説明

カーボンナノチューブ複合体およびその製造方法

【課題】カーボンナノチューブ集合体の更なる高密度化に有利なカーボンナノチューブ複合体およびその製造方法を提供する。
【解決手段】カーボンナノチューブ複合体は、基体の表面に搭載されるカーボンナノチューブ集合体とを有する。カーボンナノチューブ集合体は、基体の表面に立設する方向に沿って延びる配向性を有する多数のカーボンナノチューブを並設させつつ集合させて形成されており、カーボンナノチューブ集合体を成長させたままの状態における密度が70mg/cm以上とされている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多数のカーボンナノチューブの向きが同じ方向に揃うように集合されたカーボンナノチューブ複合体およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
カーボンナノチューブは、近年着目されている炭素材料である。特許文献1には、基板温度を675〜750℃にした状態で、CVD処理することにより、多数個のカーボンナノチューブを並列させつつ基板に対してほぼ垂直となるように基板の表面に成長させたカーボンナノチューブ複合体が開示されている。
【0003】
特許文献2には、基板の表面に植毛状に形成された多数個のカーボンナノチューブからなるカーボンナノチューブ群と、カーボンナノチューブ群のうち基板側の根元を連結する金属膜とを有するカーボンナノチューブ複合体が開示されている。このものによれば、カーボンナノチューブの成長温度よりも高い融点をもつ金属の膜を形成し、この金属膜の上に触媒を設け、この状態で、原料ガスによりカーボンナノチューブを基板の表面において成長させ、次に、カーボンナノチューブの成長温度よりも高い温度で金属を溶融させ、その後固化させ、これによりカーボンナノチューブの根元部を金属で被覆固定させることにしている。特許文献3には、シリコン基板の表面に対して垂直の配向を維持させつつ多数のカーボンナノチューブをシリコン基板の表面に超高密度に集合させた多層カーボンナノチューブの集合構造が開示されている。
【0004】
特許文献4には、成長させたカーボンナノチューブの集合体を圧密化二次加工として水等の液体に晒した後に、乾燥させることによりカーボンナノチューブ集合体を圧縮させる圧縮工程を経て高密度化させるカーボンナノチューブ集合体の製造技術が開示されている。このものによれば、カーボンナノチューブを成長させた後に圧密化二次加工すれば、カーボンナノチューブ集合体を高密度化させることができるとしている。更に、特許文献4には、機械的な外部圧力を加えて圧縮させる圧縮加工を圧密化二次加工としてカーボンナノチューブ集合体に作用させて高密度化させる技術も開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001−220674号公報
【特許文献2】特開2007−76925号公報
【特許文献3】特開2008−120658号公報
【特許文献4】特開2007−182352号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
産業界では、カーボンナノチューブを集合させたカーボンナノチューブ集合体の密度を更に高めたカーボンナノチューブ複合体が要望されている。しかし上記した技術によれば、カーボンナノチューブ集合体の高密度化は必ずしも充分ではない。特許文献3においても、カーボンナノチューブ集合体の密度を高めているものの、カーボンナノチューブ集合体の高密度化は必ずしも充分ではない。特許文献4によれば、カーボンナノチューブ集合体を高密度化できるものの、高密度化の為には、カーボンナノチューブを水に晒した後に乾燥させる工程、あるいは、機械的な外部力によりカーボンナノチューブ集合体を圧縮させる圧縮工程を二次加工として必須とする。
【0007】
本発明は上記した実情に鑑みてなされたものであり、多数のカーボンナノチューブを同じ方向に並設状態に揃えたカーボンナノチューブ集合体の更なる高密度化に有利なカーボンナノチューブ複合体およびその製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(1)様相1の本発明に係るカーボンナノチューブ複合体は、同じ方向に沿って配向している配向性を有する多数のカーボンナノチューブを並設させつつ集合させて形成され、カーボンナノチューブ集合体を成長させたままの状態における密度が70mg/cm以上とされて高密度化されているカーボンナノチューブ集合体を具備する。この場合、カーボンナノチューブ集合体を成長させた後に圧密化二次加工を実施せずに、カーボンナノチューブ集合体を成長させたままの状態(as- grownの状態,カーボンナノチューブを成長完了させた時点)において、上記したような高密度が得られている。
【0009】
(2)様相2の本発明に係るカーボンナノチューブ複合体は、(i)表面をもつ基体と、(ii)基体の表面に搭載され表面に立設する方向に沿って同じ方向に配向している配向性を有する多数のカーボンナノチューブを並設させつつ集合させて形成され、密度が70mg/cm以上とされて高密度化されているカーボンナノチューブ集合体とを具備する。この場合、カーボンナノチューブ集合体を成長させた後に圧密化二次加工を実施せずに、カーボンナノチューブ集合体を成長させたままの状態(as- grownの状態,カーボンナノチューブ集合体を成長完了させた時点)において、上記したような高密度が得られている。この場合、カーボンナノチューブ集合体と基体との間には触媒が存在していることが好ましい。更に、触媒と基体との間にはアルミニウムまたはアルミニウム合金で形成された下地層が存在することが好ましい。この場合、同じ方向に沿って配向している配向性を有する多数のカーボンナノチューブを得るのに有利である。
【0010】
(3)様相3の本発明に係るカーボンナノチューブ複合体の製造方法は、触媒を基体の表面に形成する工程と、触媒を有する基体の表面にCVD処理によりカーボンナノチューブ形成反応を発生させてカーボンナノチューブ集合体を形成するカーボンナノチューブ形成工程とを順に実施することにより、様相1,2に係るカーボンナノチューブ複合体を製造する方法であって、カーボンナノチューブ形成工程においては、カーボンナノチューブ形成前に、基体を常温域から400〜600℃範囲内の1次目標温度T1に1次昇温させ、その後、炭素原料ガスを導入し、600〜1500℃範囲内の2次目標温度T2(T2≧T1)に5〜100℃/分にて昇温させるかまたは温度維持させる制御昇温することにより、触媒を有する基体の表面にCVD処理によりカーボンナノチューブ形成反応を発生させてカーボンナノチューブ集合体を成長させる。この場合、基体において加熱に伴う触媒の凝集を抑制させるのに有利である。この場合、カーボンナノチューブ集合体を成長させた後に圧密化二次加工を実施せずに、カーボンナノチューブ集合体を成長させたまままの状態(カーボンナノチューブ集合体を成長完了させた時点)において、上記したような高密度が得られている。
【0011】
なお、触媒を基体の表面に形成する前に、基体の表面にアルミニウムまたはアルミニウム合金の下地層を形成することが好ましい。この場合、同じ方向に沿って配向している配向性を有する多数のカーボンナノチューブを得るのに有利である。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係るカーボンナノチューブ複合体は、多数のカーボンナノチューブを同じ方向に揃えつつ高密度で生成させた構造をもつカーボンナノチューブ集合体を有する。カーボンナノチューブ集合体は、同じ方向に沿って配向している配向性を有する多数のカーボンナノチューブを並設させつつ集合させて形成されており、カーボンナノチューブ集合体を成長させたままの状態(カーボンナノチューブ集合体を成長完了させた時点)において、密度が70mg/cm以上と高密度化されている。このようにカーボンナノチューブ集合体が高密度化されているため、表面積を飛躍的に増加できる。更に、多数のカーボンナノチューブがアトランダムに配向しているのではなく、基本的には同じ方向に揃っているため、カーボンナノチューブの長さ方向に沿ったガス等の流体の拡散性と、カーボンナノチューブの長さ方向に沿ったカーボン表面の高露出性(表面の高利用率化)と、カーボンナノチューブの長さ方向に沿った方向に電解質物質等の物質を含浸させる高含浸性(複合化による高機能化)と、カーボンナノチューブの長さ方向に沿った電気伝導性および熱伝導性とをカーボンナノチューブ集合体により確保できる。
【0013】
本発明に係るカーボンナノチューブ複合体によれば、例えば、燃料電池に使用される炭素材料、キャパシタ、リチウム電池、二次電池、湿式太陽電池などの電極等に使用される炭素材料、産業機器の電極等に利用することができる。
【0014】
本発明方法によれば、制御昇温により基体の温度を適切に昇温でき、カーボンナノチューブ形成前において、または、カーボンナノチューブ形成初期において、基体の表面における触媒の凝集の抑制、触媒の安定化、基体の温度の安定化に貢献でき、カーボンナノチューブを高密度で成長させ得る。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】基体に形成されているカーボンナノチューブ集合体の概念を示す図である。
【図2】実施例1に係り、カーボンナノチューブ集合体を示すSEM写真である。
【図3】実施例1に係り、カーボンナノチューブ集合体を示すSEM写真である。
【図4】実施例2に係り、カーボンナノチューブ集合体を示すSEM写真である。
【図5】実施例2に係り、カーボンナノチューブ集合体を示すSEM写真である。
【図6】実施例2に係り、カーボンナノチューブ集合体を示すSEM写真である。
【図7】実施例2に係り、カーボンナノチューブ集合体を示すSEM写真である。
【図8】実施例3に係り、カーボンナノチューブ集合体を示すSEM写真である。
【図9】実施例4に係り、カーボンナノチューブ集合体を示すSEM写真である。
【図10】実施例6に係り、カーボンナノチューブ集合体を示すSEM写真である。
【図11】実施例6に係り、カーボンナノチューブ集合体を示すSEM写真である。
【図12】実施例7に係り、カーボンナノチューブ集合体を示すSEM写真である。
【図13】実施例7に係り、カーボンナノチューブ集合体を示すSEM写真である。
