説明

カーボンナノチューブの凝集物の製造方法

【課題】引張強度の強いカーボンナノチューブ凝集物を製造することを目的とする。
【解決手段】カーボンナノチューブ410の凝集物を製造する製造方法であって、(1)反応容器100内でカーボンナノチューブ410を形成する工程と、(2)前記反応容器410内で前記カーボンナノチューブを凝集させて凝集体500を生成する工程と、(3)前記凝集体500を前記反応容器100外の加熱装置200に移動させる工程と、(4)前記加熱装置200で前記凝集体500を400度から500度の温度で加熱する工程と、(5)前記加熱された凝集体500に引っ張り加重を加えて前記凝集体500中のカーボンナノチューブ410を配向させる工程と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カーボンナノチューブを含む繊維を気相から製造する製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
カーボンナノチューブは、炭素繊維と比較して10倍以上の引張強度を有している。しかし、一般にカーボンナノチューブは、紡糸して繊維を作成することが困難である。また、カーボンナノチューブの紡糸繊維ができたとしても、カーボンナノチューブの紡糸繊維は、カーボンナノチューブとカーボンナノチューブの継ぎ目で切れ易いため、カーボンナノチューブの紡糸繊維の引張強度は、カーボンナノチューブ単体よりも2桁低下するという問題があった。これに対し、原料ガスと触媒をCVD反応炉に入れスモーク状のカーボンナノチューブを発生させ、その後、反応炉の下方に落ちてきた半凝集のカーボンナノチューブを引っ張り、配向を整えて巻き取る技術が知られている(例えば特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−536434号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、従来の方法では、カーボンナノチューブの配向が不十分であり、引張強度が十分でないという問題があった。
【0005】
本発明は、上記課題少なくとも1つを解決し、引張強度の強いカーボンナノチューブの凝集物を製造することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の形態又は適用例として実現することが可能である。
【0007】
[適用例1]
カーボンナノチューブの凝集物を製造する製造方法であって、(1)反応容器内でカーボンナノチューブを形成する工程と、(2)前記反応容器内で前記カーボンナノチューブを凝集させて凝集体を生成する工程と、(3)前記凝集体を前記反応容器外の加熱装置に移動させる工程と、(4)前記加熱装置で前記凝集体を400度から500度の温度で加熱する工程と、(5)前記加熱された凝集体に引っ張り加重を加えて前記凝集体中のカーボンナノチューブを配向させる工程と、を備える、カーボンナノチューブの凝集物を製造する製造方法。
この適用例によれば、工程(4)において凝集体を400度から500度の温度で加熱することによりカーボンナノチューブ間の分子間結合をゆるめ、工程(5)において引っ張り加重を加えることによってカーボンナノチューブを配向させることが可能となるので、カーボンナノチューブの凝集物の引っ張り強度を向上させることが可能となる。
【0008】
本発明は、種々の形態で実現することが可能であり、例えば、気相からの凝集物の製造方法の他、カーボンナノチューブ繊維の製造方法、気相からの凝集物の製造装置等、様々な形態で実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】第1の実施例に係るカーボンナノチューブの製造装置の説明図である。
【図2】カーボンナノチューブの生長機構を説明する説明図である。
【図3】熱エネルギーによるカーボンナノチューブの構造変化を示す説明図である。
【図4】第2の実施例に係るカーボンナノチューブの製造装置の説明図である。
【図5】カーボンナノチューブの炭素骨格を示す説明図である。
【図6】第3の実施例に係るカーボンナノチューブの製造装置の説明図である。
【図7】カーボンナノチューブの炭素骨格と磁化方向を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
[第1の実施例]
図1は第1の実施例に係るカーボンナノチューブの製造装置の説明図である。製造装置10は、チャンバー100と、加熱装置200と、巻取装置300と、を備える。チャンバー100は、カーボンナノチューブを製造し、繊維500として取り出すための反応容器である。チャンバー100は、原料供給部110と、生成物取出部120と、を備える。原料供給部110は、チャンバーの上部にあり、触媒と原料ガスが供給される。ここで、触媒としては、フェロセン(IUPUC名:ビス(η5-シクロペンタジエニル)鉄(2価))及びチオフェンを用いることが可能である。また、原料ガスとしては、エタノールやヘキサンを用いることが可能である。生成物取出部120は、チャンバー100の下部に設けられている。
【0011】
