説明

カルボン酸−ジケトン複合系希土類金属錯体

【課題】希土類金属イオンに由来する単色性の良い発光を示し、かつ、有機溶媒への溶解性、耐熱性、蒸着性などに優れた希土類金属錯体を提供すること。
【解決手段】式(1)で示されるカルボン酸リガンドと、式(2)で示される1,3−ジケトン化合物リガンドと、3価の希土類金属と、からなるカルボン酸−ジケトン複合系希土類金属錯体。


(式中、Aは、Zで置換されていてもよいベンゼン環等を、R1およびR2はそれぞれ独立して水素原子等を、R3およびR4は、それぞれ独立して炭素数1〜10のアルキル基等を、Zは、ハロゲン原子等を表す。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カルボン酸系有機リガンドを有する希土類金属錯体に関し、さらに詳述すると、例えば、有機エレクトロルミネッセンス素子(以下、有機EL素子と略す。)用の発光材、発光機能を有する有機ゼオライト、発光性吸着剤、発光性高感度分子センサ、発光性高感度キラルセンサ、生体造影剤、反応触媒などとして好適に用いることができる希土類金属錯体に関する。
【背景技術】
【0002】
有機EL素子の発光材として、優れたEL量子収率や耐久性を有する有機アルミニウム錯体(Alq3)が実用化されている。一方、従来、希土類金属を利用したほとんどの発光材は、無機化合物からなる無機系発光材である。
希土類金属は、これを直接励起した場合、そのエネルギー効率の悪さが問題となる。そのため、希土類金属の周りにエネルギーを吸収しやすい物質を配置し、そこからのエネルギー移動を利用した発光の高効率化が検討されてきた。
例えば、希土類金属を使用した無機系発光材は、エネルギーを吸収しやすい無機化合物母結晶に、希土類金属イオンを微量添加する方法が主流である。この無機系発光材は、カラーテレビや蛍光ランプなどで実用化されている。
【0003】
また、希土類金属を含む有機系発光材では、希土類金属イオンの周りをある種の有機リガンドで覆う方法(錯体化)が一般的に用いられる。
希土類有機錯体は、無機系発光材に比べて、(1)希土類金属イオン密度の増加、(2)希土類金属イオン隔離による単色性の増加、(3)EL量子収率の向上などが期待されてはいるものの、EL量子収率に関して優れた材料はほとんど見つかっていないのが現状である。また、耐久性(光安定性、熱安定性)や加工性という点においても問題が多い。
【0004】
これまで、カルボン酸系の芳香族有機リガンドを有する希土類金属錯体としては、下記式で表される錯体が知られている(特許文献1:特開2004−176306号公報)。
しかし、これらの金属錯体は、有機溶媒への溶解性が極めて低く、しかも熱分解を起こすため蒸着能がないことから、均一成膜化することが困難で、実用性に乏しいという問題を抱えている。
【0005】
【化1】

(式中、Mは、希土類金属を表す。)
【0006】
【特許文献1】特開2004−176306号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、希土類金属イオンに由来する単色性の良い発光を示し、かつ、有機溶媒への溶解性、昇華による蒸着性、耐熱性などに優れた希土類金属錯体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意検討を重ねた結果、(置換)芳香族または(置換)複素環カルボン酸系の有機リガンドを有する希土類金属錯体に、1,3−ジケトン化合物および/または含窒素へテロ環化合物を配位させた複合リガンド系希土類金属錯体が、希土類金属イオンに由来する単色性の良い発光を示し、かつ、有機溶媒への溶解性、蒸着性、および耐熱性に優れた発光材となり得ることを見出し、本発明を完成した。
【0009】
すなわち、本発明は、
1. 式(1)で示されるカルボン酸リガンドと、式(2)で示される1,3−ジケトン化合物リガンドと、3価の希土類金属と、からなることを特徴とするカルボン酸−ジケトン複合系希土類金属錯体、
【化2】

(式(1)中、Aは、Zで置換されていてもよいベンゼン環、Zで置換されていてもよいナフタレン環、Zで置換されていてもよいアントラセン環、Zで置換されていてもよいピリジン環、Zで置換されていてもよいチオフェン環、Zで置換されていてもよいフラン環、Zで置換されていてもよいピラゾール環またはZで置換されていてもよいイミダゾール環を表す。R1およびR2は、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、シアノ基、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数1〜10のアルコキシ基、炭素数1〜10のアルコキシカルボニル基、ニトロ基、Zで置換されていてもよいフェニル基、Zで置換されていてもよいナフチル基、Zで置換されていてもよいビフェニル基、Zで置換されていてもよいアントリル基、Zで置換されていてもよいジアリールホスフィノ基、Zで置換されていてもよいジヘテロアリールホスフィノ基、炭素数1〜10のジアルキルホスフィノ基、炭素数1〜10のアルキルアリールホスフィノ基または炭素数1〜10のアルキルヘテロアリールホスフィノ基を表す。ここで、アリール基は、フェニル基、ビフェニル基またはアントリル基を表し、ヘテロアリール基は、ピリジル基、チエニル基、フリル基、ピラゾリル基またはイミダゾリル基を表す。式(2)中、R3およびR4は、それぞれ独立して炭素数1〜10のアルキル基、炭素数1〜10のハロゲノアルキル基、Zで置換されていてもよい芳香族炭化水素基、Zで置換されていてもよい複素環基またはZで置換されていてもよいアラルキル基を表す。Zは、ハロゲン原子、シアノ基、ニトロ基、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数1〜10のハロゲノアルキル基、炭素数1〜10のアルコキシ基、炭素数1〜10のアルコキシカルボニル基、ニトロ基、フェニル基またはナフチル基を表す。)
2. 置換基を有していてもよい含窒素複素環化合物リガンドがさらに配位している1のカルボン酸−ジケトン複合系希土類金属錯体、
3. 式(3)で示される1のカルボン酸−ジケトン複合系希土類金属錯体、
【化3】

(式中、A、R1、R2、R3およびR4は、前記と同じ。Mは、3価の希土類金属を表し、nは、1または2である。)
4. 式(4)で示される2のカルボン酸−ジケトン複合系希土類金属錯体、
【化4】

