説明

ガスタービンのリムシール構造

【課題】十分なシール機能を確保し、ディスクキャビティにおける主流高温ガスの侵入防止に必要となるパージ空気量を低減することができるガスタービンのリムシール構造を提供する。
【解決手段】燃焼部から供給された主流高温ガスが動翼20/静翼30間に形成されるディスクキャビティ11を通ってタービン本体内へ侵入することを低減するガスタービンのリムシール構造において、動翼20のプラットフォーム21下面に設けた肉ぬすみと静翼30との間に形成した第1緩衝キャビティ22と、第1緩衝キャビティ22よりロータ径方向内側に形成した第2緩衝キャビティ14とを備え、第1緩衝キャビティ22は、主流高温ガスの流れが第2緩衝キャビティ14に到達する前の侵入経路に位置し、かつ、第1緩衝キャビティ22内に入り込んだ主流高温ガスの流れを周方向に速度成分を向ける形状を有している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガスタービンのリムシール構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ガスタービンの静翼上流には、燃焼部(燃焼器)から供給されてタービンを駆動させる主流高温ガス(「燃焼ガス」または「ホットガス」ともいう)が動翼/静翼間の隙間からタービン本体内に侵入するのを防止する目的で、リムシールと呼ばれるシール機構を設置してある。このリムシールは、動翼/静翼間に形成されるディスクキャビティからシール流体のパージ空気を噴出させて主流高温ガスの侵入を防止するものである。
ここで使用するパージ空気は、圧縮機等の翼外冷却空気供給源から圧縮空気の一部を導入したものであり、翼外冷却空気供給源に接続された静翼内の翼内空気流路を通り、静翼先端部(軸中心)側にある静翼構成部材の壁面適所を貫通して設けたシール空気供給孔からディスクキャビティに噴射される。
なお、リムシール構造が必要となる主な理由は、運転中に大きな荷重を受ける動翼の翼根及びロータディスクが高温になることを防止することにある。
【0003】
上述した静翼上流のリムシールとしては、たとえば動翼シールフィンの上に、静翼リムが覆い被さるように配置された構成のシングルオーバーラップシール構造(たとえば、特許文献1参照)や、シールフィンが二重に配置されているダブルオーバーラップシール構造(たとえば、特許文献2、3,4参照)がある。
【特許文献1】特開平10−259703号公報(図2参照)
【特許文献2】特開平8−319803号公報(図5参照)
【特許文献3】米国特許第6506016号明細書(Fig.1参照)
【特許文献4】米国特許第6884028号明細書(Fig.1参照)
【特許文献5】特開2001−115801号公報
【特許文献6】特開2007−85340号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ガスタービンのタービン部において、主流高温ガスが動翼/静翼間の隙間からタービン本体内に侵入するホットガス巻き込みを生じさせる要因は、ガスパスの周方向静圧分布によるところが大きい。このような周方向静圧分布は、上流側トレーリングエッジ(後縁)のウェイクや下流翼のポテンシャルによって生じるため、現状のガスタービンでは避けられない問題となっている。
このようなホットガスの巻き込みを防止するリムシール構造においては、ガスタービン性能に影響するパージ空気量の低減が望まれる。また、パージ空気は圧縮機から供給される圧縮空気の一部を使用するので、パージ空気量の低減は、燃焼器で燃焼に使用可能となる圧縮空気量の割合が増すことを意味しており、性能向上に寄与する。
【0005】
このような背景から、ガスタービンのリムシール構造においては、十分なシール機能を確保するとともに、ディスクキャビティに噴出させて主流高温ガスの侵入を防止するパージ空気量を低減することが望まれる。
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、十分なシール機能を確保し、ディスクキャビティにおける主流高温ガスの侵入防止に必要となるパージ空気量を低減することができるガスタービンのリムシール構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係るガスタービンのリムシール構造は、燃焼部から供給された主流高温ガスが動翼/静翼間に形成されるディスクキャビティへ侵入することを低減するガスタービンのリムシール構造において、前記動翼のプラットフォーム下面に設けた肉ぬすみと前記静翼側端面との間に第1緩衝キャビティを形成し、該第1緩衝キャビティよりロータ径方向内側に第2緩衝キャビティを形成し、前記第1緩衝キャビティは、前記主流高温ガスの流れが前記第2緩衝キャビティに到達する前の侵入経路に位置し、かつ、前記第1緩衝キャビティ内に入り込んだ前記主流高温ガスの流れを周方向に速度成分を向ける形状を有している。
