説明

カーボン材料とフェニレン誘導体との反応生成物およびそれを用いた導電性組成物、ならびに反応生成物の製法

【課題】強酸を使用せずにカーボンナノチューブ等のカーボン材料を容易に分散させることができるとともに、分散状態の安定性にも優れた、カーボン材料とフェニレン誘導体との反応生成物を提供する。
【解決手段】下記(A)のカーボン材料と(B)のフェニレン誘導体との反応生成物。
(A)カーボンナノチューブ,カーボンブラックおよびグラファイトからなる群から選ばれた少なくとも一つのカーボン材料。
(B)下記の一般式(1)で表されるN−フェニル−p−フェニレン誘導体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カーボンナノチューブ等のカーボン材料と,N−フェニル−p−フェニレンジアミン誘導体等の特定のN−フェニル−p−フェニレン誘導体との反応生成物(以下、適宜「反応生成物」と略す)およびそれを用いた導電性組成物、ならびに反応生成物の製法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
カーボン材料のなかでも特にカーボンナノチューブを分散させる手法としては、例えば、カーボンナノチューブの塊状体を界面活性剤により可溶化する方法(例えば、非特許文献1参照)、カーボンナノチューブの塊状体を強酸で酸処理し、カルボン酸化した後、フッ化アルキル化して、有機溶剤に可溶化する方法(例えば、非特許文献2参照)、カーボンナノチューブの塊状体を水溶性樹脂であるポリビニルピロリドンを利用し、水中での分散性を向上させる方法(例えば、非特許文献3参照)等が提案されている。
【非特許文献1】Chem.Matter.vol.12 1049−1052(2000)
【非特許文献2】J.Phys.Chem.vol.105 2525−2528(2001)
【非特許文献3】Chemical Physics Letter vol.342 265−271(2001)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上記非特許文献1〜3の中で、カーボンナノチューブの塊状体を分散させる効果の大きいものとしては、非特許文献2に記載のものがあげられる。しかしながら、この非特許文献2に記載の分散処理では、絡まって塊状になったカーボンナノチューブにおいて、その塊状体の表面側に、塊状体の一部分として比較的緩やかな曲線状に存在するカーボンナノチューブを、強酸で処理して曲線を短く複数個に切ることにより、比較的直線状のカーボンナノチューブを得るということを繰り返してカーボンナノチューブをほぐすため、得られたカーボンナノチューブ繊維状体は、繊維長が短く、使い道が限られている。また、この処理法では、強酸を使用することが必須であるため、腐食や安全性の点から、工業的に展開することが難しい。
【0004】
本発明は、このような事情に鑑みなされたもので、強酸を使用せずにカーボンナノチューブ等のカーボン材料を容易に分散させることができるとともに、分散状態の安定性にも優れた、反応生成物およびそれを用いた導電性組成物、ならびに反応生成物の製法の提供をその目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記の目的を達成するために、本発明は、下記(A)のカーボン材料と(B)のフェニレン誘導体との反応生成物を第1の要旨とする。
(A)カーボンナノチューブ,カーボンブラックおよびグラファイトからなる群から選ばれた少なくとも一つのカーボン材料。
(B)下記の一般式(1)で表されるN−フェニル−p−フェニレン誘導体。
【化1】

【0006】
また、本発明は、上記反応生成物と、下記の(C)を含有する導電性組成物を第2の要旨とする。
(C)バインダーポリマー。
【0007】
また、本発明は、カーボンナノチューブの塊状体に対して下記の一般式(1)で表されるN−フェニル−p−フェニレン誘導体を作用させ、上記塊状体中のカーボンナノチューブと反応生成物を作らせることによりカーボンナノチューブの塊状体をほぐして、カーボンナノチューブとフェニレン誘導体との反応生成物からなる非塊状の繊維状体を得る反応生成物の製法を第3の要旨とする。
【化2】

