説明

カプセルとその製造方法及び医薬

【課題】水への再分散性に優れ、製剤化時により硬度が高く、且つ口腔内崩壊時間が短い、難水溶性医薬の調製が可能なカプセルと、該カプセルを主成分とする医薬の提供。
【解決手段】難水溶性医薬を含む核に対して静電気的吸着力を有する第1の高分子電解質と、該第1の高分子電解質と反対の電荷を持つ第2の高分子電解質とが交互に積層被覆されてなることを特徴とするカプセル。(a)平均粒径が約200μm以下の難水溶性医薬の懸濁液を準備し、(b)前記懸濁液中の難水溶性医薬粒子に静電気的吸着力を有する第1の高分子電解質を吸着させて被膜し、(c)得られる医薬粒子に、該第1の高分子電解質と反対の電荷を持つ第2の高分子電解質を吸着させて被膜し、(d)前記(b)工程〜(c)工程を繰り返し行ってカプセルを得る工程、とを有する製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、難水溶性ないし不水溶性医薬を含み、医薬用途等に使用されるカプセルとその製造方法、及び該カプセルを主成分とした医薬に関する。本発明のカプセルは、新しい製薬調剤、特に口腔内速崩壊製剤、味のマスキング製剤を製造するために使用することができる。
【背景技術】
【0002】
従来、水に難溶又は不溶性である医薬の水性のマイクロ及びナノ懸濁液を製造するために、様々な方法が報告されている。例えば、乾燥粉砕(ボール・ミル、ビード・ミル、エアジェット粉砕)及び湿式粉砕(初期粉砕機、ボールないしビード・ミル、エアジェット粉砕)などの機械的な粉砕技術以外に、「via humida paratum」−作用物質溶液を不溶媒へ注ぐことによる沈降−などの様々な沈降技術も、そのような方法に属している(Hagers Handbuch der pharmazeutischen Praxis、シュプリンガー出版、ハイデルベルク、1994年)。
【0003】
前述した従来の製造方法によって製造されたマイクロ及びナノ分散粒子、特にその懸濁水は、添加剤を添加しないと十分な安定性を示さず、それ故、通常はこの添加剤の存在下で製造される(例えば、DE3013839、EP0499299、EP0275796、US6048550、WO0151196、DE3579385D、DE4440337などに開示されている)。分散系を製造及び安定化させる前述のテクノロジーの重大な欠点はこの点にある。則ちそれは、そのような両親媒性物質ないし界面活性剤、ポリマー及びその他の添加剤がかなりの量存在することで、重大な「賦形剤−関連有毒性」を招くおそれがあり、加えて、そのような表面被覆の安定性が比較的小さいことによって、特に希釈及び再懸濁の際容易に凝集してしまうことになる。
【0004】
他方、近年、高齢化社会への移行及び生活環境の変化に伴い、老人、小児及び水分摂取が制限された患者に対し、取り扱いやすくかつ服用しやすい医薬品製剤の開発が望まれている。従来、医薬品の固形製剤の剤形には、錠剤、顆粒剤、散剤、カプセル剤などがあるが、これらの錠剤では、老人や小児など嚥下能力が低い患者のコンプライアンスが低下することがある。また、これらの固形製剤の服用に際しては多量の水を必要とするため、特に水分の摂取が制限されている患者が服用する際には問題である。
【0005】
このようなことから、固形製剤医薬品を服用時に、水への再分散性に優れ、水なしの唾液のみ、もしくは少量の水のみで口腔内にて速やかに崩壊又は溶解する製剤が注目されている。例えば、R.P.Scherer社から市販されている口腔内溶解型製剤Zydis速溶製剤や「口腔内崩壊製剤及びその製造法」(特許文献1参照)、「迅速溶解性固形製剤及びその製造法」(特許文献2参照)、「速溶錠」(特許文献3参照)及び「湿製錠の成型方法とその装置及び湿製錠」(特許文献4参照)、「速溶解性錠剤の製造方法及び該製造方法により製造した速溶解性錠剤」(特許文献5参照)及び「口腔内速崩壊製錠剤の製法」(特許文献6参照)などが挙げられる。また、特許文献7には、難水溶性医薬等の良好な水性懸濁液と早い放出速度を与える製法が開示されている。
