説明

ガスバリア性を有する生分解性樹脂容器

【課題】 生分解性樹脂からなり、特に耐熱性に優れ、ガスバリア性を併せ持った容器を提供する。
【解決手段】 生分解性樹脂を成形してなる樹脂容器であって、成形後の樹脂をX線回折法により測定した結晶化度が15%以上であり、同樹脂をDSC法により測定した第一昇温時のΔH(融解吸熱熱量−結晶化発熱量)が15J/g以上であり、かつ容器の目付けあたり(100g/m)の水蒸気バリア性能が300g/日/m以下であることを特徴とする生分解性樹脂容器。生分解性樹脂がポリ乳酸系樹脂を主成分とすることを特徴とする上記生分解性樹脂容器。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は生分解性樹脂からなり、特にガスバリア性ならびに耐熱性に優れた容器に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ポリスチレン系、ポリプロピレン系及びポリエチレン系樹脂からなるプラスチック製容器は、取り扱い易く安価であるため、食品、農業・園芸及び包装等の様々な分野で多用されてきた。そして、その利便性の良さゆえ、主に使い捨てにされることが多かった。これらの容器は焼却すると紙ゴミ等よりも燃焼熱量が高く、焼却炉を傷めてしまう恐れがあり、また、埋め立て処理すると、自然環境下での分解速度がきわめて遅いため半永久的に地中に残存し、地球環境を破壊するという問題がある。さらに、投棄すると景観が損なわれたりする問題を有している。
【0003】
そこで、近年、生分解性樹脂を利用した容器が注目されている。生分解性樹脂は、焼却しても通常のプラスチックより燃焼熱量が低く、埋め立て処理しても、自然環境下において炭酸ガスと水とに分解されるため、環境に無害な樹脂である。
【0004】
生分解性樹脂を用いた容器としては、ポリ乳酸または乳酸とヒドロキシカルボン酸のコポリマーを主成分とする熱可塑性ポリマー組成物からなる容器がある(例えば、特許文献1参照。)。しかしながら、ポリ乳酸などの脂肪族ポリエステルは、ごく一部の組成物を除いて一般にガス透過性がよく、空気中の酸素が透過することによる容器中物質の酸化や、水蒸気透過による湿気から中身を守るという機能を持たないため、これまで保存容器として使われることがなかった。
【0005】
上記のように、ポリ乳酸などの脂肪族ポリエステルは水蒸気や酸素などのガスのバリア性に劣るため、様々な改良が試みられてきた。しかし、生分解性を有しない化合物をある一定量含有させる方法では、容器の生分解性が低下する問題や、蒸着・コート・多層処理などによりガスバリア性を付与する方法では、高度な装置が必要なためコスト高になるなどの欠点や、不純物を含むことによるリサイクルが不適合になるなどの問題があった。また、強い延伸により配向結晶化させる方法は、通常は薄いフィルムにしか適用することが難しい上、このようにして作製した結晶は非常に小さいため、ガスバリア性を向上させるには十分ではなかった。
【0006】
上記方法に対し、ポリ乳酸などの脂肪族ポリエステルの結晶、特に大きな結晶を作製することでガスバリア性を向上させることは、不純物が混じらない点で好ましい。特許文献2には、フィルムやチューブ状の成形物の場合に10時間以上のアニール処理で結晶化する方法と、インサート射出成形の場合は120℃程度の金型で保圧をかけたまま10〜20秒保持して結晶化する方法が示されている。ポリ乳酸は特に結晶化速度の遅い樹脂であるため、通常の熱処理では特許文献2のように非常に長い時間がかかり実用的でない。特許文献2において、肩部はインサート射出成形で短い時間で成形が可能となっているが、通常この条件では結晶化の進行は十分とは言えず、高いバリア性は、十分なバリア性を付与した胴部によっていると考えられる。また射出成形以外への応用は難しかった。このようにポリ乳酸などの脂肪族ポリエステルにおいて、結晶化がガスバリア性向上に寄与することはすでに知られているが、どの程度の結晶性が効果的か、さらにはガスバリア向上に有効な結晶化を促進するための方法は知られていなかった。
【0007】
本発明者らは先に、このようなポリ乳酸などの脂肪族ポリエステルの発泡容器において、結晶化促進により、耐熱性が向上することを開示した(特許文献3)。この方法では容器の一部の結晶化度を高くすることで耐熱性を向上することが可能となったが、容器全体の結晶化が十分進んでいるとはいえず、耐熱性は付与できるが、ガスバリア性が十分となるまでには至っていなかった。
