ガス濃度の定量分析方法及び装置
【課題】試料ガス中の微量成分(不純物)の濃度を、FTIR(フーリエ変換赤外分光光度計)用いて定量的に求める場合に、バックグラウンドガスの測定に起因するドリフトやノイズを低減化し、微量成分(不純物)ガス濃度を正確に測定する。
【解決手段】バックグラウンドガスのFTIR測定を行ってシングルビームスペクトルSB(BG)[C]と合成シングルビームスペクトルSSB(BG)[D]とを求め、試料ガスのFTIR測定を行ってシングルビームスペクトルSB(Samp)[E]と合成シングルビームスペクトルSSB(Samp)[F]とを求め、次式で表される試料ガスのダブルシンセティック吸光度スペクトルDSAbsを算出し(ステップT9)、前記試料ガス中の微量成分(不純物)の濃度を求める。
DSAbs=−log[SB(Samp) SSB(BG)/ SSB(Samp) SB(BG)]
【解決手段】バックグラウンドガスのFTIR測定を行ってシングルビームスペクトルSB(BG)[C]と合成シングルビームスペクトルSSB(BG)[D]とを求め、試料ガスのFTIR測定を行ってシングルビームスペクトルSB(Samp)[E]と合成シングルビームスペクトルSSB(Samp)[F]とを求め、次式で表される試料ガスのダブルシンセティック吸光度スペクトルDSAbsを算出し(ステップT9)、前記試料ガス中の微量成分(不純物)の濃度を求める。
DSAbs=−log[SB(Samp) SSB(BG)/ SSB(Samp) SB(BG)]
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガス中に混入した微量成分の濃度を定量する方法及び装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
フーリエ変換赤外分光光度計を用いたガス濃度の定量分析方法において、試料ガス中の微量成分ガスの濃度を定量測定する場合、測定精度の向上が課題となっている。このためには、ノイズに妨害されない正確な測定を行うことが必要となる。
そこで、例えば試料ガスとしてアンモニアガスを選び、微量成分ガスとして水を選んだ場合に、前記アンモニアガスのシングルビームスペクトルSB(Samp)を求め、水の測定波数領域に吸収を持たないバックグラウンドガス(例えば窒素ガス)のシングルビームスペクトルSB(BG)を求め、これら2種類のシングルビームスペクトルから吸光度スペクトルAbs を算出する方法が知られている。
【特許文献1】特開2002-22536号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしこの方法では、水分を100%除去したバックグラウンドガスを使用することが不可能でありシックスナイン(6N)純度の窒素ガスを使用しても、0.01ppmの水分を含むため、試料ガス中の微量水分定量は困難である。また、試料ガスを測定する条件とバックグラウンドガスを測定する条件とをまったく同一にできないので、時間経過に基づく温度変動などのドリフト要因が残ってしまう。
【0004】
そこで、本発明は、バックグラウンドガスの測定に起因するドリフトやノイズを低減化し、微量成分ガス濃度を正確に測定することのできるガス濃度の定量分析方法及び装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明のガス濃度の定量分析方法は、試料ガスと、その試料ガスの測定波数領域を特定し、前記測定波数領域に吸収を持たないバックグラウンドガスを特定し、前記バックグラウンドガスのFTIR測定を行ってシングルビームスペクトルSB(BG)と合成シングルビームスペクトルSSB(BG)とを求め、前記試料ガスのFTIR測定を行ってシングルビームスペクトルSB(Samp)と合成シングルビームスペクトルSSB(Samp)とを求め、前記バックグラウンドガスのシングルビームスペクトルSB(BG)、前記バックグラウンドガスの合成シングルビームスペクトルSSB(BG)、前記試料ガスのシングルビームスペクトルSB(Samp)、及び前記試料ガスの合成シングルビームスペクトルSSB(Samp)に基づき、次式で表される試料ガスのダブルシンセティック吸光度スペクトルDSAbsを算出し、
DSAbs=−log[SB(Samp) SSB(BG)/ SSB(Samp) SB(BG)] (1)
このダブルシンセティック吸光度スペクトルDSAbsを、微量成分の濃度がわかっているガスの吸光度スペクトルの前記測定波数領域における積分値と、当該微量成分の濃度との関係を規定するデータである検量線に適用して、前記試料ガス中の微量成分の濃度を求める方法である。
【0006】
この方法であれば、前記SB(Samp), SSB(BG), SSB(Samp), SB(BG)という4種類のシングルビームスペクトルを求めて、これらのシングルビームスペクトルから、試料ガスのダブルシンセティック吸光度スペクトルDSAbsを算出することができる。このダブルシンセティック吸光度スペクトルDSAbsは、試料ガスのシンセティック吸光度スペクトルSAbs
SAbs=−log[SB(Samp)/ SSB(Samp)] (2)
から、バックグラウンドガスのシンセティック吸光度スペクトル
−log SB(BG)/SSB(BG) (3)
を引いた形になっている。
【0007】
このバックグラウンドガスのシンセティック吸光度スペクトル(3)は、バックグラウンドガスの合成シングルビームスペクトルSSB(BG)をリファレンスとして表した、バックグラウンドガスのシングルビームスペクトルSB(BG)である。
一般にバックグラウンドガスは、ごくわずかであるが微量成分が入っている。このバックグラウンドガスの合成シングルビームスペクトル((3)式の分母)は、前記微量成分を省いたシングルビームスペクトルである。そこで、バックグラウンドガスのシングルビームスペクトルSB(BG)を、このバックグラウンドガスの合成シングルビームスペクトルSSB(BG)で割ることにより、微量成分を含むバックグラウンドガスのみの吸光度スペクトル(3)を得ることができる。
【0008】
そして、前記試料ガスのシンセティック吸光度スペクトルSAbs((2)式)から、このバックグラウンドガスのみの吸光度スペクトル((3)式)を割る、つまりそれらの対数どうしを引くことにより、ノイズやドリフトの低減された試料ガスの正確なダブルシンセティック吸光度スペクトルDSAbs((1)式)を得ることができる。
これにより、微量成分固有の吸光度スペクトルを知ることができるので、検量線を使って、その濃度を求めることができる。
【0009】
本発明のガス濃度の定量分析方法は、さらに試料ガスのノーマル吸光度スペクトルAbs を算出する手順を含んでいてもよい。
また、本発明のガス濃度の定量分析方法は、さらに試料ガスのシンセティック吸光度スペクトルSAbsを算出する手順を含んでいてもよい。
また、本発明のガス濃度の定量分析装置は、前記ガス濃度の定量分析方法の発明と実質同一発明にかかる装置である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態を、添付図面を参照しながら詳細に説明する。
図1は、試料ガスの定量分析を行うための定量分析装置を示す図である。
同図において、試料ガスの入った試料ガスボンベ11と、バックグラウンドガスの入ったガスボンベ13は、ガスの流量を調節するマスフローコントローラ12、開閉バルブ14を通して、ガスセル15のガス入口INにセットされる。試料ガスボンベ11、ガスボンベ13の切り替えはバルブで行う。
【0011】
一方、ガスセル15のガス出口OUTには調整バルブ16、負圧を作るバキュームジェネレータ17(圧力エジェクタでもよい)がつながれている。バキュームジェネレータ17には、空気又は窒素の高圧ガスボンベ25が接続されている。
ガスセル15は、図1に示すように、筒状の一定容積のセル室15aと、このセル室15aの両端面に設けられた光透過窓15b,15cとを含んでいる。セル室15aには、前記ガス入口IN及びガス出口OUTが設けられ、さらにセル室15a内の圧力を測定するための圧力トランスデューサ18につながるポートが設けられている。
【0012】
前記マスフローコントローラ12、調整バルブ16及び圧力トランスデューサ18は、圧力制御部19に接続されている。圧力制御部19は、圧力トランスデューサ18の圧力測定値に基づいて、試料ガス、バックグラウンドガスの流量と調整バルブ16の開閉度を調整することにより、ガスセル15内の圧力を所定の圧力に保つ。
前記光透過窓15b,15cは、例えば赤外線を透過させるサファイヤ透過窓である。
【0013】
前記ガスセル15は、所定温度に保ちやすいように、発泡スチロール等の断熱材(図示せず)で包囲されている。またガスセル15の全体は、赤外線光源G、干渉計S、赤外線検出器Dとともに、保温容器(図示せず)に収納されている。保温容器内は、ヒータ又はペルチェ素子などにより一定温度に保たれる。
符号Gは、赤外線光源Gを示す。赤外線発生の方式は、任意のものでよく、例えばセラミックスヒータ(表面温度450℃)等が使用可能である。なお、赤外線光源Gで発生した光を、一定周期でしゃ断しながら通過させる回転するチョッパ(図示せず)を付加してもよい。
【0014】
また、赤外線の波長を選択するための干渉計Sが設けられている。干渉計Sの構成は、凹面回折格子を用いた分光器など任意の構成を採用することができる。
