説明

カーボンナノチューブ配向集合体の製造方法及び製造装置

【課題】CNT配向集合体を連続的に製造する際に、CNTの収率及び品質の低下を防ぐことができる製造方法及び製造装置を提供する。
【解決手段】表面に触媒を有する複数の基材111上にカーボンナノチューブ配向集合体を成長させるカーボンナノチューブ配向集合体の製造方法であって、複数の基材111を成長炉104a内に連続的に搬入し、かつ成長炉104a内において前記触媒の周囲環境を原料ガス環境とすると共に前記触媒及び前記原料ガスのうち少なくとも一方を加熱して、前記カーボンナノチューブ配向集合体を成長させる成長工程と、少なくとも酸素原子を含むクリーニングガスを用いて成長炉104a内をクリーニングするクリーニング工程とを含み、前記成長工程と前記クリーニング工程とを交互に繰り返して行なう。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カーボンナノチューブ配向集合体の製造方法及び製造装置に関する。より詳しくは、本発明は、化学気相成長(CVD)法を用いてカーボンナノチューブ配向集合体を製造することができ、しかも長期間にわたり安定した品質のカーボンナノチューブが量産可能な、カーボンナノチューブの製造方法及び製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
カーボンナノチューブ(以下、「CNT」ともいう)は、炭素原子が平面的に六角形状に配置されて構成された炭素シートが、円筒状に閉じた構造を有する炭素構造体である。このCNTには、多層のもの及び単層のものがあるが、いずれもその力学的強度、光学特性、電気特性、熱特性、分子吸着機能等の面から、電子デバイス材料、光学素子材料、導電性材料等の機能性材料としての展開が期待されている。CNTの中でも単層CNTは、電気的特性(極めて高い電流密度)、熱的特性(ダイヤモンドに匹敵する熱伝導度)、光学特性(光通信帯波長域での発光)、水素貯蔵能、及び金属触媒担持能などの各種特性に優れている。その上、単層CNTは、半導体と金属との両特性を備えているため、ナノ電子デバイス、ナノ光学素子、及びエネルギー貯蔵体などの材料として注目されている。
【0003】
これらの用途にCNTを有効利用する場合、複数本のCNTが規則的な方向に配向して集まった束状、膜状、あるいは塊状の集合体を成し、そのCNT集合体が、電気・電子的、及び光学的などの機能性を発揮することが望ましい。CNTは、アスペクト比が極めて高い一次元的な構造を持つ材料であり、その機能も高い方向性を示す。そのため、CNT集合体(構造体)を構成する一本一本のCNTが規則的な方向に配向していると、個々のCNTの機能の方向性を揃えることができ、結果として、高機能なCNT集合体を得ることができる。
【0004】
すなわち、各CNTが規則的な方向に配向しているCNT配向集合体は、一本一本のCNTの向きが不規則な、つまり無配向なCNT集合体と比較して、配向方向についての伝達特性に高い指向性を示す。この高い指向性により、CNT集合体は、より良好な電気特性(例えばより高い導電性)、より良好な機械的特性(例えばより高い強度)、より良好な熱特性(例えばより高い熱伝導性)を示す。さらには、このようなCNT集合体の配向方向とそれ以外の方向とで異なる特性、つまり異方性は、例えば、熱などを所望の方向に選択的に拡散、排出したい場合などに有効であり、熱伝導材などの用途に好適である。また、CNT集合体は、その高さ、長さ等のサイズがより一層大きいことが望ましい。このようなCNT配向集合体が創製されれば、CNTの応用分野が飛躍的に拡大するものと予測される。
【0005】
一方、CNTの製造方法の一つに、化学気相成長法(以下、「CVD法」とも称する)が知られている。この方法は、約500℃〜1000℃の高温雰囲気下で炭素化合物を触媒の金属微粒子と接触させることを特徴としており、触媒の種類及び配置、あるいは炭素化合物の種類及び反応条件といった態様を様々に変化させた中でのCNTの製造が可能である。そのため、CNTの大量生産に適したものとして注目されている。またこのCVD法は、単層カーボンナノチューブ(SWCNT)と多層カーボンナノチューブ(MWCNT)とのいずれも製造可能である上、触媒を担持した基材を用いることで、基材面に垂直に配向した多数のCNTを製造することができる、という利点を備えている。
【0006】
しかし、CVD法では、CNTを成長させる成長炉の内壁に炭素質スケール(炭素汚れ)が付着し、CNTの収率及び品質の低下を招く。例えば特許文献1には、気相法によるCNTの製造において、所定時間運転後反応を停止し、反応炉内に不活性ガスを導入し、次いで酸素含有ガスを導入して反応炉壁に固着した炭素質スケールを燃焼除去する方法が記載されている。
【0007】
また、特許文献2には、基材表面に形成された触媒の周囲環境を還元ガス環境とすると共に触媒と還元ガスとの少なくとも一方を加熱した後、触媒の周囲環境を原料ガス環境とすると共に触媒と原料ガスとの少なくとも一方を加熱してカーボンナノチューブ配向集合体を成長させるカーボンナノチューブ配向集合体の製造装置において、還元ガス又は原料ガスに曝される装置部品の少なくとも1つの材質を表面が溶融アルミめっき処理された耐熱合金とすることで、炭素汚れの付着を抑制する方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平8−60445号公報(1996年3月5日公開)
【特許文献2】国際公開第2010/092787号パンフレット(2010年8月19日公開)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、従来技術では、複数の基板上にCNT配向集合体を連続的に製造する際に、効率よく成長炉内のクリーニングを行なう方法については、記載されていない。そのため、従来技術を用いて複数の基板上にCNT配向集合体を連続的に製造した際には、多くの炭素汚れが成長炉内に付着することにより、CNTの収率及び品質が低下するおそれが高いという問題がある。
【0010】
本発明は、上記の従来技術が有する問題に鑑みてなされたものであり、その目的は、CNT配向集合体を連続的に製造する際に、CNTの収率及び品質の低下を防ぐことができる製造方法及び製造装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の課題を解決するために、本発明に係るカーボンナノチューブ配向集合体の製造方法は、表面に触媒を有する複数の基材上にカーボンナノチューブ配向集合体を成長させるカーボンナノチューブ配向集合体の製造方法であって、前記複数の基材を成長炉内に連続的に搬入し、かつ前記成長炉内において前記触媒の周囲環境を原料ガス環境とすると共に前記触媒及び前記原料ガスのうち少なくとも一方を加熱して、前記カーボンナノチューブ配向集合体を成長させる成長工程と、少なくとも酸素原子を含むクリーニングガスを用いて前記成長炉内をクリーニングするクリーニング工程とを含み、前記成長工程と前記クリーニング工程とを交互に繰り返して行なう。
【0012】
上記の課題を解決するために、本発明に係るカーボンナノチューブ配向集合体の製造装置は、表面に触媒を有する複数の基材上にカーボンナノチューブ配向集合体を成長させるカーボンナノチューブ配向集合体の製造装置であって、前記触媒の周囲環境を原料ガス環境とすると共に前記触媒及び前記原料ガスのうち少なくとも一方を加熱して前記カーボンナノチューブ配向集合体を成長させる成長工程を実現する成長炉と、前記複数の基材を前記成長炉内に連続的に搬入する搬入手段と、少なくとも酸素原子を含むクリーニングガスを用いて前記成長炉内をクリーニングするクリーニング工程を実現するクリーニング手段とを備える。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、効率よく成長炉内をクリーニングすることができ、成長炉内に多くの炭素汚れが付着することを抑制することができる。そのため、CNT配向集合体を連続的に製造する際に、CNTの収率及び品質の低下を防ぐことができる製造方法及び製造装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明に係る製造装置の一実施形態を示す図である。
【図2】本発明の実施例1におけるCNT配向集合体のG/D比を示す図である。
【図3】本発明の実施例2におけるCNT配向集合体のG/D比を示す図である。
【図4】本発明の実施例3におけるCNT配向集合体のG/D比を示す図である。
【図5】本発明の比較例1におけるCNT配向集合体のG/D比を示す図である。
【図6】本発明の実施例と比較例とにおけるCNG配向集合体のG/D比を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
<CNT配向集合体>
まず、本発明により得られるCNT配向集合体について説明する。
【0016】
本発明において製造されるCNT配向集合体とは、触媒基板(基材)から成長した多数のCNTが特定の方向に配向した構造体をいう。CNT配向集合体の好ましい比表面積は、CNTが主として未開口のものにあっては、600m/g以上であり、より好ましくは、800m/g以上である。比表面積が高いほど、金属などの不純物、若しくは炭素不純物を重量の数十パーセント(40%程度)より低く抑えることができるので好ましい。