【特許文献1】特開平5−139435号公報
【特許文献2】特開平9−124050号公報
【特許文献3】特開2004−217288号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記の問題点を解決しようとするものであり、生分解性樹脂からなり、特に耐熱性に優れ、ガスバリア性を併せ持った容器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、生分解性樹脂からなる容器において、前記容器全体の平均結晶化度が15%以上、かつ(融解吸熱熱量−結晶化発熱量)が15J/g以上にすることにより、ガスバリア性に優れ、耐熱性も有する容器を実現できることを見出し、本発明に到達した。
【0010】
すなわち本発明の要旨は,次のとおりである。
(1) 生分解性樹脂を成形してなる樹脂容器であって、成形後の樹脂をX線回折法により測定した結晶化度が15%以上であり、同樹脂をDSC法により測定した第一昇温時のΔH(融解吸熱熱量−結晶化発熱量)が15J/g以上であり、かつ容器の目付けあたり(100g/m)の水蒸気バリア性能が300g/日/m以下であることを特徴とする生分解性樹脂容器。
(2) 生分解性樹脂がポリ乳酸系樹脂を主成分とすることを特徴とする(1)記載の生分解性樹脂容器。
(3) 容器を構成する樹脂が、気泡を含有することを特徴とする(1)又は(2)に記載の生分解性樹脂容器。
(4) 容器がツバ部を有することを特徴とする(1)〜(3)のいずれかに記載の生分解性樹脂容器。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、生分解性樹脂からなる容器であって、ガスバリア性に優れるため保存容器としても使え、電子レンジ等の使用に耐えうる耐熱性を有した容器を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明において生分解性樹脂容器を構成する生分解性樹脂は、脂肪族ポリエステル樹脂成分を主成分とすることが好ましく、具体的にはこの成分を70質量%以上含有することが好ましく、85質量%以上含有することがさらに好ましい。
他の成分としては、脂肪族ポリエステルのブロック及び/またはランダム共重合体、及び脂肪族ポリエステルに他の成分、例えば芳香族ポリエステル、ポリエーテル、ポリカーボネート、ポリアミド、ポリウレタン、ポリオルガノシロキサン、ポリオレフィン、アクリル系樹脂等を30質量%以下(ブロックまたはランダム)共重合したもの及び/またはそれらの混合したものが含まれていてもよい。
【0013】
脂肪族ポリエステルの構成モノマーとしては、(1)グリコール酸、乳酸、ヒドロキシブチルカルボン酸などのヒドロキシアルキルカルボン酸、(2)グリコリド、ラクチド、ブチロラクトン、カプロラクトンなどの脂肪族ラクトン、(3)エチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオールなどの脂肪族ジオール、(4)ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、エチレン/プロピレングリコール、ジヒドロキシエチルブタンなどのようなポリアルキレンエーテルのオリゴマー、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリブチレンエーテルなどのポリアルキレングリコール、(5)ポリプロピレンカーボネート、ポリブチレンカーボネート、ポリヘキサンカーボネート、ポリオクタンカーボネート、ポリデカンカーボネート等のポリアルキレンカーボネートグリコール及びそれらのオリゴマー、(6)コハク酸、アジピン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、デカンジカルボン酸、グルタール酸などの脂肪族ジカルボン酸などが挙げられる。
【0014】
