説明

ガラス基板の強化方法

【課題】 表面に透明導電膜が形成されたガラスを、容易に、必要な部分を強化することができる、ガラス基板の強化方法を提供する。
【解決手段】 ガラス基板上に透明導電膜を形成するステップと、前記ガラス基板上に前記透明導電膜を形成した後に、該ガラス基板に吸収される波長を有するレーザー光の走査照射により、ガラス基板表層のガラス強化所望領域を加熱して熱変性層を形成する加熱ステップと、前記熱変性層が形成されたガラス基板を冷却する冷却ステップと、を有することとした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラス基板の強化方法に係り、詳しくは、ガラス基板上に透明導電膜を形成した後にガラス基板を強化することができる、ガラス基板の強化方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ガラスの強化方法としては、ガラスの製造工程において温度の高い軟化状態にあるガラスの表面にジェットエア等で急冷して圧縮応力を付与する風冷強化法や、イオン交換などにより常温で表面に圧縮応力を付与する化学強化法が知られている。また、ガラス表面を研磨等によりガラス表面の微小な傷(グリフィズ欠陥)などを除き強化する方法も知られている。
【0003】
最近では、超短パルスレーザー光をガラス表面またはガラス内部にスポット状に集光照射し、ガラス内部に異質層を点状、線状、あるいは網目状に形成する、強化ガラスの製造方法も知られている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第3956286号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ITO(Indium Tin Oxide)、メサ膜(酸化スズ)、酸化亜鉛膜等の透明導電膜は、ガラス基板上に形成されるが、一般に、予め強化されたガラス基板に透明導電膜を形成することはできない。その理由は、液晶表示パネルや太陽電池等において、ガラス基板に透明導電膜を形成するためにはガラス基板を高温雰囲気(300〜450℃)中に置く必要があるため、その温度によりガラスが軟化して強化性能を失うからである。
【0006】
一方、研磨等により強化したガラスに透明導電膜を形成することも考えられるが、研磨処理に長時間を要し、加工効率の点で難がある。
【0007】
そこで、ガラス基板上に透明導電膜を形成した後にガラス基板を強化することが考えられる。
【0008】
しかしながら、風冷強化法や化学強化法といった従来のガラスの強化方法は、ガラス基板上に透明導電膜を形成した後にガラス基板を強化することができなかった。その理由として、たとえば、従来の風冷強化法では透明導電膜をガラスの軟化点温度に熱することによって性能を劣化させ、化学強化法ではガラス中のNaイオン,Kイオン,Liイオンが透明導電膜に拡散し伝導性を悪化させるからである。
【0009】
また、前記風冷強化法の従来設備では強化すべきガラス全体を高温にする必要があり、前記化学強化法は、強化すべきガラスをイオン交換槽に浸漬する必要があって、いずれの強化方法にしても、ガラスを部分的に強化することが難しかった。
【0010】
また、風冷強化方法は、ガラスを軟化点以上の高温にするため、ガラスの軟化による変形を生じやすく、また、2mm以下の薄いガラスを強化することが困難という問題もあった。
【0011】
特許第3956286号明細書に記載されている方法は、透明導電膜については何ら開示又は示唆していないが、ガラス基板上に透明導電膜を形成した後にガラス基板を強化できる可能性があり、部分的にガラスを強化できる点で優れているが、従来の風冷強化法や化学強化法のようにガラス表面および表面付近の圧縮応力を利用してガラスを強化する方法とは異なり、ガラス材料の破壊時において、クラックの進行する方向が異質相において変わることを利用して破壊強度が向上させるガラス強化方法である。そのため、集光照射によって点状、線状、網目状等の異質層を形成する位置、パターン等の形態によって強度が変わると考えられ、異質層の形態を決定する作業が容易でないと考えられる。
【0012】