赤外線光源Gから照射され、前記干渉計Sを通り、光透過窓15cを通してガスセル15に入った光は、前記光透過窓15bを通してガスセル15から出射され、赤外線検出器Dによって検出される。前記赤外線検出器Dは、DtGs検出器(重水素トリグリシンサルフェイト検出器)、InAs検出器又はCCD素子などからなる。
【0015】
赤外線検出器Dの検出信号は、吸光度スペクトル/濃度測定部20により解析される。この解析方法は後述する。
前記圧力制御部19、吸光度スペクトル/濃度測定部20の処理機能は、CD−ROMやハードディスクなど所定の媒体に記録されたプログラムを、パーソナルコンピュータが実行することにより実現される。また、吸光度スペクトル/濃度測定部20に接続されるメモリ20aは、ハードディスクなどの記録媒体内に作られた、書き込み可能な設定ファイルにより実現される。
【0016】
以上の定量分析装置において、ガスボンベ11,13に蓄えられた試料ガスやバックグラウンドガスは、ガスセル15の中に導かれる。
ガスセル15の中は、圧力トランスデューサ18により圧力測定されている。そしてこの圧力測定値が目標値になるように、前記圧力制御部19により、前記マスフローコントローラ12及び前記調整バルブ16の制御が行われる。このフィードバック制御によって、ガスセル15の中は、最終的に所望かつ一定の圧力に保たれる。
【0017】
この状態で、前記赤外線光源Gから光を照射し、前記干渉計Sをスペクトル走査させて、前記赤外線検出器Dによって、ガスセル15を透過した光の強度を読み取る。このようにして、ガスセル15に満たされた試料ガスやバックグラウンドガスのスペクトル光強度を測定することができる。
図2は、干渉計Sの内部構造を示す図である。干渉計Sとして、図示のようにマイケルソン干渉計を採用している。ここで、マイケルソン干渉計の測定原理を簡単に説明する。
【0018】
「干渉」とは2つの波が重なったとき、強め合ったり打ち消し合ったりする現象のことである。干渉計は光に対してこの干渉を発生させる光学装置である。一般に、光源から出た光を複数の光路に分け、 両者間に光路差を作って再び合成することにより干渉を起こさせる構造を持っている。
干渉計Sは、半透鏡(ビームスプリッターBS)と、1枚の固定された固定ミラーMfと1枚の移動可能な可動ミラーMmとで構成されている。ビームスプリッターBSは赤外線光源Gから入射した光の一部を透過し、残りを反射して光を2つに分割する役割を持つ。干渉計Sに入射した光束は、まずビームスプリッターBSで2つの光束に分割されて、分割された2つの光束は、それぞれ固定ミラーMf、可動ミラーMmで反射されて、ビームスプリッターBSに戻り、ビームスプリッターBSで再び合成される。2つの光束の光路差をxとする。
【0019】
さまざまな波数の混ざった光が干渉計Sに入射するとする。合成光の強度I(x)を光路差xの関数として表すと、
I(x)=∫B(ν)(1+cos 2πνx)dν (4)
となる(νは波数、積分はν=0から無限大まで、B(ν)は波数スペクトル)。この式(4)は直流分と交流分とからなっており、交流分を改めてI(x)とおくと、
I(x)=∫B(ν) cos 2πνx dν (5)
となる。
【0020】
この式(5)は「インターフェログラム」と呼ばれ、これをフーリエ変換することによって、波数スペクトルB(ν)が得られる。
B(ν)=∫I(x) cos 2πνx dx (6)
積分はx=マイナス無限大から無限大までとる。この波数スペクトルB(ν)を「シングルビームスペクトル」という。前記「無限大」の値はあまり大きくとらなくても、x=0付近の、I(x)の強度の高い部分だけとれば十分に正確なよいスペクトルが得られるので、実際には積分範囲をx=0から上限値x0までとれば十分である。上限値x0は例えば1cmとする。
【0021】
前記(6)式において積分計算するとき、xのポイント数を減らしてフーリエ変換することにより、分解能をわざと落としたスペクトルが得られる。このスペクトルを「合成シングルビームスペクトル」という。この合成シングルビームスペクトルは、微量成分(不純物)に基づく細かな凹凸が除去されたスペクトルとなる。
本発明のガス濃度の定量分析方法では、吸光度スペクトル/濃度測定部20において次の図3に示した手順に従ってデータ処理を行う。
【0022】
本発明の実施の形態では、まずバックグラウンドガスとして、微量成分(不純物)の測定波数領域に吸収を持たない窒素N2を選び、試料ガスとしてアンモニアガスを選ぶ。アンモニアガスには水が微量成分(不純物)として入っている。また、バックグラウンドガスである窒素ガスの中にも、ごくわずか(4N〜6Nのオーダー)であるが、水が微量成分(不純物)として入っている。このアンモニアガス中の水の濃度を定量する。
【0023】
なお、本発明の実施におけるガスの選定はこれらに限られるものではない。バックグラウンドガス、試料ガスとして他の種類のガスを選ぶことも可能である。例えばバックグラウンドガスとしてアルゴンガスのような赤外不活性ガス、試料ガスとしてHCl(塩化水素)などをあげることができる。
図3を参照して、まずユーザは、ガス濃度を定量するための解析メソッドを作成しメモリ20aに登録する(ステップS1)。この解析メソッドは、バックグラウンドガスと試料ガスのシングルビームスペクトルを使って解析する解析メソッド「通常モード」と、試料ガスのシングルビームスペクトルと合成シングルビームを使って解析する解析メソッド「シンセティック・モード」と、バックグラウンドガスと試料ガスのシングルビームスペクトルと合成シングルビームを使って解析する「ダブルシンセティック・モード」とがある。各解析メソッドを登録するときには、濃度既知のガスの吸光度スペクトルを測定した検量線データもそれぞれ設定し登録しておく。
【0024】
通常モードで解析するときは、バックグラウンドガスと試料ガスの種類を特定し、それらのガスのインターフェログラムを測定し、フーリエ変換してシングルビームスペクトルを求めてそれに基づき吸光度スペクトル(ノーマル吸光度スペクトルという)を算出する。
シンセティック・モードで解析するときは、試料ガス、バックグラウンドガスの種類を特定し、試料ガスのシングルビームスペクトルを求めてそれに基づきノーマル吸光度スペクトルを求め、試料ガスの合成シングルビームスペクトルを求めてそれに基づき吸光度スペクトル(シンセティック吸光度スペクトルという)を算出する。
【0025】
ダブルシンセティック・モードでは、試料ガス、バックグラウンドガスの種類を特定し、バックグラウンドガスのシングルビームスペクトルを求めてそれに基づきノーマル吸光度スペクトルを算出し、試料ガスのシングルビームスペクトルを求めてそれに基づきノーマル吸光度スペクトルを算出し、バックグラウンドガスの合成シングルビームスペクトルを求めてそれに基づきシンセティック吸光度スペクトルを算出し、試料ガスの合成シングルビームスペクトルを求めてそれに基づきシンセティック吸光度スペクトルを算出し、これらの吸光度スペクトルに基づきダブルシンセティック吸光度スペクトルを算出する。
【0026】
次に測定条件を設定する(ステップS2)。測定条件には、分解能、測定波数領域がある。分解能は、例えば0.5 cm-1〜 2cm-1の中から選定するが、合成シングルビームスペクトルを求めるときと、シングルビームスペクトルを求めるときで分解能が違うので、それぞれに対して分解能を設定する。合成シングルビームスペクトルのほうが、分解能は粗くなっている。測定波数領域は微量成分(不純物)の高いピークが存在する領域を1又は複数選定するが、複数選定するときは、測定感度の向上のために、微量成分(不純物)の高いピークが存在する領域から順に選定する。
【0027】
次に、保存するスペクトルの種類を設定する(ステップS3)。保存するスペクトルは、インターフェログラム、シングルビームスペクトル、ノーマル吸光度スペクトル、合成シングルビームスペクトル、シンセティック吸光度スペクトル、ダブルシンセティック吸光度スペクトルの中から1種類又は複数種類選ぶ。
次に、解析メソッドの選択をする(ステップS4)。解析メソッドには、前述した通常モード、シンセティック・モード、又はダブルシンセティック・モードの中から選択する。
【0028】
次に、選択された解析メソッドに従って測定・解析を行う(ステップS6〜S8)。この測定解析内容を、図4を参照しながら詳しく説明する。
図4は、ノーマル吸光度スペクトル、シンセティック吸光度スペクトル、及び本発明に特徴的なダブルシンセティック吸光度スペクトルの求め方を説明するための手順図である。
【0029】
通常モード測定・解析の場合、バックグラウンドガスのFTIR測定を行ってインターフェログラムを得(ステップT1)、シングルビームスペクトルSB(BG)を求める(ステップT2)。次に、試料ガスのFTIR測定を行ってインターフェログラムを得(ステップT4)、シングルビームスペクトルSB(Samp)を求める(ステップT5)。そしてこれらのシングルビームスペクトルを割り算してノーマル吸光度スペクトルAbsを求める(ステップT7)。
【0030】
Abs=−log SB(Samp)/SB(BG) (7)
このノーマル吸光度スペクトルは、バックグラウンドガスのシングルビームスペクトルをリファレンスとした、試料ガスのシングルビームスペクトルを表している。これにより、試料ガスに含まれる微量成分(不純物)ガスを定量測定する場合に、温度などの変動による妨害を取り除くことができる。
【0031】
