説明

ガスセンサ素子及びガスセンサ

【課題】2層の多孔質保護層でガスセンサ素子を被覆することでガスセンサ素子の被水によるクラックを抑制すると共に、気孔率の高い内側多孔質層のクラック発生を抑制し、層強度を向上させたガスセンサ素子及びガスセンサを提供する。
【解決手段】固体電解質体105と該固体電解質体に配置された一対の電極104、106とを有する検知部150と、検知部を被覆してなる多孔質保護層20と、を備えるガスセンサ素子100において、多孔質保護層は内側多孔質層21と外側多孔質層23と、を備え、内側多孔質層の気孔率は外側多孔質層の気孔率より高く、内側多孔質層は、セラミック粒子21aと、セラミックを主成分とする平均繊維長さ70〜200μmのセラミック繊維21bと、を主成分とし、かつセラミック繊維の含有量が、セラミック粒子及びセラミック繊維の含有量を100wt%としたときに、25〜75wt%である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば燃焼器や内燃機関等の燃焼ガスや排気ガス中に含まれる特定ガスのガス濃度を検出するのに好適に用いられるガスセンサ素子及びガスセンサに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、内燃機関の排気ガス中の特定成分(酸素等)の濃度を検出するためのガスセンサが用いられている。このガスセンサは自身の内部にガスセンサ素子を有し、ガスセンサ素子は、自身の先端側に固体電解質体と該固体電解質体に配置された一対の電極とを備えた検出素子部を有している。ここで、ガスセンサ素子は排気ガス中に含まれるシリコンやリンなどの被毒物質に晒されたり、排気ガス中の水滴が付着することがあるため、ガスセンサ素子の外表面には、被毒物質を捕捉したり、水滴がガスセンサ素子に直接接触しないよう多孔質保護層が被覆されている。つまり、測定対象ガス(排気ガス)に晒される検出素子部の全周を、多孔質保護層にて被覆している。
又、この多孔質保護層を2層とし、下層の気孔率を上層の気孔率よりも大きくすることで、気孔によって粗面化された下層上にアンカー効果で上層を密着させる技術が開発されている(特許文献1、2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003−322632号公報(請求項15)
【特許文献2】特開2007−206082号公報(請求項15)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このように、多孔質保護層を2層とし、下層の気孔率を上層の気孔率よりも大きくすると、下層に含まれる空隙(空間)の合計体積が大きくなって断熱性が付与されるため、上層側が被水して冷却されても内側のガスセンサ素子が急冷され難くなり、ヒータ部によって検出素子部を加熱した状態でもガスセンサ素子が被水によって損傷するのを効果的に抑制できるという効果がある。
しかしながら、多孔質層の気孔率を高くすると、多孔質層を構成する粒子間の結合部位が少なくなって層強度が低下するという問題がある。一方、多孔質層の高い気孔率を維持しつつ、層強度についても向上させる方法として、より微粒の粒子(以下、微粒子という)を用いて多孔質層を形成する方法がある。しかしながら、多孔質層を微粒子のスラリーを用いて形成すると、粒子間の結合部位が多くなるので層強度は向上するものの、スラリー乾燥時に溶媒が減少し、表面張力によって微粒子が引っ張られて層中にクラックが発生し易い。
そこで、本発明は、2層の多孔質保護層でガスセンサ素子を被覆することでガスセンサ素子の被水によるクラックを抑制すると共に、気孔率の高い内側多孔質層のクラック発生を抑制し、層強度を向上させたガスセンサ素子及びガスセンサの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するため、本発明のガスセンサ素子は、固体電解質体と該固体電解質体に配置された一対の電極とを有する検知部と、前記検知部を被覆してなる多孔質保護層と、を備えるガスセンサ素子において、前記多孔質保護層は、前記検知部側に設けられる内側多孔質層と、前記内側多孔質層よりも外側に形成される外側多孔質層と、を備え、前記内側多孔質層の気孔率は前記外側多孔質層の気孔率より高く、前記内側多孔質層は、セラミック粒子と、セラミックを主成分とする平均繊維長さ70〜200μmのセラミック繊維と、を主成分とし、かつ前記セラミック繊維の含有量が、セラミック粒子及びセラミック繊維の含有量を100wt%としたときに、25〜75wt%である。
このように、外側多孔質層の気孔率を内側多孔質層の気孔率に対して小さくすることで、被毒物質や水滴は気孔率を小さくした外側多孔質層で効果的に捕捉されるので、検知部まで到達し難い。その上、内側多孔質層の気孔率を外側多孔質層の気孔率よりも大きくすることで、内側多孔質層に含まれる空隙(空間)の合計体積が大きくなって断熱性が付与されるため、外側多孔質層側が被水して冷却されても内側の検知部が急冷され難くなり、ヒータ部によって検知部を加熱した状態でもガスセンサ素子が被水によって損傷するのを効果的に抑制できるという効果がある。
又、気孔率の高い内側多孔質層を、セラミック粒子とセラミックを主成分とするセラミック繊維とを主成分とすることで、内側多孔質層が強靭化し、層強度を向上させることができる。その上、微粒子を用いて内側多孔質層を形成する場合のような、表面張力によって微粒子が引っ張られて層中にクラックが発生することを抑制できる。
なお、「セラミック粒子と、セラミックを主成分とするセラミック繊維と、を主成分とする」とは、内側多孔質層を構成する材質の50%以上がセラミック粒子及びセラミック繊維で構成されていることを指す。なお、セラミックとは、アルミナ、シリカ、スピネル、ジルコニア、ムライト、ジルコン及びコージェライト、炭化珪素、窒化珪素、チタニア等を指す。また、内側多孔質層には、セラミック粒子及びセラミック繊維のほか、ガラス成分等が含まれていても良い。
