説明

カルボキシル化セルロースエステルの水性分散液及びそれらの製造方法

有機溶剤含量の低いカルボキシル化セルロースエステルの水性分散液を開示する。これらの分散液は、揮発性親水性有機溶剤及び比較的揮発性の低いカップリング有機溶剤を用いて製造できる。揮発性親水性溶剤は製造の間に実質的にストリップされて、種々の被覆組成物中において有用な分散液が得られ、金属フレークのコントロール、流動性及レベリング特性並びに欠陥の減少において満足にいく性能が得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
セルロースエステルは、多くのプラスチック、フィルム、被覆及び繊維用途に役立つ貴重なポリマーである。被覆用途においては、セルロースエステルは典型的には有機溶剤溶液から適用されるが、充分なカルボキシル含量を有するセルロースエステルは、有機溶剤を用いて水中に分散させて、水性分散液又は溶液として適用することができる。
【背景技術】
【0002】
種々のカルボキシル化セルロースエステルが知られており、被覆組成物中に使用することができる。例えば、カルボキシアルキルセルロースエステル、例えば特許文献1、2及び3(これらの特許の開示を引用することによってその全体を本明細書中に組み入れる)に記載されたものは種々の有機溶剤中に可溶性である。非特許文献1に記載されたように、これらのエステルは、カルボキシルアルキルセルロールエステルの有機溶剤溶液の調製及びその溶液へのアンモニア又はアミン及び水の添加によって、水中に分散させることができる。水は、アンモニア若しくはアミンとは別に添加することもできるし、又はアンモニア又はアミンと予備混合することもできる。得られる分散液は、典型的には、約5〜約25%の固形分を有し、セルロースエステル対溶剤の比は約1:4〜約1:1の範囲である。この方法は、少なくとも1:1の比のエステル対有機溶剤比を必要とするので、得られる分散液は比較的高い揮発性有機化合物(VOC)含量を有する。環境規制が一部の被覆製剤中のVOC含量の量を制限し、更なるこのような規制が予想される。VOC含量がより低いカルボキシル化セルロースエステル水性分散液を提供することが当業界で依然として必要とされている。
【0003】
特許文献1及び2は、いくつかの高級酸のカルボキシアルキルセルロースエステル、特に高級酸のカルボキシメチルセルロースエステル、例えばカルボキシメチルセルロースアセテートプロピオネート、カルボキシメチルセルロースプロピオネート、カルボキシメチルセルロースアセテートブチレート及びカルボキシメチルセルロースブチレートを記載している。記載されたセルロースエステルのエーテル誘導体は、種々の有機溶剤中に可溶であり、種々の樹脂と相容性であり、また、水性製剤中に容易に分散する。これらの特許中に記載された水性分散液は、有機溶剤中にエステルを溶解し、エステルを一部分中和し、それらを水に分散させることによって調製される。得られる水性分散液は種々の被覆製剤中への使用に適しているが、VOC含量が高いため、低VOC含量を必要とする用途には適さない。
【0004】
これらの特許は、かなりの水許容度(quite water torerant)の、アンモニア水中のVOCがゼロの分散液を記載している。エステルは本質的にアンモニア中に可溶化されるので、記載された分散液は実際にはエステル溶液である。これらのエステル溶液は、水許容度のため、水で希釈されて、実際には完全に中和された水溶液であるものを形成できる。しかし、エステルの可溶化に必要なアンモニアの量のために、これらの溶液のpHは典型的には非常に高く、そのため、セルロースエステルの加水分解安定性が損なわれるおそれがある。
【0005】
同様に、特許文献3は、高級酸のカルボキシアルキルセルロールエステル、並びにそれらの顔料、特に金属顔料、例えばアルミニウムフレーク及びマイカを含む水性被覆組成物の配合に有用な水性分散液への使用を記載している。これらの水性顔料分散液は、エステルの有機溶剤溶液を金属分散液に添加し、有機又は無機塩基の添加によって前記エステルを部分的に又は完全に中和し(ペンダントカルボキシル基の約25〜約100%)、次いで水中で混合することによって調製することができる。別法においては、塩基が、有機溶剤の添加前に水と共に添加するか、又は有機溶剤で希釈して若しくは希釈せずに、エステルの有機溶液に添加することができる。次いで、得られた混合物は、アルミニウムフレーク及び有機溶剤のみを含むアルミニウムフレーク分散液に直接添加することができる。更に別の方法においては、エステルを溶解する溶剤を含むアルミニウムフレークにエステルを直接添加することもできるし、又はエステルを、最初に適当な水性塩基で膨潤させてから、適当な有機溶剤を添加することもできる。これらの方法は、優れた金属フレーク配向性を示す水性エステル分散液を提供するが、VOC含量は適用される環境規制が許可する量よりも高い可能性がある。
【0006】
特許文献4は、VOC含量の低いアクリルポリマーのアンモニウム塩の水性分散液を記載している。水不混和性溶剤中で高分子量アクリルポリマーのアミン塩を調製する方法が開示されている。次いで、この溶液に水を添加して、混合物を逆転させて、塩/溶剤共沸混合物を形成させ、この共沸混合物を次に加熱して有機溶剤を除去して、有機溶剤含量が2重量%未満のポリマーの水性分散液を生成させる。
【0007】
特許文献4に開示された別の方法においては、アクリルポリマーの、又はアクリルポリマーアンモニウム塩、有機溶剤及び水を含む混合物を形成するためにはアクリルポリマーアミン塩の、有機溶剤分散液(エチレングリコールモノブチルエーテル単独又は水に実質的に非混和性の有機溶剤とエチレングリコールモノブチルエーテルとの混合物からなる)に水を添加する。この混合物を、水の添加によって逆転させて、95℃〜約99℃の沸点を有する水中有機溶剤共沸混合物を形成する。この共沸混合物を加熱して有機溶剤を除去し、水及び溶剤を、分散液から除去しながら凝縮させる。凝縮された水及び溶剤にキシレンを添加して、水及び溶剤を分離させ、凝縮水を混合物中に再循環して、有機溶剤が2重量%未満のアクリルポリマーのアンモニア塩の水性分散液を生成する。この特許はまた、アンモニアの代わりにアミンを使用できることを記載している。
【0008】
特許文献5は、水性分散液及びそれらの製造方法を開示し、この方法では、アクリルポリマー、有機溶剤(実質的に水非混和性である有機溶剤又はエチレングリコールモノブチルエーテル(25℃において水混和性)である)及び鹸化剤(アミン又はアンモニアである)の反応生成物であるアクリルポリマーの塩が製造される。特許文献5に記載された方法によれば、水に塩混合物を、1時間当たり塩/有機溶剤分散液の約1/4以下の速度で添加することによって水性分散液が形成される。この添加速度は、共沸混合物の加熱又は蒸留による有機溶剤の除去と相関関係がある。特許文献5は、許容され得ないほど高レベルまで粘度を増加させないためには、添加の間中、常に、加熱水/有機溶剤混合物中に存在する有機溶剤は、アクリルポリマーの分散に使用される有機溶剤の総重量に基づき、15重量%以下とすることを勧めている。溶剤対アクリルポリマー又はその塩の比が高いほど、除去及び廃棄のために共沸されなければならない溶剤は多く、また、溶剤対アクリルの比が低いほど、ポリマーを水に分配させるのが難しい。別の実施態様においては、ポリマーを有機溶剤中に分散させ、前述のようにしてポリマーを中和するのに有効な量でアミン又はアンモニアを含む水に添加することができる。
【0009】
同様に、特許文献6は、実質的に水非混和性の有機溶剤と水分散性の、高分子量アクリルポリマーのアミン塩との分散液を水と混合して、混合物を逆転させ、そして水分散性アクリルアミン塩の逆転混合物を加熱又は蒸留することによって有機溶剤を除去して、水及び実質的に水非混和性の有機溶剤から共沸混合物を形成する方法を記載している。共沸混合物は95℃以下の沸点を有すると考えられており、実質的に水非混和性の有機溶剤は約100℃より少なくとも高い沸点を有すると考えられている。共沸混合物の加熱又は蒸留中の、アミン塩/有機溶剤/水混合物中の水の量は、望ましい最終水性分散液中固形分レベルを生じるのに有効な量に保持しなければならない。
【0010】
特許文献7は、その比較例において、セルロースエステルをメチルイソブチルケトン中に溶解させ、次いで界面活性剤及び水を添加した後に、室温で15分間撹拌する、セルロースアセテートブチレート水性分散液の製造を記載している。この混合物を次に、乳化機に通して、ミクロ分散液を生成し、次にこれをケトン溶剤の共沸蒸留のために加熱する。
【0011】
特許文献8は、イオン化可能な基を有するアクリル変性塩素化ポリオレフィンポリマーを有機溶剤中で中和し;中和されたポリマーの溶液を水とブレンドして、中和ポリマー、有機溶剤及び水のブレンドを形成し;そしてアクリル変性塩素化ポリオレフィンポリマーの分散液を形成するのに有効な温度及び圧力において、このブレンドから有機溶剤を除去することを開示している。
【0012】
特許文献9は、安定な水性ポリマー分散液及びそれらの製造方法を記載している。特許文献9によれば、イオン官能性ポリマーは、親水性有機溶剤中で合成するか、又は純粋な形で合成された後に、親水性有機溶剤と混合する。次いで、水の添加及び溶剤の除去時にポリマーの分散液を生成するのに有効な量の中和剤を添加する。親水性有機溶剤中でポリマー塩溶液を形成し、そしてその溶液と水とを混合して、水/有機溶剤/ポリマー塩ブレンドを形成した後に、約300nm以下の樹脂平均粒径、少なくとも約30重量%のポリマー濃度及び2重量%未満の有機溶剤濃度を有する水性分散液を生成するのに有効な持続時間、温度及び圧力において、ブレンドから有機溶剤及び水を除去又はストリップする。
【0013】
特許文献10は、ポリエステル塩の水性分散液を記載している。特許文献10によれば、イオン官能性ポリエステルポリマーは、純粋な形で合成した後、親水性有機溶剤と混合している。このポリエステルは、酸価が約30〜約50であり且つ親水性溶剤への溶解度が少なくとも約50重量%であるポリエステルを生成するのに充分な、イオン化可能な基を有し;親水性有機溶剤は、水への溶解度が少なくとも約5重量%である。溶剤中のポリエステルポリマーのイオン化可能な基の少なくとも約30%は、中和ポリマー塩の溶液を形成するのに有効な量の中和剤で中和する。その後、溶液は水と混合して、水/有機溶剤/中和ポリマーのブレンドを形成する。次いで65℃以下の温度において、このブレンドから有機溶剤をストリップして、中和ポリマーの水中分散液を形成する。
【0014】
特許文献11は、安定な水性ポリマー分散液及びそれらの製造方法を開示している。特許文献11によれば、イオン官能性ポリマーは、親水性有機溶剤中において合成するか、又は純粋な形で合成した後に、親水性有機溶剤と混合する。ポリマーが充分に溶解した後、水の添加及び溶剤の除去時にポリマーの分散液を生成するのに有効な量の中和剤を添加する。親水性有機溶剤中においてポリマー塩溶液を形成し且つこの溶液を水と混合して、水/有機溶剤/ポリマー塩ブレンドを形成した後に、約400nm以下の樹脂平均粒径、少なくとも約30重量%のポリマー濃度及び5重量%未満の有機溶剤濃度を有する水性分散液を生成するのに有効な持続時間、温度及び圧力において、ブレンドから有機溶剤及び水を除去又はストリップする。
【0015】
特許文献12及び13は、既に記載したのと同様な方法によって製造された安定な水性ポリマー分散液を開示している。
【0016】
【特許文献1】米国特許第5,668,273号
【特許文献2】米国特許第5,792,856号
【特許文献3】米国特許第5,994,530号
【特許文献4】米国特許第5,319,019号
【特許文献5】米国特許第5,356,988号
【特許文献6】米国特許第5,380,771号
【特許文献7】米国特許第6,046,259号
【特許文献8】米国特許第6,225,402号
【特許文献9】米国特許第6,277,953号
【特許文献10】米国特許第6,306,956号
【特許文献11】米国特許出願公開第2002/0028874A1号
【特許文献12】国際出願公開第WO 00/18826号
【特許文献13】国際出願公開第WO 02/10297号
【非特許文献1】Eastman Chemical Company Publicaiton No.GN−431A(Feb.2003),”CMCAB 641−0.2 and 641−0.5 Cellulose Esters”
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
種々の水性被覆組成物への使用に適当でありながら、比較的低いVOC含量を有する水性分散液を生成する、カルボキシル化セルロースエステルの水への分散方法が当業界において依然として必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0018】
一態様において、本発明は、カルボキシル化セルロースエステルの水性分散液の製造方法に関する。この方法は、カルボキシル化セルロースエステル;酢酸n−ブチルに対する相対蒸発速度が少なくとも約1.0であり且つ水への溶解度が少なくとも約5重量%である揮発性親水性有機溶剤;相対蒸発速度が約0.5未満であり且つ水への溶解度が少なくとも約3重量%であるカップリング溶剤:カルボキシル化セルロースエステルに存在するカルボキシル基の少なくとも一部を中和するのに充分な量で存在する中和剤;及び水を含む液体混合物を調製する第1工程を含む。次の工程において、この液体混合物に、熱若しくは真空又は両者を、揮発性親水性有機溶剤を揮発させるのに充分な量で加え、それによってカルボキシル化セルロースエステルの水性分散液を得る。本発明はまた、水性分散液自体、前記水性分散液を含む被覆組成物、及び前記被覆組成物で被覆された製品に関する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本発明は、以下の発明の詳細な説明及びそれに含まれる実施例を参照することによってより容易に理解できる。
