説明

ガスセンサ素子の製造方法

【課題】製造工程の熱処理における個体差を抑え、最適化された温度条件を利用することにより、経時特性および耐衝撃性能に優れた接触燃焼式ガスセンサを得ること。
【解決手段】ガスセンサ素子の焼結工程において内蔵するヒーターコイルへの通電加熱と外部熱源による加熱を併用した製造工程を実施し、ガスセンサ素子に個体差の少ない焼結状態を得、熱的劣化の少ないヒーターコイルを得ることから経時特性の個体差を抑え、従来のヒーターコイル加熱方法のみで実施された製造工程品に比べ、高い耐衝撃性能を有する接触燃焼式ガスセンサが得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、ガスセンサ素子の製造方法に関し、特にガスセンサの検知素子および補償素子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、水素ガスやメタンガス等を検知対象とする可燃性ガスセンサには接触燃焼式ガスセンサ、固体電解質型ガスセンサ等が有り、いずれも可燃性ガスの検知に利用する熱源を内蔵している。
例えば、接触燃焼式ガスセンサは熱源としてヒーターコイルを有しそれに装備された燃焼触媒上で生成した可燃性ガスの接触燃焼熱によるヒーターコイルの抵抗値変化を電圧変化として出力することにより可燃性ガスの存在を検知するものである。
また例えば固体電解質型ガスセンサは熱源としてヒーターコイルを有しそれに装備された固体電解質層における可燃性ガスと酸素との濃淡電池状態を起電力として出力することにより可燃性ガスの存在を検知するものである。
【0003】
これらの既存ガスセンサの製造工程においては、電極ピン等の充電部に予め結合されたヒーターコイルに燃焼触媒等の粉末材料が塗布(以下、塗布工程)され、一般的にはヒーターコイルの通電発熱によりガスセンサ素子の焼結工程が行われてきた(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
通電加熱(内部加熱法)における焼結体の温度分布は、最外殻部方向に対して雰囲気への放熱のために急峻なマイナスの勾配を示し、他方、内部方向には比較的高温な分布を示している。
【0005】
【特許文献1】特開2003−107038号公報(図1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
燃焼触媒等の塗布量のバラツキは工程上避けられないものであるが、得られた塗布厚の大小は、従来の内部加熱法による焼結工程において焼結体外側方向への温度分布に個体差を生じ、焼結度にバラツキを発生させる場合があり、これがガスセンサの長期特性にバラツキを生じる原因になっている。
【0007】
また従来の内部加熱法による焼結工程において、雰囲気への放熱により失われる供給熱(焼結必要温度)を補うために供給熱を余分に生成させる必要があり、その副作用としてヒーターコイルの強度が低下し、製品としての物理的強度を低いものとする原因になっている。
【0008】
本発明では、上述した従来技術の問題点を解決して、センサ出力特性の製造バラツキの改善、白金ヒーターコイルの強度低下の防止を図ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決し、目的を達成するため、本発明のガスセンサ素子の製造方法は、焼結工程において内蔵するヒーターコイルの通電加熱による内部加熱法と電気炉等の熱源による外部加熱法を併用することを特徴とする。
【0010】
また、外部加熱の熱源が電気炉、レーザー光加熱器または熱風発生器であることが好ま
しい。
また、ヒーターコイルによる内部加熱を、室温から焼結完了温度まで、複数の各昇温速度で多段階で行うことが好ましい。
【0011】
なお、通電による内部加熱のために、白金あるいは白金-ロジウム合金等からなるヒーターコイルは、塗布工程の前にガスセンサの電極ピンに結合されていることが望ましい。
【0012】
また、通電中の外部加熱に対応するため、電極ピンを含む充電部構成体はその絶縁部が耐熱プラスチックスやセラミックス等の高温耐久性材料であることが好ましい。
【0013】
(作用)
内蔵するヒーターコイルの通電加熱による内部熱源に加え、図1のように焼結体の外部にも熱源を設けることにより、内部加熱のみによる雰囲気への放熱に対応する余剰加熱を抑えて工程を実施できれば、適切な状態での焼結の完結に至り、かつ貴金属製ヒーターコイルの軟化が抑制される。
【発明の効果】
【0014】
