説明

ガスセンサー及び製法

【課題】低い濃度レベルでもNOxガスの定量的評価が可能であり、長い耐用年数を有するガスセンサー及びその製造方法を提供する。
【解決手段】ガスセンサー(100)は、ドープ酸素欠陥酸化タングステン並びにRe、Ni、Cr、V、W及びこれらの組合せからなる群から選択されるドーパントを含むガス感知層(118)、チタン層(114)内に位置する1以上の電極(112)、並びに応答調節層(116)を備える。1以上の電極(112)はガス感知層(118)と連通しており、ガス感知層(118)はNO、NO2、SOx、O2、H2O及びNH3からなる群から選択される1種以上のガスを検出することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般にガスを感知する分野に関する。より具体的には、本発明はNOxガスの感知に関する。
【背景技術】
【0002】
環境整備は、NOxガスセンサーの開発を促す主要な要因である。NOxの排出は空気中のSOx、CO及び湿気(水蒸気)のようなガスと反応してスモッグ及び酸性雨を引き起こす。NOxの主要な排出源の1つは自動車の排気ガスである。
【0003】
2015年9月までに施行される軽商業車(カテゴリーN1−I、N1−II及びN1−III)に対するEuropean Euro VI排出基準は、0.5gm/hp−hr未満のNOx排出レベルを要求している。これは典型的には50ppm未満のNOx排気管排出に相当する。かかる低濃度レベルの被分析物で信頼性のある読み取り値を与えることができ、かつ過酷な環境でも確固とした性能を実現することができる費用効果的なガスセンサーの開発は、今日の排出監視技術が直面する主要な課題の1つである。
【0004】
内燃機関の効率を改良する際の現在のパラダイムでは、リーン燃焼技術を利用することにより、慣用の化学量論比(通例、約20:1)と比較して非常に高い空気:燃料比(約102:1)を使用している。リーン燃焼技術でエンジンの効率は改良されるが、その結果NOxの排出も高くなる。
【0005】
効率に悪影響を及ぼすか又は制限するようないかなる排出制御案も工業的には実行できない。それには、NOx排出レベルのリアルタイム監視が必要であり、その情報を用いて、エンジンの作動パラメーター(例えば、圧縮比など)及び排気ガス後処理系(例えば、触媒フィルターなど)を動的に制御して、それぞれ高まったエンジン効率及び強化された排出制御を達成する必要がある。
【0006】
市場における現在のNOxガス感知技術の1つはイットリア安定化ジルコニア(YSZ)に基づくガスセンサーを使用する。これらのガスセンサーは本質的に、NOx分解の結果としての酸素の変化を測定するマルチチャンバー電気化学セルである。かかる技術はPtのような触媒を必要とする。しかし、この触媒の性能は、自動車の排気ガス中に通常存在するSOx及び水蒸気に暴露された際に低下する。これは、かかるガスセンサーの耐用年数を低下させる原因となる要因の1つである。さらに、これらのガスセンサーの比較的複雑な設計のため、これらを定期的に交換するのが高価になる。
【0007】
市場における別の現在のガス感知技術は半導体ガスセンサーを使用する。あらゆる技術と同様に、この技術は状況に特有の欠点と利点を呈する。例えば、ガス排出の監視用途では、複数のガス種環境内での特定又は少数のガス種(例えば、NOx)の定量的評価が必要であることが多い。しかし、これらのガスセンサーは、広範囲のガスに対して感受性であり、従ってかかる用途における有用性が制限されている。しかも、これらのガスセンサーは、その多結晶特性の故に長期不安定性を示す傾向がある。一方、この技術は、剛性構造及びコンパクトサイズのような固体状態であることの利点を有している。さらに、この技術は簡単なエレクトロニクスを用いて読み取ることが可能であり、そのためにシステムの製造、作動、保守及び交換のコストが低減される。加えて、半導体ガスセンサーは、制御可能な要因のうち特に適切なドーパントの採用、ガス感知表面の形態の制御、ガスセンサー作動パラメーターの制御によって広範囲の応答調整が可能である。
【特許文献1】米国特許第5546004号明細書
【特許文献2】米国特許第5627305号明細書
【特許文献3】米国特許第5811662号明細書
【特許文献4】米国特許第6113859号明細書
【特許文献5】米国特許第6774613号明細書
【特許文献6】米国特許第7017389号明細書
【特許文献7】米国特許出願公開第20020146352号明細書
【特許文献8】米国特許出願公開第20040132202号明細書
【特許文献9】米国特許出願公開第20040213701号明細書
【特許文献10】米国特許出願公開第20040248282号明細書
【特許文献11】米国特許出願公開第20050167592号明細書
【特許文献12】米国特許出願公開第20060249384号明細書
【特許文献13】米国特許出願公開第20060277974号明細書
【特許文献14】欧州特許出願公開第0940673号明細書
【特許文献15】欧州特許出願公開第0767905号明細書
【特許文献16】欧州特許出願公開第1110081号明細書
【特許文献17】欧州特許出願公開第1403637号明細書
【特許文献18】欧州特許出願公開第1452855号明細書
【特許文献19】欧州特許出願公開第1560008号明細書
【特許文献20】欧州特許出願公開第1591776号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従って、半導体に基づいて、低い濃度レベルでもNOxガスの定量的評価が可能であり、長い耐用年数を有するガスセンサーが、極めて望ましいであろう。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の実施形態は、ガスセンサー及びそのガスセンサーを製造する方法に関する。
【0010】
本発明のある代表的な実施形態では、ガスセンサーを提供する。このガスセンサーは、WO3-δ(式中、0.35≧δ>0である)と、Re、Ni、Cr、V、W及びこれらの組合せからなる群から選択されるドーパントとを含むガス感知層を備える。1以上の電極が、チタン層並びにTi、Ni、Cr、V、W、Re及びこれらの組合せからなる群から選択される材料を含む応答調節層中位置しており、この1以上の電極はガス感知層と連通しており、ここでガス感知層はNO、NO2、SOx、O2、H2O及びNH3からなる群から選択される1種以上のガスを検出することができる。
【0011】