【0006】
さらに、セラミック繊維は、平均繊維長さ70〜200μmであり、且つ、セラミック粒子及びセラミック繊維の含有量を100wt%としたときに、セラミック繊維の含有量を25〜75wt%としている。これにより、内側多孔質層のクラック発生を抑制しつつ、層強度を向上させることができる。なお、セラミック繊維の平均繊維長さが70μm未満であると、層中のクラック抑制効果が十分でなく、200μmを超えると、セラミック繊維が長くなり過ぎて、内側多孔質層中のセラミック粒子の焼結(粒子間の結合)が阻害されるため、内側多孔質層の層強度が低下することがある。また、セラミック繊維の含有量が25wt%未満であると、層中のクラック抑制効果が十分でなく、75wt%を超えると、セラミック繊維の含有量が多くなり過ぎて、内側多孔質層中のセラミック粒子の焼結(粒子間の結合)が阻害されるため、内側多孔質層の層強度が低下することがある。
【0007】
本発明のガスセンサは、被測定ガス中の特定ガス成分の濃度を検出するセンサ素子と、該センサ素子を保持するハウジングとを備えるガスセンサにおいて、前記センサ素子は、前記ガスセンサ素子を用いることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
この発明によれば、2層の多孔質保護層でガスセンサ素子を被覆することでガスセンサ素子の被水によるクラックを抑制すると共に、気孔率の高い内側多孔質層のクラック発生を抑制し、層強度を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の第1の実施形態に係るガスセンサ(酸素センサ)の長手方向に沿う断面図である。
【図2】検出素子部及びヒータ部の模式分解斜視図である。
【図3】図1の検出素子部の先端側(検知部)の部分拡大断面図である。
【図4】ガスセンサ素子の軸線方向に直交する模式断面図である。
【図5】内側多孔質層の断面構造の一例を示す模式図である。
【図6】第1の実施形態におけるガスセンサ素子の変形例を示し、長手方向に沿う断面図である。
【図7】本発明の第2の実施形態に係るガスセンサ(NOxセンサ)におけるガスセンサ素子の長手方向に沿う断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態について説明する。
図1は本発明の第1の実施形態に係るガスセンサ(酸素センサ)1の長手方向(軸線L方向)に沿う断面図、図2は検出素子部300及びヒータ部200の模式分解斜視図、図3は検出素子部300の軸線L方向に直交する断面図である。
【0011】
図1に示すように、ガスセンサ1は、検出素子部300及び検出素子部300に積層されるヒータ部200から構成されるガスセンサ素子100、ガスセンサ素子100等を内部に保持する主体金具(特許請求の範囲の「ハウジング」に相当)30、主体金具30の先端部に装着されるプロテクタ24等を有している。ガスセンサ素子100は軸線L方向に延びるように配置されている。
【0012】
ヒータ部200は、図2に示すように、アルミナを主体とする第1基体101及び第2基体103と、第1基体101と第2基体103とに挟まれ、白金を主体とする発熱体102を有している。発熱体102は、先端側に位置する発熱部102aと、発熱部102aから第1基体101の長手方向に沿って延びる一対のヒータリード部102bとを有している。そして、ヒータリード部102bの端末は、第1基体101に設けられるヒータ側スルーホール101aに形成された導体を介してヒータ側パッド120と電気的に接続している。
【0013】
検出素子部300は、酸素濃度検出セル130と酸素ポンプセル140とを備える。酸素濃度検出セル130は、第1固体電解質体105と、その第1固体電解質105の両面に形成された第1電極104及び第2電極106とから形成されている。第1電極104は、第1電極部104aと、第1電極部104aから第1固体電解質体105の長手方向に沿って延びる第1リード部104bとから形成されている。第2電極106は、第2電極部106aと、第2電極部106aから第1固体電解質体105の長手方向に沿って延びる第2リード部106bとから形成されている。
第1電極104と第2電極106とが特許請求の範囲の「一対の電極」に相当する。
【0014】
そして、第1リード部104bの端末は、第1固体電解質体105に設けられる第1スルーホール105a、後述する絶縁層107に設けられる第2スルーホール107a、第2固体電解質体109に設けられる第4スルーホール109a及び保護層111に設けられる第6スルーホール111aのそれぞれに形成される導体を介して検出素子側パッド121と電気的に接続する。一方、第2リード部106bの端末は、後述する絶縁層107に設けられる第3スルーホール107b、第2固体電解質体109に設けられる第5スルーホール109b及び保護層111に設けられる第7スルーホール111bのそれぞれに形成される導体を介して検出素子側パッド121と電気的に接続する。
【0015】
一方、酸素ポンプセル140は、第2固体電解質体109と、その第2固体電解質体109の両面に形成された第3電極108、第4電極110とから形成されている。第3電極108は、第3電極部108aと、この第3電極部108aから第2固体電解質体109の長手方向に沿って延びる第3リード部108bとから形成されている。第4電極110は、第4電極部110aと、この第4電極部110aから第2固体電解質体109の長手方向に沿って延びる第4リード部110bとから形成されている。
第3電極108と第4電極110とが特許請求の範囲の「一対の電極」に相当する。
【0016】
