説明

ガスタービンの運転制御装置および運転制御方法

【課題】周波数変動に対して、タービン入口温度をオーバシュート制限範囲内に抑えることができると共に、軸出力についても要求レスポンスを満足させ得るガスタービンの運転制御装置および運転制御方法を提供すること。
【解決手段】入口案内翼開度設定部10により、発電機出力に対する入口案内翼の開度の関係に基づき発電機出力センサの検出値から入口案内翼の開度を設定し、第1補正部20により、一定量を超える周波数変動に対して、該周波数変動量に応じた入口案内翼の第1開度補正量を算出して設定された開度を補正し、第2補正部30により、発電機の出力(発電機出力センサの出力)または発電機出力の目標値から設定される発電機出力設定値からガスタービンの負荷変化を算出して該負荷変化量に応じた入口案内翼の第2開度補正量を算出して設定された開度を補正する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガスタービンの運転制御装置および運転制御方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、発電所等で用いられているガスタービンは、圧縮機において圧縮された空気に燃料を噴射して燃焼せしめ、得られる高温高圧の燃焼ガスをタービンに導いて出力を取出している。図7に、このガスタービンの基本的な構成を示す。ガスタービン100には、圧縮機102、燃焼器103およびタービン101が備えられ、圧縮機102で圧縮された空気が制御部110からの制御信号によって作動される燃料流量調整弁105を介して燃焼器103に供給された燃料と混合して燃焼され、高温の燃焼ガスとなってタービン101で膨張する。この燃料流量調整弁105は燃料流量を制御することで求められる負荷を調整している。また、タービン101では、圧縮機102を駆動し、残りの出力で発電機150等の負荷を駆動するようになっている。またさらに、1軸型複合サイクル発電プラントの場合には、ガスタービン100、発電機150および蒸気タービン160のそれぞれの回転軸が一体に結合されている。
【0003】
また、圧縮機102の第1段の翼の前側には入口案内翼(Inlet
Guide Vane:IGV)104が設けられている。この入口案内翼104は、各静翼の開度を操作することにより、圧縮機102の動翼との間を流れて燃焼器103へ流入する空気量を変化させ、ガスタービン100の排ガス温度を目標値に制御するためのものである。吸気は入口案内翼104により周方向の速度が与えられ圧縮機102に導入される。圧縮機102では、導入された空気は多段の動翼と静翼とを通ってエネルギーが与えられて圧力が上昇する。なお、入口案内翼104は、周方向に多数枚設けられた可動翼がそれぞれ可動可能に支持されて構成され、制御部110からの駆動信号によってアクチュエータが作動してこれら可動翼が可動せしめられて、吸気流量、燃焼温度を調整している。
【0004】
より具体的には、制御部110は、入口案内翼104のアクチュエータへのIGV開度指令115を生成するために、図8に示すような構成を備えている。すなわち、乗算器11、テーブル関数器(FX1)12、リミッタ13、補正関数器(FX2)14および制限関数器(FX3)15を備えた構成である。基本的に、発電機出力(GT出力)に応じて、図9(a)に示すような関数に従ってIGV開度を設定するが、補正関数器(FX2)14により図9(b)に示すような圧縮機入口温度に対応した関係に基づきGT出力補正係数K2を生成して、乗算器11でGT出力にこの補正係数K2を掛け合わせることで、テーブル関数を参照するGT出力値を補正している。また、制限関数器(FX3)15により図9(c)に示すような圧縮機入口温度に対応した関係に基づきIGV最大開度M1を生成して、リミッタ13により、テーブル関数器(FX1)12で生成されたIGV開度がIGV最大開度M1を超えないように制限している。
【0005】
このようにガスタービン100の入口案内翼104を制御する先行技術としては、例えば、特開2003−206749号公報(特許文献1)、特開2001−200730号公報(特許文献2)が知られている。特許文献1には、IGVの開度領域が低い場合には少しの開度変化で吸気流量が大きく変化し、IGVの開度領域が高い場合には少しの開度変化で吸気流量がほとんど変化しないように開度領域によって吸気流量が大きく変化するが、このように開度領域によって吸気流量が大きく変化する場合であっても、出力に対して所定の吸気流量が確保できる運転方法が示されている。また、特許文献2には、ガスタービン実出力が出力計画値に対して余裕がある場合や、部分負荷運転時の場合に、空気圧縮機入口温度を入力として空気圧縮機に吸入される空気量を制御するIGVの開度上限値を制御する運転方法が示されている。