そこで、本発明は、表面に透明導電膜が形成されたガラスを、容易に、必要な部分を強化することができる、ガラス基板の強化方法を提供することを主たる目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成するため、本発明に係るガラス基板の強化方法は、ガラス基板上に透明導電膜を形成するステップと、前記ガラス基板上に前記透明導電膜を形成した後に、該ガラス基板に吸収される波長を有するレーザー光の走査照射により、ガラス基板表層のガラス強化所望領域を加熱して熱変性層を形成する加熱ステップと、前記熱変性層が形成されたガラス基板を冷却処理する冷却ステップと、を有することを特徴とする。
【0014】
また、上記目的を達成するため、本発明に係るガラス基板の強化方法は、第2の手段として、ガラス基板上に透明導電膜を形成するステップと、レーザー光に対して吸収のある吸収剤を含む吸収剤含有液を前記透明導電膜上に塗布し乾燥させることにより吸収剤層を形成するステップと、前記吸収剤層に吸収される波長を有するレーザー光の走査照射により、ガラス基板表層のガラス強化所望領域を加熱して熱変性層を形成する加熱ステップと、前記熱変性層が形成されたガラス基板を冷却処理する冷却ステップと、を有することを特徴とする。
【0015】
前記加熱ステップにおけるレーザー光の走査照射を行いつつ、前記冷却ステップにおける冷却処理を行うことが好ましい。
【0016】
また、前記冷却ステップは、冷却水のミスト噴射とすることが好ましい。
【発明の効果】
【0017】
本発明に係るガラス基板の強化方法によれば、ガラスに吸収のあるレーザー光の走査照射によりガラスの表層の所望領域に熱変性層を形成し、冷却処理することにより、煩雑な条件設定等を必要とせず、必要とする部分のみを、効率よく強化できるため、利便性が飛躍的に向上し、広い範囲での応用が可能となる。
【0018】
また、ガラス表面に吸収剤を塗布することにより吸収剤層を形成し、吸収剤層にレーザー光を走査照射してガラス表層に熱変性層を形成し、冷却処理することとすれば、レーザー光は、吸収剤に吸収される波長であればガラスに吸収される波長に制限されない。また、吸収剤の塗布という簡便な方法により吸収剤層を形成するので実用上の効果が大きい。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明に係るガラス基板の強化方法の第1実施形態を示す一部断面斜視図である。
【図2】本発明に係るガラス基板の強化方法の第2実施形態を示す一部断面斜視図である。
【図3】本発明に係る実施例2と比較例との透過分光特性を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明に係るガラス基板の強化方法の実施形態について、以下に、図面を参照しつつ説明する。なお、以下の説明において、全図及び全実施形態についての同様の構成部分には同符号を付しており、重複説明を省略することがある。先ず、本発明方法の第1実施形態について、図1を参照して説明する。
【0021】
図1に示すように、表面に透明導電膜5が予め形成されているガラス基板2に対し、ガラス基板2に吸収のあるレーザー光が走査照射される。
【0022】
透明導電膜5は、ITO(Indium Tin Oxide)、メサ膜(酸化スズ)、酸化亜鉛膜等の公知の透明導電膜が用いられる。一般に、液晶表示装置やタッチパネルでは、厚さ100nm程度(またはそれ以下)の透明導電膜がガラス基板2上に形成され、太陽電池では、300nm以上の透明導電膜がガラス基板2上に形成されている。透明導電膜5は、公知の方法によってガラス基板2上に形成されており、たとえば、熱CVD法、真空蒸着、スパッタリング等により、一般に250〜450℃でガラス基板2上に成膜されている。
【0023】
レーザー光は、集光させたビームによってガラス強化所望領域を効率よく走査照射できる程度の集光面積を有するビームプロファイルを有しておれば良く、円形、楕円形状等に集光させるスポットビーム、ライン状に集光させるラインビーム等を使用でき、好ましくは、集光させたビームプロファイルの最大幅は1mm以上である。
【0024】
図示例ではラインビームを使用している。レーザー発振器1から特定波長のラインビームレーザー光1aを、透明導電膜5が形成されているガラス基板2の表層に線集光させて照射する。ラインビームレーザー光1aを、透明導電膜5が形成されたガラス基板2表面に仮想矢印線で示す経路に沿って移動させ、ガラス基板2表層の強化したい全領域すなわちガラス強化所望領域の全面に走査するように照射(走査照射)する。なお、ラインビームレーザー光1aは、照射した箇所が重なるように重ね射ちして、同じ個所に2度以上照射しても良い。