本発明の別の代表的な実施形態では、ガス感知システムを含む自動車を提供する。この自動車はガスを輸送する排気系及びガスセンサーを備える。ガスセンサーは、WO3-δ(式中、0.35≧δ>0である)と、Re、Ni、Cr、V、W及びこれらの組合せからなる群から選択されるドーパントとを含むガス感知層を備える。1以上の電極がチタン層並びにTi、Ni、Cr、V、W、Re及びこれらの組合せからなる群から選択される材料を含む応答調節層に隣接して位置しており、この1以上の電極はガス感知層と連通しており、ここでガス感知層はNO、NO2、SOx、O2、H2O及びNH3からなる群から選択される1種以上のガスを検出することができる。
【0012】
本発明の別の代表的な実施形態では、ガスセンサーの製造方法を提供する。この方法は、基材を準備し、この基材層に隣接して加熱層を配置し、この加熱層に隣接して第1のガラス層を配置し、この第1のガラス層に隣接して温度感知層を配置し、この温度感知層に隣接して第2のガラス層を配置し、この第2のガラス層に隣接して1以上の電極を配置し、この1以上の電極に隣接してチタン層を配置し、このチタン層に隣接して応答調節層を配置し、チタン層に隣接して、WO3-δ(式中、0.35≧δ>0である)を含み、かつRe、Ni、Cr、V、W及びこれらの組合せからなる群から選択されるドーパントを含むガス感知層を配置することを含む。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明の上記及びその他の特徴、態様及び利点は、添付の図面を参照して以下の詳細な説明を読むことでより良好に理解されるであろう。図面を通じて、類似の数字は類似の構成要素を表している。
【0014】
以下の記載において、本発明の特定の態様又は特徴が、ある群の1以上の要素及びその組合せを含むか又はそれからなるとされている場合はいつでも、その態様又は特徴は、個別であっても又はその群の他の要素のいずれかとの組合せであっても、その群の要素のいずれかを含むか又はそれからなり得るものと理解される。
【0015】
ガスセンサーは、「被分析物」が存在するか否かを決定したり、及び/又はその被分析物の量を定量したりするのに使用することができる。本明細書で使用する場合、用語「被分析物」とは、限定されるわけではないがガス、蒸気、生物被分析物、粒子状物及びこれらの組合せを始めとして検出及び/又は定量しようとするあらゆる物質を指し得る。
【0016】
NOxの主要な構成成分、すなわちNOとNO2は相互に変換することができるので、NOx全体の信頼性のある評価は、ガスセンサーの応答、すなわち、ガスセンサーの抵抗におけるNOx濃度依存性の変化がNOとNO2の両者に対して(大きさ及び符号の点で)等しい場合に達成され得る。すなわち、ΔR(NO2、c)及びΔR(NO、c)をそれぞれ濃度「c」のNO2及びNOに対するセンサーの応答とした場合、1に近い応答比「rr」(以下で定義する)が望ましいであろう。
rr≡ΔR(NO2、c)/ΔR(NO、c) (1)
本明細書で使用する場合、用語「等感度」とは、式(1)に従って定義される「rr」が約0.5〜約3の範囲である場合をいう。
【0017】
本明細書で使用する用語「隣接する」とは、ガスセンサーを構成する様々な構成要素の考察に関連して使用する場合、「すぐ次」をいうか、又は考察中の構成要素間に他の構成要素が存在する状況をいう。
【0018】
本明細書で使用する用語「連通」とは、ガスセンサーを構成する2以上の構成要素の考察に関連して使用する場合、1つの構成要素の電気的特性の変化が他の構成要素に反映され、従ってその他の構成要素を介して検出及び測定可能であることを意味し得る。
【0019】
本明細書で使用する場合、用語「過酷な環境」とは、ガス感知層の近傍にあり、検出及び/又は評価が求められている被分析物が存在するある体積内の環境をいう。この体積内の温度は均一でなくてもよく、すなわち、この体積内の様々な位置の温度は異なることができ、約200〜約800℃であることができる。また、この体積内の異なる位置には、限定されるわけではないがNOx、SOx、H2O、粒子状物、炭化水素及びこれらの組合せを始めとする腐食性の化学種が様々な量で存在することができる。
【0020】
本明細書で使用する場合、用語「応答調節層」とは、拡散のメカニズムによって表面ドーピングを介してガス感知層中ドーパントを導入するのに役立つ層をいう。この表面ドーピングの結果、所与の組の作動パラメーター及び/又は作動環境に対するガス感知層の応答が改変され得る。
【0021】
本明細書で使用する場合、用語「ガラス」とは、分離層を形成するのに使用することができ、ガスセンサーの所与の実施形態では、この分離層が隔離する要素間に充分に大きい熱連結(heat link)を提供するのに充分な熱伝導率を有し、かつこの分離層が隔離する要素間に充分な電気抵抗を提供するのに充分な電気抵抗を有するあらゆる適切な材料をいう。
【0022】
ガスセンサーの特定の実施形態の応答が被分析物の導入又は除去(withdrawl)の結果として変化する場合、本明細書でガスセンサーの特定の実施形態の応答の時間に関連して使用する用語「速い」、「遅い」及び「中位」は以下のように理解されたい。ガスセンサーを期間「ton」の間所与の被分析物に暴露した後、期間「toff」の間被分析物を除去する。「ton」及び「toff」の終期におけるそのガスセンサーの特定の実施形態の応答をそれぞれ「rfon」及び「rfoff」とする。そこで、用語「速い応答時間」とは、通例、その特定の実施形態のガスセンサーが被分析物に暴露後最初の1分以内に少なくとも0.9倍のrfに達成する状況、すなわち、その実施形態のガスセンサーの応答が被分析物に暴露した最初の1分後に「プラトー」から外れる傾向をもつ状況をいう。言い換えると、被分析物に暴露した最初の1分程度以内に応答対時間プロフィールの時間導関数に異常な変化が起こることである。同様に、ガスセンサーの応答が被分析物への暴露の全期間にわたってプラトーを示さない場合には、用語「遅い応答時間」を用いてその時間応答を特徴付けることにする。用語「中位の応答時間」は、ガスセンサーの応答が「速い」とも「遅い」とも特徴付けることができないとき、通例、ガスセンサーが被分析物への暴露後最初の1分以内に0.5倍未満のrfの応答をするとき、その時間応答を特徴付けるのに使用される。特定の実施形態のガスセンサーの応答が被分析物の除去の結果として変化する場合、本明細書で特定の実施形態のガスセンサーの回復の時間に関連して使用する用語「速い回復時間」とは、通例、その特定の実施形態のガスセンサーが被分析物の除去後約2〜3分以内に少なくとも0.9倍のrfに下がる状況をいう。言い換えると、被分析物の除去後2又は3分程度以内に応答対時間プロフィールの時間導関数に異常な変化がある場合である。同様に、ガスセンサーの応答が、20分の全期間まで既述の時間導関数にかかる異常な変化を示さない場合、用語「遅い回復時間」はその回復時間を特徴付けるのに使用される。用語「中位の回復時間」は、ガスセンサーの回復を「速い」とも「遅い」とも特徴付けることができず、通例、ガスセンサー応答が約10〜約15分で0.9倍のrfになる場合の回復時間を特徴付けるのに使用される。