【0008】
すなわち、本発明者らは、強酸を使用せずにカーボンナノチューブ等のカーボン材料を容易に分散させることができるとともに、分散状態の安定性にも優れた、反応生成物およびそれを用いた導電性組成物、ならびに反応生成物の製法を得るため鋭意研究を重ねた。その結果、カーボンナノチューブ等のカーボン材料と,N−フェニル−p−フェニレンジアミン誘導体等の特定のN−フェニル−p−フェニレン誘導体との反応生成物、およびこの反応生成物とバインダーポリマーとを含有する導電性組成物により、所期の目的が達成できることを見いだし、本発明に到達した。これは、つぎのような理由によるものと推察される。すなわち、カーボンナノチューブの塊状体に対して、特定のN−フェニル−p−フェニレン誘導体を作用させると、上記カーボンナノチューブの塊状体の内部にまで特定のN−フェニル−p−フェニレン誘導体が浸透し、特定のN−フェニル−p−フェニレン誘導体のアミノ基と、カーボンナノチューブとが求核付加反応する。その結果、カーボンナノチューブの塊状体が解れ、絡まりあって塊状化した状態から、カーボンナノチューブがいわば解離した状態となる。このようにして得られた反応生成物は、強酸処理により得られる繊維長の短いものではなく、繊維長がそのままの長いカーボンナノチューブ繊維状体であるため、カーボンナノチューブ本来の特性である導電性等を充分に発揮することができ、また分散性にも富んでいる。なお、カーボンブラックやグラファイト等のカーボン材料に対しても、特定のN−フェニル−p−フェニレン誘導体が、上記カーボンナノチューブの場合と同様に作用することにより、同様の結果が得られるものと推察される。また、上記カーボンナノチューブ等のカーボン材料と,特定のN−フェニル−p−フェニレン誘導体との反応生成物を、スルホン酸基等の極性の強い官能基を持つバインダーポリマーと併用した導電性組成物は、反応生成物中の、フェニレン誘導体由来のアミノ基と、バインダーポリマー中の官能基がイオン結合するため、再凝集せず、分散状態の安定性にも優れている。
【発明の効果】
【0009】
このように、本発明の反応生成物は、特定のN−フェニル−p−フェニレン誘導体のアミノ基と、カーボンナノチューブとが求核付加反応している。そのため、反応の過程でカーボンナノチューブの塊状体が解れ、カーボンナノチューブがいわば解離した状態となる。このようにして得られた反応生成物は、強酸処理により得られる繊維長の短いものではなく、繊維長がそのままの長いカーボンナノチューブ繊維状体であり、分散性にも富んでいるため、カーボンナノチューブ本来の特性である導電性等を充分に発揮することができる。したがって、少量で低電気抵抗化ができるため、これを用いた製品の柔軟性を維持することができるとともに、引っ張っても、長い状態(多少くねっている)のカーボンナノチューブが直線状化して対応することから、電気抵抗の変化が少ない。そのため、柔軟性、機械強度に優れた人工筋肉部材等の用途に適している。なお、カーボンブラックやグラファイト等のカーボン材料に対しても、特定のN−フェニル−p−フェニレン誘導体が、上記カーボンナノチューブの場合と同様に作用することにより、カーボンナノチューブの場合と同様の効果を得ることができる。また、本発明の導電性組成物は、上記カーボンナノチューブ等のカーボン材料と,特定のN−フェニル−p−フェニレン誘導体との反応生成物を、スルホン酸基等の極性の強い官能基を持つバインダーポリマーと併用しているため、反応生成物中の、フェニレン誘導体由来のアミノ基と、バインダーポリマー中の官能基がイオン結合する。その結果、カーボン材料等を含む反応生成物が再凝集せず、分散状態の安定性にも優れている。
【0010】
また、前記一般式(1)で表されるN−フェニル−p−フェニレン誘導体が、N−フェニル−p−フェニレンジアミン誘導体であると、カーボンナノチューブ等の塊状体の内部にまでN−フェニル−p−フェニレンジアミン誘導体が浸透しやすくなり反応することによって、分散性がさらに向上する。
【0011】
また、上記カーボン材料が、直径20nm以下のカーボンナノチューブであると、少量添加で低電気抵抗化の効果が得られる。
【0012】
そして、上記導電性組成物が界面活性成分を含有すると、バインダーポリマーがフェニレン誘導体とイオン結合するための官能基を持たない場合でも、カーボンナノチューブ等のカーボン材料との分散性が向上するとともに、バインダーポリマーがフェニレン誘導体とイオン結合するための官能基を持つ場合は、カーボンナノチューブ等のカーボン材料との分散性がさらに向上するという効果が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
つぎに、本発明の実施の形態について説明する。
【0014】
本発明の反応生成物は、下記(A)のカーボン材料と(B)のフェニレン誘導体とを反応させることにより得ることができる。
(A)カーボンナノチューブ,カーボンブラックおよびグラファイトからなる群から選ばれた少なくとも一つのカーボン材料。
(B)前記一般式(1)で表されるN−フェニル−p−フェニレン誘導体。
【0015】
上記カーボン材料(A成分)であるカーボンナノチューブとは、主に炭素6員環からなるグラファイトシートが円筒状を形成した物質をいい、例えば、単層カーボンナノチューブ,複層カーボンナノチューブ(好ましくは、5〜10層)等があげられる。
【0016】
上記カーボンナノチューブの直径は、少量添加で導電性への効果が得られる点から、20nm以下が好ましく、特に好ましくは1〜20nmである。
【0017】
また、上記カーボン材料(A成分)であるカーボンブラックとしては、特に限定はなく、例えば、SAF級,ISAF級,HAF級,MAF級,FEF級,GPF級,SRF級,FT級,MT級等の種々のグレードのカーボンブラックがあげられる。これらは単独でもしくは2種以上併せて用いられる。これらのなかでも、コスト、耐久性等の点から、FEF級カーボンブラックが好適に用いられる。上記カーボンブラックの具体例としては、ケッチェンブラック、アセチレンブラック(デンカブラック)等があげられる。
【0018】
また、上記カーボン材料(A成分)であるグラファイト(黒鉛)とは、常圧で安定な炭素の同素体の一つで、炭素6員環が連なった層状構造をもつものをいい、炭素の元素鉱物として天然に産するもののほか、人工的に製造されるものを含む。
【0019】
つぎに、前記カーボン材料(A成分)とともに用いられる特定のN−フェニル−p−フェニレン誘導体(B成分)としては、下記の一般式(1)で表される化合物が用いられる。
【0020】
【化3】