加熱装置200は、チャンバー100から取り出された繊維500を、再加熱するために用いられる。巻取装置300は、再加熱された繊維500に応力を掛けながら、繊維500を巻き取る。
【0012】
繊維500の製造は、以下のように行う。まず、チャンバー100内の温度を1100℃〜1400℃とし、触媒と原料ガスとを原料供給部110からチャンバー100内に供給する。このとき、単体ガスとして水素を、原料供給部110からチャンバー100内に向けて噴射することが好ましい。これにより、チャンバー100内にカーボンナノチューブ410が生長する。
【0013】
図2は、カーボンナノチューブの生長機構を説明する説明図である。触媒であるフェロセン(図2(A))は、約400℃で熱分解し、触媒600を形成する(図2(B))。触媒600に炭素(エタノールやヘキサン、それらの熱分解物)が当たると、半球状キャップ402を形成する(図2(C))。この半球状キャップ402は、フラーレンと同様に五員環を含んでいる。触媒600に炭素がさらに当たると、半球状キャップ402と触媒600との間に円筒形のカーボンナノチューブ410が生長していく(図2(D))。
【0014】
図1に示すチャンバー100中の成長途上のカーボンナノチューブの集合体を「カーボンナノチューブ・スモーク400」と呼ぶ。カーボンナノチューブ・スモーク400中のカーボンナノチューブ410は、生長するとチャンバー100の下部に下降していく。このときのカーボンナノチューブ410のアスペクト比は10万というオーダーである。カーボンナノチューブ410は、チャンバー100の下部で絡み合って繊維500を形成する。そして、絡み合った繊維500は、生成物取出部120からチャンバー100の外に取り出される。
【0015】
取り出された繊維500を、一旦300℃以下の温度に冷却する。ここで、繊維500は、カーボンナノチューブ410の他、アモルファスカーボンも含んでいる。繊維500を、300℃以下の温度に冷却することにより、繊維500中のカーボンナノチューブ410やアモルファスカーボンの分子運動が十分低下する。一般に、カーボンナノチューブ410が配向している方が、分子間力が強く、繊維の引張強度が強い。しかし、単に冷却した状態では、カーボンナノチューブ410が配向していないため、繊維500の引張強度は十分ではない。なお、この状態で、繊維500を一旦巻き取っても良く、巻き取らず次の工程に移行してもよい。
【0016】
図3は、熱エネルギーによるカーボンナノチューブの構造変化を示す説明図である。一旦冷却された 繊維500を400〜500℃に再加熱する。この温度は、アモルファスカーボンが不安定化して分子間の結合が弱くなる温度(400℃)以上であり、カーボンナノチューブが熱分解しない温度(約1000℃)以下である。この状態で、巻取装置300により、カーボンナノチューブ410が切れない程度の応力を加えて繊維500を引っ張って、巻き取る。これにより、配向していなかったカーボンナノチューブ410(図3(A)は、引っ張り方向に配向する(図3(B))。そうすると、それまでのカーボンナノチューブ410間の分子間力は、点と点の間に掛かるファンデルワールス力であったもの(図3(C))が、線と線の間に掛かるファンデルワールス力(図3(D))となる。すなわち、カーボンナノチューブ410の配向性が向上すると、カーボンナノチューブ410の分子間結晶化度が向上する。分子間結晶化度が向上すると、分子間相互作用が強まり、カーボンナノチューブ410の繊維500の引張強度が向上する。
【0017】
なお、冷却せず、再加熱しない場合には、繊維500の温度が一定ではない。すなわち、温度が高すぎれば、引っ張り応力を加えたときにカーボンナノチューブ410自体が切れてしまうという問題がある。また、温度が低すぎれば、アモルファスカーボンが不安定化しないので、引っ張り応力を加えても配向し難いという問題がある。これに対し、本実施例では、繊維500を400〜500℃に加熱するので、カーボンナノチューブ410が切断されることなく、繊維500内のカーボンナノチューブ410を配向させることが可能となる。
【0018】
以上、本実施例では、生成したカーボンナノチューブ410の繊維500を一旦300℃以下に冷却した後400〜500℃に加熱する。その状態で応力を掛けながら繊維500を巻き取っている。これにより、カーボンナノチューブ410の配向性を向上させることができ、繊維500の引張強度を向上させることが可能となる。
【0019】
[第2の実施例]
図4は、第2の実施例に係るカーボンナノチューブの製造装置の説明図である。第2の実施例では、チャンバー100の内部の下部に2枚の電極板700、710を備えている。電極板700、710は中央部に孔701、711を有している。生成したカーボンナノチューブ410や、カーボンナノチューブ410が絡み合って出来た繊維500は、この孔701、711を通ってチャンバー100に移動する。
【0020】
実施例では、第1の電極板700がマイナス、第2の電極板710がプラスとなるように、電極板700、710に電圧を印可している。なお、第1の電極板700がプラス、第2の電極板710がマイナスとなるように、電圧を印可してもよい。すなわち、第1、第2の電極板700、710のプラスマイナスは逆であってもよい。
【0021】
