以下である。
【0071】
上記硬化方法においてはまた、上述したように金型を用いて短時間で硬化させた後、硬化物を金型から取り出し、熱処理(ベーク)を行うことか好ましい。熱処理を行うことにより、硬化物が充分な強度をもち、種々の用途に好適に用いることができる。また、熱処理においては、ある程度の強度を持つ硬化物を更に硬化させる点から、取り扱い性に優れている。そのため、金型を用いないでよいことから、小さな面積で大量の製品を熱処理できる利点がある。
上記熱処理において、硬化温度及び硬化時間としては、硬化させる樹脂組成物等に応じて適宜設定することができ、上述したように型内保持温度及び保持時間を設定することが好適である。
【0072】
本発明のカチオン硬化性樹脂組成物は、上述のように短時間で充分に硬化でき、優れた生産性、低着色性、透明性及び光学特性等を発揮できる硬化物を与えることができるものである。このように、上記カチオン硬化性樹脂組成物を硬化させてなる硬化物もまた、本発明の1つである。このような硬化物の形状は、金属、セラミック、ガラス、樹脂製等の型(「金型」と称す。)を用いた硬化(成型)手法(例えば、射出成型法、圧縮成型法、注型成型法、サンドイッチ成型法等の金型成型法)による成型体の形状であってもよいし、フィルム、シート、ペレット等の形状であってもよいし、また、塗布膜(コーティング膜)の形状であってもよい。好ましくは、上述した理由により、金型成型体等の成型体であり、上記硬化物が成型体である形態や、上記樹脂組成物が成型体形成用の樹脂組成物である形態もまた、本発明の好適な形態に含まれる。
【0073】
上記硬化物としては、例えば、光学部材、機械部品材料、電気・電子部品材料、自動車部品材料、土木建築材料、成形材料等の他、塗料や接着剤の材料等の各種用途に有用なものである。中でも特に、光学部材、オプトデバイス部材、表示デバイス部材等に好適に用いることができる。このような用途として具体的には、例えば、眼鏡レンズ、(デジタル)カメラや、携帯電話や車裁カメラ等のカメラ用撮像レンズ、光ビーム集光レンズ、光拡散用レンズ等のレンズ、フィルター、回折格子、プリズム、光案内子、ウォッチガラス、表示装置用のカバーガラス等の透明ガラスやカバーガラス等の光学用途;フォトセンサー、フォトスイッチ、LED、発光素子、光導波管、合波器、分波器、断路器、光分割器、光ファイバー接着剤等のオプトデバイス用途;LCDや有機ELやPDP等の表示素子用基板、カラーフィルター用基板、タッチパネル用基板、ディスプレイ保護膜、ディスプレイバックライト、導光板、反射防止フィルム、防曇フィルム等の表示デバイス用途等が好適である。
【0074】
これらの用途の中でも、光学部材が特に好適である。このように上記硬化物が光学部材である形態や、上記カチオン硬化性樹脂組成物が光学部材用の樹脂組成物である形態もまた、本発明の好適な形態に含まれる。
上記光学部材としては、特に、レンズであることが好適である。レンズとして好ましくは、カメラレンズ、光ビーム集光レンズ、光拡散用レンズ及び光ピックアップレンズであり、より好ましくはカメラレンズである。カメラレンズの中でも、携帯電話用撮像レンズ及びデジタルカメラ用撮像レンズ等の撮像レンズが好ましい。また、これら微小光学レンズであることが好適である。
なお、上記樹脂組成物が光学部材用の樹脂組成物である場合は、光学部材の用途に応じて適宜その他の成分を含んでいてもよい。具体的には、UV吸収剤、IRカット剤、反応性希釈剤、顔料、洗料、酸化防止剤、光安定剤、可塑剤、非反応性化合物、連鎖移動剤、熱重合開始剤、嫌気重合開始剤、光安定剤、重合禁止剤、消泡剤等が好適である。
【発明の効果】
【0075】
本発明のカチオン硬化性樹脂組成物は、上述のような構成であるので、カチオン硬化性化合物による効果を充分に発現できるとともに、充分な硬化性を発揮し、かつ短時間で硬化でき、生産性や低着色性に優れる硬化物を与えることができるものである。このような硬化物は、光学部材、機械部品材料、電気・電子部品材料、自動車部品材料、土木建築材料、成形材料等の他、塗料や接着剤の材料等の各種用途に好適に適用でき、特に光学部材として有用である。
【発明を実施するための形態】
【0076】
以下に実施例を掲げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。特に断りのない限り、「部」は「質量部」を、「%」は「質量%」を意味するものとする。
【0077】
実施例1
温度センサーを備えた20mlスクリュー管に、カチオン硬化性化合物として水添エポキシビスフェノールAエポキシ化合物(ジャパンエポキシレジン社製、エピコートYX−8000、エポキシ当量205、液状水添エポキシ樹脂)100部、及び、カチオン硬化触媒としてサンエイドSI−80L(商品名、三新化学工業社製、熱潜在性カチオン硬化触媒、固形分50%)1部を投入し、均一になるように混合した。この混合物に、水を添加して撹拌することによって水分含有量0.14%の樹脂組成物(1)を得た後、下記方法にて、硬化特性、総発熱量、硬化物物性及び硬化物の着色の有無を評価した。結果を表1に示す。
