説明

カーボンナノチューブのための加工および性能助剤

環状ブチレンテレフタレートなどの樹脂母材中にカーボンナノチューブを含有し、樹脂母材がポリマー母材中に配合される、ポリマー組成物。カーボンナノチューブ樹脂母材は、多くの最終用途を有する多種多様なポリマー母材に相溶性である。樹脂母材は、多くのポリマー系、例えば、ポリアミド、ポリエステル、アクリルとの優れた相溶性を提供し、低い融点および溶融体中で低い粘度を示し、使用が簡単であり、より高い導電率および/または向上した機械的性質などの優れた性質を有するポリマー母材を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電率および機械的性質などを含むがそれらに限定されない改良された性能を示す様々なカーボンナノチューブ含有ポリマー母材を作製する時にカーボンナノチューブの取扱および加工を向上させる、カーボンナノチューブのための加工および性能助剤に関する。
【背景技術】
【0002】
カーボンナノチューブ(多層、二層、単層)には世界的に大きな関心が寄せられている。ナノチューブは、単一シートからなるか(この場合、それらは単層ナノチューブ(SWNT)と呼ばれる)、またはいくつかの同心シートから構成されることが知られており、この場合はそれらは多層ナノチューブ(MWNT)と呼ばれる。カーボンナノチューブは石油系供給源または生物学的供給源から形成されうる。
【0003】
しかしながら、取扱および加工の容易さに関する問題がある。これに対処する1つの方法は、樹脂母材中に封入されたカーボンナノチューブを供給することである。カーボンナノチューブは独立ではなく、封入されるので、取扱は改良される。そして、カーボンナノチューブはすでに様々な程度に分散されているので、得られたポリマー組成物中への後続の分散はより効率的であるはずである。
【0004】
さらに、導電性プラスチックおよび改良された機械的性質を有するプラスチックの需要および適用が増えている。これらの用途において、しばしば金属に代わる選択肢として、プラスチックの独自の性質を利用しようとしている。例えば、導電性ポリマー材料は、電気部品からの静電荷散逸、および電磁波による干渉を防ぐための電気部品のシールディングのためのコーティングなど、多くの適用のために望ましい。ポリマー材料の強化された導電率は、静電塗装によるコーティングを可能にする。プラスチックの導電率を増加させる主要な方法は、金属粉末、金属繊維、固有導電性ポリマー粉末、例えば、ポリピロール、またはカーボンブラックなどの導電性添加剤をそれらに充填することであった。最も一般的な方法はカーボンブラックを必要とする。しかしながら、これらの方法のそれぞれは、いくつかの欠点を有する。金属繊維および粉末強化プラスチックは、低下した機械的強度を有する。さらに、コストがかかり、それらの密度は高い重量負荷を必要とする。固有導電性ポリマーはコストがかかり、空気中で安定していないことが多い。従って、それらの使用はしばしば非実用的である。カーボンナノチューブをカーボンブラックの量よりも少ない量でポリマーに添加することによって導電性最終製品を製造することができ、および/または製品の機械的性質を改良できることがわかっている。
【0005】
カーボンナノチューブの封入は公知である。多層カーボンナノチューブ(MWCNT)は、樹脂母材中に配合されたナノチューブとして市販されている。樹脂母材は顧客のニーズに応じて形成される。例えば、顧客がMWCNTをポリアミド−6中に配合したい場合、ポリアミド−6中のカーボンナノチューブの樹脂母材が作製される。このような母材中のMWCNT濃度は典型的に、約2%〜約20%の範囲である。これらの母材は、マスターバッチと呼ばれる。このプロセスは、各々の最終用途のために別個のマスターバッチを必要とする。このようなプロセスは高価であり非効率的である。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、樹脂母材中に封入されたカーボンナノチューブおよび樹脂母材中に封入されたカーボンナノチューブを混入するポリマー組成物に関する。樹脂母材は、芳香族基と酸素および/または窒素原子とを含有する鎖を含み、低い溶融温度、および溶融粘度が低いような分子量を有する。好ましい樹脂母材は環状ブチレンテレフタレートである。カーボンナノチューブ樹脂母材は、様々な最終用途を有する多種多様なポリマー組成物に相溶性である。本発明の樹脂母材は、より簡単な取扱を可能にし、多くの熱可塑性および熱硬化性ポリマー系、例えば、ポリアミド、ポリエステル、ポリカーボネート、アクリル、クロロポリマー、フルオロポリマー、エポキシ等との優れた相溶性をもたらし、低い融点および溶融体中で低い粘度を示し、使用が容易であり、低コストである。