ガス発生器およびプリテンショナ装置の駆動用ユニット
【課題】 作動時に発生する、ハウジングの一部を構成するカップ部材の破断片の大型化が可能で、かつその破断片の数を少なく抑えることが可能なガス発生器を提供する。
【解決手段】 ガス発生器1Aは、いわゆる横噴き型のガス発生器であり、イグナイタ10と、ホルダ20と、ACカップ40とを備える。イグナイタ10、ホルダ20およびACカップ40によって形成されるガス発生剤収容室には、イグナイタ10によって点火されて燃焼することによりガスを発生させるガス発生剤50が収容されている。ACカップ40は、側板部41および底板部42を有する有底筒状の部材からなり、ACカップ40の側板部41と底板部42との境界部を一部に含むように、スコア46が上記境界部を基端として底板部42の外表面に設けられている。
【解決手段】 ガス発生器1Aは、いわゆる横噴き型のガス発生器であり、イグナイタ10と、ホルダ20と、ACカップ40とを備える。イグナイタ10、ホルダ20およびACカップ40によって形成されるガス発生剤収容室には、イグナイタ10によって点火されて燃焼することによりガスを発生させるガス発生剤50が収容されている。ACカップ40は、側板部41および底板部42を有する有底筒状の部材からなり、ACカップ40の側板部41と底板部42との境界部を一部に含むように、スコア46が上記境界部を基端として底板部42の外表面に設けられている。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガス発生剤を燃焼させることによってガスを発生させるガス発生器およびこれを備えたプリテンショナ装置の駆動用ユニットに関し、特に、プリテンショナ装置の駆動用ユニットに組み込まれる際に一対の板状部材によって挟持されて固定される、いわゆる横噴き型のガス発生器およびこれを備えたプリテンショナ装置の駆動用ユニットに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車の乗員の保護の観点からシートベルト装置やエアバッグ装置が普及している。このうち、シートベルト装置は、車両衝突時に生じる衝撃により乗員が車内または車外に投げ出されることを防止する目的で装備されるものであり、乗員の身体にベルトを巻き付けることによって乗員を座席に拘束・固定するものである。
【0003】
近年においては、乗員保護機能の向上のためにプリテンショナ機能を備えたシートベルト装置が急速に普及している。このプリテンショナ機能とは、衣服の厚み等によって生じるシートベルトの弛みを衝突時あるいは衝突の直前において瞬時に巻き上げるものであり、乗員の拘束効果を高めるものである。このプリテンショナ機能は、マイクロガスジェネレータと称されるガス発生器から出力されるガス圧によってシートベルトが強く引き込まれることによって実現される。
【0004】
このガス発生器が組付けられるプリテンショナ装置の駆動用ユニットとしては、種々の機構のものが知られている。そのうちの一つに、シートベルトの引き込みを行なうシャフトに連結された金属製のベルトを環状に巻き回し、この環状に巻き回された金属製のベルトの中空部分を塞ぐように一対の板状部材によって金属製のベルトを挟み込み、さらに金属製のベルトと一対の板状部材とによって規定される作動空間内にガス発生器を配置した構成のプリテンショナ装置の駆動用ユニットが知られている(特開2001−213278号公報(特許文献1)参照)。この種のプリテンショナ装置の駆動用ユニットにおいては、作動空間がガス発生器の側方に位置しているため、ガスの導出方向が横向きである、いわゆる横噴き型のガス発生器が利用される。
【0005】
上記特許文献1に開示のプリテンショナ装置の駆動用ユニットにおいては、ガス発生器から出力されるガスによって金属製のベルトと一対の板状部材とによって規定される作動空間内の圧力が上昇し、金属製のベルトが外側に押し広げられることによってシャフトが所定量回転してシートベルトの引き込みが行なわれる。
【特許文献1】特開2001−213278号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述の特許文献1に開示のプリテンショナ装置の駆動用ユニットにあっては、ガス発生器のカップ部材の側板部に予め孔が設けられており、ガス発生器の作動時において、この孔からガスが作動空間に導入されるように構成されている。これに対し、本発明者らの考案した横噴き型のガス発生器を備えたプリテンショナ装置の駆動用ユニットにおいては、ガス発生器の作動時において、ガス圧によってガス発生器の外殻であるハウジングの一部を構成する有底筒状のカップ部材の側面に亀裂が生じ、この亀裂が成長してカップ部材が開口することによって作動空間にガスが導入される構成としている。このような構成のガス発生器において所定の出力を安定的に得るためには、カップ部材が確実に所定の圧力で開口することが必要である。そのため、ガス発生器のカップ部材には、プレス加工等によって薄肉部(スコアと称される)が形成されることが一般的に行なわれており、通常はガスの導出方向に位置するカップ部材の表面にスコアが形成される。
【0007】
たとえば、図11に示す本発明者らの考案した横噴き型のガス発生器1Hにおいては、ガスの導出方向に位置するハウジングの表面である、アクチュエーティングチャージカップ(ACカップ)40の側板部41の上下方向の略中央部に、上下方向に延びるスコア49が平行に複数個(通常は1個〜10数個程度)設けられている。また、図示は省略するが、通常、縦噴き型のガス発生器においては、ACカップの天板部に中央から径方向に延びるスコアが複数個設けられる。
【0008】
これにより、ACカップ40内のガス圧が所定の圧力に達した時点で、ACカップ40のスコア49形成箇所を基点にACカップ40が開口することにより、作動空間にガスの供給が行なわれるようになる。その結果、安定したシートベルトの引き込みが実現されるようになる。
【0009】
しかしながら、横噴き型のガス発生器の側板部の略中央部にスコアを設けた場合には、ACカップが細かい破断片に分断され、分断した破断片が上記作動空間内に多数飛散する現象が生じる。細かく分断された破断片が上記作動空間に散らばった場合には、破断片が金属製のベルトと一対の板状部材との間に挟まるおそれがあるため、シートベルトの引き込み性能に影響を与えることが懸念される。したがって、プリテンショナ装置の駆動用ユニットにおいては、ガス発生器の作動の際に生じるハウジングの破断片を可能な限り大型化し、破断片の数を少なくすることが好ましい。
【0010】
したがって、本発明は、上述の問題点を解決すべくなされたものであり、作動時に発生する、ハウジングの一部を構成するカップ部材の破断片の大型化が可能で、かつその破断片の数を少なく抑えることが可能なガス発生器を提供することにより、所望のシートベルトの引き込み性能が安定して得られるプリテンショナ装置の駆動用ユニットの実現を図ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に基づくガス発生器は、点火器とハウジングとを備え、略平行に配置される一対の板状部材にて上記ハウジングが上下方向から挟み込まれて固定される、いわゆる横噴き型のガス発生器であり、上記ハウジングの内部に形成されたガス発生剤収容室に収容されたガス発生剤が、上記点火器によって点火され、燃焼することによってガスが発生するものである。本発明に基づくガス発生器においては、上記ハウジングが、上記点火器を保持するベース部材と、上記ベース部材に取付けられ、上記ガス発生剤収容室を形成する側板部および底板部を含む有底筒状のカップ部材とを有している。そして、上記カップ部材の上記側板部と上記底板部との境界部を一部に含むように、上記カップ部材の表面にスコアが設けられている。
【0012】
このように、カップ部材の側板部と底板部との境界部を一部に含むようにカップ部材の表面にスコアを設けることにより、ガス発生器の作動時において、スコアの端部から側板部に向かって亀裂が発生し、脆弱な側板部と底板部との境界部の延在方向に亀裂が発生することが抑制されるようになる。そのため、破断片を大型化することが可能になり、結果として破断片の数も少なく抑えることが可能になる。なお、ここで言うカップ部材の表面には、有底筒状のカップ部材の外側の主面である外表面と内側の主面である内表面とが含まれ、スコアはカップ部材の外表面に設けられていてもよいし、内表面に設けられていてもよい。
【0013】
上記本発明に基づくガス発生器にあっては、上記スコアが上記境界部を基端として上記底板部に設けられていることが好ましい。また、上記本発明に基づくガス発生器にあっては、上記スコアが上記境界部を基端として上記側板部に設けられていることが好ましい。さらに、上記本発明に基づくガス発生器にあっては、上記スコアが上記境界部を跨ぎ、上記側板部から上記底板部に達すように設けられていることが好ましい。
【0014】
このように構成することにより、ガス発生器の作動時における亀裂の発生方向を意図的に側板部および底板部に向けることが可能になるため、脆弱な側板部と底板部との境界部に亀裂が発生することを抑制することが可能となり、破断片の大型化と破断片の数の低減とが実現されるようになる。また、スコアの形成もカップ形状の成形と同時にプレス加工で行なえるため、製造工程が煩雑化する心配もない。
【0015】