以上のような、雰囲気接触部の焼結状態の改善および雰囲気への放熱を抑えるために焼結体の外部からも加熱を行い、焼結体の雰囲気接触部においてもヒーターコイル近傍に近い温度分布を与えることで、適切な状態で焼結を完結させ、かつヒーターコイルの軟化を抑えることができ、長期特性および物理的強度の優れたガスセンサが得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下に添付図面を参照して、この発明にかかるガスセンサ素子の製造方法の好適な実施の形態を詳細に説明する。
【0016】
ヒーターコイルに塗布されるガスセンサ素子材料には、アルミナ、チタニア、低融点ガラス、燃焼触媒材料としての各種金属酸化物および白金やパラジウム等の貴金属化合物等が適切な配合比で混合された粉末が用いられ、エチレングリコールおよびコロイダ
ルアルミナを主成分としたバインダー液と共にスラリー状に調製される。
【0017】
図3は本発明の実施の形態にかかるガスセンサ素子の製造工程の流れ図である。まず、ヒーターコイル1は電極ピン2に取り付けられ、ガスセンサ素子材料3がバインダー液4と混合された後にヒーターコイル1に塗布され、塗布体5が形成される。なお、電極ピン2を支持しかつ電極ピン相互を電気的に絶縁するマウントベースは電気炉を用いる外部加熱工程における高温環境に耐える超耐熱プラスチックスやセラミックス材料で構成されていることが好ましい。
【0018】
上記のスラリー状のガスセンサ素子材料は適当な手段を用いてヒーターコイルに塗布され、ビード形状に形成された塗布体にバインダー液の加熱乾燥および加熱焼結が施される。
【0019】
室温から150℃までの間に行われる加熱乾燥においては、バインダーの液体成分の揮発を主な目的とし、その際、液体成分の沸騰に伴う塗布体の部分的な欠落を防止する必要がある。
【0020】
したがって、塗布体5の乾燥工程は、ヒーターコイル1に通電加熱が行われ、バインダーの液体成分の沸騰を促進しない、例えば5℃/毎分の昇温速度で150℃まで加熱されることが好ましい。なおこの際、塗布体5の内部に位置するバインダー液4の液体成分の揮発を優先させるために、乾燥工程では外部熱源を用いずに内部熱源としてのヒーターコイ
ルのみを熱源とすることがより好ましい。
【0021】
次に150℃以上の加熱を10℃/毎分の昇温速度で実施し、内部加熱のみの場合では、ヒーターコイルが約600℃に到達した時点で焼結工程が完結する。
【0022】
図6は、本発明のガスセンサ素子の通電加熱時の温度分布を示すビード部の概念図である。内部加熱のみにより焼結部に与えられる温度は、図6に示すとおり焼結部のヒーターコイルに接触する部位が最も高く、雰囲気方向に向かってマイナスの勾配を持つ分布を示す。焼結に関わる低融点ガラスの結着効果は本来約500℃程度で認められるが、このような温度勾配の影響を考慮して焼結温度をヒーターコイル近辺で600℃に設定される。
【0023】
ところで、上記の塗布体は、適切な条件設定の基にヒーターコイル上に形成されるが、量産規模においては材料粉末とバインダー液との混合比のバラツキ、塗布環境の温度および湿度のバラツキ等、種々の条件の組合せの結果として塗布体の寸法(体積)に個体差が含まれている。したがって、上記のような内部加熱のみの場合の雰囲気接触部の焼結状態にはその寸法に依存した、すなわちその到達温度の差異によりバラツキを含むものであり、その影響はガスセンサの製品性能としての長期特性バラツキとして発現する。
【0024】
また、接触燃焼式ガスセンサ用ヒーターコイルには貴金属線が利用されるが、高抵抗値を得るために細線化して用いられ、その弊害としてガスセンサとしての機械的強度に難点を有している。さらに、上記のような内部加熱時の高温生成に伴う貴金属線の軟化が図2に示すとおり発生し、ガスセンサへの物理的衝撃時にヒーターコイルの変形や断線が発生することも機械的強度を劣化させる原因の一つである。
したがって、上記の焼結工程における加熱温度を低く設定することがヒーターコイルの軟化を防止することに貢献する。
【0025】
そこで本発明では、焼結工程は内部加熱と外部加熱とが同時に実施される。この外部熱源には電気炉あるいはレーザー光加熱装置あるいは熱風発生機等の利用が可能であり、いずれの場合も塗布体5の表面から内部方向に加熱することが目的である。
【0026】
内部加熱と外部加熱とを併用する焼結工程は、いずれの熱源制御にも例えば10℃/毎分の昇温速度で温度管理され、到達温度が520℃程度になる。
【0027】
外部熱源として、レーザー光加熱器あるいは熱風発生器はいずれも生成熱の放射に指向性を有するので、塗布体に局所的な加熱を実施することにより、電極ピン2を支持するマウントベース6に比較的安価なナイロン樹脂等を用いることも可能である。
【0028】