【0017】
重量密度は0.002g/cm以上、0.2g/cm以下であることが好ましい。重量密度が0.2g/cm以下であれば、CNT配向集合体を構成するCNT同士の結びつきが弱くなるので、CNT配向集合体を溶媒などに攪拌した際に、均質に分散させることが容易になる。つまり、重量密度が0.2g/cm以下とすることで、均質な分散液を得ることが容易となる。また重量密度が0.002g/cm以上であれば、CNT配向集合体の一体性を向上させ、バラけることを抑制できるため取扱いが容易になる。
【0018】
特定方向に配向したCNT配向集合体は高い配向度を有していることが好ましい。高い配向度とは、
1.CNTの長手方向に平行な第1方向と、第1方向に直交する第2方向とからX線を入射してX線回折強度を測定(θ−2θ法)した場合に、第2方向からの反射強度が、第1方向からの反射強度より大きくなるθ角と反射方位とが存在し、且つ第1方向からの反射強度が、第2方向からの反射強度より大きくなるθ角と反射方位とが存在すること。
【0019】
2.CNTの長手方向に直交する方向からX線を入射して得られた2次元回折パターン像でX線回折強度を測定(ラウエ法)した場合に、異方性の存在を示す回折ピークパターンが出現すること。
【0020】
3.ヘルマンの配向係数が、θ−2θ法又はラウエ法で得られたX線回折強度を用いると0より大きく1より小さいこと。より好ましくは0.25以上、1以下であること。
【0021】
以上の1.から3.の少なくともいずれか1つの方法によって評価することができる。また、前述のX線回折法において、単層CNT間のパッキングに起因する(CP)回折ピーク、(002)ピークの回折強度及び単層CNTを構成する炭素六員環構造に起因する(100)、(110)ピークの平行と垂直との入射方向の回折ピーク強度の度合いが互いに異なるという特徴も有している。
【0022】
CNT配向集合体が配向性、及び高比表面積を示すためには、CNT配向集合体の高さ(長さ)は10μm以上、10cm以下の範囲にあることが好ましい。高さが10μm以上であると、配向性が向上する。また高さが10cm以下であると、生成を短時間で行なえるため炭素系不純物の付着を抑制でき、比表面積を向上できる。
【0023】
CNT配向集合体のG/D比は好ましくは3以上、より好ましくは4以上である。G/D比とはCNTの品質を評価するのに一般的に用いられている指標である。ラマン分光装置によって測定されるCNTのラマンスペクトルには、Gバンド(1600cm−1付近)とDバンド(1350cm−1付近)と呼ばれる振動モードが観測される。GバンドはCNTの円筒面であるグラファイトの六方格子構造由来の振動モードであり、Dバンドは非晶箇所に由来する振動モードである。よって、GバンドとDバンドのピーク強度比(G/D比)が高いものほど、結晶性の高いCNTと評価できる。
【0024】
<製造装置100>
次に、本発明に係るカーボンナノチューブ配向集合体の製造装置(以下、単に本発明に係る製造装置という。)の一実施形態について、図1を参照して以下に説明する。図1は、本発明に係る製造装置の一実施形態を示す図である。本実施形態に係る製造装置100は、表面に触媒を有する複数の基材111上に連続的にCNT配向集合体を製造するものである。
【0025】
図1に示すように、製造装置100は、大略、入口パージ部101、フォーメーションユニット102、ガス混入防止手段103、成長ユニット104、冷却ユニット105、出口パージ部106、搬送ユニット(搬入手段)107、接続部108〜110、及び品質測定手段112により構成されている。
【0026】
フォーメーションユニット102、成長ユニット104、及び冷却ユニット105は、それぞれフォーメーション炉102a、成長炉104a、冷却炉105aを備えている。フォーメーション炉102a、成長炉104a、及び冷却炉105aの各炉内空間は、接続部108〜110によって空間的に連結された状態になっている。
【0027】
また、本実施形態に係る製造装置100について説明すると同時に、本発明に係るカーボンナノチューブ配向集合体の製造方法(以下、単に本発明に係る製造方法という。)の一実施形態についても併せて説明する。本発明に係る製造方法は、表面に触媒を有する複数の基材上にカーボンナノチューブ配向集合体を成長させるカーボンナノチューブ配向集合体の製造方法であって、前記複数の基材を成長炉内に連続的に搬入し、かつ前記成長炉内において前記触媒の周囲環境を原料ガス環境とすると共に前記触媒及び前記原料ガスのうち少なくとも一方を加熱して、前記カーボンナノチューブ配向集合体を成長させる成長工程と、少なくとも酸素原子を含むクリーニングガスを用いて前記成長炉内をクリーニングするクリーニング工程とを含み、前記成長工程と前記クリーニング工程とを交互に繰り返して行なう方法であり、本実施形態に係る製造方法では、フォーメーション工程及び冷却工程をさらに含む。
【0028】
〔基材111〕
まず基材111について、以下に説明する。
【0029】
基材111は、CNTの成長反応の触媒を担持している基材である。なお、触媒を担持している基材のことを、以下、「触媒基板」ともいう。
【0030】
基材111に用いる基板は、その表面にCNTの触媒を担持することのできる部材であればよく、400℃以上の高温でも形状を維持できることが好ましい。その材質としては、例えば、鉄、ニッケル、クロム、モリブデン、タングステン、チタン、アルミニウム、マンガン、コバルト、銅、銀、金、白金、ニオブ、タンタル、鉛、亜鉛、ガリウム、インジウム、ゲルマニウム、及びアンチモンなどの金属、並びにこれらの金属を含む合金及び酸化物;シリコン、石英、ガラス、マイカ、グラファイト、及びダイヤモンドなどの非金属;並びにセラミックなどを例示できる。金属はシリコン及びセラミックと比較して、低コストであるから好ましく、特に、Fe−Cr(鉄−クロム)合金、Fe−Ni(鉄−ニッケル)合金、Fe−Cr−Ni(鉄−クロム−ニッケル)合金等は好適である。
【0031】
基材111の態様としては、平板状、薄膜状、ブロック状、及び粉末状などが挙げられ、特に体積の割に表面積を大きくとれる平板状が大量に製造する場合において有利である。
【0032】
平板状の基材111を使用する場合、基材111の厚さに特に制限はなく、例えば数μm程度の薄膜から数cm程度までのものを用いることができる。好ましくは、0.05mm以上3mm以下である。基材111の厚さが3mm以下であれば、CVD工程で基材を十分に加熱することができCNTの成長不良を抑制することができ、また基材111のコストを低減できる。基材111の厚さが0.05mm以上であれば、浸炭による基材111の変形を抑え、また基材111自体のたわみが起こりにくいため基材111の搬送や再利用に有利である。なお、本明細書にいう浸炭とは基材111に炭素成分が浸透することをいう。
【0033】
平板状基材の形状、大きさに特に制限はないが、形状としては、長方形もしくは正方形のものを用いることができる。基材の一辺の大きさに特に制限はないが、CNTの量産性の観点から、大きいほど望ましい。
【0034】
(浸炭防止層)
基材111の表面及び裏面のうち少なくともいずれか一方には、浸炭防止層が形成されていてもよい。表面及び裏面の両面に浸炭防止層が形成されていることが望ましい。この浸炭防止層は、カーボンナノチューブの生成工程において、基材111が浸炭されて変形するのを防止するための保護層である。
【0035】
浸炭防止層は、金属又はセラミック材料によって構成されることが好ましく、特に浸炭防止効果の高いセラミック材料であることが好ましい。金属としては、銅及びアルミニウム等が挙げられる。セラミック材料としては、例えば、酸化アルミニウム、酸化ケイ素、酸化ジルコニウム、酸化マグネシウム、酸化チタン、シリカアルミナ、酸化クロム、酸化ホウ素、酸化カルシウム、酸化亜鉛などの酸化物、窒化アルミニウム、窒化ケイ素などの窒化物が挙げられ、なかでも浸炭防止効果が高いことから、酸化アルミニウム、酸化ケイ素が好ましい。
【0036】
(触媒)
基材111(基材111上に浸炭防止層が形成されている場合にはこの浸炭防止層上)には、触媒が担持されている。触媒としては、例えば、鉄、ニッケル、コバルト、モリブデン、ならびにこれらの塩化物及び合金、またこれらが、さらにアルミニウム、アルミナ、チタニア、窒化チタン、酸化シリコンと複合化し、又は層状になっていてもよい。例えば、鉄−モリブデン薄膜、アルミナ−鉄薄膜、アルミナ−コバルト薄膜、及びアルミナ−鉄−モリブデン薄膜、アルミニウム−鉄薄膜、アルミニウム−鉄−モリブデン薄膜などを例示することができる。触媒の存在量としては、CNTの製造が可能な範囲であればよい。例えば鉄を用いる場合、製膜厚さは、0.1nm以上100nm以下が好ましく、0.5nm以上5nm以下がさらに好ましく、0.8nm以上2nm以下が特に好ましい。
【0037】
基板表面への触媒の形成は、ウェットプロセス又はドライプロセスのいずれを適用してもよい。具体的には、スパッタリング蒸着法や、金属微粒子を適宜な溶媒に分散させた液体の塗布・焼成による方法などを適用することができる。また周知のフォトリソグラフィーやナノインプリンティング等を適用したパターニングを併用して触媒を任意の形状とすることもできる。