本発明に基づくプリテンショナ装置の駆動用ユニットは、互いの主面が向き合うように略平行に対向配置された一対の板状部材と、上記一対の板状部材によって挟持されたガス発生器と、上記一対の板状部材の間に位置し、上記ガス発生器を取り囲むように巻き回された駆動用の帯状部材とを備える。上記ガス発生器は、点火器と、上記点火器によって点火され、燃焼することによってガスを発生させるガス発生剤が収容されたガス発生剤収容室を内部に含み、かつ上記一対の板状部材にて上下方向から挟持されることによって固定されたハウジングとを備える。本発明に基づくプリテンショナ装置の駆動用ユニットに組み付けられる上記ガス発生器にあっては、上記ハウジングが、上記点火器を保持するベース部材と、上記ベース部材に取付けられ、上記ガス発生剤収容室を形成する側板部および底板部を含む有底筒状のカップ部材とを有しており、上記側板部と上記底板部との境界部を一部に含むように上記カップ部材の表面にスコアが設けられている。
【0016】
このように、カップ部材の側板部と底板部との境界部を一部に含むようにカップ部材の表面にスコアが設けられたガス発生器をプリテンショナ装置の駆動用ユニットに組み込むことにより、ガス発生器の作動時において発生する破断片が大型化し、かつ破断片の数も少なくなるため、所望のシートベルトの引き込み性能が安定して得られるプリテンショナ装置の駆動用ユニットとすることができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、作動時に発生する、ハウジングの一部を構成するカップ部材の破断片の大型化が可能で、かつその破断片の数を少なく抑えることが可能なガス発生器とすることができる。また、このガス発生器をプリテンショナ装置の駆動用ユニットに組み込むことにより、所望のシートベルトの引き込み性能が安定して得られるプリテンショナ装置の駆動用ユニットとすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態について、図を参照して詳細に説明する。
【0019】
(実施の形態1)
図1(A)は、本発明の実施の形態1におけるガス発生器の模式断面図であり、図1(B)は、本発明の実施の形態1におけるガス発生器の平面図である。ここで、図1(A)に示す模式断面図は、図1(B)中におけるIA−IA線に沿ってガス発生器を切断した場合の模式断面図である。
【0020】
図1(A)に示すように、本実施の形態におけるガス発生器1Aは、点火器としてのイグナイタ(スクイブ)10と、ハウジングの一部を構成するベース部材としてのホルダ20と、ハウジングの残りの部分を構成するカップ部材としてのアクチュエーティングチャージカップ(ACカップ)40と、ハウジング内部の所定領域に収容されるガス発生剤50とを主に備えている。
【0021】
イグナイタ10は、火炎を発生させるための点火装置であり、内部に図示しない点火薬と点火薬を燃焼させるための図示しない抵抗体とを含んでいる。より具体的には、イグナイタ10は、一対のヘッダピン13,14を挿通・保持する基部11と、基部11上に取付けられたスクイブカップ12とを備えており、スクイブカップ12内に挿入されたヘッダピン13,14の先端を連結するように抵抗体(ブリッジワイヤ)が取付けられている。この抵抗体を取り囲むようにまたはこの抵抗体に接するようにスクイブカップ12内に点火薬が充填されている。抵抗体としては一般にニクロム線等が利用され、点火薬としては一般にZPP(ジルコニウム・過塩素酸カリウム)、ZWPP(ジルコニウム・タングステン・過塩素酸カリウム)、トリシネート等が利用される。スクイブカップ12は、一般に金属製またはプラスチック製である。なお、スクイブカップ12内には、点火薬のみならずこれに加えて伝火薬が充填されていてもよい。
【0022】
衝突を検知した際には、ヘッダピン13,14を介して抵抗体に所定量の電流が流れる。抵抗体に所定量の電流が流れることにより、抵抗体においてジュール熱が発生し、点火薬が燃焼を開始する。燃焼により生じた高温の火炎(ガスおよび粒子)は、点火薬を収納しているスクイブカップ12を破裂させ、ガス発生剤50を点火する。抵抗体に電流が流れてから点火装置が作動するまでの時間は、抵抗体にニクロム線を利用した場合には2ミリ秒以下である。
【0023】
上述のイグナイタ10は、ホルダ20によって保持されている。ホルダ20は中空略円筒状の部材からなり、たとえばアルミニウム合金等を用いた成型品にて構成される。ホルダ20は、イグナイタ10の基部11を上下方向から挟持して保持する保持部21,22と、ACカップ40との連結部であるフランジ部23とを含む。ホルダ20の保持部21とイグナイタ10の基部11との間には、Oリング61が介在されている。このOリング61は、イグナイタ10の基部11を上述のホルダ20の保持部21,22とによってかしめ固定する際に、これらの間に生じる隙間を気密に封止するためのものであり、ガス発生剤収容室を気密封止するための部材である。Oリング61としては、十分な耐熱性および耐久性の材料からなるものを利用することが好ましく、たとえばエチレンプロピレンゴムの一種であるEPDM樹脂製のOリング等が好適である。なお、別途この部分にシール剤を塗布しておけば、さらに気密性能は向上する。
【0024】
ホルダ20のフランジ部23には、ACカップ40が取付けられる。ACカップ40は、有底円筒状の部材からなり、ホルダ20に保持されたイグナイタ10を覆うようにホルダ20のフランジ部23に取付けられる。より具体的には、ACカップ40は側板部41と底板部42とを備えており、ホルダ20のフランジ部23およびイグナイタ10のスクイブカップ12との間にガス発生剤50が収容されるガス発生剤収容室を区画形成する。
【0025】
ACカップ40の側板部41の下端には鍔部43が形成されており、ホルダ20のフランジ部23とかしめ部24とによってこの鍔部43がかしめ固定されている。ホルダ20のフランジ部23とACカップ40の鍔部43との間には、シール剤62が塗布されている。このシール剤62は必須のものではないが、ホルダ20のフランジ部23とACカップ40の鍔部43との間を確実に気密封止するために必要に応じて塗布される。シール剤62としては、透湿性の低い耐久性に優れた材料の利用が好ましく、たとえばシリコン系シール剤を利用することが好ましい。また、溶剤に固形成分を溶解させたシール剤を利用する場合には、シール剤の塗布乾燥後にハウジングのかしめ固定を行なうとよい。
【0026】
ACカップ40、ホルダ20およびイグナイタ10によって区画形成されるガス発生剤収容室内には、ガス発生剤50が収容されている。ガス発生剤50は、イグナイタ10のスクイブカップ12から導入される高温の火炎によって着火、燃焼する。このガス発生剤50の燃焼ガスの圧力により、ACカップ40が開口し、ガス発生器1Aから外部にガス発生剤50およびその燃焼生成物が導出される。
【0027】
所望の出力のガス発生器を得るためには、ACカップ40が確実に所定の圧力で開口することが必要である。このため、図1(A)および図1(B)に示すように、ACカップ40の所定の位置には、スコア(窪み)46が形成されている。このスコア46の形成箇所や形状、形成方法等については、後述することとする。
【0028】
また、ACカップ40の底板部42には、突起部45が設けられている。この突起部45は、後述するプリテンショナ装置の駆動用ユニットにガス発生器1Aが組み付けられる際に、自身が変形することにより、ガス発生器1Aの外形寸法とプリテンショナ装置の駆動用ユニットを構成する一対の板状部材間の寸法との間に生じる寸法誤差を吸収し、組付け後において、一対の板状部材のクリアランスを所望の大きさに調整するとともに、一対の板状部材によるガス発生器の固定を確実にするためのものである。この突起部45は、たとえばプレス加工等によって成形される。
【0029】
ガス発生剤収容室内に収容されたガス発生剤50は、上述のように、イグナイタ10から供給される火炎により着火し、燃焼により生じるガスとともにガス発生器1Aの外部へと導出される。ガス発生剤50としては、無煙火薬(ニトロセルロース)の成型体や有機窒素化合物と酸化剤からなるコンポジット系組成物の成型体などが用いられる。特に、近年においては、一酸化炭素などの有害成分の生成量が極めて少ない非ニトロセルロース系ガス発生剤が、シートベルト装置のプリテンショナ用のガス発生剤として利用されるようになっている。
【0030】
ガス発生剤50の成型体の形状には、顆粒状、ペレット状、円柱状、ディスク状など様々な形状のものが利用される。また、成型体内部に孔を有する有孔状(たとえば、単孔筒形状や多孔筒形状等)の成型体も利用される。これらの形状は、ガス発生器が組み付けられるプリテンショナ装置の駆動用ユニットの仕様に応じて適宜選択されることが好ましく、たとえばガス発生剤の燃焼時においてガスの生成速度が変化するような形状を選択するなど最適な形状が選択される。また、ガス発生剤の形状の他にも、ガス発生剤の線燃焼速度、圧力指数などを考慮に入れて成型体のサイズが適宜選択される。なお、ガス発生剤の充填量は、組み付けられるユニットの仕様に応じて適宜変更されるが、無煙火薬を使用した場合には、通常0.2グラム〜2.0グラム程度とされる。
【0031】
図2は、本発明の実施の形態1におけるプリテンショナ装置の駆動用ユニットの模式断面図である。本実施の形態におけるプリテンショナ装置の駆動用ユニットは、上述の構成を有するガス発生器1Aをガス発生源として具備している。
【0032】
図2に示すように、本実施の形態におけるプリテンショナ装置の駆動用ユニットは、一対の板状部材71,72と、この一対の板状部材71,72によって挟持されたガス発生器1Aと、一対の板状部材71,72の間に位置し、ガス発生器1Aを取り囲むように巻き回された駆動用の帯状部材である金属製のベルト73とを備えている。一対の板状部材71,72は、互いの主面が向き合うように略平行に対向配置されており、金属製のベルト73の上端および下端は、これら一対の板状部材71,72にそれぞれ当接している。これにより、一対の板状部材71,72および金属製のベルト73によって作動空間74が規定されている。
【0033】
