説明

ガスセルユニットおよび原子発振器

【課題】周波数精度を向上させることができるガスセルユニットおよび原子発振器を提供すること。
【解決手段】本発明のガスセルユニット2は、ガス状のアルカリ金属原子を封入したガスセル21と、ガスセル21を加熱するヒーター22と、ガスセル21を介してヒーター22に対向して設けられ、ガスセル21を加熱するヒーター23とを有し、ヒーター22は、通電により発熱する発熱抵抗体222を備え、ヒーター23は、発熱抵抗体222に流れる電流の方向と同方向に電流が流れ、通電により発熱する発熱抵抗体232を備え、発熱抵抗体222と発熱抵抗体232との間にて、発熱抵抗体222への通電に伴って生じる磁場と、発熱抵抗体232への通電に伴って生じる磁場とを互いに相殺または緩和させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガスセルユニットおよび原子発振器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ルビジウム、セシウム等のアルカリ金属の原子のエネルギー遷移に基づいて発振する原子発振器は、一般に、光およびマイクロ波による二重共鳴現象を利用したもの(例えば、特許文献1参照)と、波長の異なる2種類の光による量子干渉効果(CPT:Coherent Population Trapping)を利用したもの(例えば、特許文献2参照)とに大別される。
いずれの原子発振器においても、一般に、アルカリ金属をガスセル内に緩衝ガスとともに封入し、そのアルカリ金属をガス状に保つために、ガスセルを所定温度に加熱する必要がある。
【0003】
例えば、特許文献3に記載の原子発振器では、ガス状の金属原子を封入したガスセルの外表面上にITOで構成された膜状の発熱体が設けられ、この発熱体を通電により発熱させる。これにより、ガスセルを加熱して、ガスセル内の金属原子をガス状に保つことができる。
このような原子発振器では、通常、ガスセル内の温度が一定となるように、発熱体へ供給される電流が調整される。そのため、例えば外気温変化に伴って、発熱体に流れる電流が変化してしまう。
【0004】
このように発熱体に流れる電流が変化すると、発熱体から生じる磁場も変化してしまう。
発熱体から生じる磁場が変化すると、ガスセル中の金属原子の基底準位間のエネルギー差に相当する周波数が変動してしまう。そのため、従来の原子発振器では、出力周波数がずれてしまうという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平10−284772号公報
【特許文献2】米国特許第6806784号明細書
【特許文献3】米国特許出願公開第2006/002276号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、周波数精度を向上させることができるガスセルユニットおよび原子発振器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の形態または適用例として実現することが可能である。
[適用例1]
本発明のガスセルユニットは、ガス状のアルカリ金属原子を封入したガスセルと、
通電により発熱し、前記ガスセルを加熱する第1発熱抵抗体と、
通電により発熱し、前記ガスセルを加熱する第2発熱抵抗体と、を備え、
前記第1発熱抵抗体と前記第2発熱抵抗体が前記ガスセルを挟んで対向し、
前記第1発熱抵抗体への通電に伴って前記ガスセル内に生じる磁場と、前記第2発熱抵抗体への通電に伴って前記ガスセル内に生じる磁場とが、前記ガスセル内において磁場の強度を互いに弱め合うように、前記第1発熱抵抗体に流れる電流と前記第2発熱抵抗体に流れる電流とが互いに同一方向に流れる電流成分を含むことを特徴とする。
【0008】
このような構成のガスセルユニットによれば、第1発熱抵抗体および第2発熱抵抗体への通電量が変化しても、ガスセル内の磁場の変動を抑制または防止することができる。そのため、ガスセル内の磁場の変動を抑えつつ、ガスセル内の温度を所望の温度に維持することができる。その結果、本発明のガスセルユニットは、周波数精度を向上させることができる。
【0009】
[適用例2]
本発明のガスセルユニットでは、前記第1発熱抵抗体および前記第2発熱抵抗体は、それぞれ、平面視したときに、前記ガスセルの前記アルカリ金属原子が封入された領域よりも外側に延びていることが好ましい。
これにより、ガスセルのアルカリ金属原子が封入された領域内全域の磁場の変動を抑えることができる。その結果、簡単かつ確実に周波数精度を向上させることができる。
【0010】
[適用例3]
本発明のガスセルユニットでは、前記第1発熱抵抗体および前記第2発熱抵抗体は、それぞれ、平面視にて長方形をなし、短辺に平行な方向に電流が流れることが好ましい。
これにより、ガスセルのアルカリ金属原子が封入された領域内全域の磁場の変動をより確実に抑えることができる。
【0011】
[適用例4]
本発明のガスセルユニットでは、前記第1発熱抵抗体上および前記第2発熱抵抗体上には、それぞれ、1対の長辺に沿って1対の電極が設けられていることが好ましい。
これにより、第1発熱抵抗体および第2発熱抵抗体の短辺に平行な方向に均一に電流を流すことができる。そのため、第1発熱抵抗体および第2発熱抵抗体の発熱分布および磁場分布の均一化、ひいては、ガスセル内の温度および磁場の均一化を図ることができる。その結果、ガスセルユニットの周波数精度を優れたものとすることができる。
【0012】
[適用例5]
本発明のガスセルユニットでは、前記第1発熱抵抗体上および前記第2発熱抵抗体上には、それぞれ、1対の短辺に沿って1対の磁気シールド用の導体が設けられていることが好ましい。
これにより、ガスセルのアルカリ金属原子が封入された領域内全域の磁場の変動をより確実に抑えることができる。
【0013】
[適用例6]
本発明のガスセルユニットでは、前記第1発熱抵抗体と、一方の面に前記第1発熱抵抗体が設けられた第1基板とを有する第1ヒーターと、
前記第2発熱抵抗体と、一方の面に前記第2発熱抵抗体が設けられた第2基板とを有する第2ヒーターと、を備えたことを特徴とすることが好ましい。
これにより、第1発熱抵抗体および第2発熱抵抗体の設置が容易となる。
【0014】
