説明

カーボンナノチューブ評価装置およびカーボンナノチューブ評価方法

【課題】本発明は、カーボンナノチューブ評価装置およびカーボンナノチューブ評価方法に関し、基板上に垂直配向したカーボンナノチューブを容易且つ高精度に評価することを目的とする。
【解決手段】本発明のカーボンナノチューブ評価装置1は、基板3上に垂直配向カーボンナノチューブ膜4を備えるカーボンナノチューブ付き基板2の試料にレーザー光を照射するレーザー光照射装置7と、試料を透過したレーザー光の強度を検出する透過光強度検出装置8と、試料を加熱する加熱装置6と、試料の温度を検出する温度センサ9とを備える。試料の温度を徐々に高くしていったときの試料による光吸収の変化を検出することにより、カーボンナノチューブを評価する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カーボンナノチューブ評価装置およびカーボンナノチューブ評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特開2006−64693号公報には、基板上に塗布したカーボンナノチューブ含有溶液を乾燥させて形成されたカーボンナノチューブ含有膜に対し、ラマン顕微分光法を適用することにより、カーボンナノチューブの直径やカイラリティなどを評価する技術が開示されている。
【0003】
【特許文献1】特開2006−64693号公報
【特許文献2】特開2005−241600号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来、カーボンナノチューブは、粉末状のものが利用されることが多かった。これに対し、近年、基板上に垂直に合成されたカーボンナノチューブからなる膜が注目されている。そして、このような垂直配向カーボンナノチューブ膜を、例えば燃料電池の電極層として利用することが検討されている。
【0005】
垂直配向カーボンナノチューブ膜を燃料電池の電極層として利用するような場合、カーボンナノチューブが酸素と反応することによる消耗が問題となる。すなわち、高温でも酸化しにくいカーボンナノチューブほど、燃料電池の電極層として利用したときの耐久性に優れる。このため、カーボンナノチューブの耐久性を評価する上で、カーボンナノチューブが燃焼するときの温度を測定することが重要となる。
【0006】
物質が燃焼するときの温度を測定する場合には、熱重量測定装置を使用することが一般的である。すなわち、熱重量測定装置により試料を加熱し、試料の温度と、燃焼に伴う重量の減少との関係を測定することにより、その物質が燃焼するときの温度が測定される。
【0007】
しかしながら、基板上に合成された垂直配向カーボンナノチューブ膜が燃焼するときの温度を熱重量測定装置で測定しようとした場合、次のような問題がある。カーボンナノチューブ膜の質量は、基板の質量に対し、極めて小さい。また、熱重量測定装置で測定できる試料の大きさは、通常、10mm角程度と小さい。このため、熱重量測定装置で測定できる試料に含まれるカーボンナノチューブの質量は、極めて微量となる。よって、熱重量測定装置では、カーボンナノチューブが燃焼するときの重量変化を精度良く検出することが困難であり、カーボンナノチューブが燃焼するときの温度を精度良く検出することができない。
【0008】
本発明は、上述のような課題を解決するためになされたもので、基板上に垂直配向したカーボンナノチューブを容易且つ高精度に評価することのできるカーボンナノチューブ評価装置およびカーボンナノチューブ評価方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
第1の発明は、上記の目的を達成するため、カーボンナノチューブ評価装置であって、
基板上にカーボンナノチューブが垂直に配向したカーボンナノチューブ付き基板の試料にレーザー光を照射するレーザー光照射装置と、
前記試料を透過したレーザー光の強度を検出する透過光強度検出装置と、
前記試料を加熱する加熱装置と、
前記試料の温度を検出する温度センサと、
を備え、
前記試料の温度を徐々に高くしていったときの前記試料による光吸収の変化を検出することにより、前記カーボンナノチューブを評価することを特徴とする。
【0010】
また、第2の発明は、第1の発明において、
前記試料中のカーボンナノチューブが燃焼するときの光吸収の低下を検出することを特徴とする。
【0011】
また、第3の発明は、第1または第2の発明において、
前記試料中のカーボンナノチューブが燃焼するときの温度を測定することを特徴とする。
【0012】
また、第4の発明は、第1乃至第3の発明の何れかにおいて、
前記基板は、シリコン基板であり、
前記レーザー光は、赤外線レーザーであることを特徴とする。
【0013】
また、第5の発明は、第1乃至第3の発明の何れかにおいて、
前記基板は、石英基板であり、
前記レーザー光は、可視光レーザーまたは近赤外レーザーであることを特徴とする。