この作動空間74内においては、ガス発生器1Aのハウジングが上下方向から一対の板状部材71,72によって挟持されることによって固定されている。これにより、作動時においてガス発生器1Aから導出される高圧のガスは、ガス発生器1Aの側方に位置する作動空間74内に導入され、作動空間74内のガス圧の変動によって金属製のベルト73が外側に押し広げられることになる。金属製のベルト73は、図示しないシートベルトプリテンショナ装置のシャフトに連結されており、金属製のベルトによってシャフトが所定量回転することにより、シートベルトの引き込みが行なわれる。
【0034】
図1(A)および図1(B)に示すように、本実施の形態におけるガス発生器1Aにおいては、ACカップ40の側板部41と底板部42との境界部(すなわち、底板部42の周縁に位置する湾曲部)を一部に含むように、スコア46が底板部42の外表面に設けられている。図示するガス発生器1Aにおいては、スコア46が底板部42の周縁に沿って均等に3個設けられている。個々のスコア46は、側板部41と底板部42との境界部を基端に底板部42の中心部に向かって直線状に延びている。このスコア46は、ACカップ40をプレス加工したり、あるいは研削加工すること等によって形成される。
【0035】
上述のように、スコア46は、所望の出力のガス発生器を得るために確実に所定の圧力でACカップ40が開口するように、ACカップ40の表面に設けられるものである。したがって、スコア46が形成されたACカップ40の残厚は、所定の圧力で開口するように最適な厚みに調整される。たとえば、ACカップ40をアルミニウム合金にて形成し、スコア46を図示する如くの形状とした場合には、好ましくはスコア46部分におけるACカップ40の残厚を0.3mm程度に設定する。このように設定した場合には、ガス発生器1Aの他の部分の形状やガス発生剤50の材質および充填量等によっても当然に左右されるが、ハウジングが上下方向から規制された状態で好適な内圧である6MPa〜10MPa程度の範囲内でACカップ40を開口させることが可能になり、安定したガス発生器の出力が得られるようになる。なお、スコア46の長さについても、適宜最適な長さに選択される。
【0036】
図3(A)は、本実施の形態におけるガス発生器が作動した場合に、スコアに発生した亀裂がどのように成長するかを模式的に表わした図である。一方、図3(B)は、図11に示す本発明者らの考案した横噴き型のガス発生器が作動した場合に、スコアに発生した亀裂がどのように成長するかを模式的に表わした図である。以下においては、これらの図を参照して、これらガス発生器における亀裂の成長の仕方の違いについて説明する。
【0037】
まず、図3(B)に示すように、本発明者らの考案した横噴き型のガス発生器1Hにおいては、作動時において、ACカップ40の側板部41の上下方向の略中央部に形成されたスコア49に亀裂が生じ、スコア49の上端部および下端部からそれぞれ上下方向(図中矢印A2方向)に向かって亀裂が成長する。スコア49の上端部から成長した亀裂は、側板部41と底板部42との境界部に達した時点で、より脆弱である境界部の延伸方向(図中矢印A3方向)に向かって二手に分かれて亀裂が成長する。このスコア49から成長した亀裂は、他のスコア49から成長した亀裂と上記境界部上において衝突する。このため、ACカップ40の側板部41と底板部42との境界部においてACカップ40の破断が生じ、ACカップ40が開口することになる。
【0038】
これに対して、図3(A)に示すように、本実施の形態におけるガス発生器1Aにおいては、作動時において、ACカップ40の側板部41と底板部42との境界部を基端に底板部42に向かって形成されたスコア46の境界部側の端部から下方(図中矢印A1方向)に向かって亀裂が成長する。ここで、スコア46の底板部42の中心部側に位置する端部からは、亀裂が発生し難い。これは、本実施の形態におけるガス発生器1Aが横噴き型のガス発生器であり、プリテンショナ装置の駆動用ユニットに組付けられた状態において、ACカップの底板部42が板状部材71に実質的に当接しているため、ACカップ40の開口に伴う衝撃がACカップ40の底板部42を介して板状部材71に逃げるためであると考えられる。
【0039】
また、スコア46の境界部側の端部から成長する亀裂は、スコア46が直線状に形成されているため指向性を有しており、境界部の延在方向に成長することなく側板部41を下方に向かって成長する。このため、ACカップ40の側板部41と底板部42の境界部を含まない領域においてACカップ40に破断が生じ、開口に至ることになる。
【0040】
以上において説明したように、本実施の形態におけるガス発生器1Aにおいては、ACカップ40の側板部41と底板部42との境界部を一部に含むようにACカップ40の底板部42に向かってスコア46が設けられているため、ガス発生器1Aの作動時において、スコア46の端部から側板部41の下方に向かって亀裂が発生し、脆弱な側板部41と底板部42との境界部の延在方向に亀裂が発生することが抑制されるようになる。このため、破断片が細分化する原因である上記境界部上でのACカップ40の分断が生じ難くなり、破断片を大型化することが可能になる。このため、破断片の数も少なく抑えることが可能になる。
【0041】
図4(A)は、上述の本発明の実施の形態1におけるガス発生器を実際に作動させた場合に生ずる破断片を撮影した写真である。一方、図4(B)は、本発明者らの考案した横噴き型のガス発生器を実際に作動させた場合に生ずる破断片を撮影した写真である。
【0042】
これらの写真からも分かるように、本発明者らの考案した横噴き型のガス発生器1Hにおいては、作動時においてACカップ40が4つの破断片に分断されるのに対し、本実施の形態におけるガス発生器1Aにおいては、作動時においてACカップ40が2つに分断されるのみであり、本実施の形態におけるガス発生器1Aにおいては、本発明者らの考案した横噴き型のガス発生器1Hよりも破断片の数をより少数に抑制することに成功していることが分かる。また、破断片の大きさも本発明者らの考案した横噴き型のガス発生器1Hに比べて本実施の形態におけるガス発生器1Aにおいて大型化していることが分かる。したがって、本実施の形態におけるガス発生器1Aを用いてプリテンショナ装置の駆動用ユニットを製作することにより、破断片が金属製のベルトと一対の板状部材との間に挟まるおそれを大幅に低減することが可能になるため、所望のシートベルトの引き込み性能が安定して得られるプリテンショナ装置の駆動用ユニットとすることができる。
【0043】
なお、本実施の形態におけるガス発生器1Aにあっては、本発明者らの考案した横噴き型のガス発生器1Hよりも、製作の際のプレス加工を1回少なくすることができる。すなわち、本発明者らの考案した横噴き型のガス発生器1Hにあっては、ACカップ40のプレス成形および突起部45のプレス成形がACカップ40の縦方向におけるプレス加工で実施されるのに対し、ACカップ40の側板部41に設けられるスコア49のプレス成形は、ACカップ40の横方向におけるプレス加工を必要とするため、少なくとも2回以上のプレス加工を要していた。これに対し、本実施の形態におけるガス発生器1Aにあっては、ACカップ40の底板部42に設けられるスコア46のプレス成形がACカップ40の縦方向におけるプレス加工で実施できるため、ACカップ40のプレス成形および突起部45のプレス成形と同時に行なえるようになる。このため、本実施の形態におけるガス発生器1Aにおいては、本発明者らの考案した横噴き型のガス発生器1Hに比して製作の際のプレス加工を1回削減することができるため、より安価に製作することができるメリットも有している。
【0044】
図5ないし図8は、本実施の形態におけるガス発生器の変形例を示す平面図および側面図である。以下においては、ACカップの側板部と底板部との境界部を基端としてスコアを底板部に向かって形成する場合のガス発生器の具体的な構成について、いくつか例示して説明を行なう。
【0045】
図5および図6に示すガス発生器1Bおよび1Cは、上述の図1に示すガス発生器1Aと、スコアの数において相違している。図5に示すガス発生器1Bにあっては、ACカップ40の側板部41と底板部42との境界部を基端として底板部42の中心部に向けて延在するように設けられるスコア46が、底板部42の周縁に沿って均等に2個設けられている。また、図6に示すガス発生器1Cにあっては、上記スコア46が、底板部42の周縁に沿って均等に4個設けられている。このように、スコアの数は特に制限されるものではなく、ガス発生器が組み付けられるプリテンショナ装置の駆動用ユニットの仕様に応じて適宜変更可能である。ただし、破断片の数を可能な限り少なくするためには、スコアの数は1個〜10個程度とすることが好ましく、より好ましくは2〜4個程度とする。また、必ずしもスコアがACカップの底板部の周縁に均等に配置される必要もなく、不均等に配置されていてもよい。
【0046】
図7および図8に示すガス発生器1Dおよび1Eは、上述のガス発生器1Aと異なり、スコアの両端がACカップ40の側板部41と底板部42との境界部を含んでいる。すなわち、上記境界部を基端として底板部42の中心部に向けて延在するように設けられるスコア46の他端が、上記境界部の他の位置にまで達している。図7に示すガス発生器1Dは、底板部42の外表面に設けられる2個のスコア46が底板部42の中心部において交差するようにレイアウトされたものであり、図8に示すガス発生器1Eは、底板部42の外表面に設けられる2個のスコア46が交差しないようにレイアウトされたものである。このように、スコア46の一方の端部のみが境界部に達するように設けられている必要はなく、両端部が境界部に達すように設けられていてもよい。また、スコア46の形状が直線状に限定されるものでもなく、湾曲していてもよい。
