説明

ガスバリア性積層フィルム

【課題】 本発明は、基材フィルム製造中に、コーティング層を製造する方法において、基材フィルムの表面状態を制御することで、その上に蒸着されるセラミック層の構造を改善し、より高いバリア性を達成しようとする物である。さらには、表面状態を制御しながら、コート層自体にもバリア性を付与することで、更なるバリア性の向上を図らんとするものである。
【解決手段】 本願発明の積層フィルムは、無機酸化物層との界面状態を改善し、無機蒸着層の粒子サイズを小さくし、さらに、界面付近の水素原子の量を変化させることで、無機蒸着層のバリア性を改善すると共に、被覆層事態もバリア性を持つことで、フィルム全体のバリア性を改善させている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、食品、医薬品、電子部品等の包装分野や、太陽電池、有機EL、電子ペーパー、フィルム液晶など高い水蒸気バリア性を要求される電子機器などに用いられるガスバリア性積層フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
食品、医薬品等に用いられる包装材料は、蛋白質、油脂の酸化抑制、味、鮮度の保持、医薬品の効能維持のために、酸素、水蒸気などのガスを遮断する性質、すなわちガスバリア性を備えることが求められている。また、太陽電池や、有機ELなどの電子デバイスや、電子部品などで使用される、バリア性材料は、食品包材以上に高いバリア性を必要とする。
【0003】
そのため、従来からポリビニルアルコール(以下、PVAとする)、エチレンビニルアルコール共重合体(EVOH)、或いはポリ塩化ビニリデン樹脂(以下、PVDCとする)など一般にガスバリア性が比較的高いと言われる高分子樹脂組成物を積層したフィルムが包装材料として使用されてきた。また、適当な高分子樹脂組成物(単独では、高いガスバリア性を有していない樹脂であっても)のフィルムにAlなどの金属を蒸着したものやアルミナ、シリカなどの無機酸化物を蒸着したものも包装材料として一般的に使用され始めている。
【0004】
ところが、上述のPVA、EVOH系の高分子樹脂組成物を用いてなるガスバリア性積層フィルムは、温度依存性及び湿度依存性が大きいため、高温又は高湿下においてガスバリア性の低下が見られる。すなわち、煮沸処理やレトルト処理を行うとガスバリア性が著しく低下してしまう。またPVDC系の高分子樹脂組成物を用いてなるガスバリア性積層フィルムは、ガスバリア性の湿度依存性は小さいが、酸素バリア性で10ml/m2・day・Mpa以下とする様な高度のガスバリア性を実現することは、困難である。また被膜中に塩素を多量に含むため、焼却処理やリサイクリングなど廃棄物処理の面で問題がある。
【0005】
かかる問題を解決する為、プラスチックフィルム上に酸化アルミニウム薄膜を設け、高いガスバリア性のフィルムが提案されている(例えば、特許文献1等参照)。
【特許文献1】特開2001−6442号公報
【0006】
しかしながら、上記方法では、酸素に対しては高いバリア性を有するものの、水蒸気に対しては、それほどバリア性は高くなく、内容物によっては、十分な水蒸気バリア性を持たないという欠点がある。蒸着で作成される無機酸化物薄膜は、柱状の構造をもつ事が良くしられている。この柱状の断面の半径が大きいと、柱間の隙間が大きくなりやすく、バリア性が不十分となりやすい。
【0007】
また、水蒸気バリア性を改善する為に、薄膜の親水性を低下させる目的で、酸化・窒化アルミニウム、珪素を用いた例も報告されている(例えば、特許文献2等参照。)。
【特許文献2】特開2002−361778号公報
【0008】
しかしながら、特許文献2の方法では、酸素に対する高いバリア性は記載されている物の、水蒸気バリア性に対する記載が無い。また、これらの無機蒸着フィルムは、基材との密着性が低いことや、基材フィルムと比較し、可撓性に劣ることから、印刷や、ラミネート、製袋時に無機薄膜にクラックが生じバリア性が著しく低下するなどの問題を有していた。
【0009】
一方、バリア性の改善の為、基材フィルム上にコート層を設けたものも、提案されている。この場合のバリア性改善は、主にコート層自体にバリア性をもたせ、バリア性を向上させるという思想の物が多かった。その為、コート層自体が複雑な組成からなる事が多く、製造コストの増加を招くなどの不都合もみられた。
