説明

カールコードの製造方法

【課題】 耐熱性、耐寒性等に優れた熱加硫型シリコーンゴムを用いて、寒冷地等での使用に耐え得るカールコードを開発すると共に、その製造の際に生じる成形の諸問題を解消し得る製造技術を提供する。
【解決手段】 本発明のカールコードの製造方法は、(a)重合度5000〜10000なるミラブル型シリコーンゴムに有機過酸化物を添加混拌し、該混拌シリコーンゴムを押出成形機にて線芯に被覆させて紐状の成型体とする工程と、(b)その紐状成型体を加熱して表面部分のみを硬化させる工程と、(c)該表面が硬化した紐状成型体を、一定間隔を保って螺旋状に溝を刻設した溝付きボビンに巻き付ける工程と、(d)該ボビンに巻き付けられた紐状成形体を加熱して全体をカール状に硬化させる工程等から成ることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カールコードの製造技術に関し、更に詳細には、耐熱性と耐寒性を保持した弾性シリコーンゴムにバネ性を付与するカールコードの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
カールコードはそのバネ特性を生かして、携帯電話機のカールホールダーや航空機、バスのドア付設のセンサー用巻き線などに利用され、その使用材料は熱可塑性樹脂では塩化ビニル系やポリエステル系が一般的に使用され、熱硬化性樹脂ではウレタン系あるいは合成ゴム系などが使用されて、それぞれ用途に応じて使い分けられている。しかし、該バネ特性は使用初期においては100%の復元力や高耐久性が維持されているが、長期間使用するに従って次第に劣化し、特に北海道などの寒冷地や沖縄、砂漠などの高温地域においてはその劣化が早く、安価な塩化ビニル系の使用可能温度範囲は通常−5〜+55℃位に限定されてしまう。
例えば特許文献1には「携帯電話機などの携帯用品に装着する手提げ紐および該手提げ紐の製造方法
に関し、ウレタンまたは塩化ビニルなどの合成樹脂材は透明感を有し、種々の色彩を施すことが可能なので、意匠性やその色彩などによって使用する携帯電話機を他人のものと識別する」ものが提案されている。しかし、この種の提案は人が携帯できる温度範囲に限定されるものであり、寒冷地域で使用すると該手提げ紐は収縮し、バネ性が失われてしまい、逆に+55℃を超える高温地域では当該樹脂は軟化し、伸び切ってしまうおそれがある。
又、特許文献2には「使用する材料が複数本の金属素線で構成された直径1〜2mmの線芯、その周りをパラ系アラミド繊維で形成した高強度な組紐で覆い、更にその外部をポリエステル系樹脂、塩化ビニル系樹脂、スチレン系樹脂、ポリアミド系樹脂、オレフィン系樹脂およびフッ素系樹脂からなる熱可塑性樹脂で被覆して、カール加工した高剪断コードおよびカールコードとしている。」ものが提案されている。しかし、これは主題が高剪断に目的があり、フッ素系樹脂などは高温においては弾力性を有しても、低温では不向きな材料となってしまう。
従って、北海道等の寒冷地や沖縄等の高温地域では、耐熱性および耐寒性を保持して弾力性を常時備えたバネ性を持ったカールコードに成り得ないものである。
【特許文献1】特開2000-157321号
【特許文献2】特開2002-339280号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明は上記実情に鑑みて製造されたもので、耐熱性、耐寒性等に優れた熱加硫型シリコーンゴムを用いて、上記寒冷地等での使用に耐え得るカールコードを開発すると共に、その製造の際に生じる成形の諸問題を解消し得るカールコードの製造技術を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記目的を達成するために、請求項1記載のカールコードの製造方法は、(a)重合度5000〜10000なるミラブル型シリコーンゴムに有機過酸化物を添加混拌し、該混拌シリコーンゴムを押出成形機にて線芯に被覆させて紐状の成型体とする工程と、(b)その紐状成型体を加熱して表面部分のみを硬化させる工程と、(c)該表面が硬化した紐状成型体を、一定間隔を保って螺旋状に溝を刻設した溝付きボビンに巻き付ける工程と、(d)該ボビンに巻き付けられた紐状成形体を加熱して全体をカール状に硬化させる工程と、(e)その紐状成形体を一定温度に放置して安定化させる工程と、(f)上記ボビンから取り外した紐状成形体のカール方向を逆転させる工程から成ることを特徴とする。
【0005】
請求項2記載のカールコードの製造方法は、紐状成形体の表面部分を硬化させるにあたって、加熱温度を90〜120℃とし、加熱印加時間を30〜60秒とする。
【0006】
請求項3記載のカールコードの製造方法は、溝付きボビンの形成にあたって、溝と溝との間隔を約1mmに保った螺旋状溝を刻設した溝付きボビンとする。
【発明の効果】
【0007】
本発明は、シリコーンゴムを主たる素材としたので、−45〜+115℃の広範囲の温度域で耐熱性および耐寒性を保持し、弾力性を常時備えたバネ性を持ったカールコードが得られ、寒冷地域の北海道や、高温地域の沖縄等での繰り返しの使用に耐えることができる。
そのシリコーンゴムを重合度5000〜10000のミラブル型シリコーンゴムとしたので、ロールによる混拌可能とすると共に、押出成形機によって成形後にもゴムの垂れ等を抑え、その後の加工を可能とする。
押出成形機による押出後に熱風によって表面部分のみを硬化させるので、シリコーンゴムの表面は硬化して垂れがなくなると共に、ボビンへの巻き付けを可能にする。一方、シリコーンゴムの内部は未硬化の状態に維持されるので、該ボビンへの巻き付けによるカール加工を可能にする。
上記ボビンは、一定間隔を保って螺旋状に溝を刻設した溝付きボビンとしたので、螺旋状に巻き付けたとき密着による互いの融着を回避することができ、且つ、それが適切な間隔なので硬化後には弾性によって互いが密着、伸延する螺旋状を保つことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
そこで、この発明の実施の形態を、図1〜図3および表1〜表3に基づいて説明する。
本発明は、耐熱性、耐寒性、弾性、バネ性を保有するカールコードを成形するものである。その選定材料としてミラブル型シリコーンゴム、架橋剤を用い、その両者の混拌物としての適切な粘性に着目した成形方法の特徴について説明する。

