説明

ガラス溶着方法

【課題】 歩留りの低下を抑制しつつ、レーザ光の照射を大気雰囲気中で実施することができるガラス溶着方法を提供する。
【解決手段】 ガラス層3を介して対向するようにガラス基板40とガラス基板50とを重ね合わせ、ガラス基板40とガラス基板50との間の空間を接着層7によって外部雰囲気から封止する。これにより、溶着予定領域Rに沿ったレーザ光Lの照射を大気雰囲気中で実施することが可能となる。更に、ガラス層3ごとに、ガラス基板40とガラス基板50との隙間を示す隙間情報を取得し、その隙間情報に基づいてレーザ光Lの照射順序を決定する。これにより、ガラス層3に対するガラス基板50の接触不良に起因して溶着に不具合が生じるおそれが高いガラス層3の溶着を後回しにして、溶着に不具合が生じるおそれが低いガラス層3の溶着を優先して実施することが可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、環状の溶着予定領域に沿ったレーザ光の照射によって、ガラス部材同士が溶着されたガラス溶着体を製造するためのガラス溶着方法に関する。
【背景技術】
【0002】
上記技術分野のガラス溶着方法として、次のようなものが知られている(例えば特許文献1,2参照)。すなわち、ガラス溶着体を構成するガラス部材に対応する有効部分を複数含むガラス基板を準備し、一方のガラス基板に対し、有効部分ごとに溶着予定領域に沿うようにガラス層を配置する。続いて、ガラス層を介して一方のガラス基板に他方のガラス基板を重ね合わせ、各溶着予定領域に沿ってガラス層にレーザ光を照射することにより、有効部分同士を溶着する。そして、ガラス基板から、溶着された有効部分同士を切り出し、複数のガラス溶着体を得る。
【0003】
ところで、上記ガラス溶着体が例えば有機ELディスプレイ等である場合には、その製造工程において、溶着予定領域に包囲された発光素子領域に水分等が進入するのを防止する必要がある。そこで、ガラス基板同士の重ね合わせやレーザ光の照射を不活性ガス雰囲気中で実施することが提案されている(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−104841号公報
【特許文献2】特開2007−115491号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、レーザ光の照射を不活性ガス雰囲気中で実施することは、製造の効率化を図る観点では好ましくない。その一方で、レーザ光の照射を大気雰囲気中で実施した場合には、如何に歩留りを向上させ得るかが問題となる。
【0006】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、歩留りの低下を抑制しつつ、レーザ光の照射を大気雰囲気中で実施することができるガラス溶着方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明のガラス溶着方法は、環状の溶着予定領域に沿ったレーザ光の照射によって、第1のガラス部材と第2のガラス部材とが溶着されたガラス溶着体を製造するためのガラス溶着方法であって、第1のガラス部材に対応する第1の部分を複数含む第1のガラス基板に対し、第1の部分ごとに溶着予定領域に沿うように、レーザ光吸収材を含むガラス層を配置する第1の工程と、第2のガラス部材に対応する第2の部分を複数含む第2のガラス基板を、第1の部分のそれぞれと第2の部分のそれぞれとがガラス層を介して対向するように第1のガラス基板に重ね合わせ、第1の部分及び第2の部分を包囲するように配置された接着層よって、第1のガラス基板と第2のガラス基板との間の空間を外部雰囲気から封止する第2の工程と、ガラス層ごとに、第1のガラス基板と第2のガラス基板との隙間を示す隙間情報を取得し、隙間情報に基づいてレーザ光の照射順序を決定する第3の工程と、照射順序に従って、溶着予定領域に沿ってガラス層にレーザ光を照射することにより、対向する第1の部分と第2の部分とを溶着する第4の工程と、を備えることを特徴とする。
【0008】