シンセティック・モード測定・解析の場合、試料ガスのFTIR測定を行ってインターフェログラムを得(ステップT4)、シングルビームスペクトルSB(Samp)を求める(ステップT5)。次に、試料ガスのFTIR測定を行ってインターフェログラムを得、合成シングルビームスペクトルSSB(Samp)を求める(ステップT6)。そしてこれらのシングルビームスペクトルを割り算してシンセティック吸光度スペクトルSAbsを求める(ステップT8)。
【0032】
SAbs=−log SB(Samp)/SSB(Samp) (8)
このシンセティック吸光度スペクトルSAbsは、微量成分(不純物)を含む試料ガスに対して、その試料ガスの合成シングルビームスペクトルSSB(Samp)をリファレンスとした、その試料ガスのシングルビームスペクトルSB(Samp)を表している。合成シングルビームスペクトルSSB(Samp)は、前述したように、微量成分(不純物)に基づく細かな凹凸が除去されたスペクトルであり、バックグラウンドガスのシングルビームスペクトルと同じく、温度などの変動成分による妨害を取り除くという機能を持つ。これにより、バックグラウンドガスの測定をしなくても、微量成分(不純物)を含む試料ガスに対して、その微量成分(不純物)を含む正確な吸光度スペクトルを得ることができる。
【0033】
ダブルシンセティック・モード測定・解析の場合、バックグラウンドガスのインターフェログラムを得(ステップT1)、シングルビームスペクトルSB(BG)を求める(ステップT2)。次に、バックグラウンドガスのインターフェログラムに基づき、合成シングルビームスペクトルSSB(BG)を求める(ステップT3)。次に試料ガスのインターフェログラムを得(ステップT4)、シングルビームスペクトルSB(Samp)を求める(ステップT5)。次に、試料ガスのインターフェログラムに基づき、合成シングルビームスペクトルSSB(Samp)を求める(ステップT6)。
【0034】
そしてこれらのバックグラウンドガスのシングルビームスペクトルSB(BG)、バックグラウンドガスの合成シングルビームスペクトルSSB(BG)、試料ガスのシングルビームスペクトルSB(Samp)、試料ガスの合成シングルビームスペクトルSSB(Samp)に基づき、ダブルシンセティック吸光度スペクトルDSAbsを算出する(ステップT9)。
DSAbs=−log[SB(Samp) SSB(BG)/ SSB(Samp) SB(BG)]
=−[log SB(Samp)/SSB(Samp)−log SB(BG)/SSB(BG)] (9)
このダブルシンセティック吸光度スペクトルの関数形(9)を見ればわかるように、シンセティック吸光度スペクトルSAbs((8)式)から、バックグラウンドガスのシンセティック吸光度スペクトル
−log SB(BG)/SSB(BG) (10)
を引いた形になっている。
【0035】
このバックグラウンドガスのシンセティック吸光度スペクトル((10)式)は、バックグラウンドガスの合成シングルビームスペクトルSSB(BG)をリファレンスとして表した、バックグラウンドガスのシングルビームスペクトルSB(BG)である。
バックグラウンドガスは、前述したように、ごくわずか(4N〜6Nのオーダー)であるが微量成分(不純物)が入っている。このバックグラウンドガスの合成シングルビームスペクトルSSB(BG)を求めることにより、前記微量成分(不純物)を省いたシングルビームスペクトルが得られる。そして、バックグラウンドガスのシングルビームスペクトルSB(BG)を、このバックグラウンドガスの合成シングルビームスペクトルSSB(BG)で割ることにより、微量成分(不純物)を含まないバックグラウンドガスのみの吸光度スペクトル(10)式を得ることができる。
【0036】
そして、前記試料ガスのシンセティック吸光度スペクトルSAbs((8)式)から、このバックグラウンドガスのみの吸光度スペクトル((10)式)を割る、つまりそれらの対数どうしを引くことにより、ノイズの低減された試料ガスの正確なダブルシンセティック吸光度スペクトルDSAbs((9)式)を得ることができる。
これにより、微量成分(不純物)の吸光度スペクトルを知ることができる。
【0037】
次に、この微量成分(不純物)の吸光度スペクトルを、すでに同一温度、同一圧力などの条件下で作成した検量線に適用して、微量成分(不純物)の濃度を求める。
ここで検量線とは、測定波数領域における吸光度スペクトルの積分値とガス濃度との関係を規定するデータである。検量線は、微量成分濃度の分かっているガスと、その吸光度スペクトルとを用いて作成する。微量成分ガスの濃度を変えてみて、当該ガスの吸光度スペクトルを測定する。横軸を微量成分ガスの濃度にとり、縦軸を前記「測定波数領域における吸光度スペクトルの積分値」にとり、プロットし、最小自乗法などを用いて曲線形を決定する。この曲線形のデータを吸光度/濃度測定部20のメモリ20aに記憶しておく。
【0038】
以上のようにして、検量線を用いて、試料ガスに含まれる濃度が未知の微量成分(不純物)の濃度を定量的に求めることができる。
【実施例1】
【0039】
バックグラウンドガスとして窒素ガスを選び、試料ガスとしてアンモニアガスを選び、インターフェログラム、シングルビームスペクトル、合成シングルビームスペクトル、吸光度スペクトルの測定を行ったので、グラフ(図5〜図13)を用いて説明する。説明中の[A],[B]などは、図4中の符号に対応する。分解能はシングルビームスペクトルの場合2cm-1に、合成シングルビームスペクトルの場合8cm-1に選び、測定波数領域を3,000 cm-1(3.3μm)〜4,500cm-1(2.2μm)に選んだ。
【0040】
図5は、バックグラウンドガスのインターフェログラム[A]である。横軸にミラーMmの移動距離(単位:ポイント、この実施例では、1ポイントは1.25μmに相当する)を表している。ミラーMmは往復移動しているが、グラフでは、最大移動距離で折り返す前の「往き」と、折り返した後の「帰り」とを別々に描いている。光路差x=0のポイントを縦線で表している。
【0041】
図6は、試料ガスのインターフェログラム[B]である。図5と比べると、x=0のポイント付近で微量成分(不純物)である水の信号が現れている。
図7は、バックグラウンドガスのシングルビームスペクトル[C]を示す。これはバックグラウンドガスのインターフェログラム[A]をフーリエ変換処理したものである。
図8は、バックグラウンドガスの合成シングルビームスペクトル[D]を示す。バックグラウンドガスのインターフェログラム[A]に分解能を落としてフーリエ変換処理したものである。
【0042】
図9は、試料ガスのシングルビームスペクトル[E]を示す。試料ガスのインターフェログラム[B]にフーリエ変換処理したものである。
図10は、試料ガスの合成シングルビームスペクトル[F]を示す。試料ガスのインターフェログラム[B]に分解能を落としてフーリエ変換処理したものである。
図11は、試料ガスのノーマル吸光度スペクトルAbsのグラフである。このグラフは図7のグラフ[C]と、図9のグラフ[E]とから計算される。このグラフによれば、横軸に沿ってノーマル吸光度スペクトルAbsの平均値ないし直流成分が変動しておりドリフトが認められる。
【0043】
図12は、試料ガスのシンセティック吸光度スペクトルSAbsのグラフである。図9のグラフ[E]と、図10のグラフ[F]とから計算される。このグラフによれば、横軸に沿ってノーマル吸光度スペクトルAbsの平均値ないし直流成分が変動しておらず、ドリフトがなくなっている。
図13は、試料ガスのダブルシンセティック吸光度スペクトルDSAbsのグラフである。図7のグラフ[C]、図8のグラフ[D]、図9のグラフ[E]、図10のグラフ[F]から計算される。図12、 図13において、実際に解析に使用する波数領域は、3659 cm-1から3681cm-1付近である。この波数領域では、バックグラウンドガスで較正することによりノイズ低減が実現されている。
【実施例2】
【0044】
バックグラウンドガスとして窒素ガスを選び、試料ガスとして大気を選び、インターフェログラム、シングルビームスペクトル、合成シングルビームスペクトル、ノーマル吸光度スペクトルの測定を行ったので、グラフ(図14〜図22)を用いて説明する。説明中の[A],[B]などは、図4中の符号に対応する。分解能は、シングルビームスペクトル測定の場合2cm-1、合成シングルビームスペクトル測定の場合8cm-1に選び、測定波数領域を600 cm-1(3.3μm)〜4,500cm-1(2.2μm)に選んだ。
【0045】
図14は、バックグラウンドガスのインターフェログラム[A]である。横軸にミラーMmの移動距離(単位:ポイント、この実施例では1ポイントは1.25μmに相当する)を表している。ミラーMmは往復移動しているが、グラフでは、最大移動距離で折り返す前の「往き」と、折り返した後の「帰り」とを別々に描いている。光路差x=0のポイントを縦線で表している。
【0046】
図15は、試料ガスのインターフェログラム[B]である。
図16は、バックグラウンドガスのシングルビームスペクトル[C]を示す。これはバックグラウンドガスのインターフェログラム[A]にフーリエ変換処理したものである。1,500cm-1のあたりに、微量成分(不純物)である水や二酸化炭素のスペクトルが現れている。これは、バックグラウンドガスである窒素ガスの中にも、ごくわずか(4N〜6Nのオーダー)であるが、水や二酸化炭素が微量成分(不純物)として入っているからである。
【0047】
図17は、バックグラウンドガスの合成シングルビームスペクトル[D]を示す。バックグラウンドガスのインターフェログラム[A]に分解能を落としたフーリエ変換処理したものである。図16と比べると、微量成分(不純物)である水や二酸化炭素の信号が消滅している。
