説明

カニ殻由来のカルシウム塩結晶抑制物質

【課題】 カルシウム結晶化抑制作用を有する安全なタンパク質を簡単な工程により安価に得る。該タンパク質を含有するカルシウム結晶化抑制・吸収促進剤、飲食物、飼料も提供する。
【解決手段】 得られるカルシウム結晶化抑制作用を有するタンパク質をカニ殻から抽出して得る。該タンパク質を有効成分とすることを特徴とするカルシウム結晶化抑制・吸収促進剤、ならびに該タンパク質を含有する飲食物および飼料。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カニ殻から得られるタンパク質の新規な用途に関し、より具体的には、カニ殻から得られるカルシウム結晶化抑制作用を有するタンパク質を有効成分とするカルシウム結晶化抑制・吸収促進剤、ならびにこれを含有してなる飲食物および飼料に関する。さらに本発明は、カルシウム結晶化抑制作用を有するタンパク質をカニ殻から容易に得る方法にも関する。
【背景技術】
【0002】
カルシウム摂取基準量は、18歳以上の成人女性では1日600mg、妊婦・授乳婦ではそれぞれ+300mg、+500mgと設定させているが、厚生労働省が行っている平成13年の国民栄養調査で、日本人のカルシウム摂取量を調べてみると、1日600mgを下回っており、最近(平成2年〜平成13年)で見ても600mgを平均で上回った年は一度もない状態が続いている。飽食の時代と呼ばれる現代においても、他の栄養素、ミネラルが充足しているのに対して、カルシウムだけが不足している状況が続いる。
【0003】
このようなカルシウムの摂取不足は、骨粗鬆症、高血圧、イライラ等の重大な疾病を引き起こすことが知られており、カルシウムの摂取不足は、社会的問題となっている。さらに、食物として胃腸管内で摂取されるカルシウムは、複雑な機構で腸管から血液内に吸収されるが、カルシウム塩やカルシウム剤の腸管内における吸収率は50%以下であり、半分以上が吸収されずに体外に排出されるという報告もある。そのため、腸管内でのカルシウムの吸収性を高める物質の開発も行われている。
【0004】
その1つとして、カゼインホスホペプチド(CPP)が開発されている。CPPは、カゼインにトリプシンを作用させ、加水分解した分解物中に得られるホスホペプチドであり、カルシウムと結合して可溶性複合体を形成する。このため、水溶液中でカルシウムが沈殿するのを抑制することでカルシウムを可溶化し、カルシウムの吸収率を高めると考えられている(非特許文献1、特許文献1、特許文献2参照)。しかしながら、CPPは、カゼインの酵素分解物であるため、原料であるカゼインを酵素反応させる必要があり手間がかかり、また酵素分解の副産物であるペプチドが苦味を呈するため、飲食品へ混合する場合にはこの苦味ペプチドを十分に分離する必要がある等幾つかの問題点を有しており、また価格も大変高価である。
【0005】
ポリ−L−グルタミン酸も腸管内でカルシウムの吸収率を高める作用(非特許文献2参照)を有することが知られているが、これは合成品であるため食品添加物として許可されておらず、安全性等のため利用されていない。また、微生物により産生されるポリ−γ−グルタミン酸(特許文献3参照)は、カルシウム結晶化抑制活性が低く、かつ溶液の粘度が極めて高いため、取扱いが不便である。
【0006】
さらに、カルシウムの吸収を促進する物質としては、骨由来のペプチド(特許文献4参照)、酪酸を基本成分とするもの(特許文献5参照)があるが、これらは製造上並びに利用上の問題があり実用化には至っていない。
【特許文献1】特開昭58−170440号公報
【特許文献2】特開平7−241172号公報
【特許文献3】特開平3−30648号公報
【特許文献4】特開平4−16165号公報
【特許文献5】特開平4−108360号公報