【0023】
ガスセンサーは、ガスへの暴露の際に調節することができる電気的特性に比例して電気信号を生成することができるいかなる装置であることもできる。適切な装置の例としては、特に限定されないが、抵抗器、電界効果トランジスター、蓄電器、ダイオード及びこれらの組合せがある。
【0024】
感知される適切なガスの例としては、特に限定されないが、NO、NO2、SOx、O2、H2O及びNH3並びにこれらの組合せがある。一実施形態では、ガスセンサーはSO2及びCO2ガスによって害され易くない。
【0025】
図面全体、特に図1を参照して、これらの図は本発明の好ましい実施形態を説明するためのものであって、本発明を限定する意図はないことを了解されたい。
【0026】
図1は、本発明の代表的な実施形態に従って被分析物を検出するのに使用することができる一実施形態のガスセンサー100の図式表示である。本明細書に記載する幾つかの実施形態に関してNOxを一例として使用するが、本ガスセンサーは例えばSOx、NH3のような他の被分析物を検出するのに有用であり得ることに留意されたい。ガスセンサー100は、例えば、分析すべきガス流を直接サンプリングする現場ガスセンサーであるかもしれない。この場合、センサー100は、ガス流に暴露され、特定の被分析物(例えば、NOx)が存在するかどうかを示す検出信号を生成することができる。ガスセンサー100はまた、被分析物の濃度に比例する信号を生成することにより被分析物の濃度を測定することもできる。
【0027】
図示した実施形態100は基材(基板)102を備える。この基材層の上には、ヒーター104が配置されている。第1のガラス層106がヒーターの上に位置している。第1のガラス層106の上に、温度感知層108が配置されている。第2のガラス層110が温度感知層の上に位置している。第2のガラス層110の上には、1以上の電極112が配置されている。この1以上の電極をチタン層114が完全に覆っており、またチタン層114は1以上の電極が配置されている第2のガラス層110とも接触している。応答調節層116がチタン層の上に配置されている。この応答調節層の上には、ガス感知面120を有するガス感知層118が配置されている。幾つかの実施形態では、ガスセンサーは、このガスセンサーを加熱するための要素を含んでいることがある。一実施形態では、ガスセンサーを加熱するための要素は、ガス感知層に隣接して、若しくは基材層に隣接して、又はパッケージ上に配置されていても、これらの任意の組合せであってもよく、及び/又は電気絶縁性で熱伝導性の層で覆われていてもよい。加熱手段は、ガス感知層に隣接して配置された金属(例えば、Pt)層のような、主ガスセンサーとは別個の要素であってもよい。図1に示した実施形態では、要素104は、ガスセンサーを所望の温度に加熱し得る25Ω(オーム)Ptヒーターである。また、加熱手段はガス感知層自体であってもよい。1つの非限定例においては、ガス感知層を所望の温度に加熱するためにこのガス感知層に大きい電流を通してもよい。ガス感知層の表面に熱を加えると、より速い応答及び回復時間も得ることができる。特定の理論に制限されることはないが、加熱はガス感知層の表面における各ガス種の滞留時間を減少させると考えられる。また、加熱手段は、高めの温度範囲で優れた検出が可能になる傾向があるガス種に対して、測定しようとするガス流の環境がかかる温度に到達していないときでも、かかるガス種に対するより高い感度が得られるようにガスセンサーの温度を調節することも可能にし得る。これは、エンジンが始動したばかりのときに感知する必要があるような用途では重要であろう。ガスセンサーを最高作動可能温度のような一定の温度に保つことは、温度に対する応答信号の依存性を無視し、従って応答信号のより簡単な解釈を可能にするのにも使用することができる。さらに、ガスセンサーの加熱を意図的に改変して、ガス感知層により駆動される各種のガスに対して選択的な応答、すなわちガスのその種に対する温度依存性の選択性及び/又は感度を提供することができる。本明細書で使用する場合、選択性とは、存在する様々な被分析物の種同士を区別するガスセンサーの能力をいう。本明細書で使用する場合、感度とは、被分析物が存在するとき電気的特性の変化を示すガスセンサーの能力をいう。従って、選択性は、様々な被分析物種に対する異なる感度に起因し得る。
【0028】
一実施形態では、図1に示した基材102はアルミナからなり得る。別の実施形態では、図1に示した基材102はイットリア安定化ジルコニアからなり得る。さらに別の実施形態では、図1に示した基材102はジルコニアからなり得る。
【0029】
図1に示したガラス層106及び110は、それぞれ、ヒーター104と温度感知層108との間、及び一面の温度感知層108と他面の1以上の電極112及びチタン層114との間に挟まれた、熱伝導性であるが電気絶縁性の物質の層である。かかる熱伝導性であるが電気絶縁性の物質からなるかかるガラス層106及び110は、ガスセンサーを横切って熱が輸送されるのを許すが、それぞれ、ヒーターと温度感知層との間、及び一面の温度感知層108と他面の1以上の電極112及びチタン層114との間の電気的接触を禁止する。ガラス層に適切な材料の例としては、特に限定されないが、ポリケイ酸塩ガラス、二酸化ケイ素、窒化ケイ素及びこれらの任意の組合せがある。ガラス層110はまた、物理的及び化学的処理に付して、1以上の電極及びチタン層との物理的接着を強化することもできる。さらに、ガラス層の厚さを変化させることにより、それぞれの包囲する層間の異なる量の熱連結及び電気抵抗が可能になる。
【0030】
一実施形態では、ホストの金属酸化物WO3-δ中の酸素欠陥(δ)は約0〜約0.5であることができる。別の実施形態では、ホスト金属酸化物WO3-δ中の酸素欠陥(δ)は約0〜約0.35であることができる。
【0031】
一実施形態では、ガス感知層118中のドーパントはRe、Ni、Cr、V、W及びこれらの組合せからなる群から選択され得る。別の実施形態では、ガス感知層118中のドーパントはRe、V及びこれらの組合せからなる群から選択することができる。
【0032】
一実施形態では、ドーパントの酸化状態は、ドーパントがn型となるようなものでよく、例えば、ドーパントが適切な酸化状態のReである場合である。別の実施形態では、ドーパントの酸化状態は、ドーパントがp型となるようなものでよく、例えば、ドーパントが適切な酸化状態のVである場合である。さらに別の実施形態では、ドーパントの酸化状態はガス感知層を構成する金属酸化物中の金属(W)の酸化状態と等しくてよく、この場合ドーパントはn型でもp型でもない。
【0033】