【特許文献1】特開2003−206749号公報
【特許文献2】特開2001−200730号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、最近、欧州地区におけるGrid Code(系統運用規則)として、系統周波数の変動に対する負荷追従性が100%負荷まで要求されてきており、また国内でも同様の動きがある。ガバナフリー運用で高負荷で周波数が低下した場合の調定率に従った負荷上昇に対して、或いは負荷増加指令に対して、従来技術では、ガスタービン100は燃料を増加させるが、一方で燃焼温度(タービン入口温度)の上昇による機器損傷といった機器保護の観点から温調動作するため、所望の負荷が得られないことが懸念される。
【0007】
つまり、図10(a)に示すような系統周波数の低下に対して、従来技術では、ガスタービン100の入口案内翼104の開度制御は行わず(図10(b)参照)、燃料制御によってのみ対応していたために、図10(c)に示すような軸出力についてのGrid Code要求レスポンスを満足させるためには、図10(e)に示すように、タービン入口温度のオーバシュート制限値を超えて機器保護の制約をも超える可能性があった。
【0008】
また一方で、機器保護の観点からタービン入口温度のオーバシュートを許容しない場合には、図10(c)に示す軸出力についてのGrid Code要求レスポンスを満足させることができない可能性があった。特に、ガスタービン100と蒸気タービン160が同軸の1軸型複合サイクル発電プラントの場合には、図10(d)に示すように、蒸気タービン160の出力(ST出力)の増加が遅れるため、Grid Codeで規定された軸出力を満足するためには、蒸気タービン160の出力不足をガスタービン100の過負荷運転で補う必要がある。
【0009】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであって、周波数変動に対して、タービン入口温度をオーバシュート制限範囲内に抑えることができると共に、軸出力についてもGrid
Code要求レスポンスを満足させ得るガスタービンの運転制御装置および運転制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、本発明は以下の手段を採用する。
本発明は、前段に入口案内翼を備える圧縮機からの圧縮空気と燃料とを燃焼器に供給し、該燃焼器で発生する燃焼ガスによってタービンを回転させて発電機を駆動するガスタービンの運転制御装置において、予め設定された前記発電機の出力に対する前記入口案内翼の開度の関係に基づいて、前記発電機出力の検出値から前記入口案内翼の開度を設定する入口案内翼開度設定手段と、一定量を超える周波数変動に対して、該周波数変動量に応じた前記入口案内翼の第1開度補正量を算出し、前記入口案内翼開度設定手段によって設定された開度を補正する第1補正手段とを有し、前記入口案内翼のアクチュエータに前記第1補正手段による補正後の開度駆動指令を出力するガスタービンの運転制御装置を提供する。
【0011】
本発明によれば、例えば系統周波数が低下した場合に、周波数変動に応じた入口案内翼の第1開度補正量を設定して、入口案内翼を開けるように制御するので、タービン入口温度をオーバシュート制限範囲内に抑えることができると共に、風量増加により軸出力についてもGrid
Code要求レスポンスを満足させることが可能となる。
【0012】
本発明のガスタービンの運転制御装置において、前記発電機の出力から当該ガスタービンの負荷変化を算出して該負荷変化量に応じた前記入口案内翼の第2開度補正量を算出し、前記入口案内翼開度設定手段によって設定された開度を補正する第2補正手段を有し、前記入口案内翼のアクチュエータに前記第1補正手段および第2補正手段による補正後の開度駆動指令信号を出力することとしてもよい。
【0013】
本発明によれば、例えば負荷増加指令等の負荷変化に対しても、負荷変化量に応じた入口案内翼の第2開度補正量を設定して、入口案内翼を開けるように制御するので、排ガス温度を低めに抑えることが可能となる。
【0014】
本発明のガスタービンの運転制御装置は、前記第1補正手段の第1開度補正量および第2補正手段の第2開度補正量のうちの少なくとも1つの時間変化率が所定値以下となるように制限する変化率制限手段を有することとしてもよい。
【0015】
本発明によれば、よりきめ細かな制御が可能となり、定格開度への切り戻し時に急激に戻すことの無いようにしてタービン入口温度が制限値以上に上昇することを防止できる。
【0016】
本発明のガスタービンの運転制御装置において、前記第1補正手段および前記第2補正手段の少なくとも1つは、前記発電機の出力が所定範囲にある場合に作動することとしてもよい。
