説明

ガス吹き込み用プラグおよびその製造方法

【課題】煩雑な製造工程を必要とせず、必要な量のガスを供給できて、耐用性に優れたガス吹き込み用プラグを提供する。
【解決手段】所定の厚みと平面的な広がりを有し、プラグ本体1の底面1aから上面1bまで連通するように配設されたスリット状ガス通路1を備えたガス吹き込み用プラグA1において、スリット状ガス通路を構成する、互いに対向する一対の対向内壁面2a,2bが、所定の位置に点在する複数の接合部4を介して、所定の間隔をおいて接合され、かつ、スリット状ガス通路を平面に展開したときにおける、複数の接合部の合計平面面積が、接合部を含むスリット状ガス通路全体の平面面積の5〜30%であるような構成とする。
スリット状ガス通路の厚みを0.1〜0.3mmとする。
1または2以上のスリット状ガス通路を、プラグ本体の底面から上面に向かう方向と直交する方向の断面の中心軸周りを周回するような態様で配設する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属の精錬分野における取鍋、電気炉、転炉、脱ガス装置などにおいて、溶融金属にガスを吹き込んで攪拌するために用いられるガス吹き込み用プラグおよびその製作方法に関する。
【背景技術】
【0002】
転炉、電炉、取鍋、取鍋精錬炉などの溶融金属容器の底部から、ガス吹き込み用プラグを用いてガスを吹き込み、溶鋼や精錬剤を攪拌することが広く行われている。ガス吹き込み方法としては、溶融金属容器の底部に設置されたガス吹き込み用プラグによって溶鋼内にガスを直接吹き込む底吹き法が一般的に採用されている。
【0003】
代表的なガス吹き込み用プラグとしては、れんが内の気孔を介して通気させるポーラスプラグ、緻密質なれんがに貫通孔を設けた貫通孔プラグ、同じく緻密質なれんがにガス吹き込み方向に貫通するスリットを介して通気させるスリットプラグが知られている。
【0004】
そして、近年では、ガス吹き込み用プラグの寿命延長や、大型取鍋での攪拌効率の向上の要求に応えるべく、耐用性に優れ、大流量のガス通気が可能なスリットプラグが開発され、使用されるようになっている。
【0005】
このようなスリットプラグとしては、例えば、以下のような、特許文献1〜4のプラグが提案されている。
【0006】
(a)まず、特許文献1には、緻密質耐火物からなる内装体の側面にその上端から下端にわたって昇華性溶液を帯状に塗布し、緻密質耐火物の外装体を内装体の外側に充填し、一体化した内装体と外装体を加熱して昇華性物質を昇華させてガス吹き込み用のスリットを形成するようにしたガス吹き込みプラグの製造方法が提案されている(特許文献1の図2参照)。
しかしこの製造方法により製造されるスリットプラグの場合、スリットが水平方向に不連続であり、使用中にスリットが目詰まりを起こしやすく、必要なガス流量が確保できなくなるという問題点がある。
【0007】
(b)また、特許文献2には、プラグの底部から上面まで渦巻状の空隙部が貫通しているガス吹き込み用プラグが提案されている(特許文献2の図1参照)。
しかしながら、この特許文献2のガス吹き込み用プラグの場合、渦巻状にした1枚のシートを燃焼させて形成されるスリットは完全に連続しており、スリットを介して対向する耐火物は、互いに接続されていないため、使用時の熱スポーリングなどにより容易に耐火物が剥離し、損傷速度が非常に大きくなるという問題点がある。
【0008】
(c)さらに、特許文献3には、スリット通路を区画する内壁面の表面粗さを特定したガス吹き込み用プラグが開示されており、複数本のスリット通路が放射状あるいは円陣状に配置された構成のものが開示されている。
しかしながら、このガス吹き込み用プラグは、スリットが水平方向に不連続であることから、使用中にスリットが目詰まりを起こしやすく、必要なガス流量が確保できなくなるという問題点がある。
【0009】
(d)また、特許文献4には、非連続の浅いスリットを段違いに形成したガス吹き込み用プラグが開示されている。