図18は、試料ガスのシングルビームスペクトル[E]を示す。試料ガスのインターフェログラム[B]にフーリエ変換処理したものである。フーリエ変換処理をすることにより、大気中の水分、CO2による吸収が現れている。
【0048】
図19は、試料ガスの合成シングルビームスペクトル[F]を示す。試料ガスのインターフェログラム[B]にポイント数を減らし、分解能を落としてフーリエ変換処理したものである。図18と比べると、微量成分(不純物)である水や二酸化炭素の信号(1,500cm-1のあたり)が消滅している。
図20は、試料ガスのノーマル吸光度スペクトルAbsのグラフである。図16のグラフ[C]と、図18のグラフ[E]とから計算される。このグラフによれば、横軸に沿ってノーマル吸光度スペクトルAbsの平均値ないし直流成分が変動しておりドリフトが顕著に認められる。
【0049】
図21は、試料ガスのシンセティック吸光度スペクトルSAbsのグラフである。図18のグラフ[E]と、図19のグラフ[F]と、から計算される。合成バックグラウンドを用いた吸収スペクトルである。図20と比べると、横軸に沿ってノーマル吸光度スペクトルAbsの平均値ないし直流成分が変動しておらず、ドリフトの影響が相殺されている。
図22は、試料ガスのダブルシンセティック吸光度スペクトルDSAbsのグラフである。図16のグラフ[C]、図17のグラフ[D]、図18のグラフ[E]、図19のグラフ[F]とから計算される。図21のグラフと比べると、バックグラウンドガスで較正することにより、ノイズ低減が実現されていることがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】試料ガスを測定するための定量分析装置を示す概略図である。
【図2】干渉計Sの内部構造を示す光路図である。
【図3】本発明のガス濃度の定量分析手順を示すフローチャートである。
【図4】ノーマル吸光度スペクトル、シンセティック吸光度スペクトル、及びダブルシンセティック吸光度スペクトルの算出方法を説明するための手順図である。
【図5】実施例1にかかるバックグラウンドガスのインターフェログラム[A]を示すグラフである。
【図6】実施例1にかかる試料ガスのインターフェログラム[B]を示すグラフである。
【図7】実施例1にかかるバックグラウンドガスのシングルビームスペクトル[C] を示すグラフである。
【図8】実施例1にかかるバックグラウンドガスの合成シングルビームスペクトル[D]を示すグラフである。
【図9】実施例1にかかる試料ガスのシングルビームスペクトル[E]を示すグラフである。
【図10】実施例1にかかる試料ガスの合成シングルビームスペクトル[F]を示すグラフである。
【図11】実施例1にかかる試料ガスのノーマル吸光度スペクトルのグラフである。
【図12】実施例1にかかる試料ガスのシンセティック吸光度スペクトルのグラフである。
【図13】実施例1にかかる試料ガスのダブルシンセティック吸光度スペクトルのグラフである。
【図14】実施例2にかかるバックグラウンドガスのインターフェログラム[A]を示すグラフである。
【図15】実施例2にかかる試料ガスのインターフェログラム[B]を示すグラフである。
【図16】実施例2にかかるバックグラウンドガスのシングルビームスペクトル[C]を示すグラフである。
【図17】実施例2にかかるバックグラウンドガスの合成シングルビームスペクトル[D]を示すグラフである。
【図18】実施例2にかかる試料ガスのシングルビームスペクトル[E]を示すグラフである。
【図19】実施例2にかかる試料ガスの合成シングルビームスペクトル[F]を示すグラフである。
【図20】実施例2にかかる試料ガスのノーマル吸光度スペクトルを示すグラフである。
【図21】実施例2にかかる試料ガスのシンセティック吸光度スペクトルのグラフである。
【図22】実施例2にかかる試料ガスのダブルシンセティック吸光度スペクトルのグラフである。
【符号の説明】
【0051】
11 試料ボンベ
12 マスフローコントローラ
13 ボンベ
14 開閉バルブ
15 ガスセル
16 調整バルブ
17 バキュームジェネレータ
18 圧力トランスデューサ
19 圧力制御部
20 吸光度スペクトル/濃度測定部
20a メモリ
25 高圧ガスボンベ
G 赤外線光源
S 干渉計
D 赤外線検出器
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガス中に混入した微量成分の濃度を定量する方法及び装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
フーリエ変換赤外分光光度計を用いたガス濃度の定量分析方法において、試料ガス中の微量成分ガスの濃度を定量測定する場合、測定精度の向上が課題となっている。このためには、ノイズに妨害されない正確な測定を行うことが必要となる。
そこで、例えば試料ガスとしてアンモニアガスを選び、微量成分ガスとして水を選んだ場合に、前記アンモニアガスのシングルビームスペクトルSB(Samp)を求め、水の測定波数領域に吸収を持たないバックグラウンドガス(例えば窒素ガス)のシングルビームスペクトルSB(BG)を求め、これら2種類のシングルビームスペクトルから吸光度スペクトルAbs を算出する方法が知られている。
【特許文献1】特開2002-22536号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしこの方法では、水分を100%除去したバックグラウンドガスを使用することが不可能でありシックスナイン(6N)純度の窒素ガスを使用しても、0.01ppmの水分を含むため、試料ガス中の微量水分定量は困難である。また、試料ガスを測定する条件とバックグラウンドガスを測定する条件とをまったく同一にできないので、時間経過に基づく温度変動などのドリフト要因が残ってしまう。
【0004】
そこで、本発明は、バックグラウンドガスの測定に起因するドリフトやノイズを低減化し、微量成分ガス濃度を正確に測定することのできるガス濃度の定量分析方法及び装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明のガス濃度の定量分析方法は、試料ガスと、その試料ガスの測定波数領域を特定し、前記測定波数領域に吸収を持たないバックグラウンドガスを特定し、前記バックグラウンドガスのFTIR測定を行ってシングルビームスペクトルSB(BG)と合成シングルビームスペクトルSSB(BG)とを求め、前記試料ガスのFTIR測定を行ってシングルビームスペクトルSB(Samp)と合成シングルビームスペクトルSSB(Samp)とを求め、前記バックグラウンドガスのシングルビームスペクトルSB(BG)、前記バックグラウンドガスの合成シングルビームスペクトルSSB(BG)、前記試料ガスのシングルビームスペクトルSB(Samp)、及び前記試料ガスの合成シングルビームスペクトルSSB(Samp)に基づき、次式で表される試料ガスのダブルシンセティック吸光度スペクトルDSAbsを算出し、
DSAbs=−log[SB(Samp) SSB(BG)/ SSB(Samp) SB(BG)] (1)
このダブルシンセティック吸光度スペクトルDSAbsを、微量成分の濃度がわかっているガスの吸光度スペクトルの前記測定波数領域における積分値と、当該微量成分の濃度との関係を規定するデータである検量線に適用して、前記試料ガス中の微量成分の濃度を求める方法である。
【0006】
この方法であれば、前記SB(Samp), SSB(BG), SSB(Samp), SB(BG)という4種類のシングルビームスペクトルを求めて、これらのシングルビームスペクトルから、試料ガスのダブルシンセティック吸光度スペクトルDSAbsを算出することができる。このダブルシンセティック吸光度スペクトルDSAbsは、試料ガスのシンセティック吸光度スペクトルSAbs
SAbs=−log[SB(Samp)/ SSB(Samp)] (2)
から、バックグラウンドガスのシンセティック吸光度スペクトル
−log SB(BG)/SSB(BG) (3)
を引いた形になっている。
【0007】
このバックグラウンドガスのシンセティック吸光度スペクトル(3)は、バックグラウンドガスの合成シングルビームスペクトルSSB(BG)をリファレンスとして表した、バックグラウンドガスのシングルビームスペクトルSB(BG)である。
一般にバックグラウンドガスは、ごくわずかであるが微量成分が入っている。このバックグラウンドガスの合成シングルビームスペクトル((3)式の分母)は、前記微量成分を省いたシングルビームスペクトルである。そこで、バックグラウンドガスのシングルビームスペクトルSB(BG)を、このバックグラウンドガスの合成シングルビームスペクトルSSB(BG)で割ることにより、微量成分を含むバックグラウンドガスのみの吸光度スペクトル(3)を得ることができる。
【0008】
そして、前記試料ガスのシンセティック吸光度スペクトルSAbs((2)式)から、このバックグラウンドガスのみの吸光度スペクトル((3)式)を割る、つまりそれらの対数どうしを引くことにより、ノイズやドリフトの低減された試料ガスの正確なダブルシンセティック吸光度スペクトルDSAbs((1)式)を得ることができる。
これにより、微量成分固有の吸光度スペクトルを知ることができるので、検量線を使って、その濃度を求めることができる。
【0009】
本発明のガス濃度の定量分析方法は、さらに試料ガスのノーマル吸光度スペクトルAbs を算出する手順を含んでいてもよい。