【非特許文献1】ジャパンフードサイエンス、第1巻、第21〜32頁(1990年)
【非特許文献2】Biosci.Biotech.Biochem.,第58巻,第1662〜1665頁(1994年)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記従来技術の問題点を解決し、簡単かつ安価にカルシウム結晶化抑制・吸収促進剤を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、カニ殻、特にズワイガニ殻から得られるタンパク質が、カルシウムの結晶化を抑制し、これによりカルシウムの吸収を促進する効果を有することを見出した。また、キレート剤を用いてカニ殻を抽出し、有機溶媒にて分画するという簡単な方法により、かかるタンパク質を製造できることを見出した。そして本発明者らは、それらの知見に基づいて本発明を完成させた。
【0009】
すなわち、本発明は、
(1)カニ殻から得られるカルシウム結晶化抑制作用を有するタンパク質を有効成分とすることを特徴とするカルシウム結晶化抑制・吸収促進剤、
(2)前記カニ殻がズワイガニ殻由来である、(1)記載のカルシウム結晶化抑制・吸収促進剤、
(3)(1)または(2)記載のカルシウム結晶化抑制・吸収促進剤を含有してなる飲食物、
(4)(1)または(2)記載のカルシウム結晶化抑制・吸収促進剤を含有してなる飼料、
(5)さらにカルシウムが配合されていることを特徴とする(3)記載の飲食物、
(6)さらにカルシウムが配合されていることを特徴とする(4)記載の飼料、
(7)キレート剤または有機酸を用いてカニ殻を抽出することを特徴とする、カニ殻からカルシウム結晶化抑制作用を有するタンパク質の製造方法、
(8)(7)記載の方法により得ることのできる、カルシウム結晶化抑制作用を有するタンパク質
を提供するものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明のカニ殻から得られるタンパク質は、カルシウム結晶化抑制・吸収促進作用が、従来技術で得られた物質と比較して顕著に優れている。本発明のタンパク質を有効成分とする本発明のカルシウム結晶化抑制・吸収促進剤及びこれを含有してなる飲食物並びに飼料は、優れたカルシウムの結晶化抑制・吸収促進効果を奏する。また、本発明により得られるカルシウム結晶化抑制・吸収促進剤はカニ殻から得られるので安全性が高く、熱安定性も極めて高い。さらに本発明によれば、該カニ殻タンパク質を簡単かつ安価に得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
上述のごとく、本発明は、1の態様において、カニ殻から得られるカルシウム結晶化抑制作用を有するタンパク質を有効成分とすることを特徴とするカルシウム結晶化抑制・吸収促進剤に関するものである。カルシウム結晶化を抑制することにより、体内、特に腸管において吸収されるカルシウム量が増大する。したがって、本明細書において「カルシウム結晶化抑制」という場合には、特に断らない限り「カルシウム吸収促進」の意味も包含するものとする。
【0012】
カニの種類は特に限定されないが、好ましいカニとしてズワイガニが挙げられる。また、生のカニでも、ゆでたカニでもどちらの状態でもよいが、ゆでた状態のカニの殻から効率よく抽出される。実施例8で示すように、本発明のカニ殻由来のタンパク質は熱安定性が極めて高いので、ボイルしたカニ殻からでも活性の高いタンパク質が得られる。
【0013】
