説明

カーボンナノチューブ配向集合体の生産装置及び生産方法

【課題】基材の搬送形態や搬送姿勢を改善することにより、カーボンナノチューブ配向集合体の生産効率の向上を図り、短時間で多くのカーボンナノチューブ配向集合体を得ることのできる生産装置及び生産方法を提供すること。
【解決手段】このカーボンナノチューブ配向集合体の生産装置S1は、触媒層を有する基材8にカーボンナノチューブ配向集合体を生成させる生産装置S1であって、基材8の周囲環境を原料ガス環境として化学気相合成によりカーボンナノチューブ配向集合体を表裏面に生成する成長工程を実現する成長ユニット4と、成長工程の後に基材8を冷却する冷却工程を実現する冷却ユニット5と、基材8を、成長ユニット4及び冷却ユニット5の順に各ユニット内部を通過させる搬送ユニット7と、搬送中において、搬送ユニット7による搬送方向と表裏面とが直交するように基材8を保持するクリップ7cとを有している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カーボンナノチューブ配向集合体の生産装置及び生産方法に係り、特にカーボンナノチューブ配向集合体生成中における平板状基材の姿勢や搬送形態を改良することにより、カーボンナノチューブ配向集合体の生産効率を向上させることのできるカーボンナノチューブ配向集合体の生産装置等に関する。
【背景技術】
【0002】
カーボンナノチューブは、炭素原子が平面的に六角形状に配置されて構成された炭素シートが円筒状に閉じた構造を有する炭素構造体であって、マクロ的には針状の素材であるが、ミクロ的には中空円筒形状を呈する炭素多面体である。カーボンナノチューブには、多層のものや単層のものがあるが、いずれもその力学的強度、光学特性、電気特性、熱特性、分子吸着機能等の面から電子デバイス材料、光学素子材料、導電性材料等の機能性材料としての展開が期待されている。
【0003】
このカーボンナノチューブの生産方法として、例えば化学気相合成法(以下、CVD法ともいう。)を適用することができる。このCVD法は、表面に触媒を塗布したシリコンウエハ等の基材を、例えば、800℃程度のメタン(CH4)やアセチレン(C2H2)等の炭素原料ガス環境としたCVD炉内に置くことにより、触媒上にカーボンナノチューブを成長させる方法である。この方法によれば、基材表面の全体に亘って、垂直方向に配向したカーボンナノチューブのフォレストを得ることができる。
【0004】
このCVD法によるカーボンナノチューブの生産効率を向上させるために、従来、様々な提案が為されてきた。例えば、ベルトコンベアやターンテーブル等の移送手段を用いて、基材を順次連続的にCVD炉内へと移送する手法が提案されている(例えば、特許文献1〜3を参照。)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−16232号公報
【特許文献2】特開2007−91556号公報
【特許文献3】特開2007−92152号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
これら特許文献1〜3に開示のものは、いずれも実質的に水平面に平行とされたテーブルやベルト上に載置した状態で基材を搬送している。すなわち、平板状の基材の平板面が水平面と平行な状態のまま搬送され、CVD炉内へと移送されている。基材を水平状態で搬送しているので、特段の保持装置も必要なく、重力と両者相互の摩擦力を利用して基材をテーブル等の上に保持することができる。また、テーブル面やベルト面を利用して、平板面を全体的に下方から支持することもできる。
【0007】
しかしながら、基材をテーブル面やベルト面上に載置した状態で搬送するので、テーブル面やベルト面上において基材が占める面積が大きくなってしまう。つまり、平板面全体の面積がテーブル面やベルト面において消費されることとなってしまい、基材同士を近接させて連続的にテーブル面やベルト面上に並べることが難しいという問題がある。
【0008】
一方、CVDによって基材表面にカーボンナノチューブを生成(成長)するには一定の時間が必要となるため、CVD炉の小型化を維持しつつ搬送速度を高速化することも困難である。その結果、時間当たりの基材の処理量、すなわち時間当たりのカーボンナノチューブの生成量に限界を生じてしまい、カーボンナノチューブの生産効率向上が困難であるという問題があった。
【0009】
本発明は上記の事情に鑑みて為されたもので、表面にカーボンナノチューブ配向集合体を生成するための基材の搬送形態やその搬送中の姿勢を改善することにより、カーボンナノチューブ配向集合体の生産効率の向上を図り、短時間で多くのカーボンナノチューブ配向集合体を得ることのできるカーボンナノチューブ配向集合体の生産装置及び生産方法を提供することを例示的課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の課題を解決するために、本発明の例示的側面としてのカーボンナノチューブ配向集合体の生産装置は、平板面に触媒層を有する平板状基材の平板面にカーボンナノチューブ配向集合体を生成させるカーボンナノチューブ配向集合体の生産装置であって、平板状基材の周囲環境を原料ガス環境として化学気相合成によりカーボンナノチューブ配向集合体を平板面に生成する成長工程を実現する成長ユニットと、成長工程の後に平板状基材を冷却する冷却工程を実現する冷却ユニットと、平板状基材を、成長ユニット及び冷却ユニットの順に各ユニット内部を通過させる搬送ユニットと、搬送中において、搬送ユニットによる搬送方向と平板面とが直交するように平板状基材を保持する保持手段とを有することを特徴とする。
【0011】
平板面と搬送方向とが直交するように、すなわち、平板面が搬送方向に対して正面を向くように保持手段が平板状基材を保持するので、平板状基材の厚さ方向と搬送方向とを一致させて搬送することができる。平板状基材の厚さ方向寸法は、その縦横寸法よりも一般に充分小さいので、多数の平板状基材を搬送方向に沿って近接配置することができる。搬送方向における一定距離以内に数多くの平板状基材を並べてカーボンナノチューブ配向集合体の生成を行うことができるので、結果的に、単位時間当たりに搬送することのできる平板状基材の数を増大させることができる。その結果、カーボンナノチューブ配向集合体の生産効率を向上させることができる。