しかしながら、ガス通路が連続した部分と非連続の部分とで構成されており、使用毎に新しい断面が露出するが、非連続の浅いスリットを段違いに形成するようにしていることから、スリット内部の緻密部が多くなりすぎてガス流通路が狭くなるという問題点がある。また、スリットに非連続部分が多く、ガスの流通路が複雑になることからも、ガスが通気しにくくなり、必要なガス流量を確保しにくいという問題点がある。
またスリットを形成するためのシートの形状が複雑で、製造が容易でないという問題点がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平04−124212号公報
【特許文献2】特開平11−117014号公報
【特許文献3】特許第3824119号公報
【特許文献4】特許第3126122号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、上記実情に鑑みてなされたものであり、煩雑な製造工程を必要とせず、溶鋼を攪拌するのに必要な量のガスを確実に供給することが可能で、耐用性に優れたガス吹き込み用プラグを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するため、本発明(請求項1)のガス吹き込み用プラグは、
内部にガス通路を備えた耐火物からなるプラグ本体と、ガス通路にガスを導入するためのガス導入管とを備えた、溶融金属容器の底部から容器内部の溶鋼にガスを吹き込むために用いられるガス吹き込み用プラグであって、
前記ガス通路として、所定の厚みと平面的な広がりを有し、前記プラグ本体の底面から上面まで連通するように配設されたスリット状ガス通路を備え、
前記プラグ本体の前記スリット状ガス通路を構成する、互いに対向する一対の対向内壁面は、所定の位置に点在する複数の接合部を介して、所定の間隔をおいて互いに接合されており、
前記スリット状ガス通路を平面に展開したときにおける、複数の前記接合部の合計平面面積が、前記接合部を含む前記スリット状ガス通路全体の平面面積の5〜30%であること
を特徴としている。
【0013】
本発明のガス吹き込み用プラグにおいては、前記スリット状ガス通路の厚みが0.1〜0.3mmであることが好ましい。
【0014】
また、本発明のガス吹き込み用プラグにおいては、複数の前記スリット状ガス通路を備えていることが好ましい。
【0015】
また、前記スリット状ガス通路が、前記プラグ本体の底面から上面に向かう方向と直交する方向(水平方向)の断面の中心を軸として、その周りを周回するような態様で配設されていることが好ましい。
【0016】
また、複数の前記スリット状ガス通路が、前記プラグ本体の底面から上面に向かう方向と直交する方向の断面の中心軸周りを周回するような態様で同心状に配設されていることが好ましい。
【0017】
また、本発明のガス吹き込み用プラグの製造方法は、
請求項1〜5に記載されたガス吹き込み用プラグの製造方法であって、
前記接合部に対応する貫通孔が設けられた熱消失性材料からなるシートを鋳込み枠の所定の位置にセットする工程と、
前記鋳込み枠に耐火物を鋳込むことにより、内部に前記シートを備えた耐火物成形体を形成する工程と、
前記耐火物成形体を熱処理して、前記シートを消失させる工程と
を具備することを特徴としている。
【発明の効果】
【0018】
本発明(請求項1)のガス吹き込み用プラグは、ガス通路として、所定の厚みと平面的な広がりを有し、耐火物(通常は、緻密質耐火物が用いられる)からなるプラグ本体の底面から上面まで連通するように配設されたスリット状ガス通路を備えており、スリット状ガス通路を構成する、互いに対向する一対の対向内壁面は、所定の位置に点在する複数の接合部を介して、所定の間隔をおいて互いに接合されているとともに、スリット状ガス通路を平面に展開したときの接合部の合計平面面積が、接合部を含むスリット状ガス通路全体の平面面積の5〜30%となるように構成されているので、溶鋼を攪拌するのに必要な量のガスを確実に供給することが可能で、耐用性に優れたガス吹き込み用プラグを提供することが可能になる。
【0019】
