説明

ガスセンサ

【課題】数ppbレベルの低濃度NOを高感度に検出することが可能なガスセンサを提供する。
【解決手段】内部にサンプルガスが通過可能な間隙が形成されており、少なくとも前記間隙の表面に銀が表出している銀触媒部材4と、n型酸化物半導体からなるガス感応膜が形成されている第1の半導体式ガスセンサ素子5と、前記銀触媒部材と前記第1の半導体式ガスセンサ素子とを連通して、前記銀触媒部材から前記第1の半導体式ガスセンサ素子に向かう方向へサンプルガスを流通させる主流路2とを少なくとも備えているようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、NOを高感度に検出することが可能なガスセンサに関するものである。
【背景技術】
【0002】
オゾンとNOとは、大気中に最大で数100ppbの濃度で共存している物質であるが、ともに大気汚染防止法により規制されている。このため、これらの物質の濃度を高い精度で測定することが求められる。
【0003】
近時、本発明者らにより、酸化タングステン(WO)からなるガス感応膜を備えた半導体式ガスセンサ素子が開発されている(特許文献1、特許文献2)。なかでも、特許文献2に記載の六方晶酸化タングステン(WO)結晶を含む単斜晶酸化タングステン(WO)からなるガス感応膜が形成された半導体式ガスセンサ素子は、NOに対して良好な感度を示すため、数ppbレベルで存在する大気中のNOの濃度測定にも好適に使用可能であると考えられていた。しかしながら、この半導体式ガスセンサ素子は、大気中にNOと共存する数10ppb程度のオゾンに対して、NOの100倍にも達する感度を持つことが判明した。
【0004】
一方、従来、大気中のオゾンやNOの濃度を測定するには、NO濃度を測定するための公定法としては化学発光法(CLD法)が、オゾン濃度を測定するための公定法としては紫外線吸収法(UV法)が、それぞれ採用されており、いずれの方法も、大気中濃度が数10ppbレベルである分析対象のガス成分を、数ppbオーダのレベルで測定可能とするものである。
【0005】
化学発光法では、NOを分析装置内に別途設けたオゾン発生器からのオゾンと反応させることによって発生した励起状態のNO*が基底状態のNOに戻るときに近赤外域の光を放出する現象を利用し、その光量を計測することによりNO濃度を測定している。このように、NOは直接検出できないため、その濃度を測定するには、触媒を用いたNOコンバータで、NOを一旦NOに還元した後に、反応セルに導いて高濃度のオゾンと反応させる必要がある。
【0006】
また、紫外線吸収法では、220〜280nm付近の紫外域にオゾンの吸収帯があることを利用してオゾン濃度を測定している。
【0007】
このため、大気中のオゾンとNOとの両物質の濃度を測定するには、化学発光法を用いたNOx計と、紫外線吸収法を用いたオゾン計との2種類の分析計を用いて、それぞれ別々に測定することが必要であり、大気中濃度レベルのppbオーダでオゾンとNO、更にNOの濃度を一台で簡便に測定できる装置は知られていない。
【0008】
なお、オゾンは220〜280nm付近の紫外域に吸収帯をもつのに対して、NOは230nm付近の紫外域に比較的狭い吸収帯をもち、NOは300nm付近の紫外域から可視域にわたって幅広い吸収帯をもつが、特にNOとオゾンの吸収波長を弁別することは光学系が非常に複雑となるために容易ではない。このため、紫外線吸収法を用いた一台の分析計で、NOとオゾン、更にNOとを共に簡便に検出するのは困難である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2007−64908号公報
【特許文献2】国際公開2009/034843号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
そこで本発明は、数ppbレベルの低濃度NOを高感度に検出することが可能なガスセンサを提供すべく図ったものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、大気中にNOと共存しているオゾンを除去するために、オゾンスクラバとして銀触媒を用いてみたところ、大気中からオゾンを良好に除去できるだけでなく、銀触媒と接触したサンプルガスを被検ガスとすることにより、NOに対する半導体式ガスセンサ素子の検出感度までをも向上できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0012】