【0047】
(実施の形態2)
図9(A)は、本発明の実施の形態2におけるガス発生器の模式断面図であり、図9(B)は、本発明の実施の形態2におけるガス発生器の平面図である。ここで、図9(A)に示す模式断面図は、図9(B)中におけるIXA−IXA線に沿ってガス発生器を切断した場合の模式断面図である。なお、上述の実施の形態1におけるガス発生器1Aと同様の部分については図中同一の符号を付し、その説明はここでは繰り返さない。
【0048】
図9(A)および図9(B)に示すように、本実施の形態におけるガス発生器1Fは、上述の実施の形態1におけるガス発生器1Aとほぼ同様の構造を有しており、ACカップ40に形成されるスコアの位置のみが相違している。本実施の形態におけるガス発生器1Fにおいては、ACカップ40の側板部41と底板部42との境界部を一部に含むように、スコア47が側板部41の外表面に設けられている。図示するガス発生器1Fにおいては、スコア47が側板部41の周方向において均等に3個設けられている。個々のスコア47は、側板部41と底板部42との境界部を基端に側板部41の下方に向かって直線状に延びている。このスコア47は、ACカップ40をプレス加工したり、あるいは研削加工すること等によって形成される。
【0049】
このように、ACカップ40の側板部41と底板部42との境界部を一部に含むようにACカップ40の側板部41に向かってスコア47を設けた場合にも、上述の実施の形態1と同様に、ガス発生器1Fの作動時において、スコア47の下端部から側板部41の下方に向かって亀裂が発生し、脆弱な側板部41と底板部42との境界部の延在方向に亀裂が発生することが抑制されるようになる。このため、破断片を大型化することが可能となり、結果として破断片の数も少なく抑えることが可能になる。また、本実施の形態におけるガス発生器1Fにおいては、側板部41に設けられるスコア47の上端部が上記境界部にまで達しているため、スコア47のプレス成形が縦方向のプレス加工で行なえるようになり、上述の実施の形態1と同様に、本発明者らの考案した横噴き型のガス発生器1Hに比して製作の際のプレス加工を1回削減することができ、安価に製作できる。
【0050】
なお、本実施の形態におけるガス発生器1Fの如く、ACカップの側板部と底板部との境界部を基端としてスコアを側板部に向かって形成する場合にも、スコアの数や側板部の周方向におけるスコアの形成位置、幅、深さ、長さ、形状等は、適宜変更が可能である。しかしながら、破断片の細分化を防止するためには、好ましくは、スコアの長さが、ACカップの側板部の縦方向における長さの1/2以下、より好ましくは1/4以下となるようにする。
【0051】
(実施の形態3)
図10(A)は、本発明の実施の形態3におけるガス発生器の模式断面図であり、図10(B)は、本発明の実施の形態3におけるガス発生器の平面図である。ここで、図10(A)に示す模式断面図は、図10(B)中におけるXA−XA線に沿ってガス発生器を切断した場合の模式断面図である。なお、上述の実施の形態1におけるガス発生器1Aと同様の部分については図中同一の符号を付し、その説明はここでは繰り返さない。
【0052】
図10(A)および図10(B)に示すように、本実施の形態におけるガス発生器1Gは、上述の実施の形態1におけるガス発生器1Aとほぼ同様の構造を有しており、ACカップ40に形成されるスコアの位置のみが相違している。本実施の形態におけるガス発生器1Gにおいては、ACカップ40の側板部41と底板部42との境界部を一部に含むように、スコア48が上記境界部を跨ぎ、かつ側板部41の外表面から底板部42の外表面に達するように設けられている。図示するガス発生器1Gにおいては、スコア48が側板部41の周方向において均等に3個設けられている。個々のスコア48は、側板部41と底板部42との境界部を挟んで直線状に延びている。このスコア48は、ACカップ40をプレス加工したり、あるいは研削加工すること等によって形成される。
【0053】
このように、ACカップ40の側板部41と底板部42との境界部を一部に含むように、スコア48が上記境界部を跨ぎ、かつ側板部41の外表面から底板部42の外表面に達するように設けた場合にも、上述の実施の形態1と同様に、ガス発生器1Fの作動時において、スコア48の下端部から側板部41の下方に向かって亀裂が発生し、脆弱な側板部41と底板部42との境界部の延在方向に亀裂が発生することが抑制されるようになるため、破断片を大型化することが可能となり、結果として破断片の数も少なく抑えることが可能になる。また、本実施の形態におけるガス発生器1Gにおいては、スコア48のプレス成形が縦方向のプレス加工で行なえるようになるため、上述の実施の形態1と同様に、本発明者らの考案した横噴き型のガス発生器1Hに比して製作の際のプレス加工を1回削減することができ、安価に製作できる。
【0054】
なお、本実施の形態におけるガス発生器1Gの如く、ACカップの側板部と底板部との境界部を跨ぐようにスコアを形成する場合にも、スコアの数や側板部の周方向におけるスコアの形成位置、幅、深さ、長さ、形状等は、適宜変更が可能である。しかしながら、破断片の細分化を防止するためには、好ましくは、側板部におけるスコアの長さが、ACカップの側板部の縦方向における長さの1/2以下、より好ましくは1/4以下となるようにする。
【0055】
以上において説明した、上記本発明の実施の形態1ないし3におけるガス発生器1A〜1Gにおいては、いずれもACカップの外表面にスコアを形成した場合を例示して説明を行なったが、ACカップの内表面にスコアを形成することも当然に可能である。この場合にも上述の実施の形態1ないし3と同様の効果が得られる。
【0056】
このように、今回開示した上記各実施の形態はすべての点で例示であって、制限的なものではない。本発明の技術的範囲は特許請求の範囲によって画定され、また特許請求の範囲の記載と均等の意味および範囲内でのすべての変更を含むものである。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】本発明の実施の形態1におけるガス発生器の模式断面図および平面図である。
【図2】本発明の実施の形態1におけるプリテンショナ装置の駆動用ユニットの模式断面図である。
【図3】本発明の実施の形態1におけるガス発生器の作動時における亀裂の成長方向と、本発明者らの考案した横噴き型のガス発生器の作動時における亀裂の成長方向とを比較して説明するための模式図である。
【図4】本発明の実施の形態1におけるガス発生器を作動させた場合に生ずる破断片と、本発明者らの考案した横噴き型のガス発生器を作動させた場合に生ずる破断片とを比較した写真である。
【図5】本発明の実施の形態1におけるガス発生器の変形例を示す平面図および側面図である。
【図6】本発明の実施の形態1におけるガス発生器の他の変形例を示す平面図および側面図である。
【図7】本発明の実施の形態1におけるガス発生器のさらに他の変形例を示す平面図および側面図である。
【図8】本発明の実施の形態1におけるガス発生器のさらに他の変形例を示す平面図および側面図である。
【図9】本発明の実施の形態2におけるガス発生器の模式断面図および平面図である。
【図10】本発明の実施の形態3におけるガス発生器の模式断面図および平面図である。
【図11】本発明者らの考案した横噴き型のガス発生器の側面図である。
【符号の説明】
【0058】
1A〜1H ガス発生器、10 イグナイタ、11 基部、12 スクイブカップ、13,14 ヘッダピン、20 ホルダ、21,22 保持部、23 フランジ部、24 かしめ部、40 ACカップ、41 側板部、42 底板部、43 鍔部、45 突起部、46〜49 スコア、50 ガス発生剤、61 Oリング、62 シール剤、71,72 板状部材、73 金属製ベルト、74 作動空間。
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガス発生剤を燃焼させることによってガスを発生させるガス発生器およびこれを備えたプリテンショナ装置の駆動用ユニットに関し、特に、プリテンショナ装置の駆動用ユニットに組み込まれる際に一対の板状部材によって挟持されて固定される、いわゆる横噴き型のガス発生器およびこれを備えたプリテンショナ装置の駆動用ユニットに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車の乗員の保護の観点からシートベルト装置やエアバッグ装置が普及している。このうち、シートベルト装置は、車両衝突時に生じる衝撃により乗員が車内または車外に投げ出されることを防止する目的で装備されるものであり、乗員の身体にベルトを巻き付けることによって乗員を座席に拘束・固定するものである。
【0003】
近年においては、乗員保護機能の向上のためにプリテンショナ機能を備えたシートベルト装置が急速に普及している。このプリテンショナ機能とは、衣服の厚み等によって生じるシートベルトの弛みを衝突時あるいは衝突の直前において瞬時に巻き上げるものであり、乗員の拘束効果を高めるものである。このプリテンショナ機能は、マイクロガスジェネレータと称されるガス発生器から出力されるガス圧によってシートベルトが強く引き込まれることによって実現される。
【0004】
このガス発生器が組付けられるプリテンショナ装置の駆動用ユニットとしては、種々の機構のものが知られている。そのうちの一つに、シートベルトの引き込みを行なうシャフトに連結された金属製のベルトを環状に巻き回し、この環状に巻き回された金属製のベルトの中空部分を塞ぐように一対の板状部材によって金属製のベルトを挟み込み、さらに金属製のベルトと一対の板状部材とによって規定される作動空間内にガス発生器を配置した構成のプリテンショナ装置の駆動用ユニットが知られている(特開2001−213278号公報(特許文献1)参照)。この種のプリテンショナ装置の駆動用ユニットにおいては、作動空間がガス発生器の側方に位置しているため、ガスの導出方向が横向きである、いわゆる横噴き型のガス発生器が利用される。