【0021】
上記一般式(1)において、R1 およびR2 は、それぞれ水素原子、アルキル基、アリール基、アルコキシ基、アミノ基、アミノアリール基を示す。このうち、アルキル基、アリール基、アルコキシ基、アミノアリール基としては、炭素数1〜12のものが好ましく、特に好ましくは炭素数1〜6のものである。R1 の置換位置は、o−位,m−位のいずれであっても良い。また、各繰り返し単位n中のR1 の置換位置は、繰り返し単位毎に同一であっても異なっていてもよく、例えば、R1 の置換位置がo−位の繰り返し単位と、R1 の置換位置がm−位の繰り返し単位とが、ランダムに結合していても差し支えない。なお、R2 の置換位置は、p−位,o−位,m−位のいずれであっても良い。また、nは、1以上100未満の整数を示し、好ましくはn=1〜4、特に好ましくはn=1である。すなわち、nが100以上であると、浸透しにくく、求核付加反応が困難になるからである。
【0022】
前記一般式(1)で表されるN−フェニル−p−フェニレン誘導体(B成分)の重量平均分子量(Mw)は、184〜12000の範囲が好ましく、特に好ましくは184〜500の範囲である。なお、高分子量のN−フェニル−p−フェニレン誘導体(B成分)を用いると、カーボンナノチューブ(CNT)等のカーボン材料(A成分)への浸透がしにくくなるため、CNTを解す効果は減少する。しかし、繰り返し単位n中のアミノ基が多くなるため、C成分への分散性は向上する。
【0023】
上記一般式(1)で表されるN−フェニル−p−フェニレン誘導体のなかでも、分散性の点から、下記の一般式(2)で表されるN−フェニル−p−フェニレンジアミン誘導体が好適に用いられる。
【0024】
【化4】