【0014】
また、第6の発明は、カーボンナノチューブ評価方法であって、
基板上にカーボンナノチューブが垂直に配向したカーボンナノチューブ付き基板の試料にレーザー光を照射するステップと、
前記試料を透過したレーザー光の強度を検出するステップと、
前記試料を加熱するステップと、
前記試料の温度を検出するステップと、
を備え、
前記試料の温度を徐々に高くしていったときの前記試料による光吸収の変化を検出することにより、前記カーボンナノチューブを評価することを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
第1の発明によれば、基板上にカーボンナノチューブが垂直に配向したカーボンナノチューブ付き基板の試料を加熱し、その温度を検出するとともに、この試料にレーザー光を照射し、透過したレーザー光の強度を検出することができる。カーボンナノチューブの膜厚が減少したり、カーボンナノチューブ間の隙間が大きくなったりすると、基板上のカーボンナノチューブ膜により吸収される光は少なくなっていく。よって、第1の発明によれば、試料の温度を徐々に高くしていったときの試料による光吸収の変化を検出することにより、カーボンナノチューブを高精度に評価することができる。また、第1の発明によれば、評価に際して必要となるカーボンナノチューブ付き基板の試料が小さくて済む。すなわち、入射するレーザー光束の径より僅かに大きい程度のカーボンナノチューブ付き基板の試料があれば、評価を行うことができる。このため、容易且つ経済的にカーボンナノチューブの評価を行うことができる。
【0016】
第2の発明によれば、カーボンナノチューブが燃焼するときの光吸収の低下を検出することができる。カーボンナノチューブが雰囲気中の酸素と反応(燃焼)すると、カーボンナノチューブ膜の厚さが減少したり、一部のカーボンナノチューブ(直径の細いカーボンナノチューブ)が焼失することによって間引きが起きたり、あるいは個々のカーボンナノチューブの直径が細くなって、カーボンナノチューブ間の隙間が大きくなったりする。その結果、カーボンナノチューブの膜を透過する光が多くなっていく。このため、光吸収の低下を検出することにより、カーボンナノチューブの酸化の進行を精度良く検出することができる。従って、第2の発明によれば、カーボンナノチューブの酸化し易さ(耐久性)を高精度に評価することができる。
【0017】
第3の発明によれば、試料中のカーボンナノチューブが燃焼するときの温度を容易且つ高精度に測定することができる。このため、カーボンナノチューブの酸化し易さ(耐久性)を高精度に評価することができる。
【0018】
第4の発明によれば、カーボンナノチューブがシリコン基板上に形成されている場合に、赤外線領域のレーザー光によって光吸収を検出することができる。シリコン基板は、赤外線領域の光に対する透過率が高い。このため、第4の発明によれば、カーボンナノチューブによる光吸収をより高い精度で検出することができる。
【0019】
第5の発明によれば、カーボンナノチューブが石英基板上に形成されている場合に、可視光領域または近赤外領域のレーザー光によって光吸収を検出することができる。石英基板は、可視光領域または近赤外領域の光に対する透過率が高い。このため、第5の発明によれば、カーボンナノチューブによる光吸収をより高い精度で検出することができる。
【0020】
第6の発明によれば、基板上にカーボンナノチューブが垂直に配向したカーボンナノチューブ付き基板の試料を加熱し、その温度を検出するとともに、この試料にレーザー光を照射し、透過したレーザー光の強度を検出することができる。カーボンナノチューブの膜厚が減少したり、カーボンナノチューブ間の隙間が大きくなったりすると、基板上のカーボンナノチューブ膜により吸収される光は少なくなっていく。よって、第6の発明によれば、試料の温度を徐々に高くしていったときの試料による光吸収の変化を検出することにより、カーボンナノチューブを高精度に評価することができる。また、第6の発明によれば、評価に際して必要となるカーボンナノチューブ付き基板の試料が小さくて済む。すなわち、入射するレーザー光束の径より僅かに大きい程度のカーボンナノチューブ付き基板の試料があれば、評価を行うことができる。このため、容易且つ経済的にカーボンナノチューブの評価を行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
図1は、本発明のカーボンナノチューブ評価装置の実施の形態を示す図である。このカーボンナノチューブ評価装置(以下、単に「評価装置」と言う)1について説明する前に、まず、評価対象となるカーボンナノチューブについて説明する。
【0022】