また、樹脂母材をポリマー組成物中に混入することによってより高い導電率および/または改良された機械的性質をもたらす。環状ブチレンテレフタレートの樹脂母材とカーボンナノチューブとを含有する様々なポリマー複合材料は環状ブチレンテレフタレートの存在しない類似の複合材料よりも高い導電率を示すことが現在発見されている。様々なポリマー複合材料の機械的性質は、環状ブチレンテレフタレートなどのカーボンナノチューブを封入する樹脂母材およびカーボンナノチューブをその中に混入することによって改良されうることも発見された。従って、本発明は、様々なポリマー組成物中で用いて機械的性質および/または導電率を改良することができるカーボンナノチューブを封入する単一樹脂母材を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】環状ブチレンテレフタレート中のカーボンナノチューブ/環状ブチレンテレフタレート複合材料中のカーボンナノチューブの濃度に応じた表面導電率のグラフである。
【図2】カーボンナノチューブ/環状ブチレンテレフタレート/PA−11複合材料中のカーボンナノチューブの濃度に応じたバルク導電率のグラフである。
【図3】カーボンナノチューブ/環状ブチレンテレフタレート/PA−11複合材料中のカーボンナノチューブの濃度に応じたバルクおよび表面導電率のグラフである。
【図4】カーボンナノチューブ/環状ブチレンテレフタレート/PA−11複合材料中のカーボンナノチューブの濃度に応じた機械的性質のグラフである。
【図5】カーボンナノチューブ/環状ブチレンテレフタレート/ポリカーボネート母材中のカーボンナノチューブの濃度に応じたバルク導電率、およびカーボンナノチューブ/ポリカーボネート母材中のカーボンナノチューブの濃度に応じた導電率のグラフである。
【図6】25%のカーボンナノチューブ/環状ブチレンテレフタレート樹脂母材としてまたはプレーンカーボンナノチューブとして導入された、2%のカーボンナノチューブを含むいくつかのポリマー組成物のバルク導電率のグラフである。
【図7】カーボンナノチューブ/環状ブチレンテレフタレート樹脂母材の作製時の作業条件が、前記樹脂母材が導入される、得られたポリマー母材の導電率に及ぼす効果のグラフである。
【図8】カーボンナノチューブ/環状ブチレンテレフタレート樹脂母材がエポキシポリマー母材の機械的性質に及ぼす効果のグラフである。
【図9a】図8において「複合材料」として記載されたエポキシ母材の透過光学写真である。
【図9b】図8において「プレインCNT」として記載されたエポキシ母材の透過光学写真である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
カーボンナノチューブを樹脂母材中に混入することによってポリマー母材中の溶融加工および/またはポリマー母材中への添加を簡単にし、より高い導電率および/または改良された機械的性質を有するポリマー母材を提供することを本発明者は発見した。一般に樹脂母材は、芳香族基と酸素および/または窒素原子とを含有する鎖を含み、低い溶融温度(約200℃未満)および溶融粘度が低いような分子量(約5000センチポアズ未満)を有する。好ましい樹脂母材は環状ブチレンテレフタレート(CBT)である。樹脂母材中のカーボンナノチューブの濃度は好ましくは、約0.1〜50重量%、より好ましくは約5〜33重量%、最も好ましくは約25重量%である。特に記載しない限り、ここでの全てのパーセンテージは重量パーセンテージであり、全ての温度は摂氏度(℃)単位である。
【0009】
ポリマー技術においてカーボンナノチューブの使用は非常に重要である。1つの理由は、カーボンナノチューブが比較的低い濃度においてポリマー母材の導電率を増加させることができることである。多くの場合において、5重量%未満、しばしば2重量%未満である。これは、ポリマー母材を静電塗装、静電荷散逸、および電磁干渉シールドなどの多数の適用に適したものにする。金属をこれらの適用において使用することができるが、導電性ポリマーは、より低コスト、より軽量の代替物を提供する。カーボンブラックは、ポリマー中で導電率の効果をもたらすことができる。しかしながら、カーボンブラックに関して、さらにより高い濃度、典型的に10〜20重量%が必要とされる。このようなレベルの添加剤は、優れた導電率をもたらす一方で、ポリマーの他の性質、例えば機械的強度、耐衝撃性、ガス/液体透過性等を低下させる。カーボンナノチューブは、他の望ましいポリマー性質を維持したまま優れた導電率をもたらす。ポリマー/ナノチューブ組成物が有利でありうる適用のいくつかの例は、自動車の導電性ポリマー燃料系統部品、静電塗装可能な熱可塑性車体/内部構成部品、電子機器等をシールドするためのコーティングである。