本発明のカニ殻から得られるタンパク質を抽出する方法としては、一般的に行われている破砕方法を用いることができる。例えば、加圧型破壊、機械的磨砕、超音波処理、ホモジナイザー等の物理的破砕方法を用いることができる。これにより得られた破砕物を水性媒体で抽出する。媒体は水、食塩水、酸溶液、またはEDTAなどのキレート剤や界面活性剤を使用することでタンパク質を抽出する。好ましくは、キレート剤または有機酸を含む水溶液を媒体として用いて抽出を行う。キレート剤および有機酸は種々のものが知られており、適宜選択して使用することができるが、安全性の高いものが好ましい。好ましいキレート剤としてはEDTAなどがあり、好ましい有機酸としてはクエン酸などがあげられる。媒体として緩衝液を用いてpHを調節してもよい。好ましいpH範囲は中性付近、例えば、5ないし9である。このようにして、カニ殻からタンパク質を効率よく抽出することができる。上記タンパク質の抽出物は、必要に応じ、公知の手段、例えば硫酸アンモニウム等の塩析やエタノール等の有機溶剤による沈澱、等電点沈殿法による分画、イオン交換、吸着、ゲル濾過、疎水もしくはアフイニティー等のクロマトグラフィーを用いて精製してもよく、透析や濃縮過程を施してもよい。また、目的タンパク質の抽出後の残渣から、キチン、キトサンなどの有用物質をさらに抽出することも可能である。
【0014】
上記の方法によって得られたカニ殻抽出物中の本発明のタンパク質の分子量は6000〜200000の範囲であり、0.5μg/mlのタンパク質濃度でカルシウムの結晶化を抑制することが認められた。また、抽出物をCarrez試薬で処理すると、活性の低下が認められたことから活性の中心はタンパク質であることも確認されている。
【0015】
本発明のカルシウム結晶化抑制・吸収促進剤として、上記の方法で調製した抽出物をそのまま使用してもよく、さらに上記の方法で調製した精製標品を使用してもよい。一般には、上記抽出物または精製標品を適当な液体担体に溶解するかもしくは分散させ、または適当な粉末担体と混合するかもしくはこれに吸着させ、所望する場合にはさらにこれらに乳化剤、分散剤、懸濁剤、展着剤、漫透剤、湿潤剤、安定剤等を添加し、液剤、注射剤、カプセル剤、錠剤、粉剤等の製剤の形で、カルシウムの結晶化の抑制を目的として膵臓結石の予防や治療に使用することができ、あるいはカルシウムの吸収促進を目的として骨粗鬆症の予防や治療、高血圧の予防や治療、イライラの予防や治療などに使用することができる。さらには、歯磨の組成物として使用することができる。
【0016】
本発明のカルシウム結晶化抑制・吸収促進剤を、特にカルシウムの吸収促進を目的として使用する場合には、公知のカルシウム剤(例えば、炭酸カルシウム剤など)とともに使用することができる。
【0017】
本発明は、もう1つの態様において、上記カニ殻由来のカルシウム結晶化抑制・吸収促進剤を含有してなる飲食物に関するものである。本発明の飲食物としては、各種飲食物、例えば、清涼飲料水、果汁飲料、醗酵飲料並びに牛乳等の飲料、チューインガム、キャンディ、錠菓、グミゼリー、ビスケット並びにチョコレート等の菓子、アイスクリーム、氷菓等の冷菓、ヨーグルト、チーズ等の乳製品、ハム、ソーセージ等の畜肉製品、カマボコ、チクワ等の魚肉練り製品、パン、ホットケーキ、各種惣菜類、プリン、スープ等があげられる。かかる飲食物を摂取することにより、膵臓結石の予防や治療、あるいは骨粗鬆症の予防や治療、高血圧の予防や治療、イライラの予防や治療などを行うことができる。
【0018】
本発明は、さらにもう1つの態様において、上記カニ殻由来のカルシウム結晶化抑制・吸収促進剤を含有してなる飼料に関するものである。本発明の飼料としてはドックフード、キャットフード等のペットフード、家畜(トリを含む)の餌等があげられる。かかる飼料を動物に与えることにより、例えば、骨折を予防することができ、割れにくい殻の卵を得ることができる。
【0019】
