説明

カプセル化物及びインク組成物

【課題】分散安定性及び吐出安定性に優れ、且つ導電性にも優れた液体組成物を提供し得るカプセル化物、及び該カプセル化物を用いたインク組成物を提供すること。
【解決手段】表面に電荷を有する導電性物質が、ポリマーを主成分とする壁材によって被覆されたカプセル化物であって、上記ポリマーが、下記(A)の繰り返し構造単位及び下記(B)の繰り返し構造単位を少なくとも有するカプセル化物。(A)「上記導電性物質の表面の電荷と反対の電荷を有するイオン性重合性界面活性剤A」及び/又は「上記導電性物質の表面の電荷と反対の電荷を有するイオン性モノマー」から誘導された繰り返し構造単位。(B)「上記導電性物質の表面の電荷と同種又は反対の電荷を有するイオン性重合性界面活性剤B」から誘導された繰り返し構造単位。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インク組成物等の液体組成物に添加されて使用される導電性物質として有用なカプセル化物、及び該カプセル化物を用いたインク組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
各種基板上に回路パターンを形成する方法として、導電性物質が添加された導電性インクを用い、インクジェット方式によって印刷する方法が知られている。インクジェット方式で用いられる導電性インクには、導電性に優れていることに加えて、導電性物質の分散安定性、及び吐出安定性(インクジェット記録ヘッドから一定方向に安定して吐出される特性)に優れていることが求められる。
【0003】
導電性を有するインクジェット記録用インクとして、特許文献1には、着色剤、水、水溶性有機溶媒及び導電性付与剤に加えて、2−ピロリドンが配合されてなるインクが開示されている。また特許文献2には、有機溶剤を含む樹脂組成物中に、微細な金属超微粒子を均一に分散してなる導電性金属ペーストが開示されている。また特許文献3には、導電性の無機粒子と、重合性化合物と光重合開始剤とを含み、該導電性の無機粒子の含有量が、インク中の不揮発成分に対して50%以上であるインクジェットインクが開示されている。また特許文献4には、分散媒中に、導体の膜密度を向上させるための膜密度向上剤としての金属塩又は金属酸化物を含む導電性インクが開示されている。
【0004】
しかし、従来の導電性を有するインクジェット記録用インクは、吐出安定性に劣る、インクジェットノズルでの目詰まりを起こしやすい、導電性物質が凝集しやすく長期間保存しておいた場合には分散が不安定になりやすい、等の問題があった。
【0005】
【特許文献1】特開平8−269373号公報
【特許文献2】特開2002−324966号公報
【特許文献3】特開2005−97345号公報
【特許文献4】特開2006−210301号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであって、その目的とするところは、分散安定性及び吐出安定性に優れ、且つ導電性にも優れた液体組成物を提供し得るカプセル化物、及び該カプセル化物を用いたインク組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは鋭意検討の結果、導電性物質を特定組成のポリマーを主成分とする壁材によって被覆したカプセル化物が、上記目的を達成し得ることを知見した。本発明は、斯かる知見に基づきなされたものであり、その技術的構成は以下の通りである。
【0008】
〔1〕表面に電荷を有する導電性物質が、ポリマーを主成分とする壁材によって被覆されたカプセル化物であって、上記ポリマーが、下記(A)の繰り返し構造単位及び下記(B)の繰り返し構造単位を少なくとも有するカプセル化物。
(A)「上記導電性物質の表面の電荷と反対の電荷を有するイオン性重合性界面活性剤A」及び/又は「上記導電性物質の表面の電荷と反対の電荷を有するイオン性モノマー」から誘導された繰り返し構造単位。
(B)「上記導電性物質の表面の電荷と同種又は反対の電荷を有するイオン性重合性界面活性剤B」から誘導された繰り返し構造単位。
【0009】
〔2〕上記導電性物質の水性分散液に、上記イオン性重合性界面活性剤A及び/又は上記イオン性モノマーと、上記イオン性重合性界面活性剤Bとを、この順で順次添加・混合した後、重合開始剤を添加してこれらを重合させることにより製造された上記〔1〕記載のカプセル化物。
【0010】
〔3〕上記導電性物質が、カチオン性基を有するシランカップリング剤で表面処理された無機導電性物質である上記〔1〕又は〔2〕記載のカプセル化物。
【0011】
〔4〕上記ポリマーが、疎水性モノマーから誘導された繰り返し構造単位、架橋性モノマーから誘導された繰り返し構造単位、及び下記一般式(1)で表される化合物から誘導された繰り返し構造単位からなる群から選択される1種以上を更に有する上記〔1〕〜〔3〕の何れかに記載のカプセル化物。
【0012】
【化2】