一例において、所与の濃度の1種以上の被分析物に対する応答はガス感知層の厚さを変えることによって高めることができる。一実施形態では、ガス感知層118は約300〜約5000Åの厚さを有することができる。別の実施形態では、ガス感知層118は約500〜約1500Åの厚さを有することができる。さらに別の実施形態では、ガス感知層118は約700〜約1200Åの厚さを有することができる。
【0034】
応答調節層116がガス感知層とチタン層との間に挟まれている。この応答調節層はTi、Ni、Cr、V、W、Re及びこれらの組合せからなる群から選択される物質からなる。一実施形態では、応答調節層116は約10〜約100Åの厚さを有することができる。別の実施形態では、応答調節層116は約20〜約80Åの厚さを有することができる。さらに別の実施形態では、応答調節層116は約30〜約60Åの厚さを有することができる。ガスセンサーの一実施形態では、応答調節層はガスセンサーが任意の2種類の所定のガスに等感度で応答するのに役立ち得る。ガスセンサーの別の実施形態では、応答調節層はガスセンサーがベースライン抵抗の所望の値を有するのに役立ち得る。ガスセンサーのさらに別の実施形態では、応答調節層はガスセンサーが被分析物の暴露及び除去の際にそれぞれ所望のレベルの応答及び回復時間を有するのに役立ち得る。特定の理論に制限されることはないが、応答調節層はガス感知層とチタン層との間の直接の物理的接触を禁止することによりガスセンサーの仕事特性を改良するのを助けることが可能である。
【0035】
一実施形態では、応答調節層はTiと、Ni、Cr、V、W及びReからなる群から選択される1種以上の化学元素との混合物からなり得る。
【0036】
チタン層114は、ガス感知層が配置された応答調節層を固定する接着層として機能する。一実施形態では、チタン層114は約5〜約100Åの厚さを有することができる。別の実施形態では、チタン層114は約10〜約50Åの厚さを有することができる。さらに別の実施形態では、チタン層114は約15〜約30Åの厚さを有することができる。
【0037】
1以上の電極112はその隣接する層に物理的に接着し電気的に接触することができる材料から製造し得る。1以上の電極として適切な材料の例としては、特に限定されないが、Pt、Au、Ag、Ni、Ti、In、Sn、Cr、窒化ニッケル、窒化チタン、アルミニウムをドープした酸化亜鉛(ZAO)、酸化インジウムスズ(ITO)、クロム及びこれらの任意の組合せがある。
【0038】
一実施形態では、電極112は約500〜約10000Åの厚さを有することができる。別の実施形態では、電極112は約800〜約3000Åの厚さを有することができる。
【0039】
一実施形態では、1以上の電極112の1つ以上が材料の多層スタック(積層物)であってもよい。多層スタックの異なる層を構成する適切な材料の例としては、特に限定されないが、Pt、Ti、Al、Au、Ag、Ni、In、Cr、酸化ニッケル、窒化チタン、アルミニウムをドープした酸化亜鉛、酸化インジウムスズ、クロム及びこれらの任意の組合せがある。
【0040】
1以上の電極112の1つ以上が材料の多層スタックである一実施形態では、各々の層の厚さは約100〜約2000Åであることができる。電極が材料の多層スタックである別の実施形態では、各々の層の厚さは約300〜約1500Åであることができる。電極が材料の多層スタックであるさらに別の実施形態では、各々の層の厚さは約500〜約1000Åであることができる。
【0041】
一実施形態では、電極112は、図2に実施形態200として示されているように互いに噛み合った幾何学的形状202に配置することができる。図2の要素204は下にあるヒーター層104の幾何学的形状を示す。別の実施形態では、電極112は、図3に実施形態300として示されているようにインライン幾何学的形状302に配置することができる。図3の要素304は下にあるヒーター層104の幾何学的形状を示す。
【0042】
一実施形態では、1以上の電極は、ガス感知層に隣接して「サンドイッチ」幾何学的形状に配置することができる。すなわち、1以上の電極がガス感知層の厚さ方向に沿ってその両側に配置される。別の実施形態では、1以上の電極は「並んだ(side-by-side)」幾何学的形状に配置してもよい。すなわち、2以上の電極がガス感知層の同じ面上に互いに隣接して配置される。別の実施形態では、1以上の電極の、ガスセンサーの隣接する構成要素に最も近い表面に沿ってチタン層を配置してもよい。
【0043】
一実施形態では、ガス感知層118は約0.2〜約5モル%のドーパント濃度を有することができる。別の実施形態では、ガス感知層118は約0.5〜約4モル%のドーパント濃度を有することができる。さらに別の実施形態では、ガス感知層118は約2〜約3モル%のドーパント濃度を有することができる。
【0044】
幾つかの実施形態では、ガスセンサーは装置の温度を測定する手段を含んでいることができる。この温度を測定する手段はガスセンサー内のどこに配置してもよく、例えば、ガス感知層に隣接して、若しくは基材層に隣接して、若しくはパッケージ上に、又はこれらの任意の組合せで配置してもよいし、及び/又は電気絶縁性及び熱伝導性層で覆ってもよい。温度感知手段としては、特に限定されないが、抵抗温度装置、熱電対、ケイ素バンドギャップ温度センサー及びこれらの組合せを挙げることができる。温度感知手段はガス感知層に隣接して配置された金属(例えば、Pt)層のような別個の要素であってもよい。
【0045】
温度センサーは、特に限定されないが熱電対、抵抗温度検出器、ケイ素バンドギャップ温度センサー又はサーミスターを始めとする様々なタイプのものであることができる。熱電対温度センサーは、限定されるわけではないがType K(CHROMEL(登録商標)/ALUMEL(登録商標))、Type J(Iron/Constantan)、Type N(NICROSIL(登録商標))、Type B、Type R、Type S、Type T(Copper/Constantan)、Type Cを始めとする様々なタイプのものであることができる。抵抗温度検出器は様々な金属からなることができるが、通常はPtから製造される。ケイ素バンドギャップ温度センサーは、純粋なケイ素又は限定されるわけではないが炭化ケイ素を始めとするケイ素の化合物からなることができる。サーミスター温度センサーは、限定されるわけではないがセラミック及びポリマーを始めとする様々な物質からなることができる。これらの物質は正又は負の抵抗の温度係数を有することができる。温度センサーは、特に限定されないが電圧バイアス及び電流バイアスを始めとする様々な方法でバイアスをかけてもよい。また、温度センサーの応答は、限定されるわけではないが抵抗測定、電位差測定及びこれらの組合せを始めとする手段によって記録することができる。図1に示した温度センサー層108は熱電対である。