また、本発明のガス濃度の定量分析方法は、さらに試料ガスのシンセティック吸光度スペクトルSAbsを算出する手順を含んでいてもよい。
また、本発明のガス濃度の定量分析装置は、前記ガス濃度の定量分析方法の発明と実質同一発明にかかる装置である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態を、添付図面を参照しながら詳細に説明する。
図1は、試料ガスの定量分析を行うための定量分析装置を示す図である。
同図において、試料ガスの入った試料ガスボンベ11と、バックグラウンドガスの入ったガスボンベ13は、ガスの流量を調節するマスフローコントローラ12、開閉バルブ14を通して、ガスセル15のガス入口INにセットされる。試料ガスボンベ11、ガスボンベ13の切り替えはバルブで行う。
【0011】
一方、ガスセル15のガス出口OUTには調整バルブ16、負圧を作るバキュームジェネレータ17(圧力エジェクタでもよい)がつながれている。バキュームジェネレータ17には、空気又は窒素の高圧ガスボンベ25が接続されている。
ガスセル15は、図1に示すように、筒状の一定容積のセル室15aと、このセル室15aの両端面に設けられた光透過窓15b,15cとを含んでいる。セル室15aには、前記ガス入口IN及びガス出口OUTが設けられ、さらにセル室15a内の圧力を測定するための圧力トランスデューサ18につながるポートが設けられている。
【0012】
前記マスフローコントローラ12、調整バルブ16及び圧力トランスデューサ18は、圧力制御部19に接続されている。圧力制御部19は、圧力トランスデューサ18の圧力測定値に基づいて、試料ガス、バックグラウンドガスの流量と調整バルブ16の開閉度を調整することにより、ガスセル15内の圧力を所定の圧力に保つ。
前記光透過窓15b,15cは、例えば赤外線を透過させるサファイヤ透過窓である。
【0013】
前記ガスセル15は、所定温度に保ちやすいように、発泡スチロール等の断熱材(図示せず)で包囲されている。またガスセル15の全体は、赤外線光源G、干渉計S、赤外線検出器Dとともに、保温容器(図示せず)に収納されている。保温容器内は、ヒータ又はペルチェ素子などにより一定温度に保たれる。
符号Gは、赤外線光源Gを示す。赤外線発生の方式は、任意のものでよく、例えばセラミックスヒータ(表面温度450℃)等が使用可能である。なお、赤外線光源Gで発生した光を、一定周期でしゃ断しながら通過させる回転するチョッパ(図示せず)を付加してもよい。
【0014】
また、赤外線の波長を選択するための干渉計Sが設けられている。干渉計Sの構成は、凹面回折格子を用いた分光器など任意の構成を採用することができる。
赤外線光源Gから照射され、前記干渉計Sを通り、光透過窓15cを通してガスセル15に入った光は、前記光透過窓15bを通してガスセル15から出射され、赤外線検出器Dによって検出される。前記赤外線検出器Dは、DtGs検出器(重水素トリグリシンサルフェイト検出器)、InAs検出器又はCCD素子などからなる。
【0015】
赤外線検出器Dの検出信号は、吸光度スペクトル/濃度測定部20により解析される。この解析方法は後述する。
前記圧力制御部19、吸光度スペクトル/濃度測定部20の処理機能は、CD−ROMやハードディスクなど所定の媒体に記録されたプログラムを、パーソナルコンピュータが実行することにより実現される。また、吸光度スペクトル/濃度測定部20に接続されるメモリ20aは、ハードディスクなどの記録媒体内に作られた、書き込み可能な設定ファイルにより実現される。
【0016】
以上の定量分析装置において、ガスボンベ11,13に蓄えられた試料ガスやバックグラウンドガスは、ガスセル15の中に導かれる。
ガスセル15の中は、圧力トランスデューサ18により圧力測定されている。そしてこの圧力測定値が目標値になるように、前記圧力制御部19により、前記マスフローコントローラ12及び前記調整バルブ16の制御が行われる。このフィードバック制御によって、ガスセル15の中は、最終的に所望かつ一定の圧力に保たれる。
【0017】
この状態で、前記赤外線光源Gから光を照射し、前記干渉計Sをスペクトル走査させて、前記赤外線検出器Dによって、ガスセル15を透過した光の強度を読み取る。このようにして、ガスセル15に満たされた試料ガスやバックグラウンドガスのスペクトル光強度を測定することができる。
図2は、干渉計Sの内部構造を示す図である。干渉計Sとして、図示のようにマイケルソン干渉計を採用している。ここで、マイケルソン干渉計の測定原理を簡単に説明する。
【0018】
「干渉」とは2つの波が重なったとき、強め合ったり打ち消し合ったりする現象のことである。干渉計は光に対してこの干渉を発生させる光学装置である。一般に、光源から出た光を複数の光路に分け、 両者間に光路差を作って再び合成することにより干渉を起こさせる構造を持っている。
干渉計Sは、半透鏡(ビームスプリッターBS)と、1枚の固定された固定ミラーMfと1枚の移動可能な可動ミラーMmとで構成されている。ビームスプリッターBSは赤外線光源Gから入射した光の一部を透過し、残りを反射して光を2つに分割する役割を持つ。干渉計Sに入射した光束は、まずビームスプリッターBSで2つの光束に分割されて、分割された2つの光束は、それぞれ固定ミラーMf、可動ミラーMmで反射されて、ビームスプリッターBSに戻り、ビームスプリッターBSで再び合成される。2つの光束の光路差をxとする。
【0019】
さまざまな波数の混ざった光が干渉計Sに入射するとする。合成光の強度I(x)を光路差xの関数として表すと、
I(x)=∫B(ν)(1+cos 2πνx)dν (4)
となる(νは波数、積分はν=0から無限大まで、B(ν)は波数スペクトル)。この式(4)は直流分と交流分とからなっており、交流分を改めてI(x)とおくと、
I(x)=∫B(ν) cos 2πνx dν (5)
となる。
【0020】
この式(5)は「インターフェログラム」と呼ばれ、これをフーリエ変換することによって、波数スペクトルB(ν)が得られる。
B(ν)=∫I(x) cos 2πνx dx (6)
積分はx=マイナス無限大から無限大までとる。この波数スペクトルB(ν)を「シングルビームスペクトル」という。前記「無限大」の値はあまり大きくとらなくても、x=0付近の、I(x)の強度の高い部分だけとれば十分に正確なよいスペクトルが得られるので、実際には積分範囲をx=0から上限値x0までとれば十分である。上限値x0は例えば1cmとする。
【0021】
前記(6)式において積分計算するとき、xのポイント数を減らしてフーリエ変換することにより、分解能をわざと落としたスペクトルが得られる。このスペクトルを「合成シングルビームスペクトル」という。この合成シングルビームスペクトルは、微量成分(不純物)に基づく細かな凹凸が除去されたスペクトルとなる。
本発明のガス濃度の定量分析方法では、吸光度スペクトル/濃度測定部20において次の図3に示した手順に従ってデータ処理を行う。
【0022】
本発明の実施の形態では、まずバックグラウンドガスとして、微量成分(不純物)の測定波数領域に吸収を持たない窒素N2を選び、試料ガスとしてアンモニアガスを選ぶ。アンモニアガスには水が微量成分(不純物)として入っている。また、バックグラウンドガスである窒素ガスの中にも、ごくわずか(4N〜6Nのオーダー)であるが、水が微量成分(不純物)として入っている。このアンモニアガス中の水の濃度を定量する。
【0023】
なお、本発明の実施におけるガスの選定はこれらに限られるものではない。バックグラウンドガス、試料ガスとして他の種類のガスを選ぶことも可能である。例えばバックグラウンドガスとしてアルゴンガスのような赤外不活性ガス、試料ガスとしてHCl(塩化水素)などをあげることができる。
図3を参照して、まずユーザは、ガス濃度を定量するための解析メソッドを作成しメモリ20aに登録する(ステップS1)。この解析メソッドは、バックグラウンドガスと試料ガスのシングルビームスペクトルを使って解析する解析メソッド「通常モード」と、試料ガスのシングルビームスペクトルと合成シングルビームを使って解析する解析メソッド「シンセティック・モード」と、バックグラウンドガスと試料ガスのシングルビームスペクトルと合成シングルビームを使って解析する「ダブルシンセティック・モード」とがある。各解析メソッドを登録するときには、濃度既知のガスの吸光度スペクトルを測定した検量線データもそれぞれ設定し登録しておく。
【0024】
通常モードで解析するときは、バックグラウンドガスと試料ガスの種類を特定し、それらのガスのインターフェログラムを測定し、フーリエ変換してシングルビームスペクトルを求めてそれに基づき吸光度スペクトル(ノーマル吸光度スペクトルという)を算出する。
シンセティック・モードで解析するときは、試料ガス、バックグラウンドガスの種類を特定し、試料ガスのシングルビームスペクトルを求めてそれに基づきノーマル吸光度スペクトルを求め、試料ガスの合成シングルビームスペクトルを求めてそれに基づき吸光度スペクトル(シンセティック吸光度スペクトルという)を算出する。
【0025】
ダブルシンセティック・モードでは、試料ガス、バックグラウンドガスの種類を特定し、バックグラウンドガスのシングルビームスペクトルを求めてそれに基づきノーマル吸光度スペクトルを算出し、試料ガスのシングルビームスペクトルを求めてそれに基づきノーマル吸光度スペクトルを算出し、バックグラウンドガスの合成シングルビームスペクトルを求めてそれに基づきシンセティック吸光度スペクトルを算出し、試料ガスの合成シングルビームスペクトルを求めてそれに基づきシンセティック吸光度スペクトルを算出し、これらの吸光度スペクトルに基づきダブルシンセティック吸光度スペクトルを算出する。