【0005】
上記特許文献1に開示のプリテンショナ装置の駆動用ユニットにおいては、ガス発生器から出力されるガスによって金属製のベルトと一対の板状部材とによって規定される作動空間内の圧力が上昇し、金属製のベルトが外側に押し広げられることによってシャフトが所定量回転してシートベルトの引き込みが行なわれる。
【特許文献1】特開2001−213278号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述の特許文献1に開示のプリテンショナ装置の駆動用ユニットにあっては、ガス発生器のカップ部材の側板部に予め孔が設けられており、ガス発生器の作動時において、この孔からガスが作動空間に導入されるように構成されている。これに対し、本発明者らの考案した横噴き型のガス発生器を備えたプリテンショナ装置の駆動用ユニットにおいては、ガス発生器の作動時において、ガス圧によってガス発生器の外殻であるハウジングの一部を構成する有底筒状のカップ部材の側面に亀裂が生じ、この亀裂が成長してカップ部材が開口することによって作動空間にガスが導入される構成としている。このような構成のガス発生器において所定の出力を安定的に得るためには、カップ部材が確実に所定の圧力で開口することが必要である。そのため、ガス発生器のカップ部材には、プレス加工等によって薄肉部(スコアと称される)が形成されることが一般的に行なわれており、通常はガスの導出方向に位置するカップ部材の表面にスコアが形成される。
【0007】
たとえば、図11に示す本発明者らの考案した横噴き型のガス発生器1Hにおいては、ガスの導出方向に位置するハウジングの表面である、アクチュエーティングチャージカップ(ACカップ)40の側板部41の上下方向の略中央部に、上下方向に延びるスコア49が平行に複数個(通常は1個〜10数個程度)設けられている。また、図示は省略するが、通常、縦噴き型のガス発生器においては、ACカップの天板部に中央から径方向に延びるスコアが複数個設けられる。
【0008】
これにより、ACカップ40内のガス圧が所定の圧力に達した時点で、ACカップ40のスコア49形成箇所を基点にACカップ40が開口することにより、作動空間にガスの供給が行なわれるようになる。その結果、安定したシートベルトの引き込みが実現されるようになる。
【0009】
しかしながら、横噴き型のガス発生器の側板部の略中央部にスコアを設けた場合には、ACカップが細かい破断片に分断され、分断した破断片が上記作動空間内に多数飛散する現象が生じる。細かく分断された破断片が上記作動空間に散らばった場合には、破断片が金属製のベルトと一対の板状部材との間に挟まるおそれがあるため、シートベルトの引き込み性能に影響を与えることが懸念される。したがって、プリテンショナ装置の駆動用ユニットにおいては、ガス発生器の作動の際に生じるハウジングの破断片を可能な限り大型化し、破断片の数を少なくすることが好ましい。
【0010】
したがって、本発明は、上述の問題点を解決すべくなされたものであり、作動時に発生する、ハウジングの一部を構成するカップ部材の破断片の大型化が可能で、かつその破断片の数を少なく抑えることが可能なガス発生器を提供することにより、所望のシートベルトの引き込み性能が安定して得られるプリテンショナ装置の駆動用ユニットの実現を図ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に基づくガス発生器は、点火器とハウジングとを備え、略平行に配置される一対の板状部材にて上記ハウジングが上下方向から挟み込まれて固定される、いわゆる横噴き型のガス発生器であり、上記ハウジングの内部に形成されたガス発生剤収容室に収容されたガス発生剤が、上記点火器によって点火され、燃焼することによってガスが発生するものである。本発明に基づくガス発生器においては、上記ハウジングが、上記点火器を保持するベース部材と、上記ベース部材に取付けられ、上記ガス発生剤収容室を形成する側板部および底板部を含む有底筒状のカップ部材とを有している。そして、上記カップ部材の上記側板部と上記底板部との境界部を一部に含むように、上記カップ部材の表面にスコアが設けられている。
【0012】
このように、カップ部材の側板部と底板部との境界部を一部に含むようにカップ部材の表面にスコアを設けることにより、ガス発生器の作動時において、スコアの端部から側板部に向かって亀裂が発生し、脆弱な側板部と底板部との境界部の延在方向に亀裂が発生することが抑制されるようになる。そのため、破断片を大型化することが可能になり、結果として破断片の数も少なく抑えることが可能になる。なお、ここで言うカップ部材の表面には、有底筒状のカップ部材の外側の主面である外表面と内側の主面である内表面とが含まれ、スコアはカップ部材の外表面に設けられていてもよいし、内表面に設けられていてもよい。
【0013】
上記本発明に基づくガス発生器にあっては、上記スコアが上記境界部を基端として上記底板部に設けられていることが好ましい。また、上記本発明に基づくガス発生器にあっては、上記スコアが上記境界部を基端として上記側板部に設けられていることが好ましい。さらに、上記本発明に基づくガス発生器にあっては、上記スコアが上記境界部を跨ぎ、上記側板部から上記底板部に達すように設けられていることが好ましい。
【0014】
このように構成することにより、ガス発生器の作動時における亀裂の発生方向を意図的に側板部および底板部に向けることが可能になるため、脆弱な側板部と底板部との境界部に亀裂が発生することを抑制することが可能となり、破断片の大型化と破断片の数の低減とが実現されるようになる。また、スコアの形成もカップ形状の成形と同時にプレス加工で行なえるため、製造工程が煩雑化する心配もない。
【0015】
本発明に基づくプリテンショナ装置の駆動用ユニットは、互いの主面が向き合うように略平行に対向配置された一対の板状部材と、上記一対の板状部材によって挟持されたガス発生器と、上記一対の板状部材の間に位置し、上記ガス発生器を取り囲むように巻き回された駆動用の帯状部材とを備える。上記ガス発生器は、点火器と、上記点火器によって点火され、燃焼することによってガスを発生させるガス発生剤が収容されたガス発生剤収容室を内部に含み、かつ上記一対の板状部材にて上下方向から挟持されることによって固定されたハウジングとを備える。本発明に基づくプリテンショナ装置の駆動用ユニットに組み付けられる上記ガス発生器にあっては、上記ハウジングが、上記点火器を保持するベース部材と、上記ベース部材に取付けられ、上記ガス発生剤収容室を形成する側板部および底板部を含む有底筒状のカップ部材とを有しており、上記側板部と上記底板部との境界部を一部に含むように上記カップ部材の表面にスコアが設けられている。
【0016】
このように、カップ部材の側板部と底板部との境界部を一部に含むようにカップ部材の表面にスコアが設けられたガス発生器をプリテンショナ装置の駆動用ユニットに組み込むことにより、ガス発生器の作動時において発生する破断片が大型化し、かつ破断片の数も少なくなるため、所望のシートベルトの引き込み性能が安定して得られるプリテンショナ装置の駆動用ユニットとすることができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、作動時に発生する、ハウジングの一部を構成するカップ部材の破断片の大型化が可能で、かつその破断片の数を少なく抑えることが可能なガス発生器とすることができる。また、このガス発生器をプリテンショナ装置の駆動用ユニットに組み込むことにより、所望のシートベルトの引き込み性能が安定して得られるプリテンショナ装置の駆動用ユニットとすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態について、図を参照して詳細に説明する。
【0019】
(実施の形態1)
図1(A)は、本発明の実施の形態1におけるガス発生器の模式断面図であり、図1(B)は、本発明の実施の形態1におけるガス発生器の平面図である。ここで、図1(A)に示す模式断面図は、図1(B)中におけるIA−IA線に沿ってガス発生器を切断した場合の模式断面図である。
【0020】
図1(A)に示すように、本実施の形態におけるガス発生器1Aは、点火器としてのイグナイタ(スクイブ)10と、ハウジングの一部を構成するベース部材としてのホルダ20と、ハウジングの残りの部分を構成するカップ部材としてのアクチュエーティングチャージカップ(ACカップ)40と、ハウジング内部の所定領域に収容されるガス発生剤50とを主に備えている。
【0021】
イグナイタ10は、火炎を発生させるための点火装置であり、内部に図示しない点火薬と点火薬を燃焼させるための図示しない抵抗体とを含んでいる。より具体的には、イグナイタ10は、一対のヘッダピン13,14を挿通・保持する基部11と、基部11上に取付けられたスクイブカップ12とを備えており、スクイブカップ12内に挿入されたヘッダピン13,14の先端を連結するように抵抗体(ブリッジワイヤ)が取付けられている。この抵抗体を取り囲むようにまたはこの抵抗体に接するようにスクイブカップ12内に点火薬が充填されている。抵抗体としては一般にニクロム線等が利用され、点火薬としては一般にZPP(ジルコニウム・過塩素酸カリウム)、ZWPP(ジルコニウム・タングステン・過塩素酸カリウム)、トリシネート等が利用される。スクイブカップ12は、一般に金属製またはプラスチック製である。なお、スクイブカップ12内には、点火薬のみならずこれに加えて伝火薬が充填されていてもよい。
