カーボンナノチューブの製造装置
【課題】CVD法において生成されるカーボンナノチューブの長さを調整できる技術を提供する。
【解決手段】装置100は、第1の面11に触媒粒子21が担持された基板10の第1の面11側に原料ガスを供給してカーボンナノチューブ5を成長させるとともに、第2の面12側に酸素を供給する。基板10は、プロトン伝導性を有する固体電解質層15と、その両面に配置された第1と第2の電極層14a,14bとを有しており、副生成物として生成された水素と供給酸素によって発電する。離隔電極板30は、第2の電極層14bと接続されており、予め第1の電極層14aと距離を有するように第1の面11側に配置されている。制御部150は、離隔電極板30までカーボンナノチューブ5が成長し、電位差計測部136によって計測される第1と第2の電極層14a,14bの間の電位差が0Vとなったときに、原料ガスの供給を停止する。
【解決手段】装置100は、第1の面11に触媒粒子21が担持された基板10の第1の面11側に原料ガスを供給してカーボンナノチューブ5を成長させるとともに、第2の面12側に酸素を供給する。基板10は、プロトン伝導性を有する固体電解質層15と、その両面に配置された第1と第2の電極層14a,14bとを有しており、副生成物として生成された水素と供給酸素によって発電する。離隔電極板30は、第2の電極層14bと接続されており、予め第1の電極層14aと距離を有するように第1の面11側に配置されている。制御部150は、離隔電極板30までカーボンナノチューブ5が成長し、電位差計測部136によって計測される第1と第2の電極層14a,14bの間の電位差が0Vとなったときに、原料ガスの供給を停止する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、カーボンナノチューブの製造技術に関する。
【背景技術】
【0002】
カーボンナノチューブの製造方法としては、化学気相成長法(CVD法)が知られている(特許文献1等)。CVD法では、例えば、外表面にニッケル(Ni)やコバルト(Co)などの触媒金属が担持されたシリコン基板を加熱炉内に配置し、加熱炉を700℃〜1300℃程度の高温に昇温した上で、炭化水素などの原料ガスを基板に供給する。すると、原料ガスから熱分解された炭素原子が円筒状に連なるように合成され、触媒が担持された基板面から上方向に向かって多数の配列したカーボンナノチューブが成長していく。こうして生成されるカーボンナノチューブは、燃料電池の電極などに利用することが提案されている。
【0003】
ところで、これまで、CVD法において所望の長さのカーボンナノチューブを製造するために、製造パラメータと生成されるカーボンナノチューブの長さとの間の相関関係を求めるための実験が行われてきた。具体的には、原料ガスの供給量や流速、加熱炉の温度や、反応時間などの製造パラメータを調整するとともに、透過型電子顕微鏡(TEM)を用いてカーボンナノチューブの成長過程を観察する実験が行われてきた。しかし、こうした実験によって求められた相関関係を用いた場合であっても、生成されるカーボンナノチューブの長さを十分に調整することができなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−027947号公報
【特許文献2】特開2003−277031号公報
【特許文献3】特開2005−330175号公報
【特許文献4】特開2006−232607号公報
【特許文献5】特開平8−100328号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、CVD法において生成されるカーボンナノチューブの長さを調整できる技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の形態又は適用例として実現することが可能である。
【0007】
[適用例1]
化学気相成長法によって、カーボンナノチューブを成長させるカーボンナノチューブの製造装置であって、水素を選択的に透過する第1の電極層と、第2の電極層と、前記第1と第2の電極層に狭持されたプロトン伝導性を有する固体電解質層とを備え、前記第1の電極層の外表面にカーボンナノチューブの生成反応を促進するための触媒層が形成された基板が収容される加熱炉と、前記加熱炉内に収容された前記基板の前記第1の電極層側に、炭素原子と水素原子とを含む原料ガスを供給する原料ガス供給部と、前記加熱炉内に収容された前記基板の第2の電極層側に、酸素を含む酸化ガスを供給する酸化ガス供給部と、前記第1の電極層側において、前記第1の電極層との間に距離を有するように離隔して設置されているとともに、前記第2の電極層に電気的に接続されている離隔電極と、前記第1の電極層側においてカーボンナノチューブの副生成物として生成された水素と、前記酸化ガス供給部から前記第2の電極層側に供給された酸素との電気化学反応により生じた前記第1と第2の電極層の間の電位差を検出する電位差検出部と、制御部とを備え、前記制御部は、カーボンナノチューブが成長して前記離隔電極と接することにより、前記第1と第2の電極層の間における電位差が低下したことを前記電位差検出部によって検出したときに、前記加熱炉による加熱処理または前記原料ガス供給部による前記原料ガスの供給処理を停止させる、カーボンナノチューブの製造装置。
このカーボンナノチューブの製造装置によれば、予め設定した離隔電極と第1の電極層との間の距離に相当する長さにカーボンナノチューブが成長したときに、カーボンナノチューブの成長を停止させることができる。従って、離隔電極と第1の電極層との間の距離を調整することにより、CVD法によって生成されるカーボンナノチューブの長さを調整することができる。
【0008】
なお、本発明は、種々の形態で実現することが可能であり、例えば、カーボンナノチューブの製造方法および製造装置、それらの製造方法または製造装置の機能を実現するためのコンピュータプログラム、そのコンピュータプログラムを記録した記録媒体等の形態で実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】第1実施形態におけるカーボンナノチューブの製造装置の構成を示す概略図。
【図2】第1の実施形態におけるカーボンナノチューブの成長過程を示す模式図。
【図3】第2の実施形態におけるカーボンナノチューブの成長過程を示す模式図。
【図4】第3の実施形態における基板の構成を示す概略図。
【図5】第4の実施形態におけるカーボンナノチューブの製造工程を説明するための概略図。
【図6】第5の実施形態における基板の構成を示す概略図。
【図7】第6の実施形態における基板の構成を示す概略図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
A.第1実施形態:
図1は本発明の一実施形態としてのカーボンナノチューブの製造装置の構成を示す概略図である。このカーボンナノチューブ製造装置100は、CVD法によってカーボンナノチューブを生成する装置である。カーボンナノチューブ製造装置100は、炉管110と、ヒータ部120と、原料ガス供給部123と、酸化ガス供給部125と、第1と第2の電極端子131,132と、導電線133と、電位差計測部136と、制御部150とを備える。制御部150は、中央処理装置と主記憶装置とで構成されるマイクロコンピュータによって構成され、カーボンナノチューブ製造装置100の各構成部の動作を制御する。
【0011】
炉管110は、2つの底面が開口した中空円筒状の反応容器であり、その内部空間には、後述する基板10が収容される。ヒータ部120は、炉管110の外周に配置されており、炉管110の内部空間を約700℃〜1300℃の温度範囲で加熱することができる。原料ガス供給部123は、炉管110の第1の開口部111側に設けられており、第1の開口部111から炉管110の内部空間に原料ガスを供給する。原料ガスとしては、メタン(CH4)や、アセチレン(C2H2)、エタン(C2H6)、プロパン(C3H8)、ブタン(C4H10)などの脂肪族炭化水素が用いられるものとしても良い。また、ベンゼン(C6H6)などの芳香族環(6員環)を有する環式炭化水素や、これらの炭化水素ガスが2種以上混合された混合ガスが用いられるものとしても良い。なお、原料ガスとしては、上記の炭化水素に換えてエタノール(C2H5OH)などのアルコールを用いることも可能である。一方、酸化ガス供給部125は、炉管110の第2の開口部112側に設けられており、カーボンナノチューブの生成工程において、第2の開口部112から炉管110の内部空間に酸素を含む酸化ガスを供給する。
【0012】
第1と第2の電極端子131,132はそれぞれ、炉管110の第1と第2の開口部111,112から炉管110の内部空間へと挿入されており、基板10が炉管110に収容されたときに、第1と第2の電極層14a,14bと電気的に接続される。第1と第2の電極端子131,132は、導電線133を介して負荷200と接続されている。電位差計測部136は、導電線133に設けられており、第1と第2の電極層14a,14bの電位差を計測して、その計測値を制御部150に送信する。なお、第1と第2の電極端子131,132は、ヒータ部120による昇温に耐えうる程度の高融点を有する金属(例えばタングステン)によって構成することが好ましい。
【0013】
ここで、基板10は、プロトン伝導性を有する固体電解質層15の両面に、第1と第2の電極層14a,14bが設けられた積層部材である。基板10は、第2の電極層14bの外表面に固体電解質層15をスパッタ法により形成し、さらに、固体電解質層15の外表面に、第1の電極層14aをスパッタ法により形成することにより製造できる。
【0014】
ここで、固体電解質層15としては、例えば、BaCeO3系、SrCeO3系、SrZrO3系のセラミックスプロトン伝導体によって構成することができる。第1の電極層14aは、例えば、パラジウム(Pd)や、パラジウム合金などの水素透過性金属によって構成することができる。また、第1の電極層14aは、バナジウム(V)等の5族金属(Vの他、ニオブ、タンタル等)または5族金属の合金を基材として、少なくともその一方の面にパラジウムやパラジウム合金層を形成した多層膜によって構成することができる。一方、第2の電極層14bは、例えば、ランタンストロンチウムコバルタイト(LSC)や、ランタンストロンチウムマンガナイト(LSM)、ランタンストロンチウムクロマイト等の複合酸化物によって構成することができる。あるいは、第2の電極層14bは、電気化学反応を促進する触媒活性を有する金属、例えば、パラジウムや白金(Pt)等の貴金属により形成することができる。
【0015】
基板10の第1の電極層14aの外表面には、炉管110に収容される前に、カーボンナノチューブを成長させるための触媒金属の薄膜である触媒薄膜20がスパッタ法によって形成される。本明細書では、以後、単に「触媒金属」と呼ぶときは、このカーボンナノチューブの生成反応を促進するための触媒金属を意味するものとする。また、基板10の触媒薄膜20が形成された面を、以後、「第1の面11」と呼び、第1の面11の反対側の面を「第2の面12」と呼ぶ。
【0016】
触媒金属としては、コバルトやニッケル以外に、鉄(Fe)や、パラジウム、モリブデン(Mo)などの遷移金属の単体や、これらの遷移金属が2種以上含まれる合金を用いることができる。なお、基板10の触媒薄膜20を構成する触媒金属は、基板10が炉管110に収容され、加熱されたときに、粒子化して基板10の面上に分散、担持される。この粒子化した後の触媒金属を「触媒粒子21」と呼ぶ。
【0017】
ところで、第1の電極層14aには、水素分子のプロトン化を促進させるための触媒(以後、「プロトン化触媒」と呼ぶ)が担持されていることが好ましい。プロトン化触媒としては、白金や、パラジウム、ロジウム(Rh)、ルテニウム(Ru)、ニッケル等の触媒材料を用いることができ、これらの触媒材料と電解質との混合材料を粒子状または膜状にして用いることもできる。一方、第2の電極層14bには、プロトンが水素分子へと戻ることを促進するための触媒(以後、「水素化触媒」と呼ぶ)が担持されていることが好ましい。水素化触媒としては、上記のプロトン化触媒と同様な触媒材料を用いることが可能である。
【0018】
ここで、基板10の第1の面11側には、炉管110に収容される前に、触媒薄膜20と距離を有するように離隔して配置された離隔電極板30が設けらる。離隔電極板30は、後述する原料ガスを透過可能なメッシュ状の電極板であり、図示せざる支持部材によって、触媒薄膜20との距離を調整可能なように配置される。なお、離隔電極板30は、導電線31によって基板10の第2の電極層14bと電気的に接続されている。離隔電極板30の機能については後述する。触媒薄膜20および離隔電極板30が設けられた基板10は、第1の面11が炉管110の第1の開口部111の側となり、第2の面12が第2の開口部112の側となるように、炉管110内において、図示せざる支持部によって固定的に配置される。
【0019】
図2(A)は、カーボンナノチューブ製造装置100におけるカーボンナノチューブの成長過程を示す模式図である。図2(A)には、炉管110の内部空間に配置された基板10の一部が拡大して示されており、触媒粒子21が模式的に示されている。また、2つの電極端子131,132と負荷200の図示は省略されており、基板10の2つの電極層14a,14bと電位差計測部136とが、導電線133を介して電気的に接続されていることが模式的に示されている。
【0020】
ヒータ部120によって、炉管110の内部を約600℃〜900℃程度(好ましくは800℃程度)まで昇温されると触媒粒子21が活性化する。活性化した触媒粒子21に対して、原料ガス供給部123から基板10の第1の面11に原料ガスが供給されると、原料ガスから熱分解された炭素原子が、触媒粒子21の外表面において5員環や6員環を連続的に形成する。これによって、触媒粒子21を根本として、カーボンナノチューブ5が基板10の第1の面11から上方向(図の矢印方向)に成長していく。なお、このとき、カーボンナノチューブ5の根本では、カーボンナノチューブ5の成長に伴い、原料ガスに含まれる水素原子によって、副生成物として水素が生成される。
