説明

ガス供給方法およびその装置

【課題】熱媒体や加熱ジャケットなどを使用することなく、ガス容器に効率よく熱伝達を行なって液化ガスを気化させ、安定してガス供給する。
【解決手段】内部に液化ガスが充填されたガス容器1をシリンダキャビネット2内に設置する。このガス容器1の周囲を覆うように筒状体10を設置する。この筒状体10の下部側面には、送風用開口部10aが形成されており、この送風用開口部10aにファン11および駆動装置12を連結し、この送風用開口部10aからガス容器1の外周面と筒状体10との間の通風路13に、シリンダキャビネット2内の空気を周方向に向けて流れるように送り込み、この送風された空気のもつ熱によりガス容器1内の液化ガスの気化を促進させて気化させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液化ガスが充填されたガス容器内から安定してガスを供給できるガス供給方法およびその装置に関する。
【背景技術】
【0002】
主に半導体産業で使われている高圧ガスには、NH3、N2O、HBrなどの常温付近において液体状態で存在するものがあり、これらは低蒸気圧ガスまたは液化ガス(以下、液化ガスという)と呼ばれている。これらの液化ガスを使用する場合には、ガスの使用量に応じてガス容器内で液体から気体に気化するときの蒸発潜熱に相当する熱量をガス容器外部から与える必要があり、その熱量が不足すると、液温度の低下をきたし、希望する供給量に対して十分なガスが得られない。
【0003】
このような液化ガスにおける安定したガス供給を確保するために、たとえば特許文献1および特許文献2に記載されているような、ガス容器の外部から熱媒体により熱量を与える技術が考えられている。
【0004】
すなわち、特許文献1には、ガス容器を載置する載置台に熱媒体を噴出するノズルおよび放射状のスリットを設け、ノズルから噴出された熱媒体をガス容器の底面に吹き付けた後、放射状のスリットを介してガス容器の周囲に排出するようにしたものが記載されている。
【0005】
また特許文献2には、ガス容器を載置する載置台内に、ガス容器の底面およびガス容器の周囲に連通する空間部を設け、この空間部を介して加熱空気をガス容器の底面に吹き付けた後、ガス容器の周囲に排出するようにしたものが記載されている。
【0006】
いずれのものもガス容器の底面に熱媒体あるいは加熱空気を吹き付けることにより、ガス容器内の液化ガスの液体部分を加熱するものである。
【0007】
ところで、ガス容器に吹き付けることができる熱媒体は、高圧ガス保安規則により上限温度が40℃を越えてはならないことが定められている。つまり、熱媒体による対流加熱の場合の熱伝達量の大きさは、熱伝達媒体とガス容器間の温度差に比例するが、上記のように上限温度が40℃に制限されているので、自由に大きく取ることができない。
【0008】
また特許文献1および2に記載のものは、いずれも熱媒体をガス容器の底面へ吹き付け、その後、ガス容器の周囲に排出する構造を採用しているが、ガス容器の底面の大きさは、たとえば通常の47リットルのガス容器(シリンダ)では、直径約220mmであり、底面の中央部が内側に凹んだお椀状になっているものの、主体的に熱を伝えることができる面積はそれほど大きくない。
【0009】
したがって特許文献1および2に記載されているガス供給装置を構造上からみると、上記2つの理由(温度差と伝熱面積)により、装置から大量の液化ガスを供給する必要がある場合には、ガス容器の外部からの伝熱量が十分に確保できないという問題がある。
【0010】
温度差および伝熱面積が大きくとれないという問題への対策としては、たとえば熱媒体としての加熱空気を大量に送り込んで、熱媒体とガス容器表面の熱伝達係数を大きくする方法が考えられる。
【0011】
しかしながら、この方法には以下の理由により制約を受けることがある。液化ガスは人体に有害なガスまたは可燃性ガスであることが多いため、外部とは空間を遮断した筐体中で取り扱うことが通常であり、この筐体は一般にシリンダキャビネットと呼ばれている。そして万一の有害ガスの漏出の予防対策として、シリンダキャビネット内は常時一定の負圧で排気されており、その排気される空気はダクトを介して除害装置へと導かれている。
【0012】
