説明

ガラス光導波路

【課題】Bi、Sb、PbO、SnOおよびTeOの群からなるガラス構成酸化物のうち少なくともいずれか1つの酸化物をコアに含むガラス光導波路において、コアの断面形状が矩形のときに発生する光の大きな伝搬損失を低減する。
【解決手段】上記ガラス構成酸化物のうち少なくともいずれか1つを合計35%以上含有し、コアの断面形状が台形であって、かつ台形の平行な2辺のうち長辺が基板側にあることを特徴とするガラス光導波路とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラス光導波路に関する。
【背景技術】
【0002】
波長分割多重方式(WDM)の光通信分野で用いられる光増幅器を目的として、希土類元素が添加されたコアを有するガラスファイバの研究開発が盛んに行われているが、Er添加石英系ガラスをコアとする光ファイバでは、所望の伝送容量を得ることが困難、小型化が困難、アレイ化が困難などの問題があり、Er添加Bi系ガラス材料によるコアを用いた光ファイバ(たとえば、特許文献1参照)や、基板上に同ガラス材料による光増幅コアを形成した光導波路が提案され、開発が進められている。
【0003】
ガラス導波路としては石英ガラス系ガラス導波路が一般的に知られている。石英ガラス膜などに微細な導波路パターンを形成する方法としてはドライエッチング技術が用いられており、通常レジストまたは金属膜をマスクとしてパターニングが行われる。すなわち微細加工する石英ガラス膜上にレジストを塗布、パターン露光、現像による不要レジスト除去プロセスにより形成されたレジストパターンをそのままマスクとして、ドライエッチングが行われる。または石英ガラス膜上に金属膜を形成した後、前述のレジストのパターニングを行い、レジストをマスクとして金属膜をドライエッチングし、これを石英ガラス膜のエッチング用マスクとしてドライエッチングが行われる。
【0004】
図3は従来の光導路の作製方法を示す概念的断面図であり、これを用いて説明する。ここでは、金属膜をマスクとして石英ガラス膜をドライエッチングする。石英ガラスまたはSiからなる基板11上に、まず下地クラッド膜12が形成され、続いて下地クラッド膜12上に厚さ5〜10μmの石英ガラスからなるコア膜13を形成する(図3(a))。その後、コア膜13上に金属膜14を形成し(図3(b))、その上にレジスト15が均一塗布され、マスクアライナでコア回路パターンを露光、現像して回路パターンが転写されたレジストパターンが生成される(図3(c))。そのレジストパターンをマスクとして、図3(d)に示すように反応性イオンエッチングにより金属膜14をドライエッチングし、金属マスクパターンを形成し、レジストを除去する(図3(e))。次に、金属マスクパターンをマスクとしてコア膜13がエッチングされ(図3(f))、その後、金属マスクパターンが除去され(図3(g))、上地クラッド膜16がコア上に被せられ、光導波路が作製される(図3(h))。
【0005】
図2は、図3の石英ガラス導波路におけるコア周辺部の拡大図で、光導波路断面概念図である。21はコア、22はクラッド、22aは下地クラッド膜、22bは上地クラッド膜、23は基板である。コアの断面形状は、通常矩形であり、通常は正方形である。これは、以下の理由による。導波路における光損失原因は、光の入出力端部での結合損失と導波路自体の伝搬損失である。導波路自体の損失は、膜自体の損失、エッチング後のコア側壁の荒れ、導波路の構造設計などが原因で生じるものであり、コアの断面形状には関係しない。これに対し、結合部での損失はコアの断面形状に密接に関係する。入力用ファイバなどの入出力素子の中における光の伝搬モード(以下、「光の伝搬モード」のことを単に「モード」という)と導波路のモードの重なりが大きいと損失は小さくなるが、重なりが小さいと損失は大きくなる。通常入出力素子中のモードは円形状であるため、導波路のモードも円形状に設計する。導波路の形状が正方形であるとモードは円形になるため、結合損失が小さくなる。上記理由により、通常のガラス導波路のコア形状は矩形であることが多い。
【0006】
一方、石英ガラス導波路を用いたアレイ導波路グレーティング光合分波器(AWG)において、導波路の一部を矩形ではなく台形にする検討が行われている(特許文献2参照)。AWGにおける光損失は、入出力素子とAWG素子の結合損失、AWG自身の損失、AWGを構成するスラブ導波路とアレイ導波路の接続部分における放射損失の和である。この損失の大半を占めるのは、スラブ導波路部とアレイ導波路部との接続部分における放射損失である。
【0007】
スラブ導波路部からアレイ導波路部に光が入射する際、接続部分における等価屈折率が急激に変化するため、伝搬した光の一部はクラッドに漏れ出る。これが原因で放射損失が大きくなる。等価屈折率の急激な変化を緩和するために、アレイ導波路の接続部近傍のコア形状を台形にすることが好ましいとされている。
【0008】
【特許文献1】特開2001−102661号公報
【特許文献2】特開2003−4958号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかし、光導波路の光増幅コアに用いられるEr添加Bi系ガラスなど、Bi、Sb、PbO、SnOおよびTeOからなる群から選ばれた1種以上の酸化物を質量百分率表示で合計35%以上含有するガラス膜(以下、Bi等含有ガラス膜と呼ぶ)に対して、ドライエッチングによりコア形状を矩形にするとパターンの側壁が平滑にならないという新たな問題が発生することがわかった。これは、石英系ガラスをドライエッチングしたときの反応生成物は揮発性が高く、速やかにエッチング系外へ排出されるのに対して、Bi等含有ガラス膜の場合は、ドライエッチングの際にガラス膜の成分とエッチングガスとの反応で生成する物質の揮発性が乏しいため、コア形状を矩形にすると、反応生成物がコア側壁に付着し、垂直に近い角度のある側壁ではエッチングできないため、表面荒れを起こすためと考えられる。平滑なコア側壁が得られないと、導波路としたときにコアとクラッドとの界面で信号光が散乱して伝搬損失が大きくなるという致命的な問題を生じるので、実用化が難しい。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は前述の課題を解決するためになされたものであり、平面基板上に形成されたガラスからなるコアとクラッドとを備える光導波路であって、コアのガラス構成酸化物としてBi、Sb、PbO、SnOおよびTeOからなる群から選ばれた1種以上の酸化物を質量百分率表示で合計35%以上含有し、コアの断面形状が基板側に長辺を有する台形であって、かつ台形を構成する4辺のうち長辺と2つの斜辺のいずれともなす角度がそれぞれ60〜80°の範囲にあることを特徴とするガラス光導波路を提供する。
【0011】
この構成により請求項1に係る発明は、上記のBi等含有ガラス膜、すなわちBi、Sb、PbO、SnOおよびTeOからなる群から選ばれた1種以上の酸化物を質量百分率表示で合計35%以上含有するガラス膜、に対してドライエッチングによりパターンの側壁が平滑にならないという問題を解決し、導波路としたときのコアとクラッドとの界面での信号光の散乱に基づく伝搬損失を抑えることができる。
【0012】
また、前記クラッドのガラス構成酸化物は、Bi、Sb、PbO、SnOおよびTeOからなる群から選ばれた1種以上の酸化物からなり、コアとクラッドの屈折率差をコアの屈折率で除した値が0.0003から0.1までの範囲にある上記のガラス光導波路を提供する。
【0013】
この構成により、1.55μmを中心とする通信波長帯においてシングルモード伝搬が可能な低損失の光導波路とできる。除した値が0.0003を下回るとコアとクラッドの屈折率差が小さくなりすぎるために、光を十分にコア内に閉じ込めておくことができないおそれがある。一方、除した値が0.1を超えると、導波路内を伝搬可能なモードが単一ではなく、複数になりマルチモード導波路となる場合がある。
また、コアのガラス構成酸化物が、Biを質量百分率表示で合計35%以上含有したガラス構成酸化物である上記のガラス光導波路を提供する。
この構成により、非線形光導波路などに用いる場合、その非線形性を増加させることができる。
【0014】
また、コアのガラス構成酸化物が、ErおよびTmの少なくともいずれか一方を含有する上記のガラス光導波路を提供する。