このガラス溶着方法では、ガラス層を介して対向するように第1のガラス基板と第2のガラス基板とを重ね合わせ、第1のガラス基板と第2のガラス基板との間の空間を接着層によって外部雰囲気から封止する。これにより、溶着予定領域に沿ったレーザ光の照射を大気雰囲気中で実施することが可能となる。更に、ガラス層ごとに、第1のガラス基板と第2のガラス基板との隙間を示す隙間情報を取得し、その隙間情報に基づいてレーザ光の照射順序を決定する。これにより、ガラス層に対するガラス基板の接触不良に起因して溶着に不具合が生じるおそれが高いガラス層の溶着を後回しにして、溶着に不具合が生じるおそれが低いガラス層の溶着を優先して実施することが可能となる。つまり、ガラス層ごとにレーザ光の照射を実施している際に、ガラス基板へのクラックの発生等の不具合が途中のガラス層で起こると、溶着未実施のガラス層の内側領域への外部雰囲気の進入が懸念されることから、溶着未実施の部分が全て無駄になるおそれがあるが、隙間情報に基づいたレーザ光の照射順序の決定により、そのような無駄を減らすことが可能となる。よって、このガラス溶着方法によれば、歩留りの低下を抑制しつつ、レーザ光の照射を大気雰囲気中で実施することができる。
【0009】
ここで、第3の工程では、レーザ光を順次照射する対象となる複数のガラス層について、照射順序が隙間の小さい順となるように決定されることが好ましい。これによれば、レーザ光を順次照射する対象となる複数のガラス層について、溶着に不具合が生じるおそれが低いガラス層の溶着を優先して実施するためのレーザ光の照射順序を適切に決定することができる。
【0010】
また、第3の工程では、隙間情報に基づいて、ガラス層の厚さよりも隙間が所定値以上大きいか否かが判断され、第4の工程では、ガラス層の厚さよりも隙間が所定値以上大きいと判断されたガラス層が、レーザ光を照射する対象から除かれることが好ましい。これによれば、溶着に不具合が生じるおそれが極めて高いガラス層の溶着を実施しないで済むため、より一層の製造の効率化を図ることができる。
【0011】
また、第3の工程では、ガラス層の側方における隙間が隙間情報として取得されることが好ましい。ガラス層の側方における隙間は、ガラス層にガラス基板が接触しているか否かを直接的に示すため、溶着に不具合が生じるおそれが低いガラス層の溶着を優先して実施するためのレーザ光の照射順序を適切に決定することができる。
【0012】
或いは、第3の工程では、第2のガラス基板における第1のガラス基板と反対側の表面の高さが隙間情報として取得されてもよい。その表面の高さが第1のガラス基板に対して低い部分ほど、第1のガラス基板と第2のガラス基板との隙間が狭く、ガラス層にガラス基板が確実に接触していると判断することができる。若しくは、第3の工程では、接着層の幅が隙間情報として取得されてもよい。接着層の幅が広い部分ほど、第1のガラス基板と第2のガラス基板との隙間が狭く、ガラス層にガラス基板が確実に接触していると判断することができる。従って、これらによっても、溶着に不具合が生じるおそれが低いガラス層の溶着を優先して実施するためのレーザ光の照射順序を適切に決定することができる。
【0013】
また、本発明のガラス溶着方法は、第1のガラス基板及び第2のガラス基板から、溶着された第1の部分及び第2の部分を切り出し、複数のガラス溶着体を得る第5の工程を更に備えることが好ましい。これにより、第1のガラス部材と第2のガラス部材とが溶着されたガラス溶着体を複数得ることができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、歩留りの低下を抑制しつつ、レーザ光の照射を大気雰囲気中で実施することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の一実施形態のガラス溶着方法によって製造されたガラス溶着体の斜視図である。
【図2】図1のガラス溶着体を製造するためのガラス溶着方法を説明するための斜視図である。
【図3】図1のガラス溶着体を製造するためのガラス溶着方法を説明するための斜視図である。
【図4】図1のガラス溶着体を製造するためのガラス溶着方法を説明するための平面図である。
【図5】図1のガラス溶着体を製造するためのガラス溶着方法における隙間情報の取得方法を説明するための一部断面図である。
【図6】図1のガラス溶着体を製造するためのガラス溶着方法を説明するための一部断面図である。
【図7】図1のガラス溶着体を製造するためのガラス溶着方法を説明するための斜視図である。
【図8】図1のガラス溶着体を製造するためのガラス溶着方法を説明するための斜視図である。