【0012】
例えば、平板状基材の各寸法が縦100mm×横100mm×厚さ2mm、搬送速度を500mm/min.の場合において、平板状基材を搬送ユニット(例えばベルトコンベア。)上に水平に寝かせて搬送すると、連続する基材同士の間隔を10mmとした場合に500/(100+10)=約4.5枚/min.しかカーボンナノチューブ配向集合体の生成処理を行うことができない。しかし、本発明によれば、同搬送速度、同基材同士間隔の条件でも、500/(2+10)=約41.6枚/min.の生成処理を行うことができ、約9倍の生産効率向上を実現することができる。
【0013】
ここにおいて、平板状基材は、表面に触媒層を形成することのできる、例えば、シリコン基板、セラミック基板、ガラス基板、金属基板等の部材である。その厚さに特に制限はなく、例えば数μm程度の薄膜から数cm程度までを概念することができる。また、触媒としては、例えば金属触媒が用いられ、鉄、塩化鉄、コバルト、鉄−コバルト、鉄−モリブデン、アルミナ−鉄、アルミナ−コバルト、モリブデン−コバルト、アルミナ−鉄−モリブデン、鉄−モリブデン−コバルト等を適用することができる。
【0014】
平板状基材表面への触媒層の形成は、一般に触媒の塗布により行われる。その触媒塗布工程は、塗布工程の速度とカーボンナノチューブ配向集合体の生産速度との速度差に応じて、インライン(カーボンナノチューブ配向集合体の生産ライン中の工程。)であってもアウトライン(カーボンナノチューブ配向集合体の生産ライン外の別工程。)であってもよい。
【0015】
もちろん、このカーボンナノチューブ配向集合体の生産装置が、成長ユニットの更に上流側に平板状基材の周囲環境を還元ガス環境とするフォーメーション工程を実現するためのフォーメーションユニットを更に有していてもよい。還元ガスは、触媒層に対して還元作用を生じる気体であって、典型的には例えば水素ガスを適用することができる。また、水素ガスを窒素ガスやヘリウムガス等の不活性ガスと混合した混合ガスであってももちろんよい。原料ガスは、カーボンナノチューブ配向集合体の生成のために原料炭素源を有するガスであり、例えばメタンガス、エタンガス、プロパンガス、エチレンガス、プロピレンガス、アセチレンガス等の炭化水素ガスを適用することができる。もちろん、これらの炭化水素ガスと不活性ガスとの混合ガスであってもよい。
【0016】
本発明の他の例示的側面としてのカーボンナノチューブ配向集合体の生産装置は、平板面に触媒層を有する平板状基材の平板面にカーボンナノチューブ配向集合体を生成させるカーボンナノチューブ配向集合体の生産装置であって、平板状基材の周囲環境を原料ガス環境として化学気相合成によりカーボンナノチューブ配向集合体を平板面に生成する成長工程を実現する成長ユニットと、成長工程の後に平板状基材を冷却する冷却工程を実現する冷却ユニットと、平板状基材を、成長ユニット及び冷却ユニットの順に各ユニット内部を実質的に水平面内で通過させる搬送ユニットと、搬送中において、平板面が実質的に鉛直面となるように平板状基材を保持する保持手段とを有することを特徴とする。
【0017】
搬送中において、平板面が実質的に鉛直面となるように保持手段が平板状基材を保持するので、搬送速度を上げることなく単位時間当たりに搬送することのできる平板状基材の数を増大させることができる。すなわち、平板状基材を立設した状態で搬送することができるので、例えばベルトコンベア等の搬送装置上に寝かせた状態で平板状基材を搬送する場合に比較して、カーボンナノチューブ配向集合体の生産効率を向上させることができる。
【0018】
なお、平板面が実質的に鉛直面となる状態は、平板面の法線が搬送方向に平行な場合と平板面の法線が搬送方向に直交する場合とを含む。平板面の法線が搬送方向に平行な場合には、搬送方向に沿って短い間隔で多数の平板状基材を配列することができる。また、平板面の法線が搬送方向に直交する場合には、搬送方向に直交する方向(例えば、ベルトコンベアにおけるベルトの幅方向。)に沿って短い間隔で多数の平板状基材を配列することができる。
【0019】
本発明の更に他の例示的側面としてのカーボンナノチューブ配向集合体の生産装置は、平板面に触媒層を有する平板状基材の平板面にカーボンナノチューブ配向集合体を生成させるカーボンナノチューブ配向集合体の生産装置であって、平板状基材の周囲環境を原料ガス環境として化学気相合成によりカーボンナノチューブ配向集合体を平板面に生成する成長工程を実現する成長ユニットと、成長工程の後に平板状基材を冷却する冷却工程を実現する冷却ユニットと、平板状基材を、成長ユニット及び冷却ユニットの順に各ユニット内部を通過させる搬送ユニットと、搬送中において、平板状基材を懸架保持する懸架手段とを有することを特徴とする。
【0020】
懸架手段が平板状基材を懸架保持しつつ搬送するので、平板面を実質的に鉛直面とした状態で平板状基材を搬送することができる。したがって、実質的に水平方向に搬送する場合において単位時間当たりに多数の平板状基材を搬送することができ、高い生産効率でカーボンナノチューブ配向集合体を生成させることができる。更に、カーボンナノチューブの生産の際に副生されるアモルファスカーボン等の不純物等が、平板面が鉛直方向であるため、基板上から落ちやすく、水平方向に搬送した場合に比べて汚染が少なくなるという利点もある。
【0021】
懸架手段により懸架保持しつつ搬送する方式は、特に、平板状基材の厚さが比較的薄く自立困難な程度の強度しか有さない場合に適している。なお、懸架方式としては、平板状基材の上部近傍に形成された係止孔にフックを引っ掛ける方式、平板状基材をクリップ等の挟持手段により挟持する方式等、種々の公知の方式を採用することができる。
【0022】
