説明

ガス分離方法およびガス分離装置

【課題】二酸化炭素を多く含み、且つ、他の成分として少なくともメタンを含む混合ガスから、前記二酸化炭素とメタンを含む他のガス成分とを高効率に分離し、省エネルギー且つ高効率に高濃度のメタンガスを得ることができるガス分離方法および装置を提供する。
【解決手段】主成分として二酸化炭素を含み、他の成分として少なくともメタンを含む混合ガスと水を原料として、前記原料水に添加する添加剤であって、該添加剤を含まない水を原料とした混合ガスハイドレートの相平衡曲線よりも高温側または低圧側でII型ハイドレートを形成する添加剤を加え、前記混合ガスからII型ハイドレートを生成する工程を含むことを特徴とする、ガス分離方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、少なくともメタンおよび二酸化炭素を含む混合ガスから二酸化炭素を分離し、メタン濃度の高いガスを得るガス分離方法およびガス分離装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
エネルギー源としての天然ガスは、通常、その主成分がメタンであり、前記メタン以外の他の成分もエタン、プロパン、ブタン、ペンタン等の炭化水素化合物を含むものであるが、天然ガスのガス組成は、その産出場所によって異なり、例えば、二酸化炭素、硫化水素、窒素等の成分を多く含んでいる天然ガスを産出するガス田も存在する。
【0003】
そして、二酸化炭素等の不燃性ガスを多く含む天然ガスは、メタン、エタン、プロパン、ブタン、ペンタン等の炭化水素化合物を含んでいても燃料として用いることができない。したがって、二酸化炭素が主成分である天然ガスは、利用されずにいるのが現状である。
【0004】
また、下水汚泥の嫌気性消化(メタン発酵)によって得られるバイオガス(消化ガス)も、メタンのほか、多量の二酸化炭素を含んでおり、メタンを含むバイオガスを有効に活用するため、前記バイオガスから二酸化炭素を分離する技術が求められている。
【0005】
ここで、二酸化炭素とメタンを含む混合ガス中から二酸化炭素を分離する技術としては、化学吸収法、PSA法(物理吸着法)、膜分離法、物理吸収法などがある。
また、前記混合ガス中の二酸化炭素をハイドレート化することによって前記混合ガスから二酸化炭素を分離するハイドレート分離法(例えば、特許文献1および特許文献2)は、水のみを利用して二酸化炭素の分離を行うことができるとクリーンな方法という点で注目されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】米国特許明細書第5700311号
【特許文献2】特開2002−69466号公報
【特許文献3】特開2003−342590号公報
【0007】
特許文献1には、二酸化炭素を含む多成分混合ガスを、二酸化炭素ハイドレートを形成する条件下で水と接触させて、該二酸化炭素をハイドレートとして前記混合ガスから分離する方法が開示されている。
【0008】
特許文献1では、前記混合ガスとして石灰燃焼ボイラーからの煙突排ガスが挙げられており、前記煙突排ガスに含まれるガスは、二酸化炭素以外では、窒素、酸素、水蒸気、および、その他の微量ガスである。
ここで、混合ガスが天然ガスである場合、二酸化炭素と分離したい他の成分は主としてメタンであるが、二酸化炭素とメタンは、それぞれのハイドレートの相平衡条件が近い。そして、特許文献1に記載の二酸化炭素ハイドレートの形成条件下ではメタンハイドレートも生成するため、有用成分であるメタンの一部も二酸化ハイドレートとともに除かれてしまう。また、多量の二酸化炭素の分離には多段階のハイドレート化を行う必要がある。
【0009】
また、メタン以外の燃料としての有用成分、すなわち、エタン、プロパン、ブタン等は、二酸化炭素よりもハイドレート化されやすいので、これらの成分も二酸化炭素と共に除去されてしまう。