【図9】図1のガラス溶着体を製造するためのガラス溶着方法における隙間情報の他の取得方法を説明するための概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の好適な実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。なお、各図において同一又は相当部分には同一符号を付し、重複する説明を省略する。
【0017】
図1に示されるように、ガラス溶着体1は、溶着予定領域Rに沿うように配置されたガラス層3を介して、ガラス部材4とガラス部材5とが溶着されたものである。ガラス部材4,5は、例えば無アルカリガラスからなる厚さ0.7mmの矩形板状の部材であり、溶着予定領域Rは、ガラス部材4,5の外縁に沿うように矩形環状に設定されている。ガラス層3は、例えば低融点ガラス(バナジウムリン酸系ガラス、鉛ホウ酸ガラス等)からなる層であり、溶着予定領域Rに沿うように矩形環状に配置されている。このガラス溶着体1は、有機ELディスプレイであり、溶着予定領域Rの内側に形成された発光素子領域が、ガラス部材4,5及びガラス層3によって外部雰囲気から封止されている。
【0018】
次に、環状の溶着予定領域Rに沿った溶着用レーザ光Lの照射によって、上述したガラス溶着体1を製造するためのガラス溶着方法について説明する。まず、図2に示されるように、マトリックス状(ここでは2行3列)に配置された有効部分(第1の部分)41〜46を含むガラス基板40を準備する。各有効部分41〜46は、ガラス部材4に対応している。そして、有効部分41〜46ごとに環状の溶着予定領域Rを設定する。
【0019】
続いて、ディスペンサやスクリーン印刷等によってフリットペーストを塗布することにより、有効部分41〜46ごとに溶着予定領域Rに沿うようにガラス基板40の表面40aにペースト層6を配置する。フリットペーストは、例えば、低融点ガラスからなる粉末状のガラスフリット(ガラス粉)2、酸化鉄等の無機顔料であるレーザ光吸収性顔料(レーザ光吸収材)、酢酸アミル等である有機溶剤、及びアクリル等の樹脂成分であるバインダが混練されたものである。
【0020】
続いて、ペースト層6を乾燥させて有機溶剤を除去し、ペースト層6を加熱してバインダを除去することにより、ガラス基板40の表面40aにガラス層3を固着させる。更に、ガラス層3を加熱してガラスフリット2を溶融・再固化させることにより、ガラス基板40の表面40aに、レーザ光吸収性顔料を含むガラス層3を定着させる。続いて、ガラス基板40の表面40aに、有効部分41〜46を包囲するように接着層7を配置する。接着層7は、例えば紫外線硬化樹脂からなり、ガラス基板40の外縁に沿って矩形環状に形成されている。
【0021】
続いて、図3に示されるように、マトリックス状(ここでは2行3列)に配置された有効部分(第2の部分)51〜56を含むガラス基板50を準備する。各有効部分51〜56は、ガラス部材5に対応しており、各有効部分51〜56には、発光素子領域が形成されている。そして、有効部分41〜46のそれぞれと有効部分51〜56のそれぞれとがガラス層3を介して対向するようにガラス基板40とガラス基板50とを重ね合わせる。続いて、接着層7を紫外線の照射によって硬化させ、ガラス基板40とガラス基板50との間の空間(有効部分41〜46と有効部分51〜56とで挟まれる空間)を接着層7によって外部雰囲気から封止する。なお、ガラス基板40とガラス基板50とを重ね合わせ、及び接着層7による封止は、窒素ガスやアルゴンガス等の不活性ガス雰囲気中で実施される。
【0022】
続いて、ガラス層3ごとに、ガラス基板40とガラス基板50との隙間を示す隙間情報を取得する。具体的には、図4に示されるように、干渉膜厚計8を用いて、全てのガラス層3について、ガラス層3の側方における隙間を隙間情報として取得する。分光干渉式膜厚計8による測定光の投光及び受光は、図5に示されるように、環状のガラス層3の内側及び外側の少なくとも一方に沿って実施され、環状のガラス層3の内側及び外側の少なくとも一方における隙間Gが測定される。なお、ガラス基板40とガラス基板50との間の空間は、接着層7によって外部雰囲気から封止されているので、隙間情報の取得は、大気雰囲気中で実施される。
【0023】