【0010】
カーボンナノチューブの使用時の重要な別の性質は、カーボンナノチューブの比較的低濃度においてポリマー母材の機械的性質を増加させることである。これにより、ポリマー母材が、本来なら金属などの、より重く、より高価な材料が必要とされる適用のために適したものになる。カーボンナノチューブ含有複合材料のいくつかの例は、テニスラケット、野球のバット、ゴルフクラブ、自転車の構成部品および場合により自動車および航空機の構成部品である。
【0011】
ポリマー母材中に適切に分散されたカーボンナノチューブを有する、カーボンナノチューブ含有複合材料のためのさらに別の適用には、ガスの選択的な分離のために使用された膜、強化された難燃性を示す複合材料、紫外線分解に対する強化された耐性を示すコーティングまたは複合材料、可視光線の強化された吸収を示すコーティング、強化された耐磨耗性を示すコーティングおよび複合材料、強化された耐引っ掻き性を示すコーティング、溶解/膨潤剤に対する強化された耐化学薬品性を有するコーティングおよび複合材料、応力/歪み/欠陥を容易に検出することができる複合材料、複合音響センサおよびアクチュエータ、コンデンサ、燃料電池、再充電可能なバッテリ中の電極材料、導電性および耐損傷性ファブリックの他、グルコースセンサ、LEDディスプレイ、太陽電池、pHセンサなどの様々な電子デバイス中の複合材料などがあるがそれらに限定されない。
【0012】
環状ブチレンテレフタレートはポリブチレンテレフタレートのモノマーである。モノマーおよびポリマーは以下に示される。環状ブチレンテレフタレートは危険ではなく、ポリアミド、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリアクリル、ポリオレフィン、クロロポリマー、フルオロポリマー、およびエポキシ等、カーボンナノチューブの混入が望ましい場合がある多種多様な熱可塑性および熱硬化性ポリマーと相溶性である。環状ブチレンテレフタレートは使用が簡単であり、低い融点(150℃)および水のような、溶融体中の低い粘度を有する。
【化1】

【0013】
環状ブチレンテレフタレートの構造−モノマーおよび得られたポリマー
環状ブチレンテレフタレート樹脂母材中のカーボンナノチューブを蒸発プロセスによって作製することができ、そこでカーボンナノチューブは、攪拌および/または音波粉砕などによって、溶剤などの液体媒体中に分散され、その後に、媒体中に環状ブチレンテレフタレートを溶解させ、その後に、液体媒体を蒸発させる。このプロセスまたはいずれかの他の適したプロセスが、環状ブチレンテレフタレートの母材中のカーボンナノチューブの樹脂母材を形成する。この樹脂母材は、押出機内での混合などの従来のプロセスまたはいずれかの他の適したプロセスによってポリマー母材と混合することができる。加熱は、マイクロ波加熱装置によって行なうことができる。あるいは、環状ブチレンテレフタレート樹脂母材中のカーボンナノチューブは、溶融混合装置でのカーボンナノチューブの直接溶融混合によって作製することができる。
【0014】
カーボンナノチューブを樹脂母材と溶融混合する時に、混合する間に行なった仕事が最終ポリマー組成物の物理的性質に影響を与えることがある。溶融混合する間の過度の仕事は、本発明によって与えられた導電率および/または機械的性質の望ましい変化を減少させることがある。溶融混合する間に適用された仕事量は、使用されている装置およびその操作条件、例えば、温度、スクリュー速度および混合時間の関数である。以下の例において、発明者は、100rpm以下のスクリュー速度および10分以下の混合時間において温度が約150℃以上であるとき、15cm3の設備能力を有するDSMリサーチB.V MIDI2000二軸スクリュー押出機で混合の上限が与えられることを見出した。ほぼこれらのパラメータかまたはそれ以下の仕事を提供するのが好ましい。好ましい作業パラメータは、25rpmのスクリュー速度および約2〜3分の混合時間において約200℃の温度であった。これらのパラメータに基づいて、当業者は、過度の仕事および本発明に提供された望ましい性質の低下を避けるために他の押出装置のための所望の条件を決定することができる。
【0015】