本発明のカルシウム結晶化抑制・吸収促進剤を含有する飲食物および飼料を、特にカルシウムの吸収促進を目的として使用する場合には、カルシウムを配合してもよく、あるいはカルシウムを豊富に含有する原料、例えば、牛乳、ヨーグルト、チーズ等の乳製品とともに配合してもよい。ここに、カルシウムとは一般にカルシウム塩の形態となったものを指す。例えば、炭酸カルシウム、塩化カルシウム、リン酸カルシウムなどの塩があげられる。
【0020】
以下に実施例を示し、本発明をさらに詳細に説明するが、実施例は本発明を限定するものではない。
【実施例1】
【0021】
ズワイガニ殻からのカルシウム結晶化抑制タンパク質(粗抽出液)の調製
100℃、30分間でボイルしたズワイガニの殻100gを、ミキサーで粉砕した。粉砕後の粉末約100gに0.5MのEDTA溶液(pH8.0)を500ml添加し、4℃条件下で3日間攪拌(800rpm)した。その後、11,000rpmで15分間遠心し、上清を回収し、ろ紙でろ過を行った。ろ液約400mlに約400mlのミリQ水を加え、2倍に希釈し、限外ろ過装置(アミコン社製)で約100mlまで濃縮した。これを緩衝液A(10mMトリス塩酸緩衝液(pH8.0))で透析を行った。これをさらに限外ろ過装置(アミコン社製)で約30mlまで濃縮を行い、これを粗抽出液とした。
【実施例2】
【0022】
ズワイガニ殻からのカルシウム結晶化抑制タンパク質の精製
実施例1で精製した粗抽出液にエタノールを最終濃度0−20%、20−40%、40−60%、60−80%になるように添加し、氷温で0.5時間放置し、20%以上の画分を11,000rpm、15分間遠心して沈殿を回収し、1mlの緩衝液A(10mMトリス塩酸緩衝液(pH8.0))に懸濁した。エタノール濃度%はv/vである。
【0023】
緩衝液Aで平衡化した陰イオンクロマトグラフィー(SuperQ)に上記サンプルを供し、塩化ナトリウムの濃度勾配0−1Mでタンパク質を溶出させ、一定量ごとに分画し、実施例3に示したカルシウム結晶化抑制を指標にして、目的タンパク質の活性評価を行った。その結果、濃度勾配0.5−0.6Mの画分に目的タンパク質が多く含まれ、この画分を集め、Centriconによって約0.5mlまで濃縮し、SDSポリアクリルアミド電気泳動による確認を行ったところ、目的タンパク質は約6kDa付近の異なった分子量をもつ、2つのペプチドで構成されたヘテロマーであることが判明した。
【実施例3】
【0024】
カルシウム結晶化抑制効果の測定1
NaHCO水溶液とCaCl水溶液との反応からCaCOが析出する反応(NaHCO+CaCl→CaCO+HCl+NaCl)を利用して、カルシウム結晶化抑制効果を判定した。
【0025】
すなわち、20mM、pH8.7に調整した炭酸水素ナトリウム水溶液(1.5ml)に、実施例1で調製した粗抽出液を30μl添加し、スターラーで十分に攪拌した。その後、20mM、pH8.7に調整した塩化カルシウム水溶液(1.5ml)を添加し、25℃において反応させた。反応過程中、波長570nmにおける吸光度を経時的に測定した。
【0026】
最終タンパク質濃度としてカニ殻抽出タンパク質を2μg/ml、4.5μg/ml含むもの、対照として10mMトリス緩衝液(pH8.0)を添加したものについてカルシウム結晶化抑制効果を試験し、その結果を図1に示す。
【0027】
蒸留水の場合、約10秒迄に急激な吸光度の上昇が観察され、約200秒後に最大値を示し、反応が完了した。カニ殻抽出タンパク質(最終タンパク質濃度4.5μg/ml)を添加した場合、吸光度の上昇が認められず、完全にカルシウムの結晶化を抑制した。カニ殻抽出タンパク質(最終タンパク質濃度2μg/ml)を添加した場合、カルシウム結晶の核形成の遅れが認められた。
【実施例4】
【0028】
カルシウム結晶化抑制効果の測定2
実施例3のカルシウム結晶化抑制効果測定方法に準じ、実施例1で調製した粗抽出液について、波長570nmにおける吸光度を経時的に測定することによりカルシウム結晶抑制効果を試験し、核形成が開始した時間と濃度との関係を図2に示す。