この構成によって、ErおよびTmの少なくともいずれか一方を含有することによって、光増幅導波路を提供できる。
さらに、上記のガラス光導波路のコアが、ドライエッチング法により形成されていることを特徴とするガラス光導波路の製造方法を提供する。
【0015】
この構成によりガラス光導波路のコアが、Bi、Sb、PbO、SnOおよびTeOからなる群から選ばれた1種以上の酸化物からなるとき、ドライエッチング法によってコアを形成することにより、コアの側壁周辺への付着物を除去し側壁を平滑にできる。
【発明の効果】
【0016】
本発明の光導波路によれば、Bi、Sb、PbO、SnOおよびTeOからなる群から選ばれた1種以上の酸化物を質量百分率表示で合計35%以上含有したガラス材料をコアとする伝搬損失の少ない光導波路が得られる。
【0017】
本発明のガラス光導波路は、0.4〜2μmの波長帯における光増幅導波路、非線形光導波路などに好適であり、たとえばCバンド(1530〜1565nm)の信号光など、1.45〜1.64μmの波長帯の光を増幅できる。また、本発明により、コンパクトな光導波路が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
<基板とガラス膜の形成方法>
本発明における微細加工を行うガラスは、基板上に種々の方法によって形成されたガラス膜でもよいし、ガラス基板そのものでもよい。
基板については、50GPa以上のヤング率を有することが下記の理由により好ましい。すなわち、基板のヤング率が50GPaより低いと、基板上に形成した膜に応力が発生したとき、その応力により基板の反りや変形が生じ、導波路の形状が設計値から外れ易くなるためである。このようなヤング率が50GPa以上の物質として、Si、GaAs、Al、MgO、サファイアなどの結晶、石英ガラス、ソーダライムシリカガラス、無アルカリガラス、プラズマディスプレー用ガラスなどのガラスが例示できる。
【0019】
基板の材料は、上記した材料からなるものに限定されるものではないが、一連の工程中に、コアガラス膜をアニールしたり、同一基板上に他の素子を形成する工程で高温を要したりするなど、高温処理工程が含まれる場合には、この工程に耐える必要がある。
【0020】
また、本発明における基板の形状は限定されないが、ガラス薄膜が形成される面は通常平面である。また通常、基板の大きさと形状はそれぞれ2mm×10mm〜200mm×200mmである矩形基板、直径が50〜205mmの円形基板であって、厚さは0.3〜2mmである。ガラス膜の厚さは通常3〜70μmであるが、これに限定されるものではない。
【0021】
基板上へのガラス膜の形成は、例えば物理的蒸気凝縮法(PVD)または化学的蒸気凝縮法(CVD)によって行われる。物理的蒸気凝縮法としてはスパッタリング法、レーザーアブレーション法、電子ビーム蒸着法、真空蒸着法が例示され、また化学的蒸気凝縮法としてはプラズマCVD法、MOCVD法が例示される。
成分数が4または5以上であるガラス薄膜を作製する場合、スパッタリング法を用いることが以下の理由により好ましい。
【0022】
プラズマCVDやMOCVD、蒸着法を用いて成分数の多い膜を作製すると、原料の熱的性質が異なったり、あるいは、元素成分によって熱的性質が異なったりするため、反応容器内での原料混合や膜の組成調整が困難となる。これに対して、スパッタリング法では多成分であっても、成分ごとにターゲットを用意し、印加するRFパワーを調整することにより組成調整が容易である。また、膜成分と同一の組成を有するターゲットを作製しても成膜することも可能である。ただし、この場合、膜の組成がターゲット組成と一致しないことがあるので、その場合は所望の膜組成が得られるように組成を調整したターゲットを用いることが望ましい。
【0023】
ターゲットは、例えば、構成する酸化物の粉末を所望の組成比で調合し、らいかい機により乾式混合し、1150℃に加熱した電気炉中にて溶解し、その後ステンレス板上に流し出したものを、所望の厚さ、外形寸法に加工し、バッキングプレートにインジウムなどを用いてボンディングして作製される。また、電気炉中で溶解せずに、単に酸化物粉末を混合したものや、電気炉で溶解したガラスを粉砕したものを、ホットプレスなどの方法で焼結、成形して用いてもよい。
【0024】
<ガラス膜の組成>
本発明で微細加工されるガラス膜、すなわちコアのガラス構成酸化物は、Bi、Sb、PbO、SnOおよびTeOからなる群から選ばれた1種以上の酸化物、より好ましくはBiを質量百分率表示で35%以上含有する組成を有する。以下、単に%と記載した場合は、質量百分率表示をいうこととする。さらに好ましくは、本質的にBi 35〜90%、SiO 2〜40%、Ga 0〜55%、Al 0〜50%、Er 0〜10%、Tm 0〜10%、Yb 0〜10%なる組成であることが好ましい。また、その他の成分を合計で25%以下、好ましくは15%以下の範囲で含有してもよい。
【0025】
Bi、Sb、PbO、SnOおよびTeOは屈折率を高くするための成分であり、少なくともこれら5成分の中のいずれか1種は含有しなければならない。Biの含有量、Sbの含有量、PbOの含有量、SnOの含有量およびTeOの含有量の合計が35%未満では光増幅率または非線形性が低下する。また、前記合計は90%以下であることが好ましい。90%超ではガラス化しにくくなるおそれがある。
【0026】
本発明導波路を光増幅導波路、非線形光導波路などに適用する場合、コアのガラス構成酸化物として、Biを35〜90%含有することが好ましい。35%未満では光増幅率または非線形性が低下する。より好ましくは40%以上であり、特に好ましくは60%以上である。90%超ではガラス化しにくくなる。より好ましくは85%以下である。
【0027】
SiOは必須ではないが、ガラス安定性を高めるために含有することが好ましく、その含有量は2〜40%であることがより好ましい。2%未満ではガラスを安定化させる効果が小さい。より好ましくは3%以上である。40%超では屈折率が小さくなって光増幅率または非線形性が低下するおそれがある。
【0028】
Gaは必須ではないが、含有させるとガラスの耐失透性を向上できて好ましい。とくに熱的安定性を高めるために55%まで含有してもよい。55%超では結晶化しやすくなる。また、Ga量が25%を超えると、導波路をドライエッチングで作製する際に側壁の平滑性が低下させ、導波路の損失を大きくするおそれがあるので、25%以下が好ましい。また、本発明のガラス光導波路を光増幅導波路として用いる場合にGa量を5%以上含有させると、利得が得られる波長幅が広がるので好ましい。
【0029】
Alは必須ではないが、熱的安定性を高めるために50%まで含有してもよい。50%超では結晶化しやすくなる。導波路をドライエッチングで作製する際に側壁の平滑性を向上させるためには、Al量は5%以下とすることが好ましい。これにより、導波路の損失を大きく低減することができる。
【0030】
ErおよびTmは単なるガラス成分としてはいずれも必須ではないが、光増幅を行わせるときにはいずれか一種または両方を0.01%以上含有することが必要である。ErとTmのいずれかを単独で含有するときはその含有量、両方を含有するときはそれらの合計の含有量は、10%超ではガラス化しにくくなるので0.01〜10%であることが好ましい。また5%超では濃度消光が起きて光増幅率が低下し易いので、より好ましくは0.01〜5%である。さらに好ましくは0.1〜2%である。すなわちコアのガラス構成酸化物がErまたはTmのいずれか一方を含有することが好ましい。光増幅器を構成する場合は必須である。
【0031】
Ybは必須ではないが、濃度消光を抑制するために、または、ErまたはTmと併用して光増幅率を大きくするために10%まで含有してもよい。10%超ではガラス化しにくくなる。より好ましくは0.1〜5%である。
【0032】
光増幅導波路のコアガラス膜の組成は典型的には、Biが35〜90%、SiOが2〜40%、Gaが5〜25%、Alが0〜5%、ErとTmの合計が0.01〜10%、Ybが0〜10%から本質的になる組成である。より好ましくは、Biが40〜85%、SiOが2〜40%、Gaが5〜25%、Alが0〜5%、ErとTmの合計が0.01〜10%、Ybが0〜10%から本質的になる組成である。また、その他の成分を合計で25%以下、好ましくは15%以下の範囲で含有してもよい。
