説明

カーボンブラック複合体の製造方法

【課題】導電性付与能力に優れたカーボンブラック複合体の連続的な製造方法を提供する。
【解決手段】繊維状炭素の製造と、球状炭素粒子の製造及び繊維状炭素と球状炭素粒子の複合化を連続的に行うカーボンブラック複合体の製造方法。繊維状炭素の製造を二段式反応炉の上段部分で行い、球状炭素粒子の製造と繊維状炭素と球状炭素粒子の複合化を二段式反応炉の下段部分で行うカーボンブラック複合体の製造方法。球状炭素粒子がアセチレンブラックであるカーボンブラック複合体の製造方法。繊維状炭素の製造温度が600〜1000℃であるカーボンブラック複合体の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カーボンブラック複合体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ゴム、樹脂等にカーボンブラックを含有させ、導電性を付与させるということが行われている。特にアセチレンブラックは炭素粒子の連鎖構造を有するため、一般のカーボンブラックと比較して導電性の付与能力に優れている。しかしながら、樹脂等の本来の特性を低下させずに高い導電性を付与することが出来る導電剤が求められており、この要求を満たすためには、導電付与効果が一段と優れたカーボンブラックを開発する必要がある。この要求に対して、導電剤にカーボンナノチューブを用いることが提案されているが、分散性が悪く、触媒除去や結晶性向上のための後処理を必要とするものが多く、かつ非常に高価である。
これらの問題に対して、アセチレンブラックの反応場でカーボンナノチューブ生成するという提案がされているが(特許文献1)、カーボンナノチューブとアセチレンブラックの生成条件が異なり、一つの生成場での同時生成を行うことにより、品質が安定しないことがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】WO/2007/013678
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、導電性付与能力に優れたカーボンブラック複合体の連続的な製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、上記の課題を解決するために、以下の手段を採用する。
(1)繊維状炭素の製造と、球状炭素粒子の製造及び繊維状炭素と球状炭素粒子の複合化を連続的に行うことを特徴とするカーボンブラック複合体の製造方法。
(2)繊維状炭素の製造を二段式反応炉の上段部分で行い、球状炭素粒子の製造と繊維状炭素と球状炭素粒子の複合化を二段式反応炉の下段部分で行うことを特徴とする前記(1)に記載のカーボンブラック複合体の製造方法。
(3)球状炭素粒子がアセチレンブラックであることを特徴とする前記(1)又は(2)に記載のカーボンブラック複合体の製造方法。
(4)繊維状炭素の製造温度が600〜1000℃であることを特徴とする前記(1)〜(3)のいずれか一項に記載のカーボンブラック複合体の製造方法。
(5)繊維状炭素の製造時の炭化水素の供給速度が5〜100m/分であることを特徴とする前記(1)〜(4)のいずれか一項に記載のカーボンブラック複合体の製造方法。
(6)繊維状炭素の直径が200nm以下であることを特徴とする前記(1)〜(5)のいずれか一項に記載のカーボンブラック複合体の製造方法。
【発明の効果】
【0006】
本発明は、従来のカーボンブラックよりも導電性付与能力に優れているカーボンブラック複合体を連続して製造することができる。本発明のカーボンブラック複合体は、樹脂等に高い導電性を付与することが出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明のカーボンブラック複合体は、繊維状炭素とカーボンブラックが連結しているものである。本発明のカーボンブラック複合体は、JIS K 1469で規定される灰分が1.0質量%以下であることが好ましい。灰分は主に繊維状炭素製造時の触媒や金属不純物(Fe、Ni、Co等)やその酸化物からなり、灰分が1.0質量%を超えると、例えばLiイオン二次電池とした場合、充電時に負極上への金属の析出が起こり易くなり、充放電容量の低下やセパレータを突き破り短絡して発火する危険性を生ずる恐れがある。
【0008】
