説明

カーボンナノチューブ分散体

【課題】
カーボンナノチューブはアスペクト比が高く、絡み合った構造であるため分散が難しい。さらに予備分散体の作成をするとしても高濃度にしつつ、高分散でブリード物を発生させないようにするのは難しい。ブリード物を発生させず高濃度で高分散のカーボンナノチューブ分散体およびにそれを用いた樹脂組成物、さらにその樹脂組成物からなる成形体の製造方法を提供する。
【解決手段】
常温溶融塩と常温で固体のワックスとカーボンナノチューブからなることを特徴とするカーボンナノチューブ分散体とカーボンナノチュブ分散体と熱可塑性樹脂からなる樹脂組成物および前記樹脂組成物からなる成形物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はカーボンナノチューブを高分散できる高濃度樹脂用着色剤およびそれを用いた樹脂組成物、さらに前記樹脂組成物を用いてなる成形体に関する。
【0002】
カーボンナノチューブはその特性からエレクトロニクス(トランジスター素子、配線など)、エネルギー(燃料電池用電極材料、太陽光発電装置、ガス貯蔵など)、電子放出(フラットパネル装置など)、化学(吸着剤、触媒、センサーなど)、複合材料(導電性プラスチック、強化材料、難燃ナノコンポジットなど)など様々な分野での応用が期待されている。しかし、カーボンナノチューブはアスペクト比が非常に大きいためその分散が非常に困難である。特にプラスチック中への分散は非常に困難である。一般的な顔料の分散方法であるワックスに分散させる方法をカーボンナノチューブの分散に適用すると、特に、カーボンナノチューブが高濃度の場合、ワックスがカーボンナノチューブの絡まりの中に保持されてしまい、これを樹脂中に分散させても分散体がほぐれず、カーボンナノチューブは樹脂中に分散できなかった。そのため低濃度の分散体しか作成が出来ず、添加量を多くすると強化材料どころか物性を落とす結果になっていた。
【0003】
従来、カーボンナノチューブを樹脂中に分散させる技術としては、カーボンナノチューブをプラズマで処理することにより絡まりをほぐし樹脂へ分散させる方法が知られている(特許文献1参照)。また、カーボンナノチューブを珪素化合物に添加する技術としては、オルガノポリシロキサンに単層の根元成長カーボンナノチューブを分散させ熱伝導率の優れたグリスを作成する方法が知られている(特許文献2参照)。さらにカーボンナノチューブとシリコーン樹脂の混合物を樹脂へ分散させる技術も知られている(特許文献3、4参照)。イオン性液体とカーボンナノチューブを主成分とし導電性を発現させる技術(特許文献5参照)や、マトリックスポリマーと電子導電性繊維状充填剤とイオン性液体を成分とし電子導電性繊維状充填剤の分散性に優れ、かつ、電気抵抗のばらつきが小さくする技術も知られている(特許文献6参照)。
【0004】
しかしながら、特許文献1記載の技術は樹脂へのプラズマ処理が必要であり生産性に大きな問題がある。特許文献2記載の技術は、単層の根元成長カーボンナノチューブを用いており導電材としては不向きであり、さらには液状の化合物であり樹脂に添加し押出機で加工を行うとサージンク゛してしまうなどの加工性に問題点がある。また特許文献3および4記載の技術は、シリコーンオイルは耐熱性に乏しく、また成形品にブリード物が出てくるなどの問題点があった。特許文献5記載の技術はイオン性液体自体を重合させる方法で汎用樹脂への展開は難しく、特許文献6記載の技術ではカーボンナノチューブの分散性は不十分かつブリード物がでるなどの問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−306607号公報
【特許文献2】特開2003−301110号公報
【特許文献3】特開2007−154100号公報
【特許文献4】特開2007−231219号公報
【特許文献5】特開2004−255481号公報
【特許文献6】特開2005−220316号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、カーボンナノチューブを高濃度に配合していても分散性に優れ、成形品表面にブリードを引き起こさないカーボンナノチューブ分散体、そしてカーボンナノチューブ分散体を用いてなる樹脂組成物ならびにその成形体を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
すなわち本発明は常温溶融塩5〜55重量%と常温で固体のワックス5〜55重量%とカーボンナノチューブ40〜70重量%からなることを特徴とするカーボンナノチューブ分散体に関する。
【0008】