【0007】
このようなガスタービンのリムシール構造によれば、動翼のプラットフォーム下面に設けた肉ぬすみと静翼側端面との間に形成した第1緩衝キャビティと、この第1緩衝キャビティよりロータ径方向内側に形成した第2緩衝キャビティとを備え、第1緩衝キャビティは、主流高温ガスの流れが第2緩衝キャビティに到達する前の侵入経路に位置し、かつ、第1緩衝キャビティ内に入り込んだ主流高温ガスの流れを周方向に速度成分を向ける形状を有しているので、ガスパスを流れる主流高温ガスの一部が周方向静圧分布の影響を受けてディスクキャビティの第1緩衝キャビティ内に流入すると、第2緩衝キャビティに到達する前の上流位置にある第1緩衝キャビティ内で周方向の静圧が均一に近づく。すなわち、動翼/静翼間に形成される入口開口からディスクキャビティの浸入経路に流入した主流高温ガスは、肉ぬすみが形成する第1緩衝キャビティによって周方向に十分に混合され、リムシール部に向かう流れの周方向の圧力分布を緩和することができる。
【0008】
上記の発明においては、前記静翼の内部から前記リムシール部に向けてシール流体を流出させる流体供給孔が設けられているので、リムシール部のシール性能を向上させることができる。
この場合、前記流体供給孔は、前記静翼に脱着可能なプラグに設けられていることが好ましく、これにより、リムシール部に流出させるシール流体の流量を容易に可変とすることができる。
【0009】
本発明に係るガスタービンは、燃焼用空気を圧縮する圧縮部と、前記圧縮部から送られてきた高圧空気中に燃料を噴射して主流高温ガスを発生させる燃焼部と、前記燃焼部の下流側に位置し前記主流高温ガスにより駆動されるタービン部とを具備し、前記タービン部が請求項1から3のいずれかに記載のリムシール構造を備えている。
【0010】
このようなガスタービンによれば、タービン部が請求項1から3のいずれかに記載のリムシール構造を備えているので、動翼/静翼間に形成される隙間の浸入経路に流入した主流高温ガスは、肉ぬすみが形成するキャビティ空間によって周方向に十分に混合されるので、リムシール部に向かう流れの径方向の圧力分布を緩和することができる。
【発明の効果】
【0011】
上述した本発明のガスタービンのリムシール構造によれば、ガスパスを流れる主流高温ガスの一部が動翼/静翼間の入口開口から第1緩衝キャビティ内に流入すると、第2緩衝キャビティに到達する前の上流位置にある第1緩衝キャビティ内で周方向の静圧が均一に近づくので、ディスクキャビティにおいては第1緩衝キャビティから第2緩衝キャビティに向かう流れの流速及び圧力が低下する。この結果、第1緩衝キャビティ及び第2緩衝キャビティを備えたガスタービンのリムシール部においては、主流高温ガスのシールに必要となるシール流体の流量低減が可能となる。
従って、ガスタービンのリムシール部においては、十分なシール機能を確保するとともに、ディスクキャビティに噴出させて主流高温ガスの侵入を防止するシール流体の流量を低減することが可能になるので、ガスタービンの効率向上に顕著な効果を奏する。換言すれば、上述した本発明のリムシール構造を採用したガスタービンは、十分なシール機能の確保と、主流高温ガスの浸入防止に必要となるシール流体の流量低減とを両立させて運転効率を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明に係るガスタービンのリムシール構造について、その一実施形態を図面に基づいて説明する。
図4に示すように、ガスタービン1は、燃焼用空気を圧縮する圧縮部(圧縮機)2と、この圧縮部2から送られてきた高圧空気中に燃料を噴射して燃焼させ、高温燃焼ガスを発生させる燃焼部(燃焼器)3と、この燃焼部3の下流側に位置し、燃焼部3を出た高温燃焼ガス(主流高温ガス)により駆動されるタービン部(タービン)4とを主たる要素とするものである。
【0013】
図1は、ガスタービン1のタービン部4に設けられたリムシール構造について、第1の実施形態を示す要部断面図である。
図示のリムシール10は、燃焼部3から供給された主流高温ガスが、動翼20と静翼30との間に形成される隙間(以下、「ディスクキャビティ」と呼ぶ)11へ侵入することを低減する目的で、静翼30の上流側に設置されるシール構造である。この場合の上流側とは、図中に矢印Gで示す主流高温ガスの流れ方向を基準にしている。すなわち、リムシール10は、主流高温ガスが動翼20及び静翼30を配設したガスパス12を軸方向(図中に示す矢印Gを参照)へ流れているので、主流高温ガスから分流した一部(図中に示す矢印gを参照)がディスクキャビティ11に向かって巻き込まれ、動翼20の翼根やロータ付近まで侵入することを防止または抑制する。