[ただし、R1は水素原子又はメチル基を表す。R2はt−ブチル基、脂環式炭化水素基、芳香族炭化水素基、又はヘテロ環基を表す。mは0〜3、nは0又は1の整数を表す。]
【0013】
〔5〕上記〔1〕〜〔4〕の何れかに記載のカプセル化物を含有するインク組成物。
〔6〕上記〔1〕〜〔4〕の何れかに記載のカプセル化物と、水溶性有機溶剤と、水とを含有するインクジェット記録用インク。
【0014】
本発明のカプセル化物によれば、分散安定性及び吐出安定性に優れ、インクジェットノズルの目詰まり等の不都合を生じ難く、インクジェット信頼性に優れ、且つ導電性にも優れたインク組成物等の液体組成物を提供することができる。
また、本発明のカプセル化物を用いた本発明のインク組成物(インクジェット記録用インク)によれば、カプセル化物の分散安定性、吐出安定性及び導電性に優れているため、導電性を有するインクが求められる用途、例えば各種基体上に回路パターンを形成するための導電性インクとして、好適に使用できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、先ず、本発明のカプセル化物について説明する。
本発明のカプセル化物は、芯物質の周囲をポリマーを主成分とする壁材によって被覆してなるもので、該芯物質が、表面に電荷を有する導電性物質であり、該壁材が、ポリマーを主成分とする。
【0016】
上記壁材は、実質的にポリマーによって構成されており、壁材中におけるポリマーの含有量は60重量%以上である。壁材には、ポリマー以外の成分として、必要に応じ、紫外線吸収剤、光安定剤、酸化防止剤、難燃剤、可塑剤、ワックス等を含有させることができる。
【0017】
上記壁材の主成分であるポリマーは、下記2種類の繰り返し構造単位(A)及び(B)を少なくとも含有する。
繰り返し構造単位(A):「表面に電荷を有する導電性物質の該表面の電荷と反対の電荷を有するイオン性重合性界面活性剤A」及び/又は「表面に電荷を有する導電性物質の該表面の電荷と反対の電荷を有するイオン性モノマー」から誘導された繰り返し構造単位。
繰り返し構造単位(B):「表面に電荷を有する導電性物質の該表面の電荷と同種又は反対の電荷を有するイオン性重合性界面活性剤B」から誘導された繰り返し構造単位。
【0018】
導電性物質を被覆する壁材が、上記繰り返し構造単位(A)及び(B)を含有することにより、導電性物質が本来有する導電性を損なわずに、該導電性物質(カプセル化物)の水性溶媒中での分散安定性及び吐出安定性を向上させることが可能となる。
【0019】
上記イオン性重合性界面活性剤Aは、好ましくは、導電性物質の表面の電荷と反対の電荷を有するイオン性基と、疎水性基と、重合性基とを有している。
上記イオン性モノマーは、好ましくは、導電性物質の表面の電荷と反対の電荷を有するイオン性基と、疎水性基と、重合性基とを有している。
上記イオン性重合性界面活性剤Bは、好ましくは、導電性物質の表面の電荷と同種又は反対の電荷を有するイオン性基と、疎水性基と、重合性基とを有している。
【0020】
上記ポリマー中における繰り返し構造単位(A)の量は、上記導電性物質の表面の電荷量と同等の電荷量となるモル数であることが好ましい。
上記ポリマー中における繰り返し構造単位(B)の量は、上記ポリマー中に含まれる上記繰り返し構造単位(A)の0.5〜1.5倍に相当するモル数であることが好ましい。
【0021】
本発明のカプセル化物は、その効果(分散安定性、吐出安定性、及び導電性に優れたインク組成物を提供し得る)を確実に奏させるようにする観点から、次の手順で製造されることが好ましい。即ち、本発明のカプセル化物は、表面に電荷を有する導電性物質の水性分散液に、上記イオン性重合性界面活性剤A及び/又は上記イオン性モノマーと、上記イオン性重合性界面活性剤Bとを、この順で順次添加・混合した後、重合開始剤を添加してこれらを重合させることにより製造されることが好ましい。
【0022】
上記のカプセル化物の製造方法においては、導電性物質(芯物質)の周囲を取り囲むように、上記イオン性重合性界面活性剤A及び/又はイオン性モノマーが配置され、更に該イオン性重合性界面活性剤A及び/又はイオン性モノマーの周囲を取り囲むように、上記イオン性重合性界面活性剤Bが配置され、この結果、重合開始前に、これらのモノマー成分の配置が高度に制御された状態のアドミセル(admicell)が水性溶媒中に形成される。そして、このアドミセルが維持された状態で重合反応が開始されて、モノマーがポリマーに転化されることにより、構造が高精度に制御され、上述した効果を確実に奏するカプセル化物が得られる。
【0023】
図1は、上記アドミセルの一例を示す模式図である。図1に示す芯物質(導電性物質)1は、その表層部が、シロキサン結合(Si−O)を有し且つ表面にプラス電荷(カチオン性基)を有する表面処理層14からなり、水を主成分とする水性溶媒中に分散している。尚、表面処理層14は、後述するカチオン性基を有するシランカップリング剤による表面処理によって形成することができる。この芯物質1に対し、アニオン性基11と疎水性基12と重合性基13とを有するアニオン性重合性界面活性剤2(導電性物質の表面の電荷と反対の電荷を有するイオン性重合性界面活性剤A)が、そのアニオン性基11を表面処理層14に向けて、イオン性の強い結合で吸着している。そして、こうして芯物質1に吸着したアニオン性重合性界面活性剤2に対し、アニオン性基14’と疎水性基12’と重合性基13’とを有するアニオン性重合性界面活性剤3(導電性物質の表面の電荷と同種又は反対の電荷を有するイオン性重合性界面活性剤B)が、疎水性相互作用によって、両者の疎水性基12,12’同士及び重合性基13,13’同士が対向するように、アドミセルの最外殻に配される。このとき、アニオン性重合性界面活性剤3のアニオン性基14’は、芯物質1から離れる方向(水性溶媒の存在する方向)に向いている。
【0024】
そして、図1に示す如きアドミセルが存在する水性溶媒に重合開始剤を添加して、芯物質1の周囲に存在するモノマーを重合させることによって、該モノマーがポリマーに転化され、図2に示すような、芯物質1がポリマーを主成分とする壁材60で被覆されたカプセル化物100が得られる。壁材60の外表面(芯物質1との対向面とは反対側の面)には、アニオン性重合性界面活性剤3由来のアニオン性基14’が存在しているため、カプセル化物100は、水性溶媒中で良好な分散安定性を示す。
【0025】
イオン性重合性界面活性剤Aに換えてイオン性モノマーを用いた場合、あるいはイオン性重合性界面活性剤Aと共にイオン性モノマーを併用した場合、あるいは上記各モノマー(イオン性重合性界面活性剤A及び/又はイオン性モノマー、イオン性重合性界面活性剤B)に加えてこれらと共重合可能な後述する他のモノマーを用いた場合も、上記アドミセルの形成を経てカプセル化物が製造される。
【0026】
尚、芯物質をカプセル化する方法としては、転相乳化法や酸析法などがあるが、これら従来のカプセル化法では、上記のアドミセルの形成を経るカプセル化法で得られるカプセル化物よりも分散安定性に劣るカプセル化物しか得られない。その理由は定かではないが、転相乳化法や酸析法では、芯物質を被覆する壁材として、予め作製されたポリマーを用いるため、芯物質に対する壁材の被覆状態が完全ではない(芯物質が壁材によって完全には被覆されていない)ためと推察される。また、転相乳化法においては、カプセル化の過程で有機溶剤を使用するため、転相乳化法によって得られたカプセル化物中に有機溶剤が残留している場合があり、該カプセル化物が添加されるインク組成物等の性能の安定性に問題が生じるおそれがある。特に、転相乳化法により得られたカプセル化物をインクジェット記録用インクに用いた場合は、インクの分散安定性、吐出安定性、印刷画像の品質等に悪影響を及ぼすことがあり、更には、プリンタにおけるプラスチック部材の劣化等の不都合を引き起こすこともある。これに対し、上記のアドミセルの形成をカプセル化法で得られるカプセル化物(本発明の好ましいカプセル化物)は、その製造において有機溶剤を使用しておらず、安定した性能を有しており、プラスチック部材の劣化等を引き起こすことは無い。
【0027】
本発明のカプセル化物においては、壁材の構造は、単層でも複層でも良い。複層構造の壁材を有するカプセル化物を製造する場合、2層構造の壁材を有するカプセル化物を例にとると、先ず、上記と同様の方法で、芯物質(導電性物質)が壁材(この項において、以下、第1の壁材という)によって被覆されたカプセル化物を製造する。次いで、このカプセル化物が分散している水性分散液に、「第1の壁材の外表面(芯物質との対向面とは反対側の面)の電荷と反対の電荷を有するイオン性重合性界面活性剤C」及び/又は「第1の壁材の外表面の電荷と反対の電荷を有するイオン性モノマー」を添加・混合した後、「第1の壁材の表面の電荷と同種又は反対の電荷を有するイオン性重合性界面活性剤D」を添加・混合する。次いで、この水性分散液に重合開始剤を添加して、添加成分を重合させ、第2の壁材を形成する。こうして、導電性物質が、第1の壁材及び第2の壁材からなる2層構造の壁材で被覆されたカプセル化物が得られる。上記イオン性重合性界面活性剤Cとしては、上記イオン性重合性界面活性剤Aと同様のものを用いることができ、上記イオン性重合性界面活性剤Dとしては、上記イオン性重合性界面活性剤Bと同様のものを用いることができる。
【0028】
3層以上の多層構造の壁材を有するカプセル化物は、上記方法に準じて、芯物質の外方に向けて壁材を順次形成していくことにより、製造することができる。
【0029】
本発明のカプセル化物の体積平均粒子径は、カプセル化物の用途によって適宜調整すればよく、特に限定されるものではない。例えば、カプセル化物をインク組成物に添加する場合は、好ましくは20〜600nmであり、カプセル化物を水溶性有機溶剤を含有するインクジェット記録用インクに添加する場合は、好ましくは30〜200nmである。カプセル化物の体積平均粒子径の制御は、各種重合成分(モノマー)の添加量、反応混合液の攪拌状態等を適宜調節することによって行うことができる。
【0030】
本発明のカプセル化物の成膜性、並びに壁材の強度、耐薬品性、耐水性、耐光性、耐侯性、光学特性、その他の物理特性及び化学特性は、壁材の主成分であるポリマーの組成、構造等を適切に制御することによって、カプセル化物の用途に適したものとすることが可能である。特に、カプセル化物の各種基体(紙、プラスチック、金属など)に対する定着性、カプセル化物が添加されたインク組成物による印字部(インクの付着部)の耐擦性は、壁材の主成分であるポリマーのガラス転移温度(Tg)によって制御可能である。
【0031】
一般に、高分子固体、特に無定形高分子固体において、温度を低温から高温へ上げていくと、わずかな変形に非常に大きな力の要る状態(ガラス状態)から小さな力で大きな変形が起こる状態へと急変する現象が起こるが、この現象の起こる温度をガラス転移温度(又はガラス転移点)という。一般には、熱走査型熱量計(Differential scanning calorimeter)による昇温測定によって得られた示差熱曲線において、吸熱ピークの底部から吸熱の開始点に向かって接線を引いたときのベースラインとの交点の温度がガラス転移温度とされる(本明細書におけるTgは、この定義に従ったものである)。また、ガラス転移温度では弾性率、比熱、屈折率などの他の物性も急激に変化することが知られており、これらの物性を測定することによってもガラス転移温度が決定されることが知られている。さらに共重合体を合成する際に使用したモノマーの重量分率と当該モノマーを単独重合して得られるホモポリマーのガラス転移点とから下記Foxの式によりガラス転移温度を計算することができる。(本発明においては、Foxの式により得られるガラス転移温度を用いた。)
【0032】
【数1】