すなわち、本発明のガス吹き込み用プラグにおいては、スリット状ガス通路を構成する一対の対向内壁面を、所定の位置に点在する複数の接合部を介して、所定の間隔をおいて接合するようにしているので、スリット状ガス通路は、底面から上面にかけて、さらには、底面から上面に向かう方向と直交する方向(水平方向)の、いずれの方向にも連通し、接合部以外の大きな遮蔽物も存在しないため、スリット状ガス通路をガスが流れる際の圧損を少なくして、良好なガスの流通性や安定したバブリング性を実現することができる。
【0020】
なお、スリット状ガス通路が、水平方向に不連続である場合には、閉塞のおそれがあることから、多数のスリット状ガス通路を設置する必要があったり、製造工程が複雑になったりするという問題点があるが、本発明の場合そのような問題が生じることはない。
【0021】
また、スリット状ガス通路に、点在するように複数の接合部が配設され、かつ、スリット状ガス通路を平面に展開したときにおける、接合部の合計平面面積が、接合部を含むスリット状ガス通路全体の平面面積の5〜30%となるように構成されていることから、プラグ本体の機械的強度を確保して、溶鋼静圧によって破損が生じる(例えば、スリット状ガス通路の内側の中心部分が抜け落ちる)というようなことがなく、かつ、溶鋼の浸入による閉塞や、ガス流量の減少などを招きにくい、耐用性に優れたガス吹き込み用プラグを提供することが可能になる。
【0022】
なお、点在するように配設される複数の接合部は、規則的に所定の間隔をおいて点在させることが望ましいが、接合部の具体的な配設態様に特別の制約はない。
ただし、接合部の合計平面面積(占有率)は、スリット状ガス通路全体の平面面積の5〜30%とすることが望ましい。これは、接合部の合計平面面積がスリット状ガス通路全体の平面面積5%を下回ると、スリット状ガス通路を構成する、一対の対向内壁面どうしの結合強度が不十分になって、使用中の溶鋼静圧により容易に破断が生じる(例えば、スリット状ガス通路の内側の中心部分が抜け落ちる)という問題点があり、また、30%を超えると、スリット状ガス通路の障害物(接合部)が多くなりすぎて、通気が阻害され、ガス流量が低下するという問題点があることによる。
なお、接合部の合計平面面積の、スリット状ガス通路全体の平面面積に対する割合は10〜20%の範囲とすることがより好ましい。
【0023】
また、上記接合部の形状は特に限定されないが、個々の接合部の平面面積(以下「単位面積」ともいう)は、50〜200mm2の範囲が好ましい。
【0024】
これは、接合部の単位面積が50mm2未満の場合、個々の接合部における対向内壁面どうしの結合強度が不十分になって破断しやすくなり、また、200mm2を超えると、スリット状ガス通路内の通気障害となり、ガス流量の確保が難しくなることによる。
なお、個々の接合部の平面面積(単位面積)は、70〜120mm2の範囲とすることがより好ましい。
【0025】
また、本発明のガス吹き込み用プラグにおいて、スリット状ガス通路の厚み(すなわち、互いに対向する一対の対向内壁面間の距離)を0.1〜0.3mmの範囲とした場合、スリット状ガス通路の閉塞を防止しつつ、溶鋼の攪拌に必要なガス量を確保することが可能になる。
なお、スリット状ガス通路の厚みが0.1mmを下回ると、ガス流量の確保が困難になり、0.3mmを超えると、溶鋼が差し込み易くなり、スリット状ガス通路が閉塞してガス流量を確保できなくなるおそれが生じる。
【0026】
また、本発明のガス吹き込み用プラグにおいて、複数のスリット状ガス通路を設けるようにした場合、より確実にガスの流通量を確保することが可能になるとともに、スリット状ガス通路の閉塞のおそれを減らすことが可能になり好ましい。
【0027】
また、スリット状ガス通路を、プラグ本体の底面から上面に向かう方向と直交する方向の断面(水平断面)の中心を軸として、その周りを周回するような態様で配設するようにした場合(すなわち、プラグ本体を底面または上面からみた場合に環状になるような態様でスリット状ガス通路を配設するようにした場合)、プラグ本体の水平断面積に対して、スリット状ガス通路の水平断面積の割合を十分に確保して、ガスの流通性に優れ、より性能の高いガス吹き込み用プラグを提供することが可能になる。
【0028】