【0022】
衝突を検知した際には、ヘッダピン13,14を介して抵抗体に所定量の電流が流れる。抵抗体に所定量の電流が流れることにより、抵抗体においてジュール熱が発生し、点火薬が燃焼を開始する。燃焼により生じた高温の火炎(ガスおよび粒子)は、点火薬を収納しているスクイブカップ12を破裂させ、ガス発生剤50を点火する。抵抗体に電流が流れてから点火装置が作動するまでの時間は、抵抗体にニクロム線を利用した場合には2ミリ秒以下である。
【0023】
上述のイグナイタ10は、ホルダ20によって保持されている。ホルダ20は中空略円筒状の部材からなり、たとえばアルミニウム合金等を用いた成型品にて構成される。ホルダ20は、イグナイタ10の基部11を上下方向から挟持して保持する保持部21,22と、ACカップ40との連結部であるフランジ部23とを含む。ホルダ20の保持部21とイグナイタ10の基部11との間には、Oリング61が介在されている。このOリング61は、イグナイタ10の基部11を上述のホルダ20の保持部21,22とによってかしめ固定する際に、これらの間に生じる隙間を気密に封止するためのものであり、ガス発生剤収容室を気密封止するための部材である。Oリング61としては、十分な耐熱性および耐久性の材料からなるものを利用することが好ましく、たとえばエチレンプロピレンゴムの一種であるEPDM樹脂製のOリング等が好適である。なお、別途この部分にシール剤を塗布しておけば、さらに気密性能は向上する。
【0024】
ホルダ20のフランジ部23には、ACカップ40が取付けられる。ACカップ40は、有底円筒状の部材からなり、ホルダ20に保持されたイグナイタ10を覆うようにホルダ20のフランジ部23に取付けられる。より具体的には、ACカップ40は側板部41と底板部42とを備えており、ホルダ20のフランジ部23およびイグナイタ10のスクイブカップ12との間にガス発生剤50が収容されるガス発生剤収容室を区画形成する。
【0025】
ACカップ40の側板部41の下端には鍔部43が形成されており、ホルダ20のフランジ部23とかしめ部24とによってこの鍔部43がかしめ固定されている。ホルダ20のフランジ部23とACカップ40の鍔部43との間には、シール剤62が塗布されている。このシール剤62は必須のものではないが、ホルダ20のフランジ部23とACカップ40の鍔部43との間を確実に気密封止するために必要に応じて塗布される。シール剤62としては、透湿性の低い耐久性に優れた材料の利用が好ましく、たとえばシリコン系シール剤を利用することが好ましい。また、溶剤に固形成分を溶解させたシール剤を利用する場合には、シール剤の塗布乾燥後にハウジングのかしめ固定を行なうとよい。
【0026】
ACカップ40、ホルダ20およびイグナイタ10によって区画形成されるガス発生剤収容室内には、ガス発生剤50が収容されている。ガス発生剤50は、イグナイタ10のスクイブカップ12から導入される高温の火炎によって着火、燃焼する。このガス発生剤50の燃焼ガスの圧力により、ACカップ40が開口し、ガス発生器1Aから外部にガス発生剤50およびその燃焼生成物が導出される。
【0027】
所望の出力のガス発生器を得るためには、ACカップ40が確実に所定の圧力で開口することが必要である。このため、図1(A)および図1(B)に示すように、ACカップ40の所定の位置には、スコア(窪み)46が形成されている。このスコア46の形成箇所や形状、形成方法等については、後述することとする。
【0028】
また、ACカップ40の底板部42には、突起部45が設けられている。この突起部45は、後述するプリテンショナ装置の駆動用ユニットにガス発生器1Aが組み付けられる際に、自身が変形することにより、ガス発生器1Aの外形寸法とプリテンショナ装置の駆動用ユニットを構成する一対の板状部材間の寸法との間に生じる寸法誤差を吸収し、組付け後において、一対の板状部材のクリアランスを所望の大きさに調整するとともに、一対の板状部材によるガス発生器の固定を確実にするためのものである。この突起部45は、たとえばプレス加工等によって成形される。
【0029】
ガス発生剤収容室内に収容されたガス発生剤50は、上述のように、イグナイタ10から供給される火炎により着火し、燃焼により生じるガスとともにガス発生器1Aの外部へと導出される。ガス発生剤50としては、無煙火薬(ニトロセルロース)の成型体や有機窒素化合物と酸化剤からなるコンポジット系組成物の成型体などが用いられる。特に、近年においては、一酸化炭素などの有害成分の生成量が極めて少ない非ニトロセルロース系ガス発生剤が、シートベルト装置のプリテンショナ用のガス発生剤として利用されるようになっている。
【0030】
ガス発生剤50の成型体の形状には、顆粒状、ペレット状、円柱状、ディスク状など様々な形状のものが利用される。また、成型体内部に孔を有する有孔状(たとえば、単孔筒形状や多孔筒形状等)の成型体も利用される。これらの形状は、ガス発生器が組み付けられるプリテンショナ装置の駆動用ユニットの仕様に応じて適宜選択されることが好ましく、たとえばガス発生剤の燃焼時においてガスの生成速度が変化するような形状を選択するなど最適な形状が選択される。また、ガス発生剤の形状の他にも、ガス発生剤の線燃焼速度、圧力指数などを考慮に入れて成型体のサイズが適宜選択される。なお、ガス発生剤の充填量は、組み付けられるユニットの仕様に応じて適宜変更されるが、無煙火薬を使用した場合には、通常0.2グラム〜2.0グラム程度とされる。
【0031】
図2は、本発明の実施の形態1におけるプリテンショナ装置の駆動用ユニットの模式断面図である。本実施の形態におけるプリテンショナ装置の駆動用ユニットは、上述の構成を有するガス発生器1Aをガス発生源として具備している。
【0032】
図2に示すように、本実施の形態におけるプリテンショナ装置の駆動用ユニットは、一対の板状部材71,72と、この一対の板状部材71,72によって挟持されたガス発生器1Aと、一対の板状部材71,72の間に位置し、ガス発生器1Aを取り囲むように巻き回された駆動用の帯状部材である金属製のベルト73とを備えている。一対の板状部材71,72は、互いの主面が向き合うように略平行に対向配置されており、金属製のベルト73の上端および下端は、これら一対の板状部材71,72にそれぞれ当接している。これにより、一対の板状部材71,72および金属製のベルト73によって作動空間74が規定されている。
【0033】
この作動空間74内においては、ガス発生器1Aのハウジングが上下方向から一対の板状部材71,72によって挟持されることによって固定されている。これにより、作動時においてガス発生器1Aから導出される高圧のガスは、ガス発生器1Aの側方に位置する作動空間74内に導入され、作動空間74内のガス圧の変動によって金属製のベルト73が外側に押し広げられることになる。金属製のベルト73は、図示しないシートベルトプリテンショナ装置のシャフトに連結されており、金属製のベルトによってシャフトが所定量回転することにより、シートベルトの引き込みが行なわれる。
【0034】
図1(A)および図1(B)に示すように、本実施の形態におけるガス発生器1Aにおいては、ACカップ40の側板部41と底板部42との境界部(すなわち、底板部42の周縁に位置する湾曲部)を一部に含むように、スコア46が底板部42の外表面に設けられている。図示するガス発生器1Aにおいては、スコア46が底板部42の周縁に沿って均等に3個設けられている。個々のスコア46は、側板部41と底板部42との境界部を基端に底板部42の中心部に向かって直線状に延びている。このスコア46は、ACカップ40をプレス加工したり、あるいは研削加工すること等によって形成される。
【0035】
上述のように、スコア46は、所望の出力のガス発生器を得るために確実に所定の圧力でACカップ40が開口するように、ACカップ40の表面に設けられるものである。したがって、スコア46が形成されたACカップ40の残厚は、所定の圧力で開口するように最適な厚みに調整される。たとえば、ACカップ40をアルミニウム合金にて形成し、スコア46を図示する如くの形状とした場合には、好ましくはスコア46部分におけるACカップ40の残厚を0.3mm程度に設定する。このように設定した場合には、ガス発生器1Aの他の部分の形状やガス発生剤50の材質および充填量等によっても当然に左右されるが、ハウジングが上下方向から規制された状態で好適な内圧である6MPa〜10MPa程度の範囲内でACカップ40を開口させることが可能になり、安定したガス発生器の出力が得られるようになる。なお、スコア46の長さについても、適宜最適な長さに選択される。
【0036】
図3(A)は、本実施の形態におけるガス発生器が作動した場合に、スコアに発生した亀裂がどのように成長するかを模式的に表わした図である。一方、図3(B)は、図11に示す本発明者らの考案した横噴き型のガス発生器が作動した場合に、スコアに発生した亀裂がどのように成長するかを模式的に表わした図である。以下においては、これらの図を参照して、これらガス発生器における亀裂の成長の仕方の違いについて説明する。
【0037】
まず、図3(B)に示すように、本発明者らの考案した横噴き型のガス発生器1Hにおいては、作動時において、ACカップ40の側板部41の上下方向の略中央部に形成されたスコア49に亀裂が生じ、スコア49の上端部および下端部からそれぞれ上下方向(図中矢印A2方向)に向かって亀裂が成長する。スコア49の上端部から成長した亀裂は、側板部41と底板部42との境界部に達した時点で、より脆弱である境界部の延伸方向(図中矢印A3方向)に向かって二手に分かれて亀裂が成長する。このスコア49から成長した亀裂は、他のスコア49から成長した亀裂と上記境界部上において衝突する。このため、ACカップ40の側板部41と底板部42との境界部においてACカップ40の破断が生じ、ACカップ40が開口することになる。