(上記式中、Tg[p]は得られるポリマーのガラス転移温度、iは種類の異なるモノマーごとに付した番号、Tg[hp]iは重合に用いるモノマーiのホモポリマーのガラス転移温度、xiは重合するモノマーの重量総計に対するモノマーiの重量分率を表す。)
【0033】
即ち、本発明のカプセル化物の置かれた温度環境が、該カプセル化物の壁材を構成するポリマーのガラス転移温度よりも高い場合には、このポリマーは小さな力で大きな変形が起こる状態となり、さらに融点に達すると溶融する。このとき、近傍に他のカプセル化物が存在するとカプセル化物同士が融着して成膜する。また、融点まで環境温度が達しない場合であっても、カプセル化物同士が強い力によって接触するような場合は、各カプセル化物を被覆しているポリマー同士が絡み合うことが可能となるような条件が整えば、カプセル化物を覆うポリマー同士は融着することもある。
【0034】
本発明のカプセル化物を含有するインク組成物をインクジェットプリンタ等を用いて各種基体に付与した場合に、該カプセル化物が室温にて印刷用紙等の基体上で良好に成膜し、且つカプセル化物(芯物質)の基体に対する定着性及び耐擦性などについて良好な結果を得るためには、壁材の主成分であるポリマーのTgは、好ましくは30℃以下、より好ましくは15℃以下、さらに好ましくは10℃以下である。但し、ポリマーのTgを−20℃より低くすると、カプセル化物の耐溶剤性が低下するおそれがあり、分散安定性等において好ましくない結果を生じるおそれがあるため注意を要する。
【0035】
以下、本発明のカプセル化物の製造に用いる各種原料について説明する。
【0036】
[導電性物質]
本発明のカプセル化物の芯物質である導電性物質としては、例えば錫、金、銀、銅、白金、パラジウム、チタン、ニッケル、アルミニウム、亜鉛等の金属微粒子、又はこれらの2種以上からなる合金の金属微粒子を用いることができる。
【0037】
導電性物質としては、元来表面に電荷を有していない物質、あるいは表面に電荷を有していても該電荷が非常に弱い物質に、化学反応や吸着等の物理的作用を利用して電荷を有する官能基や化学物質を導入した物質(表面処理導電性物質)を用いることもできる。表面処理導電性物質としては、例えば、酸化亜鉛等の無機物質を、カチオン性基を有するシランカップリング剤で表面処理してなる物質(無機導電性物質)が挙げられる。シランカップリング剤としては、例えば4級アンモニウム塩型等が挙げられる。無機物質のシランカップリング剤による表面処理は、例えば、本出願人の先の出願に係る特開2005−97476号公報の〔0036〕〜〔0056〕に記載の「親水性基付与剤による顔料粒子の表面処理」に準じた方法により、行なうことができる。
【0038】
導電性物質の1次粒子の平均粒子径は、カプセル化物の用途等に応じて適宜選択すれば良い。例えば、カプセル化物をインク組成物に添加する場合、インク組成物の信頼性(特に吐出安定性、分散安定性)の向上の観点から、導電性物質の1次粒子の平均粒子径は、好ましくは10〜600nm、更に好ましくは10〜400nmである。尚、ここでいう平均粒子径は、レーザ光散乱法の計測値を意味する。
【0039】
[イオン性重合性界面活性剤A]
イオン性重合性界面活性剤Aは、芯物質(導電性物質)を被覆する壁材の主成分であるポリマーの重合成分であり、芯物質の表面の電荷と反対の電荷を有するイオン性基と、疎水性基と、重合性基とを有する。
【0040】
上記疎水性基としては、炭素数が8〜16の直鎖アルキル基、炭素数が8〜16の分岐鎖アルキル基、及び分子中にアルキル基及びアリール基の両者を有するアルキルベンゼン(アルキルフェニル基)やアルキルナフタレン(アルキルナフチル基)、並びにポリプロピレンオキサイド基からなる群から選ばれる。分子中にアルキル基及びアリール基の両者を有することもできる。
【0041】
上記重合性基としては、ラジカル重合が可能な不飽和炭化水素基が好ましく、具体的には、ビニル基、アリル基、アクリロイル基、メタクリロイル基、プロペニル基、ビニリデン基、及びビニレン基からなる群から選択された基であることが好ましい。これらの中でも特にアリル基、メタクリロイル基、アクリロイル基が好ましい。
【0042】
上記イオン性基としては、カチオン性基及びアニオン性基が挙げられ、上記イオン性基としてカチオン性基を有するイオン性重合性界面活性剤は、「カチオン性重合性界面活性剤」と称され、上記イオン性基としてアニオン性基を有するイオン性重合性界面活性剤は、「アニオン性重合性界面活性剤」と称される。本発明では、芯物質の表面の電荷と反対の電荷を有するイオン性基を持つイオン性重合性界面活性剤Aを芯物質表面に静電相互作用を利用して吸着させる。イオン性重合性界面活性剤Aは、芯物質表面が持つ電荷によってカチオン性重合性界面活性剤、アニオン性重合性界面活性剤の何れかを使用する。
【0043】
上記カチオン性重合性界面活性剤としては、例えば、一般式R[4-(l+m+n)]1l2m3n+・X-で表される化合物を挙げることができる(上記一般式中、Rは重合性基であり、R1、R2、R3はそれぞれ炭素数が8〜16のアルキル基及びフェニル基、フェニレン基等のアリール基であり、X-はCl-、Br-、I-、CH3OSO3-、C25OSO3-であり、l 、m 及びnはそれぞれ1又は0である)。ここで、重合性基としては、上述したものと同じものを挙げることができる。
【0044】
上記カチオン性重合性界面活性剤の具体例としては、メタクリル酸ジメチルアミノエチルオクチルクロライド塩、メタクリル酸ジメチルアミノエチルセチルクロライド塩、メタクリル酸ジメチルアミノエチルデシルクロライド塩、メタクリル酸ジメチルアミノエチルドデシルクロライド塩、メタクリル酸ジメチルアミノエチルテトラデシルクロライド塩、等を挙げることができる。
以上例示したカチオン性重合性界面活性剤は、単独で、又は2種以上の混合物として本発明に用いることができる。
【0045】
上記アニオン性重合性界面活性剤の具体例としては、特公昭49−46291号公報、特公平1−24142号公報、又は特開昭62−104802号公報に記載されているようなアニオン性のアリル誘導体、特開昭62−221431号公報に記載されているようなアニオン性のプロペニル誘導体、特開昭62−34947号公報又は特開昭55−11525号公報に記載されているようなアニオン性のアクリル酸誘導体、特公昭46−34898号公報又は特開昭51−30284号公報に記載されているようなアニオン性のイタコン酸誘導体等を挙げることができる。
【0046】
本発明に用いられる上記アニオン性重合性界面活性剤としては、例えば、下記一般式(31):
【0047】
【化3】

[式中、R21及びR31は、それぞれ独立して、水素原子又は炭素数1〜12の炭化水素基であり、Z1は、炭素−炭素単結合又は式:
−CH2−O−CH2
で表される基であり、mは2〜20の整数であり、Xは式−SO31で表される基であり、M1はアルカリ金属、アンモニウム塩、又はアルカノールアミンである。]
で表される化合物、又は、例えば、下記一般式(32):
【0048】
【化4】

[式中、R22及びR32は、それぞれ独立して、水素原子又は炭素数1〜12の炭化水素基であり、Dは、炭素−炭素単結合又は式:
−CH2−O−CH2
で表される基であり、nは2〜20の整数であり、Yは式−SO32で表される基であり、M2はアルカリ金属、アンモニウム塩、又はアルカノールアミンである。]
で表される化合物が好ましい。
【0049】
上記一般式(31)で表される化合物(アニオン性重合性界面活性剤)としては、特開平5−320276号公報、又は特開平10−316909号公報に記載されている化合物を挙げることができる。上記一般式(31)におけるmの値を適宜調整することによって、芯物質をカプセル化して得られるカプセル化物の表面の親水性を調整することが可能である。上記一般式(31)で表される好ましい重合性界面活性剤としては、下記一般式(310)で表される化合物を挙げることができ、さらに具体的には、下記式(31a)〜(31d)で表される化合物を挙げることができる。
【0050】
【化5】

[式中、R31、m、及びM1は一般式(31)で表される化合物と同様である。]
【0051】
【化6】

【0052】
【化7】

【0053】
【化8】

【0054】
【化9】

【0055】
上記一般式(310)で表される化合物(アニオン性重合性界面活性剤)としては、市販品を用いることもできる。例えば、旭電化工業株式会社のアデカリアソープSE−10Nは、上記一般式(310)で表される化合物において、M1がNH4、R31がC919、m=10とされる化合物である。旭電化工業株式会社のアデカリアソープSE−20Nは、上記一般式(310)で表される化合物において、M1がNH4、R31がC919、m=20とされる化合物である。
【0056】
また、本発明に用いられる上記アニオン性重合性界面活性剤としては、例えば、下記一般式(33):
【0057】
【化10】

[式中、pは9又は11であり、qは2〜20の整数であり、Aは−SO33で表わされる基であり、M3はアルカリ金属、アンモニウム塩又はアルカノールアミンである。]
で表される化合物が好ましい。上記一般式(33)で表される好ましいアニオン性重合性界面活性剤としては、以下の化合物を挙げることができる。
【0058】
【化11】

[式中、rは9又は11、sは5又は10である。]
【0059】
上記〔化11〕の化合物(アニオン性重合性界面活性剤)としては、市販品を用いることもできる。市販品としては、例えば、第一工業製薬株式会社製のアクアロンKHシリーズ(アクアロンKH−5、及びアクアロンKH−10)(以上、商品名)などを挙げることができる。アクアロンKH−5は、上記〔化11〕の化合物において、rが9及びsが5である化合物と、rが11及びsが5である化合物との混合物である。アクアロンKH−10は、上記〔化11〕の化合物において、rが9及びsが10である化合物と、rが11及びsが10である化合物との混合物である。
【0060】
また、本発明に用いられる上記アニオン性重合性界面活性剤としては、下記一般式(34)で表される化合物が好ましい。
【0061】
【化12】

[式中、Rは炭素数8〜15のアルキル基であり、nは2〜20の整数であり、Xは−SO3Bで表わされる基であり、Bはアルカリ金属、アンモニウム塩又はアルカノールアミンである。]
【0062】
上記一般式(34)で表される化合物(アニオン性重合性界面活性剤)としては、市販品を用いることもできる。市販品としては、例えば、旭電化工業株式会社製のアデカリアソープSRシリーズ(アデカリアソープSR−10、SR−20、SR−1025)(以上、商品名)などを挙げることができる。アデカリアソープSRシリーズは、上記一般式(34)において、BがNH4で表される化合物であって、SR−10はn=10、SR−20はn=20である化合物である。
【0063】
また、本発明に用いられる上記アニオン性重合性界面活性剤としては、下記一般式(A)で表される化合物も使用できる。
【0064】
【化13】

[上記式(A)中、R4は水素原子又は炭素数1から12の炭化水素基を表し、lは2〜20の数を表し、M4はアルカリ金属、アンモニウム塩、又はアルカノールアミンを表す。]
【0065】
上記一般式(A)で表される化合物(アニオン性重合性界面活性剤)としては、市販品を用いることもできる。市販品としては、例えば、第一工業製薬株式会社製のアクアロンHSシリーズ(アクアロンHS−10、HS−20、及びHS−1025)(以上、商品名)が挙げられる。
【0066】
また、本発明に用いられる上記アニオン性重合性界面活性剤としては、例えば、下記一般式(35)で表されるアルキルアリルスルホコハク酸ナトリウム塩を挙げることができる。
【0067】
【化14】

【0068】
上記一般式(35)で表される化合物(アニオン性重合性界面活性剤)としては、市販品を用いることもできる。市販品としては、例えば、三洋化成工業株式会社のエレミノール JS−2を挙げることができ、上記一般式(35)において、m=12で表される化合物である。
【0069】
また、本発明に用いられる上記アニオン性重合性界面活性剤としては、例えば、下記一般式(36)で表されるメタクリロイルオキシポリオキシアルキレン硫酸エステルナトリウム塩を挙げることができる。下記一般式(36)中、nは1〜20である。
【0070】
【化15】