【0025】
ラインビームレーザー光を発生させるレーザー発振器は、たとえば、ロッドレンズ、シリンドリカルレンズ、あるいはパウエルレンズ等を用いた公知のレーザーラインビーム発振装置を用いることができる。
【0026】
なお、ラインビームレーザー光1aとガラス基板2の少なくとも一方を移動させることにより走査照射すればよく、たとえば、レーザー発振器1を移動させることに代えて、あるいは、レーザー発振器1の移動とともにレーザー発振器1とは反対方向に、ガラス基板2をXYテーブル上に設置する等して、ガラス基板2をレーザー発振器1に対して相対的に移動させることにより、ラインビームレーザー光1aをガラス基板2上に走査照射するようにしてもよい。
【0027】
また、ラインビームレーザー光の照射幅Wは、適宜設定することができ、たとえば、照射幅Wは固定であっても良いし、必要に応じて、照射幅Wを変化させるように制御しても良い。照射幅Wの制御は、たとえば、レーザー光が通過するスリットのスリット幅や、レンズのデファーオカスを制御することにより行うことができる。
【0028】
第1実施形態においては、ラインビームレーザー光1aの波長は、ガラス基板2に吸収される波長である。ガラスの主成分であるシリカは、9.5μmの波長に大きな吸収があり、シリカ系のガラスはCOレーザー(波長10.6μm)をよく吸収するため、この場合は、COレーザーを好適なレーザー光として使用することができる。波長が連続的または段階的に可変のレーザー発振器を用い、所要の波長に調整して使用しても良い。レーザー光は、連続発振(Continuous Wave)すなわち連続光のレーザー光、あるいはパルスレーザー光が使用できる。COレーザーは、波長が長いため、透明導電膜5に対しても吸収があるが、透明導電膜5は、レーザーによって加熱されても抵抗値及び透過率に対する影響は少ない。
【0029】
上記のようにして透明導電膜5が形成されたガラス基板2にラインビームレーザー光を走査照射することにより、透明導電膜5及びガラス基板2の表層が1000℃以上に加熱され、ガラス基板2の表層に熱変性層3が形成される。
【0030】
ガラス基板2の熱変性層3は、強制冷却による冷却処理が施される。熱変性層3は、所定時間(例えば、数ミリ秒〜数十秒)で常温まで下がるように、強制冷却する。冷却処理する方法としては、たとえば、液体窒素を気化させた窒素ガス等の不活性ガスや空気をブロワ等で吹き付ける方法や、冷却水のミストを吹き付ける方法、ジェットエアを吹き付ける方法等を利用することができる。ガラス基板2の表面にラインビームレーザー光を照射しつつ、冷却水のミストを吹き付ける等により冷却処理することが好ましい。
【0031】
上記のようにして熱変性層3を冷却処理すると、ガラス基板2の表層に圧縮応力層が形成されていると考えられ、ガラス基板2が強化されると考えられる。この圧縮応力層は、ガラス基板2の表面から深さ100μm以下(例えば、20〜30μm以下程度)の範囲内に形成される。圧縮応力層をガラス基板2の両面に形成すれば、たわみの無い強化ガラス基板ができる。
【0032】
また、レーザー照射による高温加熱によってガラス表面の傷が緩和或いは除去されると考えられ、それによっても強化されていると考えられる。
【0033】
なお、ガラス基板2の周縁部は切断加工時に生じる潜傷が多いため、ガラス基板2の周縁部を除く所望部分または所望領域にレーザー光を走査照射することによりガラス基板を強化することが好ましい。また、このような潜傷を緩和するためにレーザー光を照射する事もできる。
【0034】
上記第1実施形態によれば、透明導電膜が形成されているガラスにレーザー光を走査照射して冷却処理するだけの簡単な加工により、透明導電膜をガラス表面に形成した後に、ガラスの所望領域(部分または全面)を強化することができる。そして、常温環境下でレーザーを照射することでガラスを強化できるため、利便性がよく、広い範囲での応用が可能である。また、第1実施形態によれば、透明導電膜が形成されたガラスの表層のみをレーザー光で加熱することにより強化するので、厚さが2mm以下の薄いガラス基板でも強化可能である。