連結とは単なる接触ではなく、炭素質で物理的に融着していることを意味し、通常の機械的操作では容易に分離されることなく、連結された繊維状炭素とカーボンブラック間で接触抵抗なしで電子が自由に移動できるものである。そのため、樹脂等と混合した際もカーボンブラック複合体のまま存在し、良好な分散性が得られると同時に高導電性が保たれる。繊維状炭素単独では、樹脂等の他の材料と混合する場合、配向や繊維同士の絡み合いのため、良好な分散性を得ることが困難であり、導電性にバラツキが生じる。カーボンブラックと繊維状炭素を単純に混合した場合は形状が異なるため更にバラツキが大きくなるが、本発明のカーボンブラック複合体は導電性の安定性に優れていることが特長の一つである。ここで繊維状炭素は1〜50質量%であることが好ましい。繊維状炭素が1質量%未満であると、十分な導電性が得られず、50質量%を超えるとカーボンブラックとの連結が十分でなくなると同時に、繊維状炭素の凝集などのため分散性が著しく低下し、コンパウンドを作製したとき、樹脂が固くなり加工しにくくなる。樹脂の加工性についてはMFI2.50g/10min以上であることが好ましい。
【0009】
本発明のカーボンブラック複合体の繊維状炭素とは、炭素繊維(カーボンファイバー)、気相成長炭素繊維(VGCF)カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー等である。本発明の繊維状炭素は直径が200nm以下であることが好ましい。
【0010】
本発明のカーボンブラック複合体の繊維状炭素は、炭化水素の熱分解中で製造した、ラマン強度比(D/G値)が0.30以下のものが好ましい。また、市販品の繊維状炭素をフィーダー又はスラリー化して、炭化水素の熱分解中に導入することも出来る。
【0011】
本発明のカーボンブラック複合体は、繊維状炭素を炭化水素の熱分解中に導入する方法で製造される。この製造方法を用いることでカーボンブラック複合体のJIS K 1469:2003に規定される灰分を1.0質量%未満にすることが出来る。
【0012】
本発明のカーボンブラック複合体に用いる繊維状炭素は、炭化水素の熱分解温度以上の高温場に供給し、熱処理することにより生成することができる。炭化水素の熱分解温度は、特に600〜1000℃であることが好ましい。炭化水素として、例えばメタン、エタン、プロパン、ブタン等の飽和炭化水素、例えばエチレン、プロピレン、ブテン、ブタジエン等の2重結合を有する不飽和炭化水素、アセチレン、プロピン、ブチン等の3重結合を有する不飽和炭化水素、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素等を用いることが出来る。中でも、芳香族炭化水素は常温で液体であり、繊維状炭素化触媒と事前に混合調整しやすいので特に好ましい。また、炭化水素の供給速度は5〜100m/分が好ましい。
【0013】
繊維状炭素化触媒、助触媒としては、Co,Ni,Fe,Mo,S,V,Cr等の微粒子を用いることが出来る。中でも、フェロセンやチオフェン等の有機物質はベンゼン等の芳香族炭化水素に可溶のため、取り扱いが容易で、しかも化合物中に含まれる元素が原子サイズのため、反応場中では触媒として有効に作用するため特に好ましい。
【0014】
本発明のカーボンブラック複合体における繊維状炭素を製造するときの炭化水素と触媒、助触媒の混合比は、質量比で80:20〜99:1が好ましく、特に90:10〜95:5が好ましい。
【0015】
本発明のカーボンブラック複合体におけるカーボンブラックは、炭化水素の熱分解温度以上の高温場で生成することが好ましく、特に1800〜2200℃で生成することが好ましい。炭化水素として、例えばメタン、エタン、プロパン、ブタン等の飽和炭化水素、例えばエチレン、プロピレン、ブテン、ブタジエン等の2重結合を有する不飽和炭化水素、アセチレン、プロピン、ブチン等の3重結合を有する不飽和炭化水素、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素等を用いることが出来る。中でもエチレン、アセチレン、ブタジエンは、自己発熱分解反応であるため、反応炉の中心部分でも高温を維持できるため好ましく、特にアセチレンが好ましい。
【0016】
本発明のカーボンブラック複合体における繊維状炭素は、カーボンブラックの生成場に導入、複合化されることにより焼成され、ラマン強度比(D/G値)が0.30以下になっていることが好ましい。