【0026】
次に測定条件を設定する(ステップS2)。測定条件には、分解能、測定波数領域がある。分解能は、例えば0.5 cm-1〜 2cm-1の中から選定するが、合成シングルビームスペクトルを求めるときと、シングルビームスペクトルを求めるときで分解能が違うので、それぞれに対して分解能を設定する。合成シングルビームスペクトルのほうが、分解能は粗くなっている。測定波数領域は微量成分(不純物)の高いピークが存在する領域を1又は複数選定するが、複数選定するときは、測定感度の向上のために、微量成分(不純物)の高いピークが存在する領域から順に選定する。
【0027】
次に、保存するスペクトルの種類を設定する(ステップS3)。保存するスペクトルは、インターフェログラム、シングルビームスペクトル、ノーマル吸光度スペクトル、合成シングルビームスペクトル、シンセティック吸光度スペクトル、ダブルシンセティック吸光度スペクトルの中から1種類又は複数種類選ぶ。
次に、解析メソッドの選択をする(ステップS4)。解析メソッドには、前述した通常モード、シンセティック・モード、又はダブルシンセティック・モードの中から選択する。
【0028】
次に、選択された解析メソッドに従って測定・解析を行う(ステップS6〜S8)。この測定解析内容を、図4を参照しながら詳しく説明する。
図4は、ノーマル吸光度スペクトル、シンセティック吸光度スペクトル、及び本発明に特徴的なダブルシンセティック吸光度スペクトルの求め方を説明するための手順図である。
【0029】
通常モード測定・解析の場合、バックグラウンドガスのFTIR測定を行ってインターフェログラムを得(ステップT1)、シングルビームスペクトルSB(BG)を求める(ステップT2)。次に、試料ガスのFTIR測定を行ってインターフェログラムを得(ステップT4)、シングルビームスペクトルSB(Samp)を求める(ステップT5)。そしてこれらのシングルビームスペクトルを割り算してノーマル吸光度スペクトルAbsを求める(ステップT7)。
【0030】
Abs=−log SB(Samp)/SB(BG) (7)
このノーマル吸光度スペクトルは、バックグラウンドガスのシングルビームスペクトルをリファレンスとした、試料ガスのシングルビームスペクトルを表している。これにより、試料ガスに含まれる微量成分(不純物)ガスを定量測定する場合に、温度などの変動による妨害を取り除くことができる。
【0031】
シンセティック・モード測定・解析の場合、試料ガスのFTIR測定を行ってインターフェログラムを得(ステップT4)、シングルビームスペクトルSB(Samp)を求める(ステップT5)。次に、試料ガスのFTIR測定を行ってインターフェログラムを得、合成シングルビームスペクトルSSB(Samp)を求める(ステップT6)。そしてこれらのシングルビームスペクトルを割り算してシンセティック吸光度スペクトルSAbsを求める(ステップT8)。
【0032】
SAbs=−log SB(Samp)/SSB(Samp) (8)
このシンセティック吸光度スペクトルSAbsは、微量成分(不純物)を含む試料ガスに対して、その試料ガスの合成シングルビームスペクトルSSB(Samp)をリファレンスとした、その試料ガスのシングルビームスペクトルSB(Samp)を表している。合成シングルビームスペクトルSSB(Samp)は、前述したように、微量成分(不純物)に基づく細かな凹凸が除去されたスペクトルであり、バックグラウンドガスのシングルビームスペクトルと同じく、温度などの変動成分による妨害を取り除くという機能を持つ。これにより、バックグラウンドガスの測定をしなくても、微量成分(不純物)を含む試料ガスに対して、その微量成分(不純物)を含む正確な吸光度スペクトルを得ることができる。
【0033】
ダブルシンセティック・モード測定・解析の場合、バックグラウンドガスのインターフェログラムを得(ステップT1)、シングルビームスペクトルSB(BG)を求める(ステップT2)。次に、バックグラウンドガスのインターフェログラムに基づき、合成シングルビームスペクトルSSB(BG)を求める(ステップT3)。次に試料ガスのインターフェログラムを得(ステップT4)、シングルビームスペクトルSB(Samp)を求める(ステップT5)。次に、試料ガスのインターフェログラムに基づき、合成シングルビームスペクトルSSB(Samp)を求める(ステップT6)。
【0034】
そしてこれらのバックグラウンドガスのシングルビームスペクトルSB(BG)、バックグラウンドガスの合成シングルビームスペクトルSSB(BG)、試料ガスのシングルビームスペクトルSB(Samp)、試料ガスの合成シングルビームスペクトルSSB(Samp)に基づき、ダブルシンセティック吸光度スペクトルDSAbsを算出する(ステップT9)。
DSAbs=−log[SB(Samp) SSB(BG)/ SSB(Samp) SB(BG)]
=−[log SB(Samp)/SSB(Samp)−log SB(BG)/SSB(BG)] (9)
このダブルシンセティック吸光度スペクトルの関数形(9)を見ればわかるように、シンセティック吸光度スペクトルSAbs((8)式)から、バックグラウンドガスのシンセティック吸光度スペクトル
−log SB(BG)/SSB(BG) (10)
を引いた形になっている。
【0035】
このバックグラウンドガスのシンセティック吸光度スペクトル((10)式)は、バックグラウンドガスの合成シングルビームスペクトルSSB(BG)をリファレンスとして表した、バックグラウンドガスのシングルビームスペクトルSB(BG)である。
バックグラウンドガスは、前述したように、ごくわずか(4N〜6Nのオーダー)であるが微量成分(不純物)が入っている。このバックグラウンドガスの合成シングルビームスペクトルSSB(BG)を求めることにより、前記微量成分(不純物)を省いたシングルビームスペクトルが得られる。そして、バックグラウンドガスのシングルビームスペクトルSB(BG)を、このバックグラウンドガスの合成シングルビームスペクトルSSB(BG)で割ることにより、微量成分(不純物)を含まないバックグラウンドガスのみの吸光度スペクトル(10)式を得ることができる。
【0036】
そして、前記試料ガスのシンセティック吸光度スペクトルSAbs((8)式)から、このバックグラウンドガスのみの吸光度スペクトル((10)式)を割る、つまりそれらの対数どうしを引くことにより、ノイズの低減された試料ガスの正確なダブルシンセティック吸光度スペクトルDSAbs((9)式)を得ることができる。
これにより、微量成分(不純物)の吸光度スペクトルを知ることができる。
【0037】
次に、この微量成分(不純物)の吸光度スペクトルを、すでに同一温度、同一圧力などの条件下で作成した検量線に適用して、微量成分(不純物)の濃度を求める。
ここで検量線とは、測定波数領域における吸光度スペクトルの積分値とガス濃度との関係を規定するデータである。検量線は、微量成分濃度の分かっているガスと、その吸光度スペクトルとを用いて作成する。微量成分ガスの濃度を変えてみて、当該ガスの吸光度スペクトルを測定する。横軸を微量成分ガスの濃度にとり、縦軸を前記「測定波数領域における吸光度スペクトルの積分値」にとり、プロットし、最小自乗法などを用いて曲線形を決定する。この曲線形のデータを吸光度/濃度測定部20のメモリ20aに記憶しておく。
【0038】
以上のようにして、検量線を用いて、試料ガスに含まれる濃度が未知の微量成分(不純物)の濃度を定量的に求めることができる。
【実施例1】
【0039】
バックグラウンドガスとして窒素ガスを選び、試料ガスとしてアンモニアガスを選び、インターフェログラム、シングルビームスペクトル、合成シングルビームスペクトル、吸光度スペクトルの測定を行ったので、グラフ(図5〜図13)を用いて説明する。説明中の[A],[B]などは、図4中の符号に対応する。分解能はシングルビームスペクトルの場合2cm-1に、合成シングルビームスペクトルの場合8cm-1に選び、測定波数領域を3,000 cm-1(3.3μm)〜4,500cm-1(2.2μm)に選んだ。
【0040】
図5は、バックグラウンドガスのインターフェログラム[A]である。横軸にミラーMmの移動距離(単位:ポイント、この実施例では、1ポイントは1.25μmに相当する)を表している。ミラーMmは往復移動しているが、グラフでは、最大移動距離で折り返す前の「往き」と、折り返した後の「帰り」とを別々に描いている。光路差x=0のポイントを縦線で表している。
【0041】
図6は、試料ガスのインターフェログラム[B]である。図5と比べると、x=0のポイント付近で微量成分(不純物)である水の信号が現れている。
図7は、バックグラウンドガスのシングルビームスペクトル[C]を示す。これはバックグラウンドガスのインターフェログラム[A]をフーリエ変換処理したものである。
図8は、バックグラウンドガスの合成シングルビームスペクトル[D]を示す。バックグラウンドガスのインターフェログラム[A]に分解能を落としてフーリエ変換処理したものである。
【0042】
図9は、試料ガスのシングルビームスペクトル[E]を示す。試料ガスのインターフェログラム[B]にフーリエ変換処理したものである。
図10は、試料ガスの合成シングルビームスペクトル[F]を示す。試料ガスのインターフェログラム[B]に分解能を落としてフーリエ変換処理したものである。