これらのモノマーから構成される脂肪族ポリエステルの中でも、前記(1)に示したヒドロキシアルキルカルボン酸由来の脂肪族ポリエステルは、融点が高く、耐熱性の観点から好適であり、さらにこの中でもポリ乳酸系樹脂は、融点が高く、本発明に用いる樹脂としては好適である。ポリ乳酸系樹脂としては、ポリL−乳酸、ポリD−乳酸、ポリD、L−乳酸またはこれらの混合物を用いることができる。これらのポリ乳酸系樹脂の中で、光学活性のあるL−乳酸、D−乳酸の単位が90モル%以上であると融点がより高く、耐熱性の観点からより好適に用いることができる。また、このポリ乳酸系樹脂の性能を損なわない程度に、ヒドロキシカルボン酸類、ラクトン類等のコモノマーとの共重合体を用いてもよい。共重合可能なヒドロキシカルボン酸類、ラクトン類モノマーとしては、グリコール酸、3−ヒドロキシ酪酸、4−ヒドロキシ酪酸、4−ヒドロキシ吉草酸、ヒドロキシカプロン酸、グリコリド、β−プロピオラクトン、β−ブチロラクトン、ε−カプロラクトン等が挙げられる。また、前記(3)、(4)、(6)に示した中からジオールとジカルボン酸の組み合わせから得られる脂肪族ポリエステルや(5)のカーボネートを共重合してもよい。
【0015】
本発明における生分解性樹脂には、架橋剤及び/又はラジカル重合開始剤が配合されていることが好ましい。これらを配合することにより、生分解性樹脂の架橋度を高め、分岐度合いを調整することができ、発泡成形等の成形性に優れたものとなる。
【0016】
架橋剤としては、(メタ)アクリル酸エステル化合物、多価(メタ)アクリレート、ジイソシアネート、多価イソシアネート、プロピオン酸カルシウム、多価カルボン酸、多価無水カルボン酸、多価アルコール、多価エポキシ化合物、金属アルコキシド、シランカップリング剤等が挙げられる。反応の安定性、生産性、操業時の安全性等を考慮すると、(メタ)アクリル酸エステル化合物が最も好ましい。
本発明で用いられる(メタ)アクリル酸エステル化合物としては、生分解性樹脂との反応性が高くモノマーが残りにくく、毒性が比較的少なく、樹脂の着色も少ないことから、分子内に2個以上の(メタ)アクリル基を有するか、又は1個以上の(メタ)アクリル基と1個以上のグリシジル基もしくはビニル基を有する化合物が好ましい。具体的な化合物としては、グリシジルメタクリレート、グリシジルアクリレート、グリセロールジメタクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、アリロキシポリエチレングリコールモノアクリレート、アリロキシポリエチレングリコールモノメタクリレート、ポリエチレングリコールジメタクリレート、ポリエチレングリコールジアクリレート、ポリプロピレングリコールジメタクリレート、ポリプロピレングリコールジアクリレート、ポリテトラメチレングリコールジメタクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレート、エチレングリコールジメタクリレートまたこれらのアルキレングリコール部が様々な長さのアルキレンの共重合体でもよく、さらにブタンジオールメタクリレート、ブタンジオールアクリレート等が挙げられる。
架橋剤の配合量は、生分解性樹脂100質量部に対して0.005〜5質量部、さらに0.01〜3質量部がより好ましく、もっとも好ましくは0.1〜1質量部である。0.005質量部未満では架橋度が不十分であり、5質量部を超える場合には架橋の度合いが強すぎて、操業性に支障が出るため好ましくない。
【0017】
ラジカル重合開始剤としては、分散性が良好な有機過酸化物が好ましく、具体的には、ベンゾイルパーオキサイド、ビス(ブチルパーオキシ)トリメチルシクロヘキサン、ビス(ブチルパーオキシ)シクロドデカン、ブチルビス(ブチルパーオキシ)バレレート、ジクミルパーオキサイド、ブチルパーオキシベンゾエート、ジブチルパーオキサイド、ビス(ブチルパーオキシ)ジイソプロピルベンゼン、ジメチルジ(ブチルパーオキシ)ヘキサン、ジメチルジ(ブチルパーオキシ)ヘキシン、ブチルパーオキシクメン等が挙げられる。
ラジカル重合開始剤の配合量は生分解性樹脂100質量部に対して0.01〜10質量部、さらに0.1〜5質量部がより好ましく、もっとも好ましくは0.15〜3質量部である。0.01質量部未満では架橋度が不十分であり、10質量部を超える場合には反応性が飽和するため、コスト面で好ましくない。
【0018】
本発明において、生分解性樹脂には、無機フィラーや有機化合物の中で結晶化促進に効果のある化合物を加えてもよい。たとえば無機フィラーとしては、層状ケイ酸塩、タルク、酸化チタン、酸化ケイ素など、有機化合物としてはエルカ酸アミド、エチレンビスステアリン酸アミド、エチレンビスオレイン酸アミドなどを挙げることが出来る。
【0019】