加えて、混合ガスの主成分が二酸化炭素である場合、その多量の二酸化炭素をハイドレート化するため、該ハイドレート化に必要なエネルギーが多くなる問題がある。
【0010】
特許文献2には、ハイドレート促進剤を用いることによって、高温及び低圧で、混合ガスから所望の特定ガスを分離することが記載されている。しかし、特許文献2に記載のハイドレート促進剤を用いた場合には、二酸化炭素とメタンはともに高温及び低圧でハイドレートを形成可能になる旨が記載されている限りであり、二酸化炭素とメタンとの混合ガスからいずれか一方のガスを分離することは記載されていない。
【0011】
特許文献3には、メタンリッチ、すなわち、メタンを多く含むガスにおいて、当該メタンをハイドレート化する際に、ハイドレート生成促進剤の共存下でハイドレート生成反応を行うことが開示されている。特許文献3は、メタンリッチのガスからメタンハイドレートを生成させるときのエネルギー削減を目的とするものである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の目的は、二酸化炭素を多く含み、且つ、他の成分として少なくともメタンを含む混合ガスから、前記二酸化炭素とメタンを含む他のガス成分とを高効率に分離し、省エネルギー且つ高効率に高濃度のメタンガスを得ることができるガス分離方法およびガス分離装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成するため、本発明の第1の態様に係るガス分離方法は、主成分として二酸化炭素を含み、他の成分として少なくともメタンを含む混合ガスと水を原料として、前記原料水に添加する添加剤であって、該添加剤を含まない水を原料とした混合ガスハイドレートの相平衡曲線よりも高温側または低圧側でII型ハイドレートを形成する添加剤を加え、前記混合ガスからII型ハイドレートを生成する工程を含むことを特徴とするものである。
【0014】
まず、ハイドレートの結晶構造について説明する。ガスハイドレートの結晶構造にはI型、II型、H型等があり、異なるタイプの籠(ケージ)によって構成されている。
I型は12面体のケージ(以下、小ケージ)2個と14面体のケージ(以下、中ケージ)6個によって構成されている。II型は12面体の小ケージが16個と16面体のケージ(以下、大ケージ)8個によって構成されている。
これらの大(16面体)、中(14面体)、小(12面体)のケージに、ハイドレート形成物質(メタン、二酸化炭素等)の分子が入り、ガスハイドレートを形成している。ハイドレート形成物質は、その分子の大きさ等の影響によって入ることができるケージが決まっている。
【0015】
通常、メタンと水を原料として形成されるメタンハイドレートは、I型のみのハイドレートを形成することが知られている。また、二酸化炭素ハイドレートも、メタンと同様に、I型のハイドレートを形成することが知られている。そして、図1に示されるように、メタンと二酸化炭素のハイドレート相平衡曲線は、非常に近い温度および圧力になっている。
そのため、二酸化炭素とメタンの混合ガスから二酸化炭素ハイドレートを生成させて該二酸化炭素を分離する場合には、二酸化炭素ハイドレー以外に二酸化炭素とメタンの混合ガスハイドレートも多く生成してしまい、メタンの回収率が低下してしまう。尚、前記混合ガスハイドレートは、I型のハイドレートの中にメタンと二酸化炭素の混合ガスが占有して構造をとっている。
【0016】
ここで、本発明者らは、ガスハイドレートの原料となる水中に、所定の添加剤を添加したとき、その添加剤存在下でのメタンハイドレートの相平衡曲線と二酸化炭素ハイドレートの相平衡曲線の関係は、前記添加剤を加えない場合(図1)と異なることに着目した。尚、図1において、二酸化炭素ハイドレートの相平衡曲線は、Amir H. Mohammadiら、Chemical engineering Science 64,2009,5319-5322に記載の文献値を、また、同図のメタンハイドレートの相平衡曲線は、B. Tohidiら、Fluid Phase equilibria 138, 1997, 241-250に記載の文献値を元に作成した。