【0020】
本発明の物質組成物及び方法を開示及び説明する前に、特に断らない限り、本発明は特定の合成方法にも特定の製剤にも限定されず、従って、その開示とは異なることができることを理解されたい。また、使用した用語は、特定の実施態様のみを説明するために用いるが、本発明の範囲を限定することを目的としないことを理解されたい。
【0021】
単数形「a」,「an」及び「the」は、前後関係からそうでないことが明白に示されない限り、複数の指示対象を含む。
【0022】
「任意の」又は「場合によっては」は、その後に記載される事象又は状況が起こっても起こらなくてもよいことを意味する。その記載は、事象又は状況が起こる場合とそれが起こらない場合を含む。
【0023】
範囲は、本明細書中では、約を前置した「一方の特定値」から及び/又は約を前置した「もう一方の特定値」までと表すことができる。このような範囲が表される場合、「一方の特定値」から及び/又は「もう一方の特定値」までは別の態様であることを理解されたい。
【0024】
本明細書全体を通じて、特許又は出版物を参照する場合、本発明が関連する最新技術をより詳細に説明するために、これらの参考文献の開示全体を、引用することによって本明細書中に組み入れるものとする。
【0025】
本発明は、最小のVOC含量を有し且つ界面活性剤の使用は必要としないが、場合によっては界面活性剤が存在することもできるカルボキシル化セルロースエステルの安定な水性分散液を提供する。本発明に係る水性分散液は、わずか0.25〜1又はそれ以下の溶剤対エステル比を可能にし、従来の分散技術に比較して少なくとも75%の水性分散液溶剤含量の低下を実現する。この低下は、規制が適用される有機溶剤を使用する場合のVOCの同等な低下に相当する。
【0026】
一態様において、カルボキシル化セルロースエステルは、カルボキシアルキルエーテル(例えば、カルボキシメチル)置換基と低級アルキル(例えば、C2〜C4)エステル置換基、例えば、プロピオニル、アセチル/プロピオニル、ブチリル、又はアセチル/ブチリルエステル置換基とを併せ持つ、約20〜約120の酸価を有するセルロースのエーテル−エステル誘導体であるカルボキシアルキルセルロースエステルである。本発明に係る有用な他のカルボキシル化セルロースエステルとしては、以下に詳細に説明するような酸化セルロースエステル及び他のカルボキシル官能基化セルロースエステルが挙げられる。
【0027】
本発明の水性分散液の含水量は典型的には、少なくとも50重量%、又は少なくとも60重量%、又は約50〜約95重量%、又は約60〜約85重量%である。
【0028】
本発明に係る方法は、典型的には、10重量%若しくはそれ以下、又は6重量%若しくはそれ以下、又は5重量%若しくはそれ以下、又は約1〜約10重量%の有機溶剤含量;約5〜約40重量%、又は約10〜約30重量%の固形分;及び典型的には約400nm未満、又は約50〜約500nmの平均粒径を有する水性分散液を達成する。これらの分散液は、種々の被覆用樹脂との相容性及び独特のレオロジー特性のために有用である。これらの性質によって、これらの分散液は、金属フレークのコントロール、流動性及びレベリング並びに水性系中における欠陥の減少に役立つ。これらの分散液は、水性木材用被覆、水性自動車用被覆、テレトロニック(teletronic)用途並びに水性建築用及び工業用保全被覆において特に有用である。
【0029】
水性分散液の製造
本発明に係る水性分散液は、揮発性親水性有機溶剤と比較的揮発性でないカップリング溶剤とのブレンド中のカルボキシル化セルロースエステルの溶剤溶液を提供することによって製造できる。この溶剤溶液は、2種の溶剤の一方のみにエステルを添加し、次いで残りの溶剤を添加することによっても製造できるし、又はエステルをブレンド自体に添加することもできる。親水性有機溶剤及びカップリング溶剤の両者は典型的には、少なくとも10重量%、又は少なくとも25重量%若しくは少なくとも40重量%、又は約5〜約75重量%の濃度でエステルを溶解させる。セルロースエステルを、適当な攪拌手段の適用によるなどして、親水性有機溶剤とカップリング溶剤とのブレンド中に溶解させる場合には、中和剤(例えば、アミン又はアンモニアのような塩基)を溶液に添加して、カルボキシル化セルロースエステルの塩溶液を得ることができる。
【0030】
中和の程度は、使用するカルボキシル化セルロースエステルの酸価に依存して変化し得る。当業界で知られるように、所望の中和%を得るのに必要な中和剤の量は、エステルの量、エステルの酸価、中和剤の式量及び典型的には約5〜約50%の所望の中和%を前提として算出できる。約30〜約100又は約50〜約75の範囲の酸価を有する典型的なカルボキシメチルセルロースアセテートブチレートの場合には、中和レベルは、利用可能なカルボキシ部分の数に基づき、約5〜約50%又は約10〜約30%の範囲であることができる。
【0031】
場合によっては、充分なアンモニアの存在を前提とすれば、カルボキシル化セルロースエステルを実質的に可溶化できる可能性はあるが、例えば、必要な高レベルのアンモニアは、非常に高いpH条件をもたらし、それがエステルの加水分解安定性を損なうこともあり得る。従って、本発明の分散液のpHは、典型的には、約7以下、又は約6以下、又は約3〜約7である。
【0032】
セルロースエステル塩の溶液を親水性有機溶剤とカップリング溶剤との混合物中で形成した後は、有機溶剤、中和剤及びセルロースエステルを含む水性分散液を生成するために系に水を添加することもできる。続いて、系から、例えば溶剤ストリップ法によって親水性有機溶剤を除去することができる。この方法は減圧下で実施でき、温度は、中和剤、水又はカップリング溶剤が揮発されるレベルにまでは上昇させないことが好ましい。即ち、親水性有機溶剤のみがストリップされ、中和剤、水及びカップリング溶剤は実質的に残るのが好ましい。
【0033】
別法においては、水及び中和剤を合してから、親水性有機溶剤とカップリング溶剤とのブレンド中のセルロースエステルの溶液に添加することができる。更に別の方法においては、中和剤を親水性有機溶剤、比較的揮発性でないカップリング溶剤又はこれら2つの溶剤のブレンドと混ぜ合わせてから、カルボキシル化セルロースエステルを添加することができる。更に別の方法においては、エステル自体を水中で中和剤で膨潤させてから、即ち中和剤及び水と混合してから、溶剤ブレンドと混合することができる。
【0034】
更に以下に記載するように、これらの方法は、著しく低下した有機溶剤含量を有する安定な界面活性剤非含有水性分散液を製造するのに使用できるが、場合によっては界面活性剤が存在することもできる。
【0035】
一態様においては、カルボキシル化セルロースエステルの水溶液を製造するために、即ち、エステルが単に分散されるのではなく、実質的に溶解されている製剤を製造するために、追加の中和剤を後で水性分散液に添加することもできる。
【0036】
本発明に係る方法に使用する水は蒸留水又は脱イオン水などであることができる。
【0037】
従って、本発明は、10%若しくはそれ以下、又は6%若しくはそれ以下、又は5%若しくはそれ以下、又は約1〜約10%の有機溶剤を含む高分子量カルボキシアルキルセルロースエステルの安定な界面活性剤非含有水性分散液を製造できる方法に関する。この方法は、例えばフェノール/テトラクロロエタンの60/40(重量/重量)溶液中で25℃において測定したインヘレント粘度が0.20〜1.7dL/gであり、カルボキシ(C1〜C3アルキル)のアンヒドログルコース単位当たりの置換度が約0.20〜0.75であり且つC2〜C4エステルのアンヒドログルコース単位当たりの置換度が約1.5〜約2.7であるカルボキシアルキル(C1〜C3アルキル)セルロースエステルに適用できる。
【0038】
このような実施態様の1つにおいては、カルボキシメチルのアンヒドログルコース単位当たりの置換度が0.20〜0.75、好ましくは0.25〜0.35であり、ヒドロキシルのアンヒドログルコース単位当たりの置換度が約0.10〜0.70であり、そしてブチリルのアンヒドログルコース単位当たりの置換度が約1.50〜2.70であり且つフェノール/テトラクロロエタンの60/40(重量/重量)溶液中で25℃において測定したインヘレント粘度が0.20〜0.70dL/g又は約0.35〜0.60dL/gであるカルボキシメチルセルロースブチレートを使用する。
【0039】
更なる実施態様としては、カルボキシメチルのアンヒドログルコース単位当たりの置換度が0.20〜0.75、好ましくは0.25〜0.35であり、ヒドロキシルのアンヒドログルコース単位当たりの置換度が約0.10〜0.70であり、そしてプロピオニルのアンヒドログルコース単位当たりの置換度が約1.50〜2.70であり且つフェノール/テトラクロロエタンの60/40(重量/重量)溶液中で25℃において測定したインヘレント粘度が0.20〜0.70dL/g又は約0.35〜0.60dL/gであるカルボキシメチルセルロースプロピオネートを使用する。
【0040】
別の好ましい実施態様としては、カルボキシメチルの置換度が0.20〜0.75、好ましくは0.25〜0.35であり、ヒドロキシルのアンヒドログルコース単位当たりの置換度が約0.10〜0.70であり、そしてブチリルのアンヒドログルコース単位当たりの置換度が約0.10〜2.60であり且つアセチルのアンヒドログルコース単位当たりの置換度が0.10〜1.65であり且つフェノール/テトラクロロエタンの60/40(重量/重量)溶液中で25℃において測定したインヘレント粘度が0.20〜0.70dL/gであるカルボキシメチルセルロースアセテートブチレートを使用する。インヘレント粘度は0.35〜0.60dL/gであるのが好ましい。ヒドロキシルのアンヒドログルコース単位当たりの置換度が0.10〜7.0であり、ブチリルのアンヒドログルコース単位当たりの置換度が1.10〜2.55であり、且つアセチルのアンヒドログルコース単位当たりの置換度が0.10〜0.90であるのが好ましい。
【0041】
更なる実施態様として、カルボキシメチルのアンヒドログルコース単位当たりの置換度が0.20〜0.75、好ましくは0.25〜0.35であり、ヒドロキシルのアンヒドログルコース単位当たりの置換度が約0.10〜0.70であり、そしてプロピオニルのアンヒドログルコース単位当たりの置換度が約0.10〜2.60であり且つアセチルのアンヒドログルコース単位当たりの置換度が約0.10〜2.65であり且つフェノール/テトラクロロエタンの60/40(重量/重量)溶液中で25℃において測定したインヘレント粘度が0.20〜0.70dL/gであるカルボキシメチルセルロースアセテートプロピオネートを使用する。インヘレント粘度は、0.35〜0.60dL/gであることができる。ヒドロキシルのアンヒドログルコース単位当たりの置換度は0.10〜0.70であることができ、ブチリルのアンヒドログルコース単位当たりの置換度は1.10〜2.55であることができ、且つアセチルのアンヒドログルコース単位当たりの置換度は0.10〜0.90であることができる。
【0042】
これら及び他のカルボキシル化セルロースエステルは、以下に詳述するように、本発明に従って有利に使用できる。
【0043】
本発明に係る方法において、カルボキシル化セルロースエステルは有機溶剤系、そして詳しくは、揮発性親水性有機溶剤及び比較的揮発性でないカップリング溶剤を含む溶剤ブレンドに溶解させることができる。揮発性親水性有機溶剤は典型的には、エステルを少なくとも10重量%、又は少なくとも25重量%、又は少なくとも40重量%、又は約5〜約75重量%の濃度で溶解させるであろう。更に、揮発性親水性有機溶剤は典型的には、少なくとも1.0、又は少なくとも2.0、又は約1.0〜約15、又は約2.0〜約10の蒸発速度(本明細書全体に使用するように、酢酸n−ブチルに対して)を有する。揮発性親水性有機溶剤は典型的には、水への溶解度が、少なくとも約5重量%、又は少なくとも約10重量%、又は約5〜約100%である。水への溶解度は、水相に分配される溶剤−水混合物中の溶剤の量と定義できる(このため、0〜100%の範囲であることができる)。ケトン溶剤は、揮発性親水性有機溶剤としての使用に適するが、メチルエチルケトン及びアセトンが特に適する。
【0044】
カップリング溶剤は、中和された樹脂の水への溶解度を促進するのに充分な、水相及び有機相の両者への溶解度を有する有機溶剤である。分散液製造の最終段階において揮発性親水性有機溶剤が優先的にストリップされることができるように、カップリング溶剤は、揮発性親水性有機溶剤に比較して充分に低い蒸発速度を有さなければならない。カプリング溶剤は典型的には、約0.5未満、又は約0.2未満、又は約0.001〜約0.5、又は約0.01〜約0.2の蒸発速度(酢酸n−ブチルに関する)を有する。効果的なカップリグ溶剤はまた、約3%超、又は約5%超、又は約3〜約100%のような、ある一定の水への溶解度を有する必要がある。更に、カップリグ溶剤は、必要な濃度においてエステルに対して充分な溶解力を有さなければならない。例えば、カップリング溶剤は典型的には、少なくとも10重量%、又は少なくとも25重量%、又は少なくとも40重量%、又は約5〜約75重量%の濃度においてエステルを溶解するものとする。
【0045】
グリコールエーテルは適当なカップリング溶剤である。グリコールエーテルはエチレングリコールプロピルエーテル、エチレングリコールブチルエーテル、3−メトキシブタノール、プロピレングリコールプロピルエーテル、プロピレングリコールブチルエーテル、ジエチレングリコールエチルエーテル、ジエチレングリコールプロピルエーテル、ジエチレングリコールブチルエーテル、ジプロピレングリコールプロピルエーテル、及びジプロピレングリコールブチルエーテルを含むが、これらに限定しないカテゴリーを含む。この用途では、好ましいカップリング溶剤としては、エチレングリコールモノブチルエーテル、3−メトキシブタノール、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノプロピルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノプロピルエーテル、及びジプロピレングリコールモノブチルエーテルが挙げられる。