生分解性樹脂にはその特性を大きく損なわない限りにおいて、さらに顔料、香料、染料、艶消し剤、熱安定剤、酸化防止剤、可塑剤、滑剤、離型剤、耐光剤、耐候剤、難燃剤、抗菌剤、界面活性剤、表面改質剤、帯電防止剤、充填材、末端封鎖剤等を添加することも可能である。熱安定剤や酸化防止剤としては、たとえばヒンダードフェノール類、リン化合物、ヒンダードアミン、イオウ化合物、銅化合物、アルカリ金属のハロゲン化物あるいはこれらの混合物を使用することができる。無機充填材としては、タルク、炭酸カルシウム、炭酸亜鉛、ワラストナイト、シリカ、アルミナ、酸化マグネシウム、ケイ酸カルシウム、アルミン酸ナトリウム、アルミン酸カルシウム、アルミノ珪酸ナトリウム、珪酸マグネシウム、ガラスバルーン、カーボンブラック、酸化亜鉛、三酸化アンチモン、ゼオライト、ハイドロタルサイト、金属繊維、金属ウイスカー、セラミックウイスカー、チタン酸カリウム、窒化ホウ素、グラファイト、ガラス繊維、炭素繊維等が挙げられる。有機充填材としては、澱粉、セルロース微粒子、木粉、おから、モミ殻、フスマ等の天然に存在するポリマーやこれらの変性品が挙げられる。末端封鎖剤としてはカルボジイミド化合物、オキサゾリン化合物、エポキシ化合物などが挙げられる。
【0020】
なお、生分解性樹脂に架橋剤、ラジカル重合開始剤、添加剤や他の熱可塑性樹脂を混合する方法は特に限定されるものではなく、通常の加熱溶融後、例えば、一軸押出機、二軸押出機、ロール混練機、ブラベンダー等を用いる混練法によって混練するとよい。また、スタティックミキサーやダイナミックミキサーを併用することも効果的である。また、生分解性樹脂の重合時に加えてもよい。
【0021】
本発明の容器を構成する樹脂としては、X線回折法により測定した結晶化度が15%以上であり、DSC法により測定した第一昇温時のΔH(融解吸熱熱量−結晶化発熱量)が15J/g以上であり、かつ容器の目付けあたり(100g/m)の水蒸気バリア性能が300g/日/m以下であることが必要である。
【0022】
成形後の樹脂の結晶化度は、成形した樹脂容器全体の平均値として、15%以上であることが必要であり、16%以上であることが好ましい。ガスバリア性を向上させるには、樹脂容器全体の結晶化度を高める必要があるので、本発明においては、樹脂容器全体を粉砕し、十分均一に混合・攪拌した後にサンプリングを行い、均一なサンプルを用いてX線測定を行なう。なお、容器の一部で容器全体を表すことが出来る場合は容器全体からサンプルを採取しなくてもよい。
結晶化の促進により、容器構造の安定性も付与される。樹脂容器全体の結晶化度が15%に満たない場合、ガスバリア性が不十分となり、中身が酸化されたり湿気を帯たりしてしまう。また、結晶化度の上限は、適用する生分解性樹脂の状態あるいは形態により異なるが、高ければ高いほどよい。
【0023】
本発明において、成形後の樹脂の結晶化度は、RAD−rBX線回折装置(理学電機工業社製)を用い、WAXD反射粉末法(X線:Cu−Kα線/50kV/200mA、スキャンスピード:2°/min)により測定する。
具体的には、まず、結晶化度が0.1〜40%付近になるサンプルを数点作製する。例えば、200℃にて1mm以下の厚みに溶融プレス成形したサンプルを、直ちに液体窒素へつけて、結晶化度0%に近い非晶試料を作製したり、このサンプルを適宜熱処理するなどして、結晶化度の違うサンプルを作製する。
次いで、密度法測定(乾式密度計)により得られたサンプルの密度Aを測定する。
完全非晶(結晶化度0%)では密度が1.245、完全結晶(結晶化度100%)では密度が1.290であると仮定し(これらの値には複数の値の提案があるため、本出願ではこの値をもって計算する。)、結晶化度X(%)を、
1.245(1−X/100)+1.29・X/100=A
の式から求め、密度法による結晶化度を決定する。
そしてこのサンプルのX線強度を測定し、密度法の結晶化度とX線での測定との相関関係を求めておく。
次に、成形後の樹脂のX線強度を測定し、結晶部と非晶部のピークを多重ピーク分離解析法にて分離し、上記の相関関係より、成形後の樹脂の結晶化度を求める。
【0024】
本発明において、成形後の樹脂のDSC法により測定した第一昇温時のΔH(融解吸熱熱量−結晶化発熱量)は、樹脂容器全体の平均値として、15J/g以上であることが必要である。15J/g未満では結晶化が十分でなく、十分なガスバリア性が得られない。DSC法において測定する場合も、樹脂容器全体を粉砕し、十分均一に混合・攪拌した後にサンプリングを行うが、容器の一部で容器全体を表すことが出来る場合は容器全体からサンプルを採取しなくてもよい。