【0017】
図2は、添加剤としてシクロペンタンを加えた場合のメタンおよび二酸化炭素のハイドレート相平衡曲線である。添加剤を加えない通常の水の場合(図1)、メタンハイドレートの相平衡曲線が、二酸化炭素ハイドレートのそれよりも、低温側または高圧側にあるが、シクロペンタン存在下(図2)では、メタンハイドレートの相平衡曲線が二酸化炭素ハイドレートよりも同じ圧力で比較したときに高温側、または同じ温度で比較した場合に低圧側となる。
【0018】
前記添加剤の添加によってメタンと二酸化炭素のハイドレート相平衡条件の関係が変わることの理由は定かではないが、このような作用を示す添加剤は、その添加によって、水のハイドレート相平衡曲線よりも高温側または低圧側で当該添加剤を包蔵したII型ハイドレートのみを形成する。そして、このII型ハイドレートには、二酸化炭素よりもメタンが優先的に取り込まれると推察される。
【0019】
原料水に添加することによって、水のハイドレート相平衡曲線よりも高温側または低圧側でII型ハイドレートを形成する添加剤としては、シクロペンタン、シクロヘキサン等が挙げられる。これらの添加剤は、水のハイドレート相平衡曲線よりも高温側または低圧側で、当該添加剤を包蔵したII型ハイドレートを形成する。該添加剤は、II型ハイドレートの大ケージに入る。そして、前記添加剤が入らないII型ハイドレートの小ケージには、メタンが優先的に入る。
【0020】
本態様によれば、添加剤の存在下で反応を行い、主成分として二酸化炭素を含み、他の成分としてメタンを含む混合ガスからII型ハイドレートを生成させて、メタンを多く含むハイドレートを優先的に生成させることが可能となる。このことによって、前記混合ガスから二酸化炭素とメタンとを高効率に分離し、高濃度のメタンガスを得ることができる。また、二酸化炭素とメタンとの分離にあたり、前記混合ガス中の主成分である二酸化炭素をハイドレート化するのではなく、少ない成分であるメタンをハイドレート化させるので、ハイドレート化にかかるエネルギーを抑えることができる。以って、省エネルギーで二酸化炭素とメタンとを分離することができる。
【0021】
尚、混合ガスには、二酸化炭素とメタン以外の成分として、エタン、プロパン、ブタン、ペンタン等の他の燃料として有用なガス成分を含んでいてもよい。エタン、プロパン、ブタン、ペンタン等は、小ケージには入ることができないが、大ケージに入ることができるため、メタンと共にハイドレート化して回収することができる。
【0022】
本発明の第2の態様に係るガス分離方法は、第1の態様において、前記添加剤は、シクロペンタンであることを特徴とするものである。
【0023】
本態様によれば、前記添加剤としてシクロペンタンを用いることにより、第1の態様の作用効果を確実に得ることができる。
【0024】
本発明の第3の態様に係るガス分離装置は、主成分として二酸化炭素を含み、他の成分として少なくともメタンを含む混合ガスを供給するガス供給口と、原料水を供給する原料水供給口と、前記原料水に添加する添加剤であって、該添加剤を含まない水を原料とした混合ガスハイドレートの相平衡曲線よりも高温側または低圧側でII型ハイドレートを形成する添加剤を添加する添加剤供給口と、を有し、前記混合ガスと水を原料として、前記混合ガスをハイドレート化してII型の混合ガスハイドレートを生成するハイドレート生成部を備えたことを特徴とするものである。
【0025】
本態様によれば、第1の態様に記載のガス分離方法を実行し、主成分として二酸化炭素を含み、他の成分としてメタンを含む混合ガスから、元の混合ガスよりもメタンを多く含む、メタンリッチの混合ガスハイドレートを生成させることができる。
【0026】