【0038】
本発明の製造方法においては、基板上に成膜する触媒のパターニング及びCNTの成長時間により、薄膜状、円柱状、角柱状、及びその他の複雑な形状をしたものなど、CNT配向集合体の形状を任意に制御することができる。特に薄膜状のCNT配向集合体は、その長さ及び幅寸法に比較して厚さ(高さ)寸法が極端に小さいが、長さ及び幅寸法は、触媒のパターニングによって任意に制御可能であり、厚さ寸法は、CNT配向集合体を構成する各CNTの成長時間によって任意に制御可能である。
【0039】
次に、製造装置100の各構成部材について詳細に説明する。
【0040】
〔入口パージ部101〕
製造装置100の入口には入口パージ部101が設けられている。入口パージ部101とは基材111の入口から装置炉内へ外部空気が混入することを防止するための装置一式のことである。入口パージ部101は、装置内に搬送された基材111の周囲環境をパージガスで置換する機能を有する。
【0041】
入口パージ部101は、パージガスを上下からシャワー状に噴射するガスカーテン構造となっている。これにより、入口から製造装置100内に外部の空気が混入することを防止している。入口パージ部101は、例えば、パージガスを保持するための炉又はチャンバ、パージガスを噴射するための噴射部等により構成されてもよい。
【0042】
パージガスは不活性ガスが好ましく、特に安全性、コスト、パージ性等の点から窒素であることが好ましい。
【0043】
本実施形態のように搬送ユニット107がベルトコンベア方式である場合など、基材111の入口が常時開口しているような場合には、入口パージ部101は上述したガスカーテン構造であることが好ましい。この構成により、基材111の入口から製造装置100の内部に外部の空気が混入することを防止することができる。
【0044】
〔フォーメーションユニット102〕
フォーメーションユニット102とは、フォーメーション工程を実現するための装置一式のことである。フォーメーションユニット102は、基材111の表面に形成された触媒の周囲環境を還元ガス環境にすると共に、触媒及び還元ガスのうち少なくとも一方を加熱する機能を有する。
【0045】
フォーメーションユニット102は、還元ガスを保持するためのフォーメーション炉102aと、還元ガスをフォーメーション炉102a内に噴射するための噴射部102bと、触媒及び還元ガスの少なくとも一方を加熱するためのヒーター102cとにより構成される。
【0046】
還元ガスの噴射部102b、104bには、複数の噴出孔を備えるシャワーヘッドを用いてもよい。かかる噴射部102bは、基材111の触媒形成面を臨む位置に設けられている。臨む位置とは、各噴出孔における噴射軸線と基材111の法線との成す角が0以上90°未満となる位置である。つまり噴射部102bにおける噴出孔から噴出するガス流の方向が、基材111に概ね直交するようにされている。
【0047】
噴射部102bにこのようなシャワーヘッドを用いれば、還元ガスを基材111上に均一に散布することができ、効率良く触媒を還元することができる。その結果、基材111上に成長するCNT配向集合体の均一性を高めることができ、かつ還元ガスの消費量を削減することもできる。
【0048】
ヒーター102cとしては加熱することができるものであれば限定されず、例えば、抵抗加熱ヒーター、赤外線加熱ヒーター、電磁誘導式ヒーターなどが挙げられる。加熱の温度としては400℃から1100℃の範囲が好ましい。
【0049】
(還元ガス)
還元ガスは、一般的には、触媒の還元、触媒のCNTの成長に適合した状態である微粒子化の促進、及び触媒の活性向上のうち少なくとも一つの効果を持つ、CNTの成長温度において気体状のガスである。還元ガスとしては、例えば水素ガス、アンモニア、水蒸気及びそれらの混合ガスを適用することができる。また、水素ガスをヘリウムガス、アルゴンガス、窒素ガス等の不活性ガスと混合した混合ガスでもよい。還元ガスは、一般的には、フォーメーション工程で用いるが、適宜成長工程に用いてもよい。
【0050】
(フォーメーション工程)
フォーメーション工程とは、基材111に担持された触媒の周囲環境を還元ガス環境とすると共に、触媒及び/又は還元ガスを加熱する工程である。この工程により、触媒の還元、触媒のCNTの成長に適合した状態である微粒子化の促進、及び触媒の活性向上のうち少なくとも一つの効果が現れる。
【0051】
フォーメーション工程における触媒及び/又は還元ガスの温度は、好ましくは400℃以上、1100℃以下である。またフォーメーション工程の時間は、3分以上、30分以下が好ましく、3分以上、8分以下がより好ましい。フォーメーション工程の時間がこの範囲であれば、触媒微粒子の粗大化が防止され、成長工程における多層カーボンナノチューブの生成を抑制することができる。
【0052】
例えば、触媒金属として鉄を用いる場合、水酸化鉄薄膜又は酸化鉄薄膜が形成され、同時もしくはその後に還元、微粒子化がおこり、鉄の微粒子が形成される。そして触媒担持膜の金属がアルミナ、触媒金属が鉄である場合、鉄触媒層は還元されて微粒子化し、アルミナ層上にナノメートルサイズの鉄微粒子が多数形成される。これにより触媒はCNT配向集合体の生産に好適な触媒に調製される。
【0053】
〔成長ユニット104〕
成長ユニット104とは、成長工程を実現するための装置一式のことである。
【0054】
成長工程とは、詳しくは後述するが、複数の基材111を成長炉104a内に連続的に搬入し、かつ成長炉104a内において触媒の周囲環境を原料ガス環境とすると共に触媒及び原料ガスのうち少なくとも一方を加熱して、カーボンナノチューブ配向集合体を成長させる工程である。
【0055】
成長ユニット104は、成長工程を実現することにより、触媒の周囲環境を原料ガス環境とすると共に、触媒及び原料ガスのうち少なくとも一方を加熱することでCNT配向集合体を成長させる機能を有する。
【0056】
成長ユニット104は、具体的には、原料ガス環境を保持するための成長炉104a、成長炉104a内に原料ガス及びクリーニングガスを噴射するための噴射部104b、触媒及び原料ガスのうち少なくとも一方を加熱するためのヒーター104c、ならびにクリーニング手段により構成される。なお、成長ユニット104は、さらに触媒賦活物質添加部を備えていてもよい。
【0057】
原料ガス及びクリーニングガスの噴射部104bには、複数の噴出孔を備えるシャワーヘッドを用いてもよい。かかる噴射部104bは、基材111の触媒形成面を臨む位置に設けられている。臨む位置とは、各噴出孔における噴射軸線と基材111の法線との成す角が0以上90°未満となる位置である。つまり噴射部104bにおける噴出孔から噴出するガス流の方向が、基材111に概ね直交するようにされている。
【0058】
噴射部104bにこのようなシャワーヘッドを用いれば、原料ガスを基材上に均一に散布することができ、効率良く原料ガスを消費することができる。その結果、基材111上に成長するCNT配向集合体の均一性を高めることができ、かつ原料ガスの消費量を削減することもできる。
【0059】
なお、クリーニングガスのための噴射部を、原料ガスの噴射部とは別に設ける場合には、クリーニングガスの噴射部は、成長ユニット104の内壁に効率よくクリーニングガスを散布することができる位置であれば、いずれの位置に設けてもよい。本実施形態のように、原料ガスとクリーニングガスとを同じ噴射部から噴射させる場合には、成長ユニットに噴射部を1つ設ければよいため、製造が容易となる。
【0060】
ヒーター104cとしては加熱することができるものであれば限定されず、例えば、抵抗加熱ヒーター、赤外線加熱ヒーター、電磁誘導式ヒーターなどが挙げられる。加熱の温度としては400℃から1100℃の範囲が好ましい。
【0061】
本発明であれば、成長ユニット104の壁材が耐熱合金等の金属であっても、後述するクリーニング手段を備えているため、連続製造時におけるCNT配向集合体の製造量低下及び品質低下を抑制することができる。
【0062】
なお、本実施形態においては、1つの噴射部104bが原料ガスの噴射部とクリーニングガスの噴射部との両方を兼ねる場合について説明するが、本発明はこれに限られない。つまり、本発明に係る製造装置は、原料ガスを噴射する噴射部と、クリーニングガスを噴射する噴射部とをそれぞれ備えていてもよい。
【0063】
(原料ガス)
原料ガスとしては、CNTの原料となる物質であればよく、例えば、成長温度において原料炭素源を有するガスである。なかでもメタン、エタン、エチレン、プロパン、ブタン、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、プロピレン、及びアセチレンなどの炭化水素が好適である。この他にも、メタノール、エタノールなどの低級アルコールでもよい。これらの混合物も使用可能である。またこの原料ガスは、不活性ガスで希釈されていてもよい。
【0064】
(不活性ガス)
不活性ガスとしては、CNTが成長する温度で不活性であり、触媒の活性を低下させず、且つ成長するカーボンナノチューブと反応しないガスであればよい。例えば、ヘリウム、アルゴン、窒素、ネオン、及びクリプトンなど、並びにこれらの混合ガスを例示でき、特に窒素、ヘリウム、アルゴン、及びこれらの混合ガスが好適である。
【0065】
(触媒賦活物質)