【0010】
また、基材フィルム上にコート層を設けると、基材フィルムのみの場合と比較し、帯電量が大きくなりやすく、場合によっては帯電防止剤などを必要とし、本来の性能を十分発揮できない場合や、蒸着中に帯電により、バリア性が悪化するなどの問題が生じることもある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、高分子樹脂組成物からなる基材上に無機酸化物を蒸着したフィルムにおいて、製袋加工時の屈曲によるガスバリア性をさらに向上させようといするものであり、さらには、基材フィルム製造中において、コーティング層を設けるなどの方法によって、基材フィルムの表面状態を制御することで、その上に蒸着されるセラミック層の構造を改善し、より高いバリア性を達成しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本願発明の積層フィルムは、高分子樹脂組成物からなる基材上に、有機物からなるコーティング層を設け、さらにその上に無機酸化物を蒸着したフィルムであって、蒸着層の原子間力顕微鏡で測定した粒子半径が10nm以下であり、二次イオン質量分析計をもちいて蒸着層の水素原子の量を測定し、高分子基材近傍において水素原子量が増加し、極大部のピークが、平均の1.1〜3.5倍の強度であることを特徴とするガスバリア性積層フィルムである。
【0013】
この場合において、前記無機薄膜層が、アルミナ、シリカの混合物であることが好適である。
【0014】
またこの場合において、無機薄膜層のアルミ原子とシリコン原子の重量比が20:80〜70:30の範囲であることを特徴とするガスバリア性積層フィルム。
【0015】
さらにまたこの場合において、前記高分子樹脂組成物からなる基材上に、メチロール基の一部あるいは全てがアルキルエーテル化されているメチロールメラミン、ポリビニルアルコール系重合体からなりメチロールメラミン/ポリビニルアルコール系重合体の重量比が25/75〜90/10である高分子被覆層が積層されていることが好適である。
高分子被覆層は、水に対する親水性を低くし、さらにその上に無機酸化物を蒸着することで、無機薄膜の構造を変化させ、粒子径が小さくなる。また、界面での水素原子量比を制御し、水の移動を制限し、水蒸気バリア性を向上させ、ガスバリア性、特に水蒸気バリア性を改善させる。
【発明の効果】
【0016】
本発明により、バリア性、特に屈曲試験後の水蒸気バリア性が非常に優れるガスバリア性積層フィルムを提供できる。さらには、表面状態を制御しながら、コート層自体にもバリア性を付与できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明のガスバリア性積層フィルム及びその製造方法の実施の形態を説明する。
【0018】
本発明のガスバリア性積層フィルムにおいて、基材上に蒸着したされた無機酸化物の粒子半径は、バリア性の観点から、10nm以下が好ましい。10nm以上であると、十分にバリア性が発揮されず、特に水蒸気バリア性が悪化し、さらに、ゲルボ処理後の水蒸気バリア性が特に悪化する。
【0019】
また、高分子基材近傍において、二次イオン質量分析計をもちいて蒸着層の水素原子の量を測定したとき、水素原子量の極大部のピークと平均の比は、1.1〜4.0の間が好ましく、さらに好ましくは、1.3〜3.3の間である。上記水素原子量比が1.1以下であると、十分なバリア性が発揮されない。また、原子量比が4.0以上であると、再びバリア性が悪化したり、ラミネート強度が低下するなどの問題が生じる。
【0020】
本願発明において得られるフィルムは、水蒸気透過量が、1.0g/m2・day未満が好ましく、0.8g/m2・day以下がより好ましい。また、ゲルボ後の水蒸気透過量についても、1.3g/m2・day以下が好ましく、0.8g/m2・day以下がより好ましい。さらに、ゲルボ前後の水蒸気透過量の差は1.0g/m2・day以下が好ましく、0.3g/m2・day以下がより好ましい。
また、本願発明において得られるフィルムは、酸素透過量が、5cc/m2・day・MPa以下が好ましく、3cc/m2・day・MPa以下がより好ましい。
【0021】
