説明

カルバペネム合成中間体の結晶

(課題)工業的製法に有利なカルバペネム合成中間体の結晶を提供すること。
(解決手段)式:


で示される化合物(I)の溶媒和物またはその結晶。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、β−ラクタム系抗生物質を製造するために有用な中間体であるカルバペネム誘導体の溶媒和物、結晶およびその製造方法に関する。
【背景技術】
広範囲の抗菌スペクトルを有するピロリジルチオカルバペネム誘導体(後記化合物II)は、有用な抗生物質として知られている(例えば、特許文献1参照)。本発明の化合物(I)はその合成中間体であり、特許文献1に記載されているが、特定の結晶形態は単離されていない。特に工業的製法においては、各工程で生成する化合物の純度が高く、また取扱い易い結晶状で単離、精製されるのが好ましい。しかし、化合物(I)の結晶はこれまで単離されていない。また、高品質である結晶状態の化合物(I)を脱保護して高純度の化合物(II)を製造する方法も報告されていない。なお化合物(II)の結晶およびその製造方法は公知である(例えば、特許文献2参照)。
【特許文献1】特開平05−294970号公報
【特許文献2】国際公開第95/29913号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、上記課題を解決するものであり、その目的は、保存安定性や取り扱い性等に優れた化合物(I)もしくはその溶媒和物またはそれらの結晶およびその製造法、ならびに該溶媒和物または結晶を用いた化合物(II)の製法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
本発明者は、上記実情に鑑み鋭意研究を重ねた結果、可溶性溶媒(例えば、酢酸エチル)と不溶性溶媒(例えば、2−プロパノール等のアルコール)との各種組合わせによる溶媒和化および結晶化を検討し、以下に示す本発明を完成した。
1.式:

で示される化合物(I)の溶媒和物またはその結晶。
2.上記1記載の化合物(I)のアルコール和物またはその結晶。
3.上記1記載の化合物(I)の2−プロパノール和物またはその結晶。
4.2−プロパノールの含量が、化合物(I)に対して0.1〜2モル当量である、上記3記載の結晶。
5.2−プロパノールの含量が、化合物(I)に対して0.5モル当量である、上記3記載の結晶。
6.粉末X線回折パターンにおいて、主なピークが面間隔d=12.80,11.21,4.75,4.58,4.28オングストロームに存在する、上記1〜5のいずれかに記載の結晶。
7.上記1記載の化合物(I)の2−ペンタノール和物またはその結晶。
8.粉末X線回折パターンにおいて、主なピークが面間隔d=14.77,10.25,5.36,5.03,4.66,4.42,4.25,4.14,4.05,3.97,3.62オングストロームに存在する、上記7に記載の結晶。
9.上記1記載の化合物(I)の1−ペンタノール和物またはその結晶。
10.粉末X線回折パターンにおいて、主なピークが面間隔d=12.13,5.66,4.98,4.83,4.56,4.43,4.21,4.14,3.76オングストロームに存在する、上記9に記載の結晶。
11.上記1記載の化合物(I)のt−アミルアルコール和物またはその結晶。
12.粉末X線回折パターンにおいて、主なピークが面間隔d=14.72,10.25,5.36,5.04,4.79,4.66,4.43,4.25,4.06オングストロームに存在する、上記11に記載の結晶。
13.上記1記載の化合物(I)の1−プロパノール和物またはその結晶。
14.粉末X線回折パターンにおいて、主なピークが面間隔d=12.91,4.78,4.58オングストロームに存在する、上記13に記載の結晶。
15.化合物(I)またはその溶媒和物を可溶性溶媒に溶解した後、不溶性溶媒を添加することを特徴とする、上記1〜14のいずれかに記載の化合物の製造方法。
16.化合物(I)またはその溶媒和物を酢酸エチルに溶解した後、アルコールを添加することを特徴とする、上記15記載の製造方法。
17.上記1〜14のいずれかに記載の化合物(I)の溶媒和物またはその結晶を脱保護する工程を包含する、式:

で示される化合物(II)、その溶媒和物またはそれらの結晶の製造方法。
18.上記15または16に記載の製造方法により、化合物(I)またはその溶媒和物の結晶を得た後、これを脱保護する、上記17記載の製造方法。
19.化合物(II)の1水和物結晶の製造方法である、上記17または18に記載の製造方法。
【図面の簡単な説明】
(図1)実施例2により得られた2−プロパノール和物の結晶の粉末X線測定結果である。
(図2)実施例7により得られた2−ペンタノール和物の結晶の粉末X線測定結果である。
(図3)実施例8により得られた1−ペンタノール和物の結晶の粉末X線測定結果である。
(図4)実施例9により得られたt−アミルアルコール和物の結晶の粉末X線測定結果である。
(図5)実施例10により得られた1−プロパノール和物の結晶の粉末X線測定結果である。
【発明を実施するための最良の形態】
(1)化合物(I)の溶媒和物またはその結晶
本発明で提供される化合物(I)の溶媒和物は、好ましくはアルコール和物である。アルコールとしては、好ましくはC1〜C10アルコール、より好ましくはC3〜C5アルコール、特に好ましくは2−プロパノール、2−ペンタノール、1−ペンタノール、t−アミルアルコール、1−プロパノールなどが例示される。これらは好ましくは結晶であり、より好ましくは粉末X線回折において、下記表1〜5(それぞれ図1〜5に対応)のパターンを示す。好ましくは、2−プロパノール和物結晶は表1、2−ペンタノール和物結晶は表2、1−ペンタノール和物結晶は表3、t−アミルアルコール和物結晶は表4、1−プロパノール和物結晶は表5に示される粉末X線回折パターンを示す。また各溶媒の含有率は、化合物(I)に対して好ましくは0.1〜1モル当量であり、より好ましくは、2−プロパノールが0.5モル当量、2−ペンタノールが0.25モル当量、1−ペンタノールが0.7モル当量、t−アミルアルコールが0.25モル当量、1−プロパノールが0.6モル当量である。結晶性等の取り扱い性の点からは好ましい結晶は、2−ペンタノール和物結晶やt−アミルアルコール和物結晶である。





(X線回折測定条件:管球CuKα線、管電圧40Kv、管電流30mA、dsinθ=nλ(nは整数、θは回折角))
上記面間隔d値は、X線ピークのうち、相対強度の強い主なピークを選択したものであり、結晶構造は必ずしもこれらの値だけによって限定されるものではない。即ち、これら以外のピークが含まれていてもよい。また一般に結晶をX線解析により測定した場合、そのピークは、測定機器、測定条件、付着溶媒の存在等により、多少の測定誤差を生じることもある。例えば、面間隔dの値として±0.2程度の測定誤差が生じる場合があり、非常に精密な設備を使用した場合でも、±0.01〜±0.1程度の測定誤差が生じる場合がある。よって、結晶構造の同定に当たっては多少の誤差も考慮されるべきであり、実質的に上記と同様のX線パターンによって特徴付けられる結晶はすべて本発明の範囲内である。
本発明に係る結晶の製造法を以下に詳しく説明する。
化合物(I)自体は公知化合物であり、例えば以下の通りエノールフォスフェート(III)と2−側鎖チオール(IV)との反応によって製造することができる。

