ガスセンサ用のセラミックヒータ
【課題】基材とリード部との間に生じる熱応力を低減すると共に、ろう材の使用量を少なくすることができるガスセンサ用のセラミックヒータを提供する。
【解決手段】被測定ガス中の特定ガスの濃度を測定するためのガスセンサ素子2を加熱するためのガスセンサ用のセラミックヒータ1。Al2O3を主成分とする基材3と、基材3の表面に設けられた端子部4と、端子部4に対してその接合端50が立設した状態で接合されたNiを主成分とするリード部5と、リード部5を端子部4に接合するCuを主成分とするAu−Cu合金からなるろう材6とを備える。ろう材6のなすフィレット形状は、端子部4からの高さHと、リード部5の接合端50の外周からろう材6の外周端60までの径方向距離Mとが、H/M≦1.0且つ、H≧0.4mmを満たしている。
【解決手段】被測定ガス中の特定ガスの濃度を測定するためのガスセンサ素子2を加熱するためのガスセンサ用のセラミックヒータ1。Al2O3を主成分とする基材3と、基材3の表面に設けられた端子部4と、端子部4に対してその接合端50が立設した状態で接合されたNiを主成分とするリード部5と、リード部5を端子部4に接合するCuを主成分とするAu−Cu合金からなるろう材6とを備える。ろう材6のなすフィレット形状は、端子部4からの高さHと、リード部5の接合端50の外周からろう材6の外周端60までの径方向距離Mとが、H/M≦1.0且つ、H≧0.4mmを満たしている。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガスセンサ素子等を加熱するためのガスセンサ用のセラミックヒータに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、自動車の内燃機関には、燃焼制御を行うために、排ガス中の酸素濃度等を測定するガスセンサが用いられている。ガスセンサは、ジルコニア等の固体電解質を用いたガスセンサ素子を備えており、排気ガス中の酸素の濃度を検出して、混合気の空燃比を制御するのに使用される。このようなガスセンサ素子は、温度が低いと活性化しないため、ガスセンサには、通常、測定値のばらつきを防止するために、ガスセンサ素子を加熱するセラミックヒータが内蔵されている。
【0003】
上記セラミックヒータ9は、図13に示すごとく、通常、ガスセンサ素子を加熱する発熱部91と、該発熱部91に電力を供給するための一対の端子部94と、上記発熱部91と上記端子部94とを電気的に接続するリード93とからなるヒータパターン96を、ヒータ基板97上に形成してなる(特許文献1参照)。
【0004】
かかるセラミックヒータとしては、例えば、図14に示すような丸棒状のものがある。このセラミックヒータ9は、セラミックの心棒98の表面に上記ヒータ基板97を巻き付けるように配置してなる。該ヒータ基板97は、図13に示すごとく、一方面971に発熱部91及びリード93を設け、他方面972に端子部94を設けてなる。そして、図15に示すごとく、上記リード93と上記端子部94とは上記ヒータ基板97を貫通するスルーホール973を介して接続されている。
また、図15に示すごとく、上記端子部94が外側になるように、上記ヒータ基板97を心棒98の表面に巻き付けてあり、上記端子部94には、リード部95がろう材951により接合されている。
【0005】
ここで、図15、図16に示すごとく、上記端子部94と上記リード部95との接合は、上記リード部95が、Al2O3を主成分とする基材99の軸方向に沿って、ろう材951を介して接合される。そして、上記端子部94を含む上記基材99と、ろう材951及びリード部95とが、基材99の軸方向に平行に熱膨張し、上記基材99と上記リード部95との接合部分において、両者の熱膨張差に起因する熱応力を生じさせる。
【0006】
特に、Niを主成分として形成される上記リード部95及び上記ろう材951の熱膨張率は、上記基材99及び上記端子部94よりも大きいため、リード部95及びろう材951と基材99及び端子部94との間には大きい熱膨張差が生じてしまい、上記基材99には、上記端子部94を介して上記熱膨張差に起因する熱応力(熱ストレス)が生じやすい。その結果、上記端子部94、上記基材99に亀裂、剥離等が生じやすくなるおそれがある。
【0007】
この問題に対しては、端子部とリード部とを、端子部を含む基材の軸方向に対して垂直方向に立設させることで、リード部及びろう材の熱膨張に起因する熱応力を、上記端子部を含む基材の軸方向に対して垂直方向に向かわせて、端子部を介する基材とリード部及びろう材との接合部分における熱膨張差に起因する熱応力を低減することで、上記の課題を解消することが考えられる(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平11−292649号公報
【特許文献2】特開2006−294479号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、上記特許文献2のごとく、端子部とリード部とを、単に端子部を含む基材の軸方向に対して垂直方向に立設する構造のみでは、上記端子部を介する上記基材と上記リード部及びろう材との間の熱膨張差に起因する熱応力を充分には低減できない。すなわち、上記端子部を介する上記基材と上記リード部との接合部分において、ろう材の形状、使用量及び材質等の最適化によっても、上記の課題をさらに効果的に解決できる余地があり、特許文献2には、ろう材の形状、使用量、材質の含有率等の各種条件については、特に言及がない。また、ろう材の使用量の低減によるコスト低減の観点からも充分ではない。したがって、上記の課題の解決に対しては、依然として改善の余地があった。
【0010】
本発明は、かかる問題点に鑑みてなされたもので、基材とろう材との間に生じる熱応力を低減すると共に、ろう材の使用量を少なくすることができるガスセンサ用のセラミックヒータを提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、被測定ガス中の特定ガスの濃度を測定するためのガスセンサ素子を加熱するためのガスセンサ用のセラミックヒータであって、
Al2O3を主成分とする基材と、
該基材の表面に設けられた端子部と、
該端子部に対して、その接合端が立設した状態で接合されたNiを主成分とするリード部と、
該リード部を上記端子部に接合するCuを主成分とするAu−Cu合金からなるろう材とを備え、
該ろう材のなすフィレット形状は、上記端子部からの高さHと、上記リード部の上記接合端の外周から上記ろう材の外周端までの径方向距離Mとが、H/M≦1.0且つ、H≧0.4mmを満たしていることを特徴とするガスセンサ用のセラミックヒータ(請求項1)。
【発明の効果】
【0012】
本発明におけるセラミックヒータにおいては、上記リード部が、上記端子部に対してその接合端を立設した状態で接合されている。これにより、上記リード部の熱膨張の方向を、上記端子部を含む基材の軸方向に対して垂直方向に向かわせることができ、さらに、上記リード部と上記端子部との接合範囲を縮小することもできる。そのため、上記端子部を介する上記基材と上記リード部との接合部分における、熱膨張差に起因する熱応力を低減させることができ、その結果、上記ろう材、端子部、基材の亀裂、剥離等の発生を防止することができる。