そして、第3リード部108bの端末は、第2固体電解質体109に設けられる第5スルーホール109b及び保護層111に設けられる第7スルーホール111bのそれぞれに形成される導体を介して検出素子側パッド121と電気的に接続する。一方、第4リード部110bの端末は、後述する保護層111に設けられる第8スルーホール111cに形成される導体を介して検出素子側パッド121と電気的に接続する。なお、第2リード部106bと第3リード部108bは同電位となっている。
【0017】
これら第1固体電解質体105、第2固体電解質体109は、ジルコニア(ZrO)に安定化剤としてイットリア(Y)又はカルシア(CaO)を添加してなる部分安定化ジルコニア焼結体から構成されている。
【0018】
発熱体102、第1電極104、第2電極106、第3電極108、第4電極110、ヒータ側パッド120及び検出素子側パッド121は、白金族元素で形成することができる。これらを形成する好適な白金族元素としては、Pt、Rh、Pd等を挙げることができ、これらはその一種を単独で使用することもできるし、又二種以上を併用することもできる。
【0019】
もっとも、発熱体102、第1電極104、第2電極106、第3電極108、第4電極110、ヒータ側パッド120及び検出素子側パッド121は、耐熱性及び耐酸化性を考慮するとPtを主体にして形成することがより一層好ましい。さらに、発熱体102、第1電極104、第2電極106、第3電極108、第4電極110、ヒータ側パッド120及び検出素子側パッド121は、主体となる白金族元素の他にセラミック成分を含有することが好ましい。このセラミック成分は、固着という観点から、積層される側の主体となる材料(例えば、第1固体電解質体105、第2固体電解質体109の主体となる成分)と同様の成分であることが好ましい。
【0020】
そして、上記酸素ポンプセル140と酸素濃度検出セル130との間に、絶縁層107が形成されている。絶縁層107は、絶縁部114と拡散抵抗部115とからなる。この絶縁層107の絶縁部114には、第2電極部106a及び第3電極部108aに対応する位置に中空の測定室107cが形成されている。この測定室107cは、絶縁層107の幅方向で外部と連通しており、該連通部分には、外部と測定室107cとの間のガス拡散を所定の律速条件下で実現する拡散抵抗部115が配置されている。
【0021】
絶縁部114は、絶縁性を有するセラミック焼結体であれば特に限定されなく、例えば、アルミナやムライト等の酸化物系セラミックを挙げることができる。
【0022】
拡散抵抗部115は、アルミナからなる多孔質体である。この拡散抵抗部115によって検出ガスが測定室107cへ流入する際の律速が行われる。
【0023】
また、第2固体電解質体109の表面には、第4電極110を挟み込むようにして、保護層111が形成されている。この保護層111は、第4電極部110aを挟み込むようにして、第4電極部110aを被毒から防御するための多孔質の電極保護部113aと、第4リード部110bを挟み込むようにして、第2固体電解質体109を保護するための補強部112とからなる。なお、本実施の形態のガスセンサ素子100は、酸素濃度検出セル130の電極間に生じる電圧(起電力)が所定の値(例えば、450mV)となるように、酸素ポンプセル140の電極間に流れる電流の方向及び大きさが調整され、酸素ポンプセル140に流れる電流に応じた被測定ガス中の酸素濃度をリニアに検出する酸素センサ素子に相当する。
【0024】
図1に戻り、主体金具30は、SUS430製のものであり、ガスセンサを排気管に取り付けるための雄ねじ部31と、取り付け時に取り付け工具をあてがう六角部32とを有している。また、主体金具30には、径方向内側に向かって突出する金具側段部33が設けられており、この金具側段部33はガスセンサ素子100を保持するための金属ホルダ34を支持している。そしてこの金属ホルダ34の内側にはセラミックホルダ35、滑石36が先端側から順に配置されている。この滑石36は金属ホルダ34内に配置される第1滑石37と金属ホルダ34の後端に渡って配置される第2滑石38とからなる。金属ホルダ34内で第1滑石37が圧縮充填されることによって、ガスセンサ素子100は金属ホルダ34に対して固定される。また、主体金具30内で第2滑石38が圧縮充填されることによって、ガスセンサ素子100の外面と主体金具30の内面との間のシール性が確保される。そして第2滑石38の後端側には、アルミナ製のスリーブ39が配置されている。このスリーブ39は多段の円筒状に形成されており、軸線に沿うように軸孔39aが設けられ、内部にガスセンサ素子100を挿通している。そして、主体金具30の後端側の加締め部30aが内側に折り曲げられており、ステンレス製のリング部材40を介してスリーブ39が主体金具30の先端側に押圧されている。
【0025】
また、主体金具30の先端側外周には、主体金具30の先端から突出するガスセンサ素子100の先端部を覆うと共に、複数のガス取り入れ孔24aを有する金属製のプロテクタ24が溶接によって取り付けられている。このプロテクタ24は、二重構造をなしており、外側には一様な外径を有する有底円筒状の外側プロテクタ41、内側には後端部42aの外径が先端部42bの外径よりも大きく形成された有底円筒状の内側プロテクタ42が配置されている。
【0026】
一方、主体金具30の後端側には、SUS430製の外筒25の先端側が挿入されている。この外筒25は先端側の拡径した先端部25aを主体金具30にレーザ溶接等により固定している。外筒25の後端側内部には、セパレータ50が配置され、セパレータ50と外筒25の隙間に保持部材51が介在している。この保持部材51は、後述するセパレータ50の突出部50aに係合し、外筒25を加締めることにより外筒25とセパレータ50とにより固定されている。
【0027】
