説明

カメラ

【課題】複数の空間周波数特性でブラケティング撮影が行えるカメラの提供。
【解決手段】空間周波数特性を変えることができる光学ローパスフィルタ4を備えたカメラに適用され、光学ローパスフィルタ4の空間周波数特性を変化させ、互いに異なる空間周波数特性で複数回撮影を行う。そのため、詳しい知識が無くても撮影者の意図に沿う画像を容易に得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、可変型の光学ローパスフィルタを備えるカメラに関する。
【背景技術】
【0002】
ビデオカメラやデジタルカメラなど固体撮像素子を使用するカメラでは、レンズによって結像された像に撮像素子のサンプリング周波数と同程度以上の高周波数成分が含まれていると、モアレにより撮像画像が劣化するという現象が起こる。従来は、このようなモアレの発生を防止するために、結像された被写体像の高周波成分を減衰させる目的で光学ローパスフィルタが使用されている。また、光学材料に加える応力を可変とすることで、空間周波数特性を変えることができる光学ローパスフィルタも知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
【特許文献1】特開2003−167123号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、空間周波数特性が可変な光学ローパスフィルタを用いた場合、光学ローパスフィルタの空間周波数特性をマニュアルで適切に調整するのが難しく、撮影者の意図する画像を得るのに手間がかかるという問題があった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
請求項1の発明は、空間周波数特性を変えることができる光学ローパスフィルタを備えたカメラに適用され、光学ローパスフィルタの空間周波数特性を変化させ、互いに異なる空間周波数特性で複数回撮影を行うブラケティング撮影手段を備えたことを特徴とする。
請求項2の発明は、請求項1に記載のカメラにおいて、異なるカットオフ周波数で複数回撮影を行うようにしたものである。
請求項3の発明は、請求項1に記載のカメラにおいて、空間周波数成分に関して異なる低減量で複数回撮影を行うようにしたものである。
請求項4の発明は、請求項1に記載のカメラにおいて、光学ローパスフィルタは、光路中に配設された光弾性部材と、電圧が印加され光弾性部材に疎密波を発生させる圧電変換素子とを備え、電圧の周波数および電圧値の少なくとも一方を変えて空間周波数特性を変化させるものである。
請求項5の発明は、請求項1に記載のカメラにおいて、光学ローパスフィルタは、光路中に配設された光弾性部材と、光弾性部材に応力を付加する応力付加手段とを備え、光弾性部材に付加される応力を変えて空間周波数特性を変化させるものである。
請求項6の発明は、請求項1に記載のカメラにおいて、光学ローパスフィルタは、光路中に配設された透明平行平板と、透明平行平板の入射面と光軸との角度が変化するように透明平行平板を揺動振動させる駆動手段とを備え、揺動振動の振幅を変えて空間周波数特性を変化させるものである。
請求項7の発明は、請求項1〜6のいずれかに記載のカメラにおいて、ブラケティング撮影における空間周波数特性に関する条件を設定する設定手段をさらに備え、ブラケティング撮影手段は、設定手段により設定された条件に基づいてブラケティング撮影を行うようにしたものである。
請求項8の発明は、請求項7に記載のカメラにおいて、設定手段は、空間周波数特性を指定するための指定操作部を備えたものである。
請求項9の発明は、請求項8に記載のカメラにおいて、光学ローパスフィルタの空間周波数特性を予め複数記憶する記憶部を備え、指定操作部により、記憶部に記憶された複数の空間周波数特性から任意の空間周波数特性を指定するようにしたものである。
請求項10の発明は、請求項7に記載のカメラにおいて、カメラに装着された撮影レンズのMTF(Modulated Transfer Function)特性に応じてブラケティング撮影における空間周波数特性を設定するようにしたものである。