本発明の実施例としてヒーターコイルへの通電による内部加熱と電気炉を外部熱源に利用した場合、比較例としてヒーターコイルへの通電による内部加熱のみで焼結工程を完結させた場合について特性の比較を行った。実施例における外部加熱に対応するために、いずれのサンプルにおいても電極ピン2にニッケル合金を利用し、マウントベース6にはアルミナ系セラミックス材を用いている。以下に記載する比較評価はいずれも上記の条件で作製したサンプルによるものである。
【0029】
図4は清浄大気中での出力電圧値(ゼロ点値)の経時特性を実施例(内部-外部加熱併用)と比較例(内部加熱のみ)について示したものである。
ここで、比較例においては焼結温度が約600℃に到達しており、また本発明の実施例でのそれは約520℃であった。いずれの場合もゼロ点値の経時的変動に個体差(バラツキ)が認められるが、実施例においてのそれはには変動の少ない傾向が認められる。これは本発明の実施例において焼結工程の完結状態が比較例の方法に比べ最適化されたことが理由に
あげられる。
【0030】
一方比較例においては塗布体5が相対的に大きな寸法に仕上がったものにおいて経時的なゼロ点変動が大きく現れる傾向が強く、塗布体5の焼結現象がガスセンサとしての完成後にも多少ではあるが発現することを示唆している。
【0031】
表1は実施例および比較例に基づく工程により製作した試験用ガスセンサの耐衝撃特性を比較したものである。本特性は30cmの高さから試験用ガスセンサを厚さ30mmの杉板上に自由落下させた場合のゼロ点値の変動量を評価したものである。なお、ヒーターコイルが断線した場合についてはゼロ点値ではなく断線と記載している。
明らかに、比較例においてゼロ点変動あるいはヒーターコイルの断線傾向が強く現れているのに対し、本発明の実施例においては同条件での耐衝撃試験結果に良好な耐久性能が認められる。
【0032】
また、比較例におけるゼロ点変動の大きなサンプルにビード部近傍のリード部に大きな変形が認められるのに対し実施例での同部の変形は比較的小さいことも確認された。
【0033】
【表1】

【0034】
上記の比較例に見られた断線傾向には、焼結体外側のヒーターコイルのリード部にも断線が認められたのに対し、本発明の実施例にはそれが認められなかった。これは、従来の内部加熱法のみで焼結工程を完了した場合、図5のようにリード部に達する内部生成熱の伝導が発生しており、軟化がリード部にも及んでいることがその原因である。
【0035】
一方、本発明の実施例では焼結工程中での到達温度が上記の比較例に比して低く、リード部の軟化が抑えられていることを示している。
【産業上の利用可能性】
【0036】
以上のように本発明にかかるガスセンサ素子の製造方法は、それを利用することでガスセンサの長期特性を向上させかつ機械的強度を向上させることに寄与し、本発明の製造方法を利用したガスセンサは家庭用または産業用のガス漏れ検知装置あるいはガス濃度監視装置に有用であり、特に燃料電池システムにおける燃料ガス検知に適している。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明のガスセンサ素子の加熱焼結工程の概念図である。
【図2】本発明のガスセンサ素子のヒーターコイル強度の温度依存特性の測定例を示す図である。
【図3】本発明のガスセンサ素子の製造工程を示す図である。
【図4】本発明のガスセンサ素子の経時特性を示す図である。
【図5】本発明のガスセンサ素子の通電加熱時の温度分布を示す図である。
【図6】本発明のガスセンサ素子の通電加熱時の温度分布を示すビード部の概念図である。
【符号の説明】
【0038】
1 ヒーターコイル
2 電極ピン
3 ガスセンサ素子材料
4 バインダー液
5 塗布体
6 マウントベース
7 最外殻部
8 外部熱源

【特許請求の範囲】
【請求項1】
接触燃焼式のガスセンサに使用されるガスセンサ素子の製造方法であって、前記ガスセンサの検知素子または補償素子のヒーターコイルによる内部加熱と同時に外部の熱源からの外部加熱を行う焼結工程を有するガスセンサ素子の製造方法。
【請求項2】
前記外部加熱の熱源が電気炉、レーザー光加熱器または熱風発生器であることを特徴とする請求項1に記載のガスセンサ素子の製造方法。
【請求項3】
前記ヒーターコイルによる内部加熱を、室温から焼結完了温度まで、複数の各昇温速度で多段階で行うことを特徴とする請求項1または請求項2に記載のガスセンサ素子の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−85976(P2007−85976A)
【公開日】平成19年4月5日(2007.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−277357(P2005−277357)
【出願日】平成17年9月26日(2005.9.26)
【出願人】(000001960)シチズン時計株式会社 (1,939)
【Fターム(参考)】