このようにシリンダキャビネットは、内部の空気を外部に漏出させないように使用しており、上記のように熱媒体として加熱空気をシリンダキャビネット内へ多量に送り込むことは、除害装置へ排気する空気量を多くすることになり、除害装置の負荷を必要以上に高くすることになる。
【0013】
したがってシリンダキャビネット内へ熱媒体を供給する方法は、シリンダキャビネット内に送り込める空気量に制約があるため、用途が自ずと制限されることになる。
【0014】
またシリンダキャビネット内の空気を加熱して熱媒体を生成することも考えられるが、防爆に対する対策がなされていない加熱装置を、可燃性ガスを取り扱うシリンダキャビネット内に設置することは、法令で禁じられており、安全を確保した上で熱媒体を生成することはきわめて難しい。
【0015】
さらにガス容器の周りに温水などを循環させるジャケットを巻き付ける加熱方法も提案されているが、温水を循環させる機構が大がかりになり、漏水の懸念があったり、取り扱いに手間がかかったりするなど、メンテナンスや信頼性に問題がある。
【0016】
一方、特許文献3には、ガス容器の結露防止を目的として、ガス容器の載置台にファンを設置し、ファンの駆動により発生する空気をガス容器の底面に吹き付け、その後、ガス容器の周面に排出する技術について記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0017】
【特許文献1】特許第4008901号公報
【特許文献2】特許第3892958号公報
【特許文献3】特開2007−321775号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
しかしながら、このようなガス容器の底面に空気を吹き付けた後、ガス容器の周囲の送風路に排出する方法は、結露防止に対しては有効であるとしても、ガス容器の底面と周面の流路形状が一定形状ではないため、空気の流れに偏りやよどみが生じて必要な風速を確保することができないこと、空気を吹き付けるガス容器の底面の面積が小さいこと、などの理由により効率よく熱を伝えることができず、結果としてガス容器内の液化ガスの気化を促進する手段としては不十分である。
【0019】
本発明の目的は、上記従来技術の問題点を解決するためになされたものであり、熱媒体や加熱ジャケットなどを使用することなく、ガス容器に対して効率よく熱伝達を行なって液化ガスを気化させ、安定してガス供給することのできるガス供給方法およびその装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0020】
上記目的を達成するために本発明によるガス供給方法は、シリンダキャビネット内に設置されたガス容器の液化ガスをガス容器内で気化させて外部に供給するガス供給方法において、ガス容器の周囲を包囲するように設置された筒状体の下部側面に送風用開口部を設け、この送風用開口部からガス容器の外周面と筒状体との間の通風路に、シリンダキャビネット内の空気を周方向に向けて流れるように送り、この送風された空気のもつ熱によりガス容器内の液化ガスの気化を促進させることを特徴とする。
【0021】
また本発明によるガス供給装置は、シリンダキャビネットと、このシリンダキャビネット内に設置され、内部に液化ガスが充填されたガス容器と、このガス容器の周囲を包囲するように設置され、下部側面に送風用開口部を有する筒状体と、この筒状体の送風用開口部に連結され、この送風用開口部からガス容器の外周面と筒状体との間の通風路に、シリンダキャビネット内の空気を周方向に向けて流れるように送る送風手段と、を備えてなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0022】
本発明によるガス供給方法およびその装置によれば、筒状体の下部側面の送風用開口部からガス容器の外周面と筒状体との間の通風路に、空気を周方向に向けて流れるように送ることにより、ガス容器の外周面に接触する空気流の抵抗を少なくして風速を高くすることができ、これにより熱伝達係数を大きくすることができてガス容器内の液化ガスに効率よく熱を与えて気化させることができ、安定してガス供給することができる。
【0023】