【0017】
本発明によれば、よりきめ細かな制御が可能となる。
【0018】
本発明のガスタービンの運転制御装置において、前記第1補正手段および前記第2補正手段の少なくとも1つは、前記タービンの入口温度が所定範囲にある場合に作動することとしてもよい。
【0019】
本発明によれば、例えばタービン入口温度が最も厳しいポイントで入口案内翼を全開にするといった運用が可能となり、よりきめ細かな制御が可能となる。
【0020】
本発明のガスタービンの運転制御装置において、前記第1補正手段およびまたは前記第2補正手段は、前記タービンの最終段のブレードを通過した直後のガス温度であるブレードパス温度が所定範囲にある場合に作動することとしてもよい。
【0021】
本発明によれば、例えばタービン入口温度が最も厳しいポイントで入口案内翼を全開にするといった運用が可能となり、よりきめ細かな制御が可能となる。
【0022】
本発明は、前段に入口案内翼を備える圧縮機からの圧縮空気と燃料とを燃焼器に供給し、該燃焼器で発生する燃焼ガスによってタービンを回転させて発電機を駆動するガスタービンの運転制御方法であって、予め設定された前記発電機の出力に対する前記入口案内翼の開度の関係に基づいて、前記発電機出力の検出値から前記入口案内翼の開度を設定する工程と、一定量を超える周波数変動に対して、該周波数変動量に応じた前記入口案内翼の第1開度補正量を算出し、前記入口案内翼開度設定手段によって設定された開度を補正する工程とを含み、前記入口案内翼のアクチュエータに前記第1開度補正量による補正後の開度駆動指令を出力するガスタービンの運転制御方法を提供する。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、周波数変動に応じた入口案内翼の第1開度補正量を設定して、例えば周波数低下に対して入口案内翼を開けるように制御するので、タービン入口温度をオーバシュート制限範囲内に抑えることができると共に、風量増加により軸出力についてもGrid
Code要求レスポンスを満足させることができるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、本発明のガスタービンの運転制御装置および運転制御方法の実施形態について、図面を参照して説明する。
【0025】
〔第1の実施形態〕
本発明の第1の実施形態に係るガスタービンの運転制御装置および運転制御方法について、図1〜図4を参照して説明する。ここで、図1は第1の実施形態のガスタービンの運転制御装置の構成図であり、同図において、図7(従来例)と重複する部分には同一の符号を付している。また、図2は第1の実施形態におけるIGV制御部113の具体的な構成図であり、図3はIGV制御部113の各種関数器および作動範囲設定器が持つ関数を説明する説明図であり、図4は第1の実施形態において系統周波数が低下したときの各種緒量のタイムチャートである。
【0026】
図1において、本実施形態のガスタービンの運転制御装置では、ガスタービン100に圧縮機102、燃焼器103およびタービン101が備えられ、圧縮機102で圧縮された空気が制御部111の燃料制御部112からの制御信号116によって作動される燃料流量調整弁105を介して燃焼器103に供給された燃料と混合して燃焼され、高温の燃焼ガスとなってタービン101で膨張する。この燃料流量調整弁105は燃料流量を制御することで求められる負荷、さらには排ガス温度を調整している。また、タービン101では、圧縮機102を駆動し、残りの出力で発電機150の負荷を駆動するようになっている。またさらに、1軸型複合サイクル発電プラントの場合には、ガスタービン100、発電機150および蒸気タービン160のそれぞれの回転軸が一体に結合されている。
【0027】
また、圧縮機102の第1段の翼の前側には入口案内翼(Inlet Guide Vane:IGV)104が設けられている。吸気は入口案内翼104により周方向の速度が与えられ圧縮機102に導入される。圧縮機102では導入された空気は多段の動翼と静翼とを通ってエネルギーが与えられて圧力が上昇する。また、入口案内翼104は、周方向に多数枚設けられた可動翼がそれぞれ回動可能に支持されて構成され、制御部111のIGV制御部113からのIGV開度指令117によって入口案内翼104のアクチュエータが作動してこれら可動翼が可動せしめられて、吸気流量、燃焼温度を調整している。
【0028】
タービン101の最終段部には最終段のブレードを通過したガスの温度を検出するブレードパス温度検出器123が設けられ、また、該ブレードパス温度検出器123の配置位置より下流側の排気通路には排ガスの温度を検出する排ガス温度検出器124が設けられている。また、吸気状態を検出する吸気状態検出器121が設けられ、吸気温度と吸気圧力が検出されている。燃焼器103の車室内の圧力が車室内圧力センサ122によって検出されている。さらに、タービン101の負荷状態を検出するために発電機出力センサ(図示せず)が設けられている。