【0013】
また、上記ろう材のなすフィレット形状は、上記端子部からの高さHと、上記リード部の上記接合端の外周から上記ろう材の外周端までの径方向距離Mとが、H/M≦1.0且つ、H≧0.4mmの関係を満たすように形成されている。これにより、上述した熱応力を効果的に低減することができ、上記ろう材、端子部、基材の亀裂、剥離等の発生を確実に防止することができると共に、上記ろう材の使用量も低減できる。そのため、セラミックヒータの製造コストを低減することもできる。
【0014】
以上のごとく、本発明によれば、基材とリード部との間に生じる熱応力を低減すると共に、ろう材の使用量を少なくすることができるガスセンサ用のセラミックヒータを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】実施例1における、セラミックヒータを組み込んだガスセンサの断面説明図。
【図2】実施例1における、セラミックヒータの正面図。
【図3】実施例1における、端子部とリード部との接合部分の拡大図。
【図4】実施例1における、端子部を含む基材の軸方向に対して、リード部を垂直方向に接合した接合部分の拡大断面図。
【図5】比較例1における、端子部を含む基材の軸方向に対して、リード部を平行方向に接合した接合部分の拡大断面図。
【図6】実験例1における、ろう材破断強度と長さhとの関係図。
【図7】実験例2における、ろう材の熱歪と冷熱ストレス回数との関係図。
【図8】実験例2における、ろう材の熱歪とろう材のフィレット形状との関係図。
【図9】実施例2における、端子部とリード部との接合部分の拡大断面図。
【図10】実施例3における、セラミックヒータの正面図。
【図11】実施例3における、セラミックヒータの側面図。
【図12】図10のC−C線矢視断面図。
【図13】背景技術における、セラミックヒータの展開図。
【図14】背景技術における、セラミックヒータの正面図。
【図15】背景技術における、端子部とリード部との接合部分の軸方向に直交する断面図。
【図16】背景技術における、端子部とリード部との接合部分の拡大図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
上記ろう材のなすフィレット形状における、上記高さHと上記径方向距離Mとの関係、すなわち、H/M≦1.0且つ、H≧0.4mmの関係における臨界意義につき説明する。
すなわち、H/M>1.0の場合には、上記端子部を介する上記基材と上記リード部との接合部分における熱応力を低減することが困難となり、上記ろう材及び上記基材に亀裂、剥離等が生じやすくなるおそれがある。一方、H<0.4mmの場合には、上記基材と上記リード部及び上記ろう材との接合強度の低下を招くおそれがある。
【0017】
上記端子部は、少なくともその表面にNi(ニッケル)を主成分とするNi層を備えていることが好ましい(請求項2)。この場合には、上記端子部の耐熱性、耐久性を向上させることができる。
【0018】
また、上記ろう材の表面には、ろう材を保護するための保護メッキ層が形成されており、該保護メッキ層は、少なくともNiを主成分とするNi層を備えていることが好ましい(請求項3)。この場合には、上記ろう材の表面の耐熱性を向上させることができる。
【0019】
また、上記保護メッキ層は、Cr(クロム)を主成分とするCr層を備えていることが好ましい(請求項4)。この場合には、上記ろう材の表面における耐硝酸性を向上させることができる。
【実施例】
【0020】
(実施例1)
本発明の実施例にかかるガスセンサ用のセラミックヒータにつき、図1〜図4を用いて説明する。
ガスセンサ用のセラミックヒータ1は、図1に示すごとく、被測定ガス中の特定ガスの濃度を測定するためのガスセンサ素子2を加熱するためのものである。
また、図2、図3に示すごとく、セラミックヒータ1は、Al2O3(アルミナ)を主成分とする基材3と、基材3の表面に設けられた端子部4と、端子部4に対して、その接合端50が立設した状態で接合されたNiを主成分とするリード部5と、リード部5を端子部4に接合するCuを主成分とするAu−Cu(金−銅)合金からなるろう材6とを備えている。
【0021】
また、図4に示すごとく、ろう材6のなすフィレット形状は、端子部4からの高さHと、リード部5の接合端50の外周からろう材6の外周端60までの径方向距離Mとが、H/M≦1.0且つ、H≧0.4mmの関係を満たすように形成されている。
【0022】
また、端子部4は、W(タングステン)を主成分として含む金属層によって構成されており、端子部4の表面には、図4に示すごとく、Niを主成分とするNi層40が形成されている。
なお、本例では、図3、図4に示すごとく、リード部5の接合端50は、端面51を端子部4の表面には当接させずに所定間隔を保持した状態で、ろう材6を介して端子部4に接合されているが、リード部5の接合端50の端面51と端子部4の表面とを当接させて形成してもよい。
【0023】
また、ろう材6は、Cuを主成分とするAu−Cu合金から形成されてなる。例えば、ろう材6の組成は、Auの含有率を45重量%以下とし、Cuの含有率を55重量%以上とすることができる。
【0024】
また、基材3は、軸方向に直交する断面が略円形の丸棒形状を有する。基材3は、セラミックの心棒の表面にヒータ基板を巻き付けるように配置してなる。ヒータ基板は、内側面に発熱部及びリードを設け、外側面に端子部4を設けてなる(図13参照)。
【0025】
発熱部は、基材3の先端部において内部に形成され、図2に示すごとく、一対の端子部4は、基材3の基端部の側面に形成されている。
これらの端子部4に対して、リード部5が略垂直に立設した状態で、ろう付けされている。リード部5は、長手方向に直交する断面が円形をなすように形成されると共に、基材3の軸方向に伸びる伸長部51と、その先端側において略直角に屈曲した接合端50とからなり、その接合端50が、端子部4に対して立設された状態で接合される。
そして、一対のリード部5は、基材3の側面に互いに180°反対側に接合端50を立設している。
【0026】
端子部4とリード部5とを接合するろう材6のフィレット形状は、図4に示すごとく、リード部5の接合端50の中心部を中心に接合端50の周囲から外側に向かって広がり、その裾が略円形状を描くように端子部4と接触している。そして、フィレット形状は接合端50の中心軸を通る平面による断面形状において、凹状の曲線状の輪郭を有する。
【0027】
セラミックヒータ1は、図1に示すごとく、被測定ガス中の特定ガス濃度を検出するためのガスセンサ7に組み込まれている。
ガスセンサ7について以下に説明する。
ここで、ガスセンサ7を、排ガス管等、測定部分へ挿入する側(図1の下方)を「先端側」とし、その反対側を「基端側」として説明する。
まず、ガスセンサ7は、筒型のハウジング71とハウジング71に挿通したコップ型(有底筒状)のガスセンサ素子2と、ハウジング71の先端側に設けた外側カバー721と内側カバー722とからなる被測定ガス側カバー72と、ハウジング71の基端側に設けた大気側カバー73とを有する。
【0028】
被測定ガス側カバー72の内部は被測定ガス雰囲気720を構成し、ここに導入された排ガス等の被測定ガス中の酸素等の特定ガス濃度を、ガスセンサ素子2によって測定する。