またガス容器に熱を与える媒体は、シリンダキャビネット内にある非加熱の常温の空気であることから、熱媒体や加熱ジャケットなどの熱媒体を用いてガス容器を加熱する場合のように、安全性や信頼性などの問題を発生させることがない。しかも熱媒体をシリンダキャビネットの外部から内部に供給してキャビネット外部の除害装置に排出する場合のように、除害装置の負荷を大きくすることもない。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】 本発明の第1の実施の形態にかかるガス供給装置を一部破断して示す斜視図である。
【図2】 図1のガス供給装置の主要部を拡大して示す側面図である。
【図3】 図2のA−A線に沿って切断し矢印の方向にみた平面断面図である。
【図4】 熱伝達係数と風速との関係を示すグラフである。
【図5】 本発明の第2の実施の形態を示す平面断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。図1は本発明の第1の実施の形態にかかるガス供給装置を一部破断して示す斜視図である。図2は図1のガス供給装置の主要部を拡大して示す側面図である。図3は図2のA−A線に沿って切断し矢印の方向にみた平面断面図である。
【0026】
図1において、内部にアンモニア(NH3)などの液化ガスが充填された円筒状のガス容器1は、シリンダキャビネット2内に設置されている。シリンダキャビネット2は、外部とは空間を遮断した筐体で構成されており、万が一に有害ガスである液化ガスが外部に漏出するのを防ぐために、その内部は常時一定の負圧で排気されており、その排出空気は、ダクト3および風量調整ダンパー3aを介して除害装置(図示せず)へと導かれている。シリンダキャビネット2の前面には、開閉扉2aが設けられており、この開閉扉2aの上部に覗き窓2bが設けられ、下部に吸気口2cが設けられている。
【0027】
ガス容器1は、たとえば47リットルのシリンダボンベであり、シリンダキャビネット2内の底面に設けられた載置台4上に設置されている。ガス容器1内の液化ガスはガス化され、上部の口金バルブ5からレギュレータ6、バルブ7、配管8などを介してシリンダキャビネット2の外部に供給される。載置台4には、その中央部に重量検出装置9であるロードセルが設けられており、この重量検出装置9の上にガス容器1が設置されている。
【0028】
載置台4には、また筒状体10が設置されている。この筒状体10は、ガス容器1の周囲を包囲するように所定の間隔をおいて設けられており、また高さ寸法は、ガス容器1の高さの半分以上の高さを有し、ガス容器1の転倒防止の機能を有している。さらに筒状体10は、図示していないが前後方向に着脱できるように2分割して構成されており、分離することにより、開閉扉2a側からガス容器1の出し入れが行なえるようになっている。
【0029】
筒状体10の下部側面には、図2および図3に示すように、送風用開口部10aが設けられており、この送風用開口部10aに、送風手段を構成するファン11および駆動装置12が連結されている。ファン11は遠心ファンが使用されており、このファン11を駆動する駆動装置12には防爆仕様のモーターが使用されている。
【0030】
ファン11により送風される空気は、シリンダキャビネット2内に存在する非加熱の常温の空気であり、送風用開口部10aから筒状体10内に送風される方向は、図3に矢印で示すようにガス容器1の軸心Oに向かわずに水平方向片側にずれてガス容器1の外周面側に近づく方向に向けられている。
【0031】
これにより、送風手段から送り出される空気は、そのほぼ全量が送風用開口部10aからガス容器1の外周面と筒状体10との間の通風路13に流入し、さらに通風路13に流入した空気は、ガス容器1の外周面に接触しながら周方向に沿って旋回するように流れることになる。そしてこのガス容器1の外周面に接触する空気流は、気化により低下したガス容器1内の液温度との温度差により、ガス容器1内の液化ガスに、その蒸発潜熱に見合うだけの熱を与えてガス容器1内の液化ガスを気化させることになる。
【0032】
なお、通風路13内を旋回しながら上昇した空気流は、筒状体10の上部開口端からシリンダキャビネット2内に排出され、シリンダキャビネット2内からダクト3および風量調整ダンパー3aを介して除害装置へと排気される。
【0033】
一般に対流加熱による伝熱量qは、下式に示すように、伝熱面積と熱伝達係数および熱媒体と加熱対象の温度差の積により表される。
q=伝熱面積×熱伝達係数×温度差
【0034】
熱伝達係数を大きく取るための手段としては、できるだけ風速の大きな空気の流れをガス容器に与えることである。