【0029】
そして、これらブレードパス温度検出器123、排ガス温度検出器124、吸気状態検出器121、車室内圧力センサ122および発電機出力センサによって検出された検出信号が制御部111に入力される。この制御部111は、燃料の供給制御を行う燃料制御部112と、入口案内翼104の開度制御を行うIGV制御部113とを備えている。IGV制御部113は図2に示すように構成されている。
【0030】
図2において、IGV制御部113は、予め設定された発電機150の出力に対する入口案内翼104の開度の関係に基づき発電機出力センサの検出値から入口案内翼104の開度を設定する入口案内翼開度設定部(入口案内翼開度設定手段)10と、一定量を超える周波数変動に対して、該周波数変動量に応じた入口案内翼104の第1開度補正量を算出し、入口案内翼開度設定部10によって設定された開度を補正する第1補正部(第1補正手段)20と、発電機150の出力(発電機出力センサの出力)または発電機出力の目標値から設定される発電機出力設定値からガスタービンの負荷変化を算出して該負荷変化量に応じた入口案内翼104の第2開度補正量を算出し、入口案内翼開度設定部10によって設定された開度を補正する第2補正部(第2補正手段)30とを有して構成されている。
【0031】
なお、第1補正部20および第2補正部30は、発電機150の出力(発電機出力センサの出力)または発電機出力の目標値から設定される発電機出力設定値が所定範囲にある場合に作動する構成となっている。
【0032】
そして、IGV制御部113は、入口案内翼開度設定部10によって設定され、第1補正部24および第2補正部26によって補正された入口案内翼104の開度設定値をIGV開度指令117として入口案内翼104のアクチュエータに出力する。
【0033】
入口案内翼開度設定部10は、従来の制御部110における構成、即ち、乗算器11、テーブル関数器(FX1)12、リミッタ13、補正関数器(FX2)14および制限関数器(FX3)15を備えた構成に、これら構成要素によって設定されたIGV開度を第1開度補正量および第2開度補正量で補正するための加算器16を加えた構成である。
【0034】
入口案内翼開度設定部10では、基本的に、発電機150の出力(GT出力;発電機出力センサの出力)に応じて、図9(a)に示すような関数に従ってIGV開度を設定する。ただし、補正関数器(FX2)14により、図9(b)に示すような圧縮機入口温度(吸気状態検出器121によって検出される外気温度)に対応した関係に基づきGT出力補正係数K2を生成して、乗算器11でGT出力にこの補正係数K2を掛け合わせることで、テーブル関数を参照するGT出力値を補正している。
【0035】
また、制限関数器(FX3)15により、図9(c)に示すような圧縮機入口温度に対応した関係に基づきIGV最大開度M1を生成して、リミッタ13により、テーブル関数器(FX1)12で生成されたIGV開度がIGV最大開度M1を超えないように制限している。
【0036】
また、第1補正部20は、第1開度補正関数器(FX4)21、第1補正部作動範囲設定器(FX5)23、乗算器22および加算器24を備えた構成である。
第1補正部20では、基本的に、第1開度補正関数器(FX4)21により、系統周波数の周波数変動量Δfに応じて、図3(a)に示すような関数に従ってIGV開度の第1開度補正量CP11を設定する。
【0037】
なお、図3(a)において不感帯を設けているのは、運転中に系統周波数は±数Hz程度の変動があり、このような変動ノイズに対して第1補正部20が実質的に作用しないようにするためである。また、系統周波数の低下に対しては入口案内翼104を開ける(IGV開度を下げる)方向の負値が設定され、系統周波数の上昇に対しては入口案内翼104を閉じる(IGV開度を上げる)方向の正値が設定されている。
【0038】
ここで、周波数変動は、短周期変動に対する周波数制御法として一般に行われるガバナフリー運転時のものを想定しており、一定量以上の相対的に大きな周波数変動に対しては所定量以上の第1開度補正量とならないように制限を設けている。
また、第1補正部20の作動範囲をガスタービンの負荷が中高負荷の範囲とするため、第1補正部作動範囲設定器(FX5)23により、発電機150の出力(発電機出力センサの出力)または発電機出力の目標値から設定される発電機出力設定値に対して、図3(b)に示すような関係を持つ作動範囲係数K5を生成し、乗算器22で第1開度補正量CP11にこの作動範囲係数K5を掛け合わせたものを第1補正部20で生成される第1開度補正量CP1としている。