更に本発明は常温溶融塩がイミダゾリウム系、ピリジニウム系、アンモニウム系、ホスホニウム系、およびスルホニウム系イオン性液体から選ばれる1種又は2種以上からなることを特徴とするカーボンナノチューブ分散体に関する。
更に本発明は常温で固体のワックスが合成ワックスであることを特徴とするカーボンナノチューブ分散体に関する。
【0009】
更に本発明は上記常温で固体のワックスがポリオレフィン系ワックス、ポリスチレン系ワックスのいずれかであることを特徴とするカーボンナノチューブ分散体に関する。
更に本発明は上記カーボンナノチューブ分散体を熱可塑性樹脂100重量部に対し0.01〜200重量部添加してなることを特徴とする樹脂組成物に関する。
【0010】
更に本発明は上記樹脂組成物からなる成形体に関する。
【発明の効果】
【0011】
本発明により高濃度にカーボンナノチューブを含有しているにもかかわらず高分散でブリード物をほとんど発生させないカーボンナノチューブ分散体を得ることができ、それを用いてなる樹脂組成物ならびに樹脂組成物をもちいてなる成形体においても良好な導電性を保持した成形体を得ることが出来た。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明で用いるカーボンナノチューブは、グラファイトの1枚面を巻いて円筒状にした形状を有しており、そのグラファイト層が1層で巻いた構造を持つ単層カーボンナノチューブ、2層またはそれ以上で巻いた多層カーボンナノチューブでも、これらが混在するものであっても良いが、多層カーボンナノチューブであることが好ましい。また、カーボンナノチューブの側壁がグラファイト構造ではなく、アモルファス構造をもったカーボンナノチューブを用いても構わない。
【0013】
さらに、形状としては針状、コイル状、チューブ状、カップ状の形態などいずれの形態を有するものであってもよい。具体的には、グラファイトウィスカー、フィラメンタスカーボン、グラファイトファイバー、極細炭素チューブ、カーボンチューブ、カーボンフィブリル、カーボンマイクロチューブ、カーボンナノファイバーなどを挙げることができる。これらの形態として1種または2種以上を組み合わせた形態において使用することができる。
【0014】
本発明のカーボンナノチューブは、一般にレーザーアブレーション法、アーク放電法、熱CVD法、プラズマCVD法、燃焼法などで製造できるが、どのような方法で製造したカーボンナノチューブでも構わない。特に、ゼオライトを触媒の担体としてアセチレンを原料に熱CVD法で作る方法は、特に精製することなく、多少の熱分解による不定形炭素被覆はあるものの、純度が高く、良くグラファイト化された多層カーボンナノチューブが得られる点で、本発明に使用するカーボンナノチューブとして好ましい。
【0015】
本発明で用いるカーボンナノチューブのサイズとしては、特に限定されるものではなく、例えば、繊維径として0.5〜300nm、繊維長として0.01〜100μmなどを具体的に挙げることができる。繊維径として1〜200nm、繊維長として1〜10μmを好ましい範囲として挙げることができる。
【0016】
本発明で用いるカーボンナノチューブの二次粒子形状は特に限定されるものではなく、例えば一般的な一次粒子であるカーボンナノチューブが複雑に絡み合っている状態でもよく、ほぐれ易くカーボンナノチューブを直線状にしたものの集合体であっても良い。直線状のカーボンナノチューブの集合体である二次粒子は絡み合っているものと比べると分散性が良いので好ましい。
【0017】
本発明で用いるカーボンナノチューブは表面処理を行ったものや、カルボキシル基などの官能基を付与させたカーボンナノチューブ誘導体であってもよい。また、金属原子やフラーレン等を内包させたカーボンナノカプセル等も用いることが出来る。
本発明で用いられる常温溶融塩とは、室温付近で液体である塩類の総称であり、室温付近の広い範囲において液体で、また、室温付近の蒸気圧が極めて低いという特徴を有するカチオンとアニオンからなる塩である。
【0018】
常温溶融塩のカチオンとしては、イミダゾリウム、ピリジニウム、アンモニウム、ホスホニウム、スルホニウムであり、例えば、ジアルキルイミダゾリウム、トリアルキルイミダゾリウム、アルキルピリジニウム、ジアルキルピリジニウム、トリアルキルピリジニウム、1−フルオロアルキルピリジニウム、1−フルオロトリアルキルピリジニウム、テトラアルキルアンモニウム、テトラアルキルホスホニウム、トリアルキルスルホニウムなどが挙げられる。
【0019】