【図14】実施例9に係り、カーボンナノチューブ集合体を示すSEM写真である。
【図15】適用例1に係り、カーボンナノチューブ複合体を形成する過程を示す図である。
【図16】適用例2に係り、カーボンナノチューブ集合体を転写させてカーボンナノチューブ複合体を形成する過程を示す図である。
【図17】適用例3に係り、燃料電池を模式的に示す断面図である。
【図18】適用例4に係り、キャパシタを模式的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明でいうカーボンナノチューブ(CNT)は、多層カーボンナノチューブでも良いし、単層カーボンナノチューブでも良い。カーボンナノチューブはホーン状も含む。図1に概念図を示すように、カーボンナノチューブ複合体のカーボンナノチューブ集合体(1)は、基体(3)の表面(30)に搭載されている。カーボンナノチューブ集合体(1)は、基体(3)の表面(30)に対して立設する方向に沿って延びる垂直配向性を有する多数のカーボンナノチューブ(CNT)を並設させつつ束ねたカーボンナノチューブ束(2)を、基体(3)の平坦な表面(30)に対して垂直配向させつつ多数並設させて形成されている。カーボンナノチューブ集合体の密度は70mg/cm以上とされている。カーボンナノチューブの長さは50マイクロメートル以上にできる。
【0017】
カーボンナノチューブ集合体は、多数のカーボンナノチューブの前記配向性を高めつつ並設されたカーボンナノチューブの群で形成されている。ここで、1本のカーボンナノチューブの直径(多層カーボンナノチューブのときには多層カーボンナノチューブの直径、カーボンナノチューブの延設方向と直交する方向における寸法)をDとし、隣接するカーボンナノチューブ同士間の隙間(カーボンナノチューブの延設方向と直交する方向における隙間)をtとすると、高頻度で、tはDよりも小さく設定されている(D>t)ことが好ましい。カーボンナノチューブ集合体を高密度化できるためである。例えば、D/t=2〜200の範囲内、2〜100の範囲内、2〜50の範囲内、2〜10の範囲内にできる。但しこれらに限定されるものではない。カーボンナノチューブ集合体の高密度化に有利となる。
【0018】
この場合、後述する実施例で示すように、触媒を、鉄−チタン系合金、鉄−バナジウム等に代表される鉄合金系とし、更に制御昇温すれば、カーボンナノチューブ集合体の密度としては、70mg/cm以上、90mg/cm以上の高密度化が可能である。加熱時における触媒の凝集が抑制されるためと考えられる。この密度は、カーボンナノチューブ集合体を成長させたままの状態(カーボンナノチューブ集合体を成長完了させた時点)における密度に相当する。後述する実施例における密度についても同様である。
【0019】
更に後述する表1で示すように、触媒を鉄合金系とし、カーボンナノチューブを形成する際に基体(基板)を適切に温度制御させる制御昇温を実施すれば、圧密化二次加工を実施せずに、カーボンナノチューブ集合体の密度を100mg/cm以上、120mg/cm以上、150mg/cm以上が可能である。更に、基体の材料種により200mg/cm以上、300mg/cm以上、450mg/cm以上も可能である。更に1000mg/cm以上、1500mg/cm以上、1800mg/cm以上も可能である。高い密度にできるのは、主として、加熱時において基体上の触媒の凝集が抑制され、触媒の微細分散性が確保され、カーボンナノチューブの高い密集性を確保できるためと考えられる。この場合、カーボンナノチューブ集合体を成長させた後に、圧密化二次加工を実施せずに、密度が70mg/cm以上とされて高密度化されている。圧密化二次加工としては、機械的に外部力によりカーボンナノチューブを機械的に圧縮させる操作、カーボンナノチューブを液体に晒した後に乾燥させる操作などが挙げられる。
【0020】
基体は金属またはシリコンで形成されていることが好ましい。基体を構成する金属は、チタン、チタン合金、鉄、鉄合金、銅、銅合金、ニッケル、ニッケル合金、アルミニウム、アルミニウム合金、シリコンのうちの少なくとも1種とすることができる。鉄合金は、鉄−クロム系合金、鉄−ニッケル系合金、鉄−クロム−ニッケル系合金が例示される。基体が金属であれば、基体の集電性および導電性を利用できる。
【0021】
カーボンナノチューブと基体との間には触媒が存在していることが好ましい。上記した触媒としては、通常、遷移金属が用いられる。特に、V〜VIII族の金属が好ましい。カーボンナノチューブ集合体の密度の目標値等に応じて、例えば、鉄、ニッケル、コバルト、モリブデン、銅、クロム、バナジウム、ニッケルバナジウム、チタン、白金、パラジウム、ロジウム、ルテニウム、銀、金、これらの合金が例示される。触媒は単体触媒である場合よりも合金である場合には、CVD処理等の加熱時における触媒粒子の凝集が抑制され、触媒粒子の微細化に有利であり、カーボンナノチューブ集合体の高密度化に有利であると考えられている。カーボンナノチューブ集合体の高密度化を図るには、基体と触媒との間に下地層を形成することが好ましい。従って、基体に下地層を積層させた後に、その下地層に触媒を担持させることが好ましい。加熱時における触媒粒子の凝集化を抑制できるためと考えられる。下地層は例えばアルミニウムまたはアルミニウム合金の薄膜で形成できる。下地層の厚みは5〜100ナノメートル、10〜40ナノメートルにできる。このようにカーボンナノチューブ集合体と基体との間には、触媒が存在しており、更に、触媒と基体との間にはアルミニウムまたはアルミニウム合金で形成された下地層が存在することが好ましい。
【0022】
触媒はA−B系の合金であることが好ましい。ここで、Aは鉄、コバルト、ニッケルのうちの少なくとも1種であり、Bはチタン、バナジウム、ジルコニウム、ニオブ、ハフニウム、タンタルのうちの少なくとも1種であることが好ましい。この場合、鉄−チタン系合金、鉄−バナジウム系合金のうちの少なくとも1種を含むことが好ましい。更に、コバルト−チタン系合金、コバルト−バナジウム系合金、ニッケル−チタン系合金、ニッケル−バナジウム系合金、鉄−ジルコニウム系合金、鉄−ニオブ系合金が挙げられる。鉄−チタン系合金の場合には、質量比でチタンが5%以上、10%以上、20%以上、40%以上(残部は実質的に鉄)、50%以下が例示される。鉄−バナジウム系合金の場合には、質量比でバナジウムが5%以上、10%以上、20%以上、40%以上(残部は実質的に鉄)、50%以下が例示される。触媒が合金であるときには、単体金属の触媒に比較して、加熱時における凝集が抑制され、カーボンナノチューブの密集化に有利である。
【0023】
本発明に係るカーボンナノチューブ複合体の製造方法は、触媒を基体の表面に形成する工程と、触媒を有する基体の表面にCVD処理によりカーボンナノチューブ形成反応を発生させてカーボンナノチューブ集合体を形成するカーボンナノチューブ形成工程とを順に実施することにより、様相1に係るカーボンナノチューブ複合体を製造する。ここで、カーボンナノチューブ形成工程は、カーボンナノチューブ形成前に、基体を常温域から400〜600℃範囲内の1次目標温度T1に1次昇温させ、その後、炭素原料ガスを導入しつつ、600〜1500℃範囲内の2次目標温度T2に5〜100℃/分にて昇温または2次目標温度T2に温度維持させる制御昇温することにより、触媒を有する基体の表面にCVD処理によりカーボンナノチューブ形成反応を発生させてカーボンナノチューブ集合体を成長させる。1次目標温度T1は、基体の表面において触媒粒子の凝集が起こりにくく、かつカーボンナノチューブ形成が開始する400〜650℃、400〜600℃であることが好ましい。2次目標温度T2はカーボンナノチューブ成長速度が向上する600〜1500℃、600〜800℃であることが好ましい。
【0024】
このように常温から1次目標温度T1まで基体を速やかに昇温させ、且つ、原料ガスの導入時から反応終了までゆっくりと1次目標温度T1から2次目標温度T2まで昇温させつつ、カーボンナノチューブを形成させることが好ましい。加熱に伴う触媒粒子の凝集化を抑制させるためと考えられる。カーボンナノチューブ集合体の高密度化には、基体において触媒粒子が細かく分散しており、触媒粒子の凝集化が少ない方が好ましいと考えられる。このように2次目標温度T2は1次目標温度T1よりも高温であるが、場合によっては、2次目標温度T2は1次目標温度T1と同じ温度であっても良い。
【0025】
ここで、カーボンナノチューブ形成前に、基体を常温域から1次目標温度T1(例えば600℃,400〜600℃)まで昇温速度120(120〜1000)℃/分で昇温させ、その後、炭素原料ガス(例えばアセチレン、エチレンなどの炭化水素系ガス)を導入することができる。更に、狙いの2次目標温度T2として、例えば600〜650℃(600〜1500℃)を採用し、1次目標温度T1から2次目標温度T2までをゆっくりとした昇温速度(例えば、3〜5℃/分,例えば5〜10℃/分、5〜20℃/分、5〜30℃/分)にて制御昇温することが好ましい。これにより、基体の表面において触媒凝集が起こりにくく、触媒を有する基体の表面にCVD処理によりカーボンナノチューブ形成反応を発生させ、高密度化させたカーボンナノチューブ集合体を成長させることができる。場合によっては、T1〜T2間における昇温速度は5〜50℃/分、5〜100℃/分でも良い。
【0026】
上記した本発明方法によれば、基体を常温域から400〜600℃範囲内の1次目標温度T1に1次昇温させる昇温速度をV1とし、600〜1500℃範囲内の2次目標温度T2(T2≧T1)に2次昇温させる昇温速度をV2とするとき、V1>V2の関係とされていることが好ましい。原料ガスを導入する前に基体を速やかに昇温させて、CVD処理前における触媒同士の拡散反応を抑え、ひいては基体の表面における触媒の凝集の抑制を図り、触媒の安定化を図るためである。このように原料ガスの導入時から反応終了までゆっくりと昇温させながらカーボンナノチューブを形成させる。
【0027】
ところで、上記したようにカーボンナノチューブを高密度化できる理由は、必ずしも明確ではないものの、上記したように制御昇温すれば、制御昇温しないときに比較して、カーボンナノチューブの形成に先立ち、基体の表面に設けられている触媒粒子の凝集抑制、基体の温度の安定化、触媒の安定化を図り得るためと推察される。即ち、(i)カーボンナノチューブの原料ガスを導入する前に基体を1次目標温度T1まで高速昇温させること、(ii)カーボンナノチューブ形成の形成前、またはカーボンナノチューブ形成初期において基体の温度を比較的低温に維持させつつゆっくりと昇温することによって、高温化に起因する触媒の凝集を防ぐ、もしくは、基体の温度不均一による触媒の活性度のばらつきを低減する効果があると推測される。