【0039】
また、第2補正部30は、1次遅れフィルタ31,32、減算器33、第2開度補正関数器(FX6)34、第2補正部作動範囲設定器(FX7)35および乗算器36を備えた構成である。
第2補正部30では、まず、発電機150の出力(発電機出力センサの出力)または発電機出力の目標値から設定される発電機出力設定値を1次遅れフィルタ31,32で遅延した信号と遅延していない信号との偏差を減算器33により求め、これをガスタービンの負荷変化(擬似微分値)として得る。そして、第2開度補正関数器(FX6)34において、このガスタービンの負荷変化(GT出力の擬似微分値)に応じて、図3(c)に示すような関数に従ってIGV開度の第2開度補正量CP21を設定する。なお、この第2開度補正関数器34の関数FX6によって、第2開度補正量CP21を任意に調整可能であり、例えば、負荷上げのときのように擬似微分値が正のときだけ第2開度補正量CP21を出し、負荷下げのように擬似微分値が負のときはゼロとして補正しないようにする設定も可能となる。
【0040】
また、第2補正部30の作動範囲をガスタービンの負荷が中高負荷の範囲とするため、第2補正部作動範囲設定器(FX7)35により、発電機150の出力(発電機出力センサの出力)または発電機出力の目標値から設定される発電機出力設定値に対して、図3(d)に示すような関係を持つ作動範囲係数K7を生成し、乗算器36で第2開度補正量CP21にこの作動範囲係数K7を掛け合わせたものを第2補正部30で生成される第2開度補正量としている。
【0041】
そして、第1補正部20の加算器20により、第1補正部20で生成される第1開度補正量CP1と第2補正部30で生成される第2開度補正量とを加算してIGV加算量CP0を得て、入口案内翼開度設定部10の加算器16により、入口案内翼開度設定部10で設定されたIGV開度にIGV加算量CP0を加算してIGV開度指令117を得る。
【0042】
次に、図4を参照して、本実施形態のガスタービンの運転制御装置による運転制御について説明する。ここでは、図4(a)に示すように、系統周波数がΔfだけ低下した場合を例に説明する。
このような周波数変動を受けて、制御部111(IGV制御部113)では、第1補正部20の第1開度補正関数器(FX4)21により、系統周波数の周波数変動量Δfに応じたIGV開度の第1開度補正量CP11(負値)が設定され、ガスタービンの負荷が高負荷であるときには、第1開度補正量CP11がほぼそのまま第1開度補正量CP1として出力される。つまり、IGV開度指令117として第1開度補正量CP1だけ低く補正されたIGV開度が入口案内翼104のアクチュエータに与えられ、入口案内翼104の開度は、図4(b)に示すように、第1開度補正量CP1分だけ開く方向に変化することとなる。
【0043】
一般に、タービン入口温度は燃空比(燃料量/燃焼空気量の比)に比例することから、入口案内翼104が開く方向にIGV開度を変化させれば、圧縮機102の吸気流量は増加し燃焼空気量が増加するので、燃空比即ちタービン入口温度は低下する。また一方、「タービン出力=タービン通過流量×タービン熱落差×効率」の関係があり、入口案内翼104が開く方向にIGV開度を変化させれば、圧縮機102の吸気流量が増加してタービン通過流量も増加するので、タービン入口温度低下による熱落差以上にタービン通過流量の増大が寄与すれば発電機150の出力は増加することになる。
【0044】
したがって、タービン入口温度を、図4(e)に示すようにオーバシュート制限範囲内に抑えると共に、軸出力についても図4(c)に示すようにGrid Code要求レスポンスを満足させることができる。また特に、ガスタービン100と蒸気タービン160が同軸の1軸型複合サイクル発電プラントの場合には、蒸気タービン160の出力(ST出力)の増加が遅れるため、Grid
Codeで規定された軸出力を満足するためには、蒸気タービン160の出力不足をガスタービン100の過負荷運転で補う必要があるが、十分に対応可能となる。
【0045】
また、負荷増加指令等の負荷変化に対しては、制御部111(IGV制御部113)の第2補正部30で対処することになる。つまり、予め設定されたガスタービン出力に対しての入口案内翼104の開度設定だけでは、静的な開度設定となり、負荷変化上昇時には遅れ傾向の開度設定となるが、上記のような負荷変化量に応じた第2開度補正量を用いて過渡的なプラスアルファをIGV開度設定値に加えることで、負荷上昇時に入口案内翼104を開く方向へ制御して排ガス温度を低めに抑えることができる。また、負荷変化が収束するに従い、加えた開度を徐々に減少させ、負荷変化量がゼロの場合には補正を掛けない状態の開度に戻る。なお、負荷の上昇変化について負荷変化量について説明したが、負荷変化率を算出して用いてもよい。他の実施の形態においても同様である。