本発明の第4の態様に係るガス分離装置は、第3の態様において、前記ハイドレート生成部において生成したII型の混合ガスハイドレートを受けて、該II型の混合ガスハイドレートを分解して再ガス化するハイドレート分解部を備え、前記分解によって生じる液体成分を前記ハイドレート生成部に送るように構成されていることを特徴とするものである。
【0027】
本態様によれば、ハイドレート生成部において生成した混合ガスハイドレートを分解して、元の混合ガスよりもメタンリッチになったガスを得ることができる。
また、前記分解によって生じる液体成分には、水と添加剤が含まれている。本態様によれば、前記分解によって生じる水および添加剤を、前記ハイドレート生成部における混合ガスハイドレートの生成に再利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】二酸化炭素とメタンのそれぞれのハイドレート平衡曲線を示す図である。
【図2】添加剤(シクロペンタン)存在下での二酸化炭素とメタンのそれぞれのハイドレート平衡曲線を示す図である。
【図3】二酸化炭素−メタン−シクロペンタンの相平衡曲線である
【図4】実施例1の計算結果を示す図であり、図4(A)はシクロペンタン/水=0.4の場合であり、図4(B)はシクロペンタン/水=0.6の場合である。
【図5】実施例2の計算結果を示す図であり、図5(A)は生成温度が290K(17℃)の場合であり、図5(B)は生成温度が293K(20℃)の場合である。
【図6】本発明に係るガス分離方法に用いるガス分離装置の一例を示す概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、実施例に基づき本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限られるものではない。
最初に、本発明に係る混合ガス、原料水、および添加剤について説明する。
【0030】
<混合ガス>
本発明に係るガス分離方法における分離対象である混合ガスは、主成分として二酸化炭素を含み、他の成分として少なくともメタンを含む複数のガス成分の混合ガスである。例えば、二酸化炭素が主成分である天然ガスが挙げられる。天然ガスは、二酸化炭素およびメタンの他、エタン、プロパン、ブタン、ペンタン等の炭化水素化合物を含んでいる。
また、他の例としては、下水汚泥の嫌気性消化(メタン発酵)によって得られるバイオガス(消化ガス)が挙げられる。前記天然ガスやバイオガスは、二酸化炭素、メタンの他、硫化水素、窒素、シロキサン類、アンモニア、メチルメルカプタン等を含んでいる場合がある。これらの成分は、予め脱硫処理等を行い、除去しておくことが望ましい。
【0031】
<原料水>
原料水としては、蒸留水、精製水、イオン交換水、RO水等の他、ガスハイドレートの生成に影響を与える夾雑物が含まれていない水道水を用いることができる。
【0032】
<添加剤>
添加剤としては、前記原料水に添加することによって、水のハイドレート相平衡曲線よりも高温側または低圧側でII型ハイドレートを形成する物質を用いることができる。例えば、シクロペンタン、シクロヘキサン等が挙げられる。これらの添加剤は、水のハイドレート相平衡曲線よりも高温側または低圧側で、当該添加剤を包蔵したII型ハイドレートを形成する。該添加剤は、II型ハイドレートの大ケージに入る。
添加剤の原料水への添加量は、添加剤のモル分率が0.1〜0.5になるように添加することが好ましい。特に、添加剤としてシクロペンタンを用いた場合には、シクロペンタンのモル分率は、0.28〜0.40であることが好ましい。
【0033】
尚、図3は、二酸化炭素:メタン=70:30の混合ガスにおいて、前記シクロペンタンのモル分率を変えたときの、二酸化炭素−メタン−シクロペンタンの相平衡曲線(計算値)である。
図3に示されるように、添加剤としてシクロペンタンを加えることにより、添加剤を加えない場合(図3中、無添加の場合)に比して高温条件下で、混合ガスハイドレートの生成が可能になる。また、シクロペンタン濃度が高いほど平衡圧力が低くなる。
