説明

ガス置換方法およびガス置換装置並びに分析システム

【課題】試料ガスに含まれる微粒子を容易かつ高精度に分析するのに寄与できるガス置換方法を提供する。
【解決手段】多孔性隔壁2Aにより囲まれたガス流路2cにおいて微粒子を含む試料ガスG1を流動させる。多孔性隔壁2Aの周囲において置換ガスG2を試料ガスG1の流動方向と逆方向に流動させ、試料ガスG1と置換ガスG2との分圧差による拡散により、試料ガスG1を多孔性隔壁2Aを介してガス流路2c外に移動させると共に置換ガスG2を多孔性隔壁2Aを介してガス流路2c内に移動させる。ガス流路2cの出口2bから置換ガスG2を微粒子と共に流出させる。多孔性隔壁2Aにより、ガス流路2cの内外圧力差による多孔性隔壁2Aを介するガス移動を阻止する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微粒子を含む試料ガスを置換ガスに置換するためのガス置換方法と、そのガス置換方法を実施するためのガス置換装置と、そのガス置換装置を備えた分析システムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、生活環境や労働環境に対する関心の高まりから、大気中に存在する微粒子の組成や濃度を測定する技術の向上が求められている。また、半導体産業に代表されるような、例えば原料ガスの高純度化や製造工程における雰囲気ガス制御が必要な産業においては、微粒子を含む原料ガスや雰囲気ガスの分析を容易かつ高精度に行うことが強く望まれている。
【0003】
試料ガス中に微量存在する微粒子の分析装置としては、一般的なガスクロマトグラフ質量分析法(GC−MS法)の他、誘導結合プラズマ分析法(ICP法)やマイクロ波プラズマ分析法(MIP法)等の高感度分析法を用いるものが知られている。プラズマからの信号変化を検出することで分析を行うICP法やMIP法では、アルゴンガス、窒素ガスおよびヘリウムガス等の限られた種類のガスがプラズマガスとして用いられ、高温のプラズマ中に分析試料を導入することで所望の分析が行われる。
【0004】
試料ガス中に微量存在する微粒子の分析を高精度に行うには、試料ガス中のガス状汚染成分を充分に排除する必要がある。特に、プラズマを利用した高感度分析を実現するためには、プラズマの温度変化や電子密度変化等をいたずらに誘発することなく、安定したプラズマを維持しながら分析試料に含まれる微粒子を多量にプラズマ中に導入する必要がある。
【0005】
そこで、特許文献1に記載された微粒子分級装置においては、試料ガスに含まれる微粒子を荷電して分級する際に、試料ガス中のガス状汚染成分を充分に排除し、評価の対象となる粒子状汚染成分が所望のガス種からなる雰囲気中に浮遊する状態を形成している。
また、特許文献2に記載された試料導入装置においては、液体試料を超音波噴霧器によって液滴とすると共に加熱することで試料成分と溶剤蒸気とに分離し、噴霧ガスをキャリアーガスとして含む試料ガスとし、その試料ガスを各孔径が1〜2μmの多孔材製の管状密閉フィルタ内に導入し、その溶剤蒸気を密閉フィルタを介してフィルタ外部に拡散させると共にフィルタ外部を流れるガスにより除去し、試料成分をキャリアーガスと共に分析装置のプラズマ中に導入している。
【特許文献1】特開2001−239181号公報
【特許文献2】特表平7−500416号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、上記従来の微粒子分級装置は、微粒子を荷電するための装置や静電場を形成するための高電圧源等を必要とするため、大型化や高額化するという問題がある。また、上記従来の密閉フィルタを用いた試料導入装置を用い、石英ガラス製等のプラズマトーチを介してプラズマ中に試料を導入した場合、プラズマが不安定になってプラズマトーチが溶融するおそれがあるという問題がある。