大気側カバー73の基端側は撥水フィルタ732を介して外側カバー731がかしめ固定されている。大気側カバー73の最も基端側の内部には弾性絶縁部材743がかしめ固定されている。大気側カバー73の内部は大気雰囲気730を構成し、後述するガスセンサ素子2の大気室210に対しては、ここから大気が導入される。大気雰囲気730には、撥水フィルタ732を介して外気が導入される。
【0029】
ハウジング71の内部にはガスセンサ素子2が挿通されるが、両者の間には粉末シール材751、絶縁部材752が配置され、気密性、液密性が確保されている。絶縁部材752の基端側はリング状部材753を介して、ハウジング71の基端側が内側に曲げられて、かしめられている。大気側カバー73の内部であって、弾性絶縁部材743の下方には、大気側絶縁碍子742が皿バネ741によって支承されている。
【0030】
また、ガスセンサ素子2は、有底筒型の固体電解質体21の外側面と内側面にそれぞれ外側電極と内側電極とを設けてなる(図示略)。固体電解質体21の内部は大気室210として使用され、大気室210の内部に、ガスセンサ素子2と別体として構成したセラミックヒータ1が配置される。
【0031】
また、ガスセンサ素子2には、外側電極、内側電極とそれぞれ電気的に導通する接触端子221、222が設けてあり、接触端子221、222は大気側絶縁碍子742内部において、接続端子231、232を介して外部リード線201、202に接続される。なお、接触端子222は、セラミックヒータ1を保持するヒータホルダ24を設けてなる。
【0032】
次に本例のセラミックヒータ1の作用効果につき説明する。
セラミックヒータ1は、リード部5が、端子部4に対してその接合端50を立設した状態で接合されている。これにより、リード部5の熱膨張の方向を、端子部4を含む基材3の軸方向に対して垂直方向に向かわせることができ、さらに、リード部5と端子部4との接合範囲を縮小することもできる。そのため、端子部4を介する基材3とリード部5との接合部分における、熱膨張差に起因する熱応力を低減させることができ、その結果、ろう材6、端子部4、基材3の亀裂、剥離等の発生を防止することができる。
【0033】
また、ろう材6のなすフィレット形状は、端子部4からの高さHと、リード部5の接合端50の外周からろう材6の外周端60までの径方向距離Mとが、H/M≦1.0且つ、H≧0.4mmの関係を満たすように形成されている。これにより、上述した熱応力をさらに効果的に低減することができ、ろう材6、端子部4、基材3の亀裂、剥離等の発生を確実に防止することができると共に、ろう材6の使用量も低減できる。そのため、セラミックヒータの製造コストを低減することもできる。
【0034】
なお、具体的には、後記する実験例1から得られた、ろう材6のなすフィレット形状における高さHと径方向距離Mとの関係、すなわち、H/M≦1.0且つ、H≧0.4mmの関係を満たさない場合においては、以下の問題を生じ易い。
すなわち、H/M>1.0の場合には、端子部4を介する基材3とリード部5との接合部分における熱応力を低減することが困難となり、ろう材6、端子部4、基材3に亀裂、剥離等が生じやすくなってしまうおそれがある。一方、H<0.4mmの場合には、基材3とリード部5及びろう材6との接合強度の低下を招くおそれがある。
【0035】
また、端子部4の表面にはNiを主成分とするNi層40が形成されている。これにより、端子部4の耐熱性、耐久性を向上させることができる。
【0036】
以上のごとく、本発明によれば、基材とリード部との間に生じる熱応力を低減すると共に、ろう材の使用量を少なくすることができるガスセンサ用のセラミックヒータを提供することができる。
【0037】
(比較例1)
本例は、図5に示すごとく、基材3に設けた端子部94に対して、リード部95をその接合端950が基材3の軸方向に平行となる状態で接合したセラミックヒータ90の例である。なお、リード部95の形状等、主な構成は、図14〜図16に示すセラミックヒータ9と同様である。
【0038】
本例のセラミックヒータ90においても、リード部95の接合端950は、端子部94に対して、ろう材951によって接合されている。
なお、接合端950の長さ(基材3の軸方向と略平行となる部分の長さ)は0.5〜1.5mmに設定されており、リード部95の直径は0.6mmに設定されている。
【0039】
そして、本例のセラミックヒータ90について、実際の使用環境において最も高温となる温度(400℃)まで加熱したときに、リード部95と端子部94との接合部付近のセラミック(基材3)にかかる応力分布をFEM解析によって解析した。その結果、ろう材951と端子部94との接合部のうちの、軸方向両端部付近(図5の矢印に示すA部分、B部分)において、特に大きい応力がかかることがわかった。そして、この中でも、特に接合部のうちの基端側の端部付近(B部分)において、最大の応力が発生することがわかった。
【0040】
(実験例1)
本例においては、図6に示すごとく、上記実施例1のセラミックヒータ1のろう材6のなすフィレット形状の高さHと、ろう材6の破断強度(以下、これを適宜にろう材破断強度という)との関係を調べた。
セラミックヒータ1のろう材6は、リード部5の破断強度以上の破断強度を確保することが望まれる。ここで、一般的なリード部5として、直径0.6mmのNiリードの破断強度を測定した結果、リード部5の破断強度は220Nであった。そのため、ろう材破断強度は220N以上確保することが望まれる。
そこで、本例においては、ろう材破断強度を220N以上得ることができるろう材6のフィレット高さHの条件を導くべく、以下の試験を行った。
【0041】
具体的には、ろう材6のフィレット形状の高さHを種々変更し、それぞれの場合のろう材6とリード部5との接合面積及びろう材6の機械的特性からろう材破断強度を算出した。
以下、その詳細を説明する。
【0042】
評価対象として、図4に示すろう材6における、ろう材6とリード部5の接合端50の外周面及び端面51との総接合面積を基に、図6のグラフの横軸に示すろう材6とリード部5との密着面の長さh(図4参照)を0mm〜1.0mmの間で、0.1mm刻みで種々設定した10種類のセラミックヒータ1を用意した(以下、これを試料1〜10という)。また、リード部5の直径は0.6mmである。
そして、上記試料1〜試料10のセラミックヒータ1のそれぞれにおける、ろう材破断強度の算出を行った。その結果を図6に示す。なお、図6における符号Dで示した直線は、基準となるろう材破断強度220Nを示す。
【0043】
試料1〜10について、ろう材破断強度の測定を行ったところ、図6からわかるように、試料3(長さh=0.3mm)〜試料10(長さh=1.0mm)は、ろう材破断強度220N以上を得ることができている。すなわち、ろう材6のフィレット形状において、ろう材6とリード部5との密着面の長さhがh≧0.3mmの関係を満たすことで、ろう材破断強度220N以上確保できることがわかる。
【0044】