【0025】
上記一般式(2)における、R1 およびR2 は、前記一般式(1)におけるものと同様である。なお、本発明において、上記一般式(2)で表されるN−フェニル−p−フェニレンジアミン誘導体とは、一般式(2)において、R1 およびR2 がともに水素原子である化合物(N−フェニル−p−フェニレンジアミン)自身も含める意味である。
【0026】
上記特定のN−フェニル−p−フェニレン誘導体(B成分)の配合量は、カーボン材料(A成分)100重量部(以下「部」と略す)に対して、通常、0.5〜8000部、好ましくは10〜1000部、より好ましくは20〜200部である。すなわち、特定のN−フェニル−p−フェニレン誘導体(B成分)の配合量が0.5部未満であると、カーボン材料(A成分)との反応性が劣る傾向がみられ、逆に8000部を超えると、B成分が過剰なため、A成分とB成分との反応生成物の収率が低下するおそがあるからである。
【0027】
ここで、前記カーボン材料(A成分)と特定のN−フェニル−p−フェニレン誘導体(B成分)との反応は、例えば、つぎのようにして行うことができる。すなわち、カーボンナノチューブ等のカーボン材料(A成分)の所定量を、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)等の有機溶剤に添加し、超音波中で所定時間(例えば、12時間)処理した後、これに特定のN−フェニル−p−フェニレン誘導体(B成分)を所定量加え、超音波中で所定時間(例えば、5時間)処理する。この溶液を所定の条件(例えば、Arガス中100℃×24時間)で攪拌し反応させる。これを例えばヘキサンあるいはヘキサン/メタノール混合液等へ滴下して再沈させ、メタノールで洗浄し乾燥することにより、カーボン材料(A成分)と特定のN−フェニル−p−フェニレン誘導体(B成分)との反応生成物を得ることができる。
【0028】
本発明の反応生成物について、特定のカーボン材料(A成分)としてカーボンナノチューブを、特定のN−フェニル−p−フェニレン誘導体(B成分)としてN−フェニル−p−フェニレンジアミンを用いた場合について説明する。本発明の反応生成物は、例えば、図1に示すように、N−フェニル−p−フェニレンジアミン1の末端アミノ基と、カーボンナノチューブ2とが求核付加反応して生成した反応生成物(カーボンナノチューブ繊維状体)である。なお、カーボン材料(A成分)として、カーボンナノチューブ2以外のカーボンブラックやグラファイトを用いた場合も、カーボンナノチューブ2の場合と同様に、N−フェニル−p−フェニレンジアミン1の末端アミノ基と、カーボンブラックもしくはグラファイトとが求核付加反応して、本発明の反応生成物を生成する。
【0029】
つぎに、本発明の導電性組成物について説明する。この導電性組成物は、前記のようにして得られた本発明の反応生成物と、バインダーポリマー(C成分)とを用いて得ることができる。
【0030】
上記バインダーポリマー(C成分)としては、特に限定はないが、前記特定のN−フェニル−p−フェニレン誘導体(B成分)とイオン結合するための官能基を持つものが好ましい。上記B成分とイオン結合するための官能基としては、例えば、スルホン酸基,リン酸基,カルボキシル基もしくはこれらの金属塩基,アンモニウム塩基等があげられる。
【0031】
上記バインダーポリマー(C成分)は、官能基量が0.01〜2.3mmol/gが好ましく、特に好ましくは0.03〜0.8mmol/gである。すなわち、官能基量が0.01mmol/g未満であると、B成分との結合性が悪くなる傾向がみられ、逆に、官能基量が2.3mmol/gを超えると、B成分が吸水しやすくなり物性が悪化する傾向がみられるからである。
【0032】
上記バインダーポリマー(C成分)は、数平均分子量(Mn)が5,000〜2,000,000が好ましく、特に好ましくは10,000〜100,000である。すなわち、バインダーポリマー(C成分)の数平均分子量(Mn)が5,000未満であると、バインダーポリマー物性としての効果が得にくくなり、逆に2,000,000を超えると、粘度が高くカーボン材料(A成分)との微細な複合化が困難になる傾向がみられるからである。
【0033】
