説明

カード用コネクタ

【課題】カードを保持してスライドするスライド部材の表面に複数の凸部を形成するとともに、シェルに形成したカンチレバー状の板ばね部材を複数の凸部に断続的に当接させることによってスライド部材を制動するようにして、カードの精度と無関係に、適切な大きさの制動力を適切なタイミングで安定的に発揮することができ、カードを確実に、適切な速度で安定的に排出することができ、カードが飛出してしまうことがないようにする。
【解決手段】カバー部材は、カバー部材に基端部が一体的に接続され、自由端に摺動部が形成されたカンチレバー状の制動部材を備え、スライド部材は、摺動部が当接可能な制動面を含む被制動部を備え、制動面にはカードの挿入方向に複数並べて配列された凸部が形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カード用コネクタに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、パーソナルコンピュータ、携帯電話機、PDA(Personal Digital Assistant:個人用携帯情報端末)、デジタルカメラ、ビデオカメラ、音楽プレーヤ、ゲーム機、車両用ナビゲーション装置等の電子機器においては、SIM(Subscriber Identity Module)カード、MMC(Multi Media Card)(R)、SD(Secure Digital)(R)カード、miniSD(R)カード、xDピクチャーカード(xD−Picture card)(R)、メモリスティック(R)、スマートメディア(R)等の各種メモリカードを利用するために、カード用コネクタを備えている。
【0003】
近年のカード用コネクタは、使い勝手の観点から、メモリカードを挿入する際にも又は取外す際にも、メモリカードを押込むように操作するプッシュ/プッシュ構造を有するものが一般的である。しかし、プッシュ/プッシュ構造を有するカード用コネクタでは、カードを排出する際にスプリングの反発力によってカードをスライドさせるので、カードやカードを保持するスライド部材の移動速度が高くなり、カードが飛出してしまったり、スライド部材がストッパ部材に衝突して衝撃が発生してしまうことがある。そこで、減速装置を使用して、カードを排出する際のカードやスライド部材の移動速度を減速させる技術が提案されている(例えば、特許文献1参照。)。
【0004】
図10は従来のカード用コネクタを示す分解図である。
【0005】
図において、811は、合成樹脂等の絶縁性材料から成るカード用コネクタのハウジングであり、金属から成る複数の接続端子851を備える。また、861は、カード用コネクタのシェルであり、金属板から成り、ハウジング811の上側に取付けられる。そして、シェル861とハウジング811との間の空間には、メモリカード901が挿入され、該メモリカード901の図示されないコンタクトパッドが対応する接続端子851と接触する。
【0006】
図に示される例において、カード用コネクタは、いわゆるプッシュ/プッシュタイプコネクタであり、メモリカード901を排出する案内機構を有する。該案内機構は、メモリカード901と係合し、該メモリカード901とともにスライドするスライド部材821、及び、該スライド部材821をメモリカード901を排出する方向に付勢するコイルスプリング881を備える。
【0007】
前記ハウジング811の一方の側部には案内機構収容溝部811hが形成され、前記スライド部材821は案内機構収容溝部811hの内部にスライド可能に収容される。また、前記スライド部材821の上面には、ハートカム機構のカム溝823が形成され、該カム溝823にハートカム機構のピン部材871の一端が係合する。なお、該ピン部材871の他端は、案内機構収容溝部811hのストッパ部811gの近傍に係止される。また、前記ピン部材871は、シェル861の板ばね865によって上から下方向に付勢されることにより保持されている。
【0008】
さらに、前記スライド部材821は、メモリカード901の前端と係合する第1係合部821c、メモリカード901の係合凸部911の前端と係合する突出部824、メモリカード901の係合凹部912と係合する第2係合部821d、及び、ストッパ部811gと当接してスライド部材821を停止させる当接部821eを備える。
【0009】
そして、メモリカード901がハウジング811内に挿入されてユーザの手指によってプッシュされると、前記メモリカード901はハウジング811の奥方向(図における右上方向)に押込まれる。すると、メモリカード901の前端、係合凸部911及び係合凹部912とスライド部材821の第1係合部821c、突出部824及び第2係合部821dとが係合し、スライド部材821は、コイルスプリング881の反発力に抗して、メモリカード901とともにハウジング811の奥方に移動する。そして、ハートカムの作用によってピン部材871の一端がカム溝823に掛止されてスライド部材821が停止すると、メモリカード901もハウジング811内に挿入された状態で停止する。
【0010】
次に、メモリカード901をハウジング811から取出す際に、ユーザの手指によってメモリカード901がプッシュされると、ピン部材871の一端がカム溝823に掛止された状態が解除される。これにより、スライド部材821は開放され、コイルスプリング881の発揮する力によって、メモリカード901とともに手前方向(図における左下方向)に移動するので、メモリカード901がハウジング811から排出される。
【0011】
また、案内機構収容溝部811hの側壁には、ばね性を備えるカンチレバー状の制動シュー819が形成されている。さらに、複数の接続端子851の両側には、押上げばね852R及び852Lが配設されている。そして、前記制動シュー819の表面は、スライド部材821の突出部824の側面に押付けられ、前記押上げばね852R及び852Lの上面は、メモリカード901の下面に押付けられる。
【0012】
これにより、メモリカード901がハウジング811から排出される際に、スライド部材821及びメモリカード901の移動速度が、制動シュー819と押上げばね852R及び852Lとによって減速されるので、メモリカード901が飛出してしまったり、スライド部材821の当接部821eがストッパ部811gに衝突して衝撃が発生してしまったりすることがない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開2008−181792号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
しかしながら、前記従来のカード用コネクタは、押上げばね852R及び852Lを別途取付ける必要があるので、部品点数が増加し、コストも高くなってしまう。また、近年では、急速な低価格化に伴ってメモリカード901の外形仕上げ精度が低下し、メモリカード901表面の寸法精度が低下している。すなわち、同一種類のメモリカード901であっても、厚さ寸法にばらつきがあり、また、表面の粗度又は平滑度にもばらつきがある。そのため、メモリカード901が厚さ寸法の大きいものである場合、押上げばね852R及び852Lの押付け力が大きくなり、制動力が想定以上に大きくなってしまうので、メモリカード901の排出が阻害される。逆に、メモリカード901が厚さ寸法の小さいものである場合、押上げばね852R及び852Lの押付け力が小さくなり、制動力が想定以上に小さくなってしまうので、メモリカード901が飛出してしまう。同様に、メモリカード901の表面が粗い場合には制動力が想定以上に大きくなってメモリカード901の排出が阻害され、メモリカード901の表面が平滑な場合には制動力が想定以上に小さくなってメモリカード901が飛出してしまう。