図4(B)は、電圧を印可したときの状態を示している。カーボンナノチューブ410は、図2(D)で説明したように、端部に触媒600を含んでいる。本実施例では、触媒600は、フェロセンが分解してできた鉄イオン(2価)である。一般に金属はイオン化し易く、プラスイオンとなりやすい。
【0022】
図5は、カーボンナノチューブの炭素骨格を示す説明図である。カーボンナノチューブ410は、炭素が六員環を形成し、この六員環が多数連なって円筒形の炭素骨格を形成している。これらの炭素は、sp2混成軌道を形成し、共有結合(σ結合)をすると共に、sp2混成軌道を形成しない電子(2p軌道の電子、以下「π電子」と呼ぶ。)が、円筒の外側及び内側に非局在化し、π結合を形成している。すなわち、カーボンナノチューブ410の円筒の外側は、π電子で満ちている。その結果、触媒600を含むカーボンナノチューブ410は、図4(B)に示すように、電気双極子を形成している。触媒600を含むカーボンナノチューブ410は、触媒600が第1の電極板700の方を向き、カーボンナノチューブ410が第2の電極板710の方を向くように配向する。したがって、配向した状態でカーボンナノチューブ410は繊維500を形成する。その結果、繊維500の引張強度を向上させることが可能となる。なお、第1の実施例と同様に、一旦冷却した後再加熱し、応力を掛けながらの巻き取りを行っても良い。
【0023】
[第3の実施例]
図6は、第3の実施例に係るカーボンナノチューブの製造装置の説明図である。第3の実施例では、チャンバー100の内部の下部にコイル800を備えている。コイル800に流す電流の向きにより、カーボンナノチューブ410の落下方向と同一方向または反対方向の磁場Hが生成する。
【0024】
図7はカーボンナノチューブの炭素骨格と磁化方向を示す説明図である。カーボンナノチューブ410は、上述したように、円筒形の炭素骨格を有しており、炭素骨格の外側と内側にπ電子を有している。カーボンナノチューブ410は,その円筒の軸Zの回りに磁気対称とみなせる分子集合体であり,軸Zに平行な方向のモル磁化率χpが,垂直な方向のモル磁化率χvより大きい(0>χp>χv)。モル磁化率χp、χvがマイナスの値を有するため、カーボンナノチューブ410は、反磁性を有する。カーボンナノチューブ410を磁場H内に置くと,磁気異方性エネルギーは次式で表される。
E(θ,H) = −(n/2)[χv+(χp−χv)cos2θ]H2
ここでθは軸Zと磁場Hのなす角度(0≦θ<π)で,nはカーボンナノチューブ410を構成する炭素原子のモル数である。軸Zが磁場Hと平行な方向(θ=0)を向くとき,磁気エネルギーが極小値を取るため、カーボンナノチューブ410はこの方向で安定化する。すなわち、カーボンナノチューブ410は、磁場Hの方向と平行な方向に配向する。
【0025】
したがって、カーボンナノチューブ410は、コイル800の磁場Hにより、一定の方向に配向し、配向した状態で繊維500を形成する。その結果、繊維500の引張強度を向上させることが可能となる。なお、第1の実施例と同様に、一旦冷却した後再加熱し、応力を掛けながらの巻き取りを行っても良い。
【0026】
以上、いくつかの実施例に基づいて本発明の実施の形態について説明してきたが、上記した発明の実施の形態は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定するものではない。本発明は、その趣旨並びに特許請求の範囲を逸脱することなく、変更、改良され得るとともに、本発明にはその等価物が含まれることはもちろんである。
【符号の説明】
【0027】
10…製造装置
100…チャンバー
110…原料供給部
120…生成物取出部
200…加熱装置
300…巻取装置
400…カーボンナノチューブ・スモーク
402…半球状キャップ
410…カーボンナノチューブ
500…繊維
600…触媒
700、710…電極板
701、711…孔
800…コイル
H…磁場
χp…モル磁化率
χv…モル磁化率

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カーボンナノチューブの凝集物を製造する製造方法であって、
(1)反応容器内でカーボンナノチューブを形成する工程と、
(2)前記反応容器内で前記カーボンナノチューブを凝集させて凝集体を生成する工程と、
(3)前記凝集体を前記反応容器外の加熱装置に移動させる工程と、
(4)前記加熱装置で前記凝集体を400度から500度の温度で加熱する工程と、
(5)前記加熱された凝集体に引っ張り加重を加えて前記凝集体中のカーボンナノチューブを配向させる工程と、
を備える、カーボンナノチューブの凝集物を製造する製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−228964(P2010−228964A)
【公開日】平成22年10月14日(2010.10.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−78188(P2009−78188)
【出願日】平成21年3月27日(2009.3.27)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】