上記反応生成物の配合量は、バインダーポリマー(C成分)100部に対して0.01〜50部が好ましく、特に好ましくは0.1〜5部である。すなわち、反応生成物の配合量が0.01部未満であると、カーボンナノチューブ等のカーボン材料(A成分)の導電性の効果が得にくくなり、逆に50部を超えると、物性が悪化したり、加工性が悪化する傾向がみられるからである。
【0034】
本発明の導電性組成物は、前記反応生成物およびバインダーポリマー(C成分)に加えて、カーボンナノチューブ等のカーボン材料(A成分)の分散性の点から、界面活性成分を含有していてもよい。
【0035】
上記界面活性成分としては、例えば、炭素数4〜18の長鎖アルキル基を少なくとも1つ含むベンゼンスルホン酸(塩)やナフタレンスルホン酸(塩),エーテル基等を少なくとも1つ含むポリオキシアルキレンアルキルフェニルエーテルスルホン酸(塩)等があげられる。これらは単独でもしくは2種以上併せて用いられる。これらのなかでも、分散性の点から、ドデシルベンゼンスルホン酸(DBSA)等のアルキルベンゼンスルホン酸が好ましい。
【0036】
また、上記界面活性成分の配合量は、バインダーポリマー(C成分)100部に対して0.05〜20部が好ましく、特に好ましくは0.5〜3部である。
【0037】
本発明の導電性組成物は、例えば、つぎのようにして調製することができる。すなわち、カーボン材料(A成分)と特定のN−フェニル−p−フェニレン誘導体(B成分)とを、前述と同様の超音波処理等により反応させて反応生成物を得る。この反応生成物の所定量を、所定の溶解度(例えば、10%)になるように、トルエン,THF,MEK等の有機溶剤に添加し、攪拌と超音波処理を各々所定時間(例えば、5時間)行う。つぎに、この溶液中に、バインダーポリマー(C成分)の所定量および必要に応じて界面活性成分を適宜に配合し、攪拌羽根等で混合することにより、導電性組成物を調製することができる。また、A成分とB成分の反応生成物を溶剤無しでバインダーポリマーに分散させることもできる。そのための分散機としては、例えば、バンバリーミキサー、二本ロール、三本ロール、ニーダー等があげられる。
【0038】
本発明の導電性組成物は、例えば、図2に示すように、N−フェニル−p−フェニレンジアミン1と,カーボンナノチューブ(CNT)2との反応生成物(図1参照)のアミノ基部分(N−フェニル−p−フェニレンジアミン1のアミノ基部分)が、バインダーポリマー3の官能基(スルホン酸基)部分とイオン結合している。なお、バインダーポリマー3の官能基が、スルホン酸基以外の官能基であっても、N−フェニル−p−フェニレンジアミン1のアミノ基部分とイオン結合する官能基(例えば、カルボキシル基)であれば、図1と同様に、反応生成物とバインダーポリマー3とがイオン結合する。
【0039】
本発明の導電性組成物は、溶液化したものを用いて、例えば、ラングミュアーブロジェット(LB)膜形成手法や、スピンコーティング法、スプレーコーティング法、インクジェット法、ディップ法、遠心成型法等によって塗布し、乾燥させることにより塗膜(薄膜)を形成することも可能である。また、溶液化せず、プレス、インジェクション、押し出し成型等することも可能である。
【実施例】
【0040】
つぎに、実施例について比較例と併せて説明する。ただし、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0041】
まず、カーボン材料(カーボンナノチューブ等)と、特定のN−フェニル−p−フェニレン誘導体(N−フェニル−p−フェニレンジアミン等)との反応生成物を下記のようにして合成した。
【0042】
〔実施例1A〕
単層カーボンナノチューブ1gを、脱水NMP200gに添加し、超音波中で12時間処理した後、これにN−フェニル−p−フェニレンジアミンを50g加え、超音波中で5時間処理した。この溶液をArガス中100℃×24時間攪拌し反応させ、これをヘキサンへ滴下して再沈させ、メタノールで洗浄し乾燥することにより反応生成物を得た。
【0043】
〔実施例2A〜6A〕
カーボン材料,N−フェニル−p−フェニレン誘導体の種類や配合量、もしくはNMPの配合量を、下記の表1に示すように変更する以外は、実施例1Aと同様にして、カーボン材料(カーボンナノチューブ等)と、N−フェニル−p−フェニレン誘導体との反応生成物を合成した。
【0044】
【表1】