ここで、実施例1で示したごとく、通常、リード部5の接合端50は、端面51を端子部4の表面には当接させずに所定間隔(以下、ギャップGという)を保持した状態で、ろう材6を介して端子部4に接合されている(図3、図4参照)。それゆえ、ろう材6のフィレット形状における高さHは、上記長さhと上記ギャップGを含んだ関係、つまり、H=h+Gの関係となる。このギャップGは通常0.1mm以下とされる。そのため、上記の高さHがH≧0.4mmの関係を満たせば、ろう材破断強度を220N以上確保すること充分に可能であることがわかる。
【0045】
以上のごとく、本例によれば、H≧0.4mmとすることにより、ろう材6におけるろう材破断強度を充分に確保することができることがわかる。
【0046】
(実験例2)
本例においては、図7、図8に示すごとく、上記実施例1のセラミックヒータ1における、ろう材6のフィレット形状による、ろう材6に生じる下記に示す熱歪の低減効果を調べた。
まず、ろう材6に生じる熱歪が、ろう材6の耐久性に与える影響を調べ、ろう材6に生じる熱歪の大きさの許容範囲を確保する試験を行った。すなわち、同材料のろう材6を異なるフィレット形状に形成した試料を試料E1〜E3として用意し、これらを室温から400℃に加熱した後、室温に戻すことにより、この1回の冷熱ストレスによって生じた歪(本例においては、これを「熱歪」という)を測定した。この熱歪の大きさが、図7のグラフにおいて、E1〜E3のプロットの縦軸方向の位置として示されている。
そして、これらの試料について上記の冷熱ストレスを、各試料が破断するまで繰り返し行う。そして、各試料が破断したときの冷熱ストレス回数が、図7のグラフにおいて、E1〜E3のプロットの横軸方向の位置として示されている。
【0047】
同図のグラフの直線Iに示されるとおり、上記熱歪の値が小さいほど上記冷熱ストレスに対する耐久性が向上することがわかり、上記熱歪と冷熱ストレス回数とは、直線的な関係にあることがわかる。このグラフから、実施例1のセラミックヒータ1に要求される耐冷熱ストレス回数である4500回(図中に示す直線F)においても、ろう材6が破断しないための条件は、上記熱歪の値が、4.32×10−3%以下であると判断できる(図中に示す直線J)。つまり、直線Fと直線Jで囲まれた符号Kを付した領域が、実施例1で示されるセラミックヒータ1の目標領域となる。
【0048】
そこで、ろう材6の熱歪として、4.32×10−3%以下を満たすような、ろう材6のフィレット形状における高さHと径方向距離Mとの関係(H/M)について、解析を行った。つまり、H/Mと熱歪との関係を調べ、図8のグラフにプロットした。なお、ここで、径方向距離Mは、セラミックヒータ1の軸方向に沿った方向の距離である。
【0049】
図8のグラフにおいて、プロット「◆」は、ろう材6の使用量を比較例1と同程度(片側使用量が4mg)とした場合の値であり、プロット「●」は、ろう材6の使用量を比較例1の70%としたの場合の値であり、プロット「○」は、ろう材6の使用量を比較例1の50%としたの場合の値である。なお、同図のグラフに示す符号Lを付した曲線は、上記プロット「◆」の近似曲線である。
また、同図のグラフにおいて、上記熱歪の値、4.32×10−3%を直線Jで示し、比較例1の上記熱歪の値、5.66×10−3%を直線Nで示す。
【0050】
図8のグラフから、ろう材6のフィレット形状における高さHと径方向距離Mとの比(H/M)が小さいほど、上記熱歪の値が小さいことがわかる。また、ろう材6の使用量が比較例1と同等である場合(◆)については、H/M≦1.0であれば、充分に熱歪を4.32×10−3%(直線J)以下とすることができている。
また、ろう材6の使用量を少なくすると、熱歪が大きくなる傾向にあるが、ろう材6の使用量が比較例1の70%である場合(●)、ろう材6の使用量が比較例1の50%である場合(○)についても、H/M≦1.0とすれば、少なくとも、比較例1の5.66×10−3%(直線N)よりも熱歪を小さくできることがわかる。
なお、ろう材6の使用量(mg)については、ろう材6の片側使用量、すなわち、一対のリード部5(端子部4)のうちの一方のリード部5の接合部分におけるろう材6の使用量である。
【0051】
(実施例2)
本例は、図9に示すごとく、ろう材6の表面にろう材6を保護するための保護メッキ層8を形成した例である。
保護メッキ層8は、Niを主成分とするNi層81を備えていると共に、Crを主成分とするCr層82を備えている。また、具体的には、図9に示すごとく、保護メッキ層8は、下層となるNi層81と上層となるCr層82との二層構造を有する。なお、図9に示すごとく、保護メッキ層8は、ろう材6の表面を含んだ状態で、端子部4とリード部5の接合端50との接合部分を覆うように形成されている。すなわち、リード部5の表面にも保護メッキ層8が形成されている。
【0052】
本例においては、ろう材6の表面において、下層にNi層81を形成することにより、ろう材6の耐熱性を向上させることができる。また、上層にCr層82を形成することにより、ろう材6の表面における耐硝酸性を向上させることができる。
その他は、実施例1と同様であり、本例の場合にも、実施例1と同様の作用効果を有する。
【0053】
(実施例3)
本例は、図10〜図12に示すごとく、基材3を、軸方向に直交する断面が長方形をなす四角柱形状に構成したセラミックヒータ1の例である。
基材3は、基端部における互いに反対側の平坦な両主面にそれぞれ端子部4を設けてなる。そして、各端子部4に対して、それぞれリード部5がろう材6によって接合されている。
その他は、実施例1と同様であり、本例の場合にも、実施例1と同様の作用効果を有する。
【0054】
また、上記実施例1及び実施例3においては、軸方向に直交する断面が略円形をなす丸棒状或いは軸方向に直交する断面が長方形をなす四角柱状に形成された基材3を示したが、これらに限定するものではない。すなわち、例えば、基材3を、上記の形状以外にも、軸方向に直交する断面が六角形や八角形をなす多角柱状とするなど、種々の形状とすることができる。
【符号の説明】
【0055】
1 セラミックヒータ
2 ガスセンサ素子
3 基材
4 端子部
5 リード部
50 接合端
6 ろう材
60 外周端
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガスセンサ素子等を加熱するためのガスセンサ用のセラミックヒータに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、自動車の内燃機関には、燃焼制御を行うために、排ガス中の酸素濃度等を測定するガスセンサが用いられている。ガスセンサは、ジルコニア等の固体電解質を用いたガスセンサ素子を備えており、排気ガス中の酸素の濃度を検出して、混合気の空燃比を制御するのに使用される。このようなガスセンサ素子は、温度が低いと活性化しないため、ガスセンサには、通常、測定値のばらつきを防止するために、ガスセンサ素子を加熱するセラミックヒータが内蔵されている。
【0003】
上記セラミックヒータ9は、図13に示すごとく、通常、ガスセンサ素子を加熱する発熱部91と、該発熱部91に電力を供給するための一対の端子部94と、上記発熱部91と上記端子部94とを電気的に接続するリード93とからなるヒータパターン96を、ヒータ基板97上に形成してなる(特許文献1参照)。
【0004】