【0028】
上記した事情を考慮し、例えば次の(a)〜(d)のような制御昇温が考えられる。
(a)基体の最終到達温度が600℃の場合
(i)1次目標温度T1が400℃、2次目標温度T2が600℃
(ii)1次目標温度T1が500℃、2次目標温度T2が600℃
(iii)1次目標温度T1が550℃、2次目標温度T2が600℃
(iv)1次目標温度T1が600℃、2次目標温度T2が600℃
(b)最終到達温度が650℃の場合
(i)1次目標温度T1が450℃、2次目標温度T2が650℃
(ii)1次目標温度T1が500℃、2次目標温度T2が650℃
(iii)1次目標温度T1が550℃、2次目標温度T2が650℃
(iv)1次目標温度T1が600℃、2次目標温度T2が650℃
(c)最終到達温度が700℃の場合
(i)1次目標温度T1が500℃、2次目標温度T2が700℃
(ii)1次目標温度T1が550℃、2次目標温度T2が700℃
(iii)1次目標温度T1が600℃、2次目標温度T2が700℃
(d)最終到達温度が800℃の場合
(i)1次目標温度T1が500℃、2次目標温度T2が800℃
(ii)1次目標温度T1が550℃、2次目標温度T2が800℃
(iii)1次目標温度T1が600℃、2次目標温度T2が800℃
上記したように常温から1次目標温度T1まで基体を高速で昇温させることによりCVD処理前の基体表面における触媒の凝集を抑え、且つ、原料ガスの導入時から反応終了まで1次目標温度T1から2次目標温度T2までゆっとりと昇温させながら、カーボンナノチューブを形成させることが好ましい。触媒粒子の加熱に伴う凝集化を抑制させるためと考えられる。従って、基体を常温域から400〜600℃範囲内の1次目標温度T1に1次昇温させる昇温速度をV1とし、600〜1500℃範囲内の2次目標温度T2(T2≧T1)に2次昇温させる昇温速度をV2とするとき、V1>V2の関係とされていることが好ましい。V1/V2=2〜350の範囲内が例示される。
【0029】
本発明によれば、基体は金属で形成されていることが好ましい。基体を構成する金属は、チタン、チタン合金、鉄、鉄合金(ステンレス鋼も含む)、銅、銅合金、ニッケル、ニッケル合金、アルミニウム、アルミニウム合金、シリコンのうちの少なくとも1種とすることができる。導電性を有する基体にカーボンナノチューブ集合体を直接形成できれば、コスト低減、カーボンナノチューブの高密度化を図りつつ、基体とカーボンナノチューブ集合体との界面における電気抵抗等を低減させるのに貢献できる。特に、試験によれば、ステンレス鋼(SUS)を母材とする基体上ではカーボンナノチューブ集合体の高密度化が図れる。
【0030】
カーボンナノチューブ複合体は、カーボンナノチューブ集合体を成長させた基体と共に使用しても良いし、或いは、カーボンナノチューブ集合体を成長させた基体から離脱させた状態で使用しても良い。製造方法において、触媒はA−B系の合金であることが好ましい。触媒が単体金属である場合に比較して、触媒が合金である方が、加熱時において基体上の触媒の凝集を抑制させるのに有利であると考えられる。ここで、Aは鉄、コバルト、ニッケルのうちの少なくとも1種であり、Bはチタン、バナジウム、ジルコニウム、ニオブ、ハフニウム、タンタルのうちの少なくとも1種であることが好ましい。この場合、鉄−チタン系合金、鉄−バナジウム系合金のうちの少なくとも1種を含むことが好ましい。更に、コバルト−チタン系合金、コバルト−バナジウム系合金、ニッケル−チタン系合金、ニッケル−バナジウム系合金、鉄−ジルコニウム系合金、鉄−ニオブ系合金のうちの少なくとも1種が挙げられる。カーボンナノチューブの高密度化のためには、基体上の触媒は凝集していない方が好ましい。触媒の粒子のサイズとしては、2〜100nmの範囲、2〜70nmの範囲、2〜40nmの範囲が例示される。
【0031】
カーボンナノチューブ形成反応においては、炭素源およびプロセス条件は特に限定されるものではない。カーボンナノチューブを形成させる炭素を供給させる炭素源として、アルカン、アルケン、アルキン等の脂肪族炭化水素、アルコール、エーチル等の脂肪族化合物、芳香族炭化水素等の芳香族化合物が挙げられる。従って、炭素源として、アルコール系の原料ガス、炭化水素系の原料ガスを用いるCVD法(CVD,プラズマCVD、リモートプラズマCVD法等)が例示される。アルコール系の原料ガスとしては、メチルアルコール、エチルアルコール、プロパノール、ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール等のガスが例示される。更に炭化水素系の原料ガスとしてはメタンガス、エタンガス、アセチレンガス、エチレンガス、プロパンガス等が例示される。容器内の圧力は100Pa〜0.1MPa程度にできる。
【0032】
以下、本発明の実施例を説明する。
【0033】
[実施例1]CNT/FeTi/Al/Ti,制御昇温有り
(基板)
本実施例では、触媒として、鉄−チタン合金の薄膜を使用した。更に、基体として機能する基板としてチタンを使用した。すなわち、基体として機能する基板は所定厚み(0.5ミリメートル)をなし、チタンで形成されている。基板の表面は研磨されており、基板の表面粗さはRaで5ナノメートルであった。
【0034】
(前処理,第1層)
前処理として、スパッタリング法により、アルミニウム薄膜の下地層(厚み:15ナノメートル)を第1層として基板の表面に形成した。この場合、アルゴンガスを用い、反応容器内の圧力を0.6Paとし、基板の温度を常温域(25℃)とし、スパッタリングを行った。
【0035】
(前処理,第21層)
更に、第1層の上に第2層を積層させる前の前処理として、基板の表面を撥水処理した。撥水処理液として、トルエン中にヘキサメチルオルガノシラザンを5体積%の濃度で配合したものを用いた。この場合、下地層を有する基板を大気中で撥水処理液に所定時間(30分間)浸漬させ、その後、基板を撥水処理液から引き上げ、自然乾燥させた。次に、大気中において、上記した基板をディップコーターによりコーティング液に30秒間浸漬した。コーティング液については、ヘキサン中に鉄−チタン合金粒子を分散させて形成した。鉄−チタン合金粒子については、平均粒径5.3nmであり、質量比で鉄80%,チタン20%であり、鉄含有量はチタン含有量よりも多かった。鉄−チタン合金粒子の平均粒径については、TEM観察により判定した。平均粒径は単純平均とした。コーティング液については、可視光度計(WPA社製:CO7500)にて波長680ナノメートルの測定条件で、吸光度が0.3となるように濃度調整した。鉄−チタン合金はカーボンナノチューブの高密度化に有利であると考えられる。その後、大気雰囲気において、常温下で、基板をコーティング液から3ミリメートル/分間の速度で引き上げた。その後、コーティング液が基板の表面に付着した状態で、その基板を引き上げ後、自然乾燥にてヘキサンを乾燥させた。これにより鉄−チタン合金の薄膜(厚み:30ナノメートル)を第2層として基板の下地層の上に形成した。第2層の厚みは下地層よりも厚かった。その後、カーボンナノチューブ形成方法を実施した。
【0036】
(カーボンナノチューブ形成方法)
一般的なCVD装置を用いてカーボンナノチューブを形成した。この場合、カーボンナノチューブの形成に先立ち、予め、基板の所定の温度まで制御しつつ昇温させた。昇温は、あらかじめ10Paに真空引きされた反応容器中にキャリヤガスとして窒素ガスを5000cc/分の流量で導入し、反応容器内の圧力を1×10Paに調整した状態において、基板の温度を常温域から600℃(1次目標温度T1)まで5分間で速やかに昇温させた。昇温速度は120℃/分であった。これにより基板上における触媒の凝集が抑制される。
【0037】
上記したように昇温させた後、基板温度600℃から650℃(2次目標温度T2)まで6分間で昇温させながら(1次目標温度T1から2次目標温度T2までの昇温速度:8.3℃/分間)、アセチレンと窒素とが混合した原料ガスを反応容器内に供給し、CVD処理を行った。このように原料ガスの導入時から反応終了までゆっくりと昇温させながらカーボンナノチューブを形成させる制御昇温を行った。
【0038】
原料ガスについては、アセチレンガス500cc/分を6分間導入した。これにより多数のカーボンナノチューブからなるカーボンナノチューブ集合体を、基板の表面の鉄−チタン合金の触媒の上に形成した。カーボンナノチューブの多くは多層であった。カーボンナノチューブの長さは140〜150マイクロメートル、平均直径は9.5ナノメートル、密度は130mg/cmであった。この密度は、カーボンナノチューブ集合体を成長させたままの状態(カーボンナノチューブ集合体を成長完了させた時点)における密度に相当する。
【0039】
図2および図3は、得られたカーボンナノチューブ集合体を示す。図2ではカーボンナノチューブの頂部と基板側の底部が視認される。図2および図3から理解できるように、基板の表面に立設する方向に沿って同じ方向に延びる垂直配向性を有する多数のカーボンナノチューブを並設させつつ集合させたカーボンナノチューブ束が多数、基板の表面に高密度で植毛状に形成されていた。図2および図3から理解できるように、カーボンナノチューブは基体の表面からほぼ垂直方向に配向していた。カーボンナノチューブ束も、基体の表面からほぼ垂直方向に配向していた。ここで、カーボンナノチューブ束とは、カーボンナノチューブの長さ方向と直交する方向に複数のカーボンナノチューブを並列させつつ束状に束ねた群の状態をいう。
【0040】
SEM観察を示す図2および図3から理解できるように、均一に高密度のカーボンナノチューブの集合体が形成されている。また、カーボンナノチューブ集合体が基板上に直接形成されているのでカーボンナノチューブと基板との境界における界面抵抗が低下し、電気抵抗が低下すると考えられる。更に、カーボンナノチューブ集合体が高密度であり導電パスが増加し、更に電気抵抗を低減できると考えられる。カーボンナノチューブ束Dbの直径は約20〜40マイクロメートルであり、カーボンナノチューブの長さは約140〜150マイクロメートルであった。