本発明の更に他の例示的側面としてのカーボンナノチューブ配向集合体の生産装置は、平板面に触媒層を有する平板状基材の平板面にカーボンナノチューブ配向集合体を生成させるカーボンナノチューブ配向集合体の生産装置であって、平板状基材の周囲環境を原料ガス環境として化学気相合成によりカーボンナノチューブ配向集合体を平板面に生成する成長工程を実現する成長ユニットと、成長工程の後に平板状基材を冷却する冷却工程を実現する冷却ユニットと、平板状基材を、成長ユニット及び冷却ユニットの順に各ユニット内部を通過させる搬送ユニットと、搬送中において、平板状基材を立設保持する立設手段とを有することを特徴とする。
【0023】
立設手段が平板状基材を立設保持しつつ搬送するので、平板面を実質的に鉛直面とした状態で平板状基材を搬送することができる。したがって、実質的に水平方向に搬送する場合において単位時間当たりに多数の平板状基材を搬送することができ、高い生産効率でカーボンナノチューブ配向集合体を生成させることができる。
【0024】
立設手段により立設保持しつつ搬送する方式は、特に、平板状基材の厚さが比較的厚く自立可能な程度の強度を有する場合に適している。平板状基材の下部近傍を、例えば挟持等により立設保持すれば、平板状基材の姿勢を安定させることができ、揺れや振動を防止することができる。その結果、加減速や搬送速度の変動に影響されにくい搬送形態とすることができる。なお、立設方式としては、平板状基材の下部近傍を挟持する方式、ネジ等の締結手段により締結する方式等、種々の公知の方式を採用することができる。
【0025】
平板状基材が表裏両面の平板面に触媒層を有しており、成長ユニットが原料ガスを放出する原料ガス放出ノズルを複数有しており、かつ、原料ガス放出ノズルが表裏両面の平板面に向けて原料ガスを放出するように配置されていてもよい。
【0026】
例えば、ベルトコンベア等の搬送ユニットにおいてベルト上に平板状基材を寝かせた状態で搬送する場合、その上面側(開放側)の平板面にカーボンナノチューブ配向集合体を生成することができるが、その下面側(密着側)の平板面にカーボンナノチューブ配向集合体を生成することが難しい。しかしながら、本発明のごとくに平板状基材の表裏両面が触媒層を有し、平板状基材を立てた状態(すなわち、平板面を鉛直面とした状態。)でその両側の平板面に原料ガスを放出すれば、両面共にカーボンナノチューブ配向集合体を生成させることができる。その結果、カーボンナノチューブ配向集合体の生産効率を向上させることができる。
【0027】
本発明の更に他の例示的側面としてのカーボンナノチューブ配向集合体の生産方法は、平板面に触媒層を有する平板状基材の平板面にカーボンナノチューブ配向集合体を生成させるカーボンナノチューブ配向集合体の生産方法であって、平板面が実質的に鉛直面となるように平板状基材を保持した状態でその周囲環境を原料ガス環境として化学気相合成によりカーボンナノチューブ配向集合体を平板面に生成する成長工程と、成長工程の後に平板状基材を冷却する冷却工程とを有することを特徴とする。
【0028】
搬送中において、平板面が実質的に鉛直面となるように保持手段が平板状基材を保持するので、搬送速度を上げることなく単位時間当たりに搬送することのできる平板状基材の数を増大させることができる。すなわち、平板状基材を立設した状態で搬送することができるので、例えばベルトコンベア等の搬送装置上に寝かせた状態で平板状基材を搬送する場合に比較して、カーボンナノチューブ配向集合体の生産効率を向上させることができる。
【0029】
なお、平板面が実質的に鉛直面となる状態は、平板面の法線が搬送方向に平行な場合と平板面の法線が搬送方向に直交する場合とを含む。平板面の法線が搬送方向に平行な場合には、搬送方向に沿って短い間隔で多数の平板状基材を配列することができる。また、平板面の法線が搬送方向に直交する場合には、搬送方向に直交する方向(例えば、ベルトコンベアにおけるベルトの幅方向。)に沿って短い間隔で多数の平板状基材を配列することができる。
【0030】
本発明の更なる目的又はその他の特徴は、以下添付図面を参照して説明される好ましい実施の形態によって明らかにされるであろう。
【発明の効果】
【0031】
本発明によれば、平板状基材を立てた状態で搬送することにより、平板状基材同士の配列間隔を短縮することができ、単位時間当たりに搬送可能な平板状基材の数を増大させることができ、その結果、カーボンナノチューブ配向集合体の生産効率を向上させることができる。加えて、平板状基材の両面にカーボンナノチューブ配向集合体を生成させることができるので、一層の生産効率向上を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明の実施の形態に係る製造装置の概略構成を示すブロック構成図である。
【図2】図1に示す搬送ユニットにおけるクリップ近傍を拡大して示す図である。
【図3】本発明の変形例に係る製造装置における搬送方式を説明するための説明図である。
【図4】本発明の他の変形例に係る製造装置における搬送方式を説明するための説明図である。
【図5】本発明の更に他の変形例に係る製造装置における搬送方式を説明するための説明図である。
【図6】本発明の更に他の変形例に係る製造装置における搬送方式を説明するための説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
(カーボンナノチューブの配向集合体)
本発明において生産されるのは、カーボンナノチューブの配向集合体である。本発明において生産されるCNT配向集合体とは、基材から成長した多数のCNTが特定の方向に配向した構造体をいう。特定方向に配向したカーボンナノチューブは無配向のものと比較して、ナノ電子デバイスやナノ光学素子への応用がしやすいという特徴を有する。
【0034】
(カーボンナノチューブ配向集合体生産用基材)
ここにおいて、基材(カーボンナノチューブ配向集合体生産用基材)は、基板表面に浸炭防止層、触媒層が形成されて構成された例えば平板状の部材であり、400℃以上の高温でも形状を保持できる材質であることが望ましい。具体的には、基板としてシリコン基板、セラミック基板、ガラス基板、金属基板等を用いることができる。ただし、本発明においては、基板は金属材料であることが望ましい。シリコンやセラミックを材料とする場合に比較して、低コストとすることができるからである。また、特に、Fe−Cr(鉄−クロム)合金、Fe−Ni(鉄−ニッケル)合金、Fe−Cr−Ni(鉄−クロム−ニッケル)合金等のFe基合金であることが望ましい。