請求項11の発明は、請求項7に記載のカメラにおいて、カメラの姿勢を検知する姿勢検知手段をさらに備え、姿勢検知手段により検知されたカメラ姿勢に応じてブラケティング撮影における空間周波数特性を設定するようにしたものである。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、光学ローパスフィルタの空間周波数特性を変化させ、互いに異なる空間周波数特性で複数回撮影を行うブラケティング撮影が可能なので、撮影者の意図に沿う画像を容易に得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、図を参照して本発明を実施するための最良の形態について説明する。図1は本発明によるカメラの一実施の形態を示すブロック図であり、一眼レフ式のデジタルスチルカメラの概略構成を示したものである。図1において、1は撮影レンズ、3はクイックリターンミラー、4は光学ローパスフィルタ、5はフォーカルプレーンシャッタ、6は撮像素子、7はファインダー光学系、8は光学ローパスフィルタ4の駆動回路である。
【0008】
10は表示モニタであり、カメラ背面側から表示面を観察することができる。表示モニタ10には撮影画像や再生画像を表示したり、各種設定画面を表示したりすることができる。11はカメラ姿勢を検知する姿勢センサであり、12は各種データを記憶するための記憶部である。13は制御演算部であり、後述するブラケティング撮影制御やブラケティング撮影時の特性設定など、カメラ全体の制御や各種演算を行う。制御演算部13には、入力操作部14が接続されている。
【0009】
光学ローパスフィルタ4,フォーカルプレーンシャッタ5および撮像素子6は、それぞれ撮影レンズ1の光軸2上に配設されている。クイックリターンミラー3は、図1に示す光軸位置と不図示の光軸外位置との間を移動できるように設けられている。クイックリターンミラー3が図1のように光軸位置に配設されると、撮影レンズ1からの被写体光はクイックリターンミラー3によりファインダー光学系7へと反射される。ファインダー光学系7にはペンタプリズム71や接眼レンズ72が設けられており、接眼レンズ72を介して被写体像を観察することができる。
【0010】
一方、被写体を撮影する場合には、クイックリターンミラー3は不図示の光軸外位置に移動されるとともにフォーカルプレーンシャッタ5の開閉動作が行われ、被写体光に対して撮像素子6が所定時間露光される。この露光の際には、駆動回路8により光学ローパスフィルタ4が駆動される。すなわち、撮像素子6に入射する被写体光は、光学ローパスフィルタ4の空間周波数特性に応じて高周波成分が除去される。撮像素子6はCCDやCMOS等の固体撮像素子で構成され、複数の受光画素が2次元的に配列されている。
【0011】
図2はカメラ本体の背面側を示す図である。カメラ本体の背面には、ファインダ接眼部20が設けられており、上述したように図1の接眼レンズ72を介して観察画面内の被写体像を観察することができる。カメラ背面には、入力操作部14を構成する十字型選択ボタン22、撮影モード切替スイッチ23が設けられている。十字型選択ボタン22には、矢印キー22a〜22dおよび中央キー22eが設けられている。
【0012】
《光学ローパスフィルタ4の説明》
図3は光学ローパスフィルタ4を撮影レンズ1側から見た平面図である。41は光弾性部材であり、本実施の形態では石英ガラスから成る矩形状の平行平板を用いているが、これに限らない。光弾性部材41に用いる材料としては石英ガラスに限らず種々のものが可能であるが、使用する光の透過性が良好なガラスや単結晶が好ましい。
【0013】
例えば、可視光を取り扱うカメラ等の場合には、少なくとも波長450nmから750nmの範囲の光を透過する材料を使用する。また、光透過性の程度としては、上記波長帯域の分光透過率が部材厚さ1mmあたり50%以上であることが望ましい。このような光透過性の定量は、分光光度計などの分光透過率測定装置で行う。光透過性が良好な材料としては、ガラスの場合にはクラウンガラス,フリントガラス,石英ガラス等があり、結晶材料の場合にはモリブデン酸鉛、二酸化テルル等が好適である。もちろん、本発明における光弾性部材41は、これらのガラスや結晶材料に限定されるものではない。
【0014】
図3に示す例では、矩形状の光弾性部材41の上辺Aに、圧電体42が固設されている。これは、光学ローパスフィルタ4により光線を一方向(図示上下方向)に分離する場合を示したものであり、一方向に分離する場合、圧電体42の固設位置は上辺Aに限らず、4辺A,B,C,Dのいずれか一つに設ければ良い。圧電素子42を辺A,Cに設ければ光線は上下に分離され、辺B,Dに設けた場合には光線は左右に分離される。分離動作の原理はいずれの場合も同じなので、ここでは代表して辺Aに固設した場合で説明する。
【0015】