【0029】
カニ殻粗抽出液(最終タンパク質濃度4.5μg/ml)の場合、吸光度の上昇は認められず、完全にカルシウムの結晶化を抑制した。また、カニ殻粗抽出液(最終タンパク質濃度2μg/ml)の場合、カルシウム結晶の核形成の遅れが認められた。
【実施例5】
【0030】
カルシウム結晶化反応阻害効果の測定3
次に、実施例3の測定方法に準じ、カルシウム結晶化反応が進んでいる際のカニ殻抽出液の反応阻害効果を試験した。試験は、最初にカルシウム結晶化を進行させ、60秒後にカニ殻抽出液を最終タンパク質濃度4.5μg/mlになるように添加し、波長570nmにおける吸光度を経時的に測定した。その結果を図3に示す。
【0031】
カニ殻粗抽出液を添加すると、その後の吸光度の上昇が認められたが、カニ殻粗抽出液無添加系と比較すると吸光度の上昇は抑制されていた。完全にカルシウム結晶成長が阻害されるのではなく、核発生阻害を有していることが確認された。
【実施例6】
【0032】
リン酸カルシウム結晶への効果
第二リン酸カルシウム6mgに実施例2で調製したカニ殻タンパク質をそれぞれ、5μg/ml、10μg/ml、50μg/ml、100μg/mlになるように添加し、37℃で24時間攪拌した。なお、この際には、カニ殻タンパク質を希釈する際に用いた50mMのイミダゾール緩衝液を用いた。0時間と24時間後の反応液を0.45μmのフィルターでろ過し、ろ液のリン酸含量をホスファC−テストワコー(和光純薬工業社製)で測定し、ブランクとの相対値を測定することによって、結晶成長制御率(促進作用率)を算出した。つまり、次式にその式を表す。
【0033】
第二リン酸カルシウム結晶成長の制御率(%)=
[(C−C24)/(C−C24)]x100
:試料溶液の無機リン酸濃度(mM)
:リンブランクの0時間における無機リン濃度(mM)
24:リンブランクの24時間後における無機リン濃度(mM)
【0034】
その結果、5μg/mlの場合−32.7%、10μg/mlの場合−2.0%、50μg/mlの場合44.3%、100μg/mlの場合87%であり、このようにカニ殻抽出タンパク質がリン酸の再結晶化を促進していることが確認された。
【実施例7】
【0035】
他の物質とのカルシウム結晶化抑制効果の比較
実施例3の結果より、蒸留水の場合、約10秒後迄に急激な吸光度の上昇が見られ、約200秒後に最大値を示して反応が完了した。従って、カニ殻抽出タンパク質(4μg/ml)と他の物質、すなわちカゼインホスホペプチド(CPPIII)(2μg/ml)、ポリ−L−グルタミン酸(2μg/ml)、ポリ−γ−グルタミン酸(2μg/ml)、EDTA(1.5×10−4M)、クエン酸(0.4×10−4M)、ホスビチン(15μg/ml)、ヘパリン(15μg/ml)、コンドロイチン硫酸C(15μg/ml)、アルブミン(10μg/ml)、ラクトフェリン(10μg/ml)、リパーゼ(10μg/ml)、トリプシノーゲン(10μg/ml)、α−キモトリプシノーゲンA(10μg/ml)、α−アミラーゼ(10μg/ml)、エステラーゼ(10μg/ml)について、以下に示す式1により、反応200秒後の吸光度から阻害率を算出し。他の物質とのカルシウム結晶化抑制効果を比較検討した。その結果を表1に示す。
【0036】