【0046】
カルボキシル化セルロースエステルの有機溶剤溶液は典型的には、親水性有機溶剤の除去前にはエステル1部当たり揮発性親水性有機溶剤を約1〜約5部又は約2〜約4部含むように調製する。
【0047】
カップリング溶剤は典型的には、エステル1部当たり0.5部未満、又はエステル1部当たり約0.3部未満、又はエステル1部当たり約0.1〜約0.5部、又はエステル1部当たり約0.15〜約0.35部で溶液に混和する。
【0048】
アンモニア又はアミンのような中和剤は、エステルを水中に分散させるのに充分な量でエステルの有機溶剤溶液に添加できる。適当な中和剤としては、ジメチルエタノールアミン、トリエタノールアミン、2−アミノ−2−メチル−1−プロパノール、アンモニア、ピペリジン、4−エチルモルホリン、ジエタノールアミン、エタノールアミン、トリブチルアミン、ジブチルアミン、水酸化カリウム及び水酸化ナトリウムが挙げられるが、これらに限定するものではない。エステルの分散液の製造に使用する中和剤の量は、溶剤の選択並びにエステルの分子量、組成及び酸価によって異なる。50〜75の範囲の酸価を有するカルボキシメチルセルロースアセテートブチレートのような典型的なエステルに関しては、中和レベルは、利用可能なカルボキシル部分の数に基づき約5〜約50%、又は
約10〜約30%の範囲であることができる。
【0049】
別法においては、中和剤は、カルボキシル化セルロースエステルの添加前に、親水性有機溶剤、比較的揮発性でないカップリング溶剤又は溶剤ブレンドと混合することができる。更なる別法においては、中和剤は、親水性有機溶剤及び比較的揮発性でないカップリング溶剤の混和前に、セルロースエステルに添加できる。更なる別法においては、溶剤溶液の調製前に、エステル自体を中和剤及び水で膨潤させる、即ち、中和剤及び水と混合することができる。
【0050】
次いで、エステルの中和有機溶液に水を添加できる。水対揮発性親水性有機溶剤の比は、約1:0.25〜約1:5,又は約1:0.5〜約1:3の範囲であることができる。水は適度の攪拌下で、例えば、約20℃〜約60℃又は約20℃〜約50℃の範囲の温度において中和有機溶液に添加できる。
【0051】
別法において、中和剤は水と予備混合し、中和有機溶剤溶液を最初に調製することなく、直接、分散液を形成できるように、エステルの有機溶剤溶液にゆっくりと添加することができる。
【0052】
中和剤、水及びカップリング溶剤が実質的にとどまることを保証しながら、次に、揮発性親水性有機溶剤を除去できるが、中和剤、水及びカップリング溶剤の全てがこの工程の間中とどまることは重要ではない。高温を必要とせずに、揮発性親水性有機溶剤をストリップするためには、真空蒸留の使用が好ましい。この方法に関しては、分散液の最大温度が依然として約75℃未満であること、及び適用する真空が約50〜400mmHgであることが好ましい。残留揮発性親水性有機溶剤含量は、好ましくは約2%未満又は約0.5%未満である。
【0053】
この方法は、固形分が約5〜約40%、又は約10〜約30%の範囲である分散液を製造するのに使用できる。この方法によって製造される分散液の最終溶剤含量は一般に、約10%未満、又は約6%未満、又は約5%未満、又は約1%〜約10%である。この方法は、界面活性剤の使用を必要としないので、界面活性剤を存在させる必要がなく、分散液の体積平均粒径は一般に約400nm未満、又は約50nm〜約500nmとする。更に、使用できる揮発性親水性有機溶剤は、分散液の製造中に粘度を低下させる働きをするので、(従来の分散液の場合に必要であったような)極端に高い剪断速度は必要ない。分散液の最終粘度は典型的には、約10〜500cP、又は約20〜約350cPの範囲である。所望ならば、水と比較的揮発性でないカップリング溶剤とのブレンドによって中和エステルが完全に可溶化された水溶液を調製するために、カルボキシル化セルロースエステルのこれらの界面活性剤非含有水分散液に追加の中和剤を添加することができる。
【0054】
これらの界面活性剤非含有水分散液の安定性を評価するために、分散液をオーブン中で50℃に保持し、4週間の間、週に1回外観を調べた。これらの分散液に関しては、高温において約2週間後に沈降が見られないか、又は4週間の期間全体にわたって沈降が観察されないのが好ましい。
【0055】
一実施態様において、アルミニウムフレーク配向性、速い指触乾燥、流動性及びレベリング、並びに欠陥の減少に関する性質の改良のために、水性エステル分散液を、水性自動車用ベースコート系中に添加剤として使用できる水溶液へと更に中和することができる。本発明に係る分散液中の有機溶剤含量の減少のため、代表的な水性自動車用ベースコート中の総VOCは、被覆の外観又は性能に悪影響を及ぼすことなく、約50%低下させることができる。他の実施態様においては、分散液を、水性木材用被覆、テレトロニック用途並びに水性建築用及び工業用保全被覆に使用する。
【0056】
親水性有機溶剤
揮発性親水性有機溶剤は典型的には、カルボキシル化セルロースエステルを少なくとも10重量%、又は少なくとも25重量%、又は少なくとも40重量%、又は約5〜約75重量%の濃度で溶解する。更に、揮発性親水性有機溶剤は典型的には、少なくとも1.0、又は少なくとも約2.0、又は少なくとも約1.0〜約15、又は約2.0〜約10の蒸発速度(酢酸n−ブチルに対して)を有する。揮発性親水性有機溶剤は典型的には、水への溶解度が少なくとも5重量%、又は少なくとも約10重量%、又は約5〜約100%である。ケトン溶剤は揮発性親水性有機溶剤としての使用に適しており、メチルエチルケトン及びアセトンが特に適している。
【0057】
親水性有機溶剤としては、メタノール、エタノール、プロパノール及びイソプロパノールのようなアルコールが挙げられる。更なる親水性有機溶剤としては、アセトン、メチルエチルケトン及びメチルプロピルケトンのようなケトン並びにテトラヒドロフラン及びジオキサンのような溶剤が挙げられる。
【0058】
カルボキシル化セルロースエステルの有機溶剤溶液は典型的には、エステル1部当たり揮発性親水性有機溶剤を約1部〜約5部、又は約2部〜約4部含むように調製する。
【0059】
カップリング溶剤
カップリング溶剤は、水相と有機相の両方に充分な溶解度を有することによって、中和樹脂の水への溶解度を促進する溶剤である。揮発性疎水性有機溶剤が分散液調製の最終段階の間に優先的にストリップされ得るように、カップリング溶剤は揮発性親水性有機溶剤に比較して充分に低い蒸発速度を有さなければならない。適当なカップリング溶剤は一般に、約0.5未満、又は約0.2未満、又は約0.001〜約0.5、又は約0.01〜約0.2の蒸発速度(酢酸n−ブチルに対して)を有する。効果的なカップリング溶剤はまた、典型的には約3%超、又は約5%超、又は約3%〜約100%の、水へのある一定の溶解度を有さなければならない。更に、カップリング溶剤は、必要な濃度においてエステルに対して充分な溶解力を有さなければならない。例えば、カップリング溶剤は典型的には少なくとも10重量%、又は少なくとも25重量%、又は少なくとも40重量%、又は約5重量%〜約75重量%の濃度においてエステルを溶解させる。
【0060】
グリコールエーテルはカップリング溶剤の1つの型であるが、アルコール及びグリコールエステルも使用できる。グリコールエーテルとしては、以下のものが挙げられるが、これらに限定するものではない。エチレングリコールモノプロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、3−メトキシブタノール、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノプロピルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノプロピルエーテル及びジプロピレングリコールモノブチルエーテル。好ましいカップリング溶剤としては、エチレングリコールモノブチルエーテル、3−メトキシブタノール、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノプロピルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノプロピルエーテル及びジプロピレングリコールモノブチルエーテルが挙げられる。
【0061】
比較的揮発性でないカップリング溶剤は典型的には、有機溶剤ブレンド(水及び中和剤を除く)中にエステル1部当たり約0.5部以下、又はエステル1部当たり約0.3部以下、又はエステル1部当たり約0.1〜約0.5部、又はエステル1部当たり約0.15部〜約0.35部で混和する。
【0062】
中和剤
適当な中和剤はアンモニア又はアミンのような塩基であり、その例としては、ジメチルエタノールアミン、トリエタノールアミン、2−アミノ−2−メチル−1−プロパノール、アンモニア、ピペリジン、4−エチルモルホリン、ジエタノールアミン、エタノールアミン、トリブチルアミン、ジブチルアミン、水酸化カリウム及び水酸化ナトリウムが挙げられるが、これらに限定するものではない。好ましい中和剤としては、ジメチルエタノールアミン、トリエタノールアミン及び2−アミノ−2−メチル−1−プロパノールが挙げられる。中和剤の使用量は、溶剤の選択並びにエステルの分子量、組成及び酸価によって異なる。約30〜約100、又は約50〜約75の範囲の酸価を有する典型的なカルボキシメチルセルロースアセテートブチレートに関しては、中和レベルは、利用可能なカルボキシル部分の数に基づき約5%〜約50%、又は約10%〜約30%の範囲であることができる。
【0063】
別の実施態様においては、既に記載したように、中和剤を溶剤の一方又はもう一方に添加してから、エステルを添加することもできるし、或いはエステルを中和剤で膨潤させてから、混合物に添加することもできるし、或いは中和剤を水に添加してから、次に溶剤混合物に添加することもできる。
【0064】
より高い酸価、例えば約100超の、又は約125超の酸価を有するエステルを使用すると、感水性及び不良な再溶解抵抗性というような不所望な性質を有するフィルムが生成されるおそれがあることに注意されたい。より高い酸価を有するエステルは、より少ない溶剤含量で水中により容易に分散させることができるが、より高い酸価を有するエステルは、性能特性における二律背反のために望ましくない可能性がある。
【0065】
カルボキシル化セルロースエステル
種々のカルボキシル化セルロースエステルが、本発明に従って使用するのに適している。このようなエステルは、約10〜約150、又は約20〜約120の酸価として表されるカルボキシル官能価及び約1.0〜約3.0、又は約1.3〜約2.8のアンヒドログルコース単位当たりのエステル置換度を有することができる。カルボキシル化セルロースエステルの数平均分子量は、約1000〜約50,000又は約2000〜約40,000の範囲であることができ、フェノール/テトラクロロエタンの60/40(重量/重量)溶液中で25℃において測定したインヘレント粘度は約0.05〜約2.0、又は約0.1〜約1.5の範囲であることができる。
【0066】
一態様において、本発明によって使用するのに適当なカルボキシアルキルセルロースエステルは、カルボキシアルキルエーテル(例えば、カルボキシメチル)置換基及び低級アルキルエステル置換基、好ましくはC2〜C4エステル置換基、例えばプロピオニル、混合アセチル/プロピオニル、ブチリル、又は混合アセチル/ブチリルエステル置換基を併せ持つセルロースのエーテル−エステル誘導体であるが、カルボキシメチルセルロースアセテートもまた、本発明に従って有用なエステルである。米国特許第5,668,273号、第5,792,856号、第5,994,530号はこのようなエステルを記載しており、これらの特許の開示を引用することによって全体を本明細書中に組み入れる。
【0067】
これらのカルボキシアルキルセルロースエステルは、三置換された又は部分加水分解された形態において、エーテル及びエステル官能基のセルロース主鎖上のアンヒドログルコース単位当たりの合計置換度(DS)(一般に<7.0DSヒドロキシル)が高い。これらのエステルは典型的には、種々の有機溶剤中に可溶であるので、配合者は、有機溶剤溶液を用いる場合に広い許容範囲で溶剤を選択できる。これらは、エステルの有機溶剤溶液をアンモニア又はアミンで処理する場合には水性製剤中に容易に分散させることができるが、これまで使用された方法は、かなりのVOC含量を有する被覆製剤を生じた。
【0068】
カルボキシ(C1〜C3アルキル)セルロースのこれらのエステルは、例えばフェノール/テトラクロロエタンの60/40(重量/重量)溶液中で25℃において測定したインヘレント粘度が0.20〜0.70dL/g、又は0.35〜0.60dL/gであり、カルボキシ(C1〜C3アルキル)のアンヒドログルコース単位当たりの置換度が約0.20〜0.75であり、C2〜C4エステルのアンヒドログルコース単位当たりの置換度が約1.5〜約2.7である。
【0069】