[適用例7]
本発明の原子発振器は、本発明のガスセルユニットと、
前記ガスセル中の前記アルカリ金属原子を励起する励起光を出射する光出射部と、
前記ガスセルを透過した前記励起光の強度を検出する光検出部とを備えることを特徴とする。
これにより、優れた周波数精度を有する原子発振器を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の第1実施形態に係る原子発振器の概略構成を示すブロック図である。
【図2】図1に示す原子発振器に備えられたガスセル内のアルカリ金属のエネルギー状態を説明するための図である。
【図3】図1に示す原子発振器に備えられた光出射部および光検出部について、光出射部からの2つの光の周波数差と、光検出部の検出強度との関係を示すグラフである。
【図4】図1に示す原子発振器に備えられたガスセルユニットの概略構成を示す斜視図である。
【図5】図4に示すガスセルユニットを示す断面図である。
【図6】図4に示すガスセルユニットを示す平面図である。
【図7】図4に示すガスセルユニットの作用を説明する図(断面図)である。
【図8】(a)は、2つのヒーターに互いに同方向の電流を流した場合の2つのヒーター間の磁束密度を説明するグラフ、(b)は、2つのヒーターに互いに反対方向の電流を流した場合の2つのヒーター間の磁束密度を説明するグラフである。
【図9】ヒーターの長辺と短辺との比と2つのヒーター間の磁束密度との関係を示すグラフである。
【図10】本発明の第2実施形態に係るガスセルユニットの概略構成を示す斜視図である。
【図11】図10に示すガスセルユニットを示す平面図である。
【図12】図10に示すガスセルユニットの作用を説明する図(断面図)である。
【図13】本発明の第3実施形態に係るガスセルユニットの概略構成を示す斜視図である。
【図14】本発明の第4実施形態に係るガスセルユニットの概略構成を示す斜視図である。
【図15】本発明の第5実施形態に係るガスセルユニットを示す平面図である。
【図16】本発明の第6実施形態に係るガスセルユニットを示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明のガスセルユニットおよび原子発振器を添付図面に示す実施形態に基づいて詳細に説明する。
<第1実施形態>
図1は、本発明の第1実施形態に係る原子発振器の概略構成を示すブロック図、図2は、図1に示す原子発振器に備えられたガスセル内のアルカリ金属のエネルギー状態を説明するための図、図3は、図1に示す原子発振器に備えられた光出射部および光検出部について、光出射部からの2つの光の周波数差と、光検出部の検出強度との関係を示すグラフ、図4は、図1に示す原子発振器に備えられたガスセルユニットの概略構成を示す斜視図、図5は、図4に示すガスセルユニットを示す断面図、図6は、図4に示すガスセルユニットを示す平面図、図7は、図4に示すガスセルユニットの作用を説明する図(断面図)、図8(a)は、2つのヒーターに互いに同方向の電流を流した場合の2つのヒーター間の磁束密度を説明するグラフ、図8(b)は、2つのヒーターに互いに反対方向の電流を流した場合の2つのヒーター間の磁束密度を説明するグラフ、図9は、ヒーターの長辺と短辺との比と2つのヒーター間の磁束密度との関係を示すグラフである。なお、以下では、説明の便宜上、図4、5、7中の上側を「上」、下側を「下」と言う。また、図4〜7では、説明の便宜上、互いに直交する3つの軸として、X軸、Y軸およびZ軸を図示しており、X軸に平行な方向を「X軸方向」、Y軸に平行な方向を「Y軸方向」、Z軸に平行な方向(上下方向)を「Z軸方向」と言う。
【0017】
(原子発振器)
まず、図1〜図3に基づいて、本実施形態に係る原子発振器の全体構成を簡単に説明する。
なお、以下では、量子干渉効果を利用した原子発振器に本発明を適用した場合を一例として説明するが、本発明は、これに限定されるものではなく、二重共鳴効果を利用した原子発振器にも適用可能である。
【0018】
図1に示す原子発振器1は、ガスセルユニット2と、光出射部3と、光検出部4と、制御部5とを有している。
また、ガスセルユニット2は、ガス状のアルカリ金属を封入したガスセル21と、ガスセル21を加熱するヒーター22、23と、ガスセル21の温度を検出する温度センサー24、25と、ガスセル21に作用する磁場を発生させるコイル26とを有している。
【0019】
ガスセル21の内部には、ガス状のルビジウム、セシウム、ナトリウム等のアルカリ金属が封入されている。
アルカリ金属は、図2に示すように、3準位系のエネルギー準位を有しており、エネルギー準位の異なる2つの基底状態(基底状態1、2)と、励起状態との3つの状態をとり得る。ここで、基底状態1は、基底状態2よりも低いエネルギー状態である。
【0020】
このようなガス状のアルカリ金属に対して周波数の異なる2種の共鳴光1、2を照射すると、共鳴光1の周波数ωと共鳴光2の周波数ωとの差(ω−ω)に応じて、共鳴光1、2のアルカリ金属における光吸収率(光透過率)が変化する。
そして、共鳴光1の周波数ωと共鳴光2の周波数ωとの差(ω−ω)が基底状態1と基底状態2とのエネルギー差に相当する周波数に一致したとき、基底状態1、2から励起状態への励起がそれぞれ停止する。このとき、共鳴光1、2は、いずれも、アルカリ金属に吸収されずに透過する。このような現象をCPT現象または電磁誘起透明化現象(EIT:Electromagnetically Induced Transparency)と呼ぶ。
【0021】
光出射部3は、ガスセル21中のアルカリ金属原子を励起する励起光を出射するものである。
より具体的には、光出射部3は、前述したような周波数の異なる2種の光(共鳴光1および共鳴光2)を出射するものである。
共鳴光1の周波数ωは、ガスセル21中のアルカリ金属を前述した基底状態1から励起状態に励起し得るものである。
【0022】
また、共鳴光2の周波数ωは、ガスセル21中のアルカリ金属を前述した基底状態2から励起状態に励起し得るものである。
また、上記励起光(共鳴光1、2)は、コヒーレント性を有するのが好ましい。
このような光出射部3は、例えば、半導体レーザー等のレーザー光源で構成することができる。
【0023】
光検出部4は、ガスセル21を透過した共鳴光1、2の強度を検出するものである。
例えば、前述した光出射部3が共鳴光1の周波数ωを固定し、共鳴光2の周波数ωを変化させていくと、共鳴光1の周波数ωと共鳴光2の周波数ωとの差(ω−ω)が基底状態1と基底状態2とのエネルギー差に相当する周波数ωに一致したとき、光検出部4の検出強度は、図3に示すように、急峻に上昇する。このような急峻な信号をEIT信号として検出する。このEIT信号は、アルカリ金属の種類によって決まった固有値をもっている。したがって、このようなEIT信号を用いることにより、発振器を構成することができる。
【0024】
このような光検出部4は、例えば、受光した光の強度に応じた検出信号を出力する光検出器で構成することができる。
制御部5は、ヒーター22、23および光出射部3を制御する機能を有する。
このような制御部5は、光出射部3の共鳴光1、2の周波数を制御する周波数制御回路51と、ガスセル21中のアルカリ金属の温度を制御する温度制御回路52と、ガスセル21に印加する磁場を制御する磁場制御回路53とを有する。
【0025】
周波数制御回路51は、前述した光検出部4の検出結果に基づいて、光出射部3から出射される共鳴光1、2の周波数を制御する。より具体的には、周波数制御回路51は、前述した光検出部4によって検出された(ω−ω)が前述したアルカリ金属固有の周波数ωとなるように、光出射部3から出射される共鳴光1、2の周波数を制御する。
また、温度制御回路52は、温度センサー24、25の検出結果に基づいて、ヒーター22、23への通電を制御する。
また、磁場制御回路53は、コイル26が発生する磁場が一定となるように、コイル26への通電を制御する。
【0026】
(ガスセルユニット)
次に、ガスセルユニット2について詳述する。
ガスセルユニット2は、図4に示すように、ガスセル21と、ガスセル21を挟持するように設けられた1対のヒーター22、23とを有している。
[ガスセル]
ガスセル21は、図5に示すように、1対の板状部211、212と、これらの間に設けられたスペーサー213とを有している。
【0027】
板状部211、212は、それぞれ、前述した光出射部3からの励起光に対する透過性を有している。本実施形態では、板状部212は、ガスセル21内へ入射する励起光が透過するものであり、板状部211は、ガスセル21内から出射した励起光が透過するものである。
本実施形態では、板状部211、212は、それぞれ、板状をなしている。また、板状部211、212は、平面視にて四角形をなしている。なお、板状部211、212の形状は、前述したものに限定されず、例えば、平面視にて円形をなしていてもよい。
【0028】
このような板状部211、212を構成する材料は、前述したような励起光に対する透過性を有していれば、特に限定されないが、例えば、ガラス材料、水晶等が挙げられる。
また、スペーサー213は、前述した1対の板状部211、212間に空間Sを形成するものである。この空間Sには、前述したようなアルカリ金属が封入されている。
本実施形態では、スペーサー213は、枠状または筒状をなし、平面視にて外周および内周がそれぞれ四角形をなしている。なお、スペーサー213の形状は、前述したものに限定されず、例えば、平面視にて外周および内周がそれぞれ円形をなしていてもよい。
【0029】
また、スペーサー213は、各板状部211、212に対して気密的に接合されている。これにより、1対の板状部211、212間の空間Sを気密空間とすることができる。スペーサー213と各板状部211、212との接合方法としては、スペーサー213や各板状部211、212の構成材料に応じて決められるものであり、特に限定されないが、例えば、接着剤による接合方法、直接接合法、陽極接合法等を用いることができる。
このようなスペーサー213を構成する材料は、特に限定されず、金属材料、樹脂材料等であってもよく、板状部211、212と同様にガラス材料、水晶等であってもよい。
【0030】
[ヒーター]
ヒーター22、23は、それぞれ、前述したガスセル21(より具体的にはガスセル21中のアルカリ金属)を加熱する機能を有する。これにより、ガスセル21中のアルカリ金属の蒸気圧が所定の圧力値以上となるように維持され、所望量のアルカリ金属をガス状に保つことができる。
【0031】
本実施形態では、ヒーター22、23は、ガスセル21を挟むように設けられ、ガスセル21を介して対称(図5に示す断面においてガスセル21を介して上下対称)となるように配置されている。なお、ヒーター22、23は、ガスセル21を介して非対称となるように配置されていてもよい。
このようなヒーター(第1ヒーター)22は、基板(第1基板)221と、基板221の一方の面(図5にて上側の面)上に設けられた発熱抵抗体(第1発熱抵抗体)222と、発熱抵抗体222上に設けられた1対の電極223、224とを有している。
【0032】
同様に、ヒーター(第2ヒーター)23は、基板(第2基板)231と、基板231の一方の面(図5にて下側の面)上に設けられた発熱抵抗体(第2発熱抵抗体)232と、発熱抵抗体232上に設けられた電極233、234とを有している。
このようなヒーター22の発熱抵抗体222およびヒーター23の発熱抵抗体232は、互いに同方向に電流が流れ、発熱抵抗体222と発熱抵抗体232との間にて、発熱抵抗体222への通電に伴ってガスセル21内に生じる磁場と、発熱抵抗体232への通電に伴ってガスセル21内に生じる磁場とが、ガスセル21内において磁場の強度を互いに相殺または弱め合う。なお、発熱抵抗体222に流れる電流の方向と、発熱抵抗体232に流れる電流の方向が多少異なっていても良い。この場合、発熱抵抗体222、発熱抵抗体232のそれぞれに流れる電流には、互いに同方向に流れる電流成分が含まれていると考えて良いので、この互いに同方向に流れる電流成分によってガスセル21内に生じる磁場を、互いに相殺または弱め合うことができる。
【0033】
これにより、発熱抵抗体222および発熱抵抗体232への通電量が変化しても、ガスセル21内の磁場の変動を抑制または防止することができる。そのため、ガスセル21内の磁場の変動を抑えつつ、ガスセル21内の温度を所望の温度に維持することができる。その結果、ガスセルユニット2の周波数精度を向上させることができる。