すなわち本発明に係るガスセンサは、内部にサンプルガスが通過可能な間隙が形成されており、少なくとも前記間隙の表面に銀が表出している銀触媒部材と、n型酸化物半導体からなるガス感応膜が形成されている第1の半導体式ガスセンサ素子と、前記銀触媒部材と前記第1の半導体式ガスセンサ素子とを連通して、前記銀触媒部材から前記第1の半導体式ガスセンサ素子に向かう方向へサンプルガスを流通させる主流路とを少なくとも備えていることを特徴とする。
【0013】
このようなものであれば、前記半導体式ガスセンサ素子の上流に前記銀触媒部材が設けられており、前記銀触媒部材を通過したサンプルガスが前記半導体式ガスセンサ素子の被検ガスとなるので、当該サンプルガス中のNOを高感度で検出することができる。
【0014】
n型酸化物半導体からなるガス感応膜が形成されている半導体式ガスセンサ素子は、そのガス感応膜にオゾンやNO等の酸化性ガスが接触すると、これら酸化性ガスがガス感応膜に吸着して表面の電子を奪うので、ガス感応膜の空間電荷層が増大し、その結果、ガス感応膜の電気抵抗が増大する。このため、分析対象であるガス成分の濃度に応じてガス感応膜の抵抗値が変化するので、この抵抗値の変化を検知することにより、当該ガス成分の濃度を測定することができる。
【0015】
銀触媒部材を通過したサンプルガスを被検ガスとした場合に、当該サンプルガス中のNOに対する前記半導体式ガスセンサ素子の検出感度が大幅(約10倍)に向上するメカニズムは本発明の時点では未解明であるが、その理由としては、(1)銀触媒によりNOが活性化される(例えば、NOがNに更に酸化されることによりガス感応膜からの電子捕捉能が向上する。)か、又は、(2)触媒から遊離した銀粒子によりガス感応膜が活性化されること等が推測される。
【0016】
また、大気等のオゾンを含有するサンプルガスを分析対象とする場合は、前記銀触媒部材を通過させることにより、当該サンプルガス中のオゾンが酸素に分解されて、サンプルガス中からオゾンを除去することができるので、前記半導体式ガスセンサ素子へのオゾンの影響を排除して、NOのみを良好に検出することができる。
【0017】
前記ガス感応膜としては、例えば、酸化タングステン(WO)、酸化錫(SnO)等のn型酸化物半導体からなるものが挙げられるが、なかでも酸化タングステン(WO)からなるものが好適に用いられ、特に六方晶酸化タングステン(WO)結晶を含む単斜晶酸化タングステン(WO)からなるガス感応膜が形成された半導体式ガスセンサ素子は、数ppbレベルの低濃度NOに対して高い検出感度を発現する。
【0018】
本発明に係るガスセンサは、更に、前記主流路を介して前記銀触媒部材の上流側に設けられた、n型酸化物半導体からなるガス感応膜が形成されている第2の半導体式ガスセンサ素子を備えていてもよい。このようなものであれば、第2の半導体式ガスセンサ素子でオゾンを検出し、前記銀触媒部材の下流側に設けられた前記第1の半導体式ガスセンサ素子でNOを検出することができるので、一台のガスセンサでオゾンとNOとを同時に検出することができる。
【0019】
更に、本発明に係るガスセンサは、前記主流路を介して前記第1の半導体式ガスセンサ素子の下流側に設けられた、NOをNOに酸化する酸化触媒部材と、前記主流路を介して前記酸化触媒部材の下流側に設けられた、n型酸化物半導体からなるガス感応膜が形成されている第3の半導体式ガスセンサ素子とを備えていてもよい。このようなものであれば、前記酸化触媒部材によって、サンプルガス中のNOがNOに酸化されるので、元来サンプルガスに含まれていたNOとNOとを合わせたガス濃度が、NO濃度として検出される。このため、第3の半導体式ガスセンサ素子の抵抗値と第1の半導体式ガスセンサ素子の抵抗値との差分からNO濃度を測定することが可能となる。なお、前記酸化触媒部材としては、例えば、白金(Pt)やマンガン酸化物(γ−MnO)等からなるものが挙げられる。
【0020】