【0035】
基材の厚さに特に制限はなく、例えば数μm程度の薄膜から数cm程度までを概念することができる。ただし、基材の厚さ(より正確には、後述する浸炭防止層及び触媒層の層厚さ(数nm〜1μm程度)を含む基材全体としての厚さ。)は、0.05mm以上3mm以下であることが望ましい。
【0036】
(浸炭防止層、触媒層)
基板の表面又は裏面(いずれも、平板面)の少なくともいずれか一方には、浸炭防止層が形成されていてもよい。もちろん、表面及び裏面の両面に浸炭防止層が形成されていることが望ましい。この浸炭防止層は、カーボンナノチューブ配向集合体の成長工程において、基板が浸炭されて変形してしまうのを防止するための保護層である。
【0037】
浸炭防止層は、単独で触媒活性を示さない金属元素又はその化合物によって構成されることが望ましい。その材料としては、例えばアルミナ(Ai)、酸化ケイ素(SiO)、ジルコニア(ZrO)、酸化マグネシウム(MgO)等の金属酸化物、銅やアルミニウム等の金属を適用することができる。
【0038】
浸炭防止層の厚さは、0.01μm〜1.0μm程度が望ましい。層厚さが薄すぎると浸炭防止効果を充分に得ることができない可能性がある。層形成(コーティング)の方法としては、例えば、蒸着、スパッタリング等の物理的方法、CVD、塗布法等の化学的方法を適用することができる。
【0039】
浸炭防止層が基板の表面及び裏面の両面に形成されることが、基板の浸炭防止、変形防止の観点からはより望ましいが、もちろん生産コストや生産工程上の都合等に応じて表面又は裏面の一方にのみ形成されていてもよい。
【0040】
浸炭防止層上には、触媒層が形成されている。この触媒としては、例えば金属触媒が用いられることが望ましく、鉄、塩化鉄、コバルト、鉄−コバルト、鉄−モリブデン、アルミナ−鉄、アルミナ−コバルト、モリブデン−コバルト、アルミナ−鉄−モリブデン、鉄−モリブデン−コバルト等を適用することができる。
【0041】
基材表面への触媒層(触媒金属層)の形成は、一般に触媒の塗布により行われる。その触媒塗布工程は、塗布工程の速度とカーボンナノチューブ配向集合体の生産速度との速度差に応じて、後述するように、インライン(カーボンナノチューブ配向集合体の生産ライン中の工程。)であってもアウトライン(カーボンナノチューブ配向集合体の生産ライン外の別工程。)であってもよい。
【0042】
なお、基材の表面及び裏面の両面に触媒層が形成されていれば、カーボンナノチューブ配向集合体を基材の両面において成長させることができるので、生産効率の点からより望ましい。したがって、基板の表裏面に浸炭防止層が形成され、その表裏面において浸炭防止層上に触媒層が形成されていることが、変形防止、生産効率の観点からは最も望ましい。もちろん、生産コストや生産工程上の都合等に応じて、浸炭防止層を片面としたり、触媒層を片面としたりすることは可能である。
【0043】
なお、基板及び基材表面の浸炭防止層、触媒層をも含めた基材においては、その表面の算術平均粗さRaが3μm以下であることが望ましい。これにより、基材表面への炭素汚れの付着が防止又は低減され、高品質のカーボンナノチューブ配向集合体を高効率で生産することが可能となる。算術平均粗さRaは、「JIS B 0601−2001」に記載の通り、粗さ曲線からその平均線の方向に基準長さLだけ抜き取って、この抜取り部分の平均線方向にX軸、直交する縦倍率の方向にY軸をとったときの表面プロファイルをy=f(x)で表したときに、次式によって求められる。
【0044】
【数1】

【0045】
(フォーメーション工程)
フォーメーション工程とは、基材に担持された触媒の周囲環境を還元ガス環境とすると共に、触媒又は還元ガスの少なくとも一方を加熱する工程をいう。この工程により、触媒の還元、触媒のCNTの成長に適合した状態の微粒子化促進、触媒の活性向上の少なくとも一つの効果が現れる。例えば、触媒がアルミナ−鉄薄膜である場合、鉄触媒層は還元されて微粒子化し、アルミナ層上にナノメートルサイズの鉄微粒子が多数形成される。これにより触媒はCNT配向集合体の生産に好適な触媒に調製される。
【0046】
(還元ガス)
還元ガスは、触媒層に対して還元作用を生じる気体であって、典型的には例えば水素ガスを適用することができる。また、水素ガスをヘリウムガス、アルゴンガス、窒素ガス等の不活性ガスと混合した混合ガスであってももちろんよい。還元ガスと触媒層との接触の際、加熱することが望ましい。その場合、還元ガス及び基材を同時に加熱してもよく、一方のみ加熱してもよい。その場合、加熱温度は500〜1000℃であることが望ましく、更に望ましくは700〜900℃である。
【0047】
還元ガスと触媒層の接触により、触媒層の触媒が還元され、微粒子化されるために、カーボンナノチューブ配向集合体の生産に好適な触媒にすることができる。特に、電子デバイスへの適用で望ましい単層カーボンナノチューブの生産においては触媒の粒子径が4nm以下であることが望ましく、更に望ましくは3nm以下が望ましい。
【0048】
(原料ガス)
原料ガスは、カーボンナノチューブ配向集合体の生成のために原料炭素源を有するガスであり、例えばメタンガス、エタンガス、プロパンガス、エチレンガス、プロピレンガス、アセチレンガス等の炭化水素ガスを適用することができる。もちろん、これらの炭化水素ガスと不活性ガスとの混合ガスであってもよい。CVD法によってカーボンナノチューブ配向集合体の生産するため、原料ガス及び/又は基材を加熱する必要がある。その場合、基材及び原料ガスを加熱してもよいし、基材のみ又は加熱ガスのみを過熱してカーボンナノチューブ配向集合体を生産することも可能である。カーボンナノチューブ配向集合体の生産において、加熱温度は500〜1000℃、より好ましくは700〜900℃である。
【0049】
(触媒賦活物質)