【0046】
ガスセンサーの他の作動及び幾何学的形状パラメーターが固定された場合、特定の被分析物の所与の濃度に対する応答は、ガス感知層を特定の温度に維持したときに高まり得る。特定の実施形態では、高まった感度は約300〜約550℃の範囲内の温度を維持することによって達成し得る。
【0047】
おそらく、ガス感知層にかけられる異なる直流(DC)、交流(AC)又はこれらの組合せのバイアスレベルにより、1つか又は別の被分析物に対する選択性及び感度のようなガス感知特性が高まるのであろう。例えば、幾つかの実施形態に従って、DCバイアスのレベルを変えることにより、被分析物中の異なるガス種に対するガスセンサー100の感度を調節することができる。例えば、所与の第1のDCバイアスレベルで作動するガスセンサーは第1の被分析物種に対して優先的に感受性であり得、第2のDCバイアスレベルで作動するガスセンサーは第2の被分析物種に対して優先的に感受性であり得、様々なDCバイアスレベルに対しても同様であろう。この性質を使用して、異なる種の被分析物を選択的に検出し測定することができるであろう。ガスセンサーの作動に用いるAC及び/又はDCバイアスは電流、電圧又はこれらの組合せであり得る。ガスセンサーの作動中ガスセンサーのAC又はDC応答は電流、電圧又はこれらの組合せであり得る。
【0048】
ガスセンサーはまた、特有の被分析物のみが通過してガス感知層に衝突する、すなわちそのガス感知層と接触することを可能にする適切な1以上のフィルターを有するように構成することもできる。おそらく、かかるフィルターは所与の1種以上の被分析物の選択的な検出に役立つであろう。かかるフィルターはまた、例えば粒子状物のような特定の被分析物がガス感知層の方に通過するのを制限するのにも役立つであろう。幾つかの実施形態では、ガスセンサーの環境中に存在する特定の化学種又は物理種に対するフィルターとして役に立つ膜をガス感知層に隣接して配置することができる。かかるフィルターは、ガスセンサーのガス感知層と接触するガス又は粒子種のタイプ及び/又は量を限定又は規制するための手段を提供するであろう。ガス種のタイプ及び/又は量を限定又は規制するのに適切な手段の例としては、特に限定されないが、Kapton若しくはテフロン(商標)のような薄膜、多孔質膜ろ過材(例えば、スチールウール又は石英ウール)、約10Åの厚さのPd膜、Al23、YSZ、SiO2のような多孔質セラミック材料及びこれらの任意の組合せがある。おそらく、2以上のガスセンサーを互いに隣接して、又は環境内の様々な位置に配置することができるであろう。これらのガスセンサーは各々が互いに同じフィルターを共有していてもよいし、又は個別に1以上の同じ又は異なるフィルターを有していてもよい。かかるガスセンサーの「アレイ」を用いて、環境内の様々な位置で様々な被分析物種を選択的に検出し、及び/又はその濃度を測定することができる。
【0049】
図4は、本発明の代表的な実施形態に係るガスセンサーを製造する方法400を説明するフローチャートである。工程402において、基材層を用意する。工程404で、その基材層に隣接してヒーター層を配置する。工程406において、そのヒーター層に隣接してガラス層を配置した後、工程408でそのガラス層に隣接して温度感知層を配置する。工程410で、その温度感知層に隣接してガラス層を配置する。工程412においては、絶縁性層に隣接して1以上の電極を配置する。工程414において、1以上の電極に隣接してチタン層を配置する。工程416で、そのチタン層に隣接して応答調節層を配置する。工程418では、その応答調節層に隣接してガス感知層を配置する。
【0050】
図5は、本発明の一実施形態に係る被分析物の検出方法を示す。工程502で、被分析物をガスセンサーのガス感知層に衝突させてガスセンサーの電気的特性に変化を起こさせる。工程504において、連続的にモニターされる電気的特性の変化を検出する。その電気的特性の変化と適用した被分析物の濃度との関数関係が知られている場合には、工程506に示されているように、測定された電気的特性の変化から適用した被分析物の濃度を決定することができる。適切な電気的特性の例としては、特に限定されないが、電気抵抗、電気的キャパシタンス、電流、電圧及びこれらの組合せがある。一例として、ガスセンサーを電圧バイアス条件下で使用する場合、電気的特性は例えば電流であろう。また、かかる応答信号を連続的にモニターして被分析物の濃度の経時変化に関する情報を決定することができよう。
【0051】
一実施形態では、ガスセンサー又はガスセンサーの感知層を構成する物質の応答は、抵抗測定、電位差測定又はこれらの組合せによってモニターすることができる。
【0052】
一実施形態では、ガスセンサーの応答は、NOx排出の2つの主要な構成成分であるNOとNO2に対して等感度となるように調整することができる。様々な濃度のNOxに対するガスセンサーの応答比は、特に限定されないが、酸化タングステン膜の酸素欠陥のレベル、酸化タングステン膜にドープされた1種以上のドーパント、ドーパントのドーピングレベル、ガス感知層の微細組織/形態、ガス感知層の結晶性のレベル、ガス感知層に存在する歪みのレベル、チタン層に存在する歪みのレベル、応答調節層に存在する歪みのレベル、ガス感知を実行する間ガス感知層が維持される温度、ガス感知層を横切ってかけるバイアスのタイプと性質、応答調節層の有無、電極及び下にあるガラスに対するガス感知層の接着のレベル、電極の材料、大きさ、設計及び配置を始めとする複数のシステムパラメーター及び環境パラメーターに依存し得る。ガス感知層膜の微細組織/形態学はその膜を成長させるのに使用する方法に依存し得る。上記システムパラメーターの幾つかは相互に関連していると思われる。別の実施形態では、ガスセンサーの応答比は、環境中に存在するガス種の特有の組合せ及び存在する様々な種の個々の濃度に依存し得る。例えば、感知される環境中にH2Oが存在すると、ガスセンサーの応答比に変化が生じ得る。
【0053】
一実施形態では、ガス感知層に組み込まれた1種以上のドーパントは、特に限定されないが、ガスセンサーのベースライン抵抗、応答時間、回復時間を始めとする1以上の応答特性を改変するのに役立ち得る。
【0054】