また、セパレータ50には、検出素子部300やヒータ部200用のリード線11〜15を挿入するための通孔50bが先端側から後端側にかけて貫設されている(なお、リード線14、15については図示せず)。通孔50b内には、リード線11〜15と、検出素子部300の検出素子側パッド121及びヒータ部200のヒータ側パッド120とを接続する接続端子16が収容されている。各リード線11〜15は、外部において、図示しないコネクタに接続されるようになっている。このコネクタを介してECU等の外部機器と各リード線11〜15とは電気信号の入出力が行われることになる。また、各リード線11〜15は詳細に図示しないが、導線を樹脂からなる絶縁皮膜にて披覆した構造を有している。
【0028】
さらに、セパレータ50の後端側には、外筒25の後端側の開口部25bを閉塞するための略円柱状のゴムキャップ52が配置されている。このゴムキャップ52は、外筒25の後端内に装着された状態で、外筒25の外周を径方向内側に向かって加締めることにより、外筒25に固着されている。ゴムキャップ52にも、リード線11〜15をそれぞれ挿入するための通孔52aが先端側から後端側にかけて貫設されている。
【0029】
次に、本発明の特徴部分である多孔質保護層20(内側多孔質層21及び外側多孔質層23)について説明する。
図3は、図1のガスセンサ素子100の先端側の部分拡大断面図であり、検出素子部300とヒータ部200との積層体の表面直上に内側多孔質層21が設けられ、内側多孔質層21の外表面を覆って外側多孔質層23が形成されている。すなわち、多孔質保護層20は、ガスセンサ素子100の先端側部位に設けられた検知部150の全周を覆って設けられている。
なお、検知部150とは、検出素子部300が有する電極部(図2においては、第1電極部104a、第2電極部106a、第3電極部108a、及び第4電極部110aであり、後述する図7においては、第1電極104C、第2電極106C、第3電極108C、第4電極110C、第5電極152、及び第6電極153である)及び電極部に挟まれた固体電解質体(図2においては、第1固体電解質体105、及び第2固体電解質体109であり、後述する図7においては、第1固体電解質体105C、第2固体電解質体109C、及び第3固体電解質体151である)、更には測定室(図2の測定室107cであり、後述する図7においては、第1測定室107c2及び第2測定室160である。)を指す。よって、検知部150の軸線L方向の最後端を越えて後端側まで多孔質保護層20が覆われていれば良い。
また、多孔質保護層20は検知部150の全周を覆っていればよく、検知部150が設けられる検出素子部300を被覆すればよいが、上記第1の実施形態のように検出素子部300がヒータ部200と積層体を形成している場合、多孔質保護層20は検出素子部300を含む積層体(ガスセンサ素子100の先端側部位)を被覆することになる。
一方、ガスセンサ素子100がヒータ部200を備えていない場合、多孔質保護層20は検出素子部300(検知部150)の全周を被覆すればよい。
【0030】
又、多孔質保護層20は、ガスセンサ素子100の先端面を含み、軸線L方向に沿って後端側に延びるように形成され、かつガスセンサ素子100(積層体)の表裏面及び両側面の4面を完全に囲んで形成されている(図4参照)。
【0031】
図4は、内側多孔質層21及び外側多孔質層23を含むガスセンサ素子100の軸線L方向に直交する模式断面図である。
内側多孔質層21の気孔率は外側多孔質層23の気孔率より高くなっている。なお、内側多孔質層21及び外側多孔質層23に形成される気孔は、ガス透過が可能なように三次元網目構造をなしている。
このように、外側多孔質層23の気孔率を内側多孔質層21の気孔率に対して小さくすることで、被毒物質や水滴は気孔率を小さくした外側多孔質層23で効果的に捕捉されるので、検出素子部300(検知部150)まで到達し難い。その上、内側多孔質層21の気孔率を外側多孔質層23の気孔率よりも大きくすることで、内側多孔質層21に含まれる空隙(空間)の合計体積が大きくなって断熱性が付与されるため、外側多孔質層23側が被水して冷却されても内側の検知部150が急冷され難くなり、ヒータ部200によって検知部150を加熱した状態でもガスセンサ素子100が被水によって損傷するのを効果的に抑制できるという効果がある。
【0032】
但し、内側多孔質層21の気孔率を高くすると、上記したように層強度が低下し易く、層強度を向上するために微粒子を用いる際には、層の成膜時にクラックが発生し易い。
そこで、図5に示すように、内側多孔質層21を、セラミック粒子21aと、セラミックを主成分とする平均繊維長さ70〜200μmのセラミック繊維21bとを主成分とすることで、内側多孔質層21のクラック発生を抑制し、層強度を向上させることができる。これは、内側多孔質層21中に添加されたセラミック繊維21bが内側多孔質層21を強靭化させるため、層強度を高めるものと考えられる。その上、微粒子を用いて内側多孔質層21を形成する場合のような、表面張力によって微粒子が引っ張られて層中にクラックが発生することも抑制できる。又、繊維は粉末(粒子)と比較して熱伝導率が低いため、内側多孔質層21の断熱性がより向上する。これにより、多孔質保護層20の形成によって生じるガスセンサの活性時間の遅延を低減することができる。なお、セラミック繊維21bは、直径が3〜5μmの繊維状の粒子を指す。
【0033】
内側多孔質層21中のセラミック繊維21bの含有量を、セラミック粒子及びセラミック繊維の含有量を100wt%としたときに、25〜75wt%とする。内側多孔質層21中のセラミック繊維21bの含有量が25wt%未満であると、層中のクラック抑制効果が十分でなく、75wt%を超えると、セラミック繊維21bの含有量が多くなり過ぎて、内側多孔質層21中のセラミック粒子21aの焼結(粒子間の結合)が阻害されるため、内側多孔質層21の層強度が低下することがある。