環状ブチレンテレフタレート中のカーボンナノチューブの樹脂母材を混入するポリマー母材は、強化された導電率、低いパーコレーション閾値および強化された機械的性質を示すことが見出された。ポリマー組成物中のカーボンナノチューブの濃度は、約0.01〜25重量%、好ましくは約0.1〜10%、より好ましくは約0.5〜5%および最も好ましくは約1〜3%の範囲でありうる。
【0016】
図3は、本発明によるカーボンナノチューブ/環状ブチレンテレフタレート/PA−11複合材料の母材に対するカーボンナノチューブの濃度に応じたバルクおよび表面導電率を示す。PA−11は、Arkema Inc.から入手可能なRilsan(商標)BMNO PCGである。導電率の測定は簡単な2プローブ測定によって行なわれた。1部のカーボンナノチューブ当たり3部の環状ブチレンテレフタレートが存在することに留意されたい。銀塗装を用いて十分な接触を確実にした。
【0017】
図4は、本発明によるカーボンナノチューブ/環状ブチレンテレフタレート/PA−11複合材料の母材に対するカーボンナノチューブの濃度に応じた機械的性質を示す。PA−11はRilsan(商標)BMNO PCGである。母材は210℃においての溶融混合によって作製され、射出成形は200℃で行なわれた。1部のカーボンナノチューブ当たり3部の環状ブチレンテレフタレートが存在することに留意されたい。
【0018】
図5は、本発明によるカーボンナノチューブ/環状ブチレンテレフタレート/ポリカーボネート複合材料の母材に対するカーボンナノチューブの濃度に応じたバルク導電率を示す。実施例11に従って作製される。また、カーボンナノチューブ/ポリカーボネートのポリマー母材に対して同じ結果が示される。ポリカーボネートは、Dow Chemical Co.(Water White)製である。導電率の測定は簡単な2プローブ測定によって行なわれた。環状ブチレンテレフタレートを含有する複合材料については、1部のカーボンナノチューブ当たり3部の環状ブチレンテレフタレートが存在した。銀塗装を用いて十分な接触を確実にした。
【0019】
図6は、25%のカーボンナノチューブ/環状ブチレンテレフタレート樹脂母材として、またはプレーンカーボンナノチューブとして導入された、2%のカーボンナノチューブを含むいくつかのポリマー母材のバルク導電率を示す。条件は実施例9に従っている。導電率の測定は簡単な2プローブ測定によって行なわれた。環状ブチレンテレフタレートを含有する複合材料については、1部のカーボンナノチューブ当たり3部の環状ブチレンテレフタレートが存在した。銀塗装を用いて十分な接触を確実にした。
【0020】
図7は、カーボンナノチューブ/環状ブチレンテレフタレート樹脂母材の作製時の作業条件が、前記樹脂母材が導入される、得られたポリマー母材の導電率に及ぼす効果を示す。ポリマー母材はポリアミド−12(Arkema Inc.のRilsan AMNO TLD)であった。作製条件は実施例7および8の場合と同様であり、ポリマー母材の作製条件は実施例10の場合と同様であった。それぞれが、25%のカーボンナノチューブ/環状ブチレンテレフタレート樹脂母材として導入された、2%のカーボンナノチューブを含んだ。導電率の測定は簡単な2プローブ測定によって行なわれた。銀塗装を用いて十分な接触を確実にした。
【0021】
図8は、カーボンナノチューブ/環状ブチレンテレフタレート樹脂母材がエポキシポリマー母材の機械的性質、前記ポリマー母材の機械的性質に及ぼす効果のグラフである。条件は実施例11に従った。
【0022】
図9aおよび9bは、図8のカーボンナノチューブ/環状ブチレンテレフタレートを有するエポキシポリマー母材の透過光学顕微鏡画像である。
【0023】
以下の実施例は、カーボンナノチューブを環状ブチレンテレフタレート母材中におよび/またはポリマー母材中に導入するいくつかの方法について記載する。
【実施例】
【0024】
実施例1
4.5gのカーボンナノチューブ(Arkema Franceから入手可能なGraphistrength(登録商標)C100を全ての実施例において使用した)を塩化メチレン中の環状ブチレンテレフタレートの溶液(9重量%)約165gに添加した。この混合物を約2時間、50%の振幅に設定されたSonics & Materials VC−505装置で超音波処理した。得られた混合物をアルミニウム箔上にキャストし、溶剤を蒸発させた。得られた粉末は約20重量%のカーボンナノチューブであった。
【0025】
実施例2
21gのカーボンナノチューブを800gの塩化メチレンに添加した。音波粉砕を約4時間、50%の振幅に設定されたSonics & Materials VC−505装置で行なった。攪拌は磁気攪拌バーによって連続的に行なわれた。これに64グラムの環状ブチレンテレフタレートを添加した。ロールミルでの攪拌を約3日間行なった。得られた混合物をアルミニウム箔上にキャストし、溶剤を蒸発させた。得られた粉末は約25重量%のカーボンナノチューブであった。