【0035】
図4は熱伝達係数と風速との関係を示すグラフであり、縦軸に熱伝達係数(kJ/hr・K)をとり、横軸に風速(m/秒)をとっている。この図4のグラフから明らかなように、風速が上昇するほど熱伝達係数が増加する。
【0036】
シリンダキャビネット2内は、除害装置への排気のため、少なからず風速が生じているが、それは概ね0.5m/秒以下である。本実施の形態では、このような除害排気による風速以上に、常温の空気の風速を高めた空気流を生成してガス容器1と筒状体10との間の通風路13に、周方向に流れるように送り込むことによりガス容器1に効率よく熱を伝えることを特徴とする。
【0037】
この空気流を送り込むファン11を駆動する駆動装置12は、可燃性ガスが漏出するおそれのあるシリンダキャビネット2内の雰囲気中で使用することになるので、たとえばオリエンタルモーター社製の安全増防爆モーター41K25GN−SYN(商品名)あるいは駆動に電気を用いないような明友エアマチック社製のエアモーターRM004(商品名)などの防爆仕様のモーターを使用することが望ましい。
【0038】
このような防爆仕様のモータ−を使用すれば、可燃性ガスが漏出して引火のおそれのあるシリンダキャビネット2内の環境下でも、安全性を確保でき、かつ風速の増加による大きな熱伝達係数の確保を実現することができる。
【0039】
なお、上記の説明では、シリンダキャビネット2内の底部に設置しやすい大きさのモーターを例示したが、同様な目的で機能するものであれば、上記の機種に限定されるものではない。またファン11も遠心ファンに限定されるものではなく、軸流ファンなども使用することができる。
【0040】
ガス容器1と筒状体10とにより形成される通風路13の間隔の大きさについては、以下の理由により望ましい範囲がある。すなわちこの間隔が狭すぎると、送り込む空気流の圧力損失が大きくなり、高い風圧が出せるような駆動装置12が必要となるので、エネルギー消費量や騒音の増大を招くことになる。逆にこの間隔が広すぎると、圧力損失は大きくないが大量の空気を送り込まないと風速を高くすることができない。これらの事情により、この隙間は5〜30mmの範囲内に設定することが望ましく、その中でも8〜20mmの範囲内が最適である。
【0041】
さらにガス容器1の面に対して効率よく空気の流れを形成するには、流路の断面形状が一定であることが重要である。本実施の形態では、筒状体10の下部側面の送風用開口部10aからガス容器1と筒状体10との間の通風路13に、空気を周方向に向けて流れるように方向付けて流している。通風路13は、半径方向に一定の間隔を有する円筒状の流路を形成しており、周方向に向けて流れることにより、流路の抵抗が少なくなり、流路の断面形状がほぼ一定となるので、空気流が効率よく流れることになる。
【0042】
したがって本実施の形態のように、筒状体10の下部側面の送風用開口部10aからガス容器1の外周面と筒状体10との間の通風路13に、空気を周方向に向けて流れるように送ることにより、ガス容器1の外周面に接触する空気流の抵抗を少なくして風速を高くすることができ、これにより熱伝達係数を大きくすることができてガス容器1内の液化ガスに効率よく熱を与えて気化を促進することができ、安定してガス供給することができる。
【0043】
またガス容器1に熱を与える媒体は、シリンダキャビネット2内に存在している非加熱の常温の空気であり、熱媒体や加熱ジャケットなどの熱媒体を用いてガス容器を加熱する場合のように、安全性や信頼性などの問題を発生させることがない。しかも熱媒体をシリンダキャビネット2の外部から内部に供給し、その後シリンダキャビネット2外部の除害装置に排出する場合のように、除害装置の負荷を大きくすることもない。
【0044】
さらに筒状体10の下部側面からガス容器1の外周面に直接送風しており、ガス容器1下方の載置台4側には、送風用の機構を設ける必要がない。これにより、ガス容器1内の液化ガスの残量を測定する重量検出装置9は、特殊な構造を採用する必要がなく、通常タイプのものを使用することができて載置台4の中央部のガス容器1の下方に位置させて設置することができる。
【0045】
本発明の特徴をさらに物理的な側面から説明する。たとえば常温のアンモニアガスは、約1MPaの蒸気圧を持っている(23℃)。一方、蒸気圧の低下でガス供給ができなくなる圧力を約0.5MPaとすると、そのときのアンモニアの温度は約3℃である。