【0021】
一般に、カーボンナノチューブ5が成長し、その長さが長くなるに従い、カーボンナノチューブ5の根本(反応場)における原料ガスの濃度(以下、単に「原料ガス濃度」と呼ぶ)は低下する。そして、原料ガス濃度が著しく低下したときに、カーボンナノチューブ5の成長が停止する(参考文献:J.Phys.Chem.C,Vol.112,No.13,2008参照)。従って、反応場において副生成物として生成された水素の濃度を低減して、原料ガス濃度の低下を抑制することにより、カーボンナノチューブ5をより長く成長させるが可能である。また、反応場における水素濃度を低減することにより、原料ガスからの水素の生成を促進することができ、カーボンナノチューブ5の生成反応の速度を向上させることができる。
【0022】
本実施形態における基板10は、上述したとおり、水素透過性を有する2つの電極14a,14bによって狭持されたプロトン伝導性を有する固体電解質層15によって構成されている。また、基板10の第2の面12には、酸化ガス供給部125から酸素を含む酸化ガスが供給される。従って、カーボンナノチューブ5の成長過程において、基板10の第1の面11において生成された水素は、プロトンとして固体電解質層15を伝導し、第2の電極層14bにおいて、第2の面12に供給された酸素との電気化学反応に供される。即ち、基板10は、第1の電極層14aを水素分離膜型のアノードとし、第2の電極層14bをカソードとする固体電解質形燃料電池セルとして機能する。基板10において生じた電力は、導電線133を介して負荷200(図1)に供給される。なお、このときの第1と第2の電極層14a,14bの間の電位差は、電位差計測部136によって計測される。
【0023】
図2(B)は、カーボンナノチューブ製造装置100におけるカーボンナノチューブの成長過程を示す模式図であり、成長したカーボンナノチューブ5が離隔電極板30と接触している点以外は、図2(A)とほぼ同じである。離隔電極板30は、基板10の第2の電極層14bと電気的に接続されているため、このように、カーボンナノチューブ5が離隔電極板30と接触すると、電位差計測部136によって計測される電位差は「0」となる。このとき、制御部150(図1)は、原料ガス供給部123に、原料ガスの供給を停止させる。または、制御部150は、ヒータ部120に、炉管110の加熱を停止させるものとしても良い。これらの制御によって、制御部150は、カーボンナノチューブ5の成長を停止させる。即ち、離隔電極板30は、カーボンナノチューブ5の成長を停止させるためのスイッチ部として機能する。従って、離隔電極板30と第1の電極層14aとの間の距離を予め設定しておくことにより、カーボンナノチューブ5がその予め設定された距離に相当する長さまで成長したときに、その成長を停止させることができる。
【0024】
このように、このカーボンナノチューブ製造装置100によれば、第1の電極層14aと離隔電極板30との間の距離を調整することにより、生成されるカーボンナノチューブ5の長さを調整することができる。また、副生成物として生成される水素を電気化学反応に供させることによって、反応場から除去することができるため、カーボンナノチューブ5の成長効率を向上させることができる。さらに、カーボンナノチューブ5の生成とともに発電が行われるため、カーボンナノチューブの生成工程におけるエネルギ効率が向上する。
【0025】
B.第2実施形態:
図3(A),(B)は、本発明の第2実施形態としてのカーボンナノチューブの製造工程を示す模式図である。図3(A),(B)はそれぞれ、以下の点以外は、図2(A),(B)とほぼ同じである。即ち、図3(A),(B)では、基板10に換えて基板10Aが図示されている。また、導電線31が省略され、導電線133によって基板10Aと離隔電極板30とが接続され、導電線133に直流電源137と電流計138とが設けられている。
【0026】
この第2実施形態の基板10Aは、水素を選択的に透過する金属板(例えばPdやPd合金)によって構成され、第1の面11に触媒粒子21が担持されている。また、基板10Aには、離隔電極板30が、第1実施形態と同様に、図示せざる支持部によって基板10Aの第1の面11側に設置されている。
【0027】
基板10Aは、第1実施形態と同様に、カーボンナノチューブ製造装置100(図1)の炉管110内に配置され、第1の面11に原料ガスの供給を受ける。なお、第2実施形態では、カーボンナノチューブ製造装置100の酸化ガス供給部125からの基板10Aの第2の面12への酸化ガスの供給は省略される。また、第1の電極端子131は離隔電極板30と電気的に接続され、導電線133は負荷200に換えて直流電源137および電流計138と接続される。
【0028】
基板10Aの第1の面11に原料ガスが供給されると、第1の面11においてカーボンナノチューブ5が成長する(図3(A))。このとき、副生成物である水素が、基板10Aを透過して第2の面12側へと移動するため、カーボンナノチューブ5の成長が促進される。カーボンナノチューブ5が成長して離隔電極板30に接触すると(図3(B))、カーボンナノチューブ5によって基板10Aと離隔電極板30とが電気的に導通するため、直流電源137から電流が流れ、電流計138によって検出できる。電流計138によって電気の導通が検出されると、カーボンナノチューブ製造装置100は、原料ガスの供給を停止し、あるいは、ヒータ部120による加熱を停止し、カーボンナノチューブ5の成長を停止させる。
【0029】
このように、この第2実施形態の構成であっても、第1実施形態と同様に、基板10Aの第1の面11と離隔電極板30との間の距離を調整することにより、生成されるカーボンナノチューブ5の長さを調整することができる。
【0030】
C.第3実施形態:
図4は本発明の第3実施形態としての基板10Bの構成を示す概略図である。図4は、紙面右側ほど、固体電解質層15の厚みが厚くなり、生成されるカーボンナノチューブ5の長さが短くなっている点と、離隔電極板30と、導電線31,133と、電位差計測部136の図示が省略されている点以外は、図2(A)とほぼ同じである。この基板10Bは、第1実施形態の基板10と同様に、第1の面11に触媒粒子21が担持された状態で、カーボンナノチューブ製造装置100(図1)の炉管110の内部に収容され、カーボンナノチューブ5の生成に供される。
【0031】
なお、第2実施形態では、第1実施形態で説明した離隔電極板30は省略されるものとしても良い。また、基板10Bの第2の面12側への酸素供給を省略し、第1と第2の電極層14a,14bの間に電位差をかけることにより、基板10Bに発電させることなく、水素をプロトンとして第1の面11から第2の面12へと誘導するものとしても良い。
【0032】