【0041】
上記したように本実施例によれば、カーボンナノチューブの形成にあたり、制御昇温すれば、上記した制御昇温しないときに比較して、カーボンナノチューブ集合体の高密度化に貢献できる。メカニズムは必ずしも明確ではないものの、基体の表面に設けられている触媒の凝集抑制、基体の温度の安定化、触媒の安定化を図り得るためと推察される。即ち、前述したように、(i)カーボンナノチューブの原料ガスを導入する前に基体を第1目標温度T1(カーボンナノチューブの形成を開始でき、且つ、触媒の凝集が抑制されている温度)まで高速昇温させること、(ii)カーボンナノチューブ形成の初期段階において基体の温度を第1目標温度T1から第2目標温度T2までゆっくりと昇温させつつ比較的低温に維持することによって、基板の高温化に起因する基体上の触媒の凝集を防ぐ、もしくは、温度不均一による触媒の活性度のばらつきを低減する効果があると推測される。TEM観察によれば、1本のカーボンナノチューブは、ほぼ同軸的に複数積層された多層構造であった。
【0042】
この細いカーボンナノチューブが高密度に敷き詰められたカーボンナノチューブの集合体の密度は、前述したように130mg/cmであり、高かった。この密度は、カーボンナノチューブ集合体を成長させたままの状態の密度(カーボンナノチューブ集合体を成長完了させた時点の密度)に相当する。換言すると、この密度は、特許文献4とは異なり、水への晒しおよび乾燥といった圧密化二次加工、あるいは、外部力でカーボンナノチューブを圧縮させるといった圧密化二次加工を経ていない値である。他の実施例についても同様である。
【0043】
カーボンナノチューブ集合体の電気抵抗は、測定荷重10kgf/cmにおいて0.68mΩ/cmであり、測定荷重40kgf/cmにおいて0.38mΩ/cmであった。なお、カーボンナノチューブ集合体が形成されていない基板(チタン)のみの電気抵抗は、測定荷重10kgf/cmにおいて58.64mΩ/cmであり、測定荷重40kgf/cmにおいて39.64mΩ/cmであり高かった。
【0044】
[実施例2]CNT/FeV/Al/SUS,制御昇温あり
(基板)
本実施例では、触媒として、鉄−バナジウム合金の薄膜を使用し、基板としてステンレス鋼を使用した。すなわち、基板は所定厚み(0.5ミリメートル)をなし、クロムおよびニッケルを含有する鉄合金であるステンレス鋼(JIS 304)で形成されていた。基板の表面は研磨されており、表面粗さはRaで5ナノメートルであった。
【0045】
(前処理,第1層)
前処理として、スパッタリング法により、アルミニウム薄膜の下地層(厚み:15ナノメートル)を第1層として基板の表面に形成した。この場合、アルゴンガスを用い、反応容器内の圧力を0.6Paとし、基板の温度を常温域(25℃)とした。
【0046】
(前処理,第2層)
更に、前処理として、基板の表面を撥水処理した。撥水処理液として、トルエン中にオルガノシラザンを5体積%の濃度で配合したものを用いた。撥水処理液に基板を所定時間(30分間)浸漬させ、その後、基板を撥水処理液から引き上げ、自然乾燥させた。次に、大気中において、上記した基板をディップコーターによりコーティング液に実施例1と同様に30秒間浸漬した。その後、大気雰囲気において、常温下で、基板をコーティング液から3ミリメートル/分間の速度で引き上げた。その後、コーティング液が基板の表面に付着した状態で、その基板を引き上げた後、自然乾燥にて基板のヘキサンを乾燥させた。これにより鉄−バナジウム合金の薄膜(厚み:20ナノメートル)を第2層として下地層の上に形成した。第2層の厚みは下地層よりも厚かった。鉄−バナジウム合金はカーボンナノチューブの高密度化に有利であると考えられる。コーティング液は、ヘキサン中に鉄−バナジウム合金粒子を分散させて形成した。鉄−バナジウム合金粒子については、平均粒径4.3nmであり、質量比で鉄85%,バナジウム15%であり、鉄の含有量はバナジウム含有量よりも多かった。コーティング液については、可視光度計(WPA社製:CO7500)にて波長680ナノメートルの測定条件で、吸光度が0.3となるように濃度調整した。
【0047】
(カーボンナノチューブ形成方法)
実施例1で用いたCVD装置を用いてカーボンナノチューブを形成した。この場合、実施例1と同様な制御昇温を実行した。制御昇温は、あらかじめ10Paに真空引きされた反応容器中にキャリヤガスとして窒素ガスを5000cc/分間の流量で導入し、反応容器内の圧力を1×10Paに調整した状態において、基板の温度を常温域から600℃まで5分間で速やかに昇温させた。昇温速度は120℃/分であった。その後、基板温度600℃から650℃まで6分間で昇温させながら(昇温速度:8.3℃/分)、アセチレンと窒素とが混合した原料ガスを反応容器内に供給した。このように原料ガスの導入時から反応終了までゆっくりと昇温させながらカーボンナノチューブを形成させる制御昇温を行った。原料ガスについては、アセチレンガス500cc/分を6分間導入した。これによりカーボンナノチューブからなるカーボンナノチューブ集合体を基板の表面の鉄−バナジウム合金の薄膜の上に形成した。
【0048】
図4および図5は、実施例2に係るSEM写真を示す。カーボンナノチューブ集合体は、多数のカーボンナノチューブが基板に対して垂直に配向する垂直配向性を高めつつ並設され、カーボンナノチューブが高密度化されていた。カーボンナノチューブの高さは50〜55マイクロメートルであった。ここで、SEM観察によれば、カーボンナノチューブ束の直径(カーボンナノチューブの延設方向と直交する方向における寸法)をDbとすると、多くの領域において、隣接するカーボンナノチューブ束同士の隙間(前記カーボンナノチューブの延設方向と直交する方向における隙間)を寸法Db以内とするように、カーボンナノチューブ束は隣り合っており、カーボンナノチューブ集合体が高密度化されていることが確認された。Db>tbの確率も高かった(図4,図5参照)。また、1本のカーボンナノチューブの平均直径は9.0nmであり、ほぼ同軸的に複数積層された多層構造である。カーボンナノチューブの長さ50〜55マイクロメートル、平均直径は9.0ナノメートル、密度は520mg/cmであった。この密度は、カーボンナノチューブ集合体を成長させたままの状態の密度(カーボンナノチューブ集合体を成長完了させた時点の密度)に相当する。
【0049】
また、1本の多層のカーボンナノチューブの直径をDとすると、隣接する多層カーボンナノチューブ同士は寸法D以内で隣り合っており、カーボンナノチューブ集合体が高密度化されている。すなわち、1本の多層のカーボンナノチューブの直径(カーボンナノチューブの延設方向と直交する方向における寸法)をDとし、隣接する多層のカーボンナノチューブ同士の隙間(カーボンナノチューブの延設方向と直交する方向における隙間)をtとするとき、多数箇所確認したところ、tはDよりも小さく設定されている確率が50%以上と高かった(D>t)。この細いカーボンナノチューブが高密度に敷き詰められたカーボンナノチューブ集合体の密度は520mg/cmであり、極めて高かった。この密度は、特許文献4と異なり、水への晒しおよび乾燥といった圧密化二次加工、圧縮等の圧密化二次加工を経ていない値である。
【0050】
[実施例3]CNT/FeTi/Al/Cu,制御昇温あり
(基板)
本実施例では、触媒として、鉄−チタン合金の薄膜を使用し、基板として銅を使用した。すなわち、基体として機能する基板は所定厚み(0.5ミリメートル)をなし、銅で形成されている。基板の表面は研磨されており、表面粗さはRaで5ナノメートルである。
【0051】
(前処理,第1層)
前処理として、スパッタリング法により、アルミニウム薄膜の下地層(厚み:15ナノメートル)を第1層として基板の表面に形成した。この場合、アルゴンガスを用い、反応容器内の圧力を0.6Paとし、基板の温度を常温域(25℃)とした。
【0052】
(前処理,第2層)
更に、前処理として、基板の表面を撥水処理した。実施例1と同様に、撥水処理液として、トルエン中にオルガノシラザンを5体積%の濃度で配合したものを用いた。撥水処理液に基板を所定時間(30分間)浸漬させ、その後、基板を撥水処理液から引き上げ、自然乾燥させた。次に、大気中において、上記した基板をディップコーターにより実施例1と同様にコーティング液に30秒間浸漬した。その後、大気雰囲気において、常温下で、基板をコーティング液から3ミリメートル/分間の速度で引き上げた。その後、コーティング処理液が基板の表面に付着した状態で、その基板を引き上げ後、自然乾燥にてヘキサンを乾燥させた。これにより鉄−チタン合金の薄膜(厚み:30ナノメートル)を第2層として下地層の上に形成した。コーティング液は、ヘキサン中に鉄−チタン合金粒子(平均粒径:5.3nm、質量比で鉄:80%,チタン:20%)を分散させて形成した。コーティング液については、可視光度計(WPA社製:CO7500)にて波長680ナノメートルの測定条件で、吸光度が0.3となるように濃度調整した。
【0053】
(カーボンナノチューブ形成方法)
前記したCVD装置を用いてカーボンナノチューブを形成した。この場合、実施例1と同様な制御昇温を実行した。制御昇温は、実施例1と同様に、あらかじめ10Paに真空引きされた反応容器中にキャリヤガスとして窒素ガスを5000cc/分間の流量で導入し、反応容器内の圧力を1×10Paに調整した状態において、基板の温度を常温域から600℃まで5分間で速やかに昇温させた。実施例1と同様に昇温速度は120℃/分であった。その後、実施例1と同様に、基板温度600℃から650℃まで6分間で昇温させながら(昇温速度8.3℃/分)、アセチレンと窒素とが混合した原料ガスを反応容器内に供給した。このように原料ガスの導入時から反応終了までゆっくりと昇温させながらカーボンナノチューブを形成させる制御昇温を行った。原料ガスについては、アセチレンガス500cc/分を6分間導入した。これによりカーボンナノチューブからなるカーボンナノチューブ集合体を基板の表面の鉄−チタン合金の薄膜の上に形成した。カーボンナノチューブ集合体は、多数のカーボンナノチューブの垂直配向性を高めつつ並設されたカーボンナノチューブで形成されていた。ここで、カーボンナノチューブ束の直径をDbとすると、多くの領域において(確認箇所のうち50%以上の頻度)、隣接するカーボンナノチューブ束間の隙間tbは寸法Db以内であり、カーボンナノチューブ集合体が高密度化されていることが確認された。また、1本のカーボンナノチューブの平均直径は8.7nmであり、ほぼ同軸的に複数積層された多層構造であった。密度は170mg/cmであった。この密度は、カーボンナノチューブ集合体を成長させたままの状態の密度(カーボンナノチューブ集合体を成長完了させた時点の密度)に相当する。