なお、ヒーター(第1ヒーター)22については、基板221の他方の面(図5にて下側の面)上に発熱抵抗体(第1発熱抵抗体)222を設けるようにしても良い。この場合、基板221の一方の面(図5にて上側の面)に電極223、224を形成し、電極223、224と発熱抵抗体222との間を接続するためのスルーホールを基板221に形成しても良い。或いは、基板221の上面と側面に電極223、224を形成し、基板221の側面を介して発熱抵抗体222と電極223、224を接続するようにしても良い。
或いは、基板221のX方向の幅をガスセル21のX方向の幅よりも若干大きくしておき、基板221の下側の面のガスセル21の外側に張り出した部分に電極223、224を形成するようにしても良い。このような構成により、発熱抵抗体222を直接にガスセル21に接触させることができるので、ガスセル21を効果的に加熱することが可能である。ヒーター(第2ヒーター)23についてもヒーター22と同様なので説明を省略する。
【0034】
以下、ヒーター22の各部を詳細に説明する。なお、ヒーター23の構成については、ヒーター22の構成と同様であるため、その説明を省略する。
基板221は、発熱抵抗体222を支持する。これにより、発熱抵抗体222の設置が容易となる。
本実施形態では、基板221は、平面視にて四角形(より具体的には長方形)をなしている。なお、基板221の平面視形状は、長方形に限定されず、正方形、菱形、台形等の他の四角形であってもよいし、三角形、五角形等の他の多角形であってもよいし、円形、楕円形、異形状等であってもよい。
【0035】
基板221は、絶縁性を有する。これにより、発熱抵抗体222の各部同士の短絡を防止し、発熱抵抗体222を通電により発熱させることができる。
また、基板221は、ガスセル21中のアルカリ金属原子を励起する励起光に対する透過性を有する。これにより、励起光の光路上にヒーター22を設けることができる。そのため、ガスセル21の励起光の出射部をヒーター22により効率的に加熱することができる。なお、本実施形態では、図4に示すように、励起光は、ヒーター23を介してガスセル21内に入射され、ガスセル21内からヒーター22を介して出射される。
【0036】
このような基板221の構成材料としては、前述したような絶縁性および光透過性を有し、発熱抵抗体222、223の発熱に耐え得るものであれば、特に限定されないが、例えば、ガラス材料、水晶等を用いることができる。
また、基板221の厚さは、特に限定されないが、例えば、0.01〜10mm程度である。
【0037】
このような基板221のガスセル21とは反対側には、発熱抵抗体222が設けられている。
発熱抵抗体222は、通電により発熱するものである。また、本実施形態では、発熱抵抗体222は、ガスセル21中のアルカリ金属原子を励起する励起光に対する透過性を有する。これにより、ガスセル21の励起光の出射部をヒーター22により効率的に加熱することができる。
【0038】
また、発熱抵抗体222は、薄膜状をなしている。これにより、発熱抵抗体222を成膜により簡単かつ高精度に形成することができる。
本実施形態では、発熱抵抗体222は、基板221の上面の全域に亘って一様に形成されている。したがって、発熱抵抗体222は、平面視にて長方形をなす。
また、図6に示すように、発熱抵抗体222は、平面視したときに、ガスセル21のアルカリ金属原子が封入された領域(空間S)を含み、この領域の外側に延びている。これにより、空間S内全域の磁場の変動を抑えることができる。その結果、簡単かつ確実に周波数精度を向上させることができる。
【0039】
このような発熱抵抗体222の構成材料としては、前述したように通電により発熱するとともに励起光に対する光透過性を有するものであれば、特に限定されないが、例えば、ITO(Indium Tin Oxide)、IZO(Indium Zinc Oxide)、In、SnO、Sb含有SnO、Al含有ZnO等の酸化物等の透明電極材料を用いるのが好ましい。
【0040】
このような透明電極材料は、好適な光透過性を有するとともに、通電により効率的に発熱することができる。
また、発熱抵抗体222が透明電極材料で構成されていると、励起光の光路上にヒーター22を設けることができる。そのため、ガスセル21の励起光の出射部をヒーター22により効率的に加熱することができる。
【0041】
発熱抵抗体222の厚さは、特に限定されないが、例えば、0.1μm以上1mm以下程度である。
また、発熱抵抗体222の形成は、特に限定されないが、例えば、プラズマCVD、熱CVDのような化学蒸着法(CVD)、真空蒸着等の乾式メッキ法、ゾル・ゲル法等を用いて形成することができる。
【0042】
このような発熱抵抗体222の基板221とは反対の面上には、電極223、224が設けられている。
電極223は、長方形をなす基板221の一方(図5中左側)の長辺に沿って設けられ、一方、電極224は、基板221の他方(図5中右側)の長辺に沿って設けられている。
【0043】
電極223、224は、X方向に互いに間隔を隔てて設けられている。本実施形態では、1対の電極223、224間の距離がY軸方向での全域で均一となっている。
また、電極223、224は、それぞれ、Y軸方向に沿って延在する帯状をなしている。そして、電極223、224は、それぞれ、発熱抵抗体222のY軸方向での全域に亘って設けられている。
【0044】
このような発熱抵抗体222上の1対の長辺に沿って設けられた1対の電極223、224に電圧を印加することにより、発熱抵抗体222の短辺に平行な方向に均一に電流を流すことができる。すなわち、発熱抵抗体222に対してY軸方向での全域に亘って均一な電位で給電することができる。そのため、発熱抵抗体222の発熱分布および磁場分布の均一化、ひいては、ガスセル21内の温度および磁場の均一化を図ることができる。その結果、ガスセルユニット2の周波数精度を優れたものとすることができる。
【0045】
特に、長方形の平面視形状をなす発熱抵抗体222の短辺に平行な方向に電流を流すと、発熱抵抗体222の長辺に平行な方向に電流を流す場合に比し、発熱抵抗体222の通電に伴って生じる磁場がガスセル21の中心側へ入り込むのを防止することができる。そのため、ガスセル21のアルカリ金属原子が封入された領域(空間S)内全域の磁場の変動をより確実に抑えることができる。