【0015】
また、前記制動シュー819は、ばね性を備えるとともに、案内機構収容溝部811hの側壁にカンチレバー状に形成される必要がある。一方、近年では、電子機器の急速な小型化に伴って、メモリカード901及びカード用コネクタは、急速に小型化される傾向にある。そのため、合成樹脂等の絶縁性材料を一体成形することによって製作されるハウジング811の案内機構収容溝部811hの側壁に、ばね性を安定的に発揮し、かつ、カンチレバー状の極めて複雑な形状を備える微小寸法の制動シュー819を形成することは、極めて困難であり、仮に可能であるとしても、コストが高くなってしまう。
【0016】
本発明は、前記従来のカード用コネクタの問題点を解決して、カードを保持してスライドするスライド部材の表面に複数の凸部を形成するとともに、シェルに形成したカンチレバー状の板ばね部材を複数の凸部に断続的に当接させることによって前記スライド部材を制動するようにして、カードの精度と無関係に、適切な大きさの制動力を適切なタイミングで安定的に発揮することができ、カードを確実に、かつ、適切な速度で安定的に排出することができ、カードが飛出してしまうことがなく、構造が簡素で、部品点数が増加することがなく、製作が容易で、コストが低く、信頼性の高いカード用コネクタを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
そのために、本発明のカード用コネクタにおいては、端子部材を備えるカードを収容するハウジングと、該ハウジングに取付けられ、前記カードの端子部材と接触する接続端子と、前記ハウジングに挿入されたカードを保持してスライドするスライド部材、及び、該スライド部材をカードの挿入方向と反対の方向に付勢する付勢部材を備え、前記カードをロック位置で保持してカードの端子部材が接続端子と接触している状態を維持し、前記ロック位置で保持されているカードを挿入方向に押込むプッシュ動作によってカードが挿入方向に移動してオーバーストローク位置まで到達すると、前記付勢部材の付勢力により、前記カードをオーバーストローク位置から挿入方向と反対の方向に移動させて排出するカード案内機構と、前記ハウジングに取付けられ、少なくともスライド部材及びハウジングに挿入されたカードの一部を覆うカバー部材とを有するカード用コネクタであって、前記カバー部材は、該カバー部材に基端部が一体的に接続され、自由端に摺(しゅう)動部が形成されたカンチレバー状の制動部材を備え、前記スライド部材は、前記摺動部が当接可能な制動面を含む被制動部を備え、前記制動面にはカードの挿入方向に複数並べて配列された凸部が形成されている。
【0018】
本発明の他のカード用コネクタにおいては、さらに、前記制動面は、前記凸部の表面も含み、カードの挿入方向の手前側から奥側にかけて、低高低高低の順に変化する。
【0019】
本発明の更に他のカード用コネクタにおいては、さらに、前記摺動部が前記制動面に当接することによって発生する前記スライド部材を制動する制動力は、前記スライド部材がオーバーストローク位置からカードの挿入方向と反対の方向に移動すると、低高低高低の順に変化する。
【0020】
本発明の更に他のカード用コネクタにおいては、さらに、前記制動部材はばね力を発揮し、該ばね力によって前記摺動部は前記制動面に押付けられる。
【0021】
本発明の更に他のカード用コネクタにおいては、さらに、前記摺動部は、前記カードがオーバーストローク位置にあるとき、前記制動面における最も手前側に位置する凸部よりもカードの挿入方向の手前側の部分に当接し、前記カードがロック位置にあるとき、前記最も手前側に位置する凸部の表面に当接する。
【0022】
本発明の更に他のカード用コネクタにおいては、さらに、前記スライド部材は、前記カードを排出する際に、前記ハウジングが備えるストッパ部に当接して停止し、前記摺動部は、前記スライド部材がストッパ部に当接して停止したとき、前記制動面における最も奥側に位置する凸部よりもカードの挿入方向の奥側の部分に当接するか、又は、前記被制動部よりもカードの挿入方向の奥側に位置して前記制動面に当接しない。
【0023】
本発明の更に他のカード用コネクタにおいては、さらに、前記摺動部は、カードを排出する際に、前記カードがその端子部材と接続端子との接続が解除される位置にあるとき、前記制動面における最も手前側に位置する凸部と最も奥側に位置する凸部との間であって、凸部のない部分に当接する。
【0024】
本発明の更に他のカード用コネクタにおいては、さらに、前記摺動部は、カードを排出する際に、前記カードが、その端子部材と接続端子との接続が解除される位置と前記スライド部材がハウジングが備えるストッパ部に当接して停止する位置との間にあるとき、前記制動面における最も奥側に位置する凸部の表面に当接する。
【0025】
本発明の更に他のカード用コネクタにおいては、さらに、前記付勢部材は、コイルスプリングであり、圧縮された状態で付勢力を発揮する。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、カード用コネクタは、カードを保持してスライドするスライド部材の表面に複数の凸部を形成するとともに、シェルに形成したカンチレバー状の板ばね部材を複数の凸部に断続的に当接させるようになっている。これにより、カードの精度と無関係に、適切な大きさの制動力を適切なタイミングで安定的に発揮することができ、カードを確実に、かつ、適切な速度で安定的に排出することができ、カードが飛出してしまうことがなく、構造を簡素化することができ、部品点数の増加を防止し、製作を容易化して、コストを低減し、信頼性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の実施の形態におけるカード用コネクタの分解図である。
【図2】本発明の実施の形態におけるカード用コネクタを示す斜視図である。
【図3】本発明の実施の形態におけるカード用コネクタのシェルを取除いた状態を示す斜視図である。
【図4】本発明の実施の形態におけるカードを示す図であって、(a)は下面図、(b)は上面図である。
【図5】本発明の実施の形態におけるカード用コネクタのスライド部材がオーバーストローク位置に到達したときのシェルの側板部を取除いた状態を示す側面図である。
【図6】本発明の実施の形態におけるカード用コネクタのスライド部材がロック位置に到達したときのシェルの側板部を取除いた状態を示す側面図である。
【図7】本発明の実施の形態におけるカード用コネクタのスライド部材が端子排出位置に到達したときのシェルの側板部を取除いた状態を示す側面図である。
【図8】本発明の実施の形態におけるカード用コネクタのスライド部材が端子排出位置とカード仮保持位置との間に到達したときのシェルの側板部を取除いた状態を示す側面図である。
【図9】本発明の実施の形態におけるカード用コネクタのスライド部材がカード仮保持位置に到達したときのシェルの側板部を取除いた状態を示す側面図である。
【図10】従来のカード用コネクタを示す分解図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら詳細に説明する。
【0029】