【0034】
次に、原料水に前記添加剤を加えて混合ガスのハイドレート化を行う本発明に係るガス分離方法の効果について説明する。
ハイドレートの結晶構造は、前述のようにI型(小ケージ2個、中ケージ6個)、II型(小ケージ16個、大ケージ8個)等がある。
通常、メタンと水を原料として形成されるメタンハイドレートは、I型のみのハイドレートを形成することが知られている。また、二酸化炭素ハイドレートも、メタンと同様に、I型のハイドレートを形成することが知られている。そして、図1に示されるように、メタンと二酸化炭素のハイドレート相平衡曲線は、非常に近い温度および圧力になっている。
【0035】
そのため、二酸化炭素とメタンの混合ガスから二酸化炭素ハイドレートを生成させて該二酸化炭素を分離する場合には、二酸化炭素ハイドレー以外に二酸化炭素とメタンの混合ガスハイドレートも多く生成してしまい、メタンの回収率が低下してしまう。尚、前記混合ガスハイドレートは、I型のハイドレートの中にメタンと二酸化炭素の混合ガスが占有して構造をとっている。
【0036】
ここで、ガスハイドレートの原料となる水中に前記添加剤を添加したとき、その添加剤存在下でのメタンハイドレートの相平衡曲線と二酸化炭素ハイドレートの相平衡曲線の関係は、前記添加剤を加えない場合(図1)と異なる。
図2は、添加剤としてシクロペンタンを加えた場合のメタンおよび二酸化炭素のハイドレート相平衡曲線である。添加剤を加えない通常の水の場合(図1)、メタンハイドレートの相平衡曲線が、二酸化炭素ハイドレートのそれよりも、低温側または高圧側にあるが、シクロペンタン存在下(図2)では、メタンハイドレートの相平衡曲線が二酸化炭素ハイドレートよりも高温側または低圧側になる。
【0037】
前記添加剤の添加によってメタンと二酸化炭素のハイドレート相平衡条件の関係が変わることの理由は定かではないが、このような作用を示す添加剤は、その添加によって、水のハイドレート相平衡曲線よりも高温側または低圧側で当該添加剤を包蔵したII型ハイドレートのみを形成する。そして、このII型ハイドレートには、二酸化炭素よりもメタンが優先的に取り込まれると推察される。
【0038】
前記添加剤の存在下で反応を行い、主成分として二酸化炭素を含み、他の成分としてメタンを含む混合ガスからII型ハイドレートを生成させて、メタンを多く含むハイドレートを優先的に生成させることが可能となる。このことによって、前記混合ガスから二酸化炭素とメタンとを高効率に分離し、高濃度のメタンガスを得ることができる。
また、二酸化炭素とメタンとの分離にあたり、前記混合ガス中の主成分である二酸化炭素をハイドレート化するのではなく、少ない成分であるメタンをハイドレート化させるので、ハイドレート化にかかるエネルギーを抑えることができる。以って、省エネルギーで二酸化炭素とメタンとを分離することができる。
【0039】
また、混合ガスにエタン、プロパン、ブタン、ペンタン等を含んでいる場合、これらのガスは小ケージには入ることができないが、大ケージに入ることができるため、メタンと共にハイドレート化して回収することができる。
従来のように、二酸化炭素ハイドレートを形成して混合ガスから二酸化炭素を分離する場合、二酸化炭素よりもハイドレート化しやすいエタン、プロパン、ブタン、ペンタン等は、二酸化炭素と共にハイドレート化して除去されてしまうが、本発明によれば、燃料として有用な成分であるメタン以外の炭化水素化合物もメタンと共に回収できる点で有利である。
【0040】
[実施例1]