【0033】
光増幅導波路のコアガラス膜は、前述の組成に加えてLaを0.5%以上含有させると、光増幅活性であるErイオンまたはTmイオンなどの分散性が向上するので好ましい。また、5%超では失透し易くなるので、5%以下とすることが好ましい。
【0034】
本発明のガラスまたはガラス膜には結晶は析出していない。すなわち、X線回折パターンに回折ピークが認められない。
【0035】
<ガラス膜またはガラスのパターニング>
ガラス膜のパターニングをドライエッチングにより行うとして説明する。パターニングするためのマスクは、WとSiの合金からなる膜を用い、前記ガラス膜の上に形成される。前記マスク膜を形成する方法としては、スパッタリング法が好ましく用いられるが、他の膜形成方法を用いることもできる。続いてマスク膜の上に、スピンコート法などによりレジスト膜が形成され、紫外線を照射して所望のパターンを露光、現像して、レジスト膜に所望パターンが形成される。このレジストパターンを用いて、ドライエッチングによりマスク膜をパターニングして、酸素ガスを利用したドライエッチング(灰化処理)、または剥離液などによる湿式除去によりレジスト膜を除去する工程を経て、所望のパターンに形成されたマスクが得られる。
【0036】
前記マスク膜の組成は、WとSiの総原子に対するWの原子%で25〜65%である。
Wの量が65原子%を超える組成ではマスク膜と前記ガラス膜との間の密着性が不十分となり、マスク膜の応力により膜が基板から剥がれたり、膜にクラックが入ったりする問題が生じるおそれがある。また、Wの地金は高価なため材料費が嵩み、コスト的にも好ましくない。
【0037】
前記W量が25原子%未満では選択比、すなわち前記ガラス膜とマスク膜とのエッチングレートの比が小さいため、前記ガラス膜のパターニング中に、マスク膜がエッチングされる損耗量が大きくなる。そのため、マスク膜の膜厚を厚くする必要があり、マスク膜の形成に長時間を要したり、厚膜のため材料コストが嵩んだりする問題が生じるおそれがある。
【0038】
選択比は2以上であることが好ましい。より好ましくは2.5以上である。
スパッタリングにより前記WとSiの合金からなるマスク膜を形成する場合、使用するターゲットの純度は99.5%以上が好ましい。不純物としてドライエッチングしにくい元素が含まれると、ガラスのパターニングを平滑かつ設計通りにできなくなるおそれがあるためである。より好ましくは99.9%以上である。
【0039】
スパッタリングによるマスク膜形成はアルゴンガス中で行うことが好ましいが、不活性ガス中であれば問題ない。酸化性のガスが混入すると合金が酸化され、前記ガラス膜をドライエッチングする際にマスク膜がエッチングされて損耗が増大し、所望の選択比が得られなくなるおそれがある。使用するガスの純度は、99.995%以上が好ましい。より好ましくは99.999%以上である。
【0040】
成膜圧力は0.2〜10Paが好ましい。0.2Paを下回るとプラズマが不安定になり易かったり、また、膜応力が大きくなって膜剥がれを起こし易くなったりするおそれがある。10Paを越えると膜質が低下し、マスク膜の前記損耗が増えて所望の選択比が得られなくなるおそれがある。
【0041】
スパッタは、RFスパッタよりDCスパッタの方が好ましい。DCスパッタの方が、膜剥がれが起こりにくいためである。また、投入電力密度(ターゲットサイズに対して印加する電力)は、2.5〜7W/cmが好ましい。2.5W/cmを下回ると、所望の膜厚を得るための時間が非常に長くなり実用的でなくなることがある。また、7W/cmを超えると異常放電が起こり易くなり、マスク膜にピンホールが発生してパターニング欠点となる場合がある。
【0042】
マスク膜を形成するときの基板温度は、室温(25℃)から300℃までの範囲が好ましい。300℃超に加熱すると、冷却過程で膜剥がれを起こしやすくなるおそれがある。
【0043】
マスク膜の厚さは、ドライエッチングを行うガラスの加工深さと選択比とから必然的に決まるが、マスク膜の厚さが0.1μm未満だと、ガラス膜のドライエッチング中にプラズマによる加熱の影響を受け易く、マスク材のエッチングによる損耗が加速されてパターニング不良が起こり易くなる場合がある。また、マスク膜の厚さが3μmを超えると、マスク膜のパターニングに必要なレジスト厚さが厚くなって設計通りのパターニングが難しくなる場合がある。したがってマスク膜の厚さは0.1〜3μmが好ましい。
【0044】
前記のマスク膜のドライエッチングは、Cl、CF、CHF、C、C、NF、SFなどの塩素系またはフッ化物ガスを用いて、反応性イオンエッチング(Reactive Ion Ethcing)、反応性イオンビームエッチング(Reactive Ion Beam Ethcing)、誘導結合型プラズマ(Inductively Coupled Plasma)エッチング(以下ICPエッチングという)、磁気中性線放電プラズマ(Neutral Loop Discharge)エッチング(以下NLDエッチングという)などによって行うことができる。
【0045】
引き続ドライエッチングにより、前記ガラス膜またはガラスに所望のパターニングを行う。
【0046】
前記ガラス膜またはガラスのエッチングは、NLDエッチングにより、CF、CHF、C、Cなどのフッ化物ガスとArガスとの混合ガス雰囲気中でドライエッチングすることが好ましい。このときフッ化物ガスとArガスとの合計の全流量に対するフッ化物ガスの流量比は、5〜22%が好ましい。フッ化物ガスの流量比が22%より大きいとパーティクルが増えて光導波路としたときの光散乱が増えたり、ドライエッチング速度が減少したりする恐れがある。一方、5%より小さいと、ドライエッチングされた側面に筋状の荒れが生じ、光導波路としたときの光散乱を起こす恐れがある。
【0047】
前記ガラスまたはガラス膜におけるドライエッチングの条件の例としては以下のようなものがある。使用した装置は(株)アルバック製プラズマエッチング装置NLD500であって、ArガスおよびCガスの流量がそれぞれ標準状態換算で45cm/分、5cm/分、圧力が0.2Pa、アンテナパワー1200W、バイアスパワー250W、チャンバー縦方向に3つある中性磁場生成コイルの電流が上から10、16.7および10A、基板温度20℃などである。この条件で、厚さ4μmの前記ガラス膜を15分間でエッチングすることができた。もちろんここに挙げた条件は一例であって、これに限定されるものではない。
【0048】
本発明のガラス光導波路コア近傍の拡大断面図を図1に示す。31はコア、32はクラッド、32aは下地クラッド膜、32bは上地クラッド膜、33は基板である。エッチング後のコア断面形状は台形である。矩形でなく、台形にする理由は以下の通りである。本発明のBi、Sb、PbO、SnOおよびTeOの少なくともいずれか1つのガラス構成酸化物を含有するガラスまたはガラス膜は、ドライエッチングにより揮発性の低い反応物が生成する。このため、Arイオンを利用し物理的に削り取るエッチングを反応性イオンエッチングと並行して行う。エッチング中には、ガラスのエッチングと反応生成物のコア側壁への付着が繰り返し起こる。
【0049】
コア形状を台形にすると、反応生成物がコア側壁に付着してもArイオンによる物理的エッチングが可能なため、平滑な側壁が得られるが、コア形状を矩形のように反り立った構造にすると、コア側壁に付着した反応生成物を物理的に削り取ることができなくなり、パターンの側壁が平滑にならない。台形の形状は、台形を構成する4辺のうち長辺と斜め2辺の角度AおよびBがいずれも60〜80°の範囲にある。より好ましくは、65〜76°である。80°を超えるとコア側壁に付着した、ガラス膜を構成する成分とエッチングガスとの反応生成物が除去できないため、平滑なエッチングができなくなるおそれがある。60°を下回ると、入出力素子との結合損失が大きくなるおそれがある。
【0050】