【0009】
この発明の原料として使用するシリコーンゴムは、シロキサン結合を有する網状の分子構造を持つミラブル型シリコーンゴムとし、このゴムの重合度は5000〜10000で、ロール作業を経て有機過酸化物架橋剤を配合混拌可能な粘性ポリマーである。即ち、重合度を5000〜10000としたシリコーンゴムは、ロール作業が困難なほど硬すぎることはなく、一方、混拌後に垂れを起こすほどの柔らかさになることはなく適切なミラブル性を獲得することができる粘性を有している。
物性的には耐熱性、耐寒性を有し、具体的には−45〜+115℃の耐熱性および耐寒性を有する絶縁弾性体である。その特性を表1に示す。測定方法はJISK6249に準拠した。

【0010】
【表1】

【0011】
次に、上記ミラブル型シリコーンゴムに添加する架橋剤は有機過酸化物、特に本発明では、p-メチルベンゾイルパーオキサイドを使用した。配合混拌して成形加工中に該シリコーンゴムと共に適切な粘性を形成して、混拌や押出しの時間と共に粘度が低下し、一定時間経過後には該粘度が安定化して加熱後の弾性とバネ性の均一化が図れる材料で、更に加熱成形加工後に、最終加熱を行って、残留している余分な該過酸化物は除去できる材料として選定した。

【0012】
上記に説明した各材料の特徴を踏まえ、本発明である耐熱性、耐寒性、弾性、バネ性を保有するカールコードを成形する材料の配合表を表2に記載すると共にその成形方法について説明する。
【0013】
【表2】