(ここで、Phはフェニル;Bocはt−ブトキシカルボニルである)
例えば、化合物(III)をメチレンクロリド、アセトニトリル、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキサイド等の溶媒中で、適時ジイソプロピルエチルアミン、トリエチルアミン、4−ジメチルアミノピリジン等の塩基の存在下に、化合物(IV)と反応させることにより化合物(I)を製造することができる。反応は、約−20〜40℃の温度で約1〜50時間処理することにより行なわれる。反応終了後、反応液を処理した後、濃縮する。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィーなどにより精製し、粉末として得られる。 また、化合物(I)は、化合物(V)から得たN−Boc化合物(VI)の脱保護反応によっても製造することができる。化合物(I)の6位側鎖上のヒドロキシ基はアルキルシリル等で保護されていてもよい。
化合物(I)の溶媒和物化または結晶化は、好ましくは精製または未精製の化合物(I)を溶媒、好ましくは可溶性溶媒に溶解し、適時、不溶性溶媒を加えることにより行われる。
可溶性溶媒としては、メタノール、エタノール、エチレングリコール、メトキシエタノール、グリセリン、プロピレングリコールなどのアルコール類、ジオキサン、テトラヒドロフラン、ジメトキシエタンなどのエーテル類、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなどのケトン類、メチルフォルメート、エチルフォルメート、プロピルフォルメート、メチルアセテート、酢酸エチル、プロピルアセテート、ブチルアセテート、メチルプロピオネート、エチルプロピオネートなどのエステル類、ジクロロメタン、クロロホルム、四塩化炭素、1,2−ジクロロエタン、トリクロロエタン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼンなどの有機ハロゲン化炭化水素類、アセトニトリル、プロピオニトリルなどのニトリル類、ジメチルフォルムアミド、ジメチルスルホキサイド、N−メチルピロリドン、キノリン、ピリジン類、トリエチルアミンなどを用いることができる。これらの溶媒は単独で使用しても、2種以上を混合して使用してもよい。また水を混合しても使用できる。中でもエステル類、ケトン類、ハロゲン化炭化水素類が好ましく、特にエステル類(例、酢酸エチル)が好ましい。
不溶性溶媒としては、2−プロパノール、2−ペンタノール、1−ペンタノール、t−アミルアルコール、1−プロパノール、n−プロパノール、t−ブタノール、イソブタノール、n−ブタノール、シクロヘキサノールなどのアルコール類、ジエチルエーテル、イソプロピルエーテル、ジブチルエーテル、エチルイソアミルエーテル、エチルフェニルエーテルなどのエーテル類、n−ペンタン、n−ヘキサン、n−ヘプタン、n−オクタン、n−デカン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、トルエン、ベンゼン、エチルベンゼン、クメン、シメン、キシレンなどの炭化水素類などを用いることができる。これらの溶媒は単独で使用しても、2種以上を混合して使用してもよい。中でもエーテル類、アルコール類が好ましく、特にアルコール類(例、2−プロパノール、2−ペンタノール、1−ペンタノール、t−アミルアルコール、1−プロパノール)が好ましい。
可溶性溶媒と不溶性溶媒との使用割合は、重量比で通常1:0〜1:1000、好ましくは1:0.1〜1:100、特に好ましくは1:1〜1:50であるかまたは、通常0:1〜1000:1、好ましくは0.1:1〜100:1、特に好ましくは1:1〜50:1である。好ましくは、酢酸エチルとアルコールを1:1〜15の比率で用いる。通常、化合物(I)またはその溶媒和物1重量部に対し、好ましくは、可溶性溶媒と不溶性溶媒の使用量は、溶媒の総量が通常0.1〜1000重量部であり、好ましくは1〜100重量部であり、特に好ましくは1〜50重量部である。また別の態様としては、可溶性溶媒と不溶性溶媒との混合溶媒を用いてもよい。
上記結晶化において、好ましくは、化合物(I)またはその溶媒和物を溶解するには、例えば、加熱処理、超音波処理や攪拌等が有効である。上記溶液に不溶性溶媒を1度に加えても、溶液が濁る寸前まで加えても、濁るまで加えても何れでも良い。好ましくは、溶液が濁る寸前まで不溶性溶媒の適量を加える。通常、不溶性溶媒を加え、放置すれば結晶が析出するが、不溶性溶媒を加えると同時に、結晶が析出してくる場合もある、また溶液を冷却すると結晶が析出してくる場合もある。析出しない場合には、例えば、室温ないし冷却下、超音波処理や攪拌等の刺激を与える、種結晶を加える等により結晶を析出させてもよい。結晶化に適切な温度は、約−10〜40℃であり、好ましくは0〜30℃である。