カルボキシメチルのアンヒドログルコース単位当たりの置換度が0.20〜0.75であり、ヒドロキシルのアンヒドログルコース単位当たりの置換度が約0.10〜0.70であり、そしてブチリルのアンヒドログルコース単位当たりの置換度が約1.50〜2.70であり、且つフェノール/テトラクロロエタンの60/40(重量/重量)溶液中で25℃において測定したインヘレント粘度が0.20〜0.70dL/gであるカルボキシメチルセルロースブチレートを使用できる。同様に、カルボキシメチルのアンヒドログルコース単位当たりの置換度が0.20〜0.75であり、ヒドロキシルのアンヒドログルコース単位当たりの置換度が約0.10〜0.70であり、そしてプロピオニルのアンヒドログルコース単位当たりの置換度が約1.50〜2.70であり、且つフェノール/テトラクロロエタンの60/40(重量/重量)溶液中で25℃において測定したインヘレント粘度が0.20〜0.70dL/gであるカルボキシメチルセルロースプロピオネートを使用できる。同じように、カルボキシメチルのアンヒドログルコース単位当たりの置換度が0.20〜0.75であり、ヒドロキシルのアンヒドログルコース単位当たりの置換度が約0.10〜0.70であり、そしてブチリルのアンヒドログルコース単位当たりの置換度が約0.10〜2.60であり、且つアセチルのアンヒドログルコース単位当たりの置換度が0.10〜1.65であり且つフェノール/テトラクロロエタンの60/40(重量/重量)溶液中で25℃において測定されたインヘレント粘度が0.20〜0.70dL/gであるカルボキシメチルセルロースアセテートを使用できる。また、カルボキシメチルのアンヒドログルコース単位当たりの置換度が0.20〜0.75であり、ヒドロキシルのアンヒドログルコース単位当たりの置換度が約0.10〜0.70であり、そしてプロピオニルのアンヒドログルコース単位当たりの置換度が約0.10〜2.60であり、且つアセチルのアンヒドログルコース単位当たりの置換度が約0.10〜2.65であり且つフェノール/テトラクロロエタンの60/40(重量/重量)溶液中で25℃において測定されたインヘレント粘度が0.20〜0.70dL/gであるカルボキシメチルセルロースアセテートプロピオネートも使用できる。
【0070】
これらのカルボキシメチルセルロースエステル、即ち、前述のようなCMCプロピオネート、CMCアセテートプロピオネート、CMCブチレート及びCMCアセテートブチレートは、ケトン、エステル、アルコール、グリコールエーテル及びグリコールエーテルエステルを含む典型的な被覆用溶剤のほとんどの類に可溶な溶解度を示すが、水又は芳香族炭化水素による希釈を許容する。典型的な溶剤の例としては、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、メチルアミルケトン、メチルイソアミルケトン、2−プロポキシエタノール、2−ブトキシエタノール、3−エトキシプロピオン酸エチル、エタノール、プロパノール、イソプロピルアルコール、ブタノール、2−エチルヘキサノール、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸イソプロピル、酢酸ブチル、酢酸イソブチル、エチレングリコールジアセテート及び被覆組成物中に典型的に使用される他の揮発性不活性溶剤が挙げられる。これらのカルボキシアルキルセルロースエステルは、レオロジー改質剤として有用であり;比較的硬いポリマーであり、即ち、約12のヌープ(knoop)硬度単位(KHU)を示し;高いガラス転移温度を有する。これらは、被覆の硬度を改善するため並びに滑り、垂れ抵抗性及び耐擦傷性のような性質を改善するために、他の樹脂に添加できる。更に靭性を改善するために、メラミン樹脂又はイソシアネート樹脂のような架橋剤を添加して、これらのエステルと又は他の樹脂と反応させることができる。本発明に係る水性分散液中に混和する場合には、それらは、これらの優れたフィルム特性を提供するが、総VOC含量にはそれほど寄与しない。
【0071】
これらのエステルは典型的には、遊離ヒドロキシル基を有し、従って、メラミン樹脂及びイソシアネート樹脂のような架橋剤と共に使用することもできる。これに関連して、好ましい架橋剤としては、ヘキサメトキシメチルアミン、テトラメトキシメチルベンゾ−グアナミン、テトラメトキシメチル尿素、混合ブトキシ/メトキシ置換メラミンなどが挙げられる。最も好ましいメラミン架橋剤は、ヘキサメトキシメチルアミンである。典型的なイソシアネート架橋剤及び樹脂としては、ヘキサメチレンジイソシアネート(HMDI)、イソホロンジイソシアネート(IPDI)及びトルエンジイソシアネートが挙げられる。
【0072】
このような遊離カルボキシル基が典型的には中和後に残るので、カルボキシル官能性樹脂、例えば、エポキシ樹脂又はグリシジル官能性樹脂と共に使用される通常の架橋剤及び樹脂を使用できる。好ましいエポキシ官能性樹脂は一般に、約300〜約4000の分子量を有し、樹脂100g当たり約0.05〜約0.99個のエポキシ基を有する(即ち、エポキシ当たりの重量(WPE)は100〜2000である)。このような樹脂は広く知られており、Shell Chemical Companyの商標EPON(登録商標)、CIBA−Geigyの商標ARALDITE(登録商標)及びthe Dow Chemical CompanyのD.E.R.樹脂でとして市販されている。
【0073】
これらのカルボキシアルキルセルロースエステルは典型的には、約40〜130の酸価範囲を有し、DS約0.15(本質的に三置換である、即ち加水分解が全く又はほとんどない)、0.25及び0.5のヒドロキシルレベルを有するものは、アルキド及びポリイソシアネート樹脂と相容性であることが示された。メチルイソブチルケトンは、多くの適当な溶剤の1つである。
【0074】
従来、これらのカルボキシアルキルセルロースエステルは、有機溶剤中に溶解され、部分的に中和され且つ水中に分散されることによって、水性被覆組成物中に利用されている。このような溶剤の例としては、2−ブタノン、メチルアミルケトン、メタノール、エタノール、3−エトキシプロピオン酸エチル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノプロピルエーテル及びエチレングリコールモノブチルエーテルなどが挙げられるが、これらに限定するものではない。これらの変性セルロースエステルの分散液は典型的には、ペンダントカルボキシレート基の約25〜約100%がアミンで中和されることが必要であった。使用される典型的なアミンは、アンモニア、ピペリジン、4−エチルモルホリン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、エタノールアミン、トリブチルアミン、ジブチルアミン及びジメチルアミノエタノールなどであった。
【0075】
本発明に従って使用するのに適当な別の群のカルボキシル化セルロースエステル、例えば、米国特許第5,973,139号(この開示を引用することによって本明細書中に組み入れる。)に記載されたものには、酸化セルロースから製造されたカルボキシセルロースエステルがある。
【0076】
このようなエステルの製造には、任意の酸化セルロース出発原料を使用することができる。例えば、酸化セルロース出発原料は、Jesup.GaのRayonierから入手できる。或いは、酸化セルロースは、当業界でよく知られた常法によってセルロース材料を酸化することによって形成することができる。例えば、セルロース材料は、次亜塩素酸塩のような酸化剤で漂白することができる。好ましくは、このような酸化セルロース材料のカルボキシル含量は、少なくとも約30meq/kg、より好ましくは約47〜約77meg/kgの範囲である。
【0077】
これらのエステルを製造するために、酸化セルロースは水で、好ましくは脱イオン水で活性化する。次いで、水で活性化された酸化セルロースを、酢酸で洗浄することによって脱水して、水を酢酸で置き換える。目的とするセルロースエステルによっては、水活性化セルロースは更に酪酸又はプロピオン酸で洗浄して、酢酸を酪酸又はプロピオン酸で置き換えることによって、それぞれ、セルロースアセテートブチレート又はセルロースアセテートプロピオネートを得ることができる。目的とするカルボキシル化セルロースエステルがセルロースアセテートである場合には、活性化セルロースは酢酸のみで洗浄する。
【0078】
脱水工程後、活性化セルロースを、触媒の存在下で初期温度約0℃においてエステル化試薬と反応させる。エステル化試薬は、酢酸、プロピオン酸、酪酸、それらの無水物及びそれ1モルに対して約10.0〜約3.0モルの範囲の量で存在できる。エステル化試薬の選択は、目的とするカルボキシル化セルロースエステルによって決定される。例えば、セルロースアセテートが望ましい場合には、エステル化試薬は酢酸及び/又は無水酢酸であることができる。同様に、セルロースアセテートブチレートが望ましい場合には、エステル化試薬は、酢酸及び/又は無水酢酸と酪酸及び/又は酪酸無水物との混合物であることができる。エステル化試薬の混合物を用いる場合には、酢酸又は無水物の好ましい量は約0.1〜3.0モルであり、酪酸若しくはプロピオン酸又はそれらの無水物の好ましい量は約0.6〜約6.0モルの範囲である。
【0079】
エステル化工程において、カルボキシル化セルロースアセテートブチレートが目的セルロースエステルである場合には、ブチリル基の置換度は約0.5〜約2.95の範囲であることができ、そしてアセチル基の置換度は約0.4〜約2.95の範囲であることができる。同様に、カルボキシル化セルロースアセテートプロピオネートが望ましい場合には、プロピル基の置換度は約0.5〜約2.95の範囲であることができ、そしてアセチル基の置換度は約0.4〜約2.95の範囲であることができる。好ましくは、カルボキシル化セルロースアセテートブチレート及びプロピオネートにおいては、プロピオネート又はブチレートの置換度は、約1〜約2.5の範囲であり、アセテートの好ましい置換度は約0.4〜約1.6の範囲である。前記方法によって製造されるカルボキシル化セルロースアセテートは一般に、アセチル基の置換度が約2.0〜約2.95の範囲である。
【0080】
このようなカルボキシル化セルロースエステルの極限粘度数(intrinsic viscosity)は典型的には約0.2〜約1.6dl/g又は約0.2〜約0.9dl/gの範囲であり、反応時間及び温度を調整することによって得られる。例えば、初期反応温度を約0℃に保持する。次いで、反応を完了させ且つ所望の粘度を得るのに充分なレベルまで、温度を徐々に上昇させる。
【0081】
活性化セルロースを反応させた後、エステル化カルボキシル化セルロースを加水分解して、約0.05〜約1.0の範囲であることができるヒドロキシル基の置換度を得ることができる。加水分解速度は、温度及び触媒濃度によって制御でき、温度及び触媒濃度が高いほど、加水分解速度を増大する。好ましい加水分解反応は、酸触媒の存在下で約30℃〜約70℃の範囲の温度において90:10の酢酸/水混合物を用いて実施できる。加水分解度はまた、逐次工程において酢酸/水混合物を更に添加することによって増加させることができる。
【0082】
カルボキシル化セルロースエステル中のヒドロキシル基の所望の置換度が得られたら、反応工程からの溶液中の触媒を中和することによって、加水分解を停止させる。ヒドロキシル基の置換度の監視方法は、公知であり、例えば、IR、NMR及び熱分解ガスクロマトグラフィーなどである。中和剤は任意の塩基性成分であることができる。適当な中和剤の例としては、酢酸マグネシウム、酢酸カルシウム、酢酸ナトリウム、ピリジン又はそれらの混合物が挙げられるが、これらに限定するものではない。所望の置換度を得るための期間は、公知の方法によって予め決めることができる。
【0083】
所望の加水分解度に達したら、溶液を公知方法によって濾過することができる。次いで、カルボキシル化セルロースエステルを、公知の常法によって反応溶液から沈殿させる。
【0084】
前記方法によって、種々のカルボキシル化セルロースエステルを製造できる。このようなカルボキシル化セルロースエステルとしては、例えばカルボキシル化セルロースアセテート、カルボキシル化セルロースアセテートブチレート、カルボキシル化セルロースアセテートプロピオネート、カルボキシル化セルロースプロピオネートブチレート及びカルボキシル化セルロースアセテートプロピオネートブチレートが挙げられる。好ましいカルボキシル化セルロースエステルとしては、例えばカルボキシル化セルロースアセテート、カルボキシル化セルロースアセテートブチレート及びカルボキシル化セルロースアセテートプロピオネートを挙げることができる。
【0085】
前記方法によって製造されるカルボキシル化セルロースアセテートは、ヒドロキシル基の置換度が約0.05〜約1.0であり、アセチル基の置換度が約2.0〜約2.95であり、且つ極限粘度数が約0.2〜約1.6dl/g又は約0.2〜約0.9dl/gの範囲であることができる。
【0086】
この方法によって製造されるカルボキシル化セルロースアセテートプロピオネートは、ヒドロキシル基の置換度が約0.05〜約1.0の範囲であり;プロピル基の置換度が約0.5〜約2.95の範囲であり;アセチル基の置換度が約0.4〜約2.95の範囲であり;且つ極限粘度数が約0.2〜約1.6dl/g又は約0.2〜約0.9dl/gの範囲である。
【0087】
この方法によって製造されるカルボキシル化セルロースアセテートブチレートは、ヒドロキシル基の置換度が約0.05〜約1.0の範囲であり;ブチリル基の置換度が約0.5〜約2.95の範囲であり;アセチル基の置換度が約0.4〜約2.95の範囲であり;且つ極限粘度数が約0.2〜約1.6dl/g又は約0.2〜約0.9dl/gの範囲であることができる。
【0088】