【0078】
実施例2〜29
樹脂組成物を構成するカチオン硬化性化合物及びカチオン硬化触媒の種類、量、及び、水の添加による水分含有量を表1〜3に示すとおりに変更したこと以外は、実施例1と同様にして樹脂組成物を得た。この樹脂組成物について、硬化特性、総発熱量、硬化物物性及び硬化物の着色の有無を評価した。結果を表1〜3に示す。
【0079】
比較例1〜3
樹脂組成物を構成するカチオン硬化性化合物及びカチオン硬化触媒の種類、量を表1〜3に示すとおりに変更したこと、並びに、水を添加しなかったこと以外は、実施例1と同様にして樹脂組成物を得た。この樹脂組成物について、硬化特性、総発熱量、硬化物物性及び硬化物の着色の有無を評価した。結果を表1〜3に示す。
なお、表1〜3に記載の比較例1〜3の水分添加量は、購入品(カチオン硬化性化合物及びカチオン硬化触媒)をそのまま使用して得られた樹脂組成物の水分量(水分含有量)を測定したものである。
【0080】
<硬化特性>
樹脂組成物を得た後、スクリュー管を、35℃の恒温浴槽に30分間浸漬し、液温を35℃とした。その後、このスクリュー管を120℃のオイルバスに浸け、下記のGT(秒)及びMCT(秒)を追跡した。この操作を2度行い、それぞれの平均値を求めた。
GT(秒):内温(液温)が50℃に到達した時点をt=0(秒)として、125℃に達するまでの所要時間(単位:秒)。
MCT(秒):内温(液温)が50℃に到達した時点をt=0(秒)として、最高温度に達するまでの所要時間(単位:秒)。
なお、硬化反応の発熱によって温度上昇が速くなるため、GT及びMCTは、硬化速度の指標となる。
【0081】
<総発熱量(mJ/mg)>
樹脂組成物を得た後、示差走査熱量測定装置(セイコーインスツルメンツ社製、DSC6200)を使用し、10℃/分で300℃まで昇温して発熱量を測定した。
【0082】
<硬化物物性>
ガラス板2枚を用いて1mm間隔のギャップを形成し、樹脂組成物を投入した後、140℃のオーブン中で15分硬化し、脱型した。このようにして得た硬化物(1mm注型板)について、下記条件にてガラス転移温度及び透過率を測定した。
ガラス転移温度(Tg、℃):動的粘弾性測定装置(ティー・エイ・インスツルメント社製、RSA−III)を使用し、10℃/分で200℃まで昇温してTgを測定した。
透過率「ブランク」:吸光度計(島津製作所製、分光光度計UV−3100)を用いて、波長400nmにおける硬化物の透過率を測定した。この透過率は、透明性の指標となる。
透過率「230℃1h」:硬化物を230℃のオーブンに入れ、窒素雰囲気下1時間経過後に取り出した後、吸光度計(島津製作所製、分光光度計UV−3100)を用いて、波長400nmにおける硬化物の透過率を測定した。この透過率は、耐熱性の指標となる。
透過率「45mW/cm 24h」及び「45mW/cm 100h」:耐候性試験機(スガ試験機社製、メタリングウェザーメーターM6T)を使用し、45mW/cmの照射強度で24時間又は100時間照射後、吸光度計(島津製作所製、分光光度計UV−3100)を用いて、波長400nmにおける硬化物の透過率を測定した。この透過率は、耐光性の指標となる。
【0083】
<硬化物の着色性評価>
上記硬化特性試験で得た硬化物(スクリュー管中で硬化して得た硬化物)について、着色の有無(無色性)を目視で判断した。その結果、水分含有量が0.03質量%未満となる比較例1〜3のうち、着色が特に目立ったのは芳香族エポキシ化合物(828)を用いた比較例3であったが、同じく芳香族エポキシ化合物を用いた例でも、水分含有量が本発明の範囲内である実施例23〜25では、硬化物の着色が抑制されており、着色を抑制するという本発明の効果が特に顕著に現れていた。また、水添エポキシ化合物や脂環式エポキシ化合物を用いた比較例1及び2では着色は僅かであったが、水分含有量を本発明の範囲内とした各実施例では、更に無色性に優れるものであった。
【0084】
【表1】

【0085】
【表2】

【0086】
【表3】

【0087】
表1〜3中の略号等は、下記のとおりである。
YX−8000:液状水添エポキシ樹脂(エピコートYX−8000)、エポキシ当量205、ジャパンエポキシレジン社製
セロキサイド2021P:液状脂環式エポキシ樹脂(セロキサイド−2021P)、エポキシ当量131、重量平均分子量260、ダイセル化学工業社製
828:液状ビスフェノールAグリシジルエーテル型エポキシ樹脂(エピコート828)、エポキシ当量184〜194、重量平均分子量約370、ジャパンエポキシレジン社製
EHO:オキセタン樹脂(ETERNACOLL(R)EHO)、分子量116.16、宇部興産社製
SI−80L:熱潜在性カチオン硬化触媒(サンエイドSI−80L、スルホニウム塩タイプ)、三新化学工業社製、固形分50%
SI−100L:熱潜在性カチオン硬化触媒(サンエイドSI−100L、スルホニウム塩タイプ)、三新化学工業社製、固形分50%
SI−110L:熱潜在性カチオン硬化触媒(サンエイドSI−110L、リン系タイプ)、三新化学工業社製、固形分50%