本発明は、そのような従来技術の問題を解決することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のガス置換方法の特徴は、多孔性隔壁により囲まれたガス流路において微粒子を含む試料ガスを流動させ、前記多孔性隔壁の周囲において置換ガスを前記試料ガスの流動方向と逆方向に流動させ、前記試料ガスと前記置換ガスとの分圧差による拡散により、前記試料ガスを前記多孔性隔壁を介して前記ガス流路外に移動させると共に前記置換ガスを前記多孔性隔壁を介して前記ガス流路内に移動させ、前記ガス流路の出口から前記置換ガスを前記微粒子と共に流出させ、前記多孔性隔壁により、前記ガス流路の内外圧力差による前記多孔性隔壁を介するガス移動を実質的に阻止する点にある。この場合、前記圧力差による前記多孔性隔壁を介するガス移動を阻止するため、前記多孔性隔壁の各孔径を実質的に0.8〜0.001μmとするのが好ましい。
本件発明者らは、従来の密閉フィルタを用いた試料導入装置を用いるとプラズマが不安定になるのは、プラズマへの導入ガス流量が変動し、その流量変動はフィルター内外の圧力差によりフィルタを介するガス移動が生じることに起因することを見出した。
これに対し本件発明によれば、試料ガスと置換ガスとの分圧差による拡散により、換言すればガス流路の内外における試料ガスと置換ガスとの濃度差を推進力として、試料ガスは多孔性隔壁を介してガス流路外に移動すると共に置換ガスは多孔性隔壁を介してガス流路内に移動する。また、その多孔性隔壁により、ガス流路の内外圧力差による多孔性隔壁を介するガス移動は阻止される。これにより、ガス流路外に移動する試料ガスの量とガス流路内に移動する置換ガスの量とを略等しくし、ガス流路において試料ガスの殆どを置換ガスに置換し、ガス流路から流出するガスの流量が変動するのを防止できる。この際、ガス流路における微粒子は、その径が多孔性隔壁の孔径を超えるものは各孔を透過したり各孔に捕捉されることはなく、また、その孔径以下のものもガスより拡散速度が遅く拡散ガスの流れによる慣性力も非常に弱いことから、大部分の微粒子は置換ガスと共にガス流路から流出する。すなわち、ガス流路に試料ガスと共に導入された微粒子を、減損することなく試料ガスとほぼ同流量の置換ガスと共に分析装置に供給することができる。これにより、試料ガスを分析装置に適したガスに置換でき、しかも分析装置への導入ガス流量の変動を防止することで分析精度を向上できる。特に、分析装置がプラズマを利用した分析法を採用するものである場合、プラズマトーチの溶融等の問題を生じることなく、安定したプラズマを維持しながら高感度で高精度の分析が可能になる。さらに、ガス流路に導入した試料ガスに含まれる微粒子は、殆ど減損することなくガス流路から排出されて残留することはないので、先に導入された試料ガスとは異なる試料ガスを後にガス流路に導入する場合、先の試料ガスに含まれていた残留微粒子により汚染されるのを防止でき、その異なる試料ガスの高感度で高精度の分析も可能になる。
【0008】
本発明のガス置換装置は、内管と、前記内管を覆う外管とを備え、前記内管は、内側入口と、内側出口と、前記内側入口と内側出口との間の内側ガス流路とを有し、前記外管は、外側入口と、外側出口と、前記外側入口と前記外側出口との間の外側ガス流路とを有し、前記内側入口、内側出口、外側入口、および外側出口は、前記内側ガス流路における微粒子を含む試料ガスの流動方向と前記外側ガス流路における置換ガスの流動方向が互いに逆方向となるように配置され、前記内管における前記内側ガス流路の少なくとも一部を覆う部位は、前記試料ガスと前記置換ガスとの分圧差による拡散により前記試料ガスを前記内側ガス流路外に移動させると共に前記置換ガスを前記内側ガス流路内に移動させるための多孔性隔壁により構成され、前記多孔性隔壁の各孔径は、前記内側ガス流路における圧力と前記外側ガス流路における圧力との差による前記多孔性隔壁を介するガス移動を実質的に阻止するように設定されていることを特徴とする。前記多孔性隔壁の各孔径は実質的に0.8〜0.001μmとされているのが好ましい。