成長工程において、CNTの成長反応が行なわれる雰囲気中に触媒賦活物質を存在させることがより好ましい。触媒賦活物質としては、酸素原子を含む物質がより好ましく、CNTの成長温度でCNTに多大なダメージを与えない物質であることがさらに好ましい。例えば、水、酸素、オゾン、酸性ガス、酸化窒素;一酸化炭素及び二酸化炭素などの低炭素数の含酸素化合物;エタノール、メタノールなどのアルコール類;テトラヒドロフランなどのエーテル類;アセトンなどのケトン類;アルデヒド類;エステル類;並びにこれらの混合物が有効である。この中でも、水、酸素、二酸化炭素、一酸化炭素、エーテル類が好ましく、特に水及び二酸化炭素が好適である。
【0066】
触媒賦活物質の添加量に格別な制限はないが、触媒の周囲環境中の濃度で、水の場合には、好ましくは10ppm以上10000ppm以下、より好ましくは50ppm以上1000ppm以下、さらに好ましくは200ppm以上700ppm以下の範囲とするとよい。
【0067】
触媒賦活物質の機能のメカニズムは、現時点では以下のように推測される。CNTの成長過程において、副次的に発生したアモルファスカーボン及びグラファイトなどが触媒に付着すると触媒は失活してしまいCNTの成長が阻害される。しかし、触媒賦活物質が存在すると、アモルファスカーボン及びグラファイトなどを一酸化炭素及び二酸化炭素などに酸化させることでガス化するため、触媒層が清浄化され、触媒の活性を高め且つ活性寿命を延長させる作用(触媒賦活作用)が発現すると考えられている。
【0068】
なお、例えばアルコール類や一酸化炭素などのような炭素原子と酸素原子とを含有する化合物は、原料ガスとしても触媒賦活物質としても作用し得る。例えば、これらをエチレンなどの分解して炭素源となりやすい原料ガスと併用する場合は触媒賦活物質として作用し、また水などの活性が高い触媒賦活物質と併用する場合は原料ガスとして作用するものと推測される。さらに、一酸化炭素などは、分解して生じる炭素原子がCNTの成長反応の炭素源となる一方で、酸素原子がアモルファスカーボン及びグラファイトなどを酸化してガス化する触媒賦活物質としても作用するものと推測される。
【0069】
(触媒賦活物質添加部)
触媒賦活物質添加部(図示せず)は、触媒賦活物質を原料ガス中に添加する、あるいは成長ユニット104内空間にある触媒の周囲環境に触媒賦活物質を直接添加するための装置一式のことである。触媒賦活物質の供給手段としては、特に限定されることはないが、例えば、バブラーによる供給、触媒賦活剤を含有した溶液を気化しての供給、気体そのままでの供給、及び固体触媒賦活剤を液化・気化しての供給などが挙げられ、気化器、混合器、攪拌器、希釈器、噴霧器、ポンプ、及びコンプレッサなどの各種の機器を用いた供給システムを構築することができる。さらには、触媒賦活物質の供給管などに触媒賦活物質濃度の計測装置を設けていてもよい。この出力値を用いてフィードバック制御することにより、経時変化の少ない安定な触媒賦活物質の供給を行なうことができる。
【0070】
触媒賦活物質の噴射部にも、上述した還元ガス、原料ガス、クリーニングガスの噴射部で用いるシャワーヘッドを用いてもよい。触媒賦活物質の噴射部としてこのようなシャワーヘッドを用いれば、触媒賦活物質を基材111上に均一に散布することができ、触媒の活性を高めることができると共に寿命を延長させることができる。そのため、CNT配向集合体の成長を長時間継続させることが可能となる。触媒賦活物質は、原料ガスに添加し、原料ガスとともに噴射部104bから噴射させてもよく、この場合にも同様の効果を得ることができる。
【0071】
(高炭素濃度環境)
原料ガス雰囲気下では、高炭素濃度環境であることが好ましい。高炭素濃度環境とは、全流量に対する原料ガスの割合が2〜20%程度の成長雰囲気のことをいう。特に触媒賦活物質存在下においては、触媒活性が著しく向上するため、高炭素濃度環境化においても、触媒は活性を失わず、長時間のCNTの成長が可能となると共に、成長速度が著しく向上する。しかしながら、高炭素濃度環境では低炭素濃度環境に比べ、炉壁などに炭素汚れが大量に付着しやすい。本発明に係る製造方法によれば、効率よく炭素汚れをクリーニングすることが可能であり、CNT配向集合体の生産性に優れる。
【0072】
(成長工程)
成長工程とは、上述のように、複数の基材111を成長炉104a内に連続的に搬入し、かつ成長炉104a内において触媒の周囲環境を原料ガス環境とすると共に触媒及び原料ガスのうち少なくとも一方を加熱して、カーボンナノチューブ配向集合体を成長させる工程である。すなわち、成長工程では、化学気相成長法(CVD)法により基材上にカーボンナノチューブ配向集合体を成長させる。
【0073】
例えば、成長工程では、複数の基材111が連続的に搬入されている成長炉104aに、原料ガスを供給した後に、又はCNTの原料ガスを供給しながら、CVD法により基材111上にCNT配向集合体を成長させればよい。
【0074】
成長工程において、CNTの成長反応が行なわれる雰囲気中に触媒賦活物質を存在させることがより好ましい。触媒賦活物質の添加によって、カーボンナノチューブの生産効率や純度をより一層改善することができる。
【0075】
触媒及び原料ガスのうち少なくとも一方を加熱するにあたって、その両方を加熱することがより好ましい。また、加熱する温度としては、CNTの成長が可能な温度であればよいが、好ましくは400℃以上、1100℃以下であり、より好ましくは600℃以上、900℃以下である。特に触媒賦活物質を添加する場合には、上記温度範囲であれば、触媒賦活物質の効果を良好に発現させることができ、かつ触媒賦活物質がCNTと反応することを抑制できる。
【0076】
成長工程における圧力は、10Pa以上、10Pa(100気圧)以下が好ましく、10Pa以上、3×10Pa(3大気圧)以下がさらに好ましい。
【0077】
(クリーニング手段)
クリーニング手段とは、クリーニング工程を実現するための装置一式のことであり、少なくとも酸素原子を含むクリーニングガスを用いて成長ユニット104内をクリーニングする機能を有する。
【0078】
クリーニング工程とは、詳しくは後述するが、少なくとも酸素原子を含むクリーニングガスを用いて成長炉内をクリーニングする工程である。本発明に係る製造方法では、成長工程とクリーニング工程とを交互に繰り返して行なう。これにより、CNT配向集合体の製造を連続的に行なうことができる。
【0079】
クリーニング手段は、具体的には、成長ユニット104内にクリーニングガスを噴射するための噴射部104b、及び噴射部にクリーニングガスを供給するための配管104bbにより構成される。
【0080】
噴射部104bは、原料ガスを供給するための配管104baと、配管104bbとのそれぞれに接続されている。これにより、噴射部104bは、原料ガス又はクリーニングガスのいずれかを噴射するようになっている。
【0081】
噴射部104bは、成長工程においては原料ガスを噴射し、クリーニング工程においてはクリーニングガスを噴射する。この切り替えは、手動で制御されてもよいし、図示しない制御手段によって制御されてもよい。
【0082】
(クリーニングガス)
クリーニングガスとしては、成長炉104aの炉壁に対してクリーニングを行なうことができるガスであればよく、少なくとも酸素原子を含む。例えば、酸素、水蒸気、及び二酸化窒素が挙げられる。また、クリーニングガスは、酸素原子を含むガス以外に、例えば不活性ガスを含んでいてもよい。中でもコストの観点から、酸素原子を含むガスが酸素であり、不活性ガスとして窒素を含むガス、例えば空気を用いることが好ましい。クリーニングとは、炉壁に付着したアモルファスカーボン及びグラファイト等の炭素系副生物をガス化した後除去することをいう。炉壁に付着した炭素系副生物を除去するとの観点からは、クリーニングガスは炭素原子を含まないことが好ましい。
【0083】
クリーニングガスにおける酸素原子を含むガスの濃度は0.001体積%〜0.1体積%であることがより好ましく、0.003体積%〜0.08体積%であることがさらに好ましい。このような濃度であることにより、クリーニング直後から、高品質のCNT配向集合体の製造が可能である。
【0084】
(クリーニング工程)
クリーニング工程とは、上述のように、少なくとも酸素原子を含むクリーニングガスを用いて成長炉内をクリーニングする工程である。クリーニング工程では、クリーニングガスを成長炉104a内に供給することによって、炉壁に付着した炭素系副生物をガス化させることができる。
【0085】
クリーニング工程においては、クリーニング手段により成長ユニット104内に供給されたクリーニングガスによって、炉壁に付着した炭素系副生物がガス化される。これにより、成長ユニット104内がクリーニングされる。
【0086】
クリーニング工程における成長炉104a内の温度は、400〜900℃であることがより好ましく、600〜700℃であることがさらに好ましい。このような温度範囲であることにより、炉壁に付着した炭素汚れを短時間で除去することができる。また、クリーニング工程と成長工程とで成長炉104a内の温度差が小さいので、成長工程とクリーニング工程とを繰り返して行う本発明の製造方法において、クリーニング工程後に成長工程を開始するまでの時間を短くでき、生産性よく高品質のCNT配向集合体を製造することができる。
【0087】