かかるセラミックヒータとしては、例えば、図14に示すような丸棒状のものがある。このセラミックヒータ9は、セラミックの心棒98の表面に上記ヒータ基板97を巻き付けるように配置してなる。該ヒータ基板97は、図13に示すごとく、一方面971に発熱部91及びリード93を設け、他方面972に端子部94を設けてなる。そして、図15に示すごとく、上記リード93と上記端子部94とは上記ヒータ基板97を貫通するスルーホール973を介して接続されている。
また、図15に示すごとく、上記端子部94が外側になるように、上記ヒータ基板97を心棒98の表面に巻き付けてあり、上記端子部94には、リード部95がろう材951により接合されている。
【0005】
ここで、図15、図16に示すごとく、上記端子部94と上記リード部95との接合は、上記リード部95が、Al2O3を主成分とする基材99の軸方向に沿って、ろう材951を介して接合される。そして、上記端子部94を含む上記基材99と、ろう材951及びリード部95とが、基材99の軸方向に平行に熱膨張し、上記基材99と上記リード部95との接合部分において、両者の熱膨張差に起因する熱応力を生じさせる。
【0006】
特に、Niを主成分として形成される上記リード部95及び上記ろう材951の熱膨張率は、上記基材99及び上記端子部94よりも大きいため、リード部95及びろう材951と基材99及び端子部94との間には大きい熱膨張差が生じてしまい、上記基材99には、上記端子部94を介して上記熱膨張差に起因する熱応力(熱ストレス)が生じやすい。その結果、上記端子部94、上記基材99に亀裂、剥離等が生じやすくなるおそれがある。
【0007】
この問題に対しては、端子部とリード部とを、端子部を含む基材の軸方向に対して垂直方向に立設させることで、リード部及びろう材の熱膨張に起因する熱応力を、上記端子部を含む基材の軸方向に対して垂直方向に向かわせて、端子部を介する基材とリード部及びろう材との接合部分における熱膨張差に起因する熱応力を低減することで、上記の課題を解消することが考えられる(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平11−292649号公報
【特許文献2】特開2006−294479号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、上記特許文献2のごとく、端子部とリード部とを、単に端子部を含む基材の軸方向に対して垂直方向に立設する構造のみでは、上記端子部を介する上記基材と上記リード部及びろう材との間の熱膨張差に起因する熱応力を充分には低減できない。すなわち、上記端子部を介する上記基材と上記リード部との接合部分において、ろう材の形状、使用量及び材質等の最適化によっても、上記の課題をさらに効果的に解決できる余地があり、特許文献2には、ろう材の形状、使用量、材質の含有率等の各種条件については、特に言及がない。また、ろう材の使用量の低減によるコスト低減の観点からも充分ではない。したがって、上記の課題の解決に対しては、依然として改善の余地があった。
【0010】
本発明は、かかる問題点に鑑みてなされたもので、基材とろう材との間に生じる熱応力を低減すると共に、ろう材の使用量を少なくすることができるガスセンサ用のセラミックヒータを提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、被測定ガス中の特定ガスの濃度を測定するためのガスセンサ素子を加熱するためのガスセンサ用のセラミックヒータであって、
Al2O3を主成分とする基材と、
該基材の表面に設けられた端子部と、
該端子部に対して、その接合端が立設した状態で接合されたNiを主成分とするリード部と、
該リード部を上記端子部に接合するCuを主成分とするAu−Cu合金からなるろう材とを備え、
該ろう材のなすフィレット形状は、上記端子部からの高さHと、上記リード部の上記接合端の外周から上記ろう材の外周端までの径方向距離Mとが、H/M≦1.0且つ、H≧0.4mmを満たしていることを特徴とするガスセンサ用のセラミックヒータ(請求項1)。
【発明の効果】
【0012】
本発明におけるセラミックヒータにおいては、上記リード部が、上記端子部に対してその接合端を立設した状態で接合されている。これにより、上記リード部の熱膨張の方向を、上記端子部を含む基材の軸方向に対して垂直方向に向かわせることができ、さらに、上記リード部と上記端子部との接合範囲を縮小することもできる。そのため、上記端子部を介する上記基材と上記リード部との接合部分における、熱膨張差に起因する熱応力を低減させることができ、その結果、上記ろう材、端子部、基材の亀裂、剥離等の発生を防止することができる。
【0013】
また、上記ろう材のなすフィレット形状は、上記端子部からの高さHと、上記リード部の上記接合端の外周から上記ろう材の外周端までの径方向距離Mとが、H/M≦1.0且つ、H≧0.4mmの関係を満たすように形成されている。これにより、上述した熱応力を効果的に低減することができ、上記ろう材、端子部、基材の亀裂、剥離等の発生を確実に防止することができると共に、上記ろう材の使用量も低減できる。そのため、セラミックヒータの製造コストを低減することもできる。
【0014】
以上のごとく、本発明によれば、基材とリード部との間に生じる熱応力を低減すると共に、ろう材の使用量を少なくすることができるガスセンサ用のセラミックヒータを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】実施例1における、セラミックヒータを組み込んだガスセンサの断面説明図。
【図2】実施例1における、セラミックヒータの正面図。
【図3】実施例1における、端子部とリード部との接合部分の拡大図。
【図4】実施例1における、端子部を含む基材の軸方向に対して、リード部を垂直方向に接合した接合部分の拡大断面図。
【図5】比較例1における、端子部を含む基材の軸方向に対して、リード部を平行方向に接合した接合部分の拡大断面図。
【図6】実験例1における、ろう材破断強度と長さhとの関係図。
【図7】実験例2における、ろう材の熱歪と冷熱ストレス回数との関係図。
【図8】実験例2における、ろう材の熱歪とろう材のフィレット形状との関係図。
【図9】実施例2における、端子部とリード部との接合部分の拡大断面図。
【図10】実施例3における、セラミックヒータの正面図。
【図11】実施例3における、セラミックヒータの側面図。
【図12】図10のC−C線矢視断面図。
【図13】背景技術における、セラミックヒータの展開図。
【図14】背景技術における、セラミックヒータの正面図。
【図15】背景技術における、端子部とリード部との接合部分の軸方向に直交する断面図。
【図16】背景技術における、端子部とリード部との接合部分の拡大図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
上記ろう材のなすフィレット形状における、上記高さHと上記径方向距離Mとの関係、すなわち、H/M≦1.0且つ、H≧0.4mmの関係における臨界意義につき説明する。
すなわち、H/M>1.0の場合には、上記端子部を介する上記基材と上記リード部との接合部分における熱応力を低減することが困難となり、上記ろう材及び上記基材に亀裂、剥離等が生じやすくなるおそれがある。一方、H<0.4mmの場合には、上記基材と上記リード部及び上記ろう材との接合強度の低下を招くおそれがある。
【0017】