〔式中、A、R1、R2、R3およびR4は、前記と同じ。Mは、3価の希土類金属を表し、Bは、Zで置換されていてもよい含窒素複素環化合物(Zは、前記と同じ)を表し、nは、1または2であり、mは、1〜3の整数を表す。〕
5. 前記含窒素複素環化合物が、1,10−フェナントロリンである2または4のカルボン酸−ジケトン複合系希土類金属錯体、
6. 前記Aが、Zで置換されていてもよいベンゼン環(Zは、前記と同じ。)である1〜5のいずれかのカルボン酸−ジケトン複合系希土類金属錯体、
7. 前記R3が、チオフェン−2−イル基である1〜6のいずれかのカルボン酸−ジケトン複合系希土類金属錯体、
8. 前記R4が、トリフルオロメチル基である7のカルボン酸−ジケトン複合系希土類金属錯体、
9. 前記希土類金属が、ユウロピウム(Eu)またはテルビウム(Tb)である1〜8のいずれかのカルボン酸−ジケトン複合系希土類金属錯体、
10. 式(5)で表されることを特徴とするカルボン酸系希土類金属錯体、
【化5】

〔式中、R3およびR4は、それぞれ独立して炭素数1〜10のアルキル基、炭素数1〜10のハロゲノアルキル基、Zで置換されていてもよいアリール基、Zで置換されていてもよいヘテロ環基またはZで置換されていてもよいアラルキル基を表す。Qは、酸素原子を表すが、存在しなくともよい。R5、R6およびR7は、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、シアノ基、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数1〜10のアルコキシ基、炭素数1〜10のアルコキシカルボニル基、ニトロ基、Zで置換されていてもよいフェニル基、Zで置換されていてもよいナフチル基、Zで置換されていてもよいビフェニル基、またはZで置換されていてもよいアントリル基を表す。Zは、ハロゲン原子、シアノ基、ニトロ基、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数1〜10のハロゲノアルキル基、炭素数1〜10のアルコキシ基、炭素数1〜10のハロゲノアルコキシ基、炭素数1〜10のアルコキシカルボニル基、ニトロ基、フェニル基またはナフチル基を表す。Mは、3価の希土類金属を表す。Bは、Zで置換されていてもよい含窒素へテロ環化合物(Zは、前記と同じ。)を表す。r、sおよびtは、1〜4の整数を表し、n′は、1〜3の整数を表し、m′は、0〜3の整数を表す。〕
11. 前記R3およびR4が、それぞれ独立して炭素数1〜10のアルキル基、炭素数1〜10のハロゲノアルキル基、Zで置換されていてもよいフェニル基またはZで置換されていてもよいチエニル基を表し、前記Zが炭素数1〜10のアルキル基、炭素数1〜10のハロゲノアルキル基、炭素数1〜10のアルコキシ基または炭素数1〜10のハロゲノアルコキシ基を表し、前記R5、R6およびR7が全て水素原子、前記r、sおよびtが全て1、前記Qが存在しない、前記BがZで置換されていてもよいフェナントロリンである10のカルボン酸系希土類金属錯体、
12. 1〜11のいずれかの希土類金属錯体を含むことを特徴とする発光材
を提供する。
【発明の効果】
【0010】
本発明の希土類金属錯体は、希土類金属イオンに由来する単色性の良い発光を示し、かつ、有機溶媒への溶解性、耐熱性、蛍光量子収率などに優れている。また、含窒素複素環化合物リガンドを配位させた錯体では、昇華性が著しく高まるため、蒸着性能にも優れる。このように、本発明の希土類金属錯体は、有機溶媒の溶解性や、蒸着性能に優れているため、均一膜の形成が容易である。
このような特性を有する本発明の希土類金属錯体は、有機EL素子の発光層、発光機能を有する有機ゼオライト、発光性吸着剤、発光性高感度分子センサ、発光性高感度キラルセンサ、生体造影剤、反応触媒などとして好適に用いることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明についてさらに詳しく説明する。
本発明に係るカルボン酸−ジケトン複合系希土類金属錯体は、下記式(1)で示されるカルボン酸リガンドと、下記式(2)で示される1,3−ジケトン化合物リガンドと、3価の希土類金属と、からなるものである。
【0012】
【化6】