一方、本発明に係るガスセンサは、前記第2の半導体式ガスセンサ素子を備えずに、その代わりに、前記主流路から分岐して前記銀触媒部材と並列に設けられ、前記銀触媒部材を経由せずにサンプルガスを前記第1の半導体式ガスセンサ素子に到達させる第2の流路を備えていてもよい。このようなものであれば、前記銀触媒部材へのサンプルガスの流通と、前記第2の流路へのサンプルガスの流通とを、交互に切り替えることにより、1つの半導体式ガスセンサ素子のみで、オゾンとNOとの両方のガス濃度を測定することができる。
【0021】
更に、本発明に係るガスセンサは、前記銀触媒部材と前記第1の半導体式ガスセンサ素子との間に前記主流路を介してこれらと連通するように設けられた、NOをNOに酸化する酸化触媒部材と、前記銀触媒部材の下流側であって前記主流路から分岐して前記酸化触媒部材と並列に設けられ、前記酸化触媒部材を経由せずにサンプルガスを前記第1の半導体式ガスセンサ素子に到達させる第3の流路を備えていてもよい。このようなものであれば、前記酸化触媒部材へのサンプルガスの流通と、前記第3の流路へのサンプルガスの流通とを、交互に切り替えることにより、1つの半導体式ガスセンサ素子のみで、オゾンとNOとNOとの3種類のガス濃度を測定することができる。
【発明の効果】
【0022】
このような構成の本発明によれば、数ppbレベルの低濃度NOを高感度に検出することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の第1実施形態に係るガスセンサの模式的構成図。
【図2】同実施形態におけるオゾン検出用センサ素子の平面図。
【図3】図2のX−X線におけるオゾン検出用センサ素子の縦断面図。
【図4】銀触媒部材のNO検出感度向上効果を示すグラフ。
【図5】ガスセンサ感度のサンプルガスの流速依存性を示すグラフ。
【図6】ガスセンサ感度のサンプルガスの流速依存性を調べるための実験装置の模式的構成図。
【図7】同実施形態に係るガスセンサを用いたガス分析装置の模式的構成図。
【図8】本発明の第2実施形態に係るガスセンサの模式的構成図。
【図9】本発明の第3実施形態に係るガスセンサの模式的構成図。
【図10】本発明の第4実施形態に係るガスセンサの模式的構成図。
【図11】他の実施形態に係るガスセンサの模式的構成図。
【図12】他の実施形態に係るガスセンサの模式的構成図。
【発明を実施するための形態】
【0024】
<第1実施形態>
以下に本発明の第1実施形態について図面を参照して説明する。
【0025】
本実施形態に係るガスセンサ1は、図1に示すように、導入口と排出口とを備えサンプルガスを流通させる主流路2と、主流路2の上流側から順に設けられた、オゾン検出用センサ素子3(第2の半導体式ガスセンサ素子に相当)と、銀触媒部材4と、NO検出用センサ素子5(第1の半導体式ガスセンサ素子に相当)とを備えたものである。
【0026】
以下に各部を詳述する。
オゾン検出用センサ素子3は、図2及び図3に示すように、中央部に平面視矩形状の空洞部101aを有するシリコン(Si)基板101と、Si基板101上に空洞部101aを遮るように形成された矩形状ダイヤフラム構造のSiO絶縁膜102と、絶縁膜102上に形成された通電用電極103と、通電用電極103により一定電圧が印加されるヒータ104と、ヒータ104上にノンシリケートガラス(NSG)を成膜したのち必要箇所をエッチングして形成された絶縁膜105と、絶縁膜105上に形成された抵抗測定用電極106と、抵抗測定用電極106上に形成されたガス感応膜107とを備えている。
【0027】
ヒータ104は、絶縁膜102上のSi基板101における矩形状空洞部101aの略全域に相当する範囲に、白金(Pt)等の酸化しにくい高融点の材料からなる金属膜を所定のダブルジグザグのパターン形状にエッチングして、その周辺部の密度が最も大きく中央部に至るほど漸次密度が小さくなるパターン形状に形成されている。詳しくは、矩形状絶縁膜102の相対向する両側部分ではヒータ線幅及びヒータ線間隔(ピッチ)が共に最小であり、中央部分に至るほどヒータ線幅及びピッチが共に漸次大きくなるようなダブルジグザグ状のパターン形状に形成されており、これによって、通電用電極103を介してヒータ104を通電加熱したとき、絶縁膜102上の点線で囲んだ矩形範囲Bの全体がジュール熱の関係で均一な温度に昇温可能に構成されている。なお、ヒータ104の材料としては、酸化しにくい高融点の材料であれば白金に限定されず、タンタル(Ta)、タングステン(W)を用いてもよい。