【特許文献1】国際公開第93/12769号パンフレット
【特許文献2】特開平11−116464号公報
【特許文献3】国際公開第93/15724号パンフレット
【特許文献4】特開平6−218028号公報
【特許文献5】特開平8−291051号公報
【特許文献6】特開平11−12161号公報
【特許文献7】米国特許第6479146号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、前記特許文献1〜6に開示されているいずれの製造方法でも、使用する添加剤の量が多く、結果として最終製剤のボリュームが大きくなる欠点があった。
【0007】
また、特許文献7に開示された製法は、難水溶性医薬等の良好な水性懸濁液と早い放出速度を与えるものである。しかしながら、具体的薬剤を特定し、それに対し、従来の口腔内速崩壊錠及び味消し製剤と比較しても充分に実用化し得る製剤を開発するためには、優れた安定水性懸濁液と早い放出速度に加えて、 その乾燥粉体が適度な粒子間結合力と流動性を有し、成型後の錠剤硬さ、再懸濁の速さ、が重要なポイントになる。一般に錠剤の大きさが大きくなるほど、より高い硬度が求められる。錠剤の輸送条件が悪い場合等に備えて、より硬度を高めるために圧縮成型圧を大きくすると、口腔内崩壊時間の遅延や打錠障害が認められることがある。このようなことから、より硬度が高く、かつ口腔内崩壊時間が短い製剤の開発が望まれている。
【0008】
本発明は、前記事情に鑑みてなされ、水への再分散性に優れ、製剤化時により硬度が高く、且つ口腔内崩壊時間が短い、難水溶性医薬の調製が可能なカプセルと、該カプセルを主成分とする医薬の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記目的を達成するため、本発明は、難水溶性医薬を含む核に対して静電気的吸着力を有する第1の高分子電解質と、該第1の高分子電解質と反対の電荷を持つ第2の高分子電解質とが交互に積層被覆されてなるカプセルを提供する。
【0010】
本発明のカプセルにおいて、カプセルの平均粒径が200μm以下であることが好ましい。
本発明のカプセルにおいて、難水溶性医薬がクラリスロマイシンであることが好ましい。
【0011】
本発明のカプセルにおいて、第1の高分子電解質又は第2の高分子電解質が、プロタミン、ゲラチンA、コラーゲン、アルブミン、カゼイン、キトサン、ポリ-(L)-リジン、カルボキシメチルセルロース、アルギネート、ヘパリン、ヒアルロニックアシッド、コンドロイチンサルフェート、ゲラチンB、カラギーナン、デキストランサルフェート、ポリ-(L)-グルタミックアシッドその他の生体適合性高分子、生分解性高分子、DNA、RNA、酵素若しくは抗体その他の生体高分子、ポリメタクリリックアシッド系ポリマー(例えば商品名オイドラギット)、ポリジアリールジメチルアンモニウムその他の合成高分子又はそれらが適当なリンカーでクロスリンクされた高分子からなる群から選択される1種又は2種以上の高分子電解質であることが好ましい。
【0012】
本発明のカプセルにおいて、難水溶性医薬がクラリスロマイシンであり、第1の高分子電解質又は第2の高分子電解質がプロタミン、ゲラチンA、コラーゲン、アルブミン、カゼイン、キトサン、カルボキシメチルセルロース、アルギネート、ヘパリン、ヒアルロニックアシッド、コンドロイチンサルフェート、ゲラチンB、カラギーナン、デキストランサルフェート、ポリ-(L)-グルタミックアシッド、ポリメタクリリックアシッド系ポリマー(例えば商品名オイドラギット)からなる群から選択される1種又は2種以上の高分子電解質であることが好ましい。
【0013】
本発明のカプセルにおいて、該カプセルの被覆が複数の層、好ましくは3〜20層により構成されたことが好ましい。
【0014】