本発明のガス置換装置によれば、本発明のガス置換方法を小型で低コストな構成により実施できる。
【0009】
本発明の分析システムは、本発明のガス置換装置と、そのガス置換装置の内側出口から流出する微粒子の分析装置とを備えることを特徴とする。本発明の分析システムによれば、分析装置への導入ガス流量の変動を防止することで分析精度を向上できる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、試料ガスに含まれる微粒子を容易かつ高精度に分析するのに寄与できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
図1に示すガス置換装置1は、横断面円形の直管である内管2と、内管2を覆う横断面円形の直管である外管3を備える二重管構造であり、内管2の両端は外管3から突出し、外管3の両端近傍は次第に小径とされて内管2の外周に接合されている。なお、内外管2、3は直管である必要はなく湾曲していてもよい。
【0012】
ガス置換装置1の内管2は、一端に形成された内側入口2aと、他端に形成された内側出口2bと、内側入口2aと内側出口2bとの間の内側ガス流路2cを有する。その内側入口2aから微粒子を含む試料ガスG1や、蒸発することで微粒子を含む試料ガスG1となる液体試料が噴霧器により液滴状とされて導入される。なお、試料ガスG1に含まれる微粒子は、例えば鉄粉等の金属、酸化物や硫化物等の金属化合物、セラミックや高分子化合物等の有機物等を含む固形物であり、分析対象となるものである。
【0013】
外管3は、置換ガスG2を導入するために一端近傍の周壁に形成された外側入口3aと、他端近傍の周壁に形成された外側出口3bと、外側入口3aと外側出口3bとの間の外側ガス流路3cを有する。内側入口2a、内側出口2b、外側入口3a、および外側出口3bは、内側ガス流路2cにおける試料ガスG1の流動方向と外側ガス流路3cにおける置換ガスG2の流動方向が互いに逆方向となるように配置されている。
【0014】
内管2における内側ガス流路2cを覆う周壁の両端間部位が、試料ガスG1と置換ガスG2との分圧差による拡散によって試料ガスG1を内側ガス流路2c外に移動させると共に置換ガスG2を内側ガス流路2c内に移動させるための多孔性隔壁2Aにより構成されている。多孔性隔壁2Aの各孔径は、内側ガス流路2cにおける圧力と外側ガス流路3cおける圧力との差による多孔性隔壁2Aを介するガス移動を阻止するように設定され、実質的に0.8μm〜0.001μmとされる。各孔径は、ガスG1、G2の置換効率が低下して装置が大型化するのを防止するために0.001μm以上とされ、好ましくは0.002μm以上であり、より好ましくは0.02μm以上であり、微粒子が各孔を透過したり各孔に捕捉されて分析精度が低下したり圧力差によるガス移動が生じるのを防止するため0.8μm以下とされ、好ましくは0.5μm以下であり、より好ましくは0.2μm以下である。なお、多孔性隔壁2Aにおいて、本件発明の作用効果に影響することのない程度の僅かな数の孔の径が0.8μm〜0.001μmの範囲外であっても良く、実質的に0.8μm〜0.001μmであればよい。多孔性隔壁2Aの気孔率は特に制限されないが、ガス置換効率および機械的強度の観点から40%〜80%であるのが好ましい。多孔性隔壁2Aの材質は、上記条件に合致する多孔性材であれば特に制限されず、石英ガラス等のガラスやセラミック等が好ましく、例えばシラス多孔質ガラス(SPG)を用いることができる。内管2の両端近傍部位2B、2Cは多孔性隔壁2Aと内外径が等しく滑らかに結合される。なお、内側ガス流路2cを覆う周壁全体を多孔性隔壁2Aとしてもよく、内側ガス流路2cの少なくとも一部を覆う部位を多孔性隔壁2Aとすればよい。