【0028】
抵抗測定用電極106は、金(Au)等からなるものであり、図2の下部に要部を取出して明示しているように、ヒータ104による均一温度範囲B内のほぼ全域を占めるような櫛歯状パターンに形成されている。
【0029】
ガス感応膜107は、六方晶酸化タングステン(WO)結晶を含む単斜晶酸化タングステン(WO)からなるものであり、前記櫛歯状パターンの抵抗測定用電極106上の大部分を覆うように形成されている。このようなガス感応膜107は、六方晶WO結晶を含む単斜晶WO縣濁液を、抵抗測定用電極106上で焼結することにより形成される。あるいは、反応性スパッタリング、反応性真空蒸着等の手法によって形成してもよい。
【0030】
このようなオゾン検出用センサ素子3は、1辺が1〜2mmの微小なMEMS構造を有するものである。
【0031】
NO検出用センサ素子5としても、オゾン検出用センサ素子3と同じ半導体式ガスセンサ素子が用いられる。
【0032】
本実施形態に係るガスセンサ1において、オゾン検出用センサ素子3とNO検出用センサ素子5とに用いられる、六方晶WO結晶を含む単斜晶WOからなるガス感応膜107が形成された半導体式ガスセンサ素子は、ガス感応膜107がオゾンやNOと接触することにより、その抵抗値が変動して、オゾンやNOを検出することができるものであるが、オゾンに対する感度(抵抗値)は、NOに対する感度の約100倍である。
【0033】
銀触媒部材4は、銀ウールからなるものであり、銀の触媒作用により、その内部を通過したサンプルガス中のオゾン(O)を酸素(O)に還元するものである。銀触媒部材4には、図示しないヒータが設けられており、銀触媒部材4は当該ヒータにより、50〜150℃の温度範囲の、例えば80℃に加熱される。
【0034】
本実施形態に係るガスセンサ1の主流路2に、サンプルガスとして、オゾンとNOとが共存している大気を流すと、まず、オゾン検出用センサ素子3がオゾンを検出する。
【0035】
詳しくは、オゾン検出用センサ素子3は、オゾンとNOとの両方を検出するが、オゾン検出用センサ素子3のオゾンに対する感度はNOに対する感度の約100倍であり、また、オゾン濃度が高いときには、NO濃度は低い傾向にあるので、一般的な大気をサンプルガスとした場合、オゾン検出用センサ素子3の示す抵抗値のうちNOの影響は1%程度以下とみなすことができる。このため、実質的には、オゾン検出用センサ素子3ではオゾンが検出されるとしてよい。
【0036】
なお、NO濃度が高く、オゾン濃度が低い場合には、オゾン検出用センサ素子3の示す抵抗値からNO検出用センサ素子5の示す抵抗値を差し引くことによって、オゾンの濃度を測定することができる。なお、抵抗値を差し引く際には、銀触媒部材4によりNO感度が上がっている分を勘案する必要がある。
【0037】
次いで、サンプルガスが銀触媒部材4を通過するとサンプルガス中のオゾンが酸素に還元され、これによりサンプルガス中からオゾンが除去される。そして、オゾンが除去されたサンプルガスが、NO検出用センサ素子5のガス感応膜107と接触すると、NOが検出される。
【0038】
この際、銀触媒部材4を通過したサンプルガスをNO検出用センサ素子5の被検ガスとすることにより、当該サンプルガス中のNOに対するNO検出用センサ素子5の検出感度が大幅に向上することが本発明者により明らかにされた。
【0039】
このような銀触媒部材4によるNOの検出感度の向上効果について確認するために、NOガス(NO濃度:60ppb)をサンプルガスとし、銀ウールからなる銀触媒部材4を設けたガスセンサ1と、当該銀触媒部材4を設けなかったガスセンサとを用いて、それぞれNO検出用センサ素子5のガス感応膜107が示す抵抗値を測定し、その結果を図9に示した。この結果、図4に示すように、銀ウールからなる銀触媒部材4を設けた場合の方が、10倍程度の高い抵抗値(感度)を示した。ちなみに、化学発光法を用いたNOxコンバータを内蔵するNOx計により、それぞれのガスセンサ1から排出されたサンプルガス中のNO濃度を測定したところ、いずれのNO濃度も60ppbであった。なお、図4中、「S」は半導体式ガスセンサ素子の感度を示し、S=Rg/Ra(Ra:空気中の抵抗値、Rg:ある濃度での被検ガス中の抵抗値)で定義される。