さらに、複数のスリット状ガス通路を、プラグ本体の底面から上面に向かう方向と直交する方向の断面の中心軸周りを周回するよう態様で同心状に配設するようにした場合、バランスよくスリット状ガス通路を配設して、ガスの流通性やバブリング性に優れ、スリット状ガス通路の閉塞のおそれの少ない、信頼性の高いガス吹き込み用プラグを提供することが可能になり、本発明をさらに実効あらしめることができる。
【0029】
なお、スリット状ガス通路の水平断面形状は特に限定されず、溶鋼に吹き込むべきガス量に合わせて、例えば円形、楕円形、多角形、星型形状などの種々の形状とすることが可能であり、さらに他の形状とすることも可能である。
【0030】
また、本発明のガス吹き込み用プラグの製造方法は、接合部に対応する貫通孔が設けられた熱消失性材料からなるシートを鋳込み枠の所定の位置にセットし、鋳込み枠に耐火物を鋳込むことにより、内部に上記シートを備えた耐火物成形体を形成した後、耐火物成形体を熱処理して、上記シートを消失させるようにしているので、煩雑な製造工程を必要とせず、必要なガス流量を確保することが可能で、耐用性に優れた本発明のガス吹き込み用プラグを効率よく製造することができる。
【0031】
なお、熱消失性材料からなるシート(熱消失性シート)としては、厚みが0.1〜0.3mmのものを用いることが好ましい。
【0032】
なお、熱消失性シートの構成材料には特に制約はなく、加熱することにより消失させることができるものであればよいが、例えば、ポリエチレンやポリスチロールなどの熱可塑性シート、紙などが好ましい材料として例示される。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明の実施例1にかかるガス吹き込み用プラグ(実施例1のガス吹き込み用プラグ)の構成を模式的に示す正面断面図である。
【図2】(a)は本発明の実施例1にかかるガス吹き込み用プラグの要部構成を模式的に示す平面図、(b)は図1のA−A線断面図である。
【図3】本発明の実施例1にかかるガス吹き込み用プラグを製造するにあたって用いた熱消失性材料からなるシート(熱消失性シート)を模式的に示す図である。
【図4】(a)本発明の他の実施例にかかるガス吹き込み用プラグ(実施例2のガス吹き込み用プラグ)を模式的に示す平面図、(b)は内部構造を示す平面断面図である。
【図5】比較例1のガス吹き込み用プラグを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下に本発明の実施例を示して、本発明の特徴とするところをさらに詳しく説明する。
【実施例1】
【0035】
[1]本発明の実施例にかかるガス吹き込み用プラグ
図1は本発明の実施例にかかるガス吹き込み用プラグの構成を示す正面断面図、図2(a)はその要部構成を示す平面図、図2(b)は平面断面図である。
【0036】
このガス吹き込み用プラグ(実施例1のガス吹き込み用プラグ)A1は、図1,図2(a),(b)に示すように、内部にスリット状ガス通路2を備えた緻密質耐火物からなるプラグ本体1と、スリット状ガス通路2にガスを導入するためのガス導入管3、プラグ本体1の要部を被覆するように配設されたメタルケース5を備えている。
なお、プラグ本体1を構成する耐火物としては、キャスタブル耐火物を用いて形成された、Al23が90%の緻密質耐火物が用いられている。
【0037】
また、スリット状ガス通路2は、所定の厚みと平面的な広がりを有するガス通路であり、円錐台形状のプラグ本体1の底面1aから上面1bまで連通(連続)するように配設されている。
【0038】
また、スリット状ガス通路2は、図1,図2(a),(b)に示すように、プラグ本体1の底面1aから上面1bに向かう方向と直交する方向(水平方向)の断面の中心(中心軸)Cの周りを周回するような態様で配設されており、実施例1のガス吹き込み用プラグA1では、同心状に2層のスリット状ガス通路2が配設されている。
そして、各スリット状ガス通路2は、上述のように、円錐台形状のプラグ本体1の底面1aから上面1bまで連通(連続)しているとともに、周方向(水平方向)にも全体的に連通(連続)している。
【0039】