このような電極223、224の構成材料としては、特に限定されないが、導電性に優れた材料が好適に用いられ、例えば、アルミニウム、アルミニウム合金、銀、銀合金、金、金合金、クロム、クロム合金、金等の金属材料が挙げられる。
【0046】
また、電極223、224の厚さは、特に限定されないが、例えば、0.1μm以上1mm以下程度である。
また、電極223、224の形成方法としては、スパッタリング法、真空蒸着法等の物理成膜法、CVD等の化学蒸着法、インクジェット法等の各種塗布法等が挙げられる。
このような電極223、224は、温度制御回路52に電気的に接続され、電極223と電極224との間に電圧が印加される。
【0047】
このような電極223と電極224との間に電圧を印加すると、発熱抵抗体222に通電される。同様に、電極233と電極234との間に電圧を印加すると、発熱抵抗体232に通電される。
このとき、この通電により発熱抵抗体222に流れる電流の方向と発熱抵抗体232に流れる電流の方向とが互いに同方向となる。具体的には、発熱抵抗体222には、電極223から電極224へ向けて図5の矢印a1で示す方向に電流が流れ、発熱抵抗体232には、電極233から電極234へ向けて図5の矢印a2で示す方向に電流が流れる。そのため、発熱抵抗体222と発熱抵抗体232との間の領域において、発熱抵抗体222から生じた磁場の方向b1と、発熱抵抗体232から生じた磁場の方向b2とが互いに逆方向となる。これにより、ガスセル21内において、図8(a)に示すように、発熱抵抗体222から生じた磁場と発熱抵抗体232から生じた磁場とを互いに相殺あるいは弱め合うようにすることができる。
【0048】
なお、図5では、電極223、233を陰極、電極224、234を陽極とした場合を一例として図示しており、矢印a1、a2の方向(矢印b1、b2の方向についても同様)が図示のものとは逆方向であってもよい。また、図8におけるヒーターのY軸方向での長さおよび磁束密度の絶対値は、一例であり、本発明は、これに限定されるものではない。
【0049】
これに対し、仮に、発熱抵抗体222に流れる電流の方向と発熱抵抗体232に流れる電流の方向とが互いに逆方向であると、発熱抵抗体222と発熱抵抗体232との間の領域において、発熱抵抗体222から生じた磁場の方向と、発熱抵抗体232から生じた磁場の方向とが互いに同方向となる。その結果、ガスセル21内において、図8(b)に示すように、発熱抵抗体222から生じた磁場と発熱抵抗体232から生じた磁場が互いに強め合ってしまう。
また、発熱抵抗体222、232のX軸方向での長さをそれぞれAとし、発熱抵抗体222、232のY軸方向での長さをそれぞれBとしたとき、図9に示すように、ガスセル21の中心から少しずれた位置での磁束密度は、B/Aが大きくなるほど小さくなる。
【0050】
ここで、図9は、発熱抵抗体222と発熱抵抗体232との間の距離(図7に示すC)を4mm、Aを4mmに固定した場合を例に示している。また、図9において、「ガスセル21の中心から少しずれた位置」とは、ガスセル21の中心から+X方向、+Y方向および+Z方向にそれぞれ1mmずつずれた位置である。また、「発熱抵抗体222、232のX軸方向での長さA」とは、発熱抵抗体222、232の実質的に発熱体として機能する部分のX軸方向での長さをいう。また、「発熱抵抗体222、232のY軸方向での長さB」とは、発熱抵抗体222、232の実質的に発熱体として機能する部分のY軸方向での長さをいう。また、「発熱抵抗体222の実質的に発熱体として機能する部分」とは、平面視にて発熱抵抗体222の領域のうちの1対の電極223、224間に挟まれた領域であり、同様に、「発熱抵抗体232の実質的に発熱体として機能する部分」とは、平面視にて発熱抵抗体232の領域のうちの1対の電極233、234間に挟まれた領域である。
【0051】
また、図9からもわかるように、B/Aは、1以上5以下であるのが好ましく、1以上3以下であるのがより好ましく、1.5以上2.5以下であるのがさらに好ましい。これにより、ヒーター22、23ヒーター22、23の大型化を防止しつつ、ガスセル21内において2つの発熱抵抗体222、232から生じる磁場を効果的に相殺または弱め合うことができる。
【0052】
これに対し、B/Aが前記下限値未満であると、ガスセル21内の中心からずれた位置での磁場が大きくなり、周波数精度に悪影響を及ぼす場合があり、一方、B/Aが前記上限値を超えると、ヒーター22、23が大型化する傾向を示す。また、B/Aを前記上限値よりも大きくしても、ガスセル21内の中心からずれた位置での磁場がそれ以上あまり小さくならなくなる。
【0053】
[温度センサー]
また、ガスセルユニット2は、温度センサー24、23を有する。前述したようなヒーター22、23の発熱量は、この温度センサー24、25の検出結果に基づいて制御される。これにより、ガスセル21内のアルカリ金属原子を所望の温度に維持することができる。
温度センサー24は、ヒーター22またはガスセル21の板状部211の温度を検出するものである。また、温度センサー25は、ヒーター23またはガスセル21の板状部212の温度を検出するものである。
【0054】
このような温度センサー24、25の設置位置は、特に限定されず、図示しないが、例えば、温度センサー24にあっては、ヒーター22上またはガスセル21の外表面の板状部211付近上、温度センサー25にあっては、ヒーター23上またはガスセル21の外表面の板状部212付近上である。
温度センサー24、25としては、それぞれ、特に限定されず、サーミスタ、熱電対等の公知の各種温度センサーを用いることができる。
【0055】
このような温度センサー24、25は、図示しない配線を介して、前述した温度制御回路52に電気的に接続されている。
そして、温度制御回路52は、温度センサー24の検知結果に基づいて、前述したヒーター22の通電量を制御する。また、温度制御回路52は、温度センサー25の検知結果に基づいて、前述したヒーター23への通電量を制御する。
【0056】
このように2つの温度センサー24、25を用いて、ヒーター22、23への通電量を制御することにより、より高精度な温度制御が可能となる。また、ガスセル21内の温度のバラツキ(励起光の入射側と出射側との温度差)を防止することができる。