【0038】
これに対して、図3(A)に示すように、本実施の形態におけるガス発生器1Aにおいては、作動時において、ACカップ40の側板部41と底板部42との境界部を基端に底板部42に向かって形成されたスコア46の境界部側の端部から下方(図中矢印A1方向)に向かって亀裂が成長する。ここで、スコア46の底板部42の中心部側に位置する端部からは、亀裂が発生し難い。これは、本実施の形態におけるガス発生器1Aが横噴き型のガス発生器であり、プリテンショナ装置の駆動用ユニットに組付けられた状態において、ACカップの底板部42が板状部材71に実質的に当接しているため、ACカップ40の開口に伴う衝撃がACカップ40の底板部42を介して板状部材71に逃げるためであると考えられる。
【0039】
また、スコア46の境界部側の端部から成長する亀裂は、スコア46が直線状に形成されているため指向性を有しており、境界部の延在方向に成長することなく側板部41を下方に向かって成長する。このため、ACカップ40の側板部41と底板部42の境界部を含まない領域においてACカップ40に破断が生じ、開口に至ることになる。
【0040】
以上において説明したように、本実施の形態におけるガス発生器1Aにおいては、ACカップ40の側板部41と底板部42との境界部を一部に含むようにACカップ40の底板部42に向かってスコア46が設けられているため、ガス発生器1Aの作動時において、スコア46の端部から側板部41の下方に向かって亀裂が発生し、脆弱な側板部41と底板部42との境界部の延在方向に亀裂が発生することが抑制されるようになる。このため、破断片が細分化する原因である上記境界部上でのACカップ40の分断が生じ難くなり、破断片を大型化することが可能になる。このため、破断片の数も少なく抑えることが可能になる。
【0041】
図4(A)は、上述の本発明の実施の形態1におけるガス発生器を実際に作動させた場合に生ずる破断片を撮影した写真である。一方、図4(B)は、本発明者らの考案した横噴き型のガス発生器を実際に作動させた場合に生ずる破断片を撮影した写真である。
【0042】
これらの写真からも分かるように、本発明者らの考案した横噴き型のガス発生器1Hにおいては、作動時においてACカップ40が4つの破断片に分断されるのに対し、本実施の形態におけるガス発生器1Aにおいては、作動時においてACカップ40が2つに分断されるのみであり、本実施の形態におけるガス発生器1Aにおいては、本発明者らの考案した横噴き型のガス発生器1Hよりも破断片の数をより少数に抑制することに成功していることが分かる。また、破断片の大きさも本発明者らの考案した横噴き型のガス発生器1Hに比べて本実施の形態におけるガス発生器1Aにおいて大型化していることが分かる。したがって、本実施の形態におけるガス発生器1Aを用いてプリテンショナ装置の駆動用ユニットを製作することにより、破断片が金属製のベルトと一対の板状部材との間に挟まるおそれを大幅に低減することが可能になるため、所望のシートベルトの引き込み性能が安定して得られるプリテンショナ装置の駆動用ユニットとすることができる。
【0043】
なお、本実施の形態におけるガス発生器1Aにあっては、本発明者らの考案した横噴き型のガス発生器1Hよりも、製作の際のプレス加工を1回少なくすることができる。すなわち、本発明者らの考案した横噴き型のガス発生器1Hにあっては、ACカップ40のプレス成形および突起部45のプレス成形がACカップ40の縦方向におけるプレス加工で実施されるのに対し、ACカップ40の側板部41に設けられるスコア49のプレス成形は、ACカップ40の横方向におけるプレス加工を必要とするため、少なくとも2回以上のプレス加工を要していた。これに対し、本実施の形態におけるガス発生器1Aにあっては、ACカップ40の底板部42に設けられるスコア46のプレス成形がACカップ40の縦方向におけるプレス加工で実施できるため、ACカップ40のプレス成形および突起部45のプレス成形と同時に行なえるようになる。このため、本実施の形態におけるガス発生器1Aにおいては、本発明者らの考案した横噴き型のガス発生器1Hに比して製作の際のプレス加工を1回削減することができるため、より安価に製作することができるメリットも有している。
【0044】
図5ないし図8は、本実施の形態におけるガス発生器の変形例を示す平面図および側面図である。以下においては、ACカップの側板部と底板部との境界部を基端としてスコアを底板部に向かって形成する場合のガス発生器の具体的な構成について、いくつか例示して説明を行なう。
【0045】
図5および図6に示すガス発生器1Bおよび1Cは、上述の図1に示すガス発生器1Aと、スコアの数において相違している。図5に示すガス発生器1Bにあっては、ACカップ40の側板部41と底板部42との境界部を基端として底板部42の中心部に向けて延在するように設けられるスコア46が、底板部42の周縁に沿って均等に2個設けられている。また、図6に示すガス発生器1Cにあっては、上記スコア46が、底板部42の周縁に沿って均等に4個設けられている。このように、スコアの数は特に制限されるものではなく、ガス発生器が組み付けられるプリテンショナ装置の駆動用ユニットの仕様に応じて適宜変更可能である。ただし、破断片の数を可能な限り少なくするためには、スコアの数は1個〜10個程度とすることが好ましく、より好ましくは2〜4個程度とする。また、必ずしもスコアがACカップの底板部の周縁に均等に配置される必要もなく、不均等に配置されていてもよい。
【0046】
図7および図8に示すガス発生器1Dおよび1Eは、上述のガス発生器1Aと異なり、スコアの両端がACカップ40の側板部41と底板部42との境界部を含んでいる。すなわち、上記境界部を基端として底板部42の中心部に向けて延在するように設けられるスコア46の他端が、上記境界部の他の位置にまで達している。図7に示すガス発生器1Dは、底板部42の外表面に設けられる2個のスコア46が底板部42の中心部において交差するようにレイアウトされたものであり、図8に示すガス発生器1Eは、底板部42の外表面に設けられる2個のスコア46が交差しないようにレイアウトされたものである。このように、スコア46の一方の端部のみが境界部に達するように設けられている必要はなく、両端部が境界部に達すように設けられていてもよい。また、スコア46の形状が直線状に限定されるものでもなく、湾曲していてもよい。
【0047】
(実施の形態2)
図9(A)は、本発明の実施の形態2におけるガス発生器の模式断面図であり、図9(B)は、本発明の実施の形態2におけるガス発生器の平面図である。ここで、図9(A)に示す模式断面図は、図9(B)中におけるIXA−IXA線に沿ってガス発生器を切断した場合の模式断面図である。なお、上述の実施の形態1におけるガス発生器1Aと同様の部分については図中同一の符号を付し、その説明はここでは繰り返さない。
【0048】
図9(A)および図9(B)に示すように、本実施の形態におけるガス発生器1Fは、上述の実施の形態1におけるガス発生器1Aとほぼ同様の構造を有しており、ACカップ40に形成されるスコアの位置のみが相違している。本実施の形態におけるガス発生器1Fにおいては、ACカップ40の側板部41と底板部42との境界部を一部に含むように、スコア47が側板部41の外表面に設けられている。図示するガス発生器1Fにおいては、スコア47が側板部41の周方向において均等に3個設けられている。個々のスコア47は、側板部41と底板部42との境界部を基端に側板部41の下方に向かって直線状に延びている。このスコア47は、ACカップ40をプレス加工したり、あるいは研削加工すること等によって形成される。
【0049】
このように、ACカップ40の側板部41と底板部42との境界部を一部に含むようにACカップ40の側板部41に向かってスコア47を設けた場合にも、上述の実施の形態1と同様に、ガス発生器1Fの作動時において、スコア47の下端部から側板部41の下方に向かって亀裂が発生し、脆弱な側板部41と底板部42との境界部の延在方向に亀裂が発生することが抑制されるようになる。このため、破断片を大型化することが可能となり、結果として破断片の数も少なく抑えることが可能になる。また、本実施の形態におけるガス発生器1Fにおいては、側板部41に設けられるスコア47の上端部が上記境界部にまで達しているため、スコア47のプレス成形が縦方向のプレス加工で行なえるようになり、上述の実施の形態1と同様に、本発明者らの考案した横噴き型のガス発生器1Hに比して製作の際のプレス加工を1回削減することができ、安価に製作できる。
【0050】
なお、本実施の形態におけるガス発生器1Fの如く、ACカップの側板部と底板部との境界部を基端としてスコアを側板部に向かって形成する場合にも、スコアの数や側板部の周方向におけるスコアの形成位置、幅、深さ、長さ、形状等は、適宜変更が可能である。しかしながら、破断片の細分化を防止するためには、好ましくは、スコアの長さが、ACカップの側板部の縦方向における長さの1/2以下、より好ましくは1/4以下となるようにする。
【0051】
(実施の形態3)
図10(A)は、本発明の実施の形態3におけるガス発生器の模式断面図であり、図10(B)は、本発明の実施の形態3におけるガス発生器の平面図である。ここで、図10(A)に示す模式断面図は、図10(B)中におけるXA−XA線に沿ってガス発生器を切断した場合の模式断面図である。なお、上述の実施の形態1におけるガス発生器1Aと同様の部分については図中同一の符号を付し、その説明はここでは繰り返さない。
【0052】