【0035】
次に、本発明方法の第2実施形態について、図2を参照して説明する。図2に示すように、透明導電膜5が表面に形成されているガラス基板2を用意しておき、その透明導電膜5の上に、吸収剤層4を形成し、吸収剤層4に吸収のあるレーザー光を吸収剤層4に対して照射する。
【0036】
透明導電膜5は、ITO(Indium Tin Oxide)、メサ膜(酸化スズ)、酸化亜鉛膜等の公知の透明導電膜が用いられる。一般に、液晶表示装置やタッチパネルでは、厚さ100nm程度(またはそれ以下)の透明導電膜がガラス基板2上に形成され、太陽電池では、300nm以上の透明導電膜がガラス基板2上に形成されている。透明導電膜5は、公知の方法によってガラス基板2上に形成することができ、たとえば、熱CVD法、真空蒸着、スパッタリング等により、一般に250〜450℃でガラス基板2上に成膜されている。
【0037】
吸収剤層4は、レーザー光を吸収可能であれば特に限定されないが、たとえば、半導体レーザー(波長:約0.6〜1.8μm)を吸収可能な赤外線吸収剤や近赤外吸収剤、あるいは、カーボンブラック等のあらゆる波長のレーザーに吸収のある吸収剤を、水或いは有機溶媒等の分散媒に分散させ、あるいは部分的に溶解させた吸収剤含有液を用いて形成することができる。赤外線吸収剤や近赤外吸収剤は、無機系または有機系の粉末状製品が種々市販されている。カーボンブラック分散液として、カーボンブラックインク、墨汁等を使用可能である。
【0038】
吸収剤層4は、上記した吸収剤含有液を、印刷、刷毛塗り、ローラー塗り、スピンコート、ディッピング、噴霧等の種々の塗布方法により透明導電膜前駆体上に塗布した後、加熱または風乾等により乾燥させることにより形成される。吸収剤層4の厚さは、照射されるレーザー光の強度、吸収剤の材料等によるが、たとえば、カーボンブラックを水または有機溶媒に分散させたカーボンブラック分散液の場合では、吸収剤層4の厚さは0.1〜5μm程度である。
【0039】
透明導電膜5上に形成された吸収剤層4に、吸収剤層4に吸収される波長のレーザー光1aを線集光させたラインビームレーザー光を照射する。ラインビームレーザー光を、ガラス基板2に対して相対移動させることで、ガラス基板2の強化したい領域に走査照射し、吸収剤層4を加熱する。その結果、吸収剤層4、透明導電膜5を介してガラス基板2の表層が加熱されることで、ガラス基板2の表層温度は800〜1000℃程度になり、ガラス基板2の表層に熱変性層3が形成される。
【0040】
半導体レーザーを利用した場合、吸収剤層4に所定出力及び所定波長領域の半導体レーザー光をガラス基板に照射することにより、吸収剤層4に半導体レーザーが吸収されて吸収剤層4の温度を短時間で800〜1000℃程度まで上昇させることができる。
【0041】
COレーザーを用いた場合、COレーザー(波長10.6μm)は、ガラス基板2にも吸収があるため、吸収剤層4に対して所定出力のCOレーザーを照射すると、吸収剤層4とガラス基板2にCOレーザーが吸収されることで、吸収剤層4及びガラス基板2の温度を短時間で800〜1000℃程度まで上昇させることができる。
【0042】
レーザー光として、上記第1実施形態と同様に、連続発振(Continuous Wave)すなわち連続光のレーザー光、またはパルスレーザー光を用いることができる。
【0043】
照射するレーザー光の出力(エネルギー強度)は、例えば近赤外半導体レーザー光の場合で1〜3kW/cm程度が好ましい。ラインビームレーザー光1aがガラス基板2表面を移動する速度、すなわちガラス基板2に照射されるラインビームレーザー光1aがガラス基板2上を移動する相対速度は、レーザー光の強度等によって変わるが、例えば、フルエンス2.8kW/cmの近赤外半導体レーザー光の場合、2mm/秒程度とされる。
【0044】
ラインビームレーザー光を走査照射したガラス基板2に、上記第1実施形態と同様に、強制冷却による冷却処理を施す。加熱されたガラス基板2の表層を、常温まで下がるように冷却処理する。冷却処理方法としては、たとえば、上記第1実施形態と同様、不活性ガスの送風、冷却ミストの噴霧、ジェットエア、等による強制冷却により、熱変性層3を冷却する。ラインビームレーザー光による走査照射を行いつつ、冷却処理を行うことが好ましい。
【0045】