添加剤としてシクロペンタンを用い、混合ガス(二酸化炭素:メタン=70:30)を原料として混合ガスハイドレートを生成した場合について、該混合ガスハイドレートに含まれるガスの組成をハイドレート平衡計算ソフト(HWHydrate)を用いて算出した。生成圧力は一定(5.0MPa)として、生成温度を変えて計算を行った。シクロペンタンの水への添加量は、シクロペンタンのモル分率が0.17となるように添加した場合と、0.38となるように添加した場合について行った。また、aqueos fractionを0.2とした。尚、aqueos fractionとは、液体とゲスト分子(二酸化炭素、メタン等)の比率であり、aqueos fractionが0.2のとき、反応容器内の体積を1としたときに0.2が液体であり、その他がゲスト分子となる。
【0041】
図4は、実施例1の計算結果を示す図である。シクロペンタンのモル分率が0.17の場合[図4(A)]、シクロペンタンのモル分率が0.38の場合[図4(B)]のいずれにおいても、温度を高くすることによって、生成した混合ガスハイドレート中に含まれる二酸化炭素量、およびシクロペンタン量が減少し、メタン量が増加した。また、シクロペンタンのモル分率は高い方が、どの温度においてもメタンが取り込まれやすい傾向であった。
【0042】
[実施例2]
添加剤としてシクロペンタンを用い、混合ガス(二酸化炭素:メタン=70:30)を原料として混合ガスハイドレートを生成した場合について、該混合ガスハイドレートに含まれるガスの組成を実施例1と同様のソフトを用いて算出した。生成温度は一定(290Kまたは293K)として、生成圧力を変えて試験を行った。シクロペンタンの水への添加量は、シクロペンタンのモル分率が0.29となるようにした。
【0043】
図5は、実施例2の計算結果を示す図であり、図5(A)は生成温度が290K(17℃)の場合であり、図5(B)は生成温度が293K(20℃)の場合である。
生成温度が290Kの場合[図5(A)]、生成温度が293Kの場合[図5(B)]のいずれにおいても、生成圧力の上昇に伴い、混合ハイドレート中に含まれる二酸化炭素量、およびシクロペンタン量が減少し、メタン量が増加した。
【0044】
[実施例3]
図6は、本発明に係るガス分離方法に用いるガス分離装置の一例を示す概略構成図である。図6に記載のガス分離装置10は、混合ガスGと原料水Lからガスハイドレートを生成するハイドレート生成部11を備えている。
ハイドレート生成部11は、前記混合ガスを供給するガス供給口2と、原料水Lを供給する原料水供給口3と、前記添加剤Aを添加する添加剤供給口4を有している。
【0045】
前記混合ガスGは所定の圧力および温度にされて、前記ハイドレート生成部11の下部に設けられたスパージャー12によって気泡14としてハイドレート生成部11内の水中に導入されるように構成されている。また、原料水Lは、所定の温度にされてハイドレート生成部11の下方から導入される。前記混合ガスGの圧力および温度は、ハイドレート生成部11内において、II型の混合ガスハイドレートを生成する条件に設定される。
例えば、混合ガスのガス組成が二酸化炭素:メタン=70:30である場合、ハイドレート生成部11内は4.0MPa以上、286K〜298K(13℃〜25℃)に設定することが望ましい。
【0046】
更に、前記ハイドレート生成部11は、前記添加剤Aを導入する添加剤導入ライン15が設けられている。後述するように、添加剤Aは当該ガス分離装置10において循環して用いられるため常時供給する必要は無い。後段の固液分離などの各種操作に伴うロス等によって減少する分を補うため、バルブ16等を用いて必要に応じて供給可能に構成されていることが望ましい。ハイドレート生成部11内の添加剤の量は、例えば、ハイドレート生成部11に添加剤の液面を目視できる窓(高圧用液面計等)を設けることによって確認することができる。
【0047】
尚、添加剤Aとしてシクロペンタンを用いた場合、ハイドレート生成部11内における前記シクロペンタンのモル分率は、0.28〜0.40であることが好ましい。尚、シクロペンタンと水は静置状態では二層に分離するが、前記スパージャー12によって気泡14が導入されるとシクロペンタンと水は混和した状態となっている。符号13はシクロペンタンと水の混和層である。混合ガスハイドレートは水とシクロペンタン(添加剤A)の界面において生成する。符号17は生成した混合ガスハイドレートである。