ここで、固体電解質層15は、その厚みが薄い領域ほどプロトン伝導率が高くなるため、固体電解質層15の厚みが薄い領域ほど第1の面11から水素が除去される速度が速くなる。即ち、固体電解質層15の厚みが薄い領域ほど、第1の面11における水素の除去効率が高くなり、カーボンナノチューブ5の成長が促進される。従って、固体電解質層15の厚みが厚い領域ほど、生成されるカーボンナノチューブ5の長さは短くなり、固体電解質層15の厚みが薄い領域ほど、生成されるカーボンナノチューブ5の長さは長くなる。このように、基板10Bの固体電解質層15の厚みを調整して、そのプロトン伝導率を変化させることにより、CVD法によって生成されるカーボンナノチューブ5の長さを調整することが可能である。
【0033】
D.第4実施形態:
図5は本発明の第4実施形態としてのカーボンナノチューブの製造工程を説明するための模式図である。図5は、原料ガスの導入方向が矢印で図示されている点と、第1の面11において成長しているカーボンナノチューブ5の長さがほぼ均一となっている点以外は、図4とほぼ同じである。この第4実施形態では、基板10Bは、基板10Bの面に沿った方向から原料ガスが導入されるように、カーボンナノチューブ製造装置100(図1)の炉管110に配置される。
【0034】
ここで、原料ガスが成長基板の触媒担持面に沿った方向から供給された場合には、上流側で生成された副生成物である水素が下流側へと流れるため、上流側ほど原料ガスの濃度が高くなる。一般に、原料ガス濃度が高いほど、カーボンナノチューブの成長速度が速くなるため、この場合には、上流側ほど生成されるカーボンナノチューブの長さが長くなる可能性がある。そこで、この第3実施形態では、基板10Bを、固体電解質層15の厚みが薄い側が原料ガスの下流側となるように配置する。このように配置することにより、原料ガスの濃度が低い下流側ほど、基板10Bによる水素の除去効率が高くすることができるため、下流側のカーボンナノチューブ5の生成効率を向上させることができる。これによって、基板10Bにおいて生成されるカーボンナノチューブ5の不均一さを低減することができる。
【0035】
このように、第4実施形態の構成によれば、原料ガスの上流側と下流側との間における濃度勾配によってカーボンナノチューブ5の長さが不均一となってしまう可能性を低減することができる。さらに、炉管110における原料ガスの濃度勾配に従って、基板10Bの固体電解質層15の厚みを調整すれば、生成されるカーボンナノチューブ5の長さを略均一化することが可能である。
【0036】
E.第5実施形態:
図6(A)は、本発明の第5実施形態としての基板10Cの構成を示す概略図である。図6(A)は、固体電解質層15の厚みがほぼ均一となり、第1の電極層14aの厚みが紙面右側ほど厚くなっている点以外は、図4とほぼ同じである。この基板10Cは、第3実施形態において説明した基板10Bと同様に、第1の面11に触媒粒子21が担持された状態で、カーボンナノチューブ製造装置100(図1)の炉管110の内部に収容され、カーボンナノチューブ5の生成に供される。
【0037】
基板10Cでは、第1の電極層14aは、その厚みが厚い領域ほど水素の透過率が低くなり、その厚みが薄い領域ほど水素の透過率が高くなる。即ち、基板10Cでは、第1の電極層14aの厚みに応じて、第1の面11における水素の除去効率が変化する。従って、基板10Cの第1の電極層14aの厚みを調整することにより、第1の面11において生成されるカーボンナノチューブ5の長さを調整することが可能である。
【0038】
図6(B)は、第1の電極層14aの厚みがほぼ均一となり、第2の電極層14bの厚みが紙面右側ほど厚くなっている点以外は、図6(A)とほぼ同じである。この基板10Dのように、第2の電極層14bの厚みを変化させて、その水素透過率を変化させた場合も、上述の第1の電極層14aの厚みを変化させた基板10Cの場合と同様の効果を得ることができる。このように、第1と第2の電極層14a,14bの厚みを調整することによっても、第1の面11において成長するカーボンナノチューブ5の長さを調整することが可能である。
【0039】
F.第6実施形態:
図7は、本発明の第6実施形態としての基板10Eの構成を示す概略図である。図7は、基板10Eの構成が異なる点と、第1の面11において成長しているカーボンナノチューブ5の長さが異なる点以外は、図6(B)とほぼ同じである。この基板10Eは、第1と第2の電極層14a,14bの厚みがほぼ均一であり、3種類の固体電解質層15a,15b,15cがそれぞれ、第1と第2の電極層14a,14bによって狭持されている。なお、基板10Eは、第5実施形態において説明した基板10C,10Dと同様に、第1の面11に触媒粒子21が担持された状態で、カーボンナノチューブ製造装置100(図1)の炉管110の内部に収容され、カーボンナノチューブの生成に供される。
【0040】
基板10Eの3種類の固体電解質層15a,15b,15cはそれぞれ、プロトン伝導率が異なる固体電解質によって構成されている。より具体的には、3種類の固体電解質層15a,15b,15cは、第1の固体電解質層15a、第2の固体電解質層15b、第3の固体電解質層15cの順でプロトン伝導率が高くなる。従って、基板10Eでは、各固体電解質層15a,15b,15cが配置されている領域ごとに、第1の面11における水素の除去効率が異なり、生成されるカーボンナノチューブ5の長さが異なってくる。より具体的には、第1の固体電解質層15aの配置領域において成長するカーボンナノチューブ5が最も長くなり、第3の固体電解質層15cの配置領域におけいて成長するカーボンナノチューブ5が最も短くなる。このように、プロトン伝導率の異なる複数の固体電解質層を設けることにより、第1の面11において成長するカーボンナノチューブ5の長さを調整することができる。
【符号の説明】
【0041】
5…カーボンナノチューブ
10,10A〜10E…基板
11…第1の面
12…第2の面
14a…第1の電極層
14b…第2の電極層
15,15a,15b,15c…固体電解質層
20…触媒薄膜
21…触媒粒子
30…離隔電極板
31…導電線
100…カーボンナノチューブ製造装置
110…炉管
111…第1の開口部
112…第2の開口部
120…ヒータ部
123…原料ガス供給部
125…酸化ガス供給部
131…第1の電極端子
132…第2の電極端子
133…導電線
136…電位差計測部
137…直流電源
138…電流計
150…制御部
200…負荷
【技術分野】
【0001】
この発明は、カーボンナノチューブの製造技術に関する。
【背景技術】
【0002】
カーボンナノチューブの製造方法としては、化学気相成長法(CVD法)が知られている(特許文献1等)。CVD法では、例えば、外表面にニッケル(Ni)やコバルト(Co)などの触媒金属が担持されたシリコン基板を加熱炉内に配置し、加熱炉を700℃〜1300℃程度の高温に昇温した上で、炭化水素などの原料ガスを基板に供給する。すると、原料ガスから熱分解された炭素原子が円筒状に連なるように合成され、触媒が担持された基板面から上方向に向かって多数の配列したカーボンナノチューブが成長していく。こうして生成されるカーボンナノチューブは、燃料電池の電極などに利用することが提案されている。
【0003】