コアの形成方法には、ドライエッチング法の他に、プレス法などがある。プレス法は、基板が変形する程度の温度まで加熱し金型で基板をプレスしコア加工を行う。このため、基板が反ったり、応力が入ったりする問題がある。また、下地クラッドとコアを基板上に形成した後にプレス成型するため、凹凸形状は得られるが、コアの側部にプレスされたコア膜が残存するため、コアとクラッドの屈折率構造が複雑になり導波路としては十分でない。これに対し、ドライエッチング法は基板の変形や反りの問題はなく、また、コアとして残す箇所を除きコア膜はエッチングにより取り除かれるため、コアとクラッドの構造は単純なものとすることができる。とくに、上記の角度AおよびBがいずれも60〜80°の範囲にあるようにしているため、コアの側壁周辺への付着物である、ガラス膜の成分とエッチングガスとの反応生成物が充分に除去され、極めて平滑な側壁を得ることができる。
【0051】
前記ガラスまたはガラス膜をパターンニングした後、マスク膜は、塩素系またはフッ化物系のガスを用いてドライエッチングにより除去される。ドライエッチングは、反応性イオンエッチング、反応性イオンビームエッチング、ICPエッチング、NLDエッチングなどによって、Cl、CF、CHF、C、C、NF、SFなどの塩素系またはフッ化物系のガス雰囲気中で行う。エッチングガスに酸素を加えてもよい。
【0052】
<ガラス光導波路の形成>
本願発明における微細加工方法により、Biなど含有ガラス膜をパターニングしてコアを形成し、WDM光通信に用いられるガラス光増幅導波路を形成できる。この光増幅導波路においては、励起光の存在下、コアガラス中を伝播する例えば1.45〜1.64μmの波長の信号光が増幅される。本発明の微細加工方法により形成される光導波路はこれに限定されず、例えば非線形光導波路の形成に適用してもよいが、以下は、光増幅導波路の形成について述べる。
【0053】
コアとなるガラス膜の屈折率nは、1.7以上であることが好ましい。これは、前述のガラスによる光増幅は、励起光により誘導されて起こる、信号光波長の光の誘導放出によるものであり、屈折率が大きい方が、利得係数が大きいためである。屈折率が1.7未満では光増幅率または非線形性が低下するおそれがある。より好ましくは、nは1.8以上である。また、通常は2.3以下である。なお、本明細書中における屈折率とは本発明の光導波路を用いる波長帯域における屈折率をいうものとする。
【0054】
クラッドは、コア内に光を閉じ込めることができるものであれば特に限定されないが、クラッドの屈折率nは、コアとクラッドの屈折率差n−nをΔnとしたときに、0.0003≦Δn/n≦0.1を満足することが好ましい。コアとクラッドの屈折率差をコアの屈折率で除した値、すなわちΔn/nが0.0003未満では光をコア内に閉じ込めることが困難になる場合がある。このため、光は伝搬するにつれ拡がり、出力端において出力素子(例えば、出力用シングルモードファイバー)との接続で大きな損失が生じてしまう。また、曲げ導波路(曲線部を有する導波路)を作製する場合、伝搬する光を導波路内に閉じ込められないと、曲げることにより伝搬光の一部が放射していき、伝搬損失が増大するおそれがある。Δn/nは、0.0003以上でより好ましくは0.001以上、特に好ましくは0.003以上である。
【0055】
一方Δn/nが0.1超ではシングルモードで光を伝播することが困難になり、マルチモードとなる場合がある。マルチモードとなると、これらのモードは各モードごとに軸方向に伝搬する速度(群速度)が異なるため、同じ長さを伝搬してもモードによって出力端に到着する時間が異なり、光のパワーが分散する。分散が大きいと高速のパルス信号を送った時にパルスの形がなまってしまい、前後のパルスと区別がつかなくなる。このため、高速伝送ができなくなるおそれがある。Δn/nは0.1以下でより好ましくは0.08以下、特に好ましくは0.05以下である。
【0056】
コアが先に述べた典型的な組成範囲にある場合、クラッドは、ErおよびTmのいずれも含有しない点を除き前記組成範囲と同じ範囲にあることが好ましい。コアとクラッドとで組成範囲が異なると、ガラス転移点、膨張係数、軟化点などが異なるため加熱や冷却の過程で熱応力を生じ、導波路を作製する過程で膜剥がれが生じたり、残留応力が発生したりする可能性がある。熱的性質が大きく相違せず、かつ屈折率を前記範囲内に調整できれば、クラッドは前記組成範囲に限定されるものではない。
【0057】
光増幅導波路では、コアは下地クラッドの上に形成され、本願発明における方法によりコアが微細加工された後、上地クラッドがその上に形成される。コアとクラッドの厚さはそれぞれ0.3〜10μm、2〜60μmであることが好ましく、典型的には、下地クラッドの厚さは1〜30μm、上地クラッドの厚さは1〜30μmであるが、上記範囲に限定されるものではない。
【0058】
下地クラッド膜および上地クラッド膜を形成する方法としては、コアガラス膜を形成する方法で挙げた種々の手法が適用できるが、コアガラス膜と同様、成分数が4または5以上であるガラス膜であるので、スパッタリング法が好ましい。
【0059】
すなわち、基板の上に、スパッタリング法によりまず下地クラッド膜(図1のガラス薄膜32aに相当)となるべき第1の膜が形成され、次にコア(図1のコア31に相当)となるべき第2の膜が形成される。このとき、所望の膜組成が得られるように組成調整したターゲットを用いる。また、コア膜をドライエッチングプロセスによるダメージから保護するために、コアの上に後述の上地クラッド膜を保護膜として形成してもよい。保護膜を用いる場合は、その厚さは25〜1000nmが好ましい。1000nmより厚いと、ドライエッチングでコア膜と保護膜をエッチングする厚さが厚くなり、ドライエッチング時間が大幅に増加する場合がある。25nmより薄いと、コア膜をダメージから保護する必要があるときに、その効果が十分得られないおそれがある。
【0060】
第2の膜または保護膜の上に、WとSiとの合金からなるマスク膜が形成される。
WとSiとの合金からなるマスク膜を形成する方法としては、スパッタリング法が好ましく用いられる。引き続いてマスク膜の上にスピンコート法を用いてレジスト膜が形成され、所望パターンのフォトマスクを用いて紫外線を照射、現像してレジスト膜に所望のパターンが形成され、このレジスト膜のパターンを用いてマスク膜をドライエッチングし、最後に酸素ガスを利用したドライエッチングまたは剥離液によるレジスト膜の除去処理を経て、所望のパターンに形成されたマスクが得られる。
【0061】
前記のマスク膜のドライエッチングは、Cl、CF、CHF、C、C、NF、SFなどの塩素系またはフッ化物系のガスを用いて、反応性イオンエッチング、反応性イオンビームエッチング、ICPエッチング、NLDエッチング等によって行う。
【0062】
続いて前記第2の膜を、先に述べたガラス膜のエッチングの場合と同様にしてドライエッチングし、所望のコアのパターンを形成する。前記保護膜が用いられている場合には、保護膜も一緒にドライエッチングしてパターニングを行う。ガラス膜を微細加工してコアを作製する場合、コア用に形成したコア膜のみならずコア膜の下に形成した下地クラッドにも入り込むまでエッチングが行われることが好ましい。また、コア膜に保護膜が被覆されていてコアを作製する場合、エッチングは保護膜から始めて、コア膜を経て下地クラッドに入り込むまで行われることが好ましい。下地クラッドに入り込むまでエッチングを行う場合には、下地クラッドの削り量は2μm以下が好ましい。2μm以上エッチングすると、コアを覆うための上地クラッドの厚さが不必要に厚くなるため好ましくない。
【0063】
さらに、先に述べたガラス膜のエッチングの場合と同様にしてマスク膜をドライエッチング法により除去し、さらに、スパッタリング法を用いて上地クラッド膜(図1のガラス薄膜32bに相当)を形成する。上地クラッド膜を成膜した後に、酸素雰囲気中でアニール処理を行ってもよい。
必要に応じ、基板上に他の素子を形成するなど行って、最後に所望の寸法に切断する。
【0064】
コアのガラス構成酸化物としてErおよびTmの少なくともいずれか一方を含有する本発明のガラス光導波路は、レーザー発振させるためのレーザー媒体として用いることができる。本発明のガラス光導波路をレーザー発振させるためのレーザー媒体として用いてレーザー発振させるためには、レーザー媒体として用いられる本発明のガラス光導波路(以下、本発明の光導波路型レーザー媒体という)の両方の端面に、レーザー発振させる波長の光に対する反射率が高いミラーが形成され備えられているファブリ・ペロー型の共振器の構成を用いることができるが、他の構成を適用することも可能である。ファブリ・ペロー型の共振器の構成とする場合には、一方の端面に、外部の光源から励起光を入射させ(以下この端面を励起光入力端面という)、本発明の光導波路型レーザー媒体のコアに含有されるErおよびTmの少なくともいずれか一方がレーザー活性イオンとして作用して励起光を受けて発光し、レーザー発振して、他方の端面(以下、レーザー光出力端面という)からレーザー光が取り出される。