なお、セラミック粒子21a及びセラミック繊維21bの含有量は、以下のように求める。まず、内側多孔質層21の断面の走査電子顕微鏡像における複数の領域を見て、この複数の領域に含まれるセラミック繊維21bのうち、最大繊維長さLMaxを持ったセラミック繊維21b1を抽出する。ここで、上記各領域に含まれる最大繊維長さLMaxを持ったセラミック繊維21bが、その領域からはみ出す場合は、セラミック繊維21bが領域からはみ出さなくなって該領域内に全部含まれるようになるまで、その領域を拡大する。そして、最大繊維長さLMaxを持ったセラミック繊維21b1が領域からはみ出さなくなったときの、その領域の縦横寸法を、他の領域を定めるときの縦横寸法としても採用し、この寸法でのそれぞれの領域に含まれるセラミック粒子21a及びセラミック繊維21bの含有量を求め、それぞれを複数の領域全体にて平均化して算出する。
又、セラミック繊維21bの平均繊維長さを70〜200μmとする。セラミック繊維21bの平均繊維長さが70μm未満であると、層中のクラック抑制効果が十分でなく、200μmを超えると、セラミック繊維21bが長くなり過ぎて、内側多孔質層21中のアルミナ粒子21aの焼結(粒子間の結合)が阻害されるため、内側多孔質層21の層強度が低下することがある。
なお、セラミック繊維21bの平均繊維長さは、以下のように求める。まず、内側多孔質層21の断面の走査電子顕微鏡像における複数の領域を見て、この複数の領域に含まれるセラミック繊維21bのうち、最大繊維長さLMaxを持ったセラミック繊維21b1を抽出する。ここで、上記各領域に含まれるセラミック繊維21bが、その領域からはみ出す場合は、セラミック繊維21bが領域からはみ出さなくなって該領域内に全部含まれるようになるまで、その領域を拡大し、そのときのLMaxを求める。そして、上記した複数の領域にそれぞれ含まれる複数のセラミック繊維21bのうち、LMax/2以上の繊維長さを有するセラミック繊維21bを抽出し、それら抽出したセラミック繊維21b(セラミック繊維21b1を含む)の平均繊維長さを得る。
なお、内側多孔質層21中のセラミック粒子21aが微粒子であるほど、層強度が向上するので、セラミック粒子21aの平均粒径を0.1〜1.0μmとすることが好ましい。セラミック粒子21aの平均粒径が0.1μm未満になると取扱いが難しく、1.0μmを超えると、層強度が十分に向上しないことがある。
【0034】
セラミック繊維21bとしては、例えばアルミナ、シリカ、スピネル、ジルコニア、ムライト、ジルコン及びコージェライト、炭化珪素、窒化珪素、チタニアの群から選ばれる1種以上のセラミック繊維を挙げることができる。
セラミック粒子21aとしては、例えばアルミナ、シリカ、スピネル、ジルコニア、ムライト、ジルコン及びコージェライト、炭化珪素、窒化珪素、チタニアの群から選ばれる1種以上のセラミック粒子を挙げることができる。
【0035】
内側多孔質層21は、上記したセラミック粒子21aとセラミック繊維21bとを含むスラリーをディップ法、印刷法、スプレー法等により塗布後、焼成等により結合して形成することができる。セラミック粒子21aを含むスラリーを焼結することで皮膜の骨格中に気孔を形成することができるが、上記粒子を含むスラリーに焼失性の造孔材を添加したものを焼結すると、造孔材が焼失した部分が気孔となるので、内側多孔質層21を高い気孔率にすることができ、好ましい。造孔材としては、例えばカーボン、樹脂製ビーズ、有機又は無機バインダの粒子を用いることができる。
又、後述する画像解析で求めた内側多孔質層21の気孔率を50〜75%とすると、上記した断熱効果が得られ易いので好ましい。内側多孔質層21の気孔率が50%未満であると、内側多孔質層21のガス拡散抵抗が高くなる傾向にあり、75%を超える皮膜を製造することが難しくなることがある。
又、内側多孔質層21の厚みは、20〜800μmとすると好ましい。
【0036】
外側多孔質層23は、例えばアルミナ、スピネル、ジルコニア、ムライト、ジルコン及びコージェライトの群から選ばれる1種以上のセラミック粒子を焼成等により結合して形成することができる。これらの粒子を含むスラリーを焼結することで、セラミック粒子間の隙間や、スラリー中の有機又は無機バインダが焼失する際に、皮膜の骨格中に気孔が形成される。
又、後述する画像解析で求めた外側多孔質層23の気孔率を30〜50%とすると、被毒物質や水滴のバリア性を確保しつつガス透過性を低下させないので好ましい。外側多孔質層23の気孔率が30%未満であると被毒物質によって目詰まりし易く、50%を超えると水が外側多孔質層23内部に浸入して耐被水性が低下することがある。
又、外側多孔質層23の厚みは、100〜800μmとすると好ましい。
【0037】
内側多孔質層21及び外側多孔質層23の気孔率は、次のようにして決定される。
まず、断面写真(SEM像)に基づき、内側多孔質層21及び外側多孔質層23のそれぞれ複数位置にて、2値化を市販の画像解析ソフトを用いて行い、断面写真の黒色部の割合を求めてゆく。断面写真の黒色部は気孔に対応し、白色部は皮膜の骨格に対応するので、黒色部が多いほど気孔率が大きいことを示す。
そして、それぞれ内側多孔質層21及び外側多孔質層23の上記複数位置で画像解析を行って得た気孔率を平均化し、それぞれの層の気孔率を求めた。
【0038】
又、第1の実施形態においては、内側多孔質層21及び外側多孔質層23の両方が積層体の先端部の全周を被覆している。内側多孔質層21の気孔率を外側多孔質層23の気孔率より高くしているため、内側多孔質層21を検出素子部300とヒータ部200との積層体の先端部の全周に被覆することで、積層体側の内側多孔質層21の空隙の合計体積がより大きくなって断熱性がより高まり、外側多孔質層23側が被水して冷却されてもガスセンサ素子100が急冷され難くなる。よって、ヒータ部200によって検知部150を加熱した状態でもガスセンサ素子100が被水によって損傷するのをより効果的に抑制できるという効果がある。
【0039】
なお、内側多孔質層21と外側多孔質層23との間に別の多孔質層を設けてもよく、外側多孔質層23より外側に別の多孔質層を設けてもよい。
【0040】