また、この実施例1のガス吹き込み用プラグA1において、スリット状ガス通路2を構成する、互いに対向する一対の対向内壁面12a,12bは、所定の位置に点在する複数の接合部4を介して、所定の間隔をおいて互いに接合されている。接合部4は平面形状が円形で、背の低い円柱状の構造を有している。各接合部4の平面面積(単位面積)は80mm2とされている。
ただし、接合部4の平面形状は円形に限られるものではなく、他の形状とすることも可能である。
【0040】
そして、スリット状ガス通路2を平面に展開したときにおける、複数の接合部4の合計平面面積が、接合部4を含むスリット状ガス通路2全体の平面面積の10%となるように構成されている。なお、本発明において、接合部4の合計平面面積は5〜30%の範囲であることが望ましい。
【0041】
また、この実施例1のガス吹き込み用プラグA1において、スリット状ガス通路2は、その厚みTは0.2mmとなるように構成されている。なお、本発明において、スリット状ガス通路2の厚みTは0.1〜0.3mmの範囲とすることが好ましい。
【0042】
[2]本発明の実施例にかかるガス吹き込み用プラグの製造
次に、上述のガス吹き込み用プラグA1の製造方法について説明する。
まず、図3に示すように、複数の貫通孔(本発明のガス吹き込み用プラグの接合部に対応する貫通孔)11aが設けられた熱消失性材料からなるシート(熱消失性シート)11を用意した。この実施例では貫通孔11aの平面形状は、ガス吹き込み用プラグA1の接合部の形状に対応する円形とした。
この実施例では、熱消失性シート11として、ポリスチロールからなるシートを用いた。
【0043】
さらに、この実施例では、熱消失性シート11として、厚みが0.2mm、各貫通孔11aの平面面積が80mm2、複数の貫通孔11aの合計平面面積が、貫通孔11aを含む熱消失性シート11全体の平面面積の10%となるような構成のものを用いた。
なお、熱消失性シート11としては、プラグ本体に形成すべきスリット状ガス通路に対応する寸法のものを、形成すべきスリット状ガス通路の数(この実施例では2層)だけ用意した。
【0044】
それから、この熱消失性シートを円筒状になるように巻いた状態で、鋳込み枠(図示せず)の所定の位置にセットした後、鋳込み枠に、Al2O3が90%のキャスタブルの緻密質耐火物を、熱消失性シート間およびその周りの空間に鋳込むことにより、内部に熱消失性シートを備えた耐火物成形体を成形する。
【0045】
そして、養生を行った後、脱型し、250℃で乾燥した後、1500℃で焼成して、ポリスチロールからなる熱消失性シートを焼失させることにより、図1,図2(a),(b)に示すようなプラグ本体1を作製した。
【0046】
それから、プラグ本体1に、メタルケース5を装着し、ガス導入管3を取り付けることにより、図1,図2(a),(b)に示すようなガス吹き込み用プラグ(実施例1のガス吹き込み用プラグ)A1が得られる。
【0047】
[他の実施例]
図4(a),(b)は本発明の他の実施例(実施例2)にかかるガス吹き込み用プラグを示す図であり、(a)実施例のガス吹き込み用プラグを模式的に示す平面図、(b)は内部構造を示す平面断面図である。
上では、プラグ本体1の底面1aから上面1bに向かう方向と直交する方向(水平方向)の断面の中心軸周りを周回するような態様で、同心状の円筒状のスリット状ガス通路2を2層設けたガス吹き込み用プラグA1およびその製造方法について説明したが、同様の方法で、図4(a),(b)に示すように、内側(径方向内側)のスリット状ガス通路2(2a)が、プラグ本体1の底面1aから上面1bに向かう方向と直交する方向の断面形状が星形であり、外側(径方向外側)のスリット状ガス通路2(2b)の同方向の断面形状が円形であるガス吹き込み用プラグ(実施例2のガス吹き込み用プラグ)A2を製造した。なお、図4(a),(b)において、図2(a),(b)と同一符号を付した部分は同一または相当する部分を示す。
【0048】
また、比較のため、