表1に示すように、実施例1の方法に準じ調製したカニ殻抽出タンパク質(最終タンパク質濃度4μg/ml)を添加した場合、結晶化阻害率は100%であり、他の物質と比較してみると、カルシウム可溶化剤として知られるカゼインホスホペプチド(CPPIII)で62.8%、ポリ−L−グルタミン酸(シグマ社製;No.P−4886,ナトリウム塩)で59.4%、納豆より抽出しエタノール沈澱して精製されたポリ−γ−グルタミン酸で49.0%の阻害率であった。EDTAやクエン酸のようなキレート剤ではそれぞれ14.4%と24.5%の阻害率であり、また、炭酸カルシウムの結晶化を阻害すると報告されているホスビチンは30.1%の阻害率であった。その他、リンタンパク質や酵素類を添加しても大きな結晶化阻害効果は観察されなかった。本発明のカニ殻より抽出したタンパク質は低濃度で著しくカルシウムの結晶化を阻害した。
【表1】

【実施例8】
【0037】
熱安定性の検討
実施例1で得た粗抽出液のエタノール20%以上の画分をサンプルとして、本発明のカルシウム結晶化抑制作用を有するタンパク質の熱安定性を調べた。10mMトリス塩酸緩衝液(pH8.0)中、最終タンパク質濃度2.0μg/mlとし、各温度に30分保った後、実施例3に記載のカルシウム結晶化抑制効果の測定1の方法に従ってカルシウム結晶化抑制活性を測定した。結果を表2に示す。
【表2】


本発明のカニ殻由来のカルシウム結晶化抑制作用を有するタンパク質は熱に対して非常に安定で、100℃での処理によっても失活しないことがわかった。
【実施例9】
【0038】
下記の処方に従ってチューインガムを調製した。以下の実施例において%は(w/w)である。
ガムベース 20.0%、砂糖 55.0%、ブドウ糖 23.7%、軟化剤 1.0%、抽出タンパク質 0.3%
【実施例10】
【0039】
下記の処方に従ってチューインガムを調製した。
ガムベース 20.0%、キシリトール 75.0%、還元麦芽糖 3.8%、軟化剤 1.0%、抽出タンパク質 0.2%
【実施例11】
【0040】
下記の処方に従って錠菓を調製した。
砂糖 75.0%、乳糖 20.0%、グリセリン脂肪酸エステル 0.2%、香料 0.4%、抽出タンパク質 0.1%、精製水 4.3%
【実施例12】
【0041】
下記の処方に従ってチョコレートを調製した。
砂糖 41.0%、カカオマス 15.0%、全脂粉乳 25.0%、ココアバター 18.0%、乳化剤 0.3%、香料 0.4%、抽出タンパク質 0.3%
【実施例13】
【0042】
下記の処方に従って飲料を調製した。
果糖ブドウ糖液糖 5.00%、砂糖 4.50%、酸味料 1.28%、香料 0.20%、抽出タンパク質 0.02%、精製水 89.00%
【実施例14】
【0043】
下記の処方に従って飲料を調製した。
オレンジ果汁 85.25%、砂糖 11.70%、クエン酸 2.00%、香料 1.00%、抽出タンパク質 0.05%
【実施例15】
【0044】
下記の処方に従ってアイスクリームを調製した。
果糖ブドウ糖液糖 0.5%、砂糖 8.7%、酸味料 1.2%、香料 0.3%、精製水 89.0%、安定剤 0.2%、抽出タンパク質 0.1%
【実施例16】
【0045】
下記の処方に従ってドックフードを調製した。
トウモロコシ 33.0%、小麦粉 35.0%、大豆粕 21.0%、米ぬか(脱脂) 5.5%、ミートミール 5.0%、ミネラルミックス 0.2%、抽出タンパク質 0.3%
【実施例17】
【0046】
下記の処方に従ってカプセル剤を調製した。
抽出タンパク質 50.0%、乳糖 48.0%、ステアリン酸マグネシウム 2.0%
上記成分を均一に混合し、その混合末をハードカプセルに充填した。
【実施例18】
【0047】
下記の処方に従って注射剤を調製した。
抽出タンパク質 0.05%、ブドウ糖 1.00%、注射用水 98.95%
上記混合溶液をメンブランフィルターで濾過後に再び除菌濾過を行い、その濾過液を無菌的にバイアルに分注し、窒素ガスを充填した後、密封して注射剤とした。
【実施例19】
【0048】
下記の処方に従って錠剤を調製した。
抽出タンパク質 20.0%、直打用微粒No.209(富士化学社製) 48.0、%結晶セルロース 30.0%、ステアリン酸マグネシウム 2.0%