カーボンナノチューブ配向集合体の生成において、基材の周囲環境に触媒賦活物質を添加する触媒賦活物質添加をしてもよい。触媒賦活物質の添加によって、カーボンナノチューブ配向集合体の生産効率や純度をより一層改善することができる。ここで、触媒賦活物質としては、例えば酸素ガスや水分(水蒸気)、オゾン、硫化水素、酸性ガス、メタノール、エタノールなどの低級アルコール、アセトンなどのケトン類、ホルムアルデヒドなどのアルデヒド類、一酸化炭素、二酸化炭素、テトラヒドロフランなどのエーテル類、カルボン酸類やこれらの組合せを適用することができる。この触媒賦活物質の混合により、基材表面の触媒の活性時間や活性度を増大させることができる。
【0050】
(不活性ガス)
本発明においては、カーボンナノチューブ配向集合体生産後の基材を不活性ガス下に冷却する工程が必要である。カーボンナノチューブ配向集合体の生産にあたって上記のように加熱状態にあるため、酸素存在下にさらされると燃焼してしまうおそれがあり、この工程を設けた方がよい。不活性ガスとしては、生産したカーボンナノチューブ配向集合体と反応しなければ特に制限はないが、ヘリウムガスやアルゴンガスなどの希ガス類、窒素ガスなどを使用することができる。
【0051】
(生産装置)
本発明の例示的側面としてのカーボンナノチューブ配向集合体の生産装置は、表面(平板面)に触媒層を有する平板状基材の表面にカーボンナノチューブ配向集合体を生成させるカーボンナノチューブ配向集合体の生産装置であって、平板状基材の周囲環境を原料ガス環境として化学気相合成によりカーボンナノチューブ配向集合体を平板面に生成する成長工程を実現する成長ユニットと、成長工程の後に平板状基材を冷却する冷却工程を実現する冷却ユニットと、平板状基材を、成長ユニット及び冷却ユニットの順に各ユニット内部を通過させる搬送ユニットと、搬送中において、搬送ユニットによる搬送方向と平板面とが直交するように平板状基材を保持する保持手段と、を有することを特徴としている。
【0052】
搬送ユニットによる搬送方向と基材の平板面とが直交するように構成されているので、搬送方向における基材の占める長さを短縮することができる。すなわち、搬送方向において、従来は基材の平板面の縦寸法又は横寸法のいずれかが占有していた長さを、基材の厚さ寸法が占有する長さにまで短縮することができる。したがって、搬送方向における単位長さ当たりの基材数を増大させることができるので、結果的にカーボンナノチューブ配向集合体の生産効率を向上させることができる。
【0053】
本発明の更なる目的又はその他の特徴は、以下添付図面を参照して説明される好ましい実施の形態によって明らかにされるであろう。
【0054】
[実施の形態]
本発明の実施の形態に係る製造装置(カーボンナノチューブの生産装置)S1について、図面を用いて説明する。図1は、この製造装置S1の概略構成を示すブロック構成図である。この製造装置S1は、フォーメーションユニット2、成長ユニット4、冷却ユニット5、搬送ユニット7を有して大略構成されている。フォーメーションユニット2、成長ユニット4、冷却ユニット5は各々フォーメーション炉内空間2a、生成炉内空間4a、冷却炉内空間5aを有しており、搬送ユニット7によって各炉内空間2a,4a,5a内に基材8を通過させることができるようになっている。
【0055】
フォーメーションユニット2は、フォーメーション炉内空間2a内にある基材8の周囲環境を還元ガス環境として基材8表面の触媒層(後述)を還元すると共に、触媒又は還元ガスの少なくとも一方を加熱する工程を実現する機能を有している。この工程により、触媒の還元、触媒のCNTの成長に適合した状態の微粒子化促進、触媒の活性向上の少なくとも一つの効果が現れる。例えば、触媒がアルミナ−鉄薄膜である場合、鉄触媒層は還元されて微粒子化し、アルミナ層上にナノメートルサイズの鉄微粒子が多数形成される。これにより触媒はCNT配向集合体の生産に好適な触媒に調製される。基材8は、例えば金属、シリコン、ガラス、セラミックス等を材料とする厚さ数μm〜数cmの基板部材である。もちろん、基材8の態様としては、基板以外に薄膜、ブロック、粉末等を概念することができ、特に体積比において表面積の大きな態様がカーボンナノチューブの生産において有利である。
【0056】
基材8の表面には、触媒層が形成されている。この触媒は、例えば上述したような金属触媒であってその厚さは0.1nm〜100nm程度とされている。本実施の形態においては、基材8表面への触媒層の形成は、製造装置S1とは別の塗布装置を利用した触媒材料の塗布により行われる。もちろん、製造装置S1がフォーメーションユニット2の上流側に塗布ユニットを有し、搬送ユニット7によって基材8がフォーメーションユニットに先立って塗布ユニットを通過するように構成されていてもよい。
【0057】
具体的には、触媒材料の塗布は、ウェットプロセス、ドライプロセスのいずれでも構わない。例えば、マスク、ナノインプリンティング、ソフトリソグラフィー、印刷、メッキ、スクリーン印刷、リソグラフィーのいずれかを用いたパターニング等を適用することができる。より好ましくは、金属蒸着フォトリソグラフィー、電子ビームリソグラフィー、マスクを用いた電子ビーム蒸着法によるパターニング、マスクを用いたスパッタ法によるパターニング等を適用することができる。
【0058】
なお、基材8の表面には触媒の塗布に先立って、すなわち触媒層の下層に浸炭防止層が形成されていてもよい。浸炭防止層は、上述したようにアルミナ等の金属酸化物、銅やアルミニウム等の金属を材料とする0.01μm〜1.0μm程度の薄層である。この浸炭防止層及び触媒層により、基材8の変形防止、カーボンナノチューブ配向集合体の生産効率の向上を図ることができる。
【0059】
本実施の形態においては、基材8の表裏面に浸炭防止層及び触媒層が形成されている。それにより、基材8の表裏両面においてカーボンナノチューブ配向集合体を成長させることができ、かつ両面からの浸炭が防止されるようになっている。
【0060】
表面に触媒層が形成された基材8は、搬送ユニット7によってフォーメーション炉内空間2a内部へと送られるようになっている。この搬送ユニット7は、ベルトコンベアのように循環回転式となっており、メッシュベルト7aに対して一定間隔でクリップ(懸架手段、保持手段)7cが取り付けられている。