【0025】
本発明において、X線法とDSC法の両方の値が必要なのは、いずれの方法においても脂肪族ポリエステル系樹脂の結晶化度の絶対値は得られないためである(100%結晶品がないため。)。ガスバリア性を向上させるにはより厳密な結晶の成長度合いを規定する必要があることから両者の値による規定が必要なのである。
【0026】
本発明の樹脂容器において、成形後の樹脂の結晶化度を15%以上とし、かつ、昇温時のΔH(融解吸熱熱量−結晶化発熱量)を15J/g以上とするためには、容器製造時の温度条件、例えば絞り成形温度、金型温度、ブロー成形温度等を使用した主成分の生分解性樹脂のガラス転移温度(Tg)+20℃以上、融点(Tm)−20℃以下で所定時間保った後で、Tg以下に冷却することにより実現できる。樹脂の結晶化をより促進させるためには、金型温度を結晶化温度(Tc)−20℃以上、(Tc+20℃)以下の温度範囲にすることがより好ましい。また、成形直前の生分解性樹脂のシートを(Tg+20℃)〜(Tm−20℃)、より好ましくは(Tc−20℃)〜(Tc+20℃)で予め所定時間熱処理する、あるいは成形後の容器を(Tg+20℃)〜(Tm−20℃)、より好ましくは(Tc−20℃)〜(Tc+20℃)で所定時間熱セットすることでも実現できる。
容器製造時の温度が(Tg+20℃)未満では、得られる容器の結晶化度を十分に高めることができず、ガスバリア性が不十分となる。一方、(Tm−20℃)を超えると、偏肉が生じたり、配向がくずれたりして、耐衝撃性が低下する場合がある。また、粘度低下によりブローダウンしたりする等の問題も発生する。
(Tg+20℃)〜(Tm−20℃)の温度で保持する時間は、使用する生分解性樹脂の結晶化速度指数に依存するため、一概に規定できないが、前述の範囲の所定の温度にきっちり制御された金型内で、少なくとも3秒、好ましくは5秒、さらに好ましくは10秒以上にすることが好ましい。3秒よりも短い場合、結晶化度を十分に高めることができない。
【0027】
本発明の樹脂容器は、容器を構成する樹脂の結晶化度が15%以上であり、ΔHが15J/g以上であるため、容器全体の結晶化が促進されており、目付けあたり(100g/m)の水蒸気バリア性能を300g/日/m以下とすることができる。水蒸気バリア性能が300g/日/mを超えると、容器の内容物が酸化されたり、湿気を帯びたりすることがある。
【0028】
本発明において生分解性樹脂は、通常の分析で用いられるDSC装置を用い、いったんTm+30℃で溶融した後、Tc+20℃にて等温結晶化させた時の結晶化速度指数が50(分)以下であることが好ましい。結晶化速度指数は、樹脂をTm+30℃の溶融状態からTc+20℃にて結晶化させたときに最終的に到達する結晶化度の2分の1に到達するまでの時間(分)(図1参照)で示され、指数が小さいほど結晶化速度が速いことを意味する。結晶化速度指数が50(分)よりも高いと、結晶化するのに時間がかかりすぎ、希望する結晶化度の容器が得られなかったり、真空圧空成形や射出成形などでのサイクルタイムが長くなったりして、生産性が悪くなることがある。結晶化速度指数は好ましくは30〜0.01分、さらに好ましくは5〜0.05(分)である。結晶化速度が速すぎると結晶化により成形性が悪くなり、所定の形状の容器を得ることができないことがある。
【0029】
本発明の容器を構成する樹脂は、軽量性、保温性の観点から、気泡を含有していてもよい。この場合、樹脂の発泡倍率としては1.0倍〜100倍であることが好ましい。樹脂の発泡倍率が低い場合は、薄肉でも強度が得られやすく、発泡倍率が4倍以上になると保温性、振動吸収性などに優れるものとなる。ただし、100倍を超える場合は、機械強度が不足し、容器としての性能を満足できないことがある。
【0030】
発泡容器の場合に、気泡の形態は、特に限定されるものではないが、容器から内容物が染み出したり、もれたりするのを防ぐために、独立気泡であることが好ましい。また、気泡径としては、0.001〜5mm、さらに0.01〜5mmであることがより好ましい。0.001mm未満では、容器の軽量性が劣ることになり、5mmを超えると容器強度が不足したり、容器の品位が損なわれたりする場合がある。
【0031】