カーボンナノチューブ付き基板2は、基板3と、この基板3上に垂直配向した多数のカーボンナノチューブからなる膜4とを有している。基板3上のカーボンナノチューブ膜4は、例えば化学気相成長法(CVD法)により合成することができる。すなわち、基板3の表面に、Co,Mo,Fe等の微粒子からなる触媒を付着させ、高温下で、エタノール、メタン、アセチレン等の原料ガスを供給することにより、基板3に対し垂直な方向に多数のカーボンナノチューブを成長させることができる。基板3は、石英基板またはシリコン基板であることが好ましい。
【0023】
評価装置1は、上述したようなカーボンナノチューブ付き基板2の試料(以下、単に「カーボンナノチューブ付き基板2」と言う)を保持する試料台5と、カーボンナノチューブ付き基板2を加熱するヒーター(加熱炉)6と、カーボンナノチューブ付き基板2に対しレーザー光を照射するレーザー光源7と、カーボンナノチューブ付き基板2を透過した透過光の強度を検出する光検出器8と、カーボンナノチューブ付き基板2の温度を検出する温度センサ9と、制御装置10とを有している。
【0024】
試料台5は、その底部に開口が形成されている。これにより、透過光を遮光しないように構成されている。ヒーター6は、試料台5を取り囲むような筒状をなしている。このヒーター6への通電は、制御装置10によって制御される。これにより、カーボンナノチューブ付き基板2の温度を精密に制御することができる。カーボンナノチューブ付き基板2の温度は、例えば熱電対で構成される温度センサ9により検出され、その検出信号は、制御装置10に入力される。
【0025】
両端が開口したヒーター6の一端側(図1中の上端側)には、レーザー光源7が設置されている。レーザー光源7から発せられたレーザー光は、カーボンナノチューブ付き基板2に対し、垂直に入射する。図示の構成では、レーザー光源7からのレーザー光がカーボンナノチューブ付き基板2に直接に入射しているが、レンズ、ミラー、プリズム等の光学部品を介してレーザー光をカーボンナノチューブ付き基板2に入射させるように構成されていてもよい。
【0026】
ヒーター6の反対側(図1中の下端側)には、光を受光し、光電変換する光検出器8が設置されている。カーボンナノチューブ膜4の個々のカーボンナノチューブは、前述したように、基板3に対し垂直に配向している。よって、カーボンナノチューブ膜4には、基板3に垂直な方向の隙間が存在している。カーボンナノチューブ付き基板2に垂直に入射したレーザー光の一部は、上記のようなカーボンナノチューブ膜4によって吸収され、残りのレーザー光はカーボンナノチューブ膜4を透過する。カーボンナノチューブ膜4を透過したレーザー光は、更に基板3を透過して、光検出器8に受光される。光検出器8は、受光した透過光の強度に応じた出力を発する。その出力は、制御装置10に入力される。
【0027】
基板3が石英基板である場合には、レーザー光源7は、可視光レーザーまたは近赤外レーザーであることが好ましい。石英基板は、可視光領域または近赤外領域の光に対する透過率が高い。このため、可視光レーザーまたは近赤外レーザーを用いることにより、カーボンナノチューブ膜4による光吸収をより高い精度で検出することができる。一方、基板3がシリコン基板である場合には、レーザー光源7は、赤外線レーザーであることが好ましい。シリコン基板は、赤外線領域の光に対する透過率が高い。このため、赤外線レーザーを用いることにより、カーボンナノチューブ膜4による光吸収をより高い精度で検出することができる。
【0028】
本実施形態では、試料台5に載置されたカーボンナノチューブ付き基板2の雰囲気を空気としているが、カーボンナノチューブ付き基板2の雰囲気(酸素濃度等)を制御可能な装置が設けられていてもよい。
【0029】
このような評価装置1では、カーボンナノチューブ付き基板2の温度を徐々に高くしていきながら、光検出器8で検出される透過光の強度の変化を記録する。図2は、その透過光の強度の変化を吸光度で表した図である。すなわち、図2の横軸は、カーボンナノチューブ付き基板2の温度であり、縦軸は、吸光度である。カーボンナノチューブ付き基板2の温度を徐々に高くしていくと、カーボンナノチューブ膜4を構成するカーボンナノチューブが雰囲気中の酸素と反応(燃焼)することにより、膜厚が減少したり、一部のカーボンナノチューブ(直径の細いカーボンナノチューブ)が焼失することによって間引きが起きたり、あるいは個々のカーボンナノチューブの直径が細くなって、カーボンナノチューブ間の隙間が大きくなったりする。その結果、カーボンナノチューブ膜4による光吸収が低下していくので、光検出器8に入射する透過光の強度は強くなっていく。このようなことから、図2に示すように、カーボンナノチューブ付き基板2の温度が高くなるにつれて、吸光度は減少する。
【0030】
図3は、図2に示す吸光度の微分値を示すグラフである。このグラフのピークのときの温度は、図2において、吸光度が最も急激に減少しているときの温度に相当する。この温度のときに、カーボンナノチューブ膜4が最も激しく酸化(燃焼)していると考えられる。そこで、本実施形態では、図3に示すグラフがピークを示すときの温度を、カーボンナノチューブ膜4が燃焼するときの温度として代表することとした。