ラミ強度に関しては、500g/15mm以上が好ましく、600g/15mm以上がより好ましい。本願発明において、水蒸気透過量と、ラミ強度を満たすことが好ましく、より好ましくは、水蒸気透過量、ゲルボ後の水蒸気透過量、ゲルボ前後の水蒸気透過量の差、ラミ強度を満たすことが好ましい。
[基材層]
本発明で用いる基材層は、例えば、有機高分子を溶融押し出しして、必要に応じ、長手方向及び/又は幅方向に延伸、冷却、熱固定を施したフィルムであり、有機高分子としては、ナイロン4・6、ナイロン6、ナイロン6・6、ナイロン12などで代表されるポリアミド、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレン−2,6−ナフタレートなどで代表される、ポリエステルなどを挙げることができる。
本発明における基材層は、機械強度、透明性等、所望の目的に応じて任意の膜厚のものを使用することができる。特に限定されないが、通常は5〜250μmであることが推奨され、包装材料として用いる場合は10〜60μmであることが望ましい。
また本発明における基材層は、積層型フィルムであってもよい。積層型フィルムとする場合の積層体の種類、積層数、積層方法等は特に限定されず、目的に応じて公知の方法から任意に選択することができる。
[被覆層]
この様な基材層の少なくとも一方の面に、特定の被覆層が積層される。被覆層としては、メチロール基の一部または全てがアルキルエーテル化されているメチロールメラミン、ポリビニルアルコール系重合体を使用するのが好ましい。
【0022】
本発明に使用するメチロール基の一部あるいは全てがアルキルエーテル化されているメチロールメラミンはトリアジン環に結合している3個のアミノ基の水素原子の少なくとも一部がメチロール基で置換されており、該メチロール基の数は一般に3〜6個であり、該メチロール基の一部または全部がアルキルエーテル化されているものである。アルキルエーテル化メチロールメラミンのアルキル部分は炭素数1〜6個、好ましくは1〜3個有する直鎖状または分岐鎖である。例えばメチル、エチル、n−またはiso−プロピル、n−、iso−、またはtert−ブチル等である。
【0023】
具体的に本発明に用いられるメチロールメラミンを例示すれば、ヘキサキスメトキシメチルメラミン、ヘキサメチロールメラミンペンタメチルエーテル、ヘキサメチロールメラミンテトラメチルエーテル、ペンタメチロールメラミンペンタメチルエーテル、ペンタメチロールメラミンテトラメチルエーテル、ペンタメチロールメラミントリメチルエーテル、テトラメチロールメラミンテトラメチルエーテル、テトラメチロールメラミントリメチルエーテル、トリメチロールメラミントリメチルエーテル、トリメチロールメラミンジメチルエーテル等が挙げられるが、ポリビニルアルコール系重合体との相溶性の点から、トリメチロールメラミントリメチルエーテル、トリメチロールメラミンジメチルエーテルが好ましく用いられる。なお該メチロールメラミンは2量体などの縮合体を一部含んでも良い。
【0024】
一方、本発明に使用するポリビニルアルコール系重合体は、ビニルアルコール単位を主要構成成分とするものであれば、特に限定されることはないが、ポリビニルアルコール系重合体の重合度、鹸化度は、目的とするガスバリア性及びコーティング水溶液の粘度などから定められる。
重合度については、水溶液粘度が高いことやゲル化しやすいことから、コーティングが困難となり、コーティングの作業性から2600以下が好ましい。鹸化度については、90%未満では高湿下での十分な酸素ガスバリア性が得られず、また、その後蒸着する無機層への改善効果が小さく、粒子径が大きくなったり、界面における水素原子の増加が見られなくなる。99.7%を超えると水溶液の調整が困難で、ゲル化しやすく、工業生産には向かない。従って、鹸化度は90〜99.7%が好ましく、さらに好ましくは93〜99%である。また、エチレンを共重合したポリビニルアルコール系重合体、シラノール変性したポリビニルアルコール系重合体など、各種共重合または変性したポリビニルアルコール系重合体も使用できる。
【0025】
本発明においては、メチロールメラミン/ポリビニルアルコール系重合体の重量比は、ガスバリア性の点から、25/75〜90/10の範囲であることが必要である。