内側多孔質層21及び外側多孔質層23の製造方法としては、内側多孔質層21及び外側多孔質層23となるスラリーを順にディップ法等で塗布して焼結してもよい。この場合、内側多孔質層21となるスラリーを塗布して焼結後に、外側多孔質層23となるスラリーを塗布して焼結してもよい。又、それぞれ内側多孔質層21及び外側多孔質層23となるスラリーを順に塗布して一度に焼結してもよい。
又、溶射法や印刷法、スプレー法によって内側多孔質層21及び外側多孔質層23を製造してもよい。さらには、内側多孔質層21と外側多孔質層23とを、ディップ法、溶射法、印刷法やスプレー法のうち別々の方法にて形成しても良い。
【0041】
図6は、実施形態におけるガスセンサ素子100の変形例を示す。なお、図6のガスセンサ素子100Bにおいて、検出素子部及びヒータ部は第1の実施形態と同一(図2の酸素センサ素子)であるので、説明を省略する。
ガスセンサ素子100Bにおいては、内側多孔質層21Bが積層体の先端部の全周を被覆せず、拡散抵抗部115の周囲のみを覆っている。一方、外側多孔質層23は積層体の先端部の全周を被覆している。図6の例においても、内側多孔質層21Bの気孔率は外側多孔質層23Bの気孔率より高く、被毒物質や水滴は気孔率を小さくした外側多孔質層23Bで効果的に捕捉されるので、検出素子部(検知部150B)まで到達し難い。その上、内側多孔質層21Bの気孔率を外側多孔質層23Bの気孔率よりも大きくすることで、内側多孔質層21Bに含まれる空隙(空間)の合計体積が大きくなって断熱性が付与されるため、外側多孔質層23B側が被水して冷却されても内側の検出素子部300が急冷され難くなり、ヒータ部200によって検知部150Bを加熱した状態でもガスセンサ素子100が被水によって損傷するのを効果的に抑制できるという効果がある。
さらに、内側多孔質層21Bを上述のセラミック粒子と、セラミックを主成分とするセラミック繊維とを主成分とすることで、内側多孔質層21Bの層強度を高めることができる。その上、微粒子のみを用いて内側多孔質層21Bを形成する場合のような、表面張力によって微粒子が引っ張られて層中にクラックが発生することを抑制できる。
【0042】
次に、図7を参照し、本発明の第2の実施形態に係るガスセンサ(NOxセンサ)について説明する。但し、第2の実施形態に係るガスセンサは、ガスセンサ素子100C、内側多孔質層21C、及び外側多孔質層23Cの構成が異なること以外は第1の実施形態に係るガスセンサと同様であるので、ガスセンサ素子100Cを保持する主体金具等の説明及び図示を省略する。
【0043】
ガスセンサ素子(NOxセンサ素子)100Cは細長で長尺な板状をなし、3層の板状の固体電解質体109C,105C,151を、これらの間にアルミナ等からなる絶縁体180,185をそれぞれ挟んで層状に形成した構造を有し、これらの積層構造が検出素子部300Cを構成する。また、固体電解質体151側の外層(図1における固体電解質体105Cと反対側)には、アルミナを主体とするシート状の絶縁層103C,101Cを積層し、その間にPtを主体とするヒータパターン102Cを埋設したヒータ部200Cが設けられている。
固体電解質体109C,105C,151は、固体電解質であるジルコニアからなり、酸素イオン伝導性を有する。
【0044】
検出素子部300Cは、以下の第1ポンプセル(Ip1セル)140C、酸素濃度検出セル(Vsセル)130C、第2ポンプセル(Ip2セル)150を備える。
第1ポンプセル140Cは、第2固体電解質体109Cとその両面に形成された第3電極108Cと第4電極110Cから形成されている。また、第4電極110Cの表面上にはセラミックスからなる多孔質性の保護層114が設けられており、第4電極110Cが排気ガスに含まれる被毒性ガス(還元雰囲気)に晒されることにより電極が劣化しないように保護している。
第1ポンプセル140Cは、第2固体電解質体109Cを介して、後述する第1測定室107c2と外部との間で、酸素の汲み出しおよび汲み入れ(いわゆる酸素ポンピング)を行う点で、酸素ポンプセル140と同様な機能を有する。
第3電極108Cと第4電極110Cとが特許請求の範囲の「一対の電極」に相当する。
【0045】
酸素濃度検出セル130Cは、第1固体電解質体105Cとその両面に形成された第1電極104Cと第2電極106Cから形成されている。酸素濃度検出セル130Cは、固体電解質体105Cにより隔てられた第1測定室107c2と後述する基準酸素室170との間の酸素分圧差に応じて起電力を発生することができる。
【0046】
また、固体電解質体109Cと固体電解質体105Cとの間には小空間としての中空の第1測定室107c2が形成されており、第2電極106C及び第3電極108Cが第1測定室107c2内に配置されている。この第1測定室107c2は、測定対象ガスが外部からガスセンサ素子100C内に最初に導入される小空間である。
第1測定室107c2のガスセンサ素子100Cにおける先端側には、第1測定室107c2と外部との間に介在し、第1測定室107c2内への測定対象ガスの拡散を調整する多孔質性の第1拡散抵抗部115Cが設けられている。
【0047】
さらに、第1測定室107c2のガスセンサ素子100Cにおける後端側にも、後述する第2測定室160につながる開口部181と第1測定室107c2との仕切りとして、ガスの拡散を調整する第2拡散抵抗部117が設けられている。なお、第1電極104Cと第2電極106Cとが特許請求の範囲の「一対の電極」に相当する。
【0048】
