説明

ガスセンサ

【課題】導電性高分子膜を用いた小型かつ安価なガスセンサであって、特に、湿度変化に対する安定性が高く、アンモニアやアルコール等のにおい成分の選択的な検出が可能で、車載用として好適なガスセンサを提供する。
【解決手段】基板10上に設けられた一対の電極12a,12bおよび13a,13bの間に、導電性高分子膜20が形成されてなり、導電性高分子膜20にガス成分が付着した際の抵抗値変化を測定して、該ガス成分の濃度を検出するガスセンサであって、導電性高分子膜20が、ガス成分の付着により抵抗値が変化するアニオン性高分子感ガス膜32と、アニオン性高分子感ガス膜32の電荷を打ち消すカチオン性高分子膜31との、第1の交互積層膜41を有してなるガスセンサ100とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電性高分子膜を用いたガスセンサに関するもので、特に、アンモニアやアルコール等のにおい成分の検出に効果的なガスセンサに関する。
【背景技術】
【0002】
におい成分の検出に効果的なガスセンサが、例えば、特開平11−23508号公報(特許文献1)、特開平11−72453号公報(特許文献2)、特開2004−271482号公報(特許文献3)、特開2009−145136号公報(特許文献4)および特開2009−236857号公報(特許文献5)に開示されている。
【0003】
特許文献1,2に記載されたガスセンサは、例えばポリ(3−アルキルチオフェン)を主鎖とする導電性高分子にドーパントを添加して導電率を高めたガスセンサで、酢酸ブチル等のにおい成分の付着に対して抵抗変化し、所定の導電率の範囲(10−1〜10−5〔S/cm〕)において比較的高い検出感度が得られている。
【0004】
特許文献3,4に記載されたガスセンサは、層状構造を持つ酸化モリブデン(MoO)の層間に有機化合物を挿入したガスセンサで、上記と同様に抵抗値の変化によりガスを検知し、特にアルデヒド系のガスに対して高い選択性を有している。
【0005】
一方、特許文献5に記載されたガスセンサは、光ファイバを利用してガスや湿度を検知する雰囲気センサで、光ファイバのコア露出部にカチオン性化合物膜とアニオン性化合物膜の交互積層部を形成し、におい成分のガス分子が該交互積層部に吸着されると特有の光吸収帯においてコアを通過する光の吸収率が増幅されることで、ガスや湿度を高感度で検知することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平11−23508号公報
【特許文献2】特開平11−72453号公報
【特許文献3】特開2004−271482号公報
【特許文献4】特開2009−145136号公報
【特許文献5】特開2009−236857号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記した特許文献5に記載のガスセンサは、感ガス部の交互積層部が、カチオン性化合物とアニオン性化合物の静電気力により分子の集合化及び組織化が行われているので、膜の強度が高く耐久性に優れる。また、カチオン性化合物とアニオン性化合物の希薄液に交互に浸し、コア上に電解質ポリマーを自発的に吸着させるという簡単な操作で成膜できるので、材料を分子レベルで制御するのが容易で、生産性にも優れる。一方、該ガスセンサは、光を検出プローブとしているため、光源と受光装置が必要で、全体としては大型の装置になってしまう。
【0008】
これに対して、上記した特許文献1〜4に記載のガスセンサは、導電性高分子膜や層状構造を持つ無機化合物にドーパントを導入し、ガスの付着による抵抗値変化を利用して、におい成分である微量のガス成分を高い感度で検出することができる。該ガスセンサは、上記した特許文献5に記載のガスセンサや従来のガスクロマトグラフィによる分析に較べて、小型・安価である。また、該ガスセンサは、従来の金属酸化物(n型半導体)を用いたガスセンサにはないガス選択性を有しており、ドーパントを適宜選定することにより、多種類のにおい成分を検出することが可能である。
【0009】
一方、導電性高分子膜や層状構造を持つ無機化合物にドーパントを導入した特許文献1〜4に記載のガスセンサでは、時間経過に伴い導電率が変動し、検出感度が低下するという問題がある。このため、特許文献1,2に記載されたガスセンサでは、ドーパントとして分子が比較的大きなポリ酸又はポリ酸塩を導電性高分子膜中に導入し、導電性高分子と電気的に結合して、ドーパントの脱落や移動が起こりにくい構成を採用している。また、特許文献3,4に記載されたガスセンサでは、空気のような酸素を含む雰囲気下で使用する場合、動作温度における飽和酸素吸着量以上の酸素を予め吸着させておくことで、電気的抵抗のドリフトを抑制するようにしている。
【0010】
ここで、特許文献1〜4に記載の小型のガスセンサを車室内のにおい成分の検出に適用しようとする場合、さらに、次の2つの要件が重要となる。第1の要件は、湿度変化に対する安定性である。車載用のにおいセンサは、例えば住宅に設置されるにおいセンサと較べて、特に湿度変化の激しい過酷な環境下で使用されるためである。第2の要件は、ガス選択性で、特に、不快臭成分であるアンモニアと安全性確保のためのアルコールに対する選択的な検出が求められる。
【0011】
そこで本発明は、導電性高分子膜を用いた小型かつ安価なガスセンサを提供することを目的とし、特に、湿度変化に対する安定性が高く、アンモニアやアルコール等のにおい成分の選択的な検出が可能で、車載用として好適なガスセンサを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
請求項1に記載のガスセンサは、基板上に設けられた一対の電極の間に、導電性高分子膜が形成されてなり、前記導電性高分子膜にガス成分が付着した際の抵抗値変化を測定して、該ガス成分の濃度を検出するガスセンサであって、前記導電性高分子膜が、前記ガス成分の付着により抵抗値が変化するアニオン性高分子感ガス膜と、前記アニオン性高分子感ガス膜の電荷を打ち消すカチオン性高分子膜との、第1の交互積層膜を有してなることを特徴としている。
【0013】
上記ガスセンサは、基板上に設けられた一対の電極の間に導電性高分子膜が形成され、該導電性高分子膜にガス成分が付着した際の抵抗値変化を測定してガス成分の濃度を検出する、小型のガスセンサである。
【0014】
また、上記ガスセンサにおいて一対の電極の間に形成される導電性高分子膜は、ガス成分の付着により抵抗値が変化するアニオン性高分子感ガス膜と、該アニオン性高分子感ガス膜の電荷を打ち消すカチオン性高分子膜との、第1の交互積層膜を有している。該第1の交互積層膜は、カチオン性高分子膜とアニオン性高分子(感ガス)膜の静電気力により分子の集合化及び組織化が行われているので、膜の強度が高く耐久性に優れ、任意の厚さに形成可能である。また、該第1の交互積層膜は、カチオン性化合物とアニオン性化合物の希薄液に交互に浸し、基板上に電解質ポリマーを自発的に吸着させるという簡単な操作で成膜して形成できるので、材料を分子レベルで制御するのが容易で、生産性にも優れる。従って、上記ガスセンサは、安価に製造することが可能である。