【0065】
励起光入力端面に形成されるミラーは、発振光に対する反射率は高いほど発振し易くなるので好ましい。好ましくは90%以上、より好ましくは99%以上である。また、励起光に対する透過率を高くすると、反射による励起光の損失を減らしてレーザー媒体に入力される励起エネルギーを増すことができて好ましい。好ましくは99%以上、より好ましくは99.5%以上である。
【0066】
レーザー光出力端面に形成されるミラーは、発振光に対する反射率は典型的には40%以上であるが、レーザー媒質の利得などによって最適に調整されることが好ましい。
【0067】
かかるミラーは、低屈折率層材料としてSiO、高屈折率層材料としてTaをそれぞれ用いて、励起光の光源波長およびレーザー発振波長に対して前述の光学特性が得られるように各層の膜厚が設計され積層された誘電体多層膜が好ましく例示されるが、これに限定されない。
【0068】
励起光源から光導波路へ励起光を入力させる方法は、空間出力の励起光源からレンズ等により集光させ入力させてもよく、あるいは、ファイバ出力型の励起光源を用いてファイバにより導波路へ入力してもよく、特に制限はない。
【0069】
本発明の光導波路型レーザー媒体に用いるコアのガラス構成組成物として、Bi、Sb、PbO、SnOおよびTeOからなる群から選ばれた1種以上の酸化物、より好ましくはBi、を質量百分率表示で35%以上含有する組成に対して、レーザー活性イオンとして前述のErを含有させる場合には、前述のミラーを、波長980nmの光に対して高透過率であって波長1530nmの光に対して所望の反射率をもつミラーとするとともに、励起光として波長980nm帯を用いると、波長1530nmの発振光が得られる。この励起光を出射する光源としては、波長980nm帯の発振波長をもつ半導体レーザー光が例示される。レーザー活性イオンとしてErイオンに代えてTmイオンを用いる場合は、励起光の波長を800nm帯として、波長1800nm帯のレーザー光が得られる。このとき、ミラーの光学特性は用いる励起光波長および発振光波長に合わせたものとする。レーザー活性イオンとして前述のErイオン、Tmイオンに代えて、Ybイオンを用いると、励起光として半導体レーザーから出射される980nm帯を用いて1060nm帯のレーザー発振を、Hoイオンを用いると、励起光としてラマンファイバーレーザーやYbファイバーレーザーから出射される1100nm帯の光を用いて2000nm帯および3000nm帯のレーザー発振を、それぞれ行わせて、それぞれの波長のレーザー光が得られる。
【0070】
本発明のガラス光導波路を、レーザー発振させるためのレーザー媒体として用いる場合には、コアのガラス構成酸化物として前述のBi、SiO、Ga、Al、Ybから本質的になるガラス組成に対して、ErおよびTmの少なくともいずれか一方を含有するガラス組成が用いられる。また、Er、Tmに代えてYb、Hoを含有させてもよい。すなわち、Er、Tm、Yb、Hoからなる群から選ばれた元素の酸化物を、いずれか1種のみを含有させてもよく、あるいは2種以上を同時に含有させてもよい。Er、Tm、Yb、Hoの含有量(2種以上を同時に含有させる場合はその合計含有量)は、0.01〜10%とすることが好ましい。充分な強度のレーザー発振を行わせるためには、0.01%以上とされる。10%超ではガラス化しにくくなるので10%以下が好ましい。また5%超では濃度消光が起きて光増幅率が低下し易いので、より好ましくは0.01〜5%である。さらに好ましくは0.1〜2%である。
【0071】
レーザー発振させるためのレーザー媒体として用いるコアガラス膜は、前述の組成に加えてLaを0.5%以上含有させると、レーザー活性であるErイオン、Tmイオン、Ybイオン、またはHoイオンの分散性が向上するので好ましい。また、5%超では失透し易くなるので、5%以下とすることが好ましい。
【実施例】
【0072】
以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明するが、以下の説明が本願発明を限定するものではない。
【0073】
表1に質量百分率表示で示す組成物を、高純度化学研究所社製の粉末状試薬Bi(純度99.999%、粒度20μm)、SiO(純度99.9%、粒度4μm)、Ga(純度99.9%)、Al(純度99.9%)、B(純度99.9%)、La(純度99.9%)、Er(純度99.9%)、CeO(純度99.9%)を用いて調合後らいかい機により乾式混合し、1150℃に加熱した電気炉中にて溶解し、その後ステンレス板上に流し出し、直径101.6mmのガラスを得た。得られたガラスを厚さ3mmまで研削し、その後スパッタ用バッキングプレートにインジウムを接着剤として用いてボンディングすることによりスパッタリング用ターゲットT1およびT2を作製した。
【0074】
このターゲットを用いて形成したガラス膜をドライエッチングによりパターニングし、導波路を作製し評価を行った。例1、2、5、6は実施例、例3、4は比較例である。
【0075】
【表1】

【0076】
「例1]
ソーダライムシリカガラス円形基板11(厚さ1mm、直径76.2mm)の上に厚さ6.6μmのクラッド膜12を形成した。すなわち、T2ターゲットを用い、基板温度は20℃、スパッタリング用ガスとしてアルゴンおよび酸素をそれぞれ標準状態換算で流量30cm/分、0.5cm/分、圧力は0.3Pa、投入高周波電力は100W、スパッタリング時間は66時間、の条件でスパッタリングを行った。基板上に形成されたガラス膜のX線回折測定をしたところ回折パターンにピークは認められず、非晶質であることが確認された。
【0077】
次に、下地クラッド膜の上に厚さ3.3μmのコア膜13を形成した。すなわち、T1ターゲットを用い、基板温度は20℃、スパッタリング用ガスとしてアルゴンおよび酸素をそれぞれ標準状態換算で流量30cm/分、0.75cm/分、圧力は0.3Pa、投入高周波電力は100W、スパッタリング時間は21時間の条件でスパッタリングを行った。基板上に形成されたガラス膜のX線回折測定をしたところ回折パターンにピークは認められず、非晶質であることが確認された。また、質量百分率表示でのBiの量は74.1%であった。
【0078】
次に、コア膜13の上に保護膜(上地クラッドとなる膜)を300nm形成した。すなわち、T2ターゲットを用い、基板温度は20℃、スパッタリング用ガスとしてアルゴンおよび酸素をそれぞれ標準状態換算で流量30cm/分、0.5cm/分、圧力は0.3Pa、投入高周波電力は100W、スパッタリング時間は3時間の条件でスパッタリングを行った。
【0079】
次に、直径101.6mmのWSiターゲットを用いて厚さ1.3μmのマスク膜14を形成した。すなわち、基板温度は20℃、スパッタリング用ガスとしてアルゴンを標準状態換算で流量10cm/分、圧力は2Pa、投入DC電力は300W、スパッタリング時間は100分の条件でスパッタリングを行った。
【0080】
次に、マスク膜14の上にスピンコート法を用いて厚さ2.4μmのポジレジスト膜を形成した。ポジレジスト膜を96℃のホットプレート上で仮焼した後、マスクアライナを用いて波長436nmの紫外線を照射し、前記ポジレジスト膜の上に、幅3〜8μm、長さ50〜76mmの直線状コアパターンがピッチ125μmで30個形成されたパターンを形成した。ポジレジスト膜の紫外線照射部分は現像液により除去し、次にICPエッチング装置NE550((株)アルバック製)によってドライエッチングを行った。該ドライエッチングは、CHFガスおよびSFガスの流量がそれぞれ標準状態換算で25cm/分、5cm/分、圧力が0.5Pa、アンテナパワー800W、バイアスパワー20W、基板温度20℃、の条件下で9分間行い、マスク膜14のパターニングを行った。
【0081】