図1は本発明の実施の形態におけるカード用コネクタの分解図、図2は本発明の実施の形態におけるカード用コネクタを示す斜視図、図3は本発明の実施の形態におけるカード用コネクタのシェルを取除いた状態を示す斜視図である。
【0030】
図において、1は本実施の形態におけるカード用コネクタであり、図示されない電子機器に取付けられる。そして、前記カード用コネクタ1の内部には後述されるカード101が挿入され、前記カード用コネクタ1を介して、前記電子機器にカード101が装着される。なお、前記電子機器は、例えば、パーソナルコンピュータ、携帯電話機、PDA、デジタルカメラ、ビデオカメラ、音楽プレーヤ、ゲーム機、車両用ナビゲーション装置等であるが、いかなる種類の機器であってもよい。
【0031】
また、前記カード101は、例えば、SIMカード、MMC(R)、SD(R)カード、miniSD(R)カード、xDピクチャーカード(R)、メモリスティック(R)、メモリスティックDuo(R)、スマートメディア(R)、T−Flash(Trans−Flash)メモリカード、マイクロSD(R)カード等のICカードであり、いかなる種類のカードであってもよいが、本実施の形態においては、マイクロSD(R)カードであるものとして説明する。
【0032】
なお、本実施の形態において、カード用コネクタ1の各部の構成及び動作を説明するために使用される上、下、左、右、前、後等の方向を示す表現は、絶対的なものでなく相対的なものであり、カード用コネクタ1又はその部品が図に示される姿勢である場合に適切であるが、カード用コネクタ1又はその部品の姿勢が変化した場合には、姿勢の変化に応じて変更して解釈されるべきものである。
【0033】
ここで、前記カード用コネクタ1は、合成樹脂等の絶縁性材料によって一体的に成形されたハウジング11と、金属等の導電性材料から成る板材に打抜き、折曲げ等の加工を施すことによって一体的に成形され、ハウジング11の上側に取付けられたカバー部材としてのシェル61とを有する。該シェル61は、ハウジング11及び該ハウジング11に収容されたカード101の少なくとも一部の上方を覆うようになっている。そして、前記カード用コネクタ1は、概略、扁(へん)平な直方体形状を備え、前記電子機器に取付けられ、前方(図における左上方)からカード101が挿入される。
【0034】
なお、図3は、説明のためにシェル61を除去した状態のハウジング11の斜視図である。
【0035】
図に示されるように、ハウジング11は、カード101の挿入方向に関して手前側となる前縁側(図における左上側)が略U字状又は略コ字状に切取られた形状を備える底壁部11b、及び、該底壁部11bの奥部において奥側(図における右下側)の縁に沿って延在し、底壁部11bから立設する奥壁部11aを有する。ここで、底壁部11bは、上面に接続端子としての端子51が取付けられた端子保持部11eを備える。該端子保持部11eの上面には、前後方向(図における左上と右下とを結ぶ方向)に延在するように形成された端子装填(てん)溝が複数形成され、各端子装填溝に接続端子としての端子51が挿入されて取付けられている。
【0036】
そして、該端子51は、その基部51aが前記端子装填溝内に取付けられ、その先端部51bが奥壁部11aに向けて斜め上方に延在して底壁部11bの上面より上方に突出している。前記端子51の先端部51bは、接触部として機能し、カード101の下面に配設された端子部材としてのコンタクトパッド151に接触して電気的に接続される。また、前記端子51の根本部から延在するソルダーテール部51cは、底壁部11bの手前側の縁から前方に向けて突出し、前記電子機器における配線基板等に形成された信号線、コンタクトパッド、端子等、すなわち、相手側端子部材に、はんだ付等によって電気的に接続される。
【0037】
さらに、前記底壁部11bにおける端子51の先端部51bの下方に対応する部分には、底壁部11bを厚さ方向に貫通する開口部11iが形成されている。なお、該開口部11iは、必要に応じて省略することもできる。
【0038】
そして、ハウジング11は、底壁部11bの一方の側縁に沿って前後方向に延在する断面L字状の側壁としての第1側壁部11c、及び、底壁部11bの他方の側縁に沿って前後方向に延在する側壁としての第2側壁部11dを有する。
【0039】
該第2側壁部11dの内側にはカード案内機構収容部11hが形成され、該カード案内機構収容部11hにカード用コネクタ1内に挿入されたカード101を案内するためのカード案内機構のスライド部材21が前後方向にスライド可能に取付けられている。ここで、該スライド部材21は、カード101を保持するためのカード保持部21aと、移動カム部材としてのスライドカム部21bと、スライド速度を制御するための制動力を受ける被制動部21gとを有する。なお、前記カード保持部21a、スライドカム部21b及び被制動部21gは、合成樹脂等の絶縁性材料によって一体的に成形されている。
【0040】
そして、前記カード保持部21aは、その内側の側面から突出するように形成された第1係合部21c及び第2係合部21dを備える。第1係合部21c及び第2係合部21dは、カード101の側面に形成された凹凸を含む係合部と係合する。そして、スライド部材21は、カード保持部21aの第1係合部21c及び第2係合部21dによってカード101を保持し、該カード101とともに前後方向に移動する。
【0041】
また、カード保持部21aの奥側の側面は、圧縮された状態で付勢力を発揮するコイルスプリングとしての付勢部材81の付勢力を受ける付勢力受部21eとして機能する。該付勢力受部21eには、付勢部材81を係止する係止突起21fが形成され、付勢部材81の一端が取付けられている。また、該付勢部材81の他端は、奥壁部11aに取付けられている。なお、該奥壁部11aも付勢部材81を係止する係止突起を備える。これにより、前記スライド部材21は、付勢部材81によって、カード101の挿入方向と反対の方向、すなわち、カード101の排出方向に付勢される。
【0042】
そして、前記カード用コネクタ1は、カード用コネクタ1内にカード101を挿入する際にも、カード用コネクタ1内からカード101を取出す際にも、カード101を押込む動作を必要とする、いわゆる、プッシュインプッシュアウトタイプ、又は、プッシュ/プッシュタイプと通称されるものである。このような動作は、押しボタンスイッチの分野におけるオルタネイト動作(位置保持型、プッシュオン・プッシュオフ型)と同様のものである。そして、前記スライドカム部21bは、プッシュ/プッシュタイプの動作を行うためのハート状カムのカム機構におけるスライドカムとして機能する。
【0043】
そのため、スライドカム部21bの上面には、カム溝23が形成され、該カム溝23には固定カム部材としての細長いピン部材71の自由端が係合している。また、該ピン部材71の他端は、固定端として、ハウジング11のカード案内機構収容部11h内における奥壁部11a寄りの部分に形成された掛止部11fの上面に掛止され、ピボット結合されている。そして、前記ピン部材71とカム溝23とが協働することによって、カード101とともに移動するスライド部材21にプッシュ/プッシュタイプの動作を行わせるようになっている。これにより、前記カード案内機構は、カード101を挿入方向に押込むプッシュ動作によってカード101が挿入方向に移動して終端点まで到達すると、前記付勢部材81の付勢力により、前記カード101を終端点から挿入方向と反対の方向に移動させて排出することができる。なお、挿入方向と反対の方向に移動するスライド部材21は、第2側壁部11dの手前側端近傍に形成されたストッパ部11gに当接して停止する。