なお、主流高温ガスに関する以下の説明では、ガスパス12を流れる主流高温ガス全体については「主流高温ガスG」と呼び、分流した一部の高温主流ガスについては「高温分流ガスg」と呼んで区別する。
【0014】
動翼20のプラットフォーム21は、図1から図3に示すように、下面に設けた第1緩衝キャビティ22を備えている。この第1緩衝キャビティ22は、主流高温ガスGの流れ方向において動翼20の下流側となるプラットフォーム21の部材面、すなわち、下流側に位置する静翼30側に設けた静翼リム31の上流側端面31aと対向する面に形成された肉ぬすみの凹部である。
【0015】
第1緩衝キャビティ22は、ガスパス12に面しているプラットフォーム21の下流側端面21aより上流側となる領域に肉ぬすみの凹部空間を形成したものであり、タービン部4の回転軸中心側(紙面下側)には動翼外周シールフィン23が形成されている。換言すれば、第1緩衝キャビティ22の凹部空間は、動翼外周シールフィン23と静翼リム31との間に形成されるリムシールにおいて、後述する第2緩衝キャビティ14の上流側に形成されている。すなわち、第1緩衝キャビティ22は、ガスパス12から回転軸中心方向へ分流してディスクキャビティ11に侵入した高温分流ガスgの流れ方向と、回転軸と略平行な主流高温ガスGの流れ方向との両方向において、リムシールを構成する第2緩衝キャビティ14の上流側に位置している。
【0016】
従って、第1緩衝キャビティ22の凹部空間は、主流高温ガスGの流れから分流した高温分流ガスgがディスクキャビティ11に到達する侵入経路において第2緩衝キャビティ14より上流に位置し、かつ、第1緩衝キャビティ22内に入り込んだ高温分流ガスgの流れを周方向に速度成分を向ける形状を有したものとなる。このような第1緩衝キャビティ22を備えた動翼20は、通常はプラットフォーム21と一体成形される鋳造部品であるから、第1緩衝キャビティ22の形成についても、鋳造時に肉ぬすみを設けて若干の機械加工を施すことで容易に製造可能となる。
【0017】
ガスパス12からディスクキャビティ11側へ分流する高温分流ガスgの侵入経路において、上述した第1緩衝キャビティ22は、分流直後の侵入経路入口部に形成された凹部空間である。そして、侵入経路において第1緩衝キャビティ22の下流側となるディスクキャビティ11には、動翼外周シールフィン23及び動翼内周シールフィン25が二重に配置されてリムシール部が形成されている。
【0018】
動翼外周シールフィン23よりさらに内周側、すなわち回転軸中心側(紙面下側)には第2緩衝キャビティ14が形成されている。この第2緩衝キャビティ14は、静翼内周フィン32に対向し、静翼リム31の内周面、動翼外周シールフィン23の内周面、動翼内周シールフィン25の外周面により囲まれた空間部である。この第2緩衝キャビティ14は、第1緩衝キャビティ22より下流側に位置している。換言すれば、第2緩衝キャビティ14の空間部は、動翼内周シールフィン25と静翼リム31との間に形成されるリムシール部の下流側に形成されている。
従って、第2緩衝キャビティ14の空間部は、主流高温ガスGの流れから分流した高温分流ガスgがディスクキャビティ11に到達する侵入経路において第1緩衝キャビティ22の下流に位置し、かつ、第2緩衝キャビティ14内に入り込んだ高温分流ガスgの流れを十分に混合させる。
【0019】
第1段階のオーバーラップシール部(以下、「第1段シール部」と呼ぶ)13は、流路断面積を狭めて回転軸中心側へ向かう流路抵抗を増すように、高温分流ガスgの流れ方向において第1緩衝キャビティ22の下流側となる位置に配設された動翼外周シールフィン23及び静翼リム31により構成されている。図示の動翼外周シールフィン23は、プラットフォーム21に第1緩衝キャビティ22を形成した下面部分を静翼30側へ延長し、先端部からタービン部4の周方向外向き(紙面上向き)に突出するフィンを形成したものである。この動翼外周シールフィン23は、静翼30から動翼20側へ突出する静翼リム31と、周方向において所定の間隙を有する状態でオーバーラップするように配置されている。
【0020】