このようにして得られる化合物(I)またはその溶媒和物の結晶は、次いで、通常の分離手段(例えば、濾過、遠心分離等)により溶媒から分離し、通常の精製手段(例えば、可溶性溶媒、不溶性溶媒、可溶性溶媒−不溶性溶媒の混合溶媒による洗浄等)に付すことにより単離することができる。好ましくは、アルコールによる洗浄である。このようにして得られる化合物(I)またはその溶媒和物の結晶は、高純度であるため、上記結晶化方法は、化合物(I)またはその溶媒和物の結晶の精製に用いることができる。
化合物(I)またはその溶媒和物の結晶は、結晶化方法、乾燥の程度により、残存溶媒の含有量を変えることができる。溶媒和物中の残存溶媒含有量は化合物(I)に対し通常0ないし5モル当量であり、好ましくは0.1ないし1モル当量である。溶媒和物として上記の可溶性溶媒、不溶性溶媒の何れも含有しうるが、好ましくはエーテル類、エステル類、アルコール類、ニトリル類等であり、特に好ましくはアルコール類である。
(2)化合物(I)、その溶媒和物またはそれらの結晶を脱保護する工程
化合物(II)は、特開平05−294970号公報に開示された化合物であるが、好ましくはアミノ基が保護されていてもよい化合物(I)、その溶媒和物またはそれらの結晶、好ましくは化合物(I)のアルコール和物の結晶を脱保護反応に付すことによって得られる。該脱保護反応は、好ましくは90%近い収率で進行する。
脱保護反応(例えば、脱アリール化)は、当事者に周知の方法に従って行われる。本反応は、ニッケル触媒、コバルト触媒、鉄触媒、銅触媒、白金触媒およびパラジウム触媒等の貴金属系触媒等が用いられる。好ましくは、パラジウム触媒およびニッケル触媒等が用いられ、より好ましくは、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム、酢酸(トリフェニルホスフィン)パラジウムおよび酢酸(トリエチルホスファイト)パラジウム等である。パラジウムを加えた混合溶液に添加物(好ましくはトリフェニルホスフィン等)を加えても良い。さらに好ましくは、パラジウム触媒に保護基を還元除去する還元剤や求核試薬が添加される。還元剤として、水素、金属水素化物等であり、好ましくは水素化トリ−n−ブチルスズ等である。求核試薬として好ましくはカルボキシレート(例えば、ナトリウム2−エチルヘキサノエート等)、1,3−ジカルボニル化合物(例えば、メルドラム酸、ジメドンおよびマロン酸エステル等)および2級アミン(例えば、ジエチルアミン等)等、より好ましくは1,3−ジカルボニル化合物(例えば、メルドラム酸)である。
脱保護反応に用いられる溶媒は、通常の反応に使用される溶媒なら何でも良い。好ましくは、アセトン、アセトニトリル、酢酸エチル、ジクロロメタン、テトラハイドロフラン、メタノール、エタノール及び水等、特に好ましくはアセトニトリルである。これらの溶媒は単独で使用しても、2種以上を混合して使用してもよい。
化合物(I)または溶媒和物の結晶および求核試薬を溶媒に加え、反応系(例えば、反応混液および容器)を窒素で満たす。本反応は、大気中でおこなわれても良いが、好ましくは窒素気流下で行う。
反応温度は約−20〜50℃であり、好ましくは0〜30℃の範囲である。
反応時間は通常数分から数十時間であり、好ましくは1〜3時間の範囲である。
本製法においては、上記(1)で得られた高純度の化合物(I)またはその溶媒和物の結晶を用いた結果、脱保護反応後の水と有機溶媒、好ましくはジクロロメタンを用いた不純物抽出操作において、目的化合物(II)を高濃度に溶解させた水溶液の調製が可能となった。その結果、従来、後処理工程において不可欠であった濃縮やカラムクロマトグラフィー処理等が必須操作でなくなり、目的のピロリジルチオカルバペネム誘導体(II)、その溶媒和物またはそれらの結晶を容易に単離することが可能となった。よって工業的製法としても有用である。この単離操作においては、好ましくは目的物の種晶が使用される。
化合物(II)またはその溶媒和物の結晶は、好ましくは水和物結晶であり、より好ましくは、特許第2843444号公報に記載のI型結晶もしくはII型結晶、またはWO01/72750号に記載のIII型(2水和物)もしくはIV型(1水和物)の結晶である。III型とIV型とを比較すると、IV型結晶の方がIII型結晶よりもさらに安定性が高いので好適である。化合物(II)の各結晶の結晶化方法は、各文献に記載の通りであるが、詳しくは以下の通りである。