【0044】
前記ピン部材71は、シェル61のピン押え部材65によって上から下方向に付勢されることにより保持されている。前記ピン押え部材65は、シェル61の一部をハウジング11の底壁部11bの方向に押圧可能に折曲げ加工することによって形成されたばね性を備える板状の部材であり、ピン部材71は、前記ピン押え部材65とスライド部材21又はハウジング11との間に位置し、スライド部材21又はハウジング11から離脱しないように保持されている。
【0045】
また、前記シェル61は、概略矩(く)形の天板部62と、該天板部62の側縁の複数箇所から立設する複数の側板部64とを有する。該側板部64には、複数の掛止開口63が形成され、図2に示されるように、シェル61をハウジング11の上側に取付けると、該ハウジング11の奥壁部11a、第1側壁部11c及び第2側壁部11dの外側面に形成された掛止突起13に前記掛止開口63が掛止され、これにより、シェル61がハウジング11に固定される。
【0046】
さらに、シェル61は、前記ピン押え部材65に加えて、天板部62に形成された制動部材66を有する。該制動部材66は、天板部62の一部を切起こして形成したカンチレバー状の板ばね部材であり、その基端部が天板部62に一体的に接続され、その自由端部には下方に突出する凸状の摺動部66aが形成されている。そして、前記制動部材66は、天板部62における第2側壁部11dに対応する側板部64の近傍に形成され、全体として側板部64に沿って前後方向に延在し、摺動部66aは基端部から奥側に向って、かつ、斜め下方、すなわち、底壁部11bに接近する方向に延出している。
【0047】
一方、前記スライド部材21の被制動部21gは、スライドカム部21bの側方に配設され、スライド部材21の移動方向、すなわち、前後方向に延在する細長い矩形の板状部材である。そして、被制動部21gの下面は、ハウジング11の第2側壁部11dの上面であるスライド面11j上を摺動する。すなわち、被制動部21gは、スライド面11jによって下方から支持されてスライドする。
【0048】
また、被制動部21gの上側の面である表面は、前記制動部材66の摺動部66aが当接可能であって、該摺動部66aが当接して摺動することによって制動力を受ける制動面として機能する。そして、前記被制動部21gの表面には、カード101の挿入方向に関して手前側に位置する第1凸部21h1及びカード101の挿入方向に関して奥側に位置する第2凸部21h2が形成されている。前記第1凸部21h1及び第2凸部21h2は、いずれも、側面形状が矩形であり、それらの表面は前記被制動部21gの表面と平行であり、同様に、制動面として機能する。また、前記第1凸部21h1及び第2凸部21h2は、被制動部21gの表面の長手方向、すなわち、前後方向の中間の範囲に形成されている。なお、第1凸部21h1と第2凸部21h2とは所定の間隔だけカード101の挿入方向に関して離間している。したがって、被制動部21gの制動面の高さは、手前側から奥側に向って、低高低高低の順に変化する。なお、前記第1凸部21h1及び第2凸部21h2の表面は、必ずしも平面である必要はなく、例えば、凹部を形成してもよいが、ここでは、説明の都合上、平面である場合についてのみ説明する。
【0049】
そして、前記制動部材66は、シェル61がハウジング11に固定された状態で、摺動部66aが被制動部21gの表面に対応する位置に形成されている。そして、制動部材66のばね力によって摺動部66aが被制動部21gの表面に押付けられることにより、前後方向に移動するスライド部材21を制動する制動力が発生する。なお、制動部材66は、金属板から成るシェル61の天板部62に、打抜き加工、曲げ加工等の加工を施して形成された部材なので、容易にかつ高精度で形成することができるとともに、金属製であるために極めて安定したばね性を備えるので、摺動部66aが被制動部21gの表面に当接した状態で、所望の大きさの制動力を安定的に発生することができる。もっとも、前記摺動部66aは、必ずしも、常時、被制動部21gの表面に当接して制動力を発生する必要はなく、前後方向に移動するスライド部材21の位置によっては、被制動部21gの表面に当接せず、制動力を発生しない状態となることもあり得る。
【0050】
また、ハウジング11の奥部には、カード101のコンタクトパッド151と端子51とが接触していることを検出して、カード101がカード用コネクタ1に装填されていることを検出するカード検出スイッチが配設されている。該カード検出スイッチは、奥壁部11a及びその近傍に取付けられた第1接点部材52及び第2接点部材53によって形成される。なお、スイッチは、カード101のコンタクトパッド151と端子51の接続状態を検出するスイッチなどいかなるスイッチでもよいが、説明の都合上、カード検出スイッチである場合のみについて説明する。
【0051】
前記第1接点部材52は、奥壁部11aに取付けられた取付部52a、基端が前記取付部52aに接続され、横方向、すなわち、第1側壁部11cの方向に向けて延出するカンチレバー状の本体部52b、及び、該本体部52bの自由端に接続された当接部52cを有する。そして、前記取付部52aは奥壁部11aの側面とほぼ平行となり、本体部52bは、カード101がカード用コネクタ1に挿入されていない状態においては、奥壁部11aの側面に対して傾斜し、当接部52cは、カード101の挿入方向に関して手前側に向けて突出するように配設されている。そのため、カード101が挿入されると、該カード101の前端が当接部52cに当接する。
【0052】
一方、前記第2接点部材53は、底壁部11bにおける奥壁部11a寄りの部分に取付けられた取付部53a、基端が前記取付部53aに接続され第1側壁部11cの方向に向けて延出するカンチレバー状の本体部53b、及び、該本体部53bの自由端に接続された当接部53cを有する。そして、前記第2接点部材53は、第1接点部材52よりも下側に、かつ、奥壁部11aに近接して配設されている。
【0053】
そのため、カード101が挿入されていない状態においては、第1接点部材52と第2接点部材53とは非接触であり、カード検出スイッチは非導通状態、すなわち、オフ(OFF)になっている。
【0054】
しかし、カード101が挿入され、そのコンタクトパッド151と端子51とが接触する位置に到達すると、カード101の前端によって第1接点部材52の当接部52cが奥壁部11aの方向に向けて押されて変位し、当接部52cが第2接点部材53の当接部53cに当接する。これにより、第1接点部材52と第2接点部材53とが接触し、カード検出スイッチは導通状態、すなわち、オン(ON)になる。
【0055】
次に、カード101について説明する。
【0056】
図4は本発明の実施の形態におけるカードを示す図であって、図4において、(a)は下面図、(b)は上面図である。
【0057】
前述のように、本実施の形態において、カード101は、マイクロSD(R)カードであり、図4に示されるような略長方形の板状の形状を有し、各寸法は、長さ(図4における上下)が15.0〔mm〕、幅(図4における左右)が11.0〔mm〕である。そして、第1面の前端寄りの位置には、複数のコンタクトパッド151が一端縁に沿って並んだ状態で配設されている。
【0058】