クリーニング工程の時間は、好ましくは15分〜180分、より好ましくは30分〜120分、さらに好ましくは45分〜90分である。クリーニング工程の時間がこの範囲であれば、短時間で効率よく成長炉104a内をクリーニングすることが可能である。
【0088】
本発明に係る製造方法では、成長工程とクリーニング工程とを交互に繰り返して行なう。これにより、CNT配向集合体の製造を連続的に行なうことができる。
【0089】
すなわち、本発明に係る製造方法は、複数の基材のうちの一部に対して行なう第1の成長工程と、第1の成長工程の後に行なうクリーニング工程と、クリーニング工程の後に当該一部を除く残りの基板に対して行なう第2の成長工程とを含むということもできる。
【0090】
なお、本発明は、成長工程後であってクリーニング工程の前に、基材111の成長炉104a内への搬入を停止させ、かつ成長炉104a内への原料ガスの供給を停止させる工程を含むことが好ましい。この工程では、例えば、まず成長炉104a内への基材111の搬入を停止させ、成長炉104a内にある基材111が全て成長炉104a外に搬出された後に、原料ガスの供給を停止させてもよい。
【0091】
また、本発明は、クリーニング工程後であって成長工程の前に、基材111の成長炉104a内への搬入を開始させ、かつ成長炉104a内への原料ガスの供給を開始させる工程を含むことが好ましい。
【0092】
本発明では、クリーニング工程を行なうことによって、CNT配向集合体を連続的に製造する場合にも、成長炉内を効率よくクリーニングすることができる。したがって、CNTの収率及び品質の低下を防ぐことができる。
【0093】
また、本発明に係る製造方法は、成長工程を行ないながら、成長させたCNT配向集合体の品質を測定し、測定された品質が所定の条件を満たさない場合にクリーニング工程を行なってもよい。品質の測定は、例えば後述する品質測定手段によって行なうことができる。
【0094】
CNT配向集合体の品質は、CNT配向集合体の特性とも言い換えることができる。品質とは、例えば、CNT配向集合体のG/D比、高さ、重量、比表面積等が挙げられる。なかでも、短時間で測定することができることから、G/D比が好ましい。また、これらのうちの1つを測定してもよいし、2つ以上を測定してもよい。
【0095】
G/D比は、例えばラマン分光法を用いて測定することができる。
【0096】
また、品質測定は、成長工程において成長させたCNT配向集合体の全てに対して行なってもよいし、一部に対して行なってもよい。例えば、品質測定を、所定の数の基板おきに行なってもよい。所定の数とは、1個であってもよいし、2個以上であってもよい。
【0097】
所定の条件とは、予め設定される条件であり、製造されるCNT配向集合体に求められる特性に基づいて設定されることが好ましい。例えば、所定の条件は、G/D比が所定の値以上であるという条件であってもよい。すなわち、測定されたG/D比が所定の値以上である場合には、成長工程を続行し、所定の値未満である場合には、クリーニング工程を行なってもよい。
【0098】
ここで、クリーニング工程を行なうタイミングを適切に決めることは、CNTの生産効率を向上させるために重要である。クリーニング工程を行なう頻度が低いと、多くの炭素汚れが成長炉内に付着することにより、CNTの収率及び品質が低下してしまう。また、頻繁にクリーニング工程を行なうと、反応を停止させる頻度が高いため、CNTの生産効率が低くなってしまう。
【0099】
しかし上述した構成であれば、クリーニング工程を行なうタイミングを適切に決定することができるため、CNTを連続的に製造する際に、効率よく成長炉内をクリーニングすることができる。したがって、炭素汚れが成長炉内に付着することを抑制することによりCNTの収率及び品質の低下を防止することができるとともに、CNTの生産効率を向上させることができる。これにより、高品質のCNTを高収率で製造することができる。
【0100】
〔品質測定手段112〕
品質測定手段112とは、成長させたCNT配向集合体の品質を測定するための装置一式のことである。品質測定手段112は、冷却ユニット105の出口に設けられており、成長ユニット104において成長されたCNT配向集合体の品質を測定する機器である。
【0101】
具体的には、品質測定手段112は、CNT配向集合体の品質を測定するための測定機器等により構成されてもよい。測定機器は、品質がCNT配向集合体のG/D比の場合にはラマン分光装置等、CNT配向集合体の高さの場合にはレーザ変位計、CNT配向集合体の重量の場合には重量計等、CNT配向集合体の比表面積の場合には比表面積測定装置等であってもよい。
【0102】
なお、本実施形態においては、品質測定手段112が冷却ユニット105の出口に設けられている場合について説明するが、本発明はこれに限られない。品質測定手段112は、成長ユニット104から搬出された基材111に対して測定できるように構成されていればよく、例えば、成長ユニット104と冷却ユニット105との間に設けられていてもよいし、製造装置100における基材111の出口より外側に設けられていてもよい。なお、品質測定手段112は、成長ユニット104の出口と製造装置100における基材111の出口との間のどこかに設けられていることが好ましい。
【0103】
〔冷却ユニット105〕
冷却ユニット105とは、冷却工程を実現するため、すなわちCNT配向集合体が成長した基材111を冷却するための装置一式のことである。冷却ユニット105は、成長工程後のCNT配向集合体、触媒、及び基材111を冷却する機能を有する。
【0104】
冷却ユニット105は、水冷方式と空冷方式とを組み合わせた構成であり、不活性ガスを保持するための冷却炉105a、冷却炉105a内空間に不活性ガスを噴射する冷却ガス噴射部105b、及び冷却炉105a内空間を囲むように配置した水冷冷却管105cにより構成される。なお、冷却ユニットは、水冷方式のみの構成又は空冷方式のみの構成であってもよい。
【0105】
冷却ユニット105にて冷却することにより、成長工程後のCNT配向集合体、触媒、及び基材111の酸化を防止することができる。
【0106】
(冷却工程)
冷却工程とは、成長工程後に、CNT配向集合体、触媒、及び基材を不活性ガス下において冷却する工程である。成長工程後のCNT配向集合体、触媒、及び基材は、高温状態にあるため、酸素存在環境下に置かれると酸化してしまうおそれがある。これを防ぐために、冷却工程では、不活性ガス環境下でCNT配向集合体、触媒、及び基材を冷却する。冷却工程における温度は400℃以下であり、さらに好ましくは200℃以下である。
【0107】
〔搬送ユニット107〕
搬送ユニット107とは、複数の基材111を製造装置100内に連続的に搬入するために必要な装置一式のことである。搬送ユニット107はメッシュベルト107aとベルト駆動部107bとを備えている。基材111は、搬送ユニット107によって各炉内空間をフォーメーションユニット102、成長ユニット104、冷却ユニット105の順に搬送されるようになっている。
【0108】
搬送ユニット107は、ベルトコンベア式のものであり、フォーメーション炉102a内空間から成長炉104a内空間を経て冷却炉105a内空間へと、表面に触媒が形成された基材111を搬送する。搬送ユニット107は、例えば減速機付き電動モータなどを用いたベルト駆動部107bで駆動されるメッシュベルト107aによって搬送する。そして、フォーメーション炉102a内空間と成長炉104a内空間との間、及び成長炉104a内空間と冷却炉105a内空間との間は、接続部109、110によって空間的に接続されている。これにより、基材111を載置したメッシュベルト107aは、各炉間を通過することができる。
【0109】
なお、本発明における搬送ユニットとしては、上述した構成に限らず、例えば、マルチチャンバ方式におけるロボットアーム、ロボットアーム駆動装置等などであってもよい。
【0110】
〔接続部108〜110〕
接続部108〜110とは、各ユニットの炉内空間を空間的に接続し、基材111がユニットからユニットへ搬送されるときに、基材111が外気に曝されることを防ぐための装置一式のことである。接続部108〜110としては、例えば、基材周囲環境と外気とを遮断し、基材111をユニットからユニットへ通過させることができる炉又はチャンバなどが挙げられる。
【0111】
入口パージ部101とフォーメーションユニット102とは接続部108によって空間的に接続されている。接続部108には、ガス混入防止手段103の排気部103aが配置されており、入口パージ部101において噴射されたパージガスと噴射部102bから噴射された還元ガスとの混合ガスが排気される。これによって、フォーメーション炉102a内空間へのパージガスの混入及び入口パージ部101側への還元ガスの混入が防止される。
【0112】
フォーメーションユニット102と成長ユニット104とは接続部109によって空間的に接続されている。接続部109には、ガス混入防止手段103の排気部103bが配置されており、フォーメーション炉102a内空間の還元ガスと成長炉104a内空間の原料ガス又はクリーニングガスとの混合ガスを排気している。これにより、フォーメーション炉102a内空間への原料ガス又はクリーニングガスの混入及び成長炉104a内空間への還元ガスの混入が防止される。