【0061】
図2は、この搬送ユニット7におけるクリップ7c近傍を拡大して示す図である。クリップ7cは、基材8を懸架するためのもので、基材8の左右両端部を挟持して吊り下げることができるようになっている。その懸架状態において、基材8は、表裏面が鉛直方向(図1中の矢印B方向)に沿う方向とされ、表裏面の法線(すなわち、基材8の厚さ方向)が進行方向(図1中の矢印A方向)を向くように保持される。
【0062】
一連のクリップ7c同士の配置間隔は、搬送速度、カーボンナノチューブ配向集合体の時間当たりの必要生産量、基材8のサイズや懸架保持信頼性(搬送時の揺れや振動に対する影響の受け難さ)等の各種ファクターに応じて適宜設定される。懸架により基材8は立位状態で搬送されるので、表裏面の法線を矢印B方向に向けて基材8をベルト上に寝かせた状態で搬送する場合に比較して、隣接する基材8同士の間隔(距離)を充分に狭めることができる。その結果、搬送速度が同程度の速度の場合であっても、基材8をベルトに寝かせて搬送する場合に比べ、この懸架方式では単位時間当たりの基材8の通過数を大幅に増大させることができる。
【0063】
したがって、基材8の表裏面に生成されるカーボンナノチューブの配向集合体の単位時間当たりの生産量を増加させることができ、カーボンナノチューブ配向集合体の生産効率向上を図ることができる。
【0064】
更に、本実施の形態によれば、基材8の表面(片面)のみでなく、表裏面(両面)に浸炭防止層及び触媒層が形成されているので、カーボンナノチューブ配向集合体を基材8の表裏面に生成させることができる。基材8はベルト上に寝かされておらず、立位状態で懸架されているので、基材8の表裏面が両面とも他の部材等に殆ど接触していない。そのため、表裏面両面においてカーボンナノチューブ配向集合体の生成が可能であり、また、生成したカーボンナノチューブ配向集合体が他の部材等との接触により損傷を受けてしまったりすることがない。
【0065】
そのため、基材8の片面においてカーボンナノチューブ配向集合体を生成する場合に比較して、約2倍の生成量とすることができ、その点においても、本実施の形態に係る製造装置S1によってカーボンナノチューブ配向集合体の生産効率を向上させることができる。
【0066】
フォーメーション炉内空間2aの上流側には、入口パージ部1が設定されている。この入口パージ部1はフォーメーション炉内空間2a内部に外部空気が混入するのを防止するためのものである。
【0067】
入口パージ部1の作用により、フォーメーション炉内空間2a直前における基材8の周囲環境が空気からパージガスへと置換され、フォーメーション炉内空間2aへの空気の混入が防止される。パージガスは不活性ガスが使用される。ガスシール部3aは、入口パージ部1とフォーメーション炉内空間2aとの境界近傍に配置され、入口パージ部1から噴射されたパージガスと噴射部2bから噴射される還元ガス(後述)との混合ガスを排気する。
【0068】
フォーメーションユニット2は、フォーメーション炉内空間2aに還元ガスを噴射するための噴射部2bを有している。還元ガスは、基材8表面の触媒層を還元して活性化させるための還元性を有したガス(例えば、本実施の形態においては水素ガス。)であって、不活性ガス(例えば、ヘリウムガス)が混合されていてもよい。噴射部2bは、フォーメーション炉内空間2aに向けて還元ガスを噴射するように設定され、フォーメーション炉内空間2aを還元ガス環境とする。そして、ガスシール部3bがフォーメーション炉内空間2aと生成炉内空間4aとの境界近傍に配置され、負圧で還元/原料ガスの混合ガスを排気している。
【0069】
搬送ユニット7がメッシュベルト7a及びクリップ7cによりフォーメーション炉内空間2a内部から生成炉内空間4a内部へと基材8を搬送するように構成されており、フォーメーション炉内空間2aと生成炉内空間4aとの境界は部分的に連通しており完全に遮断されていない。しかしながら、このガスシール部3bがフォーメーション炉内空間2aと生成炉内空間4aとの境界近傍において還元/原料ガスの混合ガスを排気するので、生成炉内空間4a側への還元ガスが混入することが防止される。
【0070】
フォーメーションユニット2はフォーメーション炉内空間2a及び/又は基材8を加熱するためのヒーター2cを有している。このヒーター2cは、フォーメーション炉内空間2aの還元ガス及び/又はフォーメーション炉内空間2aに搬送された基材8を加熱することができれば何でもよく、抵抗加熱ヒーター、赤外線加熱ヒーター、電磁誘導式ヒーターなどが挙げられる。
【0071】
成長ユニット4は、フォーメーションの後に基材8の周囲環境を原料ガス環境とし、化学気相合成(CVD)によりカーボンナノチューブを基材8の表面に生成する成長工程を実現する機能を有している。成長ユニット4は、生成炉内空間4aに原料ガスを噴射するための噴射部4bを有している。原料ガスは、基材8表面にカーボンナノチューブを生成させるための炭素源ガス(本実施の形態においてはエチレンガス。)であり、不活性ガス(例えばヘリウムガス)が混合されていてもよい。噴射部4bは、生成炉内空間4aに向けて原料ガスを噴射するように設定され、生成炉内空間4aを原料ガス環境とする。そして、フォーメーション炉内空間2aと生成炉内空間4aとの境界近傍に配置されたガスシール部3bが、還元ガスと原料ガスの混合ガスを排気している。
【0072】
このガスシール部3bがフォーメーション炉内空間2aと生成炉内空間4aとの境界近傍において還元/原料ガスの混合ガスを排気するので、フォーメーション炉内空間2a側への原料ガスの混入が防止される。また、生成炉内空間4aと冷却炉内空間5aとの境界近傍にもガスシール部3cが配置され、生成炉内空間4aの原料ガスと冷却炉内空間5aの不活性ガスの混合ガスを排気している。したがって、冷却炉内空間5a側への原料ガスの混入、及び生成炉内空間4a側への不活性ガスの混入が防止される。
【0073】