【0054】
また、カーボンナノチューブ束の直径(前記カーボンナノチューブの延設方向と直交する方向における寸法)をDbとし、隣接するカーボンナノチューブ束同士の隙間(前記カーボンナノチューブの延設方向と直交する方向における隙間)をtbとするとき、Db<tbであった(図8参照,確認箇所のうち50%以上の頻度)。
【0055】
この細いカーボンナノチューブが高密度に敷き詰められたカーボンナノチューブ集合体の密度は170mg/cmであり、高かった。この密度は、特許文献4と異なり、水への晒しおよび乾燥といった圧密化二次加工、外部力による圧縮といった圧密化二次加工を経ていない値である。カーボンナノチューブ集合体の電気抵抗は、測定荷重10kgf/cmにおいて1.44mΩ/cmであり低く、測定荷重40kgf/cmにおいて0.92mΩ/cmであり、低かった。なお、基板(銅)のみの電気抵抗は、測定荷重10kgf/cmにおいて0.27mΩ/cmであり、測定荷重40kgf/cmにおいて0.15mΩ/cmであった。
【0056】
[実施例4]CNT/FeV/Al/Cu,制御昇温あり
(基板)
本実施例では、触媒として、鉄−バナジウム合金の薄膜を使用し、基板として銅を使用した。すなわち、基体として機能する基板は所定厚み(0.5ミリメートル)をなし、銅で形成されている。基板の表面は研磨されており、表面粗さはRaで5ナノメートルである。
【0057】
(前処理,第1層)
前処理として、スパッタリング法により、アルミニウム薄膜の下地層(厚み:15ナノメートル)を第1層として基板の表面に形成した。この場合、アルゴンガスを用い、反応容器内の圧力を0.6Paとし、基板の温度を常温域(25℃)とした。
【0058】
(前処理,第2層)
更に、前処理として、基板の表面を撥水処理した。撥水処理液として、実施例1と同様に、トルエン中にオルガノシラザンを5体積%の濃度で配合したものを用いた。撥水処理液に基板を所定時間(30分間)浸漬させ、その後、基板を撥水処理液から引き上げ、自然乾燥させた。次に、大気中において、実施例1と同様に、上記した基板をディップコーターによりコーティング液に30秒間浸漬した。その後、大気雰囲気において、常温下で、基板をコーティング液から3ミリメートル/分間の速度で引き上げた。その後、コーティング処理液が基板の表面に付着した状態で、その基板を引き上げ後、自然乾燥にて基板上のヘキサンを乾燥させた。これにより鉄−バナジウム合金の薄膜(厚み:20ナノメートル)を第2層として下地層の上に形成した。コーティング液は、ヘキサン中に鉄−バナジウム合金粒子(平均粒径:4.3nm、質量比で鉄:85%,バナジウム:15%)を分散させて形成した。コーティング液については、可視光度計(WPA社製:CO7500)にて波長680ナノメートルの測定条件で、吸光度が0.3となるように濃度調整した。
【0059】
(カーボンナノチューブ形成方法)
実施例1で用いたCVD装置を用いてカーボンナノチューブを形成した。この場合、予め、所定の温度までゆっくりと昇温させる制御昇温を実行した。制御昇温では、あらかじめ10Paに真空引きされた反応容器中にキャリヤガスとして窒素ガスを5000cc/分間の流量で導入し、反応容器内の圧力を1×10Paに調整した状態において、基板の温度を常温域から600℃まで5分間で速やかに昇温させた。実施例1と同様に昇温速度は120℃/分であった。その後、基板温度600℃から650℃まで6分間で昇温させながら(昇温速度:8.3℃/分間)、アセチレンと窒素とが混合した原料ガスを反応容器内に供給した。このように原料ガスの導入時から反応終了までゆっくりと昇温させながらカーボンナノチューブを形成させる制御昇温を行った。原料ガスについては、アセチレンガス500cc/分を6分間導入した。これによりカーボンナノチューブからなるカーボンナノチューブ集合体を基板の表面の鉄−バナジウム合金の薄膜の上に形成した。カーボンナノチューブ集合体は、多数のカーボンナノチューブの垂直配向性を高めつつ並設されたカーボンナノチューブの集合体が形成されていた。SEM観察によれば、カーボンナノチューブ束の直径をDbとすると、隣接するカーボンナノチューブ束は寸法Db以内で隣り合っており、Db>tbの部位も多数認められ、成長されたままの状態のカーボンナノチューブ集合体が高密度化されていることが確認された(図9参照)。また、1本のカーボンナノチューブの平均直径は6.7ナノメートルであり、ほぼ同軸的に複数積層された多層構造である。
【0060】
また、1本の多層のカーボンナノチューブの直径をDとすると、隣接する多層カーボンナノチューブ同士は寸法D以内で隣り合っており、カーボンナノチューブ集合体が高密度化されている。すなわち、1本の多層のカーボンナノチューブの直径(カーボンナノチューブの延設方向と直交する方向における寸法)をDとし、隣接する多層のカーボンナノチューブ同士の隙間(カーボンナノチューブの延設方向と直交する方向における隙間)をtとするとき、多数箇所確認したところ、tはDよりも小さく設定されている確率が50%以上と高かった(D>t)。この細いカーボンナノチューブが高密度に敷き詰められたカーボンナノチューブ集合体の密度は320mg/cmであり、極めて高かった(図9参照)。この密度は、カーボンナノチューブ集合体を成長させたままの状態の密度(カーボンナノチューブ集合体を成長完了させた時点の密度)に相当する。
【0061】
[実施例5]CNT/FeTi/Si,制御昇温なし
(基板)本実施例では、触媒として、鉄−チタン合金の薄膜を使用し、基板としてシリコンを使用した。すなわち、基体として機能する基板は所定厚み(0.5ミリメートル)をなし、銅で形成されている。基板の表面は研磨されており、表面粗さはRaで5ナノメートルであった。
【0062】
(前処理,第1層なし)
(前処理,第2層)スパッタ処理していないため前処理として、基板の表面を撥水処理した。撥水処理液として、トルエン中にオルガノシラザンを5体積%の濃度で配合したものを用いた。撥水処理液に基板を所定時間(30分間)浸漬させ、その後、基板を撥水処理液から引き上げ、自然乾燥させた。次に、大気中において、上記した基板をディップコーターによりコーティング液に実施例1と同様に30秒間浸漬した。その後、大気雰囲気において、常温下で、基板をコーティング液から3ミリメートル/分間の速度で引き上げた。その後、コーティング処理液が基板の表面に付着した状態で、その基板を引き上げ後、自然乾燥にて基板上のヘキサンを乾燥させた。これにより鉄−チタン合金の薄膜(厚み:30ナノメートル)を第2層として下地層の上に形成した。コーティング液は、ヘキサン中に鉄−チタン合金粒子(平均粒径:5.3nm、質量比で鉄:80%,チタン:20%)を分散させて形成した。コーティング液については、可視光度計(WPA社製:CO7500)にて波長680ナノメートルの測定条件で、吸光度が0.3となるように濃度調整した。
【0063】
(カーボンナノチューブ形成方法)前記したCVD装置を用いてカーボンナノチューブを形成した。この場合、制御昇温は実行しなかった。即ち、実施例1と同様に、予め10Paに真空引きされた反応容器中にキャリヤガスとして窒素ガスを5000cc/分間の流量で導入し、基板の温度を常温域から600℃まで5分間で昇温させた。昇温速度は120℃/分であった。基板の温度を600℃に維持させつつ、アセチレンと窒素とが混合した原料ガスを反応容器内に供給した。原料ガスについては、アセチレンガス500cc/分を6分間導入した。これによりカーボンナノチューブからなるカーボンナノチューブ集合体を基板の表面の鉄−チタン合金の薄膜の上に形成した。カーボンナノチューブ集合体は、多層のカーボンナノチューブの垂直配向性を高めつつ束状に並設されたカーボンナノチューブで形成されていた。また、形成されたカーボンナノチューブ集合体の密度は80mg/cmであり、高かった。基本的には、Db<tbであった。制御昇温でなく触媒が凝集したためと推察される。
【0064】
[実施例6]CNT/FeTi/Si,制御昇温あり
(基板)
本実施例では、触媒として、鉄−チタン合金の薄膜を使用し、基板としてシリコンを使用した。すなわち、基体として機能する基板は所定厚み(0.5ミリメートル)をなし、銅で形成されている。基板の表面は研磨されており、表面粗さはRaで5ナノメートルであった。
【0065】
(前処理,第1層なし)
(前処理,第2層)
前処理として、基板の表面を撥水処理した。実施例1と同様に、撥水処理液として、トルエン中にオルガノシラザンを5体積%の濃度で配合したものを用いた。撥水処理液に基板を所定時間(30分間)浸漬させ、その後、基板を撥水処理液から引き上げ、自然乾燥させた。
【0066】
次に、実施例1と同様に、大気中において、上記した基板をディップコーターによりコーティング液に30秒間浸漬した。その後、大気雰囲気において、常温下で、基板をコーティング液から3ミリメートル/分間の速度で引き上げた。その後、コーティング処理液が基板の表面に付着した状態で、自然乾燥にて基板上のヘキサンを乾燥させた。これにより鉄−チタン合金の薄膜(厚み:30ナノメートル)を第2層として下地層の上に形成した。コーティング液は、ヘキサン中に鉄−チタン合金粒子(平均粒径:5.3nm、質量比で鉄:80%,チタン:20%)を分散させて形成した。コーティング液については、可視光度計(WPA社製:CO7500)にて波長680ナノメートルの測定条件で、吸光度が0.3となるように濃度調整した。
【0067】