次に、レジストを剥離液によりマスク膜14上から除去した後、前述のICPエッチング装置により以下の条件で灰化処理を行った。すなわち、基板温度20℃、灰化用ガスとして酸素を標準状態換算で20cm/分、圧力1Pa、アンテナパワー300W、バイアスパワー10W、の条件下で5分間灰化処理を行い、レジストを除去した。
【0082】
次に磁気中性線放電プラズマエッチング装置NLD500を用いてドライエッチングを行い、コアガラス膜をパターニングした。該ドライエッチングは、Arガスにフッ化物ガスを流量比で10%加えた混合ガス気流中で行った。すなわちArガスとCガスの流量はそれぞれ標準状態換算で45cm/分、5cm/分とした。またそのときの圧力は0.2Paで、放電電力はアンテナパワー1200W、バイアスパワー250W、チャンバー縦方向に3つある中性磁場生成コイルの電流を上から10A、16.7A、10A、基板温度を25℃とした。
【0083】
ドライエッチング処理は上記条件で10分間行った。その後、試料を一旦取出し、Si基板を装置にセットし、OガスとCガスの流量をそれぞれ100cm/分、5cm/分とし、アンテナパワー1000W、バイアスパワー0Wで30分プラズマ処理をした後、バイアス20Wを印加する以外は、前述の条件で30分プラズマ処理を行った後、Nガスによる真空破壊と真空引きを30回繰り返した。10分間エッチングした試料を再度装置へセットし、前述のコアエッチング条件と同じ条件でコアのエッチングを10分間行った。ドライエッチング後のコアパターンの側壁および断面のSEM観察を行ったところ、側壁周辺に付着物がなく平滑にエッチングが行われていた。また、マスク膜14を含まないコアパターンの形状は、上辺、下辺、高さ(エッチング深さ)の順に、3.1μm、6.0μm、4.2μmであり、図1のAおよびBの角度はともに71°であった。すなわち、上辺、下辺、高さがそれぞれ3.3μm、5.5μm、3.3μmで、図1のAおよびBの角度はともに71°の台形断面のコアが形成された。
【0084】
次に、前述のICPエッチング装置により、以下の条件で金属マスク除去を行った。すなわち、SFガス20cm/分、圧力0.5Pa、アンテナパワー800W、バイアスパワー20W、基板温度20℃、の条件下で4分間行い、マスク膜を除去した。
【0085】
次に、凹凸加工したガラスの上に6.6μm厚の上地クラッド膜を形成した。すなわち、T2ターゲットを用いて、基板温度は20℃、スパッタリング用ガスとしてアルゴンおよび酸素をそれぞれ標準状態換算で流量30cm/分、0.5cm/分、圧力は0.3Pa、投入高周波電力は100W、スパッタリング時間は66時間、の条件でスパッタリングを行った。
【0086】
作製した直線導波路を真空チャンバーにセットし、酸素ガスを標準状態換算で流量5cm/分の割合で流しながら圧力を0.2torrに保ち、昇温速度5℃/分で500℃まで加熱し、3時間保持した後、降温速度5℃/分で冷却する熱処理を行った。このとき、コア膜とクラッド膜の屈折率は、それぞれ1.921、1.911であった。得られた導波路をダイシング装置で切断した後、端面を研磨加工し、鏡面加工まで行った。導波路の長さを変え、それぞれの導波路で損失を測定した結果、導波路自体の損失は0.2dB/cmであった。
【0087】
「例2」
ソーダライムシリカガラス円形基板11(厚さ1mm、直径76.2mm)の上に厚さ8.4μmのクラッド膜12を形成した。すなわち、T2ターゲットを用い、基板温度は20℃、スパッタリング用ガスとしてアルゴンおよび酸素をそれぞれ標準状態換算で流量30cm/分、0.75cm/分、圧力は0.3Pa、投入高周波電力は100W、スパッタリング時間は60時間、の条件でスパッタリングを行った。基板上に形成されたガラス膜のX線回折測定をしたところ回折パターンにピークは認められず、非晶質であることが確認された。
【0088】
次に、下地クラッド膜の上に厚さ3.3μmのコア膜13を形成した。すなわち、T2ターゲットを用い、基板温度は20℃、スパッタリング用ガスとしてアルゴンおよび酸素をそれぞれ標準状態換算で流量30cm/分、0.5cm/分、圧力は0.3Pa、投入高周波電力は100W、スパッタリング時間は35時間、の条件でスパッタリングを行った。基板上に形成されたガラス膜のX線回折測定をしたところ回折パターンにピークは認められず、非晶質であることが確認された。また、質量百分率表示でのBiの量は75.6%であった。
【0089】
次に、コア膜13の上に保護膜(上地クラッドとなる膜)を300nm形成した。すなわち、T2ターゲットを用い、基板温度は20℃、スパッタリング用ガスとしてアルゴンおよび酸素をそれぞれ標準状態換算で流量30cm/分、0.75cm/分、圧力は0.3Pa、投入高周波電力は100W、スパッタリング時間は2時間10分の条件でスパッタリングを行った。
【0090】
次に、直径101.6mmのWSiターゲットを用いて厚さ1.3μmのマスク膜14を形成した。すなわち、基板温度は20℃、スパッタリング用ガスとしてアルゴンを標準状態換算で流量10cm/分、圧力は2Pa、投入DC電力は300W、スパッタリング時間は100分の条件でスパッタリングを行った。
【0091】
次に、マスク膜14の上にスピンコート法を用いて厚さ2.4μmのポジレジスト膜を形成した。ポジレジスト膜を96℃のホットプレート上で仮焼した後、マスクアライナを用いて波長436nmの紫外線を照射し、前記ポジレジスト膜の上に、幅3〜8μm、長さ50〜76mmの直線状コアパターンがピッチ125μmで30個形成されたパターンを形成した。ポジレジスト膜の紫外線照射部分は現像液により除去し、次にICPエッチング装置NE550((株)アルバック製)によってドライエッチングを行った。該ドライエッチングは、CHFガスおよびSFガスの流量がそれぞれ標準状態換算で25cm/分、5cm/分、圧力が0.5Pa、アンテナパワー800W、バイアスパワー20W、基板温度20℃、の条件下で9分間行い、マスク膜14のパターニングを行った。
【0092】
次に、レジストを剥離液によりマスク膜14上から除去した後、前述のICPエッチング装置により以下の条件で灰化処理を行った。すなわち、基板温度20℃、灰化用ガスとして酸素を標準状態換算で20cm/分、圧力1Pa、アンテナパワー300W、バイアスパワー10W、の条件下で5分間灰化処理を行い、レジストを除去した。
【0093】
次に磁気中性線放電プラズマエッチング装置NLD500を用いてドライエッチングを行い、コアガラス膜をパターニングした。該ドライエッチングは、Arガスにフッ化物ガスを流量比で10%加えた混合ガス気流中で行った。すなわちArガスとCガスの流量はそれぞれ標準状態換算で49.5cm/分、5.5cm/分とした。またそのときの圧力は0.2Paで、放電電力はアンテナパワー1200W、バイアスパワー250W、チャンバー縦方向に3つある中性磁場生成コイルの電流を上から10A、12.5A、10A、基板温度を25℃とした。ドライエッチング処理は上記条件で35分間行った。
【0094】
ドライエッチング後のコアパターンの側壁および断面のSEM観察を行ったところ、側壁周辺に付着物がなく平滑にエッチングが行われていた。また、マスク膜14を含まないコアパターンの形状は、上辺、下辺、高さ(エッチング深さ)の順に、5.8μm、7.5μm、3.5μmであり、図1のAおよびBの角度はともに71°であった。すなわち、上辺、下辺、高さがそれぞれ5.9μm、7.5μm、3.3μmで、図1のAおよびBの角度はともに71°の台形断面のコアが形成された。
【0095】
次に、前述のICPエッチング装置により、以下の条件で金属マスク除去を行った。すなわち、SFガス20cm/分、圧力0.5Pa、アンテナパワー800W、バイアスパワー20W、基板温度20℃、の条件下で5分間行い、マスク膜を除去した。
【0096】
次に、凹凸加工したガラスの上に6.6μm厚の上地クラッド膜を形成した。すなわち、T2ターゲットを用いて、基板温度は20℃、スパッタリング用ガスとしてアルゴンおよび酸素をそれぞれ標準状態換算で流量30cm/分、0.75cm/分、圧力は0.3Pa、投入高周波電力は100W、スパッタリング時間は60時間、の条件でスパッタリングを行った。
【0097】