成長ユニット4は生成炉内空間4a及び/又は基材8を加熱するためのヒーター4cを有している。このヒーター4cは、生成炉内空間4aの生成ガス及び/又は生成炉内空間4aに搬送された基材8を加熱することができれば何でもよく、抵抗加熱ヒーター、赤外線加熱ヒーター、電磁誘導式ヒーターなどが挙げられる。
【0074】
成長ユニット4は、更に水分添加部(触媒賦活物質添加部)を有していてもよい(非図示)。この水分添加部は、原料ガス中に触媒賦活物質としての水分を添加させて、生成炉内空間4aにある基材8の周囲環境に水分を添加するものである。この水分の添加により、基材8表面の触媒層の活性がより向上し、カーボンナノチューブの生成効率を大きく向上させることができる。その上、生成されたカーボンナノチューブの純度も大幅に向上させることができる。
【0075】
冷却ユニット5は、成長工程の後に基材8を冷却する冷却工程を実現する機能を有している。冷却ユニット5は、水冷方式、空冷方式又は輻射方式等を利用して冷却炉内空間5a内の基材8を冷却するためのものであり、例えば冷却炉内空間5aを囲むように配置された水冷冷却管5bを有している。もちろん、冷却ファン等により冷却炉内空間5a内の基材8に送風するものであってもよい。
【0076】
そして、冷却炉内空間5aの下流側には、出口パージ部6が設定されている。この出口パージ部6は冷却炉内空間5a内部に外部空気が混入するのを防止するためのものである。出口パージ部6の作用により、冷却炉内空間5a内部への空気の混入が防止される。
【0077】
以上のように、表面に触媒層を有する基材8が搬送ユニット7によって連続的に搬送されつつ、入口パージ部1、フォーメーションユニット2、成長ユニット4、冷却ユニット5を順次通過していく。その間、フォーメーションユニット2において還元ガス環境下で触媒が還元されると共に予熱が与えられ、成長ユニット4において原料ガス環境下で基材8表面にカーボンナノチューブが生成され、冷却ユニット5において冷却される。搬送ユニット7のメッシュベルト7aが各ユニットに跨るように配置され、基材8が連続的に搬送されるので、各ユニットの炉内空間の境界部分において物理的な遮断が行われず、各ユニットの炉内空間は工程中においても部分的に連通状態となっている。しかしながら、ガスシールユニット3による排気によって気流分離が行われているので、各ユニットの炉内空間内のガス環境が相互に混合してしまうのが効果的に防止されている。
【0078】
また、搬送ユニット7のクリップ7cにより基材8が立位状態で懸架保持されており、隣接する基材8間の距離が短く設定された状態において、カーボンナノチューブ配向集合体の生成が行われるので、単位時間当たりの基材8の処理枚数を増加させることができて、結果的にカーボンナノチューブ配向集合体の生産量を向上させることができる。しかも、基材8の両面においてカーボンナノチューブ配向集合体の生成を行えば、更に生産量向上に寄与することができる。
【0079】
以上、本発明の好ましい実施の形態を説明したが、本発明はこれらに限定されるものではなく、その要旨の範囲内で様々な変形や変更が可能である。
【0080】
例えば、ガス原料、加熱温度等の製造条件を変更することにより、この製造装置S1で生産されるカーボンナノチューブを単層のものや多層のものに変更することも可能であるし、両者を混在生産させることも可能である。また、本実施の形態においては、搬送ユニット7をベルトコンベア方式とし、フォーメーションユニット2、成長ユニット4、冷却ユニット5が直線状に配置される場合について説明したが、もちろん、搬送ユニット7がターンテーブル方式であり、各ユニットが環状に配置されて、ターンテーブル上の基材8が回転しながら各ユニット内を通過するように構成してもよい。また、各ユニットが鉛直方向に向けて順次配置されるようにして、フォーメーションユニット2の上方に成長ユニット4を配置し、その成長ユニット4の上方に冷却ユニット5を配置してももちろんよい。
【0081】
また、本実施の形態においては、搬送ユニット7を懸架方式としたが、搬送方向における単位時間当たりの基材8の通過数を増大させるための他の種々のバリエーションを本発明の要旨に含めることができる。例えば、図3に示すように、基材8の下面を保持する保持部材11を搬送ユニット7のベルト7a上に一定間隔で配置し、基材8を保持部材11によって立設保持して搬送するものとしてもよい。これらの方式は、搬送ユニット7による搬送方向と基材8の表裏面とが直交するように配置される(すなわち、搬送方向と表裏面の法線方向とが平行である。)方式であり、それによる単位時間当たりの基材8の通過数増大が図られている。
【0082】
図3に示す方式においては、搬送方向が水平方向である場合において、基材8の表裏面が鉛直面となるように配置されている。もちろん、搬送方向が水平でなく、水平面に対して傾斜(上り傾斜又は下り傾斜)している場合は、基材8の表裏面は鉛直面とならないが、その場合においても、搬送方向と基材8の表裏面とは直交関係にある。
【0083】
また、図4に示すように、基材8の表裏面と搬送方向とが平行となるように基材8を立設保持して搬送する方式も考えられる。この図4に示す方式においても、搬送方向が水平方向である場合において、基材8の表裏面が鉛直面となるように配置されている。
【0084】
更に、図5に示すように、基材8の下面をベルト7a上に載置した状態で、基材8を立て掛けることのできる壁部材(保持部材)12をベルト上に一定間隔で配置し、基材8を壁部材12に立て掛けて搬送してもよい。もちろんこの壁部材12による場合は、基材8の面の一部が壁部材12に接触するので、その接触部分以外の面においてカーボンナノチューブ配向集合体の生成を行うこととなる。
【0085】
なお、上記実施の形態においては、基材8は、表裏面の法線が進行方向を向いている。換言すれば、基材8の表裏面が搬送方向における前後方向を向くようにしてクリップ7cによって吊り下げられ、搬送されている。しかしながら、図6に示すように、クリップ7cによって、基材8の表裏面が搬送方向に対して側方を向くように、換言すれば、基材8の表裏面が搬送方向と平行になるように吊り下げられて搬送されるようになっていてもよい。