第1段シール部13よりさらに下流側となるディスクキャビティ11には、第1段シール部13を通過した高温分流ガスgの流れを淀ませる第2緩衝キャビティ14が設けられている。第2緩衝キャビティ14を通過した位置には、第2段階のオーバーラップシール部(以下、「第2段シール部」と呼ぶ)15が設けられている。この第2段シール部15は、流路断面積を狭めて回転軸中心側へ向かう流路抵抗を増すように、高温分流ガスgの流れ方向において第2緩衝キャビティ14の下流側となる位置に配設された動翼内周シールフィン25及び静翼内周フィン32により構成されている。図示の動翼内周シールフィン25は、プラットフォーム21の下方に取り付けられた動翼20側の後流シール板24から静翼30側へ突出し、先端部から周方向外向きに突出するフィンを形成したものである。この動翼内周シールフィン25は、静翼30から動翼20側へ突出する静翼内周フィン32と、周方向において所定の間隙を有する状態でオーバーラップするように配置されている。
【0021】
また、図中の符号35はバッファプレートであり、コイルバネ36の付勢を受けてシール部37をシールリング保持環33等の静翼構成部材に密着させ、後述する冷却空気の翼内流路38を形成している。この翼内流路38は、静翼30の内部に形成された図示しない翼内流路等を介して圧縮部2の吐出側に連通しているので、圧縮空気の一部を導入することができるようになっている。
【0022】
このように構成されたダブルオーバーラップシール構造のリムシール部では、静翼30内に形成されている翼内流路等を介して、シール流体として圧縮空気の一部を導入している。以下の説明では、シール流体として圧縮部2から導入した圧縮空気の一部について、ディスクキャビティ11のパージ空気として使用するための「冷却空気」と呼ぶことにする。
静翼30内の翼内流路38に導入された冷却空気は、たとえば図示しないラビリンスシールの取付に用いられるシールリング保持環33のように、静翼30を構成する部材の壁面を貫通して設けたシール空気供給孔34からパージ空気として噴射される。この冷却空気は、シール空気供給孔34から流出した後に分流し、シール隙間11a内を図中に破線の矢印Caで示すように流れる。冷却空気は分流し、分流した一方の冷却空気はロータの内部側へ吸引されて流出し、他方の冷却空気はシール隙間11aを通って、ディスクキャビティ11内に流入してパージ空気となる。従って、静翼30からディスクキャビティ11内に噴射される冷却空気がパージされることにより、ディスクキャビティ11内は、パージ空気がない場合の周方向静圧分布よりも高い圧力に保持されており、かつ、温度の低い冷却空気による冷却も行われている。
【0023】
一方、ガスパス12を流れる主流高温ガスGは、径方向に部分的にパージ空気の圧力よりも高いことがあるため、周方向静圧分布の影響を受け、高温分流ガスgが分流して動翼20と静翼30との間に形成された入口開口11bからディスクキャビティ11内へ侵入する。このような高温分流ガスgの侵入は、ディスクキャビティ11内のパージ空気圧力を高く設定することで防止または抑制できる。しかし、ディスクキャビティ11内のパージ空気圧力を高く設定するためには、圧縮部2から導入する冷却空気量を増加させる必要があり、この結果、主流高温ガスGの温度低下や燃焼部3に供給可能な燃焼用圧縮空気量の減少等により、ガスタービン1の運転効率を低下させる要因となる。従って、パージ圧力の設定については、諸条件を考慮してガスタービン1の運転効率を優先させることが好ましい。
【0024】
動翼20と静翼30との間に形成された入口開口11bからディスクキャビティ11に侵入した高温分流ガスgは、最初に第1緩衝キャビティ22へ流入し、第1緩衝キャビティ22内によって十分に攪拌混合され、周方向の圧力分布を緩和する。このような混合の促進は、第1緩衝キャビティ22が流路抵抗の高い第1段シール部13の上流側に位置し、さらに、壁面に沿った流れを形成しやすい比較的大きな容積の空間を有しているためである。
【0025】
このため、第1段シール部13へ向かう高温分流ガスgは、第1緩衝キャビティ22がないものと比較して径方向圧力分布が低減され、従って、同じシール性能を得るために必要となるディスクキャビティ11内のパージ空気圧力については、これを低下させることが可能になる。従って、リムシール10のシール性能を維持し、パージ空気に必要となる冷却空気量を低減することが可能になる。
【0026】