さらに、ガスセンサ素子100Cは、第3固体電解質体151、第5電極152、第6電極153から形成される第2ポンプセル150を備えている。ここで、第3固体電解質体151は、絶縁体185を挟んで固体電解質体105Cと対向するように配置されている。又、第5電極152が形成された位置には絶縁体185が配置されておらず、独立した空間としての基準酸素室170が形成されている。この基準酸素室170内には、酸素濃度検出セル130Cの第1電極104Cも配置されている。尚、基準酸素室170内には、セラミック製の多孔質体が充填されている。また、第6電極153が形成された位置にも絶縁体185が配置されておらず、基準酸素室170との間に絶縁体185を隔て、独立した小空間としての中空の第2測定室160が形成されている。そして、この第2測定室160に連通するように、固体電解質体105Cおよび絶縁体180のそれぞれに開口部125,141が設けられており、前述したように、第1測定室107c2と開口部181とが、これらの間に第2ガス拡散層117を挟んで接続されている。
第2ポンプセル150は、絶縁体185により隔てられた基準酸素室170と第2測定室160との間で酸素の汲み出しを行うことができる。
なお、第5電極152と第6電極153とが特許請求の範囲の「一対の電極」に相当する。
【0049】
又、検出素子部300Cとヒータ部200Cとの積層体の表面直上に内側多孔質層21Cが設けられ、内側多孔質層21Cの外表面を覆って外側多孔質層23Cが形成されている。すなわち、多孔質保護層20(内側多孔質層21C及び外側多孔質層23C)は、ガスセンサ素子100Cの先端側の全周を覆って設けられている。
なお、NOxセンサ素子であるガスセンサ素子100Cの場合、第1測定室107c2の後端側に他の測定室(第2測定室160)が連通し、第2測定室160には第6電極153が配置されているため、多孔質保護層20は少なくとも第6電極153の後端を覆うよう、第2測定室160の後端より後端側まで延びている。
又、多孔質保護層20は、ガスセンサ素子100C(積層体)の表裏面及び両側面の4面を完全に囲んで形成されているのは第1の実施形態と同様である。
【0050】
第2の実施形態においても、外側多孔質層23Cの気孔率を内側多孔質層21Cの気孔率に対して小さくすることで、、被毒物質や水滴は気孔率を小さくした外側多孔質層23Cで効果的に捕捉されるので、検出素子部300C(検知部150C)まで到達し難い。その上、内側多孔質層21Cの気孔率を外側多孔質層23Cの気孔率よりも大きくすることで、内側多孔質層21Cに含まれる空隙(空間)の合計体積が大きくなって断熱性が付与されるため、外側多孔質層23C側が被水して冷却されても内側の検知部150Cが急冷され難くなり、ヒータ部200Cによって検知部150Cを加熱した状態でもガスセンサ素子100Cが被水によって損傷するのを効果的に抑制できるという効果がある。
さらに、内側多孔質層21Cを上述のセラミック粒子と、セラミックを主成分とするセラミック繊維とを主成分とするすることで、内側多孔質層21C層強度を高めることができる。その上、微粒子のみを用いて内側多孔質層21Cを形成する場合のような、表面張力によって微粒子が引っ張られて層中にクラックが発生することを抑制できる。
【0051】
次に、NOxセンサ素子100CによるNOx濃度の検出動作を簡単に説明する。まず、電極104C、106C間の電位差が425mV付近で一定となるように、第1ポンプセル140Cにて第1測定室107c2と外部との間で酸素の汲み出し又は汲み入れを行う。
このように、第1測定室107c2において酸素濃度が調整された排気ガスは、第2ガス拡散層117を介し、第2測定室160内に導入される。第2測定室160内で第6電極153と接触した排気ガス中のNOxは、第6電極153を触媒としてNとOに分解(還元)される。そして分解された酸素は、第6電極153から電子を受け取り、酸素イオンとなって第3固体電解質体151内を流れ、第5電極152に移動する。このとき、第1測定室107c2で汲み残された残留酸素も同様に、Ip2セル150によって基準酸素室170内に移動する。このため、Ip2セル150を流れる電流は、NOx由来の電流および残留酸素由来の電流となる。
ここで、第1測定室107c2で汲み残された残留酸素の濃度は上記のように所定値に調整されているため、その残留酸素由来の電流は略一定とみなすことができ、NOx由来の電流の変動に対し影響は小さく、Ip2セル150を流れる電流はNOx濃度に比例することとなる。
【0052】
本発明は上記実施形態に限定されず、固体電解質体と一対の電極とを有する検知部を有するあらゆるガスセンサ(ガスセンサ素子)に適用可能であり、本実施の形態の酸素センサ(酸素センサ素子)やNOxセンサ(NOxセンサ素子)に適用することができるが、これらの用途に限られず、本発明の思想と範囲に含まれる様々な変形及び均等物に及ぶことはいうまでもない。例えば、HC濃度を検出するHCセンサ(HCセンサ素子)等に本発明を適用してもよい。
【実施例】
【0053】
実施例1のガスセンサ素子について説明する。
図1〜4に示す板状のガスセンサ素子(全領域空燃比センサ素子)100の先端側の表面(表裏面及び両側面)に、内側多孔質層21となる下記のスラリーAを適当な粘度になるように調整し、ディップ(浸漬)法で200μmの厚みになるよう塗布した。その後、スラリーA中の余分な有機溶剤を揮発させるため、200℃に設定した乾燥機で数時間乾燥し、大気中、1100℃で3時間の条件で内側多孔質層21を焼成した。
スラリーA:アルミナ粒子(平均粒径0.1μm)とアルミナ繊維(平均繊維長さ100μmの合計量40vol%、カーボン粉末(平均粒径20.0μm)60vol%、アルミナゾル(外配合)10wt%を秤量し、さらにエタノールを添加して攪拌して調製した。なお、スラリーA中のアルミナ粉末とアルミナ繊維の割合を表1に示すように変化させた。又、平均粒径は、レーザ回折散乱法により求めた。アルミナ繊維の平均繊維長さは、スラリーAに混合する前にアルミナ繊維それぞれの長さを計測して、平均化した。
なお、本実施例においては、焼結後に残る成分は、セラミック粒子(アルミナ粒子)とセラミック繊維(アルミナ繊維)のみであるため、スラリーAに混合する段階でのアルミナ繊維の平均繊維長さ、及びアルミナ粒子とアルミナ繊維の含有量が焼結後に変化することは殆どない。従って、スラリーAに混合する段階でのアルミナ繊維の平均繊維長さ、及びアルミナ粒子とアルミナ繊維の含有量を、焼結後の内側多孔質層21での値とみなした。