【0015】
さらに、上記ガスセンサにおいては、後述するようにアニオン性高分子感ガス膜を構成する高分子の種類や金属錯体等のドーパントを適宜選択することによって、種々のにおい成分である微量のガス成分を高い感度で検出することができる。
【0016】
以上のようにして、上記ガスセンサは、導電性高分子膜を用いた小型かつ安価なガスセンサで、におい成分を選択的に検出可能なガスセンサとすることができる。
【0017】
上記ガスセンサにおいて、第1の交互積層膜を構成するアニオン性高分子感ガス膜とカチオン性高分子膜は、それぞれ1層ずつであってもよいが、請求項2に記載のように、前記第1の交互積層膜において、前記アニオン性高分子感ガス膜と前記カチオン性高分子膜が、それぞれ、複数層配置されてなることが好ましい。これによれば、アニオン性高分子感ガス膜とカチオン性高分子膜をそれぞれ1層ずつとする場合に較べて、ガス成分の検出感度を高めることができると共に、第1の交互積層膜の抵抗値が下がって測定精度も高めることができる。
【0018】
また、この場合には、請求項3に記載のように、前記第1の交互積層膜において、前記アニオン性高分子感ガス膜の配置数が、10層以下であることが好ましい。アニオン性高分子感ガス膜の配置数を増やしていくと、上記したようにガス成分の検出感度と測定精度を高めることができるが、10層より多くしても上記検出感度と測定精度の向上が飽和してしまうためである。
【0019】
上記ガスセンサにおいては、請求項4に記載のように、前記導電性高分子膜が、前記抵抗値変化の湿度依存性を抑制するためのアニオン性高分子耐湿膜と、前記カチオン性高分子膜との、第2の交互積層膜を有してなり、前記第2の交互積層膜が、前記第1の交互積層膜と積層されてなることが好ましい。
【0020】
上記したアニオン性高分子感ガス膜の中には、大気中に含まれる水分が付着した際の抵抗値変化を測定して、湿度センサとして利用可能な材料がある。しかしながら、上記ガスセンサにおいて水分以外のガス成分を検出しようとする場合には、湿度の影響で正確な測定ができなくなってしまう。このため、上記のようにアニオン性高分子耐湿膜を構成要素とする第2の交互積層膜を第1の交互積層膜と積層して、該第2の交互積層膜を水分に対するバリヤ部として機能させることで、湿度依存性が抑制され、正確なガス濃度の測定が可能となる。
【0021】
尚、前述した第1の交互積層膜と同様に、上記第2の交互積層膜も、カチオン性高分子膜とアニオン性高分子(耐湿)膜の静電気力により分子の集合化及び組織化が行われているので、膜の強度が高く耐久性に優れ、任意の厚さに形成可能である。また、該第2の交互積層膜は、カチオン性化合物とアニオン性化合物の希薄液に交互に浸し、基板上に電解質ポリマーを自発的に吸着させるという簡単な操作で成膜して形成できるので、材料を分子レベルで制御するのが容易で、生産性にも優れる。
【0022】
上記したように第1の交互積層膜と第2の交互積層膜の積層体で電極上に形成する導電性高分子膜を構成する場合には、請求項5に記載のように、前記第2の交互積層膜が、前記電極と前記第1の交互積層膜の間に挿入されてなることが好ましい。
【0023】
これによれば、感ガス部である第1の交互積層膜は、第2の交互積層膜が無い場合と同様にガス成分を吸着できるため、水分に対するバリヤ部である第2の交互積層膜を挿入しても第1の交互積層膜の機能が阻害されることはなく、高感度でガス成分を検出することができる。
【0024】
上記ガスセンサにおいて、第2の交互積層膜を構成するアニオン性高分子耐湿膜とカチオン性高分子膜は、それぞれ1層ずつであってもよいが、請求項6に記載のように、前記第2の交互積層膜において、前記アニオン性高分子耐湿膜と前記カチオン性高分子膜が、それぞれ、複数層配置されてなることが好ましい。
【0025】
これによれば、アニオン性高分子耐湿膜とカチオン性高分子膜をそれぞれ1層ずつとする場合に較べて、水分に対するバリヤ部として機能を高めることができる。
【0026】
この場合には、請求項7に記載のように、前記アニオン性高分子耐湿膜の配置数が、5層以下であることが好ましい。アニオン性高分子耐湿膜の配置数を増やしていくと、上記した水分に対するバリヤ部として機能を高めることができるが、5層より多くしても該機能が飽和してしまうためである。
【0027】
また、請求項8に記載のように、前記第2の交互積層膜における前記アニオン性高分子耐湿膜の配置数が、前記第1の交互積層膜における前記アニオン性高分子感ガス膜の配置数以上であるように構成することが好ましい。これによれば、第2の交互積層膜による水分に対するバリヤ部として機能と第1の交互積層膜による感ガス部として機能を、好適にバランスさせることができる。
【0028】
前記アニオン性高分子耐湿膜は、例えば請求項9に記載のように、ポリスチレンスルホン酸ナトリウム膜(PSS膜)とすることができる。
【0029】
上記ガスセンサにおいては、請求項10に記載のように、前記カチオン性高分子膜が、前記電極に接する最下層に配置されてなることが好ましい。
【0030】
上記ガスセンサにおける導電性高分子膜の成膜前の電極が配置された基板表面は、ピラナ処理(96%の硫酸と30%の過酸化水素水溶液の3:1混合溶液)等の工程によって水酸基を付加した状態が好ましく、この場合には正電荷を帯びたカチオン性高分子膜を成膜し易いためである。
【0031】
また、上記ガスセンサにおいては、請求項11に記載のように、前記アニオン性高分子感ガス膜が、前記電極と反対側の最上層に配置されてなることが好ましい。カチオン性高分子膜を最上層に配置する場合に較べて、ガス成分を効率よく吸着でき、高感度にできるためである。
【0032】
上記ガスセンサにおける前記アニオン性高分子感ガス膜は、例えば請求項12に記載のように、テトラキススルホフェニルポルフィリン膜(TSPP膜)、金属錯体TSPP膜、ペルオキソ二硫酸アンモニウム膜およびアニリン膜のいずれかとすることができる。
【0033】
また、上記金属錯体TSPP膜は、例えば請求項13に記載のように、コバルト錯体TSPP膜(Co錯体TSPP膜)とすることができる。
【0034】
TSPP膜は、アンモニア(NH)に対して高感度である。また、金属のドーパントを適宜選択して金属錯体TSPP膜とすることで、種々の微量のガス成分を高感度で検出することができる。例えば、Co錯体TSPP膜の場合、エタノールとメタノールに対して高感度である。ペルオキソ二硫酸アンモニウム膜は、エタノールに対して高感度である。アニリン膜は、エタノールとメタノールに対して高感度である。
【0035】