上記端子部は、少なくともその表面にNi(ニッケル)を主成分とするNi層を備えていることが好ましい(請求項2)。この場合には、上記端子部の耐熱性、耐久性を向上させることができる。
【0018】
また、上記ろう材の表面には、ろう材を保護するための保護メッキ層が形成されており、該保護メッキ層は、少なくともNiを主成分とするNi層を備えていることが好ましい(請求項3)。この場合には、上記ろう材の表面の耐熱性を向上させることができる。
【0019】
また、上記保護メッキ層は、Cr(クロム)を主成分とするCr層を備えていることが好ましい(請求項4)。この場合には、上記ろう材の表面における耐硝酸性を向上させることができる。
【実施例】
【0020】
(実施例1)
本発明の実施例にかかるガスセンサ用のセラミックヒータにつき、図1〜図4を用いて説明する。
ガスセンサ用のセラミックヒータ1は、図1に示すごとく、被測定ガス中の特定ガスの濃度を測定するためのガスセンサ素子2を加熱するためのものである。
また、図2、図3に示すごとく、セラミックヒータ1は、Al2O3(アルミナ)を主成分とする基材3と、基材3の表面に設けられた端子部4と、端子部4に対して、その接合端50が立設した状態で接合されたNiを主成分とするリード部5と、リード部5を端子部4に接合するCuを主成分とするAu−Cu(金−銅)合金からなるろう材6とを備えている。
【0021】
また、図4に示すごとく、ろう材6のなすフィレット形状は、端子部4からの高さHと、リード部5の接合端50の外周からろう材6の外周端60までの径方向距離Mとが、H/M≦1.0且つ、H≧0.4mmの関係を満たすように形成されている。
【0022】
また、端子部4は、W(タングステン)を主成分として含む金属層によって構成されており、端子部4の表面には、図4に示すごとく、Niを主成分とするNi層40が形成されている。
なお、本例では、図3、図4に示すごとく、リード部5の接合端50は、端面51を端子部4の表面には当接させずに所定間隔を保持した状態で、ろう材6を介して端子部4に接合されているが、リード部5の接合端50の端面51と端子部4の表面とを当接させて形成してもよい。
【0023】
また、ろう材6は、Cuを主成分とするAu−Cu合金から形成されてなる。例えば、ろう材6の組成は、Auの含有率を45重量%以下とし、Cuの含有率を55重量%以上とすることができる。
【0024】
また、基材3は、軸方向に直交する断面が略円形の丸棒形状を有する。基材3は、セラミックの心棒の表面にヒータ基板を巻き付けるように配置してなる。ヒータ基板は、内側面に発熱部及びリードを設け、外側面に端子部4を設けてなる(図13参照)。
【0025】
発熱部は、基材3の先端部において内部に形成され、図2に示すごとく、一対の端子部4は、基材3の基端部の側面に形成されている。
これらの端子部4に対して、リード部5が略垂直に立設した状態で、ろう付けされている。リード部5は、長手方向に直交する断面が円形をなすように形成されると共に、基材3の軸方向に伸びる伸長部51と、その先端側において略直角に屈曲した接合端50とからなり、その接合端50が、端子部4に対して立設された状態で接合される。
そして、一対のリード部5は、基材3の側面に互いに180°反対側に接合端50を立設している。
【0026】
端子部4とリード部5とを接合するろう材6のフィレット形状は、図4に示すごとく、リード部5の接合端50の中心部を中心に接合端50の周囲から外側に向かって広がり、その裾が略円形状を描くように端子部4と接触している。そして、フィレット形状は接合端50の中心軸を通る平面による断面形状において、凹状の曲線状の輪郭を有する。
【0027】
セラミックヒータ1は、図1に示すごとく、被測定ガス中の特定ガス濃度を検出するためのガスセンサ7に組み込まれている。
ガスセンサ7について以下に説明する。
ここで、ガスセンサ7を、排ガス管等、測定部分へ挿入する側(図1の下方)を「先端側」とし、その反対側を「基端側」として説明する。
まず、ガスセンサ7は、筒型のハウジング71とハウジング71に挿通したコップ型(有底筒状)のガスセンサ素子2と、ハウジング71の先端側に設けた外側カバー721と内側カバー722とからなる被測定ガス側カバー72と、ハウジング71の基端側に設けた大気側カバー73とを有する。
【0028】
被測定ガス側カバー72の内部は被測定ガス雰囲気720を構成し、ここに導入された排ガス等の被測定ガス中の酸素等の特定ガス濃度を、ガスセンサ素子2によって測定する。
大気側カバー73の基端側は撥水フィルタ732を介して外側カバー731がかしめ固定されている。大気側カバー73の最も基端側の内部には弾性絶縁部材743がかしめ固定されている。大気側カバー73の内部は大気雰囲気730を構成し、後述するガスセンサ素子2の大気室210に対しては、ここから大気が導入される。大気雰囲気730には、撥水フィルタ732を介して外気が導入される。
【0029】
ハウジング71の内部にはガスセンサ素子2が挿通されるが、両者の間には粉末シール材751、絶縁部材752が配置され、気密性、液密性が確保されている。絶縁部材752の基端側はリング状部材753を介して、ハウジング71の基端側が内側に曲げられて、かしめられている。大気側カバー73の内部であって、弾性絶縁部材743の下方には、大気側絶縁碍子742が皿バネ741によって支承されている。
【0030】
また、ガスセンサ素子2は、有底筒型の固体電解質体21の外側面と内側面にそれぞれ外側電極と内側電極とを設けてなる(図示略)。固体電解質体21の内部は大気室210として使用され、大気室210の内部に、ガスセンサ素子2と別体として構成したセラミックヒータ1が配置される。
【0031】
また、ガスセンサ素子2には、外側電極、内側電極とそれぞれ電気的に導通する接触端子221、222が設けてあり、接触端子221、222は大気側絶縁碍子742内部において、接続端子231、232を介して外部リード線201、202に接続される。なお、接触端子222は、セラミックヒータ1を保持するヒータホルダ24を設けてなる。
【0032】
次に本例のセラミックヒータ1の作用効果につき説明する。
セラミックヒータ1は、リード部5が、端子部4に対してその接合端50を立設した状態で接合されている。これにより、リード部5の熱膨張の方向を、端子部4を含む基材3の軸方向に対して垂直方向に向かわせることができ、さらに、リード部5と端子部4との接合範囲を縮小することもできる。そのため、端子部4を介する基材3とリード部5との接合部分における、熱膨張差に起因する熱応力を低減させることができ、その結果、ろう材6、端子部4、基材3の亀裂、剥離等の発生を防止することができる。
【0033】
また、ろう材6のなすフィレット形状は、端子部4からの高さHと、リード部5の接合端50の外周からろう材6の外周端60までの径方向距離Mとが、H/M≦1.0且つ、H≧0.4mmの関係を満たすように形成されている。これにより、上述した熱応力をさらに効果的に低減することができ、ろう材6、端子部4、基材3の亀裂、剥離等の発生を確実に防止することができると共に、ろう材6の使用量も低減できる。そのため、セラミックヒータの製造コストを低減することもできる。
【0034】