なお、縦横2方向に分離させる場合には、辺A,Cのいずれかと、辺B,Dのいずれかにそれぞれ圧電体を設ければ良い。それらの圧電体を独立して制御することにより、縦方向の特性と横方向の特性とを独立に制御することができる。
【0016】
駆動回路8から圧電体42に高周波電圧が印加されると、圧電体42は図示上下方向に振動する。光学ローパスフィルタとして機能させる場合には、1MHz〜100MHz程度の周波数を有する高周波電圧が圧電体42に印加される。この周波数域は音として人間の耳に聞こえない超音波の周波数帯域であり、このような周波数帯域の振動を発生させる圧電体42としてはリチウムナイオベイトが一般的であるが、ジルコン酸チタン酸鉛(PZT)やチタン酸バリウム等のセラミックスでも良く、必ずしもこれらに限定されるものではない。
【0017】
圧電体42を振動させると、矢印43で示すように光弾性部材41の上辺Aから下辺Cへと進行する疎密波が発生し、その周波数は圧電体42に印加された電力の周波数に等しくなる。その結果、光弾性部材41の内部に周期的な密度分布が形成され、光弾性部材41の面内で周期的に変化する屈折率分布が形成される。44は疎密波の波面を示したものであり、波面44は進行方向43に垂直となる。例えば、波面44の位置を分布が密な部分とすれば、それらの中間に分布が疎となる部分が発生する。密部分同士の間隔は疎密波の波長Λになっている。すなわち、屈折率分布の空間的な周期はΛとなっている。
【0018】
図3に示すような周期的な屈折率分布が形成された光弾性部材41に光が入射すると、音響効果によるラマン・ナス(Raman-Nath)回折あるいは音響効果によるブラッグ回折と呼ばれる回折現象が発生する。すなわち、周期的な屈折率分布が形成された光弾性部材41に入射した光線は回折され、一部は0次光としてそのまま進行し、一部は進行方向を変えられて出射する。
【0019】
このとき、m次回折光の分離角度θは、回折次数をm、光の波長をλとすると、次式(1)で表される。また、周期的な屈折率分布の周期(幅)Λは、圧電体42に印加する高周波電圧の周波数をf、光弾性部材41内における音速をvとすると、次式(2)のように表される。
sinθ=m・λ/Λ …(1)
Λ=v/f …(2)
【0020】
光弾性部材41を透過して分離される光線の分離角度θは比較的小さい値であるので、sinθ≒θのように近似することができ、式(1)は式(3)のように表すことができる。
θ=m・λ/Λ …(3)
【0021】
したがって、光弾性部材41を用いることにより、被写体光を複数に分離することが可能となる。一般に、ラマン・ナス回折で分離した光線は、光弾性部材41の中を通る音波の強さにより、0次光、±1次光、±2次光、…のように順に高次の回折をすることになる。なお、本実施形態では、ラマン・ナス回折の±4次光の回折光までを考えることにするが、これに限られるものではない。図5は、与える音波の強さ(音波パワー)と各次光の回折光強度(振幅)との関係を示したものである。
【0022】
まず、分離幅について説明する。図4に示すように、光弾性部材41から撮像素子6の撮像面までの距離をLとし、撮像面でのm次光の分離幅をdとすると、次式(4)が成り立つ。
/L=tanθ
≒θ …(4)
この式(4)と上述した式(3)を用いると、m次光の分離幅dは次式(5)のように表される。1次光の分離幅をdとすれば、m次光の分離幅dはd×mと表すことができる。
=m(λL/v)・f …(5)
【0023】
例えば、光の波長をλ=600nm、距離L=5mmとし、光弾性部材41に石英ガラスを用いた場合を考える。石英ガラス中の音速vはv=6km/sであるので、分離幅dを5μmとするためには、印加電圧の周波数をf=10MHzとすれば良いことがわかる。このとき、疎密波(超音波)の周期ΛはΛ=0.6mmとなるので、d=5μmとなる。カットオフ周波数は分離幅dに対して1/(2d)と表されるので、100(1/mm)となる。
【0024】
また、印加する高周波電圧の電圧値を大きくして音波の強度を大きくすると、周期的屈折率分布の振幅を大きくすることができ、逆に、電圧値を小さくすると周期的屈折率分布の振幅を小さくすることができる。その結果、図5に示すように、電圧値の大きさを変えて音波パワーを調整することにより、0次光に対するm次光の光量比、すなわち光学ローパスフィルタ4のフィルタ効果の程度を調整することができる。
【0025】