【0046】
この場合、ガス容器の外部から伝熱量を与える式(q=伝熱面積×熱伝達係数×温度差)の各項のうちで、加熱した空気を送る場合の温度差に寄与する項は最大に見積もっても40℃−3℃=37℃、空気を加熱しないで常温の空気(たとえば23℃)を送る場合で23℃−3℃=20℃である。空気を加熱した場合の伝熱量に寄与する割合は、たかだか1.9倍でしかない。
【0047】
一方、ガス容器の外周面に空気を吹き付けて、この外周面からの伝熱を主体とすると、その外周面の大きさは、ガス容器の底面の10倍以上になるので、ガス容器への伝熱の効果が非常に大きくなる。さらに熱伝達係数に影響を与えるのは、熱媒体を空気とすると、レイノルズ数を大きくする物理量であり、具体的には風速である。風速を伴う強制対流加熱の場合、熱伝達係数への寄与の大きさは、レイノルズ数の0.8乗に比例することが知られており、したがってガス容器の外周面を熱伝達の主体とし、かつ風速を高める本発明におけるガス容器の加熱は、効率よく熱伝導できることになる。
【0048】
次に液化ガスとしてアンモニアを例にとり、送風を行なわないでガス供給した場合(実験例1)と、本発明のように、常温の空気を送風してガス供給した場合(実験例2)の実験例を説明する。
【0049】
(実験例1)
47リットルガス容器に充填されたアンモニアは大半が液体で存在している。この液化アンモニアのガス容器を標準状態で10リットル/分で供給するガス供給装置に適用する。アンモニアは可燃性ガスであり、安全上の理由により内容量が約880リットルの金属製のシリンダキャビネット内にガス容器を設置してガス供給装置を構成した。
【0050】
ガスを供給する時に液体のアンモニアが気化するのに必要な蒸発潜熱に相当する熱量は、支持台、ボンベバンドなどガス容器が接触している部品からの接触による伝導伝熱およびシリンダキャビネット内を負圧で換気していることに起因する緩やかな気流による対流伝熱により補われている。
【0051】
このガス供給装置のガス容器から供給するアンモニアガスを20リットル/分に増やすと、ガス容器から供給するだけのアンモニアの気化熱を補うことができず、時間とともにガス容器内のアンモニアの液温度が低下した。そして供給開始から6時間経過後に、液温度の低下によるアンモニアの蒸気圧の低下で、必要とする20リットル/分の供給ができなくなった。
【0052】
(実験例2)
シリンダキャビネット内に設置するガス容器の外周面に対して約10mmの距離をおいて、二分割可能に構成した円筒状の筒状体を設置した。筒状体の下部側面には送風用開口部を設けておき、その送風用開口部に遠心ファンを取り付け、この遠心ファンを回転させる駆動装置としてオリエンタルモーター社製安全増防爆モーター4IK25GN−SYN(商品名)を取り付けた。
【0053】
そしてシリンダキャビネットの載置台に設置してある重量検出装置の上にアンモニアを充填したガス容器を載置した。この重量検出装置の上板にはガス容器を常に所定の位置に設置できる位置決めブロックが取り付けてある。ガス容器を重量検出装置の中央部に置いた後、半割した筒状体の部品を接合して円筒状の筒状体を形成し、載置台に固定する。
【0054】
このようにして重量検出装置上の中央部にガス容器を設置し、そのガス容器の周囲に一定の間隔をもった円筒状の通風路を形成した。モーターを2000rpmで駆動してシリンダキャビネット内の空気(常温の空気で約23℃)による空気流を作り、この空気流に、必要な風速を与えてガス容器の外周の通風路に周方向に向けて旋回するように流した。このときの風速は熱線式風速計による測定で平均約2m/秒であった。
【0055】
この結果、アンモニアを充填したガス容器から20リットル/分の速度でのガス供給が可能になり、アンモニアの蒸気圧の低下による供給不可の状態になることはなかった。
【0056】
この実験結果から明らかなように、本発明の特徴である、常温の空気であっても空気流に必要な風速を与えてガス容器の外周の通風路に周方向に向けて流すことにより、ガス容器に対して効率よく熱伝達を行なって液化ガスを気化させ、安定してガス供給することができた。またこの場合に、少なくとも平均2m/秒前後の風速を与えることにより、安定してガス供給できることが確認できた。
【0057】