特にメチロールメラミン、ポリビニルアルコール系重合体を必須成分とした被覆層の上に無機薄膜層を積層したときに、この重量比は重要となる。メチロールメラミン/ポリビニルアルコール系重合体の重量比が25/75未満あるいは90/10を超えると、目的の酸素バリア性、水蒸気バリア性が十分に発現しなくなってしまう。本発明におけるメチロールメラミン/ポリビニルアルコール系重合体の重量比は、更に好ましくは60/40〜80/20である。
本発明に用いられるメチロール基の一部あるいは全てがアルキルエーテル化されているメチロールメラミン、ポリビニルアルコール系重合体を必須成分とした被覆層は、通常溶媒を用いてコーティングすることで形成される。コーティング液の溶媒としては、実質上、水100%または水/低級アルコール混合溶媒を用いることである。水/低級アルコールの重量比は通常98/2〜40/60である。
低級アルコールとは炭素数1〜3の直鎖または分岐鎖の脂肪族基を有するアルコール性化合物であり、具体例で示せばメタノール、エタノール、エチレングリコール、n−またはiso−プロピルアルコールが挙げられる。特にiso−プロピルアルコールが好ましい。本発明のコーティング液の全固形分濃度は2〜35%、通常5〜30%が好ましい。
【0026】
さらに、コーティング液中には、硬化反応を促進する触媒が含まれる必要がある。触媒としては、ベンゼンスルホン酸、そのアミン塩及びそのアンモニウム塩、ナフタレンスルホン酸誘導体、そのアミン塩及びそのアンモニウム塩、りん酸、そのアミン塩及びそのアンモニウム塩などの酸性触媒が挙げられる。
具体的には、ドデシルベンゼンスルホン酸及びそのアミン塩、アンモニウム塩、ジノニルナフタレンスルホン酸及びそのアミン塩、アンモニウム塩、p−トルエンスルホン酸及びそのアミン塩、アンモニウム塩、りん酸、りん酸二水素アンモニウム、りん酸一水素アンモニウム、キャタリスト500(三井サイアナミド製)キャタリスト600(同)、キャタリスト4040(同)等の酸性触媒を挙げることができる。また、塩化マグネシウムなどの中性触媒も使用することができる。さらに好ましくは、反応性の点から、触媒は酸性触媒であることが好ましい。
【0027】
上記被覆層を有することによって、表面状態を制御しながら、コート層自体にもバリア性を付与することができ、バリア性の向上が可能である。
【0028】
更に必要であれば、本被覆層中に、静電防止剤や滑り剤、アンチブロッキング剤などの公知の無機、有機の各種添加剤を加えることは本発明の目的を阻害しない限り任意である。
この様に、メチロール基の一部あるいは全てがアルキルエーテル化されているメチロールメラミン、ポリビニルアルコール系重合体を必須成分とした被覆層が基材上に形成される。被覆層を基材上に形成する方法としては、通常前述した様に水系溶液を基材にコーティングする方法が採られる。コーティングの方法は限定するものではないが、使用するコーティング液の塗布量と粘度により、最適な方法を選択すればよい。リバースロールコーティング法、ロールナイフコーティング法、ダイコーティング法などを採用すればよい。
【0029】
[被覆方法]
被覆層の厚みは、ガスバリア性、水付け剥離度の点から、乾燥、延伸後の厚みで、0.05〜0.5μmの間が好ましい。さらに好ましくは、0.1〜0.3μmである。厚みが、0.05μm以下の場合、ゲルボなど外力を加えた後のバリア性が大きく低下したり、水付けラミ強度が十分得られない等の問題が生じる。
【0030】
[無機薄膜層]
このようなコーティング層を被覆したものに、さらにその上に無機薄膜層を積層することが必要である。無機薄膜層は、アルミナとシリカの混合物が用いられる。アルミナとシリカの混合比は、金属分の重量比で、Alが、20〜70%の範囲が好ましい。アルミ濃度が、20%以下であると、十分な水蒸気バリア性を得ることが出来ず、70%以上であると、薄膜が硬くなり、印刷はラミネートといった二次加工において、バリア膜が破壊され、バリア性が低下する問題が懸念される。
【0031】
[蒸着条件] 今回の原反の場合、コートがない場合と比較して、剥離帯電の状態が変化する事がわかっている。また、電子銃を用いて蒸着する場合、電子線により発生する二次電子による帯電を防ぐ為に、フィルム側にある程度正電荷を帯電させておくと、蒸着後の帯電量を減少させることが出来る。蒸着後の帯電量が、大きすぎると粒子径が大きくなり、また、水素イオンの増加も見られなくなる。初期の帯電量を制御する為に、蒸着前のフィルムロールを25℃以下で12時間以上、より好ましくは、24時間以上放置する事が望ましい。