【0045】
なお、上記表1に示す材料は、下記のとおりである。
〔単層カーボンナノチューブ〕
エムティーアール(MTR)社製、NT−5(直径:1nm)
〔複層カーボンナノチューブ〕
エムティーアール(MTR)社製、NT−2(直径:約10nm)
〔ケッチェンブラック〕
ケッチェンブラックインターナショナル社製、ケッチェンブラックEC
〔アセチレンブラック〕
電気化学社製、デンカブラック
〔N−フェニル−p−フェニレンジアミン〕
前記一般式(2)において、R1 およびR2 がともに水素原子である化合物。
【0046】
〔ポリm−トルイジン〕
下記の式(3)で表される化合物〔重量平均分子量(Mw):8000〕。
【化5】

【0047】
〔ポリo−エチルアニリン〕
下記の式(4)で表される化合物〔重量平均分子量(Mw):3000〕。
【化6】

【0048】
このようにして得られた実施例品の反応生成物(カーボンナノチューブ繊維状体等)について、IR(赤外スペクトル)、TGA(熱重量分析)測定を行った。IR測定結果から、500〜800cm-1に置換ベンゼンの吸収ピークが見られることから、フェニレンジアミン化合物の付加が確認できた。このことから、N−フェニル−p−フェニレンジアミンのNH基と、カーボン材料(カーボンナノチューブ等)との反応がうまく進行していることが確認された。また、TGA分析より、単層カーボンナノチューブの熱分解温度が500℃以上であり、N−フェニル−p−フェニレンジアミンの熱分解温度が、300℃付近である事を利用して、定量を行ったところ、実施例1Aでは、1gのカーボン材料に対して1.20gのN−フェニル−p−フェニレンジアミンが修飾していることが確認できた。
【0049】
また、実施例1A,実施例2Aの反応生成物(カーボンナノチューブ繊維状体)の平均繊維径(10本の平均)をTEM(透過型電子顕微鏡)で観察した結果、原料として用いたカーボンナノチューブの平均繊維径(1nm)と略同じであった。なお、原料として用いたカーボンナノチューブの繊維径の測定は、TEMで測定してその10本の平均値で求めた。
【0050】
つぎに、上記反応生成物を用いて、導電性組成物を作製した。
【0051】
〔実施例1B〕
上記実施例1Aで合成した反応生成物0.3部を、固形分10%になるように溶剤(THF)に添加し、攪拌と超音波処理を各々5時間行った。つぎに、この溶液中にバインダーポリマーであるウレタン系樹脂100部を配合し、攪拌羽根で混合して導電性組成物(コーティング液)を調製した。
【0052】
〔実施例2B〜5B,7B〕
反応生成物,バインダーポリマーもしくは溶剤の種類や配合量を、後記の表2に示すように変更する以外は、実施例1Bと同様にして、導電性組成物を調製した。
【0053】
〔実施例6B〕
上記実施例4Aで合成した反応生成物25部を、溶解度10%になるように溶剤(THF)に添加し、攪拌と超音波処理を各々5時間行った。つぎに、この溶液中にバインダーポリマーであるウレタン系樹脂100部と、界面活性成分(ドデシルベンゼンスルホン酸)10部とを配合し、攪拌羽根で混合して導電性組成物(コーティング液)を調製した。
【0054】
〔実施例8B〕
上記実施例6Aで合成した反応生成物1部を、溶解度10%になるように溶剤(THF)に添加し、攪拌と超音波処理を各々5時間行った。つぎに、この溶液中にバインダーポリマーであるスルホン化ウレタン100部と、界面活性成分(ドデシルベンゼンスルホン酸)3部とを配合し、攪拌羽根で混合して導電性組成物(コーティング液)を調製した。
【0055】
【表2】

【0056】
【表3】

【0057】
なお、上記表2および表3に示す材料は、下記のとおりである。
〔ウレタン系樹脂〕
アルドリッチ社製、ポリウレタン 品番430218
〔スルホン化ウレタン〕
日本ポリウレタン社製、ニッポラン3315
〔スルホン化アクリル〕
下記の化学式(5)で表されるスルホン酸官能基を有するアクリル系ポリマー(スルホン化アクリル)
【化7】