【0046】
以上説明したように、本実施形態に係るガスタービンの運転制御装置および運転制御方法によれば、IGV制御部113の入口案内翼開度設定部10により、予め設定された発電機150の出力に対する入口案内翼104の開度の関係に基づき発電機出力センサの検出値から入口案内翼104の開度を設定し、第1補正部20により、一定量を超える周波数変動に対して、該周波数変動量に応じた入口案内翼104の第1開度補正量を算出し、入口案内翼開度設定部10によって設定された開度を補正し、第2補正部30により、発電機150の出力(発電機出力センサの出力)または発電機出力の目標値から設定される発電機出力設定値からガスタービンの負荷変化を算出して該負荷変化量に応じた入口案内翼104の第2開度補正量を算出し、入口案内翼開度設定部10によって設定された開度を補正するようにしている。
【0047】
これにより、例えば系統周波数が低下した場合に、周波数変動量Δfに応じた入口案内翼104の第1開度補正量を設定して、入口案内翼104を開けるように制御するので、タービン入口温度をオーバシュート制限範囲内に抑えることができると共に、風量増加により軸出力についてもGrid Code要求レスポンスを満足させることができる。また、例えば負荷増加指令等の負荷変化に対しても、負荷変化量に応じた入口案内翼104の第2開度補正量を設定して、入口案内翼104を開けるように制御するので、排ガス温度を低めに抑えることができる。
【0048】
また、本実施形態に係るガスタービンの運転制御装置および運転制御方法によれば、第1補正部20および第2補正部30を、発電機150の出力が所定範囲にある場合に作動するようにしている。ガスタービンの負荷が中高負荷の範囲にあり、周波数変動や負荷変化があったときに、タービン入口温度がオーバシュート制限値を超えるといった問題が発生することから、発電機150の出力に基づきガスタービンの負荷が中高負荷の範囲にある場合にのみ補正することとすれば、よりきめ細かな制御が可能となる。
【0049】
〔第2の実施形態〕
次に、本発明の第2の実施形態に係るガスタービンの運転制御装置および運転制御方法について、図5および図6を参照して説明する。ここで、図5は第2の実施形態におけるIGV制御部113の具体的な構成図であり、図6は第2の実施形態において系統周波数が低下したときの各種緒量のタイムチャートである。
【0050】
なお、本実施形態は、第1の実施形態の構成に対して、第1補正部20の第1開度補正量および第2補正部30の第2開度補正量の時間変化率が所定値以下となるように制限する変化率制限部41を付加した点に特徴があり、ガスタービンの運転制御装置の全体構成は第1の実施形態(図1)と同等であり、各構成要素の説明を省略する。また、IGV制御部113の具体的な構成についても、図5において第1の実施形態(図3)と同等な構成要素に同一の符号を附して説明を省略する。
【0051】
図5において、IGV制御部113は、入口案内翼開度設定部10と、第1補正部40と、第2補正部30とを有して構成され、第1補正部40には、第1補正部20の第1開度補正量および第2補正部30の第2開度補正量の加算結果であるIGV加算量(CP0)の時間変化率を制限する変化率制限部41が付加されている。
変化率制限部41は、入口案内翼104を開く方向(補正量の時間変化がマイナス)のときと、入口案内翼104を閉じる方向(補正量の時間変化がプラス)のときとで、変化率の制限値を独立して設定可能である。これにより、入口案内翼104を開く速度と切り戻し時の速度とを独立して調整できる。
【0052】
また、図5では、変化率制限部41を加算器24と加算器16の間に設置して、第1開度補正量および第2開度補正量の加算結果であるIGV加算量の時間変化率を制限するようにしているが、第1補正部40の乗算器22と加算器24の間、並びに、第2補正部30の乗算器36と第1補正部40の加算器24の間にそれぞれ設置して、第1開度補正量および第2開度補正量の時間変化率をそれぞれ別個に制限するようにしても良い。
【0053】
次に、図6を参照して、本実施形態のガスタービンの運転制御装置による運転制御について説明する。第1の実施形態と同様に、図6(a)に示すような系統周波数がΔfだけ低下した場合を例に説明する。
【0054】
このような周波数変動を受けて、制御部111(IGV制御部113)では、第1補正部40の第1開度補正関数器(FX4)21により、系統周波数の周波数変動量Δfに応じたIGV開度の第1開度補正量CP11(負値)が設定され、ガスタービンの負荷が高負荷であるときには、第1開度補正量CP11がほぼそのまま第1開度補正量CP1として出力される。つまり、IGV開度指令117として第1開度補正量CP1だけ低く補正されたIGV開度が入口案内翼104のアクチュエータに与えられ、入口案内翼104の開度は、図6(b)に示すように、第1開度補正量CP1分だけ開く方向に変化することとなる。