上記のようにして熱変性層3を冷却処理すると、上記第1実施形態と同様に、ガラス基板2の表層に圧縮応力層が生じる等して、ガラス基板2が強化される。
【0046】
なお、第2実施形態においても、ガラス基板2の周縁部は潜傷が非常に多いため、ガラス基板2の周縁部を除く所望部分または所望領域に、ラインビームレーザー光を走査照射することが好ましい。また、このような潜傷を緩和するためにラインビームレーザー光を照射する事もできる。
【0047】
レーザー照射により高温になった基板の温度が低下した後、吸収剤層は、有機溶媒あるいはアルカリ溶液等を用いて除去される。
【0048】
上記第2実施形態によれば、上記第1実施形態と同様に、透明導電膜が形成されているガラス基板の前記透明導電膜上に形成した吸収剤層にレーザー光を所望領域に走査照射するだけの簡単な加工により、透明導電膜をガラス表面に掲載した後に、ガラスを強化することができる。そして、常温環境下でレーザーを照射することでガラス基板を強化できるため、利便性がよく、広い範囲での応用が可能である。また、ガラス強化を局所的に行えるため、実用的なメリットも大きい等の効果を奏することができる。さらに、第2実施形態によれば、吸収剤層4にレーザー光を吸収させるため、強化すべきガラスは、必ずしも照射されるレーザー光を吸収するガラスである必要はなく、強化されるべきガラスの種類についての自由度が増す。さらにまた、また、第2実施形態によれば、上記第1実施形態と同様、ガラスの表層のみをレーザー光で加熱、冷却することにより強化するので、厚さが2mm以下の薄いガラス基板でも強化可能である。
【実施例】
【0049】
本発明について、実施例を用いてさらに詳述する。
【0050】
実施例1
強化すべきガラス基板として、厚さ4mm、縦横50mm×50mmの正方形をしたソーダ石灰ガラスを用意し、その片面に、酸化スズ透明導電膜を熱CVD方によって形成した。
【0051】
出力400W、ラインビームレーザー光を発するCOレーザー発振器を、ガラス基板に対して速度100mm/秒で一定方向に移動させ、45mm×50mmの領域にスポットレーザー光を走査照射した。スポットレーザー光のビームプロファイルは、集光部ビーム径8mmの円形であり、焦点距離62.5mmから+10mmデフォーカスさせた。
【0052】
照射方法として、スポットレーザー光発信器をXY方向へ移動可能に支持し、スポットレーザー光を照射しつつ+X方向へ50mm移動させた後、照射を停止して+Y方向へ5mm移動させて−X方向へ50mm移動させ、再び、照射を開始して+X方向へ50mm移動する、という動作を繰り返し、45mm×50mmの領域を走査照射した。従って、レーザー光を複数回照射した領域が存在する。レーザー光の走査照射は、ガラス基板の両面に施した。
【0053】
レーザー光照射と同時に、空気・水ミストを、内径4mmのパイプから吹き付け圧0.5MPaでレーザー光照射位置の13mm後方に吹き付けて冷却処理した。
【0054】
上記のようにして本発明の実施例1を製作し、比較例として、同寸法で同材料を使用し、酸化スズ透明導電膜を形成したガラス基板で、レーザー照射が施されていないガラス基板を用意した。
【0055】
本発明の実施例1と比較例ついて、セラミックボールの落下試験を行い、強度を比較した。使用したセラミックボールは、質量7g、直径15mmである。落下試験は、5cm毎に高さを上げて破損するか否かを試験した。
【0056】
試験の結果を表1に示す。
【0057】
【表1】

【0058】
表1から、比較例では70cmの高さからセラミックボールを落下させたところクラックが入ったが、実施例1では、90cmの高さからセラミックボールを落下させたときにクラックが入り、強化されていることが判明した。また、レーザー照射を受けた透明導電膜(SnO膜)の抵抗率及び透過率が、透明導電膜として遜色ないレベルにあることも確認された。
【0059】
実施例2
強化すべきガラス基板として、酸化スズ透明導電膜が熱CVD方によって両面に成膜された、厚さ3mm、縦横50mm×50mmの正方形をしたソーダ石灰ガラスを複数枚用意した。酸化スズ透明導電膜の厚みは、0.5〜2μm程度とした。
【0060】
酸化スズ透明導電膜が成膜されたガラス基板の両面に、カーボンブラック分散体をスピンコートにより、硬化後の厚みが約1μmとなるように均等に塗布し、風乾させて、近赤外線吸収剤層を形成した。