【0071】
上記一般式(36)で表される化合物(アニオン性重合性界面活性剤)としては、市販品を用いることもできる。市販品としては、例えば、三洋化成工業株式会社のエレミノール RS−30を挙げることができ、上記一般式(36)において、n=9で表される化合物である。
【0072】
また、本発明に用いられる上記アニオン性重合性界面活性剤としては、例えば、下記一般式(37)で表される化合物を用いることができる。
【0073】
【化16】

[式中、R1は水素原子又はメチル基を表し、R2及びR4は水素原子又はアルキル基で各々同一か異なっていてもよく、R3及びR5は水素原子又はアルキル基、ベンジル基、スチレン基で各々同一か異なっていてもよく、Xはアルカリ金属原子、アルカリ土類金属原子、アンモニウム又はアミンカチオンを表し、mは0又は1以上の整数を表し、nは1以上の整数を表す。]
【0074】
上記一般式(37)で表される化合物(アニオン性重合性界面活性剤)としては、市販品を用いることもできる。市販品としては、例えば、日本乳化剤株式会社のAntox MS−60を挙げることができ、上記一般式(37)において、R1がメチル基、R2、R3、R4、R5が水素原子又はアルキル基、m及びnが正の整数、Xがアンモニウムで表される化合物がこれに当たる。
以上に例示したアニオン性重合性界面活性剤は、単独で、又は2種以上の混合物として用いることができる。
【0075】
[イオン性重合性界面活性剤B]
イオン性重合性界面活性剤Bは、芯物質を被覆する壁材の主成分であるポリマーの重合成分であり、芯物質の表面の電荷と同種又は反対の電荷を有するイオン性基と、疎水性基と、重合性基とを有する。該イオン性基、該疎水性基、該重合性基としては、それぞれ、上記[イオン性重合性界面活性剤A]の項で記載したものと同じものを用いることができ、また、イオン性重合性界面活性剤Bとして、上記[イオン性重合性界面活性剤A]の項で記載したカチオン性重合性界面活性剤及びアニオン性重合性界面活性剤と同じものを用いることができる。
【0076】
[イオン性モノマー]
イオン性モノマーは、芯物質を被覆する壁材の主成分であるポリマーの重合成分であり、芯物質の表面の電荷と反対の電荷を有するイオン性基と、疎水性基と、重合性基とを有し、水溶性である。
上記疎水性基としては、炭素数が1〜7のアルキル基及びフェニル基、フェニレン基等のアリール基からなる群から選ばれる一種又は二種以上であることが好ましく、分子中にアルキル基及びアリール基の両者を有することもできる。
上記重合性基としては、上記[イオン性重合性界面活性剤A]の項で記載したものと同じものを用いることができる。
上記イオン性基としては、カチオン性基及びアニオン性基が挙げられ、上記イオン性基としてカチオン性基を有するイオン性モノマーは、「カチオン性水溶性モノマー」と称され、上記イオン性基としてアニオン性基を有するイオン性モノマーは、「アニオン性水溶性モノマー」と称される。本発明では、イオン性モノマーとして、カチオン性モノマー、アニオン性モノマーの何れを用いても良く、カプセル化物の用途に応じて何れかを適宜選択すれば良い。
【0077】
上記カチオン性基(イオン性基)としては、一級アンモニウムカチオン、二級アンモニウムカチオン、三級アンモニウムカチオン、及び第四級アンモニウムカチオンなる群から選択されたカチオン性基が好ましい。一級アンモニウムカチオンとしてはモノアルキルアンモニウムカチオン(RNH3+)等を、二級アンモニウムカチオンとしてはジアルキルアンモニウムカチオン(R2NH2+)等を、三級アンモニウムカチオンとしてはトリアルキルアンモニウムカチオン(R3NH+)等を、第四級アンモニウムカチオンとしては(R4+)等を挙げることができる。ここで、Rは、疎水性基であり、以下に示すものを挙げることができる。また、上記カチオン性基の対アニオンとしては、Cl-、Br-、I-、CH3OSO3-、C25OSO3-等を挙げることができる。
【0078】
上記アニオン性基(イオン性基)としては、スルホン酸基(−SO3-)、スルフィン酸基(−SO2-)、硫酸エステル基(−OSO3-)、カルボキシル基(―COO-)、リン酸基(=O2PO(O-),−OPO(O-2)、亜リン酸基(=O2PO-,−OP(O-2)、ホスホン酸基(−PO2(O-),−PO(O-2)、スルフィン酸エステル基(−OSO2-)、リン酸エステル基等が挙げられ、これらは下記に示す塩の形で用いられる。具体的に画、スルホン酸塩(−SO3M)、スルフィン酸塩(−SO2M)、硫酸エステル塩(−OSO3M)、カルボン酸塩(―COOM)、リン酸塩(=O2PO(OM),−OPO(OM)2)、亜リン酸塩(=O2POM,−OP(OM)2)、ホスホン酸塩(−PO2(OM),−PO(OM)2)、スルフィン酸エステル塩(−OSO2M)、リン酸エステル塩、から選択されたものを好適に例示でき、Mは、水素、アルカリ金属、アルカリ土類金属、NH4、アミン、エタノールアミン等である。
【0079】
本発明に用いられる上記カチオン性水溶性モノマー(イオン性モノマー)の好ましい具体例としては、メタクリル酸ジメチルアミノエチルメチルクロライド塩、メタクリル酸ジメチルアミノエチルベンジルクロライド塩、メタクリロイルオキシエチルトリメチルアンモニウムクロライド塩、ジアリルジメチルアンモニウムクロライド塩、及び2−ヒドロキシ−3−メタクリロキシプロピルトリメチルアンモニウムクロライド塩、等が挙げられる。上記のカチオン性水溶性モノマーとしては市販品を用いることもでき、例えば、アクリエステルDMC(三菱レイヨン(株))、アクリエステルDML60(三菱レイヨン(株))、及びC−1615(第一工業製薬(株))などを挙げることができる。以上例示したカチオン性水溶性モノマーは、単独で、又は2種以上の混合物として用いることができる。
【0080】
本発明に用いられる上記アニオン性水溶性モノマー(イオン性モノマー)の好ましい具体例としては、カルボキシル基を有するモノマーとして、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、プロピルアクリル酸、イソプロピルアクリル酸、2−アクリロイルオキシエチルコハク酸、2−アクリロイルオキシエチルフタル酸、2−メタクリロイルオキシエチルコハク酸、2−メタクリロイルオキシエチルフタル酸、イタコン酸、フマール酸、マレイン酸等が挙げられる。これらの中でもアクリル酸及びメタクリル酸が好ましい。スルホン酸基を有するモノマーとしては、例えば、4−スチレンスルホン酸及びその塩、ビニルスルホン酸及びその塩、スルホエチルアクリレート及びその塩、スルホエチルメタクリレート及びその塩、スルホアルキルアクリレート及びその塩、スルホアルキルメタクリレート及びその塩、スルホプロピルアクリレート及びその塩、スルホプロピルメタクリレート及びその塩、スルホアリールアクリレート及びその塩、スルホアリールメタクリレート及びその塩、ブチルアクリルアミドスルホン酸及びその塩、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸及びその塩等が挙げられる。また、ホスホン基を有するモノマーとしては、ホスホエチルメタクリレート等のリン酸基含有(メタ)アクリレートが挙げられる。以上例示したアニオン性水溶性モノマーは、単独で、又は2種以上の混合物として用いることができる。
【0081】
[その他のモノマー]
本発明に係る壁材を構成するポリマーには、上述したモノマーから誘導された繰り返し構造単位(A)及び(B)に加えて、必要に応じ、その他のモノマーから誘導された他の繰り返し構造単位を含有させることができる。好ましい他の繰り返し構造単位としては、「疎水性モノマーから誘導された繰り返し構造単位」、「架橋性モノマーから誘導された繰り返し構造単位」、及び「上記一般式(1)で表される化合物から誘導された繰り返し構造単位」が挙げられ、これらの1種以上を用いることができる。
【0082】
以下、これらの繰り返し構造単位を構成するモノマーについて説明する。
【0083】
[疎水性モノマー]
疎水性モノマーから誘導された繰り返し構造単位は、カプセル化物の成膜性、壁材の強度、耐薬品性、耐水性、耐光性、耐侯性、光学特性、その他の物理特性及び化学特性の制御に有効であり、特に、壁材の耐溶剤性、カプセル化物(導電性物質)の各種基体に対する定着性、カプセル化物が添加されたインク組成物による印字部(インクの付着部)の耐擦性及び耐水性等の向上に有効である。
【0084】
本発明に用いられる疎水性モノマーとしては、その構造中に少なくとも疎水性基と重合性基とを有するもので、該疎水性基が、脂肪族炭化水素基、脂環式炭化水素基、及び芳香族炭化水素基の群から選択されたものを例示できる。脂肪族炭化水素基としてはメチル基、エチル基、及びプロピル基等を、脂環式炭化水素基としてはシクロヘキシル基、ジシクロペンテニル基、ジシクロペンタニル基、及びイソボルニル基等を、芳香族炭化水素基としてはベンジル基、フェニル基、及びナフチル基等を挙げることができる。
疎水性モノマーの重合性基は、上記[イオン性重合性界面活性剤A]の項で記載したものと同じものを用いることができる。
【0085】