ガス感知層の酸素欠陥状態はガス感知層の応答に影響するパラメーターの1つであり得る。図6は、被分析物がNOxであるときの、ガス感知層を構成するReをドープしたホスト酸化タングステン膜の酸素欠陥状態(δ)の影響の表600である。表600に掲げたデータは全て、反応性スパッタリングの技術によって形成されたガス感知層で得られたものである。全てのガスセンサーの温度604は400℃に維持した。ホスト膜の酸素欠陥状態はガスセンサーの応答比を調整することができる重要なパラメーターである。ガス感知層の酸素欠陥状態は、ガス感知層の成長条件に関連する幾つかの要因に依存する。これらの要因としては、特に限定されないが、反応性チャンバー内のスパッタリングガスの圧力606、スパッタリングガスの正確な組成、すなわちAr:O比608、ガス感知層の厚さ610、使用した標的の組成612及びガス感知層が堆積する速度614がある。ガスセンサー602の性能は、応答比616、被分析物がNOであるときの回復の時間618及び被分析物がNO2であるときの回復の時間620の点で定量することができる。試料1〜7はWO3及びReからなる標的を同時スパッタリングすることによって成長させた。WO3標的を使用すると、蒸着位置にある最小量の酸素が存在する。例えば、表600から分かるように、試料1〜3の場合、一定の基材温度604と圧力606において、Ar:O比608を40:3〜40:0で変えると、応答比616はほぼ同じであり、実質的に1未満である。これらの試料の場合NOに対する回復時間618及びNO2に対する回復時間620もAr:O比に対して実質的に感受性ではない。試料4〜6に関して、スパッタリングガスの圧力及びAr:O濃度が実質的に低下し、同時に堆積中のガス感知層に酸素の低下が見られると期待されたが、応答特性616、618、620は先の試料1〜3で得られたものと実質的な変化がない。そこで、試料7〜9では、先のWO3標的の代わりにW標的を用いたところ、同時に堆積中のガス感知層で酸素の量が減少し、実質的に改変された応答特性616、618、620が得られる。従って、表600は、ガス感知層の蒸着中に酸素レベルを調節することによって、ガス感知層の酸素欠陥状態(これはガス感知層の応答特性に関係する)を調整することができるということを立証している。
【0055】
以下に示す測定において、使用したガスセンサーの構成要素は、その起源及び/又は調達に応じて2つの別個の組に分類することができる。5つの層、すなわち基材102、ヒーター104、第1のガラス層106、温度感知層108及び第2のガラス層110は民間業者から調達した。他の全ての要素、すなわち電極112、チタン層114、応答調節層116及びガス感知層118は、本発明者が設計し導入した。
【0056】
幾つかの実施形態のガスセンサーの応答に関する以下の測定結果は以下のプロトコルに従って得た。まず、ガスN2、O2、NO、NO2、SO2、CO2を300℃で混合することによってそれらのガスからなる混合物を調製した。次に、この混合物ガスを、ガスセンサーが設置されているチャンバー内に導入する。約400℃の温度に維持したガスセンサーの応答を連続的にモニターする。混合物ガスの正確な組成は実行される実験に依存する。例えば、ガスセンサーの応答時間を、例えば50ppmのNOガスに対して確かめたい場合、混合物ガスの組成は1000sccmのN2、100sccmのO2及び50sccmの1%NO(残部はN2)である。このNO流を通例8又は10分間維持する。応答時間は、NOガスを試料チャンバー中に導入した際の応答の経時変化から得られる。回復時間は、他の条件は全て同一にしたままでNOガスの流れを止めることによって同様に決定される。NOの流れは通例20又は30分間止める。回復時間は試料チャンバー中のNOガスを除去した際の応答の経時変化から得られる。この一連の工程を繰り返して、応答の再現性を決定することができる。
【0057】
一実施形態では、ガスセンサーのガス感知層は、所与の1種(以上)の被分析物に対する所望の及び/又は適切な応答を示すようになる前に状態調節する必要があり得る。例えば、ガス感知層の蒸着方法がスパッタリングである場合、堆積したままのガス感知層は非晶質である可能性が高い。この堆積したままのガス感知層は、例えばNOxに対して所望の又は適切な応答特性を示さないことがある。特定の理論に制限されることはないが、他の要因の中でもその結晶性のレベル及び/又は粒子の大きさ及び/又は結晶粒界の相互接続性を調整するようにガス感知層の形態を変化させると、ガスセンサーの応答特性が改良されると考えられる。窒素と酸素を含有するガス(例えば、NOx)の存在下で高温においてガス感知層をアニーリングすると、そのガス感知層でNOxに対する所望の応答特性が得られることが決定されている。
【0058】
図7は、ホスト酸化タングステン膜中のドーパント種がReである場合の、本発明の代表的な実施形態に従うガスセンサーの経時的抵抗応答を図示するグラフ700である。測定は、100nA(ナノアンペア)に等しい一定の電流を電極間に通しながら2端子モードで実行した。様々な指示されたppmレベルのNO及びNO2ガスを連続的にガスセンサーに適用した。この実施形態のガスセンサーのガス感知層は以下の条件で実施した反応性スパッタリングによって堆積させた。Ar:O圧力を13mTorrに維持し、Ar:Oガスを20:13sccm(標準立方センチメートル/分)の速度で流した。ガス感知層は、それぞれ240ワット及び12ワットのRF出力を用いて酸素欠陥酸化タングステン及びRe標的の同時スパッタリングによって堆積させた。ガス感知層は約0.14Å/s(オングストローム/秒)の平均速度で堆積させて最終的に約1500Åの厚さとした。測定を実施したときガスセンサーは約400℃の温度に維持した。この場合、第1の種及び第2の種の被分析物(それぞれNO2及びNO)の存在に起因する応答は、平均してほぼ1.7の応答(抵抗の変化)比を生じる。「速い」応答時間と「速い」回復時間を示す。また、ベースライン抵抗は経時的に安定であり、被分析物のレベルを一定に維持するとき応答プロフィールは「平坦」である。
【0059】
被分析物の流れを導入/停止したときのガスセンサーの応答に関連する遅延時間は数101sの程度であると期待されると推定されている。例えば、図7を参照すると、遅延時間は30s未満であると推定される。
【0060】
図8は、ホスト酸化タングステン膜中のドーパント種がRe及びNiである場合の、本発明の代表的な実施形態に従うガスセンサーの経時的抵抗応答を図示したグラフ800である。測定は、250nAに等しい一定の電流を電極間に通しながら2端子モードで実施した。様々な指示されたppmレベルのNO及びNO2ガスを連続的にガスセンサーに適用した。この実施形態のガスセンサーのガス感知層は以下の条件で実施した反応性スパッタリングによって堆積させた。Ar:O圧力を4.9mTorrに維持し、Ar:Oガスを21.2:4.0sccm(標準立方センチメートル/分)の速度で流した。ガス感知層は、それぞれ280ワット及び14ワットのRF出力を用いたW及びRe標的の同時スパッタリングによって堆積させた。ガス感知層は約0.75Å/s(オングストローム/秒)の平均速度で堆積させて、最終的に約1200Åの厚さをもたせた。測定を実施したときガスセンサーは約400℃の温度に維持した。8500minを超える時間にわたって試料を連続的に試験した。約550〜約8500minの期間にわたって得られた代表的なデータを示す。この場合、第1の種及び第2の種の被分析物(それぞれNO2及びNO)の存在に起因する応答は、平均してほぼ2の応答(抵抗の変化)比を生じる。「中位」の応答時間と「中位」の回復時間を示す。指示されたレベルのNOxに長期にわたり暴露されたときのガスセンサーの極めて再現性のある応答及び極めて安定なベースライン抵抗は、ガスセンサーの優れた実用寿命を立証している。