【0048】
ハイドレート生成部11内の圧力および温度は、例えば、混合ガスGのガス組成が二酸化炭素70%、メタン30%である場合、4〜7MPa、286K〜298K(13℃〜25℃)に設定することによって、II型のガスハイドレートが生成する。
このとき生成するガスハイドレートは、添加剤Aであるシクロペンタンの他、混合ガスGのガス成分が包蔵される混合ガスハイドレートであるが、当該混合ガスハイドレートにはメタンが優先的に取り込まれており、原料である混合ガスGよりも高濃度のメタンを含む混合ガスハイドレートを得ることができる。ハイドレート生成部11においてハイドレート化しないガスGはガス排出口5から排出される。前記ガスGは、元の混合ガスGよりも二酸化炭素が多い状態、すなわちより二酸化炭素リッチになっている。
【0049】
前記ハイドレート生成部11において生成した混合ガスハイドレートは、ハイドレートスラリーの状態でガスハイドレート排出口6から抜き出され、固液分離部21に送られる。固液分離部21内の圧力および温度は、ハイドレート生成部11とほぼ同じ条件に設定される。
【0050】
前記ハイドレートスラリーSは、混合ガスハイドレートと、水と、シクロペンタンにより形成されているが、固液分離部21では、ハイドレートスラリーSからの水の分離を行う。固液分離部21の下方から、一番比重の大きい水Lが抜き出される。混合ガスハイドレートとシクロペンタンは、共にハイドレート分解部31に送られる。固液分離部21から抜き出された水Lは、後述する二酸化炭素放散部51に送られる。
【0051】
ハイドレート分解部31において、前記混合ガスハイドレートの分解を行う。混合ガスハイドレートの分解は、ハイドレート分解部31内の圧力条件および温度条件を、混合ガスハイドレートの分解条件にすることによって行われる。例えば、混合ガスのガス組成が二酸化炭素:メタン=70:30である場合、1.0〜3.0MPa、303K(30℃)以下であることが好ましい。
前記混合ガスハイドレートには、前述のように混合ガスGよりも高濃度のメタンが含まれているため、この分解工程によって、混合ガスGよりもメタンを多く含むメタンリッチなガスGを得ることができる。
【0052】
混合ガスハイドレートの分解により生じる水L(シクロペンタンを含む)は、ハイドレート生成部11に送るように構成されている。符号33はポンプである。これにより、混合ガスハイドレートに取り込まれていたシクロペンタン(添加剤A)を循環して利用することができる。
【0053】
前記ガスGは、更に二酸化炭素吸収部41に送られる。二酸化炭素吸収部41において、前記ガスGと水とを気液接触させることによって、該ガスG中の二酸化炭素をその水に吸収させる。二酸化炭素吸収部41は、例えば、3.0〜5.0MPa、283K〜293K(10℃〜20℃)に設定される。
【0054】
二酸化炭素吸収部41を経ることによって、ガスG中から更に二酸化炭素を除去し、よりメタン濃度の高いガスGを得ることができる。尚、ガスGは圧縮器32等により昇圧して二酸化炭素吸収部41に送ることが望ましい。高圧のガスGを水とを気液接触させることによって、水の二酸化炭素吸収能が高くなり、効率よく二酸化炭素を除去することができる。
尚、二酸化炭素吸収部41において用いる水としては、二酸化炭素を吸収していない新しい水を用いることができるのはもちろんであるが、後述する二酸化炭素放散部51を経た水Lを循環して用いることが好ましい。
【0055】
二酸化炭素吸収部41において二酸化炭素を吸収した水Lは、ハイドレート生成部11に送るように構成されていることが望ましい。符号42はポンプである。二酸化炭素を吸収した水Lは、二酸化炭素飽和の状態であるため、前記ハイドレート生成部11に新たに送り込まれた混合ガスG中の二酸化炭素は、水Lにはほとんど溶けることができない。その結果、ハイドレート生成部11内における圧力の低下が防止され、以ってガスハイドレートの生成効率の低下を防止することができる。