図11は、試料ガスのノーマル吸光度スペクトルAbsのグラフである。このグラフは図7のグラフ[C]と、図9のグラフ[E]とから計算される。このグラフによれば、横軸に沿ってノーマル吸光度スペクトルAbsの平均値ないし直流成分が変動しておりドリフトが認められる。
【0043】
図12は、試料ガスのシンセティック吸光度スペクトルSAbsのグラフである。図9のグラフ[E]と、図10のグラフ[F]とから計算される。このグラフによれば、横軸に沿ってノーマル吸光度スペクトルAbsの平均値ないし直流成分が変動しておらず、ドリフトがなくなっている。
図13は、試料ガスのダブルシンセティック吸光度スペクトルDSAbsのグラフである。図7のグラフ[C]、図8のグラフ[D]、図9のグラフ[E]、図10のグラフ[F]から計算される。図12、 図13において、実際に解析に使用する波数領域は、3659 cm-1から3681cm-1付近である。この波数領域では、バックグラウンドガスで較正することによりノイズ低減が実現されている。
【実施例2】
【0044】
バックグラウンドガスとして窒素ガスを選び、試料ガスとして大気を選び、インターフェログラム、シングルビームスペクトル、合成シングルビームスペクトル、ノーマル吸光度スペクトルの測定を行ったので、グラフ(図14〜図22)を用いて説明する。説明中の[A],[B]などは、図4中の符号に対応する。分解能は、シングルビームスペクトル測定の場合2cm-1、合成シングルビームスペクトル測定の場合8cm-1に選び、測定波数領域を600 cm-1(3.3μm)〜4,500cm-1(2.2μm)に選んだ。
【0045】
図14は、バックグラウンドガスのインターフェログラム[A]である。横軸にミラーMmの移動距離(単位:ポイント、この実施例では1ポイントは1.25μmに相当する)を表している。ミラーMmは往復移動しているが、グラフでは、最大移動距離で折り返す前の「往き」と、折り返した後の「帰り」とを別々に描いている。光路差x=0のポイントを縦線で表している。
【0046】
図15は、試料ガスのインターフェログラム[B]である。
図16は、バックグラウンドガスのシングルビームスペクトル[C]を示す。これはバックグラウンドガスのインターフェログラム[A]にフーリエ変換処理したものである。1,500cm-1のあたりに、微量成分(不純物)である水や二酸化炭素のスペクトルが現れている。これは、バックグラウンドガスである窒素ガスの中にも、ごくわずか(4N〜6Nのオーダー)であるが、水や二酸化炭素が微量成分(不純物)として入っているからである。
【0047】
図17は、バックグラウンドガスの合成シングルビームスペクトル[D]を示す。バックグラウンドガスのインターフェログラム[A]に分解能を落としたフーリエ変換処理したものである。図16と比べると、微量成分(不純物)である水や二酸化炭素の信号が消滅している。
図18は、試料ガスのシングルビームスペクトル[E]を示す。試料ガスのインターフェログラム[B]にフーリエ変換処理したものである。フーリエ変換処理をすることにより、大気中の水分、CO2による吸収が現れている。
【0048】
図19は、試料ガスの合成シングルビームスペクトル[F]を示す。試料ガスのインターフェログラム[B]にポイント数を減らし、分解能を落としてフーリエ変換処理したものである。図18と比べると、微量成分(不純物)である水や二酸化炭素の信号(1,500cm-1のあたり)が消滅している。
図20は、試料ガスのノーマル吸光度スペクトルAbsのグラフである。図16のグラフ[C]と、図18のグラフ[E]とから計算される。このグラフによれば、横軸に沿ってノーマル吸光度スペクトルAbsの平均値ないし直流成分が変動しておりドリフトが顕著に認められる。
【0049】
図21は、試料ガスのシンセティック吸光度スペクトルSAbsのグラフである。図18のグラフ[E]と、図19のグラフ[F]と、から計算される。合成バックグラウンドを用いた吸収スペクトルである。図20と比べると、横軸に沿ってノーマル吸光度スペクトルAbsの平均値ないし直流成分が変動しておらず、ドリフトの影響が相殺されている。
図22は、試料ガスのダブルシンセティック吸光度スペクトルDSAbsのグラフである。図16のグラフ[C]、図17のグラフ[D]、図18のグラフ[E]、図19のグラフ[F]とから計算される。図21のグラフと比べると、バックグラウンドガスで較正することにより、ノイズ低減が実現されていることがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】試料ガスを測定するための定量分析装置を示す概略図である。
【図2】干渉計Sの内部構造を示す光路図である。
【図3】本発明のガス濃度の定量分析手順を示すフローチャートである。
【図4】ノーマル吸光度スペクトル、シンセティック吸光度スペクトル、及びダブルシンセティック吸光度スペクトルの算出方法を説明するための手順図である。
【図5】実施例1にかかるバックグラウンドガスのインターフェログラム[A]を示すグラフである。
【図6】実施例1にかかる試料ガスのインターフェログラム[B]を示すグラフである。
【図7】実施例1にかかるバックグラウンドガスのシングルビームスペクトル[C] を示すグラフである。
【図8】実施例1にかかるバックグラウンドガスの合成シングルビームスペクトル[D]を示すグラフである。
【図9】実施例1にかかる試料ガスのシングルビームスペクトル[E]を示すグラフである。
【図10】実施例1にかかる試料ガスの合成シングルビームスペクトル[F]を示すグラフである。
【図11】実施例1にかかる試料ガスのノーマル吸光度スペクトルのグラフである。
【図12】実施例1にかかる試料ガスのシンセティック吸光度スペクトルのグラフである。
【図13】実施例1にかかる試料ガスのダブルシンセティック吸光度スペクトルのグラフである。
【図14】実施例2にかかるバックグラウンドガスのインターフェログラム[A]を示すグラフである。
【図15】実施例2にかかる試料ガスのインターフェログラム[B]を示すグラフである。
【図16】実施例2にかかるバックグラウンドガスのシングルビームスペクトル[C]を示すグラフである。
【図17】実施例2にかかるバックグラウンドガスの合成シングルビームスペクトル[D]を示すグラフである。
【図18】実施例2にかかる試料ガスのシングルビームスペクトル[E]を示すグラフである。
【図19】実施例2にかかる試料ガスの合成シングルビームスペクトル[F]を示すグラフである。
【図20】実施例2にかかる試料ガスのノーマル吸光度スペクトルを示すグラフである。
【図21】実施例2にかかる試料ガスのシンセティック吸光度スペクトルのグラフである。
【図22】実施例2にかかる試料ガスのダブルシンセティック吸光度スペクトルのグラフである。
【符号の説明】
【0051】
11 試料ボンベ
12 マスフローコントローラ
13 ボンベ
14 開閉バルブ
15 ガスセル
16 調整バルブ
17 バキュームジェネレータ
18 圧力トランスデューサ
19 圧力制御部
20 吸光度スペクトル/濃度測定部
20a メモリ
25 高圧ガスボンベ
G 赤外線光源
S 干渉計
D 赤外線検出器
【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料ガス中の濃度が未知の微量成分の濃度を、FTIR(フーリエ変換赤外分光光度計)を用いて定量的に求める方法であって、
試料ガスと、その試料ガスの測定波数領域を特定し、
前記測定波数領域に吸収を持たないバックグラウンドガスを特定し、
前記バックグラウンドガスのFTIR測定を行ってシングルビームスペクトルSB(BG)と合成シングルビームスペクトルSSB(BG)とを求め、
前記試料ガスのFTIR測定を行ってシングルビームスペクトルSB(Samp)と合成シングルビームスペクトルSSB(Samp)とを求め、
前記バックグラウンドガスのシングルビームスペクトルSB(BG)、前記バックグラウンドガスの合成シングルビームスペクトルSSB(BG)、前記試料ガスのシングルビームスペクトルSB(Samp)、及び前記試料ガスの合成シングルビームスペクトルSSB(Samp)に基づき、次式で表される試料ガスのダブルシンセティック吸光度スペクトルDSAbsを算出し、
DSAbs=−log[SB(Samp) SSB(BG)/ SSB(Samp) SB(BG)]
このダブルシンセティック吸光度スペクトルを、微量成分の濃度がわかっているガスの吸光度スペクトルの前記測定波数領域における積分値と、当該微量成分の濃度との関係を規定するデータである検量線に適用して、前記試料ガス中の微量成分の濃度を求めることを特徴とする、ガス濃度の定量分析方法。
【請求項2】
前記試料ガスのシングルビームスペクトルSB(Samp)、及び前記バックグラウンドガスのシングルビームスペクトルSB(BG)に基づき、次式で表される試料ガスのノーマル吸光度スペクトルAbs を算出し、
Abs=−log SB(Samp)/SB(BG)
このノーマル吸光度スペクトルを、微量成分の濃度がわかっているガスの吸光度スペクトルの前記測定波数領域における積分値と、当該微量成分の濃度との関係を規定するデータである検量線に適用して、前記試料ガス中の微量成分の濃度を求める工程をさらに含む、請求項1記載のガス濃度の定量分析方法。
【請求項3】
前記試料ガスのシングルビームスペクトルSB(Samp)、及び前記試料ガスの合成シングルビームスペクトルSSB(Samp)に基づき、次式で表される試料ガスのシンセティック吸光度スペクトルSAbsを算出し、