上記ガスセンサにおける前記カチオン性高分子膜は、例えば請求項14に記載のように、ポリジアリルジメチルアンモニウムクロライド膜(PDDA膜)とすることができる。
【0036】
上記ガスセンサにおける前記一対の電極は、ピラナ処理等の洗浄工程でエッチングされない材料であることが望ましく、例えば請求項15に記載のように、単結晶シリコン、多結晶シリコン、タンタル(Ta)、タングステン(W)およびモリブデン(Mo)のいずれかとすることが好ましい。
【0037】
また、請求項16に記載のように、前記一対の電極が、それぞれ櫛歯状であり、互いの櫛歯が噛み合って対向するように配置されてなる構成とすることが、該電極の間への上記導電性高分子膜の形成が容易であり、櫛歯の間隔や長さで上記導電性高分子膜の任意の抵抗値設定が可能である点で、より好ましい。
【0038】
この場合、請求項17に記載のように、前記一対の電極において、前記櫛歯の間隔が、加工が容易な0.5μm以上で、抵抗値設定が容易で抵抗値変化を検知し易い300μm以下が好適である。
【0039】
以上のようにして、上記したガスセンサは、導電性高分子膜を用いた小型かつ安価なガスセンサであって、特に、湿度変化に対する安定性が高く、アンモニアやアルコール等の微量なガス成分を選択的に検出することができる。
【0040】
従って、上記したガスセンサは、請求項18に記載のように、室内のにおい成分を検出する、においセンサとして好適であり、特に請求項19に記載のように、車室内に設置され、湿度変化の大きい環境下で使用される、車載用として好適である。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本発明に係るガスセンサの一例を示した図で、(a)は、ガスセンサ100の上面図であり、(b),(c)は、それぞれ、(a)における一点鎖線A−Aでの断面を拡大して示した図である。
【図2】図1のガスセンサ100における一対の電極13a,13bのサイズの一例を示す図で、図1(a)にある導電性高分子膜20を除いた電極基板14の上面図である。
【図3】TSPPの分子構造を示す図である。
【図4】PDDAの分子構造を示す図である。
【図5】(a),(b)は、それぞれ上記した図1に示すガスセンサ100の変形例を示す図で、ガスセンサ101,102の断面を拡大して示した図である。
【図6】(a)〜(c)は、それぞれ、上記したガスセンサ100〜102の製造における主な工程を説明する図である。
【図7】アニオン性高分子感ガス膜32をTSPP膜、カチオン性高分子膜31をPDDA膜として、積層単位数に対する抵抗値の依存性の一例を示した図である。
【図8】アニオン性高分子感ガス膜32をTSPP膜、カチオン性高分子膜31をPDDA膜として、積層単位数をパラメータとし、アンモニア(NH)濃度に対する抵抗値変化の一例を示した図である。(a)は、各NH濃度の雰囲気中に晒して5分後の過渡特性であり、(b)は、抵抗値変化が飽和するまで各NH濃度の雰囲気中に晒した時の飽和特性である。
【図9】NHの存在下でTSPP膜の抵抗値が低下する機構を考察した図で、(a)は、TSPPのプロトン化を示した図であり、(b)は、アンモニアガス検知メカニズム化を示した図である。
【図10】湿度変化に対する安定性を高めることができる、より好ましいガスセンサの一例を示した図で、ガスセンサ110の断面を拡大して示した図である。
【図11】PSSの分子構造を示す図である。
【図12】(a)〜(c)は、それぞれ図12に示すガスセンサ110の変形例を示す図で、ガスセンサ111〜112の断面を拡大して示した図である。
【図13】第2の交互積層膜42の機能を説明する図で、(a)は、第2の交互積層膜42の積層単位数をパラメータとして、湿度に対する抵抗値変化の一例を示した図である。また、(b)は、第2の交互積層膜42が水分に対するバリヤ部として機能する様子を模式的に示した図である。
【図14】PSS膜の湿度依存性軽減メカニズムを考察した図で、(a)は、PDDA/PSSの積層単位数が1に対応した膜が薄くて粗な場合であり、(b)は、PDDA/PSSの積層単位数が3〜5に対応した膜が厚くて密な場合である。
【図15】アニオン性高分子感ガス膜32をコバルト錯体TSPP膜(Co錯体TSPP膜)として、ベンゼン、アセトン、メタノールおよびエタノールの各微量ガス成分雰囲気中に晒した場合について、抵抗値変化の経過時間依存性の一例を示した図である。
【図16】アニオン性高分子感ガス膜32をペルオキソ二硫酸アンモニウム膜として、ベンゼン、アセトン、メタノールおよびエタノールの各微量ガス成分雰囲気中に晒した場合について、抵抗値変化の経過時間依存性の一例を示した図である。
【図17】アニオン性高分子感ガス膜32をアニリン膜として、ベンゼン、アセトン、メタノールおよびエタノールの各微量ガス成分雰囲気中に晒した場合について、抵抗値変化の経過時間依存性の一例を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0042】
以下、本発明を実施するための形態を、図に基づいて説明する。
【0043】
図1は、本発明に係るガスセンサの一例を示した図で、図1(a)は、ガスセンサ100の上面図であり、図1(b),(c)は、それぞれ、図1(a)における一点鎖線A−Aでの断面を拡大して示した図である。
【0044】
図1に示すガスセンサ100は、基板10上に設けられた一対の電極12a,12bおよび13a,13bの間に導電性高分子膜20が形成され、導電性高分子膜20にガス成分が付着した際の抵抗値変化を測定して、該ガス成分の濃度を検出する。尚、図1(b)では、櫛歯状の一対の電極12a,12bをシリコンからなる基板10上に形成されたシリコン酸化膜11上に形成しており、図1(c)では、一対の電極13a,13bをシリコン酸化膜11中に埋め込んで、電極13a,13bとシリコン酸化膜11の表面を平坦に形成している。
【0045】
また、図1に示すガスセンサ100の導電性高分子膜20は、ガス成分の付着により抵抗値が変化するアニオン性高分子感ガス膜32と、アニオン性高分子感ガス膜32の電荷を打ち消すカチオン性高分子膜31との、第1の交互積層膜41からなる。
【0046】
図1のガスセンサ100において、導電性高分子膜20の抵抗値を測定する一対の電極は、図1(b)の電極12a,12bのようにシリコン酸化膜11上に形成されていてもよいし、SOI基板を用いて単結晶シリコンで形成されていてもよいし、図1(c)の電極13a,13bのようにシリコン酸化膜11中に埋め込まれていてもよい。図1(b)に示すように、一対の電極12a,12bをシリコン酸化膜11上に形成する場合には、電極12a,12bの形成が容易で、電極12a,12bを安価に形成することができる。一方、導電性高分子膜20である第1の交互積層膜41の個々のアニオン性高分子感ガス膜32やカチオン性高分子膜31は、1層がそれぞれ1nm程度の薄い膜である。このため、図1(c)に示すように、一対の電極12a,12bをシリコン酸化膜11中に埋め込んで、電極13a,13bとシリコン酸化膜11の表面を平坦に形成するようにしてもよい。これによれば、図1(b)のようなシリコン酸化膜11と電極12a,12bの段差を無くすことができ、このような段差に伴う導電性高分子膜20の膜形成等の不具合を抑制することができる。尚、以降の説明では、アニオン性高分子感ガス膜32とカチオン性高分子膜31の積層状態が見易いため、図1(c)の電極構成の図を用いる。