図5において、横軸は音波パワーの相対値を表しており、音波パワーは印加電圧の電圧値に比例している。また、縦軸は光学ローパスフィルタ4を透過した光の振幅を表しており、印加電圧=0のときに出射される0次光の振幅を1として各次光の振幅を表したものである。なお、音波パワー相対値とは、所定のローパス効果が得られたときの音波パワーを1として相対値で表したものである。
【0026】
《MTF特性の説明》
光学ローパスフィルタ4の空間周波数特性を表すものの一つとしてMTF(Modulated Transfer Function)特性があるが、図6〜11は種々のMTF特性について例示したものである。上述したように、印加される高周波電圧に周波数および電圧値の少なくとも一方を種々の値に変化させることにより、様々なMTF特性を実現することができる。図6は、分離幅=5μm、音波パワー相対値=0.77であってローパス効果を弱めにした場合のMTF特性を示したものである。
【0027】
図7は、分離幅=5μm、音波パワー相対値=1.2の場合のMTF特性である。これは、従来の特性が固定されたローパスフィルタで光を同方向に2点分離した典型的なローパス効果特性と、同様の特性となっている。図8は、分離幅=3.3μm、音波パワー相対値=1.38の場合のMTF特性である。これは、従来の固定ローパスフィルタで光を同方向に4点分離した典型的なローパス効果特性と同様の特性であり、本実施の形態ではモアレ除去を優先するMTF特性となっている。
【0028】
図9は、音波パワー相対値を図8の場合と同じにして分離幅だけを1.5μmと小さくしたものであり、解像を優先するMTF特性となっている。図9の状態から、音波パワー相対値を1.38に維持したまま分離幅を2μm、3.5μmと大きくすると、図10および図11に示すようなMFT特性となり、解像優先の特性からモアレ除去優先の特性へと変化する。
【0029】
《ブラケティング撮影の説明》
次に、ブラケティング撮影動作について説明する。ブラケティング撮影を行う場合には、図2に示した撮影モード切替スイッチ23を操作してブラケティングモードに入る。ブラケティングモードになると、図12(a)に示すようにブラケティング撮影における撮影枚数を設定する画面が表示される。ユーザは十字型選択ボタン22の矢印キー22a,22cを操作して所望の数字を表示させ、さらに中央キー22eを押すことにより表示させた数字を撮影枚数として設定する。
【0030】
撮影枚数が設定されると、図12(b)に示すようにカメラにプリセットされている撮影パターンが表示モニタ10に表示される。なお、図12(b)では、パターン1、パターン2、パターン3のように表示されているが、例えば、「モアレ除去優先」のような各パターンの特徴が分かりやすいような名称を表示するようにしても良い。
【0031】
プリセットされている撮影パターンの例を説明する。パターン1には、なるべく高解像度であってモアレがある程度低減された画像を得たい場合に適した撮影パターンが設定されている。すなわち、印加電圧=0のローパス効果無しの状態から、図7に示すようにモアレをほぼ除去できる状態までの間で、音波パワーだけを変化させて特性を変化させたものである。
【0032】
例えば、1枚目はローパス効果無しで撮影し、2枚目は分離幅=5μm、音波パワー=0.54で撮影し、3枚目は分離幅=5μm、音波パワー=0.77で撮影し、4枚目は分離幅=5μm、音波パワー=0.91で撮影し、5枚目は分離幅=5μm、音波パワー=1.2で撮影する。この場合、分離幅を一定に保って、音波パワーを撮影毎に大きくなるように変化させる。3枚目のMTF特性は1枚目と5枚目の中間状態となるような特性に設定され、2枚目のMTF特性は1枚目と3枚目の中間状態となるような特性に設定され、4枚目のMTF特性は3枚目と5枚目の中間状態となるような特性に設定される。
【0033】
また、パターン2には、被写体のモアレを発生させる空間周波数が比較的高い位置にしかない場合に適した撮影パターンが設定されている。この場合、撮影毎に分離幅(つまりカットオフ周波数)を変化させるパターンになっている。すなわち、1枚目は印加電圧=0のローパス効果無しで撮影し、2枚目は分離幅=1.5μm、音波パワー=1.38で撮影し、3枚目は分離幅=2μm、音波パワー=1.38で撮影し、4枚目は分離幅=2.5μm、音波パワー=1.38で撮影し、5枚目は分離幅=3.5μm、音波パワー=1.38で撮影する。
【0034】