生分解性樹脂に気泡を含有させるためには、一般的な発泡剤を使用することができる。発泡剤の種類としては、特に限定されるものではなく、例えば、炭酸ガス、窒素、空気等の無機不活性ガス系、アゾジカルボンアミド、アゾビスイソブチロニトリル、4,4’−オキシビスベンゼンスルホニルヒドラジド、ベンゼンスルホニルヒドラジド等の化学熱分解型発泡剤や、プロパン、ブタン、ペンタン、ヘキサン、代替フロン等の蒸発型発泡剤等が挙げられる。
【0032】
また、発泡剤とともに、発泡核剤や発泡助剤を添加するのが好ましい。発泡核剤は発泡核を形成し、その核から発泡を成長させるために有効であり、また発泡助剤は発泡を均一に分散するために有効である。
【0033】
発泡核剤としては、通常、タルク、シリカ微粉末、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、炭酸ナトリウム等が挙げられる。また、発泡助剤としては、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸等が挙げられる。
【0034】
本発明の樹脂容器に気泡を含有させる方法としては、予め発泡剤を用いて所望の発泡倍率に樹脂を発泡させてシート等を作製後、これを容器に加工する方法や、生分解性樹脂を容器形状に加工する際に、樹脂に発泡剤を混入させたりする方法がある。
【0035】
本発明の樹脂容器のさらに別の形態として、生分解性樹脂容器の外面及び/又は内面に、生分解性樹脂からなり、気泡を含有しない層が積層された形態も適用することができる。
気泡を含有しない層を構成する生分解性樹脂の結晶化度も、15%以上であることが必要であり、16%以上が好ましい。気泡を含有しない層においても、結晶化度が15%に満たない場合、ガスバリア性が不十分となる。
気泡を含有しない層としては、気泡を含まない一般的な形態のフィルム、スパンボンド、シート等が挙げられる。また、多孔フィルム、多孔シート等も適用できる。これらの層の厚みとしては5μm以上、さらに10〜500μmがより好ましい。また、気泡を含有しない層に、着色したり、文字や模様を印刷したりしてもよい。
【0036】
本発明の容器の形状は特に限定されないが、食品、物品、及び薬品等を収容するためには深さ2mm以上に絞られていることが好ましく、容器の絞り比が0.1〜5、さらに0.5〜3であることがより好ましい。容器の絞り比とは、容器断面積の概算直径(D)と容器深さ(L)との比(L/D)をいう(図2参照)。
また、必要強力から考えて容器の厚さは0.5mm以上、さらに1.0〜5.0mmがより好ましい。厚さが5.0mmを超えると容器がかさばったり、重くなったりするだけでなく、成形性も悪くなる。
【0037】
図3に本発明における容器の好ましい形態の一例を示す。本発明の容器は、容器の形態安定性を高めるために、ツバ部1を有することが好ましい。これにより、例えば持ち運びの際に容器の形態変化が少なくなる。また、容器内容物がこぼれるのを防ぐために、蓋2が容器部4に一体成形されていることが好ましく、さらに、ツバ部1と蓋2とに少なくとも一対の凹凸部3−a、3−bを有することがより好ましい。凹部3−aと凸部3−bは蓋2を閉めた状態でお互いに重なる位置に形成されており、これによりゴムバンドや紐等を用いることなく、容器に蓋をしておくことができる。
【0038】
上記容器の製造方法としては、特に限定されるものではなく、真空成形、圧空成形、および真空・圧空成形等の絞り成形や、ダイレクトブロー法、射出ブロー成形法、さらには延伸ブロー成形法等に代表されるブロー成形、及び一般的な射出成形法、ガス射出成形、射出プレス成形等を採用できる。射出成形時のシリンダ温度は生分解性樹脂のTmまたは流動開始温度以上であることが必要であり、好ましくは150〜230℃、さらに好ましくは160〜220℃の範囲である。成形温度が低すぎると成形時にショートが発生したりして成形が不安定になったり、過負荷に陥りやすく、逆に成形温度が高すぎると生分解性樹脂が分解し、得られる成形体の強度が低下したり、着色する等の問題が発生するため、好ましくない。
【0039】