III型結晶は、化合物をアルコール、アセトン、アセトニトリル、テトラハイドロフラン等の有機溶媒、水、あるいはその混合溶液から結晶化する。特に好ましくは、水を用いる。アルコールとしては、メタノール、エタノール、イソプロパノール等があげられる。有機溶媒と水との混合溶媒を用いる場合には、その混合割合は、水/有機溶媒が約1:0.5〜1:100(量/量)であることが好ましい。
通常化合物(II)またはその溶媒和物1重量部に対し、溶解溶媒の使用量は、溶媒の総量が0.1〜100重量部であり、好ましくは1〜50重量部であり、特に好ましくは5〜40重量部である。
結晶を溶液中から析出させるためには、冷却、攪拌等の任意の晶析操作を行い得る。好ましくは約0〜10℃に冷却しながら、溶液を攪拌することにより、該化合物の結晶が得られる。
溶液中から分離された結晶は、必要に応じて乾燥される。乾燥方法としては、従来公知の乾燥方法が採用される。例えば、アスピレーター等による減圧下における乾燥方法が可能である。乾燥条件としては、例えば約10〜50℃の温度が好ましく、より好ましくは、15〜40℃であり、さらに好ましくは室温である。また圧力は、例えば約0〜300mmHgが好ましく、より好ましくは、0〜100mmHgであり、さらに好ましくは0〜50mmHgであり、特に好ましくは10〜40mmHgである。乾燥時間は、例えば、約1分間〜1時間が好ましく、より好ましくは、2〜30分間であり、さらに好ましくは5〜20分間である。
IV型結晶は、好ましくは、上記III型結晶を乾燥することにより容易に得ることができる。乾燥方法としては、好ましくは、加熱下かつ減圧下で乾燥される。例えば、約20〜100℃の温度が好ましく、より好ましくは、30〜70℃であり、特に好ましくは、40〜60℃である。また圧力は、例えば、0〜100mmHg、好ましくは、0〜30mmHgであり、より好ましくは、0〜20mmHgであり、特に好ましくは、0〜10mmHgである。
乾燥時間は、例えば、約1〜20時間が好ましく、より好ましくは、2〜15時間であり、特に好ましくは5〜10時間である。
好ましくは、IV型結晶は、2水和のIII型結晶を乾燥することにより、1水和物として単離される。
このようにして本発明によれば、保存安定性にすぐれ、抗菌剤として工業的に利用価値の高い、化合物(II)またはその溶媒和物の結晶が得られる。
以下に実施例を記載し、本発明をさらに詳細に説明するが、これらは本発明の限定を意図するものではない。
参考例1
エノールフォスフェート(III;16.20g,30.10mmole)と2−側鎖チオール(IV;8.44g,28.57mmole)をジメチルフォルムアミド(48.6ml)に溶解させ、氷冷下ジイソプロピルエチルアミン(6.29ml)を加え5℃にて16時間放置した。水(250ml)にあけ酢酸エチル(250ml,100ml)で抽出した。酢酸エチル層は更に4回水洗(200ml)した。酢酸エチル層は合併し溶媒を濃縮、残渣(17.10g)を得た。シリカゲルクロマト(174g,n−ヘキサン:酢酸エチルより溶出)にて精製し非晶質の化合物(I;8.47g,54%)を得た。
IR(CHCl):1772,1691,1410cm−1
H NMR(CDCl);δ1.26(d,J=7Hz,3H),1.35(d,J=6Hz,3H),1.70−2.70(m,3H),3.10−3.50(m,5H),3.50−3.80(m,1H),3.90−4.40(m,4H),4.50−4.90(m,4H),5.00−5.50(m,5H),5.80−6.10(m,2H)
参考例2
エノールフォスフェート(III;14.25g,26.47mmole)と2−側鎖チオール(V;11g,26.47mmole)をジメチルフォルムアミド(42ml)に溶解させ、氷冷下ジイソプロピルエチルアミン(5.47ml,1.2eq.)を加え、5℃にて16時間放置した。希塩酸(210ml)にあけ酢酸エチル(120ml×2)で抽出した。酢酸エチル層は更に2回水洗(200ml)した。酢酸エチル層は合併し溶媒を濃縮、残渣(20g)を得た。
シリカゲルクロマト(200g,n−ヘキサン:酢酸エチルより溶出)にて精製し非晶質の化合物(VI;8.82g,52%)を得た。
H NMR(CDCl);δ1.27(d,J=6.9Hz,3H),1.36(d,J=6.3Hz,3H),1.48(s,9H),2.55−2.70(m,1H),3.20−3.40(m,3H),3.60−3.70(m,2H),4.00−4.30(m,6H),4.50−4.70(m,4H),4.70−4.90(m,2H),5.25−5.55(m,4H),5.80−6.00(m,3H)
【実施例1】
可溶性溶媒と不溶性溶媒とを用いた化合物(I)およびその溶媒和物の結晶化の実施結果を表Aに示す。