また、温度制御回路52は、ヒーター22への通電量とヒーター23への通電量の差が一定となるように、ヒーター22、23への通電量を制御するのが好ましい。これにより、ヒーター22の発熱抵抗体222とヒーター23の発熱抵抗体232との間において、発熱抵抗体222、232への通電量がそれぞれ変化しても、発熱抵抗体222、232の通電により生じる磁場を互いにバランスよく相殺または弱め合うことができる。
【0057】
[コイル]
また、ガスセルユニット2は、コイル26を有する(図1参照)。
このようなコイル26は、通電により、磁場を発生させる。これにより、ガスセル21中のアルカリ金属に磁場を印加することにより、アルカリ金属の縮退している異なるエネルギー状態間のギャップを拡げて、分解能を向上させることができる。その結果、原子発振器1の発振周波数の精度を高めることができる。
【0058】
このコイル26の設置位置は、特に限定されず、図示しないが、例えば、ソレノイド型を構成するようにガスセル21の外周に沿って巻回して設けられていてもよいし、ヘルムホルツ型を構成するように1対のコイルをガスセル21を介して対向させてもよい。
このコイル26は、図示しない配線を介して、前述した磁場制御回路53に電気的に接続されている。これにより、コイル26に通電を行うことができる。
このようなコイル26の構成材料としては、特に限定されないが、例えば、銀、銅、パラジウム、白金、金、または、これらの合金等が挙げられ、これらのうち1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0059】
以上説明したような本実施形態のガスセルユニット2によれば、発熱抵抗体222と発熱抵抗体232との間において、発熱抵抗体222、232が通電に伴って生じた磁場を互いに相殺または緩和させるので、ヒーター22、23への通電量が変動しても、ガスセル21内の磁場の変化を抑制または防止することができる。そのため、ガスセル21内の磁場の変化を抑えつつ、ガスセル21内の温度を所望の温度に維持することができる。その結果、ガスセルユニット2は、周波数精度を向上させることができる。
また、このようなガスセルユニット2を備える原子発振器1によれば、優れた周波数精度を有する。
【0060】
<第2実施形態>
次に、本発明の第2実施形態について説明する。
図10は、本発明の第2実施形態に係るガスセルユニットの概略構成を示す斜視図、図11は、図10に示すガスセルユニットを示す平面図、図12は、図10に示すガスセルユニットの作用を説明する図(断面図)である。
【0061】
本実施形態にかかるガスセルユニットは、ヒーターのY軸方向での長さが異なる以外は、前述した第1実施形態にかかるガスセルユニットと同様である。
なお、以下の説明では、第2実施形態のガスセルユニットに関し、第1実施形態との相違点を中心に説明し、同様の事項に関してはその説明を省略する。また、図10〜12において、前述した実施形態と同様の構成については、同一符号を付している。
【0062】
図10に示すガスセルユニット2Aは、ガスセル21を挟持するように設けられた1対のヒーター22A、23Aを有している。
ヒーター(第1ヒーター)22Aは、基板221Aと、基板221Aの一方の面上に設けられた発熱抵抗体(第1発熱抵抗体)222Aと、発熱抵抗体222A上に設けられた1対の電極223A、224Aとを有している。
同様に、ヒーター(第2ヒーター)23Aは、基板231Aと、基板231Aの一方の面上に設けられた発熱抵抗体(第2発熱抵抗体)232Aと、発熱抵抗体232A上に設けられた電極233A、234Aとを有している。
【0063】
以下、ヒーター22Aの各部を説明する。なお、ヒーター23Aの構成については、ヒーター22Aの構成と同様であるため、その説明を省略する。
本実施形態では、基板221Aおよび発熱抵抗体222Aは、それぞれ、平面視にて四角形(より具体的には正方形)をなしている。
また、図11に示すように、発熱抵抗体222Aは、平面視したときに、ガスセル21のアルカリ金属原子が封入された領域(空間S)を含み、発熱抵抗体222Aがこの領域(空間S)の外側に延びている。これにより、空間S内全域の磁場の変動を抑えることができる。その結果、簡単かつ確実に周波数精度を向上させることができる。
【0064】
本実施形態では、発熱抵抗体222Aは、平面視したときに、ガスセル21のアルカリ金属原子が封入された領域(空間S)とX方向の幅が一致している。これにより、ガスセルユニット2Aの小型化を図ることができる。
このようなヒーター22Aでは、電極223Aと電極224Aとの間に電圧を印加することにより、発熱抵抗体222Aに通電される。同様に、ヒーター23Aでは、電極233Aと電極234Aとの間に電圧を印加すると、発熱抵抗体232Aに通電される。
【0065】
このとき、この通電により発熱抵抗体222Aに流れる電流の方向と発熱抵抗体232Aに流れる電流の方向とが互いに同方向となる。具体的には、発熱抵抗体222Aには、電極223Aから電極224Aへ向けて図12の矢印a1で示す方向に電流が流れ、発熱抵抗体232Aには、電極233Aから電極234Aへ向けて図12の矢印a2で示す方向に電流が流れる。そのため、発熱抵抗体222Aと発熱抵抗体232Aとの間の領域において、発熱抵抗体222Aから生じた磁場の方向b1と、発熱抵抗体232Aから生じた磁場の方向b2とが互いに逆方向となる。これにより、ガスセル21内において、発熱抵抗体222Aから生じた磁場と発熱抵抗体232Aから生じた磁場とを互いに相殺または緩和させることができる。
【0066】
なお、本実施形態では発熱抵抗体222A(発熱抵抗体232A)とガスセル21との間に基板221A(基板231A)が介在した構成としたが、これに限らず、発熱抵抗体222A(発熱抵抗体232A)がガスセル21の表面に直接に備えられた構成としても良い。
以上説明したような第2実施形態に係るガスセルユニット2Aによっても、周波数精度を向上させることができる。
【0067】
<第3実施形態>
次に、本発明の第3実施形態について説明する。
図13は、本発明の第3実施形態に係るガスセルユニットの概略構成を示す斜視図である。