【0040】
したがって、このように構成した本実施形態に係るガスセンサ1によれば、サンプルガス中にオゾンとNOとが共存していても、これら2つの物質の濃度を一台のガスセンサ1で測定することができる。
【0041】
また、本実施形態では、銀触媒部材4を通過したサンプルガスをNO検出用センサ素子5の被検ガスとすることにより、当該サンプルガス中のNOに対するNO検出用センサ素子5の検出感度を著しく向上することができる。なお、銀触媒部材4を通過したサンプルガス中のNOに対するNO検出用センサ素子5の検出感度が向上するメカニズムは本発明の時点では未解明であるが、その理由としては、(1)銀触媒によりNOが活性化される(例えば、NOがNに更に酸化されることによりガス感応膜107からの電子捕捉能が向上する。)か、又は、(2)触媒から遊離した銀粒子によりガス感応膜107が活性化されること等が推測される。
【0042】
更に、センサ素子3、5は、1辺が1〜2mmと微小であるため、銀触媒部材4を設けても、小型なガスセンサ1を構築することができる。
【0043】
また、本発明者は、オゾン検出用センサ素子3及びNO検出用センサ素子5の感度が流量(流速)の影響を受けることを見出し、これらのセンサ素子3、5に供給するサンプルガスの流量を増加させることにより、感度が高まることを明らかにした。
【0044】
そして、NO検出用センサ素子5の感度の流速(流量)依存性を調べるために、図5に示すような実験装置100を作製した。実験装置100は、NO供給源101、N供給源102、O供給源103として、それぞれのガスが高圧容器に充填されたものを備えており、これらのガス供給源から供給された各ガスは分割器において所定の濃度になるように混合されて、サンプルガスに調製される。得られたサンプルガス(250mL/min)は主流路106内を通り、センサ素子5が設けられたセル5´内に供給される。当該センサ素子5はサンプルガスの流量(流速)の影響を受けやすいように、円筒形状(内径φ7mm)のセル5´内につり下げられた状態で内蔵されている。セル5´の上流側にはニードルバルブ105aが設けられており、当該ニードルバルブ105aによりサンプルガスの流量が調節される。また、主流路106から分岐してサンプルガスを排出するための排出路107が設けられており、当該排出路107にもニードルバルブ105bが備わっている。
【0045】
このような実験装置100を用いて、ニードルバルブ105aを調節してサンプルガスの流量を変化させながら、NO濃度が50ppbとなるように調製したサンプルガス(N濃度:80vol%、O濃度:20vol%)をNO検出用センサ素子5に供給した。そして、サンプルガスの流量を100、50、6.5、20mL/minと変化させながら、センサ応答を連続して測定し、各流量におけるセンサ素子5の感度(抵抗値)を求めた。なお、この際、サンプルガスの流量を変化させるとセンサ素子5に設けたPtヒータの温度も変化してしまうため、流量の影響だけを観察するために、Ptヒータの温度が一定(200℃)になるようにヒータ電圧を調節しながら実験を行った。得られた結果を図6のグラフに示した。
【0046】
図6に示すグラフより、サンプルガスの流量が小さくなるにつれて、NO検出用センサ素子5の感度(S)及びゼロガス時の抵抗値(Ra)が低下することがわかり、また、流量が小さくなるほど、抵抗値の減少度合いが急になることがわかる。従って、この結果から、ある程度サンプルガスの流量が大きくなると感度が飽和することが予想される。その感度が飽和する流量(流速)の領域で本発明に係るガスセンサ1を動作させることでより安定かつ高感度なセンサ応答が期待できる。なお、本実験系においては10mL/min以上の流量があれば測定に必要な感度を得ることができる。また、図6中、感度を示す「S」は図4中におけるものと同様に定義されるものである。
【0047】
更に、本実施形態に係るガスセンサ1を用いて構成したガス分析装置10について、図面を参照して、以下に説明する。
【0048】