疎水性モノマーの具体例としては、スチレン、メチルスチレン、ビニルトルエン、ジメチルスチレン、クロルスチレン、ジクロルスチレン、t−ブチルスチレン、ブロムスチレン、p−クロルメチルスチレン等のスチレン誘導体;アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、イソプロピルアクリレート、アクリル酸n−ブチル、ブトキシエチルアクリレート、イソブチルアクリレート、n−アミルアクリレート、イソアミルアクリレート、n−ヘキシルアクリレート、オクチルアクリレート、デシルアクリレート、ドデシルアクリレート、オクタデシルアクリレート、アクリル酸ベンジル、アクリル酸フェニル、フェノキシエチルアクリレート、アクリル酸シクロヘキシル、ジシクロペンタニルアクリレート、ジシクロペンテニルアクリレート、ジシクロペンテニルオキシエチルアクリレート、アクリル酸テトラヒドロフルフリル、及びイソボルニルアクリレート、イソアミルアクリレート、ラウリルアクリレート、ステアリルアクリレート、ベヘニルアクリレート、エトキシジエチレングリコールアクリレート、メトキシトリエチレングリコールアクリレート、メトキシジプロピレングリコールアクリレート、フェノキシポリエチレングリコールアクリレート、ノニルフェノールEO付加物アクリレート、イソオクチルアクリレート、イソミリスチルアクリレート、イソステアリルアクリレート、2−エチルヘキシルジグリコールアクリレート、オクトキシポリエチレングリコールポリプロピレングリコールモノアクリレート等の単官能アクリル酸エステル類;メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、イソプロピルメタクリレート、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸i−ブチル、メタクリル酸t−ブチル、n−アミルメタクリレート、イソアミルメタクリレート、n−ヘキシルメタクリレート、2−エチルヘキシルメタクリレート、メタクリル酸ラウリル、メタクリル酸トリデシル、メタクリル酸ステアリル、メタクリル酸イソデシル、オクチルメタクリレート、デシルメタクリレート、ドデシルメタクリレート、オクタデシルメタクリレート、メトキシジエチレングリコールメタクリレート、ポリプロピレングリコールモノメタクリレート、メタクリル酸ベンジル、メタクリル酸フェニル、メタクリル酸フェノキシエチル、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸テトラヒドロフルフリル、t−ブチルシクロヘキシルメタクリレート、ベヘニルメタクリレート、ジシクロペンタニルメタクリレート、ジシクロペンテニルメタクリレート、ジシクロペンテニルオキシエチルメタクリレート、ブトキシメチルメタクリレート、及びイソボルニルメタクリレート、オクトキシポリエチレングリコールポリプロピレングリコールモノメタクリレート、等の単官能メタクリル酸エステル類;アリルベンゼン、アリル−3−シクロヘキサンプロピオネート、1−アリル−3,4−ジメトキシベンゼン、アリルフェノキシアセテート、アリルフェニルアセテート、アリルシクロヘキサン、及び多価カルボン酸アリル等のアリル化合物;フマル酸、マレイン酸、及びイタコン酸等の不飽和エステル類;N−置換マレイミド、環状オレフィンなどのラジカル重合性基を有するモノマー等が挙げられ、これらの1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0086】
本発明に係る壁材を構成するポリマー中における「疎水性モノマーから誘導された繰り返し構造単位」の量は、カプセル化物の用途等に応じて、適宜調整すれば良い。
【0087】
[架橋性モノマー]
本発明に係る壁材を構成するポリマーに、「架橋性モノマーから誘導された繰り返し構造単位」を含有させることにより、ポリマー中に架橋構造が形成されるため、カプセル化物の耐溶剤性を向上させることができる。カプセル化物の耐溶剤性が低いと、例えば該カプセル化物をインク組成物に添加して使用した場合に、該インク組成物に含有されている溶剤が、該カプセル化物の壁材を構成するポリマーの内部に浸透するおそれがあり、この結果、該ポリマーが膨潤や変形等を起こし、該カプセル化物の分散安定性等が低下することがある。カプセル化物の壁材を構成するポリマー中に架橋構造が形成されることによって、カプセル化物の耐溶剤性が向上し、これによって、水溶性有機溶媒が共存するインク組成物において、カプセル化物の分散安定性、インク組成物の保存安定性、インクジェットノズルからのインク組成物の吐出安定性を一層高めることができる。
また、架橋性モノマーを上記疎水性モノマーと併用した場合には、疎水性モノマーと架橋性モノマーとが共重合することにより、壁材の主成分であるポリマーの機械的強度や耐熱性が高まり、壁材の形態維持性が向上する。
【0088】
本発明に用いられる架橋性モノマーとしては、ビニル基,アリル基,アクリロイル基,メタクリロイル基,プロペニル基,ビニリデン基,及びビニレン基から選ばれる1種以上の不飽和炭化水素基を2個以上有する化合物を有するものが挙げられる。架橋性モノマーの具体例としては、例えば、エチレングリコールジアクリレート、ジエチレングリコールジアクリレート、トリエチレングリコールジアクリレート、テトラエチレングリコールジアクリレート、ポリエチレングリコールジアクリレート、アリルアクリレート、ビス(アクリロキシエチル)ヒドロキシエチルイソシアヌレート、ビス(アクリロキシネオペンチルグリコール)アジペート、1,3−ブチレングリコールジアクリレート、1,6−ヘキサンジオールジアクリレート、ネオペンチルグリコールジアクリレート、プロピレングリコールジアクリレート、ポリプロピレングリコールジアクリレート、2−ヒドロキシ−1,3−ジアクリロキシプロパン、2,2−ビス〔4−(アクリロキシ)フェニル〕プロパン、2,2−ビス〔4−(アクリロキシエトキシ)フェニル〕プロパン、2,2−ビス〔4−(アクリロキシエトキシ・ジエトキシ)フェニル〕プロパン、2,2−ビス〔4−(アクリロキシエトキシ・ポリエトキシ)フェニル〕プロパン、ヒドロキシビバリン酸ネオペンチルグリコールジアクリレート、1,4−ブタンジオールジアクリレート、ジシクロペンタニルジアクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、ジペンタエリスリトールモノヒドロキシペンタアクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、テトラブロモビスフェノールAジアクリレート、トリグリセロールジアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、トリス(アクリロキシエチル)イソシアヌレート、エチレングリコールジメタクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレート、トリエチレングリコールジメタクリレート、テトラエチレングリコールジメタクリレート、ポリエチレングリコールジメタクリレート、プロピレングリコールジメタクリレート、ポリプロピレングリコールジメタクリレート、1,3−ブチレングリコールジメタクリレート、1,4−ブタンジオールジメタクリレート、1,6−ヘキサンジオールジメタクリレート、ネオペンチルグリコールジメタクリレート、2−ヒドロキシ−1,3−ジメタクリロキシプロパン、2,2−ビス〔4−(メタクリロキシ)フェニル〕プロパン、2,2−ビス〔4−(メタクリロキシエトキシ)フェニル〕プロパン、2,2−ビス〔4−(メタクリロキシエトキシジエトキシ)フェニル〕プロパン、2,2−ビス〔4−(メタクリロキシエトキシポリエトキシ)フェニル〕プロパン、テトラブロモビスフェノールAジメタクリレート、ジシクロペンタニルジメタクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサメタクリレート、グリセロールジメタクリレート、ヒドロキシビバリン酸ネオペンチルグリコールジメタクリレート、ジペンタエリスリトールモノヒドロキシペンタメタクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラメタクリレート、ペンタエリスリトールトリメタクリレート、ペンタエリスリトールテトラメタクリレート、トリグリセーロールジメタクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、トリス(メタクリロキシエチル)イソシアヌレート、アリルメタクリレート、ジビニルベンゼン、ジアリルフタレート、ジアリルテレフタレート、ジアリルイソフタレート、及びジエチレングリコールビスアリルカーボネート等が挙げられる。
【0089】
本発明に係る壁材を構成するポリマー中における「架橋性モノマーから誘導された繰り返し構造単位」の量は、カプセル化物の用途等に応じて、適宜調整すれば良い。
【0090】
[一般式(1)で表される化合物]
本発明に係る壁材を構成するポリマーには、「一般式(1)で表される化合物から誘導された繰り返し構造単位」を含有させることができる。即ち、該ポリマーの原料となるモノマーとして、下記一般式(1)で表される化合物を用いることができる。
【0091】
【化17】