これらのカルボキシル化セルロースエステルは、多くの溶剤と相容性であることがわかっている。これらの溶剤としては、以下のものが挙げられるが、これらに限定するものではない。メタノール;塩化メチレン;ジアセトンアルコール;低級アルカン酸、例えば蟻酸、酢酸及びプロピオン酸;低級アルキルケトン、例えばアセトン、メチルエチルケトン、メチルプロピルケトン、メチルイソブチルケトン及びメチルn−アミルケトン;エステル、例えば酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸イソプロピル、酢酸n−プロピル、酢酸n−ブチル、酢酸2−エチルヘキシル、酢酸イソブチル、酢酸2−ブトキシ−エチル、酢酸1−メトキシ−2−プロピル、酢酸2−エトキシ−エチル、3−エトキシプロピオン酸エチル、イソ酪酸イソブチル及び2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオールモノイソブチレート;エーテル、例えばエチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、2−エトキシエタノール、2−プロポキシエタノール及び2−ブトキシエタノール並びにそれらの混合物。また、溶剤の混合物、例えばトルエン及び/又はキシレンとエタノールとの混合物並びにエタノールと酢酸エチル、酢酸1−メトキシ−2−プロピルなどのようなエステルとの混合物も使用できる。言うまでもなく、前述の列挙は網羅的なものではないが、これらのカルボキシ化セルロースエステルと共に使用できる溶剤の種類を示している。
【0089】
これらのカルボキシル化セルロールエステルはまた、種々の樹脂材料、例えば被覆及びインキ組成物に使用されるものと相容性であることがわかっている。これらのカルボキシル化セルロースエステルが相容性である樹脂の種類としては、熱可塑性アクリル樹脂、熱硬化性アクリル樹脂、シリコーン樹脂、アルキド樹脂、普通のセルロースエステル、ユリアホルムアルデヒド樹脂、メラミン樹脂、ウレタン樹脂、ニトロセルロース樹脂、不飽和の及び他の熱硬化性ポリエステル樹脂が挙げられるが、これらに限定するものではない。
【0090】
本発明によって有用な他の適当なカルボキシル化セルロースエステルとしては、米国特許第4,590.265号に記載されたものが挙げられ、この特許の開示を引用することによって全体を本明細書中に組み入れる。これらのカルボキシル化セルロースエステルは、普通のセルロースエステルをオゾンと反応させることによって製造する。これらのカルボキシル化セルロースエステルの製造において有用な具体的なセルロースエステルとしては、セルロースアセテート、セルロースプロピオネート、セルロースブチレート、セルロースアセテートブチレート、セルロースアセテートプロピオネート、それらの混合物などが挙げられる。
【0091】
これらのカルボキシル化セルロースエステルの製造においては、セルロースエステル出発原料が、オゾンとの反応に適当な形態で反応ゾーンに供給される。例えばセルロースエステルを適当な溶剤(即ち、セルロースエステル出発原料とカルボキシル化セルロースエステル生成物の両者が可溶であるもの)中の溶液の形態で、水性スラリーとして、又は好ましくは固体微粒子の形態で供給することが可能である。より好ましくは、セルロースエステルは粉末の形態で供給する。反応ゾーンにおいて、セルロースエステルは、オゾンを含む気体流と充分に接触させる。最も好ましくは、オゾンを含む気体流を、ディストリビュータープレート及びセルロースエステル粉末に通して、流動粉体を生成する。気体流は好ましくは、反応系中に存在する気体の総重量に基づき、少なくとも約0.25重量%のオゾンを含む。反応は約25〜80℃(好ましくは約50〜75℃)の温度で実施する。セルロースエステルは、カルボキシル化セルロールエステル生成物を生成するのに充分な期間、オゾンと反応させる。通常、望ましい生成物は、セルロースエステル出発原料をオゾンと、少なくとも0.5時間反応させることによって得られる。
【0092】
典型的には、これらのカルボキシル化セルロースエステル生成物は少なくとも約5の酸価を有する。典型的には、カルボキシル化セルロースエステルの酸価は約10〜約35、又は約15〜約30である。これらのカルボキシル化セルロースエステルは、生成物の分子量を間接的に測定することによって、例えばインヘレント粘度によって更に特徴づけることができる。これらのカルボキシル化セルロースエステルは典型的には、約0.01〜約1.00又は約0.05〜0.5のインヘレント粘度を示す。
【0093】
これらのエステルは、アセテート、ブチレート又はプロピオネート(これら全てを以下においてXAEと称する)を含み、総ポリマー重量に基づき、約0.05〜約20重量%のヒドロキシル基、約0.5〜約44重量%のアセチル基、0〜約54重量%のブチリル基、0〜約47重量%のプロピオニル基、約0.4〜約4.0重量%の総カルボキシル基を含む環置換基を有するアンヒドログルコース単位のポリマー鎖と記載することができる(用語はそれらの水溶性又は水分散性塩を含む)。これらのカルボキシル基の約20〜100%、好ましくは約30〜100%は非鹸化性主鎖(BBC)である、即ち、それらのα−炭素においてアンヒドログルコース環に直接結合している。XAEは、XAEグラム当たりのラクトン部分(以下、「ラクトンレベル」と称する)を約4.52*10-5〜約6.13*10-4モル含む。一般に、XAEは更に、約5〜約50の酸価(AN)、約5〜約80のDP/COOH及び約0.07〜約0.45のI.V.(インヘレント粘度)を有するものとして特徴づけられる。
【0094】
セルロースのオゾン処理によって製造することができる他の適当なカルボキシル化セルロースエステルが知られている。例えばセルロースエステルのカルボキシル化方法は、I.D.Sandによって”The Properties and Applications of Ozonolyzed Cellulose Acetate Butyrate”,Polymer Material Science Engineering,1987,57〜63頁に記載されており、これを引用することによって本明細書中に組み入れる。この方法においては、セルロースアセテートブチレートのヒドロキシル基は、オゾンの存在下で酸化されて、酸化又はカルボキシル化セルロースアセテートブチレートが生成される。Sandによれば、カルボキシル化セルロースアセテートブチレートは、従来の非カルボキシル化セルロースアセテートブチレートよりも低い分子量を有する。その結果、カルボキシル化セルロースアセテートブチレートは、従来のセルロースアセテートブチレートよりも広範囲の溶剤中に可溶であり、且つより広範囲の樹脂と相溶性である。しかし、残念ながら、Sandによって記載されたオゾン処理は、カルボキシル基の他に、セルロースエステル中にペルオキシド、アルデヒド及びケトン官能基を生じる。
【0095】
同様に、欧州特許出願番号第138,703号(引用することによって本明細書中に組み入れる。)は、セルロースエステルとオゾンとを反応させることによるカルボキシル化セルロースエステルの製造方法を記載している。しかし、Sandによって記載された方法と同様に、この欧州特許出願によって記載された方法においても、セルロースエステル中にカルボキシル基の他にペルオキシド、アルデヒド及びケトン官能基が生成される。
【0096】
本発明に従って使用するのに適当な別の型のカルボキシル化セルロースエステルは、セルロースがジカルボン酸でエステル官能基化されたもの、例えば米国特許第2,768,161号、第2,856,400号及び第5,384,163号並びにこれらの特許中において引用された文献中に記載されたものであり、これらの全ての文献を引用することによって全体を本明細書中に組み入れる。この目的で有用なジカルボン酸又は無水物としては、フタル酸、コハク酸、マレイン酸及びそれらの無水物並びにこれらの混合物が挙げられると考えられる。
【0097】
同様に、不飽和側基を有するカルボキシル化セルロースエステル、例えば米国特許第5,981,738号(この特許開示を引用することによって全体を本明細書中に組み入れる)に開示されたものが、本発明に従って使用するのに更に適当である。これらのエステルは、残留ヒドロキシル基を含むセルロースエステルを、例えば酢酸ナトリウム触媒を含む酢酸溶剤中でマレイン酸と反応させることによって製造できる。これらのセルロースエステルは、ホモ重合性ではなく、ビニル架橋剤及び光開始剤の存在下で、紫外線への暴露時に共重合し、その結果、木材、金属、プラスチック、紙、板、及び他の基材のための保護及び装飾被覆に有用である。
【0098】
水性自動車用ベースコート組成物
本発明の水性エステル分散液は、更に中和して水溶液とすることができ、この水溶液は、アルミニウムフレーク配向性、速い指触乾燥、流動性及びレベリング並びに欠陥の減少に関する性質の改良のために水性自動車用ベースコート系に添加剤として使用できる。本発明に従って製造された分散液中の有機溶剤含量の減少のため、被覆の外観又は性能に悪影響を及ぼすことなく、代表的な水性自動車用ベースコート中の総VOCを約50%低下させることができる。
【0099】
金属フレーク被覆組成物
例えばテレトロニック用途において使用する金属被覆において、製剤の固形分レベルは、金属フレークの配向性に著しい影響を与える。金属フレーク配向性は、種々の照明角度において被膜を観察し且つ一般に「フロップ」と称する見掛けの明るさを監視することによってはっきりと示される。固形分レベルの増加につれて、フレークの配合性はよりランダムになり、不均一な光沢及び外観をもたらす。典型的な金属被覆製剤は、満足できる金属フレーク配向性を得るのに、約20〜約30%のカルボキシル化セルロースエステルを必要とする。しかし、一部のカルボキシル化セルローエスエステルを配合すると、樹脂固形分に基づきわずか5%のカルボキシル化セルロースエステルを含み且つそれでも満足のいく金属フレーク配向性を有する金属被覆組成物を形成することができる。
【0100】
他の被覆組成物
他の実施態様においては、本発明に係る分散液を、水性木材用被覆、テレトロニック用途並びに水性建築用及び工業用保全被覆中に使用する。
【0101】
被覆製剤用添加剤
本発明の更なる態様として、前記組成物は更に1種又はそれ以上の被覆用添加剤からなることができる。このような添加剤は一般に、組成物の総重量に基づき、約0.1〜15重量%の範囲で存在する。このような被覆用添加剤の例としては、レベリング、レオロジー及び流動性調整剤、例えば、シリコーン樹脂、フルオロカーボン樹脂又はセルロース樹脂;艶消し剤;顔料湿潤及び分散剤;界面活性剤;紫外線吸収剤;紫外線安定剤;色味付け顔料;脱泡及び消泡剤;沈澱防止、垂れ防止及び粘度付与剤;皮張り防止剤;浮き色防止及び色別れ防止剤;殺真菌剤及びカビ駆除剤;腐蝕防止剤;増粘剤;又は融合助剤が挙げられる。
【0102】
その他の被覆用添加剤の具体例は、National Paint & Coatings Association(1500 Rhode Island Avenue,N.W.,Washington,D.C.20005)によって発行されたRaw Materials Indexに記載されている。
【0103】
艶消し剤の例としては、Davison Chemical Division of W.R.Grace & Companyから商標SYLOID(登録商標)として入手可能な合成シリカ;Hercules Inc.から商標HERCOFLAT(登録商標)として入手可能なポリプロピレン;J.M Huber Corporationから商標ZEOLEX(登録商標)として入手可能な合成シリケートが挙げられる。
【0104】
分散剤及び界面活性剤の例としては、ナトリウムビス(トリデシル)スルホスクシネート、ジ(2−エチルヘキシル)ナトリウムスルホスクシネート、ナトリウムジヘキシルスルホスクシネート、ナトリウムジシクロへキシルスルホスクシネート、ジアミルナトリウムスルホスクシネート、ナトリウムジイソブチルスルホスクシネート、二ナトリウムイソデシルスルホスクシネート、スルホコハク酸のエトキシル化アルコール半エステルの二ナトリウム塩、二ナトリウムアルキルアミドポリエトキシスルホスクシネート、四ナトリウムN−(1,2−ジカルボキシ−エチル)−N−オクタデシルスルホスクシナメート、二ナトリウムN−オクタスルホスクシナメート、硫酸化エトキシル化ノニルフェノール、2−アミノ−2−メチル−1−プロパノールなどが挙げられる。
【0105】
粘度、懸濁及び流動性調整剤の例としては、ポリアミノアミドホスフェート、ポリアミンアミドの高分子量カルボン酸塩及び不飽和脂肪酸のアルキルアミン塩が挙げられ、これらは全て、BYK Chemie U.S.A.から商標ANTI TERRA(登録商標)として入手可能である。更なる例としては、ポリシロキサンコポリマー、ポリアクリレート溶液、セルロースエステル、ヒドロキシエチルセルロース、疎水変性ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ポリアミドワックス、ポリオレフィンワックス、カルボキシメチルセルロース、ポリアクリル酸アンモニウム、ポリアクリル酸ナトリウム及びポリエチレンオキシドが挙げられる。
【0106】
いくつかの有標消泡剤が、例えば、Buckman Laboratories Inc.の商標BRUBREAKとして、BYK Chemie,U.S.AのBYK(登録商標)商標として、Henkel Corp./Coating ChemicalsのFOAMASTER(登録商標)及びNOPCO(登録商標)商標として、the Drew Industrial Division of Ashland Chemical CompanyのDREWPLUS(登録商標)商標として、Troy Chemical CorporationのTROYSOL(登録商標)及びTROYKYD(登録商標)商標として、並びにUnion Carbide CorporationのSAG(登録商標)商標として市販されている。
【0107】
殺真菌剤、カビ駆除剤及び殺生物剤の例としては、4,4−ジメチルオキサゾリジン、3,4,4−トリメチル−オキサゾリジン、改質メタホウ酸バリウム、カリウムN−ヒドロキシ−メチル−N−メチルジチオカルバメート、2−(チオシアノ−メチルチオ)ベンゾチアゾール、カリウムジメチルジチオカルバメート、アダマンタン、N−(トリクロロメチルチオ)フタルイミド、2,4,5,6−テトラクロロイソフタロニトリル、オルトフェニルフェノール、2,4,5−トリクロロフェノール、デヒドロ酢酸、ナフテン酸銅、オクタン酸銅、有機砒素、トリブチル錫オキシド、ナフテン酸亜鉛及び8−キノリン酸銅が挙げられる。