本発明のカプセルにおいて、該カプセルの被覆の平均厚みが、約80nm以下であることが好ましい。
【0015】
本発明のカプセルにおいて、医薬の少なくとも90重量%が2分間以内に水中崩壊放出することが好ましい。
【0016】
本発明のカプセルにおいて、該カプセルが20μm以下の平均粒径を有することが好ましい。
【0017】
本発明のカプセルにおいて、10mV以上の正又は負のゼータ電位を有することが好ましい。
【0018】
本発明のカプセルにおいて、難溶性医薬の含有量がカプセル全量の90質量%以上であることが好ましい。
【0019】
また本発明は、
(a)平均粒径が約200μm以下の難水溶性医薬の懸濁液を準備する工程と、
(b)前記(a)工程によって準備された懸濁液中の難水溶性医薬粒子に静電気的吸着力を有する第1の高分子電解質を吸着させて被膜する工程と、
(c)前記(b)工程によって得られる第1の高分子電解質で被膜した医薬粒子に、該第1の高分子電解質と反対の電荷を持つ第2の高分子電解質を吸着させて被膜する工程と、
(d)前記(b)工程〜(c)工程を繰り返し行って、請求項1〜10のいずれかに記載のカプセルを得る工程、
とを有することを特徴とするカプセルの製造方法を提供する。
【0020】
また本発明は、(a)平均粒径が約200μm以下の難水溶性医薬の懸濁液を準備する工程と、
(b)前記(a)工程によって準備された懸濁液中の難水溶性医薬粒子に静電気的吸着力を有する第1の高分子電解質を吸着させて被膜し、さらに該医薬粒子を洗浄、精製する工程と、
(c)前記(b)工程によって得られる第1の高分子電解質で被膜した医薬粒子に、該第1の高分子電解質と反対の電荷を持つ第2の高分子電解質を吸着させて被膜し、さらに該医薬粒子を洗浄、精製する工程と、
(d)前記(b)工程〜(c)工程を繰り返し行って、請求項1〜10のいずれかに記載のカプセルを得る工程、
とを有することを特徴とするカプセルの製造方法を提供する。
本発明のカプセルの製造方法において、(a)工程で準備された懸濁液が、予め難水溶性医薬を沈降することによって調製されたことが好ましい。
【0021】
本発明のカプセルの製造方法において、前記沈降が、溶媒又は溶媒混合物の希釈又は除去によって行われ、その場合に難溶性医薬が溶媒又は溶媒混合物に予め溶解していることが好ましい。
【0022】
本発明のカプセルの製造方法において、(a)工程で準備された懸濁液が、予め難水溶性医薬を粉砕することによって調製されたことが好ましい。
【0023】
また本発明は、前述した本発明に係るカプセルを主成分とし、経口、非経口、経肺、経鼻、経眼又は経皮により適用可能に製剤化された医薬を提供する。
【0024】
また本発明は、前述した本発明に係るカプセルを主成分とし、経口適用によって難溶性医薬を迅速に崩壊放出可能に固形製剤化された医薬を提供する。
【0025】
また本発明は、経口、非経口、肺、鼻、眼、皮膚又は経皮により適用する目的で、医薬を製剤化するための、前述した本発明に係るカプセルの使用を提供する。
【0026】
また本発明は、経口適用の目的で、難溶性医薬を迅速に崩壊放出する固形製剤化するための、前述した本発明に係るカプセルの使用を提供する。
【発明の効果】
【0027】
本発明のカプセルによれば、水への再分散性に優れ、製剤化時により硬度が高く、且つ口腔内崩壊時間が短い、難水溶性医薬の調製が可能なカプセルと、該カプセルを主成分とする医薬を提供することができる。
本発明の製造方法によれば、煩雑な分離精製工程を要しない連続的被膜化法によって、前記カプセルを効率よく製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
前述した目的を達成するために、本発明者らは、具体的な医薬の物性に応じて、特にその酸性度、塩基性度に応じて、使用する高分子電解質、特に既認可の高分子電解質との組み合わせ、添加量及び被膜化時pH等を詳細に検討した。その結果、個々の具体的な医薬に応じて、個々異なる口腔内崩壊製剤化及び味消し製剤に最適なカプセルを得るための条件を見出した。加えて、一層被膜ごとに分離精製を要する、特許文献7に開示された製法を改良し、煩雑な分離精製工程を要しない連続的被膜化法を見出し、本発明を完成させた。