続いて、ガラス層3ごとに取得した隙間情報に基づいて、溶着用レーザ光Lの照射順序を決定する。具体的には、レーザ光Lを順次照射する対象となる複数のガラス層3(ここでは、全てのガラス層3)について、隙間Gの小さい順となるようにレーザ光Lの照射順序を決定する。ただし、ガラス層3の厚さよりも隙間Gが所定値以上大きいと判断した場合には、そのガラス層3を、レーザ光Lを照射する対象から除く。なお、所定値は、ガラス層3の厚さの0.5倍〜1倍が好ましい。つまり、ガラス層3の厚さが20μmであれば、所定値は10μ〜20μm(このとき、隙間Gは30μ〜40μm)となる。
【0024】
ここで、レーザ光Lの照射順序を決定する理由について説明する。すなわち、図6の(a)に示されるように、ガラス層3に対するガラス基板50の接触が十分な部分では(このとき、隙間Gは小さくなる)、レーザ光Lの照射によってガラス層3の溶融部Mで発生した熱は、ガラス基板40及びガラス基板50の両方に分散して伝わることになる。これにより、隙間Gが小さいガラス層3では、溶着に不具合が生じるおそれが低くなる。
【0025】
一方、図6の(b)に示されるように、ガラス層3に対するガラス基板50の接触が不十分な部分では(このとき、隙間Gは大きくなる)、レーザ光Lの照射によってガラス層3の溶融部Mで発生した熱は、ガラス基板40のみに伝わることになり、その結果、ガラス基板40が入熱過多の状態となる。これにより、隙間Gが大きいガラス層3では、ガラス基板40にクラックが発生するなど、溶着に不具合が生じるおそれが高くなる。
【0026】
つまり、レーザ光Lの照射順序を決定するのは、溶着に不具合が生じるおそれが高いガラス層3の溶着を後回しにして、溶着に不具合が生じるおそれが低いガラス層3の溶着を優先して実施するためである。なお、隙間Gは、ガラス層3ごとに取得した測定値の平均値でもよいし、代表値(測定値の最大値や、所定の箇所の測定値等)でもよい。
【0027】
続いて、決定したレーザ光Lの照射順序に従って、レーザ光Lの照射を実施する。ここでは、レーザ光Lの照射順序が、有効部分41,51間のガラス層3、有効部分44,54間のガラス層3、有効部分45,55間のガラス層3、有効部分46,56間のガラス層3、有効部分43,53間のガラス層3という順序に決定され、有効部分42,52間のガラス層3が、レーザ光Lを照射する対象から除かれたとする。
【0028】
その場合、図7に示されるように、まず、有効部分41,51の溶着予定領域Rに沿ってガラス層3にレーザ光Lを照射する。これにより、ガラス層3及びその周辺部分(ガラス基板40,50の表面40a,50a)が同程度に溶融・再固化し、対向する有効部分41,51同士が溶着される(溶着においては、ガラス層3が溶融し、ガラス基板40,50が溶融しない場合もある)。以降、上述した順序でレーザ光Lの照射を実施し、有効部分44,54同士、有効部分45,55同士、有効部分46,56同士、有効部分43,53同士を順次溶着する。そして、対向する有効部分42,52同士は溶着しない。なお、ガラス基板40とガラス基板50との間の空間は、接着層7によって外部雰囲気から封止されているので、レーザ光Lの照射は、大気雰囲気中で実施される。
【0029】
続いて、図8に示されるように、ガラス基板40,50から、溶着された有効部分41,51同士、有効部分44,54同士、有効部分45,55同士、有効部分46,56同士、及び有効部分43,53同士を切り出し、複数(ここでは5セット)のガラス溶着体1を得る。
【0030】
以上説明したガラス溶着方法によれば、以下のように、歩留りの低下を抑制しつつ、レーザ光Lの照射を大気雰囲気中で実施することができる。
【0031】
すなわち、上述したガラス溶着方法においては、ガラス層3を介して対向するようにガラス基板40とガラス基板50とを重ね合わせ、ガラス基板40とガラス基板50との間の空間を接着層7によって外部雰囲気から封止する。これにより、溶着予定領域Rに沿ったレーザ光Lの照射を大気雰囲気中で実施することが可能となる。
【0032】
更に、上述したガラス溶着方法においては、ガラス層3ごとに、ガラス基板40とガラス基板50との隙間Gを示す隙間情報を取得し、その隙間情報に基づいてレーザ光Lの照射順序を決定する。これにより、ガラス層3に対するガラス基板50の接触不良に起因して溶着に不具合が生じるおそれが高いガラス層3の溶着を後回しにして、溶着に不具合が生じるおそれが低いガラス層3の溶着を優先して実施することが可能となる。
【0033】
つまり、ガラス層3ごとにレーザ光Lの照射を実施している際に、ガラス基板40へのクラックの発生等の不具合が途中のガラス層3で起こると、溶着未実施のガラス層3の内側領域への外部雰囲気の進入が懸念されることから、溶着未実施の部分が全て無駄になる。例えば、上述した場合において、有効部分41,51同士の溶着の次に、有効部分42,52同士の溶着を実施し、ここで、ガラス層3に対するガラス基板50の接触不良に起因して溶着に不具合が生じると、溶着に不具合が生じるおそれが低いにも拘らず、溶着未実施の有効部分43,53、有効部分44,54、有効部分45,55及び有効部分46,56が全て無駄になるおそれがある。上述したガラス溶着方法によれば、隙間情報に基づいたレーザ光Lの照射順序の決定により、そのような無駄を減らすことが可能となる。
【0034】
また、上述したガラス溶着方法においては、隙間情報に基づいて、ガラス層3の厚さよりも隙間Gが所定値以上大きいか否かを判断し、ガラス層3の厚さよりも隙間Gが所定値以上大きいと判断したガラス層を、レーザ光Lを照射する対象から除く。これにより、溶着に不具合が生じるおそれが極めて高いガラス層3の溶着を実施せずに、より一層の製造の効率化を図ることができる。
【0035】
また、上述したガラス溶着方法においては、ガラス層3の側方における隙間Gを隙間情報として取得する。ガラス層3の側方における隙間Gは、ガラス層3にガラス基板50が接触しているか否かを直接的に示すため、溶着に不具合が生じるおそれが低いガラス層3の溶着を優先して実施するためのレーザ光Lの照射順序を適切に決定することができる。
【0036】
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。例えば、CCDカメラ等を用いて、図4に示されるように、接着層7の幅Wを隙間情報として取得してもよい。接着層7の幅Wが広い部分は、ガラス基板40側にガラス基板50が押圧された部分と想定される。従って、接着層7の幅Wが広い部分ほど、ガラス基板40とガラス基板50との隙間が狭く、ガラス層3にガラス基板50が確実に接触していると判断することができる。
【0037】
また、図9に示されるように、レーザ距離計9を用いて、ガラス基板50におけるガラス基板40と反対側の表面50bの高さを隙間情報として取得してもよい。ガラス層3に対するガラス基板50の接触状態は、ガラス基板50のうねり(図9の(a)の場合)やガラス基板50の傾き(図9の(b)の場合)等に起因して変化する。そこで、例えば、ガラス基板40におけるガラス基板50と反対側の表面40bを平坦面に真空吸着させる。このとき、ガラス基板40に対するガラス基板50の表面50bの高さが低い部分ほど、ガラス基板40とガラス基板50との隙間が狭く、ガラス層3にガラス基板50が確実に接触していると判断することができる。
【0038】
また、ガラス基板40とガラス基板50との隙間の小さい順となるようにレーザ光Lの照射順序を決定するのは、レーザ光Lの照射対象となる全てのガラス層3ではなく、レーザ光Lを順次照射する対象となる(物理的にレーザ光Lを順次照射し得る)複数のガラス層3であることが好ましい。例えば、上記実施形態において、有効部分41,51同士、有効部分42,52同士及び有効部分43,53同士の溶着と、有効部分44,54同士、有効部分45,55同士及び有効部分46,56同士の溶着と、を別々のレーザヘッドで実施するとする。その場合には、有効部分41,51間のガラス層3、有効部分42,52間のガラス層3及び有効部分43,53間のガラス層3について、隙間の小さい順となるようにレーザ光Lの照射順序を決定し、有効部分44,54間のガラス層3、有効部分45,55間のガラス層3及び有効部分46,56間のガラス層3について隙間の小さい順となるようにレーザ光Lの照射順序を決定するようにする。
【0039】
また、上記実施形態では、ガラス層3を加熱してガラスフリット2を溶融・再固化させることにより、ガラス基板40の表面40aに、レーザ光吸収性顔料を含むガラス層3を定着させたが、ガラス基板40に対するガラス層3の配置は、これに限定されない。一例として、ガラス基板40に対するガラス層3の配置は、ペースト層6を乾燥させて有機溶剤を除去し、ペースト層6を加熱してバインダを除去することにより、ガラス基板40の表面40aにガラス層3を固着させるだけでもよい。また、レーザ光Lの照射は、ガラス基板40側から実施してもよい。
【0040】