【0047】
図2は、図1のガスセンサ100における一対の電極13a,13bのサイズの一例を示す図で、図1(a)にある導電性高分子膜20を除いた電極基板14の上面図である。
【0048】
図1のガスセンサ100における一対の電極12a,12bおよび13a,13bは、図2の電極基板14に示すように、それぞれ櫛歯状であり、互いの櫛歯が噛み合って対向するように配置されている。導電性高分子膜20の抵抗値を測定する一対の電極は、図2のような櫛歯状の電極構成に限らず、例えば導電性高分子膜20を一対の電極でサンドイッチするような電極構成であってもよい。しかしながら、図2のような櫛歯状の電極構成は、電極13a,13bの間への導電性高分子膜20の形成が容易であり、櫛歯の間隔や長さで導電性高分子膜20の任意の抵抗値設定が可能である点で、より好ましい電極構成である。
【0049】
図2のような櫛歯状の電極構成を採用する場合には、一対の電極13a,13bにおいて、櫛歯の間隔Wsは、加工が容易な0.5μm以上で、抵抗値設定が容易で抵抗値変化を検知し易い300μm以下が好適である。図2に示す一対の電極13a,13bでは、櫛歯の幅Wmを10μm、櫛歯の間隔Wsを10μm、および1本の櫛歯の概略長さLdを7000μmとしている。
【0050】
また、図1のガスセンサ100における一対の電極12a,12bおよび13a,13bは、後述するように、ピラナ処理等の洗浄工程でエッチングされない材料であることが望ましい。このため、例えば、単結晶シリコン、多結晶シリコン、タンタル(Ta)、タングステン(W)およびモリブデン(Mo)のいずれかとすることが好ましい。
【0051】
尚、図1のガスセンサ100では、シリコンからなる基板10上にシリコン酸化膜11が形成された基板を用いている。一対の電極12a,12bおよび13a,13bを形成する基板についても、ピラナ処理に耐性がある材料が好ましく、上記基板以外に、ガラスや樹脂フィルムを基板として用いてもよい。
【0052】
図1のガスセンサ100におけるアニオン性高分子感ガス膜32は、例えばテトラキススルホフェニルポルフィリン膜(TSPP膜)とすることができる。
【0053】
図3は、TSPPの分子構造を示す図である。TSPP膜は、後述するように、微量のアンモニア(NH)雰囲気中で抵抗値変化し、NHに対して高い感度を有している。また、ピロール環中の水素(H)を金属で置き換えた金属錯体TSPP膜とすることで、種々のガス成分の選択的な検出が可能となる。
【0054】
図1のガスセンサ100におけるカチオン性高分子膜31は、例えばポリジアリルジメチルアンモニウムクロライド膜(PDDA膜)とすることができる。
【0055】
図4は、PDDAの分子構造を示す図である。
【0056】
また、図1(b),(c)ではアニオン性高分子感ガス膜32とカチオン性高分子膜31がそれぞれ交互に2層ずつ配置された第1の交互積層膜41が例示されているが、第1の交互積層膜41を構成するアニオン性高分子感ガス膜32とカチオン性高分子膜31は、それぞれ1層ずつであってもよい。また、第1の交互積層膜41におけるアニオン性高分子感ガス膜32とカチオン性高分子膜31は、交互配置であれば2層に限らず、それぞれ3以上の複数層配置されてなる構成であってもよい。
【0057】
図5(a),(b)は、それぞれ上記した図1に示すガスセンサ100の変形例を示す図で、ガスセンサ101,102の断面を拡大して示した図である。尚、図5(a),(b)に示すガスセンサ101,102の平面図は、図1(a)と同様である。図5(a),(b)は、それぞれ図1(c)と対応しており、図5(a),(b)において、図1(c)と同様の部分については同じ符号を付した。
【0058】
図1に示したガスセンサ100の導電性高分子膜20(第1の交互積層膜41)では、アニオン性高分子感ガス膜32とカチオン性高分子膜31がそれぞれ交互に2層配置されていた。言い換えれば、隣接するアニオン性高分子感ガス膜32とカチオン性高分子膜31を1積層単位とすると、図1のガスセンサ100における第1の交互積層膜41は、2積層単位で構成されている。
【0059】
これに対して、図5(a)のガスセンサ101における第1の交互積層膜41は、1積層単位U1で構成されている。また、図5(b)のガスセンサ102における第1の交互積層膜41は、5積層単位U1〜U5で構成されている。
【0060】
次に、図1および図5に示したガスセンサ100〜102の製造方法を説明する。
【0061】
図6(a)〜(c)は、それぞれ、上記したガスセンサ100〜102の製造における主な工程を説明する図である。
【0062】
図6(a)は、ピラナ処理工程を示す図である。図6(a)の左図に示すように、図2に示した一対の電極13a,13bが形成された電極基板14を、ピラナ(HSO:H=3:1)溶液Pに浸漬して、ピラナ処理する。このピラナ処理の後、メルカプトエタンスルホン酸ナトリウム(分子量Mr=164.18、東京化成工業製)のエタノール溶液(10mmol/L)に12時間浸漬して、電極基板14の表面をスルホン酸アニオン修飾する。次に、エタノール及びイオン交換水で十分洗浄した後、窒素ガスを吹き付けて乾燥させる。これによって、図6(a)の右図に示すように、表面に水酸基を有する基板14aとする。
【0063】
図6(b)は、図4の分子構造を有したPDDA膜(カチオン性高分子膜)31の形成工程を示す図である。図6(b)の左図に示すように、ポリジアリルジメチルアンモニウムクロライド(PDDA、分子量Mr=200000−350000、20wt%水溶液、東京化成工業製)(カチオン性高分子)の水溶液(5mg/mL)Cに、図6(a)の右図に示した基板14aを20分間浸漬する。その後、イオン交換水で十分洗浄し、窒素ガスを吹き付けて乾燥させ、表面にPDDA膜(カチオン性高分子膜)31を形成した基板14bとする。
【0064】
図6(c)は、図3の分子構造を有したTSPP膜(アニオン性高分子感ガス膜)32の形成工程を示す図である。図6(c)の左図に示すように、テトラキススルホフェニルポルフィリン(TSPP、分子量Mr=934.99、東京化成工業製)(アニオン性高分子)の水溶液(1mmol/L)Aに、図6(b)の右図に示した基板14bを20分間浸漬した後、イオン交換水で十分洗浄し、窒素ガスを吹き付けて乾燥させ、PDDA膜(カチオン性高分子膜)31の上にTSPP膜(アニオン性高分子感ガス膜)32を形成した基板14cとする。