【0086】
このように、基材8の表裏面が搬送方向と平行になるように吊り下げて搬送することにより、基材8の姿勢安定性が一層良好となる。搬送開始時や停止時、搬送速度ばらつきが多少ある場合でも、基材8の揺れは最小限に抑えることができ、隣接する基材8同士が干渉する虞を低ゲインすることができる。しかも、隣接する基材8同士の対面が大面積の表裏面でなく小面積の側面となっているので、万一基材8同士が衝突したとしても、その場合の被害を最小限とすることができる。
【符号の説明】
【0087】
S1:製造装置(カーボンナノチューブの生産装置)
A,B:矢印
1:入口パージ部
2:フォーメーションユニット
2a:フォーメーション炉内空間
2b:噴射部
2c:ヒーター
3:ガスシールユニット
3a:ガスシール部
3b:ガスシール部
3c:ガスシール部
4:成長ユニット
4a:生成炉内空間
4b:噴射部
4c:ヒーター
5:冷却ユニット
5a:冷却炉内空間
5b:水冷冷却管
6:出口パージ部
7:搬送ユニット
7a:メッシュベルト
7b:ベルト駆動部
7c:クリップ(懸架手段、保持手段)
8:基材
11:保持部材
12:壁部材(保持部材)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
平板面に触媒層を有する平板状基材の該平板面にカーボンナノチューブを生成させるカーボンナノチューブ配向集合体の生産装置であって、
前記平板状基材の周囲環境を原料ガス環境として化学気相合成により前記カーボンナノチューブ配向集合体を前記平板面に生成する成長工程を実現する成長ユニットと、
該成長工程の後に前記平板状基材を冷却する冷却工程を実現する冷却ユニットと、
前記平板状基材を、前記成長ユニット及び前記冷却ユニットの順に各ユニット内部を通過させる搬送ユニットと、
該搬送中において、前記搬送ユニットによる搬送方向と前記平板面とが直交するように前記平板状基材を保持する保持手段と、を有するカーボンナノチューブ配向集合体の生産装置。
【請求項2】
平板面に触媒層を有する平板状基材の該平板面にカーボンナノチューブ配向集合体を生成させるカーボンナノチューブ配向集合体の生産装置であって、
前記平板状基材の周囲環境を原料ガス環境として化学気相合成により前記カーボンナノチューブ配向集合体を前記平板面に生成する成長工程を実現する成長ユニットと、
該成長工程の後に前記平板状基材を冷却する冷却工程を実現する冷却ユニットと、
前記平板状基材を、前記成長ユニット及び前記冷却ユニットの順に各ユニット内部を実質的に水平面内で通過させる搬送ユニットと、
該搬送中において、前記平板面が実質的に鉛直面となるように前記平板状基材を保持する保持手段と、を有するカーボンナノチューブ配向集合体の生産装置。
【請求項3】
平板面に触媒層を有する平板状基材の該平板面にカーボンナノチューブ配向集合体を生成させるカーボンナノチューブ配向集合体の生産装置であって、
前記平板状基材の周囲環境を原料ガス環境として化学気相合成により前記カーボンナノチューブ配向集合体を前記平板面に生成する成長工程を実現する成長ユニットと、
該成長工程の後に前記平板状基材を冷却する冷却工程を実現する冷却ユニットと、
前記平板状基材を、前記成長ユニット及び前記冷却ユニットの順に各ユニット内部を通過させる搬送ユニットと、
該搬送中において、前記平板状基材を懸架保持する懸架手段と、を有するカーボンナノチューブ配向集合体の生産装置。
【請求項4】
平板面に触媒層を有する平板状基材の該平板面にカーボンナノチューブ配向集合体を生成させるカーボンナノチューブ配向集合体の生産装置であって、
前記平板状基材の周囲環境を原料ガス環境として化学気相合成により前記カーボンナノチューブ配向集合体を前記平板面に生成する成長工程を実現する成長ユニットと、
該成長工程の後に前記平板状基材を冷却する冷却工程を実現する冷却ユニットと、
前記平板状基材を、前記成長ユニット及び前記冷却ユニットの順に各ユニット内部を通過させる搬送ユニットと、
該搬送中において、前記平板状基材を立設保持する立設手段と、を有するカーボンナノチューブ配向集合体の生産装置。
【請求項5】
前記平板状基材が表裏両面の前記平板面に前記触媒層を有しており、
前記成長ユニットが前記原料ガスを放出する原料ガス放出ノズルを複数有しており、かつ、
該原料ガス放出ノズルが前記表裏両面の前記平板面に向けて前記原料ガスを放出するように配置されている請求項1から請求項4のうちいずれか1項に記載のカーボンナノチューブ配向集合体の生産装置。
【請求項6】
平板面に触媒層を有する平板状基材の該平板面にカーボンナノチューブ配向集合体を生成させるカーボンナノチューブ配向集合体の生産方法であって、
前記平板面が実質的に鉛直面となるように前記平板状基材を保持した状態でその周囲環境を原料ガス環境として化学気相合成により前記カーボンナノチューブ配向集合体を前記平板面に生成する成長工程と、
該成長工程の後に前記平板状基材を冷却する冷却工程と、を有するカーボンナノチューブ配向集合体の生産方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2010−189196(P2010−189196A)
【公開日】平成22年9月2日(2010.9.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−32149(P2009−32149)
【出願日】平成21年2月16日(2009.2.16)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成19年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構委託研究「ナノテクノロジープログラム/カーボンナノチューブキャパシタ開発プロジェクト」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000229117)日本ゼオン株式会社 (1,870)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】