次に、前記構成のカード用コネクタ1の動作について説明する。まず、カード101を挿入する場合の動作について説明する。
【0059】
まず、利用者が手指等によってカード101をカード用コネクタ1の前方から挿入する。なお、カード101は、前端がハウジング11の奥壁部11aの方を向き、コンタクトパッド151の配設された下面が底壁部11bと対向し、コンタクトパッド151の配設されていない上面がシェル61の天板部62と対向するような姿勢で挿入される。これにより、カード101は、係合部としての凸部凹部平面部が形成された側面がハウジング11の第2側壁部11dに沿って、かつ、他方の側面がハウジング11の第1側壁部11cに沿って進行する。
【0060】
続いて、利用者がカード101をプッシュして更に押込むと、スライド部材21の第1係合部21c及び第2係合部21dがカード101の側面の係合部と係合し、前記カード101は、スライド部材21によって確実に保持され、該スライド部材21とともに、奥壁部11aに向けて移動する。この際、利用者の手指等が発揮する押圧力は、カード101の係合部から第1係合部21cや第2係合部21dを介してスライド部材21に伝達される。そして、該スライド部材21がコイルスプリングから成る付勢部材81を圧縮するので、スライド部材21及びカード101は、付勢部材81の反発力を受けるが、該反発力が利用者の手指等が発揮する押圧力よりも小さいので、前記反発力に抗して移動する。この場合、スライド部材21は第2側壁部11dに沿ってスライドし、カード101はスライド部材21とともに進行する。そして、スライド部材21及びカード101は、ロック位置よりも前進した位置であるオーバーストローク位置に到達してオーバーストローク状態となる。
【0061】
続いて、利用者がカード101をプッシュする動作を止め、カード101に対する押圧力を解除すると、付勢部材81の反発力によって、スライド部材21及びカード101は奥壁部11aから離脱する向きに移動させられる。そして、スライド部材21及びカード101は、カード用コネクタ1内でカード101をロックした状態で保持するロック位置で停止する。これは、スライド部材21のスライドカム部21bの上面に形成されたカム溝23と係合しているピン部材71の自由端が、カム溝23の一部に掛止されてスライド部材21の動きを停止させることによって、スライド部材21を前記ロック位置で停止させているからである。
【0062】
そして、カード101は、ロック位置に保持されることによって、カード用コネクタ1が実装された基板を備える電子機器の演算手段等との間でデータの送受信を行うことができる状態となる。なお、カード101がロック位置に保持されている場合、カード101のコンタクトパッド151は、端子51の先端部51bと接触して導通している。また、カード検出スイッチの第1接点部材52の当接部52cは、カード101の前端によって奥側に押出されて変位し、第2接点部材53の当接部53cに当接している。これにより、第1接点部材52と第2接点部材53とが接触し、カード検出スイッチはオンになっている。
【0063】
次に、カード101をカード用コネクタ1から排出させる動作について説明する。
【0064】
図5は本発明の実施の形態におけるカード用コネクタのスライド部材がオーバーストローク位置に到達したときのシェルの側板部を取除いた状態を示す側面図、図6は本発明の実施の形態におけるカード用コネクタのスライド部材がロック位置に到達したときのシェルの側板部を取除いた状態を示す側面図、図7は本発明の実施の形態におけるカード用コネクタのスライド部材が端子排出位置に到達したときのシェルの側板部を取除いた状態を示す側面図、図8は本発明の実施の形態におけるカード用コネクタのスライド部材が端子排出位置とカード仮保持位置との間に到達したときのシェルの側板部を取除いた状態を示す側面図、図9は本発明の実施の形態におけるカード用コネクタのスライド部材がカード仮保持位置に到達したときのシェルの側板部を取除いた状態を示す側面図である。
【0065】
まず、利用者が手指等によってカード101をプッシュして押込むと、スライド部材21及びカード101は、ロック位置から奥壁部11aに向けて移動させられる。そして、利用者がカード101をプッシュして更に押込むと、スライド部材21及びカードは、図5に示されるように、ロック位置よりも前進した位置であるオーバーストローク位置に到達してオーバーストローク状態となる。
【0066】
スライド部材21がオーバーストローク位置にあるときには、制動部材66の摺動部66aは、被制動部21gの表面に当接している。すなわち、制動面の低い部位に当接している。したがって、スライド部材21は、オーバーストローク位置及びその近傍の範囲では、弱い制動力を受けることになる。もっとも、スライド部材21がオーバーストローク位置にある場合、摺動部66aが被制動部21gの表面に当接していないときは、スライド部材21は、オーバーストローク位置及びその近傍の範囲では、制動力を受けないことになる。
【0067】
続いて、利用者がカード101をプッシュする動作を止め、該カード101に対する押込力を解除すると、付勢部材81の付勢力によって、オーバーストローク位置に位置しているスライド部材21及びカード101は、奥壁部11aから離脱する向きに移動させられ、挿入方向と反対の方向に移動させられる。この場合、前述のように、スライド部材21が制動部材66から弱い制動力しか受けていない、若しくは、制動力が発生しないので、付勢部材81の付勢力は、制動部材66からの制動力によってほとんど減殺されることがない。
【0068】
スライド部材21及びカード101がオーバーストローク位置から挿入方向と反対の方向への移動を開始する時点、すなわち、カード101を排出する工程の最初の時点では、停止状態から移動を開始するところ、静摩擦は動摩擦よりも大きいのであるから、静摩擦に打勝つ程度に大きな力が、排出力としてスライド部材21及びカード101に付与される必要がある。
【0069】
そのため、仮に、カード101を排出する工程の最初の時点で、制動部材66からの制動力が強すぎると、付勢部材81の付勢力が大きく減殺されてしまい、十分に大きな排出力がスライド部材21及びカード101に付与されないこととなり、カード101を排出する工程が開始されないことになる。つまり、カード101の排出性が低下し、最悪の場合には、カード101が排出されないこととなる。
【0070】
しかしながら、本実施の形態においては、カード101を排出する工程の最初の時点では、前述のように、スライド部材21が制動部材66から弱い制動力しか受けていないので、付勢部材81の付勢力が大きく減殺されることがなく、十分に大きな排出力がスライド部材21及びカード101に付与される。これにより、カード101の表面がハウジング11及び/又はシェル61の内面と擦(こす)れることによって、カード101が受ける摩擦が大きい場合であっても、スライド部材21及びカード101に付与される大きな排出力が摩擦に打勝つので、カード101は確実に挿入方向と反対の方向に移動して排出される。つまり、カード101の排出性が低下することがない。
【0071】
そして、カード101を排出する工程が開始されると、スライド部材21及びカード101は、付勢部材81の付勢力によって手前側に向けて移動し、図6に示されるようなロック位置を通過し、カード101の挿入方向と反対の方向に向けて更に移動する。
【0072】