【0029】
本発明のカプセルは、難水溶性医薬を含む核に対して静電気的吸着力を有する第1の高分子電解質と、該第1の高分子電解質と反対の電荷を持つ第2の高分子電解質とが交互に積層被覆されてなり、且つ平均粒径が200μm以下であることを特徴とする。
【0030】
本発明において、難水溶性医薬とは、その溶解性が日本薬局法に定義する、「水に対する溶解度が極めて溶けにくい」、「ほとんど溶けない」の範囲である医薬を指す。典型的な難水溶性医薬として、クラリスロマイシンなどが挙げられる。
【0031】
本発明において、カプセルの被覆を構成している第1の高分子電解質と第2の高分子電解質とは、互いに反対の電荷を持つ高分子電解質の組み合わせを用いることができる。本発明において好ましい第1の高分子電解質又は第2の高分子電解質としては、プロタミン、ゲラチンA、コラーゲン、アルブミン、カゼイン、キトサン、ポリ-(L)-リジン、カルボキシメチルセルロース、アルギネート、ヘパリン、ヒアルロニックアシッド、コンドロイチンサルフェート、ゲラチンB、カラギーナン、デキストランサルフェート、ポリ-(L)-グルタミックアシッドその他の生体適合性高分子、生分解性高分子、DNA、RNA、酵素若しくは抗体その他の生体高分子、ポリメタクリリックアシッド系ポリマー(例えば商品名オイドラギット)、ポリジアリールジメチルアンモニウムその他の合成高分子又はそれらが適当なリンカーでクロスリンクされた高分子からなる群から選択される1種又は2種以上の高分子電解質を挙げることができるが、これらに限定するものではない。
【0032】
本発明の好ましい実施形態において、第1の高分子電解質又は第2の高分子電解質は、医薬品又は食品添加剤として既認可もの、すなわちプロタミン、ゲラチンA、コラーゲン、アルブミン、カゼイン、キトサン、カルボキシメチルセルロース、アルギネート、ヘパリン、ヒアルロニックアシッド、コンドロイチンサルフェート、ゲラチンB、カラギーナン、デキストランサルフェート、ポリ-(L)-グルタミックアシッド、ポリメタクリリックアシッド系ポリマー(例えば商品名オイドラギット)からなる群から選択される1種又は2種以上の高分子電解質が望ましい。
【0033】
本発明のカプセルは、平均粒径が200μm以下であり、20μm以下の平均粒径を有することが好ましい。カプセルの平均粒径が200μmを超えると、カプセルの粒が大きくなり、飲みにくくなるので好ましくない。
【0034】
本発明のカプセルは、難水溶性医薬を含む核を、第1の高分子電解質と第2の高分子電解質とが交互に吸着又は静電的相互作用によって被覆した構造になっている。この構造としたことで、カプセル壁内の層数を正確に制御できるようになり、それによってカプセル壁の平均厚みも制御できるようになる。この被覆は複数層であることが望ましく、難水溶性医薬の早い放出速度を達成するために、3〜20層の範囲とすることがさらに好ましい。被覆が3層未満であると、コーティング安定性が悪くなり、一方、被覆が20層を越えると、カプセルから難水溶性医薬を迅速に放出させることが難しくなる。
【0035】
また、カプセルの被覆の平均厚みは、約80nm以下であることが好ましく、約30nm以下であることがより好ましい。カプセルの被覆の平均厚みが80nmを超えると、放出速度が遅くなるので、好ましくない。
【0036】
また、カプセルの被覆は、高分子電解質の吸着によって、少なくとも10mV、好ましくは少なくとも20mVの値の正又は負のゼータ電位を持つ。ゼータ電位が10mV未満であると、被覆の安定性が悪くなるので、好ましくない。
【0037】