SAbs=−log SB(Samp)/SSB(Samp)
このシンセティック吸光度スペクトルを、微量成分の濃度がわかっているガスの吸光度スペクトルの前記測定波数領域における積分値と、当該微量成分の濃度との関係を規定するデータである検量線に適用して、前記試料ガス中の微量成分の濃度を求めることを特徴とする、請求項1記載のガス濃度の定量分析方法。
【請求項4】
前記試料ガスのシングルビームスペクトルSB(Samp)、及び前記バックグラウンドガスのシングルビームスペクトルSB(BG)に基づき、次式で表される試料ガスのノーマル吸光度スペクトルAbs を算出し、
Abs=−log SB(Samp)/SB(BG)
このノーマル吸光度スペクトルを、微量成分の濃度がわかっているガスの吸光度スペクトルの前記測定波数領域における積分値と、当該微量成分の濃度との関係を規定するデータである検量線に適用して、前記試料ガス中の微量成分の濃度を求める工程と、
前記試料ガスのシングルビームスペクトルSB(Samp)、及び前記試料ガスの合成シングルビームスペクトルSSB(Samp)に基づき、次式で表される試料ガスのシンセティック吸光度スペクトルSAbsを算出し、
SAbs=−log SB(Samp)/SSB(Samp)
このシンセティック吸光度スペクトルを、微量成分の濃度がわかっているガスの吸光度スペクトルの前記測定波数領域における積分値と、当該微量成分の濃度との関係を規定するデータである検量線に適用して、前記試料ガス中の微量成分の濃度を求める工程とをさらに含む、請求項1記載のガス濃度の定量分析方法。
【請求項5】
試料ガス中の濃度が未知の微量成分の濃度を、FTIRを用いて定量的に求める装置であって、
FTIR測定装置と、
試料ガスと、その試料ガスの測定波数領域を特定する手段と、
前記測定波数領域に吸収を持たないバックグラウンドガスを特定する手段と、
前記バックグラウンドガスのFTIR測定を行って、シングルビームスペクトルSB(BG)と合成シングルビームスペクトルSSB(BG)とを求める手段と、
前記試料ガスのFTIR測定を行ってシングルビームスペクトルSB(Samp)と合成シングルビームスペクトルSSB(Samp)とを求める手段と、
前記バックグラウンドガスのシングルビームスペクトルSB(BG)、前記バックグラウンドガスの合成シングルビームスペクトルSSB(BG)、前記試料ガスのシングルビームスペクトルSB(Samp)、及び前記試料ガスの合成シングルビームスペクトルSSB(Samp)に基づき、次式で表される試料ガスのダブルシンセティック吸光度スペクトルDSAbsを算出する手段と、
DSAbs=−log[SB(Samp) SSB(BG)/ SSB(Samp) SB(BG)]
このダブルシンセティック吸光度スペクトルを、微量成分の濃度がわかっているガスの吸光度スペクトルの前記測定波数領域における積分値と、当該微量成分の濃度との関係を規定するデータである検量線に適用して、前記試料ガス中の微量成分の濃度を求める手段とを備えることを特徴とする、ガス濃度の定量分析装置。
【請求項1】
試料ガス中の濃度が未知の微量成分の濃度を、FTIR(フーリエ変換赤外分光光度計)を用いて定量的に求める方法であって、
試料ガスと、その試料ガスの測定波数領域を特定し、
前記測定波数領域に吸収を持たないバックグラウンドガスを特定し、
前記バックグラウンドガスのFTIR測定を行ってシングルビームスペクトルSB(BG)と合成シングルビームスペクトルSSB(BG)とを求め、
前記試料ガスのFTIR測定を行ってシングルビームスペクトルSB(Samp)と合成シングルビームスペクトルSSB(Samp)とを求め、
前記バックグラウンドガスのシングルビームスペクトルSB(BG)、前記バックグラウンドガスの合成シングルビームスペクトルSSB(BG)、前記試料ガスのシングルビームスペクトルSB(Samp)、及び前記試料ガスの合成シングルビームスペクトルSSB(Samp)に基づき、次式で表される試料ガスのダブルシンセティック吸光度スペクトルDSAbsを算出し、
DSAbs=−log[SB(Samp) SSB(BG)/ SSB(Samp) SB(BG)]
このダブルシンセティック吸光度スペクトルを、微量成分の濃度がわかっているガスの吸光度スペクトルの前記測定波数領域における積分値と、当該微量成分の濃度との関係を規定するデータである検量線に適用して、前記試料ガス中の微量成分の濃度を求めることを特徴とする、ガス濃度の定量分析方法。
【請求項2】
前記試料ガスのシングルビームスペクトルSB(Samp)、及び前記バックグラウンドガスのシングルビームスペクトルSB(BG)に基づき、次式で表される試料ガスのノーマル吸光度スペクトルAbs を算出し、
Abs=−log SB(Samp)/SB(BG)
このノーマル吸光度スペクトルを、微量成分の濃度がわかっているガスの吸光度スペクトルの前記測定波数領域における積分値と、当該微量成分の濃度との関係を規定するデータである検量線に適用して、前記試料ガス中の微量成分の濃度を求める工程をさらに含む、請求項1記載のガス濃度の定量分析方法。
【請求項3】
前記試料ガスのシングルビームスペクトルSB(Samp)、及び前記試料ガスの合成シングルビームスペクトルSSB(Samp)に基づき、次式で表される試料ガスのシンセティック吸光度スペクトルSAbsを算出し、
SAbs=−log SB(Samp)/SSB(Samp)
このシンセティック吸光度スペクトルを、微量成分の濃度がわかっているガスの吸光度スペクトルの前記測定波数領域における積分値と、当該微量成分の濃度との関係を規定するデータである検量線に適用して、前記試料ガス中の微量成分の濃度を求めることを特徴とする、請求項1記載のガス濃度の定量分析方法。
【請求項4】
前記試料ガスのシングルビームスペクトルSB(Samp)、及び前記バックグラウンドガスのシングルビームスペクトルSB(BG)に基づき、次式で表される試料ガスのノーマル吸光度スペクトルAbs を算出し、
Abs=−log SB(Samp)/SB(BG)
このノーマル吸光度スペクトルを、微量成分の濃度がわかっているガスの吸光度スペクトルの前記測定波数領域における積分値と、当該微量成分の濃度との関係を規定するデータである検量線に適用して、前記試料ガス中の微量成分の濃度を求める工程と、
前記試料ガスのシングルビームスペクトルSB(Samp)、及び前記試料ガスの合成シングルビームスペクトルSSB(Samp)に基づき、次式で表される試料ガスのシンセティック吸光度スペクトルSAbsを算出し、
SAbs=−log SB(Samp)/SSB(Samp)
このシンセティック吸光度スペクトルを、微量成分の濃度がわかっているガスの吸光度スペクトルの前記測定波数領域における積分値と、当該微量成分の濃度との関係を規定するデータである検量線に適用して、前記試料ガス中の微量成分の濃度を求める工程とをさらに含む、請求項1記載のガス濃度の定量分析方法。
【請求項5】
試料ガス中の濃度が未知の微量成分の濃度を、FTIRを用いて定量的に求める装置であって、
FTIR測定装置と、
試料ガスと、その試料ガスの測定波数領域を特定する手段と、
前記測定波数領域に吸収を持たないバックグラウンドガスを特定する手段と、
前記バックグラウンドガスのFTIR測定を行って、シングルビームスペクトルSB(BG)と合成シングルビームスペクトルSSB(BG)とを求める手段と、
前記試料ガスのFTIR測定を行ってシングルビームスペクトルSB(Samp)と合成シングルビームスペクトルSSB(Samp)とを求める手段と、
前記バックグラウンドガスのシングルビームスペクトルSB(BG)、前記バックグラウンドガスの合成シングルビームスペクトルSSB(BG)、前記試料ガスのシングルビームスペクトルSB(Samp)、及び前記試料ガスの合成シングルビームスペクトルSSB(Samp)に基づき、次式で表される試料ガスのダブルシンセティック吸光度スペクトルDSAbsを算出する手段と、
DSAbs=−log[SB(Samp) SSB(BG)/ SSB(Samp) SB(BG)]
このダブルシンセティック吸光度スペクトルを、微量成分の濃度がわかっているガスの吸光度スペクトルの前記測定波数領域における積分値と、当該微量成分の濃度との関係を規定するデータである検量線に適用して、前記試料ガス中の微量成分の濃度を求める手段とを備えることを特徴とする、ガス濃度の定量分析装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【公開番号】特開2008−232820(P2008−232820A)
【公開日】平成20年10月2日(2008.10.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−72738(P2007−72738)
【出願日】平成19年3月20日(2007.3.20)
【出願人】(000206967)大塚電子株式会社 (50)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年10月2日(2008.10.2)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年3月20日(2007.3.20)
【出願人】(000206967)大塚電子株式会社 (50)
【Fターム(参考)】
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