(式中、A、R1、R2、R3およびR4は、上記と同じ意味を表す。)
【0013】
ここで、ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子が挙げられる。
炭素数1〜10のアルキル基としては、直鎖、分岐または環状のいずれでもよく、例えば、メチル、エチル、n−プロピル、i−プロピル、n−ブチル、i−ブチル、t−ブチル、s−ブチル、n−ペンチル、n−ヘキシル、2−エチルプロピル、2,2−ジメチルプロピル、1,2−ジメチルプロピル、1,1,2−トリメチルプロピル、1,2,2−トリメチルプロピル、1−エチル−1−メチルプロピル、1−エチル−2−メチルプロピル、1−メチルブチル、2−メチルブチル、3−メチルブチル、1,1−ジメチルブチル、1,2−ジメチルブチル、1,3−ジメチルブチル、2,2−ジメチルブチル、2,3−ジメチルブチル、3,3−ジメチルブチル、1−エチルブチル、2−エチルブチル、1−メチルペンチル、2−メチルペンチル、3−メチルペンチル、4−メチルペンチル等が挙げられる。
【0014】
炭素数1〜10のハロゲノアルキル基としては、例えば、上記各アルキル基の水素原子の少なくとも1つが、ハロゲン原子で置換された基が挙げられ、具体的には、CH2F、CHF2、CF3、CH2CH2F、CH2CHF2、CH2CF3、CH2CH2CH2F、CH2CH2CHF2、CH2CH2CF3、CH2Cl、CHCl2、CCl3、CH2CH2Cl、CH2Br、CHBr2、CBr3、CH2CH2Br等が挙げられる。
【0015】
炭素数1〜10のアルコキシ基としては、直鎖、分岐または環状のいずれでもよく、例えば、メトキシ、エトキシ、n−プロポキシ、i−プロポキシ、n−ブトキシ、i−ブトキシ、s−ブトキシ、t−ブトキシ、n−ペンチルオキシ、n−ヘキシルオキシ、1,1−ジメチルプロポキシ、1,2−ジメチルプロポキシ、2,2−ジメチルプロポキシ、1−エチルプロポキシ、1,1,2−トリメチルプロポキシ、1,2,2−トリメチルプロポキシ、1−エチル−1−メチルプロポキシ、1−エチル−2−メチルプロポキシ、1−メチルブトキシ、2−メチルブトキシ、3−メチルブトキシ、1−エチルブトキシ、2−エチルブトキシ、1,1−ジメチルブトキシ、1,2−ジメチルブトキシ、1,3−ジメチルブトキシ、2,2−ジメチルブトキシ、2,3−ジメチルブトキシ、3,3−ジメチルブトキシ、1−メチルペンチルオキシ、2−メチルペンチルオキシ、3−メチルペンチルオキシ、4−メチルペンチルオキシ等が挙げられる。
【0016】
炭素数1〜10のアルコキシカルボニル基としては、直鎖、分岐または環状のいずれでもよく、例えば、メトキシカルボニル、エトキシカルボニル、n−プロポキシカルボニル、i−プロポキシカルボニル、n−ブトキシカルボニル、i−ブトキシカルボニル、s−ブトキシカルボニル、t−ブトキシカルボニル、n−ペンチルオキシカルボニル、n−ヘキシルオキシカルボニル、1,1−ジメチルプロポキシカルボニル、1,2−ジメチルプロポキシカルボニル、2,2−ジメチルプロポキシカルボニル、1−エチルプロポキシカルボニル、1,1,2−トリメチルプロポキシカルボニル、1,2,2−トリメチルプロポキシカルボニル、1−エチル−1−メチルプロポキシカルボニル、1−エチル−2−メチルプロポキシカルボニル、1−メチルブトキシカルボニル、2−メチルブトキシカルボニル、3−メチルブトキシカルボニル、1−エチルブトキシカルボニル、2−エチルブトキシカルボニル、1,1−ジメチルブトキシカルボニル、1,2−ジメチルブトキシカルボニル、1,3−ジメチルブトキシカルボニル、2,2−ジメチルブトキシカルボニル、2,3−ジメチルブトキシカルボニル、3,3−ジメチルブトキシカルボニル、1−メチルペンチルオキシカルボニル、2−メチルペンチルオキシカルボニル、3−メチルペンチルオキシカルボニル、4−メチルペンチルオキシカルボニル等が挙げられる。
上記において、nはノルマルを、iはイソを、sはセカンダリーを、tはターシャリーをそれぞれ表す。
【0017】
Zで置換されていてもよいフェニル基、Zで置換されていてもよいナフチル基、Zで置換されていてもよいビフェニル基としては、例えば、フェニル、o−メチルフェニル、m−メチルフェニル、p−メチルフェニル、o−トリフルオロメチルフェニル、m−トリフルオロメチルフェニル、p−トリフルオロメチルフェニル、p−エチルフェニル、p−i−プロピルフェニル、p−t−ブチルフェニル、o−クロルフェニル、m−クロルフェニル、p−クロルフェニル、o−ブロモフェニル、m−ブロモフェニル、p−ブロモフェニル、o−フルオロフェニル、p−フルオロフェニル、o−メトキシフェニル、m−メトキシフェニル、p−メトキシフェニル、o−トリフルオロメトキシフェニル、p−トリフルオロメトキシフェニル、o−ニトロフェニル、m−ニトロフェニル、p−ニトロフェニル、p−シアノフェニル、3,5−ジメチルフェニル、3,5−ビストリフルオロメチルフェニル、3,5−ジメトキシフェニル、3,5−ビストリフルオロメトキシフェニル、3,5−ジエチルフェニル、3,5−ジ−i−プロピルフェニル、3,5−ジクロルフェニル、3,5−ジブロモフェニル、3,5−ジフルオロフェニル、3,5−ジニトロフェニル、3,5−ジシアノフェニル、2,4,6−トリメチルフェニル、2,4,6−トリストリフルオロメチルフェニル、2,4,6−トリメトキシフェニル、2,4,6−トリストリフルオロメトキシフェニル、2,4,6−トリクロルフェニル、2,4,6−トリブロモフェニル、2,4,6−トリフルオロフェニル、α−ナフチル、β−ナフチル、o−ビフェニリル、m−ビフェニリル、p−ビフェニリル基等が挙げられる。
【0018】
Zで置換されていてもよいアントリル基としては、1−アントリル、2−アントリル、9−アントリル、1−メチル−9−アントリル、1−メチル−10−アントリル、9−メチル−10−アントリル基等が挙げられる。Zで置換されていてもよいジアリールホスフィノ基、Zで置換されていてもよいジヘテロアリールホスフィノ基、炭素数1〜10のジアルキルホスフィノ基、炭素数1〜10のアルキルアリールホスフィノ基、炭素数1〜10のアルキルヘテロアリールホスフィノ基としては、ジフェニルホスフィノ、フェニルビフェニルホスフィノ、ジビフェニルホスフィノ、ジアントリルホスフィノ、ジピリジルホスフィノ、ジチエニルホスフィノ、ジフリルホスフィノ、ジピラゾリルホスフィノ、ジイミダゾリルホスフィノ、ジメチルホスフィノ、ジエチルホスフィノ、ジn−ブチルホスフィノ、ジn−オクチルホスフィノ、ジn−デシルホスフィノ、メチルフェニルホスフィノ、エチルフェニルホスフィノ、n−ブチルフェニルホスフィノ、n−オクチルフェニルホスフィノ、n−デシルフェニルホスフィノ、メチルピリジルホスフィノ、メチルチエニルホスフィノ、メチルフリルホスフィノ、メチルピラゾリルホスフィノ、メチルイミダゾリルホスフィノ、エチルピリジルホスフィノ、エチルチエニルホスフィノ、エチルフリルホスフィノ、エチルピラゾリルホスフィノ、エチルイミダゾリルホスフィノ、n−ブチルピリジルホスフィノ、n−ブチルチエニルホスフィノ、n−ブチルフリルホスフィノ、n−ブチルピラゾリルホスフィノ、n−ブチルイミダゾリルホスフィノ、n−オクチルピリジルホスフィノ、n−オクチルチエニルホスフィノ、n−オクチルフリルホスフィノ、n−オクチルピラゾリルホスフィノ、n−オクチルイミダゾリルホスフィノ、n−デシルピリジルホスフィノ、n−デシルチエニルホスフィノ、n−デシルフリルホスフィノ、n−デシルピラゾリルホスフィノ、n−デシルイミダゾリルホスフィノ基等が挙げられる。
【0019】
Zで置換されていてもよい芳香族炭化水素基としては、例えば、フェニル、o−メチルフェニル、m−メチルフェニル、p−メチルフェニル、o−トリフルオロメチルフェニル、m−トリフルオロメチルフェニル、p−トリフルオロメチルフェニル、p−エチルフェニル、p−i−プロピルフェニル、p−t−ブチルフェニル、o−クロルフェニル、m−クロルフェニル、p−クロルフェニル、o−ブロモフェニル、m−ブロモフェニル、p−ブロモフェニル、o−フルオロフェニル、p−フルオロフェニル、o−メトキシフェニル、m−メトキシフェニル、p−メトキシフェニル、o−トリフルオロメトキシフェニル、p−トリフルオロメトキシフェニル、o−ニトロフェニル、m−ニトロフェニル、p−ニトロフェニル、p−シアノフェニル、3,5−ジメチルフェニル、3,5−ビストリフルオロメチルフェニル、3,5−ジメトキシフェニル、3,5−ビストリフルオロメトキシフェニル、3,5−ジエチルフェニル、3,5−ジ−i−プロピルフェニル、3,5−ジクロルフェニル、3,5−ジブロモフェニル、3,5−ジフルオロフェニル、3,5−ジニトロフェニル、3,5−ジシアノフェニル、2,4,6−トリメチルフェニル、2,4,6−トリストリフルオロメチルフェニル、2,4,6−トリメトキシフェニル、2,4,6−トリストリフルオロメトキシフェニル、2,4,6−トリクロルフェニル、2,4,6−トリブロモフェニル、2,4,6−トリフルオロフェニル、α−ナフチル、β−ナフチル、o−ビフェニリル、m−ビフェニリル、p−ビフェニリル基等が挙げられる。
【0020】
Zで置換されていてもよい複素環基としては、ピリジル、2,6−ジメチルピリジル、2,4,6−トリメチルピリジル、2−フェニルピリジル、2−(2,4−ジフルオロフェニル)ピリジル、2−(2−チエニル)ピリジル、2,2’−ビピリジル、2,2’−ビ(6−メチルピリジル)、2−ベンゾチアゾリル−2−ピリジル、2,2’,6’,2’ ’−ターピリジル、キノリル、2−フェニルキノリル、イソキノリル、1−フェニルイソキノリル、キノキザリル、インドリル、4−メチルインドリル、1,10−フェナントリル、2,9−ジメチル−1,10−フェナントリル、5,6−ジメチル−1,10−フェナントリル、2,9−ジメチル−4,7−ジフェニル−1,10−フェナントリル、4,7−ビス(2−フェニルビニル)−1,10−フェナントリル、フェナジン等が挙げられる。
【0021】
Zで置換されていてもよいアラルキル基としては、例えば、フェニルメチル(ベンジル)、o−メチルフェニルメチル、m−メチルフェニルメチル、p−メチルフェニルメチル、o−トリフルオロメチルフェニルメチル、m−トリフルオロメチルフェニルメチル、p−トリフルオロメチルフェニルメチル、p−エチルフェニルメチル、p−i−プロピルフェニルメチル、p−t−ブチルフェニルメチル、o−クロルフェニルメチル、m−クロルフェニルメチル、p−クロルフェニルメチル、o−ブロモフェニルメチル、m−ブロモフェニルメチル、p−ブロモフェニルメチル、o−フルオロフェニルメチル、p−フルオロフェニルメチル、o−メトキシフェニルメチル、m−メトキシフェニルメチル、p−メトキシフェニルメチル、o−トリフルオロメトキシフェニルメチル、p−トリフルオロメトキシフェニルメチル、o−ニトロフェニルメチル、m−ニトロフェニルメチル、p−ニトロフェニルメチル、p−シアノフェニルメチル、3,5−ジメチルフェニルメチル、3,5−ビストリフルオロメチルフェニルメチル、3,5−ジメトキシフェニルメチル、3,5−ビストリフルオロメトキシフェニルメチル、3,5−ジエチルフェニルメチル、3,5−ジ−i−プロピルフェニルメチル、3,5−ジクロルフェニルメチル、3,5−ジブロモフェニルメチル、3,5−ジフルオロフェニルメチル、3,5−ジニトロフェニルメチル、3,5−ジシアノフェニルメチル、2,4,6−トリメチルフェニルメチル、2,4,6−トリストリフルオロメチルフェニルメチル、2,4,6−トリメトキシフェニルメチル、2,4,6−トリストリフルオロメトキシフェニルメチル、2,4,6−トリクロルフェニルメチル、2,4,6−トリブロモフェニルメチル、2,4,6−トリフルオロフェニルメチル、α−ナフチルメチル、β−ナフチルメチル、o−ビフェニリルメチル、m−ビフェニリルメチル、p−ビフェニリルメチル、チオフェン−2−イルメチル、チオフェン−3−イルメチル、フラン−2−イルメチル、フラン−3−イルメチル、ピロール−1−イルメチル、ピロール−2−イルメチル、ピロール−3−イルメチル基等が挙げられる。
【0022】
上記AにおけるZで置換されていてもよいベンゼン環、Zで置換されていてもよいナフタレン環、Zで置換されていてもよいアントラセン環、Zで置換されていてもよいピリジン環、Zで置換されていてもよいチオフェン環、Zで置換されていてもよいフラン環、Zで置換されていてもよいピラゾール環、Zで置換されていてもよいイミダゾール環としては、例えば、下記式で示されるものが挙げられる。これらの環は任意の数のZで置換されていてもよい。
【0023】
【化7】