また、上記実施形態では、ガラス基板40とガラス基板50とを重ね合わせる前に、ガラス基板40に接着層7を配置したが、これに限定されない。例えば、ガラス基板40とガラス基板50とを重ね合わせる前に、ガラス基板50に接着層7を配置してもよいし、ガラス基板40とガラス基板50とを重ね合わせた後に、ガラス基板40とガラス基板50との間に外縁に沿うように接着層7を配置してもよい。
【符号の説明】
【0041】
1…ガラス溶着体、3…ガラス層、4…ガラス部材(第1のガラス部材)、5…ガラス部材(第2のガラス部材)、7…接着層、40…ガラス基板(第1のガラス基板)、41〜46…有効部分(第1の部分)、50…ガラス基板(第2のガラス基板)、51〜56…有効部分(第2の部分)、R…溶着予定領域、L…レーザ光。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
環状の溶着予定領域に沿ったレーザ光の照射によって、第1のガラス部材と第2のガラス部材とが溶着されたガラス溶着体を製造するためのガラス溶着方法であって、
前記第1のガラス部材に対応する第1の部分を複数含む第1のガラス基板に対し、前記第1の部分ごとに前記溶着予定領域に沿うように、レーザ光吸収材を含むガラス層を配置する第1の工程と、
前記第2のガラス部材に対応する第2の部分を複数含む第2のガラス基板を、前記第1の部分のそれぞれと前記第2の部分のそれぞれとが前記ガラス層を介して対向するように前記第1のガラス基板に重ね合わせ、前記第1の部分及び前記第2の部分を包囲するように配置された接着層よって、前記第1のガラス基板と前記第2のガラス基板との間の空間を外部雰囲気から封止する第2の工程と、
前記ガラス層ごとに、前記第1のガラス基板と前記第2のガラス基板との隙間を示す隙間情報を取得し、前記隙間情報に基づいて前記レーザ光の照射順序を決定する第3の工程と、
前記照射順序に従って、前記溶着予定領域に沿って前記ガラス層に前記レーザ光を照射することにより、対向する前記第1の部分と前記第2の部分とを溶着する第4の工程と、を備えることを特徴とするガラス溶着方法。
【請求項2】
前記第3の工程では、前記レーザ光を順次照射する対象となる複数の前記ガラス層について、前記照射順序が前記隙間の小さい順となるように決定されることを特徴とする請求項1記載のガラス溶着方法。
【請求項3】
前記第3の工程では、前記隙間情報に基づいて、前記ガラス層の厚さよりも前記隙間が所定値以上大きいか否かが判断され、
前記第4の工程では、前記ガラス層の厚さよりも前記隙間が前記所定値以上大きいと判断された前記ガラス層が、前記レーザ光を照射する対象から除かれることを特徴とする請求項1又は2記載のガラス溶着方法。
【請求項4】
前記第3の工程では、前記ガラス層の側方における前記隙間が前記隙間情報として取得されることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項記載のガラス溶着方法。
【請求項5】
前記第3の工程では、前記第2のガラス基板における前記第1のガラス基板と反対側の表面の高さが前記隙間情報として取得されることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項記載のガラス溶着方法。
【請求項6】
前記第3の工程では、前記接着層の幅が前記隙間情報として取得されることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項記載のガラス溶着方法。
【請求項7】
前記第1のガラス基板及び前記第2のガラス基板から、溶着された前記第1の部分及び前記第2の部分を切り出し、複数の前記ガラス溶着体を得る第5の工程を更に備えることを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項記載のガラス溶着方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−246320(P2011−246320A)
【公開日】平成23年12月8日(2011.12.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−122981(P2010−122981)
【出願日】平成22年5月28日(2010.5.28)
【出願人】(000236436)浜松ホトニクス株式会社 (1,479)
【Fターム(参考)】