(カーボンナノチューブ形成方法)前記したCVD装置を用いてカーボンナノチューブを形成した。この場合、実施例1と同様な制御昇温を実行した。この場合、あらかじめ10Paに真空引きされた反応容器中にキャリヤガスとして窒素ガスを5000cc/分間の流量で導入し、反応容器内の圧力を1×10Paに調整した状態において、基板の温度を常温域から600℃まで5分間で昇温させた。昇温速度は120℃/分であった。その後、基板温度600℃から650℃まで6分間で昇温させながら(昇温速度:8.3℃/分間)、アセチレンと窒素とが混合した原料ガスを反応容器内に供給した。原料ガスについては、アセチレンガス500cc/分を6分間導入した。これによりカーボンナノチューブからなるカーボンナノチューブ集合体を基板の表面の鉄−チタン合金の薄膜の上に形成した(図10,図11参照)。図10は、実施例10に係るSEM写真を示す。図10から理解できるように、カーボンナノチューブ集合体は、多層のカーボンナノチューブが基板に対して垂直配向性を高めつつ高密度に並設されていた。形成されたカーボンナノチューブ集合体の密度は110mg/cmであり、高かった。
【0068】
[比較例1]CNT/Fe/Al/Ti,制御昇温なし
比較例は基本的には実施例1(基板:チタン)と同様な条件で行った。比較例1では、第2層として、鉄−チタン合金ではなく、鉄の薄膜(厚み:20ナノメートル)を使用した。第1層としてのアルミニウムの下地層(厚み:15ナノメートル)は使用されていた。更にカーボンナノチューブの形成にあたり、実施例1に係る制御昇温は実行しなかった。すなわち、基板の温度を常温域から600℃まで20分間で昇温させた。昇温速度は30℃/分であった。基板としてチタンを使用した。比較例1において、形成されたカーボンナノチューブ集合体の密度は14mg/cmであり、かなり少なかった。その理由としては、Fe単独触媒の上、制御昇温ではなく、触媒の凝集が進行しているためと考えられる。カーボンナノチューブ集合体の電気抵抗は、測定荷重10kgf/cmにおいて0.80mΩ/cmであり、測定荷重40kgf/cmにおいて0.48mΩ/cmであった。基板の材質を共にチタンとする比較例1と実施例1との比較から理解できるように、鉄−チタン合金の触媒が採用されていること、制御昇温が実行されていることが、カーボンナノチューブ集合体の高密度化において有効であると推定される。
【0069】
[比較例2]CNT/Fe/Al/Si,制御昇温なし
比較例は基本的には実施例5,6(基板:シリコン)と同様な条件で行った。比較例2では、触媒として、鉄−チタン合金ではなく、鉄の薄膜(厚み:20ナノメートル)を使用した。第1層としてのアルミニウムの下地層(厚み:15ナノメートル)は使用されていた。更にカーボンナノチューブの形成にあたり、実施例1に係る制御昇温は実行しなかった。昇温速度は30℃/分であった。すなわち、基板の温度を常温域から600℃まで20分間で昇温させた。基板としてシリコンを使用した。形成されたカーボンナノチューブ集合体の密度は13mg/cmであり、かなり少なかった。基板をシリコンとする比較例2と実施例5,6との比較から理解できるように、鉄−チタン合金の薄膜が採用されていること、カーボンナノチューブ集合体の高密度化において有効であると推定される。更に、制御昇温を併用すれば、カーボンナノチューブ集合体の更なる高密度化において有効であると推定される。
【0070】
[比較例3]活性炭/導電性接着材/Ti,制御昇温なし
比較例3によれば、実施例1と同種の基板(チタン)の表面に活性炭液を塗布し、乾燥固化させることにより活性炭層を形成した。活性炭(クレハ製MT2005-2)、ケッチェンブラック、バインダー(クレハ製KFポリマー♯1100)をそれぞれ質量比8:1:1で混合して混合物を形成した。その後、その混合物と、N-メチル2ピロリドンとを3:7の質量比で配合した。これを自動乳鉢で20分間混練した後、超音波分散器にて10分間分散し、メジアン径10μmの分散液が得られた。この分散液をチタン基板にアプリケータを用いて塗布後、130℃、10分間大気中で乾燥させた。比較例3についても同様に電気抵抗を求めた。この場合、活性炭層および基板の電気抵抗は、測定荷重10kgf/cmにおいて54.80mΩ/cmであり、測定荷重40kgf/cmにおいて38.97mΩ/cmであり、電気抵抗は高かった。
【0071】
[実施例7]CNT/FeTi/Al/SUS,水蒸気添加,制御昇温あり
(基板)
本実施例では、触媒として、鉄−チタン合金の薄膜を使用し、基板としてSUS304(鉄−クロム合金,厚み0.5ミリメートル)を使用した。基板の表面は研磨されており、表面粗さはRaで5ナノメートルであった。
【0072】
(前処理,第1層)
前処理として、スパッタリング法により、アルミニウム薄膜の下地層(厚み:15ナノメートル)を第1層として基板の表面に形成した。この場合、アルゴンガスを用い、反応容器内の圧力を0.6Paとし、基板の温度を常温域(25℃)とした。
【0073】
(前処理,第2層)
更に、前処理として、基板の表面を撥水処理した。撥水処理液として、実施例1と同様に、トルエン中にオルガノシラザンを5体積%の濃度で配合したものを用いた。撥水処理液に基板を所定時間(30分間)浸漬させ、その後、基板を撥水処理液から引き上げ、自然乾燥させた。次に、大気中において、実施例1と同様に、上記した基板をディップコーターによりコーティング液に30秒間浸漬した。その後、大気雰囲気において、常温下で、基板をコーティング液から3ミリメートル/分間の速度で引き上げた。その後、コーティング処理液が基板の表面に付着した状態で、その基板を引き上げ後、自然乾燥にて基板上のヘキサンを乾燥させた。これにより鉄−チタン合金の薄膜(厚み:30ナノメートル)を第2層として下地層の上に形成した。コーティング液は、ヘキサン中に鉄−チタン合金粒子(平均粒径:5.3nm、質量比で鉄:80%,チタン:20%)を分散させて形成した。コーティング液については、可視光度計(WPA社製:CO7500)にて波長680ナノメートルの測定条件で、吸光度が0.3となるように濃度調整した。
【0074】
(カーボンナノチューブ形成方法)
実施例1で用いたCVD装置を用いてカーボンナノチューブを形成した。この場合、予め、所定の温度までゆっくりと昇温させる制御昇温を実行した。制御昇温では、あらかじめ10Paに真空引きされた反応容器中にキャリヤガスとして窒素ガスを5000cc/分間の流量で導入し、反応容器内の圧力を1×10Paに調整した。この状態において、基板の温度を常温域から700℃まで5分間で速やかに昇温させた。昇温速度は実施例1よりも速く140℃/分であった。700℃に昇温させた後、窒素ガスに加えて、炭素源となるアセチレンガス500cc/分と水蒸気1cc/分とが混合した原料ガスを、反応容器内に6分間導入しながら、基板温度を700℃から730℃まで6分間でゆっくりと昇温させた(昇温速度:5℃/分間)。これによりカーボンナノチューブからなるカーボンナノチューブ集合体(図12,図13参照)を基板の表面の鉄−チタン合金の薄膜の上に形成した。カーボンナノチューブ集合体は、多数のカーボンナノチューブの垂直配向性を高めつつ並設されたカーボンナノチューブの集合体が形成されていた。SEM観察によれば、カーボンナノチューブ束の直径をDbとすると、隣接するカーボンナノチューブ束は寸法Db以内で隣り合っており、カーボンナノチューブ集合体が高密度化されていることが確認された(確認箇所のうち60%以上の頻度)。また、1本のカーボンナノチューブの長さは10〜30マイクロメートル、平均直径は25ナノメートルであった。
【0075】
また、1本の多層のカーボンナノチューブの直径をDとすると、隣接する多層カーボンナノチューブ同士は寸法D以内で隣り合っており、D>tの部位が多数認められた(図12,図13参照,確認箇所のうち60%以上の頻度)。このようにカーボンナノチューブは密集しており高密度化されている。すなわち、1本の多層のカーボンナノチューブの直径(カーボンナノチューブの延設方向と直交する方向における寸法)をDとし、隣接する多層のカーボンナノチューブ同士の隙間(カーボンナノチューブの延設方向と直交する方向における隙間)をtとするとき、多数箇所確認したところ、tはDよりも小さく設定されている確率が50%以上と高かった(D>t,図12および図13参照)。この細いカーボンナノチューブが高密度に敷き詰められたカーボンナノチューブ集合体の密度は1720mg/cmであり、極めて高かった。
【0076】
本実施例によれば、水蒸気を原料ガスに添加した主たる理由は次のようである。即ち、CVD処理時において基板上の種触媒付近に非晶質のアモルファスカーボンが生成すると、カーボンナノチューブを形成させる反応が制限され、カーボンナノチューブが成長しにくいおそれがある。そこで、原料ガスが水蒸気(HO)を含めば、酸素を含む酸化性気味の雰囲気を形成させれば、カーボンナノチューブ形成を制限させるアモルファスカーボンを酸化させて消失させることができる。これと同時に触媒の酸化が起こり、触媒間の活性度が均等化したために、カーボンナノチューブが形成されない触媒が少なくなり、結果として本数密度の高いカーボンナノチューブが得られたと考える。
【0077】
[実施例8]CNT/FeTi/Al/SUS,水蒸気+水素添加,制御昇温あり
(基板)
本実施例では、触媒として、鉄−チタン合金の薄膜を使用し、基板としてSUS304(鉄−クロム合金,厚み0.5ミリメートル)を使用した。基板の表面は研磨されており、表面粗さはRaで5ナノメートルであった。
【0078】
(前処理,第1層)
前処理として、スパッタリング法により、アルミニウム薄膜の下地層(厚み:15ナノメートル)を第1層として基板の表面に形成した。この場合、アルゴンガスを用い、反応容器内の圧力を0.6Paとし、基板の温度を常温域(25℃)とした。
【0079】
(前処理,第2層)
更に、前処理として、基板の表面を撥水処理した。撥水処理液として、実施例1と同様に、トルエン中にオルガノシラザンを5体積%の濃度で配合したものを用いた。撥水処理液に基板を所定時間(30分間)浸漬させ、その後、基板を撥水処理液から3ミリメートル/分間で引き上げ、自然乾燥させた。次に、大気中において、実施例1と同様に、上記した基板をディップコーターによりコーティング液に30秒間浸漬した。その後、大気雰囲気において、常温下で、基板をコーティング液から3ミリメートル/分間の速度で引き上げた。このようにコーティング処理液が基板の表面に付着した状態で、その基板を引き上げ後、自然乾燥にて基板上のヘキサンを乾燥させた。これにより鉄−チタン合金の薄膜(厚み:30ナノメートル)を第2層として下地層の上に形成した。コーティング液は、ヘキサン中に鉄−チタン合金粒子(平均粒径:5.3nm、質量比で鉄:80%,チタン:20%)を分散させて形成した。コーティング液については、可視光度計(WPA社製:CO7500)にて波長680ナノメートルの測定条件で、吸光度が0.3となるように濃度調整した。