【0024】
式(1)で示されるカルボン酸リガンドとしては、例えば、下記式で示されるものが挙げられる。
【0025】
【化8】

(式中、R5、R6、R7、Q、r、sおよびtは、上記と同じ意味を表す。R8は、R7と同じ意味を表し、uは、tと同じ意味を表す。)
【0026】
希土類金属錯体の有機溶媒に対する溶解性や、昇華性などを考慮すると、特に下記式で示されるジフェニルホスフィノまたはジフェニルホスホノ安息香酸化合物類が好適である。
【0027】
【化9】

(式中、R5、R6、R7、Q、r、sおよびtは、上記と同じ意味を表す。)
【0028】
さらに、入手容易性などを考慮すると、下記式(7)で示されるジフェニルホスフィノ安息香酸およびジフェニルホスホノ安息香酸が好ましい。
【0029】
【化10】

【0030】
一方、式(2)で示される1,3−ジケトン化合物リガンドとしては、例えば、下記式で示されるものが挙げられる。
【0031】
【化11】

【0032】
これらの中でも、下記式で示される、4,4,4―トリフルオロ−1−(2−チエニル)−1,3−ブタンジオール(TTA)が好適である。これを用いることで、希土類金属錯体の有機溶媒に対する溶解性や、昇華性がより一層向上し、かつ、その発光強度がより一層向上する。
【0033】
【化12】

【0034】
3価の希土類金属としては、Sc、Y、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、YbおよびLuが挙げられる。これらの中では、ランタニド系金属が好ましく、特に、発光強度に優れたEu、Tbが好ましく、Euが最適である。
この3価の希土類金属の前駆体としては、一般的に、希土類金属の無機酸や有機酸の塩が用いられる。無機酸、有機酸としては、特に限定されるものではないが、一般的には、塩酸、硝酸、硫酸、炭酸、酢酸等が用いられる。
無機酸や有機酸が1価の酸の場合は、この塩は式(8)で表され、2価の酸の場合は、この塩は式(9)で表される。
【0035】
【化13】