非晶質の粉末状の化合物(I)(100mg)を可溶性溶媒に溶解し、不溶性溶媒を濁る寸前まで加え、5−25℃にて数時間〜数週間攪拌した。
(結果) −:結晶は未析出 +:結晶は析出
不溶性溶媒として2−プロパノール、可溶性溶媒として酢酸エチル(No.12,13)、ジクロロメタン(No.14)、クロロホルム(No.15)、アセトン(No.16)、酢酸メチル(No.17)、2−ブタノン(No.18)、または酢酸イソプロピル(No.19)等を使用した場合に、化合物(I)結晶の析出が観察された。特に可溶性溶媒として、酢酸エチルを使用した場合、最も晶析性が良かった。
【実施例2】
非晶質の粉末状の化合物(I)200mgを酢酸エチル(1ml)に溶解させ、減圧下350mgまで濃縮した。残渣に2−プロパノール(4ml)を加え、室温にて16時間放置した。析出結晶を濾過、2−プロパノールで洗浄した。風乾し、化合物(I)の0.5モル当量2−プロパノール和物結晶195mgを得た。
熱示差分析図:157.4℃から分解開始。
IR(Nujol):3529,3430,3365,3218,3068,1740,1712,1649,1559,1456cm−1
[α]24℃+33.5±0.7°(MeOH,C=1.004%)
λmaxMeOH 317.00nm(ε11,900)
H NMR(CDCl);δ1.21(d,J=6Hz,3H),1.26(d,J=6Hz,3H),1.35(d,J=6Hz,3H),1.90(br,0.5H),2.30−2.40(m,1H),2.50−2.70(m,2H),3.20−3.40(m,5H),3.60−3.70(m,1H),4.00−4.30(m,4H),4.59(d,J=3Hz,2H),4.60−4.90(m,2H),5.00(S,2H),5.20−5.50(m,4H),5.80−5.90(m,1H),5.90−6.10(m,2H)
2−プロパノールとして帰属されるシグナルは1.21(d,J=6Hz,3H),1.90(br,0.5H)であり、NMRスペクトルデータより、0.5モル当量の2−プロパノールが含まれることが確認される。 得られた結晶の粉末X線測定結果を、前記表1と図1に示す。
【実施例3】
非晶質の粉末状の化合物(I;1.70g)を酢酸エチル(0.9ml)に溶解させ、2−プロパノール(17ml)を加え室温にて2時間攪拌した。析出結晶を濾過、2−プロパノールで洗浄した。風乾し、化合物(I)の0.5モル当量2−プロパノール和物結晶を1.5g(88%)得た。
【実施例4】
化合物(I)の0.5モル当量2−プロパノール和物結晶(0.5g,0.92mmole)をアセトニトリル(7.5ml)溶液とし、次いでメルドラム酸(529.8mg,3.68mmole)を加えた。減圧脱気・窒素置換を3回繰り返し、反応容器内を十分窒素置換した後、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(318.6mg,0.28mM)を投入し、室温下1.5時間攪拌した。反応析出物を濾過、アセトニトリル−酢酸エチルの混液で洗浄し析出物(610mg)を得た。この析出物に水(25ml)を加え、50℃で加温、次いで室温で超音披振盪後、不溶物を濾取、水洗した。得られた濾液を濃縮し、クロマト精製した後、メタノール−酢酸エチルの混液から化合物(II)を340.2mg(88.0%)得た。
H NMR(DO);δ1.22(d,J=7.2Hz,3H),1.27(d,J=6.3Hz,3H),1.64−1.82(m,1H),2.62−2.80(m,1H),3.25−3.59(m,5H),3.63−3.76(m,1H),3.84−4.10(m,2H),4.16−4.29(m,2H)
【実施例5】
イオン交換水(360ml)に粗化合物(II)(20.0g)を加えて約50〜55℃に加温溶解し、50℃以上を維持しながらこの溶液を活性炭素(600mg)でプレコートした濾過器に通して濾過した。濾過液を15〜20℃に冷却した後、WO01/72750号記載のIII型結晶の種結晶(20mg)を投入し、約120分攪拌して結晶を析出させ、さらに0〜5℃に冷却して2時間熟成した。これに2−プロピルアルコール(200ml)を約1時間かけて流入した後、0〜5℃で2時間、さらに同じ温度で1晩晶析熟成した後、結晶を濾取した。得られた結晶を、80%2−プロピルアルコール水(40ml)で洗浄した後、水道水を用いたアスピレーターにより、約10分間室温で減圧(20〜30mmHg)乾燥して、化合物(II)のIII型結晶(18.1g、回収率90.5%)を得た。