【0065】
以上のようにして、図6(b)のPDDA膜(カチオン性高分子膜)31の形成工程と図6(c)のTSPP膜(アニオン性高分子感ガス膜)32の形成工程を交互に繰り返すことで、図1および図5に示した導電性高分子膜20(第1の交互積層膜41)を有したガスセンサ100〜102を製造することができる。
【0066】
図7は、アニオン性高分子感ガス膜32をTSPP膜、カチオン性高分子膜31をPDDA膜として、前述した積層単位数に対する抵抗値の依存性の一例を示した図である。
【0067】
図7に示すように、PDDA/TSPPの積層単位数を増して第1の交互積層膜41の厚さを厚くしていくと、それに従って抵抗値が減少する。しかしながら、積層単位数が5以上では、抵抗値の減少も次第に緩やかになる。
【0068】
図8は、アニオン性高分子感ガス膜32をTSPP膜、カチオン性高分子膜31をPDDA膜として、前述した積層単位数をパラメータとし、アンモニア(NH)濃度に対する抵抗値変化の一例を示した図である。図8(a)は、各NH濃度の雰囲気中に晒して5分後の過渡特性であり、図8(b)は、抵抗値変化が飽和するまで各NH濃度の雰囲気中に晒した時の飽和特性である。
【0069】
図8に示すように、PDDA/TSPPの積層単位で構成される導電性高分子膜20(第1の交互積層膜41)は、微量のNHを含む雰囲気中に晒すと抵抗値が変化し、NHに対して感度を有する。図8(a)に示すように、PDDA/TSPPの積層単位数が1の場合には抵抗値変化は小さいが、PDDA/TSPPの積層単位数を3〜5とした場合には、大きな抵抗値変化が得られ、感度の高いガスセンサとすることができる。一方、図8(b)に示すように、PDDA/TSPPの積層単位数をさらに10まで大きくしていくと、抵抗値変化は再び小さくなって、感度が下がってしまう。これは、積層単位数を大きくして導電性高分子膜20(第1の交互積層膜41)が厚くなり過ぎると、電極13a,13bに近いTSPP膜(アニオン性高分子感ガス膜)32でのNHの吸着が抑制されて、抵抗値変化が小さくなることに起因すると考えられる。
【0070】
図9は、NHの存在下でTSPP膜の抵抗値が低下する機構を考察した図で、図9(a)は、TSPPのプロトン化を示した図であり、図9(b)は、アンモニアガス検知メカニズム化を示した図である。
【0071】
図9(a)の上図に示すように、ポルフィリンは、4つのピロールが持つπ電子の共役構造により、豊富に電子を持つ。このピロール環中では、共鳴構造を取りやすく、π電子の移動が活発である。この様子を、矢印の右に模式的に示している。TSPP膜を電極上に作製した場合、上記したピロール環中の活発なπ電子の移動で、また、NHのガス分子が吸着すると抵抗値の変化が生じ、これによって測定対象に対する感度が得られる。
【0072】
より詳細に説明すると、ポルフィリンは、溶液中と膜作製時とで分子構造が異なることが明らかにされている。図9(a)は、溶液中(上図)および膜作製時(下図)の分子構造の違いを示している。分子構造で異なる部分は、中心のピロールがプロトン化されているかどうかの違いであるが、このプロトン化が、重要な検知メカニズムの1つであると考えられる。
【0073】
プロトン化されたポルフィリンの集合体においては、図9(b)の左上図に示すように、ピロール環の中心にあるプロトンが、静電相互作用で、別のポルフィリンのスルホン酸イオンと、J会合という超分子構造を取る。アンモニアガスがこの超分子に近づくと、図9(b)の右下図に示すように、超分子構造が崩れ、アンモニアガスがピロールのプロトンを奪う。この時、アンモニアガスはプロトンを得てアンモニウム塩(NH)となり、膜中に吸着する。NHの存在下でTSPP膜の抵抗値が低下する機構は、このアンモニウム塩(NH)の吸着によって、膜中の電子が増加することによると考えられる。
【0074】
以上に示したように、図1〜図9で例示したガスセンサ100〜102は、基板10上に設けられた一対の電極12a,12bおよび13a,13bの間に導電性高分子膜20が形成され、該導電性高分子膜20にガス成分が付着した際の抵抗値変化を測定してガス成分の濃度を検出する、小型のガスセンサである。
【0075】
また、上記ガスセンサ100〜102において一対の電極12a,12bおよび13a,13bの間に形成される導電性高分子膜20は、ガス成分の付着により抵抗値が変化するアニオン性高分子感ガス膜32と、該アニオン性高分子感ガス膜32の電荷を打ち消すカチオン性高分子膜31との、第1の交互積層膜41を有している。該第1の交互積層膜41は、カチオン性高分子膜31とアニオン性高分子(感ガス)膜32の静電気力により分子の集合化及び組織化が行われているので、膜の強度が高く耐久性に優れ、任意の厚さに形成可能である。また、該第1の交互積層膜41は、図6に示したように、カチオン性化合物とアニオン性化合物の希薄液に交互に浸し、基板上に電解質ポリマーを自発的に吸着させるという簡単な操作で成膜して形成できるので、材料を分子レベルで制御するのが容易で、生産性にも優れる。従って、上記ガスセンサ100〜102は、安価に製造することが可能である。
【0076】
さらに、上記ガスセンサ100〜102においては、後述するようにアニオン性高分子感ガス膜を構成する高分子の種類や金属錯体等のドーパントを適宜選択することによって、種々のにおい成分である微量のガス成分を高い感度で検出することができる。
【0077】
また、上記ガスセンサ100〜102において、第1の交互積層膜41を構成するアニオン性高分子感ガス膜32とカチオン性高分子膜31は、図5(a)に示したように、それぞれ1層ずつであってもよい。しかしながら、図1や図5(b)に示したガスセンサ100,102のように、第1の交互積層膜41において、アニオン性高分子感ガス膜32とカチオン性高分子膜31が、それぞれ、複数層配置されてなることが好ましい。これによれば、図8に示したように、アニオン性高分子感ガス膜32とカチオン性高分子膜31をそれぞれ1層ずつとする場合に較べて、ガス成分の検出感度を高めることができると共に、第1の交互積層膜41の抵抗値が下がって測定精度も高めることができる。
【0078】
また、この場合には、第1の交互積層膜41において、アニオン性高分子感ガス膜32の配置数が、10層以下であることが好ましい。アニオン性高分子感ガス膜32の配置数を増やしていくと、上記したようにガス成分の検出感度と測定精度を高めることができるが、図8(b)に示したように、10層より多くしても上記検出感度と測定精度の向上が飽和してしまうためである。
【0079】