上記成分を均一に混合し、その混合未を打錠して、1錠200mgの錠剤とした。直打用微粒No.209はメタケイ酸アルミン酸マグネシウム20%、トウモロコシデンプン30%、乳糖50%を含有していた。
【実施例20】
【0049】
下記の処方に従ってシロップ剤を調製した。
抽出タンパク質 0.1%、単シロップ 30.0%、精製水 69.9%
抽出タンパク質を、精製水で完全に溶解し、単シロップを加えて混合し、シロップ剤とした。
【実施例21】
【0050】
下記の処方に従ってキャンディを調製した。
抽出タンパク質 0.2%、砂糖 50.0%、水飴 35.3%、香料 0.5%、精製水 14.0%
【実施例22】
【0051】
下記の処方に従ってビスケットを調製した。
抽出タンパク質 0.5%、小麦粉 50.6%、コーンスターチ 5.1%、砂糖 12.7%、マーガリン 6.5%、食塩 0.3%、炭酸ナトリウム 1.3%、炭酸アンモニウム 0.5%、大豆レシチン 0.3%、全卵 4.1%、香料 0.3%、精製水 17.8%
上記材料を混合してドウを形成し、延展後これを成型してオーブンで焙焼し、ビスケットを製造した。
【0052】
下記に、カルシウム吸収促進を目的として、カルシウムと共に本発明のカルシウム結晶化抑制・吸収促進剤を含有した飲食物及び飼料の実施例を記載する。
【実施例23】
【0053】
下記の処方に従ってチューインガムを調製した。
ガムベース 20.0%、砂糖 55.0%、ブドウ糖 23.0%、軟化剤 1.0%、炭酸カルシウム 0.5%、抽出タンパク質 0.5%
【実施例24】
【0054】
下記の処方に従ってチューインガムを調製した。
ガムベース 20.0%、砂糖 75.0%、還元麦芽糖 3.6%、軟化剤 1.0%、第二リン酸カルシウム 0.2%、抽出タンパク質 0.2%
【実施例25】
【0055】
下記の処方に従って錠菓を調製した。
砂糖 74.0%、乳糖 20.0%、グリセリン脂肪酸エステル 0.2%、香料 0.4%、炭酸カルシウム 0.8%、抽出タンパク質 0.3%、精製水 4.5%
【実施例26】
【0056】
下記の処方に従ってチョコレートを調製した。
砂糖 41.0%、カカオマス 15.0%、全脂粉乳 25.0%、ココアバター 18.0%、炭酸カルシウム 0.3%、乳化剤 0.3%、香料 0.2%、抽出タンパク質 0.2%
【実施例27】
【0057】
下記の処方に従って飲料を調製した。
果糖ブドウ糖液糖 5.00%、砂糖 4.50%、酸味料 1.27%、香料 0.20%、抽出タンパク質 0.02%、塩化カルシウム 0.01%、精製水 89.00%
【実施例28】
【0058】
下記の処方に従って飲料を調製した。
オレンジ果汁 85.20%、砂糖 11.70%、クエン酸 2.00%、香料 1.00%、塩化カルシウム 0.05%、抽出タンパク質 0.05%
【実施例29】
【0059】
下記の処方に従ってアイスクリームを調製した。
果糖ブドウ糖液糖 0.3%、砂糖 8.7%、酸味料 1.0%、香料 0.2%、精製水 89.0%、安定剤 0.3%、塩化カルシウム 0.2%、抽出タンパク質 0.3%
【実施例30】
【0060】
下記の処方に従って産卵鶏用飼料を調製した。
トウモロコシ 51.0%、マイロ 15.3%、大豆粕 17.0%、魚粉 3.3%、米ぬか 8.2%、食塩 0.2%、動物性油脂 3.0%、ビタミンミックス 0.2%、乳酸カルシウム 1.0%、抽出タンパク質 0.8%
【実施例31】
【0061】
下記の処方に従ってカプセル剤を調製した。
抽出タンパク質 50.0%、乳糖 47.0%、第二リン酸カルシウム 1.0%、ステアリン酸マグネシウム 2.0%