本ガス分析装置10は、図7に示すように、サンプルガスを流通させる流路系と、その流路系上に設けられてサンプルガス中のオゾンやNOの濃度を測定するガスセンサ1と、ガスセンサ1からの測定結果データを収集するとともに流路系に配置された流量調節器等の制御を行う情報処理装置20とを備えている。
【0049】
前記流路系は、サンプルガスを流通させる主流路12を備えており、当該主流路12は、その上流端を導入ポート11として開口させ、最も下流側には吸引ポンプ18が配設してある。
【0050】
主流路12上には、導入ポート11に引き続き、上流側から、ダスト等を除去するフィルタ13、温度・湿度センサ14、加熱管15、オゾン検出用センサ素子3、銀触媒部材4、NO検出用センサ素子5、第1流量調節器16a、第1流量計17、第2流量調節器16b、第2流量計17b、吸引ポンプ18がこの順に直列配置されている。このうち、オゾン検出用センサ素子3及びNO検出用センサ素子5は、それぞれセル3´、5´内に設けられており、これら及び銀触媒部材4の集合体が本実施形態に係るガスセンサ1に相当する。
【0051】
温度・湿度センサ14は、導入されたサンプルガス中の外気温における相対湿度を測定して、その値から更に絶対湿度を求め、当該絶対湿度値によりガスセンサ1で得られた測定結果データを補正するためのものである。
【0052】
加熱管15は、サンプルガスを、例えば室温から60℃程度にまで加熱するためのものであり、例えば1m程度の長さを有するものである。このような長い管内を流通させて、サンプルガスを時間を掛けて加熱することにより、サンプルガスを均一な温度に加熱することができる。しかしながら、導入ポート11から導入した時点で既にサンプルガスが所定の温度に加熱されている場合は、加熱管15は不要である。
【0053】
加熱管15、オゾン検出用センサ素子3、銀触媒部材4、NO検出用センサ素子5は、いずれも後述する制御部により温度が調節されており、一定の温度で測定が行われるように制御されている。
【0054】
第1流量調節器16a及び第2流量調節器16bは、主流路12内を流れるサンプルガスの流量を調節するためのものであり、具体的にはニードルバルブが用いられている。なお、流量調節器16としては流量を調節することが可能であればニードルバルブに限定されず、例えば、キャピラリやマスフローコントローラ等が用いられてもよい。
【0055】
また、本ガス分析装置10は、第1流量計17a及び第2流量計17bが設けられていることにより、流量を確認することが可能であるが、例えば本ガス分析装置10の外部に流量計を設けることにより、第1流量計17a及び第2流量計17bを省略することも可能である。
【0056】
フィルタ13と温度・湿度センサ14の間と、第1流量計17aと第2流量調節器16bとの間は、分岐路19により短絡されている。そして、第1流量計17aと第2流量調節器16bとの間で、分岐路19を流通したサンプルガスが主流路12を流通したサンプルガスに合流するが、本実施形態では、主流路12を流通したサンプルガスの流量(流速)が50〜100mL/minであるのに対して、分岐路19を流通したサンプルガスの流量(流速)は500〜1000mL/minである。このため、サンプルガスの粘性により、主流路12を流通してきたサンプルガスは、分岐路19を流通してきたサンプルガスに引っ張られ、これにより主流路12を流れるサンプルガスの流速を向上することができる。従って、このような分岐路19を設けることにより、高速応答が可能となる。
【0057】
主流路12及び分岐路19は耐腐食性に優れたフッ素樹脂製管から構成されており、また、フィルタ13もフッ素樹脂によるコーティングが施されている。
【0058】
情報処理装置20は、CPUの他に、メモリ、キーボード等の入力手段、ディスプレイ等の出力手段等を備えた汎用乃至専用のものである。そして、メモリに格納した所定のプログラムに従ってCPUやその周辺機器を協働動作させることにより、この情報処理装置20は、前記流路系に設けられたバルブの開閉制御やヒータの温度制御を行う制御部71;温度・湿度センサ14やガスセンサ1から取得した測定結果データに所定の演算処理を施し、サンプルガス中のオゾン及びNOの濃度を算出する演算処理部等としての機能を発揮する。
【0059】
<第2実施形態>
以下に本発明の第2実施形態について図8を参照して説明する。なお、以下の説明中では第1実施形態と異なる点を中心に述べる。
【0060】
第2実施形態に係るガスセンサ1は、図8に示すように、NO検出用センサ素子5の下流側に、上流側から順に設けられた、酸化触媒部材6と、NO検出用センサ素子7(第3の半導体式ガスセンサ素子に相当)とを更に備えている。
【0061】
酸化触媒部材6は、白金(Pt)ウールやマンガン酸化物(γ−MnO)ウール等からなるものであり、サンプルガス中のNOをNOに酸化するものである。
【0062】
NO検出用センサ素子7としては、オゾン検出用センサ素子3及びNO検出用センサ素子5と同じ半導体式ガスセンサ素子が用いられる。
【0063】
本実施形態に係るガスセンサ1においては、酸化触媒部材6を通過したサンプルガス中のNOはNOに酸化されるので、NO検出用センサ素子7では、元来サンプルガスに含まれていたNOとNOとの両方が、NOとして検出される。このため、NO検出用センサ素子7の示す抵抗値からNO検出用センサ素子5の示す抵抗値を差し引くことによって、NOの濃度を測定することができる。
【0064】
したがって、このように構成した本実施形態に係るガスセンサ1によれば、サンプルガス中にオゾンとNOとNOとが共存していても、これら3つの物質の濃度を一台のガスセンサ1で測定することができる。
【0065】
<第3実施形態>
以下に本発明の第3実施形態について図9を参照して説明する。なお、以下の説明中では第1実施形態と異なる点を中心に述べる。
【0066】
第3実施形態に係るガスセンサ1では、図9に示すように、オゾン検出用センサ素子3が設けられずに、銀触媒部材4と並列に、直接サンプルガスをセンサ素子5に到達させる第2流路9が設けられており、主流路2と第2流路9との分岐点には第1切り替えバルブ8が設けられて、銀触媒部材4へのサンプルガスの流通と第2流路9へのサンプルガスの流通とを、例えば数分ごとに交互に切り替え可能に構成してある。
【0067】
本実施形態に係るガスセンサ1においては、サンプルガスが銀触媒部材4を通過するようにバルブ8を切り替えることにより、銀触媒部材4を通過したサンプルガス中のオゾンが酸素に還元され、これによりサンプルガス中からオゾンが除去されるので、センサ素子5でNOを検出することができる。一方、サンプルガスが第2流路9を通るようにバルブ8を切り替えることにより、センサ素子5でオゾンを検出することができる。
【0068】
従って、このように構成した本実施形態に係るガスセンサ1によれば、バルブ8を切り替えることにより、サンプルガス中にオゾンとNOが共存していても、1つのセンサ素子5のみで、これら2つの物質の濃度を測定することができる。
【0069】
<第4実施形態>
以下に本発明の第4実施形態について図10を参照して説明する。なお、以下の説明中では第3実施形態と異なる点を中心に述べる。
【0070】
第4実施形態に係るガスセンサ1では、図10に示すように、第3実施形態に係るガスセンサ1における銀触媒部材4とセンサ素子5との間であって、主流路2と第2流路9との合流点の下流側に、更に酸化触媒部材6が設けられ、酸化触媒部材6と並列に、酸化触媒部材6を通過せずに直接サンプルガスをセンサ素子5に到達させる第3流路11が設けられている。そして、酸化触媒部材6を通る主流路2と第3流路11との分岐点には第2切り替えバルブ10が設けられて、酸化触媒部材6へのサンプルガスの流通と第3流路11へのサンプルガスの流通とを、例えば数分ごとに交互に切り替え可能に構成してある。
【0071】
本実施形態に係るガスセンサ1においては、サンプルガスが酸化触媒部材6を通るようにバルブ10を切り替えることにより、酸化触媒部材6を通過したサンプルガス中のNOがNOに酸化されるので、センサ素子5では、元来サンプルガスに含まれていたNOとNOとの両方が、NOとして検出される。一方、サンプルガスが第3流路11を流れるようにバルブ10を切り替えることにより、センサ素子5でNO又はオゾンを検出することができる。そして、NOとNOとの両方をNOとして検出したときのセンサ素子5の抵抗値から、NOのみを検出したときのセンサ素子5の抵抗値を差し引くことによって、NOの濃度を測定することができる。