【0058】
一方、比較例として下記の導電性組成物を調製した。
〔比較例1B〕
単層カーボンナノチューブ〔エム・ティー・アール社製、NT−5(直径:1nm)〕0.3部を、溶解度10%になるように溶剤(トルエン)に添加し、攪拌と超音波処理を各々5時間行った。つぎに、この溶液中にバインダーポリマーとしてウレタン系樹脂(アルドリッチ社製、ポリウレタン 品番430218)100部をTHF900部に溶解した後、攪拌羽根で混合して導電性組成物(コーティング液)を調製した。
【0059】
〔比較例2B〕
カーボンナノチューブの分散性の向上のために、凝集抑制剤を添加した導電性組成物の作製に先立ち、単層カーボンナノチューブおよび凝集抑制剤を下記のようにして調製した。
(単層カーボンナノチューブ強酸処理品の調製)
多孔性担体にY型ゼオライト粉末(東ソー製、HSZ−320NAA)を用い、触媒金属化合物に酢酸第二鉄と酢酸コバルトを用いて、Fe/Co触媒をゼオライトに担持した。触媒の担持量はそれぞれ2.5重量%に調整した。その後、石英ボートに触媒粉末を乗せてCVD装置の石英管内に設置して真空排気を行い、流量10mL/分でArガスを導入しながら室温から800℃まで昇温した。所定の800℃に達した後、エタノール蒸気を流量3000mL/分で導入し、Ar/エタノール雰囲気下で30分間保持した。得られた黒色の生成物を、レーザーラマン分光法および透過型電子顕微鏡で分析した結果、単層カーボンナノチューブが生成していることが確認された。ついで、得られた生成物(単層カーボンナノチューブ/ゼオライト/金属触媒)を、フッ化水素酸10%に3時間浸漬後、中性になるまでイオン交換水で洗浄することにより、ゼオライトおよび金属触媒を除去してカーボンナノチューブを精製した。得られたカーボンナノチューブをTEMにて観察したところ、平均直径は1.2nm、平均アスペクト比は100以上であった。ただし多くが幅約10nmほどのバンドル構造をとっていた。
【0060】
(全芳香族ポリアミド:凝集抑制剤の合成)
充分に乾燥した攪拌装置付きの三口フラスコに、NMP1717.38部、p−フェニレンジアミン18.82部および3,4′−ジアミノフェニルエ−テル34.84を常温下で添加し窒素中で溶解した後、攪拌しながらテレフタル酸ジクロリド70.08部を添加した。最終的に80℃、60分反応させたところに水酸化カルシウム12.85部を添加し中和反応を行った。得られたポリマ−ド−プを水にて再沈殿することにより析出させたポリマ−の特有粘度は3.5(dl/g)であった。
【0061】
つぎに、上記カーボンナノチューブおよび凝集抑制剤を用いて、下記のようにして導電性組成物を調製した。
(導電性組成物の調製)
上記単層カーボンナノチューブ10mgをNMP100mlに添加して、3周波超音波洗浄器(アズワン社製、出力100W、28Hz)で30分超音波処理を行った。続いて、単層カーボンナノチューブとNMPからなる混合物を、上記で合成した全芳香族ポリアミドのドープ167mgに超音波処理した後ただちに添加し、さらに15分超音波処理することにより導電性組成物(単層カーボンナノチューブ分散液)を得た。この分散液をウレタン823mg(NMPに溶解したもの)に分散し導電性組成物とした。
【0062】
このようにして得られた実施例および比較例の導電性組成物を用いて、下記のようにして各特性の評価を行った。その結果を、下記の表4および表5に併せて示した。
【0063】
【表4】