ところで、これまで、CVD法において所望の長さのカーボンナノチューブを製造するために、製造パラメータと生成されるカーボンナノチューブの長さとの間の相関関係を求めるための実験が行われてきた。具体的には、原料ガスの供給量や流速、加熱炉の温度や、反応時間などの製造パラメータを調整するとともに、透過型電子顕微鏡(TEM)を用いてカーボンナノチューブの成長過程を観察する実験が行われてきた。しかし、こうした実験によって求められた相関関係を用いた場合であっても、生成されるカーボンナノチューブの長さを十分に調整することができなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−027947号公報
【特許文献2】特開2003−277031号公報
【特許文献3】特開2005−330175号公報
【特許文献4】特開2006−232607号公報
【特許文献5】特開平8−100328号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、CVD法において生成されるカーボンナノチューブの長さを調整できる技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の形態又は適用例として実現することが可能である。
【0007】
[適用例1]
化学気相成長法によって、カーボンナノチューブを成長させるカーボンナノチューブの製造装置であって、水素を選択的に透過する第1の電極層と、第2の電極層と、前記第1と第2の電極層に狭持されたプロトン伝導性を有する固体電解質層とを備え、前記第1の電極層の外表面にカーボンナノチューブの生成反応を促進するための触媒層が形成された基板が収容される加熱炉と、前記加熱炉内に収容された前記基板の前記第1の電極層側に、炭素原子と水素原子とを含む原料ガスを供給する原料ガス供給部と、前記加熱炉内に収容された前記基板の第2の電極層側に、酸素を含む酸化ガスを供給する酸化ガス供給部と、前記第1の電極層側において、前記第1の電極層との間に距離を有するように離隔して設置されているとともに、前記第2の電極層に電気的に接続されている離隔電極と、前記第1の電極層側においてカーボンナノチューブの副生成物として生成された水素と、前記酸化ガス供給部から前記第2の電極層側に供給された酸素との電気化学反応により生じた前記第1と第2の電極層の間の電位差を検出する電位差検出部と、制御部とを備え、前記制御部は、カーボンナノチューブが成長して前記離隔電極と接することにより、前記第1と第2の電極層の間における電位差が低下したことを前記電位差検出部によって検出したときに、前記加熱炉による加熱処理または前記原料ガス供給部による前記原料ガスの供給処理を停止させる、カーボンナノチューブの製造装置。
このカーボンナノチューブの製造装置によれば、予め設定した離隔電極と第1の電極層との間の距離に相当する長さにカーボンナノチューブが成長したときに、カーボンナノチューブの成長を停止させることができる。従って、離隔電極と第1の電極層との間の距離を調整することにより、CVD法によって生成されるカーボンナノチューブの長さを調整することができる。
【0008】
なお、本発明は、種々の形態で実現することが可能であり、例えば、カーボンナノチューブの製造方法および製造装置、それらの製造方法または製造装置の機能を実現するためのコンピュータプログラム、そのコンピュータプログラムを記録した記録媒体等の形態で実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】第1実施形態におけるカーボンナノチューブの製造装置の構成を示す概略図。
【図2】第1の実施形態におけるカーボンナノチューブの成長過程を示す模式図。
【図3】第2の実施形態におけるカーボンナノチューブの成長過程を示す模式図。
【図4】第3の実施形態における基板の構成を示す概略図。
【図5】第4の実施形態におけるカーボンナノチューブの製造工程を説明するための概略図。
【図6】第5の実施形態における基板の構成を示す概略図。
【図7】第6の実施形態における基板の構成を示す概略図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
A.第1実施形態:
図1は本発明の一実施形態としてのカーボンナノチューブの製造装置の構成を示す概略図である。このカーボンナノチューブ製造装置100は、CVD法によってカーボンナノチューブを生成する装置である。カーボンナノチューブ製造装置100は、炉管110と、ヒータ部120と、原料ガス供給部123と、酸化ガス供給部125と、第1と第2の電極端子131,132と、導電線133と、電位差計測部136と、制御部150とを備える。制御部150は、中央処理装置と主記憶装置とで構成されるマイクロコンピュータによって構成され、カーボンナノチューブ製造装置100の各構成部の動作を制御する。
【0011】
炉管110は、2つの底面が開口した中空円筒状の反応容器であり、その内部空間には、後述する基板10が収容される。ヒータ部120は、炉管110の外周に配置されており、炉管110の内部空間を約700℃〜1300℃の温度範囲で加熱することができる。原料ガス供給部123は、炉管110の第1の開口部111側に設けられており、第1の開口部111から炉管110の内部空間に原料ガスを供給する。原料ガスとしては、メタン(CH4)や、アセチレン(C2H2)、エタン(C2H6)、プロパン(C3H8)、ブタン(C4H10)などの脂肪族炭化水素が用いられるものとしても良い。また、ベンゼン(C6H6)などの芳香族環(6員環)を有する環式炭化水素や、これらの炭化水素ガスが2種以上混合された混合ガスが用いられるものとしても良い。なお、原料ガスとしては、上記の炭化水素に換えてエタノール(C2H5OH)などのアルコールを用いることも可能である。一方、酸化ガス供給部125は、炉管110の第2の開口部112側に設けられており、カーボンナノチューブの生成工程において、第2の開口部112から炉管110の内部空間に酸素を含む酸化ガスを供給する。
【0012】
第1と第2の電極端子131,132はそれぞれ、炉管110の第1と第2の開口部111,112から炉管110の内部空間へと挿入されており、基板10が炉管110に収容されたときに、第1と第2の電極層14a,14bと電気的に接続される。第1と第2の電極端子131,132は、導電線133を介して負荷200と接続されている。電位差計測部136は、導電線133に設けられており、第1と第2の電極層14a,14bの電位差を計測して、その計測値を制御部150に送信する。なお、第1と第2の電極端子131,132は、ヒータ部120による昇温に耐えうる程度の高融点を有する金属(例えばタングステン)によって構成することが好ましい。
【0013】
ここで、基板10は、プロトン伝導性を有する固体電解質層15の両面に、第1と第2の電極層14a,14bが設けられた積層部材である。基板10は、第2の電極層14bの外表面に固体電解質層15をスパッタ法により形成し、さらに、固体電解質層15の外表面に、第1の電極層14aをスパッタ法により形成することにより製造できる。
【0014】