【0026】
実施例1および2の材料に新鮮な環状ブチレンテレフタレートをブレンドし、DSM midi押出機で溶融混合した。パラメータは、10分間150℃、75rpmであった。図1にカーボンナノチューブの濃度に応じた導電率が示される。方法1は実施例1の材料の使用を含む。方法2は実施例2の材料の使用を含む。
【0027】
図1は、実施例2によって製造された材料についてより高い導電率およびより低いパーコレーション閾値、両方の有利な性質を示す。測定は簡単な2プローブ測定によって行なわれた。実施例2のプロセスは、カーボンナノチューブ/環状ブチレンテレフタレート複合材料の好ましい作製方法である。樹脂の導入前に音波粉砕するのが好ましい。
【0028】
図2は、カーボンナノチューブ/環状ブチレンテレフタレート/PA−11複合材料の導電率(ラインA)、およびカーボンナノチューブ/PA−11複合材料の導電率(ラインB)を示す。PA−11は、Arkema Inc.から入手可能なRilsan(商標)BMNO PCGである。カーボンナノチューブ/環状ブチレンテレフタレート複合材料は実施例2によって製造された。測定は簡単な2プローブ測定によって行なわれた。銀塗装を用いて十分な接触を確実にした。ラインAについて、1部のカーボンナノチューブ当たり3部の環状ブチレンテレフタレートが存在することに留意されたい。
【0029】
以下の実施例は、カーボンナノチューブを環状ブチレンテレフタレートおよび/またはポリマー母材中に混合する方法を説明する。
【0030】
実施例3
環状ブチレンテレフタレートを丸底フラスコに添加し、周囲の加熱用マントルで溶融した。すでに存在するカーボンナノチューブを攪拌と音波粉砕との組合せで混合した。環状ブチレンテレフタレートを固化させ、固体カーボンナノチューブ/環状ブチレンテレフタレート複合材料を生じさせた。
【0031】
実施例4
環状ブチレンテレフタレートおよびカーボンナノチューブをチューブ内に置き、マイクロ波放射線に露光した。カーボンナノチューブはマイクロ波を吸収し、混合物の加熱および環状ブチレンテレフタレートの溶融をもたらした。温度は約170℃になり、連続的に攪拌しながら、約15分間保持された。混合物を固化させ、固体カーボンナノチューブ/環状ブチレンテレフタレート複合材料を生じさせた。
【0032】
実施例5
環状ブチレンテレフタレートおよびカーボンナノチューブを乾燥形態で混合し、次に150℃においてDSM midi押出機(15cm3設備能力)内で溶融混合した。得られた生成物は、約10%のカーボンナノチューブを含む固体カーボンナノチューブ/環状ブチレンテレフタレート複合材料であった。
【0033】
実施例6
カーボンナノチューブ/環状ブチレンテレフタレート樹脂母材を使用してカーボンナノチューブをポリマー母材中に導入することが調べられた。選択されたポリマーはポリアミド−11であった。Arkema Inc.から入手可能なRilsan(登録商標)BMNO PCGが特に使用された。ポリアミド−11などのポリアミドがカーボンナノチューブのための重要な最終用途であってもよい。
【0034】
実施例2によって作製されたカーボンナノチューブ/環状ブチレンテレフタレート複合材料を10分間75rpmで285℃においてDSM midi押出機内でポリアミドPA−11と溶融混合し、押出物を得た。1部のカーボンナノチューブ当たり3部の環状ブチレンテレフタレートが存在した。従って、2%のカーボンナノチューブの試料は6%の環状ブチレンテレフタレートおよび92%のポリアミドPA−11であった。
【0035】
比較として、原料カーボンナノチューブが同様に考察された。原料カーボンナノチューブを10分間75rpmで285℃においてDSM midi押出機内でPA−11と溶融混合し、押出物を得た。環状ブチレンテレフタレートがないので、2%カーボンナノチューブの試料は98%PA−11であった。
【0036】
環状ブチレンテレフタレートの1つの明らかな利点は、カーボンナノチューブの溶融配合をさらに簡単にすることである。原料カーボンナノチューブによる実験は難しかった。環状ブチレンテレフタレートによる実験は難しくなかった。PA−11と原料カーボンナノチューブ、わずか0.5%のカーボンナノチューブとの混合物は、押出機バレルの目詰まりを引き起こした。説明されないが、現象的に、環状ブチレンテレフタレートはカーボンナノチューブの溶融加工を実質的に促進する。これは、より少ない機械的エネルギーを必要とすると共に押出機プロセスにおいて目詰まり、およびその結果として起きるプロセス停止の可能性を低減する利点をもたらす。