【0108】
紫外線吸収剤及び紫外線安定剤の例としては、置換ベンゾフェノン、置換ベンゾトリアゾール、ヒンダードアミン、及びヒンダートベンゾエート(American Cyanamide Companyから商品名Cyasorb UVとして、及びCiba Geigyから商標TINUVINとして入手できる)、並びにジエチル−3−アセチル−4−ヒドロキシ−ベンジル−ホスホネート、4−ドデシルオキシ−2−ヒドロキシベンゾフェノン及びレゾルシノールモノベンゾエートが挙げられる。
【0109】
本発明の被覆品を製造するためには、カルボキシル化セルロースエステルを含む被覆配合物を基材に適用することができ、更に、空気乾燥又は加熱乾燥させることができる。基材は、例えば木材;プラスチック;金属、例えば、アルミニウム又は鋼;厚紙;ガラス;セルロースアセテートブチレートシート材料;並びに、例えば、ポリプロピレン、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレートのようなポリエステル、アクリル樹脂シート材料を含む種々のブレンド、更に他の固体基材であることができる。
【0110】
本発明によって想定される被覆組成物への使用に適当な顔料は、表面被覆業界における通常の技術を有する者によく知られた典型的な有機及び無機顔料、特に、the Society of Dyers and Colouristsとthe American Association of Textile Chemists and Coloristsによって共同出版されたthe Colour Index,3d Ed.,2d Rev.,1982に記載されたものである。例としては以下のものが挙げられるが、これらに限定するものではない:CI Pigment White 6(二酸化チタン);CI Pigment Red 101(赤色酸化鉄);CI Pigment Yellow 42、CI Pigment Blue 15、15:1、15:2、15:3、15:4(銅フタロシアニン);CI Pgiment Red 49:1;及びCI Pigment Red 57:1。
【0111】
種々の溶剤の相対蒸発速度(酢酸n−ブチルに対して)のリストは、Eastman Chemical Company Publication M−167Y(October,2003),”Solvent Selector Chart”に記載されている。
【0112】
以下の用語は、この開示に反対の用語が他にないならば、示された意味を有する。
「中和剤」は、セルロースエステル上のカルボキシル官能価と共同して、水分散性を補助することができる組成物を意味する。本発明において有用な中和剤の例としては、アミン、アンモニア並びにNaOH及びKOHを含む金属水酸化物が挙げられる。本発明の重要な態様において、中和剤はアミン及び/又はアンモニアである。
【0113】
「界面活性剤を実質的に含まない」とは、約0.1重量%以下の界面活性剤を含む組成物を意味する。本発明の水性分散液は、有効量の界面活性剤を実質的に含まない場合でも、有効な被覆を提供することができる。
【0114】
本明細書中で使用するように、アミン、アンモニア又は他の塩基とカルボキシル基との反応生成物は「塩」を生成する。
【0115】
「溶剤」は、有機溶剤を意味する。
【0116】
「有機溶剤」は、約1気圧の圧力において約280℃以下の範囲の沸点を有する、炭素及び水素を含む(これらに限定するものではない)液体を意味する。
【0117】
「親水性溶剤」は水への溶解度が少なくとも約5%である溶剤を意味する。
【0118】
ポリマービヒクル、被覆配合物又はその成分に関する「分散液」は組成物が光散乱によって検出できる分散粒子及び液体を含むことを意味する。
【0119】
ポリマービヒクル、被覆配合物又はその成分に関する「溶解された」とは、溶解された材料が液体中に、単一分子よりも大きい粒子が光散乱によって検出され得る粒子の形態では存在しないことを意味する。
【0120】
「可溶性」とは、液体中に一部分又は完全に溶解できる液体又は固体を意味する。「混和性」とは、相互溶解性を有する液体を意味する。
【0121】
「酸価」は、セルロースエステルのような材料1g中に存在するイオン可能な基の中和又はそれとの反応に必要な水酸化カリウムのミリグラム数を意味する。
【0122】
「有効量の乳化剤を実質的に含まない」とは、樹脂固形分に基づき、約0.5重量%以下の乳化剤を含む組成物を意味する。本発明の水性分散液は有効量の乳化剤を実質的に含まないことができる。
【0123】
「有効量の界面活性剤を実質的に含まない」とは、樹脂固形分に基づき、0.5重量%以下の界面活性剤を含む組成物を意味する。本発明の水性分散液は、有効量の界面活性剤を実質的に含まないことができる。
【0124】
本明細書中で使用する用語「安定な水性分散液」は、約500ナノメーター未満の体積平均粒径を有する樹脂を含み且つ120°Fにおいて約2週間後に不可逆的に分離しない分散液を意味する。
【0125】
本発明は更に、その好ましい実施態様の以下の実施例によって説明することができるが、これらの実施例は単に説明のために記載するのであって、特に断らない限り、本発明の範囲を限定することを目的としないことは言うまでもない。
【実施例】
【0126】
例1(実施例)
本発明のカルボキシメチルセルロースアセテートブチレート(CMCAB)分散液の製造
CMCAB 641−0.5(Eastman Chemical Company,Kingsport,TNから入手可能)100.4gを、メチルエチルケトン(Aldrich MEK,相対蒸発速度3.8)376.3g及びエチレングリコールモノブチルエーテル(Eastman EB,Eastman Chemical Companyから入手可能,相対蒸発速度0.09)25.5gと32オンスのジャー中で合し、均質な溶液が得られるまで、一晩回転させた。CMCAB、MEK及びEBの前記溶液(502.2g)を、真空蒸留用に構成された凝縮器、受け器及びドライアイストラップと共に窒素パージ、熱電対及び機械的撹拌機を装着した2リットルの3つ口丸底フラスコに装填した。この丸底フラスコの下に、加熱マントルを設けた。フラスコ中の溶液を、穏やかに攪拌しながら、30℃に加熱した。ジメチルエタノールアミン1.94g(Aldrich−酸価60を有するCMCABの20%中和に相当する)と蒸留水375.0gとの混合物を調製し、20分にわたって丸底フラスコ中の溶液に滴加した。フラスコ中の分散液の温度を40℃に上昇させ、約25分間保持した。約250mmHgの真空をこの分散液に適用し、温度を2時間にわたって46℃の最終値まで非常に緩やかに上昇させ、同温度に約1.3時間保持した。固形分は約23%であることが測定され、これは、20%の目的固形分よりも高かった。目標固形分を得るために、穏やかに攪拌しながら蒸留水77.4gを分散液に添加した。得られた生成物を、固形分(19.7%)、pH(4.7)、粘度(65cP)、残留MEK含量(ガスクロマトグラフィーによる,0.01%未満)、体積平均粒径(275nm)及び50℃における熱安定性(2週間超)に関して分析した。溶剤含量の計算値は5.0%であった。
【0127】
例2(実施例)
本発明のカルボキシメチルセルロースアセテートブチレート(CMCAB)分散液の製造
CMCAB 641−0.5(Eastman Chemical)100.7gを、メチルエチルケトン(Aldrich MEK,相対蒸発速度3.8)376.3g及び3−メトキシブタノール(Celanese,相対蒸発速度0.08)25.5gと32オンスのジャー中で合し、均質な溶液が得られるまで、一晩回転させた。CMCAB、MEK及び3−メトキシブタノールの前記溶液(502.2g)を、真空蒸留用に構成された凝縮器、受け器及びドライアイストラップと共に窒素パージ、熱電対及び機械的撹拌機を装着した2リットルの3つ口丸底フラスコに装填した。この丸底フラスコの下に、加熱マントルを設けた。フラスコ中の溶液を、穏やかに攪拌しながら、30℃に加熱した。ジメチルエタノールアミン1.94g(Aldrich−酸価60を有するCMCABの20%中和に相当する)と蒸留水375.0gとの混合物を調製し、17分にわたって丸底フラスコ中の溶液に滴加した。フラスコ中の分散液の温度を40℃に上昇させ、約48分間保持した。約225mmHgの真空をこの分散液に適用し、温度を約2時間にわたって45℃の最終値まで非常に緩やかに上昇させ、同温度に約1.5時間保持した。固形分は約23%であることが測定され、これは、20%の目的固形分よりも高かった。目標固形分を得るために、穏やかに攪拌しながら蒸留水66.3gを分散液に添加した。得られた生成物を、固形分(19.8%)、pH(5.2)、粘度(63cP)、残留MEK含量(ガスクロマトグラフィーによる,0.01%未満)、体積平均粒径(330nm)及び50℃における熱安定性(4週間超)に関して分析した。溶剤含量の計算値は5.0%であった。
【0128】
例3(実施例)
本発明のカルボキシメチルセルロースアセテートブチレート(CMCAB)分散液の製造
CMCAB 641−0.5(Eastman Chemical Company)100.4gを、メチルエチルケトン(Aldrich MEK,相対蒸発速度3.8)376.3g及びプロピレングリコールモノプロピルエーテル(Dowanol(登録商標)PnP,相対蒸発速度0.2)25.5gと32オンスのジャー中で合し、均質な溶液が得られるまで、一晩回転させた。CMCAB、MEK及びプロピレングリコールモノプロピルエーテルの前記溶液(502.2g)を、真空蒸留用に構成された凝縮器、受け器及びドライアイストラップと共に窒素パージ、熱電対及び機械的撹拌機を装着した2リットルの3つ口丸底フラスコに装填した。この丸底フラスコの下に、加熱マントルを設けた。フラスコ中の溶液を、穏やかに攪拌しながら、30℃に加熱した。ジメチルエタノールアミン1.94g(Aldrich−酸価60を有するCMCABの20%中和に相当する)と蒸留水375.0gとの混合物を調製し、20分にわたって丸底フラスコ中の溶液に滴加した。フラスコ中の分散液の温度を40℃に上昇させ、約45分間保持した。約220mmHgの真空をこの分散液に適用し、温度を約2時間にわたって45℃の最終値まで非常に緩やかに上昇させ、同温度に約35分間保持した。固形分は約22%であることが測定され、これは、20%の目的固形分よりも高かった。目標固形分を得るために、穏やかに攪拌しながら蒸留水48.5gを分散液に添加した。得られた生成物を、固形分(19.2%)、pH(5.2)、粘度(133cP)、残留MEK含量(ガスクロマトグラフィーによる,0.01%未満)、体積平均粒径(396m)及び50℃における熱安定性(約3週間)に関して分析した。溶剤含量の計算値は5.0%であった。
【0129】
例4(実施例)
本発明のカルボキシメチルセルロースアセテートブチレート(CMCAB)分散液の製造
CMCAB 641−0.5(Eastman Chemical Company)100.7gを、メチルエチルケトン(Aldrich MEK,相対蒸発速度3.8)376.3g及びプロピレングリコールモノブチルエーテル(Lyondell PnB,相対蒸発速度0.08)25.5gと32オンスのジャー中で合し、均質な溶液が得られるまで、一晩回転させた。CMCAB、MEK及びプロピレングリコールモノブチルエーテルの前記溶液(502.2g)を、真空蒸留用に構成された凝縮器、受け器及びドライアイストラップと共に窒素パージ、熱電対及び機械的撹拌機を装着した2リットルの3つ口丸底フラスコに装填した。この丸底フラスコの下に、加熱マントルを設けた。フラスコ中の溶液を、穏やかに攪拌しながら、30℃に加熱した。ジメチルエタノールアミン1.94g(Aldirich−酸価60を有するCMCABの20%中和に相当する)と蒸留水375.0gとの混合物を調製し、20分にわたって丸底フラスコ中の溶液に滴加した。フラスコ中の分散液の温度を40℃に上昇させ、30分間保持した。約230mmHgの真空をこの分散液に適用し、温度を約2時間にわたって45℃の最終値まで非常に緩やかに上昇させ、同温度に約1.3時間保持した。固形分は約22%であることが測定され、これは、20%の目的固形分よりも高かった。目標固形分を得るために、穏やかに攪拌しながら蒸留水44.4gを分散液に添加した。得られた生成物を、固形分(19.6%)、pH(5.2)、粘度(531cP)、残留MEK含量(ガスクロマトグラフィーによる,0.12%未満)、体積平均粒径(385m)及び50℃における熱安定性(約2週間)に関して分析した。溶剤含量の計算値は5.1%であった。
【0130】
例5(実施例)
本発明のカルボキシメチルセルロースアセテートブチレート(CMCAB)分散液の製造
CMCAB 641−0.2(Eastman Chemical Company)100.6gを、メチルエチルケトン(Aldrich MEK,相対蒸発速度3.8)350.0g及びエチレングリコールモノブチルエーテル(Eastman EB,相対蒸発速度0.09)50.1gと32オンスのジャー中で合し、均質な溶液が得られるまで、一晩回転させた。CMCAB、MEK及びEBの前記溶液(500.7g)を、真空蒸留用に構成された凝縮器、受け器及びドライアイストラップと共に窒素パージ、添加用漏斗、熱電対及び機械的撹拌機を装着した1リットルの4つ口丸底フラスコに装填した。この丸底フラスコの下に、加熱マントルを設けた。フラスコ中の溶液を、穏やかに攪拌しながら、30℃に加熱した。ジメチルエタノールアミン1.45g(Aldrich−酸価60を有するCMCABの15%中和に相当する)を、丸底フラスコ中の溶液にゆっくりと添加した。蒸留水350.6gを約30分にわたって丸底フラスコ中の溶液に滴加した。分散液を約2.5時間、穏やかに攪拌しながら30℃に保持した。約255mmHgの真空をこの分散液に適用し、温度を約1.3時間にわたって50℃の最終値まで非常に緩やかに上昇させ、同温度に更に2時間保持した。固形分は約29%であることが測定され、これは、20%の目的固形分よりも高かった。目標固形分を得るために、穏やかに攪拌しながら蒸留水155.0gを分散液に添加した。得られた生成物を、固形分(19.5%)、pH(5.7)、粘度(16.1cP)、残留MEK含量(ガスクロマトグラフィーによる,約0.07%)、体積平均粒径(151m)及び50℃における熱安定性(約3週間)に関して分析した。溶剤含量の計算値は10.07%であった。