(式中、Mは3価の希土類金属を表し、G1は、1価の酸に由来する陰イオンを表し、G2は、2価の酸に由来する陰イオンを表す。)
【0036】
本発明の希土類金属錯体は、含窒素複素環化合物リガンドを配位させたものであることが好ましい。これにより、希土類金属錯体の昇華性をより一層向上させることができ、蒸着操作により均一膜を容易に形成できるようになる。
含窒素複素環化合物リガンドとしては、例えば、下記式で示されるものが挙げられる。
【0037】
【化14】

【0038】
これらの中でも、上述した昇華性を良好にするという点から、フェナントロリン化合物類が好適であり、特に、下記式で示される1,10−フェナントロリンが最適である。
【0039】
【化15】

【0040】
本発明の希土類金属錯体は、例えば、以下のスキームで製造できる。
【化16】

(式中、A、R1、R2、R3、R4、M、G1、G2、nは、上記と同じ。)
【0041】
すなわち、上記式(1)で示されるカルボン酸リガンド、式(2)で示される1,3−ジケトン化合物リガンド、および希土類金属の酸塩(8)または(9)を、塩基の存在下、水および/または有機溶媒中で反応させることで、カルボン酸−ジケトン複合系希土類金属錯体を製造することができる。
この場合、塩基としては、アルカリ金属またはアルカリ土金属の水酸化物、炭酸塩、有機酸塩等が挙げられ、具体的には、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム等が挙げられる。
有機溶媒としては、メタノール、エタノール等のアルコール類が使用できる。反応溶媒の使用量は全リガンドに対して2〜20質量倍が好ましい。
反応温度は、0〜150℃が好ましく、10〜100℃がより好ましい。反応時間は、通常1〜24時間程度である。
反応生成物は、沈殿するので、ろ過により捕集した後、十分に水洗やアルコール洗浄し、減圧乾燥することにより白色から淡黄色の粉末の目的物が得られる。
上記反応により得られる目的物の構造は定かではないが、少なくともその一部には、下記式(3)で示される構造が存在すると推定される。
【0042】
【化17】

(式中、A、R1、R2、R3、R4、M、nは、上記と同じ。)
【0043】
また、本発明のカルボン酸−ジケトン複合系希土類金属錯体に、さらに含窒素複素環化合物リガンドを配位させる場合、上記スキームの反応において、さらに、希土類金属に対して1〜3倍モルの含窒素複素環化合物(B)を加えればよい。この場合の反応条件も上記と同様である。なお、上記スキームの反応の際に含窒素複素環化合物を加えることもできる。
含窒素複素環化合物リガンドが配位した錯体の構造も定かではないが、少なくともその一部には、下記式(4)で示される構造が存在すると推定される。
【0044】
【化18】

〔式中、A、R1、R2、R3、R4、M、B、n、mは、上記と同じ。〕
【0045】
なお、カルボン酸リガンドとして、式(6)のジフェニルホスフィノ安息香酸化合物またはジフェニルホスホノ安息香酸化合物類を用いた場合、少なくともその一部に下記式(5)の構造を有する希土類金属錯体が得られると推定される。
【0046】
【化19】

〔式中、R3、R4、R5、R6、R7、R8、Q、M、B、r、s、t、n′、m′は、上記と同じ。〕
【実施例】
【0047】
以下、実施例を挙げて、本発明をより具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。なお、元素分析値は、CHN/O元素分析計:PE2400 Series II (Perkin Elmer製)を用いて測定した。
【0048】
[比較例1] 4−ジフェニルホスフィノ安息香酸−ユウロピウム錯体の合成
【化20】

【0049】
4−ジフェニルホスフィノ安息香酸−ナトリウム塩(0.2g,0.65mmol)を水(約120mL)に溶解させた。この水溶液に、塩化ユウロピウム6水和物(0.0804g,0.22mmol)を水(5mL)に溶解させた溶液をゆっくり滴下した。得られた白色沈殿を桐山ロートにより濾取し、十分に水洗後、乾燥して目的物を得た(収率79%)。
以下の分析値から上記構造の目的物であることを確認した。
元素分析(wt%):C:60.5,H:4.0[理論値:目的物2分子に対し水7分子として、C:60.5,H:4.4]
【0050】
[比較例2] 4−ジフェニルホスフィノ安息香酸−テルビウム錯体の合成
【化21】

【0051】
4−ジフェニルホスフィノ安息香酸−ナトリウム塩(0.2g,0.65mmol)を水(約120mL)に溶解させた。この水溶液に、塩化テルビウム6水和物(0.0812g,0.22mmol)を水(5mL)に溶解させた溶液をゆっくり滴下した。得られた白色沈殿を桐山ロートにより濾取し、十分に水洗後、乾燥して目的物を得た(収率76%)。
以下の分析値から上記構造の目的物であることを確認した。
元素分析(wt%):C:62.0,H:3.9[理論値:目的物1分子に対し水2分子として、C:61.6,H:4.2]
【0052】
[比較例3] 4−(4−ヒドロキシフェニル)安息香酸−ユウロピウム錯体の合成
【化22】

【0053】
4−(4−ヒドロキシフェニル)安息香酸−ナトリウム塩(0.2g,0.93mmol)を水(約120mL)に溶解させた。この水溶液に、塩化ユウロピウム6水和物(0.1136g,0.31mmol)を水(5mL)に溶解させた溶液をゆっくり滴下した。得られた白色沈殿を桐山ロートにより濾取し、十分に水洗後、乾燥して目的物を得た(収率85%)。
以下の分析値から上記構造の目的物であることを確認した。
元素分析(wt%):C:56.5,H:3.6[理論値:目的物1分子に対し水3分子として、C:55.4,H:3.9]
【0054】
[比較例4] 4−(4−ヒドロキシフェニル)安息香酸−テルビウム錯体の合成
【化23】

【0055】
4−(4−ヒドロキシフェニル)安息香酸−ナトリウム塩(0.2g,0.93mmol)を水(約120mL)に溶解させた。この水溶液に、塩化テルビウム6水和物(0.1157g,0.31mmol)を水(5mL)に溶解させた溶液をゆっくり滴下した。得られた白色沈殿を桐山ロートにより濾取し、十分に水洗後、乾燥して目的物を得た(収率63%)。
以下の分析値から上記構造の目的物であることを確認した。
元素分析(wt%):C:55.4,H:3.7[理論値:目的物1分子に対し水3分子として、C:54.9,H:3.9]
【0056】
[実施例1] (DPPB)3Eu(Phen)錯体の合成
【化24】