ここで、固体電解質層15としては、例えば、BaCeO3系、SrCeO3系、SrZrO3系のセラミックスプロトン伝導体によって構成することができる。第1の電極層14aは、例えば、パラジウム(Pd)や、パラジウム合金などの水素透過性金属によって構成することができる。また、第1の電極層14aは、バナジウム(V)等の5族金属(Vの他、ニオブ、タンタル等)または5族金属の合金を基材として、少なくともその一方の面にパラジウムやパラジウム合金層を形成した多層膜によって構成することができる。一方、第2の電極層14bは、例えば、ランタンストロンチウムコバルタイト(LSC)や、ランタンストロンチウムマンガナイト(LSM)、ランタンストロンチウムクロマイト等の複合酸化物によって構成することができる。あるいは、第2の電極層14bは、電気化学反応を促進する触媒活性を有する金属、例えば、パラジウムや白金(Pt)等の貴金属により形成することができる。
【0015】
基板10の第1の電極層14aの外表面には、炉管110に収容される前に、カーボンナノチューブを成長させるための触媒金属の薄膜である触媒薄膜20がスパッタ法によって形成される。本明細書では、以後、単に「触媒金属」と呼ぶときは、このカーボンナノチューブの生成反応を促進するための触媒金属を意味するものとする。また、基板10の触媒薄膜20が形成された面を、以後、「第1の面11」と呼び、第1の面11の反対側の面を「第2の面12」と呼ぶ。
【0016】
触媒金属としては、コバルトやニッケル以外に、鉄(Fe)や、パラジウム、モリブデン(Mo)などの遷移金属の単体や、これらの遷移金属が2種以上含まれる合金を用いることができる。なお、基板10の触媒薄膜20を構成する触媒金属は、基板10が炉管110に収容され、加熱されたときに、粒子化して基板10の面上に分散、担持される。この粒子化した後の触媒金属を「触媒粒子21」と呼ぶ。
【0017】
ところで、第1の電極層14aには、水素分子のプロトン化を促進させるための触媒(以後、「プロトン化触媒」と呼ぶ)が担持されていることが好ましい。プロトン化触媒としては、白金や、パラジウム、ロジウム(Rh)、ルテニウム(Ru)、ニッケル等の触媒材料を用いることができ、これらの触媒材料と電解質との混合材料を粒子状または膜状にして用いることもできる。一方、第2の電極層14bには、プロトンが水素分子へと戻ることを促進するための触媒(以後、「水素化触媒」と呼ぶ)が担持されていることが好ましい。水素化触媒としては、上記のプロトン化触媒と同様な触媒材料を用いることが可能である。
【0018】
ここで、基板10の第1の面11側には、炉管110に収容される前に、触媒薄膜20と距離を有するように離隔して配置された離隔電極板30が設けらる。離隔電極板30は、後述する原料ガスを透過可能なメッシュ状の電極板であり、図示せざる支持部材によって、触媒薄膜20との距離を調整可能なように配置される。なお、離隔電極板30は、導電線31によって基板10の第2の電極層14bと電気的に接続されている。離隔電極板30の機能については後述する。触媒薄膜20および離隔電極板30が設けられた基板10は、第1の面11が炉管110の第1の開口部111の側となり、第2の面12が第2の開口部112の側となるように、炉管110内において、図示せざる支持部によって固定的に配置される。
【0019】
図2(A)は、カーボンナノチューブ製造装置100におけるカーボンナノチューブの成長過程を示す模式図である。図2(A)には、炉管110の内部空間に配置された基板10の一部が拡大して示されており、触媒粒子21が模式的に示されている。また、2つの電極端子131,132と負荷200の図示は省略されており、基板10の2つの電極層14a,14bと電位差計測部136とが、導電線133を介して電気的に接続されていることが模式的に示されている。
【0020】
ヒータ部120によって、炉管110の内部を約600℃〜900℃程度(好ましくは800℃程度)まで昇温されると触媒粒子21が活性化する。活性化した触媒粒子21に対して、原料ガス供給部123から基板10の第1の面11に原料ガスが供給されると、原料ガスから熱分解された炭素原子が、触媒粒子21の外表面において5員環や6員環を連続的に形成する。これによって、触媒粒子21を根本として、カーボンナノチューブ5が基板10の第1の面11から上方向(図の矢印方向)に成長していく。なお、このとき、カーボンナノチューブ5の根本では、カーボンナノチューブ5の成長に伴い、原料ガスに含まれる水素原子によって、副生成物として水素が生成される。
【0021】
一般に、カーボンナノチューブ5が成長し、その長さが長くなるに従い、カーボンナノチューブ5の根本(反応場)における原料ガスの濃度(以下、単に「原料ガス濃度」と呼ぶ)は低下する。そして、原料ガス濃度が著しく低下したときに、カーボンナノチューブ5の成長が停止する(参考文献:J.Phys.Chem.C,Vol.112,No.13,2008参照)。従って、反応場において副生成物として生成された水素の濃度を低減して、原料ガス濃度の低下を抑制することにより、カーボンナノチューブ5をより長く成長させるが可能である。また、反応場における水素濃度を低減することにより、原料ガスからの水素の生成を促進することができ、カーボンナノチューブ5の生成反応の速度を向上させることができる。
【0022】
本実施形態における基板10は、上述したとおり、水素透過性を有する2つの電極14a,14bによって狭持されたプロトン伝導性を有する固体電解質層15によって構成されている。また、基板10の第2の面12には、酸化ガス供給部125から酸素を含む酸化ガスが供給される。従って、カーボンナノチューブ5の成長過程において、基板10の第1の面11において生成された水素は、プロトンとして固体電解質層15を伝導し、第2の電極層14bにおいて、第2の面12に供給された酸素との電気化学反応に供される。即ち、基板10は、第1の電極層14aを水素分離膜型のアノードとし、第2の電極層14bをカソードとする固体電解質形燃料電池セルとして機能する。基板10において生じた電力は、導電線133を介して負荷200(図1)に供給される。なお、このときの第1と第2の電極層14a,14bの間の電位差は、電位差計測部136によって計測される。
【0023】
図2(B)は、カーボンナノチューブ製造装置100におけるカーボンナノチューブの成長過程を示す模式図であり、成長したカーボンナノチューブ5が離隔電極板30と接触している点以外は、図2(A)とほぼ同じである。離隔電極板30は、基板10の第2の電極層14bと電気的に接続されているため、このように、カーボンナノチューブ5が離隔電極板30と接触すると、電位差計測部136によって計測される電位差は「0」となる。このとき、制御部150(図1)は、原料ガス供給部123に、原料ガスの供給を停止させる。または、制御部150は、ヒータ部120に、炉管110の加熱を停止させるものとしても良い。これらの制御によって、制御部150は、カーボンナノチューブ5の成長を停止させる。即ち、離隔電極板30は、カーボンナノチューブ5の成長を停止させるためのスイッチ部として機能する。従って、離隔電極板30と第1の電極層14aとの間の距離を予め設定しておくことにより、カーボンナノチューブ5がその予め設定された距離に相当する長さまで成長したときに、その成長を停止させることができる。