本実施形態にかかるガスセルユニットは、ヒーターの構成が異なる以外は、前述した第1実施形態にかかるガスセルユニットと同様である。
【0068】
なお、以下の説明では、第3実施形態のガスセルユニットに関し、第1実施形態との相違点を中心に説明し、同様の事項に関してはその説明を省略する。また、図13において、前述した実施形態と同様の構成については、同一符号を付している。
図13に示すガスセルユニット2Bは、ガスセル21を挟持するように設けられた1対のヒーター22B、23Bとを有している。
【0069】
以下、ヒーター22Bについて説明する。なお、ヒーター23Bの構成については、ヒーター22Bの構成と同様であるため、その説明を省略する。
ヒーター(第1ヒーター)22Bは、基板(第1基板)221と、基板221の一方の面上に設けられた発熱抵抗体(第1発熱抵抗体)222と、発熱抵抗体222上に設けられた1対の電極223、224および1対の磁気シールド用電極225、226とを有している。
【0070】
すなわち、ヒーター22Bは、前述した第1実施形態のヒーター22において、発熱抵抗体222上に1対の磁気シールド用電極225、226を設けたものである。
1対の磁気シールド用電極225、226は、発熱抵抗体222上の1対の短辺に沿って設けられている。これにより、ガスセル21のアルカリ金属原子が封入された領域(空間S)内全域の磁場の変動をより確実に抑えることができる。
【0071】
また、本実施形態では、磁気シールド用電極225は、絶縁層227を介して発熱抵抗体222上に設けられている。同様に、磁気シールド用電極226は、絶縁層228を介して発熱抵抗体222上に設けられている。このような絶縁層227、228を設けることにより、1対の電極223、224間への通電による発熱抵抗体222の発熱を阻害することなく、各磁気シールド用電極225、226が磁気を遮断することができる。
【0072】
絶縁層227、228の構成材料としては、絶縁性を有し、かつ、成膜可能なものであれば、特に限定されないが、例えば、樹脂材料、セラミックス材料等が挙げられる。
また、磁気シールド用電極225、226は、それぞれ、X軸方向に沿って延在する帯状をなしている。
このような磁気シールド用電極225、226の構成材料としては、特に限定されないが、例えば、鉄、コバルト、ニッケル等の強磁性体材料が挙げられる。
以上説明したような第3実施形態に係るガスセルユニット2Bによっても、周波数精度を向上させることができる。
【0073】
<第4実施形態>
次に、本発明の第4実施形態について説明する。
図14は、本発明の第4実施形態に係るガスセルユニットの概略構成を示す斜視図である。
本実施形態にかかるガスセルユニットは、ヒーターの構成が異なる以外は、前述した第1実施形態にかかるガスセルユニットと同様である。
【0074】
なお、以下の説明では、第4実施形態のガスセルユニットに関し、第1実施形態との相違点を中心に説明し、同様の事項に関してはその説明を省略する。また、図14において、前述した実施形態と同様の構成については、同一符号を付している。
図14に示すガスセルユニット2Cは、ガスセル21を挟持するように設けられた1対のヒーター22C、23Cとを有している。
【0075】
以下、ヒーター22Cについて説明する。なお、ヒーター23Cの構成については、ヒーター22Bの構成と同様であるため、その説明を省略する。
ヒーター(第1ヒーター)22Cは、基板(第1基板)221と、基板221の一方の面上に設けられた発熱抵抗体(第1発熱抵抗体)222と、発熱抵抗体222上に設けられた1対の電極223、224および1対の磁気シールド用の導体225C、226Cとを有している。
【0076】
すなわち、ヒーター22Cは、前述した第1実施形態のヒーター22において、発熱抵抗体222上に1対の磁気シールド用の導体225C、226Cを設けたものである。
1対の磁気シールド用の導体225C、226Cは、発熱抵抗体222上の1対の短辺に沿って設けられている。これにより、ガスセル21のアルカリ金属原子が封入された領域(空間S)内全域の磁場の変動をより確実に抑えることができる。
【0077】
また、磁気シールド用の導体225Cは、電極224と一体的に形成され、同様に、磁気シールド用の導体226Cは、電極223と一体的に形成されている。これにより、磁気シールド用の導体225Cが電極224と同極の電極として機能するとともに、磁気シールド用の導体226Cが電極223と同極の電極として機能する。したがって、1対の電極223、224間への通電および1対の磁気シールド用の導体225C、226C間の通電により発熱抵抗体222を発熱させるとともに、各磁気シールド用の導体225C、226Cが磁気を遮断することができる。
以上説明したような第4実施形態に係るガスセルユニット2Cによっても、周波数精度を向上させることができる。
【0078】
<第5実施形態>
次に、本発明の第5実施形態について説明する。
図15は、本発明の第5実施形態に係るガスセルユニットを示す平面図である。
本実施形態にかかるガスセルユニットは、ガスセルおよびヒーターの構成が異なる以外は、前述した第1実施形態にかかるガスセルユニットと同様である。また、本実施形態にかかるガスセルユニットは、ガスセルの構成が異なる以外は、前述した第2実施形態にかかるガスセルユニットと同様である。
なお、以下の説明では、第5実施形態のガスセルユニットに関し、第1実施形態との相違点を中心に説明し、同様の事項に関してはその説明を省略する。また、図15において、前述した実施形態と同様の構成については、同一符号を付している。
【0079】
図15に示すガスセルユニット2Dは、ガスセル21Dを有している。
ガスセル21Dのアルカリ金属原子が封入された領域(空間S)は、発熱抵抗体222Aを平面視したときに、発熱抵抗体222Aの電流が流れる方向に対して平行な方向に延びる長手形状をなしている。本実施形態では、空間Sは、発熱抵抗体222Aを平面視したときに、発熱抵抗体222Aの電流が流れる方向に対して平行な方向に延びる長軸を有する楕円形状をなしている。これにより、ガスセル21のアルカリ金属原子が封入された領域(空間S)内全域の磁場の変動をより確実に抑えることができる。