従って、上述したダブルオーバーラップシール構造では、動翼20と静翼30との間に形成されるディスクキャビティ11の入口開口11bに到達した主流分流ガスgは、動翼外周フィン23の存在により第1緩衝キャビティ22内に拡散d1(図3参照)され、第1段シール部13を通過する高温分流ガスgの速度は小さくなっている。さらに、この高温分流ガスgは、動翼内周フィン25の存在により第2緩衝キャビティ14内に拡散d2(図3参照)され、第2段シール部15を通過する高温分流ガスgの速度はより一層小さくなる。すなわち、動翼20と静翼30との間に形成されるディスクキャビティ11に到達した主流分流ガスgは、ロータ軸の周方向外側に設けられている第1緩衝キャビティ22に入った後、周方向に延びた壁面に導かれて流速成分が周方向に拡散され、高温分流ガスgの径方向に動翼外周フィン23及び動翼内周フィン25を通過しようとする下向きの速度を低下させることができる。
【0027】
次に、ガスタービン1のタービン部4に設けられたリムシール構造について、第2の実施形態を図5に基づいて説明する。なお、図5はリムシール構造を示す要部の断面図であり、上述した実施形態と同様の部分には同じ符号を付し、その詳細な説明は省略する。
この実施形態で説明するリムシール10Aは、静翼30の内部からリムシール部に向けてシール流体の冷却空気Caを流出させる流体供給孔40が設けられている。図示の構成例では、静翼30の翼内流路38に連通する流体供給口40が、静翼30の静翼リム31と静翼内周フィン32との間を連結する壁面に複数穿設されている。この流体供給孔40は、翼内流路38を通ってシール空気供給孔34へ向かう冷却空気Caの一部を第1段シール部13へ向けて流出させるように設けられている。
【0028】
このため、第1段シール部13においては、第2緩衝キャビティ14内へ侵入しようとする高温分流ガスgの流れを阻止する方向に冷却空気Caが流出するため、リムシール部のシール性能を向上させることができる。特に、第1緩衝キャビティ22で流速及び圧力が低下した高温分流ガスgは、流体供給孔40から流出する冷却空気の流れに抗して第1段シール部13を通過することは極めて困難になるので、シール性能の向上に有効である。
【0029】
また、図6は、上述した第2の実施形態について、流体供給孔40の変形例を示す要部の断面図である。なお、上述した実施形態と同様の部分には同じ符号を付し、その詳細な説明は省略する。
この変形例では、流体供給孔40にプラグ50が設けられている。このプラグ50は、静翼30の静翼リム31と静翼内周フィン32との間を連結する壁面に対して、たとえば螺合等により脱着可能に取り付けられている。従って、リムシール部に流出させる冷却空気Caの流量は、流体供給孔40の穴径が異なる複数のプラグ50を用意しておくことにより、容易に付け替えて可変とすることができる。すなわち、設置環境や使用条件等の諸条件に応じて、あるいは、製造時の調整として、リムシール部に流出させる冷却空気量を適宜調整することができる。
【0030】
図7は、上述した流体供給孔40の作用を説明する図であり、キャビティ温度と総シール空気量(冷却空気量)との関係が示されている。
図7において、図中の実線Aは、第2段シール部15より下流側(周方向内側)となるディスクキャビティ11(図5,6における点A)のキャビティ温度を示しており、図中の実線Bは、第1段シール部13より下流側(周方向内側)となる第2緩衝キャビティ14(図5,6における点B)のキャビティ温度を示している。
キャビティ温度t1は周方向内側となるディスクキャブティ11内のキャビティ点Aに設定した温度、キャビティ温度t2は周方向外側となる第2緩衝キャビティ14内のキャビティ点Bに設定した温度であり、流体供給孔40が設けられていない構成では、実線A,Bをいずれも設定温度t1,t2以下の安定したキャビティ温度とするため、シール空気量をQ2に設定している。
なお、動翼外周シールフィン23は、動翼を構成する高温部材で構成されているためより高い温度に耐えることができ、従って、周方向外側のキャビティ温度t2を維持するためには、図中の点P1に対応する少なくともシール空気量Q3を供給すればよい。
【0031】
これに対し、流体供給孔40を設けた場合、流体供給孔40から供給される冷却空気により、点Bにおいて近傍に冷却空気の供給を直接受けるため、第2緩衝キャビティ14のキャビティ点Bにおける温度をより低くすることができる(破線B′参照)。
このとき、流体供給孔40から供給される冷却空気量をQ、ロータ軸側から供給される冷却空気量をQとし、総シール空気量Q(Q=Q+Q)について流体供給孔40を設けなかった場合と同じにすると、冷却空気量Qは、流体供給孔40を設けなかった場合に比べて減少し、周方向内側となるキャビティ点Aにおける温度は若干増加する(破線A′参照)ものの、点Bにおける直接の冷却効果により総シール空気量Qを減らすことができる。