図10(A)および図10(B)に示すように、本実施の形態におけるガス発生器1Gは、上述の実施の形態1におけるガス発生器1Aとほぼ同様の構造を有しており、ACカップ40に形成されるスコアの位置のみが相違している。本実施の形態におけるガス発生器1Gにおいては、ACカップ40の側板部41と底板部42との境界部を一部に含むように、スコア48が上記境界部を跨ぎ、かつ側板部41の外表面から底板部42の外表面に達するように設けられている。図示するガス発生器1Gにおいては、スコア48が側板部41の周方向において均等に3個設けられている。個々のスコア48は、側板部41と底板部42との境界部を挟んで直線状に延びている。このスコア48は、ACカップ40をプレス加工したり、あるいは研削加工すること等によって形成される。
【0053】
このように、ACカップ40の側板部41と底板部42との境界部を一部に含むように、スコア48が上記境界部を跨ぎ、かつ側板部41の外表面から底板部42の外表面に達するように設けた場合にも、上述の実施の形態1と同様に、ガス発生器1Fの作動時において、スコア48の下端部から側板部41の下方に向かって亀裂が発生し、脆弱な側板部41と底板部42との境界部の延在方向に亀裂が発生することが抑制されるようになるため、破断片を大型化することが可能となり、結果として破断片の数も少なく抑えることが可能になる。また、本実施の形態におけるガス発生器1Gにおいては、スコア48のプレス成形が縦方向のプレス加工で行なえるようになるため、上述の実施の形態1と同様に、本発明者らの考案した横噴き型のガス発生器1Hに比して製作の際のプレス加工を1回削減することができ、安価に製作できる。
【0054】
なお、本実施の形態におけるガス発生器1Gの如く、ACカップの側板部と底板部との境界部を跨ぐようにスコアを形成する場合にも、スコアの数や側板部の周方向におけるスコアの形成位置、幅、深さ、長さ、形状等は、適宜変更が可能である。しかしながら、破断片の細分化を防止するためには、好ましくは、側板部におけるスコアの長さが、ACカップの側板部の縦方向における長さの1/2以下、より好ましくは1/4以下となるようにする。
【0055】
以上において説明した、上記本発明の実施の形態1ないし3におけるガス発生器1A〜1Gにおいては、いずれもACカップの外表面にスコアを形成した場合を例示して説明を行なったが、ACカップの内表面にスコアを形成することも当然に可能である。この場合にも上述の実施の形態1ないし3と同様の効果が得られる。
【0056】
このように、今回開示した上記各実施の形態はすべての点で例示であって、制限的なものではない。本発明の技術的範囲は特許請求の範囲によって画定され、また特許請求の範囲の記載と均等の意味および範囲内でのすべての変更を含むものである。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】本発明の実施の形態1におけるガス発生器の模式断面図および平面図である。
【図2】本発明の実施の形態1におけるプリテンショナ装置の駆動用ユニットの模式断面図である。
【図3】本発明の実施の形態1におけるガス発生器の作動時における亀裂の成長方向と、本発明者らの考案した横噴き型のガス発生器の作動時における亀裂の成長方向とを比較して説明するための模式図である。
【図4】本発明の実施の形態1におけるガス発生器を作動させた場合に生ずる破断片と、本発明者らの考案した横噴き型のガス発生器を作動させた場合に生ずる破断片とを比較した写真である。
【図5】本発明の実施の形態1におけるガス発生器の変形例を示す平面図および側面図である。
【図6】本発明の実施の形態1におけるガス発生器の他の変形例を示す平面図および側面図である。
【図7】本発明の実施の形態1におけるガス発生器のさらに他の変形例を示す平面図および側面図である。
【図8】本発明の実施の形態1におけるガス発生器のさらに他の変形例を示す平面図および側面図である。
【図9】本発明の実施の形態2におけるガス発生器の模式断面図および平面図である。
【図10】本発明の実施の形態3におけるガス発生器の模式断面図および平面図である。
【図11】本発明者らの考案した横噴き型のガス発生器の側面図である。
【符号の説明】
【0058】
1A〜1H ガス発生器、10 イグナイタ、11 基部、12 スクイブカップ、13,14 ヘッダピン、20 ホルダ、21,22 保持部、23 フランジ部、24 かしめ部、40 ACカップ、41 側板部、42 底板部、43 鍔部、45 突起部、46〜49 スコア、50 ガス発生剤、61 Oリング、62 シール剤、71,72 板状部材、73 金属製ベルト、74 作動空間。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
点火器と、前記点火器によって点火され、燃焼することによってガスを発生させるガス発生剤を収容するガス発生剤収容室を内部に含むハウジングとを備え、略平行に配置される一対の板状部材にて前記ハウジングが上下方向から挟み込まれて固定されるガス発生器であって、
前記ハウジングは、前記点火器を保持するベース部材と、前記ベース部材に取付けられ、前記ガス発生剤収容室を形成する側板部および底板部を含む有底筒状のカップ部材とを有し、
前記側板部と前記底板部との境界部を一部に含むように、前記カップ部材の表面にスコアが設けられている、ガス発生器。
【請求項2】
前記スコアは、前記境界部を基端として前記底板部の外表面に設けられている、請求項1に記載のガス発生器。
【請求項3】
前記スコアは、前記境界部を基端として前記側板部の外表面に設けられている、請求項1に記載のガス発生器。
【請求項4】
前記スコアは、前記境界部を跨ぎ、前記側板部の外表面から前記底板部の外表面に達すように設けられている、請求項1に記載のガス発生器。
【請求項5】
互いの主面が向き合うように略平行に対向配置された一対の板状部材と、前記一対の板状部材によって挟持されたガス発生器と、前記一対の板状部材の間に位置し、前記ガス発生器を取り囲むように巻き回された駆動用の帯状部材とを備えたプリテンショナ装置の駆動用ユニットであって、
前記ガス発生器は、点火器と、前記点火器によって点火され、燃焼することによってガスを発生させるガス発生剤を収容するガス発生剤収容室を内部に含み、前記一対の板状部材にて上下方向から挟持されることによって固定されたハウジングとを備え、
前記ハウジングは、前記点火器を保持するベース部材と、前記ベース部材に取付けられ、前記ガス発生剤収容室を形成する側板部および底板部を含む有底筒状のカップ部材とを有し、
前記側板部と前記底板部との境界部を含むように、前記カップ部材の表面にスコアが設けられている、プリテンショナ装置の駆動用ユニット。
【請求項1】
点火器と、前記点火器によって点火され、燃焼することによってガスを発生させるガス発生剤を収容するガス発生剤収容室を内部に含むハウジングとを備え、略平行に配置される一対の板状部材にて前記ハウジングが上下方向から挟み込まれて固定されるガス発生器であって、
前記ハウジングは、前記点火器を保持するベース部材と、前記ベース部材に取付けられ、前記ガス発生剤収容室を形成する側板部および底板部を含む有底筒状のカップ部材とを有し、
前記側板部と前記底板部との境界部を一部に含むように、前記カップ部材の表面にスコアが設けられている、ガス発生器。
【請求項2】
前記スコアは、前記境界部を基端として前記底板部の外表面に設けられている、請求項1に記載のガス発生器。
【請求項3】
前記スコアは、前記境界部を基端として前記側板部の外表面に設けられている、請求項1に記載のガス発生器。
【請求項4】
前記スコアは、前記境界部を跨ぎ、前記側板部の外表面から前記底板部の外表面に達すように設けられている、請求項1に記載のガス発生器。
【請求項5】
互いの主面が向き合うように略平行に対向配置された一対の板状部材と、前記一対の板状部材によって挟持されたガス発生器と、前記一対の板状部材の間に位置し、前記ガス発生器を取り囲むように巻き回された駆動用の帯状部材とを備えたプリテンショナ装置の駆動用ユニットであって、
前記ガス発生器は、点火器と、前記点火器によって点火され、燃焼することによってガスを発生させるガス発生剤を収容するガス発生剤収容室を内部に含み、前記一対の板状部材にて上下方向から挟持されることによって固定されたハウジングとを備え、
前記ハウジングは、前記点火器を保持するベース部材と、前記ベース部材に取付けられ、前記ガス発生剤収容室を形成する側板部および底板部を含む有底筒状のカップ部材とを有し、
前記側板部と前記底板部との境界部を含むように、前記カップ部材の表面にスコアが設けられている、プリテンショナ装置の駆動用ユニット。
【図1】
【図2】
【図3】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図4】
【図2】
【図3】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図4】
【公開番号】特開2006−137245(P2006−137245A)
【公開日】平成18年6月1日(2006.6.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−326674(P2004−326674)
【出願日】平成16年11月10日(2004.11.10)
【出願人】(000004086)日本化薬株式会社 (921)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年6月1日(2006.6.1)
【国際特許分類】
【出願日】平成16年11月10日(2004.11.10)
【出願人】(000004086)日本化薬株式会社 (921)
【Fターム(参考)】
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