【0014】
前記配合表に基づいて、カールコードを製造するための成形方法を以下に説明する。
最初に、所定量のミラブル型シリコーンゴムをロールミルに投入し、ミルを回転させながら、所定量のp-メチルベンゾイルパーオキサイドを投入して、両者を混合混拌した。この混拌物の表面状態は未硬化であるのでネバネバ状態を呈している。

【0015】
次に、押出し成形工程の状況を図1に示す。
上記シリコーン混拌物1を同軸押出し機2のシリンダー3に投入し、電線など線芯4を該同軸押出し機2の後方より挿入して、該線芯4に該シリコーン混拌物1を同心円状に被覆しながら、ノズル5から同軸押出し紐状成形体6として排出する。
このとき、重合度5000〜10000なるミラブル型シリコーンゴムをロールによって混拌したので、押しだし中の垂れ下がりや、波打ちがない。即ち、重合度5000未満のシリコーンゴムでは粘度が低くなり過ぎて押しだし中に垂れ下がりが生じたり、逆に重合度10000以上のシリコーンゴムの場合には粘度が高くなりすぎて、成型品の表面に波打ちが発生するおそれがあるが、上記重合度範囲にシリコーンゴムはこのような難点がなく、適切な粘度が保持される。
【0016】
前記押出し工程で成形された同軸押出し紐状成形体6の拡大断面図を図2に示す。この図は、直径4.5mmφの2芯カールコード用ケーブルの断面図で、電線など線芯4は2芯とし、同じ2芯のポリエステルエラストマー製絶縁体7と4芯を形成して紙テープ8で巻き、1本の線芯としたものである。この線芯に上記押出し機によりシリコーンゴム9を被覆した状態を示したものである。
次いで、その紐状成型体6の表面に熱風をかけ、又は温水に浸す等して、表面部分のみを硬化させる。
即ち、当該紐状成形体6の表面に例えば、90℃の温水に60秒間浸し、又は150℃の熱風を25秒かけると、シリコーンゴムの表面が架橋反応して、柔らかい表面が硬化して全体が一定形状を保持する。一方、その反応時間は一定以下の短時間とするので内部は架橋反応に至らず、粘性を維持している。
この表層架橋の結果、該シリコーンゴムは表層部の架橋に止まり、表層部の硬化だけが行われる条件となって該表層部から内部への架橋は進行しない。即ち、該シリコーンゴムの表層はサラサラ状態を呈して後述のボビンへの巻着を可能とする一方、内部は依然とネバネバ状態を呈し、このネバネバ状態が線芯への被覆を密着状態にさせると共に、後述する架橋反応でボビンの溝に沿ってシリコーンを硬化させ、螺旋状の弾性ゴム体とすることを可能とする。
【0017】
前記本架橋前処理工程で表層部が架橋された紐状成形体6を螺旋状溝付きボビン10に巻き付けて成形する。該ボビンを図3に示す。該ボビン10の外径は、最終的に形成されるカールコードの外径に合わせ、11mmφに設定し、長さは400〜500mmとし、その外周に、直径4.5mmφの半円状の溝を形成し、ピッチ5.5mmの螺旋状の溝を削り込み、該螺旋状の溝と溝の間には1mm程度の間隔を設ける。
この1mmの間隔によって、加熱架橋時にシリコーンゴム9被覆押出し成形物を螺旋状に巻き付けたとき密着によって互いが融着するため、これを回避することができる。
この該ボビン10を巻線機にセットし、該螺旋状の溝に沿って直径4.5mmφの上記前処理されたシリコーンゴム9を巻付け、電気炉で架橋する。例えば、電気炉温度120〜150℃、電気炉印加時間15〜20分とする。
【0018】
前記螺旋状溝付きボビン10から紐状成形体6を取外した後、恒温槽に温度140〜160℃、印加時間50〜70分で架橋し、シリコーンゴム中の加硫剤の残渣を除去し、経年変化によって加水分解して発生するひび割れなどの劣化を防止すると共に、本来所有するゴム状弾性を保持するものとする。
【0019】
前記架橋安定化工程において、該シリコーンゴムに本来所有するゴム状弾性を保持させた後、より高いバネ性を付与するために、該螺旋状の向きを逆回転させて形成させる。逆回転をさせないとバネ性が強化されない。
【実施例】
【0020】
次いで、実施例を説明する。重合度5000〜10000が混在したミラブル型シリコーンゴム100部にp-メチルベンゾイルパーオキサイド1.5部をロールミルに投入して混拌した。押出成型機に掛けて、線芯に被覆させて1.25mm厚で直径4.5mmの紐状成形体とした。線芯は、2芯の電線と2芯のポリエステルエラストマー製絶縁体で芯を形成して紙テープを巻いて線芯とした。これを90℃の温水に60秒浸漬した。溝深さ4.5mmの半円で溝間隔を1mmで長さを400mmとしたボビンに、上記紐状成形体を巻き付け、電気炉で120℃で20分間維持した。ボビンから取り外した成形体を150℃の恒温槽に1時間放置し、最後に螺旋の向きを逆転させてカールコードとした。
上記実施例で得たカールコードの特性として、耐熱性を表3に、耐寒性を表4に示す。この特性値は、シリコーンゴムの架橋後に耐熱性は220℃の雰囲気中に96時間放置し、JISK6249に準拠して測定した値である。
【0021】
【表3】