【0031】
本実施形態によれば、上述したようにして測定された、カーボンナノチューブ膜4が燃焼するときの温度に基づいて、カーボンナノチューブ膜4の耐久性を評価することができる。すなわち、カーボンナノチューブ膜4が燃焼するときの温度が高いほど、そのカーボンナノチューブ膜4は酸化しにくい、つまり耐久性が高い、と判断することができる。逆に、カーボンナノチューブ膜4が燃焼するときの温度が低いほど、そのカーボンナノチューブ膜4は酸化し易い、つまり耐久性が低い、と判断することができる。
【0032】
前述したように、カーボンナノチューブ膜4は、酸化するにつれて、膜厚が減少したり、各カーボンナノチューブ間の隙間が大きくなったりする。これらの変化は、カーボンナノチューブの配向方向と平行に入射するレーザー光の吸収の低下に、正確に反映される。このため、評価装置1によれば、カーボンナノチューブ膜4の酸化の進行を正確に検出することができるので、その耐久性を高い精度で評価することができる。
【0033】
また、評価装置1では、試料とするカーボンナノチューブ付き基板2の大きさが小さくて済む。つまり、入射するレーザー光束の径より僅かに大きい程度のカーボンナノチューブ付き基板2の試料があれば、評価装置1によって評価を行うことができる。このため、容易且つ経済的にカーボンナノチューブ膜4の評価を行うことができる。
【0034】
上述した実施の形態においては、レーザー光源7が前記第1の発明における「レーザー光照射装置」に、光検出器8が前記第1の発明における「透過光強度検出装置」に、ヒーター6が前記第1の発明における「加熱装置」に、それぞれ相当している。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明のカーボンナノチューブ評価装置の実施の形態を示す図である。
【図2】カーボンナノチューブ付き基板の温度を徐々に高くしていったときの、カーボンナノチューブ付き基板の温度と、吸光度との関係を示す図である。
【図3】図2に示す吸光度の微分値を示すグラフである。
【符号の説明】
【0036】
1 カーボンナノチューブ評価装置
2 カーボンナノチューブ付き基板
3 基板
4 カーボンナノチューブ膜
5 試料台
6 ヒーター
7 レーザー光源
8 光検出器
9 温度センサ
10 制御装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上にカーボンナノチューブが垂直に配向したカーボンナノチューブ付き基板の試料にレーザー光を照射するレーザー光照射装置と、
前記試料を透過したレーザー光の強度を検出する透過光強度検出装置と、
前記試料を加熱する加熱装置と、
前記試料の温度を検出する温度センサと、
を備え、
前記試料の温度を徐々に高くしていったときの前記試料による光吸収の変化を検出することにより、前記カーボンナノチューブを評価することを特徴とするカーボンナノチューブ評価装置。
【請求項2】
前記試料中のカーボンナノチューブが燃焼するときの光吸収の低下を検出することを特徴とする請求項1記載のカーボンナノチューブ評価装置。
【請求項3】
前記試料中のカーボンナノチューブが燃焼するときの温度を測定することを特徴とする請求項1または2記載のカーボンナノチューブ評価装置。
【請求項4】
前記基板は、シリコン基板であり、
前記レーザー光は、赤外線レーザーであることを特徴とする請求項1乃至3の何れか1項記載のカーボンナノチューブ評価装置。
【請求項5】
前記基板は、石英基板であり、
前記レーザー光は、可視光レーザーまたは近赤外レーザーであることを特徴とする請求項1乃至3の何れか1項記載のカーボンナノチューブ評価装置。
【請求項6】
基板上にカーボンナノチューブが垂直に配向したカーボンナノチューブ付き基板の試料にレーザー光を照射するステップと、
前記試料を透過したレーザー光の強度を検出するステップと、
前記試料を加熱するステップと、
前記試料の温度を検出するステップと、
を備え、
前記試料の温度を徐々に高くしていったときの前記試料による光吸収の変化を検出することにより、前記カーボンナノチューブを評価することを特徴とするカーボンナノチューブ評価方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−250757(P2009−250757A)
【公開日】平成21年10月29日(2009.10.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−98296(P2008−98296)
【出願日】平成20年4月4日(2008.4.4)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(504137912)国立大学法人 東京大学 (1,942)
【Fターム(参考)】