【0015】
内管2の両端近傍部位2B、2Cと外管3の材質は特に限定されず、複数の異なる材質から構成してもよく、加工容易性および内管2に導入された試料ガスG1の加熱容易性や耐熱性の観点から、例えば金属、セラミック、ガラスであるのが好ましく、セラミックや石英ガラスのようなガラスとするのが望ましい。
【0016】
ガス置換装置1に必要に応じて加熱手段(図示省略)を付加してもよい。加熱手段は特に限定されず、例えば外管3の周囲に巻き付けられる帯状ヒータや外管3の周囲に配置される赤外ランプにより構成でき、この場合、内外管2、3内の温度を制御するための温度センサと検出温度に応じて加熱手段を制御する温度制御装置を設けてもよい。
【0017】
上記ガス置換装置1によるガス置換は、内管2に内側入口2aから微粒子を含む試料ガスG1や、蒸発することで微粒子を含む試料ガスG1となる液体試料を噴霧器により液滴状として導入し、多孔性隔壁2Aにより囲まれた内側ガス流路2cにおいて流動させ、置換ガスG2を外側入口3aから外管3に流入させて多孔性隔壁2Aの周囲における外側ガス流路3cにおいて試料ガスG1の流動方向と逆方向に流動させることで行う。これにより、試料ガスG1と置換ガスG2との分圧差による拡散により、換言すれば内側ガス流路2cの内外における試料ガスG1と置換ガスG2との濃度差を推進力として、試料ガスG1の大部分を多孔性隔壁2Aを介して内側ガス流路2c外に移動させると共に置換ガスG2の一部を多孔性隔壁2Aを介して内側ガス流路2c内に移動させる。内側ガス流路2cにおいては内側入口2aから内側出口2bに向かうに従い試料ガスG1の濃度が次第に低下すると共に置換ガスG2の濃度が次第に増加し、外側ガス流路3cにおいては外側入口3aから外側出口3bに向かうに従い置換ガスG2の濃度が次第に低下すると共に試料ガスG1の濃度が次第に増加する。これにより、置換ガスG2を微粒子と僅かな試料ガスG1と共に内側出口2bから分析用ガスG3として流出させて分析装置に供給し、試料ガスG1と置換ガスG2を外側出口3bから排出ガスG4として流出させることができる。この際、内側ガス流路2cと外側ガス流路3cの圧力差、すなわち内側ガス流路2cの内外圧力差、による多孔性隔壁2Aを介するガス移動を多孔性隔壁2Aにより実質的に阻止できる。よって、多孔性隔壁2Aの各孔径、気孔率、肉厚、管径、長さ、形状、外管4の内径、形状、試料ガスG1および置換ガスG2の流量等を適宜設定することで、内側出口2bから流出する試料ガスG1を、分析装置における分析に悪影響を及ぼさないだけの限界量以下にまで削減できる。
【0018】
上記ガス置換装置1によれば、内側ガス流路2c外に移動する試料ガスG1の量と内側ガス流路2c内に移動する置換ガスG2の量とを略等しくし、内側ガス流路2cにおいて試料ガスG1の殆どを置換ガスG2に置換し、内側出口2bから流出する分析用ガスG3の流量が変動するのを防止できる。この際、内側ガス流路2cにおける微粒子は、その径が多孔性隔壁2Aの孔径を超えるものは各孔を透過したり各孔に捕捉されることはなく、また、その孔径以下のものもガスより拡散速度が遅く拡散ガスの流れによる慣性力も非常に弱いことから、大部分の微粒子は外側ガス流路3cに移動することなく置換ガスG2と共に内側出口2bから流出する。よって、内側ガス流路2cに試料ガスG1と共に導入された微粒子を、減損することなく試料ガスG1とほぼ同流量の置換ガスG2と共に分析装置に供給することができる。これにより、試料ガスG1を分析装置に適したガスに置換でき、しかも、分析装置への導入ガス流量の変動を防止することで分析精度を向上できる。特に、分析装置がプラズマを利用した分析法を採用するものである場合、プラズマトーチの溶融等の問題を生じることなく、安定したプラズマを維持しながら高感度で高精度の分析が可能になる。さらに、内管2に導入した試料ガスG1に含まれる微粒子は、殆ど減損することなく置換ガスG2と共に内側出口2bから排出されて内管2内に残留することはないので、先に導入された試料ガスG1とは異なる試料ガスを後に内管2に導入する場合、先の試料ガスG1に含まれていた残留微粒子により汚染されるのを防止でき、その異なる試料ガスの高感度で高精度の分析も可能になる。