スライド部材21がロック位置及びその前後にあるときには、制動部材66の摺動部66aは、第1凸部21h1の表面に当接している。すなわち、制動面の高い部位に当接している。したがって、スライド部材21は、ロック位置を含むその前後の所定の範囲、すなわち、第1凸部21h1が存在する範囲では、強い制動力を受けることになる。そして、付勢部材81の付勢力が制動部材66からの制動力によって大きく減殺されるので、スライド部材21及びカード101の移動速度が効果的に減速される。これにより、カード101がカード用コネクタ1から勢いよく飛出してしまうことを防止することができる。
【0073】
なお、前述のように、第1凸部21h1及び第2凸部21h2は、被制動部21gの表面の前後方向の中間の範囲に形成され、被制動部21gの制動面の高さは、手前側から奥側に向って、低高低高低の順に変化する。そして、手前側寄りに位置する第1凸部21h1の位置が、図5に示されるように、スライド部材21がオーバーストローク位置にある時点での制動部材66の摺動部66aから少し離れているので、カード101を排出する工程が開始されてから少しの期間は、前記摺動部66aは、被制動部21gの表面に当接し、第1凸部21h1の表面に当接しない。すなわち、制動面の低い部位に当接し、高い部位に当接しない。そのため、スライド部材21は、付勢部材81の付勢力によって加速してある程度の速度に到達するまでは強い制動力を受けることがない。そして、図6に示されるように、前記摺動部66aが第1凸部21h1の表面に当接するようになった時点では、スライド部材21及びカード101は、既に移動しているので、受ける摩擦が静摩擦よりも小さな動摩擦に変化し、かつ、慣性が生じているので、強い制動力を受けても停止してしまうことがない。つまり、カード101の排出性が低下することがない。
【0074】
ところで、制動面において前記摺動部66aの当接する部位が被制動部21gの表面から第1凸部21h1の表面に遷移する際、すなわち、前記摺動部66aが第1凸部21h1の手前側端(図5及び6における左側端)に当接する際には、制動力がステップ状に上昇するので、スライド部材21は非常に強い制動力を受けることが考えられる。しかし、前述のように、この時点では、摩擦が小さな動摩擦に変化し、かつ、慣性が生じていることに加え、コイルスプリングから成る付勢部材81が、大きく圧縮された状態となっているために大きな付勢力を発生させている。そのため、スライド部材21が摺動部66aから非常に強い制動力を受けても、スライド部材21及びカード101は停止することがない。さらに、第1凸部21h1の手前側端及び/又は摺動部66aの形状を適宜変更することによって、例えば、第1凸部21h1の手前側端を曲面にしたり、傾斜面にすることによって、また、例えば、摺動部66aの外形の傾斜を緩くしたり、曲率を大きくしたりすることによって、摺動部66aが第1凸部21h1の手前側端に当接する際の制動力を低減することもできる。
【0075】
そして、スライド部材21及びカード101は、付勢部材81の付勢力によって手前側に向けてロック位置を通過した後、更に移動し、図7に示されるような端子排出位置を通過し、カード101の挿入方向と反対の方向に向けて移動する。カード101が端子排出位置に到達すると、それまで維持されていたカード101のコンタクトパッド151と端子51の先端部51bとの接触が解除され、前記コンタクトパッド151と端子51とが非導通状態となる。また、カード検出スイッチの第1接点部材52の当接部52cは、本体部52bのばね性によって元の位置に復帰する。そのため、第1接点部材52と第2接点部材53とが非接触となるので、カード検出スイッチはオフになる。
【0076】
スライド部材21が端子排出位置及びその前後にあるときには、制動部材66の摺動部66aは、第1凸部21h1と第2凸部21h2との間の被制動部21gの表面に当接している。すなわち、制動面の低い部位に当接している。したがって、スライド部材21は、端子排出位置を含むその前後の所定の範囲、すなわち、第1凸部21h1と第2凸部21h2の間の範囲では、弱い制動力を受けることになる。
【0077】
前述のように、スライド部材21は、ロック位置及びその前後にあって摺動部66aが第1凸部21h1の表面に当接している間は、強い制動力を受けている。一方、この間、カード101のコンタクトパッド151は、端子51の先端部51bが接触しているので、該先端部51bから摩擦を受けている。つまり、カード101は、静摩擦より小さな動摩擦ではあるが、比較的大きな動摩擦を受けている。さらに、コイルスプリングから成る付勢部材81は、やや伸長して圧縮の程度が低くなっているので、発生する付勢力がやや低下している。したがって、付勢部材81から受ける付勢力と摩擦との差が減少している。そのため、スライド部材21が強い制動力を受け続けると、スライド部材21及びカード101の移動速度が減速され過ぎて、カード101の排出性が低下してしまう可能性がある。
【0078】
そこで、本実施の形態においては、第1凸部21h1と第2凸部21h2との間において、制動部材66から受ける制動力を低減し、これにより、カード101の排出性の低下を防止している。
【0079】
続いて、スライド部材21及びカードは、更に移動して、図8に示されるような端子排出位置とカード仮保持位置との間に到達する。なお、カード仮保持位置は、後述されるように、スライド部材21が停止する位置である。
【0080】
スライド部材21が図8に示されるような位置にあるときには、制動部材66の摺動部66aは、第2凸部21h2の表面に当接している。すなわち、制動面の高い部位に当接している。したがって、スライド部材21は、第2凸部21h2が存在する範囲では、強い制動力を受けることになる。
【0081】
端子排出位置を通過した後は、カード101のコンタクトパッド151は、端子51の先端部51bと接触していないので、該先端部51bから摩擦を受けていない。したがって、付勢部材81から受ける付勢力と摩擦との差がやや大きくなっているので、スライド部材21及びカード101の移動速度が高くなり過ぎてしまう可能性がある。
【0082】
そこで、本実施の形態においては、第1凸部21h1よりも奥側に配設された第2凸部21h2の表面に制動部材66の摺動部66aを当接させ、スライド部材21が制動部材66から受ける制動力を大きくし、これにより、スライド部材21及びカード101の移動速度を効果的に減速し、カード101がカード用コネクタ1から勢いよく飛出してしまうことを防止するようになっている。
【0083】
ところで、制動面において前記摺動部66aの当接する部位が被制動部21gの表面から第2凸部21h2の表面に遷移する際、すなわち、前記摺動部66aが第2凸部21h2の手前側端(図8における左側端)に当接する際には、制動力がステップ状に上昇するので、スライド部材21は非常に強い制動力を受けることが考えられる。しかし、前述のように、この時点では、動摩擦が小さく、かつ、慣性が生じていることに加え、コイルスプリングから成る付勢部材81も、ある程度の付勢力を発生させている。そのため、スライド部材21が摺動部66aから非常に強い制動力を受けても、スライド部材21及びカード101は停止することがない。さらに、第2凸部21h2の手前側端及び/又は摺動部66aの形状を適宜変更することによって、例えば、第2凸部21h2の手前側端を曲面にしたり、傾斜面にすることによって、また、例えば、摺動部66aの外形の傾斜を緩くしたり、曲率を大きくしたりすることによって、摺動部66aが第2凸部21h2の手前側端に当接する際の制動力を低減することもできる。