【0024】
このように、このカーボンナノチューブ製造装置100によれば、第1の電極層14aと離隔電極板30との間の距離を調整することにより、生成されるカーボンナノチューブ5の長さを調整することができる。また、副生成物として生成される水素を電気化学反応に供させることによって、反応場から除去することができるため、カーボンナノチューブ5の成長効率を向上させることができる。さらに、カーボンナノチューブ5の生成とともに発電が行われるため、カーボンナノチューブの生成工程におけるエネルギ効率が向上する。
【0025】
B.第2実施形態:
図3(A),(B)は、本発明の第2実施形態としてのカーボンナノチューブの製造工程を示す模式図である。図3(A),(B)はそれぞれ、以下の点以外は、図2(A),(B)とほぼ同じである。即ち、図3(A),(B)では、基板10に換えて基板10Aが図示されている。また、導電線31が省略され、導電線133によって基板10Aと離隔電極板30とが接続され、導電線133に直流電源137と電流計138とが設けられている。
【0026】
この第2実施形態の基板10Aは、水素を選択的に透過する金属板(例えばPdやPd合金)によって構成され、第1の面11に触媒粒子21が担持されている。また、基板10Aには、離隔電極板30が、第1実施形態と同様に、図示せざる支持部によって基板10Aの第1の面11側に設置されている。
【0027】
基板10Aは、第1実施形態と同様に、カーボンナノチューブ製造装置100(図1)の炉管110内に配置され、第1の面11に原料ガスの供給を受ける。なお、第2実施形態では、カーボンナノチューブ製造装置100の酸化ガス供給部125からの基板10Aの第2の面12への酸化ガスの供給は省略される。また、第1の電極端子131は離隔電極板30と電気的に接続され、導電線133は負荷200に換えて直流電源137および電流計138と接続される。
【0028】
基板10Aの第1の面11に原料ガスが供給されると、第1の面11においてカーボンナノチューブ5が成長する(図3(A))。このとき、副生成物である水素が、基板10Aを透過して第2の面12側へと移動するため、カーボンナノチューブ5の成長が促進される。カーボンナノチューブ5が成長して離隔電極板30に接触すると(図3(B))、カーボンナノチューブ5によって基板10Aと離隔電極板30とが電気的に導通するため、直流電源137から電流が流れ、電流計138によって検出できる。電流計138によって電気の導通が検出されると、カーボンナノチューブ製造装置100は、原料ガスの供給を停止し、あるいは、ヒータ部120による加熱を停止し、カーボンナノチューブ5の成長を停止させる。
【0029】
このように、この第2実施形態の構成であっても、第1実施形態と同様に、基板10Aの第1の面11と離隔電極板30との間の距離を調整することにより、生成されるカーボンナノチューブ5の長さを調整することができる。
【0030】
C.第3実施形態:
図4は本発明の第3実施形態としての基板10Bの構成を示す概略図である。図4は、紙面右側ほど、固体電解質層15の厚みが厚くなり、生成されるカーボンナノチューブ5の長さが短くなっている点と、離隔電極板30と、導電線31,133と、電位差計測部136の図示が省略されている点以外は、図2(A)とほぼ同じである。この基板10Bは、第1実施形態の基板10と同様に、第1の面11に触媒粒子21が担持された状態で、カーボンナノチューブ製造装置100(図1)の炉管110の内部に収容され、カーボンナノチューブ5の生成に供される。
【0031】
なお、第2実施形態では、第1実施形態で説明した離隔電極板30は省略されるものとしても良い。また、基板10Bの第2の面12側への酸素供給を省略し、第1と第2の電極層14a,14bの間に電位差をかけることにより、基板10Bに発電させることなく、水素をプロトンとして第1の面11から第2の面12へと誘導するものとしても良い。
【0032】
ここで、固体電解質層15は、その厚みが薄い領域ほどプロトン伝導率が高くなるため、固体電解質層15の厚みが薄い領域ほど第1の面11から水素が除去される速度が速くなる。即ち、固体電解質層15の厚みが薄い領域ほど、第1の面11における水素の除去効率が高くなり、カーボンナノチューブ5の成長が促進される。従って、固体電解質層15の厚みが厚い領域ほど、生成されるカーボンナノチューブ5の長さは短くなり、固体電解質層15の厚みが薄い領域ほど、生成されるカーボンナノチューブ5の長さは長くなる。このように、基板10Bの固体電解質層15の厚みを調整して、そのプロトン伝導率を変化させることにより、CVD法によって生成されるカーボンナノチューブ5の長さを調整することが可能である。
【0033】
D.第4実施形態:
図5は本発明の第4実施形態としてのカーボンナノチューブの製造工程を説明するための模式図である。図5は、原料ガスの導入方向が矢印で図示されている点と、第1の面11において成長しているカーボンナノチューブ5の長さがほぼ均一となっている点以外は、図4とほぼ同じである。この第4実施形態では、基板10Bは、基板10Bの面に沿った方向から原料ガスが導入されるように、カーボンナノチューブ製造装置100(図1)の炉管110に配置される。
【0034】
ここで、原料ガスが成長基板の触媒担持面に沿った方向から供給された場合には、上流側で生成された副生成物である水素が下流側へと流れるため、上流側ほど原料ガスの濃度が高くなる。一般に、原料ガス濃度が高いほど、カーボンナノチューブの成長速度が速くなるため、この場合には、上流側ほど生成されるカーボンナノチューブの長さが長くなる可能性がある。そこで、この第3実施形態では、基板10Bを、固体電解質層15の厚みが薄い側が原料ガスの下流側となるように配置する。このように配置することにより、原料ガスの濃度が低い下流側ほど、基板10Bによる水素の除去効率が高くすることができるため、下流側のカーボンナノチューブ5の生成効率を向上させることができる。これによって、基板10Bにおいて生成されるカーボンナノチューブ5の不均一さを低減することができる。
【0035】
このように、第4実施形態の構成によれば、原料ガスの上流側と下流側との間における濃度勾配によってカーボンナノチューブ5の長さが不均一となってしまう可能性を低減することができる。さらに、炉管110における原料ガスの濃度勾配に従って、基板10Bの固体電解質層15の厚みを調整すれば、生成されるカーボンナノチューブ5の長さを略均一化することが可能である。
【0036】
E.第5実施形態:
図6(A)は、本発明の第5実施形態としての基板10Cの構成を示す概略図である。図6(A)は、固体電解質層15の厚みがほぼ均一となり、第1の電極層14aの厚みが紙面右側ほど厚くなっている点以外は、図4とほぼ同じである。この基板10Cは、第3実施形態において説明した基板10Bと同様に、第1の面11に触媒粒子21が担持された状態で、カーボンナノチューブ製造装置100(図1)の炉管110の内部に収容され、カーボンナノチューブ5の生成に供される。
【0037】