【0057】
DPPB(0.30669g,1.001mmol)と、Phen(0.06080g,0.3373mmol)とを、エタノール(3.7mL,約10質量%)に室温で溶解させた。この溶液に、Na2CO3(0.05384g,0.508mmol)を水(5.3mL,100質量%)に溶解させた水溶液を室温で滴下して中和した。中和開始前は微かに白濁していたが、中和終了時には完全に溶解した。
中和後の溶液に、EuCl3・6H2O(0.12220g,0.3335mmol)を水(2.4mL,20質量%)に溶解させた溶液を室温で滴下した。滴下直後から白色粉末が析出し始めた。これをろ過し、90℃で12時間減圧乾燥して目的物0.359gを得た(収率:86.2%)。
固体状態に簡易型UVランプ(365nmまたは254nm)を照射したところ、Euに特徴的な赤い発光が見られた。
この結晶は以下の分析値から上記構造の(DPPB)3Eu(Phen)錯体であることを確認した。
元素分析(wt%):C:66.1,H:4.0,N:1.9[理論値:C:66.3,H:4.2,N:2.2]
【0058】
[実施例2] (DPPB)2Eu(TTA)(Phen)錯体の合成
【化25】

【0059】
DPPB(0.61250g,1.999mmol)とPhen(0.18151g,1.007mmol)とを、エタノール(10mL,約10質量%)に室温で溶解させた。この溶液に、NaOH:0.12790g(3.198mmol)を水(5.2mL,40質量%)に溶解させた溶液を室温で滴下した。続いて、得られた溶液に、TTA(0.22210g,1.000mmol)を室温で添加して溶解させ、その時点で中性であることを確認した後、EuCl3・6H2O(0.36730g,1.002mmol)を、水(3.7mL,10質量%)に溶解させた溶液を室温でさらに滴下した。滴下後、15秒ほどで白色粉末が析出し始めた。これをろ過し、90℃で3時間減圧乾燥して目的物0.949gを得た(収率:81.5%)。
固体状態に簡易型UVランプ(365nmまたは254nm)を照射したところ、Euに特徴的な赤い発光が見られた。
この結晶は以下の分析値から上記構造の(DPPB)2Eu(TTA)(Phen)錯体であることを確認した。
元素分析(wt%):C:61.0,H:3.5,N:2.3[理論値:C:59.8,H:3.6,N:2.4]
【0060】
[実施例3] (DPPB)Eu(TTA)2(Phen)錯体の合成
【化26】

【0061】
DPPB(0.30644g,1.000mmol)と、Phen(0.17962g,0.997mmol)とをエタノール(10mL,約10質量%)に室温で溶解させた。この溶液にNaOH(0.12753g,3.188mmol)を水(5.2mL,40質量%)に溶解させた溶液を室温で滴下した。続いて、得られた溶液に、TTA(0.44681g,2.011mmol)を室温で添加して溶解させ、その時点で中性であることを確認した後、EuCl3・6H2O(0.36900g,1.007mmol)を水(3.7mL,10質量%)に溶解させた溶液を室温で滴下した。滴下後、15秒ほどで白色粉末が析出し始めた。これをろ過し、90℃で3時間減圧乾燥して目的物0.666gを得た(収率:61.7%)。
固体状態に簡易型UVランプ(365nmまたは254nm)を照射したところ、Euに特徴的な赤い発光が見られた。
この結晶は以下の分析値から上記構造の(DPPB)Eu(TTA)2(Phen)錯体であることを確認した。
元素分析(wt%):C:57.6,H:3.2,N:2.7[理論値:C:52.3,H:2.8,N:2.6]
【0062】
[実施例4] (DPPB)Eu(TTA)2錯体の合成
【化27】

【0063】
DPPB(0.30570g,0.998mmol)をエタノール(7.5mL,約10質量%)に溶解させた。この溶液に、Na2CO3(0.15950g,1.505mmol)を水(6.4mL,40質量%)に溶解させた溶液を室温で滴下した。続いて、得られた溶液に、TTA(0.44446g,2.000mmol)を添加して溶解させ、その時点で中性であることを確認した後、EuCl3・6H2O(0.36712g,1.002mmol)を水(3.7mL,10質量%)に溶解させた溶液を室温で滴下した。滴下直後から黄白色粉末が析出し始めた。これをろ過し、90℃で3時間減圧乾燥して目的物0.777gを得た(収率:86.4%)。
固体状態に簡易型UVランプ(365nm)を照射したところ、Euに特徴的な赤い発光が見られた。
この結晶は以下の分析値から上記構造の(DPPB)Eu(TTA)2錯体であることを確認した。
元素分析(wt%):C:45.5,H:2.6[理論値:C:46.7,H:2.5]
【0064】
[実施例5] (DPPB)2Eu(TTA)錯体の合成
【化28】

【0065】
DPPB(0.61051g,1.993mmol)をエタノール(8.5mL,約10質量%)に溶解させた。この溶液に、Na2CO3(0.15937g,1.504mmol)を水(6.4mL,40質量%)に溶解させた溶液を室温で滴下した。続いて、得られた溶液に、TTA(0.22266g,1.002mmol)を添加して溶解させ、その時点で中性であることを確認した後、EuCl3・6H2O(0.36631g,0.999mmol)を水(3.7mL,10質量%)に溶解させた溶液を室温で滴下した。滴下直後から白色粉末が析出し始めた。これをろ過し、90℃で3時間減圧乾燥して目的物0.911gを得た(収率:92.6%)。
固体状態に簡易型UVランプ(365nm)を照射したところ、Euに特徴的な赤い発光が見られた。
この結晶は以下の分析値から上記構造の(DPPB)2Eu(TTA)錯体であることを確認した。
元素分析(wt%):C:55.4,H:3.3[理論値:C:56.2,H:3.3]
【0066】
[実施例6] (DPPB)3Tb(Phen)錯体の合成
【化29】

【0067】
DPPB(0.30542g,1mmol)とPhen(0.06019g,0.33mmol)とを、エタノール(3.7mL,約10質量%)に室温で溶解させた。この溶液に、Na2CO3(0.05340g,0.508mmol)を水(4.2mL,100質量%)に溶解させた溶液を室温で滴下して中和した。中和した溶液に、TbCl3・6H2O(0.12622g,0.33mmol)を水(2.4mL,20質量%)に溶解させた溶液を室温で滴下した。滴下直後から白色粉末が析出し始めた。これをろ過し、90℃で3時間減圧乾燥して目的物0.379gを得た(収率:89.2%)。
固体状態に簡易型UVランプ(365nmまたは254nm)を照射したところ、Tbに特徴的な緑色の発光が見られた。
この結晶は以下の分析値から上記構造の(DPPB)3Tb(Phen)錯体であることを確認した。
元素分析(wt%):C:64.5,H:3.9, N:1.9[理論値:C:65.9,H:4.2, N:2.2]
【0068】
[実施例7] (DPPB)2Tb(TTA)(Phen)錯体の合成
【化30】