従って、キャビティ点Bにおいてキャビティ温度t2以下を維持し、キャビティ点Aにおいてキャビティ温度t1以下を維持するためには、図中の点P2に対応する総シール空気量Q1を供給すればよい。この結果、総シール空気量Qについては、Q3とQ1との差分だけ低減することが可能になる。
【0032】
上述した本発明によれば、ガスパス12を流れる主流高温ガスGの一部が高温分流ガスgとなって第1緩衝キャビティ22内に流入すると、リムシール部の上流位置にある第1緩衝キャビティ22内で周方向の静圧が均一に近づくので、リムシール部に向かう流れの流速及び圧力が低下し、リムシール部においては高温分流ガスgのシールに必要となる冷却空気Caの流量低減が可能となる。
従って、十分なシール機能を確保するとともに、ディスクキャビティ11に噴出させて高温分流ガスgの侵入を防止する冷却空気Caの流量を低減することが可能になるので、ガスタービン1の効率を向上させることができる。すなわち、上述した本発明のリムシール構造を採用することにより、十分なシール機能の確保と、主流高温ガスの浸入防止に必要となる冷却空気の流量低減とを両立させ、運転効率のよいガスタービン1を提供することができる。
なお、本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において適宜変更することができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明に係るガスタービンのリムシール構造について、第1の実施形態を示す要部断面図である。
【図2】動翼のプラットフォーム下面に設けられた緩衝キャビティを示す要部の斜視図である。
【図3】第1緩衝キャビティ及び第2緩衝キャビティの全体的な位置関係を示すガスタービンの縦断面図である。
【図4】ガスタービンの概要を示す断面斜視図である。
【図5】本発明に係るガスタービンのリムシール構造について、第2の実施形態を示す要部断面図である。
【図6】本発明に係るガスタービンのリムシール構造について、図5の変形例を示す要部断面図である。
【図7】流体供給孔の作用を説明する図であり、キャビティ温度とシール空気量との関係が示されている。
【符号の説明】
【0034】
1 ガスタービン
2 圧縮部
3 燃焼部
4 タービン部
10,10A リムシール
11 ディスクキャビティ
12 ガスパス
13 第1段階のオーバーラップシール部(第1段シール部)
14 第2緩衝キャビティ
15 第2段階のオーバーラップシール部(第2段シール部)
20 動翼
21 プラットフォーム
22 第1緩衝キャビティ
23 動翼外周シールフィン
25 動翼内周シールフィン
30 静翼
31 静翼リム
40 流体供給孔
50 プラグ


【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃焼部から供給された主流高温ガスが動翼/静翼間に形成されるディスクキャビティへ侵入することを低減するガスタービンのリムシール構造において、
前記動翼のプラットフォーム下面に設けた肉ぬすみと前記静翼側端面との間に形成した第1緩衝キャビティと、該第1緩衝キャビティよりロータ径方向内側に形成した第2緩衝キャビティとを備え、前記第1緩衝キャビティは、前記主流高温ガスの流れが前記第2緩衝キャビティに到達する前の侵入経路に位置し、かつ、前記第1緩衝キャビティ内に入り込んだ前記主流高温ガスの流れを周方向に速度成分を向ける形状を有しているガスタービンのリムシール構造。
【請求項2】
前記静翼の内部から前記リムシール部に向けてシール流体を流出させる流体供給孔が設けられている請求項1に記載のガスタービンのリムシール構造。
【請求項3】
前記流体供給孔が、前記静翼に脱着可能なプラグに設けられている請求項2に記載のガスタービンのリムシール構造。
【請求項4】
燃焼用空気を圧縮する圧縮部と、前記圧縮部から送られてきた高圧空気中に燃料を噴射して主流高温ガスを発生させる燃焼部と、前記燃焼部の下流側に位置し前記主流高温ガスにより駆動されるタービン部とを具備し、前記タービン部が請求項1から3のいずれかに記載のリムシール構造を備えているガスタービン。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−77868(P2010−77868A)
【公開日】平成22年4月8日(2010.4.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−246149(P2008−246149)
【出願日】平成20年9月25日(2008.9.25)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【Fターム(参考)】