本発明のカプセルは、難水溶性医薬の少なくとも90質量%を2分間以内に崩壊放出することができる。加えて本法は、従来法に比し被覆基材の量を数質量%以下という少量で安定な水性懸濁液を調整することができる。その結果、製剤の小型化に適する。2分間以内に崩壊放出する難水溶性医薬が90質量%未満であると、医薬の放出性が悪化するので、好ましくない。
【0038】
次に、本発明のカプセルの製造方法を説明する。本発明のカプセルの製造方法は、
(a)平均粒径が約200μm以下の難水溶性医薬の懸濁液を準備する工程と、
(b)前記(a)工程によって準備された懸濁液中の難水溶性医薬粒子に静電気的吸着力を有する第1の高分子電解質を吸着させて被膜する工程と、
(c)前記(b)工程によって得られる第1の高分子電解質で被膜した医薬粒子に、該第1の高分子電解質と反対の電荷を持つ第2の高分子電解質を吸着させて被膜する工程と、
(d)前記(b)工程〜(c)工程を繰り返し行って、請求項1〜10のいずれかに記載のカプセルを得る工程、
の各工程を有する。
【0039】
本発明の製造方法において、難水溶性医薬、第1の高分子電解質および第2の高分子電解質のそれぞれの材料は、前述した本発明のカプセルの説明で記載した通りである。
【0040】
前記(a)工程において、難水溶性医薬の核は、よく知られている方法で製造することができる。特に、乾燥法ないし湿式法による医薬の粉砕法が挙げられ、水に難溶ないし不溶の医薬が予め溶解している溶媒又は溶媒混合物を希釈又は除去することなどの沈降法又は結晶化方法によっても製造することができる。この(a)工程により、平均粒径が約200μm以下の難水溶性医薬の核が均一に分散した水性懸濁液が調製される。
【0041】
前記(a)工程で調製した懸濁液は、難水溶性医薬の再凝集を最小にするため、難水溶性医薬の核に対して静電気的吸着力を有する第1の高分子電解質と直ちに接触させて、第一層目の被膜化を行う(b)工程を実行することが望ましい。この(b)工程において、第1の高分子電解質は、難水溶性医薬と迅速且つ均一に接触させるため、あらかじめ水溶液の状態として、前記懸濁液と混合することが望ましい。また、前記懸濁液と第1の高分子電解質の水溶液とを混合する場合には、懸濁液を十分に撹拌しながら、第1の高分子電解質の水溶液を連続的に又は断続的に加えることが望ましい。
【0042】
この(b)工程によって、難水溶性医薬の核の表面に、第1の高分子電解質が吸着し、第1の高分子電解質からなる第一層目の被膜が形成される。この第一層目の被膜は、正又は負のいずれかの電荷を持っているので、第一層目の被膜形成済みの医薬粒子は、水性媒体中で良好な分散性を有し、安定な水性懸濁液を形成できる。
【0043】
この第一層目の被膜形成済みの医薬粒子は、遠心分離、濾過又は透析を用いて高分子電解質溶液から分離することができ、さらに、分離した第一層目の被膜形成済みの医薬粒子は、必要に応じて水などの適当な洗浄液で洗浄し、乾燥してもよい。
【0044】
次に、得られた第一層目の被膜形成済みの医薬粒子を、第1の高分子電解質と反対の電荷を持つ第2の高分子電解質の水溶液中に入れ、再懸濁させ、該医薬粒子の第一層目の被膜表面に、第2の高分子電解質からなる第二層目の被膜を形成する(c)工程を行う。
【0045】
この(c)工程では、前記(b)工程で得られた第一層目の被膜形成済みの医薬粒子の表面電荷とは逆に帯電した第2の高分子電解質の水溶液、則ち第一層目が正の表面電荷の場合にはポリ酸溶液、負の表面電荷の場合にはポリ塩基溶液中に第一層目の被膜形成済みの医薬粒子を再懸濁させることで、第一層目の被膜に水溶液中の第2の高分子電解質が静電相互作用に基づいて吸着し、第一層目の被膜上に第2の高分子電解質からなる第二層目の被膜が形成される。
【0046】
(c)工程により調製された第二層目の被膜形成済みの医薬粒子は、遠心分離、濾過又は透析を用いて高分子電解質溶液から分離することができ、さらに、分離した第二層目の被膜形成済みの医薬粒子は、必要に応じて水などの適当な洗浄液で洗浄し、乾燥する。
【0047】