本発明の容器の用途としては、食品用容器、農業・園芸用容器、ブリスターパック容器、およびプレススルーパック容器等が挙げられる。食品用容器の具体例としては、生鮮食品のトレー、インスタント食品容器、ファーストフード容器、弁当箱等が挙げられる。農業・園芸用容器の具体例としては、育苗ポット等が挙げられる。また、ブリスターパック容器の具体例としては、食品以外にも事務用品、玩具、乾電池等の多様な商品群の包装容器が挙げられる。また、本発明における容器として、流動体用容器が挙げられる。流動体用容器の具体例としては、乳製品や清涼飲料水および酒類等の飲料用コップおよび飲料用ボトル、醤油、ソース、マヨネーズ、ケチャップ、食用油等の調味料の一時保存容器、シャンプー・リンス等の容器、化粧品用容器、農薬用容器等が挙げられる。
【実施例】
【0040】
以下本発明を実施例によりさらに具体的に説明するが、本発明は実施例のみに限定されるものではない。
【0041】
実施例及び比較例の評価に用いた測定法は次のとおりである。
(1)ガラス転移温度、融点(℃):
パーキンエルマー社製示差走査型熱量計DSC−7型を用い、生分解性樹脂を昇温速度20℃/分で測定した融解吸収曲線の初期極値と最大値を与える温度をガラス転移温度(Tg)と融点(Tm)とした。
(2)結晶化温度(℃):
パーキンエルマー社製示差走査型熱量計DSC−7型を用い、生分解性樹脂を昇温速度20℃/分でTm+30℃まで昇温した後、降温速度20℃/分で−50℃まで降温した際の融解吸収曲線の初期極値を与える温度を結晶化温度(Tc)とした。
(3)分子量:
示差屈折率検知器を備えたゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)装置(島津製作所製)を用い、テトラヒドロフランを溶出液として40℃で分析を行い、標準ポリスチレン換算で分子量を求めた。
(4)MFI:
JIS K7210のD法に基づき測定した。但し、荷重が2.16kg(標
準条件)のときをMFI−1とし、荷重が13.225kgのときをMFI−2とした。温度は190℃である。
(5)見掛け密度(g/cm):
得られた発泡体を水中に浸漬した際に増加する体積で、発泡体の質量を割って見掛け密度を算出した。
(6)発泡倍率(倍):
発泡体を構成する樹脂の真密度を前記発泡体の見掛け密度で割って算出した。
(7)成形性:
真空・圧空成形機(浅野研究所製)を用い、容器を成形した時の成形性をみた。
◎:問題なく良好に成形できる。
○:若干の問題があるものの、容器の特性に問題はなく、良好に成形できる。
×:薄肉、偏肉、破れ、ブローダウン等の問題により容器が成形できない。
(8)結晶化度(%):
まず、結晶化度が0.1〜40%付近になるサンプルを数点作製した。例えば、200℃にて1mm以下の厚みに溶融プレス成形したサンプルを、直ちに液体窒素へつけて、結晶化度0%に近い非晶試料を作製したり、このサンプルを適宜熱処理するなどして、結晶化度の違うサンプルを作製した。
次いで、密度法測定(乾式密度計)により得られたサンプルの密度Aを測定した。
完全非晶(結晶化度0%)では密度が1.245、完全結晶(結晶化度100%)では密度が1.290であると仮定し(これらの値には複数の値の提案があるため、本特許ではこの値をもって計算する。)、結晶化度X(%)を、
1.245(1−X/100)+1.29・X/100=A
の式から求め、密度法による結晶化度を決定した。
そしてこのサンプルのX線強度を、RAD−rBX線回折装置(理学電機工業社製)を用い、WAXD反射粉末法(X線:Cu−Kα線/50kV/200mA、スキャンスピード:2°/min)により測定し、密度法の結晶化度とX線での測定との相関関係を求めた。
次に、樹脂容器全体を粉砕し、十分均一に混合・攪拌した後にサンプリングを行い、均一なサンプルのX線強度を測定し、結晶部と非晶部のピークを多重ピーク分離解析法にて分離し、上記の相関関係より、成形後の樹脂の結晶化度を求めた。
(9)ΔH(J/g):
上記と同様に樹脂容器全体を粉砕し、十分均一に混合・攪拌した後にサンプリングを行い、均一なサンプルを、DSC装置(パーキンエルマー社製Pyrisl DSC)を用い、20℃→200℃(+20℃/分)で昇温した。第一昇温過程において、結晶化による発熱ピークの熱量(結晶化発熱量)、および融解による吸熱ピークの熱量(融解吸熱熱量)を測定し、融解吸熱熱量から結晶化発熱量を引いた値をΔHとして求めた。
(10)水蒸気バリア性能(g/日/m):
水蒸気バリア性能は、水蒸気透過度を測定することで評価した。水蒸気透過度が低いほど水蒸気バリア性能が良好であることを示している。