【0056】
次に、前記二酸化炭素放散部51について説明する。前記二酸化炭素放散部51は、前記固液分離部21において抜き出された水Lを受けて、当該水L中に溶解している二酸化炭素を放散させる構成部である。前記二酸化炭素放散部51は、該二酸化炭素放散部51内の圧力を下げる、または、温度を上げる、またはその両方を行うことによって、水L中に溶解している二酸化炭素(ガスG)を放散させるように構成されている。二酸化炭素放散部51は、例えば、0.5〜1.0MPa、283K〜293K(10℃〜20℃)に設定される。
【0057】
前記二酸化炭素放散部51を経た水L、すなわち二酸化炭素を放散させて除いた水Lは、二酸化炭素を放散しているため二酸化炭素の吸収能力が回復している。したがって、水Lは前記二酸化炭素吸収部21に送られるように構成されている。符号52はポンプである。
二酸化炭素放散部51を設けることによって、水Lに含まれる二酸化炭素を放散させて再利用するので、二酸化炭素の分離率を高めることができる。
【符号の説明】
【0058】
1 ガス分離装置、 2 ガス供給口、
3 原料水供給口、 4 添加剤供給口、
5 ガス排出口、 6 ガスハイドレート排出口、
11 ハイドレート生成部、 12 スパージャー、
13 添加剤(シクロペンタン)と水の混和層、 14 気泡、
15 添加剤導入ライン、 16 バルブ、
17 混合ガスハイドレート、
21 固液分離部、 31、 ハイドレート分解部、
32 圧縮器、 33 ポンプ、
41 二酸化炭素吸収部、 42 ポンプ、
51 二酸化炭素放散部、 52 ポンプ、
混合ガス、 G〜G ガス、 L〜L 水、
A 添加剤

【特許請求の範囲】
【請求項1】
主成分として二酸化炭素を含み、他の成分として少なくともメタンを含む混合ガスと水を原料として、前記原料水に添加する添加剤であって、該添加剤を含まない水を原料とした混合ガスハイドレートの相平衡曲線よりも高温側または低圧側でII型ハイドレートを形成する添加剤を加え、前記混合ガスからII型ハイドレートを生成する工程を含むことを特徴とする、ガス分離方法。
【請求項2】
請求項1に記載されたガス分離方法において、前記添加剤は、シクロペンタンであることを特徴とする、ガス分離方法。
【請求項3】
主成分として二酸化炭素を含み、他の成分として少なくともメタンを含む混合ガスを供給するガス供給口と、
原料水を供給する原料水供給口と、
前記原料水に添加する添加剤であって、該添加剤を含まない水を原料とした混合ガスハイドレートの相平衡曲線よりも高温側または低圧側でII型ハイドレートを形成する添加剤を添加する添加剤供給口と、を有し、
前記混合ガスと水を原料として、前記混合ガスをハイドレート化してII型の混合ガスハイドレートを生成するハイドレート生成部を備えたことを特徴とする、ガス分離装置。
【請求項4】
請求項3に記載のガス分離装置において、前記ハイドレート生成部において生成したII型の混合ガスハイドレートを受けて、該II型の混合ガスハイドレートを分解して再ガス化するハイドレート分解部を備え、前記分解によって生じる液体成分を前記ハイドレート生成部に送るように構成されていることを特徴とする、ガス分離装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−246233(P2012−246233A)
【公開日】平成24年12月13日(2012.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−117891(P2011−117891)
【出願日】平成23年5月26日(2011.5.26)
【出願人】(000005902)三井造船株式会社 (1,723)
【出願人】(899000079)学校法人慶應義塾 (742)
【Fターム(参考)】