この第二層目の被膜形成済みの医薬粒子は、第1の高分子電解質の水溶液中に入れて再懸濁し、再度(b)工程を実施し、第三の被膜形成済みの医薬粒子とし、さらに(c)工程を実施し、第四の被膜形成済みの医薬粒子とし、さらに(b)工程と(c)工程を繰り返し行うことで、難水溶性医薬の核の表面に、第1の高分子電解質と第2の高分子電解質とが交互に任意の層数積層された被覆が形成された本発明のカプセルを得る((d)工程)。なお、前述した通り、このカプセルにおける被覆は、3〜20層の範囲とすることが好ましい。
【0048】
前記(d)工程を経て得られた本発明のカプセルは、水性懸濁液の状態で凍結乾燥することにより乾燥粉体として調製可能である。又この乾燥粉体は、水中に再懸濁させることもできる。
【0049】
このカプセル又は該カプセルの安定化懸濁液は、医薬の製薬調剤を製造するために、直接又は間接に使用される。その医薬は、経口、非経口(皮下注、筋注、静注)、経肺、経鼻、経眼、又は経皮において適用される形態とすることができる。より好ましくは、口腔内即崩壊製剤その他の経口適用の難水溶性医薬の、迅速に放出する固形調剤の製造に適する。又急性の疾病又は症状の治療に適する迅速放出凍結乾燥、迅速放出フィルム及び迅速放出錠剤を製造するための使用も重要である。
【実施例】
【0050】
[実施例1]
微小化クラリスロマイシン(100mg;平均粒径7μm)をカラギーナンの塩酸溶液(1mL;1mg/mLのカラギーナン;0.5Mの塩化ナトリウム;クラリスロマイシン飽和)に超音波(30分間)を用いて懸濁した。続いて上澄み液を遠心分離(2分;4000U/min)、吸引ろ過(フィルター孔径1μm)又は遠心ろ過(フィルター孔径0.2μm;1分;10000rpm)で除去した。分離されたクラリスロマイシン粒子を2回純水(1mL;クラリスロマイシン飽和)で洗浄し、その都度上澄み液を再び遠心分離(2分;4000U/min)、吸引ろ過(フィルター孔径1μm)又は遠心ろ過(フィルター孔径0.2μm;1分;10000rpm)で除去した。得られた粒子を食塩水(0.5mL;0.5Mの塩化ナトリウム;クラリスロマイシン飽和)に再懸濁し、キトサンの塩酸溶液(0.5mL;2mg/mLのキトサン;0.5Mの塩化ナトリウム;クラリスロマイシン飽和)を混合し、15分間振り混ぜた。続いて上澄み液を遠心分離(2分;4000U/min)、吸引ろ過(フィルター孔径1μm)又は遠心ろ過(フィルター孔径0.2μm;1分;10000rpm)で除去した。粒子を2回純水(1mL;クラリスロマイシン飽和)で洗浄し、上澄み液は再び遠心分離(2分;4000U/min)、吸引ろ過(フィルター孔径1μm)又は遠心ろ過(フィルター孔径0.2μm;1分;10000rpm)で除去した。生じた粒子を純水(1mL;クラリスロマイシン飽和)に再懸濁し、平均粒径7μmの安定な二層被膜化クラリスロマイシン懸濁液を得た。上記積層操作を随時繰り返すことにより、所望の多層被膜化クラリスロマイシン懸濁液が得られた。この懸濁液をろ過・風乾乾燥して多層被膜化クラリスロマイシンの粉体を得た。
【0051】
[実施例2]
微小化クラリスロマイシン(100mg;平均粒径7μm)をコンドロイチン硫酸塩溶液(1mL;1mg/mLのコンドロイチン硫酸塩;0.5Mの塩化ナトリウム;クラリスロマイシン飽和)に超音波(30分間)を用いて懸濁した。続いて上澄み液を遠心分離(2分;4000U/min)、吸引ろ過(フィルター孔径1μm)又は遠心ろ過(フィルター孔径0.2μm;1分;10000rpm)で除去した。分離されたクラリスロマイシン粒子を2回純水(1mL;クラリスロマイシン飽和)で洗浄し、その都度上澄み液を再び遠心分離(2分;4000U/min)、吸引ろ過(フィルター孔径1μm)又は遠心ろ過(フィルター孔径0.2μm;1分;10000rpm)で除去した。得られた粒子を食塩水(0.5mL;0.5Mの塩化ナトリウム;クラリスロマイシン飽和)に再懸濁し、硫酸プロタミン溶液(0.5mL;2mg/mLの硫酸プロタミン;0.5Mの塩化ナトリウム;クラリスロマイシン飽和)を混合し、15分間振り混ぜた。