【0131】
例6(実施例)
本発明のカルボキシメチルセルロースアセテートブチレート(CMCAB)分散液の製造
CMCAB 641−0.5(Eastman Chemical)100.2gを、メチルエチルケトン(Aldrich MEK,相対蒸発速度3.8)352.6g及びエチレングリコールモノブチルエーテル(Eastman EB,相対蒸発速度0.09)50.4gと32オンスのジャー中で合し、均質な溶液が得られるまで、一晩回転させた。CMCAB、MEK及びEBの前記溶液(503.2g)を、真空蒸留用に構成された凝縮器、受け器及びドライアイストラップと共に窒素パージ、添加用漏斗、熱電対及び機械的撹拌機を装着した1リットルの4つ口丸底フラスコに装填した。この丸底フラスコの下に、加熱マントルを設けた。フラスコ中の溶液を、穏やかに攪拌しながら、30℃に加熱した。2−アミノ−2−メチル−1−プロパノール1.44g(Angus AMP−95(登録商標)−酸価60を有するCMCABの15%中和に相当する)を、丸底フラスコ中の溶液にゆっくりと添加した。蒸留水350.9gを約30分にわたって丸底フラスコ中の溶液に滴加した。分散液を約1.5時間、穏やかに攪拌しながら30℃に保持した。約275mmHgの真空をこの分散液に適用し、温度を約1.5時間にわたって50℃の最終値まで非常に緩やかに上昇させ、同温度に更に45分間保持した。固形分は約35%であることが測定され、これは、20%の目的固形分よりも高かった。目標固形分を得るために、穏やかに攪拌しながら蒸留水214.0gを分散液に添加した。得られた生成物を、固形分(18.9%)、pH(5.5)、粘度(17.7cP)、残留MEK含量(ガスクロマトグラフィーによる,0.01%未満)、体積平均粒径(398m)及び50℃における熱安定性(約3週間)に関して分析した。溶剤含量の計算値は10.0%であった。
【0132】
例7(実施例)
本発明のカルボキシメチルセルロースアセテートブチレート(CMCAB)分散液の製造
CMCAB 641−0.5(Eastman Chemical)100.4gを、アセトン(Aldrich,相対蒸発速度6.3)376.3g及びエチレングリコールモノブチルエーテル(Eastman EB,相対蒸発速度0.09)25.5gと32オンスのジャー中で合し、均質な溶液が得られるまで、一晩回転させた。CMCAB、アセトン及びEBの前記溶液(502.2g)を、真空蒸留用に構成された凝縮器、受け器及びドライアイストラップと共に窒素パージ、熱電対及び機械的撹拌機を装着した2リットルの3つ口丸底フラスコに装填した。この丸底フラスコの下に、加熱マントルを設けた。フラスコ中の溶液を、穏やかに攪拌しながら、30℃に加熱した。ジメチルエタノールアミン1.94g(Aldrich−酸価60を有するCMCABの20%中和に相当する)と蒸留水375.0gとの混合物を調製し、18分かけて、丸底フラスコ中の溶液に滴加した。フラスコ中の分散液の温度を35℃に上昇させ、同温度に約30分間保持した。約230mmHgの真空をこの分散液に適用し、温度を約1.5時間にわたって38℃の最終値まで非常に緩やかに上昇させ、同温度に約15分間保持した。固形分は約21%であることが測定され、これは、20%の目的固形分よりも高かった。目標固形分を得るために、穏やかに攪拌しながら蒸留水27.0gを分散液に添加した。得られた生成物を、固形分(19.8%)、pH(4.3)、粘度(31.9cP)、残留アセトン含量(ガスクロマトグラフィーによる,約0.3%)、体積平均粒径(151m)及び50℃における熱安定性(約4週間)に関して分析した。溶剤含量の計算値は5.3%であった。
【0133】
例8(実施例)
本発明のカルボキシメチルセルロースアセテートブチレート(CMCAB)分散液の製造
CMCAB 641−0.5(Eastman Chemical Company)100.6gを、アセトン(Aldrich,相対蒸発速度6.3)376.3g及び3−メトキシブタノール(Celanese,相対蒸発速度0.08)25.5gと32オンスのジャー中で合し、均質な溶液が得られるまで、一晩回転させた。CMCAB、アセトン及び3−メトキシブタノールの前記溶液(502.4g)を、真空蒸留用に構成された凝縮器、受け器及びドライアイストラップと共に窒素パージ、熱電対及び機械的撹拌機を装着した2リットルの3つ口丸底フラスコに装填した。この丸底フラスコの下に、加熱マントルを設けた。フラスコ中の溶液を、穏やかに攪拌しながら、30℃に加熱した。ジメチルエタノールアミン1.94g(Aldrich−酸価60を有するCMCABの20%中和に相当する)と蒸留水375.0gとの混合物を調製し、20分かけて、丸底フラスコ中の溶液に滴加した。フラスコ中の分散液の温度を40℃に上昇させ、同温度に45分間保持した。約230mmHgの真空をこの分散液に適用し、温度を約1時間にわたって45℃の最終値まで非常に緩やかに上昇させ、同温度に更に1時間保持した。固形分は約21%であることが測定され、これは、20%の目的固形分よりも高かった。目標固形分を得るために、穏やかに攪拌しながら蒸留25.0gを分散液に添加した。得られた生成物を、固形分(19.9%)、pH(5.1)、粘度(411cP)、残留アセトン含量(ガスクロマトグラフィーによる,約0.3%)、体積平均粒径(262m)及び50℃における熱安定性(約4週間)に関して分析した。溶剤含量の計算値は5.3%であった。
【0134】
例9(実施例)
本発明のカルボキシメチルセルロースアセテートブチレート(CMCAB)分散液の製造
CMCAB 641−0.5(Eastman Chemical Company)100.4gを、アセトン(Aldrich,相対蒸発速度6.3)376.3g及びプロピレングリコールモノプルピルエーテル(Dowanol(登録商標)PnP,相対蒸発速度0.2)25.5gと32オンスのジャー中で合し、均質な溶液が得られるまで、一晩回転させた。CMCAB、アセトン及びプロピレングリコールモノプルピルエーテルの前記溶液(502.2g)を、真空蒸留用に構成された凝縮器、受け器及びドライアイストラップと共に窒素パージ、熱電対及び機械的撹拌機を装着した2リットルの3つ口丸底フラスコに装填した。この丸底フラスコの下に、加熱マントルを設けた。フラスコ中の溶液を、穏やかに攪拌しながら、30℃に加熱した。ジメチルエタノールアミン1.94g(Aldrich−酸価60を有するCMCABの20%中和に相当する)と蒸留水375.0gとの混合物を調製し、20分かけて、丸底フラスコ中の溶液に滴加した。フラスコ中の分散液の温度を40℃に上昇させ、同温度に40分間保持した。約230mmHgの真空を約1.6時間この分散液に適用した。固形分は約21%であることが測定され、これは、20%の目的固形分よりも高かった。目標固形分を得るために、穏やかに攪拌しながら蒸留24.7gを分散液に添加した。得られた生成物を、固形分(19.8%)、pH(5.4)、粘度(811cP)、残留アセトン含量(ガスクロマトグラフィーによる,約0.4%)、体積平均粒径(243nm)及び50℃における熱安定性(約2週間)に関して分析した。溶剤含量の計算値は5.4%であった。
【0135】
例10(実施例)
本発明のカルボキシメチルセルロースアセテートブチレート(CMCAB)分散液の製造
CMCAB 641−0.5(Eastman Chemical Company)100.8gを、アセトン(Aldrich,相対蒸発速度6.3)376.3g及びプロピレングリコールモノブチルエーテル(Lyondell PnB,相対蒸発速度0.08)25.5gと32オンスのジャー中で合し、均質な溶液が得られるまで、一晩回転させた。CMCAB、アセトン及びプロピレングリコールモノブチルエーテルの前記溶液(502.6g)を、真空蒸留用に構成された凝縮器、受け器及びドライアイストラップと共に窒素パージ、熱電対及び機械的撹拌機を装着した2リットルの3つ口丸底フラスコに装填した。この丸底フラスコの下に、加熱マントルを設けた。フラスコ中の溶液を、穏やかに攪拌しながら、30℃に加熱した。ジメチルエタノールアミン1.94g(Aldrich−酸価60を有するCMCABの20%中和に相当する)と蒸留水375.0gとの混合物を調製し、20分かけて丸底フラスコ中の溶液に滴加した。フラスコ中の分散液の温度を40℃に上昇させ、同温度に25分間保持した。約225mmHgの真空を約2時間この分散液に適用した。固形分は約21%であることが測定され、これは、20%の目的固形分よりも高かった。目標固形分を得るために、穏やかに攪拌しながら蒸留水24.7gを分散液に添加した。得られた生成物を、固形分(19.9%)、pH(5.2)、粘度(204cP)、残留アセトン含量(ガスクロマトグラフィーによる,約0.5%)、体積平均粒径(180nm)及び50℃における熱安定性(3週間超)に関して分析した。溶剤含量の計算値は5.5%であった。
【0136】
例11(比較例)
比較的揮発性でないカップリング溶剤を用いないCMCAB分散液の製造
CMCAB 641−0.5(Eastman Chemical Company)100.4gを、メチルエチルケトン(Aldrich MEK,相対蒸発速度3.8)400.0gと32オンスのジャー中で合し、均質な溶液が得られるまで、一晩回転させた。CMCAB及びMEKの前記溶液(500.4g)を、真空蒸留用に構成された凝縮器、受け器及びドライアイストラップと共に窒素パージ、熱電対、添加用漏斗及び機械的撹拌機を装着した2リットルの3つ口丸底フラスコに装填した。この丸底フラスコの下に、加熱マントルを設けた。フラスコ中の溶液を、穏やかに攪拌しながら、30℃に加熱した。ジメチルエタノールアミン1.94g(Aldrich−酸価60を有するCMCABの20%中和に相当する)と蒸留水400.0gとの混合物を、25分かけて穏やかに攪拌しながら丸底フラスコ中の溶液に滴加した。フラスコ中の分散液の温度を40℃に上昇させ、同温度に40分間保持した。約235mmHgの真空をこの分散液に適用し、温度を2時間にわたって約50℃の温度まで非常に緩やかに上昇させた。約50℃で約10分後、分散液は不安定になり、ゼラチン状の白色塊が形成された。
【0137】
例12(比較例)
比較的揮発性でない非カップリング溶剤を含むCMCAB分散液の製造
CMCAB 641−0.5(Eastman Chemical Company)100.4gを、2,2,4−トリメチルペンタンジオール1,3−モノイソブチレート(Texanol(登録商標)エステル−アルコール−Eastman Chemical,相対蒸発速度0.002)25.0g及びメチルエチルケトン(Aldrich MEK,相対蒸発速度3.8)375.0gと32オンスのジャー中で合し、均質な溶液が得られるまで、一晩回転させた。CMCAB及びMEKの前記溶液(500.4g)を、真空蒸留用に構成された凝縮器、受け器及びドライアイストラップと共に窒素パージ、熱電対、添加用漏斗及び機械的撹拌機を装着した2リットルの3つ口丸底フラスコに装填した。この丸底フラスコの下に、加熱マントルを設けた。フラスコ中の溶液を、穏やかに攪拌しながら、30℃に加熱した。ジメチルエタノールアミン1.94g(Aldrich−酸価60を有するCMCABの20%中和に相当する)と蒸留水375.0gとの混合物を、20分かけて穏やかに攪拌しながら丸底フラスコ中の溶液に滴加した。フラスコ中の分散液の温度を40℃に上昇させ、同温度に30分間保持した。約250mmHgの真空をこの分散液に適用し、温度を1.5時間にわたって約43℃の温度まで非常に緩やかに上昇させた。固形分は約19.3%であることが測定され、これは20%の目的固形分よりも低かった。真空を約250mmHgで再び適用し、残留MEKをストリップするために、温度を45℃に上昇させた。約45℃で約30分後、分散液は不安定になり、ゼラチン状の白色塊が形成された。
【0138】
例13(比較例)
2種の比較的揮発性でない非カップリング溶剤のブレンドを含むCMCAB分散液の製造
CMCAB 641−0.5(Eastman Chemical Company)100.1gを、メチルエチルケトン(Aldrich MEK,相対蒸発速度3.8)377.1g、2,2,4−トリメチルペンタンジオール1,3−モノイソブチレート(Texanol(登録商標)エステル−アルコール−Eastman Chemical Company,相対蒸発速度0.002)14.1g及びn−メチルピロリドン(Aldrich,相対蒸発速度0.06)12.0gと32オンスのジャー中で合し、均質な溶液が得られるまで、一晩回転させた。2種の非カップリング溶剤のブレンド比は、エチレングリコールモノブチルエーテルの溶解度パラメーターに非常に近くなるように選択した。CMCAB、MEK、2,2,4−トリメチルペンタンジオール1,3−モノイソブチレート及びn−メチルピロリドンの前記溶液(503.3g)を、真空蒸留用に構成された凝縮器、受け器及びドライアイストラップと共に窒素パージ、添加用漏斗、熱電対及び機械的撹拌機を装着した1リットルの4つ口丸底フラスコに装填した。この丸底フラスコの下に、加熱マントルを設けた。フラスコ中の溶液を、穏やかに攪拌しながら、30℃に加熱した。2−アミノ−2−メチル−1−プロパノール1.44g(Angus AMP−95(登録商標)−酸価60を有するCMCABの15%中和に相当する)を、ゆっくりと丸底フラスコ中の溶液に添加した。粘稠な白色の膜の外観が、溶液の表面に確認された。蒸留水350.9gを、丸底フラスコ中の溶液に約30分かけて滴加した。分散液を約1時間、穏やかに攪拌しながら30℃に保持した。約295mmHgの真空をこの分散液に適用し、温度を約2時間にわたって50℃の最終値まで非常に緩やかに上昇させ、更に45分間同温度に保持した。固形分は約30.4%であることが測定され、これは20%の目的固形分よりも高かった。目標固形分を得るために、穏やかに攪拌しながら蒸留166.0gを分散液に添加した。得られた生成物は極めて粘稠であったが、それにもかかわらず、固形分(19.5%)、pH(5.5)、粘度(非常に高い)、残留MEK含量(ガスクロマトグラフィーによる,0.02%)、及び体積平均粒径(788nm)に関して分析した。分散液は室温で数日以内に沈降し始めたので、50℃における熱安定性は測定できなかった。溶剤含量の計算値は5.02%であった。