【0017】
本発明におけるカーボンブラック複合体の製造方法は、二段式反応炉の上段部分で繊維状炭素を製造し、下段部分のカーボンブラック生成場に繊維状炭素を導入することにより、連続的にカーボンブラック複合体を製造することが出来る。
本発明の二段式反応炉は上段で繊維状炭素、下段でカーボンブラックを作製する形態となっているが、これは、繊維状炭素とカーボンブラックの生成条件が異なる為である。また、生成直後の繊維状炭素は結晶性が低く、高温で焼成を行う必要があるが、本発明による製造方法ならば、上段の反応炉で生成された繊維状炭素を下段のカーボンブラック生成炉に送り込むことにより、複合と焼成を同時に行うことが可能である。
【0018】
二段式反応炉の上段部の反応炉は一例として、縦型管状炉が挙げられる。反応炉上部には、原料供給ノズルを設置し、繊維状炭素の原料(液体又はガス化したもの)とHガス、Nガスを混合しても、別々のラインから供給してもよい。ノズル径は、例えば6φ以上のものを使用することも出来る。また、繊維状炭素の原料が液体である場合は、スプレーノズルを使用することも出来る。
二段式反応炉の下段部の反応炉も上段部と同様のものが使用できるが、2000℃以上の高温に対応できる炉が好ましい。一例として、高周波炉が使用出来る。下段部の反応炉上部には、原料ノズルを設置し、上段部の反応炉で生成された繊維状炭素と、Hガスと、Nガスを混合しても、別々のラインから供給してもよい。
【実施例】
【0019】
次に実施例により本発明の具体的態様を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの例によって限定されるものではない。
【0020】
(実施例1〜3)
カーボンブラック複合体は以下の方法で作製した。炭素源としてベンゼン(関東化学社製試薬、純度99%)、触媒としてフェロセン(関東化学社製試薬、純度98%)、助触媒としてチオフェン(関東化学社製試薬、純度98%)を質量比で90:8:2として300℃でガス化したものを、二段式反応炉の上段部の縦型管状炉(炉長2m、炉直径0.12m)上方に設置されたノズルから水素ガスと共に噴霧し、流速50m/分、温度600,800,1000℃で繊維状炭素を生成した。次に、二段式反応炉の下段に設置された反応炉(炉長6m、炉直径1m)の炉頂に設置された2本のノズルの一方からはアセチレンガス(純度99%)を供給し、2000℃で熱分解してカーボンブラックを生成し、もう一方からは600,800,1000℃で製造した繊維状炭素を導入し複合化を行った。そのカーボンブラック複合体は炉下部に直結されたバグフィルターから捕集した。
【0021】
(実施例4〜7)
実施例4,5として、実施例1に記載の製法で繊維状炭素の炭素源ガスを5,100m/分にして繊維状炭素を製造し、実施例1のアセチレンガス反応炉に導入しカーボンブラック複合体を製造した。また、実施例6,7は、実施例1に記載の繊維状炭素の炭素源ガスを3,120m/分にして繊維状炭素を製造し、実施例1のアセチレンガス反応炉に導入しカーボンブラック複合体を製造した。
【0022】
(実施例8〜10)
実施例8として、繊維状炭素の原料となるベンゼン:フェロセン,チオフェンの質量比を95:5で調整し、実施例1に記載の製法で複合化を行った。また、実施例9,10として、繊維状炭素の原料となるベンゼン:フェロセン,チオフェンの質量比を80:20,99:1で調整し、実施例1に記載の製法で複合化を行った。
【0023】
(実施例11〜12)
実施例11,12として、カーボンブラックの生成温度を1800℃、2200℃にして実施例1と同様に複合化試験を行った。
【0024】
(実施例13〜16)
実施例13〜16では、繊維状炭素の含有率が5、10、50、60%になるように、繊維状炭素の供給量を調整して、実施例1と同様に複合化試験を行った。
【0025】
(比較例1)
比較例1については、実施例1に記載された方法で繊維状炭素とカーボンブラックを別々に製造し、それぞれ質量比30:70でボールミルにて200rpm、60分で混合し、カーボンブラック複合体を製造した。
【0026】
(比較例2)