(1)プラグ本体1の底面から上面に貫通する細長い帯状の(縦長の)スリット状ガス通路21(21a)を複数本、周方向に沿って配設することにより形成された内側スリット状ガス通路22(22a)と、同じくプラグ本体1の底面から上面に貫通する細長い帯状の(縦長の)スリット状ガス通路21(21b)を複数本、周方向に沿って配設することにより形成された外側スリット状ガス通路22(22b)とを備えたガス吹き込み用プラグであって、図5に示すように、内側スリット状ガス通路22(22a)を構成する帯状スリット21(21a)どうし、および,外側スリット状ガス通路22(22b)を構成する帯状スリット21(21b)どうしが独立しており、周方向に不連続である、本発明の要件を備えていないガス吹き込みノズル(比較例1のガス吹き込み用プラグ)B1、
(2)図1,図2(a),(b)に示した本発明の実施例にかかるガス吹き込み用プラグA1に準じる構造を有するが、複数の接合部4の合計平面面積が、接合部4を含むスリット状ガス通路2全体の平面面積の4%と、本発明の範囲(本発明では5〜30%)を下回るガス吹き込み用プラグ(比較例2のガス吹き込み用プラグ)B2(図示せず)、
(3)図1,図2(a),(b)に示した本発明の実施例にかかるガス吹き込み用プラグA1に準じる構造を有するが、複数の接合部4の合計平面面積が、接合部4を含むスリット状ガス通路2全体の平面面積の35%と、本発明の範囲(本発明では5〜30%)を超えたガス吹き込み用プラグ(比較例3のガス吹き込み用プラグ)B3(図示せず)
の3種類のガス吹き込み用プラグを作製した。
【0049】
[3]評価
上述の実施例のガス吹き込み用プラグA1,A2および比較例のガス吹き込み用プラグB1〜B3について、以下の条件でガス流量の測定と耐圧テストを実施した。
【0050】
(1)ガス流量の測定
各ガス吹き込み用プラグA1,A2およびB1〜B3のそれぞれに、0.1MPaの圧力で空気を流し、各ガス吹き込み用プラグにおけるガス流量を測定した。
【0051】
(2)耐圧テスト
各ガス吹き込み用プラグA1,A2およびB1〜B3のそれぞれの、径方向内側の中心部耐火物(図1,図2(a),(b)では符号20で示した部分)を0.5MPaの圧力で押圧し、破断しなかったガス吹き込み用プラグを良(○)とし、破断したガス吹き込み用プラグを不良(×)として評価した。なお、耐圧テストが良好なガス吹き込み用プラグは、使用時の溶鋼の静圧に対する耐性が高く、耐用性に優れている。
表1に、各ガス吹き込み用プラグの条件、上記の方法で測定したガス流量、および耐圧テストの結果を示す。
【0052】
【表1】

【0053】
表1に示すように、本発明の要件を備えた実施例1および2のガス吹き込み用プラグの場合、ガス流量は、実施例1の場合250Nl/min、実施例2の場合425Nl/minと多く、十分なガス流量が得られることが確認された。また、耐圧テストの結果も良好(○)であることが確認された。
【0054】
これに対し、スリット状ガス通路が周方向に不連続である(すなわち、スリット状ガス通路2が周方向に連通していない)比較例1のガス吹き込み用プラグB1の場合、耐圧テストの結果は良好であることが確認されたが、ガス流量が180Nl/minと少ないことが確認された。なお、比較例1の場合にガス流量の少ないのは、スリット状ガス通路が周方向に連通することを妨げる隔壁が抵抗となり、ガス流通を妨げることによる。
【0055】
また、複数の接合部の合計平面面積が、スリット状ガス通路全体の平面面積の4%と本発明の範囲を下回る比較例2のガス吹き込み用プラグB2の場合、ガス流量は260Nl/minと多かったが、スリット状ガス通路の平面面積に対する接合部の平面面積の割合が低いため、耐圧テストの結果が不良(×)となることが確認された。
【0056】
さらに、複数の接合部の合計平面面積が、スリット状ガス通路全体の平面面積の35%と本発明の範囲を上回る比較例3のガス吹き込み用プラグB3の場合、耐圧テストの結果は良好(○)であったが、ガス流量は175Nl/minと少なくなり、好ましくないことが確認された。これは、接合部が抵抗となり、ガス流通を妨げることによる。
【0057】
以上の結果より、スリット状ガス通路は、底面から上面に連通していることはもちろんであるが、周方向にも連通していることが望ましく、また、複数の接合部の合計平面面積が、スリット状ガス通路全体の平面面積の5〜30%の範囲を逸脱しないことが望ましいことがわかる。