さらに帯電量をある程度大きくするために、例えば、通常もちいられるハードクロムメッキロールの場合、フィルムの巻きだし部の剥離角度を100〜160度の範囲が好ましく、より好ましくは、120〜150度の範囲が好ましい。剥離角度は、剥離点のロール表面と剥離したフィルムの間の角度をさす(図1)。100度以下だと十分な剥離帯電が得られず、逆に、150度以上であると帯電量が大きくなりすぎたり、皺の原因となる。
また、蒸着時の圧力が高過ぎると、粒子径が小さくならず、水素イオンの増加も見られない。一方で、堆積速度を上げるためには、電子線の出力を十分高くする必要があり、その場合、蒸着中の圧力は高くなる。しかし、圧力を下げる為に、電子線の出力を下げると、堆積速度が遅くなり、生産性が低下してしまう。これらの問題を両立する為に、蒸着材料から発生するアウトガスを極力減少させる必要がある。その為には、アルミナは蒸着開始前に、事前に融解させる必要がある。
また、シリカについては、昇華性であるために、融解させるのは困難である為、以下に示す条件で事前に加熱する必要がある。シリカは、昇華性があるために、加熱が強すぎると材料の減少が大きくなりすぎるため、蒸着の際、不都合が生じる場合がある。また、加熱が不十分であると、十分な効果がえられない。シリカの場合、蒸気圧1.33×10−1Paに必要な温度は、1814℃である(日本真空技術株式会社編:真空ハンドブック)が、シリカの温度をそこまで上げると、蒸発が進み悪影響がある。逆に、1489℃では、蒸気圧は1.33×10−3Paであり、この状態では、蒸発量は少ないが、十分なデガス効果を得る事が出来ない。したがって、1489〜1814℃の間で加熱を実施する必要がある。実際には、さらに温度範囲を狭くするべきで、1500〜1700℃の範囲が効果的である。
実際温度の測定が困難な場合には、簡易的に以下の様な方法をとる事が出来る。たとえば、有効巾500mm、ライン速度130m/minで、20nmの無機薄膜層を製膜する際、電子線の出力は、1.2Aでかつ、アルミナとシリカに2:1の比率で電子線を照射する様な装置の場合、0.4Aの出力が、シリカに照射される。この場合に、事前加熱に必要な電子線出力は、0.20〜0.35Aの電子線出力を照射することにより、十分なデガス効果と、材料の過剰な蒸発を防ぐことが出来る。さらにこの場合、アルミナについても十分融解し、デガス効果がみとめられる。また、例えば、有効巾、1000mm、ライン速度200m/minで、20nmの無機薄膜を製膜する際に3Aの電子線出力が必要な装置の場合で、アルミナとシリカの照射比が、2:1の場合、シリカには、1Aの電子線が照射されることになり、この場合事前加熱に必要な電子線の出力は0.50〜0.85Aとなる。この範囲内での加熱により、十分なデガス効果と過剰な蒸発を防ぐことが出来る。本発明においては、蒸着設備や、製膜量、速度などに応じて、事前加熱に必要な電子線の出力を、蒸着の際に、シリカに加える電子線出力の50%〜85%、さらに好ましくは、70〜80%の出力を加える事が好ましい。50%以下では、十分な効果が得られず、85%以上であると、シリカの蒸発量が大きくなりすぎ、蒸着の際、材料が不足するなどの原因となる。
【0032】
[ヒートシール性樹脂層]
本発明のガスバリア性積層フィルムは、通常包装材料として使用するため、無機薄膜層上にシーラントと呼ばれるヒートシール性樹脂層が形成される。ヒートシール性樹脂層の形成は、通常押出しラミネート法あるいはドライラミネート法によりなされる。ヒートシール性樹脂層を形成する熱可塑性重合体としては、シーラント接着性が十分に発現できるものであればよく、HDPE、LDPE、LLDPEなどのポリエチレン樹脂類、PP樹脂、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−αオレフィンランダム共重合体、アイオノマー樹脂などを使用できる。
【実施例】
【0033】
以下、実施例によって本発明を詳細に説明する。なお、各実施例で得られたフィルム特性は以下の方法により測定、評価した。
【0034】
1)酸素バリアの測定