比較例2については、WO/2007/013678に基づき、反応炉(炉長6m、炉直径1m)の上方に設置されたノズルからアセチレンガスを15m/hで供給し、アセチレンガスを2000℃で熱分解してカーボンブラックを生成し、更に上方の1000℃の部分からベンゼン(関東化学社製試薬、純度99%、3.7kg/h)、触媒としてフェロセン(関東化学社製試薬、純度98%、0.3kg/h)、助触媒としてチオフェン(関東化学社製試薬、純度98%、0.05kg/h)の混合ガスを供給し、繊維状炭素が30質量%になるようにカーボンブラック複合体を製造した。
実施例及び比較例のカーボンブラック複合体の繊維状炭素の収率およびラマン強度比(D/G値)を表1及び表2に示す。また、カーボンブラック複合体の各種評価結果を表1及び表2に示す。
【0027】
評価物性とその測定方法を下記に示す。
(1)繊維状炭素の直径については透過型電子顕微鏡(TEM)により、倍率3万倍で100本測定し、その平均径を求めた。
(2)ラマン強度比測定については励起レーザー波長532nm、露光時間1.0秒、露光回数30回でカーボンの固有ピークGバンド、Dバンドを測定した。
(3)灰分についてはJIS K 1469:2003に従い測定した。
(4)粉体抵抗についてはJIS K 146:2003に従い測定した。
(5)コンパウンド体積固有抵抗値測定による導電性評価
実施例1〜16と比較例1,2のカーボンブラック複合体10質量部をPS樹脂(東洋スチレン社製、商品名「H700」)90質量部に配合し、混練機(東洋精機製作所社製、商品名「ラボプラストミル」)を用いて、ブレード回転数30rpm、温度220℃で10分間混練した。この混練物を200℃に加熱し、9.8×10Paの圧力で加圧成形して2×2×70mmの試験片を作製し、デジタルマルチメーター(横河電機社、商品名「デジタルマルチメータ 7562」)を用い、SRI2301の試験方法に準じて体積固有抵抗を測定した。
(6)MFIによる流動性評価。
体積固有抵抗で使用した試験片を2×2×5mmの大きさに切断し、流動性測定器(東洋精機製作所社製、商品名)で200℃の加熱下、5kgの荷重下にて内径2mmのノズルから流れる10分間当たりのカーボン複合体とPS樹脂の組成物の質量を測定した。
【0028】
【表1】

【0029】
【表2】

【0030】
表1及び表2から、本発明の実施例によって得られたカーボンブラック複合体は、比較例1,2によって得られたカーボンブラック複合体と比べて粉体抵抗値、コンパウンド抵抗値が低く、従来のカーボンブラック複合体より優れた導電性付与効果を発揮した。
【産業上の利用可能性】
【0031】
本発明のカーボンブラック複合体は樹脂、ゴムへの導電性付与剤の他に、一次電池、二次電池、燃料電池、キャパシタ等の電池用導電剤等として利用することが出来る。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維状炭素の製造と、球状炭素粒子の製造及び繊維状炭素と球状炭素粒子の複合化を連続的に行うことを特徴とするカーボンブラック複合体の製造方法。
【請求項2】
繊維状炭素の製造を二段式反応炉の上段部分で行い、球状炭素粒子の製造と繊維状炭素と球状炭素粒子の複合化を二段式反応炉の下段部分で行うことを特徴とする請求項1に記載のカーボンブラック複合体の製造方法。
【請求項3】
球状炭素粒子がアセチレンブラックであることを特徴とする請求項1又は2に記載のカーボンブラック複合体の製造方法。
【請求項4】
繊維状炭素の製造温度が600〜1000℃であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載のカーボンブラック複合体の製造方法。
【請求項5】
繊維状炭素の製造時の炭化水素の供給速度が5〜100m/分であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載のカーボンブラック複合体の製造方法。
【請求項6】
繊維状炭素の直径が200nm以下であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載のカーボンブラック複合体の製造方法。


【公開番号】特開2010−248397(P2010−248397A)
【公開日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−100447(P2009−100447)
【出願日】平成21年4月17日(2009.4.17)
【出願人】(000003296)電気化学工業株式会社 (1,539)
【Fターム(参考)】