【0069】
DPPB(0.61220g,1.999mmol)とPhen(0.18012g,0.999mmol)とを、エタノール(10mL,約10質量%)に室温で溶解させた。この溶液に、NaOH(0.12705g,3.176mmol)を水(5.2mL,40質量%)に溶解させた溶液を室温で滴下した。続いて、得られた溶液に、TTA(0.2218g,0.998mmol)を室温で添加して溶解させ、その時点で中性であることを確認した後、TbCl3・6H2O(0.37513g,1.005mmol)を水(3.8mL,10質量%)に溶解させた溶液を室温で滴下した。滴下後、15秒ほどで白色粉末が析出し始めた。これをろ過し、90℃で3時間減圧乾燥して目的物0.898gを得た(収率:76.7%)。
固体状態に簡易型UVランプ(365nmまたは254nm)を照射したところ、Tbに特徴的な緑色の発光が見られた。
この結晶は以下の分析値から上記構造の(DPPB)2Tb(TTA)(Phen)錯体であることを確認した。
元素分析(wt%):C:63.2,H:3.8,N:2.3[理論値:C:59.4,H:3.6,N:2.4]
【0070】
[実施例8] (DPPB)Tb(TTA)2(Phen)錯体の合成
【化31】

【0071】
DPPB(0.30603g,0.999mmol)とPhen(0.18053g,1.002mmol)とをエタノール(10mL,約10質量%)に室温で溶解させた。この溶液に、NaOH(0.12759g,3.189mmol)を水(5.2mL,40質量%)に溶解させた溶液を室温で滴下した。続いて、得られた溶液に、TTA(0.44698g,2.012mmol)を添加して溶解させ、その時点で中性であることを確認した後、TbCl3・6H2O(0.37523g,1.005mmol)を水(3.8mL,10質量%)に溶解させた溶液を室温で滴下した。滴下後、15秒ほどで白色粉末が析出し始めた。これをろ過し、90℃で3時間減圧乾燥して目的物0.578gを得た(収率:53.2%)。
固体状態に簡易型UVランプ(365nmまたは254nm)を照射したところ、Tbに特徴的な緑色の発光が見られた。
この結晶は以下の分析値から上記構造の(DPPB)Tb(TTA)2(Phen)錯体であることを確認した。
元素分析(wt%):C:58.7,H:3.4,N:2.7[理論値:C:51.9,H2.8,N:2.6]
【0072】
[実施例9] (DPPB)2Tb(TTA)錯体の合成
【化32】

【0073】
DPPB(0.61055g,1.993mmol)をエタノール(8.5mL,約10質量%)に溶解させた。この溶液に、Na2CO3(0.15963g,1.506mmol)を水(6.4mL,40質量%)に溶解させた溶液を室温で滴下した。続いて、得られた溶液に、TTA(0.22204g,0.999mmol)を室温で添加して溶解させ、その時点で中性であることを確認した後、TbCl3・6H2O(0.37735g,1.011mmol)を水(3.8mL,10質量%)に溶解させた溶液を室温で滴下した。滴下直後に白色粉末が析出し始めた。これをろ過し、90℃で3時間減圧乾燥して目的物0.958gを得た(収率:96.6%)。
固体状態に簡易型UVランプ(365nmまたは254nm)を照射したところ、Tbに特徴的な緑色の発光が微かに見られた。
この結晶は以下の分析値から上記構造の(DPPB)2Tb(TTA)錯体であることを確認した。
元素分析(wt%):C:55.2,H:3.2[理論値:C:55.8,H3.3]
【0074】
[実施例10] 溶解性試験
実施例1〜9および比較例3,4で合成した錯体5mgを、それぞれテトラヒドロフラン(THF)100mgに添加し、25℃で超音波をかけて溶解性を確認した。結果を表1に示す。なお、溶解度の程度は、以下の基準に従って分類した。
◎:完全溶解
×:60℃でけん濁物があり、溶解しない(固体では発光するが、ろ過した場合に濾液が発光しない)
【0075】
【表1】

【0076】
表1に示されるように、比較例3,4で得られたカルボン酸系希土類錯体は、加温してもTHFに全く溶解しないことがわかる。これに対して実施例1〜9で得られた、1,3−ジケトンリガンドおよび/またはフェナントロリンリガンドを有する希土類金属錯体は、有機溶媒への溶解性が発現していることがわかる。
【0077】
[実施例11]発光試験
実施例1〜9で合成した錯体5mgを、THF100mgに添加し、25℃で超音波をかけ溶解させた溶液をピペットで取り、ろ紙上に滴下した。室温乾燥させてからUVランプ(365nmまたは254nm)を照射し、目視で発光程度を次の序列に分類した。結果を表2に示す。
明るく強く発光:◎、中程度に発光:○、わずかに発光:△
【0078】
【表2】

【0079】
[実施例12]昇華(蒸着)試験および発光強度試験結果
実施例2,3,4および比較例1〜4で得られた錯体を、それぞれ坩堝に適量(半分程度まで)入れ、ターボ分子ポンプによる高真空減圧(0.4〜0.6mPa)後、坩堝下のフィラメントに電圧印加して加熱した。蒸着基板に石英基板を用い、水晶振動子による蒸着レート測定を行った。
各錯体とも、10Aから開始し、蒸着速度が不十分な場合は2分おきに2Aずつ電流量を増加し、最終的に蒸着が停止するまで電流を流した。蒸着が始まった場合は蒸着速度0.02nm/sec程度から石英基板への蒸着を開始し、0.3−0.5nm/sec程度で安定させ、膜厚計上最大200nm(実測100nm程度)まで蒸着を行い、蒸着操作を停止させた。得られた薄膜に対し、有機EL量子収率測定装置(蛍光スペクトル測定装置、C9920−01、HAMAMATSU製)にて、蛍光スペクトル測定を行った(励起波長370nm)。
なお、比較として代表的な低分子発光材料である下記式で示されるAlq3についても測定を行った。結果を表3に示す。
【化33】