元素分析:C1524・2HOについて
理論値:C39.46、H6.18、N12.27、S14.05
実測値:C39.53、H6.14、N12.40、S14.06
含水率
理論値(2水和物):7.89%
カールフィッシャー水分計(KF)測定値:7.74%
融点:173℃(分解)
【実施例6】
上記実施例5で得られたIII型結晶(5.0g)を、ガラス製シャーレに広げ、50℃、減圧(0〜5mmHg)下で約7時間乾燥して、WO01/72750号記載の化合物(II)のIV型結晶(4.8g、収率96.0%)を得た。
元素分析:C1524・HOについて
理論値:C41.08、H5.98、N12.78、S14.62
実測値:C41.01、H5.92、N12.83、S14.56
含水率
理論値(1水和物):4.11%
カールフィッシャー水分計(KF)測定値:4.28%
融点:173℃(分解)
【実施例7】
非晶質の粉末状の化合物(I)(100mg)を酢酸エチル(0.1ml)に溶解さし、2−ペンタノール(0.3ml)を加え、室温にて3時間攪拌後、5℃で16時間放置した。析出した結晶を濾別し2−ペンタノールで洗浄、減圧乾燥して2−ペンタノール(0.25mol)を含む結晶(50mg)を得た。融点 103.1℃,
元素分析:
Anal.Calcd for C2231・0.25C12O・2.5HO,C:45.73,H:6.43,N:9.17,S:10.50,
Found C:45.46,H:6.00,N:9.13,S:10.29.
粉末X線パターンを前記表2と図2に示す。
【実施例8】
非晶質の粉末状の化合物(I)(100mg)を酢酸エチル(0.1ml)に溶解さし、1−ペンタノール(0.3ml)を加え、室温にて3時間攪拌後、5℃で16時間攪拌した。析出した結晶を濾別し1−ペンタノールで洗浄、減圧乾燥して1−ペンタノール(0.7mol)を含む結晶(50mg)を得た。融点 101.5℃
元素分析:
Anal.Calcd for C2231・0.7C12O・1.5HO,C:48.43,H:6.75,N:8.86,S:10.14,
Found C:48.15,H:6.26,N:8.89,S:10.15.
粉末X線パターンを前記表3と図3に示す。
【実施例9】
非晶質の粉末状の化合物(I)(100mg)を酢酸エチル(0.1ml)に溶解さし、tert−アミルアルコール(0.3ml)を加え、室温にて3時間攪拌後、5℃で16時間放置した。析出した結晶を濾別しtert−アミルアルコールで洗浄、減圧乾燥してtert−アミルアルコール(0.25mol)を含む結晶(74mg)を得た。融点 102.1℃
元素分析:
Anal.Calcd for C2231・0.25C12O・2HO,C:46.41,H:6.37,N:9.31,S:10.66,
Found C:46.31,H:6.87,N:9.17,S:10.41.
粉末X線パターンを前記表4と図4に示す。
【実施例10】
非晶質の粉末状の化合物(100mg)を酢酸エチル(0.1ml)に溶解さし、1−プロパノール(0.3ml)を加え、室温にて3時間攪拌後、5℃で16時間攪拌した。析出した結晶を濾別し1−1−プロパノールで洗浄、減圧乾燥して1−1−プロパノール(0.6mol)を含む結晶(60mg)を得た。
元素分析:
Anal.Calcd for C2231・0.6CO・1.5HO,C:47.11,H:6.45,N:9.23,S:10.57,
Found C:47.24,H:6.15,N:8.93,S:10.31.
粉末X線パターンを前記表5と図5に示す。
【産業上の利用可能性】
本発明によれば、保存安定性および溶解性にすぐれ、工業的に利用価値の高い、カルバペネム合成中間体の溶媒和物または結晶が得られる。またこれらを脱保護することによりカルバペネム系抗生物質が効率よく得られる。
【図1】