【0084】
そして、スライド部材21及びカード101は、付勢部材81の付勢力によって手前側に向けて更に移動した後、スライド部材21が第2側壁部11dに形成されたストッパ部11gに当接することによって、図9に示されるようなカード仮保持位置で停止する。該カード仮保持位置では、スライド部材21の姿勢が変化するので、スライド部材21の第1係合部21c及び第2係合部21dとカード101の係合部との係合が緩いものとなる。したがって、カード101は、スライド部材21によって一応保持されてはいるものの、利用者が手指等によってカード101を引けば、強い引張り力が付与されなくても、スライド部材21による保持が解除されて取出される状態となっている。
【0085】
スライド部材21がカード仮保持位置にあるときには、制動部材66の摺動部66aは、被制動部21gの表面に当接していない。すなわち、被制動部21gの奥側端(図9における右側端)は、前記摺動部66aよりも手前側に位置する。なお、前記被制動部21gの長さを延長して、スライド部材21がカード仮保持位置にあるときであっても、被制動部21gの奥側端が摺動部66aよりも奥側に位置し、該摺動部66aが被制動部21gの表面に当接しているようにすることもできる。つまり、スライド部材21がカード仮保持位置にあるときには、前記摺動部66aは、制動面に当接していないか、又は、制動面の低い部位に当接している。
【0086】
そのため、スライド部材21は、カード仮保持位置及びその近傍の範囲では、制動力を受けないか、又は、受けたとしても、弱い制動力を受けることになる。したがって、付勢部材81の付勢力は、制動部材66からの制動力によって全く、又は、ほとんど減殺されることがない。
【0087】
スライド部材21がカード仮保持位置及びその近傍の範囲にあるときには、コイルスプリングから成る付勢部材81は、ほとんど圧縮されておらず、自由長に近い長さになっているために、ほとんど付勢力を発生していない。
【0088】
そのため、仮に、制動部材66からの制動力が大きいと、スライド部材21及びカード101は停止してしまう可能性がある。つまり、カード101の排出性が低下し、最悪の場合には、カード101が排出されない可能性がある。
【0089】
例えば、「背景技術」の項で説明した従来のカード用コネクタでは、制動シュー819が発揮する制動力が、メモリカード901がハウジング811から排出される際、すなわち、スライド部材821が最も手前に到達して当接部821eがストッパ部811gに当接した時に最大になっている。この場合、コイルスプリング881が自由長に近い長さとなって、その反発力が最低になっているので、制動シュー819が発揮する制動力が、コイルスプリング881の反発力に打勝ち、メモリカード901がハウジング811から排出されなくなってしまう可能性が高い。
【0090】
これに対し、本実施の形態においては、スライド部材21は、カード仮保持位置及びその近傍の範囲にあるときには、制動力を受けないか、又は、受けたとしても、弱い制動力を受けるだけなので、付勢部材81の付勢力が全く、又は、ほとんど減殺されることがない。これにより、付勢部材81から受ける付勢力が小さくても、スライド部材21及びカード101は、停止することなく、カード仮保持位置に到達することができる。つまり、カード101の排出性が低下することがない。
【0091】
なお、前述のように、スライド部材21が、カード仮保持位置及びその近傍の範囲に到達する直前、すなわち、ロック位置及びその前後にあるときには、制動部材66の摺動部66aが第2凸部21h2の上面、すなわち、制動面の高い部位に当接しているので、スライド部材21及びカード101の移動速度が効果的に減速されている。そのため、スライド部材21がカード仮保持位置及びその近傍の範囲にあるときに、制動力を受けないか、又は、弱い制動力だけを受けても、カード101がカード用コネクタ1から勢いよく飛出してしまうことはない。
【0092】
また、スライド部材21がストッパ部11gに当接して停止する際にも、移動速度が効果的に減速されているので、大きな衝撃が発生することがない。
【0093】
なお、本実施の形態においては、制動部材66がシェル61の天板部62に形成され、被制動部21gの上側の面が制動面として機能し、かつ、被制動部21gの上側の面に第1凸部21h1及び第2凸部21h2が形成されている例についてのみ説明したが、制動部材66がシェル61の側板部64に形成され、被制動部21gの側面が制動面として機能し、かつ、被制動部21gの側面に第1凸部21h1及び第2凸部21h2が形成されていてもよい。
【0094】
また、本実施の形態においては、被制動部21gに形成された凸部が第1凸部21h1及び第2凸部21h2の2つである場合についてのみ説明したが、前記凸部は複数であれば、いくつであってもよく、例えば、3つであっても、4つであってもよい。
【0095】
さらに、本実施の形態においては、カード101をカード用コネクタ1に挿入する場合における制動部材66から被制動部21gに与えられる制動力の変化についての説明を省略した。これは、利用者が手指等によってカード101を挿入する力が、前記制動力や付勢部材81の付勢力と比較して十分に大きいために、カード101は、前記制動力の影響をほとんど受けることなく、カード用コネクタ1に挿入されるからである。したがって、制動部材66から被制動部21gに制動力を与えても、カード101をカード用コネクタ1に挿入する場合の操作性が悪化することはない。
【0096】
このように、本実施の形態におけるカード用コネクタ1では、シェル61は、該シェル61に基端部が一体的に接続され、自由端に摺動部66aが形成されたカンチレバー状の制動部材66を備え、スライド部材21は、摺動部66aが当接可能な制動面を含む被制動部21gを備え、制動面には第1凸部21h1及び第2凸部21h2が形成されている。これにより、カード101の外形仕上げ精度と無関係に、適切な大きさの制動力を適切なタイミングで安定的に発揮することができる。したがって、カード101を確実に、かつ、適切な速度で安定的に排出することができる。また、カード101が飛出してしまうことがない。さらに、構造が簡素であり、部品点数が増加することもない。したがって、製作が容易であり、コストを低減することができるとともに、信頼性を向上させることができる。
【0097】
また、摺動部66aは、カード101がオーバーストローク位置にあるとき、制動面における第1凸部21h1よりもカード101の挿入方向の手前側の部分に当接し、カード101がロック位置にあるとき、第1凸部21h1の表面に当接する。これにより、カード101を排出する工程の最初の時点では、スライド部材21が弱い制動力を受けるだけなので、カード101の排出性が低下することがない。また、スライド部材21がロック位置にあるときは、付勢部材81の付勢力が制動力によって大きく減殺されるので、スライド部材21及びカード101の移動速度が効果的に減速され、カード101がカード用コネクタ1から勢いよく飛出してしまうことを防止することができる。
【0098】