【0113】
成長ユニット104と冷却ユニット105とは接続部110によって空間的に接続されている。接続部110には、ガス混入防止手段103の排気部103cが配置されており、成長炉104a内空間の原料ガス又はクリーニングガスと冷却炉105a内空間の不活性ガスとの混合ガスを排気している。これにより、冷却炉105a内空間への原料ガス又はクリーニングガスの混入及び成長炉104a内空間への不活性ガスの混入が防止される。
【0114】
なお、成長ユニット104と冷却ユニット105との間の接続部110を加熱する加熱手段をさらに備えていてもよい。ここで、成長炉104aの出口付近の温度が低下すると、原料ガスの分解物がアモルファスカーボンとなって、CNTの先端部に堆積する可能性がある。これによって、基材から垂直方向に成長するCNTにおける先端部(top)のG/D比が、根元部(bottom)のG/D比よりも小さくなる可能性がある。
【0115】
しかし、成長ユニット104と冷却ユニット105との間の接続部110を加熱することにより、先端部のG/D比と根元部のG/D比との差を小さくすることができる。そのため、品質の安定したCNT配向集合体を得ることが可能になる。
【0116】
加熱手段の具体的な形態としては、例えば、後述するガス混入防止手段103のうち、成長ユニット104と冷却ユニット105の間のものに用いられるシールガスを加熱するものであってもよい。シールガスを加熱することによって成長炉104aの出口及びその付近を加熱することができる。
【0117】
また、加熱手段は、成長炉104aの出口を成長炉104a外から加熱するものであればよい。つまり、ここで説明するような、冷却ユニット105、及び、成長ユニット104と冷却ユニットとを接続する接続部110を備えない形態であっても、成長炉104aの出口を成長炉104a外から加熱する加熱手段を設けることにより、先端部のG/D比と根元部のG/D比との差を小さくすることができる。
【0118】
〔ガス混入防止手段103〕
ガス混入防止手段103は、各ユニットの炉内空間に存在するガスが、相互に混入することを防ぐ機能を実現するための装置一式のことである。ガス混入防止手段103は、各ユニットの炉内空間を互いに空間的に接続する接続部108〜110に設置される。ガス混入防止手段103は、接続部108〜110及び/又は各ユニットの接続部108〜110近傍のガスを系外に排出する排気部103a〜103cを備えている。
【0119】
なお、ガス混入防止手段103としては、本実施形態における構成に限らず、例えば、基材111がユニットからユニットに移動する時間以外の時間に、各ユニットの空間的な接続を機械的に遮断するゲートバルブ装置であってもよい。また、各ユニットの空間的な接続を不活性ガス噴射によって遮断するガスカーテン装置であってもよい。
【0120】
ガス混入防止を確実に行うためには、ゲートバルブ装置及び/又はガスカーテンと排気装置とを併用することが好ましい。また、基材のユニット−ユニット間搬送を途切れなく行なうことによって連続的なCNT成長を効率的に行なうという観点、及び製造装置の簡素化の観点からは、排気装置を単独で用いることがより好ましい。
【0121】
また、本発明におけるガス混入防止手段は、各炉における基材の入口及び出口の開口面に沿ってシールガスを噴出するシールガス噴射部と、主に噴射されたシールガス(及びその他近傍のガス)を各炉内に入らないように吸引して製造装置の外部に排気する排気部とを、それぞれ少なくとも1つ以上を備えていてもよい。シールガスが炉の開口面に沿って噴射されることで、シールガスが炉の出入り口を塞ぎ、炉外のガスが炉内に混入することを防ぐことができる。また、シールガスを製造装置外に排気することにより、シールガスが炉内に混入することを防ぐことができる。
【0122】
シールガスは不活性ガスであることが好ましく、特に安全性、コストなどの点から窒素であることが好ましい。シールガス噴射部と排気部との配置としては、1つのシールガス噴射部に隣接して1つの排気部を配置してもよいし、メッシュベルトを挟んでシールガス噴射部に対面するように排気部を配置してもよい。なお、ガス混入防止手段103の全体の構成が、炉長方向に対称な構造となるようにシールガス噴射部及び排気部を配置することが好ましい。
【0123】
例えば、1つの排気部の両端にシールガス噴射部を2つ配置し、排気部を中心にして炉長方向に対称な構造とするとよい。また、シールガス噴射部から噴射される全ガス流量と排気部から排気される全ガス流量はほぼ同量であることが好ましい。これによって、ガス混入防止手段を挟んだ両側の空間からのガスが相互に混入することを防止するとともに、シールガスが両側の空間に流出することも防止することが可能になる。このようなガス混入防止手段を成長炉の両端に設置することで、シールガスの流れと成長炉内のガスの流れとが相互に干渉することを防止できる。また、シールガスの成長炉内流入によるガス流れの乱れも防止することができる。よって、CNT配向集合体の連続製造に好適な製造装置を実現できる。
【0124】
また、ガス混入防止手段103は、フォーメーション炉内還元ガス環境中の炭素原子個数濃度を5×1022個/m以下、より好ましくは1×1022個/m以下に保つように、機能することが好ましい。
【0125】
複数ある排気部103a〜103cの各排気量Qは互いに独立に決定することはできない。装置全体のガス供給量(還元ガス流量、原料ガス流量、冷却ガス流量など)に応じて調整する必要がある。だたし、ガス混入防止を満たすための必要条件は以下の式のように示すことができる。
【0126】
Q≧4DS/L
ここでDは混入を防止したいガスの拡散係数、Sはガス混入を防止する境界の断面積、Lは排気部の長さ(炉長方向)である。この条件式を満たし、かつ装置全体の給排気バランスを保つように、各排気部103a〜103cの排気量が設定される。
【0127】
(炭素原子個数濃度)
原料ガスがフォーメーション炉102a内空間に混入すると、CNTの成長に悪影響を及ぼす。フォーメーション炉102a内還元ガス環境中の炭素原子個数濃度を5×1022個/m以下、より好ましくは1×1022個/m以下に保つように、ガス混入防止手段103により原料ガスのフォーメーション炉102a内への混入を防止することが好ましい。ここで炭素原子個数濃度は、還元ガス環境中の各ガス種(i=1、2、・・・)に対して、濃度(ppmv)をD、D・・・、標準状態での密度(g/m)をρ、ρ・・・、分子量をM、M・・・、ガス分子1つに含まれる炭素原子数をC、C・・・、アボガドロ数をNとして下記数式(1)で計算している。
【0128】
【数1】

【0129】
フォーメーション炉102a内還元ガス環境中の炭素原子個数濃度を5×1022個/m以下に保つことによって、CNTの製造量及び品質を良好に保つことができる。つまり、炭素原子個数濃度が5×1022個/m以下とすることによって、フォーメーション工程において、触媒の還元、触媒のCNTの成長に適合した状態の微粒子化促進、触媒の活性向上等の効果を良好に発揮し、ひいては、成長工程におけるCNTの製造量及び品質を良好に保つことができる。
【0130】
〔出口パージ部106〕
製造装置100の出口には、入口パージ部101とほぼ同様の構造をした出口パージ部106が設けられている。出口パージ部106とは、基材111の出口から製造装置100の内部に外部の空気が混入することを防止するための装置一式のことである。出口パージ部106は、基材111の周囲環境をパージガス環境にする機能を有する。
【0131】
出口パージ部106は、パージガスを上下からシャワー状に噴射することで、出口から冷却炉105a内に外部の空気が混入することを防止している。なお、出口パージ部106は、パージガス環境を保持するための炉又はチャンバ、パージガスを噴射するための噴射部等により構成されてもよい。
【0132】
パージガスは不活性ガスが好ましく、特に安全性、コスト、パージ性等の点から窒素であることが好ましい。
【0133】
本実施形態のように搬送ユニット107がベルトコンベア方式である場合など、基材111の出口が常時開口しているような場合は、出口パージ部106は上述したようなガスカーテン構造であることが好ましい。この構成により、基材111の出口から製造装置100の内部に外部の空気が混入することを防止することができる。
【0134】
〔還元ガス又は原料ガスに曝される装置部品の材質〕
還元ガス又は原料ガスに曝される装置部品としては、フォーメーションユニット102、成長ユニット104、搬送ユニット107、ガス混入防止手段103、接続部108〜110の一部部品である。具体的には、フォーメーション炉102a、還元ガスの噴射部102b、成長炉104a、原料ガス及びクリーニングガスの噴射部104b、メッシュベルト107a、ガス混入防止手段103の排気部103a〜103c、接続部108〜110の炉等の装置部品が挙げられる。
【0135】