【0019】
図2に示す分析システムAは、分析に供する試料がガス体であって試料ガスG1そのものである場合に用いられるもので、ガス置換装置1と、誘導結合プラズマ質量分析装置(ICP−MS)100と、噴霧器101を備える。分析装置100は、高感度分析のためのプラズマPを形成するためのプラズマトーチ100aを有する公知のものであり、プラズマトーチ100aに導入されるアルゴンガス等のプラズマガスG5と同種のガスを置換ガスG2とすることができる。プラズマトーチ100aはガス置換装置1の内側出口2bに噴霧器101を介して接続される。噴霧器101は公知のものであり、その内部がキャリアーガスG6の流れにより減圧されることで分析用ガスG3をプラズマトーチ100aに導入するものである。
【0020】
図3に示す分析システムA′は、分析に供する試料が液体である場合に用いられるもので、上記分析システムAと同様のガス置換装置1、誘導結合プラズマ質量分析装置100、噴霧器101を備える。上記分析システムAとの相違は、プラズマトーチ100aはガス置換装置1の内側出口2bに直接に接続され、ガス置換装置1の内側入口2aは噴霧器101に接続され、噴霧器101は供給された液体試料L1を液滴として噴霧ガスであるキャリアーガスG6と共にガス置換装置1の内側入口2aから内管2内に導く。この場合、ガス置換装置1が上記加熱手段を備えることで、液滴状の液体試料L1を速やかに蒸発させて微粒子を含む試料ガスG1とすることができる。他は分析システムAと同様で同様部分は同一符号で示す。
【0021】
なお、分析装置の種類は特に限定されず、例えばガスクロマトグラフ質量分析装置(GC−MS)、誘導結合プラズマ発光分析装置(ICP−AES)、誘導結合プラズマ質量分析装置(ICP−MS)、マイクロ波プラズマ発光分析装置(MIP−AES)等を分析装置として用いてもよい。また、分析に供する試料がガス体である場合、噴霧器101を用いることなくガス置換装置1を分析装置に直接に接続してもよい。
【実施例】
【0022】
図1に示す実施形態に係るガス置換装置1を用いてガス置換性、流量安定性、金属微粒子回収率の評価実験を行い、また、流量安定性と金属微粒子回収率については市販の溶剤除去装置を用いた場合との比較実験を行った。
実験に供した実施例のガス置換装置1の多孔性隔壁2Aの材質はシラス多孔質ガラス、各孔径は0.2μm、気孔率は70%、肉厚は0.7mm、外径は10mm、長さ420mmであり、内管2の両端近傍部位2B、2Cと外管3の材質は石英ガラス、外管3の内径は16mmである。
比較実験に供した比較例の溶剤除去装置は、従来の特許文献2に記載のものに対応し、セタク テクノロジーズ社製で、製品名はU-6000AT+ ULTRASONIC NEBULIZERであり、本発明の多孔性隔壁に代えて密閉フィルタを備え、その密閉フィルタは直管状マイクロポーラスPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)膜製とされている。
【0023】
(ガス置換性)
実施例のガス置換装置1に試料ガスとして亜酸化窒素を導入し、置換ガスとして窒素ガスを導入し、分析用ガスに含まれる亜酸化窒素濃度をガスクロマトグラフ法(GC−TCD)にて測定した。試料ガスの流量を100〜500mL/分の範囲で変化させ、置換ガスの流量を1〜2L/分の範囲で変化させた場合の測定結果を図4に示す。
図4より、試料ガスの流量が多くなると置換ガスの流量が多い程に亜酸化窒素濃度は低下するが、試料ガスの流量が250mL/分以下であれば置換ガスの流量にかかわらず亜酸化窒素濃度は0.02%以下にまで低下する。これより、本発明のガス置換装置1によれば、実用域において置換ガスの流量を多くすることなく優れたガス置換性を奏することを確認できる。