続いて上澄み液を遠心分離(2分;4000U/min)、吸引ろ過(フィルター孔径1μm)又は遠心ろ過(フィルター孔径0.2μm;1分;10000rpm)で除去した。この粒子を2回純水(1mL;クラリスロマイシン飽和)で洗浄し、上澄み液は再び遠心分離(2分;4000U/min)、吸引ろ過(フィルター孔径1μm)又は遠心ろ過(フィルター孔径0.2μm;1分;10000rpm)で除去した。生じた粒子を純水(1mL;クラリスロマイシン飽和)に再懸濁して平均粒径7μmの安定な二層被膜化クラリスロマイシン懸濁液を得た。上記積層操作を随時繰り返すことにより、所望の多層被膜化クラリスロマイシン懸濁液を得た。この懸濁液をろ過・風乾乾燥して多層被膜化クラリスロマイシンの粉体を得た。
【0052】
[実施例3]
実施例1における、各積層ステップで粒子のゼータ電位を測定し、その値が最大値に到達するに必要な高分子電解質の最小量を事前に求めた。この最小量を粒子に連続的に添加して積層被膜化した。各被膜化の積層反応条件は、実施例1と同じとした。以上の方法により、分離精製無しで、5層被膜化クラリスロマイシン懸濁液を得た。この懸濁液をろ過風乾乾燥して5層被膜化クラリスロマイシンの粉体を得た。
【0053】
[実施例4]
実施例2における、各積層ステップで粒子のゼータ電位を測定し、その値が最大値に到達するに必要な高分子電解質の最小量を事前に求める。この最小量を粒子に連続的に添加して積層被膜化する。各被膜化の積層反応条件は実施例2に同じ。以上の方法で分離精製無しで、5層被膜化クラリスロマイシン懸濁液を得た。この懸濁液をろ過風乾乾燥して5層被膜化クラリスロマイシンの粉体を得た。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
難水溶性医薬を含む核に対して静電気的吸着力を有する第1の高分子電解質と、該第1の高分子電解質と反対の電荷を持つ第2の高分子電解質とが交互に積層被覆されてなることを特徴とするカプセル。
【請求項2】
平均粒径が200μm以下であることを特徴とする請求項1に記載のカプセル。
【請求項3】
難水溶性医薬がクラリスロマイシンであることを特徴とする請求項1又は2に記載のカプセル。
【請求項4】
第1の高分子電解質又は第2の高分子電解質が、プロタミン、ゲラチンA、コラーゲン、アルブミン、カゼイン、キトサン、ポリ-(L)-リジン、カルボキシメチルセルロース、アルギネート、ヘパリン、ヒアルロニックアシッド、コンドロイチンサルフェート、ゲラチンB、カラギーナン、デキストランサルフェート、ポリ-(L)-グルタミックアシッドその他の生体適合性高分子、生分解性高分子、DNA、RNA、酵素若しくは抗体その他の生体高分子、ポリメタクリリックアシッド系ポリマー、ポリジアリールジメチルアンモニウムその他の合成高分子又はそれらが適当なリンカーでクロスリンクされた高分子からなる群から選択される1種又は2種以上の高分子電解質であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のカプセル。
【請求項5】
難水溶性医薬がクラリスロマイシンであり、第1の高分子電解質又は第2の高分子電解質がプロタミン、ゲラチンA、コラーゲン、アルブミン、カゼイン、キトサン、カルボキシメチルセルロース、アルギネート、ヘパリン、ヒアルロニックアシッド、コンドロイチンサルフェート、ゲラチンB、カラギーナン、デキストランサルフェート、ポリ-(L)-グルタミックアシッド、ポリメタクリリックアシッド系ポリマーからなる群から選択される1種又は2種以上の高分子電解質であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のカプセル。
【請求項6】
カプセルの被覆が複数の層により構成されたことを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載のカプセル。