【0055】
その後、入口案内翼104をさらに開いた分だけ切り戻す際に、入口案内翼104をさらに開く時と同等の速度で戻すと、燃料流量とのミスマッチ等によりタービン入口温度が制限値以上に上昇する可能性がある。本実施形態では、変化率制限部41により、入口案内翼104を開く方向(補正量の時間変化がマイナス)のときの時間変化率の制限よりも、入口案内翼104を閉じる方向(補正量の時間変化がプラス)のときの時間変化率の制限を厳しめに設定し、定格開度への切り戻し時に急激に戻すことの無いようにしてタービン入口温度が制限値以上に上昇することを防止している。
【0056】
〔第3の実施形態〕
次に、本発明の第3の実施形態に係るガスタービンの運転制御装置について説明する。第1の実施形態では、第1補正部20および第2補正部30の作動範囲をガスタービンの負荷が中高負荷の範囲とするため、それぞれ第1補正部作動範囲設定器(FX5)23および第2補正部作動範囲設定器(FX7)35において、発電機150の出力(発電機出力センサの出力)または発電機出力の目標値から設定される発電機出力設定値に対する関数を用いて行ったが、本実施形態では、発電機150の出力に代えてタービンの入口温度を用いる。
【0057】
なお、タービン入口温度は直接計測していないため、これに代わる指標を用いる。より具体的には、例えば、特開2007−77867号公報の「ガスタービンの燃焼制御装置」には、タービン入口温度に比例する燃焼負荷指令値(CLCSO)を、ガスタービン出力と、入口案内翼104の開度と、圧縮機102の吸気温度とに基づき算出する技術が開示されており、この燃焼負荷指令値(CLCSO)を代用指標として用いることができる。
【0058】
このように、タービン入口温度(または代用指標)を用いて第1補正部20および第2補正部30の作動範囲を設定することにより、タービン入口温度が最も厳しいポイントで入口案内翼104を全開にするといった運用が可能となり、よりきめ細かな制御が可能となる。
【0059】
〔第4の実施形態〕
次に、本発明の第4の実施形態に係るガスタービンの運転制御装置について説明する。第1の実施形態では、第1補正部20および第2補正部30の作動範囲をガスタービンの負荷が中高負荷の範囲とするため、それぞれ第1補正部作動範囲設定器(FX5)23および第2補正部作動範囲設定器(FX7)35において、発電機150の出力(発電機出力センサの出力)または発電機出力の目標値から設定される発電機出力設定値に対する関数を用いて行ったが、本実施形態では、発電機150の出力に代えてタービンの最終段のブレードを通過した直後のガス温度であるブレードパス温度を用いる。
【0060】
なお、ブレードパス温度はブレードパス温度検出器123により直接計測しており、これを用いる。計測値を用いることにより、第3の実施形態と比較して制御の信頼性をより向上させることができる。ただし、タービン入口温度を用いていないので、より安全側に設定行う必要がある。
【0061】
このように、ブレードパス温度を用いて第1補正部20および第2補正部30の作動範囲を設定することにより、タービン入口温度が最も厳しいポイントで入口案内翼104を前回にするといった運用が可能となり、よりきめ細かな制御が可能となる。
【0062】
〔変形例〕
以上、本発明の実施形態について図面を参照して詳述してきたが、具体的な構成はこれらの実施形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の設計変更等も含まれる。
【0063】
例えば、本願の明細書および図面中において、詳しく言及していない制御部111の燃料制御部112において、出力増加要求により入口案内翼104が開動作する間は、温調リミット値、ロードリミット値、或いは待機値(RSCO)をオーバシュートが許容されるところまで拡げるようにしても良い。第1の実施形態〜第4の実施形態におけるガスタービンの運転制御装置による運転制御により、圧縮機102の吸気流量が増えることから、燃料供給量を増やすことができるようになり、リミット値や待機値を拡げることにより温調やロードリミットにかかることなく、100%以上の負荷要求にも対応することができる。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】本発明の実施形態に係るガスタービンの運転制御装置の構成図である。
【図2】第1の実施形態におけるIGV制御部113の具体的な構成図である。