【0061】
図9は、ホスト酸化タングステン膜中のドーパント種がCrである場合の、本発明の代表的な実施形態に従うガスセンサーの経時的抵抗応答を図示するグラフ900である。測定は、250nAに等しい一定の電流を電極間に流しながら2端子モードで実施した。様々な指示されたppmレベルのNO及びNO2ガスを連続的にガスセンサーに適用した。この実施形態のガスセンサーのガス感知層は以下の条件で実施したスパッタリングによって堆積させた。Ar:O圧力を2.9mTorrに維持し、Arガスを15.4sccm(標準立方センチメートル/分)の速度で流した。ガス感知層はそれぞれ240ワット及び12ワットのRF出力を用いて酸素欠陥酸化タングステン及びCr標的の同時スパッタリングによって堆積させた。ガス感知層は約1.9Å/s(オングストローム/秒)の平均速度で堆積させて最終的に約750Åの厚さをもたせた。測定を実施したときガスセンサーを約400℃の温度に維持した。この場合、第1の種及び第2の種の被分析物(それぞれNO2及びNO)の存在に起因する応答は、平均してほぼ1の応答(抵抗の変化)比を生じる。
【0062】
一実施形態では、ガスセンサーは自動車の排気ガス中の1種以上の被分析物の濃度をモニター及び/又は測定するのに使用することができる。例えば、ガスセンサーは自動車の排気系内の被分析物の強化されたモニター及び/又は測定用に配置することができる。別の実施形態では、複数のガスセンサーを、自動車の排気系内の様々な位置に配置して排気ガス中の被分析物の濃度をモニターし測定することができる。別の実施形態では、複数のガスセンサーを、自動車の排気ガス流内の様々な位置に配置することができる。別の実施形態では、ガスセンサーは、自動車内の他の位置で1種以上の被分析物の濃度をモニター及び/又は測定するために使用することができる。例えば、ガスセンサーは自動車のキャビン内の被分析物の強化されたモニター及び/又は測定用に位置することができる。別の実施形態では、複数のガスセンサーを、自動車内の様々な位置に配置して、自動車のキャビン内の被分析物の濃度をモニターし測定することができる。
【0063】
本発明のガスセンサーの実施形態はまた、特に限定されないが、アルミニウム、セメント、肥料、ガラス、ミネラルウール、電力、スチール、硫酸及び廃棄物焼却産業を始めとする用途においてNOxの排出をモニターするのに使用することもできる。自動車部門において、本発明のガスセンサーは、特に限定されないが、乗用車、軽商業車、ローリー、トラック及びバスを始めとする石油、ガソリン及びジーゼルエンジン自動車からのNOxの排出(これらに特に限定されない)を始めとする各種用途における排出をモニターするのに使用することができる。
【0064】
また本ガスセンサーを使用して、40C.F.R.§60及び40C.F.R.§75に概要が記載されている米国環境保護局の連続排出監視規格(CEMS)に合致させることもできる。さらに本ガスセンサーを使用して、欧州連合のCEN排出制限値を満たすことができる。さらになお、本ガスセンサーは地方及び連邦規制当局により記載されている「キャップアンドトレード」割当額(allowance)を決定するために連続排出監視システムにおいて使用することができる。
【0065】
別の態様では、ガスセンサーはフリップチップ実装においてカプセル内に配置される。フリップチップ実装において、ガスセンサーは逆さまに反転させられ、その結果装置の感受性領域を取り囲む領域を含めて装置の頂部の感受性表面領域の全てがモニターしようとするガスから保護される。追加の保護基板がチップの裏面を保護する。装置の感受性領域のすぐ上で、チップの上面が取り付けられたセラミック基板にスリット又は開口が形成されてガスがガス感知層に流入することが可能になる。Pt又はAuのような高温安定性の導電性物質の層を用いて、ガスセンサーの構成要素をカプセル層内のリード線と相互に接続することができる。このフリップチップ実装によって、疲労破壊をし易い慣用のワイヤーボンドよりも高い振動及び高温、例えば500℃を超える環境中での相互接続が可能になる。白金及び/又は金の「バンプ」を用いて1以上の電極のような構成要素をリード線と相互に接続すると、過酷な環境でのガスセンサーの使用が可能になる。
【0066】
一実施形態では、ガスセンサーは、温度が約200〜約800℃である場所が存在する過酷な環境で作動可能なように構成することができる。別の実施形態では、ガスセンサーは温度が約200〜約600℃である場所が存在する過酷な環境で作動可能なように構成することができる。さらに別の実施形態では、ガスセンサーは温度が約300〜約500℃である場所が存在する過酷な環境で作動可能なように構成することができる。
【0067】
本ガスセンサーは、長い耐用年数(約103時間)を有し、極めて再現性のよい読み取り値を提供するという点で費用効果的である。費用効果性は、これらのガスセンサーの簡単なモジュール設計のため、製造プロセスを大きい体積に簡単にスケールアップできるのでさらに高まる。
【0068】
ガスセンサーはパッケージ内にカプセル化することができる。このカプセル化はさらに、これらのガスセンサーを使用する可能性が高い過酷な環境中の高温の腐食性雰囲気からガスセンサーを保護する。カプセル化は、装置のそれ自体はガスを感知しないチタン層、電極、第1のガラス層、温度計、第2のガラス層、ヒーター及び基材のような要素の暴露される表面を覆う作用をする。このカプセル化はまた、装置に対して経時的に有害であるガス及び腐食性の物質(例えば、粒子状物、炭化水素)の流れを許容しないように、下にある層(基材)との結合を形成することを含んでいてもよい。カプセル化に適切な材料の例としては、特に限定されないが、炭化ケイ素、アルミナ、ガラス、石英、窒化ケイ素、二酸化ケイ素及びこれらの組合せを含有するもののようなエポキシ系セラミックがある。
【0069】
カプセル層はプラズマ助長化学蒸着(PECVD)、低圧化学蒸着(LPCVD)及びこれらの組合せのような任意の公知の方法で設けることができる。カプセル化は、少なくとも一部分のガス感知層が周囲のガスに暴露されるようなものである。カプセル化を適用することで、ガスセンサーは過酷な環境内で保護され得、より長い耐用年数を有し得る。かかる過酷な環境に対する保護により、特に限定されないが、沸騰水型原子炉、自動車及び機関車の石油又はジーゼルエンジンの排気ガス、工業プロセス(ガラス、アルミニウム、スチール及び石油)プラントの排気ガスを始めとする広範な場面でこれらのセンサーを使用することが可能になるであろう。さらに、既述の環境の排気ガス流中に存在し得る粒子状物からガスセンサーが保護されるであろう。かかる粒子状物は、ガスセンサーに接着したり及び/又はこれを腐食したりし、そのため、排気ガスとガスセンサーとの接触を妨害することにより排気ガスの検出を妨げることがあるので、有害となる可能性がある。