【0061】
最大出力4W、波長808nmのラインビームレーザー光を発する近赤外半導体レーザー発振器を、ガラス基板に対して速度2mm/秒で移動させ、45mm×50mmの領域にラインビームレーザー光(レーザーフルエンス2.8kW/cm)を実施例1と同様に走査照射した。
【0062】
照射方法として、ラインビームレーザー光発信器をXY方向へ移動可能に支持し、ラインビームレーザー光を照射しつつ+X方向へ50mm移動させた後、照射を停止して+Y方向へ2.5mm移動させて−X方向へ50mm移動させ、再び、照射を開始して+X方向へ50mm移動する、という動作を繰り返し、45mm×50mmの領域を走査照射した。従って、ラインビームレーザー光を複数回照射した領域が存在する。レーザー光の走査照射は、ガラス基板の両面に施した。
【0063】
レーザー光照射と同時に、液体窒素ボンベから取り出した窒素ガスを、内径4mmのパイプから吹き付け圧0.5MPaでレーザー光照射位置の後方に吹き付けて冷却処理した。
【0064】
上記のようにして本発明の実施例を製作し、比較例として、同じ寸法で同じ材料を使用し、酸化スズ透明導電膜は形成されているが、吸収剤層及びレーザー照射が施されていないガラス基板を用意した。
【0065】
本発明の実施例2と比較例とについて、透明導電膜の透過分光特性を調べた。透過分布特性を示すグラフを図3に示す。図3において、横軸は波長(nm)、縦軸は透過率(%)である。図3から、実施例2では、比較例に比べて、透過率は1〜2%程度しか低下しておらず、透過率を高いレベルで維持できることが判明した。
【0066】
また、実施例2と比較例とについて、透明導電膜の電気抵抗について調べたところ、比較例が23Ω、実施例2が25Ωであり、抵抗値も大きく変化していないことが判明した。
【0067】
さらに、実施例2と比較例とついて、セラミックボール(質量7g、直径15mm)の落下試験を行い、強度を比較した。試験の結果、実施例2は、比較例よりも2倍以上の強度が得られていた。
【符号の説明】
【0068】
1 レーザー発振器
1a レーザー光
2 ガラス基板
3 熱変性層
4 吸収剤層
5 透明導電膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス基板上に透明導電膜を形成するステップと、
前記ガラス基板上に前記透明導電膜を形成した後に、該ガラス基板に吸収される波長を有するレーザー光の走査照射により、ガラス基板表層のガラス強化所望領域を加熱して熱変性層を形成する加熱ステップと、
前記熱変性層が形成されたガラス基板を冷却処理する冷却ステップと、
を有することを特徴とする、ガラス基板の強化方法。
【請求項2】
ガラス基板上に透明導電膜を形成するステップと、
レーザー光に対して吸収のある吸収剤を含む吸収剤含有液を前記透明導電膜上に塗布し乾燥させることにより吸収剤層を形成するステップと、
前記吸収剤層に吸収される波長を有するレーザー光の走査照射により、ガラス基板表層のガラス強化所望領域を加熱して熱変性層を形成する加熱ステップと、
前記熱変性層が形成されたガラス基板を冷却処理する冷却ステップと、
を有することを特徴とする、ガラス基板の強化方法。
【請求項3】
前記加熱ステップにおけるレーザー光の走査照射を行いつつ、前記冷却ステップにおける冷却処理を行うことを特徴とする請求項1または2かに記載のガラス基板の強化方法。
【請求項4】
前記冷却ステップが、冷却水のミスト噴射を含む、請求項1〜3の何れかに記載のガラス基板の強化方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−180092(P2010−180092A)
【公開日】平成22年8月19日(2010.8.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−24559(P2009−24559)
【出願日】平成21年2月5日(2009.2.5)
【出願人】(504176911)国立大学法人大阪大学 (1,536)
【出願人】(000004215)株式会社日本製鋼所 (840)
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【Fターム(参考)】