さらに、スライド部材21は、カード101を排出する際に、ハウジング11が備えるストッパ部11gに当接して停止し、摺動部66aは、スライド部材21がストッパ部11gに当接して停止したとき、制動面における第2凸部21h2よりもカード101の挿入方向の奥側の部分に当接するか、又は、被制動部21gよりもカード101の挿入方向の奥側に位置して制動面に当接しない。これにより、スライド部材21がストッパ部11gに当接して停止しているときには、スライド部材21が制動力を受けないか、又は、受けたとしても、弱い制動力を受けるだけなので、付勢部材81の付勢力は、制動力によって全く、又は、ほとんど減殺されることがない。したがって、カード101の排出性が低下することがない。
【0099】
さらに、摺動部66aは、カード101を排出する際に、カード101がそのコンタクトパッド151と端子51との接続が解除される位置にあるとき、制動面における第1凸部21h1と第2凸部21h2との間であって、第1凸部21h1及び第2凸部21h2のない部分に当接する。これにより、カード101のコンタクトパッド151が端子51と接触して摩擦を受けているときに、制動力を低減することができるので、カード101の排出性が低下することがない。
【0100】
さらに、摺動部66aは、カード101を排出する際に、カード101が、そのコンタクトパッド151と端子51との接続が解除される位置とスライド部材21がハウジング11が備えるストッパ部11gに当接して停止する位置との間にあるとき、第2凸部21h2の表面に当接する。これにより、カード101のコンタクトパッド151と端子51との接触が解除されて摩擦を受けないときに、制動力を増加させることができるので、カード101がカード用コネクタ1から勢いよく飛出してしまうことを防止することができる。
【0101】
なお、本発明は前記実施の形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨に基づいて種々変形させることが可能であり、それらを本発明の範囲から排除するものではない。
【産業上の利用可能性】
【0102】
本発明は、カード用コネクタに適用することができる。
【符号の説明】
【0103】
1 カード用コネクタ
11、811 ハウジング
11a 奥壁部
11b 底壁部
11c 第1側壁部
11d 第2側壁部
11e 端子保持部
11f 掛止部
11g、811g ストッパ部
11h カード案内機構収容部
11i 開口部
11j スライド面
13 掛止突起
21、821 スライド部材
21a カード保持部
21b スライドカム部
21c、821c 第1係合部
21d、821d 第2係合部
21e 付勢力受部
21f 係止突起
21g 被制動部
21h1 第1凸部
21h2 第2凸部
23、823 カム溝
51 端子
51a 基部
51b 先端部
51c ソルダーテール部
52 第1接点部材
52a、53a 取付部
52b、53b 本体部
52c、53c、821e 当接部
53 第2接点部材
61、861 シェル
62 天板部
63 掛止開口
64 側板部
65 ピン押え部材
66 制動部材
66a 摺動部
71、871 ピン部材
81 付勢部材
101 カード
151 コンタクトパッド
811h 案内機構収容溝部
819 制動シュー
824 突出部
851 接続端子
852R、852L 押上げばね
865 板ばね
881 コイルスプリング
901 メモリカード
911 係合凸部
912 係合凹部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)端子部材を備えるカードを収容するハウジングと、
(b)該ハウジングに取付けられ、前記カードの端子部材と接触する接続端子と、
(c)前記ハウジングに挿入されたカードを保持してスライドするスライド部材、及び、該スライド部材をカードの挿入方向と反対の方向に付勢する付勢部材を備え、前記カードをロック位置で保持してカードの端子部材が接続端子と接触している状態を維持し、前記ロック位置で保持されているカードを挿入方向に押込むプッシュ動作によってカードが挿入方向に移動してオーバーストローク位置まで到達すると、前記付勢部材の付勢力によって、前記カードをオーバーストローク位置から挿入方向と反対の方向に移動させて排出するカード案内機構と、
(d)前記ハウジングに取付けられ、少なくともスライド部材及びハウジングに挿入されたカードの一部を覆うカバー部材とを有するカード用コネクタであって、
(e)前記カバー部材は、該カバー部材に基端部が一体的に接続され、自由端に摺動部が形成されたカンチレバー状の制動部材を備え、
(f)前記スライド部材は、前記摺動部が当接可能な制動面を含む被制動部を備え、前記制動面にはカードの挿入方向に複数並べて配列された凸部が形成されていることを特徴とするカード用コネクタ。
【請求項2】
前記制動面は、前記凸部の表面も含み、カードの挿入方向の手前側から奥側にかけて、低高低高低の順に変化する請求項1に記載のカード用コネクタ。
【請求項3】
前記摺動部が前記制動面に当接することによって発生する前記スライド部材を制動する制動力は、前記スライド部材がオーバーストローク位置からカードの挿入方向と反対の方向に移動すると、低高低高低の順に変化する請求項2に記載のカード用コネクタ。
【請求項4】
前記制動部材は弾性力を発揮し、該弾性力によって前記摺動部は前記制動面に押付けられる請求項1〜3のいずれか1項に記載のカード用コネクタ。
【請求項5】
前記摺動部は、前記カードがオーバーストローク位置にあるとき、前記制動面における最も手前側に位置する凸部よりもカードの挿入方向の手前側の部分に当接し、前記カードがロック位置にあるとき、前記最も手前側に位置する凸部の表面に当接する請求項1〜4のいずれか1項に記載のカード用コネクタ。
【請求項6】
前記スライド部材は、前記カードを排出する際に、前記ハウジングが備えるストッパ部に当接して停止し、前記摺動部は、前記スライド部材がストッパ部に当接して停止したとき、前記制動面における最も奥側に位置する凸部よりもカードの挿入方向の奥側の部分に当接するか、又は、前記被制動部よりもカードの挿入方向の奥側に位置して前記制動面に当接しない請求項1〜5のいずれか1項に記載のカード用コネクタ。
【請求項7】
前記摺動部は、カードを排出する際に、前記カードがその端子部材と接続端子との接続が解除される位置にあるとき、前記制動面における最も手前側に位置する凸部と最も奥側に位置する凸部との間であって、凸部のない部分に当接する請求項1〜6のいずれか1項に記載のカード用コネクタ。
【請求項8】
前記摺動部は、カードを排出する際に、前記カードが、その端子部材と接続端子との接続が解除される位置と前記スライド部材がハウジングが備えるストッパ部に当接して停止する位置との間にあるとき、前記制動面における最も奥側に位置する凸部の表面に当接する請求項1〜7のいずれか1項に記載のカード用コネクタ。
【請求項9】
前記付勢部材は、コイルスプリングであり、圧縮された状態で付勢力を発揮する請求項1〜8のいずれか1項に記載のカード用コネクタ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2010−205674(P2010−205674A)
【公開日】平成22年9月16日(2010.9.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−52388(P2009−52388)
【出願日】平成21年3月5日(2009.3.5)
【出願人】(591043064)モレックス インコーポレイテド (441)
【氏名又は名称原語表記】MOLEX INCORPORATED
【Fターム(参考)】