【0064】
【表5】

【0065】
〔沈降性(1週間放置)〕
各導電性組成物を1週間放置し、凝集物の沈降の有無を確認した。評価は、凝集物の沈降がなかったものを○、凝集物の沈降はあるものの上澄みの分離が見られないものを△、凝集物の沈降があり上澄みが明確に分離しているものを×とした。
【0066】
〔沈降性(遠心分離)〕
各導電性組成物(コーティング液)を2000rpmで10分間遠心分離し、凝集物の沈降の有無を確認した。評価は、凝集物の沈降がなかったものを○、凝集物の沈降はあるものの上澄みの分離が見られないものを△、凝集物の沈降があり上澄みが明確に分離しているものを×とした。
【0067】
〔粒度〕
各導電性組成物について、JIS K5400に記載のつぶゲージに準拠して、導電性組成物の粒度を測定した。
【0068】
〔外観観察〕
各導電性組成物(コーティング液)を1週間放置した後、ガラス板上にコーティングし、乾燥して塗膜(厚み20μm)を作製した。そして、この塗膜について、光学顕微鏡(倍率400倍)を用いて外観を観察した。評価は、1μm以上の凝集物が観察されなかったものを○、凝集物が観察されたものを×とした。
【0069】
〔電気抵抗〕
上記塗膜の電気抵抗を、JIS K 7194に準じて測定した。
【0070】
上記表4および表5の結果から、実施例1B〜8Bの組成物は、沈降性に優れ、塗膜の電気抵抗も良好であった。
【0071】
これに対して、比較例1Bの導電性組成物は、溶液状態での沈降性が劣っていた。また、比較例2Bの導電性組成物は、沈降性に劣るとともに塗膜外観に不良がみられた。この理由は、比較例2Bでは、全芳香族ポリアミド(凝集抑制剤)は単なる分散剤にすぎず、カーボンナノチューブとは反応していないこと、全芳香族ポリアミドがウレタンとは相溶せず分離状態になったため、分散状態の安定性が劣ったものと推察される。
【産業上の利用可能性】
【0072】
本発明の反応生成物およびそれを用いた導電性組成物は、導電性組成物を単独で用いても、他の樹脂やゴム,塗料,無機物と混合した複合物として用いてもよく、その加工性や電気特性、柔軟性、機械強度を生かした分野である電気,電子材料等の諸分野において、特に有用である。具体的には、静電気防止用のコーティング剤、プリンターやコピー機等の電子写真機器に用いられるローラ部材,ベルト部材,ブレード部材、繊維の処理剤、自動車用燃料ホースの帯電防止材料、二次電池の正極材料,有機薄膜太陽電池や色素増感型太陽電池の電極や活性層材料、防錆塗料、電磁波シールド材、IDタグのアンテナ材料、高分子アクチュエータ、各種センサー、スーパーキャパシターの電極材料、有機EL用材料、有機トランジスタの半導体、人工筋肉部材等に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0073】
【図1】本発明の反応生成物の一例を示す模式図である。
【図2】本発明の導電性組成物における、反応生成物とバインダーポリマーとの結合状態を示す説明図である。
【符号の説明】
【0074】
1 N−フェニル−p−フェニレンジアミン
2 カーボンナノチューブ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記(A)のカーボン材料と(B)のフェニレン誘導体との反応生成物。
(A)カーボンナノチューブ,カーボンブラックおよびグラファイトからなる群から選ばれた少なくとも一つのカーボン材料。
(B)下記の一般式(1)で表されるN−フェニル−p−フェニレン誘導体。
【化1】

【請求項2】
上記(B)が、N−フェニル−p−フェニレンジアミン誘導体である請求項1記載の反応生成物。
【請求項3】
上記(A)のカーボン材料が、直径20nm以下のカーボンナノチューブである請求項1または2記載の反応生成物。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項に記載の反応生成物と、下記の(C)を含有する導電性組成物。
(C)バインダーポリマー。
【請求項5】
上記(C)のバインダーポリマーが、上記(B)のフェニレン誘導体とイオン結合するための官能基を持つ請求項4記載の導電性組成物。
【請求項6】
界面活性成分を含有する請求項4または5記載の導電性組成物。
【請求項7】
カーボンナノチューブの塊状体に対して下記の一般式(1)で表されるN−フェニル−p−フェニレン誘導体を作用させ、上記塊状体中のカーボンナノチューブと反応生成物を作らせることによりカーボンナノチューブの塊状体をほぐして、カーボンナノチューブとフェニレン誘導体との反応生成物からなる非塊状の繊維状体を得ることを特徴とする反応生成物の製法。
【化2】


【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−314407(P2007−314407A)
【公開日】平成19年12月6日(2007.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−527(P2007−527)
【出願日】平成19年1月5日(2007.1.5)
【出願人】(506142510)
【出願人】(000219602)東海ゴム工業株式会社 (1,983)
【Fターム(参考)】