【0024】
(流量安定性)
実施例のガス置換装置1と比較例の溶剤除去装置に試料ガスおよび置換ガスとして窒素ガスを導入し、試料ガスの流量を500mL/分に固定し、置換ガスの流量を500〜2000mL/分の範囲で変化させた場合の分析用ガスの流量の測定結果を図5に示す。
図5より、比較例の溶剤除去装置においては置換ガスの流量変化に応じて分析用ガスの流量が360〜800mL/分の範囲で大きく変化しているのに対し、実施例のガス置換装置1においては置換ガスの流量が変化しても分析用ガスの流量は導入した流量である500mL/分で一定であった。これにより、実施例のガス置換装置1によれば、置換ガスの流量が変動しても分析用ガスの流量は影響を受けることなく安定することを確認できる。
【0025】
(金属微粒子回収率)
実施例のガス置換装置1と比較例の溶剤除去装置それぞれのガス流路を160℃に加熱した後に、試料ガスおよび置換ガスを導入した。試料ガスは、SPEX社製金属標準溶液を希釈して調製した5ppmFe標準溶液を、比較例の溶剤除去装置が備える超音波噴霧器(加熱部温度:140℃,冷却部温度:−5℃)によって液滴化し、キャリアーガスとしてアルゴンガスを噴霧することで生成したものを用いた。置換ガスはアルゴンガスを用いた。しかる後に、試料ガスに含まれるFe分=α、実施例のガス置換装置1から流出する分析用ガスに含まれるFe分=β、および比較例の溶剤除去装置から流出する分析用ガスに含まれるFe分=γを、孔径0.1μmのPTFEフィルタに全量捕集し、メタノール硝酸溶液に溶解後、誘導結合プラズマ発光分析法にて測定した。
試料ガスの流量を500mL/分に固定し、置換ガスの流量を500〜2000mL/分の範囲で変化させた場合において、実施例のガス置換装置1によるFe分回収率(%)=100×β/αと比較例の溶剤除去装置によるFe分回収率(%)=100×γ/αの算出結果を図6に示す。
図6より、比較例1の溶剤除去装置においては金属微粒子回収率は置換ガスの流量に大きく影響を受け、図5から置換ガス流量が分析用ガス流量と等しくなる1000mL/分である場合、金属微粒子回収率は75.3%に留まることを確認できる。これに対し、実施例のガス置換装置1によれば、金属微粒子回収率は99.8%であり、しかも置換ガスの流量に影響を受けないことを確認できる。
【0026】
比較例1の溶剤除去装置において金属微粒子回収率を上げるために置換ガスの流量を増加させると、図5に示すように分析用ガスの流量が増加するため、プラズマを用いた分析装置においてはプラズマの信号強度を減衰させることになり、また、置換ガスの流量およびその変動を厳密に制御する必要がある。これに対し実施例のガス置換装置1によれば、置換ガスの流量がたとえ変動したとしても金属微粒子回収率は影響を受けず、しかも、試料ガスに含まれる金属微粒子のほとんどを減損することなく分析装置へ供給でき、さらに、分析装置へ導入される分析用ガスの流量も変動しない。したがって、プラズマを用いた分析装置を用いる場合は良好なプラズマ状態を維持でき、高精度分析が可能になる。
【0027】
実施例のガス置換装置と比較例の溶剤除去装置を用いて、Cd、Co、Cr、Mn、Mo、Ni、Pb、TiおよびZnの各標準溶液についても同様に金属微粒子回収率を評価したところ、上記のFe標準溶液についてと同様の結果を得た。
【0028】
なお、本発明は上記実施形態や実施例に何ら限定されるものではない。
【産業上の利用可能性】
【0029】
本発明によれば、生活環境や労働環境の環境分析や各種工業原料中の不純物分析に関し、ユースポイントでのリアルタイムの高精度分析を容易に実現することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の実施形態に係るガス置換装置の全体構成を示す断面図