[ただし、R1は水素原子又はメチル基を表す。R2はt−ブチル基、脂環式炭化水素基、芳香族炭化水素基、又はヘテロ環基を表す。mは0〜3、nは0又は1の整数を表す。]
【0092】
上記一般式(1)において、R2が示す脂環式炭化水素基としては、シクロアルキル基、シクロアルケニル基、イソボルニル基、ジシクロペンタニル基、ジシクロペンテニル基、及びアダマンタン基等が挙げられ、ヘテロ環基としてはテトラヒドロフラン基等が挙げられる。
【0093】
上記一般式(1)で表される化合物(モノマー)の具体例としては、以下のものが挙げられる。
【0094】
【化18】

【0095】
【化19】

【0096】
本発明のカプセル化物の壁材を構成するポリマー中に、上記一般式(1)で表される化合物由来の「嵩高い」基である上記R2基を入れることによって、ポリマーの分子のたわみやすさが低下する、即ち、分子の運動性が低下するため、ポリマーの機械的強度や耐熱性が向上する。このため、該ポリマーを主成分とする壁材を有する本態様のカプセル化物を含むインク組成物は、耐擦性及び耐久性に優れた印刷画像(印刷物)を提供することができる。また、壁材を構成するポリマー中に、"嵩高い"基である上記R2基を存在させることによって、ポリマー内部へのインク組成物中の有機溶媒の浸透を抑制できることから、カプセル化物の耐溶剤性を優れたものにすることができる。これによって、水溶性有機溶媒が共存するインク組成物において、カプセル化物の分散安定性、インク組成物の保存安定性、インクジェットノズルからのインク組成物の吐出安定性を一層高めることができる。
【0097】
本発明に係る壁材を構成するポリマー中における「上記一般式(1)で表される化合物から誘導された繰り返し構造単位」の量は、カプセル化物の用途等に応じて、適宜調整すれば良い。
【0098】
ところで、上記の「架橋性モノマーから誘導された繰り返し構造単位」を有するポリマーや、「上記一般式(1)で表される化合物から誘導された繰り返し構造単位」を有するポリマーは、ガラス転移温度(Tg)が高く、機械的強度、耐熱性、耐溶剤性に優れるという利点を有する。
しかしながら、このようなポリマーを含む壁材を有するカプセル化物は、ポリマーの可塑性が不十分となって、インク組成物の成分として使用した場合には、記録媒体と密着しにくい状態となりやすく、その結果カプセル化物の記録媒体への定着性・耐擦性が低下する場合がある。
【0099】
一方、上述した疎水性モノマーのうち、長鎖アルキル基を有するモノマーから誘導された繰り返し構造単位を有するポリマーは柔軟性を有する。したがって、「架橋性モノマーから誘導された繰り返し構造単位」及び/又は「上記一般式(1)で表される化合物から誘導された繰り返し構造単位」と、「長鎖アルキル基を有する疎水性モノマーから誘導された繰り返し構造単位」との比率を適宜調整することによって、壁材として好ましい可塑性を損なわずに、優れた機械的強度及び耐溶剤性を有する壁材用ポリマーとすることができる。このようなポリマーを含む壁材を有するカプセル化物を含有するインク組成物は、該インク組成物が水溶性有機溶媒を含むものであっても、分散安定性や長期保存性に優れ、インクジェットノズルからの吐出安定性にも優れている。また、本態様のカプセル化物を含むインク組成物は、紙やプラスチック等の各種基体に対するカプセル化物の定着性が良好であり、耐擦性、耐久性及び耐溶剤性に優れた印刷部(インクの付着部)を提供することができる。
【0100】
[重合開始剤]
本発明のカプセル化物の壁材を構成するポリマーは、上述したように、イオン性重合性界面活性剤A及び/又はイオン性モノマーと、イオン性重合性界面活性剤Bと、必要に応じ、疎水性モノマー、架橋性モノマー及び上記一般式(1)で表される化合物からなる群から選択される1種以上とを重合して得られる。この重合反応は、重合開始剤を用いて行う。この重合開始剤としては、公知の重合開始剤を用いることができ、特にラジカル重合開始剤を用いることが好ましい。重合開始剤は、水溶性のものでもよく、油溶性のものでもよいが、好ましくは水溶性重合開始剤であり、例えば、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム、過硫酸ナトリウム、2,2−アゾビス−(2−メチルプロピオンアミジン)二塩酸塩、及び4,4−アゾビス−(4−シアノ吉草酸)等が挙げられる。また、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム、過硫酸ナトリウム等と、亜硫酸ナトリウム、次亜硫酸ナトリウム、硫酸第一鉄等とを組み合わせたレドックス系開始剤を用いることもできる。
【0101】
以下、本発明のカプセル化物の製造方法について、その好ましい一実施形態に基づき説明する。
本発明のカプセル化物は、上述したように、アドミセルの形成を経ることによって好適に製造される。
【0102】
本実施形態のカプセル化物の製造方法は、下記工程1〜工程3を有している。
工程1:表面に電荷を有する導電性物質(芯物質)の水性分散液に、上記イオン性重合性界面活性剤A及び/又はイオン性モノマーを添加・混合し、該導電性物質の表面に該イオン性重合性界面活性剤A及び/又はイオン性モノマーを吸着させる工程。
工程2:上記工程1を経た混合液に上記イオン性重合性界面活性剤Bを添加・混合する工程。
工程3:上記工程2を経た混合液に重合開始剤を添加・混合し、上記イオン性重合性界面活性剤A及び/又はイオン性モノマーと上記イオン性重合性界面活性剤Bとを重合して、壁材を構成するポリマーを形成する工程。
【0103】
上記工程1で用いる、芯物質の水性分散液は、芯物質を分散質とし、水性溶媒を分散媒とする水性液である。この水性溶媒は、脱イオン水等の水を主成分とするもので、必要に応じ、芯物質の水中への分散を助ける各種助剤や水溶性有機溶剤等を含有することができる。
【0104】
上記工程1において、イオン性重合性界面活性剤A及び/又はイオン性モノマーの水性分散液への添加量は、芯物質表面のイオン性基の総モル数(即ち、用いた芯物質1gの芯物質表面に存在するイオン性基量[mol/g])に対して、0.5〜2倍モルの範囲であることが好ましく、更に0.8〜1.2倍モルの範囲であることが好ましい。0.5〜2倍モルの範囲においては、芯物質表面のイオン性基と、該イオン性基とは反対の電荷を有するイオン性重合性界面活性剤A及び/又はイオン性モノマーのイオン性基との間の静電相互作用が好適な状態となり、芯物質がイオン性重合性界面活性剤A及び/又はイオン性モノマーで好適に覆われることで疎水性となり、上記工程2以降でのアドミセルの形成が容易となる。特に0.8〜1.2倍モルの範囲はより好適な状態が得られ、高収率でカプセル化物を得ることができる。
【0105】
上記工程1においては、芯物質の表面にイオン性重合性界面活性剤A及び/又はイオン性モノマーを均一に吸着させることを促進させる観点から、芯物質の水性分散液にイオン性重合性界面活性剤A及び/又はイオン性モノマーを添加・混合した後、こうして得られた混合液に超音波を照射することが好ましい。この時の超音波の照射条件は、芯物質の種類、イオン性重合性界面活性剤A及び/又はイオン性モノマーの芯物質表面への吸着の程度、芯物質の凝集の程度等を考慮して、照射周波数及び照射時間が決定される。
尚、上記工程1以降に超音波を照射することは、形成されたアドミセルが破壊され、芯物質を含まないポリマー粒子の生成量が増加するおそれがあり、その結果、カプセル化物の収率の低下やカプセル化物の粒度分布のブロード化を招くおそれがあるため、好ましくない。
【0106】
また、カプセル化物の壁材を構成するポリマーに、上述した「疎水性モノマーから誘導された繰り返し構造単位」、「架橋性モノマーから誘導された繰り返し構造単位」、「上記一般式(1)で表される化合物から誘導された繰り返し構造単位」を含有させる場合は、上記工程1の後で上記工程2の前に、これらのモノマー(疎水性モノマー、架橋性モノマー、上記一般式(1)で表される化合物)を水性分散液に添加することが好ましい。
【0107】
即ち、本発明のカプセル化物の好ましい一実施形態は、表面に電荷を有する導電性物質の水性分散液に、上記イオン性重合性界面活性剤A及び/又は上記イオン性モノマーと、上記疎水性モノマー、上記架橋性モノマー及び上記一般式(1)で表される化合物からなる群から選択される1種以上と、上記イオン性重合性界面活性剤Bとを、この順で順次添加・混合した後、重合開始剤を添加してこれらを重合させることにより製造されたものである。
【0108】
上記工程2において、上記イオン性重合性界面活性剤Bの添加量は、上記イオン性重合性界面活性剤A及び/又はイオン性モノマーに対して、1倍〜10倍モルの範囲であることが好ましく、1倍モル〜5倍モルの範囲であることがさらに好ましい。上記添加量を1倍モル以上にすることにより、カプセル化物の凝集を効果的に抑制でき、分散安定性に優れたカプセル化物の分散液が得られる。また、上記添加量を10倍モル以下にすることによって、副生成物であるポリマー粒子の発生を効果的に抑制できる。
【0109】
上記工程2を経ることにより、芯物質(導電性物質)の表面にイオン性重合性界面活性剤A及び/又はイオン性モノマーが静電的に付着し、付着した該イオン性重合性界面活性剤A及び/又はイオン性モノマーの芯物質側とは反対側に疎水性モノマー等の上記他のモノマーが局在し、更に芯物質から最も離れた位置にイオン性重合性界面活性剤Bがそのイオン性基を水相側に向けて配向し、上記アドミセルが形成される。
【0110】
上記工程3は、攪拌機、還流冷却器、滴下漏斗、及び温度調節器を備えた反応容器中にて行われる。上記工程2を経た混合液への重合開始剤の添加は、重合開始剤が活性化される温度に加熱された混合液に対して、重合開始剤を一度に若しくは分割して添加してもよく、又は連続的に添加してもよい。また、重合開始剤を添加した後に、重合開始剤が活性化される温度に混合液を加熱してもよい。重合開始剤には、水に可溶な水溶性重合開始剤と、水に不溶又は難溶の油溶性重合開始剤とがあり、本発明では何れの重合開始剤も用いることができる。水溶性重合開始剤を用いる場合は、水溶性重合開始剤をイオン交換水に溶解させて得た水溶液を、反応容器内の混合液に所定の滴下速度で滴下することにより、重合反応させることができる。油溶性重合開始剤を用いる場合は、反応容器内の混合液に直接添加するか、又は油溶性重合開始剤を疎水性モノマーに溶解させたものを混合液に添加することにより、重合反応させることができる。
【0111】
重合性開始剤の添加量は、モノマー(イオン性重合性界面活性剤A及び/又はイオン性モノマー、イオン性重合性界面活性剤B、疎水性モノマー等の他のモノマー)の総添加重量に対して、好ましくは1〜5重量%、更に好ましくは1〜3重量%である。該添加量が1重量%未満では、重合反応が十分に進まないおそれがあり、該添加量が5重量%を超得ると、ゲル化や凝集等が起こるおそれがある。
【0112】
重合開始剤の活性化は、重合開始剤が開裂して開始剤ラジカルが発生する温度まで、反応系を昇温することによって好適に実施できる。添加された重合開始剤が開裂して開始剤ラジカルが発生し、この開始剤ラジカルが、モノマーが有している重合性基を攻撃することによって重合反応が起こる。重合温度及び重合反応時間は、用いる重合開始剤の種類及びモノマーの種類に応じて適宜設定すれば良い。一般に、重合温度は40℃〜90℃の範囲とするのが好ましく、重合時間は3時間〜12時間とするのが好ましい。
【0113】
尚、上記工程3で行われる重合反応では、混合液の乳化状態を良好にする目的で、必要に応じ、アニオン系、非イオン系、及びカチオン系乳化剤からなる群から選ばれる1種以上の乳化剤を用いることができる。但し、乳化剤としては、イオン性重合性界面活性剤Bと同じ電荷を有するもの、又は非イオン性のものを用いる必要がある。イオン性重合性界面活性剤Bと異なる電荷を有する乳化剤を用いると、ゲル化や凝集等の不都合が生じるおそれがあるためである。
【0114】
上記工程3の終了後(重合終了後)は、得られたカプセル化物の水性分散液のpHを所定の範囲に調製する。壁材の最外殻を構成するイオン性重合性界面活性剤Bとして、アニオン性重合性界面活性剤を使用した場合は、pH7〜9に調整することが好ましく、カチオン性重合性界面活性剤を使用した場合は、pH4〜6に調整することが好ましい。pHの調整は、公知のpH調整剤を用いて行なうことができる。
【0115】
こうして得られたカプセル化物の水性分散液には、カプセル化物の他に、カプセル化物の製造に使用したモノマーに由来する未反応モノマー(反応に使用されなかったモノマーやポリマー粒子等の副生成物)が含まれていることがあるため、上記水性分散液を精製処理し、未反応モノマーの濃度を低減することが好ましい。これによって、水性分散液をインク組成物に用いた場合には、印刷濃度(単位面積当たりの導電性物質の付与量)が向上し、印刷部(インク組成物の付着部)の滲みが効果的に抑制される。カプセル化物の水性分散液を精製処理する方法としては、遠心分離法や限外濾過法等を用いることができる。