【0072】
したがって、このように構成した本実施形態に係るガスセンサ1によれば、バルブ8、10を切り替えることにより、サンプルガス中にオゾンとNOとNOとが共存していても、1つのセンサ素子5のみで、これら3つの物質の濃度を測定することができる。
【0073】
なお、本発明は前記実施形態に限られるものではない。
【0074】
例えば、前期実施形態ではサンプルガスに含まれる各物質を拡散によりガス感応膜107に接触させているが、図11に示すように、サンプルガスがセンサ感応膜107に直接吹き付けられるように構成してもよい。
【0075】
銀触媒部材4は、内部にサンプルガスが通過可能な間隙が形成されており、少なくとも当該間隙の表面に銀が露出しているものであれば、銀ウールに限定されるものではなく、例えば、多孔質からなる担体に銀粒子が担持されているもの等であってもよい。
【0076】
本発明に係るガスセンサ1は、銀触媒部材4を通過したサンプルガスをセンサ素子5の被検ガスとすることにより、当該サンプルガス中のNOに対するセンサ素子5の検出感度が著しく向上したものであるので、センサ素子5のガス感応膜107は六方晶WO結晶を含む単斜晶WOからなるものに限定されず、六方晶WO結晶を含む単斜晶WOからなるガス感応膜107に比べれば低濃度NOに対する検出感度に劣る、単斜晶WOのみからなるガス感応膜107を用いることもできる。
【0077】
また、サンプルガス中のNOの濃度だけが測定できればよく、オゾンの濃度を測定する必要がない場合、ガスセンサ1は、図12に示すように、第1実施形態に係るガスセンサ1からオゾン検出用センサ素子3を除いた構成を有するものであってもよい。
【0078】
その他、前述した実施形態や変形実施形態の一部又は全部を適宜組み合わせてもよく、その趣旨を逸脱しない範囲で種々の変形が可能であるのは言うまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0079】
このように本発明によれば、低濃度のNOを高感度に検出できる。
【符号の説明】
【0080】
1・・・ガスセンサ
2・・・主流路
4・・・銀触媒部材
5・・・NO検出用センサ素子(第1の半導体式ガスセンサ素子)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部にサンプルガスが通過可能な間隙が形成されており、少なくとも前記間隙の表面に銀が表出している銀触媒部材と、
n型酸化物半導体からなるガス感応膜が形成されている第1の半導体式ガスセンサ素子と、
前記銀触媒部材と前記第1の半導体式ガスセンサ素子とを連通して、前記銀触媒部材から前記第1の半導体式ガスセンサ素子に向かう方向へサンプルガスを流通させる主流路と、
を少なくとも備えていることを特徴とするガスセンサ。
【請求項2】
前記ガス感応膜が、酸化タングステンからなる請求項1記載のガスセンサ。
【請求項3】
前記主流路を介して前記銀触媒部材の上流側に設けられた、n型酸化物半導体からなるガス感応膜が形成されている第2の半導体式ガスセンサ素子を更に備えている請求項1又は2記載のガスセンサ。
【請求項4】
前記主流路から分岐して前記銀触媒部材と並列に設けられ、前記銀触媒部材を経由せずにサンプルガスを前記第1の半導体式ガスセンサ素子に到達させる第2の流路を更に備えている請求項1又は2記載のガスセンサ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2011−75545(P2011−75545A)
【公開日】平成23年4月14日(2011.4.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−158694(P2010−158694)
【出願日】平成22年7月13日(2010.7.13)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成21年度、環境省、環境研究・技術開発推進費による委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000155023)株式会社堀場製作所 (638)
【Fターム(参考)】