【0080】
(カーボンナノチューブ形成方法)
実施例1で用いたCVD装置を用いてカーボンナノチューブを形成した。この場合、予め、所定の温度までゆっくりと昇温させる制御昇温を実行した。制御昇温では、あらかじめ10Paに真空引きされた反応容器中に、キャリヤガスとしての窒素ガスを2000cc/分間と水素ガス3000cc/分間とが混合した混合ガスを導入し、反応容器内の圧力を1×10Paに調整した。この状態において、基板の温度を常温域から700℃まで5分間で速やかに昇温させた。昇温速度は実施例1よりも速く140℃/分であった。700℃に昇温させた後、キャリヤガスに加えて、炭素源となるアセチレンガス500cc/分と水蒸気1cc/分とが混合した原料ガスを、反応容器内に6分間導入しながら、基板温度を700℃から730℃まで6分間でゆっくりと昇温させた(昇温速度:5℃/分間)。これによりカーボンナノチューブからなるカーボンナノチューブ集合体を基板の表面の鉄−チタン合金の触媒の上に形成した。カーボンナノチューブ集合体は、多数のカーボンナノチューブの垂直配向性を高めつつ並設されたカーボンナノチューブの集合体が形成されていた。SEM観察によれば、カーボンナノチューブ束の直径をDbとすると、隣接するカーボンナノチューブ束は寸法Db以内で隣り合っており、カーボンナノチューブ集合体が高密度化されていることが確認された(確認箇所のうち50%以上の頻度)。また、1本のカーボンナノチューブの長さは200〜250マイクロメートルとかなり長くなり、平均直径は11ナノメートルであった。
【0081】
また、1本の多層のカーボンナノチューブの直径をDとすると、実施例7と同様に、隣接する多層カーボンナノチューブ同士は寸法D以内で隣り合っており、D>tの部位が高頻度で多数認められた(確認箇所のうち50%以上の頻度)。このようにカーボンナノチューブ集合体は高密度化されている。この細いカーボンナノチューブが高密度に敷き詰められたカーボンナノチューブ集合体の密度は220mg/cmであり、高かった。
【0082】
本実施例によれば、原料ガスが水蒸気および水素ガスを含む理由としては、酸化雰囲気と還元性雰囲気との双方の混在を期待しているためである。基板上の触媒に酸化膜が生成されているおそれがあるため、水素ガスに基づく還元性雰囲気により酸化膜を取り除くことにより、触媒の活性化を高め、カーボンナノチューブの成長を促進させるためである。水蒸気を用いる理由は、実施例7の場合と同様である。
【0083】
[実施例9]CNT/FeTi/Al/SUS,水蒸気+水素添加+長時間CVD処理,制御昇温あり
(基板)
本実施例では、触媒として、鉄−チタン合金の薄膜を使用し、基板としてSUS304(鉄−クロム合金,厚み0.5ミリメートル)を使用した。基板の表面は研磨されており、表面粗さはRaで5ナノメートルであった。
【0084】
(前処理,第1層)
前処理として、スパッタリング法により、アルミニウム薄膜の下地層(厚み:15ナノメートル)を第1層として基板の表面に形成した。この場合、アルゴンガスを用い、反応容器内の圧力を0.6Paとし、基板の温度を常温域(25℃)とした。
【0085】
(前処理,第2層)
更に、前処理として、基板の表面を撥水処理した。撥水処理液として、実施例1と同様に、トルエン中にオルガノシラザンを5体積%の濃度で配合したものを用いた。撥水処理液に基板を所定時間(30分間)浸漬させ、その後、基板を撥水処理液から引き上げ、自然乾燥させた。次に、大気中において、実施例1と同様に、上記した基板をディップコーターによりコーティング液に30分間浸漬した。その後、大気雰囲気において、常温下で、基板をコーティング液から3ミリメートル/分間の速度で引き上げた。このようにコーティング処理液が基板の表面に付着させた状態で、自然乾燥にて基板上のヘキサンを乾燥させた。これにより鉄−チタン合金の薄膜(厚み:30ナノメートル)を第2層として下地層の上に形成した。コーティング液は、ヘキサン中に鉄−チタン合金粒子(平均粒径:5.3nm、質量比で鉄:80%,チタン:20%)を分散させて形成した。コーティング液については、可視光度計(WPA社製:CO7500)にて波長680ナノメートルの測定条件で、吸光度が0.3となるように濃度調整した。
【0086】
(カーボンナノチューブ形成方法)
実施例1で用いたCVD装置を用いてカーボンナノチューブを形成した。この場合、予め、所定の温度までゆっくりと昇温させる制御昇温を実行した。制御昇温では、あらかじめ10Paに真空引きされた反応容器中に、キャリヤガスとしての窒素ガスを2000cc/分間と水素ガス3000cc/分間とが混合した混合ガスを導入し、反応容器内の圧力を1×10Paに調整した。この状態において、基板の温度を常温域から700℃まで5分間で速やかに昇温させた。昇温速度は実施例1よりも速く140℃/分であった。700℃に昇温させた後、キャリヤガスに加えて、炭素源となるアセチレンガス500cc/分と水蒸気1cc/分とが混合した原料ガスを、反応容器内に30分間と長時間にわたり導入しながら、基板温度を700℃から730℃まで30分間でゆっくりと昇温させた(昇温速度:1℃/分間)。これによりカーボンナノチューブからなるカーボンナノチューブ集合体を基板の表面の鉄−チタン合金の薄膜の上に形成した。カーボンナノチューブ集合体は、多数のカーボンナノチューブの垂直配向性を高めつつ並設されたカーボンナノチューブの集合体が形成されていた(図14)。
【0087】
SEM観察によれば、カーボンナノチューブ束の直径をDbとすると、実施例7と同様に、隣接するカーボンナノチューブ束は寸法Db以内で隣り合っており、カーボンナノチューブ集合体が高密度化されていることが確認された(確認箇所のうち60%以上の頻度)。また、1本のカーボンナノチューブの長さは310〜350マイクロメートルとかなり長かった。
【0088】
また、1本の多層のカーボンナノチューブの直径をDとすると、隣接する多層カーボンナノチューブ同士は寸法D以内で隣り合っており、D>tの部位が多数認められた(図14,確認箇所のうち60%以上の頻度)。このようにカーボンナノチューブ集合体は高密度化されている。この細いカーボンナノチューブが高密度に敷き詰められたカーボンナノチューブ集合体の密度は480mg/cmであり、高かった。カーボンナノチューブの目付量は16mg/cmであった。本実施例によれば、原料ガスを30分間という長時間導入させるのは、カーボンナノチューブの長さの成長、高表面積化を期待している。
【0089】
[カーボンナノチューブ集合体の密度の測定方法]
カーボンナノチューブ集合体の密度については次のように測定した。すなわち、カーボンナノチューブ集合体を基板の表面に形成させる前後の重量測定により、カーボンナノチューブ集合体それ自体の重量W[g]を測定した。基板のうちカーボンナノチューブ集合体を形成している面積Sで重量W[g]を除算した。これにより単位面積あたりのカーボンナノチューブ目付量W/S[g/cm]を算出した。更に、カーボンナノチューブ集合体の断面をSEM観察し、カーボンナノチューブ集合体の膜厚[μm]を測定した。これにより膜厚を考慮し、カーボンナノチューブ集合体の密度[g/cm]を算出した。
【0090】
[カーボンナノチューブ集合体の電気抵抗の測定方法]
まず、基板の表面の法線方向における電気抵抗を直流2端子法により測定し、これを基板の電気抵抗とした。この場合、測定電極治具としてステンレス鋼製の金メッキ品を使用した。更にサンプルとして、基体上に形成されているカーボンナノチューブ集合体を用い、カーボンナノチューブ集合体を基板と共に二つの測定電極治具で基板の厚み方向に挟んだ。この場合、測定面積は1cmとし、測定電流は3アンペアとした。測定時に荷重(10kgf/cm)をかけた状態で、電圧値[V]を測定し、電気抵抗[mΩ・cm]を算出した。更に、荷重(40kgf/cm)をかけた状態についても、電圧値[V]を測定し、カーボンナノチューブ/基体の積層体全体の法線方向の電気抵抗[mΩ・cm]を算出した。
【0091】
[表の説明]
表1〜表3は、本発明者が実行した各実施例および各試験例の結果を示す。カーボンナノチューブ集合体を形成する基板の材質としては、チタン、ステンレス鋼(SUS)、銅、シリコンが採用されている。表1はカーボンナノチューブ集合体の密度を示す。表1において、○印は密度が高くて良好であり、◎印は高密度であり、優秀であることを示す。表1から理解できるように、基板の材質として、チタン、ステンレス鋼(SUS)、銅、シリコンと変更したときであっても、触媒の材質を選択すれば、更に、上記した制御昇温を併用すれば、カーボンナノチューブ集合体の密度が70mg/cm以上と高密度化されることがわかる。
【0092】
表2は、測定荷重を10kgf/cmとしたときにおけるカーボンナノチューブ集合体の電気抵抗(基板およびカーボンナノチューブ集合体込みの電気抵抗)を示す。表3は、測定荷重を40kgf/cmとしたときにおけるカーボンナノチューブ集合体の電気抵抗(基板およびカーボンナノチューブ集合体込みの電気抵抗)を示す。表2,表3は、基板のみの電気抵抗、基板に積層させた活性炭層の電気抵抗も併せて示す。表2,表3から理解できるように、カーボンナノチューブ集合体の電気抵抗は低めに抑えられていた。
【0093】
なお、表2,表3から理解できるように、カーボンナノチューブ集合体が形成されていない基板(チタン)のみの電気抵抗は、測定荷重10kgf/cmにおいて58.64mΩ/cmであり、測定荷重40kgf/cmにおいて39.64mΩ/cmであり高かった。また、カーボンナノチューブ集合体が形成されていない基板(ステンレス鋼)のみの電気抵抗は、測定荷重10kgf/cmにおいて82.28mΩ/cmであり、測定荷重40kgf/cmにおいて38.45mΩ/cmであり高かった。更にまた、カーボンナノチューブ集合体が形成されていない基板(銅)のみの電気抵抗は、測定荷重10kgf/cmにおいて0.27mΩ/cmであり、測定荷重40kgf/cmにおいて0.15mΩ/cmであった。特にステンレス綱、チタンの場合、基板単体自体の電気抵抗よりも、カーボンナノチューブを基板に形成させた状態の電気抵抗は、著しく低減できた。これらの基板の表面には不動態化膜(絶縁の酸化膜)が形成されやすく、電気抵抗は非常に高い。しかし、(i)CVD処理中の還元雰囲気下による酸化膜の除去、更に(ii)基板へのカーボンナノチューブの直接形成によるカーボンナノチューブ/基板間の界面抵抗の低減により、積層体全体の抵抗を大きく低減化できているためと推測される。