さらに、上記ガスセンサ100〜102においては、いずれも、カチオン性高分子膜31が、電極12a,12bおよび13a,13bに接する最下層に配置されていた。上記ガスセンサ100〜102における導電性高分子膜20の成膜前の電極12a,12bおよび13a,13bが配置された基板表面は、図6(a)に示したように、ピラナ処理(96%の硫酸と30%の過酸化水素水溶液の3:1混合溶液)等の工程によって水酸基を付加した状態が好ましく、この場合には正電荷を帯びたカチオン性高分子膜31を成膜し易いためである。しかしながらこれに限らず、成膜前の基板表面を別の状態に処理する場合には、アニオン性高分子感ガス膜32を最下層に配置するようにしてもよい。
【0080】
また、上記ガスセンサ100〜102においては、いずれも、アニオン性高分子感ガス膜32が、電極12a,12bおよび13a,13bと反対側の最上層に配置されていた。これによれば、カチオン性高分子膜31を最上層に配置する場合に較べて、ガス成分を効率よく吸着でき、高感度にできるためである。しかしながらこれに限らず、例えばアニオン性高分子感ガス膜32上に保護膜が必要となるような場合には、カチオン性高分子膜31を最上層に配置するようにしてもよい。
【0081】
以上のようにして、上記ガスセンサは、導電性高分子膜を用いた小型かつ安価なガスセンサで、におい成分を選択的に検出可能なガスセンサとすることができる。
【0082】
次に、湿度変化に対する安定性を高めることができる、上記ガスセンサのより好ましい実施形態について説明する。
【0083】
図10は、湿度変化に対する安定性を高めることができる、より好ましいガスセンサの一例を示した図で、ガスセンサ110の断面を拡大して示した図である。尚、図10に示すガスセンサ110の平面図は、図1(a)と同様である。図10は、図1(c)と対応しており、図10において、図1(c)と同様の部分については同じ符号を付した。
【0084】
図1(c)に示したガスセンサ100の断面構造と比較してわかるように、図10のガスセンサ110においては、第2の交互積層膜42が、電極13a,13bと感ガス部である第1の交互積層膜41の間に挿入配置されている。第2の交互積層膜42は、抵抗値変化の湿度依存性を抑制するためのアニオン性高分子耐湿膜33と、カチオン性高分子膜31とが、交互に積層された膜である。
【0085】
前述したガスセンサにおいて用いられている導電性高分子膜20の一方の構成要素であるアニオン性高分子感ガス膜32の中には、大気中に含まれる水分が付着した際の抵抗値変化を測定して、湿度センサとして利用可能な材料がある。しかしながら、上記ガスセンサにおいて水分以外のガス成分を検出しようとする場合には、湿度の影響で正確な測定ができなくなってしまう。このため、図10に示すガスセンサ110のように、アニオン性高分子耐湿膜33を構成要素とする第2の交互積層膜42を第1の交互積層膜41と積層して、該第2の交互積層膜42を水分に対するバリヤ部として機能させることで、湿度依存性が抑制され、正確なガス濃度の測定が可能となる。
【0086】
尚、前述した第1の交互積層膜41と同様に、上記第2の交互積層膜42も、カチオン性高分子膜31とアニオン性高分子(耐湿)膜33の静電気力により分子の集合化及び組織化が行われているので、膜の強度が高く耐久性に優れ、任意の厚さに形成可能である。また、該第2の交互積層膜42は、カチオン性化合物とアニオン性化合物の希薄液に交互に浸し、基板上に電解質ポリマーを自発的に吸着させるという簡単な操作で成膜して形成できるので、材料を分子レベルで制御するのが容易で、生産性にも優れる。
【0087】
図10のガスセンサ110におけるアニオン性高分子耐湿膜33は、例えばポリスチレンスルホン酸ナトリウム膜(PSS膜)とすることができる。
【0088】
図11は、PSSの分子構造を示す図である。
【0089】
尚、第2の交互積層膜42のもう一方の構成要素であるカチオン性高分子膜31は、第1の交互積層膜41を構成しているカチオン性高分子膜31と同じであることが好ましく、例えばポリジアリルジメチルアンモニウムクロライド膜(PDDA膜)とすることができる。
【0090】
また、図10ではアニオン性高分子耐湿膜33とカチオン性高分子膜31がそれぞれ交互に2層ずつ配置された第2の交互積層膜42が例示されているが、第2の交互積層膜42を構成するアニオン性高分子耐湿膜33とカチオン性高分子膜31は、それぞれ1層ずつであってもよい。また、第2の交互積層膜42におけるアニオン性高分子耐湿膜33とカチオン性高分子膜31は、交互配置であれば2層に限らず、それぞれ3以上の複数層配置されてなる構成であってもよい。さらに、図10では第2の交互積層膜42上に第1の交互積層膜41が配置されているが、逆の配置関係であってもよい。
【0091】
図12(a)〜(c)は、それぞれ上記した図12に示すガスセンサ110の変形例を示す図で、ガスセンサ111〜112の断面を拡大して示した図である。尚、図12(a)〜(c)に示すガスセンサ111〜112おいて、図110に示したガスセンサ110と同様の部分については、同じ符号を付した。
【0092】
図10に示したガスセンサ110の第2の交互積層膜42では、アニオン性高分子耐湿膜33とカチオン性高分子膜31がそれぞれ交互に2層配置されていた。言い換えれば、隣接するアニオン性高分子耐湿膜33とカチオン性高分子膜31を1積層単位とすると、図10のガスセンサ110における第2の交互積層膜42は、2積層単位で構成されている。
【0093】
これに対して、図12(a)のガスセンサ111における第2の交互積層膜42は、1積層単位V1で構成されている。また、図12(b)のガスセンサ112における第2の交互積層膜42は、3積層単位V1〜V3で構成されている。さらに、図12(c)のガスセンサ113においては、2積層単位U1,U2で構成る第1の交互積層膜41と2積層単位V1,V2で構成る第2の交互積層膜42とが、図10に示したガスセンサ110とは逆に、第1の交互積層膜41を電極13a,13bに隣接する下側とし、第2の交互積層膜42を上側にして積層されている。
【0094】
図10および図12に示したガスセンサ110〜113は、図6で説明した製造方法により、同じように製造することができる。詳細説明は省略するが、図6(c)に示したTSPP膜32の形成工程に代えて、図11の分子構造を有したPSS膜(アニオン性高分子耐湿膜)33の形成工程では、ポリスチレン系樹脂のスルホン酸塩であるポリスチレンスルホン酸ナトリウム(PSS、分子量Mr=70000、東京化成工業製)の水溶液(5mg/mL)に20分間浸漬する。その後、イオン交換水で十分洗浄し、窒素ガスを吹き付けて乾燥させて、PSS膜(アニオン性高分子耐湿膜)33を成膜することができる。
【0095】
図13は、第2の交互積層膜42の機能を説明する図である。図13(a)は、第1の交互積層膜41を1積層単位のPDDA/TSPPとして上側に配置し、第2の交互積層膜42におけるアニオン性高分子耐湿膜33をPSS膜として第1の交互積層膜41の下側に配置した場合について、第2の交互積層膜42の積層単位数をパラメータとして、湿度に対する抵抗値変化の一例を示した図である。また、図13(b)は、第2の交互積層膜42が水分に対するバリヤ部として機能する様子を模式的に示した図である。