上記成分を均一に混合し、その混合末をハードカプセルに充填した。
【実施例32】
【0062】
下記の処方に従って注射剤を調製した。
抽出タンパク質 0.05%、ブドウ糖 1.00%、第二リン醸カルシウム 1.00%、注射用水 97.00%
上記混合溶液をメンブランフィルターで濾過後に再び除菌濾過を行い、その濾過液を無菌的にバイアルに分注し、窒素ガスを充填した後、密封して注射剤とした。
【実施例33】
【0063】
下記の処方に従って錠剤を調製した。
抽出タンパク質 20.0%、直打用微粒No.209(富士化学社製) 37.0%、結晶セルロース 33.0%、CMCカルシウム 8.0%、ステアリン酸マグネシウム 2.0%
上記成分を均一に混合し、その混合末を打錠して、1錠200mgの錠剤とした。直打用微粒No.209はメタケイ酸アルミン酸マグネシウム20%、トウモロコシデンプン30%、乳糖50%を含有していた。
【実施例34】
【0064】
下記の処方に従ってシロップ剤を調製した。
抽出タンパク質 0.1%、単シロップ 30.0%、精製水 69.8%、炭酸カルシウム 0.1%
抽出タンパク質を、精製水で完全に溶解し、シロップを加えて混合し、シロップ剤とした。
【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明によれば、カニ殻から安全で熱安定性の高いカルシウム結晶化抑制作用を有するタンパク質が容易に得られるので、本発明は、飲食品、飼料、医薬品等の分野において利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】図1は、実施例3記載の方法に従って本発明のカニ殻抽出タンパク質のカルシウム結晶化抑制効果を調べた結果を示す図である。
【図2】図2は、実施例4記載の方法に従って本発明のカニ殻抽出タンパク質のカルシウム結晶化抑制効果を調べた結果を示す図である。
【図3】図3は、実施例5記載の方法に従って本発明のカニ殻抽出タンパク質のカルシウム結晶化反応阻害効果を調べた結果を示す図である。実線はカニ殻粗抽出液を反応開始から60秒後(矢印で示す)に添加した系の吸光度を示し、点線はカニ殻粗抽出液無添加系の吸光度を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カニ殻から得られるカルシウム結晶化抑制作用を有するタンパク質を有効成分とすることを特徴とするカルシウム結晶化抑制・吸収促進剤。
【請求項2】
前記カニ殻がズワイガニ殻由来である、請求項1記載のカルシウム結晶化抑制・吸収促進剤。
【請求項3】
請求項1または2記載のカルシウム結晶化抑制・吸収促進剤を含有してなる飲食物。
【請求項4】
請求項1または2記載のカルシウム結晶化抑制・吸収促進剤を含有してなる飼料。
【請求項5】
さらにカルシウムが配合されていることを特徴とする請求項3記載の飲食物。
【請求項6】
さらにカルシウムが配合されていることを特徴とする請求項4記載の飼料。
【請求項7】
キレート剤または有機酸を用いてカニ殻を抽出することを特徴とする、カニ殻からのカルシウム結晶化抑制作用を有するタンパク質の製造方法。
【請求項8】
請求項7記載の方法により得ることのできる、カルシウム結晶化抑制作用を有するタンパク質。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−225314(P2006−225314A)
【公開日】平成18年8月31日(2006.8.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−40786(P2005−40786)
【出願日】平成17年2月17日(2005.2.17)
【出願人】(399030060)学校法人 関西大学 (208)
【Fターム(参考)】