作成したフィルムの酸素透過度につき、23℃、85%R.H.の条件で、酸素透過率測定装置(モダンコントロールズ社製OX−TRAN100)を用いて測定した。
【0035】
2)水蒸気バリアの測定
作成したフィルムの水蒸気透過度につき、40℃、90%R.H.の条件で、米国、モコン(MOCON)社製の測定機(PARMATRAN−W)を用いて測定した。
【0036】
3)粒子半径の測定
粒子半径は、SII社製SPI3800を用いて行った。DFMモードにて観察し、観察視野は、1×1μmとした。視野中に存在する粒子の半径を10個測定し、その平均値を粒子半径とした。
【0037】
4)水素原子の測定は、Physical Electronics 6650(Physical Electronics社製)を用いて測定した。一次イオン種は、Csを用い、加速電圧を2.0kVとした。表層から、無機蒸着膜中の水素原子量を測定し、高分子被覆層からの炭素原子が検出された点を界面とした。また、高分子被覆層との界面から3nmの水素濃度が10nmの水素濃度の比率を算出した。3nmの水素濃度を10nmの水素濃度で割り返した時の値が、1.2以上の物を差がありと定義した。
【0038】
5)耐屈曲疲労性は、ゲルボフレックステスター(理学工業(株)社製)を用いて評価した。条件としては(MIL−B131H)で、11.2inch×8inch(284mm×203mm)の試料片を直径3(1/2)inch(88.9mm)の円筒状とし、両端を保持し、初期把持間隔7inch(178mm)とし、ストローク3(1/2)inch(88.9mm)で、400度のひねりを加えるものでこの動作の繰り返し往復運動を40回/minの速さで、20℃、相対湿度65%の条件下で行った。
【0039】
6)水付けラミ強度
フィルムの蒸着面にポリウレタン系接着剤(東洋モートン株式会社製,TM−590/CAT−56)を約3μm塗布し、80℃で熱処理した後、低密度ポリエチレンフィルム(東洋紡績製 L6102 厚み40μm)を80℃に加熱した金属ロール上で490kPaのニップ圧力でドライラミネートし、ラミネートフィルムを作成した。その後、40℃で、72時間エージングを行った後、ポリエチレンフィルムと、積層フィルムを剥離し、剥離面に、水を滴下しながら測定した。測定は、島津製作所社製のAUTOGRAPH AG−1sを用いて測定した、チャック間距離40mm、サンプル巾15mm、チャックの移動速度を200mm/minで測定した
【0040】
(実施例1)
[塗布液の調製]
水920gを攪拌しながら、無変性、鹸化度98.5mol%のポリビニルアルコール樹脂80gを徐々に投入した。90℃まで加熱、完全にポリビニルアルコール樹脂を溶解し、ポリビニルアルコール樹脂の8%水溶液を調製した。
次にこのポリビニルアルコール樹脂水溶液 1000g、メチル化メラミンM−30W(住友化学製104g、水756g、イソプロピルアルコール140g、ドデシルベンゼンスルホン酸1.6g(ポリビニルアルコール系樹脂とメチル化メラミンの固形分に対して1%)を混合し、固形分濃度 8%の塗布液を調製した
【0041】
[フィルムへのコーティング評価]
極限粘度0.62(30℃、フェノール/テトラクロロエタン=60/40)のPETを予備結晶化後,本乾燥し,Tダイを有する押出し機を用いて280℃で押出し,表面温度40℃のドラム上で急冷固化して無定形シートを得た。次に得られたシートを加熱ロールと冷却ロールの間で縦方向に100℃で4.0倍延伸を行った。そして、得られた一軸延伸フィルムの片面に,上記塗布液をファウンテンバーコート法により延伸前の樹脂固形分厚みが0.2μmとなる様に塗布した。乾燥しつつテンターに導き、100℃で予熱、120℃で4.0倍横方向に延伸し、6%の横方向の弛緩を行いながら230℃で熱処理を行い,厚さ12μmのニ軸延伸ポリエステルフィルムを得た。
【0042】
[蒸着]
次にこの塗布面へ蒸着するために、蒸着源として、3mm〜5mm程度の粒子状SiO2(純度99.9%)とAl23(純度99.9%)を用いて、電子ビーム蒸着法で、得られた塗布フィルム上に酸化アルミニウムと二酸化ケイ素の混合ガスバリア層の形成を行った。真空層内には、巻き出し部、コーティング部、巻取り部が入っており、連続でフィルムに蒸着が可能である。材料の事前加熱は、アルミナが融解し、かつ、シリカへの電子線出力が0.3Aになる様に調整した。