図1に示した記憶部12には、このような撮影パターンが複数種類プリセットされており、ユーザは十字型選択ボタン22を操作してその中の一つを選択する。なお、撮影パターン選択後に、ブラケティング撮影に用いられる5種類のMTF特性パターンを表示モニタ10に表示するようにしても良い。ユーザは、表示されたMTF特性パターンから、どのような撮影画像が得られるかを予め予測することができる。撮影後、ユーザはブラケティング撮影された5枚の画像を大型の表示装置に表示するなどして、最適な状態で撮影された画像を選択すれば良い。
【0035】
なお、本実施の形態では、100(本/mm)よりもやや大きめの空間周波数が、撮像素子6の画素ピッチよりも細かい映像信号となっていて、その空間周波数成分がモアレ発生の原因となる。上述した図6〜11のMTF特性は、そのような撮像素子6を前提として設定したものである。特に、図7や図11のMTF特性では、周波数=100付近でほぼ0近くまで小さくなっているので、モアレ除去効果が高い。
【0036】
ところで、図11のMTF特性では、周波数が180(本/mm)以上では光がカットオフされずに透過されてしまうが、一般的にカメラ用レンズのMTF特性は高周波数になるほど値が小さいので、この領域における画像信号はかなり小さく、実際の撮影においては問題とならない。そこで、撮影レンズ1のMTF特性に応じて、ブラケティング撮影時のMTF特性が自動的に設定されるようにしても良い。例えば、高周波数側におけるMTF特性の低下が小さなレンズの場合、モアレ発生に影響する周波数領域の画像信号成分が大きめとなるので、高周波側をより厳しくカットするようなMTF特性が設定されるようにする。
【0037】
《MTF特性の他の設定例》
(設定例1)
上述した実施の形態では、撮影パターンを選択すると、設定枚数に合わせて各撮影毎のMTF特性が自動的に設定されたが、設定例1では、撮影パターンを選択するのではなく、MTF特性を決めるパラメータすなわち分離幅および音波パワーをユーザが設定する。図12(a)の設定画面で枚数設定を行うと、図13に示すような設定画面が表示モニタ10に表示される。表示モニタ10にはパラメータ変更前の基準MTF特性100が表示され、基準MTF特性100の下側に表示されているスライドバー101,102を動か操作して、分離幅および音波パワーを変更する。
【0038】
例えば、基準MTF特性100として図7に示すMTF特性を表示し、十字型選択ボタン22を操作してスライドバー101を左側に移動すると分離幅が小さくなり、逆に右側に移動すると分離幅が大きくなる。また、スライドバー102を左側に移動すると音波パワーが小さくなり、逆に右側に移動すると音波パワーが大きくなる。スライドバー102を左端に移動して音波パワーを0とすると、印加電圧=0とされてローパス効果無しの状態となる。
【0039】
スライドバー101,102を所望の位置に移動して十字型選択ボタン22の中央キー22eを押すと、選択された状態がMTF特性の上限値として設定される。そして、ローパス効果無しの状態と設定されたMTF特性の状態との間に、撮影枚数に応じた段階のMTF特性が設定される。すなわち、撮影枚数が5枚であれば、ローパス効果無しの状態と設定されたMTF特性とを含む5段階のMTF特性が自動的に設定される。なお、ここではMTF特性の上限値のみをユーザ設定できるようにしたが、下限値および上限値をユーザ設定できるようにしても良い。その場合、下限値と上限値との間で撮影枚数に応じた段階設定が行われる。
【0040】
(設定例2)
上述した設定例1では、ローパス効果無しの状態と設定されたMTF特性との間、または、上限値と下限値との間を枚数に応じた段数でMTF特性を設定したが、設定例2では、所定のMTF特性を中心とした複数段数のMTF特性を設定するようにした。例えば、典型的な複数のMTF特性が予めプリセットされていて、ユーザはそれらの中から好みのMTF特性を選択する。そして、変化させるパラメータとして分離幅または音波パワーを選択し、さらに、その変化幅を設定する。設定された撮影枚数が5枚であれば、選択されたMTF特性を中心として、5段階のMTF特性が自動的に設定される。
【0041】
なお、ここでは中心となるMTF特性パターンを選択するようにしたが、ローパス効果無しの状態から設定された変化幅で5段階(撮影枚数が5枚の場合)のMTF特性を設定するようにしても良い。この場合、変化幅が設定されない他方のパラメータに関しては、ユーザにより所望の値に設定し、ブラケティング撮影時にはその値に固定される。
【0042】
(設定例3)
設定例3では、複数のMTF特性が予めプリセットされていて、ユーザは撮影枚数と同じ数だけ選択する。ブラケティング撮影では、選択されたMTF特性を用いて順に撮影が行われる。この場合、図13のような設定画面を表示させてプリセットされているMTF特性を修正し、その修正されたMTF特性をブラケティング撮影に用いるようにしても良い。