【0054】
ガスセンサ素子100の表面にスラリーAを塗布後の乾燥時、及び焼成後にそれぞれ内側多孔質層21の被膜のクラックの有無を目視で判定した。得られた結果を表1に示す。
【0055】
【表1】

【0056】
表1から明らかなように、スラリーA中のアルミナ繊維の割合が25〜75wt%であるスラリーA3〜A5の場合、乾燥時、焼成後のいずれも被膜にクラックが生じなかった。
一方、スラリーA中のアルミナ繊維の割合が25wt%未満であるスラリーA1及びスラリーA2の場合、乾燥時に被膜にクラックが生じた。
スラリーA中のアルミナ繊維の割合が75wt%を超えたスラリーA6の場合、乾燥時に被膜にクラックが生じなかったものの、焼成後の被膜にクラックが生じた。これは、層中のアルミナ繊維の割合が多くなり過ぎて、アルミナ粒子の焼結(粒子間の結合)が阻害されたためと考えられる。
【0057】
次に、実施例2のガスセンサ素子について説明する。
図1〜4に示す板状のガスセンサ素子(全領域空燃比センサ素子)100の先端側の表面(表裏面及び両側面)に、内側多孔質層21となる下記のスラリーBを適当な粘度になるように調整し、ディップ(浸漬)法で200μmの厚みになるよう塗布した。その後、スラリーB中の余分な有機溶剤を揮発させるため、200℃に設定した乾燥機で数時間乾燥した。
次に、内側多孔質層21の表面に、外側多孔質層23となるスラリーCを適当な粘度になるように調整し、ディップ(浸漬)法で200μmの厚みになるよう塗布した。その後、スラリーC中の余分な有機溶剤を揮発させるため、200℃に設定した乾燥機で数時間乾燥し、さらに大気中、1100℃で3時間の条件で内側多孔質層21及び外側多孔質層23を焼成した。
スラリーB:アルミナ粒子(平均粒径0.1μm)20vol%、アルミナ繊維20vol%、カーボン粉末(平均粒径20.0μm)60vol%、アルミナゾル(外配合)10wt%を秤量し、さらにエタノールを添加して攪拌して調製した。なお、スラリーB中のアルミナ繊維の平均繊維長さを表2に示すように変化させた。又、平均粒径は、レーザ回折散乱法により求めた。なお、実施例1と同様、スラリーBに混合する段階でのアルミナ繊維の平均繊維長さ、及びアルミナ粒子とアルミナ繊維の含有量を、焼結後の内側多孔質層21での値とみなした。
スラリーC:アルミナ粒子(平均粒径0.1μm)40vol%、スピネル粒子(平均粒径40μm)60vol%、アルミナゾル(外配合)10wt%を秤量し、さらにエタノールを添加して攪拌して調製した。平均粒径は、レーザ回折散乱法により求めた。
【0058】
得られたガスセンサ素子100を水没させた状態で、超音波発生器で3分間振動を与えた。この試験後に多孔質保護層20の損傷(ハガレやカケ)の有無を目視で判定した。得られた結果を表2に示す。なお、内側多孔質層21に亀裂が生じたり、ガスセンサ素子から剥離した場合、その上層の外側多孔質層23も剥離し、多孔質保護層20全体として損傷が生じる。
【0059】
【表2】

【0060】
表2から明らかなように、アルミナ繊維の平均繊維長さが70〜200μmであるスラリーB3〜B5の場合、多孔質保護層20の損傷が生じなかった。
一方、スラリーB中のアルミナ繊維の平均繊維長さが70μm未満であるスラリーB1及びスラリーB2の場合、多孔質保護層20に損傷が生じた。これは、アルミナ繊維が短かくなり過ぎて内側多孔質層21の補強効果が不十分になったためと考えられる。
スラリーB中のアルミナ繊維の平均繊維長さが200μmを超えたスラリーB6の場合も、多孔質保護層20に損傷が生じた。これは、アルミナ繊維が長くなり過ぎて内側多孔質層21中のアルミナ粒子の焼結(粒子間の結合)が阻害されたためと考えられる。
【符号の説明】
【0061】
1 ガスセンサ
20、20C 多孔質保護層
21、21B、21C 内側多孔質層
21a セラミック粒子
21b セラミック繊維
23、23B、23C 外側多孔質層
30 ハウジング
104、106、108、110、104C、106C、108C、110C
一対の電極
105、105C、109、109C 固体電解質体
100、100B、100C ガスセンサ素子
150、150B、150C 検知部
300、300C 検出素子部
L 軸線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
固体電解質体と該固体電解質体に配置された一対の電極とを有する検知部と、
前記検知部を被覆してなる多孔質保護層と、を備えるガスセンサ素子において、
前記多孔質保護層は、前記検知部側に設けられる内側多孔質層と、前記内側多孔質層よりも外側に形成される外側多孔質層と、を備え、
前記内側多孔質層の気孔率は前記外側多孔質層の気孔率より高く、
前記内側多孔質層は、セラミック粒子と、セラミックを主成分とする平均繊維長さ70〜200μmのセラミック繊維と、を主成分とし、かつ前記セラミック繊維の含有量が、セラミック粒子及びセラミック繊維の含有量を100wt%としたときに、25〜75wt%であるガスセンサ素子。
【請求項2】
被測定ガス中の特定ガス成分の濃度を検出するセンサ素子と、該センサ素子を保持するハウジングとを備えるガスセンサにおいて、
前記センサ素子は、請求項1記載のガスセンサ素子を用いることを特徴とするガスセンサ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−104706(P2013−104706A)
【公開日】平成25年5月30日(2013.5.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−247132(P2011−247132)
【出願日】平成23年11月11日(2011.11.11)
【出願人】(000004547)日本特殊陶業株式会社 (2,912)
【Fターム(参考)】