還元ガス又は原料ガスに曝される装置部品の材質としては、高温に耐えられる材質、例えば、石英、耐熱セラミック、金属などが挙げられ、金属が加工の精度と自由度、コストの点から好ましい。金属としては、耐熱合金等が挙げられる。耐熱合金としては、耐熱鋼、ステンレス鋼、ニッケル基合金等が挙げられる。Feを主成分として他の合金濃度が50%以下のものが耐熱鋼と一般に呼ばれる。また、Feを主成分として他の合金濃度が50%以下であり、Crを約12%以上含有する鋼は一般にステンレス鋼と呼ばれる。また、ニッケル基合金としては、NiにMo、Cr及びFe等を添加した合金が挙げられる。具体的には、SUS310、インコネル600、インコネル601、インコネル625、インコロイ800、MCアロイ、Haynes230アロイなどが耐熱性、機械的強度、化学的安定性、低コストなどの点から好ましい。
【0136】
炉内壁及び/又は炉内使用部品を金属で構成する際に、材質を耐熱合金とし、かつその表面を溶融アルミニウムめっき処理、若しくはその表面が算術平均粗さRa≦2μmとなるように研磨処理することが好ましい。この構成により、高炭素環境下でCNTを成長させた場合に壁面などに付着する炭素汚れを低減することができる。これによって、CNT配向集合体の製造量の低下及び品質の劣化を防ぐことができ好適である。
【0137】
(溶融アルミニウムめっき処理)
溶融アルミニウムめっき処理とは、溶融アルミニウム浴中に被めっき材料を浸漬することによって被めっき材の表面にアルミニウム又はアルミニウム合金層を形成する処理をいう。処理方法の一例は次の通りである。被めっき材(母材)の表面を洗浄した(前処理)後、約700°C溶融アルミニウム浴中に浸漬させることによって、母材表面中へ溶融アルミニウムの拡散を起こさせ、母材とアルミの合金を生成し、浴より引上げ時にその合金層にアルミニウムを付着させる処理のことである。さらに、その後に、表層のアルミナ層並びにアルミ層を低温熱拡散処理し、その下のFe−Al合金層を露出させる処理を行ってもよい。
【0138】
(研磨処理)
耐熱合金を算術平均粗さRa≦2μmにするための研磨処理方法としては、バフ研磨に代表される機械研磨、薬品を利用する化学研磨、電解液中にて電流を流しながら研磨する電解研磨、機械研磨と電解研磨とを組み合わせた複合電解研磨などが挙げられる。
【0139】
(算術平均粗さ)
算術平均粗さRaの定義は「JIS B 0601:2001」を参照されたい。
【0140】
以上のようにして、本実施形態に係る製造装置100によれば、表面に触媒を有する基材111が搬送ユニット107によって連続的に搬送されつつ、入口パージ部101、フォーメーションユニット102、成長ユニット104、冷却ユニット105、及び出口パージ部106を順次通過していく。その間に、フォーメーションユニット102における還元ガス環境下で触媒が還元され、成長ユニット104における原料ガス環境下で基材の表面にCNTが成長し、冷却ユニット105において冷却される。製造されたCNT配向集合体の品質は、品質測定手段112によって測定される。
【0141】
以上、本発明の好ましい実施の形態を説明したが、本発明はこれらに限定されるものではなく、その要旨の範囲内で様々な変形や変更が可能である。
【0142】
例えば、原料ガス、加熱温度等の反応条件を適宜に設定することにより、単層あるいは多層のCNTを選択的に製造することも可能であるし、両者を混在して製造することも可能である。
【0143】
また、本実施の形態においては、製造装置とは別の成膜装置によって基材表面への触媒の形成を行なうものとして説明した。しかし、フォーメーションユニット102の上流側に触媒成膜ユニットを設け、フォーメーションユニット102に先立って触媒成膜ユニットを基材が通過するように製造装置を構成してもよい。
【0144】
また、本実施の形態においては、フォーメーションユニット102、成長ユニット104、冷却ユニット105の順に各ユニットを設けて、接続部108〜110にて各炉内空間を空間的に接続している。しかし、フォーメーション工程、成長工程、冷却工程以外の他の工程を実現するユニットをどこかに複数追加して、接続部108〜110にて各ユニットの炉内空間を空間的に接続してもよい。
【0145】
また、本実施の形態においては、フォーメーションユニット102、成長ユニット104、及び冷却ユニット105の各ユニットの配置が直線状配置である場合について説明した。しかし、これに制限されるものではなく、例えば環状配置であってもよい。
【実施例】
【0146】
以下に具体的な実施例を挙げて、本発明に係る製造方法及びそれにより得られるCNT配向集合体についてより詳細に説明する。
【0147】
(比表面積測定)
比表面積とは液体窒素の77Kでの吸脱着等温線を測定し、この吸脱着等温曲線からBrunauer,Emmett,Tellerの方法から計測した値のことである。比表面積は、比表面積測定装置(日本ベル社製Bersorp miniII)を用いて測定した。
【0148】
(G/D比)
本実施例においては、顕微レーザラマンシステム(サーモフィッシャーサイエンティフィック(株)製Nicolet Almega XR)を用い、基材中心部付近のCNT配向集合体を一部剥離し、CNT配向集合体の基材から剥離された面にレーザを当てて、ラマンスペクトルを測定し、G/D比を求めた。
【0149】
〔実施例1〕
以下に具体的な実施例を挙げて、本発明によるCNT配向集合体の製造装置について詳細に説明する。
【0150】
本実施例では、図1に示す製造装置100を用いた。フォーメーション/成長ユニットの炉及び噴射部、ガス混入防止手段の排気部、メッシュベルト、接続部の各材質としては、SUS310の表面を溶融アルミニウムめっき処理したものを使用した。
【0151】
触媒基材の製作条件を以下に説明する。基材として90mm角、厚さ0.3mmのFe−Ni−Cr合金YEF426(日立金属株式会社製、Ni42%、Cr6%)を使用した。レーザ顕微鏡を用いて表面粗さを測定したところ、算術平均粗さRa≒2.1μmであった。この基材の表裏両面にスパッタリング装置を用いて厚さ20nmのアルミナ膜を製膜し、次いで表面のみにスパッタリング装置を用いて厚さ1.0nmの鉄膜(触媒金属層)を製膜した。
【0152】
(1回目のCNT配向集合体の連続的な製造)
このようにして作製した複数の触媒基材を製造装置100のメッシュベルトに載置し、連続的に製造装置100に搬入して、フォーメーション工程、成長工程、冷却工程の順に処理を行ない、連続的にCNT配向集合体を製造した。
【0153】
製造装置100の入口パージ部101、フォーメーションユニット102、ガス混入防止手段103、成長ユニット104、冷却ユニット105、出口パージ部106の各条件は以下のように設定した。
【0154】
入口パージ部101
・パージガス:窒素60000sccm
フォーメーションユニット102
・炉内温度:830℃
・還元ガス:窒素11200sccm、水素16800sccm
・処理時間:28分
ガス混入防止手段103
・排気部103a排気量:20sLm
・排気部103b排気量:25sLm
・排気部103c排気量:20sLm
成長ユニット104
・炉内温度:830℃
・原料ガス:窒素16040sccm、エチレン1800sccm、
水蒸気含有窒素160sccm(水分量16000ppmv)
・処理時間:11分
・成長炉の内容積:0.04m
冷却ユニット105
・冷却水温度:30℃
・不活性ガス:窒素10000sccm
・冷却時間:30分
出口パージ部106
・パージガス:窒素50000sccm
以上の条件で連続的に製造を行った。
【0155】
成長工程を行ないながら、CNT配向集合体の品質として、G/D比を測定した。具体的には、カーボンナノチューブが合成された1枚目の基材から5枚おきにG/D比測定を行った。この結果を図2に示す。図2は、本発明の実施例1におけるCNT配向集合体のG/D比を示す。なお、本実施例では、所定の条件を、G/D比が5.0以上と設定した。すなわち、G/D比が5.0未満である場合にクリーニング工程を行なうこととした。
【0156】
1枚目の基材上に成長したカーボンナノチューブのG/D比は7.2であり、91枚目でもG/D比が6.4のカーボンナノチューブが得られた。そのあとG/Dは徐々に低下し、146枚目の基材上に成長したカーボンナノチューブのG/D比が4.6となった。そのため、成長ユニット内への基材の搬入及び成長ユニット内への原料ガス供給を停止した。
【0157】
次に、成長ユニット内の温度を650℃とし、窒素(供給速度20000sccm)と、空気(供給速度40sccm)との混合ガス(酸素濃度0.04体積%)を、噴射部104bから60分間成長ユニット内に供給してクリーニング工程を行った。
【0158】
なお、クリーニング工程を実施する前の1回目の製造により得られた全てのカーボンナノチューブを回収し、よく混合した後に、5回のサンプリングを実施し、比表面積測定を行った。その結果、カーボンナノチューブの比表面積の平均値(BET平均値)は920m/gであった。
【0159】
(2回目のCNT配向集合体の製造)
次に、1回目の製造と同じ条件下で、成長工程を含む製造工程を再開した。G/D比の測定値を図2に示す。1回目の製造でCNT配向集合体を製造させた基材も含めた通算で147枚目(2回目のCNT配向集合体の製造における1枚目)の基材上のカーボンナノチューブのG/D比は8.1であった。したがって、クリーニング工程を実施する前と同じ程度までG/D比が回復したことが確認された。
【0160】
そのまま基材を連続的に搬入し、測定されるG/D比が5.0未満になるまで連続的な製造を行なった。次に、1回目と同様にクリーニング工程を行った。