【0080】
【表3】

【0081】
表3に示されるように、比較例1〜4で合成したカルボン酸リガンドのみ有する希土類金属錯体は、15[A]まで電流を上げても分解のみで、膜が形成されないことがわかる。これに対し、実施例2,3,4で得られた、1,3−ジケトンリガンド、または1,3−ジケトンリガンドとフェナントロリンリガンドとを配位させた希土類金属錯体は、17〜18[A]で60nm以上の厚みの膜が形成され、615〜616nmの赤橙色光の発光が確認できた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(1)で示されるカルボン酸リガンドと、式(2)で示される1,3−ジケトン化合物リガンドと、3価の希土類金属と、からなることを特徴とするカルボン酸−ジケトン複合系希土類金属錯体。
【化1】

(式(1)中、Aは、Zで置換されていてもよいベンゼン環、Zで置換されていてもよいナフタレン環、Zで置換されていてもよいアントラセン環、Zで置換されていてもよいピリジン環、Zで置換されていてもよいチオフェン環、Zで置換されていてもよいフラン環、Zで置換されていてもよいピラゾール環またはZで置換されていてもよいイミダゾール環を表す。
1およびR2は、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、シアノ基、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数1〜10のアルコキシ基、炭素数1〜10のアルコキシカルボニル基、ニトロ基、Zで置換されていてもよいフェニル基、Zで置換されていてもよいナフチル基、Zで置換されていてもよいビフェニル基、Zで置換されていてもよいアントリル基、Zで置換されていてもよいジアリールホスフィノ基、Zで置換されていてもよいジヘテロアリールホスフィノ基、炭素数1〜10のジアルキルホスフィノ基、炭素数1〜10のアルキルアリールホスフィノ基または炭素数1〜10のアルキルヘテロアリールホスフィノ基を表す。ここで、アリール基は、フェニル基、ビフェニル基またはアントリル基を表し、ヘテロアリール基は、ピリジル基、チエニル基、フリル基、ピラゾリル基またはイミダゾリル基を表す。
式(2)中、R3およびR4は、それぞれ独立して炭素数1〜10のアルキル基、炭素数1〜10のハロゲノアルキル基、Zで置換されていてもよい芳香族炭化水素基、Zで置換されていてもよい複素環基またはZで置換されていてもよいアラルキル基を表す。
Zは、ハロゲン原子、シアノ基、ニトロ基、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数1〜10のハロゲノアルキル基、炭素数1〜10のアルコキシ基、炭素数1〜10のアルコキシカルボニル基、ニトロ基、フェニル基またはナフチル基を表す。)
【請求項2】
置換基を有していてもよい含窒素複素環化合物リガンドがさらに配位している請求項1記載のカルボン酸−ジケトン複合系希土類金属錯体。
【請求項3】
式(3)で示される請求項1記載のカルボン酸−ジケトン複合系希土類金属錯体。
【化2】

(式中、A、R1、R2、R3およびR4は、前記と同じ。Mは、3価の希土類金属を表し、nは、1または2である。)
【請求項4】
式(4)で示される請求項2記載のカルボン酸−ジケトン複合系希土類金属錯体。
【化3】

〔式中、A、R1、R2、R3およびR4は、前記と同じ。Mは、3価の希土類金属を表し、Bは、Zで置換されていてもよい含窒素複素環化合物(Zは、前記と同じ)を表し、nは、1または2であり、mは、1〜3の整数を表す。〕
【請求項5】
前記含窒素複素環化合物が、1,10−フェナントロリンである請求項2または4記載のカルボン酸−ジケトン複合系希土類金属錯体。
【請求項6】
前記Aが、Zで置換されていてもよいベンゼン環(Zは、前記と同じ。)である請求項1〜5のいずれか1項記載のカルボン酸−ジケトン複合系希土類金属錯体。
【請求項7】
前記R3が、チオフェン−2−イル基である請求項1〜6のいずれか1項記載のカルボン酸−ジケトン複合系希土類金属錯体。
【請求項8】
前記R4が、トリフルオロメチル基である請求項7記載のカルボン酸−ジケトン複合系希土類金属錯体。
【請求項9】
前記希土類金属が、ユウロピウム(Eu)またはテルビウム(Tb)である請求項1〜8のいずれか1項記載のカルボン酸−ジケトン複合系希土類金属錯体。
【請求項10】
式(5)で表されることを特徴とするカルボン酸系希土類金属錯体。
【化4】

〔式中、R3およびR4は、それぞれ独立して炭素数1〜10のアルキル基、炭素数1〜10のハロゲノアルキル基、Zで置換されていてもよいアリール基、Zで置換されていてもよいヘテロ環基またはZで置換されていてもよいアラルキル基を表す。Qは、酸素原子を表すが、存在しなくともよい。
5、R6およびR7は、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、シアノ基、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数1〜10のアルコキシ基、炭素数1〜10のアルコキシカルボニル基、ニトロ基、Zで置換されていてもよいフェニル基、Zで置換されていてもよいナフチル基、Zで置換されていてもよいビフェニル基またはZで置換されていてもよいアントリル基を表す。
Zは、ハロゲン原子、シアノ基、ニトロ基、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数1〜10のハロゲノアルキル基、炭素数1〜10のアルコキシ基、炭素数1〜10のハロゲノアルコキシ基、炭素数1〜10のアルコキシカルボニル基、ニトロ基、フェニル基またはナフチル基を表す。
Mは、3価の希土類金属を表す。Bは、Zで置換されていてもよい含窒素へテロ環化合物(Zは、前記と同じ。)を表す。
r、sおよびtは、1〜4の整数を表し、n′は、1〜3の整数を表し、m′は、0〜3の整数を表す。〕
【請求項11】
前記R3およびR4が、それぞれ独立して炭素数1〜10のアルキル基、炭素数1〜10のハロゲノアルキル基、Zで置換されていてもよいフェニル基またはZで置換されていてもよいチエニル基を表し、前記Zが炭素数1〜10のアルキル基、炭素数1〜10のハロゲノアルキル基、炭素数1〜10のアルコキシ基または炭素数1〜10のハロゲノアルコキシ基を表し、
前記R5、R6およびR7が全て水素原子、前記r、sおよびtが全て1、前記Qが存在しない、前記BがZで置換されていてもよいフェナントロリンである請求項10記載のカルボン酸系希土類金属錯体。
【請求項12】
請求項1〜11のいずれか1項記載の希土類金属錯体を含むことを特徴とする発光材。

【公開番号】特開2007−210900(P2007−210900A)
【公開日】平成19年8月23日(2007.8.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−29532(P2006−29532)
【出願日】平成18年2月7日(2006.2.7)
【出願人】(504409543)国立大学法人秋田大学 (210)
【出願人】(000003986)日産化学工業株式会社 (510)
【Fターム(参考)】