【0037】
図2において、環状ブチレンテレフタレートで達成された導電率の値は、環状ブチレンテレフタレートを用いない場合の導電率の値よりも実質的に高く、約10倍である。これは、環状ブチレンテレフタレートの値を示す。環状ブチレンテレフタレートは導電率向上剤として機能する。この説明に制約されるものではないが、等しい濃度においてより優れた導電率はより優れた接続性から生じると予想されるので、環状ブチレンテレフタレートがカーボンナノチューブのより優れた接続性を可能にすることはありうる。
【0038】
図2において観察された導電率の値は、樹脂系中のカーボンナノチューブについては高い。わずか2%の濃度において10-2ohm-1cm-1である。これは、パーコレーションレベルが低いことを示す。
【0039】
さらに別の実験を行なった。図2のデータは、パーコレーションレベルがカーボンナノチューブ/環状ブチレンテレフタレートの組合せについては低いことを示した。これは裏づけられた。図3を参照されたい。実施例2によるカーボンナノチューブ/環状ブチレンテレフタレート/PA−11系のパーコレーションレベルは<1.5%カーボンナノチューブである。実施例5によるカーボンナノチューブ/環状ブチレンテレフタレート/PA−11系のパーコレーションレベルは、<1.0%カーボンナノチューブである。表面で測定された導電率はバルクで測定された導電率と一致することにも注目すべきである。
【0040】
また、本発明の組合せの機械的性質も評価される。PA−11を用いて準備作業を行なった。図4を参照されたい。実施例2のカーボンナノチューブ/環状ブチレンテレフタレート複合材料を用いて試料を作製した。溶融混合をDSM midi押出機内で10分間75rpmで210℃において行なった。押出物を得て、次に200℃において射出成形して機械的試験のための材料を形成した。データは、カーボンナノチューブの濃度の増加によって弾性率が増加することを示す。これは、カーボンナノチューブ、環状ブチレンテレフタレートおよびPA−11の間の優れた相溶性を示す。相溶性が不十分である場合、弾性率は減少することが予想される。
【0041】
実施例7
環状ブチレンテレフタレートおよびカーボンナノチューブを乾燥形態で混合し、次に以下の条件、150℃、100rpmのスクリュー速度、10分間においてDSM midi押出機(15cm3の設備能力)内で溶融混合した。得られた生成物は、25%のカーボンナノチューブを含む固体カーボンナノチューブ/環状ブチレンテレフタレート樹脂母材であった。
【0042】
実施例8
環状ブチレンテレフタレートおよびカーボンナノチューブを乾燥形態で混合し、次に以下の条件、200℃、25rpmのスクリュー速度、2〜3分間においてDSM midi押出機(15cm3の設備能力)内で溶融混合した。得られた生成物は、25%のカーボンナノチューブを含む固体カーボンナノチューブ/環状ブチレンテレフタレート樹脂母材であった。
【0043】
実施例9
実施例8のカーボンナノチューブ/環状ブチレンテレフタレート複合材料を一連のポリマー母材に溶融配合し、その結果、得られたカーボンナノチューブ濃度は2%であった。これは、DSM midi押出機で100〜150rpmにおいて10分間行なわれた。以下のポリマー母材を使用した(加工温度も記載した)
ポリアミド−12。Arkema Inc製のRilsan AMNO TLD−プロセス温度285℃
ポリアミド−11。Arkema Inc製のRilsan BMNO PCG−プロセス温度285℃
ポリカーボネート。Dow Chemical Co.(Water White)−プロセス温度300℃
ポリエチレンテレフタレート。KOSA製の結晶性ポリエチレンテレフタレート−プロセス温度280℃
ポリブチレンテレフタレート。−Ticona製のColexer 2000−K−プロセス温度−280℃
ポリ(ビニリデンフルオリド)。Arkema Inc製のKynar 740−プロセス温度−240℃
【0044】
得られたポリマー母材が2%だけカーボンナノチューブを含む同一の系に対して比較も実施した−環状ブチレンテレフタレート(terephthate)は使用されなかった。作業条件は同じであった。
【0045】
全てについて、導電率測定は簡単な2プローブによって行なわれた。銀塗装を用いて十分な接触を確実にした。
【0046】