【0043】
なお、上述した実施形態では、光線を1方向に分離する場合を例に説明したが、本発明は、縦横の2方向に分離する場合にも同様に適用することができる。その場合、上述したようなMTF特性の設定を、縦横それぞれに対して独立に行うようにすればよい。また、図1に示す姿勢センサ11により検出されたカメラ姿勢に応じて、縦方向の設定と横方向の設定とを入れ替えるようにしても良い。
【0044】
例えば、人物撮影時に、横に構えていたカメラを縦に構え直した場合を考える。人物が横縞の衣服を着用していた場合、モアレが発生しないように撮像素子6の縦方向の画素ピッチ(横位置に構えた場合)に対してMTF特性を設定する。ところが、MTF特性を設定した後にカメラ位置を横から縦に変更した場合、撮像素子6の横方向の画素ピッチに対して再度設定をする必要がある。しかし、上述したように、姿勢センサ11の検出値に応じて縦方向の設定と横方向の設定とを入れ替えるように構成した場合、そのような再設定を必要とせず、直ちに撮影動作に入れる。
【0045】
上述した実施の形態では、光学ローパスフィルタ4に光弾性部材を用いた場合について説明したが、上述した特許文献1に記載されているような光学ローパスフィルタや、特開2005−229380号公報に記載されているような平行平板を揺動振動させる構成の光学ローパスフィルタにも同様に適用することができる。特許文献1の光学ローパスフィルタでは、印加する応力の大きさを変えて空間周波数特性を変更する。
【0046】
また、平行平板を揺動振動させる構成の光学ローパスフィルタの場合には、平行平板の入射面と光軸との角度を変化させるように揺動振動させるが、この場合、揺動振動の振幅を変えて空間周波数特性を変更する。なお、光学ローパスフィルタはソフトフォーカスフィルタとしても機能するものであり、ソフトフォーカスフィルタのブラケティング撮影にも同様に適用できる。
【0047】
上述したように、本実施の形態のカメラは、以下のような作用効果を奏する。
(1)空間周波数特性を変えることができる光学ローパスフィルタ4を備えたカメラにおいて、光学ローパスフィルタ4の空間周波数特性を変化させ、互いに異なる空間周波数特性で複数回撮影を行うブラケティング撮影を行うようにしたので、MTF特性に関する詳しい知識のない初心者でも、撮影者の意図に沿う画像を容易に得ることができる。
(2)また、ブラケティング撮影における空間周波数特性に関する条件を設定する入力操作部14を備え、その入力操作部14を操作することにより、撮影枚数を設定したり、空間周波数特性を指定したり、記憶部12に記憶された複数の空間周波数特性から任意の空間周波数特性を指定したりできるので、空間周波数特性の設定を容易に行うことができる。
(3)カメラに装着された撮影レンズのMTF特性に応じてブラケティング撮影における空間周波数特性を設定するようにしたので、例えばレンズ交換をした場合でも、交換後の撮影レンズに適した特性設定を簡単に行うことができる。
(4)カメラの姿勢を検知する姿勢センサ11を備えて、姿勢センサ11により検知されたカメラ姿勢に応じてブラケティング撮影における空間周波数特性を設定するようにしたので、カメラ姿勢を変えた際に設定の変更をする必要がない。
【0048】
上述した実施の形態では一眼レフ式のデジタルカメラの光学ローパスフィルタを例に説明したが、レンズ一体型のデジタルカメラにも同様に適用することができる。さらに、デジタルスチルカメラに限らず、ビデオカメラなどのように固体撮像素子を備えた撮像装置の光学ローパスフィルタにも適用できる。また、本発明の特徴を損なわない限り、本発明は上記実施の形態に何ら限定されるものではない。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】本発明によるカメラの一実施の形態を示すブロック図であり、一眼レフ式のデジタルスチルカメラの概略構成を示したものである。
【図2】カメラ本体の背面側を示す図である。
【図3】光学ローパスフィルタ4を撮影レンズ1側から見た平面図である。
【図4】分離幅を説明する図である。
【図5】回折光の光量比を説明する図である。
【図6】分離幅=5μm、音波パワー相対値=0.77の場合のMTF特性を示す図である。
【図7】分離幅=5μm、音波パワー相対値=1.2の場合のMTF特性を示す図である。
【図8】分離幅=3.3μm、音波パワー相対値=1.38の場合のMTF特性を示す図である。