【0022】
更に、当該2芯カールコード用ケーブルの電気的な規格にも合格できた。この特性値を表5に示す。
【0023】
【表4】

【産業上の利用可能性】
【0024】
本発明カールコードは、−45〜+115℃の過酷な雰囲気中に放置しても耐熱性および耐寒性を保持し、広範囲な温度域で弾力性を常時備えたバネ性を持ったカールコードとして十分使用可能であり、船舶、航空機等に広く利用が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】図1は、本発明の同軸押出し工程の模式図を示す。
【図2】図2は、直径4.5mmφの2芯カールコード用ケーブルの拡大断面図を示す。
【図3】図3は、螺旋状溝付きボビンを示す。
【符号の説明】
【0026】
1 シリコーン混拌物
2 同軸押出し機
3 シリンダー
4 線芯
5 ノズル
6 同軸押出し紐状成形体
7 ポリエステルエラストマー絶縁体
8 紙テープ
9 シリコーンゴム
10 螺旋状溝付きボビン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)重合度5000〜10000なるミラブル型シリコーンゴムに有機過酸化物を添加混拌し、該混拌シリコーンゴムを押出成形機にて線芯に被覆させて紐状の成型体とする工程と、
(b)その紐状成型体を加熱して表面部分のみを硬化させる工程と、
(c)該表面が硬化した紐状成型体を、一定間隔を保って螺旋状に溝を刻設した溝付きボビンに巻き付ける工程と、
(d)該ボビンに巻き付けられた紐状成形体を加熱して全体をカール状に硬化させる工程と、
(e)その紐状成形体を一定温度に放置して安定化させる工程と、
(f)上記ボビンから取り外した紐状成形体のカール方向を逆転させる工程、
から成ることを特徴とするカールコードの製造方法。
【請求項2】
紐状成形体の表面部分を硬化させるにあたって、加熱温度を90〜120℃とし、加熱印加時間を30〜60秒とする請求項1記載のカールコードの製造方法。
【請求項3】
溝付きボビンの形成にあたって、溝と溝との間隔を約1mmに保った螺旋状溝を刻設したボビンとする請求項1記載のカールコードの製造方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−132663(P2008−132663A)
【公開日】平成20年6月12日(2008.6.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−320264(P2006−320264)
【出願日】平成18年11月28日(2006.11.28)
【出願人】(506395415)豊国産業株式会社 (1)
【Fターム(参考)】