【0161】
1回目と同様に、2回目の製造で得られた全てのカーボンナノチューブを回収し、比表面積測定を行なった。その結果、比表面積の平均値は970m/gであった。
【0162】
(3回目以降のCNT配向集合体の連続的な製造)
2回目の製造後のクリーニング工程のあとに続けて、1回目、及び2回目の製造と同じ条件の下、成長工程とクリーニング工程とを繰り返した。なお、成長工程からクリーニング工程へは、G/D比が5.0未満になった時点で切り替えた。これを8回繰り返した(1回目の製造からの通算で10回の連続的な製造を行った)。10回目の連続的な製造における結果を図2に示す。
【0163】
10回目のCNT配向集合体の製造における1枚目の基材上のカーボンナノチューブのG/D比は8.0であった。したがって、10回目であっても、クリーニング後にG/D比が回復したことが確認された。
【0164】
また、10回目の製造では、カーボンナノチューブの比表面積の平均値が960m/gであった。したがって、10回目の製造においても、1回目の連続的な製造と同等の比表面積を示すカーボンナノチューブが得られた。
【0165】
〔実施例2〕
クリーニング工程における、成長ユニット内の温度を700℃とし、窒素と空気との混合ガスの供給量を、窒素(供給速度20000sccm)、空気(供給速度10sccm)として、酸素濃度を0.01体積%とした他は、実施例1と同様にして、成長工程とクリーニング工程とを繰り返した。1回目、2回目及び10回目の連続的な製造における結果を図3に示す。図3は、本発明の実施例2におけるCNT配向集合体のG/D比を示す。
【0166】
1回目、2回目及び10回目で得られたカーボンナノチューブの比表面積の平均値は、それぞれ850m/g、880m/g及び810m/gであった。したがって、10回目の製造においても、1回目の連続的な製造と同等の比表面積を示すカーボンナノチューブが得られた。
【0167】
〔実施例3〕
クリーニング工程における、成長ユニット内の温度を650℃とし、窒素と空気との混合ガスの供給量を、窒素(供給速度20000sccm)、空気(供給速度100sccm)として、酸素濃度を0.1体積%とした他は、実施例1と同様にして、成長工程とクリーニング工程を繰り返した。1回目、2回目及び10回目の連続的な製造における結果を図4に示す。図4は、本発明の実施例3におけるCNT配向集合体のG/D比を示す。
【0168】
1回目、2回目及び10回目で得られたカーボンナノチューブの比表面積の平均値は、それぞれ930m/g、820m/g及び840m/gであった。したがって、10回目の製造においても、1回目の連続的な製造と同等の比表面積を示すカーボンナノチューブが得られた。
【0169】
〔比較例1〕
成長工程により得られたカーボンナノチューブのG/D比が5.0未満となってもクリーニング工程を実施しなかった他は、実施例1と同じ条件で、基材を連続的に搬送し、CNTの連続的な製造を行った。この結果を図5に示す。図5は、本発明の比較例1におけるCNT配向集合体のG/D比を示す。
【0170】
1枚目の基材上のカーボンナノチューブのG/D比は、実施例1と同程度の7.8であった。その後、96枚目からG/D比が低下し始め、156枚目でG/D比が4.5になったが、成長ユニット内のクリーニングは実施せずに、そのまま連続的合成を継続した。その結果、G/D比は低下し続け、196枚目で2.2になったため、連続的な製造を終了した。
【0171】
次に、G/D比が5.0以上であった1枚目から155枚目までの基材上に成長した全てのカーボンナノチューブを回収し、よく混合した後に、5回のサンプリングを実施し、比表面積測定を行なった。その結果、比表面積の平均値は880m/gであった。
【0172】
一方、G/D比が5.0未満であった156枚目から196枚目までの基材上に成長した全てのカーボンナノチューブを同様にサンプリングし、比表面積測定を行なった。その結果、比表面積の平均値は560m/gであった。
【0173】
〔実施例と比較例との比較〕
実施例1〜3及び比較例1を比較した結果を図6に示す。図6は、本発明の実施例と比較例とにおけるCNG配向集合体のG/D比を示すグラフである。なお、図6の縦軸は測定されたG/D比を示し、横軸は、1回目と2回目とを通算した基板の数を示す。
【産業上の利用可能性】
【0174】
本発明に係る製造方法で得られるCNT配向集合体は、電子デバイス材料、光学素子材料、導電性材料などの分野に好適に利用できる。
【符号の説明】
【0175】
100 :製造装置
101 :入口パージ部
102 :フォーメーションユニット
102a :フォーメーション炉
102b :噴射部
102c :ヒーター
103 :ガス混入防止手段
103a〜103c:排気部
104:成長ユニット
104a :成長炉
104b :噴射部(クリーニング手段)
104c :ヒーター
104ba、104bb:配管
105 :冷却ユニット
105a :冷却炉
105b :冷却ガス噴射部
105c :水冷冷却管
106 :出口パージ部
107 :搬送ユニット
107a :メッシュベルト
107b :ベルト駆動部
108〜110:接続部
111 :基材
112 :品質測定手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面に触媒を有する複数の基材上にカーボンナノチューブ配向集合体を成長させるカーボンナノチューブ配向集合体の製造方法であって、
前記複数の基材を成長炉内に連続的に搬入し、かつ前記成長炉内において前記触媒の周囲環境を原料ガス環境とすると共に前記触媒及び前記原料ガスのうち少なくとも一方を加熱して、前記カーボンナノチューブ配向集合体を成長させる成長工程と、
少なくとも酸素原子を含むクリーニングガスを用いて前記成長炉内をクリーニングするクリーニング工程とを含み、
前記成長工程と前記クリーニング工程とを交互に繰り返して行なう、カーボンナノチューブ配向集合体の製造方法。
【請求項2】
前記成長工程を行ないながら、成長させたカーボンナノチューブ配向集合体の品質を測定し、測定された品質が所定の条件を満たさない場合に前記クリーニング工程を行なう請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記品質として前記カーボンナノチューブ配向集合体のG/D比、高さ、重量、及び比表面積からなる群より選択される少なくとも1つを測定する、請求項2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記品質として前記カーボンナノチューブ配向集合体のG/D比を測定する、請求項2記載の製造方法。
【請求項5】
前記成長炉が金属により構成されており、
前記クリーニングガス中の酸素原子を含むガスの濃度が0.001体積%以上0.1体積%以下である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項6】
表面に触媒を有する複数の基材上にカーボンナノチューブ配向集合体を成長させるカーボンナノチューブ配向集合体の製造装置であって、
前記触媒の周囲環境を原料ガス環境とすると共に前記触媒及び前記原料ガスのうち少なくとも一方を加熱して前記カーボンナノチューブ配向集合体を成長させる成長工程を実現する成長炉と、
前記複数の基材を前記成長炉内に連続的に搬入する搬入手段と、
少なくとも酸素原子を含むクリーニングガスを用いて前記成長炉内をクリーニングするクリーニング工程を実現するクリーニング手段と
を備えるカーボンナノチューブ配向集合体の製造装置。
【請求項7】
前記成長工程において成長させたカーボンナノチューブ配向集合体の品質を測定する品質測定手段をさらに備える、請求項6に記載の製造装置。
【請求項8】
前記品質測定手段は、前記品質として前記カーボンナノチューブ配向集合体のG/D比、高さ、重量、及び比表面積からなる群より選択される少なくとも1つを測定する、請求項7に記載の製造装置。
【請求項9】
前記品質測定手段は、前記品質として前記カーボンナノチューブ配向集合体のG/D比を測定する、請求項7に記載の製造装置。
【請求項10】
前記成長炉が金属により構成されている、請求項6〜9のいずれか1項に記載の製造装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−250862(P2012−250862A)
【公開日】平成24年12月20日(2012.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−122525(P2011−122525)
【出願日】平成23年5月31日(2011.5.31)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成22年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構委託研究「ナノテクノロジープログラム/カーボンナノチューブキャパシタ開発プロジェクト」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000229117)日本ゼオン株式会社 (1,870)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】