以上説明したような第5実施形態に係るガスセルユニット2Dによっても、周波数精度を向上させることができる。
【0080】
<第6実施形態>
次に、本発明の第6実施形態について説明する。
図16は、本発明の第6実施形態に係るガスセルユニットを示す平面図である。
本実施形態にかかるガスセルユニットは、ヒーターの構成が異なる以外は、前述した第1実施形態にかかるガスセルユニットと同様である。
【0081】
なお、以下の説明では、第6実施形態のガスセルユニットに関し、第1実施形態との相違点を中心に説明し、同様の事項に関してはその説明を省略する。また、図16において、前述した実施形態と同様の構成については、同一符号を付している。
図16に示すガスセルユニット2Eは、ガスセル21を加熱するヒーター(第1ヒーター)22Eを有している。なお、図示しないが、ガスセルユニット2Eでは、ヒーター22Eと同様の構成のヒーター(第2ヒーター)がガスセル21を介してヒーター22Eに対向して設けられている。
【0082】
ヒーター22Eは、基板221Eと、基板221Eの一方の面上に設けられた発熱抵抗体(第1発熱抵抗体)222Eと、発熱抵抗体222E上に設けられた1対の電極223、224とを有している。
本実施形態では、基板221Eおよび発熱抵抗体222Eは、それぞれ、平面視にて四角形(より具体的には正方形)をなしている。
【0083】
また、図16に示すように、発熱抵抗体222Eは、平面視したときに、ガスセル21のアルカリ金属原子が封入された領域(空間S)を含み、この領域(空間S)の外側に延びている。本実施形態では、発熱抵抗体222Eは、平面視したときに、ガスセル21のアルカリ金属原子が封入された領域(空間S)よりも大きい形状をなす。これにより、空間S内全域の磁場の変動を抑えることができる。その結果、簡単かつ確実に周波数精度を向上させることができる。
【0084】
以上説明したような第6実施形態に係るガスセルユニット2Eによっても、周波数精度を向上させることができる。
以上、本発明のガスセルユニットおよび原子発振器について、図示の実施形態に基づいて説明したが、本発明は、これらに限定されるものではない。
また、本発明のガスセルユニットおよび原子発振器では、各部の構成は、同様の機能を発揮する任意の構成のものに置換することができ、また、任意の構成を付加することもできる。
【0085】
また、本発明のガスセルユニットおよび原子発振器は、前述した各実施形態の任意の構成同士を組み合わせるようにしてもよい。
例えば、前述した実施形態では、ガスセルユニットに備えられた2つのヒーター(第1ヒーター、第2ヒーター)は互いに同じ構成である場合を説明したが、一方のヒーターと他方のヒーターとが異なる構成であってもよい。
また、ガスセルユニットが備えるヒーターの数は、3つ以上であってもよい。
また、前述した実施形態では、2つの温度センサーを設けた場合を説明したが、温度センサーの数は1つであってもよいし、3つ以上であってもよい。
【符号の説明】
【0086】
1‥‥原子発振器 2、2A、2B、2C、2D、2E‥‥ガスセルユニット 3‥‥光出射部 4‥‥光検出部 5‥‥制御部 21、21D‥‥ガスセル 22、22A、22B、22C、22E‥‥ヒーター 23、23A、23B、23C‥‥ヒーター 24、25‥‥温度センサー 26‥‥コイル 51‥‥周波数制御回路 52‥‥温度制御回路 53‥‥磁場制御回路 211、212‥‥板状部 213‥‥スペーサー 221、221A、221E‥‥基板 222、222A、222E‥‥発熱抵抗体 223、223A、224、224A‥‥電極 225、226‥‥磁気シールド用電極 225C、226C‥‥磁気シールド用の導体 227、228‥‥絶縁層 231、231A‥‥基板 232、232A‥‥発熱抵抗体 233、233A、234、234A‥‥電極 a1、a2、b1、b2‥‥矢印 S‥‥空間 ω、ω、ω‥‥周波数

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガス状のアルカリ金属原子を封入したガスセルと、
通電により発熱し、前記ガスセルを加熱する第1発熱抵抗体と、
通電により発熱し、前記ガスセルを加熱する第2発熱抵抗体と、を備え、
前記第1発熱抵抗体と前記第2発熱抵抗体が前記ガスセルを挟んで対向し、
前記第1発熱抵抗体への通電に伴って前記ガスセル内に生じる磁場と、前記第2発熱抵抗体への通電に伴って前記ガスセル内に生じる磁場とが、前記ガスセル内において磁場の強度を互いに弱め合うように、前記第1発熱抵抗体に流れる電流と前記第2発熱抵抗体に流れる電流とが互いに同一方向に流れる電流成分を含むことを特徴とするガスセルユニット。
【請求項2】
前記第1発熱抵抗体および前記第2発熱抵抗体は、それぞれ、平面視したときに、前記ガスセルの前記アルカリ金属原子が封入された領域よりも外側に延びている請求項2に記載のガスセルユニット。
【請求項3】
前記第1発熱抵抗体および前記第2発熱抵抗体は、それぞれ、平面視にて長方形をなし、短辺に平行な方向に電流が流れる請求項1または2に記載のガスセルユニット。
【請求項4】
前記第1発熱抵抗体上および前記第2発熱抵抗体上には、それぞれ、1対の長辺に沿って1対の電極が設けられている請求項3に記載のガスセルユニット。
【請求項5】
前記第1発熱抵抗体上および前記第2発熱抵抗体上には、それぞれ、1対の短辺に沿って1対の磁気シールド用の導体が設けられている請求項4に記載のガスセルユニット。
【請求項6】
前記第1発熱抵抗体と、一方の面に前記第1発熱抵抗体が設けられた第1基板とを有する第1ヒーターと、
前記第2発熱抵抗体と、一方の面に前記第2発熱抵抗体が設けられた第2基板とを有する第2ヒーターと、を備えたことを特徴とする請求項1ないし5のいずれかに記載のガスセルユニット。
【請求項7】
請求項1ないし6のいずれかに記載のガスセルユニットと、
前記ガスセル中の前記アルカリ金属原子を励起する励起光を出射する光出射部と、
前記ガスセルを透過した前記励起光の強度を検出する光検出部とを備えることを特徴とする原子発振器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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