作製した直線導波路を真空チャンバーにセットし、酸素ガスを標準状態換算で流量5cm/分の割合で流しながら圧力を0.2torrに保ち、昇温速度5℃/分で500℃まで加熱し、3時間保持した後、降温速度5℃/分で冷却する熱処理を行った。このとき、コア膜とクラッド膜の屈折率は、それぞれ1.915、1.899であった。得られた導波路をダイシング装置で切断した後、端面を研磨加工し、鏡面加工まで行った。導波路の長さを変え、それぞれの導波路で損失を測定した結果、導波路自体の損失は0.2dB/cmであった。
【0098】
「例3」
ターゲットT2を用い、例2と同じ条件でスパッタリングを行いソーダライムシリカガラス基板の上に下地クラッド、コア、上地クラッドとなる保護膜を形成し、厚さ1.3μmのマスク膜を同じ条件で形成し、例2と同条件でエッチングを行い、マスクのパターニングを行った。
【0099】
続いて、マスク膜上からレジストを例2と同じ条件で除去した後、パターニングされたマスク膜を用いて、ガラス膜を以下の条件でNLDエッチングした。すなわちArガスとCガスの流量はそれぞれ標準状態換算で49.5cm/分、5.5cm/分とした。またそのときの圧力は0.2Paで、放電電力はアンテナパワー1000W、バイアスパワー250W、チャンバー縦方向に3つある中性磁場生成コイルの電流を上から20A、25.5A、20A、基板温度を25℃とした。ドライエッチング処理は上記条件で10分間行った。ドライエッチング後のコア断面のSEM観察を行ったところ、側壁周辺に付着物があり、エッチング側面が荒れており、光散乱の原因になり得る状態であることが確認できた。また、マスク膜14を含まないコアパターンの形状は、上辺、下辺、高さ(エッチング深さ)の順に、3.6μm、4.0μm、1.9μmであり、図1のAおよびBの角度はともに84°であった。
【0100】
次に、前述のICPエッチング装置により、以下の条件で金属マスク除去を行った。すなわち、SFガス20cm/分、圧力0.5Pa、アンテナパワー800W、バイアスパワー20W、基板温度20℃、の条件下で5分間行い、マスク膜を除去した。
【0101】
次に、凹凸加工したガラスの上に6.6μm厚の上地クラッド膜を形成した。すなわち、T2ターゲットを用いて、基板温度は20℃、スパッタリング用ガスとしてアルゴンおよび酸素をそれぞれ標準状態換算で流量30cm/分、0.75cm/分、圧力は0.3Pa、投入高周波電力は100W、スパッタリング時間は60時間、の条件でスパッタリングを行った。
【0102】
作製した直線導波路を真空チャンバーにセットし、酸素ガスを標準状態換算で流量5cm/分の割合で流しながら圧力を0.2torrに保ち、昇温速度5℃/分で500℃まで加熱し、3時間保持した後、降温速度5℃/分で冷却する熱処理を行った。このとき、コア膜とクラッド膜の屈折率は、それぞれ1.915、1.899であった。得られた導波路をダイシング装置で切断した後、端面を研磨加工し、鏡面加工まで行った。導波路の長さを変え、それぞれの導波路で損失を測定した結果、導波路自体の損失は3dB/cmであった。
【0103】
「例4」
例1と同じ条件でスパッタリングを行いソーダライムシリカガラス基板の上に下地クラッド、コア、上地クラッドとなる保護膜を形成し、厚さ1.3μmのマスク膜を同じ条件で形成し、例1と同条件でエッチングを行い、マスクのパターニングを行った。
【0104】
続いて、マスク膜上からレジストを例1と同じ条件で除去した後、パターニングされたマスク膜を用いて、ガラス膜を以下の条件でNLDエッチングを行った。すなわちArガスとCHFガスの流量はそれぞれ標準状態換算で90cm/分、10cm/分とした。またそのときの圧力は0.4Paで、放電電力はアンテナパワー1000W、バイアスパワー260W、チャンバー縦方向に3つある中性磁場生成コイルの電流を上から10A、16.7A、10A、基板温度を25℃とした。ドライエッチング処理は上記条件で10分間行った。ドライエッチング後のコア断面のSEM観察を行ったところ、側壁周辺に付着物があり、エッチング側面が荒れており、光散乱の原因になり得る状態であることが確認できた。また、マスク膜14を含まないコアパターンの形状は、上辺、下辺、高さ(エッチング深さ)の順に、6.1μm、6.7μm、1.8μmであり、図1のAおよびBの角度はともに81°であった。
【0105】
次に、前述のICPエッチング装置により、以下の条件で金属マスク除去を行った。すなわち、SFガス20cm/分、圧力0.5Pa、アンテナパワー800W、バイアスパワー20W、基板温度20℃、の条件下で5分間行い、マスク膜を除去した。
【0106】
次に、凹凸加工したガラスの上に6.6μm厚の上地クラッド膜を形成した。すなわち、T2ターゲットを用いて、基板温度は20℃、スパッタリング用ガスとしてアルゴンおよび酸素をそれぞれ標準状態換算で流量30cm/分、0.5cm/分、圧力は0.3Pa、投入高周波電力は100W、スパッタリング時間は66時間、の条件でスパッタリングを行った。
【0107】
作製した直線導波路を真空チャンバーにセットし、酸素ガスを標準状態換算で流量5cm/分の割合で流しながら圧力を0.2torrに保ち、昇温速度5℃/分で500℃まで加熱し、3時間保持した後、降温速度5℃/分で冷却する熱処理を行った。このとき、コア膜とクラッド膜の屈折率は、それぞれ1.921、1.911であった。得られた導波路をダイシング装置で切断した後、端面を研磨加工し、鏡面加工まで行った。導波路の長さを変え、それぞれの導波路で損失を測定した結果、導波路自体の損失は5dB/cmであった。
【0108】
「例5]
ソーダライムシリカガラス円形基板11(厚さ1mm、直径76.2mm)の上にガラス薄膜を形成し、パターニングを行って導波路を作製する。
【0109】
まず66時間スパッタリングして厚さ7.2μmの下地クラッド膜12を形成し、次いで、下地クラッド膜の上に、20時間15分スパッタリングして厚さ3.3μmのコア膜13を、3時間スパッタリ2ングして300nmの(上地クラッドとなる膜)を形成した。基板上に形成されたこれらのガラス膜は、X線回折測定により非晶質であることが確認された。なお、本例においてガラス膜を成膜する条件は、コア膜成膜時のガス流量をAr30cm/分、酸素0.5cm/分とした以外は例1と同様とした。また、スパッタリングによりガラス膜が形成される成膜速度は、ターゲットの損耗状態により変化するので適宜校正を行って成膜を行った。
【0110】
次いで、WSiターゲットを用いてマスク膜14を形成し、ポジレジスト膜を用いて幅5μm、長さ5.0〜7.6cmの直線状コアパターンがピッチ125μmで30個形成されたパターンを形成し、例1と同様にしてマスク膜14のパターニングを行った。ドライエッチング後のコアをSEM観察すると、直線状コアは、側壁が周辺に付着物がなく表面性状が平滑であって、マスク膜14を含まないコアパターンの形状は、上辺、下辺、高さ(エッチング深さ)の順に、2.8μm、5.4μm、4.2μmであり、図1のAおよびBの角度はともに73°であった。すなわち、上辺、下辺、高さがそれぞれ3.0μm、5.0μm、3.3μmで、図1のAおよびBの角度はともに73°の台形断面のコアが形成された。次いで例1と同様にしてICPエッチングにより金属マスクを除去した後、凹凸加工したガラスの上に66時間スパッタリングして7.2μm厚の上地クラッド膜を形成し、熱処理を行い、それぞれのコアパターンごとに切断し端面を研磨加工、鏡面加工して本例のガラス光導波路を得た。
以上の工程で作製されたコア膜とクラッド膜の屈折率は、それぞれ1.942、1.913であった。長さを変えた導波路で損失を測定した結果から、波長1310nmにおける本例のガラス光導波路の導波路自体の損失は0.13dB/cmであった。
【0111】
溶融延伸型の波長多重(WDM)ファイバカプラを2つ用意し、このWDMファイバカプラを、本例で作成した長さ6cmのガラス光導波路の両端にカップリングさせ、双方向励起の光学系を構成した。すなわち、本例のガラス光導波路の両端にカップリングされたそれぞれのWDMファイバカプラの励起光ポートに対して、外部に置かれた半導体レーザーダイオードから波長980nm、パワー140mWの励起光を入力するとともに、一方のWDMファイバカプラの信号光ポートに対して、波長間隔が2.5nmで波長範囲1520〜1600nmであって、パワー−10dBmの信号光を入力し、他方のWDMファイバカプラの信号光ポートから出力された信号光を光スペクトラムアナライザーに入力し、信号光強度を測定した。この構成により、本例のガラス光導波路を双方向励起させて増幅特性を評価することができる。