【請求項7】
カプセルの被覆の平均厚みが、約80nm以下であることを特徴とする請求項1〜6記載のカプセル。
【請求項8】
医薬の少なくとも90重量%が2分間以内に水中崩壊放出することを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載のカプセル。
【請求項9】
カプセルが20μm以下の平均粒径を有することを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載のカプセル。
【請求項10】
カプセルが10mV以上の正又は負のゼータ電位を有することを特徴とする請求項1〜9のいずれかに記載のカプセル。
【請求項11】
難水溶性医薬の含有量がカプセル全量の90質量%以上であることを特徴とする請求項1〜10のいずれかに記載のカプセル。
【請求項12】
(a)平均粒径が約200μm以下の難水溶性医薬の懸濁液を準備する工程と、
(b)前記(a)工程によって準備された懸濁液中の難水溶性医薬粒子に静電気的吸着力を有する第1の高分子電解質を吸着させて被膜する工程と、
(c)前記(b)工程によって得られる第1の高分子電解質で被膜した医薬粒子に、該第1の高分子電解質と反対の電荷を持つ第2の高分子電解質を吸着させて被膜する工程と、
(d)前記(b)工程〜(c)工程を繰り返し行って、請求項1〜10のいずれかに記載のカプセルを得る工程、
とを有することを特徴とするカプセルの製造方法。
【請求項13】
(a)平均粒径が約200μm以下の難水溶性医薬の懸濁液を準備する工程と、
(b)前記(a)工程によって準備された懸濁液中の難水溶性医薬粒子に静電気的吸着力を有する第1の高分子電解質を吸着させて被膜し、さらに該医薬粒子を洗浄、精製する工程と、
(c)前記(b)工程によって得られる第1の高分子電解質で被膜した医薬粒子に、該第1の高分子電解質と反対の電荷を持つ第2の高分子電解質を吸着させて被膜し、さらに該医薬粒子を洗浄、精製する工程と、
(d)前記(b)工程〜(c)工程を繰り返し行って、請求項1〜10のいずれかに記載のカプセルを得る工程、
とを有することを特徴とするカプセルの製造方法。
【請求項14】
(a)工程で準備された懸濁液が、予め難水溶性医薬を沈降することによって調製されたことを特徴とする請求項12又は13に記載のカプセルの製造方法。
【請求項15】
沈降が、溶媒又は溶媒混合物の希釈又は除去によって行われ、その場合に難溶性医薬が溶媒又は溶媒混合物に予め溶解していることを特徴とする請求項14に記載のカプセルの製造方法。
【請求項16】
(a)工程で準備された懸濁液が、予め難水溶性医薬を粉砕することによって調製されたことを特徴とする請求項12又は13に記載のカプセルの製造方法。
【請求項17】
請求項1〜11のいずれかに記載のカプセルを主成分とし、経口、非経口、経肺、経鼻、経眼又は経皮により適用可能に製剤化された医薬。
【請求項18】
請求項1〜11のいずれかに記載のカプセルを主成分とし、経口適用によって難溶性医薬を迅速に崩壊放出可能に固形製剤化された医薬。
【請求項19】
経口、非経口、肺、鼻、眼、皮膚又は経皮により適用する目的で、医薬を製剤化するための、請求項1〜11のいずれかに記載のカプセルの使用。
【請求項20】
経口適用の目的で、難溶性医薬を迅速に崩壊放出する固形製剤化するための、請求項1〜11のいずれかに記載のカプセルの使用。

【公開番号】特開2008−120767(P2008−120767A)
【公開日】平成20年5月29日(2008.5.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−309506(P2006−309506)
【出願日】平成18年11月15日(2006.11.15)
【出願人】(000000239)株式会社荏原製作所 (1,477)
【Fターム(参考)】