【図3】第1の実施形態におけるIGV制御部113の各種関数器および作動範囲設定器が持つ関数を説明する説明図である。
【図4】第1の実施形態において系統周波数が低下したときの各種緒量のタイムチャートである。
【図5】第2の実施形態におけるIGV制御部113の具体的な構成図である。
【図6】第2の実施形態において系統周波数が低下したときの各種緒量のタイムチャートである。
【図7】従来のガスタービンの運転制御装置の構成図である。
【図8】従来例における制御部110の具体的な部分構成図である。
【図9】従来例における制御部110の各種関数器が持つ関数を説明する説明図である。
【図10】従来例において系統周波数が低下したときの各種緒量のタイムチャートである。
【符号の説明】
【0065】
10 入口案内翼開度設定部
20,40 第1補正部
30 第2補正部
100 ガスタービン
101 タービン
102 圧縮機
103 燃焼器
104 入口案内翼
105 燃料流量調整弁
111 制御部
112 燃料制御部
113 IGV制御部
116 制御信号
117 IGV開度指令
121 吸気状態検出器
122 車室内圧力センサ
123 ブレードパス温度検出器
124 排ガス温度検出器
150 発電機
160 蒸気タービン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
前段に入口案内翼を備える圧縮機からの圧縮空気と燃料とを燃焼器に供給し、該燃焼器で発生する燃焼ガスによってタービンを回転させて発電機を駆動するガスタービンの運転制御装置であって、
予め設定された前記発電機の出力に対する前記入口案内翼の開度の関係に基づいて、前記発電機出力の検出値から前記入口案内翼の開度を設定する入口案内翼開度設定手段と、
一定量を超える周波数変動に対して、該周波数変動量に応じた前記入口案内翼の第1開度補正量を算出し、前記入口案内翼開度設定手段によって設定された開度を補正する第1補正手段と
を有し、
前記入口案内翼のアクチュエータに前記第1補正手段による補正後の開度駆動指令を出力するガスタービンの運転制御装置。
【請求項2】
前記発電機の出力から当該ガスタービンの負荷変化を算出して該負荷変化量に応じた前記入口案内翼の第2開度補正量を算出し、前記入口案内翼開度設定手段によって設定された開度を補正する第2補正手段を有し、
前記入口案内翼のアクチュエータに前記第1補正手段および第2補正手段による補正後の開度駆動指令信号を出力する請求項1に記載のガスタービンの運転制御装置。
【請求項3】
前記第1補正手段の第1開度補正量および第2補正手段の第2開度補正量のうちの少なくとも1つの時間変化率が所定値以下となるように制限する変化率制限手段を有する請求項1または請求項2に記載のガスタービンの運転制御装置。
【請求項4】
前記第1補正手段および前記第2補正手段の少なくとも1つは、前記発電機の出力が所定範囲にある場合に作動する請求項1から請求項3のいずれかに記載のガスタービンの運転制御装置。
【請求項5】
前記第1補正手段および前記第2補正手段の少なくとも1つは、前記タービンの入口温度が所定範囲にある場合に作動する請求項1から請求項3のいずれかに記載のガスタービンの運転制御装置。
【請求項6】
前記第1補正手段およびまたは前記第2補正手段は、前記タービンの最終段のブレードを通過した直後のガス温度であるブレードパス温度が所定範囲にある場合に作動する請求項1から請求項3のいずれかに記載のガスタービンの運転制御装置。
【請求項7】
前段に入口案内翼を備える圧縮機からの圧縮空気と燃料とを燃焼器に供給し、該燃焼器で発生する燃焼ガスによってタービンを回転させて発電機を駆動するガスタービンの運転制御方法であって、
予め設定された前記発電機の出力に対する前記入口案内翼の開度の関係に基づいて、前記発電機出力の検出値から前記入口案内翼の開度を設定する工程と、
一定量を超える周波数変動に対して、該周波数変動量に応じた前記入口案内翼の第1開度補正量を算出し、前記入口案内翼開度設定手段によって設定された開度を補正する工程と
を含み、
前記入口案内翼のアクチュエータに前記第1開度補正量による補正後の開度駆動指令を出力するガスタービンの運転制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2009−19528(P2009−19528A)
【公開日】平成21年1月29日(2009.1.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−181236(P2007−181236)
【出願日】平成19年7月10日(2007.7.10)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【Fターム(参考)】