【図2】

【図3】

【図4】

【図5】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
式:

で示される化合物(I)の溶媒和物またはその結晶。
【請求項2】
請求項1記載の化合物(I)のアルコール和物またはその結晶
【請求項3】
請求項1記載の化合物(I)の2−プロパノール和物またはその結晶。
【請求項4】
2−プロパノールの含量が、化合物(I)に対して0.1〜2モル当量である、請求項3記載の結晶。
【請求項5】
2−プロパノールの含量が、化合物(I)に対して0.5モル当量である、請求項3記載の結晶。
【請求項6】
粉末X線回折パターンにおいて、主なピークが面間隔d=12.80,11.21,4.75,4.58,4.28オングストロームに存在する、請求項1〜5のいずれかに記載の結晶。
【請求項7】
請求項1記載の化合物(I)の2−ペンタノール和物またはその結晶。
【請求項8】
粉末X線回折パターンにおいて、主なピークが面間隔d=14.77,10.25,5.36,5.03,4.66,4.42,4.25,4.14,4.05,3.97,3.62オングストロームに存在する、請求項7記載の結晶。
【請求項9】
請求項1記載の化合物(I)の1−ペンタノール和物またはその結晶。
【請求項10】
粉末X線回折パターンにおいて、主なピークが面間隔d=12.13,5.66,4.98,4.83,4.56,4.43,4.21,4.14,3.76オングストロームに存在する、請求項9記載の結晶。
【請求項11】
請求項1記載の化合物(I)のt−アミルアルコール和物またはその結晶。
【請求項12】
粉末X線回折パターンにおいて、主なピークが面間隔d=14.72,10.25,5.36,5.04,4.79,4.66,4.43,4.25,4.06オングストロームに存在する、請求項11に記載の結晶。
【請求項13】
請求項1記載の化合物(I)の1−プロパノール和物またはその結晶。
【請求項14】
粉末X線回折パターンにおいて、主なピークが面間隔d=12.91,4.78,4.58オングストロームに存在する、請求項13に記載の結晶。
【請求項15】
化合物(I)またはその溶媒和物を可溶性溶媒に溶解した後、不溶性溶媒を添加することを特徴とする、請求項1〜14のいずれかに記載の化合物の製造方法。
【請求項16】
化合物(I)またはその溶媒和物を酢酸エチルに溶解した後、アルコールを添加することを特徴とする、請求項15記載の製造方法。
【請求項17】
請求項1〜14のいずれかに記載の化合物(I)の溶媒和物またはその結晶を脱保護する工程を包含する、式:

で示される化合物(II)、その溶媒和物またはそれらの結晶の製造方法。
【請求項18】
請求項15または16に記載の製造方法により、化合物(I)またはその溶媒和物の結晶を得た後、これを脱保護する、請求項17記載の製造方法。
【請求項19】
化合物(II)の1水和物結晶の製造方法である、請求項17または18に記載の製造方法。

【国際公開番号】WO2004/072073
【国際公開日】平成16年8月26日(2004.8.26)
【発行日】平成18年6月1日(2006.6.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−504981(P2005−504981)
【国際出願番号】PCT/JP2004/001477
【国際出願日】平成16年2月12日(2004.2.12)
【出願人】(000001926)塩野義製薬株式会社 (229)
【Fターム(参考)】