【図9】分離幅=1.5μm、音波パワー相対値=1.38の場合のMTF特性を示す図である。
【図10】分離幅=2μm、音波パワー相対値=1.38の場合のMTF特性を示す図である。
【図11】分離幅=3.5μm、音波パワー相対値=1.38の場合のMTF特性を示す図である。
【図12】ブラケティング撮影動作を説明する図であり、(a)は撮影枚数の設定画面を、(b)は撮影パターンの選択画面をそれぞれ示す。
【図13】変形例1の場合の設定画面を示す図である。
【符号の説明】
【0050】
1:撮影レンズ 3:クイックリターンミラー 4:光学ローパスフィルタ
6:撮像素子 7:ファインダー光学系 8:駆動回路
10:表示モニタ 11:姿勢センサ 12:記憶部
13:制御演算部 14:入力操作部 22:十字型選択ボタン
23:モード切替スイッチ 41:光弾性部材 42:圧電体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
空間周波数特性を変えることができる光学ローパスフィルタを備えたカメラにおいて、
前記光学ローパスフィルタの空間周波数特性を変化させ、互いに異なる空間周波数特性で複数回撮影を行うブラケティング撮影手段を備えたことを特徴とするカメラ。
【請求項2】
請求項1に記載のカメラにおいて、
前記ブラケティング撮影手段は、異なるカットオフ周波数で複数回撮影を行うことを特徴とするカメラ。
【請求項3】
請求項1に記載のカメラにおいて、
前記ブラケティング撮影手段は、空間周波数成分に関して異なる低減量で複数回撮影を行うことを特徴とするカメラ。
【請求項4】
請求項1に記載のカメラにおいて、
前記光学ローパスフィルタは、光路中に配設された光弾性部材と、電圧が印加され前記光弾性部材に疎密波を発生させる圧電変換素子とを備え、
前記電圧の周波数および電圧値の少なくとも一方を変えて前記空間周波数特性を変化させることを特徴とするカメラ。
【請求項5】
請求項1に記載のカメラにおいて、
前記光学ローパスフィルタは、光路中に配設された光弾性部材と、前記光弾性部材に応力を付加する応力付加手段とを備え、
前記光弾性部材に付加される応力を変えて前記空間周波数特性を変化させることを特徴とするカメラ。
【請求項6】
請求項1に記載のカメラにおいて、
前記光学ローパスフィルタは、光路中に配設された透明平行平板と、前記透明平行平板の入射面と光軸との角度が変化するように前記透明平行平板を揺動振動させる駆動手段とを備え、
前記揺動振動の振幅を変えて前記空間周波数特性を変化させることを特徴とするカメラ。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載のカメラにおいて、
ブラケティング撮影における前記空間周波数特性に関する条件を設定する設定手段をさらに備え、
前記ブラケティング撮影手段は、前記設定手段により設定された条件に基づいてブラケティング撮影を行うことを特徴とするカメラ。
【請求項8】
請求項7に記載のカメラにおいて、
前記設定手段は、前記空間周波数特性を指定するための指定操作部を備えたことを特徴とするカメラ。
【請求項9】
請求項8に記載のカメラにおいて、
前記光学ローパスフィルタの空間周波数特性を予め複数記憶する記憶部を備え、
前記指定操作部は、前記記憶部に記憶された複数の空間周波数特性から任意の空間周波数特性を指定することを特徴とするカメラ。
【請求項10】
請求項7に記載のカメラにおいて、
前記設定手段は、カメラに装着された撮影レンズのMTF(Modulated Transfer Function)特性に応じて前記ブラケティング撮影における空間周波数特性を設定することを特徴とするカメラ。
【請求項11】
請求項7に記載のカメラにおいて、
カメラの姿勢を検知する姿勢検知手段をさらに備え、
前記設定手段は、前記姿勢検知手段により検知されたカメラ姿勢に応じて前記ブラケティング撮影における空間周波数特性を設定することを特徴とするカメラ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2007−258909(P2007−258909A)
【公開日】平成19年10月4日(2007.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−78851(P2006−78851)
【出願日】平成18年3月22日(2006.3.22)
【出願人】(000004112)株式会社ニコン (12,601)
【Fターム(参考)】