さらに詳細な具体例としては、1,3−ジメチルイミダゾリウム、1−エチル−3−メチルイミダゾリウム、1−プロピル−3−メチルイミダゾリウム、1−メチル−3−プロピルイミダゾリウム、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウム、1−ヘキシル−3−メチルイミダゾリウム、1−オクチル−3−メチルイミダゾリウム、1−メチル−3−オクチルイミダゾリウム、1−デシル−3−メチルイミダゾリウム、1−ドデシル−3−メチルイミダゾリウム、1−テトラドデシル−3−メチルイミダゾリウム、1−ヘキサドデシル−3−メチルイミダゾリウム、1−オクタドデシル−3−メチルイミダゾリウム、1−エチル−2,3−ジメチルイミダゾリウム、1−プロピル−2,3−ジメチルイミダゾリウム、1,2−ジメチル−3−プロピルイミダゾリウム、1−ブチル−2,3−ジメチルイミダゾリウム、1−ヘキシル−2,3−ジメチルイミダゾリウム、1−オクチル−2,3−ジメチルイミダゾリウム1,2−ジメチル−3−オクチルイミダゾリウム、1−ブチル−3−エチルイミダゾリウム、1−ヘキシル−3−エチルイミダゾリウム、1−エチル−3−オクチルイミダゾリウム、1−エチル−3−ブチルイミダゾリウム、1−エチル−3−ヘキシルイミダゾリウム、1−オクチル−3−エチルイミダゾリウム、1,2−ジエチル−3,4−ジメチルイミダゾリウム、1−フルオロピリジニウム、1−フルオロ−2,4,6−トリメチルピリジニウム、1−エチルピリジニウム、1−ブチルピリジニウム、1−ヘキシルピリジニウム、1−プロピル3−メチルピリジニウム、1−ブチル−4−メチルピリジニウム、1−ブチル−3−メチルピリジニウム、1−ヘキシル−4−メチルピリジニウム、1−ヘキシル−3−メチルピリジウム、1−オクチル−4−メチルピリジニウム、1−オクチル−3−メチルピリジニウム、1−ブチル−3,4−ジメチルピリジニウム、1−ブチル−3,5−ジメチルピリジニウム、トリメチルペンチルアンモニウム、トリメチルヘキシルアンモニウム、トリメチルヘプチルアンモニウム、トリメチルオクチルアンモニウム、トリエチルプロピルアンモニウム、トリエチル(2−メトキシエチル)アンモニウム、メチルトリオクチルアンモニウム、トリエチルペンチルアンモニウム、トリエチルヘプチルアンモニウム、ジメチルエチルプロピルアンモニウム、ジメチルブチルエチルアンモニウム、ジメチルエチルペンチルアンモニウム、ジメチルエチルヘキシルアンモニウム、ジメチルエチルヘプチルアンモニウム、ジメチルエチルノニルアンモニウム、ジメチルエチルヘプタデシルアンモニウム、ジメチルジプロピルアンモニウム、ジメチルブチルプロピルアンモニウム、ジメチルプロピルペンチルアンモニウム、ジメチルヘキシルプロピルアンモニウム、ジメチルヘプチルプロピルアンモニウム、ジメチルブチルペンチルアンモニウム、ジメチルブチルヘキシルアンモニウム、ジメチルブチルヘプチルアンモニウム、ジメチルヘキシルペンチルアンモニウム、ジエチルヘプチルメチルアンモニウム、ジヘキシルジメチルアンモニウム、ジプロピルブチルヘキシルアンモニウム、ジヘキシルジプロピルアンモニウム、ジエチルメチルプロピルアンモニウム、ジエチルメチル(2−メトキシエチル)アンモニウム、ジプロピルエチルメチルアンモニウム、ジエチルプロピルペンチルアンモニウム、ジエチルメチルペンチルアンモニウム、エチルメチルプロピルペンチルアンモニウム、ジプロピルメチルペンチルアンモニウム、ジブチルメチルペンチルアンモニウム、ジブチルヘキシルメチルアンモニウム、トリヘキシルテトラデシルホスホニウム、トリイソブチルメチルホスホニウム、テトラブチルホスホニウム、トリエチルスルホニウム等が挙げられる。
【0020】
常温溶融塩のアニオンとしては、ヘキサフルオロホスフェート、テトラフルオロボレート、メチルスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸、ビストリフルオロメタンスルホン酸イミド、ビスペンタフルオロエタンスルホン酸イミド、ビスシアノイミド、三酸化窒素、酢酸、トリフルオロメタンカルボン酸等が挙げられる。
【0021】
常温溶融塩の具体例としては、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムアセテート、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムクロライド、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムハイドロジェンサルフェート、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムメタンスルホン酸、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムメチルサルフェート、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムテトラクロロアルミネート、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムチオシアネート、1−エチル−2,3−ジメチルイミダゾリウムエチルサルフェート、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムアセテート、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムクロライド、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムエチルサルフェート、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムハイドロジェンサルフェート、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムメタンスルホン酸、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムテトラクロロアルミネート、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムチオシアネート、1−メチルイミダゾリウムクロライド、1−メチルイミダゾリウムハイドロジェンサルフェート、1,2,3−トリメチルイミダゾリウムメチルサルフェート、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムテトラフルオロボレート、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムクロライド、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムヘキサフルオロホスフェート、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムテトラフルオロボレート、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムヘキサフルオロアンチモネート、1−ブチル−2,3−ジメチルイミダゾリウムテトラフルオロボレート、1−ドデシル−3−イミダゾリウムアイオダイド、1−エチル−2,3−ジメチルイミダゾリウムトリフルオロメタンスルホン酸、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムジシアンアミド、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムナイトレート、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムビス(トリフルオロメチルスルフォニル)イミド、1,2−ジメチル−3−プロピルイミダゾリウムビス(トリフルオロメチルスルフォニル)イミド、1,2−ジメチル−3−プロピルイミダゾリウムビス(ペンタフルオロエチルスルフォニル)イミド、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムビス(トリフルオロメチルスルフォニル)イミド、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムヘキサフルオロフォスフェート、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムオクチルサルフェート、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムトシレート、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムトシレート、1−メチル−3−オクチルイミダゾリウムヘキサフルオロホスフェート、1−メチル−3−オクチルイミダゾリウムテトラフルオロボレート、4−(3−ブチル−1−イミダゾリオ)−1−ブタンスルホン酸トリフレート、4−(3−ブチル−1−イミダゾリオ)−1−ブタンスルフォネート、1−アリール−3−メチルイミダゾリウムクロライド、1−ベンジル−3−メチルイミダゾリウムクロライド、1−ベンジル−3−メチルイミダゾリウムヘキサフルオロホスフォネート、1−ベンジル−3−メチルイミダゾリウムテトラフルオロボレート、1−ブチル−2,3−ジメチルイミダゾリウムクロライド、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウム2−(2−メトキシエトキシ)−エチルサルフェート、1−ヘキシル−3−メチルイミダゾリムヘキサフルオロホスフェート、1−ヘキシル−3−メチルイミダゾリウムトリフルオロメタンするフォネート、1−ブチル−3−メチルピリジニウムビス(トリフルオロメチルスルフォニル)イミド、3−メチル−1−プロピルピリジニウムビス(トリフルオロメチルスルフォニル)イミド、1−ブチル−4−メチルピリジニウムテトラフルオロボレート、1−ブチル−4−メチルピリジニウムブロミド、1−ブチル−4−メチルピリジニウムクロライド、1−ブチル−4−メチルピリジニウムヘキサフルオロホスフェート、トリブチルメチルアンモニウムメチルサルフェート、メチル-トリオクチルアンモニウムビス(トリフルオロメチルスルフォニル)イミド、テトラブチルアンモニウムビス(トリフルオロメチルスルフォニル)イミド、テトラエチルアンモニウムトリフルオロメタンスルフォネート、テトラブチルアンモニウムブロミド、メチルトリオクチルアンモニウムチオサリチレート、テトラブチルアンモニウムベンゾエート、テトラブチルアンモニウムメタンスルフォネート、テトラブチルアンモニウムノナフルオロブタンスルフォネート、テトラブチルアンモニウムヘプタデカフルオロオクタンスルフォネート、テトラヘキシルアンモニウムテトラフルオロボレート、テトラオクチルアンモニウムクロライド、テトラペンチルアンモニウムチオシアネート、テトラブチルアンモニウムブロミド、テトラエチルアンモニウムトリフルオロアセテート、テトラブチルアンモニウムアイオダイド、テトラブチルホスホニウムテトラフルオロボレート、トリヘキシルテトラデシルホスホニウムビス(2,4,4−トリメチルペンチル)ホスフィネート、トリヘキシルテトラデシルホスホニウムビス(トリフルオロメチルスルフォニル)アミド、トリヘキシルテトラデシルホスホニウムブロミド、トリヘキシルテトラデシルホスホニウムクロライド、トリヘキシルテトラデシルホスホニウムデカノエート、トリヘキシルテトラデシルホスホニウムジシアンアミド、トリヘキシルテトラデシルホスホニウムヘキサフルオロホスフェート、トリイソブチルメチルホスホニウムトシレート、3−(トリフェニルホスホニオ)プロパン−1−スルホン酸、3−(トリフェニルホスホニオ)プロパン-1-スルフォネート、テトラブチルホスホニウム−p−トルエン」スルフォネート、トリエチルスルフォニウムビス(トリフルオロメチルスルフォニル)イミドが挙げられる。
【0022】
本発明における常温で固体のワックスとしては、天然ワックスと合成ワックスが上げられる。天然ワックスとしては例えばキャリデリラワックス、カルナウバワックス、ライスワックス、木ろうなどの植物系ワックス、そして蜜蝋、ラノリン、鯨ろうなどの動物系ワックス、さらにモンタンワックス、オゾケライト、セレシンなどの鉱物系ワックス、またパラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックス、ペトロラタム等の石油ワックスなどがあげられる。合成ワックスとしては例えばポリエチレン系ワックス、ポリプロピレン系ワックス、ポリスチレン系ワックスなどの合成炭化水素、そしてモンタンワックス誘導体、変性オレフィンワックスなどの変性ワックス、さらに硬化ひまし油などの水素化ワックス、またステアリン酸アミドなどの脂肪酸アミドなどがあげられる。耐熱性や諸物性を考慮すると合成ワックスを用いるのが好ましく、更に好ましくはポリエチレン系ワックス、ポリプロピレン系ワックス、ポリスチレンワックスを用いることである。
【0023】
前記、ポリエチレン系ワックスおよびポリプロピレン系ワックスとは主にモノマーを重合した分子量が1000〜20000程度のポリエチレン骨格を有する低分子量樹脂のことを示す。ポリオレフィン系ワックスの製造方法はモノマーを重合して製造する方法とポリマーを分解して製造する方法によって行われている。重合タイプは、重合方法によって、チーグラー触媒を使用した低圧法、ラジカル触媒を使用した高圧法、メタロセン触媒を用いた製法がある。また、ポリエチレン系ワックスでは一般の樹脂同様にHDPE型、LLDPE型、LDPE型のポリエチレンワックスがある。ポリオレフィン系ワックスには他にもEVAワックス、EEAワックスのような共重合ワックスや酸変性ポリオレフィンワックスのように極性基を有するワックスがある。本発明においてはどの製法で作成されたポリオレフィン系ワックスを用いてもよく、また極性基を有していても構わない。市販されているポリエチレン系ワックスの例としては三井化学社製の「ハイワックス」、三洋化成工業社製の「サンワックス、ビスコール」、クラリアント社製の「Licowax」等があげられる。
【0024】