【0094】
【表1】

【0095】
【表2】

【0096】
【表3】

【0097】
[適用例1]
図15は適用例1を示す。本例によれば、各実施例と同様に、基板10の表面10sに多数のカーボンナノチューブが垂直方向に配向しているカーボンナノチューブ集合体20を形成する。図15に示すように、カーボンナノチューブの基端部20bは、導電性を有する集電体として機能できるCu、Al、SUS、Tiのうちの少なくとも1種の金属を母材とする基板10の表面10sに保持されている。カーボンナノチューブは、基端部20bから先端部20eにかけて基板10の表面10sに対して垂直方向に沿って配向している。カーボンナノチューブ集合体20は高密度で密集しており、高表面積である上、集電体として機能できるCu、Al、SUS、Tiのうちの少なくとも1種の金属を母材とする基板10の表面10s上にカーボンナノチューブ集合体20が直接形成されているので、カーボンナノチューブ/集電体の界面抵抗が低くできる。
【0098】
[適用例2]
図16は適用例2を示す。本例によれば、各実施例と同様に、基体としての基板10の表面10sにカーボンナノチューブ集合体20を形成する。図16に示すように、カーボンナノチューブの基端部20bは、基板10の表面10sに保持されている。カーボンナノチューブは、基端部20bから先端部20eにかけて基板10の表面10sに対して垂直方向に沿って配向している。更に、転写用基体として機能する集電体30の表面30sに導電性接着剤を塗布した接着剤層32を積層させておく(場合によっては、接着剤を塗布しなくてもよい)。次に、集電体30のうち接着剤層32に、基板10のカーボンナノチューブ集合体20の先端部20eを押しつけて、基板10、カーボンナノチューブ集合体20,集電体30を順に積層させて積層体を形成する。次に、この積層体を加熱しつつ基板10の厚み方向において加圧して熱プレス転写を行う。これによりカーボンナノチューブ集合体20の先端部20eを集電体30のうち接着剤層32に転写させる。次に、基板10をカーボンナノチューブ集合体20の基端部20bから剥がす。これによりカーボンナノチューブ集合体20が集電体30(転写用基体)に搭載されたカーボンナノチューブ複合体40が形成される。カーボンナノチューブ複合体40によれば、カーボンナノチューブが高密度で密集しており、比表面積が大きい。
【0099】
[適用例3]
図17はシート型の高分子形の燃料電池の要部の断面を模式的に示す。燃料電池は、燃料極用の配流板101と、燃料極用のガス拡散層102と、燃料極用の触媒を有する触媒層103と、炭化フッ素系または炭化水素系の高分子材料で形成されたイオン伝導性(プロトン伝導性)を有する電解質膜104と、酸化剤極用の触媒を有する触媒層105と、酸化剤極用のガス拡散層106と、酸化剤極用の配流板107とを厚み方向に順に積層して形成されている。ガス拡散層102,106は、反応ガスを透過できるようにガス透過性を有する。電解質膜104はイオン伝導性を有するガラス系で形成しても良い。
【0100】
本発明に係るカーボンナノチューブ複合体は、ガス拡散層102および/またはガス拡散層106に使用されることができる。この場合、本発明に係るカーボンナノチューブ複合体は、大きな比表面積をもち、多孔質であるため、ガス透過性の増加、フラッディングの抑制、電気抵抗の低減、電気伝導性の向上を期待できる。フラッディングは、反応ガスの流路の流路抵抗が液相の水で塞がれて小さくなり、反応ガスの通過性が低下する現象をいう。
【0101】
場合によっては、本発明に係るカーボンナノチューブ複合体は、燃料極用の触媒層103および/または酸化剤極用の触媒層105において白金などの触媒を担持させつつ使用されることもできる。この場合、本発明に係るカーボンナノチューブ複合体は高い密度をもつため、大きな比表面積をもち、多孔質であるため、触媒担持効率を高めることができる。よって、生成水の排出性の調整および反応ガスの透過性の調整を期待することができ、よってフラッディングを抑制するのに有利である。更には白金粒子、ルテニウム粒子、白金・ルテニウム粒子等といった触媒粒子の利用率の向上を期待できる。
【0102】
更に場合によっては、カーボンナノチューブ複合体によりガス拡散層と触媒層の両方の機能を兼ね備えた電極構造の一体化が可能になる。カーボンナノチューブ複合体に白金、アイオノマー、必要に応じて撥水材を付与した一体化電極により、各々の部材に適用することによる前述の効果に加えて、更に拡散層/触媒層間の界面抵抗の低減、電極プロセスの低コスト化が図れる。なお燃料電池としてはシート型に限らず、チューブ型でも良い。
【0103】
[適用例4]
図18は集電用のキャパシタを模式的に示す。キャパシタは、本発明に係るカーボンナノチューブ複合体で形成された炭素系材料を基材とする多孔質の正極201と、本発明に係るカーボンナノチューブ複合体で形成された炭素系材料を基材とする多孔質の負極202と、正極201および負極202を仕切るセパレータ203とを有する。本発明に係るカーボンナノチューブ複合体は高い密度をもち、大きな比表面積をもち、更に多孔質であるため、正極201および/または負極202に使用されるとき、集電容量の増加を期待でき、キャパシタの能力を向上できる。ここで、負極202と正極201とを結ぶ仮想線PWに沿って、カーボンナノチューブの長さ方向が延設するようにカーボンナノチューブが配向されていることが好ましい。この場合、キャパシタ内に収容されている電解液がカーボンナノチューブの長さ方向に沿って流動し易い。よって正イオンおよび負イオンはカーボンナノチューブに沿って移動しやすいことが期待される。カーボンナノチューブ集合体が高密度であるため、キャパシタの出力密度(低抵抗)および容量密度(高表面積)を向上させることができる。
【0104】
(その他)
上記した実施例によれば、触媒として、鉄−チタン系合金、鉄−バナジウム系合金が使用されているが、これに限らず、コバルト−チタン系合金、コバルト−バナジウム系合金、ニッケル−チタン系合金、ニッケル−バナジウム系合金、鉄−ジルコニウム系合金、鉄−ニオブ系合金とすることもできる。本発明は上記した実施形態、実施例および適用例のみに限定されるものではなく、要旨を逸脱しない範囲内で適宜変更して実施可能である。
【産業上の利用可能性】
【0105】
本発明は例えば比表面積が大きいことが要請される炭素材料に利用することができる。例えば、燃料電池に使用される炭素材料、キャパシタ、二次電池、湿式太陽電池等の各種電池に使用される炭素材料、浄水器フィルターの炭素材料、ガス吸着の炭素材料、電子放出素子、電界放出型ディスプレイ等に利用することができる。
【符号の説明】
【0106】
102は燃料極用のガス拡散層、103は燃料極用の触媒層、104は電解質膜、105は酸化剤極用の触媒層、106は酸化剤極用のガス拡散層を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
同じ方向に沿って配向している配向性を有する多数のカーボンナノチューブを並設させつつ集合させて形成され、カーボンナノチューブ集合体を成長させたままの状態における密度が70mg/cm以上とされて高密度化されているカーボンナノチューブ集合体を具備するカーボンナノチューブ複合体。
【請求項2】
表面をもつ基体と、
前記基体の前記表面に搭載され前記表面に立設する方向に沿って同じ方向に配向している配向性を有する多数のカーボンナノチューブを並設させつつ集合させて形成され、カーボンナノチューブ集合体を成長させたままの状態における密度が70mg/cm以上とされて高密度化されているカーボンナノチューブ集合体とを具備するカーボンナノチューブ複合体。
【請求項3】
請求項1または2において、前記カーボンナノチューブ集合体は、多数の前記カーボンナノチューブの前記配向性を高めつつ並設されたカーボンナノチューブの群で形成されており、前記カーボンナノチューブの直径をDとすると、隣接する前記カーボンナノチューブ同士は寸法D以内で隣り合っているカーボンナノチューブ複合体。
【請求項4】
請求項1〜3のうちの一項において、前記カーボンナノチューブが束ねられた状態のカーボンナノチューブ束の直径(前記カーボンナノチューブの延設方向と直交する方向における寸法)をDbとし、隣接する前記カーボンナノチューブ束同士の隙間(前記カーボンナノチューブの延設方向と直交する方向における隙間)をtbとするとき、tbはDbよりも小さく設定されている(Db>tb)カーボンナノチューブ複合体。
【請求項5】
触媒を基体の表面に形成する工程と、
前記触媒を有する前記基体の前記表面にCVD処理によりカーボンナノチューブ形成反応を発生させてカーボンナノチューブ集合体を形成するカーボンナノチューブ形成工程とを順に実施することにより、請求項1〜5のうちのいずれかに係るカーボンナノチューブ複合体を製造する方法であって、
前記カーボンナノチューブ形成工程においては、カーボンナノチューブ形成前に、前記基体を常温域から400〜600℃範囲内の1次目標温度T1に1次昇温させ、その後、炭素原料ガスを導入し、600〜1500℃範囲内の2次目標温度T2(T2≧T1)に5〜100℃/分にて昇温させるかまたは温度維持させる制御昇温することにより、前記触媒を有する前記基体の表面にCVD処理によりカーボンナノチューブ形成反応を発生させて前記カーボンナノチューブ集合体を成長させるカーボンナノチューブ複合体の製造方法。
【請求項6】
請求項5において、前記基体を常温域から400〜600℃範囲内の1次目標温度T1に1次昇温させる昇温速度をV1とし、600〜1500℃範囲内の2次目標温度T2(T2≧T1)に2次昇温させる昇温速度をV2とするとき、V1>V2の関係とされているカーボンナノチューブ複合体の製造方法。

【図1】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2011−219343(P2011−219343A)
【公開日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−288385(P2010−288385)
【出願日】平成22年12月24日(2010.12.24)
【出願人】(000000011)アイシン精機株式会社 (5,421)
【Fターム(参考)】