【0116】
次に、本発明のインク組成物(インクジェット記録用インク)について説明する。
本発明のインク組成物は、上述した本発明のカプセル化物を含有し、更に、該カプセル化物を分散させる主溶媒(インク組成物の全重量の50重量%以上を占める溶媒)を含有する。
【0117】
カプセル化物の含有量は、インク組成物の全重量に対して、好ましくは0.5〜20重量%、更に好ましくは1〜10重量%である。カプセル化物の含有量が0.5重量%未満であると、インク組成物が付与されて作製された印刷物の導電性が不充分となるおそれがあり、該含有量が20重量%を超えると、インク組成物の分散安定性や吐出安定性が低下するおそれがある。
【0118】
本発明のインク組成物の主溶媒としては、水、あるいは有機溶剤を用いることができる。水としては、イオン交換水、限外濾過水、逆浸透水、蒸留水等の純水、又は超純水が好ましい。有機溶剤としては、後述する水溶性有機溶剤を用いることができる。
【0119】
本発明のインク組成物がインクジェット記録用インクとして用いられる場合、その組成は少なくとも、カプセル化物、水溶性有機溶剤及び水を含むことが好ましい。即ち、本発明のインクジェット記録用インクは、カプセル化物と、水溶性有機溶剤と、水とを含有することが好ましい。
【0120】
本発明のインク組成物に含有可能な水溶性有機溶剤としては、インクジェット記録用水性インクに通常用いられているものを特に制限無く用いることができる。例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、イソブタノール、セカンダリーブタノール、ターシャリーブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、シクロヘキサノール、ベンジルアルコール等のアルコール類;エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、ブチレングリコール、ヘキサンジオール、ペンタンジオール、グリセリン、ヘキサントリオール、チオジグリコール等の多価アルコール類;エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノフェニルエーテル、プロピレングリコールモノフェニルエーテル等の多価アルコールエーテル類;エタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、N−メチルジエタノールアミン、N−エチルジエタノールアミン、モルホリン、N−エチルモルホリン、エチレンジアミン、ジエチレンジアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ポリエチレンイミン、ペンタメチルジエチレントリアミン、テトラメチルプロピレンジアミン等のアミン類;ホルムアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド等のアミド類;2−ピロリドン、N−メチル−2−ピロリドン、シクロヘキシルピロリドン、2−オキサゾリドン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン等の複素環類;ジメチルスルホキシド等のスルホキシド類;スルホラン等のスルホン類;尿素、アセトニトリル、アセトン、1,2−アルカンジオール等が挙げられる。本発明のインク組成物には、これらの1種を単独で又は2種以上を混合して含有させることができる。
【0121】
カプセル化物と水溶性有機溶剤と水とを含有する本発明のインクジェット記録用インクにおいて、該水溶性有機溶剤の含有量は、インクの吐出安定性及び記録媒体への浸透性の向上の観点から、インクの全重量に対して好ましくは5〜30重量%である。
【0122】
本発明のインク組成物には、必要に応じ、界面活性剤(例えば、アセチレングリコール系、アセチレンアルコール系界面活性剤等の非イオン界面活性剤)、保湿剤(例えば、グルコース、ソルビット、マルトース等の糖類;尿素、チオ尿素、エチレン尿素等の尿素類)、pH調整剤、防腐剤、防かび剤、消泡剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤等を含有させることができる。
【0123】
本発明のインク組成物は、インクジェットノズルから安定的に吐出されるようにする観点から、液温20℃での粘度が2〜6mPa・sの範囲にあり、表面張力が20〜50mN/mの範囲にあることが好ましい。斯かる物性値は、例えば、有機溶剤や界面活性剤の含有量を適宜調整することにより、達成することができる。
【0124】
本発明のインク組成物のpHは、カプセル化物の壁材の外表面に位置するイオン性基の種類、即ち、壁材の最外殻を構成するイオン性重合性界面活性剤Bの種類に応じて、適宜調整することが好ましい。イオン性重合性界面活性剤Bが、イオン性基としてアニオン性基を有する場合(イオン性重合性界面活性剤Bが、アニオン性重合性界面活性剤である場合)、インク組成物のpHは、好ましくは7〜11、更に好ましくは8〜9である。イオン性重合性界面活性剤Bが、イオン性基としてカチオン性基を有する場合(イオン性重合性界面活性剤Bが、カチオン性重合性界面活性剤である場合)、インク組成物のpHは、好ましくは5〜7、更に好ましくは6〜7である。インク組成物のpHの調整は、公知のpH調整剤を用いて行なうことができる。
【0125】
本発明のインク組成物と、従来公知のインク組成物との間には、以下のような違いがある。
即ち、従来公知のインク組成物のうち、導電性物質をカプセル化せずに用いているものは、導電性物質に分散安定性を付与するために、界面活性剤や高分子分散剤等の分散剤を導電性物質の表面に吸着させているところ、例えばインクジェット方式に用いられた場合、細いインクジェットノズルを通って吐出される際に加えられる強い剪断力によって、導電性物質の表面に吸着していた分散剤が該表面から容易に脱離し、この結果、分散性の劣化をもたらし、吐出不安定になりやすいという問題がある。また、導電性物質が従来のカプセル化法によりカプセル化されてなる従来のインク組成物は、該導電性物質を被覆する壁材ポリマーの耐溶剤性が充分でないため、インク組成物に含まれている有機溶剤等によって、経時的に壁材ポリマーが脱離したり、膨潤したりすることがあり、分散安定性に問題がある。
【0126】
これに対し、本発明のインク組成物は、耐溶剤性に優れた壁材によって被覆された導電性物質のカプセル化物(本発明のカプセル化物)を用いているため、上述した不都合が全く認められず、長期に亘ってカプセル化物が該インク組成物中に安定して分散している状態を保つことができ、インクジェットノズルを通して長期間安定に吐出される。
また、本発明のカプセル化物は、形状が略真球状であるため、該カプセル化物を含有するインク組成物の流動性が、ニュートニアンになりやすい。これは、カプセル化物の表面のイオン性基が水性溶媒側に向かって規則正しく密に配向しているためと考えられ、カプセル化物相互間に効果的な静電反発力が生じているものと考えられる。このようなカプセル化物の形状も、本発明のインク組成物の優れた吐出安定性に寄与している。
【0127】
また、従来公知のインク組成物のうち、導電性物質をカプセル化せずに用いているものにおいては、添加された分散剤の全てが導電性物質の表面に吸着されるわけではなく、分散剤の一部は、導電性物質に吸着されずに溶媒中に溶解する。このため、従来公知のインク組成物は、溶解した分散剤によって粘度が高くなりやすく、更に、導電性物質の表面に吸着していた分散剤が経時的に脱離する傾向があるため、インク組成物の粘度が経時的に上昇していく傾向がある。このため、従来公知のインク組成物は、導電性物質の含有量を増やすことが難しく、印刷濃度(単位面積当たりの導電性物質の付与量)の不足が生じやすいという問題がある。
これに対し、本発明のインク組成物は、経時的なインク組成物の粘度上昇がきわめて起こりにくく、低粘度化が容易であり、導電性物質(カプセル化物)を従来公知のインク組成物よりも多く含有できるという利点を有し、充分に高い印刷濃度を提供することができる。
【実施例】
【0128】
以下、実施例を挙げて本発明を更に具体的に説明するが、本発明は斯かる実施例に限定されるものではない。
尚、下記実施例1〜2は、本発明のカプセル化物の実施例であり、下記実施例3〜4は、本発明のインク組成物(インクジェット記録用インク)の実施例である。
【0129】
〔実施例1〕
(アニオン性基を表面に有する導電性物質のカプセル化物MC1の製造)
カチオン性基を有するシランカップリング剤AY43−021(東レ・ダウコーニング・シリコーン(株)製)、オクタデシルジメチル〔3−(トリメトキシシリル)プロピル〕アンモニウムクロライド:メタノール溶液を取り、メタノールで固形分濃度が5重量%となるように希釈した。ここに、導電性物質であるPazet GK−40(ハクスイテック(株)製)を20g加え良く混合し、室温で乾燥させた後、130℃で1時間乾燥させた。乾燥後のメタノール溶液を容器に入れ、400gの脱イオン水を加えて混合攪拌し、さらに超音波を照射して導電性物質を分散させた。
次いで、イオン交換水50gと、3.5gのアニオン性重合性界面活性剤アクアロンKH−10(第一工業製薬(株)製)とを添加し、超音波照射した。次いで、スチレン15gと、ジシクロペンテニルメタクリレート5gと、ドデシルメタクリレート5gとを加え混合攪拌し、さらにイオン交換水50gに溶解させた3.5gのアニオン性重合性界面活性剤アクアロンKH−10(第一工業製薬(株)製)を添加して、超音波を30分間照射した。これを攪拌機、還流冷却器、滴下漏斗、温度調整器、窒素導入管及び超音波発生器を備えた反応容器に投入した。反応容器の内温を80℃に昇温した後、イオン交換水20gに重合開始剤として過硫酸カリウム0.6gを溶解させた過硫酸カリウム水溶液を滴下し、窒素を導入しながら80℃で6時間重合した。重合終了後、2mol/lの水酸化カリウム水溶液でpH8に調整し、限外濾過装置でクロスフロー法による限外濾過を行い、導電性物質がポリマーを主成分とする壁材によって被覆された、カプセル化物MC1を得た。
【0130】
〔実施例2〕
(アニオン性基を表面に有する導電性物質のカプセル化物MC2の製造)
導電性物質であるPazet CK(ハクスイテック(株)製)20gと、アニオン性重合性界面活性剤アクアロンKH−10(第一工業製薬(株)製)5gと、イオン交換水200gとを混合し、アイガーモーターミルM250型(アイガージャパン(株)製)でビーズ充填率70%及び回転数5000rpmの条件下で2時間分散した。
次いで、得られた分散液に、カチオン性親水性モノマーとしてメタクリル酸ジメチルアミノエチルメチルクロライドを1.5g添加して混合した後、超音波を30分間照射して処理した。次いで、ベンジルメタクリレート17.3gと、ドデシルメタクリレート7.7gと、ジエチレングリコールジメタクリレート0.05gとを混合して加え攪拌混合し、予めイオン交換水50gに溶解させておいた、アニオン性重合性界面活性剤アクアロンKH−10(第一工業製薬(株)製)5.5gを添加し、再び超音波を30分間照射して処理した。これを攪拌機、還流冷却器、滴下漏斗、温度調整器、窒素導入管及び超音波発生器を備えた反応容器に投入した。反応容器の内温を80℃に昇温した後、イオン交換水20gに重合開始剤として過硫酸カリウム0.6gを溶解した過硫酸カリウム水溶液を滴下し、窒素を導入しながら80℃で6時間重合した。重合終了後、2mol/lの水酸化カリウム水溶液でpH8に調整し、孔径1μlのメンブレンフィルターで濾過を行い粗大粒子を除去して、導電性物質がポリマーを主成分とする壁材によって被覆された、カプセル化物MC2を得た。
【0131】
〔比較例1〕
(導電性物質の分散体H1の製造)
導電性物質であるPazet GK−40(ハクスイテック(株)製)20gを、ソルスパーズ24000(商品名、アビシア(株)製)中に攪拌しながらゆっくり投入した。滴下を終えた溶液を5分程度攪拌し続けた後、ウルトラホモジナイザーを用いて1時間分散処理を行った。分散処理後、遠心分離機にて30分間処理をして粗大粒子を除去し、目的の分散体(カプセル化されていない導電性物質)H1を得た。
【0132】
〔比較例2〕
(導電性物質の分散体H2の製造)
比較例1において、導電性物質として、Pazet GK−40に代えてPazet CK(ハクスイテック(株)製)を用いた以外は比較例1と同様の方法で、目的の分散体(カプセル化されていない導電性物質)H2を得た。
【0133】
(インク組成物の作製;実施例3〜4、比較例3〜4)
下記表1に示す組成に基づいて、実施例3〜4及び比較例3〜4のインク組成物(インクジェット記録用インク)を作製した。
【0134】
【表1】