図6は、各々の樹脂母材について、環状ブチレンテレフタレートを含有する系は環状ブチレンテレフタレートを含有しない系とほぼ同じかまたはより優れた導電率を示すことを示す。
【0047】
実施例10
実施例7のカーボンナノチューブ/環状ブチレンテレフタレート複合材料をDSM midi押出機で150rpmで10分間285℃においてポリアミド(Polyamde)−12中に溶融配合した。実施例8のカーボンナノチューブ/環状ブチレンテレフタレート複合材料をDSM midi押出機で150rpmで10分間285℃においてポリアミド(Polyamde)−12中に溶融配合した。
【0048】
図7は、実施例8のポリマー母材の導電率は実施例7の導電率よりも約2桁大きいことを示す。カーボンナノチューブ/環状ブチレンテレフタレート樹脂母材の製造プロセスは性質に大きな影響を及ぼす。
【0049】
DSM midi−押出機で製造されたカーボンナノチューブ/環状ブチレンテレフタレート樹脂母材については、スクリュー速度、温度、および時間の総合的効果は、母材に適用された仕事の総量として構成されうる。より小さい仕事はより優れた性能をもたらす。より大きなスクリュー速度は剪断速度を増加させ(すなわち、より大きな仕事)、より高い温度は剪断速度を低減し(すなわち、より小さな仕事)、より短い時間は剪断量を減少させる(すなわち、より小さな仕事)。上の結果は25%のカーボンナノチューブであった母材によって得られるが、しかしながら、この現象はその特定の樹脂母材に限定されるものではない。さらに、この現象は、使用された押出機または混合系のタイプに限定されるものではない。押出機の1つのタイプで確かめられた仕事レベルは当業者によって押出機の別のタイプに適用されうる。
【0050】
上の実施例において使用されたDSM midi−押出機(15cm3の体積)については、許容範囲の仕事レベルは、150℃以上の温度、100rpm以下のスクリュー速度および10分以下の混合時間によって成された仕事レベルより低い仕事レベルであった。好ましいレベルは、温度=150℃、100rpmのスクリュー速度、および約2〜3分の混合時間によって成されたレベルであった。
【0051】
実施例11
いくつかの実験において、実施例8のカーボンナノチューブ/環状ブチレンテレフタレート樹脂母材をポリカーボネート中に溶融配合して、得られたポリマー母材の、5%以下のカーボンナノチューブの濃度を生じた。カーボンナノチューブの同じ濃度を有するポリマー母材に対する比較物(環状ブチレンテレフタレート(terephthate)を有さない)を製造した。図5を参照されたい。図5は、より低いパーコレーションレベルおよびより高い最終導電率によって示された、環状ブチレンテレフタレートの存在によってもたらされた、全体的なより優れた性能を示す。
【0052】
実施例12
実施例8によるカーボンナノチューブ/環状ブチレンテレフタレート樹脂母材を標準熱硬化性エポキシ系に添加し、その結果、カーボンナノチューブの得られた濃度は0.5%であった。エポキシはDow Chemical Co.のD.E.R.331およびAir Products and Chemicals, Inc.のAmicure CG−1200であった。樹脂母材を硬化前に約12〜16時間、160℃においてパートA(すなわち、D.E.R.331)中に予め溶解した。比較のために、同じエポキシを、プレーンカーボンナノチューブを用いて調製した。
【0053】
図8は、カーボンナノチューブ含有系対カーボンナノチューブの存在しないエポキシポリマーの性能の相対変化を示す。カーボンナノチューブだけを含有するエポキシポリマーは、弾性率の増加を示すが、最大応力および破断点歪の減少を示す。対照的に、カーボンナノチューブ/環状ブチレンテレフタレート樹脂母材を含有するエポキシポリマーは、全ての3つの領域において改良を示す−弾性率および靭性の両方−異例の組合せを増加させる。さらに、分散体は、写真、図9aおよび9bに見られるように、実質的に改良される。
【0054】
本発明を説明したが、以下の特許請求の範囲およびそれらの等価物を権利請求する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)樹脂とカーボンナノチューブとの混合物を含む樹脂母材と、
(b)ポリマー母材とを含むポリマー組成物であって、
前記樹脂母材と前記ポリマー母材とを溶融混合して、増加した導電率および/または増加した機械的性質を示すポリマー組成物をもたらすことによって形成される、ポリマー組成物。
【請求項2】
前記カーボンナノチューブが、単層カーボンナノチューブ、二層ナノチューブ、多層ナノチューブおよびそれらの混合物からなる群から選択される、請求項1に記載のポリマー組成物。