水蒸気透過度は、モコン社製の透湿度測定器(PERMATRAN−W3/31MW)を用いて、40℃×95%RHにおいて測定した。次に、測定サンプルの目付けを、サンプルの大きさ(ノギスで測定)と質量(精密天秤にて測定)から求め、水蒸気透過度の測定値を、目付け100g/mあたりの値に換算した。例えば測定サンプルの目付けが40g/mであり、水蒸気透過度が120g/日/mである場合、目付け100g/mあたりの水蒸気バリア性能を48g/日/mと算出した。
(11)耐熱性:
容器に水10mlを入れ、500Wの電子レンジで2分間温め、温めた後の容器の状態を目視観察した。
◎:全く変化なし
○:表面が若干肌荒れしているものの、変形していない。
△:表面が肌荒れしており、変形している。
×:ほとんどもとの形状を維持していない。
【0042】
実施例1〜9、比較例1〜3
ガラス転移温度60℃、融点168℃、重量平均分子量13万であるポリL−乳酸樹脂(ネイチャーワークス社製)を用い、これに平均粒径2.5μmのタルクを2.0質量%ドライブレンドしたのち、温度200℃の二軸混練機(池貝製PCM−45)に供給した。一方、エチレングリコールジメタクリレートとジブチルパーオキサイド(混合溶液質量比率1:2)を用い、樹脂成分100質量部に対し、それぞれ0.15質量部、0.30質量部になるよう二軸混練機の途中より注入混練して、生分解性樹脂のペレットを採取した。
このペレットを乾燥した後の、MFI−1は1.5g/10分、MFI−2/MFI−1比は26であり、ガラス転移温度(Tg)は58℃、融点(Tm)は167℃、結晶化温度(Tc)は110℃であり、結晶化速度指数は1.5(分)であった。
得られた生分解性樹脂のペレットを、二軸混練押出発泡体製造装置(東芝機械製TEM−48BS)に供給した。温度200℃で溶融し、吐出量100kg/h下で炭酸ガス1.5質量%添加して発泡体シートを作製した。得られた発泡体シートは、独立気泡からなる見掛け密度0.23g/cm、発泡倍率5.5倍で厚みが1.5mmの均一なシートであった。
このシートを用いて、真空・圧空成形機(浅野研究所製)を用いて、蓋と容器部を一体成形する金型による食品用トレー(容器の絞り比(L/D)=0.5)を表1に示す条件で作製した。その結果を表1に示す。
【0043】
【表1】

【0044】
表1から明らかなように実施例で得られた容器は、成形性も良好で、水蒸気透過度が低く、バリア性に優れており、耐熱性も良好なものであった。比較例においては、容器の結晶化度が低いため、バリア性が劣り、耐熱性も著しく劣るものであった。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】最終的に到達する結晶化度(θ)の2分の1に到達するまでの時間(分)で示される結晶化速度指数を求める際の結晶化度(θ)と時間の模式図を示す。
【図2】容器の絞り比(L/D)を示す斜視図である。
【図3】本発明の容器の一実施形態を示す概略斜視図である。
【符号の説明】
【0046】
1 ツバ部
2 蓋
3−a 凹部
3−b 凸部
4 容器部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
生分解性樹脂を成形してなる樹脂容器であって、成形後の樹脂をX線回折法により測定した結晶化度が15%以上であり、同樹脂をDSC法により測定した第一昇温時のΔH(融解吸熱熱量−結晶化発熱量)が15J/g以上であり、かつ容器の目付けあたり(100g/m)の水蒸気バリア性能が300g/日/m以下であることを特徴とする生分解性樹脂容器。
【請求項2】
生分解性樹脂がポリ乳酸系樹脂を主成分とすることを特徴とする請求項1記載の生分解性樹脂容器。
【請求項3】
容器を構成する樹脂が、気泡を含有することを特徴とする請求項1又は2に記載の生分解性樹脂容器。
【請求項4】
容器がツバ部を有することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の生分解性樹脂容器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−69965(P2007−69965A)
【公開日】平成19年3月22日(2007.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−260913(P2005−260913)
【出願日】平成17年9月8日(2005.9.8)
【出願人】(000004503)ユニチカ株式会社 (1,214)
【Fターム(参考)】