【0096】
図13(a)に示すように、PDDA/PSSの積層単位数が1の場合には湿度に対する抵抗値変化が大きいが、PDDA/PSSの積層単位数を3〜5とした場合には、65%以下の湿度で抵抗値変化をなくすことができる。このように、PDDA/PSSで構成される第2の交互積層膜42の積層単位数を増していくと、湿度に対する抵抗値変化を抑制することができ、図13(b)に示すように、PDDA/PSSからなる第2の交互積層膜42は、水分に対するバリヤ部として機能させることができる。
【0097】
図14は、PSS膜の湿度依存性軽減メカニズムを考察した図で、図14(a)は、PDDA/PSSの積層単位数が1に対応した膜が薄くて粗な場合であり、図14(b)は、PDDA/PSSの積層単位数が3〜5に対応した膜が厚くて密な場合である。
【0098】
図13(a)に示した抵抗値変化の湿度依存性からわかるように、第2の交互積層膜42の厚さが増すと、湿度によって抵抗値変化は生じにくくなる。PDDA/PSSの積層単位数が1の場合に湿度による抵抗値変化が大きいのは、図14(a)に示したように、第2の交互積層膜42の膜が薄くて粗いためである考えられる。膜が粗いと表面積が増加し、水分子と物理吸着する面積が増えて、抵抗値が減少する。一方、図14(b)に示したように、PDDA/PSSの積層単位数が3層以上で膜が厚くて密な場合は、膜表面が平滑になっているため、水分子との物理吸着が起き難く、抵抗値変化が生じない。また、図13(a)からわかるように、PDDA/PSSの積層単位数が3の場合と5の場合で比較すると、10〜60%の湿度域で、積層単位数が3の場合より5の場合のほうが、抵抗値変化が生じ難くなっている。これは、図14(b)に示すように、PSS膜が増加したことによってベンゼン環の疎水面が増加し、水分子の吸着を阻害しているためであると考えられる。
【0099】
以上に示したように、図10〜図14で例示した、第1の交互積層膜41と第2の交互積層膜42が積層された導電性高分子膜20を有してなるガスセンサ110〜113は、特に、湿度変化に対する安定性が高いガスセンサとすることができる。
【0100】
尚、上記したように第1の交互積層膜41と第2の交互積層膜42の積層体で電極上に形成する導電性高分子膜20を構成する場合には、図10及び図12(a),(b)に示したガスセンサ110〜112における導電性高分子膜20のように、第2の交互積層膜42が、電極13a,13bと第1の交互積層膜41の間に挿入されてなることが好ましい。これによれば、感ガス部である第1の交互積層膜41は、第2の交互積層膜42が無い場合と同様にガス成分を吸着できるため、水分に対するバリヤ部である第2の交互積層膜42を挿入しても第1の交互積層膜41の機能が阻害されることはなく、高感度でガス成分を検出することができるためである。
【0101】
上記ガスセンサにおいて、第2の交互積層膜42を構成するアニオン性高分子耐湿膜33とカチオン性高分子膜31は、図12(a)に示したガスセンサ111のようにそれぞれ1層ずつであってもよいが、図13(a)からわかるように、第2の交互積層膜42において、アニオン性高分子耐湿膜33とカチオン性高分子膜31が、それぞれ、複数層配置されてなることが好ましい。これによれば、アニオン性高分子耐湿膜33とカチオン性高分子膜31をそれぞれ1層ずつとする場合に較べて、水分に対するバリヤ部として機能を高めることができるからである。
【0102】
この場合には、アニオン性高分子耐湿膜33の配置数が、5層以下であることが好ましい。アニオン性高分子耐湿膜の配置数を増やしていくと、上記した水分に対するバリヤ部として機能を高めることができるが、5層より多くしても該機能が飽和してしまうためである。
【0103】
また、図10及び図12(b),(c)に示したガスセンサ110,112,113のように、第2の交互積層膜42におけるアニオン性高分子耐湿膜33の配置数は、第1の交互積層膜41におけるアニオン性高分子感ガス膜32の配置数以上であるように構成することが好ましい。これによれば、第2の交互積層膜42による水分に対するバリヤ部として機能と第1の交互積層膜41による感ガス部として機能を、好適にバランスさせることができる。
【0104】
次に、アンモニアやアルコール等のにおい成分(微量のガス成分)を検出するため、上記ガスセンサのアニオン性高分子感ガス膜32として利用可能な各種のアニオン性高分子膜材料について、上記ガスセンサを構成し、幾つかのガス成分の選択的な検出可能性を検討した。該検討結果の一例を、以下に説明する。
【0105】
図15は、アニオン性高分子感ガス膜32をコバルト錯体TSPP膜(Co錯体TSPP膜)として、ベンゼン、アセトン、メタノールおよびエタノールの各微量ガス成分雰囲気中に晒した場合について、抵抗値変化の経過時間依存性の一例を示した図である。
【0106】
先の図8では、アニオン性高分子感ガス膜32としてテトラキススルホフェニルポルフィリン膜(TSPP膜)を用いれば、におい成分としての微量のアンモニア(NH)ガス成分を検出できることを示した。図15においてアニオン性高分子感ガス膜32として用いているCo錯体TSPP膜は、図3に示したTSPPの分子構造において、ピロール環中の水素(H)をコバルト(Co)で置き換えた分子構造(5,10,15,20-Tetrakis(4-Sulfonatophenyl)Porphyrin-Co(II),Tetrasodium Salt
)を有している。
【0107】
図15に示すように、Co錯体TSPP膜は、メタノールとエタノールに対して選択性があり、メタノールが吸着すると抵抗値が増大し、エタノールが吸着すると抵抗値が減少する。
【0108】
図16は、アニオン性高分子感ガス膜32をペルオキソ二硫酸アンモニウム膜として、ベンゼン、アセトン、メタノールおよびエタノールの各微量ガス成分雰囲気中に晒した場合について、抵抗値変化の経過時間依存性の一例を示した図である。
【0109】
図16に示すように、ペルオキソ二硫酸アンモニウム膜は、特にエタノールに対して選択性があり、エタノールが吸着すると短時間で抵抗値が大きく減少する。
【0110】
図17は、アニオン性高分子感ガス膜32をアニリン膜として、ベンゼン、アセトン、メタノールおよびエタノールの各微量ガス成分雰囲気中に晒した場合について、抵抗値変化の経過時間依存性の一例を示した図である。
【0111】
図17に示すように、アニリン膜は、メタノールとエタノールのアルコールに対して選択性があり、メタノールおよびエタノールが吸着すると、同じように抵抗値が減少する。すなわち、アニリン膜は、エタノールとメタノールの識別はできないが、これらアルコールに対して同じ検出感度を有する。