【請求項3】
前記カーボンナノチューブが石油系供給源または生物学的供給源から製造される、請求項1に記載のポリマー組成物。
【請求項4】
前記樹脂が、芳香族基と酸素および/または窒素原子とを含有する鎖を含み、前記樹脂が低い溶融温度、および溶融粘度が低いような分子量を示す、請求項1に記載のポリマー組成物。
【請求項5】
前記樹脂が環状ブチレンテレフタレートである、請求項1に記載のポリマー組成物。
【請求項6】
前記環状ブチレンテレフタレートが重合された、請求項5に記載の樹脂。
【請求項7】
前記カーボンナノチューブがポリマー組成物の約0.01〜25%を占める、請求項1に記載のポリマー組成物。
【請求項8】
前記カーボンナノチューブがポリマー組成物の約10%未満を占める、請求項1に記載のポリマー組成物。
【請求項9】
前記カーボンナノチューブがポリマー組成物の5%未満を占める、請求項1に記載のポリマー組成物。
【請求項10】
前記カーボンナノチューブがポリマー組成物の約3%未満を占める、請求項1に記載のポリマー組成物。
【請求項11】
前記ポリマー母材が熱可塑性ポリマーまたは熱硬化性ポリマーを含む、請求項1に記載のポリマー組成物。
【請求項12】
前記ポリマー母材が、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリウレタン、ポリエステル、ポリアクリル、ポリオレフィン、クロロポリマー、フルオロポリマー、エポキシおよびそれらの混合物、ブレンド、コポリマー、ターポリマーからなる群から選択されるポリマーを含む、請求項11に記載のポリマー組成物。
【請求項13】
前記樹脂母材中の前記カーボンナノチューブの濃度が前記樹脂母材の約0.1〜50重量%である、請求項1に記載のポリマー組成物。
【請求項14】
前記樹脂母材中の前記カーボンナノチューブの濃度が前記樹脂母材の約5〜25重量%である、請求項1に記載のポリマー組成物。
【請求項15】
前記樹脂母材中の前記カーボンナノチューブの濃度が前記樹脂母材の約25重量%である、請求項1に記載のポリマー組成物。
【請求項16】
カーボンナノチューブをポリマー母材に混入するポリマー組成物を形成する方法であって、芳香族基と酸素および/または窒素原子とを含有する鎖を含み、低い溶融温度および溶融粘度が低いような分子量を示す樹脂と、カーボンナノチューブとを含む、カーボンナノチューブを含有する樹脂母材を形成する工程と、
カーボンナノチューブを含有する前記樹脂母材をポリマー母材と混合する工程と、を含む方法。
【請求項17】
樹脂が環状ブチレンテレフタレートである、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記環状ブチレンテレフタレートが重合される、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記樹脂母材が溶液プロセスによって形成される、請求項16に記載の方法。
【請求項20】
音波粉砕が使用される、請求項16に記載の方法。
【請求項21】
前記樹脂母材が溶融混合によって形成される、請求項16に記載の方法。
【請求項22】
マイクロ波加熱が使用される、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
前記樹脂母材が酷使されない条件において運転された押出機内で前記溶融混合が行なわれる、請求項21に記載の方法。
【請求項24】
前記ポリマー組成物が溶融混合によって製造される、請求項16に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9a】
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【図9b】
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【公表番号】特表2010−520331(P2010−520331A)
【公表日】平成22年6月10日(2010.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−551837(P2009−551837)
【出願日】平成20年2月28日(2008.2.28)
【国際出願番号】PCT/US2008/055212
【国際公開番号】WO2008/106572
【国際公開日】平成20年9月4日(2008.9.4)
【出願人】(500307340)アーケマ・インコーポレイテッド (119)
【Fターム(参考)】