【0139】
例14(比較例)
従来の分散法によるCMCAB分散液の製造
CMCAB 641−0.5(Eastman Chemical)60.0gを、エチレングリコールモノブチルエーテル(Eastman EB,相対蒸発速度0.09)60.0g、イソプロピルアルコール(Aldrich,相対蒸発速度1.7)40.0g及びメチルプロピルケトン(Eastman MPK,相対蒸発速度2.3)40.0gと16オンスのジャー中で合し、均質な溶液が得られるまで、一晩回転させた。CMCAB、EB、イソプロピルアルコール及びMPKの前記溶液(200.0g)を、機械的撹拌機及び添加用漏斗を装着した1リットルの4つ口丸底フラスコに装填した。ジメチルエタノールアミン1.14g(Aldrich−酸価60を有するCMCABの20%中和に相当する)と蒸留水200.0gとの混合物を、約10分間激しく攪拌しながら丸底フラスコ中の溶液に滴加した。得られた分散液を、粘度(5000cP)、体積平均粒径(250nm)及び50℃における熱安定性(4週間超)について分析した。固形分の計算値は15%であった。溶剤含量の計算値は35%であった。
【0140】
例15(実施例)
例10のCMCAB分散液からの水性自動車用ベースコートの製造
例10からのCMCAB分散液を、Haywardフィルターバッグ(PE100PN164)を通して濾過した。ジメチルエタノールアミン(Aldrich)約1.52gを蒸留水約82gと予備混合した。この量のアミンは、固形分20%のCMCAB分散液100g中に残っている酸基の残りの80%を中和するのに充分である。工程2からのアミン/水混合物を、濾過されたCMCAB分散液(工程1から)約100gに適度に攪拌しながらゆっくりと添加して、100%完全に中和されたCMCAB水溶液を固形分約11%で生成した。この水溶液の粘度は約22,000cPであり、pHは7.2であった。このCMCAB水溶液は、以下の配合表を用いて水性自動車用ベースコート中に混和した:
【0141】
【表1】

【0142】
前記配合表からの成分は全て、適度に攪拌しながら混合し、蒸留水56.0g中で粘度を低下させた(#4Frodカップ上で約18〜20秒まで)。pHが8.0に達するまで、水性自動車用ベースコート製剤中に穏やかに攪拌しながら、2−アミノ−2−メチル−1−プロパノール(Angus AMP−95(登録商標))を添加した。次いで、水性自動車用ベースコートを金属パネルに吹き付け、続いて60℃において10分間フラッシュさせた。DuPont Chroma Premier(登録商標)2Kウレタンクリヤーコートを続いて2層適用し、120℃で30分間加熱乾燥させた。X−Rite(登録商標)MA6811 Portable Multiple−Angle Spectrophotometerを用いてフロップの測定を行った。クリヤーコート適用前のサンプルについては、17.4の優れた平均フロップ値が得られ、クリヤーコート適用後には、14.6の値が観察された。
【0143】
本発明を、特にその好ましい実施態様に関して詳述したが、本発明の精神及び範囲内において変形及び変更が可能であることは言うまでもない。特殊な用語を用いたが、それらは一般的且つ説明的な意味でのみ使用し、限定を目的としない。本発明の範囲は、添付した「特許請求の範囲」に記載されたものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
i)a)カルボキシル化セルロースエステル、
b)相対蒸発速度が少なくとも1.0で且つ水への溶解度が少なくとも5重量%である揮発性親水性有機溶剤、
c)相対蒸発速度が0.5未満で且つ水への溶解度が少なくとも3重量%であるカップリング溶剤、
d)カルボキシル化セルロースエステル上に存在するカルボキシル基の少なくとも一部を中和するのに充分な量で存在する中和剤、及び
e)水
を含んでなる液体混合物を調製し;そして
ii)揮発性親水性有機溶剤を揮発させてカルボキシル化セルロースエステルの水性分散液を得るのに充分な量で加熱若しくは真空又は両者を適用する
ことを含んでなるカルボキシル化セルロースエステルの水性分散液の製造方法。
【請求項2】
熱及び任意的な真空の適用量が中和剤、水又はカップリング剤を実質的に揮発させない請求項1に記載の方法。
【請求項3】
熱を適用し、液体混合物の温度を75℃以下にする請求項1に記載の方法。
【請求項4】
液体混合物の調製が1種又はそれ以上の揮発性親水性有機溶剤又はカップリング溶剤にセルロースエステルを溶解させる工程を含む請求項1に記載の方法。
【請求項5】
液体混合物の調製が中和剤と水とを混合する工程を含む請求項1に記載の方法。
【請求項6】
カルボキシル化セルロースエステルを1種又はそれ以上の親水性有機溶剤又はカップリング溶剤に溶解させ;
前記セルロースエステル溶液に中和剤を添加し;そして
得られた混合物に水を添加する
ことを含む方法によって前記液体混合物を調製する請求項1に記載の方法。
【請求項7】
カルボキシル化セルロースエステルを1種又はそれ以上の親水性有機溶剤又はカップリング溶剤に溶解させ;
親水性有機溶剤又はカップリング溶剤の残りの量を全て添加してセルロースエステル溶液を得;
水に中和剤を添加し;そして
中和剤と水との混合物を前記セルロースエステル溶液に添加する
ことを含む方法によって前記液体混合物を調製する請求項1に記載の方法。
【請求項8】
水に中和剤を添加し;
カルボキシル化セルロースエステルを1種又はそれ以上の親水性有機溶剤又はカップリング溶剤に溶解させ、その後、溶剤の残りの量を全て添加して、セルロースエステル溶液を得;そして
中和剤の混合物又は中和剤と水との混合物を前記セルロースエステル溶液に添加する
ことを含む方法によって前記液体混合物を調製する請求項1に記載の方法。
【請求項9】
カルボキシル化セルロースエステルを親水性有機溶剤とカップリング溶剤とのブレンド中に溶解させて、セルロースエステル溶液を得;
中和剤を前記セルロースエステル溶液に添加して、セルロースエステルの塩溶液を得;そして
水を前記塩溶液に添加して、液体混合物を得る
ことを含む方法によって前記液体混合物を調製する請求項1に記載の方法。
【請求項10】
液体混合物の調製が中和剤を1種又はそれ以上の親水性有機溶剤又はカップリング溶剤に添加する工程を含む請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記カルボキシル化セルロースエステルが少なくとも25重量%の濃渡において親水性有機溶剤に可溶性である請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記親水性有機溶剤がメタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、アセトン、メチルエチルケトン、メチルプロピルケトン、テトラヒドロフラン又はジオキサンの1種又はそれ以上を含む請求項1に記載の方法。
【請求項13】
前記親水性有機溶剤が2〜10の相対蒸発速度を有する請求項1に記載の方法。
【請求項14】
前記親水性有機溶剤が少なくとも10重量%の水への溶解度を有する請求項1に記載の方法。
【請求項15】
前記親水性有機溶剤が液体混合物中にカルボキシル化セルロースエステル1部当たり1〜5部の量で存在する請求項1に記載の方法。
【請求項16】
前記カルボキシル化セルロースエステルがカップリング溶剤中に少なくとも25重量%の濃度で可溶性である請求項1に記載の方法。
【請求項17】
前記カップリング溶剤が0.001〜0.5の相対蒸発速度を有する請求項1に記載の方法。
【請求項18】
前記カップリング溶剤が少なくとも5重量%の水への溶解度を有する請求項1に記載の方法。
【請求項19】
前記カップリング溶剤がエチレングリコールモノプロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、3−メトキシブタノール、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノプロピルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノプロピルエーテル又はジプロピレングリコールモノブチルエーテルの1種又はそれ以上を含む請求項1に記載の方法。
【請求項20】
前記カップリング溶剤が液体混合物中にカルボキシル化セルロースエステル1部当たり0.1〜0.5部の量で存在する請求項1に記載の方法。
【請求項21】
前記中和剤が1種又はそれ以上のアンモニア又はアミンを含む請求項1に記載の方法。
【請求項22】
前記中和剤がジメチルエタノールアミン、トリエタノールアミン、2−アミノ−2−メチル−1−プロパノール、アンモニア、ピペリジン、4−エチルモルホリン、ジエタノールアミン、エタノールアミン、トリブチルアミン、ジブチルアミン、水酸化カリウム又は水酸化ナトリウムの1種又はそれ以上を含む請求項1に記載の方法。
【請求項23】
カルボキシル化セルロースエステルのカルボキシル部分の5〜50%を中和するのに充分な量で前記中和剤を供給する請求項1に記載の方法。
【請求項24】
前記カルボキシル化セルロースエステルが20〜120の酸価を有する請求項1に記載の方法。
【請求項25】
前記カルボキシル化セルロースエステルが1.3〜2.8のアンヒドログルコース単位当たりのエステル置換度を有する請求項1に記載の方法。
【請求項26】
前記カルボキシル化セルロースエステルがカルボキシアルキルセルロースエステルである請求項1に記載の方法。
【請求項27】
前記カルボキシル化セルロースエステルがフェノール/テトラクロロエタンの60/40(重量/重量)溶液中で25℃において測定したインヘレント粘度が0.05〜2.0である請求項1に記載の方法。
【請求項28】
前記カルボキシル化セルロースエステルがカルボキシメチルセルロースアセテート、カルボキシメチルセルロースブチレート又はカルボキシメチルセルロースプロピオネートの1種又はそれ以上を含む請求項1に記載の方法。
【請求項29】
セルロースエステルとオゾンとを反応させることによって前記カルボキシル化セルロースエステルを製造する請求項1に記載の方法。
【請求項30】
前記セルロースエステルがセルロースアセテート、セルロースプロピオネート、セルロースブチレート、セルロースアセテートブチレート又はセルロースアセテートプロピオネートの1種又はそれ以上を含む請求項29に記載の方法。
【請求項31】
セルロースとジカルボン酸とを反応させることによって前記カルボキシル化セルロースエステルを製造する請求項1に記載の方法。
【請求項32】
得られる水性分散液が3〜10重量%の有機溶剤含量を含む請求項1に記載の方法。
【請求項33】
得られる水性分散液が実質的に界面活性剤を含まない請求項1に記載の方法。
【請求項34】
得られる水性分散液が3〜7のpHを有する請求項1に記載の方法。
【請求項35】
得られる水性分散液が50nm〜500nmの体積平均粒径を有する請求項1に記載の方法。
【請求項36】
得られる水性分散液が5〜40重量%の固形分を有する請求項1に記載の方法。
【請求項37】
得られる水性分散液がカルボキシル化セルロースエステル1部当たり0.1〜0.5部の量の有機溶剤含量を有する請求項1に記載の方法。
【請求項38】
i)a)カルボキシル化セルロースエステル、
b)相対蒸発速度が少なくとも1.0で且つ水への溶解度が少なくとも5重量%である揮発性親水性有機溶剤、
c)相対蒸発速度が0.5未満で且つ水への溶解度が少なくとも3重量%であるカップリング溶剤、
d)カルボキシル化セルロースエステルに存在するカルボキシル基の少なくとも一部を中和するのに充分な量で存在する中和剤、及び
e)水
を含む液体混合物を調製し;そして
ii)揮発性親水性有機溶剤を揮発させてカルボキシル化セルロースエステルの水性分散液を得るのに充分な量で加熱又は真空の少なくとも一方を適用する
ことを含んでなる方法によって製造されるカルボキシル化セルロースエステルの水性分散液。
【請求項39】
請求項38の水性分散液を含む水性被覆組成物。
【請求項40】
前記組成物がレベリング、レオロジー及び流動性調整剤;艶消し剤;顔料湿潤及び分散剤;界面活性剤;紫外線吸収剤;紫外線安定剤;色味付け顔料;脱泡及び消泡剤;沈澱防止、垂れ防止及び粘度付与剤;皮張り防止剤;浮き色防止及び色別れ防止剤;殺真菌剤及びカビ駆除剤;腐蝕防止剤;増粘剤;又は融合助剤の1種又はそれ以上を更に含む請求項39に記載の水性被覆組成物。

【公表番号】特表2007−528436(P2007−528436A)
【公表日】平成19年10月11日(2007.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−502945(P2007−502945)
【出願日】平成17年3月9日(2005.3.9)
【国際出願番号】PCT/US2005/007691
【国際公開番号】WO2005/090499
【国際公開日】平成17年9月29日(2005.9.29)
【出願人】(594055158)イーストマン ケミカル カンパニー (391)
【Fターム(参考)】