前記、ポリスチレン系ワックスはモノビニル芳香族炭化水素の単独または共重合体であり、モノビニル芳香族炭化水素としてはスチレンおよびα- メチルスチレンが好ましく、スチレンが特に好ましい。ポリスチレン系ワックスの分子量(数平均分子量)もポリオレフィン系ワックスと同様に1000〜20000程度が好ましい。市販されているポリスチレン系ワックスの例としては三洋化成工業社製の「ハイマー、レジット」等があげられる。
【0025】
本発明においては、カーボンナノチューブ分散体は常温溶融塩5〜55重量%と常温で固体のワックス5〜55重量%とカーボンナノチューブ40〜70重量%からなる。本発明中に含まれるカーボンナノチューブの含有量が40重量%未満であれば、物性の低下を引き起こしたり、熱可塑性樹脂に添加後成形する際にカーボンナノチューブ以外の構成物が成形品表面に多く出て表面抵抗値を上げたりするので好ましくない。また、80重量%を超えてカーボンナノチューブを添加するとカーボンナノチューブ分散体が強固になりすぎてしまうため樹脂に添加したとき均一に分散せず固形の塊のまま樹脂中に残ってしまうためカーボンナノチューブの特性を活かすことが出来なくなってしまう。また、常温溶融塩とカーボンナノチューブのみでカーボンナノチューブ分散体を作成し、熱可塑性樹脂へ添加すると熱可塑性樹脂中への常温溶融塩の添加量が多くなり成形品表面にブリードしたり、常温溶融塩はワックスと比較して分散性が悪いため思ったほど高濃度のカーボンナノチューブ分散体が作成できなかったりする。一方、カーボンナノチューブとワックスのみでカーボンナノチューブを作成するとカーボンナノチューブの吸油量の高さや、樹脂補強効果などから粘度が非常に高くなるため高濃度のカーボンナノチューブ分散体は作成できない。分散性を保持しつつブリードが少ない高濃度のカーボンナノチューブを作成する為には常温溶融塩とワックスを併用しなくてはならない。
【0026】
一般に顔料などを樹脂に分散させる方法としては低分子量の樹脂ワックス中に顔料をあらかじめ高濃度に分散させた分散体を作成し、それを樹脂に加えることで顔料を均一に分散することができる。また、高級カルボン酸金属塩、脂肪酸アマイドまたは各種アミドなども顔料とドライブレンドすることにより樹脂への分散性をあげる方法として一般的に知られている。しかし、樹脂ワックスは高濃度下においてはカーボンナノチューブにより組成物が非常に強固になり分散剤として機能しなくなる。また、その他ドライブレンドで用いるような分散剤(滑剤)ではカーボンナノチューブの非常に絡まった構造をほぐすほどの能力はない。そこで、本発明では前分散ができ、カーボンナノチューブが高濃度になっても強固になりすぎずほぐれるような分散媒体でありつつ、ブリードをしにくくするために常温溶融塩とワックスを併用ことにした。液体のみによる加工に比べ、ロールミルによる前分散が非常に容易であり、カーボンナノチューブを高濃度に添加しても組成物が強固になり過ぎない。また、樹脂への相溶性もよいので分散性も非常によい。
【0027】
常温溶融塩とワックスの配合比は特に限定されず、カーボンナノチューブの量により適切な配合比にするのが好ましい。分散性を考えると出来るだけ常温溶融塩を少なく使うことが好ましい。ただし、カーボンナノチューブの量が多くなる場合にはカーボンナノチューブ分散体は高粘度になる傾向があるため、常温溶融塩を多めに用いることが好ましい。
【0028】
常温溶融塩と常温で固体のワックスとカーボンナノチューブを混合するための装置としては、ディスパー、スーパーミキサー、ヘンシェルミキサー、ハイスピードミキサー、乳鉢、インターナルミキサー、ニーダー、バンバリーミキサー、二軸混練機、サンドミル、ボールミル、ロールミル等があるが、好ましくはロールミルを使用する。ロールミルにはロールが二本のものと三本のものが主であるが、特に分散性を上げるにはせん断力の大きい三本ロールミルが好ましい。
【0029】
本発明に用いられる熱可塑性樹脂としては、高密度ポリエチレン樹脂、低密度ポリエチレン樹脂、直鎖状低密度ポリエチレン樹脂、超低密度ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリブタジエン樹脂、環状オレフィン樹脂、ポリメチルペンテン樹脂、ポリスチレン樹脂、エチレン酢酸ビニルコポリマー、アイオノマー樹脂、エチレンビニルアルコール共重合樹脂、エチレンアクリル酸エチル共重合体、アクリロニトリル・スチレン樹脂、アクリロニトリル・塩素化ポリスチレン・スチレン共重合樹脂、アクリロニトリル・アクリルゴム・スチレン共重合樹脂、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン共重合樹脂、アクリロニトリル・EPDM・スチレン共重合樹脂、シリコーンゴム・アクリロニトリル・スチレン共重合樹脂、セルロース・アセテート・ブチレート樹脂、酢酸セルロース樹脂、メタクリル樹脂、エチレン・メチルメタクリレートコポリマー樹脂、エチレン・エチルアクリレート樹脂、塩化ビニル樹脂、塩素化ポリエチレン樹脂、ポリ4フッ化エチレン樹脂、4フッ化エチレン・6フッ化プロピレン共重合樹脂、4フッ化エチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合樹脂、4フッ化エチレン・エチレン共重合樹脂、ポリ3フッ化塩化エチレン樹脂、ポリフッ化ビニリデン樹脂、ナイロン4,6、ナイロン6、ナイロン6,6、ナイロン6,10、ナイロン6,12、ナイロン12、ナイロン6,T、ナイロン9,T、芳香族ナイロン樹脂、ポリアセタール樹脂、超高分子量ポリエチレン樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリエチレンナフタレート樹脂、非晶性コポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂、変性ポリフェニレンエーテル樹脂、熱可塑性ポリウレタンエラストマー、ポリフェニレンサルファイド樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、液晶ポリマー、ポリテトラフロロエチレン樹脂、ポリフロロアルコキシ樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリスルホン樹脂、ポリケトン樹脂、熱可塑性ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリサルフォン樹脂、ポリエーテルサルフォン樹脂、生分解樹脂、バイオマス樹脂が挙げられるが、これらに限定されるものではない。また、これらの樹脂2種以上を共重合させたものであっても良い。
【0030】
また、本発明に用いられる熱可塑性樹脂として、生分解樹脂、バイオマス樹脂も用いることができる。生分解樹脂は単にプラスチックがバラバラになることではなく、微生物の働きにより、分子レベルまで分解し、最終的には二酸化炭素と水となって自然界へと循環していく性質を持った樹脂であり、その原料は有機資源由来の物質ある必要性が無い樹脂を示す。一方、バイオマス樹脂とは有機資源由来の物質からなる樹脂で生分解性を有さなくても良い樹脂を示す。生分解樹脂、バイオマス樹脂の両方に属する樹脂も多い。具体的にはポリ乳酸、ポリカプロラクトン、または脂肪族ジカルボン酸と多価アルコールとを原料として得られる脂肪族ポリエステル系樹脂の他、微生物または植物より合成されたポリエステル樹脂等が挙げられる。特にポリ乳酸が好ましい。
【0031】
本発明における樹脂組成物の製造は特に限定されるものではない。例えば、熱可塑性樹脂、カーボンナノチューブ分散体と更に必要に応じて各種添加剤や着色剤等を加え、ヘンシェルミキサーやタンブラー、ディスパー等で混合しニーダー,ロールミル,スーパーミキサー,ヘンシェルミキサー,シュギミキサー,バーティカルグラニュレーター,ハイスピードミキサー,ファーマトリックス,ボールミル,スチールミル,サンドミル,振動ミル,アトライター,バンバリーミキサーのような回分式混練機、二軸押出機、単軸押出機、ローター型二軸混練機等で混合や溶融混練分散し、ペレット状、粉体状、顆粒状あるいはビーズ状等の形状の樹脂組成物を得ることができる。
【0032】
本発明の樹脂組成物は、導電性組成物を比較的高濃度に含有し、成形時に被成形樹脂(ベース樹脂)で希釈されるマスターバッチであっても良いし、導電性組成物の濃度が比較的低く、被成形樹脂で希釈せずにそのままの組成で成形に供されるコンパウンドであっても良い。
【0033】
本発明の成形品は、押出成形、射出成形、ブロー成形のいずれかの成形方法で得られるものでもよいし、樹脂組成物を粉砕して得られる粉体塗料でもよい。
【0034】
本発明の樹脂組成物には、本発明の効果を損なわない範囲内で必要に応じて適当な添加剤、例えば、耐酸化安定剤、耐候安定剤、帯電防止剤、染料、顔料、分散剤、カップリング剤、結晶造核剤、樹脂充填材等を配合してもよい。
【実施例】
【0035】
次に、本発明を具体的に実施例に基づき説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。本実施例においる常温溶融塩(A)と常温で固体のワックス(B)とカーボンナノチューブ、熱可塑性樹脂(C)それぞれの製造元と商品名を以下に示す。前記各成分の配合比は表1に示す。
【0036】
常温溶融塩(A−1):1−ブチル−3−メチルピリジニウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(日本カーリット社製、CIL−312)