【0070】
限定された数の実施形態のみに関連して本発明を詳細に説明して来たが、本発明がかかる開示された実施形態に限定されないことは容易に了解されよう。むしろ、本発明は、上には記載されていないが本発明の思想と範囲に相応する任意の数の変化、変更、代用又は等価な配列を組み込むように改変することができる。さらに、単一のエネルギー及び二元エネルギー技術について上に述べたが、本発明は3以上のエネルギーを有するアプローチも包含する。さらにまた、本発明の様々な実施形態について説明して来たが、本発明の態様は記載した実施形態の幾つかのみを包含し得るものと了解されたい。従って、本
る。
【図面の簡単な説明】
【0071】
【図1】図1は、本発明の代表的な実施形態に係るNOxガスセンサーの断面図の図式表示である。
【図2】図2は、本発明の代表的な実施形態に係るNOxガスセンサー内の互いに噛み合った感知電極の平面図の図式表示である。
【図3】図3は、本発明の別の代表的な実施形態に係るNOxガスセンサー内のインライン感知電極の平面図の図式表示である。
【図4】図4は、本発明の代表的な実施形態に係るNOxガスセンサーの製造プロセスのフローチャート表示である。
【図5】図5は、本発明のある代表的な実施形態に係る被分析物を検出する方法のフローチャート表示である。
【図6】図6は、被分析物がNOxである場合の、ガス感知層を構成するReをドープした酸化タングステン膜の酸素欠陥状態(δ)の影響の詳細を示す表である。
【図7】図7は、本発明のある代表的な実施形態に係るガスセンサーのガス感知層のドーパント種がReである場合の、様々な指示されたNO及びNO2ガスレベルに暴露された際のガスセンサーの応答の変化のグラフ表示である。
【図8】図8は、本発明のある代表的な実施形態に係るガスセンサーのガス感知層のドーパント種がRe及びNiである場合の、様々な指示されたNO及びNO2ガスレベルに暴露された際のガスセンサー応答の変化のグラフ表示である。
【図9】図9は、本発明のある代表的な実施形態に係るガスセンサーのガス感知層のドーパント種がCrである場合の、様々な指示されたNO及びNO2ガスレベルに暴露された際のガスセンサー応答の変化のグラフ表示である。
【符号の説明】
【0072】
100 ガスセンサー
102 基材層
104 ヒーター層
106 第1のガラス層
108 温度感知層
110 第2のガラス層
112 1以上の電極
114 チタン層
116 応答調節層
118 ガス感知層
120 ガス感知面
200 ガスセンサー
202 1以上の電極
204 ヒーター層
300 ガスセンサー
302 1以上の電極
304 ヒーター層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガスセンサーであって、
WO3-δ(式中、0.35≧δ>0である)と、Re、Ni、Cr、V、W及びこれらの組合せからなる群から選択されるドーパントとを含むガス感知層と、
チタン層に隣接して位置する1以上の電極と、Ti、Ni、Cr、V、W、Re及びこれらの組合せからなる群から選択される材料を含む応答調節層と
を含んでなり、上記1以上の電極が上記ガス感知層と連通しており、
上記ガス感知層がNO、NO2、SOx、O2、H2O及びNH3からなる群から選択される1種以上のガスを検出することができる、ガスセンサー。
【請求項2】
基材層、
基材層に隣接する加熱層、
加熱層に隣接する第1のガラス層、
第1のガラス層に隣接する温度感知層、
温度感知層とチタン層との間の第2のガラス層
を含む、請求項1記載のガスセンサー。
【請求項3】
前記ガス感知層が2種類の所定のガスに等感度で応答するように構成されている、請求項1記載のガスセンサー。
【請求項4】
前記1以上の電極が2以上の電極からなり、該2以上の電極間の電気抵抗が約100000Ω未満である、請求項1記載のガスセンサー。
【請求項5】
前記ガス感知層が約1〜約1000ppmのレベルの被分析物を検出するように構成されている、請求項1記載のガスセンサー。
【請求項6】
前記応答調節層の厚さが約10〜約100Åである、請求項1記載のガスセンサー。
【請求項7】
前記ガス感知層の厚さが約300〜約5000Åである、請求項1記載のガスセンサー。
【請求項8】
前記ガス感知層中のドーパントの濃度が約0.2〜約5モル%であることができる、請求項1記載のガスセンサー。
【請求項9】
ガス感知システムを有する自動車であって、
ガスを輸送する排気系、及び
WO3-δ(式中、0.35≧δ>0である)と、Re、Ni、Cr、V、W及びこれらの組合せからなる群から選択されるドーパントとを含むガス感知層と、
チタン層中位置する1以上の電極と、Ti、Ni、Cr、V、W、Re及びこれらの組合せからなる群から選択される材料を含む応答調節層と
を含んでなり、上記1以上の電極が上記ガス感知層と連通している、ガスセンサーと
を含んでなり、
上記ガス感知層がNO、NO2、SOx、O2、H2O及びNH3からなる群から選択される1種以上のガスを検出することができる、自動車。
【請求項10】
ガスセンサーの製造方法であって、
基材を準備し、
基材層に隣接して加熱層を配置し、
加熱層に隣接して第1のガラス層を配置し、
第1のガラス層に隣接して温度感知層を配置し、
温度感知層に隣接して第2のガラス層を配置し、
第2のガラス層に隣接して1以上の電極を配置し、
1以上の電極に隣接してチタン層を配置し、
チタン層に隣接して応答調節層を配置し、
応答調節層に隣接して、WO3-δ(式中、0.35≧δ>0である)と、Re、Ni、Cr、V、W及びこれらの組合せからなる群から選択されるドーパントとを含むガス感知層を配置する
工程を含んでなる方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2009−150885(P2009−150885A)
【公開日】平成21年7月9日(2009.7.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−320487(P2008−320487)
【出願日】平成20年12月17日(2008.12.17)
【出願人】(390041542)ゼネラル・エレクトリック・カンパニイ (6,332)
【氏名又は名称原語表記】GENERAL ELECTRIC COMPANY
【Fターム(参考)】