図5は本発明の第2の実施の形態を示す平面図である。第1の実施の形態と同一部分には同一符号を付してある。本実施の形態においては、重量検出装置9の検出信号をマイコンなどの制御装置14に出力し、この重量検出装置9の検出信号に基づき、液化ガス量の減少に応じて送風する空気流の風速を、徐々に、または段階的に増大させるように制御装置14により送風手段の駆動装置12を制御するようにしたところに特徴を有する。
【0058】
重量検出装置9は、ガス容器1内の液化ガスの残量を検出してガス容器1の交換時期を判定するために設けられているが、この検出信号を、送風手段による空気流の風速の制御に利用する。
【0059】
ガスの供給を続けると、次第にガス容器1内の液体部分が減り、空気流による熱伝達の有効な部分が減少していき、液化ガスの気化熱を十分に補うことができなくなるおそれがある。
【0060】
本実施の形態のように、液化ガス量の減少に応じて送風する空気流の風速を、徐々に、または段階的に増大させるようにすれば、ガス容器1内の液化ガスが量的に十分にある場合は勿論のこと、液化ガスが消費されて液体部分の量が大幅に減少した場合においても、気体部分の増加による熱伝達の効率低下を、液体部分に対する熱伝達を大きくすることによって補うことができ、効率よく熱を与えることができる。
【0061】
これによりガス容器1内の液化ガスを、その残量が少なくなるまで熱伝達係数を大きくすることができ、効率よく熱を与えて気化を促進し、安定してガス供給することができる。
【符号の説明】
【0062】
1…ガス容器
2…シリンダキャビネット
2a…開閉扉
2b…覗き窓
2c…吸気口
3…ダクト
3a…風量調整ダンパー
4…載置台
5…口金バルブ
6…レギュレータ
7…バルブ
8…配管
9…重量検出装置
10…筒状体
10a…送風用開口部
11…ファン
12…駆動装置
13…通風路
14…制御装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリンダキャビネット内に設置されたガス容器内の液化ガスを前記ガス容器内で気化させて外部に供給するガス供給方法において、前記ガス容器の周囲を包囲するように設置された筒状体の下部側面に送風用開口部を設け、この送風用開口部から前記ガス容器の外周面と前記筒状体との間の通風路に、前記シリンダキャビネット内の空気を周方向に向けて流れるように送り、この送風された空気のもつ熱により前記ガス容器内の液化ガスの気化を促進させることを特徴とするガス供給方法。
【請求項2】
前記ガス容器内の液化ガスの残量を検出し、この検出信号に基づき、前記液化ガス量の減少に応じて前記送風する空気の風速を増大させることを特徴とする請求項1に記載のガス供給方法。
【請求項3】
シリンダキャビネットと、
このシリンダキャビネット内に設置され、内部に液化ガスが充填されたガス容器と、
このガス容器の周囲を包囲するように設置され、下部側面に送風用開口部を有する筒状体と、
この筒状体の前記送風用開口部に連結され、この送風用開口部から前記ガス容器の外周面と前記筒状体との間の通風路に、前記シリンダキャビネット内の空気を周方向に向けて流れるように送る送風手段と、
を備えてなるガス供給装置。
【請求項4】
前記ガス容器の外周面と前記筒状体との間の通風路の間隔を5〜30mmに設定したことを特徴とする請求項4に記載のガス供給装置。
【請求項5】
前記送風手段がファンおよびこのファンを駆動する駆動装置を具備し、前記駆動装置に防爆仕様のモーターを使用したことを特徴とする請求項4または5に記載のガス供給装置。
【請求項6】
前記ガス容器の残量を検出する重量検出装置と、この重量検出装置の検出信号に基づき、前記液化ガス量の減少に応じて送風する空気の風速を増大させるように前記駆動装置を制御する制御装置とを備えたことを特徴とする請求項4ないし6のいずれかに記載のガス供給装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−17430(P2011−17430A)
【公開日】平成23年1月27日(2011.1.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−175817(P2009−175817)
【出願日】平成21年7月7日(2009.7.7)
【出願人】(508182143)ジャパンマテリアル株式会社 (1)
【Fターム(参考)】