蒸着時の圧力を1.0×10-4Torrになるように調整した。SiO2とAl23は、混合せずに2つに区切って入れた。加熱源として、電子銃(以下EB銃)を用い、2種類の原料をそれぞれ時分割で加熱した。その時のEB銃のエミッション電流を1.2Aとし、SiO2とAl23の加熱比を1:2で加熱した。フィルムの送り速度は、130m/minとし、150Å(オングストローム)厚の膜を作った。また、蒸着時のフィルムを冷却する為のロールの温度を−10℃に調整した。
【0043】
実施例2〜7、比較例1〜8は、コート液、蒸着前処理条件、蒸着時の条件を表1の条件で行った
【0044】
実施例10、比較例9は、ε−カプロラクタムを主原料とするナイロン6を180℃で真空乾燥し、押出機に供給し、260℃で溶融した。ついで、溶融したナイロン6をTダイから吐出し、冷却ドラムにキャストして、未延伸フィルムを得た。この未延伸フィルムを50℃に加熱し、長手方向に3.2倍延伸した。そして、得られた一軸延伸フィルムの片面に,上記塗布液をファウンテンバーコート法により延伸前の樹脂固形分厚みが0.2μmとなる様に塗布した。乾燥しつつテンターに導き、120℃で巾方向に4.0倍延伸し、続けて220℃で、熱固定を行って、15μmの厚みのナイロンフィルムを得た。用いたコート液及び、蒸着条件は、表1に示した通りとした。
【0045】
比較例10は、コート液を塗布しなかった以外は、実施例1と同じ条件で作成した。
【0046】
[評価]
このフィルムについて、85%RH酸素透過度、ゲルボ前後の水蒸気透過度および粒子半径、水素濃度、ラミ強度を測定した。結果を表2に示す。
【0047】
【表1】

【0048】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明により、酸素バリア性、水蒸気バリア性、可撓性、耐湿性、耐熱性が非常に優れ、かつ焼却排ガス中にダイオキシン、塩化水素ガスを含まず、近年問題とされている環境保全に対して有効である各種包装用、工業用フィルムを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】本発明のガスバリア性積層フィルムの製造時の剥離角度の説明図である。
【符号の説明】
【0051】
1:タッチロール
2:剥離点からの接線
3:フィルム進行方向
4:剥離角度
5:巻きだしロール

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高分子樹脂組成物からなる基材上に、有機物からなるコーティング層を設け、さらにその上に無機酸化物を蒸着したフィルムであって、蒸着層の原子間力顕微鏡で測定した粒子半径が10nm以下であり、二次イオン質量分析計をもちいて蒸着層の水素原子の量を測定したとき、水素原子量の極大部のピークと平均の比が1.1〜3.5の範囲であることを特徴とするガスバリア性積層フィルム。
【請求項2】
請求項1記載の積層フィルムであって、無機薄膜層が、アルミナ、シリカの混合物であることを特徴とするガスバリア性積層フィルム。
【請求項3】
請求項1あるいは2に記載の積層フィルムであって、無機薄膜層の金属アルミと金属シリコンの重量比が20:80〜70:30の間であることを特徴とするガスバリア性積層フィルム。
【請求項4】
請求項1、2あるいは3に記載の積層フィルムであって、前記高分子樹脂組成物からなる基材上に、メチロール基の一部あるいは全てがアルキルエーテル化されているメチロールメラミン、ポリビニルアルコール系重合体からなりメチロールメラミン/ポリビニルアルコール系重合体の重量比が25/75〜90/10である高分子被覆層が積層されていることを特徴とするガスバリア性積層フィルム。

【図1】
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【公開番号】特開2006−341425(P2006−341425A)
【公開日】平成18年12月21日(2006.12.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−167888(P2005−167888)
【出願日】平成17年6月8日(2005.6.8)
【出願人】(000003160)東洋紡績株式会社 (3,622)
【Fターム(参考)】