【0112】
このときに測定された信号光強度SAを、あらかじめ光スペクトラムアナライザーにより測定した本例のガラス光導波路以外の光学系の光損失SBにより補正してネットゲインが求められる。このようにして求められたネットゲインを図4に示す。波長1530nmにおいておよそ8dBの利得が得られていることがわかる。
【0113】
[例6]
前述と同様の方法で、円盤状のガラスを形成し、スパッタリング用バッキングプレートにボンディングして、それぞれ前述のターゲットT1およびT2と同組成のスパッタリング用ターゲットT3およびT4を作製する。ただし本例では、溶解して形成するガラスの直径は152.4mmとし、得られたガラスを研削・研磨する厚さは5mmとする。このターゲットを用いて例1と同様の方法、条件でソーダライムシリカガラス円形基板33上にガラス膜を形成し、パターニングして導波路を作製する。
【0114】
すなわち、T4ターゲットを用いて厚さ6.4μmの下地クラッド膜32a、T3ターゲットを用いて厚さ3.3μmのコア膜31、T4ターゲットを用いて厚さ300nmの上地クラッドとなる膜である保護膜を順次形成し、例1と同様に、磁気中性線放電プラズマエッチング装置NLD500によるドライエッチング、プラズマ処理、Nガスによる真空破壊と真空引きを30回繰り返した後、再度ドライエッチングを行う工程により、コアガラス膜のパターニングを行って、長さ2cmの直線状コアパターンを形成する。下地クラッド膜32a、コア膜31、上地クラッドとなる膜である保護膜を形成するスパッタリング時間はそれぞれ38時間、13時間30分、1時間45分である。このようにして形成された直線状コアは、側壁が周辺に付着物がなく表面性状が平滑であって、マスク膜14を含まないコアパターンの形状は、上辺、下辺、高さ(エッチング深さ)の順に、2.8μm、5.4μm、4.2μmであり、図1のAおよびBの角度はともに73°であった。すなわち、上辺、下辺、高さがそれぞれ3.0μm、5.0μm、3.3μmで、図1のAおよびBの角度はともに73°の台形断面のコアが形成された。
【0115】
次に、マスク膜を除去し、凹凸加工したガラスの上に厚さ6.4μmの上地クラッド膜32bをT4ターゲットを用いて38時間スパッタリングを行い形成する。以上の工程により形成された直線導波路を真空チャンバー中で酸素ガスを流しながら熱処理を行い、ガラス光導波路が得られる。
【0116】
なお、ガラス膜をスパッタリングで形成するときの投入高周波電力は280Wとし、スパッタリング用ガスであるアルゴンおよび酸素の標準状態換算流量を、下地クラッド膜12、上地クラッドとなる膜である保護膜、および上地クラッド膜を形成するときは120cm/分および0.7cm/分、コア膜13を形成するときは200cm/分および0.7cm/分である。上記以外の条件は、例1と同様である。
【0117】
また、以上の工程により形成された各ガラス膜は、X線回折測定による回折ピークは認められず非晶質であって、質量百分率表示でのBiの量は74.1%である。得られたコア膜とクラッド膜の屈折率は、それぞれ1.978、1.950で、導波路の損失は0.13dB/cmである。
【0118】
以上の工程で得られた長さ2cmのガラス光導波路を光導波路型レーザー媒体として用いるファブリ・ペロー型の共振器を作製する
得られたガラス光導波路の一方の端面を励起光入力端面とし、他方の端面をレーザー光出射端面とし、これらの端面に、低屈折率層材料としてSiO、高屈折率層材料としてTaを用いた誘電体多層膜によるミラーを蒸着により形成する。このとき、励起光入力端面に形成するミラー34は、励起光として用いる波長980nmの光に対する透過率を99.5%、レーザー発振させる波長1530nmの光に対する反射率を99%とし、レーザー光出射端面に形成するミラー35は、波長980nmの光に対する透過率を99.5%、波長1530nmの光に対する反射率を60%とする。
【0119】
このようにして得られた共振器の励起光入力端面に対して、波長980nm帯の発振波長を有する半導体レーザーを用いて、パワー100mWのレーザー光の励起光36を集光レンズにより入射させる。入射された励起光により励起されるErイオンの発光帯のうち、入出力端に備えられたミラーにより反射される1530nmの波長の光が光導波路型レーザー媒体中で増幅され、レーザー光出射端面からレーザー光37として出力される。出射された光がレーザー光であることは、出力された光を集光レンズによりシングルモード光ファイバに入射させて光スペクトラムアナライザーに導き、スペクトルを測定すると、スペクトル幅の狭い1530nmの波長の光だけが出力されていることから確認される。
【産業上の利用可能性】
【0120】
本発明のガラス光導波路は、0.4〜2μmの波長帯における光増幅導波路、非線形光導波路などに好適である。
【0121】
また、本発明のガラス光導波路は、レーザー発振させるためのレーザー媒体としても好適用いることが可能であり、その場合、レーザー活性イオンと励起光波長を適宜選ぶことにより1060〜3000nm帯のレーザー発振を行わせることができる。
【図面の簡単な説明】
【0122】
【図1】本発明による光導波路のコア近傍の拡大断面図。
【図2】一般的な光導波路のコア近傍の拡大断面図。
【図3】一般的な光導波路の作製方法を示す図。
【図4】本発明によるガラス光導波路を用いた光増幅導波路の増幅特性のグラフ。
【図5】本発明による光導波路を光導波路型レーザー媒体として用いるレーザー共振器の概略断面図。
【符号の説明】
【0123】
11 :基板
12、22a、32a:下地クラッド膜
13 :コア膜
14 :金属膜
15 :レジスト
16、22b、32b:上地クラッド膜
21 :コア
22 :クラッド
23 :基板
31 :コア
32 :クラッド
33 :基板
34 :励起光入射端面に形成されたミラー
35 :レーザー光出射端面に形成されたミラー
36 :励起光
37 :レーザー光

【特許請求の範囲】
【請求項1】
平面基板上に形成されたガラスからなるコアとクラッドとを備える光導波路であって、コアのガラス構成酸化物としてBi、Sb、PbO、SnOおよびTeOからなる群から選ばれた1種以上の酸化物を質量百分率表示で合計35%以上含有し、コアの断面形状が基板側に長辺を有する台形であって、かつ台形を構成する4辺のうち長辺と2つの斜辺のいずれともなす角度がそれぞれ60〜80°の範囲にあることを特徴とするガラス光導波路。
【請求項2】
前記クラッドのガラス構成酸化物は、Bi、Sb、PbO、SnOおよびTeOからなる群から選ばれた1種以上の酸化物からなり、コアとクラッドの屈折率差をコアの屈折率で除した値が0.0003から0.1までの範囲にある請求項1に記載のガラス光導波路。
【請求項3】
コアのガラス構成酸化物が、Biを質量百分率表示で合計35%以上含有したガラス構成酸化物である請求項1または2記載のガラス光導波路。
【請求項4】
コアのガラス構成酸化物が、ErおよびTmの少なくともいずれか一方を含有する請求項1、2または3記載のガラス光導波路。
【請求項5】
請求項1から4に記載のガラス光導波路のコアが、ドライエッチング法により形成されていることを特徴とするガラス光導波路。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2006−53522(P2006−53522A)
【公開日】平成18年2月23日(2006.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−62532(P2005−62532)
【出願日】平成17年3月7日(2005.3.7)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)「国等の委託研究の成果に係わる特許出願(平成16年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「フォトニックネットワーク技術の開発事業」委託研究、産業活力再生特別措置法第30条の適用を受ける特許出願)」
【出願人】(000000044)旭硝子株式会社 (2,665)
【Fターム(参考)】