【0058】
なお、上記実施例では、スリット状ガス通路として、プラグ本体の底面から上面に向かう方向と直交する方向の断面形状が円形のもの(実施例1のガス吹き込み用プラグA1)、星形のもの(実施例2のガス吹き込み用プラグA1)を示したが、スリット状ガス通路の具体的な形状に特別の制約はなく、例えば円形、楕円形、多角形などの他の形状とすることも可能である。
【0059】
また、上記実施例ではプラグ本体を構成する耐火材料が、Al23が90%のキャスタブルの緻密質耐火物である場合を例にとって説明したが、プラグ本体を構成する耐火材料としては、Al23,MgO,MgAl24,ZrO2、Cr23,Cなどを適宜組み合わせた種々のものを用いることが可能である。
【0060】
本発明はさらにその他の点においても上記実施例に限定されるものではなく、プラグ本体の形状やガス導入管の配設態様などに関し、発明の範囲内において種々の応用、変形を加えることが可能である。
【符号の説明】
【0061】
1 プラグ本体
1a プラグ本体の底面
1b プラグ本体の上面
2 スリット状ガス通路
3 ガス導入管
4 接合部
5 メタルケース
T スリット状ガス通路の厚み
11 熱消失性シート
11a 貫通孔
12a,12b 一対の対向内壁面
20 中心部耐火物
A1,A2 実施例にガス吹き込み用プラグ
B1 比較例1のガス吹き込み用プラグ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部にガス通路を備えた耐火物からなるプラグ本体と、前記ガス通路にガスを導入するためのガス導入管とを備えた、溶融金属容器の底部から容器内部の溶鋼にガスを吹き込むために用いられるガス吹き込み用プラグであって、
前記ガス通路として、所定の厚みと平面的な広がりを有し、前記プラグ本体の底面から上面まで連通するように配設されたスリット状ガス通路を備え、
前記プラグ本体の前記スリット状ガス通路を構成する、互いに対向する一対の対向内壁面は、所定の位置に点在する複数の接合部を介して、所定の間隔をおいて互いに接合されており、
前記スリット状ガス通路を平面に展開したときにおける、複数の前記接合部の合計平面面積が、前記接合部を含む前記スリット状ガス通路全体の平面面積の5〜30%であること
を特徴とするガス吹き込み用プラグ。
【請求項2】
前記スリット状ガス通路の厚みが0.1〜0.3mmであることを特徴とする請求項1記載のガス吹き込み用プラグ。
【請求項3】
複数の前記スリット状ガス通路を備えていることを特徴とする請求項1記載または2記載のガス吹き込み用プラグ。
【請求項4】
前記スリット状ガス通路が、前記プラグ本体の底面から上面に向かう方向と直交する方向の断面の中心軸周りを周回するような態様で配設されていることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のガス吹き込み用プラグ。
【請求項5】
複数の前記スリット状ガス通路が、前記プラグ本体の底面から上面に向かう方向と直交する方向の断面の中心軸周りを周回するような態様で同心状に配設されていることを特徴とする請求項3記載のガス吹き込み用プラグ。
【請求項6】
請求項1〜5に記載されたガス吹き込み用プラグの製造方法であって、
前記接合部に対応する貫通孔が設けられた熱消失性材料からなるシートを鋳込み枠の所定の位置にセットする工程と、
前記鋳込み枠に耐火物を鋳込むことにより、内部に前記シートを備えた耐火物成形体を形成する工程と、
前記耐火物成形体を熱処理して、前記シートを焼失させる工程と
を具備することを特徴とするガス吹き込み用プラグの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−41618(P2012−41618A)
【公開日】平成24年3月1日(2012.3.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−185877(P2010−185877)
【出願日】平成22年8月23日(2010.8.23)
【出願人】(000001971)品川リフラクトリーズ株式会社 (112)
【Fターム(参考)】