【図2】本発明の実施形態に係る分析システムの構成説明図
【図3】本発明の異なる実施形態に係る分析システムの構成説明図
【図4】本発明の実施例のガス置換装置におけるガス置換性を評価するための、試料ガス流量と置換ガス流量と分析用ガスに含まれる亜酸化窒素濃度との関係を示す図
【図5】本発明の実施例のガス置換装置と比較例の溶剤除去装置における流量安定性を評価するための、試料ガス流量と置換ガス流量と分析用ガス流量との関係を示す図
【図6】本発明の実施例のガス置換装置と比較例の溶剤除去装置における置換ガス流量と金属微粒子回収率との関係を示す図
【符号の説明】
【0031】
1 ガス置換装置
2 内管
2A 多孔性隔壁
2a 内側入口
2b 内側出口
2c 内側ガス流路
3 外管
3a 外側入口
3b 外側出口
3c 外側ガス流路
100 分析装置
A、A′ 分析システム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多孔性隔壁により囲まれたガス流路において微粒子を含む試料ガスを流動させ、
前記多孔性隔壁の周囲において置換ガスを前記試料ガスの流動方向と逆方向に流動させ、前記試料ガスと前記置換ガスとの分圧差による拡散により、前記試料ガスを前記多孔性隔壁を介して前記ガス流路外に移動させると共に前記置換ガスを前記多孔性隔壁を介して前記ガス流路内に移動させ、
前記ガス流路の出口から前記置換ガスを前記微粒子と共に流出させ、
前記多孔性隔壁により、前記ガス流路の内外圧力差による前記多孔性隔壁を介するガス移動を実質的に阻止するガス置換方法。
【請求項2】
前記圧力差による前記多孔性隔壁を介するガス移動を阻止するため、前記多孔性隔壁の各孔径を実質的に0.8〜0.001μmとする請求項1に記載のガス置換方法。
【請求項3】
内管と、
前記内管を覆う外管とを備え、
前記内管は、内側入口と、内側出口と、前記内側入口と内側出口との間の内側ガス流路とを有し、
前記外管は、外側入口と、外側出口と、前記外側入口と前記外側出口との間の外側ガス流路とを有し、
前記内側入口、内側出口、外側入口、および外側出口は、前記内側ガス流路における微粒子を含む試料ガスの流動方向と前記外側ガス流路における置換ガスの流動方向が互いに逆方向となるように配置され、
前記内管における前記内側ガス流路の少なくとも一部を覆う部位は、前記試料ガスと前記置換ガスとの分圧差による拡散により前記試料ガスを前記内側ガス流路外に移動させると共に前記置換ガスを前記内側ガス流路内に移動させるための多孔性隔壁により構成され、前記多孔性隔壁の各孔径は、前記内側ガス流路における圧力と前記外側ガス流路における圧力との差による前記多孔性隔壁を介するガス移動を実質的に阻止するように設定されているガス置換装置。
【請求項4】
前記多孔性隔壁の各孔径は実質的に0.8〜0.001μmとされている請求項3に記載のガス置換装置。
【請求項5】
請求項3または4に記載のガス置換装置と、
前記ガス置換装置の内側出口から流出する微粒子の分析装置とを備える分析システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−170659(P2006−170659A)
【公開日】平成18年6月29日(2006.6.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−360102(P2004−360102)
【出願日】平成16年12月13日(2004.12.13)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 2004年8月18日 社団法人日本分析化学会発行の「日本分析化学会第53年会 講演要旨集」に発表
【出願人】(000195661)住友精化株式会社 (352)
【Fターム(参考)】