【0135】
(評価)
実施例3〜4及び比較例3〜4のインク組成物について、導電性、保存安定性、目詰まり復帰性を下記方法により評価した。これらの結果を下記表2に示す。
【0136】
<導電性の評価>
導電率計(CONDUCTIVITY METER DS−15、堀場製作所(株)製)を用いてインク組成物の電気導電率を測定し、測定値が5mS/cm以上のものをA、電気導電率が0〜4mS/cmの範囲内のものをBとした。
【0137】
<保存安定性の評価>
インク組成物をガラス瓶に入れて密栓し、60℃で2週間放置した。この放置前後におけるインク組成物の物性値(粘度、表面張力)の変動程度を評価し、放置前後の物性値に変化がみられないものをA(保存安定性良好)、放置前後の物性値に変化がみられるものをBとした。
【0138】
<目詰まり復帰性の評価>
インク組成物を、インクジェットプリンタPX−V630(セイコーエプソン(株)製)のインクカートリッジに充填し、さらにクリーニング動作を繰り返すことで該プリンタの記録ヘッドに充填し、記録ヘッドのノズルからインク組成物が吐出していることを印字によって確認後、ノズルにキャップをしない状態で該プリンタを40℃の環境に1ヶ月間放置した。放置後、プリンタの電源を入れ、全ノズルの吐出が可能となる(回復する)までに要したクリーニング動作の回数をカウントし、該回数が6回以内のものをA(目詰まり防止性良好)、該回数が6回を超えるものをBとした。
【0139】
【表2】

【0140】
表2に示すように、カプセル化された導電性物質を用いて作製された実施例のインク組成物(インクジェット記録用インク)は、カプセル化されていない導電性物質を用いて作製された比較例のインク組成物と同等の導電性を示し、且つ比較例のインク組成物に比して保存安定性及び目詰まり復帰性に優れている。
【図面の簡単な説明】
【0141】
【図1】本発明のカプセル化物の製造過程で生成するアドミセルの一例を示す模式図である。
【図2】図1に示す状態からモノマーが重合した状態を示す模式図である。
【符号の説明】
【0142】
1 導電性物質(芯物質)、2 イオン性重合性界面活性剤A、3 イオン性重合性界面活性剤B、11 カチオン性基、12,12’ 疎水性基、13,13’ 重合性基、14 表面処理層、14’ アニオン性基、60 壁材(ポリマー)、100 カプセル化物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面に電荷を有する導電性物質が、ポリマーを主成分とする壁材によって被覆されたカプセル化物であって、上記ポリマーが、下記(A)の繰り返し構造単位及び下記(B)の繰り返し構造単位を少なくとも有するカプセル化物。
(A)「上記導電性物質の表面の電荷と反対の電荷を有するイオン性重合性界面活性剤A」及び/又は「上記導電性物質の表面の電荷と反対の電荷を有するイオン性モノマー」から誘導された繰り返し構造単位。
(B)「上記導電性物質の表面の電荷と同種又は反対の電荷を有するイオン性重合性界面活性剤B」から誘導された繰り返し構造単位。
【請求項2】
上記導電性物質の水性分散液に、上記イオン性重合性界面活性剤A及び/又は上記イオン性モノマーと、上記イオン性重合性界面活性剤Bとを、この順で順次添加・混合した後、重合開始剤を添加してこれらを重合させることにより製造された請求項1記載のカプセル化物。
【請求項3】
上記導電性物質が、カチオン性基を有するシランカップリング剤で表面処理された無機導電性物質である請求項1又は2記載のカプセル化物。
【請求項4】
上記ポリマーが、疎水性モノマーから誘導された繰り返し構造単位、架橋性モノマーから誘導された繰り返し構造単位、及び下記一般式(1)で表される化合物から誘導された繰り返し構造単位からなる群から選択される1種以上を更に有する請求項1〜3の何れかに記載のカプセル化物。
【化1】

[ただし、R1は水素原子又はメチル基を表す。R2はt−ブチル基、脂環式炭化水素基、芳香族炭化水素基、又はヘテロ環基を表す。mは0〜3、nは0又は1の整数を表す。]
【請求項5】
請求項1〜4の何れかに記載のカプセル化物を含有するインク組成物。
【請求項6】
請求項1〜4の何れかに記載のカプセル化物と、水溶性有機溶剤と、水とを含有するインクジェット記録用インク。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−214556(P2008−214556A)
【公開日】平成20年9月18日(2008.9.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−56699(P2007−56699)
【出願日】平成19年3月7日(2007.3.7)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】