なお、具体的には、後記する実験例1から得られた、ろう材6のなすフィレット形状における高さHと径方向距離Mとの関係、すなわち、H/M≦1.0且つ、H≧0.4mmの関係を満たさない場合においては、以下の問題を生じ易い。
すなわち、H/M>1.0の場合には、端子部4を介する基材3とリード部5との接合部分における熱応力を低減することが困難となり、ろう材6、端子部4、基材3に亀裂、剥離等が生じやすくなってしまうおそれがある。一方、H<0.4mmの場合には、基材3とリード部5及びろう材6との接合強度の低下を招くおそれがある。
【0035】
また、端子部4の表面にはNiを主成分とするNi層40が形成されている。これにより、端子部4の耐熱性、耐久性を向上させることができる。
【0036】
以上のごとく、本発明によれば、基材とリード部との間に生じる熱応力を低減すると共に、ろう材の使用量を少なくすることができるガスセンサ用のセラミックヒータを提供することができる。
【0037】
(比較例1)
本例は、図5に示すごとく、基材3に設けた端子部94に対して、リード部95をその接合端950が基材3の軸方向に平行となる状態で接合したセラミックヒータ90の例である。なお、リード部95の形状等、主な構成は、図14〜図16に示すセラミックヒータ9と同様である。
【0038】
本例のセラミックヒータ90においても、リード部95の接合端950は、端子部94に対して、ろう材951によって接合されている。
なお、接合端950の長さ(基材3の軸方向と略平行となる部分の長さ)は0.5〜1.5mmに設定されており、リード部95の直径は0.6mmに設定されている。
【0039】
そして、本例のセラミックヒータ90について、実際の使用環境において最も高温となる温度(400℃)まで加熱したときに、リード部95と端子部94との接合部付近のセラミック(基材3)にかかる応力分布をFEM解析によって解析した。その結果、ろう材951と端子部94との接合部のうちの、軸方向両端部付近(図5の矢印に示すA部分、B部分)において、特に大きい応力がかかることがわかった。そして、この中でも、特に接合部のうちの基端側の端部付近(B部分)において、最大の応力が発生することがわかった。
【0040】
(実験例1)
本例においては、図6に示すごとく、上記実施例1のセラミックヒータ1のろう材6のなすフィレット形状の高さHと、ろう材6の破断強度(以下、これを適宜にろう材破断強度という)との関係を調べた。
セラミックヒータ1のろう材6は、リード部5の破断強度以上の破断強度を確保することが望まれる。ここで、一般的なリード部5として、直径0.6mmのNiリードの破断強度を測定した結果、リード部5の破断強度は220Nであった。そのため、ろう材破断強度は220N以上確保することが望まれる。
そこで、本例においては、ろう材破断強度を220N以上得ることができるろう材6のフィレット高さHの条件を導くべく、以下の試験を行った。
【0041】
具体的には、ろう材6のフィレット形状の高さHを種々変更し、それぞれの場合のろう材6とリード部5との接合面積及びろう材6の機械的特性からろう材破断強度を算出した。
以下、その詳細を説明する。
【0042】
評価対象として、図4に示すろう材6における、ろう材6とリード部5の接合端50の外周面及び端面51との総接合面積を基に、図6のグラフの横軸に示すろう材6とリード部5との密着面の長さh(図4参照)を0mm〜1.0mmの間で、0.1mm刻みで種々設定した10種類のセラミックヒータ1を用意した(以下、これを試料1〜10という)。また、リード部5の直径は0.6mmである。
そして、上記試料1〜試料10のセラミックヒータ1のそれぞれにおける、ろう材破断強度の算出を行った。その結果を図6に示す。なお、図6における符号Dで示した直線は、基準となるろう材破断強度220Nを示す。
【0043】
試料1〜10について、ろう材破断強度の測定を行ったところ、図6からわかるように、試料3(長さh=0.3mm)〜試料10(長さh=1.0mm)は、ろう材破断強度220N以上を得ることができている。すなわち、ろう材6のフィレット形状において、ろう材6とリード部5との密着面の長さhがh≧0.3mmの関係を満たすことで、ろう材破断強度220N以上確保できることがわかる。
【0044】
ここで、実施例1で示したごとく、通常、リード部5の接合端50は、端面51を端子部4の表面には当接させずに所定間隔(以下、ギャップGという)を保持した状態で、ろう材6を介して端子部4に接合されている(図3、図4参照)。それゆえ、ろう材6のフィレット形状における高さHは、上記長さhと上記ギャップGを含んだ関係、つまり、H=h+Gの関係となる。このギャップGは通常0.1mm以下とされる。そのため、上記の高さHがH≧0.4mmの関係を満たせば、ろう材破断強度を220N以上確保すること充分に可能であることがわかる。
【0045】
以上のごとく、本例によれば、H≧0.4mmとすることにより、ろう材6におけるろう材破断強度を充分に確保することができることがわかる。
【0046】
(実験例2)
本例においては、図7、図8に示すごとく、上記実施例1のセラミックヒータ1における、ろう材6のフィレット形状による、ろう材6に生じる下記に示す熱歪の低減効果を調べた。
まず、ろう材6に生じる熱歪が、ろう材6の耐久性に与える影響を調べ、ろう材6に生じる熱歪の大きさの許容範囲を確保する試験を行った。すなわち、同材料のろう材6を異なるフィレット形状に形成した試料を試料E1〜E3として用意し、これらを室温から400℃に加熱した後、室温に戻すことにより、この1回の冷熱ストレスによって生じた歪(本例においては、これを「熱歪」という)を測定した。この熱歪の大きさが、図7のグラフにおいて、E1〜E3のプロットの縦軸方向の位置として示されている。
そして、これらの試料について上記の冷熱ストレスを、各試料が破断するまで繰り返し行う。そして、各試料が破断したときの冷熱ストレス回数が、図7のグラフにおいて、E1〜E3のプロットの横軸方向の位置として示されている。
【0047】
同図のグラフの直線Iに示されるとおり、上記熱歪の値が小さいほど上記冷熱ストレスに対する耐久性が向上することがわかり、上記熱歪と冷熱ストレス回数とは、直線的な関係にあることがわかる。このグラフから、実施例1のセラミックヒータ1に要求される耐冷熱ストレス回数である4500回(図中に示す直線F)においても、ろう材6が破断しないための条件は、上記熱歪の値が、4.32×10−3%以下であると判断できる(図中に示す直線J)。つまり、直線Fと直線Jで囲まれた符号Kを付した領域が、実施例1で示されるセラミックヒータ1の目標領域となる。
【0048】
そこで、ろう材6の熱歪として、4.32×10−3%以下を満たすような、ろう材6のフィレット形状における高さHと径方向距離Mとの関係(H/M)について、解析を行った。つまり、H/Mと熱歪との関係を調べ、図8のグラフにプロットした。なお、ここで、径方向距離Mは、セラミックヒータ1の軸方向に沿った方向の距離である。
【0049】
図8のグラフにおいて、プロット「◆」は、ろう材6の使用量を比較例1と同程度(片側使用量が4mg)とした場合の値であり、プロット「●」は、ろう材6の使用量を比較例1の70%としたの場合の値であり、プロット「○」は、ろう材6の使用量を比較例1の50%としたの場合の値である。なお、同図のグラフに示す符号Lを付した曲線は、上記プロット「◆」の近似曲線である。