常温溶融塩(A−2):1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムテトラクロロアルミネート(アルドリッチ社製)
常温溶融塩(A−3):トリブチルメチルアンモニウムメチルフルフェート(アルドリッチ社製)
常温溶融塩(A−4):トリヘキシルテトラデシルホスホニウムテトラフルオロボレート(アルドリッチ社製)
常温溶融塩(A−5):トリエチルスルホニウムビストリフルオロメチルスルホニルイミド(アルドリッチ社製)
常温で固体のワックス(B−1):ポリエチレンワックス(三洋化成工業社製、サンワックス131P)
常温で固体のワックス(B−2):ポリプロピレンワックス(三洋化成工業社製、ビスコール550)
常温で固体のワックス(B−3):ポリスチレンワックス(三洋化成工業社製、レジットS94)
カーボンナノチューブ:線径が10〜15nm、長さが0.1〜10μm のCCVD法により作成された多層カーボンナノチューブ(ARKEMA社製、GRAPHISTRENGTH C100)
熱可塑性樹脂(C−1):高密度ポリエチレン樹脂(旭化成ケミカルズ社製、サンテックHD L50P)
熱可塑性樹脂(C−2):ホモポリプロピレン樹脂(プライムポリマー社製、プライムポリプロJ105P)
熱可塑性樹脂(C−3):ポリスチレン樹脂(PSジャパン社製、PSJポリスチレン679)
【実施例1】
【0037】
1.導電性組成物の製造
常温溶融塩(A)と常温で固体のワックス(B)とカーボンナノチューブを混ぜ、140℃に加熱した3本ロールにて練肉したところ3本ロールからフィルム状の導電性組成物を得たので、それを粉砕して粉体固形のカーボンナノチューブ分散体を得た。
【0038】
2.樹脂組成物の製造
熱可塑性樹脂(C)を、除湿乾燥機で乾燥後、これに上記導電性組成物を所定量加えスーパーミキサーにて攪拌羽回転速度約300rpmで4分間、攪拌・混合した。これを熱可塑性樹脂(C)が変質しない適切な加工温度に設定した二軸押出機で溶融混練し樹脂組成物を作成した後、射出成形機(東芝機械(株)製IS−100F型)を用い成形を行った。
【0039】
3.評価
得られた導電性組成物の「分散性」、得られた樹脂組成物の「成形加工性」「導電性」を次の手順に従って評価し表1に纏めた。
<カーボンナノチューブ分散体の分散性>
得られた導電性組成物0.001gをLDPE10gに添加し、2本ロールにて過熱混練後、プレス機にて10cm角、厚さ1mm板状の成形物を作成しその分散性を透過顕微鏡にて確認した。結果を表1に示す。
○ : 良分散
△ : 分散不良
× : 未分散
<成形加工性>
押出加工時のストランド外観または成形品表面の外観不良の目視検査。結果を表1に示す。
【0040】
良好:ストランド外観、成形品表面外観とも良好
不良:ストランド外観の凹凸、ストランド発泡、成形表面にフラッシュ、ボイド発生などの不良が発生
<導電性>
成形品の表面抵抗率をSIMCO社製の表面抵抗測定器(TRUSTAT ST−3)を用いて測定した。結果を表1に示す。
【0041】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
常温溶融塩5〜55重量%と常温で固体のワックス5〜55重量%とカーボンナノチューブ40〜70重量%からなることを特徴とするカーボンナノチューブ分散体。
【請求項2】
常温溶融塩がイミダゾリウム系、ピリジニウム系、アンモニウム系、ホスホニウム系、およびスルホニウム系イオン性液体から選ばれる1種又は2種以上からなることを特徴とする請求項1記載のカーボンナノチューブ分散体。
【請求項3】
常温で固体のワックスが合成ワックスであることを特徴とする請求項1又は2記載のカーボンナノチューブ分散体。
【請求項4】
常温で固体のワックスがポリオレフィン系ワックス、ポリスチレン系ワックスのいずれかであることを特徴とする請求項1ないし3記載のカーボンナノチューブ分散体。
【請求項5】
請求項1〜4いずれか記載のカーボンナノチューブ分散体を熱可塑性樹脂100重量部に対し0.01〜200重量部添加してなることを特徴とする樹脂組成物。
【請求項6】
請求項5記載の樹脂組成物からなる成形体。

【公開番号】特開2010−209162(P2010−209162A)
【公開日】平成22年9月24日(2010.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−54358(P2009−54358)
【出願日】平成21年3月9日(2009.3.9)
【出願人】(000222118)東洋インキ製造株式会社 (2,229)
【Fターム(参考)】