基板10Cでは、第1の電極層14aは、その厚みが厚い領域ほど水素の透過率が低くなり、その厚みが薄い領域ほど水素の透過率が高くなる。即ち、基板10Cでは、第1の電極層14aの厚みに応じて、第1の面11における水素の除去効率が変化する。従って、基板10Cの第1の電極層14aの厚みを調整することにより、第1の面11において生成されるカーボンナノチューブ5の長さを調整することが可能である。
【0038】
図6(B)は、第1の電極層14aの厚みがほぼ均一となり、第2の電極層14bの厚みが紙面右側ほど厚くなっている点以外は、図6(A)とほぼ同じである。この基板10Dのように、第2の電極層14bの厚みを変化させて、その水素透過率を変化させた場合も、上述の第1の電極層14aの厚みを変化させた基板10Cの場合と同様の効果を得ることができる。このように、第1と第2の電極層14a,14bの厚みを調整することによっても、第1の面11において成長するカーボンナノチューブ5の長さを調整することが可能である。
【0039】
F.第6実施形態:
図7は、本発明の第6実施形態としての基板10Eの構成を示す概略図である。図7は、基板10Eの構成が異なる点と、第1の面11において成長しているカーボンナノチューブ5の長さが異なる点以外は、図6(B)とほぼ同じである。この基板10Eは、第1と第2の電極層14a,14bの厚みがほぼ均一であり、3種類の固体電解質層15a,15b,15cがそれぞれ、第1と第2の電極層14a,14bによって狭持されている。なお、基板10Eは、第5実施形態において説明した基板10C,10Dと同様に、第1の面11に触媒粒子21が担持された状態で、カーボンナノチューブ製造装置100(図1)の炉管110の内部に収容され、カーボンナノチューブの生成に供される。
【0040】
基板10Eの3種類の固体電解質層15a,15b,15cはそれぞれ、プロトン伝導率が異なる固体電解質によって構成されている。より具体的には、3種類の固体電解質層15a,15b,15cは、第1の固体電解質層15a、第2の固体電解質層15b、第3の固体電解質層15cの順でプロトン伝導率が高くなる。従って、基板10Eでは、各固体電解質層15a,15b,15cが配置されている領域ごとに、第1の面11における水素の除去効率が異なり、生成されるカーボンナノチューブ5の長さが異なってくる。より具体的には、第1の固体電解質層15aの配置領域において成長するカーボンナノチューブ5が最も長くなり、第3の固体電解質層15cの配置領域におけいて成長するカーボンナノチューブ5が最も短くなる。このように、プロトン伝導率の異なる複数の固体電解質層を設けることにより、第1の面11において成長するカーボンナノチューブ5の長さを調整することができる。
【符号の説明】
【0041】
5…カーボンナノチューブ
10,10A〜10E…基板
11…第1の面
12…第2の面
14a…第1の電極層
14b…第2の電極層
15,15a,15b,15c…固体電解質層
20…触媒薄膜
21…触媒粒子
30…離隔電極板
31…導電線
100…カーボンナノチューブ製造装置
110…炉管
111…第1の開口部
112…第2の開口部
120…ヒータ部
123…原料ガス供給部
125…酸化ガス供給部
131…第1の電極端子
132…第2の電極端子
133…導電線
136…電位差計測部
137…直流電源
138…電流計
150…制御部
200…負荷
【特許請求の範囲】
【請求項1】
化学気相成長法によって、カーボンナノチューブを成長させるカーボンナノチューブの製造装置であって、
水素を選択的に透過する第1の電極層と、第2の電極層と、前記第1と第2の電極層に狭持されたプロトン伝導性を有する固体電解質層とを備え、前記第1の電極層の外表面にカーボンナノチューブの生成反応を促進するための触媒層が形成された基板が収容される加熱炉と、
前記加熱炉内に収容された前記基板の前記第1の電極層側に、炭素原子と水素原子とを含む原料ガスを供給する原料ガス供給部と、
前記加熱炉内に収容された前記基板の第2の電極層側に、酸素を含む酸化ガスを供給する酸化ガス供給部と、
前記第1の電極層側において、前記第1の電極層との間に距離を有するように離隔して設置されているとともに、前記第2の電極層に電気的に接続されている離隔電極と、
前記第1の電極層側においてカーボンナノチューブの副生成物として生成された水素と、前記酸化ガス供給部から前記第2の電極層側に供給された酸素との電気化学反応により生じた前記第1と第2の電極層の間の電位差を検出する電位差検出部と、
制御部と、
を備え、
前記制御部は、カーボンナノチューブが成長して前記離隔電極と接することにより、前記第1と第2の電極層の間における電位差が低下したことを前記電位差検出部によって検出したときに、前記加熱炉による加熱処理または前記原料ガス供給部による前記原料ガスの供給処理を停止させる、カーボンナノチューブの製造装置。
【請求項1】
化学気相成長法によって、カーボンナノチューブを成長させるカーボンナノチューブの製造装置であって、
水素を選択的に透過する第1の電極層と、第2の電極層と、前記第1と第2の電極層に狭持されたプロトン伝導性を有する固体電解質層とを備え、前記第1の電極層の外表面にカーボンナノチューブの生成反応を促進するための触媒層が形成された基板が収容される加熱炉と、
前記加熱炉内に収容された前記基板の前記第1の電極層側に、炭素原子と水素原子とを含む原料ガスを供給する原料ガス供給部と、
前記加熱炉内に収容された前記基板の第2の電極層側に、酸素を含む酸化ガスを供給する酸化ガス供給部と、
前記第1の電極層側において、前記第1の電極層との間に距離を有するように離隔して設置されているとともに、前記第2の電極層に電気的に接続されている離隔電極と、
前記第1の電極層側においてカーボンナノチューブの副生成物として生成された水素と、前記酸化ガス供給部から前記第2の電極層側に供給された酸素との電気化学反応により生じた前記第1と第2の電極層の間の電位差を検出する電位差検出部と、
制御部と、
を備え、
前記制御部は、カーボンナノチューブが成長して前記離隔電極と接することにより、前記第1と第2の電極層の間における電位差が低下したことを前記電位差検出部によって検出したときに、前記加熱炉による加熱処理または前記原料ガス供給部による前記原料ガスの供給処理を停止させる、カーボンナノチューブの製造装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【公開番号】特開2010−247998(P2010−247998A)
【公開日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−95753(P2009−95753)
【出願日】平成21年4月10日(2009.4.10)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年4月10日(2009.4.10)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】
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