【0112】
以上に示したように、上記したガスセンサ100〜102および110〜113は、アニオン性高分子感ガス膜32の材料を適宜選択することによって、アンモニアやアルコール等のにおい成分の選択的な検出が可能である。
【0113】
上記ガスセンサ100〜102および110〜113におけるアニオン性高分子感ガス膜32は、例えば前述したテトラキススルホフェニルポルフィリン膜(TSPP膜)、金属錯体TSPP膜、ペルオキソ二硫酸アンモニウム膜およびアニリン膜のいずれかとすることができる。また、上記金属錯体TSPP膜は、例えば図15に示したように、Co錯体TSPP膜とすることができる。
【0114】
TSPP膜は、アンモニア(NH)に対して高感度である。また、金属のドーパントを適宜選択して金属錯体TSPP膜とすることで、種々の微量のガス成分を高感度で検出することができる。例えば、コバルト(錯体TSPP膜の場合、エタノールとメタノールに対して高感度である。ペルオキソ二硫酸アンモニウム膜は、エタノールに対して高感度である。アニリン膜は、エタノールとメタノールの識別はできないが、これらアルコールに対して高感度である。
【0115】
以上のようにして、上記したガスセンサは、導電性高分子膜を用いた小型かつ安価なガスセンサであって、特に、湿度変化に対する安定性が高く、アンモニアやアルコール等の微量なガス成分を選択的に検出することができる。
【0116】
従って、上記したガスセンサは、室内のにおい成分を検出する、においセンサとして好適であり、特に、車室内に設置され、湿度変化の大きい環境下で使用される、車載用として好適である。
【符号の説明】
【0117】
100〜102,110〜113 ガスセンサ
12a,12b,13a,13b 電極
10 基板
11 シリコン酸化膜
20 導電性高分子膜
31 カチオン性高分子膜
32 アニオン性高分子感ガス膜
41 第1の交互積層膜
U1〜U5 積層単位
33 アニオン性高分子耐湿膜
42 第2の交互積層膜
V1〜V3 積層単位

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に設けられた一対の電極の間に、導電性高分子膜が形成されてなり、
前記導電性高分子膜にガス成分が付着した際の抵抗値変化を測定して、該ガス成分の濃度を検出するガスセンサであって、
前記導電性高分子膜が、
前記ガス成分の付着により抵抗値が変化するアニオン性高分子感ガス膜と、前記アニオン性高分子感ガス膜の電荷を打ち消すカチオン性高分子膜との、第1の交互積層膜を有してなることを特徴とするガスセンサ。
【請求項2】
前記第1の交互積層膜において、
前記アニオン性高分子感ガス膜と前記カチオン性高分子膜が、それぞれ、複数層配置されてなることを特徴とする請求項1に記載のガスセンサ。
【請求項3】
前記第1の交互積層膜において、
前記アニオン性高分子感ガス膜の配置数が、10層以下であることを特徴とする請求項2に記載のガスセンサ。
【請求項4】
前記導電性高分子膜が、
前記抵抗値変化の湿度依存性を抑制するためのアニオン性高分子耐湿膜と、前記カチオン性高分子膜との、第2の交互積層膜を有してなり、
前記第2の交互積層膜が、前記第1の交互積層膜と積層されてなることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載のガスセンサ。
【請求項5】
前記第2の交互積層膜が、前記電極と前記第1の交互積層膜の間に挿入されてなることを特徴とする請求項4に記載のガスセンサ。
【請求項6】
前記第2の交互積層膜において、
前記アニオン性高分子耐湿膜と前記カチオン性高分子膜が、それぞれ、複数層配置されてなることを特徴とする請求項4または5に記載のガスセンサ。
【請求項7】
前記アニオン性高分子耐湿膜の配置数が、5層以下であることを特徴とする請求項6に記載のガスセンサ。
【請求項8】
前記第2の交互積層膜における前記アニオン性高分子耐湿膜の配置数が、前記第1の交互積層膜における前記アニオン性高分子感ガス膜の配置数以上であることを特徴とする請求項4乃至7のいずれか一項に記載のガスセンサ。
【請求項9】
前記アニオン性高分子耐湿膜が、ポリスチレンスルホン酸ナトリウム膜(PSS膜)であることを特徴とする請求項4乃至8のいずれか一項に記載のガスセンサ。
【請求項10】
前記カチオン性高分子膜が、前記電極に接する最下層に配置されてなることを特徴とする請求項1乃至9のいずれか一項に記載のガスセンサ。
【請求項11】
前記アニオン性高分子感ガス膜が、前記電極と反対側の最上層に配置されてなることを特徴とする請求項1乃至10のいずれか一項に記載のガスセンサ。
【請求項12】
前記アニオン性高分子感ガス膜が、テトラキススルホフェニルポルフィリン膜(TSPP膜)、金属錯体TSPP膜、ペルオキソ二硫酸アンモニウム膜およびアニリン膜のいずれかであることを特徴とする請求項1乃至11のいずれか一項に記載のガスセンサ。
【請求項13】
金属錯体TSPP膜が、コバルト錯体TSPP膜(Co錯体TSPP膜)であることを特徴とする請求項12に記載のガスセンサ。
【請求項14】
前記カチオン性高分子膜が、ポリジアリルジメチルアンモニウムクロライド膜(PDDA膜)であることを特徴とする請求項1乃至13のいずれか一項に記載のガスセンサ。
【請求項15】
前記一対の電極が、単結晶シリコン、多結晶シリコン、タンタル(Ta)、タングステン(W)およびモリブデン(Mo)のいずれかであることを特徴とする請求項1乃至14のいずれか一項に記載のガスセンサ。
【請求項16】
前記一対の電極が、それぞれ櫛歯状であり、互いの櫛歯が噛み合って対向するように配置されてなることを特徴とする請求項1乃至15のいずれか一項に記載のガスセンサ。
【請求項17】
前記一対の電極において、
前記櫛歯の間隔が、0.5μm以上、300μm以下であることを特徴とする請求項16に記載のガスセンサ。
【請求項18】
前記ガスセンサが、室内のにおい成分を検出する、においセンサであることを特徴とする請求項1乃至17のいずれか一項に記載のガスセンサ。
【請求項19】
前記においセンサが、車室内に設置する、車載用であることを特徴とする請求項18に記載のガスセンサ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【公開番号】特開2012−122814(P2012−122814A)
【公開日】平成24年6月28日(2012.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−272905(P2010−272905)
【出願日】平成22年12月7日(2010.12.7)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【出願人】(802000031)公益財団法人北九州産業学術推進機構 (187)
【Fターム(参考)】