また、同図のグラフにおいて、上記熱歪の値、4.32×10−3%を直線Jで示し、比較例1の上記熱歪の値、5.66×10−3%を直線Nで示す。
【0050】
図8のグラフから、ろう材6のフィレット形状における高さHと径方向距離Mとの比(H/M)が小さいほど、上記熱歪の値が小さいことがわかる。また、ろう材6の使用量が比較例1と同等である場合(◆)については、H/M≦1.0であれば、充分に熱歪を4.32×10−3%(直線J)以下とすることができている。
また、ろう材6の使用量を少なくすると、熱歪が大きくなる傾向にあるが、ろう材6の使用量が比較例1の70%である場合(●)、ろう材6の使用量が比較例1の50%である場合(○)についても、H/M≦1.0とすれば、少なくとも、比較例1の5.66×10−3%(直線N)よりも熱歪を小さくできることがわかる。
なお、ろう材6の使用量(mg)については、ろう材6の片側使用量、すなわち、一対のリード部5(端子部4)のうちの一方のリード部5の接合部分におけるろう材6の使用量である。
【0051】
(実施例2)
本例は、図9に示すごとく、ろう材6の表面にろう材6を保護するための保護メッキ層8を形成した例である。
保護メッキ層8は、Niを主成分とするNi層81を備えていると共に、Crを主成分とするCr層82を備えている。また、具体的には、図9に示すごとく、保護メッキ層8は、下層となるNi層81と上層となるCr層82との二層構造を有する。なお、図9に示すごとく、保護メッキ層8は、ろう材6の表面を含んだ状態で、端子部4とリード部5の接合端50との接合部分を覆うように形成されている。すなわち、リード部5の表面にも保護メッキ層8が形成されている。
【0052】
本例においては、ろう材6の表面において、下層にNi層81を形成することにより、ろう材6の耐熱性を向上させることができる。また、上層にCr層82を形成することにより、ろう材6の表面における耐硝酸性を向上させることができる。
その他は、実施例1と同様であり、本例の場合にも、実施例1と同様の作用効果を有する。
【0053】
(実施例3)
本例は、図10〜図12に示すごとく、基材3を、軸方向に直交する断面が長方形をなす四角柱形状に構成したセラミックヒータ1の例である。
基材3は、基端部における互いに反対側の平坦な両主面にそれぞれ端子部4を設けてなる。そして、各端子部4に対して、それぞれリード部5がろう材6によって接合されている。
その他は、実施例1と同様であり、本例の場合にも、実施例1と同様の作用効果を有する。
【0054】
また、上記実施例1及び実施例3においては、軸方向に直交する断面が略円形をなす丸棒状或いは軸方向に直交する断面が長方形をなす四角柱状に形成された基材3を示したが、これらに限定するものではない。すなわち、例えば、基材3を、上記の形状以外にも、軸方向に直交する断面が六角形や八角形をなす多角柱状とするなど、種々の形状とすることができる。
【符号の説明】
【0055】
1 セラミックヒータ
2 ガスセンサ素子
3 基材
4 端子部
5 リード部
50 接合端
6 ろう材
60 外周端
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被測定ガス中の特定ガスの濃度を測定するためのガスセンサ素子を加熱するためのガスセンサ用のセラミックヒータであって、
Al2O3を主成分とする基材と、
該基材の表面に設けられた端子部と、
該端子部に対して、その接合端が立設した状態で接合されたNiを主成分とするリード部と、
該リード部を上記端子部に接合するCuを主成分とするAu−Cu合金からなるろう材とを備え、
該ろう材のなすフィレット形状は、上記端子部からの高さHと、上記リード部の上記接合端の外周から上記ろう材の外周端までの径方向距離Mとが、H/M≦1.0且つ、H≧0.4mmを満たしていることを特徴とするガスセンサ用のセラミックヒータ。
【請求項2】
請求項1に記載のガスセンサ用のセラミックヒータにおいて、上記端子部は、少なくともその表面にNiを主成分とするNi層を備えていることを特徴とするガスセンサ用のセラミックヒータ。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載のガスセンサ用のセラミックヒータにおいて、上記ろう材の表面には、ろう材を保護するための保護メッキ層が形成されており、該保護メッキ層は、少なくともNiを主成分とするNi層を備えていることを特徴とするガスセンサ用のセラミックヒータ。
【請求項4】
請求項3に記載のガスセンサ用のセラミックヒータにおいて、上記保護メッキ層は、Crを主成分とするCr層を備えていることを特徴とするガスセンサ用のセラミックヒータ。
【請求項1】
被測定ガス中の特定ガスの濃度を測定するためのガスセンサ素子を加熱するためのガスセンサ用のセラミックヒータであって、
Al2O3を主成分とする基材と、
該基材の表面に設けられた端子部と、
該端子部に対して、その接合端が立設した状態で接合されたNiを主成分とするリード部と、
該リード部を上記端子部に接合するCuを主成分とするAu−Cu合金からなるろう材とを備え、
該ろう材のなすフィレット形状は、上記端子部からの高さHと、上記リード部の上記接合端の外周から上記ろう材の外周端までの径方向距離Mとが、H/M≦1.0且つ、H≧0.4mmを満たしていることを特徴とするガスセンサ用のセラミックヒータ。
【請求項2】
請求項1に記載のガスセンサ用のセラミックヒータにおいて、上記端子部は、少なくともその表面にNiを主成分とするNi層を備えていることを特徴とするガスセンサ用のセラミックヒータ。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載のガスセンサ用のセラミックヒータにおいて、上記ろう材の表面には、ろう材を保護するための保護メッキ層が形成されており、該保護メッキ層は、少なくともNiを主成分とするNi層を備えていることを特徴とするガスセンサ用のセラミックヒータ。
【請求項4】
請求項3に記載のガスセンサ用のセラミックヒータにおいて、上記保護メッキ層は、Crを主成分とするCr層を備えていることを特徴とするガスセンサ用のセラミックヒータ。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【公開番号】特開2012−141279(P2012−141279A)
【公開日】平成24年7月26日(2012.7.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−180081(P2011−180081)
【出願日】平成23年8月22日(2011.8.22)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年7月26日(2012.7.26)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年8月22日(2011.8.22)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】
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