【0088】
ここで、実施例及び比較例で用いたカチオン硬化性化合物は、品質安定性の観点から、極力水分を含まない状態、具体的には、通常は水分が数10ppm未満に制御されて供給されている。したがって、樹脂組成物の調製において、原料モノマーのエポキシ基の開環を抑制し安定した品質の組成物を得るために、通常は、水分の混入を極力抑制する雰囲気管理下において樹脂組成物を調製すれば、得られる樹脂組成物は水分含有量が数10ppm以下に制御されている。本発明では、このような樹脂組成物において、敢えて水分を添加して、本発明の効果を奏すること、及び、その含有量の有効な範囲を見いだした点に重要な技術的意義を有する。
【0089】
表1〜3に記載の実施例及び比較例の結果から、下記のことが分かった。
まず実施例及び比較例より、水分の添加によって、硬化速度が著しく速くなることが分かる。具体的には、水分含有量(水分添加量)が0.03質量%以上である場合に、GT(秒)及びMCT(秒)が著しく短縮されることが明らかである。また、実施例1と5、実施例7と9、及び、実施例10と12をそれぞれ比較すると、総発熱量は、水分含有量が多いほど同程度〜やや増加する傾向にあることが分かる。更に、実施例1と5、及び、実施例7と9をそれぞれ比較すると、硬化物のガラス転移温度(Tg)は、水分含有量が多いほど高くなることが分かる。
【0090】
また比較例1、実施例1及び5における230℃1時間後の透過率を比較すると、水分含有量が0.03質量%以上であると透過率が著しく高くなる、すなわち耐熱性が劇的に向上されることが分かる。また、水分含有量が1.00質量%を超える実施例6と、1.00質量%未満である実施例1及び5とにおける透過率(ブランク)の対比から、水分含有量を1.00質量%未満とすることによって、より透明性に優れる硬化物が得られることが分かる。
【0091】
更にカチオン硬化触媒の量を低減することによって、硬化物の耐熱性及び耐光性が、ともにより向上されることが分かった。具体的には、カチオン硬化触媒の添加量以外は同条件で実施した実施例1、7及び10における230℃1時間後の透過率は、添加量が少ないほど高いことから、耐熱性が向上していることが分かる。また、実施例1と7、及び、実施例5と9における、45mW/cm試験後の透過率をそれぞれ比較すると、添加量が少ないほど透過率は高いことから、耐光性が向上していることが分かる。
【0092】
また硬化物の着色の有無を評価した試験結果から、水分を含有することに起因して硬化物の着色が抑制されることが分かった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カチオン硬化性化合物とカチオン硬化触媒とを含み、カチオン硬化する樹脂組成物であって、該カチオン硬化性樹脂組成物は、該樹脂組成物100質量%に対し、0.03〜2質量%の水分を含むことを特徴とするカチオン硬化性樹脂組成物。
【請求項2】
前記カチオン硬化性樹脂組成物は、光学部材用の樹脂組成物であることを特徴とする請求項1に記載のカチオン硬化性樹脂組成物。
【請求項3】
前記カチオン硬化性化合物は、カチオン重合性基を有する化合物であることを特徴とする請求項1又は2に記載のカチオン硬化性樹脂組成物。
【請求項4】
前記カチオン重合性基は、エポキシ基、オキセタン基、ジオキソラン基、トリオキサン基、ビニルエーテル基及びスチリル基からなる群より選択される少なくとも1種の基であることを特徴とする請求項3に記載のカチオン硬化性樹脂組成物。
【請求項5】
前記カチオン硬化性化合物は、脂環式エポキシ化合物及び/又は水添エポキシ化合物を含み、該脂環式エポキシ化合物及び水添エポキシ化合物の合計量が、前記カチオン硬化性化合物の総量100質量%に対して50質量%以上であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のカチオン硬化性樹脂組成物。
【請求項6】
前記光学部材は、レンズであることを特徴とする請求項2〜5のいずれかに記載のカチオン硬化性樹脂組成物。
【請求項7】
前記カチオン硬化触媒は、熱潜在性カチオン硬化触媒及び/又は光潜在性カチオン硬化触媒であることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載のカチオン硬化性樹脂組成物。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかに記載のカチオン硬化性樹脂組成物を硬化させてなることを特徴とする硬化物。
【請求項9】
前記硬化物は、光学部材であることを特徴とする請求項8に記載の硬化物。

【公開番号】特開2011−79910(P2011−79910A)
【公開日】平成23年4月21日(2011.4.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−231828(P2009−231828)
【出願日】平成21年10月5日(2009.10.5)
【出願人】(000004628)株式会社日本触媒 (2,292)
【Fターム(参考)】